(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022133244
(43)【公開日】2022-09-13
(54)【発明の名称】攪拌装置
(51)【国際特許分類】
B01F 27/86 20220101AFI20220906BHJP
B01F 27/808 20220101ALI20220906BHJP
B01F 27/90 20220101ALI20220906BHJP
B01F 23/40 20220101ALI20220906BHJP
B01F 23/50 20220101ALI20220906BHJP
B01F 25/50 20220101ALI20220906BHJP
B01F 27/80 20220101ALI20220906BHJP
【FI】
B01F7/16 L
B01F7/16 E
B01F7/18 B
B01F3/08 Z
B01F3/12
B01F5/10
B01F7/16 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022023350
(22)【出願日】2022-02-18
(31)【優先権主張番号】P 2021031793
(32)【優先日】2021-03-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000225016
【氏名又は名称】プライミクス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】西川 宏
(72)【発明者】
【氏名】金澤 賢次郎
(72)【発明者】
【氏名】仁井 翔一
【テーマコード(参考)】
4G035
4G078
【Fターム(参考)】
4G035AB38
4G035AB46
4G035AC29
4G035AE13
4G078AA02
4G078BA05
4G078CA08
4G078CA13
4G078DA01
4G078DA21
4G078DB03
(57)【要約】
【課題】 攪拌能力を高めつつ、過度な渦の発生を抑制することが可能な攪拌装置を提供すること。
【解決手段】 底部711および側壁部712を有する攪拌槽71と、攪拌槽71内において軸周りに回転する攪拌羽根A1と、を備える攪拌装置B1であって、攪拌羽根A1は、正転方向Fおよび逆転方向Rの双方向に回転し、攪拌槽71内において底部711に沿って配置され、且つ各々が攪拌羽根A1の回転中心から径方向r外方に向かうほど正転方向Fに位置する形状である、複数のバッフル76、を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
底部および側壁部を有する攪拌槽と、
前記攪拌槽内において軸周りに回転する攪拌羽根と、を備える攪拌装置であって、
前記攪拌羽根は、正転方向および逆転方向の双方向に回転し、
前記攪拌槽内において前記底部に沿って配置され、且つ各々が前記攪拌羽根の回転中心から径方向外方に向かうほど前記正転方向に位置する形状である、複数のバッフルを備えることを特徴とする、攪拌装置。
【請求項2】
底部および側壁部を有する攪拌槽と、
前記攪拌槽内において軸周りに回転する攪拌羽根と、を備える攪拌装置であって、
前記攪拌羽根は、正転方向および逆転方向の双方向に回転し、
前記攪拌槽内において前記底部に沿って配置される複数のバッフルを備え、
前記複数のバッフルは、前記攪拌羽根が正転方向に回転するときに、当該攪拌羽根から吐出される攪拌対象の流れが当該バッフルと干渉せず、
前記攪拌羽根が逆転方向に回転するときに、当該攪拌羽根から吐出される攪拌対象の流れが当該バッフルと干渉するように配置されている
ことを特徴とする、攪拌装置。
【請求項3】
前記攪拌羽根は、正転方向に回転するときに、前記軸方向の斜め上方に進行する前記撹拌対象の流れを生じさせ、逆転方向に回転した場合に、前記軸方向の斜め下方に進行する前記撹拌対象の流れを生じさせる、
ことを特徴とする、請求項1又は2のいずれかに記載の攪拌装置。
【請求項4】
前記複数のバッフルの前記軸方向における上端は、前記攪拌羽根の前記軸方向における上端よりも下方に位置している、
ことを特徴とする、請求項1~3のいずれかに記載の攪拌装置。
【請求項5】
前記攪拌槽の下方に位置するポンプ槽と、
前記ポンプ槽に収容されたポンプ羽根と、
前記底部および前記ポンプ槽を繋ぐ連結管路と、
前記ポンプ槽および前記連結管路に挿通され且つ前記攪拌羽根および前記ポンプ羽根に連結された回転軸と
を備えることを特徴とする、請求項1~4のいずれかに記載の攪拌装置。
【請求項6】
前記ポンプ槽に接続され、
前記攪拌槽の前記底部から流出する前記攪拌対象を前記攪拌槽の外部を経由して前記攪拌槽に還流させる還流管路
を備えることを特徴とする、請求項5に記載の攪拌装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、攪拌装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液体または粉体と液体の混合体などの対象物体を分散および混合などの攪拌をするための装置として、攪拌羽根を有する攪拌装置が用いられている。特許文献1には、従来の攪拌装置の一例が開示されている。本文献に開示された構成においては、回転駆動される回転軸の先端に攪拌羽根が取り付けられている。攪拌羽根は、対象物体を収容した攪拌容器内において回転されることにより、対象物体の分散および混合などの攪拌を行う。
【0003】
対象物体の粘度が高くなるほど、分散および混合の難度が高くなる。分散および混合を高度化するには、攪拌羽根による対象物体の攪拌能力を高める必要がある。しかしながら、攪拌羽根による攪拌能力を高めると、液体の対象物体に旋回流による渦が生じやすくなる。過大な渦が生じると、攪拌装置の機能を低下させるおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記した事情のもとで考え出されたものであって、攪拌能力を高めつつ、過度な渦の発生を抑制することが可能な攪拌装置を提供することをその課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によって提供される攪拌装置は、底部および側壁部を有する攪拌槽と、前記攪拌槽内において軸周りに回転する攪拌羽根と、を備える攪拌装置であって、前記攪拌羽根は、正転方向および逆転方向の双方向に回転し、前記攪拌槽内において前記底部に沿って配置され、且つ各々が前記攪拌羽根の回転中心から径方向外方に向かうほど前記正転方向に位置する形状である、複数のバッフルを備えることを特徴としている(請求項1)。
また、本発明によって提供される攪拌装置は、底部および側壁部を有する攪拌槽と、前記攪拌槽内において軸周りに回転する攪拌羽根と、を備える攪拌装置であって、前記攪拌羽根は、正転方向および逆転方向の双方向に回転し、前記攪拌槽内において前記底部に沿って配置される複数のバッフルを備え、前記複数のバッフルは、前記攪拌羽根が正転方向に回転するときに、当該攪拌羽根から吐出される攪拌対象の流れが当該バッフルと干渉せず、前記攪拌羽根が逆転方向に回転するときに、当該攪拌羽根から吐出される攪拌対象の流れが当該バッフルと干渉するように配置されていることを特徴としている(請求項2)。
好ましくは、前記攪拌羽根は、正転方向に回転するときに、前記軸方向の斜め上方に進行する前記撹拌対象の流れを生じさせ、逆転方向に回転した場合に、前記軸方向の斜め下方に進行する前記撹拌対象の流れを生じさせる(請求項3)。
前記複数のバッフルの前記軸方向における上端は、前記攪拌羽根の前記軸方向における上端よりも下方に位置している(請求項4)。
また、前記攪拌槽の下方に位置するポンプ槽と、前記ポンプ槽に収容されたポンプ羽根と、前記底部および前記ポンプ槽を繋ぐ連結管路と、前記ポンプ槽および前記連結管路に挿通され且つ前記攪拌羽根および前記ポンプ羽根に連結された回転軸とを備えることが好ましい(請求項5)。
さらに、前記ポンプ槽に接続され、前記攪拌槽の前記底部から流出する前記攪拌対象を前記攪拌槽の外部を経由して前記攪拌槽に還流させる還流管路を備えることが好ましい(請求項6)。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、攪拌能力を高めつつ、過度な渦の発生を抑制することができる。
【0008】
本発明のその他の特徴および利点は、添付図面を参照して以下に行う詳細な説明によって、より明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る攪拌装置を示す断面図である。
【
図3】本発明の第1実施形態に係る攪拌装置の攪拌羽根の一例を示す斜視図である。
【
図4】本発明の第1実施形態に係る攪拌装置の正転時の流動状態例を示す図である。
【
図5】本発明の第1実施形態に係る攪拌装置の逆転時の流動状態例を示す図である。
【
図6】第1比較例の攪拌装置の正転時の流動状態例を示す図である。
【
図7】本発明の実施形態に係る攪拌装置の正転時及び逆転時の流動状態例を示す図である。
【
図8】本発明の実施形態に係る攪拌装置の正転時の流動状態例を示す図である。
【
図9】本発明の第1実施形態に係る攪拌装置の第1変形例を示す断面図である。
【
図10】本発明の第1実施形態に係る攪拌装置の第2変形例を示す断面図である。
【
図11】本発明の第2実施形態に係る攪拌装置の攪拌羽根の一例を示す斜視図である。
【
図12】本発明の第2実施形態に係る攪拌装置の攪拌羽根の一例を示す正面図である。
【
図13】本発明の第2実施形態に係る攪拌装置の攪拌羽根の一例を示す平面図である。
【
図14】本発明の第2実施形態に係る攪拌装置の正転時の流動状態例を示す図である。
【
図15】本発明の第2実施形態に係る攪拌装置の逆転時の流動状態例を示す図である。
【
図16】第2比較例の攪拌装置の正転時の流動状態例を示す図である。
【
図17】本発明の第3実施形態に係る攪拌装置を示す断面図である。
【
図18】本発明の第3実施形態に係る攪拌装置の攪拌羽根の一例を示す斜視図である。
【
図19】本発明の第3実施形態に係る攪拌装置の攪拌羽根の一例を示す正面図である。
【
図20】本発明の第3実施形態に係る攪拌装置の攪拌羽根の一例を示す平面図である。
【
図23】本発明の第3実施形態に係る攪拌装置の正転時の流動状態例を示す図である。
【
図24】本発明の第3実施形態に係る攪拌装置の逆転時の流動状態例を示す図である。
【
図25】第3比較例の攪拌装置の正転時の流動状態例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の好ましい実施の形態につき、図面を参照して具体的に説明する。
【0011】
以降の説明において、攪拌とは、分散および混合を含む概念である。対象物体を分散するとは、化学的に1つの相となっている物質(たとえば液体)中において、他の物質(例えば液体または粉体)をミクロな状態で散在させる動作をいう。また、対象物体を混合するとは、容器に収容された対象物体がより均一な性状となるように容器内においてかき混ぜる動作をいう。
【0012】
<第1実施形態>
図1および
図2は、本発明の第1実施形態に係る攪拌装置を示している。本実施形態の攪拌装置B1は、攪拌容器7、攪拌羽根A1、回転軸4およびモータ5を備えている。
【0013】
〔攪拌容器7〕
攪拌容器7は、攪拌対象材(攪拌対象)8を収容し、この攪拌対象材8を攪拌するための容器である。本実施形態においては、攪拌容器7は、攪拌槽71、蓋部72および複数のバッフル76を有する。
【0014】
攪拌槽71は、攪拌対象材8を収容し、攪拌対象材8を攪拌する主要部位である。攪拌槽71は、底部711および側壁部712を有する。底部711は、攪拌槽71の下端部分であり、図示された例においては、下方に僅かに膨出する曲面形状である。ただし、底部711の形状は特に限定されず、平板状であってもよい。側壁部712は、底部711から上方に繋がっており、円筒状である。なお、図中の軸方向zは、円筒状である側壁部712の中心軸と平行であり、本実施形態においては、鉛直方向に相当する。
【0015】
蓋部72は、攪拌槽71を上方から塞いでおり、たとえば攪拌容器7の密閉性を維持するためのものである。
【0016】
複数のバッフル76は、攪拌槽71内において底部711に沿って配置されている。複数のバッフル76は、各々が攪拌槽71の径方向r中心から径方向r外方に向かうほど攪拌羽根A1の正転方向Fに位置する形状である。なお、本実施形態の攪拌槽71の径方向r中心は、回転軸4と一致しているが、攪拌槽71の径方向r中心と回転軸4とが一致しない場合、径方向rは、回転軸4を中心とする座標軸である。図示された例においては、バッフル76は、攪拌羽根A1の正転方向F側に位置する面が凹曲面であり、逆転方向R側に位置する面が凸曲面である。バッフル76の材質は特に限定されず、たとえばステンレス等の金属からなる。また、バッフル76の形状は特に限定されず、曲面を有する形状のほか、平面視において直線状であってもよいし、屈曲形状であってもよい。
【0017】
図示された例においては、バッフル76は、リブ状であり、攪拌槽71の底部711に全長にわたって固定されている。バッフル76は、底部711に対して、たとえば溶接によって固定される。なお、バッフル76を固定する手法は特に限定されない。また、バッフル76は、たとえば攪拌槽71に対して脱着可能であってもよい。また、バッフル76は、別の部材を介して間接的に攪拌槽71の底部711等に固定されていてもよい。
【0018】
バッフル76の高さは特に限定されない。バッフル76の高さは、攪拌羽根A1の回転によって生じる流動に応じて、後述する効果を奏する観点から適宜設定すればよい。たとえば、図示された攪拌羽根A1が主に径方向rに沿った流動を生じさせる場合、複数のバッフル76は、径方向から見て攪拌羽根A1と重なる高さが好ましい。図示された例においては、バッフル76の軸方向zにおける上端(底部711から最も離れた端部)は、攪拌羽根A1の上端(底部711から最も離れた端部)よりも上方に(底部711から離れた側)位置しており、バッフル76の下端(底部711に最も近い端部)は、攪拌羽根A1の下端(底部711に最も近い端部)よりも下方(底部711に近い側)に位置している。
【0019】
バッフル76の径方向rの大きさは何ら限定されない。本実施形態においては、バッフル76の大きさは、径方向rにおいて底部711の半径の1/2以下である。すなわち、複数のバッフル76は、底部711の半径の1/2以内の領域に配置されている。
バッフル76の個数は特に限定されない。本実施形態においては、バッフル76の個数は6つである。また、6つのバッフル76は、攪拌槽71の径方向r中心(回転軸4)から放射状に等ピッチで配列されている。
【0020】
〔攪拌羽根A1〕
攪拌羽根A1は、攪拌槽71に収容された攪拌対象材8を攪拌するためのものであり、回転することによって攪拌対象材8を攪拌しうる旋回流等の流動を生じさせる。攪拌羽根A1は、
図2に示す正転方向Fおよび逆転方向Rの双方向に回転する。なお、以降においては、側壁部712の中心軸に対応する周方向θにおいて、一方の方向が正転方向Fであり、他方の方向が逆転方向Rとして説明する。攪拌羽根としては、従来公知の様々な構成の羽根を用いることが可能であり、いわゆるプロペラ形、パドル形、タービン形、コーン形等の形式が例示される。
【0021】
図3は、本実施形態に用いられる攪拌羽根の一例である攪拌羽根A1を示している。本実施形態の攪拌羽根A1は、基部1および複数の羽根部2A,2Bを有している。基部1は、平坦な円盤状である。複数の羽根部2A,2Bは、基部1の外周端付近に配置されている。複数の羽根部2Aは、基部1から軸方向zの上方に突出した略台形状の平板である。複数の羽根部2Bは、基部1から軸方向zの下方に突出した略台形状の平板である。複数の羽根部2Aと複数の羽根部2Bとは、周方向θに沿って互いに交互に配置されている。このような攪拌羽根A1は、たとえば金属板を切断及び折り曲げ加工することによって形成可能である。
【0022】
〔回転軸4〕
回転軸4は、攪拌羽根A1を回転させる軸である。回転軸4は、底部711に挿通されており、攪拌羽根A1が取り付けられている。図示された例においては、回転軸4の上端に攪拌羽根A1が固定されている。本実施形態においては、攪拌槽71の中心と回転軸4とが一致しているが、これらが一致しない構成であってもよい。
【0023】
〔モータ5〕
モータ5は、回転軸4を回転させる駆動源である。モータ5は、回転軸4に直接連結されていてもよいし、ギヤ(図示略)を介して連結されていてもよい。モータ5は、回転軸4を正転方向Fおよび逆転方向Rの双方向に回転させる。これにより、攪拌羽根A1は、正転方向Fおよび逆転方向Rの双方向に回転する。
【0024】
次に、攪拌装置B1の作用について
図4~
図8を参照しつつ以下に説明する。
【0025】
図4および
図5は、攪拌装置B1の流動状態例を示している。図示された流動状態では、攪拌槽71に攪拌対象材8が収容されている。攪拌対象材8は、攪拌装置B1によって攪拌される対象物体である。攪拌対象材8の種類は特に限定されず、1種類の液体または複数種類の液体の混合体や、これらのいずれかと粉体等の固体との混合体等が例示される。図示された流動状態例は、攪拌対象材8として水を採用し、攪拌羽根A1の周速が20m/sである条件で、流体解析を行った結果である。
図4は、攪拌羽根A1を正転方向Fに回転させた場合であり、
図5は、攪拌羽根A1を逆転方向Rに回転させた場合である。また、
図6は、第1比較例X1の流動状態の解析結果を示している。第1比較例X1は、
図4に示す流動状態の攪拌装置B1と比べて、攪拌容器7が複数のバッフル76を有していない点のみが異なり、その他の構造や、攪拌羽根A1が正転方向Fに回転している点は同様である。
なお、
図4~
図6は、後述する空気吸い込み渦を便宜上、省略して記載している。
【0026】
攪拌羽根A1は、正転方向Fおよび逆転方向Rのいずれの方向に回転した場合であっても、
図7に示すように径方向rに放射状に進行する流れが生じる。この流れは、攪拌羽根A1の回転方向に対応して、正転方向Fおよび逆転方向Rのそれぞれに向かう流速ベクトルを有する。これにより、攪拌羽根A1が正転方向Fに回転した場合、
図7(a)に示すように、攪拌羽根A1から吐出される攪拌対象材8の流れCfがバッフルと干渉せず、攪拌羽根A1が逆転方向Rに回転した場合、
図7(b)に示すように攪拌羽根A1から吐出される攪拌対象材8の流れCrがバッフルと干渉する。なお、この点については、後述の第2実施形態及び第3実施形態においても妥当する。
また、この流れは、上述した攪拌羽根A1の形状により、攪拌羽根A1から軸方向zの斜め上方および斜め下方に進行する流れを含む。ただし、これらの流れは、いずれも、軸方向zにおいて複数のバッフル76が設けられた領域を通過する程度の角度である。
【0027】
図4においてドット状のハッチングを付した領域は、流体解析の結果、流速ベクトルが正転方向Fで回転速度が150r/min以上の領域を示している。正転方向Fの強い旋回流が生じた領域は、複数のバッフル76を含んでおり、軸方向zにおいて攪拌対象材8の液面に到達している。すなわち、攪拌槽71の中心寄りの領域で、強い正転方向Fの旋回流が生じている。
【0028】
一方、
図5においてドット状のハッチング(
図4よりも濃いハッチング)を付した領域は、流体解析の結果、流速ベクトルが逆転方向Rで回転速度が150r/min以上の領域を示している。逆転方向Rに回転する速い流れが生じた領域は、攪拌羽根A1のごく近傍であって、軸方向zおよび径方向rにおいて複数のバッフル76が配置された領域に概ねとどまっている。
【0029】
ここで、
図6に示す第1比較例X1では、
図4と同様に、流速ベクトルが正転方向Fで回転速度が150r/min以上のある領域にハッチングを付している。正転方向Fに回転する攪拌羽根A1によって、攪拌槽71内の攪拌対象材8の大部分に、正転方向Fの強い旋回流が生じている。
【0030】
図4に示す流動状態と、
図6に示す流動状態とを比較すると、
図4に示す正転方向Fの強い旋回流の領域が、
図6よりも若干小さいものの、攪拌対象材8の液面に至る比較的大きな領域で、正転方向Fの強い旋回流が生じている。これは、複数のバッフル76が、径方向rの外方に向かうほど、正転方向Fに位置するように径方向rに対して傾いた形状であることによる。すなわち、正転方向Fに回転する攪拌羽根A1から生じた(吐出された)流れCfは、径方向rの外方に向かいつつ、正転方向Fに進行する。この流れは、
図7(a)に示すように複数のバッフル76の形状に沿った流れであり、複数のバッフル76はこの流れを過度には阻害(干渉)しない。このため、
図4の流動状態においても、大きな領域で正転方向Fの強い旋回流が生じている。
【0031】
一方、
図5に示す流動状態で逆転方向Rの強い旋回流が生じた領域は、
図4に示す正転方向Fの強い旋回流が生じた領域よりも顕著に小さい。逆転方向Rに回転する攪拌羽根A1から生じた流れは、径方向rの外方に向かいつつ、逆転方向Rに進行する。これに対し、複数のバッフル76は、径方向rの外方に向かうほど、正転方向Fに位置するように径方向rに対して傾いた形状である。このため、
図7(b)に示すように逆転方向Rに回転する攪拌羽根A1から生じた流れCrとバッフル76が干渉し、複数のバッフル76が攪拌羽根A1から生じた流れCrを抑制(阻害)する機能を果たす。これにより、逆転方向Rの強い旋回流が生じた領域が減少したと考えられる。なお、
図6に示す正転方向Fの強い旋回流が生じた領域は、第1比較例X1の攪拌羽根A1を正転方向Fに回転させた場合の正転方向Fの強い旋回流が生じる領域と大きく異ならないと考えられる。このことからも、複数のバッフル76が逆転方向Rの旋回流Crを顕著に抑制する機能を果たすと言える。
【0032】
以上に述べた通り、複数のバッフル76を備える攪拌装置B1においては、攪拌羽根A1を正転方向Fに回転させた場合に、攪拌対象材8の比較的広い領域に正転方向Fの強い旋回流を生じさせ、攪拌羽根A1を逆転方向Rに回転させた場合に、攪拌対象材8の比較的狭い領域に逆転方向Rの強い旋回流を封じ込めることが可能である。たとえば、攪拌対象材8が高粘度であったり、高度な分散および混合が求められたりする場合には、攪拌羽根A1を正転方向Fに回転させた攪拌が好ましい。一方、攪拌対象材8が低粘度であったり、攪拌槽71に収容された攪拌対象材8の液面の中央から下方に向けて生じる空気吸い込み渦が攪拌羽根A1に到達することを回避したりする場合には、攪拌羽根A1を逆転方向Rに回転させた攪拌が好ましい。
一般に、攪拌羽根A1の周速をある一定以上に設定して撹拌対象材8に対する処理を行うと、
図8に示すように攪拌対象材8が攪拌槽71内を旋回するように流動して、液面の中央から下方に向けて空気吸い込み渦が発生するが、この空気吸い込み渦を生じさせる流動は、液面付近にある攪拌対象材8を撹拌槽71下方に向けて降下させる働きをするため、例えば、比重が小さく液面付近に浮遊しやすい粉体を溶解する場合、粉体をせん断力が最も強く作用する撹拌槽71の底の攪拌羽根A1付近まで引き込んで、粉体の溶解処理を効率良く行えるようにするメリットがある。
その一方で、攪拌対象材8に対してより高度なせん断力を付加して処理するために、攪拌羽根A1の周速をより大きくすると、空気吸い込み渦が過剰に発達して、渦の下端が攪拌槽71底の攪拌羽根付近まで到達するようになる。この結果、せん断力が最も強く作用する撹拌槽71底の攪拌羽根A1付近に攪拌対象材8が十分に存在しない状態が生じ、攪拌対象材8に対する分散、乳化、溶解、微粒化といった作用が著しく低下するという問題が生じるようになる。
これに対し、攪拌装置B1によれば、攪拌羽根A1を正転方向Fに回転させて液面の中央から下方に向けて空気吸い込み渦が発生させ、比重が小さく液面付近に浮遊しやすい粉体を、粉体をせん断力が最も強く作用する撹拌槽71の底の攪拌羽根A1付近まで行きわたるように引き込んだ後、攪拌羽根A1を逆転方向Rに回転させて、空気吸い込み渦の下端が攪拌羽根A1付近まで到達することを回避しつつ、攪拌対象材8に対してより高度なせん断力を付加して処理することができる。
以上のように、攪拌装置B1によれば、攪拌能力を高めつつ、過度な渦の発生を抑制することができる。なお、以上の点については、後述の第2実施形態及び第3実施形態においても妥当する。
【0033】
本実施形態のバッフル76は、軸方向zの上端が、攪拌羽根A1の上端よりも上方に位置し、軸方向zの下端が、攪拌羽根A1の下端よりも下方に位置する。これにより、攪拌羽根A1によって生じた流れを、複数のバッフル76により確実に向かわせることが可能である。これは、特に、攪拌羽根A1を逆転方向Rに回転させる場合に、攪拌羽根A1からの流れをより積極的に複数のバッフル76に向かわせ、逆転方向Rの旋回流が生じる領域を意図的に抑え込むのに好ましい。
【0034】
図9~
図25は、本発明の変形例および他の実施形態を示している。なお、これらの図において、上記実施形態と同一または類似の要素には、上記実施形態と同一の符号を付している。
【0035】
<第1実施形態 第1変形例>
図9は、攪拌装置B1の第1変形例を示している。本変形例の攪拌装置B11では、複数のバッフル76の形状が、上述した攪拌羽根A1のバッフル76と異なっている。
【0036】
本変形例においては、バッフル76は、平面視において直線状である。ただし、本変形例においても、バッフル76は、径方向rの中心から径方向rの外方に向かうほど、正転方向Fに位置するように径方向rに対して傾斜している。
【0037】
本変形例によっても、攪拌能力を高めつつ、過度な渦の発生を抑制することができる。また、本変形例から理解させるように、複数のバッフル76の形状は何ら限定されない。
なお、本変形例は、後述の第2実施形態及び第3実施形態に対しても、同様に適用することができる。
【0038】
<第1実施形態 第2変形例>
図10は、攪拌装置B1の第2変形例を示している。本変形例の攪拌装置B12は、ポンプ羽根3をさらに備えている。また、攪拌容器7が、攪拌槽71に加えて、ポンプ槽73、連結管路74および還流管路75を有している。
【0039】
ポンプ槽73は、攪拌槽71の下方に設けられており、たとえば偏平な円筒状である。ポンプ槽73の平面視中心は、攪拌槽71の平面視中心と一致している。
【0040】
連結管路74は、攪拌槽71の底部711とポンプ槽73とを繋いでいる。連結管路74は、短管状であり、平面視中心が、攪拌槽71およびポンプ槽73の平面視中心と一致している。
【0041】
還流管路75は、底部711から流出した液体を攪拌槽71の外部を経由して攪拌槽71に還流させるための経路である。還流管路75は、ポンプ槽73の側方に繋がっている。図示された例においては、還流管路75は、側方注入口751、天側注入口752、散布部753およびバルブ部754を有する。
【0042】
側方注入口751は、攪拌槽71の側壁部712に繋がっており、還流された液体が攪拌槽71に側方から流入される部位である。
【0043】
天側注入口752は、攪拌槽71の上方に設けられており、図示された例においては、蓋部72を貫通して設けられている。天側注入口752は、還流された液体が攪拌槽71に上方から流入される部位である。
【0044】
散布部753は、天側注入口752に取り付けられており、天側注入口752から流入する液体を攪拌槽71内に散布することによって攪拌槽71内を洗浄する機能を有するものであり、いわゆるシャワーボール(洗浄ノズル)である。
【0045】
バルブ部754は、側方注入口751および天側注入口752のいずれかに選択的に液体を還流させるためのものであり、たとえば三方弁等によって構成される。
【0046】
ポンプ羽根3は、攪拌槽71内の液体を連結管路74を通して吸引し、還流管路75へと送るためのものである。ポンプ羽根3は、ポンプ槽73に収容された状態で正転方向F及び逆転方向Rに回転する。ポンプ羽根3は、回転軸4に取り付けられている。
ポンプ羽根3は、正転方向F及び逆転方向Rのいずれの場合であっても、攪拌槽71内の液体を還流管路75へと送ることができる羽根形状を有していることが好ましい。
【0047】
図示された例は、ポンプ羽根3として、遠心ポンプを用いた例である。このようなポンプ羽根3は、たとえば主板31および複数の羽根板32を有する。主板31は、たとえば円板状の部材であり、たとえばステンレス等の金属からなる。複数の羽根板32は、たとえばステンレス等の金属からなり、主板31の上面に固定されている。
【0048】
攪拌装置B12の使用例について説明する。まず、攪拌装置B12において通常の攪拌を行う場合を説明する。この場合、バルブ部754は、側方注入口751へと向かう経路を開状態とし、天側注入口752に向かう経路を閉状態とする。すなわち、図中の経路P1が選択された状態である。攪拌羽根A1による攪拌と同時に、ポンプ羽根3の回転により、ポンプ羽根3の中心から攪拌対象材8が吸引され、ポンプ羽根3の径方向外方に位置する還流管路75に攪拌対象材8が吐出される。この攪拌対象材8は、還流管路75を通じて、側方注入口751から攪拌槽71へと注入される。この攪拌対象材8の還流により、攪拌槽71内において攪拌対象材8が淀んでしまうこと等を防止することができる。
これにより、攪拌羽根A1を逆転方向Rに回転させて、空気吸い込み渦の下端が攪拌羽根A1付近まで到達することを回避しつつ、攪拌対象材8に対してより高度なせん断力を付加して処理する際に、旋回流が生じる領域が、攪拌羽根A1を正転方向Fに回転させたときに生じる旋回流の領域よりも顕著に小さくなるという問題をカバーすることができる。
【0049】
次に、攪拌装置B12における攪拌容器7の洗浄を行う場合を説明する。この場合、バルブ部754は、側方注入口751へと向かう経路を閉状態とし、天側注入口752へと向かう経路を開状態としている。すなわち、図中の経路P2が選択された状態である。また、攪拌対象材8に代えて、攪拌槽71には、洗浄液が収容される。洗浄液は、攪拌容器7内に付着した攪拌対象材8等を洗浄するための液体である。この状態で、モータ5を回転することによって、攪拌羽根A1およびポンプ羽根3を回転させる。これにより、攪拌羽根A1によって、攪拌槽71内に貯留された洗浄液9に旋回流を生じさせるとともに、ポンプ羽根3によって、洗浄液9が還流管路15を通じて天側注入口752に送液され、その先端に配置された散布部(シャワーボール)753から攪拌容器7内全体に向けて噴霧される。
【0050】
ここで、洗浄液による攪拌容器7の洗浄を十分に行うには、ポンプ羽根3の回転速度を上げて散布部(シャワーボール)753からの洗浄液9の吐出圧力を高める必要がある。しかしながら、ポンプ羽根3の回転速度を上げると、回転軸4を介してポンプ羽根3と連結される攪拌羽根A1の回転速度(周速)も上がってしまい、これに伴って攪拌槽71内において空気吸い込み渦が過度に発達して、その下端がポンプ羽根3にまで到達することなる。
この結果、散布部753からの洗浄液9の吐出圧力が低下し、洗浄液9による攪拌容器7内の洗浄が不十分なものとなる。
これに対し攪拌装置B12においては、攪拌羽根A1を逆転方向Rに回転させることにより、空気吸い込み渦の下端がポンプ羽根3にまで到達することを防止できるため、洗浄液9による攪拌容器7内の洗浄を十分に行うことできるようになる。
なお、本変形例は、後述の第2実施形態及び第3実施形態に対しても、同様に適用することができる。
【0051】
<第2実施形態>
図11~
図13は、本発明の第2実施形態に係る攪拌装置を示している。本実施形態の攪拌装置B2は、攪拌羽根A1に代えて攪拌羽根A2を備える点が、攪拌装置B1と異なっている。
図11~
図13に示すように、攪拌羽根A2は、基部1および複数の羽根部2を備えている。攪拌羽根A2の材質は、特に限定されず、分散および混合に適した材質が適宜選択される。攪拌羽根A2を構成する好ましい金属としては、たとえばステンレスが挙げられる。
【0052】
また、攪拌羽根A2は、基部1および複数の羽根部2が一体的に形成されたものであってもよいし、複数の部品が組み合わされた構成であってもよい。さらに、攪拌羽根A2を攪拌装置B1の回転軸4に取り付ける構造としては、種々の係合機構や締結機構などの取り付け機構が採用されてもよいし、回転軸4と攪拌羽根A2の少なくとも一部とが一体的に形成された構造であってもよい。
図11~
図13においては、攪拌羽根A2を回転軸4に取り付けるための構造は、理解の便宜上省略している。攪拌羽根A2の大きさは特に限定されず、攪拌羽根A2の直径は、40~300mm程度に設定することができる。
【0053】
基部1は、複数の羽根部2を支持しており、回転軸4に固定される部位である。基部1の形状および大きさは特に限定されない。本実施形態の基部1は、軸方向z視において円形状である。基部1は、外周端10および傾斜面11を有する。外周端10は、径方向rにおいて最外方に位置する部位である。本実施形態においては、外周端10は、基部1の軸方向z下端に位置しており、軸方向z視において円形である。傾斜面11は、外周端10に対して軸方向z上側に設けられている。傾斜面11は、軸方向zにおいて外周端10に向かうほど径方向r外方に位置するように傾斜している。図示された例においては、基部1全体が、円錐体とされており、傾斜面11は、円錐体の側面によって構成されている。
【0054】
複数の羽根部2は、基部1に対して軸方向z一方側に位置し、且つ各々が周方向θに配列されている。本実施形態においては、複数の羽根部2は、傾斜面11に設けられている。
図12に示すように、複数の羽根部2は、軸方向zにおける所定範囲に配置されている。
【0055】
複数の羽根部2の個数は特に限定されない。本実施形態においては、複数の羽根部2の個数は4つである。また、4つの羽根部2は、等ピッチで配列されており、図示された例においては、当該ピッチは90度である。
【0056】
羽根部2は、内方端21a、外方端22a、根本端23a、先端24a、前方面25a、後方面26a、前方湾曲部27aおよび後方湾曲部28aを有する。内方端21aは、羽根部2のうち径方向rにおいて最も内方に位置する端部である。本実施形態においては、複数の羽根部2の内方端21aどうしは、周方向θにおいて互いに離間している。外方端22aは、羽根部2のうち径方向rにおいて最も外方に位置する端部である。
図11に示すように、図示された例においては、外方端22aは、軸方向z視において基部1の外周端10と一致している。すなわち、基部1と羽根部2とは、いずれかが径方向r外方に突出する構成とはなっていない。ただし、羽根部2が、基部1よりも径方向r外方に突出する構成であってもよいし、基部1よりも径方向r内方に退避した構成であってもよい。
【0057】
根本端23aは、羽根部2が基部1に繋がる部位である。先端24aは、羽根部2のうち根本端23aから軸方向zに離間した端部である。
【0058】
前方面25aは、羽根部2のうち正転方向Fを向く面である。後方面26aは、羽根部2のうち逆転方向Rを向く面である。
【0059】
前方湾曲部27aは、内方端21aに繋がり且つ軸方向z視において正転方向Fに凸である部位である。より具体的には、前方湾曲部27aは、前方湾曲部27aの径方向r両端を結ぶ仮想直線よりも正転方向Fに凸である形状である。後方湾曲部28aは、前方湾曲部27aに対して径方向r外方に繋がり且つ軸方向z視において逆転方向Rに凸である部位である。より具体的には、後方湾曲部28aは、後方湾曲部28aの径方向r両端を結ぶ仮想直線よりも逆転方向Rに凸である形状である。
図11および
図13においては、前方湾曲部27aおよび後方湾曲部28aについて、理解の便宜上一点鎖線の矢印によってそれぞれの範囲を示している。図示された例においては、先端24aは、羽根部2のうち概ね前方湾曲部27aを構成する部分に設けられており、
図13に示すように、軸方向z視において正転方向Fに凸である形状となっている。また、根本端23aは、前方湾曲部27aおよび後方湾曲部28aを構成する部分の双方に設けられており、
図13に示すように、軸方向z視においてS字形状となっている。なお、前方湾曲部27aおよび後方湾曲部28aが設けられる範囲や、それぞれの湾曲度合い等は特に限定されない。
【0060】
また、本実施形態においては、羽根部2は、軸方向zにおいて基部1から離間するほど正転方向Fに位置するように傾いている。さらに、本実施形態においては、羽根部2の軸方向zに対する傾斜角度は、径方向r内方に向かうほど大である。より具体的には、
図12に示すように、羽根部2の内方端21aが軸方向zとなす角度である角度γ1は、羽根部2の外方端22aが軸方向zとなす角度であり、角度γ2よりも大である。言い換えると、前方湾曲部27aが軸方向zとなす角度は、後方湾曲部28aが軸方向zとなす角度よりも大である。
【0061】
なお、本実施形態においても、バッフル76の軸方向zにおける上端は、攪拌羽根A2の上端よりも上方に位置しており、バッフル76の下端は、攪拌羽根A2の下端よりも下方に位置している。
【0062】
次に、攪拌装置B2の作用について
図14~
図16を参照しつつ以下に説明する。
【0063】
図14および
図15は、攪拌装置B2の流動状態例を示している。図示された流動状態例は、攪拌対象材8として水を採用し、攪拌羽根A2の周速が20m/sである条件で、流体解析を行った結果である。
図14は、攪拌羽根A2を正転方向Fに回転させた場合であり、
図15は、攪拌羽根A2を逆転方向Rに回転させた場合である。また、
図16は、第2比較例X2の流動状態の解析結果を示している。第2比較例X2は、
図14に示す流動状態の攪拌装置B2と比べて、攪拌容器7が複数のバッフル76を有していない点のみが異なり、その他の構造や、攪拌羽根A2が正転方向Fに回転している点は同様である。
なお、
図14~
図16は、空気吸い込み渦を便宜上、省略して記載している。
【0064】
攪拌羽根A2は、正転方向Fに回転した場合、
図14および
図16に示すように、軸方向zの斜め下方に進行する流れを生じさせる。また、攪拌羽根A2は、逆転方向Rに回転した場合に、
図15に示すように、軸方向zの斜め上方に進行する流れを生じさせる。
【0065】
図14においてドット状のハッチングを付した領域は、流体解析の結果、流速ベクトルが正転方向Fで回転速度が150r/min以上の領域を示している。正転方向Fの強い旋回流が生じた領域は、複数のバッフル76を含んでおり、軸方向zにおいて攪拌対象材8の液面に向けて広がるように到達している。すなわち、攪拌槽71の中心寄りの大きな領域で、強い正転方向Fの旋回流が生じている。
【0066】
一方、
図15においてドット状のハッチング(
図14よりも濃いハッチング)を付した領域は、流体解析の結果、流速ベクトルが逆転方向Rで回転速度が150r/min以上の領域を示している。逆転方向Rに回転する流れが生じた領域は、攪拌羽根A2のごく近傍であって、径方向rにおいて複数のバッフル76が配置された領域に概ねとどまっており、軸方向zにおいて複数のバッフル76から若干上方に突出した領域である。
【0067】
ここで、
図16に示す第2比較例X2では、
図14と同様に、流速ベクトルが正転方向Fで回転速度が150r/min以上の領域にハッチングを付している。正転方向Fに回転する攪拌羽根A2によって、攪拌槽71内の攪拌対象材8の殆どの部分に、正転方向Fの強い旋回流が生じている。
【0068】
図14に示す流動状態では、複数のバッフル76が、径方向rの外方に向かうほど、正転方向Fに位置するように径方向rに対して傾いた形状であることにより、大きな領域で正転方向Fの強い旋回流が生じている。一方、
図15に示す流動状態で逆転方向Rの強い旋回流が生じた領域は、
図14に示す正転方向Fの強い旋回流が生じた領域よりも顕著に小さい。これは、第1実施形態と同様に、逆転方向Rに回転する攪拌羽根A2から生じた流れを、複数のバッフル76が抑制し、逆転方向Rの旋回流が生じた領域が減少したと考えられる。なお、
図16に示す正転方向Fの強い旋回流が生じた領域は、第2比較例X2の攪拌羽根A2を正転方向Fに回転させた場合の正転方向Fの強い旋回流が生じる領域と大きく異ならないと考えられる。このことからも、複数のバッフル76が逆転方向Rの旋回流を顕著に抑制する機能を果たすと言える。
【0069】
以上に述べた通り、攪拌装置B2によっても、攪拌能力を高めつつ、過度な空気吸い込み渦の発生を抑制することができる。また、正転方向Fの回転において斜め下方に進行する流れを生じさせる攪拌羽根A2により、正転方向Fの強い旋回流を攪拌容器7内の攪拌対象材8のより広い領域に生じさせることができる。また、逆転方向Rの回転において斜め上方に進行する流れが生じるものの、バッフル76の軸方向zにおける上端は、攪拌羽根A2の上端よりも上方に位置しており、バッフル76の下端は、攪拌羽根A2の下端よりも下方に位置していることにより、逆転方向Rの強い旋回流が生じる領域を意図的に抑え込むことが可能である。
【0070】
<第3実施形態>
図17~
図21は、本発明の第3実施形態に係る攪拌装置を示している。本実施形態の攪拌装置B3は、攪拌羽根A1,A2に代えて攪拌羽根A3を備える点が、攪拌装置B1,B2と異なっている。また、後述のように、攪拌羽根A3と複数のバッフル76の軸方向zにおける位置および大きさの関係が異なっている。
図18~
図21に示すように、攪拌羽根A3は、基部1および複数の羽根部2を備えている。攪拌羽根A3の材質は、特に限定されず、分散および混合に適した材質が適宜選択される。攪拌羽根A3を構成する好ましい金属としては、たとえばステンレスが挙げられる。
【0071】
攪拌羽根A3においては、攪拌羽根A3を回転軸4に取り付けるための構造として、基部1に取付孔19が設けられている。攪拌羽根A3の大きさは特に限定されず、攪拌羽根A3の直径は、40~370mm程度に設定することができる。
【0072】
本実施形態の基部1は、径方向rおよび周方向θに沿った形状であって軸方向zに対して直角である平板状である。また、図示された例においては、基部1は、軸方向z視において略三角形状である。
【0073】
基部1は、上面13および下面14を有する。上面13は、基部1のうち軸方向zにおいて上方を向く面である。下面14は、基部1のうち軸方向zにおいて下方を向く面である。
【0074】
本実施形態においては、複数の羽根部2の個数は、3であるが、これに限定されるものではない。羽根部2は、根元部21bおよび先端部22bを有する。根元部21bは基部1に繋がっており、基部1に対して軸方向z上方に向けて斜めに延びている。先端部22bは、根元部21bに対して基部1とは反対側に繋がっており、図示された例においては、根元部21bから軸方向z上方に延びている。なお、基部1、根元部21bおよび先端部22bは、単一の材料から一体的に形成されても良いし、互いを差し込み等の係合(嵌合)や溶接等の接合手法を用いて結合されていてもよい。
【0075】
攪拌羽根A3においては、基部1および羽根部2が一体的な金属板材料に切断加工および折り曲げ加工を施すことによって形成されている。このため、基部1と根元部21bとの境界には、第1境界部23bが設けられており、根元部21bと先端部22bとの境界には、第2境界部24bが設けられている。
【0076】
根元部21bは、内面211および外面212を有する。内面211は、径方向rにおいて内側を向く面である。外面212は、径方向rにおいて外側を向く面である。内面211および外面212の形状は特に限定されない。図示された例においては、内面211と外面212とは、互いに平行な略平面である。
【0077】
先端部22bは、内面221および外面222を有する。内面221は、径方向rにおいて内側を向く面である。外面222は、径方向rにおいて外側を向く面である。内面221および外面222の形状は特に限定されない。図示された例においては、内面211と外面222とは、互いに平行な略平面である。
【0078】
根元部21bおよび先端部22bの相対的な大きさは特に限定されない。図示された例においては、
図21に示す断面における根元部21bの長さは、先端部22bの長さよりも長い。
【0079】
本実施形態では、
図22に示す第1角度α1を定義している。図中の水平な一点鎖線は、周方向θに沿った直線である。第1角度α1は、周方向θと根元部21b(根元部21bの中心線)とがなす角度であり、周方向θにおける正転方向Fに向かうほど軸方向zの下方側に位置するように傾く場合を正とする。
【0080】
本実施形態においては、第1角度α1は、5°以上50°以下である。なお、本発明において、第1角度α1の絶対値は、5°以上50°以下であることが好ましい。
【0081】
また、本実施形態においては、
図21に示す第2角度α2および第3角度α3を定義している。図中の水平な一点鎖線の直線は、径方向rに沿った直線である。根元部21bに沿って延びる一点鎖線の直線は、根元部21bの全体形状に基づく平均的な中心線である。図示された例においては、根元部21bは、図中斜めに延びる直線形状の断面を有している。このため、根元部21bの中心線は、内面211と外面222との間に位置する直線となっている。先端部22bに沿って延びる一点鎖線の直線は、先端部22bの全体形状に基づく平均的な中心線である。図示された例においては、先端部22bは、図中斜めに延びる直線形状の断面を有している。このため、先端部22bの中心線は、内面221と外面222との間に位置する直線となっている。なお、根元部21bおよび先端部22bがなだらかに屈曲したり湾曲したりした形状であっても、その全体形状に基づいて、幾何的に平均的な中心線が適宜決定されればよい。
【0082】
第2角度α2は、径方向rと根元部21b(根元部21bの中心線)とがなす角度であり、径方向外側に位置するほど軸方向zの上側に位置するように傾く場合を正とする。第2角度α2は、いわゆる仰角に相当する角度である。根元部21bが径方向rに対して平行である場合、第2角度α2は、0°である。第3角度α3は、根元部21b(根元部21bの中心線)と先端部22b(先端部22bの中心線)とがなす角度であり、径方向外側に位置するほど軸方向zの上側に位置するように傾く場合を正とする。第3角度α3は、いわゆる仰角に相当する角度である。先端部22bが径方向rに対して平行である場合、第3角度α3は、0°である。
【0083】
本実施形態においては、第2角度α2の絶対値は、0°以上50°以下である。また、第3角度α3の絶対値は、60°以上100°以下である。
【0084】
また、本実施形態では、
図20に示す第1副角度β1および第2副角度β2を定義している。図中、それぞれの羽根部2に沿って延びる一点鎖線の矢印線は、羽根部2が延びる方向(当該羽根部2が延びる方向に一致する径方向r)である。第1境界部23bに沿って延びる一点鎖線の直線は、第1境界部23bの全体形状に基づく平均的な中心線である。図示された例においては、第1境界部23bは、直線形状の形状である。このため、第1境界部23bの中心線は、第1境界部23bの全体と重なる直線となっている。第2境界部24bに沿って延びる一点鎖線の直線は、第2境界部24bの全体形状に基づく平均的な中心線である。図示された例においては、第2境界部24bは、直線形状である。このため、第2境界部24bの中心線は、第2境界部24bの全体と重なる直線となっている。なお、第1境界部23bおよび第2境界部24bがなだらかに屈曲したり湾曲したりした形状であっても、その全体形状に基づいて、幾何的に平均的な中心線が適宜決定されればよい。
【0085】
第1副角度β1は、軸方向z視において径方向r(一点鎖線の矢印線)と第1境界部23b(第1境界部23bの中心線)とがなす角度である。第1境界部23bが周方向θに沿っており径方向rに対して直角である場合、第1副角度β1は、90°である。第2副角度β2は、軸方向z視において径方向r(一点鎖線の矢印線)と第2境界部24b(第2境界部24bの中心線)とがなす角度である。第2境界部24bが周方向θに沿っており径方向rに対して直角である場合、第2副角度β2は、90°である。また、第1副角度β1および第2副角度β2は、軸方向z視において第1境界部23bおよび第2境界部24bが径方向rにおいて外方に向かうほど周方向θにおいて正転方向Fに位置するように傾いている場合に正の値をとり、逆の場合に負の値をとる。
【0086】
本実施形態においては、第1副角度β1は、20°以上80°以下である。また、第2副角度β2は、第1副角度β1よりも大きい。
【0087】
図17に示すように、本実施形態の複数のバッフル76の軸方向zにおける上端(底部711から最も離れた端部)は、攪拌羽根A3の軸方向zにおける上端(底部711から最も離れた端部)よりも下方(底部711に近い側)に位置しており、且つ、攪拌羽根A3の下端(底部711に最も近い端部)よりも上方(底部711から離れた側)に位置している。また、複数のバッフル76の軸方向zにおける下端は、攪拌羽根A3の軸方向zにおける下端よりも下端に位置している。すなわち、本実施形態においては、攪拌羽根A3の一部が複数のバッフル76から軸方向zの上方に突出した配置となっている。
【0088】
次に、攪拌装置B3の作用について
図23~
図25を参照しつつ以下に説明する。
【0089】
図23および
図24は、攪拌装置B3の流動状態例を示している。図示された流動状態例は、攪拌対象材8として水を採用し、攪拌羽根A3の周速が20m/sである条件で、流体解析を行った結果である。
図23は、攪拌羽根A3を正転方向Fに回転させた場合であり、
図24は、攪拌羽根A3を逆転方向Rに回転させた場合である。また、
図25は、第3比較例X3の流動状態の解析結果を示している。第3比較例X3は、
図23に示す流動状態の攪拌装置B3と比べて、攪拌容器7が複数のバッフル76を有していない点のみが異なり、その他の構造や、攪拌羽根A3が正転方向Fに回転している点は同様である。
なお、
図23~
図25は、空気吸い込み渦を便宜上、省略して記載している。
【0090】
攪拌羽根A3は、正転方向Fに回転した場合、
図23および
図25に示すように、軸方向zの斜め上方に進行する流れを生じさせる。また、攪拌羽根A3は、逆転方向Rに回転した場合に、
図24に示すように、軸方向zの斜め下方に進行する流れを生じさせる。
【0091】
図23においてドット状のハッチングを付した領域は、流体解析の結果、流速ベクトルが正転方向Fで回転速度が150r/min以上の領域を示している。正転方向Fの強い旋回流が生じた領域は、複数のバッフル76を含んでおり、軸方向zにおいて攪拌対象材8の液面に向けて広がるように到達している。すなわち、攪拌槽71の中心寄りの大きな領域で、強い正転方向Fの旋回流が生じている。
【0092】
一方、
図24においてドット状のハッチング(
図23よりも濃いハッチング)を付した領域は、流体解析の結果、流速ベクトルが逆転方向Rで回転速度が150r/min以上のある領域を示している。逆転方向Rに回転する速い流れが生じた領域は、攪拌羽根A3のごく近傍であって、径方向rにおいて複数のバッフル76が配置された領域に概ねとどまっている。
【0093】
ここで、
図25に示す第3比較例X3では、
図23と同様に、流速ベクトルが正転方向Fで回転速度が150r/min以上の領域にハッチングを付している。正転方向Fに回転する攪拌羽根A3によって、攪拌槽71内の攪拌対象材8の殆どの部分に、正転方向Fの強い旋回流が生じている。
【0094】
図23に示すように、攪拌羽根A3が正転方向Fに回転する場合、攪拌羽根A3から斜め上方に進行する流れが生じるのに対応して、複数のバッフル76が、攪拌羽根A3に対して軸方向zの下方にシフトした位置に配置されている。このため、攪拌羽根A3からの流れは、ほとんどが複数のバッフル76に向かわずに、複数のバッフル76の軸方向zの上方を通過する格好となる。このため、攪拌対象材8の大きな領域で、正転方向Fの強い旋回流が生じている。
一方、
図24に示すように、攪拌羽根A3が逆転方向Rに回転する場合、複数のバッフル76が、攪拌羽根A3に対して軸方向zの下方にシフトした位置に配置されているにもかかわらず、流動状態で逆転方向Rの強い旋回流が生じた領域は、
図23に示す正転方向Fの強い旋回流が生じた領域よりも顕著に小さい。攪拌羽根A3が逆転方向Rに回転する場合、攪拌羽根A3からは、斜め下方に進行する流れが生じるため、この流れの殆どは、複数のバッフル76に向かい、第1実施形態と同様に、抑制される。この結果、逆転方向Rの旋回流が抑え込まれたと考えられる。なお、
図25に示す正転方向Fの強い旋回流が生じた領域は、第3比較例X3の攪拌羽根A3を正転方向Fに回転させた場合の正転方向Fの強い旋回流が生じる領域と大きく異ならないと考えられる。このことからも、複数のバッフル76が逆転方向Rの旋回流を顕著に抑制する機能を果たすと言える。
【0095】
以上に述べた通り、攪拌装置B3によっても、攪拌能力を高めつつ、過度な空気吸い込み渦の発生を抑制することができる。また、正転方向Fに回転した場合に斜め上方に進行する流れを生じさせる攪拌羽根A3を、複数のバッフル76から軸方向zの上方に突出させる程度としては、複数のバッフル76の軸方向zにおける上端が、攪拌羽根A3の軸方向zにおける上端よりも下方に位置していることが、バッフル76と干渉する攪拌羽根A3からの流れを確実に減少させることができる点において好ましい。
また、攪拌羽根A3の複数のバッフル76から軸方向zの上方への過度の突出は、攪拌羽根A3を逆転方向Rに回転させるときに、バッフル76と干渉する攪拌羽根A1から複数のバッフル76に向かう流れが減少し、逆転方向Rの旋回流が生じる領域を意図的に抑え込む効果が低下することにつながるので、複数のバッフル76の軸方向zにおける上端は、攪拌羽根A3の下端よりも上方に位置していることが好ましい。
【0096】
本発明に係る攪拌装置は、上述した実施形態に限定されるものではない。本発明に係る攪拌装置の各部の具体的な構成は、種々に設計変更自在である。
【符号の説明】
【0097】
A1,A2,A3:攪拌羽根
B1,B12,B2,B3:攪拌装置
1 :基部
2,2A,2B:羽根部
3 :ポンプ羽根
4 :回転軸
5 :モータ
7 :攪拌容器
8 :攪拌対象材
9 :洗浄液
10 :外周端
11 :傾斜面
12 :蓋部
13 :上面
14 :下面
15 :還流管路
19 :取付孔
21a :内方端
21b :根元部
22a :外方端
22b :先端部
23a :根本端
23b :第1境界部
24a :先端
24b :第2境界部
25a :前方面
26a :後方面
27a :前方湾曲部
28a :後方湾曲部
31 :主板
32 :羽根板
71 :攪拌槽
72 :蓋部
73 :ポンプ槽
74 :連結管路
75 :還流管路
76 :バッフル
751 :側方注入口
752 :天側注入口
753 :散布部
754 :バルブ部
211,221:内面
212,222:外面
711 :底部
712 :側壁部
P1,P2:経路
F :正転方向
R :逆転方向
r :径方向
θ :周方向
z :軸方向
α1 :第1角度
α2 :第2角度
α3 :第3角度
β1 :第1副角度
β2 :第2副角度
γ1,γ2:角度