(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022133560
(43)【公開日】2022-09-14
(54)【発明の名称】ズリ搬送システム、及びトンネル掘削方法
(51)【国際特許分類】
E21D 9/12 20060101AFI20220907BHJP
B65G 21/14 20060101ALI20220907BHJP
【FI】
E21D9/12 B
B65G21/14 A
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021032300
(22)【出願日】2021-03-02
(71)【出願人】
【識別番号】303057365
【氏名又は名称】株式会社安藤・間
(71)【出願人】
【識別番号】594145297
【氏名又は名称】タグチ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001335
【氏名又は名称】弁理士法人 武政国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】副島 幸也
(72)【発明者】
【氏名】冨永 秀之
【テーマコード(参考)】
2D054
3F025
【Fターム(参考)】
2D054DA02
3F025AA02
(57)【要約】
【課題】本願発明の課題は、従来技術が抱える問題を解決することであり、すなわち移動式破砕機とテールピース台車を再配置するにあたって、切羽作業の停止期間を従来に比して抑制することができるズリ搬送システムと、これを用いたトンネル掘削方法を提供することである。
【解決手段】本願発明のズリ搬送システムは、トンネル掘削によって生じたズリを坑口側に搬送するシステムであり、連続ベルトコンベアとテールピース台車を備えたものである。このうちテールピース台車は、テールプーリーと仮受キャリアローラーと、仮受キャリアローラーの下方に形成されるフレームスペースを有するものである。このフレームスペースは、坑口側から連続するフレームをさらに延伸させるフレームとキャリアローラーを設置することができる空間である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トンネル掘削によって生じたズリを坑口側に搬送するシステムであって、
無端ベルトと、フレームと、該フレームに設置されるキャリアローラーと、を有する連続ベルトコンベアと、
テールプーリーと、仮受キャリアローラーと、該仮受キャリアローラーの下方に形成されるフレームスペースと、を有するテールピース台車と、を備え、
複数の前記キャリアローラーがトンネル軸方向に配置されるとともに、該キャリアローラーと前記テールプーリーとの間に前記仮受キャリアローラーが配置され、
前記無端ベルトは前記テールプーリーで折り返すことで、下面ベルトが切羽側に移動するとともに上面ベルトが坑口側に移動可能であり、
前記上面ベルトは、前記キャリアローラー上と前記仮受キャリアローラー上に載置されて移動し、
前記フレームスペースは、坑口側から連続する前記フレームをさらに延伸させる前記フレーム、及び前記キャリアローラーの設置が可能な空間である、
ことを特徴とするズリ搬送システム。
【請求項2】
前記無端ベルトには、前記上面ベルトが前記キャリアローラーから前記仮受キャリアローラーに向けて上方に傾斜する傾斜区間が形成され、
前記傾斜区間における前記上面ベルトの下方に、前記フレーム、及び前記キャリアローラーが配置された、
ことを特徴とする請求項1記載のズリ搬送システム。
【請求項3】
掘削作業と、コンクリート吹付作業と、ロックボルト設置作業と、を含む切羽作業工程と、
前記掘削作業によって生じたズリを、請求項1又は請求項2記載のズリ搬送システムを用いて坑口側に搬送するズリ搬送工程と、
前記テールピース台車の前記フレームスペースに、前記フレーム、及び前記キャリアローラーを設置することによって、坑口側から連続する前記フレームをさらに延伸させるフレーム延伸工程と、
前記フレーム延伸工程の後に、前記テールピース台車を切羽側に移動するテールピース台車前進工程と、を備え、
前記フレーム延伸工程と前記テールピース台車前進工程は、前記切羽作業工程、又は前記ズリ搬送工程と並行して行われる、
ことを特徴とするトンネル掘削方法。
【請求項4】
前記フレーム延伸工程は、前記掘削作業と並行して行われ、
前記テールピース台車前進工程は、前記コンクリート吹付作業と並行して行われる、
ことを特徴とする請求項3記載のトンネル掘削方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、トンネル掘削によって生じた岩塊や岩砕、土砂等(以下、これらを総称して「ズリ」という。)を坑口方面に送り出す連続ベルトコンベヤに関するものであり、より具体的には、トンネル掘削作業(特に、切羽作業)中でも連続ベルトコンベヤを延伸することができるズリ搬送システムと、これを用いたトンネル掘削方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
我が国の国土は、およそ2/3が山地であるといわれており、そのため道路や線路など(以下、「道路等」という。)は必ずといっていいほど山地部を通過する区間がある。この山地部で道路等を構築するには、斜面の一部を掘削する切土工法か、地山の内部をくり抜くトンネル工法のいずれかを採用するのが一般的である。トンネル工法は、切土工法に比べて施工単価(道路等延長当たりの工事費)が高くなる傾向にある一方で、切土工法よりも掘削土量(つまり排土量)が少なくなる傾向にあるうえ、道路等の線形計画の自由度が高い(例えば、ショートカットできる)といった特長があり、これまでに建設された国内のトンネルは10,000を超えるといわれている。
【0003】
山岳トンネルの施工方法としては、昭和50年代までは鋼アーチ支保工に木矢板を組み合わせて地山を支保する「矢板工法」が主流であったが、現在では地山強度を積極的に活かすNATM(New Austrian Tunneling Method)が主流となっている。NATMは、地山が有する強度(アーチ効果)に期待する設計思想が主な特徴であり、そのため従来の矢板工法に比べトンネル支保工の規模を小さくすることができ、しかも施工速度を上げることができることから施工コストを減縮することができる。
【0004】
また我が国におけるNATMは、本格的に実施されて以来、飛躍的に掘削技術が進歩しており、種々の補助工法が開発されることによって様々な地山に対応することができるようになり、さらに掘削機械(特に、自由断面掘削機)の進歩によって発破掘削のほか機械掘削も選択できるようになった。この機械掘削は、掘削断面積や線形にもよるものの一般的には比較的低い強度(例えば、一軸圧縮強度が49N/mm2以下)の地山に対して採用されることが多く、一方、対象地山に岩盤が存在する場合はやはり発破掘削が採用されることが多い。
【0005】
さらに、発破掘削によって生じたズリを坑外に搬出する方法にもいくつかの種類があり、ダンプトラック等に積載してズリを搬送する「タイヤ式」や、坑内に敷設したレールを利用してズリを搬送する「レール式」、同じく坑内に設置した連続ベルトコンベヤシステムによってズリを搬送する「ベルトコンベヤ式」などが挙げられる。
【0006】
このうちベルトコンベヤ式によるズリ搬送は、概ねトンネル全長(掘削長さ)分の設備を設置する必要があるものの、他の工程(例えば、コンクリート吹付など)との並行実施が可能であることから掘進サイクルを短縮することができるうえ、ダンプトラックのように化石燃料を使用することがないため環境(特に坑内環境)に悪影響を及ぼすことがなく、また掘削延長が長い場合は他の方式よりも経済的に有利であるといった特長がある。そのため、新幹線(例えば、リニア中央新幹線)や高速道路など比較的延長が長いトンネルでは、ズリ搬送方式としてベルトコンベヤ式を採用する傾向にある。
【0007】
通常、連続ベルトコンベヤシステムは、ベルトコンベヤと、移動式破砕機(移動式クラッシャー)、テールピース台車、ベルトストレージ装置、メインドライブ装置等によって構成される。このベルトコンベヤは、坑口側のヘッドプーリーとテールピース台車のテールプーリー間を巡回する無端ベルトであり、つまりヘッドプーリーとテールプーリーが無端ベルトの反転部として機能する。より詳しくは、坑口側のヘッドプーリーで無端ベルトが上面から下面に移るとともに坑口方面の移動から切羽方面への移動に反転し、切羽側のテールプーリーで無端ベルトが下面から上面に移るとともに切羽方面の移動から坑口方面への移動に反転する。これにより、無端ベルトの上面に載せられたズリが坑口近くまで搬送されるわけである。
【0008】
発破では岩盤を比較的大きな塊状に小割りするだけであり、この状態のままベルトコンベヤによって搬送することはできない。そのため、移動式破砕機が発破によって生じた岩塊をさらに細かく破砕する。そして移動式破砕機が破砕した岩砕(ズリ)はテールピース台車のズリ投入部(投入ホッパー)に投入され、さらにベルトコンベヤに載せられて坑口方面に搬送される。テールピース台車にはクローラやタイヤといった自走手段が装備されており、切羽の進行に伴い移動することができる。テールピース台車が前進するとベルトコンベヤが牽引され、これに伴ってあらかじめベルトストレージ装置に貯蔵されたベルトを順次繰り出しベルトコンベヤを延伸していく。
【0009】
上記したとおり、発破によって生じた岩塊は移動式破砕機に投入されるため、パワーショベルといったずり積機械によって切羽から移動式破砕機まで岩塊を運搬しなければならない。したがって、効率的にズリ搬送作業を行うためには、
図6に示すように移動式破砕機CRとテールピース台車TPはできるだけ切羽近くに配置する方がよい。ただし発破掘削の場合は、爆風や岩塊の飛来から保護するためある程度(例えば60m程度)切羽から離れて配置される。
【0010】
移動式破砕機CRとテールピース台車TPを切羽付近に設置したとしても、トンネル掘削を継続することによって日々切羽は前方に進んでいく。すなわち、切羽と移動式破砕機CRやテールピース台車TPとの距離が徐々に長くなっていき、これに伴いずり積機械による運搬距離も徐々に長くなり、その分作業効率は低下していくわけである。そのため、切羽が一定程度の距離(例えば、30~60m)だけ前進すると、移動式破砕機CRとテールピース台車TPを切羽側に移動させると同時にベルトコンベヤBCを延伸する作業(いわゆる、段取り替え)を行う。
【0011】
図7は、移動式破砕機CRとテールピース台車TPを切羽近くに再配置する従来工程を示すフロー図である。この図に示すように移動式破砕機CRとテールピース台車TPの段取り替えを行うにあたっては、まずズリの清掃を行う(
図7のStep210)。移動式破砕機CRとテールピース台車TPの段取り替えを行うまでには、相当期間(例えば、1~2週間)トンネル掘削が行われるため、移動式破砕機CRの側方やテールピース台車TPの前方にはこぼれたズリが相当量堆積している。堆積したズリは移動式破砕機CRやテールピース台車TPの移動にとって障壁となるため、まずはズリの清掃を行うわけである。
【0012】
ズリを清掃すると、移動式破砕機CRを切羽付近まで(例えば、30~60m)移動させ(
図7のStep220)、テールピース台車TPを切羽付近にセットする(
図7のStep230)。ただし、テールピース台車TPは、切羽付近まで一度に移動するのではなく、少しずつベルトコンベヤBCを延伸しながら前へ進んでいく。そして、切羽付近にテールピース台車TPをセットすると、テールピース台車TPの投入ホッパーにズリが投入されるように移動式破砕機CRをセットする(
図7のStep240)。
【0013】
ところで、トンネル掘削用のベルトコンベヤBCはトンネル側壁に設置されることから、特許文献1(例えば、
図5)にも示されるように比較的複雑な構造とされる。すなわち、トンネル側壁にアンカーを設置するとともにこのアンカーに吊チェーンHCを取り付け、そして吊チェーンHCによって水平架台を支持したうえで、水平支持台の上にベルトコンベヤのフレームFLを載置する構造が一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
既述したとおりテールピース台車TPは、切羽付近まで一度に移動するのではなく、例えば2つのフレームFL(つまり、2×3.6m)分ずつ延伸しながら前へ進んでいく。すなわち、比較的複雑な構造であるベルトコンベヤBCを構築しながらテールピース台車TPを前進させることとなる。具体的には、テールピース台車TPを所定長(例えば、7.2m)だけ移動させると(
図7のStep231)、その移動区間にアンカーを設置するとともに吊チェーンHCを取り付け(
図7のStep232)、さらに水平支持台やフレームFLを設置する(
図7のStep233)。そしてテールピース台車TPが切羽付近に移動するまで、この一連の工程(
図7のStep231~Step233)が繰り返し行われる。
【0016】
移動式破砕機CRとテールピース台車TPを切羽近くに再配置する作業(つまり、
図7の工程)は、切羽の掘削作業やコンクリート吹付、ロックボルト設置といった切羽での作業(以下、「切羽作業」という。)と並行して行うことができず、すなわち切羽の進行を停止した状態で行わなければならない。仮に、60mほど切羽が前進したタイミングで移動式破砕機CRとテールピース台車TPの段取り替えを行うとした場合、月間のうち約1割程度(2~3日)がこの段取り作業に割かれることとなり、その分切羽作業を実施することができないこととなる。
【0017】
本願発明の課題は、従来技術が抱える問題を解決することであり、すなわち移動式破砕機CRとテールピース台車TPを再配置するにあたって、切羽作業の停止期間を従来に比して抑制することができるズリ搬送システムと、これを用いたトンネル掘削方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本願発明は、移動式破砕機CRとテールピース台車TPの再配置を切羽作業と並行して行う、すなわち移動式破砕機CRとテールピース台車TPの再配置をトンネル掘削におけるクリティカルパスとしない、という点に着目してなされたものであり、これまでにない発想に基づいて行われた発明である。
【0019】
本願発明のズリ搬送システムは、トンネル掘削によって生じたズリを坑口側に搬送するシステムであり、連続ベルトコンベアとテールピース台車を備えたものである。このうち連続ベルトコンベアは、無端ベルトとフレーム、フレームに設置されるキャリアローラーを有するものであり、一方のテールピース台車は、テールプーリーと仮受キャリアローラーと、仮受キャリアローラーの下方に形成されるフレームスペースを有するものである。複数のキャリアローラーがトンネル軸方向に配置されるとともに、キャリアローラーとテールプーリーとの間には仮受キャリアローラーが配置される。また、無端ベルトはテールプーリーで折り返すことで、下面ベルトが切羽側に移動するとともに上面ベルトが坑口側に移動可能とされ、上面ベルトは、キャリアローラー上と仮受キャリアローラー上に載置されて移動する。なお、フレームスペースは、坑口側から連続するフレームをさらに延伸させるフレームとキャリアローラーを設置することができる空間である。
【0020】
本願発明のズリ搬送システムは、無端ベルトに傾斜区間が形成されたものとすることもできる。この傾斜区間は、上面ベルトがキャリアローラーから仮受キャリアローラーに向けて上方に傾斜する区間である。なお、傾斜区間における上面ベルトの下方には、フレームとキャリアローラーを配置することもできる。
【0021】
本願発明のトンネル掘削方法は、本願発明のズリ搬送システムを用いてトンネル掘削を行う方法であり、切羽作業工程とズリ搬送工程、フレーム延伸工程、テールピース台車前進工程を備えた方法である。このうち切羽作業工程では、掘削作業とコンクリート吹付作業、ロックボルト設置作業を含む「切羽作業」を行い、ズリ搬送工程では、本願発明のズリ搬送システムを用いて掘削作業によって生じたズリを坑口側に搬送する。またフレーム延伸工程では、テールピース台車のフレームスペース内にフレームとキャリアローラーを設置することによって坑口側から連続するフレームをさらに延伸し、テールピース台車前進工程では、フレーム延伸工程の後にテールピース台車を切羽側に移動する。なお、フレーム延伸工程とテールピース台車前進工程は、切羽作業工程やズリ搬送工程と並行して行われる。
【0022】
本願発明のトンネル掘削方法は、フレーム延伸工程を掘削作業と並行して行い、テールピース台車前進工程をコンクリート吹付作業と並行して行う方法とすることもできる。
【発明の効果】
【0023】
本願発明のズリ搬送システム、及びトンネル掘削方法には、次のような効果がある。
(1)移動式破砕機とテールピース台車の再配置を切羽作業と並行して行うことができ、すなわちトンネル掘削におけるクリティカルパスとならないことから、この段取り替えに伴う切羽作業の停止期間を従来に比して短縮することができる。
(2)日々、移動式破砕機とテールピース台車を切羽付近に移動することができることから、移動式破砕機の側方やテールピース台車の前方に堆積するズリは少量であり、移動式破砕機やテールピース台車の移動にとって障壁とならないため、ズリの清掃作業を省略することができる。
(3)切羽作業中に余裕ある作業者が、アンカーや吊チェーン、水平支持台、フレームの設置作業を行うことができ、より効率的にトンネル掘削を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】(a)は無端ベルトをテールピース台車の上方付近に配置した本願発明のズリ搬送システムを示す側面図、(b)は無端ベルトをテールピース台車の中段付近に配置した本願発明のズリ搬送システムを示す側面図。
【
図2】本願発明のズリ搬送システムの特徴的な構成を模式的に示す側面図。
【
図3】フレームスペースを活用して連続ベルトコンベアを延伸する手順を説明するステップ図。
【
図4】鋼アーチ支保工を建て込む支保パターンにおける本願発明のトンネル掘削方法の主な工程を示すフロー図。
【
図5】鋼アーチ支保工がない支保パターンにおける本願発明のトンネル掘削方法の主な工程を示すフロー図。
【
図6】(a)は切羽近くに配置された移動式破砕機とテールピース台車を模式的に示す斜視図、比較的低い位置に配置された無端ベルトを模式的に示す斜視図、(b)は切羽近くに配置された移動式破砕機とテールピース台車を模式的に示す斜視図、比較的低い位置に配置された無端ベルトを模式的に示す平面図。
【
図7】移動式破砕機とテールピース台車を切羽近くに再配置する従来工程を示すフロー図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本願発明のズリ搬送システム、及びトンネル掘削方法の実施の例を図に基づいて説明する。
【0026】
1.ズリ搬送システム
はじめに、本願発明のズリ搬送システムについて詳しく説明する。なお、本願発明のトンネル掘削方法は、本願発明のズリ搬送システムを用いてトンネル掘削を行う方法である。したがって、まずは本願発明のズリ搬送システムについて説明し、その後に本願発明のトンネル掘削方法について説明することとする。
【0027】
図1は、本願発明のズリ搬送システム100を示す側面図である。この図に示すように本願発明のズリ搬送システム100は、テールピース台車200と連続ベルトコンベア300を含んで構成される。後述するように、ズリ搬送システム100を構成するテールピース台車200は、テールプーリーと仮受キャリアローラー、フレームスペースを具備するものであり、一方の連続ベルトコンベア300は、無端ベルト310とフレーム、キャリアローラーを具備するものである。
【0028】
ズリ搬送システム100は、
図1(a)に示すように無端ベルト310をテールピース台車200の上方付近に配置する構成とすることもできるし、
図1(b)に示すように無端ベルト310をテールピース台車200の中段付近に配置する構成とすることもできる。テールピース台車200の上方付近に無端ベルト310を配置する場合、切羽側に向かって下方に傾斜する斜路が形成され、無端ベルト310は比較的低い位置(図中の白抜き矢印)で移動式破砕機CR(移動式クラッシャー)から岩砕(ズリ)を受け、そのまま連続して坑口方向にズリを搬送することができる。これに対してテールピース台車200の中段付近に無端ベルト310を配置する場合、移動式破砕機CRによって投入ホッパー(図中の白抜き矢印)からズリが投入され、落下してきたズリを無端ベルト310が受けてそのまま連続して坑口方向にズリを搬送することができる。
【0029】
図2は、ズリ搬送システム100の特徴的な構成を模式的に示す側面図である。なおこの図では、ズリ搬送システム100のうち特に特徴的な構成のみを模式的に示しており、便宜上、その他の構成は省略している。
図2に示すようにテールピース台車200は、テールプーリー210と、仮受キャリアローラー220、そしてこの仮受キャリアローラー220の下方に形成されるフレームスペース230を含んで構成され、さらに台車内リターンローラー240や、中間プーリー250を含んで構成することもできる。また連続ベルトコンベア300は、無端ベルト310と、フレーム320、そしてこのフレーム320に設置されるキャリアローラー330を含んで構成され、さらにリターンローラー340を含んで構成することもできる。
【0030】
無端ベルト310は、切羽側でテールピース台車200のテールプーリー210に巻き回されるとともに、坑口側でヘッドプーリー(図示しない)に巻き回され、テールプーリー210とヘッドプーリーとの間を巡回する。そして、切羽側のテールプーリー210で無端ベルト310が下面から上面に移るとともに切羽方面の移動から坑口方面への移動に反転し、坑口側のヘッドプーリーで無端ベルト310が上面から下面に移るとともに坑口方面の移動から切羽方面への移動に反転し、これにより無端ベルト310の上面に載せられたズリが坑口近くまで搬送される。なお便宜上ここでは、上面にある無端ベルト310(つまり坑口側行きのベルト)のことを「上面ベルト311」、下面にある無端ベルト310(つまり切羽側行きのベルト)のことを「下面ベルト312」ということとする。
【0031】
上面ベルト311は、トンネル軸方向に配置された複数のキャリアローラー330上に載置されるとともに、テールピース台車200の仮受キャリアローラー220上に載置され、キャリアローラー330や仮受キャリアローラー220の回転に促されて坑口側に移動していく。一方、下面ベルト312は、やはりトンネル軸方向に配置された複数のリターンローラー340上に載置されるとともに、テールピース台車200の台車内リターンローラー240上に載置され、リターンローラー340や台車内リターンローラー240の回転に促されて切羽側に移動していく。なお、
図2に示すズリ搬送システム100は、無端ベルト310をテールピース台車200の上方付近に配置したもの(
図1(a))であって切羽側に向かう斜路が形成されており、そのため無端ベルト310は2つの中間プーリー250によってその進行方向が大きく変えられている。
【0032】
通常、トンネル掘削に用いられる連続ベルトコンベア300は比較的長い延長で形成される。これに対してフレーム320単体の長さは、連続ベルトコンベア300の設置延長に比べて著しく短い(例えば、3.6m)。そのため、複数個のフレーム320がトンネル軸方向に配置され、この結果、フレーム320上に設置されるキャリアローラー330もトンネル軸方向に複数個が配置されることとなる。
【0033】
図2に示すように、テールピース台車200が具備する仮受キャリアローラー220は、最も切羽側のキャリアローラー330とテールプーリー210との間であって、キャリアローラー330よりも高い位置に配置される。これにより、仮受キャリアローラー220の下方(仮受キャリアローラー220と下面ベルト312との間)には一定の空間、つまりフレームスペース230が形成される。また仮受キャリアローラー220がキャリアローラー330よりも上方に位置していることから、上面ベルト311がキャリアローラー330から仮受キャリアローラー220に向けて上方に傾斜する「傾斜区間」が形成されており、この傾斜区間における上面ベルト311の下方にはフレーム320とキャリアローラー330の一部が配置されている。
【0034】
本願発明のズリ搬送システム100の技術的特徴として、テールピース台車200内に形成されたフレームスペース230を挙げることができる。そこで、
図3を参照しながらフレームスペース230を活用する手順について説明する。
図3(a)では、最も切羽側のフレーム320よりも前方にテールピース台車200が位置しており、そのフレームスペース230内にはフレーム320やキャリアローラー330は設置されていない。ただし無端ベルト310は、仮受キャリアローラー220とキャリアローラー330によって移動可能(回転可能)であり、すなわちズリを坑口側に搬出する機能は維持した状態である。
【0035】
図3(b)では、フレームスペース230内にフレーム320やキャリアローラー330が設置されており、これによって坑口側から連続するフレーム320とキャリアローラー330はさらに切羽側に延伸されている。フレーム320やキャリアローラー330を設置するにあたっては、
図7に示す手順と同様、フレームスペース230に隣接するトンネル側壁にアンカーを設置し、このアンカーに吊チェーンを取り付けるとともに、吊チェーンで支持するように水平支持台を設置し、そしてこの水平支持台上にフレーム320やキャリアローラー330を設置することができる。このときテールピース台車200の一部を足場として利用するとよい。なお、この図に示すフレームスペース230は、概ね2つのフレーム320(例えば、2×3.6m)に相当する延長(図では左右方向に長さ)を有しており、したがってこのフレームスペース230内には2つのフレーム320とこれに対応する数のキャリアローラー330が設置されている。このときも無端ベルト310は、仮受キャリアローラー220とキャリアローラー330によって移動可能であり、すなわちズリを坑口側に搬出する機能は維持した状態である。
【0036】
図3(c)では、テールピース台車200が切羽側に前進しており、これに伴って無端ベルト310が牽引され、坑口側のベルトストレージ装置に貯蔵された無端ベルト310が繰り出されている。もちろん、
図3(b)で設置されたフレーム320やキャリアローラー330は、そのままの状態を保っている。そしてテールピース台車200が、例えば2つのフレーム320に相当する距離だけ切羽側に前進すると、フレームスペース230内には再び2つのフレーム320分の空間が形成される。このとき、仮受キャリアローラー220上に無端ベルト310が載置された状態を維持しながらテールピース台車200は前進し、また無端ベルト310は新たに設置されたキャリアローラー330上に順次載置されるようになる。
【0037】
このようにフレームスペース230を活用すれば、ズリの搬出機能を維持したまま仮受キャリアローラー220とキャリアローラー330を切羽側に延伸できる。また、日々の切羽進行に伴ってテールピース台車200も前進させることができるため、常にテールピース台車200を切羽付近に置いておくことができる。これにより、ずり積機械は常に短い距離で運搬することができ、つまり効率的にズリ搬送作業を行うことができる。さらに、テールピース台車200周辺に堆積するズリを低減することができ、その結果、ズリの清掃作業を省略することもできる。
【0038】
2.トンネル掘削方法
続いて、本願発明のトンネル掘削方法ついて説明する。なお、本願発明のトンネル掘削方法は、ここまで説明したズリ搬送システム100を用いてトンネル掘削を行う方法である。したがって、ズリ搬送システム100について説明した内容と重複する説明は避け、本願発明のトンネル掘削方法に特有の内容のみ説明することとする。すなわち、ここに記載されていない内容は、「1.ズリ搬送システム」で説明したものと同様である。
【0039】
ところで、NATMによるトンネル掘削方法は、地山強度等に応じてあらかじめいくつかの支保パターンが用意されており、鋼アーチ支保工を建て込む支保パターンもあれば、鋼アーチ支保工がない支保パターンもある。そこで、鋼アーチ支保工を建て込む支保パターンにおける本願発明のトンネル掘削方法を「第1の実施形態」とし、鋼アーチ支保工がない支保パターンにおける本願発明のトンネル掘削方法を「第2の実施形態」としたうえで、それぞれ順に説明することとする。
【0040】
(第1の実施形態)
図4を参照しながら第1の実施形態について説明する。
図4は、第1の実施形態における本願発明のトンネル掘削方法の主な工程を示すフロー図である。なお便宜上ここでは、主に切羽周辺で行われる作業をまとめて「切羽作業工程」ということとする。例えば第1の実施形態の場合は、切羽掘削作業と1次コンクリート吹付け作業、鋼アーチ支保工建込み作業、2次コンクリート吹付け作業、ロックボルト設置作業が切羽作業工程である。
【0041】
切羽作業工程(
図4のStep110)では、まず切羽掘削作業(
図4のStep111)が行われる。発破掘削の場合は、穿孔を行った後に火薬を装填し発破を実施し、一方、機械掘削の場合は、例えば自由断面掘削機によって切羽を掘削していく。切羽掘削作業を行うと、本願発明のズリ搬送システム100を用いて掘削によって生じたズリを坑口側に搬送する(
図4のStep120)。より詳しくは、移動式破砕機(移動式クラッシャー)によって岩塊を破砕するとともに、破砕された岩砕(ズリ)をテールピース台車200のズリ投入ホッパー(あるいは無端ベルト310上)に投入し、無端ベルト310(上面ベルト311)に載せられたズリが坑口方面に搬送される。
【0042】
ズリを搬送すると、掘削面(無普請の部分)に対してコンクリートを吹付け(
図4のStep112)、鋼アーチ支保工を建て込む(
図4のStep113)。その後、本格的にコンクリートを吹付け(
図4のStep114)、所定位置にロックボルトを打設していく(
図4のStep115)。
【0043】
一方、連続ベルトコンベア300の延伸作業(
図4のStep130)も、切羽作業工程(
図4のStep110)に並行して行われる。具体的には、
図3(b)に示すようにフレームスペース230内にフレーム320やキャリアローラー330を設置することで、坑口側から連続するフレーム320とキャリアローラー330をさらに切羽側に延伸する(
図4のStep131)。フレーム320やキャリアローラー330を設置するにあたっては、
図7に示す手順と同様、フレームスペース230に隣接するトンネル側壁にアンカーを設置し、このアンカーに吊チェーンを取り付けるとともに、吊チェーンで支持するように水平支持台を設置し、そしてこの水平支持台上にフレーム320やキャリアローラー330を設置することができる。このとき無端ベルト310は、仮受キャリアローラー220とキャリアローラー330によって移動可能(回転可能)であり、すなわちズリを坑口側に搬出する機能は維持した状態である。
【0044】
フレームスペース230内にフレーム320やキャリアローラー330を設置すると、
図3(c)に示すようにテールピース台車200を切羽側に前進させる(
図4のStep132)。これに伴って無端ベルト310が牽引され、坑口側のベルトストレージ装置に貯蔵された無端ベルト310が繰り出される。このとき、仮受キャリアローラー220上に無端ベルト310が載置された状態を維持しながらテールピース台車200は前進し、また無端ベルト310は新たに設置されたキャリアローラー330上に順次載置されるようになる。
【0045】
図4からも分かるように、切羽作業工程(
図4のStep110)とズリ搬送作業(
図4のStep120)は、前の作業が終わって初めて開始することができる直列関係(いわゆる、クリティカルパス)とされている。これに対して、切羽作業工程やズリ搬送作業と、連続ベルトコンベア300の延伸作業(
図4のStep130)との関係を見ると、互いに干渉することなく双方の作業を実施することができ、すなわちクリティカルパスとされていない。換言すれば、切羽作業工程やズリ搬送作業を行いながら、連続ベルトコンベア300の延伸作業を行うことができるわけである。
【0046】
また、複数の作業者のうち余裕が得られる(手が余る)者が生じやすい作業中に、フレーム延伸工程(
図4のStep131)やテールピース台車前進工程(
図4のStep132)を実施すれば、作業者の適材適所が実現されより効率的にトンネル掘削を行うことができる。例えば
図4に示すように、切羽掘削作業(
図4のStep111)や1次コンクリート吹付け作業(
図4のStep112)と同時にフレーム延伸工程(
図4のStep131)を行い、2次コンクリート吹付け作業(
図4のStep114)と同時にテールピース台車前進工程(
図4のStep132)を行うとよい。
【0047】
(第2の実施形態)
図5を参照しながら第2の実施形態について説明する。
図5は、第2の実施形態における本願発明のトンネル掘削方法の主な工程を示すフロー図である。なお第2の実施形態の場合、切羽掘削作業とコンクリート吹付け作業、ロックボルト設置作業が切羽作業工程である。
【0048】
切羽作業工程(
図5のStep110)では、まず切羽掘削作業(
図5のStep111)が行われる。切羽掘削作業を行うと、本願発明のズリ搬送システム100を用いて掘削によって生じたズリを坑口側に搬送する(
図5のStep120)。より詳しくは、移動式破砕機(移動式クラッシャー)によって岩塊を破砕するとともに、破砕された岩砕(ズリ)をテールピース台車200のズリ投入ホッパー(あるいは無端ベルト310上)に投入し、無端ベルト310(上面ベルト311)に載せられたズリが坑口方面に搬送される。ズリを搬送すると、掘削面(無普請の部分)に対して計画厚のコンクリートを吹付け(
図5のStep116)、所定位置にロックボルトを打設していく(
図5のStep115)。
【0049】
一方、連続ベルトコンベア300の延伸作業(
図5のStep130)も、切羽作業工程(
図5のStep110)に並行して行われる。具体的には、
図3(b)に示すようにフレームスペース230内にフレーム320やキャリアローラー330を設置することで、坑口側から連続するフレーム320とキャリアローラー330をさらに切羽側に延伸する(
図5のStep131)。そしてフレームスペース230内にフレーム320やキャリアローラー330を設置すると、
図3(c)に示すようにテールピース台車200を切羽側に前進させる(
図5のStep132)。これに伴って無端ベルト310が牽引され、坑口側のベルトストレージ装置に貯蔵された無端ベルト310が繰り出される。
【0050】
なお第2の実施形態の場合、
図5に示すように、切羽掘削作業(
図5のStep111)と同時にフレーム延伸工程(
図5のStep131)を行い、コンクリート吹付け作業(
図5のStep116)と同時にテールピース台車前進工程(
図5のStep132)を行うとよい。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本願発明のズリ搬送システム、及びトンネル掘削方法は、鉄道トンネルや道路トンネルなど様々な用途のトンネル掘削に利用できるほか、採石場など岩盤を掘削して搬送するあらゆる状況で利用することができる。トンネル構造物という社会基盤(社会インフラストラクチャ)を効率的に構築することができることを考えると、本願発明は産業上利用できるばかりでなく社会的にも大きな貢献を期待し得る発明といえる。
【符号の説明】
【0052】
100 本願発明のズリ搬送システム
200 (ズリ搬送システムの)テールピース台車
210 (テールピース台車の)テールプーリー
220 (テールピース台車の)仮受キャリアローラー
230 (テールピース台車の)フレームスペース
240 (テールピース台車の)台車内リターンローラー
250 (テールピース台車の)中間プーリー
300 (ズリ搬送システムの)連続ベルトコンベア
310 (連続ベルトコンベアの)無端ベルト
311 (無端ベルトの)上面ベルト
312 (無端ベルトの)下面ベルト
320 (連続ベルトコンベアの)フレーム
330 (連続ベルトコンベアの)キャリアローラー
340 (連続ベルトコンベアの)リターンローラー
BC ベルトコンベヤ
CR 移動式破砕機
FL フレーム
HC 吊チェーン
TP テールピース台車