(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022133092
(43)【公開日】2022-09-13
(54)【発明の名称】積層フィルムの引裂性の評価方法、積層フィルムの選別方法、並びに積層フィルム及び包装袋
(51)【国際特許分類】
G01N 3/08 20060101AFI20220906BHJP
B32B 27/32 20060101ALI20220906BHJP
G01N 19/00 20060101ALI20220906BHJP
G01N 19/04 20060101ALI20220906BHJP
B65D 33/00 20060101ALI20220906BHJP
【FI】
G01N3/08
B32B27/32 E
G01N19/00 G
G01N19/04 D
B65D33/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021031955
(22)【出願日】2021-03-01
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100169063
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 洋平
(72)【発明者】
【氏名】福田 悠華
(72)【発明者】
【氏名】盧 和敬
(72)【発明者】
【氏名】大塚 浩之
【テーマコード(参考)】
2G061
3E064
4F100
【Fターム(参考)】
2G061AA01
2G061AB03
2G061BA04
2G061CA10
2G061CA16
2G061CB01
2G061CB07
2G061EA01
3E064BA17
3E064BA26
3E064BA30
3E064BA36
3E064BA38
3E064BA40
3E064BA55
3E064BC15
3E064BC18
3E064BC20
3E064HP05
4F100AA19
4F100AK03A
4F100AK03B
4F100AK07
4F100AK07A
4F100AK07B
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4F100AR00B
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4F100BA02
4F100EH66
4F100EJ37
4F100EJ37A
4F100GB15
4F100GB16
4F100JD02
4F100JK03
4F100JL12B
(57)【要約】
【課題】官能試験による引裂性の定性的な評価結果と十分に一致した結果が得られるとともに、引裂性を定量的に評価することが可能な積層フィルムの引裂性の評価方法を提供する。
【解決手段】本開示に係る積層フィルムの引裂性の評価方法は、基材層と、シーラント層とを含む積層フィルムのトラウザー形試験片を準備する工程と、試験片を5000mm/分以上の速度で引き裂く工程と、試験片の引裂強さを測定する工程とを含む。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材層と、シーラント層とを含む積層フィルムのトラウザー形試験片を準備する工程と、
前記試験片を5000mm/分以上の速度で引き裂く工程と、
前記試験片の引裂強さを測定する工程と、
を含む、積層フィルムの引裂性の評価方法。
【請求項2】
前記試験片に実際に形成された破断線が、前記試験片における切込みの延長線からずれている程度を評価する工程を更に含む、請求項1に記載の引裂性の評価方法。
【請求項3】
一軸延伸フィルムである基材層と、シーラント層とを含む積層フィルムのトラウザー形試験片であって、前記基材層の延伸方向に形成された切込みを有する試験片を準備する工程と、
前記試験片を10000mm/分の速度で引き裂く工程と、
前記試験片の引裂強さを測定する工程と、
前記引裂強さが3N以下の試験片について、易引裂性が良好であると判断する工程と、
を含む、積層フィルムの選別方法。
【請求項4】
前記試験片の前記切込みの先端から、前記切込みの延長線となす角度が8°以下の領域内に破断線が形成された試験片について、直線的なカット性が良好であると判断する工程を更に含む、請求項3に記載の積層フィルムの選別方法。
【請求項5】
一軸延伸ポリオレフィンフィルムである基材層と、
ポリオレフィンを含むシーラント層と、
を含む積層フィルムであって、
当該積層フィルムの全量を基準として、ポリオレフィンの合計量が90質量%以上であり、
以下の工程を含む引裂強さ試験法で測定される引裂強さが3N以下である、積層フィルム。
<引裂強さ試験法>
(A)前記基材層の延伸方向に形成された切込みを有するトラウザー形試験片を準備する工程
(B)前記試験片を10000mm/分の速度で引き裂く工程
(C)前記試験片の引裂強さを測定する工程。
【請求項6】
前記試験片の前記切込みの先端から、前記切込みの延長線となす角度が8°以下の領域内に破断線が形成される、請求項5に記載の積層フィルム。
【請求項7】
前記基材層の厚さT1に対する前記シーラント層の厚さT2との比(T2/T1)が1.0~6.0である、請求項5又は6に記載の積層フィルム。
【請求項8】
請求項5~7のいずれか一項に記載の積層フィルムのシーラント層同士が対面した状態で配置されており、周縁部の少なくとも一部がヒートシールされている、包装袋。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、積層フィルムの引裂性の評価方法、積層フィルムの選別方法、並びに易引裂性を有する積層フィルム及び包装袋に関する。
【背景技術】
【0002】
引裂性は包装袋に使用される積層フィルムの評価項目の一つである。引裂性の評価法として、トラウザー引裂法(JIS K 7128-1:1998)が知られている。特許文献1の段落[0050]には、トラウザー引裂法により、包装袋用の積層体の引裂き強度を定量的に評価したことが記載されている。他方、人が手で引き裂くことによる官能試験が実施される場合もある。特許文献2の段落[0052]には、試作ピロー袋を問題なく開封できるかどうかを定性的に評価したことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013-018230号公報
【特許文献2】特開2010-058839号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らの検討によると、上記トラウザー引裂法では、評価対象のフィルムの構成によっては、引き裂くことができず、引裂強さを測定できない場合があった。また、引裂強さを測定できたとしても、官能試験による定性的な評価結果と一致しない場合があった。上記トラウザー引裂法では、試験速度を200mm/分とすることが定められている。この速度(以下、場合により「引裂速度」という。)は実際に人が手で引き裂く速度よりも非常に遅い。200mm/分の引裂速度ではフィルム由来の物性(特にフィルムの粘弾性)が大きく影響し、官能試験の結果と整合しない結果となりやすいと推察される。
【0005】
ところで、環境対応の一環として、プラスチック製包装袋のリサイクルを促進すべく、プラスチック製包装袋を単一素材(モノマテリアル)にする取り組みが広がっている。特に、PE(ポリエチレン)及びPP(ポリプロピレン)などのポリオレフィンフィルムを使用したポリオレフィン系のモノマテリアル包材は、例えば、大容量の詰め替え用包材やレトルト用包材への展開が期待されている。
【0006】
従来の包材では、開封性を付与するためにレーザー加工、ハーフカット又はミシン目加工等を実施する場合が多い。レーザー加工を施す場合は、一般的に基材層にレーザー波長を吸収しやすい素材を使用する。しかし、ポリオレフィン系のモノマテリアルは、レーザー加工適正に課題がある。また、ポリオレフィン系のモノマテリアル包材がターゲットとするようなレトルト用包材や大容量の包材では密封性が求められることから、ハーフカット又はミシン目加工では密封性の低下が懸念される。そのため、ポリオレフィン系のモノマテリアル包材においては、フィルム自体が易引裂性を有していることが求められる。
【0007】
本開示は、官能試験による引裂性の定性的な評価結果と十分に一致した結果が得られるとともに、引裂性を定量的に評価することが可能な積層フィルムの引裂性の評価方法及びこれを利用した積層フィルムの選別方法を提供する。また、本開示は、モノマテリアルが実現されているとともに優れた易引裂性を有する積層フィルム並びにこれを用いた包装袋を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述のとおり、トラウザー引裂法は引裂速度が200mm/分と定められているところ、この速度を従来の25倍以上(5000mm/分以上)にまで高めることにより、官能試験による引裂性の評価結果と十分に一致した結果が得られるとともに、引裂性を定量的に評価できることを本発明者らは見出し、以下の発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本開示の一側面に係る積層フィルムの引裂性の評価方法は、基材層と、シーラント層とを含む積層フィルムのトラウザー形試験片を準備する工程と、試験片を5000mm/分以上の速度で引き裂く工程と、試験片の引裂強さを測定する工程とを含む。この評価方法によれば、官能試験による引裂性の定性的な評価結果と十分に一致した結果が得られるとともに、引裂性を定量的に評価することが可能である。この評価方法によって得られる定量的なデータは、例えば、複数の積層フィルムの候補から優れた易引裂性を有する積層フィルムを選別したり、より優れた易引裂性を有する積層フィルムの開発に有用である。
【0010】
上記評価方法は、試験片に実際に形成された破断線が、試験片における切込みの延長線からずれている程度を評価する工程を更に含んでいてもよい。これにより、積層フィルムが直線的にカットされるか否かを評価することができる。例えば、パウチの易開封性の観点では、易引裂性のみならず、直線的にカットできることも求められる。
【0011】
本開示の一側面は積層フィルムの選別方法に関する。この選別方法は、一軸延伸フィルムである基材層と、シーラント層とを含む積層フィルムのトラウザー形試験片であって、基材層の延伸方向に形成された切込みを有する試験片を準備する工程と、試験片を10000mm/分の速度で引き裂く工程と、試験片の引裂強さを測定する工程と、引裂強さが3N以下の試験片について、易引裂性が良好であると判断する工程とを含む。
【0012】
トラウザー引裂法の引裂速度(200mm/分)を50倍(10000mm/分)にまで高めた条件で試験片の引裂強さを測定することで、易引裂性に優れた積層フィルムを安定的に選別することができる。この選別方法は、基材層として一軸延伸フィルムを含む積層フィルムを対象としたものである。この選別方法によれば、かかる構成をそれぞれ有する複数の積層フィルムの候補から、定量的なデータに基づき、優れた易引裂性を有する積層フィルムを選別することができる。
【0013】
上記選別方法は、試験片の切込みの先端から、切込みの延長線となす角度が8°以下の領域内に破断線が形成された試験片について、直線的なカット性が良好であると判断する工程を更に含んでいてもよい。これにより、積層フィルムが直線的にカットされる程度を定量的に評価することができる。
【0014】
本開示の一側面は積層フィルムに関する。この積層フィルムは、一軸延伸ポリオレフィンフィルムである基材層と、ポリオレフィンを含むシーラント層とを含む積層フィルムであって、当該積層フィルムの全量を基準として、ポリオレフィンの合計量が90質量%以上であり、以下の工程を含む引裂強さ試験法で測定される引裂強さが3N以下である。
<引裂強さ試験法>
(A)基材層の延伸方向に形成された切込みを有するトラウザー形試験片を準備する工程
(B)試験片を10000mm/分の速度で引き裂く工程
(C)試験片の引裂強さを測定する工程
【0015】
上記積層フィルムは、ポリオレフィンの合計量が90質量%以上であり且つ上記試験法により測定される引裂強さが3N以下である。この積層フィルムは、優れた易引裂性を有するポリオレフィン系のモノマテリアル包材として有用である。引裂強さ試験を実施した後において、試験片の切込みの先端から、切込みの延長線となす角度が8°以下の領域内に破断線が形成されていることが好ましい。上記角度が8°以下の積層フィルムは、易引裂性及び直線カット性の両方を有する。
【0016】
基材層の厚さT1に対するシーラント層の厚さT2との比(T2/T1)は1.0~6.0であってもよい。これは、基材層がシーラント層と同じ厚さ、あるいは、基材層がシーラント層と比較して薄いにも関わらず、易引裂き性に関して基材層が支配的であることを意味する。T2/T1が上記範囲であることで、積層フィルムの全体を過度に厚くすることなく、十分なヒートシール性を確保することができる。
【0017】
本開示の一側面は包装袋に関する。この包装袋は、上記積層フィルムのシーラント層同士が対面した状態で配置されており、周縁部の少なくとも一部がヒートシールされている。この包装袋は優れた易開封性を有する。
【発明の効果】
【0018】
本開示によれば、官能試験による引裂性の定性的な評価結果と十分に一致した結果が得られるとともに、引裂性を定量的に評価することが可能な積層フィルムの引裂性の評価方法及びこれを利用した積層フィルムの選別方法が提供される。また、本開示によれば、モノマテリアルが実現されているとともに優れた易引裂性を有する積層フィルム並びにこれを用いた包装袋が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は本開示に係る引裂性の評価方法に使用するトラウザー形試験片を示す平面図である。
【
図2】
図2は試験機にセットされたトラウザー形試験片を模式的に示す斜視図である。
【
図3】
図3は試験片の引裂強さの測定結果の一例を模式的に示すグラフである。
【
図4】
図4は引裂強さを測定後の試験片の一例を模式的に示す平面図である。
【
図5】
図5は本開示に係る積層フィルムの一実施形態を模式的に示す断面図である。
【
図6】
図6は本開示に係る積層フィルムの他の実施形態を模式的に示す断面図である。
【
図7】
図7は本開示に係る積層フィルムの他の実施形態を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本開示の実施形態について、必要に応じて図面を参照しながら説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0021】
<積層フィルムの引裂性の評価方法>
本実施形態に係る積層フィルムの引裂性の評価方法は以下の工程を含む。
(a1)積層フィルムのトラウザー形試験片を準備する工程
(b1)試験片を5000mm/分以上の速度で引き裂く工程
(c1)試験片の引裂強さを測定する工程
【0022】
この評価方法の対象は樹脂フィルムであればよい。この評価方法によれば、官能試験による引裂性の定性的な評価結果と十分に一致した結果が得られるとともに、引裂性を定量的に評価することが可能である。
図1は本実施形態に係る引裂性の評価方法に使用するトラウザー形試験片を示す平面図である。この図に示す試験片Sは、平面視において長方形(長辺150mm×短辺50mm)の形状であり、長さ75mmの切込みCが形成されている。切込みCは、一方の短辺の中心から試験片Sの長手方向に延びている。なお、試験片Sのサイズ及び形状はこれに限定されるものではない。
【0023】
(b1)工程における引裂速度は、5000mm/分以上であればよく、8000~30000mm/分又は10000~20000mm/分であってもよい。5000mm/分以上の条件で引裂強さを測定するには、例えば、高速剥離試験機を用いることができる。
図2は試験機にセットされたトラウザー形試験片を模式的に示す斜視図である。試験片Sの一方の端部S1を含む部分R1と、他方の端部S2を含む部分R2は180°の角度をなしている。一方の端部S1は動かないように固定されており、他方の端部S2が5000mm/分以上の速度で移動する。
図3は試験片Sの引裂強さの測定結果の一例を模式的に示すグラフである。
図3に示すピークの値を試験片Sの引裂強さとする。
【0024】
図4は引裂強さを測定後の試験片の一例を模式的に示す平面図である。この図に示すように、二つに引き裂かれた試験片を元の位置に並べることで、破断線Dが試験片Sにおける切込みの延長線Lからずれている程度を評価することができる。これにより、積層フィルムの直線カット性を評価することができる。試験片Sの切込みの先端Pから、切込みの延長線Lとなす角度(
図4における角度α)が8°以下(より好ましくは5°以下)の領域内に破断線Dが形成されている場合、積層フィルムは良好な直線カット性を有すると評価することができる。
【0025】
<積層フィルムの選別方法>
本実施形態に係る積層フィルムの選別方法は以下の工程を含む。
(a2)一軸延伸フィルムである基材層1と、シーラント層2とを含む積層フィルム10のトラウザー形試験片(
図1、5参照)であって、基材層1の延伸方向に形成された切込みを有する試験片を準備する工程
(b2)試験片を10000mm/分の速度で引き裂く工程
(c2)試験片の引裂強さを測定する工程
(d2)引裂強さが3N以下の試験片について、易引裂性が良好であると判断する工程。
【0026】
この選別方法は、基材層1として一軸延伸フィルムを含む積層フィルム10を対象としたものである。この選別方法によれば、かかる構成をそれぞれ有する複数の積層フィルムの候補から、定量的なデータに基づき、優れた易引裂性を有する積層フィルムを選別することができる。上記のとおり、(d2)工程において、易引裂性が良好であると判断する閾値は3Nであり、この値は1N又は2Nであってもよい。
【0027】
上記選別方法は、試験片の切込みの先端から、切込みの延長線となす角度(
図4における角度α)が8°以下の領域内に破断線が形成された試験片について、直線的なカット性が良好であると判断する工程を更に含んでいてもよい。これにより、積層フィルムが直線的にカットされる程度を定量的に評価することができる。この閾値は5°であってもよい。
【0028】
<積層フィルム>
図5は、本開示に係る積層フィルムの一実施形態を模式的に示す断面図である。この図に示す積層フィルム10は、一軸延伸ポリオレフィンフィルムである基材層1と、ポリオレフィンを含むシーラント層2とを含む。積層フィルム10は、ポリオレフィンの合計量が90質量%以上(積層フィルム10の全量基準)であり、以下の工程を含む引裂強さ試験法で測定される引裂強さが3N以下である。
<引裂強さ試験法>
(A)基材層1の延伸方向に形成された切込みを有するトラウザー形試験片(
図1参照)を準備する工程
(B)試験片を10000mm/分の速度で引き裂く工程
(C)試験片の引裂強さを測定する工程
【0029】
積層フィルム10におけるポリオレフィンの合計量は、上記のとおり、90質量%以上であり、好ましくは90質量%以上であり、より好ましくは95質量%以上である。この量が90質量%以上であれば、リサイクルの観点から積層フィルム10は実質的にモノマテリアルということができる。この量の上限値は、100質量%であり、98質量%であってもよい。この量が98質量%以下であることで、積層フィルム10が他の材質の層を含むことができ、積層フィルム10に種々の機能を付与することができる傾向にある。
【0030】
上記引裂強さ試験法で測定される引裂強さは、上記のとおり、3N以下であり、好ましくは2N以下であり、より好ましくは1N以下である。この値が3N以下の積層フィルム10は十分な易引裂性を有するということができる。この値の下限値は、例えば、0.1Nである。
【0031】
基材層1の厚さT1に対するシーラント層2の厚さT2との比(T2/T1)は、例えば、1.0~6.0であり、1.5~5.0又は1.5~3.0であってもよい。この値が上記範囲であることで、積層フィルム10の全体を過度に厚くすることなく、十分なヒートシール性を確保することができる。
【0032】
[基材層]
基材層1は支持体となる層であり、一軸延伸フィルムで構成されている。基材層が一軸延伸フィルムであることで、積層フィルム10に優れた易引裂性を付与することができる。基材層1の厚さは、例えば、5~800μmであり、5~500μm又は10~100μmであってよい。基材層1は、例えば、シーラント層2よりも20℃以上高い融点を有し、好ましくは25℃以上高い融点を有する。両者の融点に差があることで、製袋工程において、基材層1の溶融を抑制できる。基材層1及びシーラント層2の融点は示差走査熱量計(DSC)を使用して測定することができる。基材層1の融点は、好ましくは120℃以上であり、より好ましくは125℃以上である。
【0033】
基材層1を構成する樹脂フィルムの材質として、ポリエチレン樹脂及びポリプロピレン樹脂が挙げられる。ポリエチレン樹脂として、例えば、高密度ポリエチレン(HDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)等が挙げられる。これらのうち、耐熱性の観点から、HDPE及びMDPEで密度が0.925g/cm3以上のものを使用することが好ましい。特に、密度が0.93~0.98g/cm3の範囲の高密度ポリエチレンを用いることが好ましい。
【0034】
ポリプロピレン樹脂としては、例えば、ホモポリプロピレン、ブロックポリプロピレン、ランダムポリプロピレン及び変性ポリプロピレンが挙げられる。ここでのブロックポリプロピレンとは、一般的に重合段階のホモポリプロピレンに対してゴム成分及びポリエチレンを分散させた構造を持つものである。ポリプロピレン樹脂として、ブロックポリプロピレン及びランダムポリプロピレンを組み合わせて用いる場合、ブロックポリプロピレンと、ランダムポリプロピレンとの質量比(ブロックポリプロピレン/ランダムポリプロピレン)は、20/80~80/20であることが好ましく、40/60~60/40であることが更に好ましい。
【0035】
変性ポリプロピレンは、例えば、不飽和カルボン酸、不飽和カルボン酸の酸無水物、不飽和カルボン酸のエステル等から導かれる不飽和カルボン酸誘導体成分で、ポリプロピレンをグラフト変性することで得られる。また、ポリプロピレン樹脂として、水酸基変性ポリプロピレンやアクリル変性ポリプロピレン等の変性ポリプロピレンを使用することもできる。プロピレン系共重合体を得るために用いられるαオレフィン成分としては、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、4-メチル-1-ペンテンなどを例示することができる。
【0036】
基材層1を構成する樹脂は、石油由来のものに限定されず、その一部又は全部が生物由来の樹脂材料(例えば、バイオマス由来のエチレンを原材料に用いたバイオマスポリエチレン)であってもよい。バイオマス由来のポリエチレンの製造方法は、例えば、特表2010-511634号公報に開示されている。基材層1は、市販のバイオマスポリエチレン(ブラスケム社製グリーンPE等)を含んでもよいし、使用済みのポリオレフィン製品やポリオレフィン製品の製造過程で発生した樹脂(いわゆるバリ)を原料とするメカニカルリサイクルポリオレフィンを含んでもよい。
【0037】
基材層1は、ポリオレフィン樹脂以外の成分を含んでいてもよい。かかる成分としては、例えば、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリビニルアルコール、生分解性の樹脂材料(例えば、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリヒドロキシアルカノエート、ポリグリコール酸、変性ポリビニルアルコール、カゼイン、変性澱粉等)などが挙げられる。基材層1は、帯電防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤、滑剤、着色剤等の添加剤を含んでもよい。基材層1におけるポリオレフィン樹脂以外の成分の量は、基材層1の全量を基準として、好ましくは15質量%以下であり、より好ましくは10質量%以下である。
【0038】
基材層1はガスバリア性の層を備えていてもよい。ガスバリア性の層はコーティング又は蒸着で基材層1上に形成できる。
【0039】
[シーラント層]
シーラント層2は、積層フィルムにおいてヒートシールによる封止性を付与する層であり、ポリオレフィンを含有する。また、シーラント層2におけるポリオレフィンの含有量は、例えば、70質量%以上であり、40~90質量%であってもよい。シーラント層2のポリオレフィンの含有量が70質量%以上であることで、積層フィルム10のポリオレフィンの含有量(積層フィルム10の全量基準)を90質量%以上としやすく、モノマテリアルを実現しやすい。
【0040】
シーラント層2を構成する樹脂材料として、ポリエチレン樹脂(例えば、線状低密度ポリエチレン(LLDPE)やポリプロピレン樹脂(例えば、無延伸ポリプロピレン(CPP))を使用することができる。シーラント層2の厚さは、例えば、40~150μmである。なお、シーラント層2として、バイオマス由来のエチレンを原材料に用いたバイオマスポリエチレンを一部又は全部に含むシーラントフィルムを使用してもよい。このようなシーラントフィルムは例えば特開2013-177531号に開示されている。また、シーラント層2は、使用済みのポリオレフィン製品やポリオレフィン製品の製造過程で発生した樹脂(いわゆるバリ)を原料とするメカニカルリサイクルポリオレフィンを含んでいてもよい。
【0041】
積層フィルム10のシーラント層2同士が対面した状態で配置し、その周縁部の少なくとも一部をヒートシールすることによって包装袋を作製することができる。包装袋の態様として、ピロー袋、スタンディングパウチ、三方シール袋、四方シール袋等が挙げられる。なお、積層フィルム10は、包装袋の他に、例えば、容器等の包装製品、化粧シート、トレー等のシート成形品、光学フィルム、樹脂板、各種ラベル材料、蓋材、及びラミネートチューブ等の各種用途に適用することができる。
【0042】
以上、本開示の実施形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、本開示に係る積層フィルムは、上述の層以外の層を更に含んでもよい。
図6に示す積層フィルム20は、基材層1とシーラント層2との間に接着層3を備える。接着層3を構成する接着剤は、接着方法に合わせて選定することができ、例えば、ウレタン系接着剤、ポリエステル系接着剤などを用いることができる。接着層3を設けることで、基材層1とシーラント層2の層間密着性を高くしてデラミネーションしにくくなり、パウチとしての耐圧性や耐衝撃性を保持することができる。
【0043】
接着層3は、塩素を含まないことが好ましい。接着層3が塩素を含まないことで、接着剤やリサイクル後の再生樹脂が着色したり、加熱処理によって臭いが発生したりすることを防ぐことができる。接着層3としてバイオマス材料を含む材料を使用すると環境配慮の観点から好ましい。環境配慮の観点から、接着剤は溶剤を含まないものが好ましい。
【0044】
図7に示す積層フィルム30は、基材層1と、接着層3と、ガスバリア層5と、接着層3と、シーラント層2とをこの順序で含む。積層フィルム30の水蒸気透過量は、例えば、5g/m
2・day以下であり、1g/m
2・day以下又は0.5g/m
2・day以下であってもよい。積層フィルム30の酸素透過量は、例えば、1cc/m
2・atm・day以下であり、0.5cc/m
2・atm・day以下又は0.2cc/m
2・atm・day以下であってもよい。積層フィルム30がガスバリア層5を含むことで、内容物を水蒸気や酸素による劣化から保護し、長期的に品質を保持しやすくなる。
【0045】
ガスバリア層5の例としては、ポリオレフィンフィルムと、蒸着又はコーティングによるガスバリア性の層とを備えたガスバリアフィルムが挙げられる。ガスバリア層5がガスバリアフィルムである場合、ガスバリア性の層としては、ポリビニルアルコール等を含むガスバリアコーティングや、無機酸化物又は金属の蒸着層が挙げられる。無機酸化物として、例えば、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化マグネシウム、酸化錫等が挙げられる。金属として、例えば、アルミニウムが挙げられる。蒸着層は、例えば物理気相成長法、化学気相成長法等によって形成することができる。ポリオレフィンフィルムの厚さは、基材層1と同様に、例えば、5~800μmであり、5~500μm又は10~100μmであってよい。ポリオレフィンフィルムは、基材層1と同程度の融点を示し、シーラント層2よりも20℃以上高い融点を有し、好ましくは25℃以上高い融点を有する。ポリオレフィンフィルムの融点は示差走査熱量計(DSC)を使用して測定することができる。ポリオレフィンフィルムの融点は、好ましくは120℃以上であり、より好ましくは125℃以上である。ポリオレフィンフィルムの材質としては、基材層1と同様に、ポリエチレン樹脂及びポリプロピレン樹脂が挙げられる。また、基材層1と同様に、バイオマス由来の樹脂や、メカニカルリサイクル樹脂を用いてもよい。また、基材層1と同様に、ポリオレフィン樹脂以外の成分や添加剤を、積層フィルムのリサイクル性を妨げない範囲で含むことができる。このポリオレフィンフィルムは、蒸着層が形成される面に、コロナ処理、オゾン処理、フレーム処理等の表面処理が施されていてもよい。ポリオレフィンフィルムは耐熱性の観点から延伸基材を用いることが好ましい。一軸延伸ポリオレフィンを用いた場合は、易引裂き性を保持するために基材層1と延伸方向をそろえることが好ましい。リサイクル性の観点から、基材層1及びシーラント層と同じ樹脂を用いることが好ましい。
【0046】
ガスバリア層5は金属箔であってもよく、例えば、アルミニウム箔が挙げられる。ガスバリア層5は、エチレン-ビニルアルコール共重合体、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、MXD6等のガスバリア性樹脂からなる層であってもよい。ガスバリア層5は、単層であってもよいし、複数の層が積層されたものであってもよい。ガスバリア層5の厚さは、その層の種類によって適宜選択すればよく、例えば、1~500μmであり、6~50μmであってもよい。
【0047】
本開示に係る積層フィルムは、基材層1とシーラント層2との間にアンカーコート層(不図示)を備えていてもよい。アンカーコート層は、積層フィルム10のリサイクル性に影響を与えない範囲のごく薄い層でよく、アンカーコート剤を用いて形成することができる。アンカーコート剤としては、例えば、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、アクリルウレタン系樹脂、ポリエステル系ポリウレタン樹脂、ポリエーテル系ポリウレタン樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂等が挙げられる。アンカーコート剤としては、耐熱性及び層間接着強度の観点から、アクリルウレタン系樹脂、ポリエステル系ポリウレタン樹脂が好ましい。
【0048】
本開示に係る積層フィルムは、例えば、印刷層(不図示)を更に含んでもよい。印刷層は、基材層1とシーラント層2との間に設けられてもよく、基材層1のシーラント層2とは反対側の面に設けられてもよい。印刷層を設ける場合、印刷インキには塩素を含まないものを用いることが、印刷層が再溶融時に着色したり、臭いが発生したりすることを防ぐ観点から好ましい。また、印刷インキに含まれる化合物にはバイオマス材料を使用することが、環境配慮の観点から好ましい。
【実施例0049】
以下、実施例に基づいて本開示について更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0050】
(実施例1)
以下の材料を使用して積層フィルムを作製した。
・基材層…一軸延伸PPフィルム(厚さ:25μm、密度:0.9g/cm
3、融点:160℃)
・接着層…ウレタン系接着剤
・ガスバリア層…酸化アルミニウム蒸着二軸延伸PPフィルム(厚さ:18μm、酸化アルミニウム蒸着層の厚さ:30nm)
・シーラント層…無延伸PPフィルム(厚さ:60μm、密度:0.9g/cm
3、融点:145℃)
一軸延伸PPフィルム(基材層)とガスバリア層とを接着層(厚さ:1~2μm)を介して貼り合わせるとともに、ガスバリア層とシーラント層とを接着層(厚さ:1~2μm)を介して貼り合わせることによって
図6に示す構成の積層フィルムを得た。
【0051】
(実施例2)
基材層に以下のフィルムを使用したことの他は、実施例1と同様にして実施例2に係る積層フィルムを得た。
・基材層…一軸延伸PPフィルム(厚さ:25μm、密度:0.95g/cm3、融点:160℃)
【0052】
(比較例1)
基材層に以下のフィルムを使用したことの他は、実施例1と同様にして比較例1に係る積層フィルムを得た。
・基材層…二軸延伸PPフィルム(厚さ:30μm、密度:0.9g/cm3、融点:145℃)
【0053】
(実施例3)
基材層、ガスバリア層及びシーラント層に以下のフィルムを使用したことの他は、実施例1と同様にして実施例3に係る積層フィルムを得た。
・基材層…一軸延伸HDPEフィルム(厚さ:25μm、密度:0.95g/cm3、融点:120℃)
・ガスバリア層…酸化アルミニウム蒸着二軸延伸PEフィルム(厚さ:25μm、酸化アルミニウム蒸着層の厚さ:30nm)
・シーラント層…LLDPEフィルム(厚さ:40μm、密度:0.92g/cm3、融点:100℃)
【0054】
(比較例2)
以下の材料を使用して積層フィルムを作製した。
・基材層(ガスバリア層)…酸化アルミニウム蒸着二軸延伸PEフィルム(厚さ:25μm、酸化アルミニウム蒸着層の厚さ:30nm)
・アンカーコート層…材質:ポリウレタン、厚さ:2μm
・ガスバリア層:LDPEフィルム(厚さ:15μm、密度:0.9g/cm3、融点:120℃)
・シーラント層:LLDPEフィルム(厚さ:40μm、密度:0.92g/cm3、融点:100℃)
【0055】
<易引裂性の官能試験>
実施例及び比較例に係る積層フィルムを幅50mm、長さ150mmのサイズにそれぞれカットし、長手方向に対して端部から中央にかけて75mmの切込みを設け、トラウザー形試験片を得た(
図1参照)。この切込みの方向は、実施例及び比較例に係る積層フィルムの基材層の延伸方向と一致させた。トラウザー形試験片を手で引き裂くことにより、引裂強さを測定した。評価は以下の基準で行った。表1に測定結果を示す。
A:指に抵抗を感じることなく引き裂くことができた。
B:指に少し抵抗を感じたが引き裂くことができた。
C:指で引き裂くことができたものの、かなりの抵抗を感じた。
D:指で引き裂くことができなかった。
【0056】
<トラウザー引裂法>
上記と同様のトラウザー形試験片を準備し、JIS K 7128-1:1998に準拠し、200mm/分の試験条件で、長手方向への引裂強さを測定した。
【0057】
<引裂強さ試験>
上記と同様のトラウザー形試験片を準備し、高速剥離試験機(粘着・皮膜剥離解析装置VPA-2、協和界面化学社製)を用いて、試験速度1000mm/分、5000mm/分、10000mm/分及び30000mm/分の条件で引裂強さを測定した。また、試験速度10000mm/分で引裂強さを測定したものについては、破断線が形成された領域の角度α(
図4参照)を測定した。表1に測定結果を示す。
【0058】
【表1】
表中、「-」は試験片を引き裂くことができず引裂強さを測定できなかったことを意味する。
【0059】
実施例1と比較例1とを比較すると、試験速度が200mm/分及び1000mm/分の場合には、実施例1の方が比較例1よりも引裂強さの値が高いにも関わらず、官能試験結果では、実施例1の方が引き裂いたときに抵抗を感じなかったという結果が得られ、定量的な評価と、官能試験の結果とが相違していた。これに対し、試験速度が5000mm/分、10000mm/分及び30000mm/分の場合には、実施例1の方が比較例1よりも引裂強さの値が低く、定量的な評価と、官能試験の結果とが一致していた。
【0060】
比較例2に係る積層フィルムは、試験速度が200mm/分及び1000mm/分の場合には引き裂くことができず定量的な評価をすることができなかったが、試験速度を5000mm/分以上とすることにより、引裂強さの定量的な評価ができるようになった。
1…基材層、2…シーラント層、3…接着層、5…ガスバリア層、10,20,30…積層フィルム、α…角度、C…切込み、D…破断線、L…延長線、P…先端、R1,R2…部分、S…試験片、S1,S2…端部。