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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022133095
(43)【公開日】2022-09-13
(54)【発明の名称】多孔膜
(51)【国際特許分類】
   B01D 71/72 20060101AFI20220906BHJP
   B01D 71/08 20060101ALI20220906BHJP
   B01D 69/06 20060101ALI20220906BHJP
   B01D 69/08 20060101ALI20220906BHJP
   B01D 69/00 20060101ALI20220906BHJP
   B01D 69/10 20060101ALI20220906BHJP
   B01D 69/12 20060101ALI20220906BHJP
   B01D 69/14 20060101ALI20220906BHJP
   B01D 39/16 20060101ALI20220906BHJP
【FI】
B01D71/72
B01D71/08
B01D69/06
B01D69/08
B01D69/00
B01D69/10
B01D69/12
B01D69/14
B01D39/16 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021031961
(22)【出願日】2021-03-01
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り ウェブサイトのアドレス http://www3.scej.org/meeting/85a/index.html http://www3.scej.org/meeting/85a/abst/I121.pdf 掲載日:令和2年3月2日 [刊行物等] ウェブサイトのアドレス https://maku-jp.sakura.ne.jp/nenkai/42/ https://maku-jp.sakura.ne.jp/nenkai/42/42_all.pdf 掲載日:令和2年5月20日 [刊行物等] ウェブサイトのアドレス https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0376738820309406?via%3Dihub 掲載日:令和2年6月13日 [刊行物等] ウェブサイトのアドレス https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0376738820312813?via%3Dihub 掲載日:令和2年9月3日 [刊行物等] ウェブサイトのアドレス http://www3.scej.org/meeting/51f/index.html http://www3.scej.org/meeting/51f/abst/S102.pdf 掲載日:令和2年9月10日 [刊行物等] 化学工学会第51回秋季大会 開催日:令和2年9月24日 [刊行物等] ウェブサイトのアドレス http://www3.scej.org/meeting/51f/index.html http://www3.scej.org/meeting/51f/abst/PA331.pdf 掲載日:令和2年9月10日 [刊行物等] 化学工学会第51回秋季大会 開催日:令和2年9月26日 [刊行物等]
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り ウェブサイトのアドレス http://www.maku-jp.org/symposium/ 掲載日:令和2年11月4日 [刊行物等] 膜シンポジウム2020 開催日:令和2年11月12日 [刊行物等] ウェブサイトのアドレス https://app.oxfordabstracts.com/dashboard/events/1672 掲載日:令和2年9月2日 [刊行物等] ICOM2020 開催日:令和2年12月8日
(71)【出願人】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504150450
【氏名又は名称】国立大学法人神戸大学
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【弁理士】
【氏名又は名称】三間 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100122404
【弁理士】
【氏名又は名称】勝又 秀夫
(72)【発明者】
【氏名】松本 光明
(72)【発明者】
【氏名】馬場 貴大
(72)【発明者】
【氏名】松山 秀人
(72)【発明者】
【氏名】グアン ケチェン
【テーマコード(参考)】
4D006
4D019
【Fターム(参考)】
4D006MA01
4D006MA03
4D006MA06
4D006MA22
4D006MA23
4D006MC09X
4D006MC10X
4D006MC51
4D006MC58
4D006MC62
4D006MC63
4D006MC88
4D006NA04
4D006NA05
4D006NA10
4D006NA55
4D006NA64
4D006NA66
4D006PA01
4D006PB08
4D006PB14
4D019AA04
4D019BA12
4D019BA13
4D019BB08
4D019BB10
4D019BD01
(57)【要約】
【課題】オイルを含有する油性廃水から容易にオイルを除去することができ、膜に付着したオイルの洗浄が容易であり、かつ適応可能なオイルの種類が多い、多孔膜を提供すること。
【解決手段】ポリケトンと、アルギン酸、アルギン酸誘導体、およびそれらの塩から選択される少なくとも1種のアルギン酸成分とを含む多孔膜。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリケトンと、
アルギン酸、アルギン酸誘導体、及びそれらの塩から選択される少なくとも1種のアルギン酸成分と
を含む多孔膜。
【請求項2】
前記アルギン酸成分が、アルギン酸又はアルギン酸誘導体と、二価金属イオンとの塩を含む、請求項1に記載の多孔膜。
【請求項3】
前記二価金属イオンが、カルシウムイオンである、請求項2に記載の多孔膜。
【請求項4】
前記ポリケトンが、オレフィンと一酸化炭素との共重合体である、請求項1~3のいずれか一項に記載の多孔膜。
【請求項5】
前記アルギン酸成分の割合が、前記多孔膜の全質量に対して、0.1~20質量%である、請求項1~4のいずれか一項に記載の多孔膜。
【請求項6】
平膜状又は中空糸状である、請求項1~5のいずれか一項に記載の多孔膜。
【請求項7】
表面開孔率が10%以上である、請求項1~6のいずれか一項に記載の多孔膜。
【請求項8】
平均貫通孔径が0.01μm~50μmである、請求項1~7のいずれか一項に記載の多孔膜。
【請求項9】
支持体と、請求項1~8のいずれか一項に記載の多孔膜と、を含む、複合膜。
【請求項10】
請求項1~8のいずれか一項に記載の多孔膜を含むフィルター。
【請求項11】
請求項10に記載のフィルターを用いる、液体精製又は油水分離方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は多孔膜に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、省エネルギー、省資源、環境保全等の観点から、多孔膜を用いる膜分離技術が注目されている。膜分離は、使用される多孔膜の孔径に応じて、例えば、精密ろ過膜、限外ろ過膜、ナノろ過膜、逆浸透膜、正浸透膜等として使用され、種々の液体の分離、生成、製造等に使用されている。
例えば特許文献1では、ポリケトン多孔膜を用いるナノろ過膜が開示されており、この膜が有機溶剤耐性に優れると説明されている。
特許文献2及び3には、それぞれ、ポリケトン多孔膜の製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】韓国公開特許第2015-0084503号公報
【特許文献2】国際公開第2003/055934号
【特許文献3】国際公開第2013/035747号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
石油工業、食品製造工業を含む各種の工業から、オイルを含有する油性廃水が排出されている。また、海水へのオイル漏出事故が散見され、継続的な浄水供給、及び環境保全に対する大きな脅威となっている。
これらの油性廃水及びオイル漏出海域の海水からは、オイルが除去されなければならない。特に、ナノメートルオーダーからミクロンオーダーの油滴を含むエマルジョン状の、オイル/水混合物からのオイル除去は、オイルスキマー、重力分離等の従来技術が奏功しないため、大きな課題となっている。
【0005】
この点、膜分離法は、ナノスケール粒子のサイズ分けにおける選択性が高いこと、エネルギー消費量が比較的少ないこと等から、エマルジョン状のオイル/水混合物からのオイル除去に有効であろうと考えられている。
しかし、膜分離に用いられている一般的な膜材料は、親油性のポリマー材料から作られているため、オイルによる汚染が深刻であり、通水量が急激に低下する問題がある。膜に吸着され、細孔の内部に入り込んだオイルは、単なる水洗で除去することができない。その除去には強い化学薬品を要するため、オイルによる汚染は、膜の寿命を低減し、かつ、操作コストが高騰するとの問題がある。
【0006】
本発明の目的は、オイルを含有する油性廃水から容易にオイルを除去することができ、膜に付着したオイルの洗浄が容易であり、かつ適応可能なオイルの種類が多い、多孔膜を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討を進めた結果、耐有機溶剤性の高いポリケトンと、親油性が乏しいアルギン酸、アルギン酸誘導体、及びそれらの塩から選択される少なくとも1種のアルギン酸成分とを含む多孔膜を開発した。前記多孔膜は、オイルを含有する油性廃水から容易にオイルを除去することができ、膜に付着したオイルの洗浄が容易であり、かつ適応可能なオイルの種類が多いことを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
本発明は以下の構成を包含する。
《態様1》ポリケトンと、
アルギン酸、アルギン酸誘導体、及びそれらの塩から選択される少なくとも1種のアルギン酸成分と
を含む多孔膜。
《態様2》前記アルギン酸成分が、アルギン酸又はアルギン酸誘導体と、二価金属イオンとの塩を含む、態様1に記載の多孔膜。
《態様3》前記二価金属イオンが、カルシウムイオンである、態様2に記載の多孔膜。
《態様4》前記ポリケトンが、オレフィンと一酸化炭素との共重合体である、態様1~3のいずれか一項に記載の多孔膜。
《態様5》前記アルギン酸成分の割合が、前記多孔膜の全質量に対して、0.1~20質量%である、態様1~4のいずれか一項に記載の多孔膜。
《態様6》平膜状又は中空糸状である、態様1~5のいずれか一項に記載の多孔膜。
《態様7》表面開孔率が10%以上である、態様1~6のいずれか一項に記載の多孔膜。
《態様8》平均貫通孔径が0.01μm~50μmである、態様1~7のいずれか一項に記載の多孔膜。
《態様9》支持体と、態様1~8のいずれか一項に記載の多孔膜と、を含む、複合膜。
《態様10》態様1~8のいずれか一項に記載の多孔膜を含むフィルター。
《態様11》態様10に記載のフィルターを用いる、液体精製又は油水分離方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、オイルを含有する油性廃水から容易にオイルを除去することができ、膜に付着したオイルの洗浄が容易であり、かつ適応可能なオイルの種類が多い、多孔膜が提供される。
したがって本発明の多孔膜は、液体精製用又は油水分離用のフィルターとしての適用に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、実施例1及び2、並びに比較例1で得られた多孔膜の走査型電子顕微鏡写真である。
図2図2は、実施例1及び2、並びに比較例1における、通液試験(1)の結果を示すグラフである。
図3図3は、実施例1及び2、並びに比較例1における、通液試験(2)の結果を示すグラフである。
図4図4は、実施例1及び2、並びに比較例1で得られた通液試験(3)の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
《多孔膜》
本発明の多孔膜は、
ポリケトンと、
アルギン酸、アルギン酸誘導体、及びそれらの塩から選択される少なくとも1種のアルギン酸成分と
を含む。
【0012】
(ポリケトン)
本発明の多孔膜中のポリケトンとしては、種々の液体、特に水に対する親和性が高く、オイルに対する耐久性が高いものであることが好ましく、下記式(1):
【化1】
{式(1)中、複数あるRは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~10のアルキル基、フェニル基、炭素数1~10のハロゲン化アルキル基、又は炭素数1~4のアルキル基を有するアルコキシカルボニル基であり、複数のRが互いに結合して脂環を形成していてもよい。}で表される構造の繰り返し単位を含むポリケトンが好適である。
【0013】
このようなポリケトンは、オレフィンと一酸化炭素との共重合体であることが好ましい。
ポリケトンの合成において、一酸化炭素と共重合させるオレフィンとしては、目的に応じて任意の種類の化合物を選択できる。オレフィンとしては、例えば、エチレン、プロピレン、ブテン、ヘキセン、オクテン、デセン等の鎖状オレフィン;スチレン、α-メチルスチレン等のアルケニル芳香族化合物;シクロペンテン、ノルボルネン、5-メチルノルボルネン、テトラシクロドデセン、トリシクロデセン、ペンタシクロペンタデセン、ペンタシクロヘキサデセン等の環状オレフィン;塩化ビニル、フッ化ビニル等のハロゲン化アルケン;エチルアクリレート、メチルメタクリレート等のアクリル酸エステル;酢酸ビニル等が挙げられる。ポリケトン支持層の強度を確保する点からは、共重合させるオレフィンの種類は、1~3種類であることが好ましく、1~2種類であることがより好ましく、1種類であることが更に好ましい。
【0014】
オレフィンとしては、鎖状オレフィンが好ましく、最も好ましくはエチレンである。したがって、本発明におけるポリケトンとしては、上記式(1)におけるRがすべて水素原子である、1-オキソトリメチレンユニットを含むことが好ましい。
本発明におけるポリケトンとして、最も好ましくは、エチレンと一酸化炭素との完全交互共重合体である。
【0015】
ポリケトンについて、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定したポリスチレン換算の重量平均分子量は、5,000以上5,000,000以下であることが好ましく、10,000以上1,000,000以下であることがより好ましく、50,000以上750,000以下であることが更に好ましく、特に好ましくは100,000以上500,000以下である。
【0016】
ポリケトンは、一例えば、パラジウム、ニッケル等を触媒として用いて、一酸化炭素とオレフィンとを重合させることにより得ることができる。
【0017】
(アルギン酸成分)
本発明の多孔膜に含まれるアルギン酸成分は、アルギン酸、アルギン酸誘導体、及びそれらの塩から選択される少なくとも1種である。
アルギン酸は、D-マンヌロン酸及びL-グルロン酸の2種のウロン酸が直鎖状に重合したポリマーである。
アルギン酸誘導体としては、特に限定されず、アルギン酸を構成するウロン酸のカルボキシル基が、エステル結合、アミド結合等に変換された構造を含む化合物を選択できる。
アルギン酸及びアルギン酸誘導体と塩を構成する陽イオンとしては、特に限定されず、ナトリウム、カリウム、アンモニウム等の一価の陽イオン;カルシウム、マグネシウム、バリウム等の二価陽イオン等を選択することができる。
多孔膜に用いるアルギン酸成分としては、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸塩、又はアルギン酸誘導体塩が好ましい。これらの塩としては、溶解性、クロスリンク等の観点から、又はアルギン酸と、二価金属イオンとの塩が好ましい。この二価金属イオンとしては、カルシウムイオンが好ましい。したがって、多孔膜に用いるアルギン酸成分としては、アルギン酸ナトリウム又はアルギン酸カルシウムが好ましい。
多孔膜に含まれるアルギン酸成分の割合は、多孔膜の全質量に対して、0.1~20質量%が好ましく、1~15質量%がより好ましく、3~10質量%が更に好ましい。
【0018】
(任意成分)
本発明の多孔膜は、上記ポリケトン及び上記アルギン酸成分のみからからなっていてもよいし、これら以外に他の重合体を含有していてもよい。他の重合体としては、例えば、ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、アクリル系樹脂、フッ素系樹脂、ポリアセタール等を挙げることができる。
多孔膜中の他の重合体の割合は、多孔質の全質量に対して、20質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましく、5質量%以下が更に好ましく、1質量%以下が特に好ましく、とりわけ好ましくは他の重合体を含まない場合である。
【0019】
(多孔膜の態様)
多孔膜は、貫通孔を有していてよい。
多孔膜における平均貫通孔径は、0.01~50μmであることが好ましい。この平均貫通孔径は、ハーフドライ法(ASTM E1294-89に準拠)により測定される値である。平均貫通孔径が0.01μmより小さい多孔膜を、例えばろ材として用いると、圧力損失の著しい増大又は透過流束の著しい減少が起こる。一方、平均貫通孔径が50μmより大きい多孔膜を、例えばろ材として用いると、除去可能な粒子の径が限定されてしまう。多孔膜の平均貫通孔径は、0.02~30μmがより好ましく、0.03~20μmが更に好ましく、0.05~10μmが特に好ましい。
【0020】
多孔膜の空隙率は、5~95体積%であることが好ましい。空隙率は、下記数式(1):
空隙率(体積%)=(1-G/ρ/V)×100 (1)
{数式(1)中、Gは多孔膜の質量(g)であり、ρは多孔膜を構成するすべての重合体の質量平均密度(g/cm)であり、Vはポリケトン多孔膜の体積(cm)である。}により算出される。多孔膜の空隙率は、30~95体積%がより好ましく、40~90体積%が更に好ましく、50~90体積%が最も好ましい。
【0021】
多孔膜の表面開孔率は、フィルターとしての通液性の観点から、1~70%が好ましい。表面開孔率は、下記数式(2):
表面開孔率(%)=100×(表面開孔面積の総和)/(測定範囲の面積) (2)
{数式(2)中、(測定範囲の面積)は、(表面開孔面積の総和)+(表面の非開孔面積の総和)である。}
により算出される。多孔膜の表面開孔率は、5~50%がより好ましく、10~40%が更に好ましい。
【0022】
多孔膜の形状は、例えば、平膜状、中空糸状等の任意の形状であってよい。
多孔膜は、支持体を持たない自立膜であってもよいし、支持体上に多孔膜を有する複合膜として存在していてもよい。支持体は、例えば、平膜状、中空糸状等の任意の形状であってよい。
【0023】
本発明の多孔膜は、ある実施態様において平膜である。平膜は、ろ材として好適である。平膜の厚みは、特に制限はなく用途に応じて任意の厚みとできるが、好ましくは0.1~1,000μmであってよい。多孔膜をろ材として用いる場合、モジュールの小型化及び有効濾過面積の広さの観点から、多孔膜の厚みは小さい方が好ましく、500μm以下が好ましい。ろ材としての多孔膜の厚みは、300μm以下であることがより好ましく、250μm以下であることが更に好ましく、特に200μm以下であることが好ましい。一方で、膜の機械的強度を考慮すると、多孔膜の厚みは5μm以上であることが好ましく、10μm以上であることがより好ましく、15μm以上であることが更に好ましく、特に20μm以上であることが好ましい。
【0024】
本発明の多孔膜は、ある実施態様において中空糸である。
多孔膜が中空糸である場合、その内径は適宜選択されてよいが、例えば0.1mm以上20mm以下の間であってよい。処理液と多孔膜との接触性をより高くするためには、中空糸の内径は、0.2mm~15mmであることが好ましい。中空糸の外径は、特に限定されないが、内外の圧力差に耐え得る厚みを確保するとの観点から、中空糸の内径を考慮して適宜選択することができる。
【0025】
《多孔膜の製造方法》
本発明の多孔膜は、例えば、特許文献2(国際公開第2003/055934号)、特許文献3(国際公開第2013/035747号)等に記載されている方法、及びこれに適宜の変更を加えた方法により、製造することができる。
本発明の多孔膜は、湿式成型によって製造されることが好ましい。すなわち、所定の重合体を溶媒に溶解してドープを調製し、これを望みの形に成形して、凝固、洗浄、及び乾燥を経て製造されることが好ましい。
【0026】
〈ドープ〉
多孔膜を構成する重合体は、ポリケトン及びアルギン酸成分を含む。
多孔膜を構成するアルギン酸成分が、アルギン酸又はアルギン酸誘導体と、二価の陽イオンとの塩である場合、一価陽イオンを含む水溶性のアルギン酸塩又はアルギン酸誘導体の塩を用いてドープを作成し、凝固液に二価陽イオンを添加してイオン交換することにより、多孔膜を成形することが好ましい。
【0027】
重合体を溶解させる溶媒は特に限定されず、例えば、ヘキサフルオロイソプロパノール、プロピレンカーボネート、m-クレゾール等の有機溶媒;レゾルシン水溶液;塩化亜鉛、塩化亜鉛/塩化カルシウム、塩化亜鉛/塩化リチウム、塩化亜鉛/チオシアン酸カルシウム、塩化亜鉛/塩化カルシウム/塩化リチウム、塩化亜鉛/塩化カルシウム/チオシアン酸カルシウム等の金属塩水溶液;等の公知の溶媒を用いることができる。
膜厚方向に均一な孔径を持つ多孔膜を製造するには、重合体を溶解させる溶媒と、ドープを相分離させる凝固液との組み合わせが重要である。詳しくは、溶媒として重合体を十分良好に溶解させる良溶媒を選択し、凝固液としてドープを適切な速度で相分離させる貧溶媒を選択することが好ましい。このような理由より、本発明の多孔膜を製造するために用いる溶媒としては、ヘキサフルオロイソプロパノール、m-クレゾール、レゾルシン水溶液等が好ましい。以下、本発明のポリケトン多孔膜の製造方法の一例として、レゾルシン水溶液を用いる方法について説明する。
【0028】
レゾルシン水溶液中のレゾルシン濃度としては、重合体の溶解性を高くし、得られる多孔膜の構造を良好とする観点から、60~80質量%が好ましく、より好ましくは60~75質量%、さらに好ましくは60~70質量%である。重合体は、このレゾルシン水溶液と混合され、加熱及び撹拌されて、必要に応じて減圧下又は加圧下で脱泡されて、ドープを得る。ドープにおける重合体濃度は、得られる多孔膜の細孔径を最適値に制御するために、1~50質量%とすることが好ましく、3~20質量%とすることがより好ましい。
【0029】
上記ドープに混合されるアルギン酸成分は、溶解の観点から、水溶性を示す成分であることが好ましく、したがって、アルギン酸又はアルギン酸誘導体と、一価の陽イオンとの塩であることが好ましい。この場合のアルギン酸成分としては、アルギン酸ナトリウム等が好ましい。
ドープ中のアルギン酸成分の濃度は、溶解性の観点から0.1~3.0質量%が好ましい。
【0030】
以下、多孔膜が平膜状である場合、及び中空糸状である場合の製造方法を順に説明する。
〈平膜状多孔膜の製造〉
【0031】
(成形)
上記のドープからの平膜状の多孔膜の成形は、任意の方法によって行われてよく、例えば、バッチ式、連続式のどちらでもよい。
平膜状多孔膜をバッチ式で成形する場合、アプリケーターを用いて、基材の上面にドープを平膜状に流延する方法が挙げられる。連続式の場合、走行する基材上にドープを平膜状に塗布する方法、ドープを平膜状に空気中に押し出す方法等を挙げることができる。基材としては、例えば、ガラス板、金属板、プラスチックフィルム等を使用できる。走行する基材上にドープを塗布するには、例えば、ダイコーター、ロールコーター、バーコーター等の装置を用いて行うことができる。ドープを空気中に押し出すには、例えばTダイ等を用いて行うことができる。
塗布又は押し出しの際のドープ温度は、15~90℃が好ましい。15℃以上の場合、ドープ粘度の増大を抑えて膜の厚みを容易に均一にできるとともに、ドープ中のレゾルシンの析出を回避できる。また90℃以下の場合、レゾルシン水溶液中の水が蒸発することによるドープの組成変化を回避でき、目的の構造制御が容易となる。
ドープを基材上に塗布した場合、得られた多孔膜は、凝固後の任意の時点で基材から剥離されてよい。
【0032】
(凝固)
次いで、塗布された、又は空気中へ押し出された平膜状のドープは、メタノール、水、又はこれらの混合溶媒等の、レゾルシンが溶解可能な凝固液に浸漬されて凝固される。該凝固液にレゾルシンが所定量含まれていることは、溶媒の回収再利用を行う際に、安定した凝固液組成の管理が可能となる点で好ましい。
凝固液の組成及び温度は、多孔膜の構造を制御するために重要な要件であり、ドープにおける溶媒の組成を考慮して、適宜選定される。
また、平膜状の多孔膜に含まれる所望のアルギン酸成分が、二価の陽イオンの塩である場合、上述したとおり、ドープには、一価陽イオンの塩であるアルギン酸成分を含有させておき、凝固液に二価陽イオンの塩を添加して、イオン交換により、二価の陽イオン塩であるアルギン酸成分を含む、平膜状の多孔膜を得ることができる。この方法によると、ドープ中の一価陽イオンと、凝固液中の二価陽イオンとの間にイオン交換を発生させ、アルギン酸又はアルギン酸誘導体をクロスリンクさせながら、凝固することができる。凝固液に添加する二価陽イオンの塩としては、塩化カルシウムが好ましい。イオン交換の速度と凝固の速度の観点から、凝固液中の二価陽イオンの塩の濃度は、0.1~10質量%が好ましい。
【0033】
ドープの溶媒としてレゾルシン水溶液を用いる場合、凝固液としては、メタノール、又は水とメタノールとを適切な比率で混合した溶媒を用いることが好ましい。水とメタノールとの混合溶媒の場合は、両者の質量比率を、水:メタノール=65:35~0:100とすることが、多孔膜の好適な構造を構築するうえで好ましい。水とメタノールとの混合溶媒の組成が上記の範囲内であれば、得られる多孔膜の表面付近に緻密な層が形成されることを回避し、膜厚方向における孔径分布を均一に制御することができる。
【0034】
(洗浄)
上述の方法により凝固された平膜は、凝固液等で更に洗浄された後、必要に応じて膜に含まれる凝固液を他の溶媒で置換する。溶媒置換の目的は、多孔膜を乾燥する際の乾燥効率を高めること、及び、多孔膜の構造が乾燥時に収縮する等の変形を防止することである。これらの観点から、凝固液を置換する溶媒としては、水より表面張力の低い溶媒が好ましく、具体的には例えば、メタノール、エタノール、ノルマルプロパノール、イソプロピパノール、ノルマルブタノール、ノルマルオクタノール等のアルコール溶媒;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン等のエーテル溶媒;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン溶媒;塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素等のハロゲン溶媒;ノルマルペンタン、ノルマルヘキサン、シクロヘキサン、ノルマルヘプタン、ノルマルオクタン、ベンゼン、トルエン等の低極性有機溶媒等が好ましい。高い空隙率を有する多孔膜を得るという観点からは、ノルマルペンタン、ノルマルヘキサン、シクロヘキサン、ノルマルヘプタン、ノルマルオクタン、ベンゼン、トルエン等の低極性有機溶媒が特に好ましい。
溶媒置換に用いる溶媒には、必要に応じて界面活性剤等の添加剤が含まれていてもよい。
【0035】
凝固した平膜が水を含む場合、低極性溶媒への溶媒置換を円滑に行うために、水と低極性溶媒との両方と混ざりやすいアセトン等の溶媒で前もって溶媒置換を行ったうえで、更に溶媒置換を行ってもよい。この場合の置換溶媒としては、表面張力の小さい溶媒が好ましく、具体的には例えば、トルエン、シクロヘキサン、ノルマルヘキサン等が好ましい。これら溶媒の中に極性の強い溶媒が含まれていると、ポリケトン多孔膜の構造の均一性を損なう傾向がある。そのため、置換回数を増やすこと、又は置換に使用する溶媒の純度をできるだけ高くすることが重要である。置換に使用する溶媒の純度としては、90質量%以上が好ましく、95質量%以上がより好ましく、98質量%以上が更に好ましく、100質量%であってもよい。
【0036】
(乾燥)
次いで、平膜を乾燥することにより、平膜状の多孔膜が得られる。
平膜の乾燥は、例えば、加熱ロール、熱風、電熱ヒーター等、又はこれらの組合せにより行うことができる。乾燥温度は、15~200℃の範囲内で、除去される溶媒の種類によって適宜選ばれる。また、必要に応じて、静電気防止剤を、乾燥前又は乾燥後の多孔膜に適用してもよい。
【0037】
(任意工程)
-延伸-
上述のようにして得た平膜状の多孔膜を、必要に応じて延伸してもよい。延伸は1軸方向のみで行ってもよいし、2軸方向で行ってもよい。全延伸倍率は5倍以下が好ましい。延伸倍率が5倍以下である場合、延伸時に平膜状多孔膜の破断を回避する点で有利である。延伸は、ドープを凝固液中で凝固させた直後に行ってもよいし、平膜状多孔膜の乾燥後に、必要ならば加熱して行なってもよい。多孔膜の孔を構成する繊維状組織は、太さが1μm程度以下の非常に細い繊維から成り、空隙率が高い構造である。したがってその破壊を避けるためには、加熱延伸を行う場合の延伸速度は遅いことが好ましい。この観点から、加熱延伸を実施する場合の延伸速度は、中空糸1cm長あたりの延伸速度として、0.5cm/sec以下とすることが好ましい。
【0038】
〈中空糸膜多孔膜の製造〉
次に、多孔膜が中空糸状である場合の製造方法について説明する。
【0039】
(成形)
中空糸の成形は、上記のドープと、例えば、二重管オリフィス、C型オリフィス等の紡糸口金とを用いて行うことができる。二重管オリフィスを用いる場合、外側の輪状オリフィスからドープを、内側の円状オリフィスからは適宜の液体又は気体を、それぞれ空気中へ吐出することが好ましい。内側の円状オリフィスからの吐出物は、中空糸形状の制御性の観点からは気体であることが好ましく、紡糸の安定性の観点からは液体であることが好ましい。内側の円状オリフィスから気体を吐出する場合、気体としては乾燥窒素が好ましい。内側の円状オリフィスから液体を吐出する場合、膜厚方向で均一な構造を形成する観点から、後述の凝固液と同じ又は近い組成の液体を使用することが好ましい。中空部の形状維持の点から、液体又は気体は、0.01MPa以上の圧力をかけて、内側の円状オリフィスから吐出されることが好ましい。
【0040】
(凝固)
次いで、空気中へ押し出されたドープを乾式又は湿式で凝固し、重合体を析出させることにより、中空糸状の多孔膜が得られる。空気中へ押し出されたドープは、中空部に気体又は液体が充填されている。レゾルシン水溶液をドープの溶媒とした場合、この状態のドープを、メタノール、水、又はそれらの混合溶媒等の、レゾルシンが溶解可能な凝固液に浸漬して凝固する。凝固液としては、平膜の場合と同様の条件が好適に用いられる。
【0041】
(洗浄及び乾燥)
凝固後の中空糸状の多孔膜は、平膜状の場合と同様の方法で、又はこれに適宜の修正を加えた方法で、洗浄、及び必要に応じて溶媒置換が行われる。溶媒置換に代えて、温水洗浄が行われてもよい。
乾燥は行っても行わなくてもよい。乾燥を行う場合には、平膜状の多孔膜の製造の場合と同様の方法で、又はこれに適宜の修正を加えた方法で行うことができる。
【0042】
(任意工程)
-延伸-
上述のようにして得た中空糸状の多孔膜を、必要に応じて延伸してもよい。
延伸は、中空糸膜の長さ方向において、1軸方向で行われよく、伸倍率は5倍以下が好ましい。延伸倍率が5倍以下である場合、中空糸膜の破断が回避でき、好ましい。延伸は、ドープの凝固直後に行ってもよいし、中空糸状多孔膜の乾燥後に、必要ならば加熱して、行なってもよい。加熱延伸を実施する場合、延伸速度は遅い方が好ましく、中空糸1cm長あたりの延伸速度として、0.5cm/sec以下で行なうことが好ましい。
【0043】
《複合膜》
多孔膜は、支持体を持たない自立膜であってもよいし、支持体上に多孔膜を有する複合膜として存在していてもよい。
この場合の支持体は、膜の表裏をつないで貫通する微細な穴を多数有する膜から成る多孔性支持体であってよい。このような多孔性支持体としては、例えば、メンブレン、不織布等が挙げられる。
多孔性支持体の素材は問わない。耐薬品性及び耐溶剤性の観点からは、ポリスルホン、ポリエーテルスルフォン、PVDF、PTFE等が好ましく;耐熱性の観点からは、ポリイミド、ポリベンゾオキサゾール、ポリベンゾイミダゾール等のホモポリマー又はコポリマー等が好ましく;これらのうちのいずれか単独又はこれらの混合物から形成されるものが好ましい。
多孔性支持体は、例えば、平膜状、中空糸状等の任意の形状であってよい。
【0044】
平膜状の多孔性支持体上に多孔膜を有する複合膜は、平膜状の多孔膜を形成する際に、ドープが塗布される基材として多孔性支持体を用い、形成された多孔膜を剥離せずに、多孔性支持体とこの上の多孔膜との積層体として得ることができる。
中空糸状の多孔性支持体上に多孔膜を有する複合膜は、成形工程を、ドープ中にこれらの支持体を浸漬することにより行い、その後、凝固、及び洗浄、並びに必要に応じて乾燥を行うことにより、得ることができる。
【0045】
《フィルター》
本発明の別の観点では、上記に説明した本発明の多孔膜から成るフィルターが提供される。
本発明の更に別の観点では、上記に説明した本発明の複合膜から成るフィルターが提供される。
これらのフィルターは、オイルを含有する油性廃水から容易にオイルを除去することができるとともに、膜に付着したオイルの洗浄が容易であり、かつ適応可能なオイルの種類が多い。したがってこれらのフィルターは、液体精製用又は油水分離用のフィルターとして好適に適用することができる。
【0046】
《液体精製又は油水分離方法》
本発明の更に別の観点では、上記に説明した本発明の多孔膜から成るフィルターを用いる、液体精製又は油水分離方法が提供される。
【実施例0047】
《実施例1》
(1)多孔膜の製造
エチレンと一酸化炭素とが完全交互共重合した、極限粘度3.0dl/gのポリケトンを、ポリケトン10質量%、レゾルシノール58質量%、水31質量%、及びアルギン酸ナトリウム(ナカライテスク(株)製 粘度(1%水溶液):300cps)1質量%から構成される重合体溶液とし、アプリケーターを用いて200μmの塗工厚みでガラス基板上にキャストした。その後、水64.3質量%、メタノール34.6質量%、塩化カルシウム1.1質量%からなる凝固浴中に浸漬させ、ポリケトン多孔膜(非対称膜)を形成した。得られたポリケトン多孔膜を、ガラス板から剥離し、金枠に固定した後に、水、アセトン、及びヘキサンにより順次洗浄し、風乾することにより、厚み195μmの多孔膜を得た。得られた多孔膜について、下記の方法により測定した表面開孔率は33%であり、ASTM E1294-89に準拠のハーフドライ法により測定した平均貫通孔径は0.33μmであった。
【0048】
(2)多孔膜の評価
(2-1)表面開孔率の測定
得られた多孔膜の膜表面の電子顕微鏡写真を、走査型電子顕微鏡(日本電子株式会社製、JSF-7500F)を用いて、加速電圧5.0~7.0kV、二次電子検出条件にて倍率20,000倍で撮影した。電子顕微鏡写真の画像を画像解析処理ソフトで処理することにより、多孔膜の表面の開孔率を求めた。画像解析ソフトとしては、ImageJ(フリーソフト)を使用して処理を行った。ソフトに取り込んだ画像の孔部分を黒、非孔部分を白となるように、強調・フィルター操作を実施して二値化した。そして、画素ごとに、黒い部分を開孔部、白い部分を非開口部としてカウントし、カウント数の和を各部分の面積とした。ただし、孔内部に下層のポリマー鎖が見て取れる場合には、ポリマー鎖を非開孔部分としてカウントした。また、測定範囲境界上の孔は、除外せずにカウントした。
表面開孔率は上記でカウンとした各部分の面積を用いて上記数式(2)から算出した。
【0049】
(2-2)通液試験(1)
大豆油10ml及び富士フィルム和光純薬株式会社製ドデシル硫酸ナトリウム1gを水1Lに投入し、12時間撹拌することにより、10,000ppmの大豆油を含有するエマルジョンを調製し、これを処理液とした。
デッドエンド方式のろ過装置(ADVANTECH MFS Inc.製、形式「KG25」)を用い、上記の多孔膜をフィルターとして、装着した。フィルターの有効ろ過面積2.1cm、液高は10cmの条件下、以下のようにして、超純水及び上記処理液の重力による自然ろ過を行い、フィルターを通過したろ液の質量を5分ごとに測定して、通液速度を算出した。
通液開始から0~30分間は超純水のみを通液させ、通液開始5分後の通液速度から透水性能を算出した。通液開始から30~90分の間は上記処理液の通液を行った。90分間の通液の後にフィルターをろ過装置から取り出し、超純水で洗浄して、フィルターに付着したエマルジョンを除去した。洗浄後のフィルターを、再度ろ過装置に取り付け、再度超純水を通液させて、90~100分間の通液試験とした。
その結果、通液試験開始5分後の通液速度を1とする相対評価にて、通液開始から90分後(フィルター水洗前)の相対通液速度は0.25であり、通液開始から100分後(フィルター水洗後)の相対通液速度は0.96であった。
なお、通液開始5分後の通液速度をから算出した透水性能は9,486Lm-2-1bar-1であった。また、通液開始から30~90分のろ液中に含まれる大豆油濃度は、全有機体炭素(TOC)濃度から算出すると、11.7ppmであった。
【0050】
(2-3)通液試験(2)
クロロホルム10ml及び富士フィルム和光純薬株式会社製モノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン(ツィーン80)0.5gを水1Lに投入し、12時間撹拌することにより、10,000ppmのクロロホルムを含有するエマルジョンを調製し、これを処理液とした。通液試験(1)と同様にろ過装置を組み立てて、超純水及び上記処理液の重力による自然ろ過を行い、通液速度を算出した。
通液開始から0~30分間は超純水のみを通液させた。30~90分の間は上記処理液の通液を行った。90分間の通液の後にフィルターをろ過装置から取り出し、超純水で洗浄して、フィルターに付着したエマルジョンを除去した。洗浄後のフィルターを再度ろ過装置に取り付け、超純水を通液させ、90~100分間の通液試験とした。
その結果、通液試験開始5分後の通液速度を1とする相対評価にて、通液開始から90分後(フィルター水洗前)の相対通液速度は0.64であり、通液開始から100分(フィルター水洗後)後の相対通液速度は0.97であった。また、通液開始から30~90分のろ液中に含まれるクロロホルム濃度はTOC濃度から算出すると、58.3ppmであった。
【0051】
(2-4)通液試験(3)
通液試験(1)同様に調整した大豆油を含有するエマルジョンを調製し、これを処理液とした。クロスフロー方式のろ過装置を用いて、有効ろ過面積22.0cm、流速150ml/min、圧力0.1barの条件で上記処理液のクロスフローろ過を行い、フィルターを通過したろ液の質量を1分毎に測定して通液速度を算出した。
その結果、通液試験開始直後の初期通液速度を1とする相対評価にて、通液開始から60分後の相対通液速度は0.13であった。
【0052】
《実施例2及び比較例1》
(1)多孔膜の製造
ドープ中のポリケトン、レゾルシノール、水、及びアルギン酸ナトリウムの組成、並びに凝固液中の水、メタノール、及び塩化カルシウムの組成を、それぞれ、表1に記載のとおりとした他は、実施例1と同様にして多孔膜を製造した。
(2)多孔膜の評価
上記で得られた多孔膜を用いて、それぞれ、実施例1と同様の評価を行った。
結果は表1に示した。
【0053】
≪実施例3≫
(1)多孔膜の製造
エチレンと一酸化炭素とが完全交互共重合した、極限粘度2.2dl/gのポリケトンを、ポリケトン15質量%、レゾルシノール55質量%、水29質量%、及びアルギン酸ナトリウム(ナカライテスク(株)製、粘度(1%水溶液):300cps)1質量%から構成される重合体溶液とした。二重管オリフィスの紡口(D1:0.6mm、D2:0.33mm、D3:0.22mm)を用い、温度を50℃に調整した上記のドープ(ドープ粘度:100poise)を外側の輪状オリフィスから、水73.9質量%、25質量%のメタノール、及び塩化カルシウム1.1質量%からなる水溶液を内側の円状オリフィスから、同時に、凝固浴に吐出し、凝固物を得た。ここで、凝固液としては、水64.3質量%、メタノール34.6質量%、塩化カルシウム1.1質量%からなる水溶液を用いた。
得られた凝固物を引上げて、水洗しながら巻き取って、中空糸膜を得た。得られた中空糸膜を長さ70cmに切断し、膜束にして水洗した。水洗後の中空糸膜束を、アセトンで溶媒置換し、次いでヘキサンで溶媒置換した後、50℃において乾燥を行うことにより、中空糸状多孔膜を得た。
(2)多孔膜の評価
(2-1) (2-1)表面開孔率及び表面貫通孔径
このようにして得られた中空糸状多孔膜について測定した外径は880μm、内径は640μm、膜厚は120μmであった。また、この中空糸状多孔膜の内側表面について、実施例1と同様の方法によって測定した表面開孔率は18%であり、平均貫通孔径は0.11μmであった。
【0054】
(2-2)通液試験(4)
通液試験(1)と同様にして、大豆油を含有するエマルジョンを調製し、これを処理液とした。
中空糸状多孔膜の膜束の両端を接着剤によって固定した後、両方の端を切断して露出させ、有効ろ過面積を2.1cmに調整した中空糸状多孔膜の膜束を得た。この膜束を用いて、中空糸状多孔膜モジュールを作製した。
この中空糸状多孔膜モジュールを用いて、有効ろ過面積2.1cm、圧力0.01barの条件で、中空糸状多孔膜の内側より、以下のようにして、超純水及び処理液を通液し、フィルターを通過したろ液の質量を5分毎に測定して、通液速度を算出した。
通液開始から0~30分間は超純水のみを通液させた。30~90分の間は上記処理液の通液を行った。90分間の通液の後に中空糸状多孔膜の膜束をモジュールから取り出し、超純水で洗浄して、膜束に付着したエマルジョンを除去した。洗浄後の膜束を再度モジュールに装着して、再度超純水を通液させ、90~100分間の通液試験とした。
その結果、通液試験開始から5分後の通液速度を1とする相対評価にて、通液開始から90分後(膜束水洗前)の相対通液速度は0.85であり、通液開始から100分後(膜束水洗後)の相対通液速度は0.97であった。また、通液開始から30~90分のろ液中に含まれる大豆油濃度は、TOC濃度から算出すると、10.2ppmであった。
【0055】
(2-3)通液試験(5)
通液試験(2)同様にして、クロロホルムを含有するエマルジョンを調製し、これを処理液とした。
通液試験(4)と同様にして、中空糸状多孔膜モジュールに、超純水及び上記処理液を通液させて、通液速度を算出した。90分間の通液を行った後、膜束を水洗し、超純水の通液を再開して10分後(通液開始から100分後)の通液速度を測定した。
その結果、通液試験開始から5分後の通液速度を1とする相対評価にて、通液開始から90分後(膜束水洗前)の相対通液速度は0.78であり、通液開始から100分(膜束水洗後)後の相対通液速度は0.96であった。なお、通液開始5分後の通液速度から算出した透水性能は6,250Lm-2-1bar-1であった。また、通液開始から30~90分のろ液中に含まれるクロロホルム濃度はTOC濃度から算出すると、57.4ppmであった。
【0056】
(2-4)通液試験(6)
通液試験(1)と同様にして、大豆油を含有するエマルジョンを調製し、これを処理液とした。
中空糸状多孔膜の膜束の両端を接着剤によって固定した後、両方の端を切断して露出させ、有効ろ過面積22.0cmに調整した中空糸状多孔膜の膜束を得た。この膜束を用いて、中空糸状多孔膜モジュールを作製した。
クロスフロー方式のろ過装置に上記中空糸状多孔膜モジュールを接続し、有効ろ過面積22.0cm、流速150ml/min、圧力0.1barの条件下で上記処理液のクロスフローろ過を行い、モジュールを通過したろ液の質量を1分毎に測定して、通液速度を算出した。
その結果、通液試験開始直後の初期通液速度を1とする相対評価にて、通液開始から60分後の相対通液速度は0.91であった。
【0057】
《写真及びグラフの提示》
実施例1及び2、並びに比較例1で得られた多孔膜について撮影した走査型電子顕微鏡写真を、図1に示した。
また、実施例1及び2、並びに比較例1における通液試験(1)、(2)、及び(3)の結果を示すグラフを、図2、3、及び4にそれぞれ示した。
【0058】
【表1】
【0059】
【表2】
図1
図2
図3
図4