(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022133501
(43)【公開日】2022-09-14
(54)【発明の名称】電子制御装置
(51)【国際特許分類】
G06F 1/04 20060101AFI20220907BHJP
B60R 16/02 20060101ALI20220907BHJP
B62D 6/00 20060101ALI20220907BHJP
G06F 1/06 20060101ALI20220907BHJP
【FI】
G06F1/04 303B
B60R16/02 660Q
B62D6/00
G06F1/04 302
G06F1/06 590
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021032201
(22)【出願日】2021-03-02
(71)【出願人】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】崎川 拓弥
(72)【発明者】
【氏名】倉垣 智
【テーマコード(参考)】
3D232
【Fターム(参考)】
3D232CC37
3D232DA03
3D232DA04
3D232DA63
3D232DA64
3D232DA91
3D232DC33
3D232DC34
3D232DD03
3D232DE02
3D232EB04
3D232EB12
3D232EC23
3D232EC37
(57)【要約】
【課題】新たな外部発振器が必要になる、回路実装効率が低下する、発振周波数のキャリブレーションが事前に必要となるといった課題に対応することができる電子制御装置を提供する。
【解決手段】メインクロック制御タスクを実行するためのメインクロックを発生するメインクロック発振器35と、サブクロック制御タスクを実行するためのサブクロックを発生するサブクロック発振器36とを内蔵するマイクロコンピュータ30において、メインクロック発振器に異常を生じると、メインクロック制御タスクをサブクロック発振器のサブクロックで実行する。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
クリスタル発振器と、前記クリスタル発振器のクロック信号が入力されるマイクロコンピュータとを備えた電子制御装置であって、
前記マイクロコンピュータは、
前記クリスタル発振器の前記クロック信号に基づいて、メインクロック制御タスクを実行するためのメインクロック信号を発生するメインクロック発振器と、
前記クリスタル発振器の前記クロック信号とは独立した、サブクロック制御タスクを実行するためのサブクロック信号を発生するサブクロック発振器とを備え、
更に前記マイクロコンピュータは、前記メインクロック発振器のメインクロック信号に異常を生じると、前記メインクロック制御タスクを前記サブクロック発振器の前記サブクロック信号で実行するクロック切換手段を備えている
ことを特徴とする電子制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電子制御装置において、
前記メインクロック発振器と前記サブクロック発振器は、前記マイクロコンピュータの内部に作り込まれており、前記サブクロック発振器はCR回路から構成されている
ことを特徴とする電子制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載の電子制御装置において、
前記マイクロコンピュータは、時間経過を測定して異常を確定するための異常検出カウンタを備えており、
前記異常検出カウンタの異常確定値は、前記メインクロック信号の場合の前記異常確定値と、前記サブクロック信号の場合の前記異常確定値が、異常確定までの時間が同じになるように決められている
ことを特徴とする電子制御装置。
【請求項4】
請求項2に記載の電子制御装置において、
前記マイクロコンピュータは、前記メインクロック制御タスクとして自動車の操舵アシスト制御を実行しており、
前記マイクロコンピュータの前記クロック切換手段は、前記自動車のイグニッションスイッチがOFFされるまで、前記メインクロック制御タスクを前記サブクロック発振器の前記サブクロック信号で実行する
ことを特徴とする電子制御装置。
【請求項5】
請求項4に記載の電子制御装置において、
前記マイクロコンピュータの前記クロック切換手段が、前記メインクロック制御タスクを前記サブクロック発振器の前記サブクロック信号で実行する場合、
前記マイクロコンピュータは、前記操舵アシスト制御における操舵アシスト力を漸減する機能を実行する
ことを特徴とする電子制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電子制御装置に係り、特にクリスタル発振器のシステムクロックに基づいて種々の制御処理を実行するマイクロコンピュータを備えた電子制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の電子制御装置としては、クリスタル発振器が発生するシステムクロック信号に基づいて制御処理(以下、制御タスクと表記する)を実行する中央演算ユニット(CPU)を備えたものが一般的である。このように電子制御装置では、通常はクリスタル発振器が発生するクロック信号をシステムクロック信号として、中央演算ユニットが種々の制御タスクを実行する。例えば、電動パワーステアリング装置や自動操舵装置の操舵アシスト制御を行っている。
【0003】
クリスタル発振器は、高周波数でしかも極めて正確なクロック信号を発生することができる。このため、このクリスタル発振器のクロック信号をシステムクロック信号とすることにより、中央演算ユニットは、各種の制御タスクを迅速にかつ正確に実行することができる。
【0004】
ところで、クリスタル発振器には、何らかの原因、例えば電源電圧の低下によって異常が生じることがあり、このためクロック信号の異常を検出すると、中央演算ユニットは「リセット処理」(初期化処理)を実行している。
【0005】
しかしながら、電子制御装置が、例えば上述した操舵アシスト制御に使用されている場合、クロック信号の異常を検出してリセット処理を実行すると、操舵アシスト制御は「フルアシスト状態」から「アシスト無し状態」となる。このため、電動モータによって操舵操作をアシストするアシスト力が消滅してしまい、運転者による大きな操舵力が必要となり、運転者に違和感を与えることになる。
【0006】
そこで、例えば特開2001-195147号公報(特許文献1)には、クリスタル発振器とは別に外部発振器を新たに設け、クリスタル発振器に異常が生じた場合においては、電子制御装置の切換手段によって、外部発振器のクロック信号をシステムクロックとするように切り換えて、中央演算ユニットによる制御タスクを継続的に実行するようにしている。
【0007】
尚、外部発振器としては、例えばCR発振器を利用することが考えられ、このCR発振器はクリスタル発振器に比べて安価であるので、システムクロックの供給源を複数設けることによるコストアップを抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、CR発振器のような外部発振器を使用する場合、新たな外部発振器が必要になる、新たな発振器が実装されるので制御基板での回路実装効率が低下する、新たな発振器の発振周波数のキャリブレーションが事前に必要となる、といった課題を生じる。
本発明の目的は、少なくとも、新たな外部発振器が必要になる、制御基板上での回路実装効率が低下する、発振周波数のキャリブレーションが事前に必要となる、といった課題の1つ以上の課題に対応することができる電子制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、
少なくとも、クリスタル発振器と、クリスタル発振器のクロック信号が入力されるマイクロコンピュータとを有する電子制御装置であって、
マイクロコンピュータは、
クリスタル発振器のクロック信号に基づいて、メインクロック制御タスクを実行するためのメインクロック信号を発生するメインクロック発振器と、
クリスタル発振器のクロック信号とは独立した、サブクロック制御タスクを実行するためのサブクロック信号を発生するサブクロック発振器とを備え、
更にマイクロコンピュータは、メインクロック発振器のメインクロック信号に異常を生じると、メインクロック制御タスクをサブクロック発振器のサブクロック信号で実行するクロック切換手段を備えている
ことを特徴ととしている。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、新たな外部発振器が必要とならない、制御基板上での回路実装効率が低下しない、発振周波数のキャリブレーションが事前に必要とならない、といった効果の1つ以上の効果を奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明が適用される操舵制御装置の構成として、ステア・バイ・ワイヤ方式を例に示した構成図である。
【
図2】
図1に示す操舵制御装置の電子制御部の構成を示す構成図である。
【
図3】本発明の第1の実施形態に使用されるマイクロコンピュータの簡単なクロック発振系の構成を示すブロック図である。
【
図4】
図3に示すクロックコントローラのクロック発振器のクロック信号を説明する説明図である。
【
図5】
図3に示すクロックモニタのモニタ動作を説明する説明図である。
【
図6】本発明の第1の実施形態になる異常時のクロック信号を切り換える制御フローを説明するフローチャートである。
【
図7】操舵制御装置におけるメインクロック信号とサブクロック信号の切り換えに対応した代表的な制御タスクの制御状態を説明する説明図である。
【
図8】
図7に示すメインクロック信号とサブクロック信号の切り換えに対応した制御タスクの時間経過に基づく制御状態の変化を説明するタイムチャートである。
【
図9】本発明の第2の実施形態になるサブクロック信号の異常時の制御フローを説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されることなく、本発明の技術的な概念の中で種々の変形例や応用例をもその範囲に含むものである。
【0014】
以下、本発明の実施形態を図面に基づき説明するが、本発明の具体的な実施形態を説明する前に、本発明が適用されるステア・バイ・ワイヤ方式の操舵制御装置の構成について説明する。尚、本発明は以下に説明する操舵制御装置に限定されるものではない。
【0015】
先ず、ステアリングシャフトを操舵軸から切り離し、ステアリングシャフトの回動角や外乱トルク等を回転角センサや電流センサ等で検出し、これらの検出信号に基づいて操舵アクチュエータの動作量を制御して操舵軸を駆動する、ステア・バイ・ワイヤ方式の操舵制御装置について説明する。尚、操舵機構の構成は省略する。
【0016】
図1において、操舵輪10はタイロッド11によって操舵される構成となっており、このタイロッド11は、操舵軸17に連結されている。そして、ステアリングホイール12はステアリングシャフト13に連結されており、ステアリングシャフト13には、必要に応じて操舵操作角センサ等を設けることができる。
【0017】
ステアリングシャフト13は、操舵機構16の操舵軸(ラックバーということもある)17に連携されておらず、ステアリングシャフト13の先端には反力用電動モータ18が設けられている。つまり、ステアリングシャフト13は操舵機構16と機械的に連結されていない構成とされ、結果的にステアリングシャフト13と操舵機構16とは分離される形態となっている。反力用電動モータ18は操舵操作制御装置19によって駆動される。以下では、反力用電動モータ18は反力モータ18と記載する。
【0018】
反力モータ18には、反力モータ回転角センサ14が設けられており、反力モータ18の回転角を検出している。操舵操作量センサは、反力モータ18の回転角を検出するものであるが、ステアリングシャフトの操舵操作角を検出する操舵操作角センサであっても良く、また、これら以外のステアリングシャフト13の回転を検出可能なセンサは、操舵操作量センサの範疇である。
【0019】
また、反力モータ18には、電流センサ15が設けられており、反力モータ18のコイルに流れる電流を検出している。この電流は、例えば外乱トルクを推定する場合に使用される。
【0020】
操舵軸17を含む操舵機構16には、操舵用電動モータ機構21が設けられており、この操舵用電動モータ機構21は操舵軸17の操舵動作を制御する。尚、操舵アクチュエータとして電動モータを使用しているが、これ以外の形式の電動アクチュエータであっても良いことはいうまでもない。
【0021】
そして、ステアリングホイール12の回転角を反力モータ18の反力モータ回転角センサ14によって検出し、また電流センサ15によってコイルに流れる電流を検出し、これらの検出信号は電子制御装置19に入力される。尚、操舵操作制御装置19には、これ以外に外部センサ20から種々の検出信号が入力されている。
【0022】
操舵操作制御装置19は、入力された回転角信号や電流信号に基づいて操舵用電動モータ機構21の制御量を演算し、更には操舵用電動モータ機構21を駆動する。尚、操舵用電動モータ機構21の制御量は、回転角信号や電流信号以外のパラメータも使用することができる。
【0023】
操舵用電動モータ機構21の回転は、入力側プーリ(図示せず)からベルト(図示せず)を介して、操舵機構16の出力側プーリ(図示せず)を回転させ、更に操舵ナット(図示せず)によって、操舵軸16を軸方向にストローク動作して操舵輪10を操舵する。これらについても、発明の本質ではないので説明は省略する。
【0024】
また、操舵操作制御装置19は、入力された回転角信号や電流信号に基づいて反力モータ18の制御量を演算し、更に反力モータ18を駆動する。尚、反力モータ18の制御量は、回転角信号や電流信号以外のパラメータも使用することができる。
【0025】
操舵機構16にはラック位置センサ22が設けられており、このラック位置センサ22は、操舵輪10の実際の操舵量(操舵角)を検出して操舵量信号を出力する。ラック位置センサ22は操舵軸17の軸方向の移動量を検出している。操舵量センサとしては、操舵軸17のストローク量を検出するラック位置センサ22を示しているが、これ以外に操舵軸17に操舵力を付与する操舵用電動モータに設けた回転角センサであっても良く、また、これら以外の操舵軸17の位置(操舵量)を検出可能なセンサは、操舵量センサの範疇である。
【0026】
次に
図2は、反力モータ18と操舵モータ28を制御する操舵操作制御装置19の概略の構成を示している。尚、この操舵操作制御装置19は、反力アクチュエータコントローラと操舵アクチュエータコントローラの両方を示している。
【0027】
ここで、操舵操作制御装置19はCANバス29に接続されており、図示しないCANコントローラによってCANバス29を介して他の電子制御装置19A…19N、例えば内燃機関を制御する電子制御装置、トランスミッションを制御する電子制御装置、ブレーキを制御する電子制御装置等と接続され、互いに制御情報等を入出力している。
【0028】
ステアリングシャフト13に接続された反力モータ18には、反力モータ回転角センサ14、及び電流センサ15が設けられ、反力モータ18は、ステアリングシャフト13を介してステアリングホイール12と機械的に接続されている。反力モータ回転角センサ14は、反力モータ18の回転角を検出するセンサであり、電流センサ15は反力モータ18のコイルに流れる電流を検出するセンサである。
【0029】
反力モータ18は、操舵操作制御装置19によって制御されるモータドライバ23を介して、ステアリングシャフト13に操舵反力を付与する電動モータであり、反力モータ回転角センサ14の入力を監視し、定められた操舵反力をステアリングシャフ13に与えている。
【0030】
また、操舵操作制御装置19は、モータドライバ24を介して操舵軸17と機械的に接続された操舵モータ28に、反力モータ回転角センサ14や電流センサ15等の検出信号に応じた駆動信号を与えている。
【0031】
操舵操作制御装置19には、反力モータ回転角センサ14から回転角信号が与えられ、電流センサ15から電流信号が与えられ、更には、車速センサ25やヨーレートセンサ26等の走行状態センサから、操舵に影響する車両の走行状態検出信号が与えられている。また、操舵操作制御装置19には、操舵軸17を覆うハウジングの途中部分に取り付けられたラック位置センサ22(
図1参照)から、操舵軸17の移動位置の検出信号が与えられている。
【0032】
ここで、ラック位置センサ22は操舵軸17の位置を検出するものであるが、操舵軸17はタイロッド11に直接的に接続されていることから、ラック位置センサ22の検出値によって、操舵輪10の操舵角を検出することが可能となる。このように、ラック位置センサ22は、操舵輪10の操舵角検出器として機能する。
【0033】
また、操舵操作制御装置19には、自動操舵システム(ADASシステム)27からの外部操舵指令値が入力されている。外部操舵指令値は、自動操舵システム27で演算された指令値であり、レーンキープ制御によって、車両が道路上の白線から逸脱した場合や障害物を回避する場合に、操舵機構16によって操舵輪10を操舵させるためのものである。
【0034】
操舵操作制御装置19は、反力モータ回転角センサ14、電流センサ15、ラック位置センサ22、走行状態センサ25、26、及び自動操舵システム27から与えられる、回転角、電流、ラック位置、走行状態量の検出信号、及び外部操舵指令値等を、所定のサンプリング周期で取り込み、取り込まれた検出信号や外部操舵指令値を適宜組み合せて、操舵軸17に加えるべき操舵量を求め、この操舵量を得るために操舵モータ35に通電すべきコイル電流を算出し、この算出結果に応じた制御信号をモータドライバ24に与えている。
【0035】
同様に、操舵操作制御装置19は、回転角、電流、ラック位置、走行状態量の検出信号、及び外部操舵指令値等を適宜組み合せて、ステアリングホイール12に加えるべき操舵反力を求め、この操舵反力を得るために反力モータ18に通電すべきコイル電流を算出し、この算出結果に応じた制御信号をモータドライバ23に与えている。
【0036】
このような操舵制御装置の操舵操作制御装置(電子制御装置)19においては、クロック信号の異常を検出してリセット処理を実行すると、操舵アシスト制御は「フルアシスト状態」から「アシスト無し状態」となる。このため、電動モータによって操舵操作をアシストする操舵アシスト力が消滅してしまい、運転者による大きな操舵力が必要となり、運転者に違和感を与えることになる。
【実施例0037】
次に、本発明の第1の実施形態になるマイクロコンピュータの構成について、
図3~
図5に基づいて説明する。
図3は、本実施形態に使用されるマイクロコンピュータの簡単なクロック信号発振系の構成を示すブロック図であり、
図4はクロックコントローラのクロック発振器で生成されるクロック信号を説明する説明図であり、
図5はクロックモニタのモニタ動作を説明する説明図である。
【0038】
先ず、本実施形態で使用されるマイクロコンピュータのクロック信号について説明する。
図3にある通り、本実施形態で使用されるマイクロコンピュータ30は、中央演算ユニット31、クロックコントローラ32、及びクロックモニタ33を備えている。クロックコントローラ32は、メインクロック信号とサブクロック信号を生成しており、クロックモニタ33は、メインクロック信号、或いはサブクロック信号の異常状態をモニタしている。また、マイクロコンピュータのX1端子、X2端子には、クリスタル発振器34が接続されている。
【0039】
図4にあるように、クロックコントローラ32は、メインクロック発振器35、及びサブクロック発振器36を備えている。これらは、マイクロコンピュータ30の内部に作り込まれたオンチップクロック発振器である。
【0040】
メインクロック発振器35は、マイクロコンピュータ30の内部に作り込まれており、クリスタル発振器34からクロック信号が供給されている。メインクロック発振器35は、フェーズロックループ回路(PLL回路)によって、高精度で安定した高い周波数のクロック信号を生成することができる。このメインクロック信号は、主に中央演算ユニット31で実行されるメインクロック制御タスクの動作クロックとして使用されている。
【0041】
また、サブクロック発振器36は、クリスタル発振器34のクロック信号とは独立した、サブクロック制御タスクを実行するためのサブクロック信号を発生する内部発振器(Internal Oscillator、或いはOn Chip Oscillator)であり、これもマイクロコンピュータ30の内部に作り込まれている。内部発振器はCR回路から構成されており、1つの周波数のサブクロック信号を生成しており、キャリブレーションによって、発振周波数が微調整されている。このサブクロック信号は、主に周辺回路のサブクロック制御タスクの動作クロックとして使用されている。尚、これ以外のサブクロック制御タスクにも使用されることはいうまでもない。
【0042】
次に、クロックモニタ(請求項でいうクロック切換手段である)33の動作について、
図5を用いて説明する。クロックモニタ33は、クロック発振器35、36の発振動作が正常に行われているか否かをモニタするものである。クロックモニタ33は、ソフト的な判断処理によってクロック発振器35、36の発振動作をモニタするものであり、
図5においては、メインクロック信号の発振動作をモニタしている。
【0043】
メインクロック信号が入力されると、ステップS10によって、メインクロック発振器35に異常が発生しているかどうかが判断される。この異常は、メインクロック信号の設定発振周波数が上限周波数閾値を上回っているか、或いは下限周波数閾値を下回っているかの判断を実行している。
【0044】
ステップS10で、異常が発生していないと判断されるとエンドに抜け、次の起動タイミングの到来で再びステップS10の判断を行うことになる。一方、ステップS10で、異常が発生していると判断されるとステップS20に移行して、メインクロック信号をサブクロック信号に切り換え、今までメインクロック信号によって、動作されていたメインクロック制御タスクをサブクロック信号によって動作させる処理を実行する。
【0045】
次に、上述したステップS10とステップS20の更に詳細な制御フローを、
図6に基づいて説明する。
【0046】
≪ステップS30≫
ステップS30においては、現時点でサブクロック信号によって、メインクロック制御タスクが実行されているかどうかの判断を実行する。この判断は、後述するステップS39の処理で実行されたサブクロック切換フラグを参照して判断している。
【0047】
このステップS30での判断で、サブクロック切換フラグが「0」であれば、メインクロック信号でメインクロック制御タスクが実行されている、としてステップS31に移行する。一方、サブクロック切換フラグが「1」であれば、サブクロック信号でメインクロック制御タスクが実行されている、としてステップS41に移行する。
【0048】
≪ステップS31≫
ステップS30で、メインクロック信号でメインクロック制御タスクが動作されていると判断しているので、ステップS31ではメインクロック信号の周波数値を取り込む。周波数値は、例えば所定時間内のメインクロック数を測定することで求めることができる。メインクロック信号の周波数値を求めるとステップS32に移行する。
【0049】
≪ステップS32≫
ステップS32においては、ステップS31で求めたメインクロック信号の周波数値と、予め定めた上限閾値(周波数値)とを比較する。これは、現在のメインクロック信号の周波数値が、何らかの原因で上限閾値を超えていることを検出するものである。
比較結果が得られるとステップS33に移行する。
【0050】
≪ステップS33≫
ステップ33においては、ステップS32で求められた比較結果から、現在のメインクロック信号の周波数値が設定された上限閾値よりも高いかどうか判断する。メインクロック信号の周波数値が設定された上限閾値より低いと、メインクロック信号は、高周波数側では正常と見做してステップS34に移行する。一方、メインクロック信号の周波数値が設定された上限閾値より高いと、メインクロック信号が高周波数側に遷移しているとしてステップS37に移行する。
【0051】
≪ステップS34≫
ステップS33で、メインクロック信号は、高周波数側では正常と見做しているので、このステップS34においては、ステップS31で求めたメインクロック信号の周波数値と、予め定めた下限閾値(周波数値)とを比較する。これは、現在のメインクロック信号の周波数値が、何らかの原因で下限閾値を超えていることを検出するものである。
比較結果が得られるとステップS35に移行する。
【0052】
≪ステップS35≫
ステップ35においては、ステップS34で求められた比較結果から、現在のメインクロック信号の周波数値が設定された下限閾値よりも低いかどうか判断する。メインクロック信号の周波数値が設定された下限閾値より高いと、メインクロック信号は、低周波数側では正常と見做してステップS36に移行する。一方、メインクロック信号の周波数値が設定された下限閾値より低いと、メインクロック信号が低周波数側に遷移しているとしてステップS37に移行する。
【0053】
≪ステップS36≫
ステップS33とステップS35の判断処理によって、現時点のメインクロック信号の周波数値が、予め設定された周波数管理範囲内で発振されているものと見做している。したがって、ステップS36では、現時点のメインクロック信号が正常であるので、メインクロック制御タスクを動作させる動作クロックとしてメインクロック信号を維持して「終了」に抜けて次の起動タイミングまで待機する。
【0054】
≪ステップS37≫
ステップS33で、メインクロック信号が高周波数側に遷移していると判断され、また、ステップS35でメインクロック信号が低周波数側に遷移していると判断されている。したがって、現時点のメインクロック信号の周波数値が、予め設定された周波数管理範囲の外で発振されているものと見做し、メインクロック信号に異常が発生していると確定する。異常を確定するとステップS38に移行する。
【0055】
尚、異常が確定すると、この異常情報は別に設定されたRAM領域の異常コード格納エリアに格納される。更にこの異常格納エリアの異常コード情報は、不揮発性メモリに記憶され、CANバスを介して故障診断ツールで読み取ることができる。
【0056】
また、異常が確定すると運転者に報知(音声や画像)を行って、後述するリンプアサイド処理を実行することを周知させ、運転者の違和感を和らげる措置を講じることもできる。
【0057】
≪ステップS38≫
ステップS38においては、異常と確定されたメインクロック発振器35のメインクロック信号に代えて、バックアップとしてサブクロック発振器36のサブクロック信号に切り換える。したがって、これ以降は、メインクロック信号は使用されず、サブクロック信号がメインクロック制御タスクの動作クロックとなる。クロック信号が切り換えられると、ステップS39に移行する。
【0058】
≪ステップS39≫
ステップS39においては、サブクロック信号に切り換えられたことを示すサブクロック切換フラグに「1」をセットする。このサブクロック切換フラグは、最初に説明したステップS30での判断に使用され、これによって、サブクロック信号を動作クロックとして継続するかどうかを決めている。サブクロック切換フラグは、マイクロコンピュータ30がリセット処理を実行すると、「0」にセットされる。サブクロック切換フラグがセットされるとステップS40に移行する。
【0059】
≪ステップS40≫
ステップS40においては、今までメインクロック信号で動作されていたメインクロック制御タスクを、サブクロック信号で動作するように切り換える。これによって、以後は、サブクロック信号によってメインクロック制御タスクが動作される。
【0060】
この時、メインクロック制御タスクで実行される制御タスク、ここでは操舵アシスト制御においては、サブクロック信号の周期に変更(一般的には周期は長くなる)されるので、これに合わせて、演算に必要な定数や、時間に関係する閾値等を変更する必要がある。これについては後述する。
【0061】
サブクロック信号によってメインクロック制御タスクが動作されると、「終了」に抜けて次の起動タイミングまで待機する。
【0062】
≪ステップS41≫
ステップS30に戻って、ステップS39でサブクロック切換フラグが「1」にセットされていると、現時点のクロック信号がサブクロック信号であるので、ステップS41に移行する。そして、ステップS41では、サブクロック信号を動作クロックとするメインクロック制御タスクを継続する。メインクロック制御タスクを継続するとステップS42に移行する。
【0063】
≪ステップS42≫
ステップS42においては、イグニッションスイッチ(IGSW)がOFFされたか否かが判断される。イグニッションスイッチ(IGSW)がOFFされていない、つまり、イグニッションスイッチ(IGSW)がONの状態だと、「終了」に抜けて次の起動タイミングまで待機する。このように、ステップS40で、サブクロック信号によってメインクロック制御タスクが動作される状態に変更された後においては、イグニッションスイッチ(IGSW)がONであれば、この制御状態を継続する。一方、イグニッションスイッチ(IGSW)がOFFされていると、ステップS43に移行する。
【0064】
≪ステップS43≫
ステップS43においては、イグニッションスイッチがOFFされて制御が停止されるので、マイクロコンピュータ30のリセット処理を実行する。この場合、イグニッションスイッチがOFFされた後で、電源がシャットダウンされるまでは所定の時間が確保されており、この所定時間の間にリセット処理が実行される。リセット処理が実行され、所定時間が終了すると電源がシャットダウンされる。
【0065】
このように、本実施形態では、マイクロコンピュータは、クリスタル発振器のクロック信号に基づいて、メインクロック制御タスクを実行するためのメインクロック信号を発生するメインクロック発振器と、クリスタル発振器のクロック信号とは独立した、サブクロック制御タスクを実行するためのサブクロック信号を発生するサブクロック発振器とを備え、マイクロコンピュータは、メインクロック発振器のメインクロック信号に異常を生じると、メインクロック制御タスクをサブクロック発振器のサブクロック信号で実行するクロック切換手段を備えている。
【0066】
これによれば、新たな外部発振器が必要とならない、制御基板上での回路実装効率が低下しない、発振周波数のキャリブレーションが事前に必要とならない、といった効果の1つ以上の効果を奏することができる。
【0067】
更に、以下に説明するが、マイクロコンピュータは、メインクロック制御タスクとして自動車の操舵アシスト制御を実行している場合、マイクロコンピュータのクロック切換手段は、自動車のイグニッションスイッチがOFFされるまで、メインクロック制御タスクをサブクロック発振器のサブクロック信号で実行している。このため、自動車が走行中に操舵操作における操舵力の急変を抑制できる。
【0068】
次に本実施形態になる電子制御装置を操舵操作制御装置に搭載した時のメインクロック処理タスクの変更項目について説明する。このように変更項目を設けるのは、メインクロック信号とサブクロック信号による動作クロックの周期の差によって制御結果が異なってくるからである。
【0069】
図7は、制御タスクの種類とクロック信号の種類による制御タスクの実行の有無と、制御定数や異常検出カウンタの閾値等の変更項目を示している。ただ、これらは一例であって、これ以外の制御タスクも当然存在することはいうまでもない。
【0070】
図7において、通常状態でメインクロック信号によって動作される制御タスクとしては、(1)初期設定、(2)モータアシスト(アシスト力を与える)、(3)モータ制御、(4)フェールセーフ、(5)CAN通信、(6)診断処置、(7)センサ通信等の制御タスクがある。
【0071】
そして、メインクロック信号が正常な場合は、全ての制御タスクは設計通りの制御が実行される。一方、メインクロック信号に異常が発生してサブクロック信号に切り換えられると、(5)CAN通信の制御タスクが停止されるが、これ以外の制御タスクは実行される。
【0072】
ただし、この時、メインクロック信号とサブクロック信号は周波数が異なっているので、メインクロック信号によるメインクロック制御タスクと、サブクロック信号によるメインクロック制御タスクとでは、制御結果が異なってくる。このため、メインクロック制御タスクにおける制御定数や時間に関係する異常検出カウンタ値を、サブクロック信号にあわせて変更する必要がある。
【0073】
例えば(1)初期設定では夫々のクロック信号に対応して初期値が設定され、(2)モータアシストではフィルタ定数を切り換える処理を実行し、(4)フェールセーフでは異常確定までのカウント値を切り換える処理を実行し、(6)診断処理では診断用CAN通信は、サブクロック信号に切り換えた時も実行する、といった変更がなされる。
【0074】
図8においては、上述の制御のタイムチャートを示しており、(A)に示すように、イグニッションスイッチ(IGN)が、「OFF」から「ON」に移行され、その途中でメインクロック信号の異常が発生し、その後に「ON」から「OFF]に移行され、再び「OFF」から「ON」に移行されたときの変更状態を示している。
【0075】
これにあわせて、(B)に示すように、サブクロック切換フラグは、「ON」からメインクロックに異常を発生するまでは「0」(正常)であり、メインクロックに異常を発生してから「OFF」するまでは「1」(異常発生)にセットされ、そして「OFF」から再び「ON」されると「0」(正常)となる。このように、サブクロック切換フラグは、異常が発生してからイグニッションスイッチ(IGN)が「OFF」になるまで、「1」(異常発生)にセットされたままで、リセット処理は実行されない。
【0076】
そして(C)に示すように、操舵力をアシストする電動モータの制御は、サブクロック切換フラグが「0」の時はメインクロック信号の場合の設定値にセットされ、サブクロック切換フラグが「1」の時はサブクロック信号の場合の設定値にセットされる。具体的には、(D)に示すように、メインクロック信号の場合はフルアシスト値に設定され、サブクロック信号の場合はリンプアサイド値に設定される。このリンプアサイド値は、徐々に操舵アシスト力を漸減する方向に決められている。
【0077】
このように、マイクロコンピュータのクロック切換手段が、メインクロック制御タスクをサブクロック発振器のサブクロック信号で実行する場合、マイクロコンピュータは、操舵アシスト制御における操舵アシスト力を漸減する機能を実行する。
【0078】
更に(E)に示すように、時間経過を測定して種々の異常を確定するための異常検出カウンタの異常確定値(閾値)は、サブクロック切換フラグが「0」の時はメインクロック信号の場合の異常確定値にセットされ、サブクロック切換フラグが「1」の時はサブクロック信号の場合の異常確定値にセットされる。これによって、メインクロック信号の異常前と同等の異常検出時間とすることができる。
【0079】
更に(D)に示すように、CAN通信設定定数は、サブクロック切換フラグが「0」の時はメインクロック信号の場合の設定値にセットされ、サブクロック切換フラグが「1」の時はサブクロック信号の場合の設定値にセットされる。これによって、メインクロック信号に異常が発生した後に、他の異常が発生した場合においても、メインクロック信号の異常発生前と同等のCAN通信が可能となる。
【0080】
このように、本実施形態になる電子制御装置を搭載した操舵操作制御装置においては、メインクロック信号が異常となってもリセット処理を実行せず、サブクロック信号でメインクロック処理タスクを実行するので、「アシスト無し状態」とならずに「リンプアサイド状態」となる。このため、電動モータによって操舵操作をアシストする操舵アシスト力が消滅することがなくなり、運転者に違和感を与えることが抑制される。
【0081】
これに加えて、「リンプアサイド状態」では、電動モータによって操舵操作をアシストする操舵アシスト力が漸減する形態で減少されるため、運転者は舵アシスト力が大きく変化することを感じ難くなり、違和感を抑制することができる。
【0082】
更に、種々の異常を検出するための異常検出カウンタの異常確定値を、サブクロック信号への切り換えに合わせて異常検出時間が変化しないように変更しているので、異常検出動作をメインクロック信号の場合と同様に実行することができる。
以上の通り本発明においては、マイクロコンピュータは、クリスタル発振器のクロック信号に基づいて、メインクロック制御タスクを実行するためのメインクロック信号を発生するメインクロック発振器と、クリスタル発振器のクロック信号とは独立した、サブクロック制御タスクを実行するためのサブクロック信号を発生するサブクロック発振器とを備え、更にマイクロコンピュータは、メインクロック発振器のメインクロック信号に異常を生じると、メインクロック制御タスクをサブクロック発振器のサブクロック信号で実行するクロック切換手段を備えている。
これによれば、新たな外部発振器が必要とならない、制御基板上での回路実装効率が低下しない、発振周波数のキャリブレーションが事前に必要とならない、といった効果の1つ以上の効果を奏することができる。
尚、本発明は上記したいくつかの実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。上記の実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。各実施例の構成について、他の構成の追加、削除、置換をすることも可能である。