(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022133552
(43)【公開日】2022-09-14
(54)【発明の名称】植生復元工法
(51)【国際特許分類】
E02D 17/20 20060101AFI20220907BHJP
【FI】
E02D17/20 102F
E02D17/20 103A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021032287
(22)【出願日】2021-03-02
(71)【出願人】
【識別番号】000231431
【氏名又は名称】日本植生株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100074273
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 英夫
(74)【代理人】
【識別番号】100173222
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 英二
(74)【代理人】
【識別番号】100151149
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 幸城
(72)【発明者】
【氏名】佐伯 忠寛
(72)【発明者】
【氏名】中村 剛
(72)【発明者】
【氏名】遠山 宏一
(72)【発明者】
【氏名】小竹守 敏彦
(72)【発明者】
【氏名】中村 剛志
(72)【発明者】
【氏名】坂手 修
(72)【発明者】
【氏名】沼本 弘明
【テーマコード(参考)】
2D044
【Fターム(参考)】
2D044DA33
2D044DA35
(57)【要約】
【課題】より多くの基材を長期間にわたって安定性よく保持することができ、施工効率の向上にも資する植生復元工法を提供すること。
【解決手段】本発明に係る植生復元工法は、金網1を構成する線材4として、長尺状の基材流亡防止部材2を螺旋状に抱擁する抱擁線材4Aを少なくとも一つ含む植生復元装置Dを施工領域Rに配した状態とする。前記抱擁線材4Aは、上に凸の湾曲状の上線部4aと下に凸の湾曲状の下線部4bとを有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金網を構成する線材として、長尺状の基材流亡防止部材を螺旋状に抱擁する抱擁線材を少なくとも一つ含む植生復元装置を施工領域に配した状態とする植生復元工法。
【請求項2】
前記抱擁線材は、上に凸の湾曲状の上線部と下に凸の湾曲状の下線部とを有する請求項1に記載の植生復元工法。
【請求項3】
前記上線部と前記下線部の曲率が同一である請求項2に記載の植生復元工法。
【請求項4】
前記基材流亡防止部材が断面略矩形のベルト状を呈する請求項1~3の何れか一項に記載の植生復元工法。
【請求項5】
前記基材流亡防止部材をヤシ等の天然繊維によって構成してある請求項1~4の何れか一項に記載の植生復元工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、法面等における植生の復元に好適な植生復元工法に関する。
【背景技術】
【0002】
植生復元工法として、法面に金網を敷設し、その上から客土や植生基材を吹き付けて植物を生育させることが広く行われている。そして、特許文献1の法面保護装置では、降雨等によって客土や基材が流亡し難くなるように、略扁平状の汎用菱形金網より厚みのある金網を採用し、この金網の内部空間に基材流亡防止部材(繊維ロープ)を通して張設する。また、基材の流亡防止効果をさらに高めるため、従来の吹き付け工法に代えて、基材を充填した植生袋を厚みのある金網の溝部に配置するとともに網体で保持し、さらに植生袋の滑落や基材の流亡を防止するための基材流亡防止部材(ヤシ繊維等を直線状に束にしてなるストッパ)を略等高線状に配置する法面緑化構造体を、本出願人は提案している(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実願昭58-37800(実開昭59-144050号)のマイクロフィルム
【特許文献2】特開2006-336193号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1の法面保護装置、特許文献2の法面緑化構造体の何れにおいても、基材流亡防止部材(特許文献1では繊維ロープ、特許文献2ではストッパ)が厚みのある金網の内部空間にいわばガバガバの状態で挿入されている(基材流亡防止部材の断面積が金網の内部空間の断面積に比べて一回り以上小さい)。そのため、地山の凹凸形状や基材流亡防止部材の配置の仕方等によっては、基材流亡防止部材が地山から大きく浮いてしまう箇所が生じ、基材流亡防止効果が損なわれる恐れがある。また、そのため、基材流亡防止部材が金網に対する定位置からずれ易く、このずれによって基材流亡防止部材が金網の片側から抜ける方向に移動し、金網に基材流亡防止部材が存在しない空白部分が生じると、少なくともその部分で所望の基材流亡防止効果が発揮されなくなるので、ずれを修正する作業が別途必要になり、その分施工効率が低下するという問題もある。
【0005】
本発明は上述の事柄に留意してなされたもので、その目的は、より多くの基材を長期間にわたって安定性よく保持することができ、施工効率の向上にも資する植生復元工法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明に係る植生復元工法は、金網を構成する線材として、長尺状の基材流亡防止部材を螺旋状に抱擁する抱擁線材を少なくとも一つ含む植生復元装置を施工領域に配した状態とする(請求項1)。
【0007】
上記植生復元工法において、前記抱擁線材は、上に凸の湾曲状の上線部と下に凸の湾曲状の下線部とを有していてもよい(請求項2)。
【0008】
上記植生復元工法において、前記上線部と前記下線部の曲率が同一であってもよい(請求項3)。
【0009】
上記植生復元工法において、前記基材流亡防止部材が断面略矩形のベルト状を呈してもよい(請求項4)。
【0010】
上記植生復元工法において、前記基材流亡防止部材をヤシ等の天然繊維によって構成してもよい(請求項5)。
【発明の効果】
【0011】
本願発明では、より多くの基材を長期間にわたって安定性よく保持することができ、施工効率の向上にも資する植生復元工法が得られる。
【0012】
すなわち、本願の各請求項に係る発明の植生復元工法では、金網を構成する抱擁線材によって基材流亡防止部材を螺旋状に抱擁するので、金網を地山の凹凸に沿わせれば、これに伴って基材流亡防止部材も地山の凹凸にほぼ沿った状態になり、故に、基材流亡防止部材による基材流亡防止効果を高めることができる。しかも、本発明の植生復元工法では、上記抱擁により金網と基材流亡防止部材とが一体化され、基材流亡防止部材が金網に対する定位置から不意にずれるということが起こり難いので、それだけ基材流亡防止部材を定位置に戻す等の作業が不要となり、施工効率が高まることになる。
【0013】
請求項2に係る発明の植生復元工法では、抱擁線材の下線部を下に凸の湾曲状としたことにより、基材の保持力が高まることになる。つまり、基材の保持力には、金網の形状や基材流亡防止部材の有無の他に、施工領域の表面に対する基材自体の摩擦抵抗も関係する。そして、本工法では、抱擁線材の下線部と施工領域の表面との接触面積を減らしつつ、下線部の下方の隙間にも基材を保持できるようにして、施工領域の表面に対する基材の摩擦抵抗をより大きいものとし、その結果、基材の流亡防止効果を高めるようにしてある。
【0014】
また、本工法では、抱擁線材の下線部が下に凸の湾曲状をしているので、その上に配置した基材流亡防止部材が施工領域の表面に接するのを下線部が妨げ難く、それだけ基材流亡防止部材による基材の流亡防止効果が高まることになる。
【0015】
加えて、請求項2に係る発明の植生復元工法では、抱擁線材の上線部を上に凸の湾曲状としたことにより、上線部は、上側に向かってその幅が狭くなり、少なくとも上線部の全体が露出しないように基材で覆ってあれば、例えばゲリラ豪雨や台風等により基材の侵食や流亡が進行し、この進行に伴って上線部の基材表面への露出量は増し、飛来種子等の捕捉力は増強されることになり、植生復元力が大きく損なわれることは防止される。
【0016】
請求項3に係る発明の植生復元工法では、上線部と下線部の形状を共通化することで、生産性が向上し、また、金網の表裏を無くしてリバーシブルに施工可能とすることができる。
【0017】
請求項4に係る発明の植生復元工法では、基材流亡防止部材を断面略矩形とすることにより、基材流亡防止部材の表裏(上下)を無くしてリバーシブルに金網に挿入可能とすることができるとともに、基材流亡防止部材を地山に面接触させ易くして基材の流亡防止効果の向上を図ることもできる。しかも、例えば請求項2のように抱擁線材の上線部、下線部がそれぞれ湾曲状となっている場合には、上線部と下線部とで囲まれる空間を基材流亡防止部材によって効果的に埋めつつ、上線部と下線部が基材流亡防止部材の角部に接触またはめり込むことで、基材流亡防止部材が金網から位置ずれしたり抜けたりし難くなり、特別な係止具を用いることなく金網に基材流亡防止部材を良好に保持させることも可能となる。
【0018】
請求項5に係る発明の植生復元工法では、基材流亡防止部材にヤシ等の天然繊維を用いることにより、その保水力を向上させることができ、生分解による肥料効果を奏するようになることも期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】(A)は本発明の一実施の形態に係る植生復元工法の構成を概略的に示す説明図、(B)は前記植生復元工法に用いる植生復元装置の平面図である。
【
図2】(A)は前記植生復元装置の部分拡大斜視図、(B)は前記植生復元装置の金網の断面形状図である。
【
図3】前記植生復元工法の実施品と従来の実施品について行った耐侵食確認試験の結果を示すグラフであり、縦軸に基材の厚さ、横軸に試験開始からの経過時間をとっている。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の実施の形態について以下に説明する。
【0021】
本例の植生復元工法は、
図1(A)に示すように、施工領域R(本例では法面)に、金網1及び基材流亡防止部材2を具備する植生復元装置Dを、基材3とともに配した状態とするものである。
【0022】
金網1は、
図2(A)に示すように、略螺旋状に屈曲した複数の線材4を、線材4の螺旋軸どうしが略平行となるように互いに係合させて構成した立体的な厚みを持つ菱形金網(ワイヤーラス)である。
【0023】
なお、本例の金網1は、幅W(
図1(B)参照)が約2000mm、長さL(
図1(B)参照)が約10000mm、目合いが約56mm、厚み(高さ)T(
図2(B)参照)が約16mmである。そして、線材4は、例えば亜鉛メッキを施した鉄線からなり、必要強度等に応じた任意の太さのものを用いればよいが、太さが1mm未満では金網としての強度が不十分となり、10mm超では得られる金網の重量化により施工が困難となるので、1~10mmの太さとするのが好ましい。ここで、線材4の両端はナックル加工されているが、例えばツイスト加工等の他の適宜の加工により処理するようにしてもよい。
【0024】
各線材4は、
図1(A)中の拡大図、
図2(A)及び(B)に示すように、上に凸の湾曲状の上線部4aと下に凸の湾曲状の下線部4bとが交互に繰り返し連なって略螺旋状を描くように構成され、特に
図1(A)及び
図2(B)に示すように、その螺旋軸方向の一端側からみたときにその高さが幅よりも小さい扁平な楕円状を描く(縦断面形状が扁平な楕円状となる)ように構成されている。
【0025】
基材流亡防止部材2は、
図1(B)に示すように、長尺状を呈し、金網1の一部の線材4内にその螺旋軸を通るように収容される。斯かる基材流亡防止部材2は、例えばヤシ繊維、わら、シュロ毛などの繊維をケミカルボンド、サーマルボンド、ニードルパンチ等の方式で不織布として保形したものが好ましい。ただし、これに限らず、基材流亡防止部材2が、例えばヤシ繊維からなるマット(汎用マット等)をベルト状に細長く切り出したものであってもよい。
【0026】
また、本例の基材流亡防止部材2は、その長さが金網1の幅と略同一(約2000mm)のベルト状(帯状)とし(
図1(B)参照)、長手方向に直交する断面を約30mm(幅)×約10mm(厚み)の矩形状としてある(
図1(A)参照)。すなわち、上述のように各線材4が扁平な楕円状を描くのにあわせて、基材流亡防止部材2はその厚みが幅よりも小さくなっている(例えば厚みが幅の半分以下程度)。基材流亡防止部材2の厚みは、その材質、性状等に応じて適宜変更すればよく、例えば基材流亡防止部材2がヤシ繊維からなるベルト状のものであり、金網の厚みTが16mmの場合には、12~13mm程度とすることが考えられる。
【0027】
そして、金網1による基材流亡防止部材2の保持の安定化、確実化の観点から、本例では、基材流亡防止部材2が収容される線材4が基材流亡防止部材2を螺旋状に抱擁する(線材4の繰り返して連なる上線部4a及び下線部4bのそれぞれに基材流亡防止部材2が接する)ようにしている。こうすることで、基材流亡防止部材2は経年劣化した場合でも金網1から脱落しづらくなり、その機能を長期間にわたって維持することが一層容易となる。以下では、その内部に収容された基材流亡防止部材2を螺旋状に抱擁する線材4を、基材流亡防止部材2が収容されない他の線材4と区別して抱擁線材4Aという場合があるが、本例において各線材4(抱擁線材4Aと他の線材4)の形状は同一である。
【0028】
基材3は、種子、植生基盤材、肥料、侵食防止材のうち少なくとも一つを含むものである。
【0029】
次に、本例の植生復元工法の施工手順について説明する。
【0030】
(1)まず、
図1(A)に示すように、法面である施工領域Rに、金網1を敷設するとともに、金網1(抱擁線材4A)に基材流亡防止部材2を保持させた状態にし、アンカーピン5によって両者1,2を施工領域Rに固定する。この際、基材流亡防止部材2が施工領域Rの等高線に沿うように配置する。これにより、施工領域Rに植生復元装置Dが敷設(設置)された状態となる。
【0031】
本例では、あらかじめロール状に巻いておいた金網1の抱擁線材4Aの一端部の内側空間に基材流亡防止部材2を挿入し、この基材流亡防止部材2にアンカーピン5を打ち込んで金網1とともに施工領域Rに固定した後、金網1を法尻側に向けて展開し、法肩から法尻に向かって一定間隔(例えば500mm)ごとに基材流亡防止部材2を金網1の抱擁線材4Aに挿入しつつアンカーピン5による固定を行っていく。そして、上述のような金網1の展開作業等に対応できるように、最も法肩側(上側)に位置する部分に打設するアンカーピン5の少なくとも一部には、他のアンカーピン5より一回り大きいアンカーピンを用い、強力な固定を行えるようにしてある。
【0032】
なお、一定間隔で基材流亡防止部材2を挿入した状態の金網1をロール状に巻くことができる場合には、基材流亡防止部材2をあらかじめ金網1に挿入(装着)してあってもよい。また、基材流亡防止部材2を挿入した状態の金網1がロール状に巻けない場合であっても、例えば展開した状態で金網1を運搬するのであれば、基材流亡防止部材2をあらかじめ金網1に挿入(装着)してあってもよい。
【0033】
(2)基材3の吹付けや散布等により、施工領域Rに敷設した植生復元装置D(金網1及び基材流亡防止部材2)を覆うように基材3の層を形成する。
【0034】
以上の工程(1)、(2)により、本例の植生復元工法は完了する。
【0035】
本例の植生復元工法では、金網1を構成する抱擁線材4Aによって基材流亡防止部材2を螺旋状に抱擁するので、金網1を地山の凹凸に沿わせれば、これに伴って基材流亡防止部材2も地山の凹凸にほぼ沿った状態になり、故に、基材流亡防止部材2による基材流亡防止効果を高めることができる。しかも、本例の植生復元工法では、上記抱擁により金網1と基材流亡防止部材2とが一体化され、基材流亡防止部材2が金網1に対する定位置から不意にずれるということが起こり難いので、それだけ基材流亡防止部材2を定位置に戻す等の作業が不要となり、施工効率が高まることにもなる。
【0036】
また、本例の植生復元工法では、基本的に用いるのは金網1、基材流亡防止部材2、基材3及びアンカーピン5のみであって、必要な部材点数及び工数が少なくて済むので、その施工の低コスト化を図るのも極めて容易である。
【0037】
さらに、本例の植生復元工法では、長尺状の基材流亡防止部材2を、略等高線に沿うように配し、かつ、金網1とともにアンカーピン5により施工領域Rの表面に接するように固定するので、基材流亡防止部材2が緩衝材代わりになり、金網1が全体として施工領域Rの表面の凹凸にフィットし易くなる。
【0038】
そして、本例の植生復元工法では、抱擁線材4Aを含む各線材4の下線部4bを下に凸の湾曲状としたことにより、基材3の保持力が高まることになる。つまり、基材3の保持力には、金網1の形状や基材流亡防止部材2の有無の他に、施工領域Rの表面に対する基材3自体の摩擦抵抗も関係する。この点、本工法では、各線材4Aの下線部4bと施工領域Rの表面との接触面積を減らしつつ、下線部4bの下方の隙間にも基材3を保持できるようにして、施工領域Rの表面に対する基材3の摩擦抵抗をより大きいものとし、その結果、基材3の流亡防止効果を高めるようにしてある。
【0039】
また、本工法では、抱擁線材4Aを含む各線材4の下線部4bが下に凸の湾曲状をしているので、その上に配置した基材流亡防止部材2が施工領域Rの表面に接するのを下線部4bが妨げ難く、それだけ基材流亡防止部材2による基材3の流亡防止効果が高まることになる。
【0040】
加えて、本例の植生復元工法では、抱擁線材4Aを含む各線材4の上線部4aを上に凸の湾曲状としたことにより、上線部4aは、上側に向かってその幅が狭くなり、少なくとも上線部4aの全体が露出しないように基材3で覆ってあれば、例えばゲリラ豪雨や台風等により基材3の侵食や流亡が進行し、この進行に伴って上線部4aの基材3表面への露出量は増し、飛来種子等の捕捉力は増強されることになり、植生復元力が大きく損なわれることは防止される。
【0041】
その上、本例の植生復元工法では、各線材4の上線部4aと下線部4bの曲率を同一とし、その形状を共通化することで、生産性が向上し、また、金網1の表裏を無くしてリバーシブルに施工可能とすることができる。
【0042】
また、本例の植生復元工法では、基材流亡防止部材2を断面略矩形とすることにより、基材流亡防止部材2の表裏(上下)を無くしてリバーシブルに金網1に挿入可能とすることができるとともに、基材流亡防止部材2を地山に面接触させ易くして基材3の流亡防止効果の向上を図ることもできる。しかも、抱擁線材4Aを含む各線材4の上線部4a、下線部4bがそれぞれ湾曲状となっているので、上線部4aと下線部4bとで囲まれる空間を基材流亡防止部材2によって効果的に埋めつつ、上線部4aと下線部4bが基材流亡防止部材2の角部に接触またはめり込むことで、基材流亡防止部材2が金網1から位置ずれしたり抜けたりし難くなり、特別な係止具を用いることなく金網1に基材流亡防止部材2を良好に保持させることも可能となる。
【0043】
また、本例の植生復元工法では、基材流亡防止部材2にヤシ等の天然繊維を用いることにより、その保水力を向上させることができ、生分解による肥料効果を奏するようになることも期待できる。
【0044】
以下、本例の植生復元工法と従来の植生復元工法とを比較するために行った耐侵食確認試験の内容とその結果について説明する。
【0045】
まず、本発明(本例)の実施品として、金網1に一定間隔で基材流亡防止部材2を装着した植生復元装置Dを準備し、従来の実施品として、略扁平状の汎用菱形金網(ラス金網)を準備した。
【0046】
扁平な略直方体形状の箱の上面を取り除いた構造の二つの供試体枠に、それぞれまさ土を5cm高さで締め固め、一方の供試体枠には本発明の実施品である植生復元装置Dを、他方の供試体枠には従来の実施品としてのラス金網を固定し、それぞれに生育基盤材(基材3)を3cm厚みとなるように吹付けた。そして、各供試体枠を降雨試験装置内に1:1.0(45°)の勾配を持たせて設置し、各供試体枠の表面に、該表面を縦横4×4の16マスに分割するようにピアノ線を張り、その交点9か所における基材3の厚さの平均値を、6時間にわたり、時間雨量100mm/時間で1時間毎に測定・算出した。その結果を表1及び
図3に示す。
【0047】
【0048】
表1及び
図3に示す結果から明らかなように、本発明の実施品を用いた方が、従来の実施品を用いる場合よりも、基材3の厚さが大きく、侵食防止効果が高いことが分かる。
【0049】
なお、本発明は、上記の実施の形態に何ら限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々に変形して実施し得ることは勿論である。例えば、以下のような変形例を挙げることができる。
【0050】
基材3として、施工領域Rまたはその周辺から採取した表土(表土シードバンク、埋土種子混在表土)を用いるようにしてもよく、この場合、本例の植生復元工法を、周辺環境との調和のとれた植生を復元する森林表土利用工として実施可能となる。
【0051】
上記実施の形態では、金網1を基材3で完全に覆うようにしているが、これに限らず、金網1の少なくとも一部を基材3で覆わないようにしてもよく、この場合、金網1において基材3の表面側に露出した部分によって飛来種子や飛来落葉等を捕捉し易くなるので、本例の植生復元工法を、周辺環境との調和のとれた植生の復元に秀でた自然侵入促進工として実施可能となる。また、この場合、基材3の使用量を減らすことができるので、それだけ施工に掛かる労力やコストの削減に資するものともなる。
【0052】
ここで、金網1の上部(上線部4a)のみが露出するように金網1を基材3で覆った場合、この露出部分(上線部4a)は、法面である施工領域Rにおいて等高線に対して斜めとなる方向に延び、かつ、複数の露出部分(上線部4a)が略千鳥状に並ぶことになる。
【0053】
基材流亡防止部材2の材質は、繊維をラテックス、樹脂等で固め、保形したものや、その他厚みのある硬めの不織布等であってもよい。いずれにしても、基材流亡防止部材2は、その上に吹き付けた基材3の重みでへしゃげない程度の厚み方向の強度を有していることが望ましい。
【0054】
上記実施の形態では、抱擁線材4Aと他の線材4とを同一形状としているが、両者で形状を異ならせるようにしてもよい。
【0055】
なお、上記変形例どうしを適宜組み合わせてもよいことはいうまでもない。
【符号の説明】
【0056】
1 金網
2 基材流亡防止部材
3 基材
4 線材
4A 抱擁線材
4a 上線部
4b 下線部
5 アンカーピン
D 植生復元装置
L 長さ
R 施工領域
T 金網の厚み
W 金網の幅