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特開2022-133364金属イオン内包フラーレンを用いた高感度肺がん検査装置
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  • 特開-金属イオン内包フラーレンを用いた高感度肺がん検査装置 図1
  • 特開-金属イオン内包フラーレンを用いた高感度肺がん検査装置 図2
  • 特開-金属イオン内包フラーレンを用いた高感度肺がん検査装置 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022133364
(43)【公開日】2022-09-13
(54)【発明の名称】金属イオン内包フラーレンを用いた高感度肺がん検査装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/416 20060101AFI20220906BHJP
   H01G 9/20 20060101ALI20220906BHJP
   G01N 33/497 20060101ALI20220906BHJP
【FI】
G01N27/416 300U
H01G9/20 119
H01G9/20 113A
H01G9/20 107A
G01N33/497 A
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022106572
(22)【出願日】2022-06-30
(62)【分割の表示】P 2018071236の分割
【原出願日】2018-04-03
(71)【出願人】
【識別番号】512165547
【氏名又は名称】イデア・インターナショナル株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】512165639
【氏名又は名称】權 垠相
(74)【代理人】
【識別番号】100088096
【弁理士】
【氏名又は名称】福森 久夫
(72)【発明者】
【氏名】笠間 泰彦
(72)【発明者】
【氏名】河地 和彦
(72)【発明者】
【氏名】小野 昭一
(72)【発明者】
【氏名】神垣 友夫
(72)【発明者】
【氏名】權 垠相
(57)【要約】
【課題】pptレベルの濃度でも検出可能な金属イオン内包フラーレンを用いた高感度肺がん起因物質検出装置を提供すること。
【解決手段】容器本体内部へ肺がん起因物質を導入するための導入口を有する容器と、
前記容器の内部に包含された、色素と金属イオン内包フラーレンとの錯体と、
一対の電極と、前記容器の内部に光を照射するための光照射手段と、
前記電極間を流れる電流を測定するための電流計と、からなり、
光照射のない基底状態においては電子の移動はなく、光照射による励起状態においては、励起により生じた空席に、前記肺がん起因物質から分離した電子が移動するように電子軌道のエネルギーレベルが設定されていることを特徴とする金属イオン内包フラーレンを用いた高感度肺がん起因物質検出装置。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器本体内部へ肺がん起因物質を導入するための導入口を有する容器と、
前記容器の内部に包含された、色素と金属イオン内包フラーレンとの錯体と、
一対の電極と、
前記容器の内部に光を照射するための光照射手段と、
前記電極間を流れる電流を測定するための電流計と、
からなり、
光照射のない基底状態においては電子の移動はなく、
光照射による励起状態においては、
励起により生じた空席に、前記肺がん起因物質から分離した電子が移動するように電子軌道のエネルギーレベルが設定されていることを特徴とする金属イオン内包フラーレンを用いた高感度肺がん起因物質検出装置。
【請求項2】
前記金属はアルカリ金属である請求項1記載の金属イオン内包フラーレンを用いた高感度肺がん起因物質検出装置。
【請求項3】
前記アルカリ金属はLiである請求項1記載の金属イオン内包フラーレンを用いた高感度肺がん起因物質検出装置。
【請求項4】
前記フラーレンはC60である請求項1ないし3のいずれか1項記載の金属イオン内包フラーレンを用いた高感度肺がん起因物質検出装置。
【請求項5】
アルカリ金属はリチウムである請求項2記載のイオン内包フラーレンはLi@C60である請求項1又は2記載の金属イオン内包フラーレンを用いた高感度肺がん起因物質検出装置。
【請求項6】
前記色素は、ポリ-3-ヘキシルチオフェン(P3HT)などのポリチオフェン、ポリp-フェニレン、ポリp-フェニレンビニレン、ポリアニリン、ポリピロール、PEDOT、P3OT、POPT、MDMO-PPV、MEH-PPVなどの高分子重合体、その誘導体のいずれかである請求項1ないし5のいずれか1項記載の金属イオン内包フラーレンを用いた高感度肺がん発見装置である。
【請求項7】
前記肺がん起因物質は、トルエンである請求項1ないし6のいずれか1項記載の高感度肺がん起因物質検出装置。
【請求項8】
前記肺がん起因物質は、ジイソプロピルフェノールである請求項1ないし6のいずれか1項記載の高感度肺がん起因物質検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属イオン内包フラーレンを用いた高感度肺がん検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
癌は早期発見が望まれている。例えば、癌患者の呼気には、癌患者ではない者の呼気には含まれない肺がんに起因する肺がん起因物質が含まれていることが知られている。
図3に示す分子は肺がん患者の呼気に多く含まれる肺がん起因ガス基質である。
そして、そのような物質の検出を利用して癌の早期発見を行うことが試みられている。
現在、検出技術としては、例えば、以下の技術が試みられている。(1)MEMにより形成したSiダイヤフラムに塗布した官能膜にガスを吸着させ、次に吸着によって生じた官能膜の力学的歪を電流として検知する技術(カンチレバー方式)。(2)ガス分子の吸着による抵抗変化を検出する技術(半導体センサー方式)。(3)遺伝子操作したマウスの臭覚受容体に匂いを分子を通して蛍光を検出する技術(バイオチップ方式)。(4)変動電場中に希薄気体を通すと、特定の質量断面積比の分子だけが検知器に到達することを利用した技術(対称場イオン移動分析方式)。
一方、内包フラーレンを用いた技術として、本発明者は、特許文献1に記載の内包フラーレンを用いた光電変換装置を提供している。その装置は、アルカリイオン内包フラーレンとアニオン性色素とからなる超分子複合体を含む内包フラーレンを用いた光電変換装置である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015-69731号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前述した(1)~(4)の検出技術によれば、いずれも検出濃度はよくてもppbレベルである。また、(4)の技術では大がかりな装置を必要とする。
癌初期においては、呼気に含まれる物質濃度も微量であることを考えるとより高感度の検出技術が望まれる。
本発明は、pptレベルの濃度でも検出可能な金属イオン内包フラーレンを用いた肺がん発見装置及を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に係る発明は、容器本体内部へ肺がん起因物質を導入するための導入口を有する容器と、
前記容器の内部に包含された、色素と金属イオン内包フラーレンとの錯体と、
一対の電極と、
前記容器の内部に光を照射するための光照射手段と、
前記電極間を流れる電流を測定するための電流計と、
からなり、
光照射のない基底状態においては電子の移動はなく、
光照射による励起状態においては、
励起により生じた空席に、前記肺がん起因物質から分離した電子が移動するように電子軌道のエネルギーレベルが設定されていることを特徴とする金属イオン内包フラーレンを用いた高感度肺がん起因物質検出装置である。
請求項2に係る発明は、前記金属はアルカリ金属である請求項1記載の金属イオン内包フラーレンを用いた高感度肺がん起因物質検出装置である。
請求項3に係る発明は、前記アルカリ金属はLiである請求項1記載の金属イオン内包フラーレンを用いた高感度肺がん起因物質検出装置である。
請求項4に係る発明は、前記フラーレンはC60である請求項1ないし3のいずれか1項記載の金属イオン内包フラーレンを用いた高感度肺がん起因物質検出装置である。
請求項5に係る発明は、アルカリ金属はリチウムである請求項2記載のイオン内包フラーレンはLi@C60である請求項1又は2記載の金属イオン内包フラーレンを用いた高感度肺がん起因物質検出装置である。
請求項6に係る発明は、前記色素は、ポリ-3-ヘキシルチオフェン(P3HT)などのポリチオフェン、ポリp-フェニレン、ポリp-フェニレンビニレン、ポリアニリン、ポリピロール、PEDOT、P3OT、POPT、MDMO-PPV、MEH-PPVなどの高分子重合体、その誘導体のいずれかである請求項1ないし5のいずれか1項記載の金属イオン内包フラーレンを用いた高感度肺がん発見装置であるである。
請求項7に係る発明は、前記肺がん起因物質は、トルエンである請求項1ないし6のいずれか1項記載の高感度肺がん起因物質検出装置である。
請求項8に係る発明は、前記肺がん起因物質は、ジイソプロピルフェノールである請求項1ないし6のいずれか1項記載の高感度肺がん起因物質検出装置である。
【発明の効果】
【0006】
極めて簡単な構成にもかかわらず、例えば、癌患者の呼気に特有的に含まれる分子をpptレベルの濃度でも検出可能となる。
検出対象は、癌患者の呼気に特有的に含まれる分子に限らない、気体、固体、液体のいずれでも対象となる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の実施形態に係る金属イオン内包フラーレンを用いた高感度分子検出装置の概念斜視図である。
図2】電子の移動状況を説明するための概念図である。
図3】肺がん患者の呼気に多く含まれるガス基質を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
電子供与体と金属イオン内包フラーレンとの複合錯体は、ドナー・アクセプターの構成なしており、光照射により電化分離状態を生成し、酸化力を保有する。特許文献1においては、この酸化力を利用して光電変換装置を構成した。
【0009】
本発明者は、かかる特性を利用して他の装置への利用を検討したところ、エネルギーレベルを設計すれば分子の検出を行うことが可能となるとの知見を得た。
すなわち、図1に示すように、本体1内部に電子供与体2と金属イオン内包フラーレン3との超分子錯体を配置し、それを挟んで一対の電極5,6を配置する構成を基本構成としつつも(この構成は光電変換装置とほぼおなじである。)、肺がん起因物質のエネルギーレベルに合わせて電子供与体と金属イオン内包フラーレンとの複合錯体のエネルギーレベルを、例えば、図2に示す状態に設定しておき、所定波長の光を照射すれば、分子から離脱した電子をほぼ一対一で捕獲することができることを知見した。
図1に示す例では、電極は透明電極であり、SnOからなる。一方の電極は本例ではPtを使用している。
図2ではHOMO(最高被占起動:電子に占有されている最もエネルギーの高い分子軌道)とLUMO(最低空起動:電子に占有されていない最もエネルギーの低い分子軌道)は次のように設定されている。
(d)<(色素のHOMO)<(検出対象分子のHOMO)
(金属イオン内包フラーレンのLUMO)<(色素のLUMO)<(検出対象分子のLUMO)
(金属イオン内包フラーレンのLUMO>(色素のHOMO)
(色素のLUMO>(検出対象分子のHOMO)
【0010】
かかる設定においては、基底状態(図2上段)では、検出対象分子(肺がん起因物質)を導入しても電子の移動は生じない。
一方、励起状態、すなわち、図2下段に示すように、光を照射した状態では、色素においては、HOMOの電子は、励起されてLUMOの準位に移動し、HOMOに空席が生じる。すなわち、電荷分離状態が生成され、酸HOMO化力を保有する。
光励起状態において、検出対象分子がイオン化すれば、分離した電子は、色素の空席に移動する。一方、色素において励起された電子は金属イオン内包フラーレンのLUMOに移動し、電流が流れる。
仮に、呼気500cc中に1pptだけ検出対象分子が含まれているとする。500ccの呼気に含まれる分子の数は、
5L/25.36L×6.02×1023≒1.19×1022個である。
1pptだけ検出対象分子が含まれているとすると、その個数は、
1.19×1022×10-12≒1.19×1010個である。
1電子酸化で放出する電荷量は、
6×10-19C×1.19×1010≒1.9×10-9
この電荷量を1秒間で流せば、1.9nA=10pAである。
他の検出技術では、間接的に(例えば歪から)電気信号に変換しているのに対し、本発明においては、検出対象分子から電子を奪い、機械的量に変化することなく直接電気信号に変化するため、極めて感度の高い検出装置が達成される。
なお、色素としては、π電子系化合物、例えば、ポルフィリン類、金属キレート化合物、ポリアニリン類、芳香族多環化合物、ポリアセン系骨格構造を有する化合物などが例示できる。
【0011】
これらのエネルギーレベルは、分子軌道法により容易に求めることができる。なお、図3に示す分子のエネルギーレベルも容易に知ることができる。
分子軌道法は、各原子の原子軌道を組み合わせて1電子分子軌道を作り、それを最適化して近似性が最も高い1電子分子軌道を求める。ついで、エネルギーの低い1電子分子軌道から順に2個ずつ(スピンを逆にして)その分子が持つすべての電子を収納する。そのうえで、電子の存在確立の空間分布を計算し、電子が分子の周りにどのように広がっているかを明らかにする。このようにして分子の電子状態を知ることができる。ただ、分子の励起エネルギーとHOMO-LUMOギャップは必ずしも一致しない。HOMO、LUMOについては、分子軌道法により定性的に求めておき、より正確には、既知の検出対象分子
を用いて、図1に示す装置を構成し、電流が流れるかどうかを確認することにより、図2に示すエネルギーレベルの関係が達成されているかどうかの確認をとることでき、逆に、該色素のHOMO、LUMO状態を知ることができる。
なお、色素と金属イオン内包フラーレンとの錯体は適宜の溶媒とともに容器本体1内に保持すればよい。また、電極5側に、金属イオン内包フラーレンがくるようにすることが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0012】
本発明は、医療分野に最適に適用される。
【符号の説明】
【0013】
1 本体
2 色素
3 金属イオン内包フラーレン
5,6 電極
7 肺がん起因物質を含む呼気
8 導入口
図1
図2
図3