(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022133444
(43)【公開日】2022-09-13
(54)【発明の名称】癌を処置するための方法及び組成物
(51)【国際特許分類】
C12N 5/074 20100101AFI20220906BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220906BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20220906BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220906BHJP
A61K 35/545 20150101ALI20220906BHJP
A61K 35/28 20150101ALI20220906BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20220906BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20220906BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20220906BHJP
C12N 5/0735 20100101ALI20220906BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20220906BHJP
C12N 1/00 20060101ALI20220906BHJP
【FI】
C12N5/074
A61P35/00
A61P35/02
A61P43/00 121
A61K35/545
A61K35/28
A61K45/00
A61P43/00 111
A61P37/04
A61P37/02
C12N5/0735
C12N5/10
C12N1/00 B
【審査請求】有
【請求項の数】19
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022110028
(22)【出願日】2022-07-07
(62)【分割の表示】P 2018561512の分割
【原出願日】2017-05-24
(31)【優先権主張番号】16305607.0
(32)【優先日】2016-05-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】591100596
【氏名又は名称】アンスティチュ ナショナル ドゥ ラ サンテ エ ドゥ ラ ルシェルシュ メディカル
(71)【出願人】
【識別番号】520179305
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ パリ-サクレー
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE PARIS-SACLAY
(71)【出願人】
【識別番号】520053762
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・パリ・シテ
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE PARIS CITE
(71)【出願人】
【識別番号】591140123
【氏名又は名称】アシスタンス ピュブリク-オピトー ドゥ パリ
【氏名又は名称原語表記】ASSISTANCE PUBLIQUE - HOPITAUX DE PARIS
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】グリセリ,フランク
(72)【発明者】
【氏名】トゥラン,アリ
(72)【発明者】
【氏名】ブナスール-グリセリ,アンネリーズ
(57)【要約】 (修正有)
【課題】癌を処置するための、多能性細胞を含む組成物を製造する方法を提供する。
【解決手段】以下の工程を含む、不活性化された多能性細胞の集団を製造するための方法を提供する。
i)増殖工程の間に集団における抗原のMHC-I提示を誘導する薬剤の存在下で、細胞の多能性能力を維持するような条件の存在下で、多能性細胞を増殖させること
ii)細胞エンベロープの完全性を維持しながら、細胞を不活性化する不活性化剤に増殖細胞を曝露すること
iii)増殖した不活性化細胞を回収し、コンディショニングすること。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
i)ヒストンデアセチラーゼ阻害剤(HDACi)及びii)免疫原性要素を含むワクチン組成物の治療量を同時に、別々に、又は連続的に被験体に投与する工程を含む、被験体を処置する方法。
【請求項2】
ワクチン組成物の投与後に一定期間にわたりHDACiを投与する工程をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記ワクチン組成物中の免疫原性要素が、以下からなる群より選択される、請求項1又は2記載の方法:
a.目的の抗原
b.組成物の細胞が目的の抗原を発現する、細胞組成物からの抽出物
c.組成物の細胞が目的の抗原を発現する細胞組成物
d.目的の抗原によりインビトロで予備刺激された抗原提示細胞を含む細胞組成物
e.目的の抗原を提示する抗原提示細胞への曝露により目的の抗原に対してインビトロで予備刺激されたT細胞リンパ球。
【請求項4】
目的の抗原が癌細胞により発現される抗原、特に癌細胞により発現されるネオ抗原である、請求項1~3のいずれか一項記載の方法。
【請求項5】
処置が治療的処置である、請求項1~4のいずれか一項記載の方法。
【請求項6】
処置が予防的処置である、請求項1~4のいずれか一項記載の方法。
【請求項7】
以下の工程を含む細胞組成物を製造するための方法:
i)増殖工程の間に集団中の抗原のMHC-I提示を誘導する薬剤の存在において、細胞の多能性能力を維持するような条件の存在において多能性細胞を増殖させる
ii)細胞エンベロープの完全性を維持しながら、細胞を不活性化する不活性化剤に増殖細胞を曝露すること
iii)増殖した不活性化細胞を回収し、コンディショニングすること。
【請求項8】
多能性細胞の集団が、ヒト胚性幹細胞、誘導性多能性幹細胞(iPS)、同種、異種、自己、又は同系幹細胞からなる群より選択される、請求項7記載の方法。
【請求項9】
多能性細胞が、集団の細胞において遺伝子の変異誘発を誘導するように、増殖の間に変異原性薬剤に曝露される、請求項7又は8記載の方法。
【請求項10】
変異原性薬剤が、化学的変異原性薬剤及び放射線変異原性薬剤(X線、紫外線)からなる群より選択される、請求項9記載の方法。
【請求項11】
変異原性薬剤が、ENU、活性酸素種、脱アミノ化剤、多環式芳香族炭化水素、芳香族アミン、及びアジ化ナトリウムからなる群より選択される、請求項7~10のいずれか一項記載の方法。
【請求項12】
変異原性薬剤が、アルキル化剤、特にENUであり、変異原性薬剤への多能性細胞の曝露が、少なくとも15日間、より好ましくは少なくとも30日間、さらにより好ましくは少なくとも45日間、より好ましくは少なくとも60日間の期間にわたり実施される、請求項9記載の方法。
【請求項13】
抗原のMHC-I提示を誘導する薬剤が、ヒストンデアセチラーゼ阻害剤(HDACi)である、請求項7~12のいずれか一項記載の方法。
【請求項14】
ヒストンデアセチラーゼ阻害剤が、バルプロ酸(VPA)、ボリノスタット、パノビノスタット、ジビノスタット、ベリノスタット、エンチノスタット、モセチノスタット、プラシノスタット(Practinostat)、チダミド、キシノスタット、及びアベキシノスタットからなる群より選択される、請求項13記載の方法。
【請求項15】
組成物が、DNAメチルトランスフェラーゼ阻害剤、特に5-アザシチジンを含む、請求項7~14のいずれか一項記載の方法。
【請求項16】
細胞が、致死量の放射線への曝露により不活性化される、請求項7~15のいずれか一項記載の方法。
【請求項17】
回収が、適当な緩衝液中で細胞を洗浄し、再懸濁する工程を含む、請求項7~16のいずれか一項記載の方法。
【請求項18】
コンディショニングが、細胞を凍結又は凍結乾燥する工程を含む、請求項7~17のいずれか一項記載の方法。
【請求項19】
集団中の細胞が、増殖後に、TP53、P2RY8、CRLF2、CRTC3、BLM、ASXL1、IDH2、NTRK3、MALAT1、EXT1、NCOA2、IKF1、PIK3R1、EP300,AKT2、PPP2R1A、CDK12、BRCA1、ERB2、CDH1、TBX3、SMARCD1、HSP90AA1、EZH2、SUZ12、STAT5B、及びPOUF5F1からなる群より選択される少なくとも3つの遺伝子において少なくとも0.1%の変異率を提示する、多能性細胞を含む細胞の組成物。
【請求項20】
以下を含むワクチン組成物:
a.多能性細胞集団及び
b.ヒストンデアセチラーゼ阻害剤。
【請求項21】
多能性細胞が変異誘発された多能性細胞を含む、請求項20記載のワクチン組成物。
【請求項22】
癌に苦しむ被験体の処置のためのその使用のための、請求項20又は21記載のワクチン組成物。
【請求項23】
癌が幹細胞のシグネチャーを有する(胚性抗原を発現する)、請求項22記載のその使用のためのワクチン組成物。
【請求項24】
請求項20~23のいずれか一項記載のワクチン組成物及び免疫化のための説明を提供する情報パンフレットを含むキット。
【請求項25】
複合調製物としての、i)多能性細胞の集団及びii)MHC発現及び/又は免疫応答を活性化する化合物の治療量を同時に、別々に、又は連続的に被験体に投与する工程を含む、癌に苦しむ被験体を処置する方法。
【請求項26】
多能性細胞の集団が、ヒト胚性幹細胞、誘導性多能性幹細胞(iPS)、同種、異種、自己、又は同系幹細胞からなる群より選択される、請求項25記載の方法。
【請求項27】
癌が、胚性抗原を発現する癌からなる群より選択される、請求項25又は26記載の方法。
【請求項28】
癌が、膀胱癌、乳癌、子宮頸癌、胆管癌、結腸直腸癌、胃肉腫、神経膠腫、肺癌、リンパ腫、急性及び慢性リンパ性ならびに骨髄性白血病、黒色腫、多発性骨髄腫、骨肉腫、卵巣癌、膵臓癌、前立腺癌、胃癌、腎臓癌、頭頸部腫瘍、及び固形腫瘍からなる群より選択される、請求項25~27のいずれか一項記載の方法。
【請求項29】
多能性細胞が、MHC発現及び/又は免疫応答を刺激する化合物を過剰発現するように遺伝的に改変されている、請求項25~28のいずれか一項記載の方法。
【請求項30】
MHC発現及び/又は免疫応答を刺激する化合物が、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、インターフェロンガンマ(IFN-ガンマ)、インターロイキン2(IL-2)、及びそれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項29記載の方法。
【請求項31】
多能性細胞が、変異原性薬剤を用いて処理されている、請求項25~30のいずれか一項記載の方法。
【請求項32】
患者への免疫チェックポイント阻害剤の投与をさらに含む、請求項24~31のいずれか一項記載の方法。
【請求項33】
患者に化学療法を適用することをさらに含む、請求項25~31のいずれか一項記載の方法。
【請求項34】
患者に放射線療法を適用することをさらに含む、請求項25~31のいずれか一項記載の方法。
【請求項35】
患者に化学療法及び放射線療法の両方を適用することをさらに含む、請求項25~31のいずれか一項記載の方法。
【請求項36】
多能性細胞の投与が皮下注射により実施される、請求項25~35のいずれか一項記載の方法。
【請求項37】
多能性細胞の集団の投与後、一定期間にわたりヒストンデアセチラーゼ阻害剤を投与する工程も含む、請求項25~36のいずれか一項記載の方法。
【請求項38】
期間が3日間と3週間の間を含む、請求項37記載の方法。
【請求項39】
MHC発現及び/又は免疫応答を活性化する化合物がヒストンデアセチラーゼ阻害剤である、請求項25~38のいずれか一項記載の方法。
【請求項40】
MHC発現の活性化因子がバルプロ酸である、請求項25~39のいずれか一項記載の方法。
【請求項41】
MHC発現の活性化因子がDNAメチルトランスフェラーゼ阻害剤である、請求項25~38のいずれか一項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腫瘍学の分野にあり、より具体的には、本発明は、抗癌ワクチン併用治療に関する。
【0002】
特に、本発明は、複数のネオ抗原を提示する多能性細胞を含む組成物を製造する方法及び癌細胞ワクチンを調製する際に有用なそれらに関する。
【0003】
発明の背景:
【0004】
癌の大部分は、発生及び組織維持の間に要求される正常幹細胞におけるDNA複製の間に生じるランダム変異に起因する。Cancer Stem Cells(CSC)は異質であり、動的な状態においてエピジェネティックに可塑的である。CSCから生じる腫瘍細胞は、腫瘍進化のクローン波に導く、癌遺伝子、腫瘍抑制遺伝子、及びシグナル伝達経路に存在する変異の同時蓄積により駆動される。「クローン進化モデル」において、変異の型は癌が発生するにつれて変動するため、個々の癌細胞は次第に形質転換され、侵襲的になる。初期の腫瘍発生において獲得された変異は、進行した疾患において維持される。
【0005】
経時的に変化しながら、これらの変異は、漸進的な免疫編集及び消耗と関連して、オリゴクローン腫瘍増殖(expansion)及び癌細胞耐性に導く。癌の変異シグネチャーは、ゲノム不安定性と高度に関連付けられる。変異によって、免疫原性エピトープを伴う新規の非自己ネオ抗原が生じる。しかし、腫瘍微小環境は一般的に免疫抑制的であるため、宿主免疫系は、一般的に、これらの細胞を適切に破壊し、これらの癌と戦うことができない。免疫チェックポイント阻害剤を用いたT細胞応答により報告された臨床的利益は、腫瘍の変異率及び変異ランドスケープとよく相関している。
【0006】
癌幹細胞(CSC)は、それらは従来の処置にしばしば耐性であるため、腫瘍の持続性及び再発性に寄与する自己複製性癌細胞の小集団を表す。造血性悪性腫瘍において最初に発見されたCSCは、乳癌(beast)、神経膠芽腫、前立腺癌、結腸癌、頭頸部扁平上皮癌、卵巣癌、膀胱癌、肺癌、膵臓癌を含む種々の起源からの固形腫瘍において記載されている。CSCは、マウスにおいて異種移植腫瘍を形成する特徴及び腫瘍開始能力を有する。また、それらは放射線耐性及び化学耐性であり、患者における治療応答の欠如に寄与する。CSCの持続性は、それにより、治療の完了後に腫瘍の再発及び/又は転移を起こす。いくつかの論文には、腫瘍の病因と胚性幹細胞(ESC)状態の間での分子的な関連が示されている。CSCは、ヒト胚性幹細胞(hESC)及びヒト誘導性多能性幹細胞(hiPSC)でも発現される多数の胚性抗原を発現する。
【0007】
主にOCT4、NANOG、及びSOX2転写因子は主要調節因子であり、エピジェネティック機構を使用して体細胞からCSC又はiPSCのいずれかへの移行を駆動するための高度に統合されたネットワーク(c-myc及びポリコームネットワークに関連する)の一部として一緒に働き、ヒストン修飾及びDNAメチル化を通じてクロマチンを再構築する。これらの因子は、正常な成体幹細胞中には存在しない。ヒト多能性幹細胞(ESC/IPSC)の同一性を定義する胚性幹細胞様遺伝子発現及びPolycomb調節遺伝子の過小発現は、癌の起源を問わず(乳房、膵臓、膀胱、肺、前立腺、髄芽腫・・・)、化学放射線療法後の不良な臨床転帰及び遠隔再発を伴う低分化ヒト腫瘍において関連付けられる。「幹細胞らしさ」のプロファイルを伴う低分化腫瘍は、上皮間葉性「EMT」マーカーを伴う癌細胞での間葉形質、低レベルのMHC-I発現、前腫瘍性炎症性白血球、間質細胞、及びマクロファージを伴う免疫抑制性腫瘍微小環境に関連する。EMTを受けている腫瘍細胞は、幹細胞らしさの特性を獲得し、生物全体を通して非常に早期に遊走し、長期間にわたる休眠期に持続する能力を伴うCSCになる。CSCは、腫瘍コンパートメントを播種し補充するためのリザーバーとして作用する。それらはまた、自己再生により増殖し、異なる組織に伝播し、転移を生成する。これらのCSCは、多能性胚性遺伝子シグネチャーを共有し、抗癌剤及び放射線療法に耐性である。それらはまた、上に示す理由(免疫抑制性微小環境)のために、免疫抗腫瘍防御を回避する。
【0008】
胎児組織を使用してマウスを免疫することができ、皮膚、肝臓、及び胃腸管の癌を含む、移植腫瘍の拒絶を誘導することができることが報告されている。この応答は、それらの腫瘍細胞が多数の癌胚性抗原を発現するとの事実により説明されてきた。
【0009】
今日まで、いくつかのヒト癌ワクチン治験が、胚性抗原、例えば癌胚性抗原(CEA)、アルファフェトプロテイン、又は癌/精巣抗原などを標的とするために設定されてきた。残念なことに、1つの抗原単独を標的とすることは、一価癌ワクチンの一般的な非効率性に導く回避変異体の迅速な出現のため、腫瘍拒絶を媒介する強い抗腫瘍性免疫応答を生成するために十分に効率的ではないことが示された。
【0010】
再生医療における幹細胞の潜在能における最近の関心によって、十分に定義されたESC株ならびに表現型的に及び機能的にESCに類似しているiPSCが広く利用可能になっている。
【0011】
癌関連のエピジェネティック異常は、エピジェネティック機構(DNAメチル化、ヒストン修飾、非コードRNA、具体的にはマイクロRNA発現)のすべての構成要素を含む、癌幹細胞の特徴的な形質である。
【0012】
腫瘍阻害活性を伴ういくつかのエピジェネティックな修飾薬が、腫瘍学において現在臨床的に使用されており、低メチル化剤(例えばアザシチジン又はデシタビンなど)及びヒストンデアセチラーゼ阻害剤(例えばボリノスタット又はロミデプシンなど)を含む。
【0013】
そのような薬物を使用して、癌細胞を再プログラムすることが可能であった。また、エピジェネティック薬物による腫瘍微小環境のエピジェネティックな再プログラミングは、癌発生における癌‐間質相互作用の明らかな証拠があるため、癌治療の魅力的な操作アプローチである。
【0014】
このように、幹細胞シグネチャーを有する癌を防止及び/又は処置するための新しいアプローチについての必要性があり続けている。これらの癌は、ESC/IPSCと共通する一組の胚性遺伝子(即ち、ネオ抗原とも呼ばれる)を発現し、特に膵臓癌、乳癌、卵巣癌、結腸癌、肺癌、腎臓癌、前立腺癌、髄芽腫、胆管癌、肝臓癌、慢性及び急性白血病ならびに骨髄腫を含む。この分類の癌は、癌患者の生存を改善させる及び生活の質を高めるためにCSCを特異的に標的とする治療を開発する必要がある間葉様シグネチャーに最も関連付けられる。特に、そのような戦略は、免疫抗CSC応答と組み合わされた許容性の抗腫瘍微小環境の回復に導くはずである(腫瘍微小環境は一般的に免疫抑制性であり、このように免疫応答性に作り変えるはずである)。この及び他の必要性は、現在開示されている主題により全体的又は部分的に対処される。
【0015】
発明の概要:
【0016】
本発明は、HDACi(ヒストンデアセチラーゼ阻害剤)を、目的の前記抗原を含む又は目的の前記抗原を標的とする免疫原性組成物をHDACiとの組み合わせにおいて患者に投与する(場合により、HDACiでのさらなる処置が続く)場合、目的の抗原に対して、患者において免疫応答を刺激するために使用することができるとの本発明者らによる決定に基づいている。免疫原性組成物は、目的の抗原に対する免疫応答の開始を可能にすることを意図する。アジュバントとしてのHDACiの使用は、癌、特に幹細胞シグネチャーを有する癌のための処置のために特に興味深い。本発明は、特に特許請求の範囲により定義する。
【0017】
発明の詳細な説明
【0018】
本発明者らは、多能性細胞の集団と一緒でのHDACiの使用によって、腫瘍細胞に対する免疫系の相乗効果及び効率的な応答に導かれることが示された。
【0019】
実際に、本発明者らは、多能性幹細胞(例えばhESC又はhiPSCなど)が、腫瘍細胞により共有される種々の胚性抗原に対する免疫応答を生成するためのワクチンとして使用することができうるとの仮説をさらに立てた。本発明者らは、MHC Iを誘導することができる化合物(例えばバルプロ酸など)との組み合わせにおいてhESC又はhiPSCを用いたマウスのワクチン接種によって、副作用及び自己免疫疾患の徴候を伴わず、乳癌に対する効率的な免疫及び抗腫瘍応答を誘導することができることを見出した。また、本発明者らは、この併用レジメンが肺転移の有意な阻害に関連付けられることを見出した。驚くべきことに、本発明者らは、これらの応答が、ESC又はiPSC単独の使用と比較して、治療レジメンにおけるHDACi、特にバルプロ酸の添加により大きく改善されることを立証した。
【0020】
免疫応答を改善するためのHDACi
【0021】
本発明は、HDACiをワクチン組成物と一緒に患者に投与する工程を含む、ワクチン組成物の患者における有効性を増加させるための方法に関する。特に、HDACiをワクチン組成物に加えることができる。
【0022】
有効性の増加は、ワクチン組成物の免疫原性の増加、ワクチン組成物に対する免疫応答の増加、又はワクチン組成物により生成される免疫応答の増加として理解することができる。これは、HDACiの非存在において生成された免疫応答と比較することができる。
【0023】
ワクチン組成物は、患者が1つ又は複数の目的の抗原に対する免疫応答を発生させることを意図した免疫原性要素を含む。目的の抗原は、免疫応答が望まれる任意の抗原であり、自己(例えば癌細胞からの抗原など)からの任意のペプチド、タンパク質、又は外因性の、例えば細菌、ウイルス、又は寄生虫のタンパク質などいずれか、他の種類の抗原、例えば核酸、糖、リポ多糖類などを含む。
【0024】
本発明はこのように、アジュバントとしての、特にワクチン組成物に対する免疫応答を増加させるためのHDACiの使用、ならびにアジュバントとしての、又はワクチン組成物に対する免疫応答を増加させるためのその使用のためのHDACiに関する。本発明はまた、目的の抗原に対する免疫応答を患者に発生させることを意図した、目的の1つ又は複数の抗原を含むワクチン組成物の製造のためのHDACiの使用に関する。
【0025】
本明細書に開示する方法及び使用は、ワクチン組成物が癌ワクチン組成物である場合、即ち、癌細胞により発現される目的の抗原を含む場合に特に興味深い。特に、この方法及び使用は、固形腫瘍癌のために非常に適合している。実際に、これらの型の癌において、免疫微小環境は特に免疫抑制性である(即ち、サイトカイン及び分子シグナルの発現、ならびにそのようなCD4細胞の動員があり、癌抗原に対する免疫細胞の効力が減少する)。この理論により縛られることなく、HDACiの存在によって、恐らくは、腫瘍の中、近く、又は周囲に存在する細胞中で免疫抑制効果を有する遺伝子の発現を改変することにより、微小環境が改変され、免疫細胞が増強されて癌細胞と戦うことが可能になるが仮定される。
【0026】
本明細書に記載する方法はまた、ワクチン組成物の投与後数日間にわたりHDACiを投与する工程を含みうる。HDACiのこの連続投与は、免疫細胞が腫瘍を「引き継ぐ」ために十分長い時間にわたり微小環境改変を維持するために有用でありうる。一般的に、HDACiのこのさらなる連続投与は、ワクチン投与後少なくとも3日間、及び1ヶ月間までにわたる、適当な用量のHDACiの毎日の投与からなる。それは、しかし、さらなるHDACi投与が少なくとも1週間、より好ましくは少なくとも約2週間にわたり実施される場合には好ましい。
【0027】
ワクチン組成物は、患者に1つ又は複数の目的の抗原に対する免疫応答を発生させるための免疫原性要素(化合物)を含む。
【0028】
この免疫原性要素は抗原(又は複数の抗原)でありうる。この抗原は、上で見たように、標的細胞(宿主細胞、ならびに細菌細胞、寄生虫病原体、又はウイルス粒子を含むことが意図される)に依存して、任意の形態でありうる。それはまた、当技術分野において公知の任意のアジュバント(免疫刺激剤)、例えばミョウバン又はフロイントの完全もしくは不完全アジュバントなどを用いて処方することもできる。
【0029】
別の実施形態において、免疫原性化合物は細胞組成物からの抽出物であり、前記組成物の細胞は目的の抗原を発現する。細胞抽出物は、不溶性物質(例えば膜断片、小胞、及び核など)を除去するために遠心分離された溶解細胞であり、このように、大半が細胞質ゾルからなる。別の実施形態において、抽出物は、特定の技術を使用して作製し、特定の成分を枯渇又は濃縮していてもよい(例えば、超音波処理を使用して、大きな膜断片を抽出物中に残存する小さな粒子に破壊するか、最小の不溶性成分を除去するための高速遠心分離)。細胞抽出物は、任意の化学的又は機械的作用(例えば圧力、蒸留、蒸発など)により得られる。
【0030】
別の実施形態において、免疫原性要素は細胞組成物であり、前記組成物の細胞は目的の抗原を発現する。この実施形態では、細胞の膜を(抗原の提示がMHC-1経路を通じて行われるように)保存する場合に好ましい。以下に記載するように、細胞を不活性化する場合に好ましい。
【0031】
これらの実施形態において、細胞は、多能性細胞(以下に記載する)、癌細胞、ウイルス感染細胞、又は細菌細胞でありうる。
【0032】
別の実施形態において、免疫原性要素は、目的の抗原によりインビトロで予備刺激された抗原提示細胞(APC)を含む細胞組成物である。この組成物は、抗原及び抗原提示細胞(APC)からなる抗原提示細胞ワクチンである。抗原提示細胞は、それらの表面に主要組織適合複合体(MHC)と複合体化した抗原を提示する細胞である。樹状細胞(DC)を引用することができ、それは本発明の文脈において好ましい。なぜなら、それらは、ヘルパーT細胞及び細胞傷害性T細胞の両方、マクロファージ、又はB細胞に抗原を提示することができるためである。これらのAPCは、天然細胞又は操作された細胞でありうる。特に、Eggermontら(Trends in Biotechnology, 2014, 32, 9, 456-465)を引用することができ、それは人工抗原提示細胞の開発における進歩を概説している。APCを使用して抗癌ワクチンを開発する方法が、当技術分野において広く提案されており、当業者により公知である。
【0033】
別の実施形態において、免疫原性要素は、実際には抗原を含まないが、例えば、目的の抗原を提示する抗原提示細胞への曝露により目的の抗原に対してインビトロで予備刺激されたT細胞リンパ球の組成物からなる。結果的に、この組成物は、目的の抗原に対してインビボで免疫応答を開始することができる。この戦略は「T細胞の養子移入」と呼ぶことができ、そのような養子移入されたT細胞がインビボで長期間にわたり存続し、リンパ系区画と血管区画の間を容易に遊走することが公知である(Bear et al, J Biomed Biotechnol. 2011; 2011:417403; Melief et al, J Clin Invest. 2015; 125(9):3401-3412)。
【0034】
全てのこれらの実施形態では、HDACiは、免疫原性要素を含むワクチン組成物との組み合わせにおいて投与される。前記投与は、免疫原性要素が多能性細胞の組成物である実施形態について以下に開示するように、同時、別々、又は連続的でありうる。多能性細胞の組成物について開示する以下の全ての記載が、上に開示した任意の免疫原性要素を含むワクチンに等しく適用可能であることに留意すること。
【0035】
本明細書では、多能性細胞の組成物と一緒にHDAC阻害剤(特にバルプロ酸)を強調する。なぜなら、そのような多能性細胞は、上で想起するように、非常に侵襲的な癌でも見出されるネオ抗原を発現するからである。結果的に、免疫原性要素が何であれ、それは、目的の抗原が、上で及びまた下でも記載するように、癌細胞により発現されるネオ抗原である場合に好ましい。
【0036】
特に、免疫原性要素は細胞組成物であり、細胞組成物は、下でさらに詳細に開示するように、多能性細胞の増殖及び不活性化により得られている。
【0037】
複合調製物を用いた、癌に苦しむ被験体を処置する方法
【0038】
本発明は、複合調製物としての、i)多能性細胞の集団及びii)MHC発現及び/又は免疫応答を活性化する群より選択される化合物の治療量を同時に、別々に、又は連続的に前記被験体に投与する工程を含む、癌に苦しむ被験体を処置する方法に関する。
【0039】
好ましい環境において、細胞を、MHC I経路を通じてネオ抗原を提示するように培養し、特に集団の一部の細胞が変異を提示した。細胞との組み合わせにおいて使用する化合物はまた、細胞の多分化能を保存しうる。細胞の投与に続いて、MHC発現及び/又は免疫応答を活性化する化合物(好ましくは、組み合わせにおいて最初に投与されたものと同じであるが、潜在的に別のものである)の投与によって免疫応答を増強することが大いに好ましい。
【0040】
本明細書中で使用するように、用語「処置する」又は「処置」は、癌(例えば遺伝性家族性癌症候群など)を患う罹患リスクが高い、又は癌を患っていることが疑われる被験体、ならびに病気である、又は癌もしくは医学的状態に苦しんでいると診断された被験体の予防的又は防止的処置の両方ならびに治癒又は疾患改変処置を指し、臨床的再発の抑制を含む。処置は、癌又は再発性癌の1つ又は複数の症状を防止、治癒、発症の遅延、重症度の低下、又は改善するために、あるいは、そのような処置の非存在において予想されるものを超えて被験体の生存を延長させるために、癌を有する又は最終的に癌を獲得しうる被験体に施される。「治療レジメン」により、病気の処置のパターン、例えば、治療の間に使用される投薬のパターンを意味する。治療レジメンは導入レジメン及び維持レジメンを含みうる。語句「導入レジメン」又は「誘導期間」は、疾患の初期処置のために使用される治療レジメン(又は治療レジメンの一部)を指す。導入レジメンの一般的な目標は、処置レジメンの初期期間の間に高レベルの薬物を被験体に提供することである。導入レジメンでは、「負荷レジメン」を(一部又は全部で)用いてもよく、それは、医師が維持レジメンの間に用いうるよりも多い量の薬物を投与すること、医師が維持レジメンの間に薬物を投与しうるよりも頻繁に薬物を投与すること、又はその両方を含んでもよい。語句「維持レジメン」又は「維持期間」は、病気の処置の間での被験体の維持のために、例えば被験体を長期間(月又は年)にわたり寛解に保つために使用される治療レジメン(又は治療レジメンの一部)を指す。維持レジメンでは、継続治療(例、一定間隔(例、毎週、毎月、毎年など)で薬物を投与する)又は間欠的治療(例、中断された処置、間欠的処置、再発時の処置、又は特定の所定の基準(例、疼痛、疾患徴候など)の達成時での処置など)を用いてもよい。
【0041】
本明細書中で使用するように、用語「同時に投与」は、同じ経路による、同時の、又は実質的に同時の2つの活性成分の投与を指す。用語「別々の投与」は、異なる経路による、同時の、又は実質的に同時の2つの活性成分の投与を指す。用語「連続的な投与」は、異なる時間での2つの活性成分の投与を指し、投与経路は同一である又は異なっている。
【0042】
本明細書中で使用するように、用語「被験体」は、任意の哺乳動物、例えばげっ歯類、ネコ、イヌ、ならびに非ヒト及びヒト霊長類などを指す。特に、本発明において、被験体は、多能性胚様幹細胞抗原の発現を有する癌に罹患している、又は罹患に感受性であるヒトである。
【0043】
本明細書中で使用するように、用語「集団」は細胞の集団を指し、細胞の総数の大部分(例、少なくとも約20%、好ましくは少なくとも約50%、より好ましくは少なくとも約70%、及びさらにより好ましくは少なくとも約 80%、及びさらにより優先的には少なくとも約90%)が目的の細胞の特定の特徴を有する(例、iPSCについての多能性マーカー、少なくとも96のマーカーを含む国際幹細胞イニシアチブによって定義されるESC(Adewumi et al, Nat Biotech 2007)、及び遺伝子発現ベースのアッセイ(PluriTest)(FJ Muller, Nature Methods 2011))。
【0044】
特に、用語「多能性細胞の集団」は、細胞の特徴がiPSC又はESCについての多能性マーカーの発現である細胞の集団を指す。これらの細胞は、好ましくは、ヒト胚性幹細胞(hESC)、誘導ヒト多能性幹細胞(hiPSC)、同種、異種、又は同系/自己幹細胞からなる群より選択される。
【0045】
本明細書中で使用するように、用語「多能性」は、適切な条件下で、特定の細胞系列の特徴を伴う、3つの胚葉(内胚葉、中胚葉、及び外胚葉)から由来する全ての細胞型に分化させることができる、子孫を生じる能力を伴う細胞を指す。用語「多能性」は、成体の体細胞(ASC)の全ての供給源及び細胞起源から再プログラミングされた正常な胚性幹細胞(ESC)、又は非常に小さな胚様幹細胞(VSEL)もしくは操作された誘導性多能性幹細胞(iPSC)を含む。
【0046】
多能性幹細胞は、出生前、出生後、又は成体の生物の組織に寄与する。標準的な当技術分野で受け入れられた試験を使用し、細胞集団の多能性、例えば8~12週齢のSCIDマウスにおいて奇形腫を形成する能力、及び種々の多能性幹細胞の特徴などを確立する。より具体的には、ヒト多能性幹細胞は、以下の非限定的なリストからのマーカーの少なくとも一部(少なくとも3つ、より一般的には少なくとも4つ又は5つ)、及び場合により全てを発現する:SSEA-3、SSEA-4、TRA-1-60、TRA-1-81、TRA-2-49/6E、アルカリフォスファターゼ(ALP)、Sox2、E-カドヘリン、UTF-I、Oct4、Lin28、Rex1、Nanog、TERC、TERT。
【0047】
多能性幹細胞は、伝統的には、胚発生の胚盤胞段階から生じ、恐らくは胎盤を除く全ての型の胎児細胞及び成人細胞に発生する能力を有する。胚性多能性幹細胞(ESC)は一般的に、50~150細胞(4~5日齢の受精後胚盤胞)から単離することができる。ESCは無限のエクスビボ増殖が可能であるが、それらは胚発生の間にインビボで一過性にだけ存在する。種々の動物(ヒトを含む)ESC株(例えばNIH承認細胞株WAO9ヒトESCなど)をWiCell Research Institute(ウィスコンシン州マディソン)から商業的に得ることができる。ヒトESC株(例えばCecol-14など)は、例えばCecolfes(コロンビア、ボゴタ)から商業的に得ることができる。もちろん、所望であれば、他の胚性幹細胞株を使用してもよい。
【0048】
本明細書中で使用するように、用語「胚性幹細胞」はヒトの多能性細胞(即ち、hESC)を指す。hESCは前胚盤胞期胚より単離される。別の実施形態において、hES細胞は、少なくとも部分的に分化した細胞(例、多分化能性細胞)の脱分化により調製し、実際には全能性である。hESCを調製する方法は周知であり、例えば米国特許第5,843,780号、第6,200,806号、第7,029,913号、第5,453,357号、第5,690,926号、第6,642,048号、第6,800,480号、第5,166,065号、第6,090,622号、第6,562,619号、第6,921,632号、及び第5,914,268号、米国公開出願第2005/0176707号、国際出願番号WO2001085917において教示されている。本発明の文脈において、ヒト胚性幹細胞(hESC)は、Chung et al 2008に記載されている技術に従って、胚破壊を伴わずに生成する。
【0049】
本明細書中で使用するように、用語「誘導性多能性幹細胞」は、当技術分野において公知であり、Yamanakaにより最初に開示された方法を使用し、再プログラム手順により非多能性細胞から人工的に由来する多能性幹細胞を指す(特にWO2012/060473、PCT/JP2006/324881、PCT/JP02/05350、US 9,499,797、US 9,637,732、US 8,158,766、US 8,129,187、US 8,058,065、US 8,278,104)。要約すると、体細胞は、定義された因子(例えばOct4、Sox2、Klf4及びc-My、又はOct4、Sox2、Lin28及びNanogなど)の異所的発現により誘導性多能性幹細胞(iPSC)に再プログラミングされる。特定の実施形態において、誘導性多能性幹細胞は、哺乳動物、特に(これらに限定しないが)、げっ歯類、ブタ、ネコ、イヌ、及び非ヒト霊長類、ならびにヒトから由来する。
【0050】
iPSCは、種々の起源の体細胞(線維芽細胞、血液細胞、ケラチノサイト・・・)から、小さな化学的化合物を用いた又は用いない可変的な技術(例えば組込みレンチウイルス/レトロウイルス及び非組込みベクター、例えばセンダイウイルス、エピソームベクター、合成mRNA、アデノウイルス、rAAV、組換えタンパク質・・・)を使用することにより成功裏に生成されてきた。
【0051】
小分子を使用し、エピジェネティック修飾因子として作用する(即ち、一部の遺伝子の発現を改変する)ことにより、マウス及びヒトiPSCの誘導及び質を増強することができる。例証として、BIX01294(BIX、G9aヒストンメチルトランスフェラーゼ阻害剤)、酪酸ナトリウム(NaB、ヒストンデアセチラーゼHDAC阻害剤)、又はS-アデノ-シルホモシステイン(SAH、DNA脱メチル化剤)、5-アザシチジン(5-AZA、DNAメチルトランスフェラーゼ阻害剤)、バルプロ酸(VPA、別のヒストンデアセチラーゼ阻害剤)によっても、正常なiPSCの再プログラミング及び質が改善される。
【0052】
完全に再プログラミングされた真正iPSCは、自己複製能を伴う胚性幹細胞と同様に多能性遺伝子を発現し、無制限の幹細胞(又は幹細胞様)供給源を表す。
【0053】
ESC及びIPSCは、拡大可能な幹細胞供給源を可能にする複数の及び無制限の継代の間に反復的に増幅することができる。多能性能力が、多能性遺伝子の高レベル発現を保存することにより、許容培養条件において積極的に維持される。これらの方法は当技術分野において公知である。
【0054】
特定の培養条件及び方法によって安定なゲノムを複製することが可能になるが、一部のエクソーム変異及びエピゲノム改変がそれにもかかわらず記載されている(Gore A and al. Nature 2011)。
【0055】
本明細書中で使用するように、用語「体細胞」は、生殖系列細胞(精子及び卵)を除く身体の任意の細胞を指す。
【0056】
本明細書中で使用するように、用語「同種細胞」は、同じ種からの、しかし、遺伝的に異なる細胞を指す。
【0057】
本明細書中で使用するように、用語「同系又は自己細胞」は、同じ種及び同じ遺伝的背景からの細胞を指す。
【0058】
本明細書中で使用するように、用語「異種細胞」は、異なる種からの遺伝的に異なる細胞を指す。
【0059】
特定の実施形態において、幹細胞は、哺乳動物(限定しないが、げっ歯類、ブタ、ネコ、イヌ、及び霊長類(ヒトを含む))から由来しうる。
【0060】
多分化能細胞の集団を製造するための方法:
【0061】
第1の態様において、本発明は細胞組成物を製造するための方法であって、以下の工程を含む:
i)細胞の多能性能力を維持するような条件の存在において、増殖工程の間に前記集団中の抗原のMHC-I提示を誘導する薬剤の存在において多能性細胞を増殖させる;
ii)増殖した細胞を、細胞を不活性化する不活性化剤に曝露する;
iii)増殖した不活性化細胞を回収し、コンディショニングする。
特定の実施形態において、細胞エンベロープの完全性は工程ii)において維持される。
別の実施形態において、細胞を不活性化し、細胞由来産物、例えば細胞抽出物などを得る。
上記の方法に従って製造された細胞組成物は、本明細書中に開示する方法に従って、癌処置のために使用することができる。
【0062】
MHC I抗原提示のための薬剤
【0063】
多能性細胞を、MHC I経路を通じた抗原の提示を改善する薬剤の存在において増殖させる。そのような改善された発現は、薬剤の存在又は非存在において細胞の表面でのMHC I分子の数を比較することによりチェックすることができる。
そのような薬剤は当技術分野において公知であり、特にヒストンデアセチラーゼ阻害剤(HDACi)を引用することができる。この活性を有する多くの産物が当技術分野において公知であり、これらのHDACiの中でも、特にバルプロエート(VPA又はバルプロ酸、CAS番号99-66-1)を引用することができる。使用できる(VPAと同じ作用機序である)他のHDACiは、特に、ボリノスタット、ロミデプシン・キダミド、パノビノスタット、ベリノスタット、パノビノスタット、モセチノスタット、アベキシノスタット、エンチノスタット、SB939、レスミノスタット、ジビノスタット、又はキジノスタットである。
これらの薬剤は、多能性細胞の増殖の間に細胞培養(増殖)培地中に存在する。
【0064】
細胞の多分化能を維持する。
【0065】
細胞の増殖は、細胞の多能性能力を維持するような条件(培地、温度)において実施する。これらの培養条件は当技術分野において公知である。細胞の多能性能力の維持によって、そのような細胞が全ての胚性抗原を発現する(それ故に存在する)ことが確実になり、それにより、MHC I経路を通じてそれらの表面にそのような抗原を提示する細胞の能力が増加する。
胚性抗原が多能性細胞表面上により多く提示されるほど、これらの抗原の少なくとも1つが癌細胞の表面にも存在する可能性が増加し、それは、次に、本発明のワクチン組成物により予備刺激されうる免疫系により認識及び標的化される。
それ故に、本明細書中に開示する方法により得られた本発明に従った組成物の細胞の多能性の維持によって、多種多様な胚性抗原の提示に、このように、本明細書中に開示する処置方法における本発明のワクチン組成物の偏在性の効力に導かれる。
多能性を維持するような条件における細胞の増殖は、当技術分野において公知である。それは、特に、現在までに記載されているすべてのiPSC増殖プロトコルにおいて記載されている(Shi Y and al, Nat Rev Drug Discovery 2017; Chen KG and al Cell Stem Cell. 2014)。以下の条件を使用する場合が好ましい:
-場合によりVPA及び/又は変異原薬剤(例えばENUなど、以下を参照のこと)を補充した、E8培地又はすべての臨床グレードのES/iPSC培地の使用。
-低酸素状態を伴う又は伴わない37℃の温度。
-VPA(0.1mM~5mM)及び/又はENU(0.1μg/ml~100μg/ml)及び/又はp53阻害剤及び/又は細胞生存を増強する化合物(例えばY-27632 Rock阻害剤など)の添加を伴う同じ培地を使用した毎日の培地の交換。
細胞を一般的に8週間にわたり培養し、90%の最適密度を、酵素的剥離(コラゲナーゼ、トリプシン)を使用した週1回の定期的な継代により維持する。
【0066】
細胞を不活性化する。
【0067】
好ましい実施形態において、本明細書中に開示する処置の方法において使用する多能性細胞を不活性化させる。用語「不活性化された」及びその文法的な変形は、生存しているが増殖不能にされた(即ち、有糸分裂不活性化された)細胞(例、多能性細胞)を指すために本明細書中で使用する。当業者は、限定しないが、化学薬剤への曝露、照射及び/又は凍結乾燥を含む、当技術分野において公知の技術を使用してもよい。多能性細胞を不活性化することができ、被験体への投与時に多能性細胞が分裂不能であり、このように、被験体において奇形腫を形成することができないようにする。複数の細胞の状況において、全ての細胞が増殖不能である必要はないことが理解される。このように、本明細書中で使用するように、語句「被験体における奇形腫形成を防止するのに十分な程度まで不活性化された」は、全体としての集団中での不活性化の程度を指し、被験体への投与後、奇形種が形成しないようにし、なぜなら、曝露された多能性幹細胞は、インビトロ培養により確認されるように、もはや分裂しなかったためである。複数の細胞における1つ又は複数の細胞が実際に被験体において増殖可能であったとしても、宿主の免疫系によって、奇形腫が形成される前にそれらの細胞が破壊されると仮定する。そのような増殖及び奇形腫形成の不能は、機能的及び非機能的免疫系を有するマウスにおいて試験することにより確認してもよい。
【0068】
一部の実施形態において、「不活性化」細胞は殺した細胞であり、一部の実施形態において、不活性化細胞は、全細胞溶解物、多能性幹細胞由来のエキソソーム、濃縮された癌幹ネオ抗原、全精製癌幹ネオ抗原、DNA、RNA及びタンパク質抽出物、凍結乾燥された全細胞懸濁液、細胞溶解物の画分(例えば膜画分、細胞質画分、又はそれらの組み合わせなど)である。不活性化された多能性幹細胞は、マウスのワクチン接種が、バルプロ酸又は別のHDACiとの組み合わせにおいてhESC又はhiPSCを用いて行われる場合、免疫応答を刺激することが依然として可能である。このワクチン接種は、副作用及び自己免疫疾患の証拠を伴わず、4T1乳癌に対する効率的な免疫及び抗腫瘍応答を誘導することができる。
【0069】
典型的には、幹細胞を不活性化するために、それらは致死量の放射線(例、5~100Gyの単一画分)に曝露することができる。細胞に送達される正確な放射線量及び線量の長さは、細胞を生存不能にする限り重要ではない。
【0070】
細胞の回収及びコンディショニング。
【0071】
この方法の回収工程は、細胞培養物を洗浄し、任意の適切な培地(例えばX-Vivo/Stemflex培地又は任意の他の臨床グレードの細胞培地など)中に細胞を再懸濁する1つ(又は複数)の工程を含む。
【0072】
細胞のコンディショニングは、使用前に細胞組成物を保存することができるように、細胞を凍結又は凍結乾燥することを含みうる。
【0073】
多分化能細胞を変異させ、ネオ抗原を発現させる。
【0074】
多能性細胞は、遺伝的に非常に安定した細胞であることが想起される。実際に、それらは胚発生過程の非常に初期に存在し、それらは胚発生のために増殖しなければならないため、これらの細胞は、胚において均質性を有するために、変異が起こりにくいことが重要である。
【0075】
結果的に、多能性細胞の集団中に存在する細胞は、それらの遺伝子含量(即ち、集団の細胞の95%超が同じ遺伝的背景を提示する)を考慮する場合、一般的に非常に均質である。
【0076】
iPSCを調製する場合、一部の細胞の選択的利点が、複数の継代の間に生じ、それによって後期継代で特定の変異を提示するiPSCクローンの集団に導かれるが、細胞ゲノムの配列は100%に近く類似している。
【0077】
しかし、いくつかの継代後、iPSCはhESCと同様に安定である(Hussein SM and al, Nature 2011)。培養により誘導された(適応性のある)変異は、長期培養時に非常に少数の遺伝的変化を伴って獲得されるであろう(Hussein SM and al, Bioessays, 2012)。
【0078】
しかし、侵襲的な癌において見出される、処置された細胞材料上での胎児/胚性ネオ抗原の変動性を増加させるために、細胞において変異を誘導することができることが好ましい。このように、それによって、免疫系がこれらの変異細胞に対してT細胞を生成し、癌細胞ならびに腫瘍の成長の間にその後の変化を受けうる癌細胞と戦うことができる可能性が増加するであろう。
【0079】
これは、癌幹細胞の増殖の間でのDNA複製エラー及び/又は環境傷害に起因する遺伝子変化の蓄積に起因する癌と戦うのに役立ちうる。これらの変化には、発癌及びゲノム不安定化変異を開始させる癌駆動変異が含まれる。この増加したゲノム不安定性は、増加した薬剤耐性を伴うより侵襲的なクローンの選択に導くクローン進化をもたらす。
【0080】
結果的に、特定の実施形態において、細胞は、前記細胞の遺伝子において変異を誘発する条件において増殖される。
【0081】
細胞は、このように、変異原薬剤、即ち、生物の遺伝物質、通常はDNAを変化させ、このように、自然のバックグラウンドレベルを上回り変異の頻度を増加させる物理的又は化学的作用物質に曝露させることができる。
【0082】
変異原は、物理的変異原及び化学的変異原からなる群より選択することができる。
【0083】
物理的変異原の間で、以下を引用することができる:
-DNA破損及び他の損傷を起こしうる電離放射線(例えばX線、ガンマ線、及びアルファ粒子など)。特に、コバルト60及びセシウム137からの放射線を引用することができる。照射線のレベルは、細胞の不活性化のために使用されるレベルよりずっと低くなければならず、当業者により設計されることができる。
-波長が260nmを上回る紫外光線(未修正のままにすると複製においてエラーを起こしうる)。
-又は放射性崩壊(例えばDNA中の14Cなど)。
【0084】
化学的突然変異原の間で、以下を引用することができる:
-反応性酸素種(ROS)、例えばスーパーオキシド、ヒドロキシルラジカル、過酸化水素など;
-シトシンをウラシルに変換することによりトランジション変異を起こすことができる脱アミノ剤(例えば亜硝酸など);
-多環式芳香族炭化水素(PAH)(ジオール-エポキシドに活性化された場合、DNAに結合することができる);
-アルキル化剤、例えばエチルニトロソウレア(ENU、CAS番号759-73-9)、マスタードガス、又は塩化ビニルなど;
-芳香族アミン及びアミド、例えば2-アセチルアミノフルオレンなど;
-植物からのアルカロイド、例えばビンカ種からのアルカロイドなど;
-臭素及び臭素を含む一部の化合物;
-アジ化ナトリウム;
-ブレオマイシン;
-紫外線と組み合わせたソラレン;
-ベンゼン;
-複製の間にDNA塩基を置換し、トランジション変異を起こすことができる塩基類似体;
-挿入剤、例えば臭化エチジウム、プロフラビン、ダウノルビシンなど;
-金属、例えばヒ素、カドミウム、クロム、ニッケル、及び変異原性であるそれらの化合物。
【0085】
この実施形態において、細胞が、特に癌関連ネオ抗原においてランダム変異(一般的に細胞毎に異なり、それにより異種集団に導く)を有する多能性幹細胞の集団を得るであろう。
【0086】
本発明者らは、DNA損傷依存性アポトーシスを誘発することなく多能性幹細胞においてDNA複製エラーを誘導することを可能にする培養条件を設計することが可能であることを示した。
【0087】
これは、上に示すように、多能性細胞が、胚発生の初期段階の間に導入された可能な限り少数の変異が存在するはずであるため、自然に非常に安定であるため、特に驚くべきことである。このことから、DNA修復機構がこれらの細胞において非常に効率的であり、それにより、これらの欠陥を修正することが可能ではない場合に、大半の欠陥を修正する及び/又はアポトーシスを誘導する。
【0088】
一実施形態において、開始集団の多能性細胞(例えばESC又はIPSCなど)は、多能性許容培養培地(当技術分野において公知のように)中で増殖及び維持し、反復継代の間に多能性段階を保存する。これらの状態において、一般的に、少量のエクソーム変異(エクソーム当たり5~10の変異)が観察されうる。
【0089】
多能性細胞を次に、変異誘発化合物方法を用いてインビトロで培養し、上に列挙するような、多能性幹細胞内のゲノム不安定性を誘導及び増加させる。DNA損傷は、二重鎖切断(DSB)についてのマーカーとしてのγH2AXのリン酸化により十分に確認される。γH2AX陽性細胞の割合及びγH2AX病巣の頻度の両方が、ESC又はIPSCならびにゲノム不安定性のマークとしてより多数の小核において増加した。
【0090】
好ましい薬剤は、ブレオマイシン、ENU、アルキル化剤、アクチノマイシンD、ROS調節剤、UV、H2O2、電離放射線(ガンマ線、X線)であり、これらによって、培養中に蓄積する多能性幹細胞における変異率の誘導及び増強が可能になる。
【0091】
好ましい実施形態において、N-エチル-N-ニトロソウレア(ENU)は、新規の変異を作り、処置された多能性幹細胞におけるネオ抗原のレベルを、少なくとも7~60日間までの長期培養の間に<50μg/mlの用量で増強することが示されている。これらの変異は、癌において報告された変異と同様である。
【0092】
このように、特に細胞を培地中でHDACiを用いて培養した場合に細胞の多能性を維持しながら、長期培養時での選択的利点からの高い変異率を伴う多能性細胞増殖の間にDNA損傷に応答して多様な変異を蓄積させることが可能である。培養中のHDACiの存在によって、DNA損傷の誘導に応答して、活性ヒストン(H3K4me3及びH3K9ac)の増加及び多能性のエピジェネティックマーク、ならびに継代の間での複製及び増殖率が保存される。
【0093】
本明細書中に記載する組成物及び方法の別の実施形態において、変異が、高レベルのゲノム不安定性を促進する遺伝子を用いた細胞の遺伝子改変を通じて、多能性細胞において誘導される。特に、適当な阻害剤(例えばNER/BER/DSBR/MMR阻害剤など)を使用し、DNA修復及び複製に含まれる遺伝子又はシグナル伝達経路の活性を欠失又は低下させることができる。増加したDNA損傷に関連するゲノム不安定性を誘導するこれらの方法は、DNA修復関連遺伝子又はシグナル伝達経路、例えばDNAポリメラーゼデルタ複合体、ミスマッチ修復(MMR)、塩基切除修復(BER)、ヌクレオチド切除修復(NER)、相同組換え(HR)、DSBR、又はNEJHなどを不活性化又はノックダウンする「ベクター」を使用することにより又は「遺伝子改変」により実施してもよい。DNA修復遺伝子の他の例は、DNApkC、Ku70、Rad51、Brca1、又はBrca2である。
【0094】
他の実施形態において、多能性細胞は、遺伝子改変又は化学的p53(例えばPifithrin-mu、Nutlin-3など)により、又は細胞生存を増強する化合物、例えばY-27632(p160-Rho関連コイルドキナーゼ(ROCK)の選択的阻害剤)などを使用することにより、アポトーシス関連遺伝子(例えばp53など)を抑制するように改変する。
【0095】
特定の実施形態において、多能性細胞の集団は、体細胞から生成された誘導性多能性幹細胞(iPSC)(例えば患者から単離された細胞)からなり、それらは、関連するゲノム変化を既に含んでいた:
i)例えば、炎症性毛細血管拡張症、ブルーム症候群、コケイン症候群、ファンコニ貧血、ヴェルナー症候群、色素性乾皮症、ナイメーメン破損症候群を含むDNA修復疾患;
ii)ゲノム不安定性を伴う遺伝性家族性癌症候群、例えばリンチ症候群(MLH1、MSH2、MSH6、PMS1、及びPMS2を含むMMR遺伝子中に変異を伴う遺伝性非ポリポーシス結腸直腸癌)、TP53遺伝子又はCHEK2中に変異を伴うリ・フラウメニ、BRCA1/2遺伝子中に欠損又は変異を伴う遺伝性乳癌及び卵巣癌(HBOC)症候群、APC遺伝子中に変異を伴う家族性腺腫様ポリポーシス(FAP)など;
iii)転座(T9;22)を伴うCMLのような体細胞発癌誘導性ゲノム不安定性。
【0096】
好ましい実施形態において、変異多能性細胞の集団は、誘導性多能性幹細胞で作製し、疾患に関連するゲノム変化を含む体細胞から生成する。典型的には、ゲノム変化は、転座(T9:22)、欠失(BRCA1/2)、又は変異(BRCA、RET)でありうる。
【0097】
特定の実施形態において、多能性幹細胞の集団は、癌細胞株又は患者特異的癌細胞から生成したiPSCからなる。
【0098】
別の実施形態において、ESC又はIPSCの集団を、「ベクター」を使用することにより、複数の非ランダム癌幹関連ネオ抗原を過剰発現するように遺伝的に改変させる。特定の実施形態において、ESC又はIPSCの集団を、「ゲノム編集」技術により多能性幹細胞において複数の変異及び癌幹細胞特異的ネオ抗原(少なくとも5個)を発現するように遺伝的に改変させる。本発明は、RNAガイドマルチプレックスゲノム編集、改変、発現の阻害、及び他のRNAベースの技術により、それらの複数のネオ抗原を導入することによりESC又はIPSCを提供する組成物及び方法を提供する。
【0099】
本明細書で使用される用語「ゲノム編集」は、特に、cas9媒介性ゲノム編集のためのガイドRNAを含むRNA媒介性遺伝子操作を指す。このガイドRNA(gRNA)は、エンドヌクレアーゼcas9とともにトランスフェクトさせる。ガイドRNAによって、足場及び標的に相補的なスペーサー配列が提供される。別の実施形態において、遺伝子操作配列は、Crispr-Cas 9系の使用により当技術分野における標準的方法に従った遺伝子サイレンシング用に設計されたsiRNA又はマイクロRNA配列でありうる。Crispr-Cas系を作製及び使用するための組成物及び方法は当技術分野において公知であり、特に、米国特許第8,697,359号に記載されている。
【0100】
特定の実施形態において、多能性細胞の集団を、アルキル化剤を用いて処理する。本明細書中で使用するように、用語「アルキル化剤」は、1つの分子から別の分子に1つ又は複数のアルキル基を加える物質を指す。この処理によって、TILs及びTh1/Th2細胞性免疫のオリゴクローン増殖を増加させることにより、優れた免疫反応を提供するネオ抗原において新たな変異が作られる。
【0101】
本発明において、アルキル化剤は、ナイトロジェンマスタード、ニトロソウレア、アルキルスルホン酸、トリアジン、エチレンイミン、及びこれらの組み合わせからなる群より選択する。ナイトロジェンマスタードの非限定的な例は、メクロレタミン(Lundbeck)、クロラムブシル(GlaxoSmithKline)、シクロホスファミド(Mead Johnson Co.)、ベンダムスチン(アステラス)、イホスファミド(Baxter International)、メルファラン(Ligand)、メルファランフルフェンアミド(Oncopeptides)、及びこれらの医薬的に許容可能な塩を含む。ニトロソウレアの非限定的な例は、ストレプトゾシン(Teva)、カルムスチン(エーザイ)、ロムスチン(Sanofi)、及びこれらの医薬的に許容可能な塩を含む。アルキルスルホン酸の非限定的な例は、ブスルファン(Jazz Pharmaceuticals)及びその医薬的に許容可能な塩を含む。トリアジンの非限定的な例は、ダカルバジン(Bayer)、テモゾロミド(Cancer Research Technology)、及びこれらの医薬的に許容可能な塩を含む。エチレンイミンの非限定的な例は、チオテパ(Bedford Laboratories)、アルトレタミン(MGI Pharma)、及びこれらの医薬的に許容可能な塩を含む。他のアルキル化剤は、ProLindac(Access)、Ac-225BC-8(Actinium Pharmaceuticals)、ALF-2111(Alfact Innovation)、トロンフォスファミド(Baxter International)、MDX-1203(Bristol-Myers Squibb)、チオウレイドブチロニトリル(CellCeutix)、ミトブロニトール(Chinoin)、ミトラクトール(Chinoin)、ニムスチン(第一三共)、グルホスファミド(Eleison Pharmaceuticals)、HuMax-TAC及びPBD ADCの組み合わせ(Genmab)、BP-C1(Meabco)、トレオサルファン(Medac)、ニフルチモックス(Metronomx)、トシル酸インプロスルファン(三菱田辺製薬)、ラニムスチン(三菱田辺製薬)、ND-01(NanoCarrier)、HH-1(Nordic Nanovector)、22P1G細胞及びイホスファミドの組み合わせ(Nuvilex)、エストラムスチンリン酸(Pfizer)、プレドニマスチン(Pfizer)、ルルビネクテジン(PharmaMar)、トラベクテジン(PharmaMar)、アルトレアタミン(Sanofi)、SGN-CD33A(Seattle Genetics)、フォテムスチン(Servier)、ネダプラチン(塩野義)、ヘプタプラチン(Sk Holdings)、アパジクオン(Spectrum Pharmaceuticals)、SG-2000(Spirogen)、TLK-58747(Telik)、ラロムスチン(Vion Pharmaceuticals)、プロカルバジン(Alkem Laboratories Ltd.)、及びこれらの医薬的に許容可能な塩を含む。別の実施形態において、アルキル化剤は、メクロレタミン(Lundbeck)、クロラムブシル(GlaxoSmithKline)、シクロホスファミド(Mead Johnson Co.)、ストレプトゾシン(Teva)、ダカルバジン(Bayer)、チオテパ(Bedford Laboratories)、アルトレタミン(MGI Pharma)、これらの医薬的に許容可能な塩、及びこれらの組み合わせからなる群より選択する。別の実施形態において、アルキル化剤は、ProLindac(Access)、Ac-225BC-8(Actinium Pharmaceuticals)、ALF-2111(Alfact Innovation)、ベンダムスチン(アステラス)、イホスファミド(Baxter International)、トロホスファミド(Baxter International)、MDX-1203(Bristol-Myers Squibb)、テモゾロマイド(Cancer Research Technology)、チオウレイドブチロニトリル(CellCeutix)、ミトブロニトール(Chinoin)、ミトラクトール(Chinoin)、ニムスチン(第一三共)、カルムスチン(エーザイ)、グルホスファミド(Eleison Pharmaceuticals)、HuMax-TAC及びPBD ADCの組み合わせ(Genmab)、ブスルファン(Jazz Pharmaceuticals)、メルファラン(Ligand)、BP-C1(Meabco)、トレオスルファン(Medac)、ニフルチモックス(Metronomx)、トシル酸インプロスルファン(田辺三菱製薬)、ラニムスチン(田辺三菱製薬)、ND-01(NanoCarrier)、HH-1(Nordic Nanovector)、22P1 G細胞及びイホスファミドの組み合わせ(Nuvilex)、メルファランフルフェンアミド(Oncopeptides)、エストラムスチンリン酸(Pfizer)、プレドニムスチン(Pfizer)、ルルビネクテジン(PharmaMar)、トラベクテジン(PharmaMar)、アルトレアタミン(Sanofi)、ロムスチン(Sanofi)、SGN-CD33A(Seattle Genetics)、フォテムスチン(Servier)、ネダプラチン(塩野義)、ヘプタプラチン(Sk Holdings)、アパジクオン(Spectrum Pharmaceuticals)、SG-2000(Spirogen)、TLK-58747(Telik)、ラロムスチン(Vion Pharmaceuticals)、プロカルバジン(Alkem Laboratories Ltd.)、これらの医薬的に許容可能な塩、及びこれらの組み合わせからなる群より選択する。
【0102】
特定の実施形態において、多能性細胞の集団を、N-エチル-N-ニトロソウレア(ENU、CAS番号759-73-9)を用いて処理する。ENUは以下の化学式C3H7N3O2を有し、エチル基を核酸中の核酸塩基に転移することによる高度に強力な変異原である。
【0103】
上に示すように、変異原性薬剤の目的は、増殖の間に多能性細胞の遺伝子中にランダム変異を導入することである(変異の導入は、細胞の複製及び分裂の間に生じる)。多能性幹細胞の集団は、成長の利点を提供しうる、培養適応を促進するために選択される変異を獲得する。ESC又はiPSCの継代は高いレベルの選択圧を受け、増殖時には複数のクローン変異集団が好んで選択されうる。
【0104】
多能性細胞は非常に安定であるため、変異原の適用は長期間にわたり実施しなければならないことがあることに注意すること。例証の問題として、ENUが使用される場合、それは、少なくとも7日間、より好ましくは少なくとも15日間、より好ましくは少なくとも20日間、より好ましくは少なくとも30日間、より好ましくは少なくとも40日間、好ましくは少なくとも50日間、又はさらに少なくとも60日間にわたり適用されうる。変異原の適用後、細胞を洗浄し(変異原が化学的薬剤である場合)、MHC-1発現に有利な薬剤、特にHDACiの存在においてさらに増殖させることができる。この薬剤は、好ましくは変異原性薬剤の適用の間にも存在する。
【0105】
このように、変異原が、多能性細胞により発現される胚形成遺伝子の一部において変異(即ち、非同義語、ナンセンス、フレームシフト、停止、獲得、スプライス変異体、CNV、SNV)を誘導し、それ故に、これらの抗原(全ゲノム内の新たなネオ抗原)の多様性を増加させることが観察されうる。これによって、迅速で頻繁な変異が存在する侵襲的な癌に対する広範な免疫応答を刺激することができる、増強された免疫原性を伴うワクチン組成物の可能性が増加する。
【0106】
効率的な免疫応答は、実際には、癌細胞のクローン増殖が腫瘍細胞により発現された抗原における変異を伴って生じる一部の癌について得ることは困難でありうる。免疫応答は、このように、癌の変異負荷に依存するであろう。変異原の使用による多能性細胞集団におけるランダム変異の生成によって、変異した胚性抗原の発現に導かれ、ワクチン接種時に免疫系に提示される抗原の多様性が増加する。
【0107】
結果的に、そのような細胞の分裂の間に癌細胞中に出現し、これらの細胞に対する免疫応答を加速させ、改善させうる変異抗原に対する予備刺激T細胞が既に存在するであろう。
【0108】
多能性細胞の改変。
【0109】
特定の実施形態において、多能性幹細胞の集団を、多能性細胞ゲノム内の遺伝子組込みを使用することにより、免疫応答を刺激する化合物を過剰発現するように遺伝的に改変させる。典型的には、第1の工程において、幹細胞の集団を単離し、増殖させる。第2の工程において、目的の遺伝子を組込み型ウイルスベクター(例えばレトロウイルス又はレンチウイルスなど)中にパッケージングする。第3の工程において、目的遺伝子を含む組込みウイルスベクターを、幹細胞の集団中に移入する。
【0110】
特定の実施形態において、多能性細胞の集団を、MHC発現及び/又は免疫応答を刺激するタンパク質の遺伝子を用いて改変させる。これらの化合物を、インターフェロンアルファ(IFN-α)、インターフェロンガンマ(IFN-γ)、インターロイキン2(IL-2)、インターロイキン4(IL-4)、インターロイキン6(IL-6)、インターロイキン12(IL-12)、腫瘍壊死因子(TNF)、及び顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、それらの機能的フラグメント、ならびにそれらの組み合わせからなる群より選択する。
【0111】
本発明により検討するインターフェロン(IFN)は、IFNの一般的な型、IFN-アルファ(IFN-α)、IFN-ベータ(IFN-β)、及びIFN-ガンマ(IFN-γ)を含む。IFNは、例えば、その成長を遅らせ、より正常な挙動を伴う細胞中へのそれらの発生を促進し、及び/又は抗原のその産生を増加させることにより癌細胞に直接的に作用することができる、このように、免疫系が癌細胞を認識し、破壊するのを容易にする。IFNはまた、例えば、血管新生の減速、免疫系の強化、及び/又はナチュラルキラー(NK)細胞、T細胞、及びマクロファージの刺激により、癌細胞に間接的に作用することもできる。組換えIFN-アルファは、Roferon(Roche Pharmaceuticals)及びIntron A(Schering Corporation)として商業的に入手可能である。
【0112】
本発明により検討するインターロイキンは、IL-2、IL-4、IL-11、及びIL-12を含む。商業的に入手可能な組換えインターロイキンの例は、Proleukin(登録商標)(IL-2;Chiron Corporation)及びNeumega(登録商標)(IL-12;Wyeth Pharmaceuticals)を含む。Zymogenetics, Inc.(ワシントン州シアトル)は、現在、IL-21の組換え型を試験しており、それは、本発明の組み合わせにおける使用も検討されている。
【0113】
本発明により検討するコロニー刺激因子(CSF)は、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF又はフィルグラスチム)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF又はサルグラモスチム)、及びエリスロポエチン(エポエチンアルファ、ダルベポエチン)を含む。1つ又は複数の成長因子を用いた処理は、伝統的な化学療法を受けている被験体における新たな血液細胞の生成を刺激するのに役立てることができる。したがって、CSFを用いた処置は、化学療法に関連付けられる副作用を減少させるのに役立てることができ、より高い用量の化学療法剤を使用することを可能にする。種々の組換えコロニー刺激因子を商業的に入手可能であり、例えば、Neupogen(登録商標)(G-CSF;Amgen)、Neulasta(ペグフィルグラスチム(pelfilgrastim);Amgen)、Leukine(GM-CSF;Berlex)、Procrit(エリスロポエチン;Ortho Biotech)、Ortho Biotech(エリスロポエチン;Amgen)、Arnesp(erytropoietin(エリスロポエチン))である。
【0114】
最も広い意味において、「ベクター」は、細胞へのオリゴヌクレオチドの移入を促進することが可能な任意の媒体である。好ましくは、ベクターによって、ベクターの非存在をもたらすであろう分解の程度と比べて、低下した分解を伴って核酸を細胞が輸送される。一般的に、本発明において有用なベクターは、ネイキッドプラスミド、非ウイルス送達系(エレクトロポレーション、ソノポレーション、カチオントランスフェクション剤、リポソームなど)、ファージミド、ウイルス、核酸配列の挿入又は取り込みにより操作されたウイルス又は細菌供給源から由来する他の媒体を含む。ウイルスベクターは、好ましい型のベクターであり、限定しないが、以下のウイルスからの核酸配列を含む:RNAウイルス、例えばレトロウイルスなど(例えば、モロニーマウス白血病ウイルス及びレンチウイルス由来ベクター)、ハーベイマウス肉腫ウイルス、マウス乳房腫瘍ウイルス、及びラウス肉腫ウイルス;アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス;SV40型ウイルス;ポリオーマウイルス;エプスタイン-バーウイルス;パピローマウイルス;ヘルペスウイルス;ワクシニアウイルス;ポリオウイルス。命名されていないが、当技術分野において公知の他のベクターを容易に使用することができる。
【0115】
典型的には、本発明の文脈において、ウイルスベクターは、アデノウイルス及びアデノ随伴(AAV)ウイルスを含み、それらは、遺伝子治療におけるヒト使用のために既に承認されているDNAウイルスである。実際には、12の異なるAAV血清型(AAV1~12)が公知であり、各々は異なる組織向性を有する(Wu, Z Mol Ther 2006; 14:316-27)。組換えAAVは、依存性パルボウイルスAAVから由来する(Choi, VW J Virol 2005; 79:6801-07)。アデノ随伴ウイルス型1~12は、複製欠損であるように操作することができ、広範囲の細胞型及び種に感染させることが可能である(Wu, Z Mol Ther 2006; 14:316-27)。それは、さらに、利点、例えば熱及び脂質溶媒の安定性;造血細胞を含む多様な系統の細胞における高い形質導入頻度;重複感染阻害の欠如により、複数の一連の形質導入が可能になるなどを有する。また、野生型アデノ随伴ウイルス感染が、選択圧が存在しない場合、組織培養において100継代を超えて続き、アデノ随伴ウイルスゲノム組込みが比較的安定した事象であることを意味する。アデノ随伴ウイルスは、染色体外の様式においても機能しうる。
【0116】
他のベクターはプラスミドベクターを含む。プラスミドベクターは、当技術分野において広範囲に記載されており、当業者に周知である。例えば、Sambrook et al., 1989を参照のこと。過去数年間、プラスミドベクターは、インビボで抗原コード遺伝子を細胞に送達するためのDNAワクチンとして使用されてきた。それらは、このために特に有利である。なぜなら、それらは、ウイルスベクターの多くと同じ安全性懸念を有さないからである。しかし、宿主細胞と適合するプロモーターを有するこれらのプラスミドは、プラスミド内で動作可能にコードされた遺伝子からペプチドを発現することができる。一部の一般的に使用されるプラスミドは、pBR322、pUC18、pUC19、pRC/CMV、SV40、及びpBlueScriptを含む。他のプラスミドは当業者に周知である。加えて、プラスミドは、DNAの特定の断片を除去及び付加するために制限酵素及びライゲーション反応を使用して注文設計してもよい。プラスミドは、種々の非経口、粘膜、及び局所経路により送達してもよい。例えば、DNAプラスミドは、筋肉内、皮内、皮下、又は他の経路により注射することができる。それはまた、鼻腔内スプレー又は点鼻、直腸座薬及び経口により投与してもよい。好ましくは、前記DNAプラスミドは、眼内方法(硝子体内、網膜下、脈絡膜上など)を通じて注射する。それはまた、遺伝子銃を使用して表皮又は粘膜表面中に投与してもよい。プラスミドは水溶液中で与える、金粒子上で乾燥させる、又は別のDNA送達系(限定しないが、リポソーム、デンドリマー、渦巻状物、及びマイクロカプセル化を含む)と関連しうる。
【0117】
特定の実施形態において、幹細胞の集団は、相同組換えにより染色体19のAAVS1遺伝子座中への導入遺伝子(例えばsiRNAなど)の導入により改変させる。
【0118】
本明細書中で使用する用語「相同組換え」は、染色体又はゲノム上の特定の遺伝子を人工的に改変するための遺伝子標的化手段を指す。染色体上の標的配列の部分と相同な部分を有するゲノム断片が細胞中に導入された場合、導入されたゲノム断片とそれに対応する染色体上の遺伝子座の間でのヌクレオチド配列相同性に基づいて起こる組換えを指す。
【0119】
また、用語「遺伝子改変」は、染色体上の所望の遺伝子座における外因性DNAの挿入、外因性DNAを用いた遺伝子の一部又は全部の置換、又は遺伝子の欠失を指す。より具体的には、遺伝的改変は、外因性DNA断片の挿入(すなわち、「ノックイン」)を指し、内因性DNA配列は、その断片が特定の遺伝子座での遺伝子の発現とともに発現される、もしくは恒常的に発現される、又は内因性DNA配列を改変するような遺伝子配列の部分もしくは全体の置換、欠失、もしくは破壊(すなわち、「ノックアウト」)の様式において保持される。
【0120】
人工染色体を細胞中に導入するための方法の例は、リン酸カルシウム沈殿法(Graham et al., (1978) Virology 52: 456-457, Wigler et al., (1979) Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 76 1373-1376及びCurrent Protocols in Molecular Biology Vol.1, Wiley Inter-Science, Supplement 14, Unit 9.1.1-9.1.9 (1990))、ポリエチレングリコールを使用した融合方法(米国特許第4,684,611号)、脂質担体(例えばリポフェクチンなど)を使用した方法(Teifel et al., (1995) Biotechniques 19: 79-80, Albrecht et al., (1996) Ann. Hematol. 72: 73-79;Holmen et al., (1995) In Vitro Cell Dev. Biol. Anim. 31: 347-351, Remy et al., (1994) Bioconjug. Chem. 5: 647-654, Le Bolc’het al., (1995) Tetrahedron Lett. 36: 6681-6684, Loeffler et al., (1993) Meth. Enzymol, 217: 599-618及びStrauss (1996) Meth. Mol. Biol. 54: 307-327)、エレクトロポレーション、及び微小核体との融合のための方法(米国特許第5,240,840号、第4,806,476号、第5,298,429号、及び第5,396,767号、Fournier (1981) Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 78: 6349-6353ならびにLambert et al., (1991) Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 88: 5907-59)を含む。
【0121】
細胞の集団
【0122】
このように、上に記載する方法を用いて、本発明者らは、より効率的な抗腫瘍免疫を誘発する一部又は全ての胚性遺伝子内に新たな胚性エピトープを発現する多能性細胞の集団を得ている。特に、本発明者らは、N-エチル-N-ニトロソウレア(ENU)を用いて処理した多能性細胞の集団が、ENUを用いて処理しなかった多能性細胞の集団と比較してランダム変異を提示することを示している。したがって、この集団も本発明の対象である。
【0123】
本発明は、このように、多分化能細胞を含む細胞の組成物に関し、前記集団中の細胞は、TP53、P2RY8、CRLF2、CRTC3、BLM、ASXL1、IDH2、NTRK3、MALAT1、EXT1、NCOA2、IKF1、PIK3R1、EP300,AKT2、PPP2R1A、CDK12、BRCA1、ERB2、CDH1、TBX3、SMARCD1、HSP90AA1、EZH2、SUZ12、STAT5B、及びPOUF5F1からなる以下の群より選択される少なくとも3つの遺伝子において、より好ましくは少なくとも4つの遺伝子で、より好ましくは少なくとも5つの遺伝子で、より好ましくは少なくとも6つの遺伝子で、より好ましくは少なくとも7つの遺伝子で少なくとも0.1%、好ましくは少なくとも1%、より好ましくは少なくとも2%、より好ましくは少なくとも5%、より好ましくは少なくとも10%、より好ましくは少なくとも15%、より好ましくは少なくとも20%、より好ましくは少なくとも30%、より好ましくは少なくとも40%、又はさらには少なくとも50%の変異率を提示する。
【0124】
遺伝子のこの変異率を、そのようなさらなる増殖を実施する場合、変異原性薬剤への曝露後、さらなる増殖の前又は後に、細胞集団において試験する。
【0125】
多能性細胞が遺伝的に非常に安定であるという事実のため、上に列挙する少なくとも3つの遺伝子における多量の変異が存在によって、前には存在せず、変異原性条件の非存在においては観察されなかったであろう多能性細胞の新たな集団の存在が実証される。
【0126】
変異原性薬剤への細胞の曝露は、そのような細胞のゲノムにおけるランダム変異の出現を誘発する。そのような曝露からもたらされる集団は、このように、長期増殖及び培養の間での低い自然変異率のために、本質的に均質な多能性細胞の集団と比較して異種である。
本明細書において得られる集団は、このように、特に以下である:
-細胞が多能性である(即ち、多能性のマーカーを持つ)。
-上に示すように、集団中の細胞のゲノムにおいて複数の差異があり、即ち、集団の細胞内で上に列挙する変異遺伝子の率(上に示す通り)を検出することが可能である。
【0127】
例証の問題として、TP53遺伝子の5%の変異率は、細胞集団中のTP53配列の95%が同一であること(TP53参照配列と呼ぶ)を意味し、TP53配列の最後の5%は、TP53参照配列とは異なる。
【0128】
さらなる実施形態において、本発明は、このように、多分化能細胞を含む細胞の組成物に関し、前記集団中の細胞は、以下の特徴の1つ又は複数を含むESC又はIPSCの集団において変異ランドスケープを提示する:
i)ゲノム改変によりESC又はIPSC中に遺伝的に導入された少なくとも>3(上で見たように、又はそれ以上)の癌関連ネオ抗原変異。
ii)癌ゲノムに限定され、変異原薬剤により誘導される、培養胚性多能性幹細胞における選択的利点により濃縮された変異型の組み合わせ。
【0129】
変異原プロセスによって、結果として得られた後期継代ヒトiPS細胞株において新規ゲノム変異及び遺伝的モザイクの増加レベルが起きている。
【0130】
遺伝子における変異の分析は、好ましくは、NGS(エクソーム、RNAseq又は全ゲノム配列決定)、CGHアレイ、SNPアレイによる、各々のESS及びIPSC集団における誘導性癌関連「ミュータノーム」シグネチャーの大規模ゲノム分析により実施する。トランスクリプトームプロファイリングとの組み合わせにおける全エクソーム配列決定によって、発現されたタンパク質をコードするミュータノームの記載が可能になる。
【0131】
ゲノム異常は、当技術分野において公知のバイオインフォマティクス分析のための少なくとも2つのアルゴリズムを使用することにより同定される。変異原性薬剤の適用後での全ゲノムにおける全変異の保有率によって、出力ESC又はIPSCにおけるより高い変異及び/又はCNV負荷が確認される。
【0132】
定性的及び定量的基準によって、記載するようなESC又はIPSCにおける遺伝的モザイク内での各々の細胞集団を定義することが可能になる:
定性的基準は以下を含む:
-変異誘発後のESC又はIPSゲノム中でのそれらの存在及び同様の培養継代において変異誘発を伴わないESC又はIPSC中でのそれらの非存在に関する、獲得された新規分子体性変化(変異、CNV、又はSNV)の同定。
-癌ゲノム(データベース、即ち、TCGA、ICGC、COSMICから)中の、ならびに多能性遺伝子及び胚経路(多能性遺伝子、即ち、Plurinet遺伝子に従う)中に存在するそれらの重複検出による各々の新規変異(即ち、非同義語、ナンセンス、スプライス変異体、CNV、SNV)の分類。
【0133】
そのような定量的な基準は以下を含む:
-全ゲノム中でのこれらの新規体細胞変異(偽発見率の信頼値FDR≦0.05)及び新規CNV/SNV(FDR<10%)の保有率を、各々のESC又はIPSについて定義する。
-少なくとも>3の異なる遺伝子中の検証された変異の存在。
-クローンの選択及び増殖後の又は継代数に関する少なくとも>0.1%、又は上で見られる他のパーセンテージ、50%までからの対立遺伝子頻度を伴う各々の新規の安定した体細胞変異の変異率(50×深度から100×深度まで、及び標的エクソームカバー率の80~98%)。
-変異誘発又は遺伝子改変前に入力ESC又はIPSCと比較して少なくとも>90%の発現率を伴う多能性マーカーの発現及び遺伝子発現ベースのアッセイ(PluriTest)。
-HDACi、特にVPAの非存在において増殖させた細胞集団と比較して、少なくとも50%、一般的には90%まで増加した細胞表面でのMHC I分子の発現(例えば、FACSにより決定する)。
【0134】
本発明は、上に開示する多能性細胞の集団、及び免疫応答及び/又はMHC I発現を刺激する薬剤を含むワクチン組成物に関する。
【0135】
特に、そのような多能性細胞は、上に開示する、好ましくは不活性化され、場合により変異したESC又はIPSCである。
【0136】
免疫応答を刺激する薬剤は、当技術分野において公知のアジュバント(免疫賦活剤)でありうる。それは、好ましくはHDACi(0.2mM~4mMの用量範囲で使用する)である。そのようなHDACiを使用する場合、別のアジュバントを使用してもよい。
【0137】
本発明はまた、そのようなワクチン組成物を含む機器(例えばシリンジなど)に関し、それはHDACi化合物(coumpound)及び細胞組成物の同時投与のために使用することができる。
【0138】
そのようなワクチン組成物は、幹細胞癌(癌、その細胞がネオ抗原を発現する)に対する治療用ワクチンとして、患者の治癒のために、又は予防ワクチンとして、特にこれらの癌に感受性である患者におけるそのような癌の発症を防止するために使用することができる。
【0139】
素因遺伝子は、例えば以下である(Lindor et al, 2008 Journal of the National Cancer Institute Monographs, No. 38, Concise Handbook of Familial Cancer Susceptibility Syndromes, Second Editionも参照のこと)。
乳房/卵巣:BRCA1、BRCA2、PALB2、RAD51
リンチ症候群:MLH1、MSH2、MSH6、PMS2、EPCAM
遺伝性乳頭状腎細胞癌:FH、MET
カウデン病:PTEN、PIK3CA
ファンコニ病:FANC
フォン・ヒッペル-リンダウ病:VHL
悪性メラノーマ:CDKN2A、MITF、BAP1、CDK4
内分泌腫瘍:MEN1、RET、CDKN1B
神経線維腫症:NF1、NF2、LZTR1、SMARCB1、SPRED1
遺伝性褐色細胞腫パラガリウム:SDH、TMEM127、MAX、EPAS1
家族性腺腫性ポリープ症:APC、MUTYH
網膜芽腫:RB1
バート・ホッグ・デュベ症候群:FLCN
ブルーム症候群:BLM
カーニー症候群:PRKAR1A
ゴーリン症候群:PTCH1
リ・フラウメニ症候群:TP53、CHEK2
ナイメーヘン症候群:NBN
ポイツ・ジェガース症候群:STK11
家族性若年性ポリポーシス:BMPR1A、SMAD4
色素性乾皮症:XP
このリストは限定的ではない。
【0140】
特定の実施形態において、癌幹細胞ワクチン産物は、凍結乾燥後の細胞溶解物の混合物、濃縮した多能性幹ネオ抗原の混合物、精製した癌幹ネオ抗原、ESC又はIPSCから由来するエキソソーム、DNA、RNA、タンパク質、又は操作された ESCもしくはIPSCからの複数のペプチドを含む。これらは、上に開示する免疫原性剤であり、それはHDACiの存在において処方される。
【0141】
別の実施形態において、癌幹細胞ワクチン産物を、アジュバントエフェクターとして使用される、操作された照射ESC又はIPSCからの上清GMP培地と混合させる。
【0142】
好ましい実施形態において、この組成物中の細胞を不活性化させる(即ち、もはや分裂することができない)。
【0143】
本発明の細胞の組成物は、上に開示する方法のいずれかにより得られやすい。
【0144】
この組成物中の細胞は、変異原が使用されており、それ故に、当技術分野において公知の方法に従って培養され、均質である多能性細胞組成物とは異なる場合、性質において異質であることに注意すること。
【0145】
それを変異原の非存在において培養した場合、細胞の集団は、当技術分野において公知の方法に従って培養された細胞の集団とは異なる。なぜなら、培養培地中で多能性遺伝子の発現を維持し、MHC I提示を増加させる薬剤の存在によって、これらのMHC I分子のより多くを表面上に有する細胞に導かれるからである。
【0146】
本明細書中で使用するように、用語「MHC発現及び/又は免疫応答を活性化する群より選択される化合物」は、免疫原性を刺激することが可能な化合物を指す。そのような化合物は、MHC発現及び/又は免疫応答の活性化剤と呼ばれる。用語「MHC」は、外来分子(抗原と呼ぶ)を認識するために細胞表面上に存在する主要組織適合性複合体を指す。MHCは抗原に結合し、それらを免疫分子(例えばリンパ球T及びBなど)に提示する。用語「免疫応答」は、抗原への免疫系の免疫学的応答を指す。免疫応答を活性化することにより、FoxP3亜集団及び骨髄由来サプレッサー細胞(MDSC)の集団が減少し、逆にNK集団が増加する。本発明の文脈において、腫瘍に対する免疫応答は、腫瘍の細胞中又は上に存在する抗原に対する細胞傷害性T細胞応答を含む。一部の実施形態において、細胞傷害性T細胞応答は、CD8+T細胞により媒介される。典型的には、本発明の文脈において、MHC発現及び/又は免疫応答を活性化する抗原は、上に記載する多能性細胞の集団上に存在する分子に対応する。MCH発現及び/又は免疫系を活性化する化合物は、ネオ抗原である。用語「ネオ抗原」又は「ネオ抗原性」は、ゲノムによりコードされるタンパク質のアミノ酸配列を変化させる少なくとも1つの変異から生じる抗原のクラスを意味する。
【0147】
本発明の文脈において、化合物は、サイトカイン、ヒストンデアセチラーゼ阻害剤、DNAメチルトランスフェラーゼ阻害剤、及びヒストン-リシンN-メチルトランスフェラーゼ酵素阻害剤からなる群より選択する。
【0148】
特定の実施形態において、MHC発現及び/又は免疫応答の活性化因子は、ヒストンデアセチラーゼ阻害剤である。
【0149】
本明細書中で使用するように、用語ヒストン「ヒストンデアセチラーゼ阻害剤」はHDACiとも呼ばれ、ヒストンデアセチラーゼの機能に干渉する化合物のクラスを指す。ヒストンデアセチラーゼ(HDAC)は、癌の転写調節及び病因において重要な役割を果たす。典型的には、HDACの阻害剤は転写を調節し、細胞成長停止、分化、及びアポトーシスを誘導する。HDACiはまた、癌処置(放射線治療薬及び化学療法薬物を含む)において使用される治療薬剤の細胞傷害性効果を増強する。
【0150】
特定の実施形態において、ヒストンデアセチラーゼ阻害剤はバルプロ酸(VPA)である。
【0151】
用語「バルプロ酸」は酸-2-プロピルペンタン酸(C
8H
16O
2)を指し、それは当技術分野において以下のCAS番号及び式99-66-1を有する:
【化1】
【0152】
バルプロ酸の生物学的活性は複数ある(Chateauvieux et al, J. Biomed. Biotechnol, 2010, pii: 479364. doi: 10.1155 / 2010/479364)。バルプロ酸は、神経伝達物質GABA(ガンマアミノ酪酸)増強阻害活性に影響を及ぼす。いくつかの作用機構が示唆されている。バルプロ酸は、特にGABA代謝であり:GABA、GABAトランスアミノ酪酸(LAMP)の分解、GABA合成の順応を阻害し、及びその代謝回転を改変する。また、バルプロ酸は特定のイオンチャンネルを遮断し、N-メチル-D-アスパラギン酸により媒介される興奮を低下させ、Na+及びCa2+を含むイオンチャネル(電位依存性L型CACNA1型C、D、N、及びF)の活性を遮断する。
【0153】
本発明の文脈において、バルプロ酸は、ヒト胚性幹細胞(ESC)又は誘導性多能性幹細胞(IPSC)と共有する多能性抗原を発現する癌に対する免疫応答を強化する免疫刺激剤として使用する。
【0154】
特に、VPAは、癌幹細胞コンパートメント上のMHC-1の発現を刺激及び増強するために使用し、CSCコンパートメント中のネオ抗原含量を増加させる。ESC及びIPSC中ならびにCSC中でのMHC Iのより高い発現によって、APC/樹状細胞へのMHC-Iに関連するネオ抗原の提示を増強し、TH1免疫応答を誘導することが可能になる。より高いレベルのケモカイン(CXCL9、CXCL10・・・)によって、腫瘍中へのT細胞の動員を増強することが可能になる。
【0155】
本発明は、HADCi(例えばVPA及び/又は5アザシチジンなど)の存在において多能性細胞を増殖させることにより、クロマチンリモデリング、ならびにケモカイン発現(CXCL9、CXCL10・・・)を通じて、CSC及び腫瘍細胞における胚性抗原のCSCコンパートメント発現においてネオ抗原含量を増加させるための方法に関する。
【0156】
特に、インビボで患者を処置するために使用される場合、本発明の組成物及びワクチンによって、腫瘍容積の長期持続的低下を得るように、腫瘍の微小環境を改変し、腫瘍中へのT細胞の動員を促進することを可能にする。
【0157】
これは、ワクチン注射後(例えば少なくとも15日間など)、HDACiが患者にさらに投与された場合、癌予備刺激された多能性細胞ワクチン及びVPA同時投与の相乗効果によるものである。
【0158】
この例は、癌幹細胞ワクチン及びVPAの両方による組み合わせ処置によって、Th1/Th2細胞性免疫を伴うTILを増加させ、FoxP3 TReg亜集団を減少させ、NK細胞を活性化させ、及びMDSCの抑制作用を減少させることにより優れた抗腫瘍応答を提供することを示し、腫瘍免疫抑制を逆転させ、(腫瘍及び脾臓中の)TRegを減少させ、T CD4及びCD8発現PD-1のより少ない割合を伴う腫瘍中にT CD4+及びCD8+リンパ球を動員する。
【0159】
VPAはc-Myc発現レベルを下方調節し、潜在的に癌細胞及びCSCのアポトーシス及びオートファジーを誘導しうる。VPAは、オートファゴソーム交差提示を介して適応免疫応答を強化しうる。
【0160】
VPAの公知の作用は、リンパ節における炎症サイトカイン、例えばIL6、IL8、TNFaインターロイキン(IL)-1β、IL-17などの減少である。
【0161】
特定の実施形態において、ヒストンデアセチラーゼ阻害剤はスベロイルアニリドヒドロキサム酸であり、ボリノスタット(N-ヒドロキシ-N’-フェニルオクタンジアミド)とも呼ばれ、2006年に米国食品医薬品局(FDA)により承認された最初のヒストンデアセチラーゼ阻害剤であった(Marchion DC et al 2004; Valente et al 2014)。
【0162】
特定の実施形態において、ヒストンデアセチラーゼ阻害剤はパノビノスタット(LBH-589)であり、2015年にFDA承認を受けており、Valente et al 2014に記載された構造を有する。
【0163】
特定の実施形態において、ヒストンデアセチラーゼ阻害剤はギビノスタット(ITF2357)であり、欧州連合においてオーファン薬物として承認されている(Leoni et al 2005; Valente et al 2014)。
【0164】
特定の実施形態において、ヒストンデアセチラーゼ阻害剤はベリノスタットであり、ベレオダック(PXD-101)とも呼ばれ、2014年にFDA承認を受けている(Ja et al 2003; Valente et al 2014)。
【0165】
特定の実施形態において、ヒストンデアセチラーゼ阻害剤はエンチノスタット(SNDX-275又はMS-275として)である。この分子は、以下の化学式(C21H20N4O3)を有し、Valente et al 2014に記載される構造を有する。
【0166】
特定の実施形態において、ヒストンデアセチラーゼ阻害剤は、以下の化学式(C23H20N6O)(Valente et al 2014)を有するモセチノスタット(MGCD01030)である。
【0167】
特定の実施形態において、ヒストンデアセチラーゼ阻害剤は、以下の化学式(C20H30N4O2)及びDiermayr et al 2012に記載されている構造を有するプラシノスタット(Practinostat)(SB939)である。
【0168】
特定の実施形態において、ヒストンデアセチラーゼ阻害剤は、以下の化学式(C22H19FN4O2)を有するChidamide(CS055/HBI-8000)である。
【0169】
特定の実施形態において、ヒストンデアセチラーゼ阻害剤は、以下の化学式(C21H26N6O2)を有するQuisinostat(JNJ-26481585)である。
【0170】
特定の実施形態において、ヒストンデアセチラーゼ阻害剤は、以下の化学式(C21H23N3O5)を有するアベキシノスタット(PCI24781)である(Valente et al 2014)。
【0171】
特定の実施形態において、ヒストンデアセチラーゼ阻害剤は、以下の化学式(C20H19FN6O2)を有するCHR-3996である(Moffat D et al 2010;Banerji et al 2012)。
【0172】
特定の実施形態において、ヒストンデアセチラーゼ阻害剤は、以下の化学式(C18H20N2O3)を有するAR-42である(Lin et al 2012)。
【0173】
特定の実施形態において、MHC発現の活性化因子はDNAメチルトランスフェラーゼ阻害剤である。
【0174】
本明細書中で使用するように、用語「DNAメチルトランスフェラーゼ阻害剤」は、DNAメチルトランスフェラーゼ(DNMT)と相互作用し、それらの活性を阻害することが可能な化合物を指す。DNMTはDNAへのメチル基の転移を触媒する酵素である。DNAメチル化は、多種多様な生物学的機能を果たす。全ての公知のDNAメチルトランスフェラーゼは、メチルドナーとしてS-アデノシルメチオニン(SAM)を使用する。
【0175】
特定の実施形態において、DNAメチルトランスフェラーゼ阻害剤は、当技術分野において以下の化学式(C8H12N4O5)及び構造を有する5-アザ-2-デオキシシチジンとしても公知であるアザシチジンである(Kaminskas et al 2004;Estey et al 2013)。
【0176】
特定の実施形態において、DNAメチルトランスフェラーゼ阻害剤は、以下の式(C8H12N4O4)を有する5-アザ-2’-デオキシシチジンとしても公知であるデシタビンである(Kantarjian et al 2006)。
【0177】
特定の実施形態において、MHC発現及び/又は免疫応答の活性化因子は、ヒストン-リジンN-メチルトランスフェラーゼ酵素阻害剤又はDNAメチルトランスフェラーゼ阻害剤である。本明細書中で使用するように、用語「ヒストン-リジンN-メチルトランスフェラーゼ酵素阻害剤」は、DNAメチル化に含まれるzeste相同体1(EZH1)及び2(EZH2)遺伝子のエンハンサーによりコードされるヒストン-リシンN-メチルトランスフェラーゼ酵素と相互作用することが可能な化合物を指す。EZH2は、コファクターS-アデノシル-L-メチオニンを使用することにより、リジン27でヒストンH3へのメチル基の付加を触媒する。
【0178】
特定の実施形態において、ヒストン-リジンN-メチルトランスフェラーゼ酵素阻害剤は3-デアザネプラノシンA(DZNep、C-c3Ado)である。DZNep、C-c3Adoは、当技術分野において以下の化学式C12H14N4O3及びCAS番号102052-95-9を有する。
【0179】
特定の実施形態において、ヒストン-リジンN-メチルトランスフェラーゼ酵素阻害剤はUNC1999及び不活性な類似体化合物である。UNC1999は、当技術分野において以下の化学式C33H43N7O2及びCAS番号1431612-23-5を有する。
【0180】
特定の実施形態において、ヒストン-リシンN-メチルトランスフェラーゼ酵素阻害剤はUNC2400及び不活性な類似化合物である。UNC2400は、当技術分野において以下の化学式C35H47N7O2及びCAS番号1433200-49-7を有する。
【0181】
特定の実施形態において、ヒストン-リジンN-メチルトランスフェラーゼ酵素阻害剤はタゼメトスタット(EPZ6438、E7438)である。タゼメトスタットは、当技術分野において以下の化学式C34H44N4O4及びCAS番号1403254-99-8を有する。
【0182】
特定の実施形態において、ヒストン-リジンN-メチルトランスフェラーゼ酵素阻害剤はトリフルオロアセテート(EPZ011989)である。トリフルオロアセテートは、当技術分野において以下の化学式CF3COONa及びCAS番号2923-18-4を有する。
【0183】
特定の実施形態において、ヒストン-リジンN-メチルトランスフェラーゼ酵素阻害剤はEPZ005687である。EPZ005687は、当技術分野において以下の化学式C32H37N5O3及びCAS番号1396772-26-1を有する。
【0184】
特定の実施形態において、ヒストン-リシンN-メチルトランスフェラーゼ酵素阻害剤はGSK343である。GSK343は、当技術分野において以下の化学式C31H39N7O2及びCAS番号1346704-33-3を有する。
【0185】
特定の実施形態において、ヒストン-リシンN-メチルトランスフェラーゼ酵素阻害剤はGSK126である。GSK126は、当技術分野において以下の化学式C31H38N6O2及びCAS番号1346574-57-9を有する。
【0186】
特定の実施形態において、ヒストン-リシンN-メチルトランスフェラーゼ酵素阻害剤はGSK2816126である。GSK2816126は、当技術分野において以下の化学式C31H38N6O2及びCAS番号1346574-57-9を有する。
【0187】
特定の実施形態において、ヒストン-リジンN-メチルトランスフェラーゼ酵素阻害剤はZLD1039である。ZLD1039は、当技術分野において以下の化学式C36H48N6O3及びCAS番号1826865-46-6を有する。
【0188】
HDACi及びDNAメチルトランスフェラーゼ阻害剤の両方を使用することも想定する。
【0189】
実際に、VPA及び5-アザシチジン(DNA及びRNA中に取り込ませることができるヌクレオシドシチジンの類似体)の併用によって、ネオ抗胚性抗原の再発現に対する相乗効果に導かれることが示されている。
【0190】
HDACiは、治療的に効率的な量で投与する。VPAについては、それは10~15mg/kg/日、60mg/kg/日まででありうる。VPAの血漿レベルは、好ましくは通常許容される治療範囲(50~100μg/ml)であるべきである。
【0191】
さらなる態様において、本発明に従った方法は、ヒト胚性幹細胞(hESC)又はヒト誘導性多能性幹細胞(hiPSC)と発現を共有する多数の胚性抗原を発現する癌を処置するために適切である(例、胚性抗原3(SSEA3)、SSEA4、TRA-1-60、TRA-1-81、Oct4、Sox2、Klf4、Nanog、Lin28・・・)。
【0192】
本明細書中で使用するように、用語「ヒト幹細胞を発現する癌」は、本明細書中に開示する方法、ワクチン、及び組成物により好ましくは標的化される癌であり、ヒト胚性幹細胞又は誘導性多能性幹細胞(iPSC)と発現を共有する多数の胚性抗原を発現する癌幹細胞 (hESC)を指す。典型的には、癌は、膀胱癌、乳癌、子宮頸癌、胆管癌、結腸直腸癌、胃肉腫、神経膠腫、肺癌、リンパ腫、急性及び慢性リンパ性ならびに骨髄性白血病、黒色腫、多発性骨髄腫、骨肉腫、卵巣癌、膵臓癌、前立腺癌、胃癌、腎臓癌、頭頸部腫瘍、及び固形腫瘍からなる群より選択される。
【0193】
本明細書中で使用するように、用語「投与する」又は「投与」は、粘膜、皮内、静脈内、皮下、筋肉内送達及び/又は本明細書中に記載する、又は当技術分野において公知の任意の他の物理的送達の方法などにより、物質が体外に存在する場合(例、複合調製物)にそれを被験体に注射するか、又はそうでなければ物理的に送達する行為を指す。疾患又はその症状を処置する場合、その物質の投与は、典型的には、疾患又はその症状の発症の後に生じる。疾患又はその症状を防止している場合、その物質の投与は、典型的には、疾患又はその症状の発症の前に生じる。
【0194】
好ましい実施形態において、ワクチン組成物(多能性細胞+MHC提示を刺激する薬剤)を皮下注射する。注射は、同じ注射時点で、又は異なる注射時点で、同じシリンジ中で、異なるシリンジ中で、同時、連続的、別々であってもよい・・・。
【0195】
好ましい実施形態において、追跡処置(MHC I及び/又は免疫系、例えばHDACiなど、特にVPAを刺激する化合物の投与)を経口経路により投与する。
【0196】
「治療的に効果的な量」は、被験体に治療的利益を与えるために必要である最小量の活性薬剤について意図する。例えば、被験体への「治療的に効果的な量」は、障害に罹患することに関連付けられる病理学的症状、疾患進行、又は生理学的状態における改善又はそれへの耐性を起こす量である。本発明の化合物の1日総使用量は健全な医学的判断の範囲内で主治医により決定されることが理解されるであろう。任意の特定の被験体のための特定の治療的に効果的な用量レベルは、処置される障害及び障害の重症度;用いられる特定の化合物の活性;用いられる特定の組成物、被験体の年齢、体重、全身の健康状態、性別、及び食事;投与の時間、投与の経路、及び用いられる特定の化合物の排泄速度;処置の期間;用いられる特定の化合物との組み合わせにおいて又は同時に使用される薬物;及び医学分野において周知の同様の因子を含む様々な因子に依存する。例えば、所望の治療効果を達成するために要求されるレベルより低いレベルで化合物の用量を開始し、所望の効果が達成されるまで投与量を徐々に増加させることは、十分に当業者の範囲内である。しかし、産物の1日投与量は、1日当たり、成人1人当たり0.01~1000mgの広い範囲にわたって変動させてもよい。典型的には、組成物は、処置される被験体への投与量の対症的な調整のために、0.01、0.05、0.1、0.5、1.0、2.5、5.0、10.0、15.0、25.0、50.0、100、250及び500mgの活性成分を含む。医薬は、典型的には、約0.01mg~約500mgの活性成分、好ましくは約1mg~約100mgの活性成分を含む。薬物の効果的な量は、通常、0.0002mg/kg~約20mg/kg体重/日、特に約0.001mg/kg~7mg/kg体重/日の投与量レベルで供給する。
【0197】
特定の実施形態において、本発明に従った方法は、放射線治療、標的治療、免疫療法、又は化学療法の1つ又は複数をさらに含む。典型的には、医師は、i)多能性細胞の集団及びii)放射線治療、標的治療、免疫療法、又は化学療法との複合調製物としての、MHC発現及び/又は免疫応答を活性化する群より選択される化合物と共に被験体に投与することを選ぶことができうる。
【0198】
一部の実施形態において、被験体には、i)多能性細胞の集団及びii)複合調製物及び化学療法剤としての、MHC発現及び/又は免疫応答を活性化する群より選択される化合物を用いて投与する。
【0199】
用語「化学療法剤」は、腫瘍成長を阻害するのに効果的である化学的な化合物を指す。化学療法剤の例は、アルキル化剤(例えばチオテパ及びシクロホスファミドなど);アルキルスルホン酸(例えばブスルファン、インプロスルファン、及びピポスルファンなど);なアジリジン(例えばベンゾドーパ、カルボクオン、メツレドーパ、及びウレドーパなど);エチレンアミン及びメチロールメラミン(methylamelamines)(アルトレタミン、トリエチレンメラミン、トリメチレンホスホラミド、トリエチレンチオホスファラミド、及びトリメチロールメラミンを含む);アセトゲニン(特にブラタシン及びブラタシノン);カルノプトテシン(合成類似体トポテカンを含む);ブリオスタチン;カリスタチン;CC-1065(そのアドゼレシン、カルゼレシン、及びビゼレシン合成類似体を含む);クリプトフィシン(特にクリプトフィシン1及びクリプトフィシン8);ドラスタチン;デュオカルマイシン(合成類似体、KW-2189、及びCBI-TMIを含む);エレウテロビン;パンクラチスタチン;サルコジチイン;スポンジスタチン;ナイトロジェンマスタード(例えばクロラムブシル、クロルナファジン、コロホスファミド、エストラムスチン、イホスファミド、メクロレタミン、メクロレタミンオキシド塩酸、メルファラン、ノベムビシン、フェネステリン、プレドニムスチン、トロンフォスファミド、ウラシルマスタードなど);ニトロソウレア(例えばカルムスチン、クロロゾトシン、フォテムスチン、ロムスチン、ニムスチン、ラニムスチン;抗生物質、例えばエンジイン抗生物質など(例、カリケアマイシン、特にカリケアマイシン(11及びカリケアマイシン211、例えば、Agnew Chem Intl. Ed. Engl. 33:183-186 (1994)を参照のこと);ダイネミシン(ダイネミシンAを含む);エスペラミシン;ならびにネオカルチノスタチン発色団及び関連する色素タンパク質エンジイン抗生物質発色団)、アクラシノマイシン、アクチノマイシン、アントラマイシン(authramycin)、アザセリン、ブレオマイシン、カクチノノマイシン、カラビシン、カンニノマイシン、カルジノフィリン、クロモマイシン、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、デトルビシン、6-ジアゾ-5-オキソ-L-ノルロイシン、ドキソルビシン( モルホリノ-ドキソルビシン、シアノモルホリノ-ドキソルビシン、2-ピロリノ-ドキソルビシン、及びデオキシドキソルビシン)、エピルビシン、エソルビシン、イダルビシン(idanrbicin)、マルセロマイシン、マイトマイシン、ミコフェノール酸、ノガラマイシン(nogalarnycin)、オリボマイシン、ペプロマイシン、ポトフィロマイシン、ピューロマイシン、ケラマイシン、ロドルビシン、ストレプトニグリン(streptomgrin)、ストレプトゾシン、ツベルシジン、ウベニメクス、ジノスタチン、ゾルビシン;代謝拮抗物質(例えばメトトレキセート及び5-フルオロウラシル(5-FU)など);葉酸類似体(例えばデノプテリン、メトトレキセート、プテプテテリン、トリメトレキセートなど);プリン類似体(例えばフルダラビン、6-メルカプトプリン、チアミプリン、チオグアニンなど);ピリミジン類似体(例えばアザシチジン、6-アザウリジン、カルモフール、シタラビン、ジデオキシウリジン、ドキシフルリジン、エノシタビン、フロクスウリジン、5-FUなど;アンドロゲン(例えばカルテストロン、プロピオン酸ドロスタノロン、エピチオスタノール、メピトステスタン、テストラクトンなど);抗副腎薬(例えばアミノグルテチミド、ミトタン、トリロスタンなど);葉酸補充剤(例えばフミン酸など);アセグラトン;アルドホスファルニドグリコシド;アミノレブリン酸;アムサクリン;ベストラブシル;ビスアントレン;エダトレキサート;デフォファミン;デメコルシン;ジアジコン;エルフォルニチン;酢酸エリプチニウム;エポチロン;エトグルシド;硝酸ガリウム;ヒドロキシウレア;レンティナン;ロニダミン;マイタンシノイド、例えばメイタンシン及び アンサマイトシン;ミトグアゾン;ミトキサントロン;モピダモール;ニトラシン;ペントスチン;フェナメット;ピラルビシン;ポドフィリン酸;2-エチルヒドラジド;プロカルバジン;PSK(登録商標);ラゾキサン;リゾキシン;シゾフィラン;スピロゲンナニウム;テヌアゾン酸;トリアジクオン;2,2’,2”-トリクロロトリエチルアミン(trichlorotriethylarnine);トリコテセン(特にT-2毒素、ベラクリンA、ロリジンA、及びアンギジン);ウレタン;ビンデシン;ダカルバジン;マンノムスチン;ミトブロムトール;ミトラクトール;ピポブロマン;ガシトシン;アラビノシド(「Ara-C」)シクロホスファミド;チオテパ;タキソイド、例、パクリタキセル(TAXOL(登録商標)、Bristol-Myers Squibb Oncology、ニュージャージー州プリンストン)及びドセタキセル(TAXOTERE(登録商標)、Rhone-Poulenc Rorer、フランス、アントニー);クロラムブシル;ゲムシタビン;6-チオグアニン;メルカプトプリン;メトトレキサート;プラチナ類似体(例えばシスプラチン及びカルボプラチンなど);ビンブラスチン;白金;エトポシド(VP-16);イホスファミド;マイトマイシンC;ミトキサントロン;ビンクリスチン;ビノレルビン;ナベルビン;ノヴァントロン;テニポシド;ダウノマイシン;アミノプテリン;ゼローダ;イバンドロン酸塩;CPT-11;トポイソメラーゼ阻害剤RFS 2000;ジフルオロメチルオルニチン(DMFO);レチノイン酸;カペシタビン;ならびに上記のいずれかの医薬的に許容可能な塩、酸、又は誘導体を含む。またこの定義に含まれるのは、腫瘍に対するホルモン作用を調節又は阻害するよう作用する抗ホルモン剤、例えば抗エストロゲンなど(例えば、タモキシフェン、ラロキシフェン、アロマターゼ阻害性4(5)-イミダゾール、4-ヒドロキシタモキシフェン、トリオキシフェン、ケオキシフェン、LY117018、オナプリストン、及びトレミフェン(Fareston)を含む);ならびに抗アンドロゲン剤、例えばフルタミド、ニルタミド、ビカルタミド、ロイプロリド、及びゴセレリンなどの;ならびに上記のいずれかの医薬的に許容さ可能な塩、酸、又は誘導体である。
【0200】
一部の実施形態において、被験体には、i)多能性細胞の集団及びii)複合調製物及び標的癌治療としての、MHC発現及び/又は免疫応答を活性化する群より選択される化合物を投与する。
【0201】
標的癌治療は、癌の成長、進行、及び伝播に含まれる特定の分子(「分子標的」)に干渉することにより癌の成長及び伝播を遮断する薬物又は他の物質である。標的癌治療は、「分子標的薬物」、「分子標的治療」、「高精度医療」、又は類似の名称で呼ばれることもある。一部の実施形態において、標的治療は、チロシンキナーゼ阻害剤を用いて被験体に投与することからなる。用語「チロシンキナーゼ阻害剤」は、受容体及び/又は非受容体チロシンキナーゼの選択的又は非選択的阻害剤として作用する種々の治療的薬剤又は薬物のいずれかを指す。チロシンキナーゼ阻害剤及び関連化合物は、当技術分野において周知であり、米国特許出願公開第2007/0254295号に記載されており、その全体において参照により本明細書中に組み入れられる。チロシンキナーゼ阻害剤に関連する化合物は、チロシンキナーゼ阻害剤の効果を再現することが当業者には理解されるであろう。例えば、関連化合物は、チロシンキナーゼシグナル伝達経路の異なる構成要素に作用し、そのチロシンキナーゼのチロシンキナーゼ阻害剤と同じ効果を有するであろう。本発明の実施形態の方法における使用のための適切なチロシンキナーゼ阻害剤及び関連化合物の例は、限定しないが、ダサチニブ(BMS-354825)、PP2、BEZ235、サラカチニブ、ゲフィチニブ(Iressa)、スニチニブ(Sutent;SU11248)、エルロチニブ(Tarceva;OSI-1774)、ラパチニブ(GW572016;GW2016)、カネルチニブ(CI 1033)、セマキシニブ(SU5416)、バタラニブ(PTK787/ZK222584)、ソラフェニブ(BAY 43-9006)、イマチニブ(Gleevec;STI571)、レフルノミド (SU101)、バンデタニブ(Zactima;ZD6474)、ベバシズマブ(avastin)、MK-2206(8-[4-アミノシクロブチル]フェニル)-9-フェニル-1,2,4-トリアゾロ[3,4-f] [1,6]ナフチリジン-3(2H)-オン塩酸)誘導体、これらの類似体、及びこれらの組み合わせを含む。追加のチロシンキナーゼ阻害剤及び本発明における使用のために適切な関連化合物は、例えば、米国特許出願公開第2007/0254295号、米国特許第5,618,829号、第5,639,757号、第5,728,868号、第5,804,396号、第6,100,254号、第6,127,374号、第6,245,759号、第6,306,874号、第6,313,138号、第6,316,444号、第6,329,380号、第6,344,459号、第6,420,382号、第6,479,512号、第6,498,165号、第6,544,988号、第6,562,818号、第6,586,423号、第6,586,424号、第6,740,665号、第6,794,393号、第6,875,767号、第6,927,293号、及び第6,958,340号に記載されており、これらの全てを、その全体について参照により本明細書中に組み入れる。特定の実施形態において、チロシンキナーゼ阻害剤は、経口投与され、少なくとも1つの第I相臨床試験、より好ましくは少なくとも1つの第II相臨床試験、さらにより好ましくは少なくとも1つの第 III相臨床試験の対象であり、及び最も好ましくは少なくとも1つの血液学的又は腫瘍学的徴候についてFDAにより承認されている小分子キナーゼ阻害剤である。そのような阻害剤の例は、限定しないが、ゲフィチニブ、エルロチニブ、ラパチニブ、カネルチニブ二、BMS-599626(AC-480)、ネラチニブ、KRN-633、CEP-11981、イマチニブ、ニロチニブ、ダサチニブ、AZM-475271、CP-724714、TAK-165、スニチニブ、バタラニブ、CP-547632、バンデタニブ、ボスチニブ、レスタウルチニブ、タンデトニブ、ミドスタウリン、エンザスタウリン、AEE-788、パゾパニブ、アクチニビブ、モタセニブ、OSI-930、セディラニブ、KRN-951、ドビチニブ、セリシクリブ、SNS-032、PD-0332991、MKC-I(RO-317453、R-440)、ソラフェニブ、ABT-869、ブリバニブ(BMS-582664)、SU-14813、テラチニブ、SU-6668、(TSU-68)、L-21649、MLN-8054、AEW-541、及びPD-0325901を含む。
【0202】
一部の実施形態において、被験体には、i)多能性細胞の集団及びii)複合調製物及び免疫チェックポイント阻害剤としての、MHC発現及び/又は免疫応答を活性化する群より選択される化合物を用いて投与する。
【0203】
本明細書中で使用するように、用語「免疫チェックポイント阻害剤」は、1つ又は複数のチェックポイントタンパク質を完全に又は部分的に低下、阻害、干渉、又は調節する分子を指す。チェックポイントタンパク質は、T細胞の活性化又は機能を調節する。多数のチェックポイントタンパク質が公知であり、例えばCTLA-4及びそのリガンドCD80ならびにCD86;ならびにそのリガンドPDL1及びPDL2を伴うPD1である(Pardoll, Nature Reviews Cancer 12: 252-264, 2012)。これらのタンパク質は、T細胞応答の同時刺激又は阻害相互作用に関与する。免疫チェックポイントタンパク質は、自己寛容ならびに生理学的免疫応答の期間及び振幅を調節及び維持する。免疫チェックポイント阻害剤は抗体を含む又は抗体から由来する。一部の実施形態において、免疫チェックポイント阻害剤は、抗CTLA4抗体(例、イピリムマブ)、抗PD1抗体(例、ニボルマブ、ペンブロリズマブ)、抗PDL1抗体、抗TIM3抗体、抗LAG3抗体、抗B7H3抗体、抗B7H4抗体、抗BTLA抗体、及び抗B7H6抗体からなる群より選択される抗体である。抗CTLA-4抗体の例は、米国特許第5,811,097号;第5,811,097号;第5,855,887号;第6,051,227号;第6,207,157号;第6,682,736号;第6,984,720号;及び第7,605,238号において記載されている。1つの抗CTLA-4抗体は、トレメリムマブ(チシリムマブ、CP-675,206)である。一部の実施形態において、抗CTLA-4抗体は、CTLA-4に結合する完全ヒトモノクローナルIgG抗体であるイピリムマブ(10D1、MDX-D010としても公知である)である。別の免疫チェックポイントタンパク質はプログラム細胞死1(PD-1)である。PD-1及びPD-L1遮断薬の例は、米国特許第7,488,802号;第7,943,743号;第8,008,449号;第8,168,757号;PCT公開特許出願WO03042402、WO2008156712、WO2010089411、WO2010036959、WO2011066342、WO2011159877、WO2011082400、及びWO2011161699に記載されている。一部の実施形態において、PD-1遮断薬は抗PD-L1抗体を含む。特定の他の実施形態において、PD-1遮断薬は、抗PD-L1抗体及び同様の結合タンパク質、例えばニボルマブ(MDX 1106、BMS 936558、ONO 4538)(PD-1遮断薬に結合し、そのリガンドPD-L1及びPD-L2によりPD-1の活性化をブロックする完全ヒトIgG4抗体);ラムロリツズマブ(MK-3475又はSCH 900475)(PD-1に対するヒト化モノクローナルIgG4抗体;CT-011(PD-1に結合するヒト化抗体)などを含み;AMP-224は、B7-DCの融合タンパク質;抗体Fc部分;PD-L1(B7-H1)遮断のためのBMS-936559(MDX-1105-01)である。他の免疫チェックポイント阻害剤は、リンパ球活性化遺伝子3(LAG-3)阻害剤、例えばIMP321(可溶性Ig融合タンパク質)などを含む(Brignone et al., 2007, J. Immunol. 179:4202-4211)。他の免疫チェックポイント阻害剤は、B7阻害剤(例えばB7-H3及びB7-H4阻害剤など)を含む。特に、抗B7-H3抗体MGA271(Loo et al., 2012, Clin. Cancer Res. July 15 (18) 3834)。また、TIM3(T細胞免疫グロブリンドメイン及びムチンドメイン3)阻害剤を含む(Fourcade et al., 2010, J. Exp. Med. 207:2175-86及びSakuishi et al., 2010, J. Exp. Med. 207:2187-94)。一部の実施形態において、免疫療法的処置は養子免疫療法からなり、Nicholas P. Restifo, Mark E. Dudley及びSteven A. Rosenberg(Adoptive immunotherapy for cancer: harnessing the T cell response, Nature Reviews Immunology, Volume 12, April 2012)により記載される通りである。養子免疫療法では、患者の循環リンパ球又は腫瘍浸潤リンパ球をインビトロで単離し、リンフォカイン(例えばIL-2など)により活性化させ、再投与する(Rosenberg et al., 1988; 1989)。活性化されたリンパ球は、最も好ましくは、血液サンプルからより早期に単離されて、インビトロで活性化(又は「増殖」)された患者自身の細胞である。
【0204】
一部の実施形態において、被験体は、i)多能性細胞の集団及びii)複合調製物及び放射線療法剤としての、MHC発現及び/又は免疫応答を活性化する群より選択される化合物を用いて投与する。
【0205】
本明細書中で使用する用語「放射線療法剤」は、限定しないが、癌を処置又は寛解するのに効果的であることが当業者に公知である任意の放射線療法剤を指す。例えば、放射線療法剤は、近接照射療法又は放射性核種療法において投与されるような薬剤でありうる。そのような方法は、場合により、1つ又は複数の追加の癌療法(例えば、限定しないが、化学療法及び/又は別の放射線療法など)の投与をさらに含むことができる。
【0206】
医薬品及びワクチン組成物
【0207】
上に記載するMHC発現及び/又は免疫応答を活性化する化合物ならびに多能性細胞の集団は、医薬的に許容可能な賦形剤、及び、場合により、徐放性マトリックス、例えば生分解性ポリマーなどと組み合わせて医薬組成物を形成してもよい。
【0208】
「医薬的に」又は「医薬的に許容可能な」は、哺乳動物、特にヒトに適宜投与された場合に、有害な、アレルギー性の、又は他の不都合な反応を産生しない分子実体及び組成物を指す。医薬的に許容可能な担体又は賦形剤は、任意の型の非毒性の固体、半固体もしくは液体の充填剤、希釈剤、カプセル化材料、又は製剤補助剤を指す。経口、舌下、皮下、筋肉内、静脈内、経皮、局所、又は直腸投与のための本発明の医薬組成物は、有効成分を単独又は他の有効成分と組み合わせて、単位投与形態で、従来の医薬的支持体との混合物として、動物及びヒトに投与することができる。適切な単位投与形態は、経口経路形態、例えば錠剤、ゲルカプセル、粉末、顆粒、及び経口懸濁液又は溶液、舌下及び頬側投与形態、エアロゾル、インプラント、皮下、経皮、局所、腹腔内、筋肉内、静脈内、皮下、経皮、くも膜下腔内及び鼻腔内投与形態ならびに直腸投与形態などを含む。典型的には、医薬組成物は、注射することが可能な製剤のための、医薬的に許容可能な媒体を含む。これらは、特に、場合に依存して、滅菌水又は生理食塩水の添加時に注射溶液の構成を可能にする等張性の無菌生理食塩水(リン酸一ナトリウム又はリン酸二ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、もしくは塩化マグネシウムなど又はそのような塩の混合物)又は乾燥した特に凍結乾燥した組成物であってもよい。注射使用のための適切な医薬形態には、滅菌水溶液又は分散液;ゴマ油、ピーナッツ油、又は水性プロピレングリコールを含む製剤;及び滅菌注射溶液又は分散液の即時調製のための滅菌粉末を含む。全ての場合において、形態は無菌でなければならず、簡単な注射可能性が存在する範囲まで流動性でなければならない。それは、製造及び貯蔵の条件下で安定でなければならず、微生物(例えば細菌及び真菌など)の汚染作用に対して保存されなければならない。遊離塩基又は薬理学的に許容可能な塩として本発明の化合物を含む溶液は、界面活性剤(例えばヒドロキシプロピルセルロースなど)と適切に混合された水中で調製することができる。分散液は、グリセロール、液体ポリエチレングリコール、及びそれらの混合物中ならびに油中で調製することもできる。通常の保存及び使用条件下では、これらの調製物は微生物の成長を防止するための保存剤を含む。ポリペプチド(又はそれをコードする核酸)は、中性又は塩形態の組成物に処方することができる。医薬的に許容可能な塩は、酸付加塩(タンパク質の遊離アミノ基と形成される)を含み、無機酸、例えば塩酸もしくはリン酸、又は酢酸、シュウ酸、酒石酸、マンデル酸などの有機酸と形成される。遊離カルボキシル基で形成される塩は、無機塩基、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、水酸化カルシウム、又は水酸化第二鉄など及びイソプロピルアミン、トリメチルアミン、ヒスチジン、プロカインなどの有機塩基から誘導することもできる。担体はまた、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、及び液体ポリエチレングリコールなど)、それらの適切な混合物、及び植物油を含む溶媒又は分散液であってもよい。適当な流動性は、例えば、コーティング(例えばレシチンなど)の使用により、分散液の場合において要求される粒子サイズの維持により、及び界面活性剤の使用により維持することができる。微生物の作用の防止は、種々の抗菌剤及び抗真菌剤、例えばパラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサールなどによりもたらすことができる。多くの場合において、等張剤(例えば糖又は塩化ナトリウムなど)を含むことが好ましいであろう。注射用組成物の持続的な吸収は、吸収を遅延させる薬剤、例えば、モノステアリン酸アルミニウム及びゼラチンの組成物中での使用によりもたらすことができる。滅菌注射溶液を、要求に応じて、上に列挙した他の成分のいくつかと適当な溶媒中に要求量の活性ポリペプチドを組み入れ、その後に濾過滅菌することにより調製する。一般的に、分散液は、種々の滅菌された活性成分を、基本的な分散媒質及び上に列挙するものからの、要求される他の成分を含む滅菌媒体中に組み入れることにより調製する。滅菌注射溶液の調製のための滅菌粉末の場合において、好ましい調製方法は、有効成分+以前に滅菌濾過したその溶液からの任意の追加の所望の成分の粉末を生じる真空乾燥及び凍結乾燥技術である。処方時、溶液は、投薬製剤と適合する様式で、治療的に効果的な量で投与する。製剤は、種々の剤形(例えば上に記載する注射用溶液の型など)で簡単に投与されるが、薬物放出カプセルなども用いることができる。水溶液中での非経口投与のためには、例えば、溶液は必要に応じて適切に緩衝化し、液体希釈剤は最初に十分な生理食塩水又はグルコースを用いて等張にすべきである。これらの特定の水溶液は、特に、静脈内、筋肉内、皮下、及び腹腔内投与のために適切である。これに関連して、用いることができる滅菌水性媒質は、本開示に照らして当業者に公知であろう。例えば、1つの投与量を1mlの等張性NaCl溶液中に溶解し、1000mlの皮下注入液に加えるか、又は提示された注入部位に注射することができる。投与量の一部の変動は、処置される被験体の状態に依存して必然的に生じるであろう。投与を担当する者は、任意の事象において、個々の被験体のための適当な用量を決定するであろう。
【0209】
特に、多能性細胞の集団及びMHC発現及び/又は免疫応答を活性化する化合物は、ワクチン組成物で処方する。したがって、本発明は、i)多能性細胞の集団及びii)MHC発現及び/又は免疫応答を活性化する群より選択される化合物を含むワクチン組成物に関する。
【0210】
特定の実施形態において、本発明に従ったワクチン組成物は、i)ヒト胚性幹細胞及びii)バルプロ酸を含む。
【0211】
特定の実施形態において、i)ネオ抗原を発現する、特に変異原性薬剤又は遺伝子改変により増強された誘導性多能性幹細胞(iPSC)及びii)バルプロ酸を含む、本発明に従ったワクチン組成物。
【0212】
組成物はまた、5アザシチジンを含んでもよい。
【0213】
さらに、本発明のワクチン組成物は、上に記載するように、癌に苦しむ被験体において使用することができる。
【0214】
本発明に従ったワクチン組成物は、免疫原性組成物と同様の様式において、上記の生理学的賦形剤を用いて処方することができる。例えば、医薬的に許容可能な媒体は、限定しないが、リン酸緩衝食塩水、蒸留水、エマルジョン(例えば油/水エマルジョンなど)、種々の型の湿潤剤、無菌溶液などを含む。アジュバント、例えばムラミルペプチド(例えばMDPなど)、IL-12、リン酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、ミョウバン及び/又はモンタニド(登録商標)などをワクチン中に使用することができる。
【0215】
本発明に従ったワクチン組成物は、皮下(s.c)、皮内(i.d.)、筋肉内(i.m.)、又は静脈内(i.v.)注射、経口投与及び鼻腔内投与又は吸入投与により投与することができる。ワクチンの投与は、通常、単回用量である。あるいは、本発明のワクチンの投与が最初に作られ(最初のワクチン接種)、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、32、33、34,35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77,78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、又は100のリコール(その後の投与)が続き、幹細胞の同じ集団、免疫系を刺激する化合物もしくはそれらの組み合わせを用いる、及び/又は放射線治療、標的治療、免疫療法、又は化学療法のさらなる1つ又は複数と組み合わせを用いる。
【0216】
ワクチン組成物はまた、キット中で提供する。キットは、ワクチン組成物及び免疫化のための指示を提供する情報パンフレットを含む。キットはまた、産物の投与のための全ての材料を含む。
【0217】
本発明を、以下の図面及び実施例によりさらに例証する。しかし、これらの実施例及び図面は、決して本発明の範囲を限定するものとして解釈すべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0218】
【
図1】乳房腫瘍4T1モデルでのmESC、hESC、miPSC、及び4T1細胞を用いたワクチン接種試験。試験デザイン:マウス(1群当たり5匹)は、10
5個の照射細胞;マウス胚性幹細胞(mESC)、マウス誘導性多能性幹細胞(miPSC)、ヒト胚性幹細胞(hESC)、又は4T1細胞を用いて7及び14日間のワクチンの2回の追加免疫を受けた。14日後、5×10
4個の4T1細胞をマウスの乳房脂肪パッド中に注射した。5匹のマウスに、4T1-CSC(マンモスフェアの形態でCSC成長を生成するために、追加のサイトカイン、例えばTGFベータ及びTNFアルファなどを用いた4T1細胞成長)を注射した。
【
図2A】ワクチン接種後の免疫保護。A;フローサイトメトリーによるCD4陽性腫瘍浸潤リンパ球(TIL)の定量化。B;CD4+TIL内のフローサイトメトリーによるCD25陽性調節性T細胞の定量化。C;マウスの群に関するCD8+T細胞内のフローサイトメトリーによるPD1調節性T細胞の定量化。
【
図2B】ワクチン接種後の免疫保護。A;フローサイトメトリーによるCD4陽性腫瘍浸潤リンパ球(TIL)の定量化。B;CD4+TIL内のフローサイトメトリーによるCD25陽性調節性T細胞の定量化。C;マウスの群に関するCD8+T細胞内のフローサイトメトリーによるPD1調節性T細胞の定量化。
【
図2C】ワクチン接種後の免疫保護。A;フローサイトメトリーによるCD4陽性腫瘍浸潤リンパ球(TIL)の定量化。B;CD4+TIL内のフローサイトメトリーによるCD25陽性調節性T細胞の定量化。C;マウスの群に関するCD8+T細胞内のフローサイトメトリーによるPD1調節性T細胞の定量化。
【
図3A】4T1マウスモデルでのVPAと組み合わせたhESCを用いたワクチン接種試験。試験デザイン:マウス(n=5/群)は、VPAを伴う又は伴わない10
5個の照射細胞hESCを用いた7及び14日間のワクチンの2回の追加免疫を受けた。14日後、5×10
4個の4T1細胞をマウスの乳房脂肪パッド中に注射した。A;各々の群についての腫瘍容積:1/対照(PBS)、2/hESCを用いたワクチン接種、3/VPAを組み合わせたhESCを用いたワクチン接種、4/VPAだけを受けたマウス。B:44日目の腫瘍重量。
【
図3B】4T1マウスモデルでのVPAと組み合わせたhESCを用いたワクチン接種試験。試験デザイン:マウス(n=5/群)は、VPAを伴う又は伴わない10
5個の照射細胞hESCを用いた7及び14日間のワクチンの2回の追加免疫を受けた。14日後、5×10
4個の4T1細胞をマウスの乳房脂肪パッド中に注射した。A;各々の群についての腫瘍容積:1/対照(PBS)、2/hESCを用いたワクチン接種、3/VPAを組み合わせたhESCを用いたワクチン接種、4/VPAだけを受けたマウス。B:44日目の腫瘍重量。
【
図4A】hESCワクチン接種及びVPA後の免疫防御:A;CD4及びCD8集団内の脾臓におけるPD1細胞の減少。B、腫瘍中のCD4+及びCD8+T細胞の増加。C:脾臓におけるCD4+及びCD8+T細胞の増加。
【
図4B】hESCワクチン接種及びVPA後の免疫防御:A;CD4及びCD8集団内の脾臓におけるPD1細胞の減少。B、腫瘍中のCD4+及びCD8+T細胞の増加。C:脾臓におけるCD4+及びCD8+T細胞の増加。
【
図4C】hESCワクチン接種及びVPA後の免疫防御:A;CD4及びCD8集団内の脾臓におけるPD1細胞の減少。B、腫瘍中のCD4+及びCD8+T細胞の増加。C:脾臓におけるCD4+及びCD8+T細胞の増加。
【
図5】4群(対照、hESC、hESC+ VPA、VPA)の各々の動物についての解剖後の肺でのIVISスペクトルシステムによるルシフェラーゼレポーター遺伝子の定量化。
【
図6A】0.5mMのVPAで5日間処理した4T1細胞及び4T1 CSC(マンモスフェア)でのリアルタイムPCRによる多能性(puripotent)遺伝子の発現。
【
図6B】0.5mMのVPAで5日間処理した4T1細胞及び4T1 CSC(マンモスフェア)でのリアルタイムPCRによる多能性(puripotent)遺伝子の発現。
【
図7A】RT PCR及びリアルタイムPCRによるVPA及び5Azaを用いて処理した4T1におけるOct4の発現。
【
図7B】RT PCR及びリアルタイムPCRによるVPA及び5Azaを用いて処理した4T1におけるOct4の発現。
【
図8】ENUにより処理された、又はされていないiPSCにおけるネオ抗原のタンパク質配列を変化させる遺伝子変異体のエクソーム配列決定による検出。ENU処理iPSC及び無処理iPSCにおける変異体の定量化(NS=非同義語、FS=フレームシフト、SG=得られた停止)。
【0219】
実施例:
【0220】
実施例1
【0221】
胎児組織は、皮膚、肝臓、及び胃腸管の癌を含む移植可能な腫瘍を拒絶することができるマウスを免疫化するために使用できることが報告されている。この応答は、それらの腫瘍細胞が多数の癌胚性抗原を発現するとの事実により説明される。今日まで、いくつかのヒト癌ワクチン治験が、胚性抗原、例えば癌胚性抗原(CEA)及びアルファフェトプロテイン又は癌/精巣抗原などを標的化するために設定されている。残念ながら、1つの抗原単独を標的化することは、回避変異体の迅速な出現及び一価の癌ワクチンの一般的な非効率のために、腫瘍拒絶を媒介する強い抗腫瘍免疫応答を生成するのに十分なほど効率的でないことが示された。再生医療における幹細胞の潜在能における最近の関心によって、十分に定義された未分化ESC株ならびに表現型上及び機能的にESCに類似する未分化iPSCが広く利用可能になっている。本発明者らの試験では、本発明者らは、未分化幹細胞を多価ワクチンとして使用し、腫瘍細胞及びCSCにより共有される種々の胚性抗原に対する免疫応答を生成することができると仮定した。本発明者らは、ESC又はiPSCによって、乳癌に対する免疫応答及び臨床応答を誘導することができることを初めて見出した。驚くべきことに、本発明者らは、治療レジメンにおけるバルプロ酸の添加によって、ESC又はiPSC単独の使用と比較して、より高い免疫応答及び抗腫瘍応答を誘導することができることを見出した。
【0222】
材料及び方法
【0223】
本発明者らは、BALB/cマウスにおいて転移性4T1乳癌モデルを開発した。4T1マウスTNBC乳癌細胞株における胚性ES様マーカーを確認するために、メタ分析を、胚性細胞サンプル(D3幹細胞-GSE51782、AffymetrixプレートフォームGPL16570での注釈)を用いて、及び異なるデータセットの組込み:インビトロで培養したTNBC細胞株4T1(GSE73296、AffymetrixプレートフォームGPL6246での注釈)、マウスモデルにおいて異種移植したTNBC細胞株4T1(GSE69006、AffymetrixプレートフォームGPL6246での注釈)、及び乳腺サンプル(GSE14202、AffymetrixプレートフォームGLP339での注釈)を用いて実施した(Padovani et al. 2009)。この4T1モデルについて、balb/cマウスにおいて4T1を移植したマイクロアレイ分析により、1304の異なる遺伝子(TRAP1A、TET1、TSLP、FAM169A、ETV5、MOXD1、PHLDA2、CRIP1、ADAMDEC1、NID1、EPCAM、H2-EA-PS、GPA33、IBSP、KANK3、MEST、MMP9、SPRY4、CLDN4、PRSS22、DDAH2、SPRY2、USP11、CTNNAL1、ZFP532、GRB10、CACNG7、ST14、CTH、RCN1、PECAM1、TMEFF1、PPP1R1A、GPR97、KIF2C、BRCA2、SLAIN1、CSRP2、DOCK6、HUNK、RAD51、ESYT3、SKP2、CCL24、SFRP1、HMGB2、ITM2A、ASPN、MSH2、SUGT1、ARHGAP8など)が、マウスESCと共有されていることが示された。全てのこれらの遺伝子が、このように、通常のマウス乳腺と比較し、4T1及びmESCにおいて一般に上方調節されていることが見出された。また、異種移植4T1は、インビトロで収集された細胞と比較して、CSCマーカー(例えばCD44など)を高度に発現していることも示された(CD44highCD24lowの39%対0.27%)(示さず)。
【0224】
同じ様式において、全ゲノム発現プロファイル分析を、患者からのトリプルネガティブ乳癌(TNBC)で実施した。TNBCを伴う患者において胚性ES様マーカーを確認するために、胚性細胞サンプル及びヒト乳房サンプルを用いて実施したメタ分析を、異なるデータセットからのサンプルデータを混合することにより実施した:84の乳癌サンプルを含み、AffymetrixプレートフォームGPL570で注釈されたデータセットGSE18864(Silver et al. 2010)、ヒト正常乳房の42サンプルを含み、AffymetrixプラットフォームGPL96で注釈されたデータセットGSE20437(Graham et al. 2010)、ヒト胚性幹細胞及び誘導性多能性幹細胞の42サンプルを含み、AffymetrixプレートフォームGPL570で注釈されたデータセットGSE23402(Guenther et al. 2010)、乳癌細胞株のデータセット(Maire et al. 2013)、及びTNBC細胞株の細胞培養サンプルを含み、AffymetrixプレートフォームGPL570で注釈されたデータセットGSE36953(Yotsumoto et al. 2013)。教師付き一元配置ANOVAによって、乳癌の3つのグレードの群間で分析し、IPS及びESのサンプルを用いてトリプルネガティブ乳癌TNBCグレードIIIの大部分を分類することを可能にする4288の重要な遺伝子が同定された(CDC20、KRT81、NCAPG、MELK、DLGAP5、AURKA、ADAM8、CCNB1、RRM2、QPRT、SLAMF8、EZH2、CENPF、HN1、CENPA、SLC19A1、SLC39A4、CDK1、SEPHS1、GMDS、TUBB、SCRIB、DDX39A、YBX1、MKI67、TKT、WDR1、SKP2、ISG20、NRTN、SEC14L1、GAPDH、ILF2、PSMB2、DHTKD1、TPX2、CCNB2、IL27RA、NADK、H2AFX、MRPS18A、AURKA、MCM7、MCAM、NOP2、KIF23、JMJD4、YIPF3、CDH3、TALDO1、BID、C16orf59、HMMR、BIRC5、ZNF232、RANBP1、CDK1、SHMT2、KIF20A、EPHB4、SPAG5、PPARD、ORC6、TUBB4B、LYZ、TK1、PDXK、NAA10、BAG6、SF3B3、MARCKSL1、MCM3、PSRC1、NUSAP1などを含む)。全てのこれらの遺伝子は、このように、正常なヒト乳腺と比較して、TNBC腫瘍及びhESCにおいて一般に上方調節されることが見出された。
【0225】
結果
【0226】
結果1.異種胚性幹細胞を用いたワクチン接種によって、乳癌に対する免疫学的応答及び抗腫瘍的応答が生成される。
【0227】
本発明者らは、照射マウスESC(mESC)、マウス誘導性多能性幹細胞(マウスiPSC)、ヒト胚性幹細胞(hESC)、又は4T1細胞を用いたワクチン接種が、同系4T1マウスモデルにおける乳癌に対して効果的か否かを最初に調査した。このワクチン接種に続いて、2つの異なる型の4T1細胞を用いてマウスを攻撃した:マンモスフィアの形態で増殖する癌幹細胞(CSC)を生成するために、SVEMのDMEM10%中で正常に培養した4T1、又は追加のサイトカイン(例えばTGFベータ及びTNFアルファなど)で成長させた4T1細胞。本発明者らは、非ワクチン接種マウスとは対照的に、hESC、mESC、マウスiPSCS、及び4T1を用いてワクチン接種したマウスが、4T1癌に対する一貫した細胞性免疫応答を生成し、それは乳房腫瘍容積の有意な低下と相関することを発見した(p<0.05)(
図1)。本発明者らは、PBS対照群において腫瘍が漸進的に増殖するのに対して、顕著には、mESC、miPS、又はhESCを用いた免疫化によって腫瘍成長の遅延がもたらされ、PBS群と比較して各々の群の平均腫瘍サイズにおいて統計的に有意な差を伴うことを見出した(
図1)。本発明者らは、4T1を用いて攻撃したマウスと比較し、マウスをCSC由来4T1を用いて攻撃した場合、腫瘍成長の劇的な阻害を観察したが、それは、同系mESCのワクチン接種がCSCを優先的に標的とすることを示す正常な条件下での増殖である。抗腫瘍効果を媒介する細胞性免疫機構をさらに試験するために、本発明者らは、異なる群からの腫瘍浸潤リンパ球の表現型を分析し、CD4、CD8、CD25、及びPD1亜集団を定量化した。抗腫瘍効果は、1/腫瘍サイズと有意に(p=0.0039)相関するCD4+TILの増加(
図2A)、2/腫瘍サイズと逆相関したCD25陽性細胞のパーセンテージの減少(
図2B)、3/ワクチンレジメン(hECS、4T1、又はmESCを用いたワクチン接種)(
図2C)に対するより良好な応答を有するマウスでより顕著であるPD1陽性細胞の減少と相関した。
【0228】
結果2.バルプロ酸(VPA)と組み合わせた異種胚性幹細胞を用いたワクチン接種によって、乳癌に対するより高い抗腫瘍応答が生成され、転移発生が阻害される。
【0229】
4T1乳房モデルにおける転移部位を評価するために、4T1細胞を、GFP及びルシフェラーゼレポータータンパク質(4T1Luc-GFP)の両方を発現するように遺伝子改変し、より深い臓器(脾臓、肺、骨、肝臓)における生物発光イメージング(Ivisスペクトル)を使用したインビボでのそれらの追跡を可能にした。この実験を、以前に記載したように行ったが、ワクチンとして照射hESCのみを使用した;1群当たり5匹のマウスが、飲料水中0.40mMの用量でVPAを伴う又は伴わない10
5個の照射hESC細胞を用いて7及び14日間の2回の追加免疫を受けた。14日後、5×10
4個の4T1Luc-GFP細胞をマウスの乳房脂肪パッド中に注射した。本発明者らは、非ワクチン接種マウスとは対照的に、VPAと組み合わされたhESCを用いてワクチン接種されたマウスでは、4T1癌に対してより高い細胞性免疫応答が生成されることを発見し、それは、乳房腫瘍容積の有意な減少(p<0.05)(
図3A) 及び腫瘍重量の減少(
図3B)と相関した。抗腫瘍応答は、hESC及びVPAを受けたマウスにおけるCD4+T細胞及びCD8+T細胞の両方におけるPD-1発現の劇的な減少と相関した(
図4A)。また、抗腫瘍応答は、対照群(PBS)と比較して、もっぱら併用処置( hESC及びVPA)を受けたマウスについての腫瘍内(
図4B)及び脾臓内(
図4C)でのCD4+T及びCD8+T細胞のパーセンテージの有意な増加と相関していた。本発明者らはまた、全てのマウスが、hESCワクチン及びVPAを用いて処理した肺転移腫瘍を有意に減少させたことも見出した(
図5)。まとめると、これらの結果は、VPAを用いた異種胚性幹ベースのワクチン接種(hESC)が、hESC及びVPA単独の使用と比較して、最も強い効力を有することを示す。これらの結果は、異種胚性幹ベースのワクチン接種が、乳癌における腫瘍再発を低下させるのに効率的な処置ありうることを示す。
【0230】
実施例2-バルプロ酸によって、MHCクラス1の発現及び胚性遺伝子の発現が調節される。
【0231】
主要組織適合複合体(MHC)は、後天性免疫系のために必須の役割を果たす外来分子を認識するために後天性免疫系のために必須の一連の細胞表面タンパク質である。MHC分子の主な機能は、新規抗原及び外来抗原に結合し、それらを、適当なT細胞による認識のために細胞表面に提示することである:ヘルパーT細胞の表面上のCD4分子と相互作用することにより、MHCクラスIIは、獲得免疫又は適応免疫と呼ばれる特定の免疫の確立を媒介する。細胞傷害性T細胞の表面上のCD8分子と相互作用することにより、MHCクラスIは、感染又は悪性宿主細胞の破壊を媒介する。
【0232】
免疫寛容は、変異したタンパク質及び変化した抗原発現を有する成長中の腫瘍が、宿主免疫系による排除を防止する重要な手段である。腫瘍免疫寛容は、細胞表面上のβ2-mの非存在及び/又は腫瘍細胞上のMHCクラスIの非存在により部分的に説明することができる。VPAは、0.2mM~2mMの間の用量で4T1細胞上のMHCクラスIの発現を増加させることができることが示された。
4T1及び4T1マンモスフィア(TNFα及びTGFbによる処理により誘導されたCSC)上のMHCクラスIの発現は、2mMのVPAを用いた24時間から72時間の曝露後に2~3倍増加する。
【0233】
特に、VPAは、0.5mMの用量で、iPSCでのHLA ABC MHCクラスIの発現(63%対92%)及び多能性マーカー(例えばSSEA4及びTra1-60など)の発現(55%対72%)を増加させることができることが示された。
【0234】
これらのマーカーは、ENU曝露後(処理60日後)に減少し、細胞を、0.5mMのVPAを用いて処理した場合に回復した(それぞれHLA ABC陽性iPSCs-ENU及びiPSCの28%~92%)及び(それぞれSSEA4/Tra-1-60陽性iPSCs-ENU及びiPSCsの48%~69%)。
【0235】
VPAとしてのHDAC阻害剤によって、部分的には、クロマチンリモデリングにより及び転写因子におけるタンパク質の構造の変化により、遺伝子転写を選択的に変化させることができる。VPAによって、乳癌細胞における多能性遺伝子の発現を調節することができるか否かを試験した。この目的のために、本発明者らは、1mM~2mMのVPAを用いて4T1及び4T1マンモスフィア(TNFα及びTGFbによる処理により誘導されるCSC)を処置した。全ての場合において、VPAによって、ESC又はiPSCにおいて高度に発現される3つの異なる重要な転写因子(例えばOct4、Sox2、及びNanogなど)の発現が2~3倍増加した(
図6)。重要なことに、これらの転写因子発現の重要な相乗効果が、腫瘍細胞を、VPA及び5-アザシチジン(5aza)の組み合わせで処理した場合(DNAメチルトランスフェラーゼを阻害し、DNAの低メチル化を起こす用量で使用した場合)に示された。特に、4T1細胞をVPA及び5azaで処理すると、oct-4転写物の7倍の増加が示された(
図7A及びB)。
【0236】
実施例3-変異原性薬物(例えばN-エチル-N-ニトロソウレア(ENU)など)に曝露されたiPSCにおけるゲノム不安定性によるDNA損傷及びDNA修復エラーの誘導。
【0237】
エチル-N-ニトロソウレア(ENU)は、塩基転移、また単一点変異及び二本鎖DNA切断(DSB)を起こす変異原性アルキル化剤である。
【0238】
ENUによってiPSC中にDNA損傷が生じることを確認することが可能であった。
【0239】
細胞中に存在するDSBの部位に引き付けられたリン酸化ガンマ-H2AXの量を評価した。この実験において、iPSCが、コラゲナーゼの使用により間質培養物から剥離され、示された濃度(50μg/ml)及び時間でENUを用いてインビトロで処理し、抗ホスホ-ガンマH2AX抗体を使用したウエスタンブロット分析が続いた。2分~10分の早期時点で見られたガンマ-H2AXレベルの増加が示され、基礎レベルへの回復が続いた。
【0240】
プロトコルを、広範囲の増殖の間にDNA修復エラーを蓄積するために、ENUを用いたIPSCの連続処理によりiPSCにおいてゲノム不安定性を誘導するように設計した。細胞を、10μg/mlの濃度でのENUの毎日の添加を伴う、毎日の培地交換で60日間にわたり処理した。VPAを培養の間に加えた。
【0241】
+61日目に、iPSCは、核型、及びRNA配列決定、CGHアレイ、エクソン配列決定、WGSにより、iPSCの変異誘発手順のゲノム的帰結を評価する。培養したiPSC中に蓄積したゲノムの変化を、ENUで処理していないiPSCと比較する。
【0242】
ENU曝露後、変異したiPSCを維持し、VPAを伴う培養において増殖させた。CGHアレイ及びエクソーム配列決定を異なる経路で連続的に実施し、その増殖の間でのENH-iPSCにおける体細胞変異の保有率のゲノコピーを確認する。iPSCの表現型は、多能性Pluritest及びOct4、Sox2、Nanog、Tra-1 60、SSEA4の発現を評価することにより実施する。本発明者らは、複製速度と集団倍増は、ENU曝露を伴わないiPSCと類似していることを見出した。
【0243】
iPSCを、10μg/mlのENUを用いて処理し、変異したネオ抗原の検出のためのエクソーム配列決定を実施した。ENU処理-iPSC中の48の変化が、ENUを用いないiPSC中での8つの変化と比較して見出された(
図8)。これらの遺伝子座をcBioPortalプログラム(http://www.cbioportal.org)と混合し、異なる癌試験からのヒト腫瘍サンプルからの癌ゲノミクスデータセットへのアクセスが可能になった。cBioPortalプログラムを使用し、これらの変化の10~75%超が癌(膵臓、肺、前立腺・・・)においても調節解除されていることが見出された。全てのエクソーム配列決定について、本発明者らは、ENU処理iPSC中で検出されうる全ての変異について、30~400の読取り範囲の深度を推定する。
【0244】
実施例4-BRCA1についてのハプロ不全によって、培養の間でのiPSCにおけるCNVの蓄積を伴うDNA修復変化及びゲノム不安定性に導かれる。
【0245】
BRCA1/2の変化は、遺伝性乳癌及び卵巣癌(HBOC)症候群に含まれる。BReast CAncer1(BRCA1)は腫瘍抑制遺伝子であり、相同組換え、二本鎖切断修復、S期及びG2/M、紡錘体チェックポイント、及び中心体の調節におけるDNA修復を制御することによりゲノム安定性の維持において中心的な役割を果たす。
【0246】
BRCA1中のエクソン17の欠損を持つ線維芽細胞を、Oct3/4、Sox2、Klf4、及びcMyc(CytoTune(登録商標)-iPS Sendai Reprogramming Kit、Life technologies)を含むセンダイウイルスを用いて再プログラムした。細胞を、20% Knock Out Serum Replacer、1mMのL-グルタミン、1%ペニシリン/ストレプトマイシン、100μMの2メルカプトエタノール(Life technologies)、及び12.5ng/mlの塩基性FGF(Miltenyi Biotech)を補充したDMEM/F12に基づくヒト多能性幹細胞培地(hPSC培地)中で培養した。26日目に、完全に再プログラミングされたコロニーを、FACS分析、Nanog、Oct4、Sox2のQ RT-PCR、NOD-SCIDマウスにおける奇形腫形成、及びPluritestによるそれらの形態及び多能性マーカーに基づいて手動で採取した。核型は正常であった。
【0247】
正常(WT)及びBRCA1+/- iPSCにおけるDNA損傷応答(DDR)のレベル及び活性を比較した。ガンマH2AX病巣を、照射又はENU曝露後の増殖iPSCにおける免疫蛍光により決定した。IPSC BRCA1+/-は、正常なWT-iPSCと比較して、有意に高いレベルのリン酸化されたATM/ATR基質ならびにDNAへのガンマH2AX動員を示し、増殖IPSC BRCA1+/-が、WT-IPSCと比較し、増加したDNA損傷を受けることを示している。
【0248】
iPSC BRCA1+/-は早期継代で増加レベルのDDRを提示したため、これが反復継代及び増殖の間のゲノム変化の蓄積と関連付けられうるか否かを検証した。
【0249】
増殖性多能性幹細胞におけるCGHアレイを、HDACi(VPA)を補充した培地中でのiPSCの長期継代後に分析した。この目的のために、Agilent CGHarray実験を、Roche-Nimbelgen aCGHプラットフォームを用いて、IPSCサンプルからのDNAで実施した。シグナル抽出及びゲノム間隔は、ヒトゲノムのHG18上のAgilent細胞遺伝学及びNexus Roche-Nimbelgenソフトウェアを用いて同定した。遺伝子座は、Roche-Nimbelgen注釈ファイル(Genes_July_2010_hg19、Roche-Nimbelgenウェブサイト)を用いて、HG19座標で変換した。ヨーロッパコピー数変動(CNV)多型をscandbデータベース(Gamazon et al. 2010)の実験から排除した。アレイCGH CNV比を、MEVバージョン4.9.0スタンドアロンソフトウェア(赤:獲得、緑:喪失、及び暗ゼロ)(Saeed et al. 2003)を用いてヒートマップとして描写した。起点の細胞において影響を受けた遺伝子座を、それぞれのIPSCサンプル中で影響を受けた遺伝子座から差し引いた。各々のiPSCに特異的な、結果として得られたフィルタリングされたCNVを、COSMICセンサスデータベースと混合した(Futreal et al. 2004)。HG19上のGenomic Circosplotを、濾過後に各々のIPSCにおいて影響を受けたことが見出された癌遺伝子を用いて実施した。このゲノム描写は、R環境バージョン3.0.2においてOmicCircos R-パッケージを用いて実施した(Hu et al. 2014)。
【0250】
iPSC BRCA1+/-(>100日)の培養は、後期継代において、ENU曝露を伴わないゲノム不安定性の増加と同時にゲノム異常の蓄積に導くことが示された。後期継代での核型は正常である。Agilent aCGH実験を、iPSC細胞からのDNA抽出物及びそれらのそれぞれの起源細胞で実施した。これらの多能性誘導の間に影響を受けた間隔のゲノムマッピングによって、BRCA1+/- IPSCが、WTのものと比較して、影響を受けた重要な数の遺伝子座による影響を受けたことが示された。WT iPSCでのCNVヨーロッパ多型の濾過後、58遺伝子座だけが依然として影響を受けていた(多型は影響を受けた全座の1.69%を表す)、同様に、BRCA1-/+ iPSC 5273遺伝子座では、多型の濾過後に依然として見出された。BRCA1+/- iPSCにおいて影響を受けた遺伝子座の大部分が、DNAの獲得に関わっていた。
【0251】
ゲノム不安定性による影響を受けるこれらの遺伝子座の間で、それらの一部は、コンセンサスCOSMICデータベース中のドライバー癌遺伝子として公知である。WT iPSCは、aCGH(CDK4)において影響を受ける1つの癌遺伝子座だけを示した。BRCA1-/+ IPSCは、131の癌遺伝子座に関する変化の影響を受け、それらの間で、11の遺伝子が乳癌において影響を受けることが公知である:MSH2、SMARCD1、TBX3、CDH1、TP53、ERBB2、CDK12、BRCA1、PPP2R1A、AKT2、EP300。これらの変化は、小さな染色体19及び17(BRCA1遺伝子座の染色体である染色体17)で特に過剰発現することが見出された。
【0252】
まとめると、iPSC BRCA1+/-の大部分が、WT-IPSCと比較して、より高い量のインデル(欠失又は増幅)を示した。5273の遺伝子でのCNVの8%の割合が同定され、確認された。バイオインフォマティクス分析によって、本質的に白血病、上皮腫瘍において、及び間葉腫瘍細胞において、癌発生に含まれるコスミックデータベースにおいて同定された131の遺伝子の発現が明らかになった。一部の変化した遺伝子が、乳癌及び卵巣癌において同様に観察される。
【0253】
複製率、多能性遺伝子(Pluritest、細胞表面マーカー)、及びMHC Iは、VPAの存在における全培養時間の間は維持され、安定である。
【0254】
結論として、DNA修復関連遺伝子(例えばBRCA-1など)の欠失又は不活性化によって、ゲノム不安定性が誘導され、複数のCNV、インデル、及びMHC Iに関連付けられる変異を生成することが可能になる。
【0255】
実施例5-N-エチル-N-ニトロソウレア(ENU)によって、CML-iPSCにおける変異ネオ抗原の負荷が増加する。
【0256】
フィラデルフィア陽性慢性骨髄性白血病(CML)患者の白血病血球から生成されたiPSCの特徴付け。iPSCは、多能性遺伝子Oct4、c-Myc、Klf4、及びSox2のセンダイウイルス媒介性移入の使用により生成した。多能性iPSC形態を伴う細胞を、細胞表面多能性マーカー(Tra-1-60及びSSEA4)ならびにNSGマウス中への筋肉内注射後に奇形腫を生成する能力により増幅及び特徴付けした。これらのiPSCは、CMLに特徴的なフィラデルフィア染色体を持っていた。CML iPScを60日間ENUに曝露した。ENUにより処理したCML-IPSからの細胞派生物コロニーを、ENUで処理していないIPSCと比較した。
【0257】
CML iPSCのDNAをCGHアレイにより分析した。いくつかのゲノム異常が、ENU処理したiPSCから由来する芽球コロニーにおいて観察され、CML IPSCでのENU圧により選択されたゲノム異常の間での異種性の喪失の検出を伴った(CB32、これらには、332の遺伝子座を含むコピー数変動CNVが含まれた)。European Caucasian genome polymorphismデータベースでの濾過後、225の遺伝子座がこれらのゲノム異常において依然として存在した。ゲノム異常の大部分がゲノムDNAの喪失(71%)を含み、ヘテロ接合性の喪失(23%)を伴った。これらのゲノム異常を転写因子データベース、癌遺伝子データベース、及び多能性遺伝子データベースと一致させることによって、これらの重要な調節解除された動作主体が、主に染色体7、8、15、Y、及びXで影響を受けることが観察された。サーコプロットによって、また、これらの異常の大部分を、転写因子(例えば中胚葉細胞遊走に関与するMESP及びIKZF1など)に関係づけることが可能になった。一部の多能性遺伝子ならびにIDH2、NCOA2、IKZF1、BLMなど、Ph1陽性白血病に関与すると既に記載されている一部の癌遺伝子が影響を受けたが、ENU誘導性変異誘発により生成された異常の関連性を示唆する。
【0258】
この分析によって、いくつかの遺伝子異常(例えば獲得及び喪失など)及び同定された異常のいくつかが、コスミックデータベースにおいて同定された癌遺伝子であることが見出されたことが示される。
【0259】
ENU-iPSCにおいて同定された異常の比較によって、急性白血病期のCML患者において既に同定されている侵襲性急性白血病期の異常を再現することが可能になり、ENU処置CML iPSCが、この特定の癌におけるこれらのゲノム異常をインビトロで再現するためのユニークなツールであることを示唆する。
【0260】
本願を通じて、種々の参考文献によって、本発明が関係する最先端技術が記載される。これらの参考文献の開示を、参照により本開示中に組み入れる。
【0261】
【手続補正書】
【提出日】2022-07-07
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下:
i)増殖工程の間に集団における抗原のMHC-I提示を誘導する薬剤の存在下で、細胞の多能性能力を維持するような条件の存在下で、多能性細胞を増殖させること
ii)細胞エンベロープの完全性を維持しながら、細胞を不活性化する不活性化剤に増殖細胞を曝露すること
iii)増殖した不活性化細胞を回収し、コンディショニングすること。
の工程を含む、不活性化された多能性細胞の集団を製造するための方法。
【請求項2】
多能性細胞の集団が、ヒト胚性幹細胞、誘導性多能性幹細胞(iPS)、同種、異種、自己、又は同系幹細胞からなる群より選択される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
多能性細胞が、増殖の間に変異原性薬剤に曝露され、集団の細胞において遺伝子の変異誘発を誘導する、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
変異原性薬剤が、アルキル化剤、活性酸素種、脱アミノ化剤、多環式芳香族炭化水素、芳香族アミン、ブレオマイシン、臭素、ベンゼン、塩基類似体、DNAインターカレーティング剤、金属、紫外線と組み合わせたソラレン、及びアジ化ナトリウムからなる群より選択される、請求項3記載の方法。
【請求項5】
変異原性薬剤が、アルキル化剤であり、変異原性薬剤への多能性細胞の曝露が、少なくとも15日間にわたり実施される、請求項3又は4記載の方法。
【請求項6】
変異原性薬剤が、ENUである、請求項3~5のいずれか一項記載の方法。
【請求項7】
変異原性薬剤が、電離放射線及びUV照射である、請求項3記載の方法。
【請求項8】
抗原のMHC-I提示を誘導する薬剤が、サイトカイン、ヒストンデアセチラーゼ阻害剤(HDACi)、DNAメチルトランスフェラーゼ阻害剤、及びヒストンリジン N-メチルトランスフェラーゼ酵素阻害剤からなる群より選択される、請求項1~7のいずれか一項記載の方法。
【請求項9】
抗原のMHC-I提示を誘導し、多能性遺伝子を増強する薬剤が、ヒストンデアセチラーゼ阻害剤及びバルプロ酸(VPA)、ボリノスタット、パノビノスタット、ジビノスタット、ベリノスタット、エンチノスタット、モセチノスタット、プラシノスタット(Practinostat)、チダミド、キシノスタット、及びアベキシノスタットからなる群より選択される、請求項1~8のいずれか一項記載の方法。
【請求項10】
DNAメチルトランスフェラーゼ阻害剤、特に5-アザシチジンが、工程a)において存在する、請求項1~9のいずれか一項記載の方法。
【請求項11】
細胞が、致死量の放射線への曝露により不活性化される、請求項1~10のいずれか一項記載の方法。
【請求項12】
コンディショニングが、細胞を凍結又は凍結乾燥する工程を含む、請求項1~11のいずれか一項記載の方法。
【請求項13】
患者におけるガンの処置のための、i)不活性化多能性細胞の集団及びii)MHC発現及び/又は免疫応答を活性化する化合物の組み合わせた調製物の同時に、別々に、又は連続的投与のための医薬の調製のための使用。
【請求項14】
MHC発現及び/又は免疫応答を活性化する化合物が、ヒストンデアセチラーゼ阻害剤、DNAメチルトランスフェラーゼ阻害剤、及びヒストン-リジン N-メチルトランスフェラーゼ酵素阻害剤からなる群より選択される、請求項13記載の使用。
【請求項15】
多能性細胞の集団が、ヒト胚性幹細胞、誘導性多能性幹細胞(iPS)、同種、異種、自己、又は同系幹細胞からなる群より選択される、請求項13~14のいずれか一項記載の使用。
【請求項16】
多能性細胞が、遺伝的に改変されMHC発現及び/又は免疫応答を刺激する化合物を過発現する、請求項13~15のいずれか一項記載の使用。
【請求項17】
多能性細胞を、増殖中に変異原薬剤で処理する、請求項13~16のいずれか一項記載の使用。
【請求項18】
患者に免疫チェックポイント阻害剤の投与をさらに含む、請求項13~17のいずれか一項記載の使用。
【請求項19】
ガンが、膀胱癌、乳癌、子宮頸癌、胆管癌、結腸直腸癌、胃肉腫、神経膠腫、肺癌、リンパ腫、急性及び慢性リンパ性ならびに骨髄性白血病、黒色腫、多発性骨髄腫、骨肉腫、卵巣癌、膵臓癌、前立腺癌、胃癌、腎臓癌、頭頸部腫瘍、及び固形腫瘍からなる群より選択される、請求項13~18のいずれか一項記載の使用。
【外国語明細書】