(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022133629
(43)【公開日】2022-09-14
(54)【発明の名称】アルミ配線の製造方法
(51)【国際特許分類】
C23F 11/00 20060101AFI20220907BHJP
H01L 21/3205 20060101ALI20220907BHJP
【FI】
C23F11/00 E
H01L21/88 N
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021032410
(22)【出願日】2021-03-02
(71)【出願人】
【識別番号】000005980
【氏名又は名称】三菱製紙株式会社
(72)【発明者】
【氏名】川真田 幸直
【テーマコード(参考)】
4K062
5F033
【Fターム(参考)】
4K062AA01
4K062BB05
4K062BB25
4K062CA03
4K062CA05
4K062CA08
4K062DA10
4K062FA09
5F033GG03
5F033HH08
5F033PP19
5F033QQ08
5F033QQ19
5F033QQ41
5F033QQ91
(57)【要約】 (修正有)
【課題】高湿環境下においても高い防食性を有するアルミ配線の製造方法を提供する。特に、高湿環境下において隣接する2つの配線間に電圧が印加された場合に生じる腐食に対しても高い防食性を有するアルミ配線の製造方法を提供する。
【解決手段】下記一般式で表わされる化合物および、ポリオキシエチレンアルキルエーテルのジリン酸エステルまたはポリオキシエチレンアルキルエーテルのトリリン酸エステルを含有する処理液でアルミ配線を処理する工程を有するアルミ配線の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される化合物および、下記一般式(2)または(3)で表される化合物を含有する処理液でアルミ配線を処理する工程を有することを特徴とするアルミ配線の製造方法。
【化1】
(一般式(1)中R
1は炭素数8から18のアルキル基を表し、iおよびkは1以上の整数を表し、jおよびlは0以上の整数を表す。)
【化2】
(一般式(2)、(3)中R
2およびR
3は炭素数12から15のアルキル基を表し、mおよびnは1から10の整数を表す。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミ配線の製造方法に関し、詳しくは高湿環境下においても高い防食性を有するアルミ配線の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミは軽量で電気抵抗も小さいために様々なところで電気配線の材料として用いられている。また、さまざまな基材に対して蒸着により薄膜を形成することが可能であり、配線材料としては非常に有用な金属である。例えば半導体素子においては蒸着したアルミ薄膜を配線材料として使用されている。
【0003】
アルミはイオン化傾向の高い金属であるが、空気中では酸化被膜を形成するために比較的乾燥した雰囲気ではあまり腐食することはないが、高湿環境下では酸化被膜が破壊され、容易に腐食が進行する。このような理由でアルミ配線の腐食防止は現在においても大きな課題になっている。
【0004】
アルミ配線の腐食防止の方法として、アルミ配線を処理液で処理する方法が知られている。例えば、特開平3-295247号公報(特許文献1)には、アルミ配線を過酸化水素の溶液に浸漬させることによって腐食防止を行う方法が開示されている。また、特開平10-321627号公報(特許文献2)にはリン酸を含む処理液によって処理する方法が開示されている。
【0005】
一方、アルミ配線の洗浄工程において防食処理を行う試みもされており、例えば特開2003-64397号公報(特許文献3)には特定の構造を有するグリコールエーテルと特定のリン酸エステル塩を含む洗浄剤によって、電子部品の腐食を防止する方法が開示されている。
【0006】
しかし、上記のような方法であっても高湿環境下においてアルミ配線の腐食を防止することは容易ではなかった。特に高湿環境下において隣接する2つの配線間に電圧が印加された場合に生じる腐食については今もなお大きな問題となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平3-295247号公報
【特許文献2】特開平10-321627号公報
【特許文献3】特開2003-64397号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、高湿環境下においても高い防食性を有するアルミ配線の製造方法を提供することであり、特に高湿環境下において隣接する2つの配線間に電圧が印加された場合に生じる腐食に対しても高い防食性を有するアルミ配線の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の上記目的は、下記に記載の発明により達成される。
下記一般式(1)で表される化合物および、下記一般式(2)または(3)で表される化合物を含有する処理液でアルミ配線を処理する工程を有することを特徴とするアルミ配線の製造方法。
【0010】
【0011】
一般式(1)中R1は炭素数8から18のアルキル基を表し、iおよびkは1以上の整数を表し、jおよびlは0以上の整数を表す。
【0012】
【0013】
一般式(2)、(3)中R2およびR3は炭素数12から15のアルキル基を表し、mおよびnは1から10の整数を表す。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、高湿環境下においても高い防食性を有するアルミ配線の製造方法を提供することができ、特に高湿環境下において隣接する2つの配線間に電圧が印加された場合に生じる腐食に対しても高い防食性を有するアルミ配線の製造方法を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下本発明を詳細に説明する。
本発明のアルミ配線の製造方法は、前記一般式(1)で表される化合物および、前記一般式(2)または(3)で表される化合物を含有する処理液でアルミ配線を処理する工程を有する。
【0016】
一般式(1)で表される化合物は、アルキルジエタノールアミンのエチレンオキシ(以下EOとも称す)およびプロピレンオキシ(以下POとも称す)付加物である。一般式(1)において、iおよびkはEO基の付加モル数を表し、jおよびlはPO基の付加モル数を表す。一般式(1)において、jおよびlが0、即ちPO基がなくても本発明の効果は得られるが、jおよびlが1以上、即ちEO基とPO基の両方の置換基がある方が防食の効果が高く特に好ましい。
【0017】
一般式(1)で表される化合物は、ポリエーテルアミン型の界面活性剤として市販されており、例えば日油株式会社より市販されるナイミーン(登録商標)L-207(炭素数12~15、i+kが7、j+lが0)、ナイミーンL-703(炭素数12~15、i+kが7、j+lが3)、ナイミーンF-215(炭素数8~18、i+kが15、j+lが0)、ナイミーンT2-210(炭素数12~18、i+kが10、j+lが0)、ナイミーンS-210(炭素数18、i+kが10、j+lが0)等、花王株式会社より市販されるアミート(登録商標)308(炭素数12~18、i+kが8、j+lが0)、アミート320(炭素数12~18、i+kが20、j+lが0)等、ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社より市販されるリポノール(登録商標)C/25(炭素数8~18、i+kが25、j+lが0)、リポノールO/25(炭素数18、i+kが25、j+lが0)、リポノールT/25(炭素数12~18、i+kが25、j+lが0)、リポノールC/18-18(炭素数8~18、i+kが8、j+lが8)等を入手して使用することができる。
【0018】
本発明で用いる処理液における一般式(1)で表わされる化合物の含有量は、1L当たり0.5~10gの範囲が好ましい。この範囲より少ないと、十分な腐食防止の効果が得られない場合があり、この範囲より多いと、洗浄作業の工程に負荷がかかり、作業効率が低下する場合がある。
【0019】
本発明において一般式(2)で表わされる化合物はポリオキシエチレンアルキルエーテルのジリン酸エステルであり、一般式(3)で表わされる化合物はポリオキシエチレンアルキルエーテルのトリリン酸エステルである。一般式(2)および一般式(3)で表わされる化合物のHLBの値は10以下であることが好ましい。HLBが10を超えると、十分な防食の効果が得られない場合がある。
【0020】
本発明で用いる処理液における一般式(2)または(3)で表わされる化合物の含有量は、1L当たり0.1~10gの範囲が好ましい。この範囲より少ないと、十分な腐食防止の効果が得られない場合があり、この範囲より多いと、洗浄作業の工程に負荷がかかり、作業効率が低下する場合がある。
【0021】
本発明において一般式(2)および(3)で表わされる化合物は市販品を使用することができる。一般式(2)で表わされる化合物の市販品としては、例えば日光ケミカルズ株式会社のNIKKOL(登録商標)DDP-2(炭素数12~15、mが2)、NIKKOL DDP-4(炭素数12~15、mが4)、NIKKOL DDP-6(炭素数12~15、mが6)を、一般式(3)で表わされる化合物の市販品としては、同じく日光ケミカルズ株式会社のNIKKOL TDP-2(炭素数12~15、nが2)、NIKKOL TDP-8(炭素数12~15、nが8)を入手して使用することができる。
【0022】
本発明で用いる処理液の溶媒は水あるいは水を主成分とする溶媒であることが好ましい。ここで主成分とは、全溶媒成分に対する水の割合が50質量%以上であることを意味し、より好ましくは75質量%以上、更に90質量%以上であることが好ましい。水を主成分とする溶媒を使用することで、取り扱いが容易となり、その後の洗浄工程が簡便になる。処理液のpHは3~10の範囲であることが好ましく、より好ましくは5~8である。pHが高すぎたり低すぎたりすると、アルミ配線の溶解が発生するために抵抗値が上昇したり断線しやすくなる場合がある。
【0023】
本発明においてアルミ配線を処理する方法としては、処理液にアルミ配線を浸漬する方法やアルミ配線に処理液をスプレーで吹き付ける方法などを挙げることができる。処理の効果を安定させるために処理温度および処理時間を一定にすることが好ましく、処理温度は作業性を考慮して20℃から60℃の範囲で選択することが好ましい。処理時間は30秒から5分の範囲で選択することができる。
【0024】
上記した処理工程の後には、水洗工程を設けることが好ましい。前述した本発明の処理工程により、アルミ配線上に必要以上の成分が残存し後の工程に対して弊害が発生する場合がある。これらの必要以上の成分をアルミ配線から取り除くために水洗工程は有効である。
【0025】
本発明の製造方法により処理されるアルミ配線には特に限定はないが、本発明は真空蒸着で形成された薄膜のアルミ配線に対して特に有効である。真空蒸着による配線パターンの形成方法としては、基材にあらかじめアルミを蒸着させる部分と蒸着させない部分のパターンを形成させ、選択的に蒸着させてアルミ配線パターンを形成させる方法、あるいはまず基材の全面にアルミを蒸着させ、その上にレジストでパターンを形成し、エッチングによって不要な部分のアルミを除去しパターンを形成させる方法などを挙げることができる。
【実施例0026】
以下、実施例を用いて本発明を説明するが、無論この記述により本発明が限定されるものではない。
【0027】
75μmの厚みPETフィルム上に0.2μmの厚みのアルミ蒸着膜を形成させたフィルムに対して、アルミ蒸着膜上にレジストパターンを形成させ、リン酸によるエッチングによって不要なアルミ蒸着膜を除去することでアルミ配線による櫛形電極を形成した。形成した櫛形電極は、線幅および線間が50μmで、電極が対向している部分の長さは20mmであった。
【0028】
このようにしてアルミ配線で作製した櫛形電極を、30℃で保温した以下の1~12の処理液に1分間浸漬し、その後イオン交換水で20秒洗浄し、乾燥させた。
【0029】
<処理液1>
イオン交換水1LにナイミーンL-703を1g、NIKKOL TDP-2を1g添加し溶解あるいは分散させた。NIKKOL TDP-2のHLBは7である。処理液1のpHは7.3であった。
【0030】
<処理液2>
イオン交換水1LにナイミーンL-703を2g、NIKKOL TDP-2を1g添加し溶解あるいは分散させた。処理液2のpHは7.4であった。
【0031】
<処理液3>
イオン交換水1LにナイミーンL-703を5g、NIKKOL TDP-2を1g添加し溶解あるいは分散させた。処理液3のpHは1N硫酸で7.3に調整した。
【0032】
<処理液4>
イオン交換水1LにナイミーンL-703を5g、NIKKOL TDP-2を5g添加し溶解あるいは分散させた。処理液4のpHは1N水酸化ナトリウムで7.3に調整した。
【0033】
<処理液5>
イオン交換水1LにナイミーンL-703を2g、NIKKOL TDP-8を1g添加し溶解あるいは分散させた。NIKKOL TDP-8のHLBは11.5である。処理液5のpHは7.4であった。
【0034】
<処理液6>
イオン交換水1LにナイミーンL-703を2g、NIKKOL DDP-2を1g添加し溶解あるいは分散させた。NIKKOL DDP-2のHLBは6.5である。処理液6のpHは7.3であった。
【0035】
<処理液7>
イオン交換水1LにナイミーンL-703を2g、NIKKOL DDP-6を1g添加し溶解あるいは分散させた。NIKKOL DDP-6のHLBは9である。処理液7のpHは7.3であった。
【0036】
<処理液8>
イオン交換水1LにナイミーンL-207を2g、NIKKOL TDP-2を1g添加し溶解あるいは分散させた。処理液8のpHは7.4であった。
【0037】
<処理液9>
イオン交換水1LにナイミーンS-210を2g、NIKKOL TDP-2を1g添加し溶解あるいは分散させた。処理液9のpHは7.4であった。
【0038】
<処理液10>
イオン交換水1LにリポノールC/18-18を2g、NIKKOL TDP-2を1g添加し溶解あるいは分散させた。処理液10のpHは7.4であった。
【0039】
<処理液11>
イオン交換水1LにナイミーンL-703を2g添加し溶解あるいは分散させた。処理液11のpHは1N硫酸で7.3に調整した。
【0040】
<処理液12>
イオン交換水1LにNIKKOL TDP-2を1g添加し溶解あるいは分散させた。処理液12のpHは1N水酸化ナトリウムで7.3に調整した。
【0041】
このようにしてアルミ配線で作製した櫛形電極に対して、高湿環境下において、アルミ配線間に電圧が印加された場合に生じる腐食を強制的に再現するために、電極上にイオン交換水を0.01g滴下してから電圧を20V印加した。その後、電極の状態を観察し以下の基準で評価を行った。評価結果を表1に示す。
○:電圧印加時間が5分でも断線がみられない。
△:電圧印加時間が1.5分超~3分では断線がみられないが、3分超~5分では断線がみられた。
×:電圧印加時間が1.5分で断線がみられた。
【0042】
【0043】
表1から本発明によって作製したアルミ配線は高湿環境下において、配線間に電圧が印加された場合に生じる腐食に対して高い防食性を有することが解る。