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特開2022-133630リチウムイオン二次電池用セパレータの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022133630
(43)【公開日】2022-09-14
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池用セパレータの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/409 20210101AFI20220907BHJP
【FI】
H01M2/16 L
H01M2/16 P
H01M2/16 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021032411
(22)【出願日】2021-03-02
(71)【出願人】
【識別番号】000005980
【氏名又は名称】三菱製紙株式会社
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 篤弥
(72)【発明者】
【氏名】笠井 誉子
(72)【発明者】
【氏名】緑川 正敏
【テーマコード(参考)】
5H021
【Fターム(参考)】
5H021BB07
5H021BB09
5H021BB12
5H021BB13
5H021CC02
5H021CC03
5H021CC04
5H021EE21
5H021EE23
5H021EE32
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、不織布基材の少なくとも片面に無機粒子とバインダーとを含む塗層を有するリチウムイオン二次電池用セパレータの製造において漏れ電流耐性及び微小短絡耐性を上昇させるための製造方法を提供することにある。
【解決手段】不織布基材に無機粒子とバインダーとを含む塗層を設ける工程(1)、塗層にテトラヒドロフラン又はイソプロピルアルコールを接触させる工程(2)とをこの順に含むことを特徴とするリチウムイオン二次電池用セパレータの製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
不織布基材に無機粒子とバインダーとを含む塗層を設ける工程(1)、塗層にテトラヒドロフラン又はイソプロピルアルコールを接触させる工程(2)とをこの順に含むことを特徴とするリチウムイオン二次電池用セパレータの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池用セパレータの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本明細書において、下記の通り、略記する場合がある。
リチウムイオン二次電池用セパレータ:セパレータ
リチウムイオン二次電池用セパレータの製造方法:製造方法
リチウムイオン二次電池:電池
【0003】
近年の携帯電子機器の普及及びサイズダウンに伴い、高密度かつ省スペースなエネルギーデバイスとしてリチウムイオン二次電池が注目されている。リチウムイオン二次電池では正極及び負極間の接触を防ぐ目的でリチウムイオン二次電池用セパレータが用いられている。セパレータとして広く用いられているポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂からなるポリオレフィン多孔質フィルムは、加熱時に収縮する特性がある。そのため、穿孔によって内部短絡が生じた場合、短絡電流に起因する発熱によって穿孔が拡大し、短絡電流が増大する危険性を有している。
【0004】
上記問題に対し、ポリオレフィン多孔質フィルムの片面又は両面に無機粒子を含む塗層を有するセパレータが提案されている。しかし、塗工により設けられた塗層によって、ポリオレフィン多孔質フィルムの微細孔が閉塞し、内部抵抗が増加する課題が存在することから、厚い塗層は設けられず、ポリオレフィン多孔質フィルムの熱収縮の抑制には不十分であった。
【0005】
上記問題に対し、ポリエチレンテレフタラート等の耐熱性の高い繊維を含む不織布基材の少なくとも片面に無機粒子とバインダーを含む塗層を有するセパレータが提案されている(例えば特許文献1~5)。不織布基材と塗層を有するセパレータは、ポリオレフィン多孔質フィルムと比較して、熱収縮耐性に優れるものの、孔径が大きいことから、漏れ電流の発生又はリチウムデンドライトによる微小短絡の発生によって、電池特性が低下する場合があった。この電池特性の低下は、特に、厚みが20m以下の薄いセパレータにおいて、問題になりやすかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007-294437号公報
【特許文献2】特開2011-505663号公報
【特許文献3】特開2005-536658号公報
【特許文献4】国際公開第2013/176276号パンフレット
【特許文献5】特開2017-174652号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、漏れ電流の発生又はリチウムデンドライトによる微小短絡の発生によって、電池特性が低下する課題を解決することができるリチウムイオン二次電池用セパレータの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題は、下記手段によって解決することができる。
【0009】
不織布基材に無機粒子とバインダーとを含む塗層を設ける工程(1)、塗層にテトラヒドロフラン又はイソプロピルアルコールを接触させる工程(2)とをこの順に含むことを特徴とするリチウムイオン二次電池用セパレータの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によって、漏れ電流及びリチウムデンドライトによる微小短絡が発生しにくく、電池特性の優れたリチウムイオン二次電池用セパレータを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、不織布基材に無機粒子とバインダーとを含む塗層を設ける工程(1)、塗層にテトラヒドロフラン又はイソプロピルアルコールを接触させる工程(2)とをこの順に含むことを特徴とするリチウムイオン二次電池用セパレータの製造方法である。本発明において、塗層にテトラヒドロフラン又はイソプロピルアルコールを接触させる工程(2)によって、漏れ電流及びリチウムデンドライトによる微小短絡が発生しにくく、電池特性の優れたセパレータを提供することができる。
【0012】
本発明において、不織布基材に含まれる繊維としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンイソフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル繊維;ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン;ポリアクリロニトリル等のアクリル;6、6ナイロン、6ナイロン、アラミド等のポリアミド等の各種合成繊維が挙げられる。また、木材パルプ、麻パルプ、コットンパルプ等の各種セルロースパルプ;レーヨン、リヨセル等のセルロース系再生繊維等が挙げられる。これらの各種繊維は、単独で使用することもできるし、又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。ポリエステル繊維の中では、機械的強度が強く細い繊維が製造可能なポリエチレンテレフタレート繊維が好ましく用いられている。
【0013】
本発明において、不織布基材の製造方法は特に制限されない。繊維をシート状にする方法としては、スパンボンド法、メルトブロー法、静電紡糸法、湿式法等が挙げられる。これらの中で、薄くて緻密な構造の不織布基材を得ることができることから、湿式法が望ましい。
【0014】
不織布基材の目付は、好ましくは4~30g/mである。目付が4g/m以上であることで、不織布基材としての均一性を得やすくなり、また、30g/m以下であることで、リチウムイオン二次電池用セパレータに適した厚みとなる。
【0015】
本発明において、塗層とは、機能を付加するために不織布基材に付与される層であり、塗層を形成する成分を含む塗液から形成された層である。塗層は不織布基材の表面に存在しても良いし、不織布基材の内部に存在しても良いし、不織布基材の表面及び内部に存在しても良い。また、塗層は、他と明確に区別される層であることを要さず、例えば、不織布基材を構成する繊維の表面に付着して、セパレータ中に不連続な相として存在しても良い。塗層は少なくとも不織布基材の片面に存在することが好ましく、不織布基材の両面に存在することがより望ましい。
【0016】
本発明において、塗層は、無機粒子とバインダーとを含む。無機粒子としては、アルミナ、ベーマイト等のアルミニウム化合物;酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム等のマグネシウム化合物;酸化ケイ素等のケイ素化合物等が挙げられる。また、バインダーとしては、スチレン-ブタジエン共重合体、アクリル系(共)重合体等が挙げられる。バインダーは、エマルションタイプのものでも良い。本発明において、発明の効果を損ねない範囲で、塗層及び塗液は、分散剤、濡れ剤、増粘剤等の各種添加剤を含むことができる。分散剤又は増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、ポリエチレンオキサイド等が挙げられる。塗液の媒体としては、塗層に含まれる成分を分散又は溶解させることができれば良く、特に制限はない。媒体としては、例えば、トルエンなどの芳香族炭化水素類、ジメチルホルムアミド、水等が挙げられる。
【0017】
本発明において、不織布基材を構成する繊維間の孔に無機粒子が侵入し、無機粒子と繊維が混在してなる層を形成できる程度に無機粒子が小さいことが好ましい。また、粒子径の小さい無機粒子が大量に含まれる場合、無機粒子間に形成される孔が粒子径の小さい無機粒子によって埋められ、電池の抵抗が増大する場合がある。これらの観点から、本発明では、無機粒子が、走査型電子顕微鏡で観察される長軸方向の大きさが5μm以下である粒子を50質量%以上含むことが好ましく、かつ、走査型電子顕微鏡で観察される長軸方向の大きさが0.2μm以下である粒子を50質量%以上含まないことが好ましい。
【0018】
本発明において、塗層の形成方法に特に制限はなく、例えば、エアドクターコーター、ブレードコーター、ナイフコーター、ロッドコーター、スクイズコーター、含浸コーター、グラビアコーター、キスロールコーター、ダイコーター、リバースロールコーター、トランスファーロールコーター、スプレーコーター等の塗液付与装置により、塗液を塗工し、媒体を乾燥除去することによって、塗層を形成することができる。
【0019】
本発明において、塗層の塗工量(絶乾塗工量)としては、5~30g/mが好ましく、より好ましくは10~20g/mである。塗工量が5g/m以上であることで、不織布基材の表面を塗層で被覆しやすくなり、漏れ電流及び微小短絡を抑制しやすくなる。また、塗工量が30g/m以下であることで、セパレータの厚み上昇を抑えやすくなる。
【0020】
本発明によって製造されるセパレータの目付、厚みは特に制限されないが、リチウムイオン二次電池用セパレータとしては、目付は、10~50g/mが好ましく、より好ましくは17~40g/mである。目付が10g/m未満である場合、本発明によっても、漏れ電流や微小短絡を抑制できない場合がある。また、目付が50g/mを超える場合、電池の抵抗が上昇する場合がある。
【0021】
また、セパレータの厚みは10~50μmが好ましく、より好ましくは15~30μmである。セパレータの厚みが10μm未満である場合、本発明によっても漏れ電流や微小短絡を十分に抑制できない場合がある。セパレータの厚みが50μmを超える場合、リチウムイオン二次電池の体積エネルギー密度が大きく低下してしまう場合がある。
【0022】
なお、目付が30g/m以上であるようなセパレータは、そもそも本発明が解決しようとする課題である漏れ電流や微小短絡が顕著でなく、本発明を採用する動機に乏しい。
【0023】
本発明において、目付はJIS P 8124:2011に規定された方法に基づく目付を意味する。厚みはJIS B 7502:2016に規定された外側マイクロメーターを使用して、7N荷重時において測定された値を意味する。
【0024】
本発明の製造方法は、工程(1)の後に、塗層にテトラヒドロフラン又はイソプロピルアルコールを接触させる工程(2)を有する。本発明において。「接触」とはセパレータを構成する不織布基材又は塗層に液体が物理的又は化学的に作用し、不織布基材又は塗層の形態等に変化を与えることである。変化の例としては、塗層又は不織布基材への液体の浸潤による無機粒子配向性の変化、バインダー又は各種添加剤等の液体への溶解等が挙げられる。接触において、化学反応は有っても良いし、無くても良い。
【0025】
本発明において、セパレータと接触させる液体はテトラヒドロフラン又はイソプロピルアルコールである。テトラヒドロフランとイソプロピルアルコールを併用しても良い。
【0026】
本発明において、塗層と液体の接触方法に特に制限はなく、例えば、エアドクターコーター、ブレードコーター、ナイフコーター、ロッドコーター、スクイズコーター、含浸コーター、グラビアコーター、キスロールコーター、ダイコーター、リバースロールコーター、トランスファーロールコーター、スプレーコーター等の液体接触装置により、液体を接触させる。乾燥方法に特に制限はなく、例えば、表面に熱風や乾燥空気を吹きつけて乾燥するエアドライヤー、加熱した金属製円筒の表面に不織布を接触させることで加熱乾燥するシリンダードライヤー、赤外線により不織布を加熱する赤外線ドライヤー等の乾燥装置又は自然乾燥により、液体を乾燥除去することができる。
【0027】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明は本実施例に限定されるものではない。なお、本実施例において、「室温」は気温25℃である。
【実施例0028】
[不織布基材]
繊度0.1dtex(平均繊維径2.4μm)、繊維長3mmの配向結晶化ポリエチレンテレフタレート(PET)短繊維60質量部と繊度0.2dtex(平均繊維径4.3μm)、繊維長3mmの単一成分型バインダー用PET短繊維(軟化点120℃、融点230℃)40質量部とをパルパーにより水中に分散し、濃度1質量%の均一な抄造用スラリーを調製した。この抄造用スラリーを、傾斜型抄紙機にて、湿式法で抄き上げ、135℃のシリンダードライヤーによって、バインダー用PET短繊維同士、及びバインダー用PET短繊維と配向結晶化PET短繊維の交点を融着させて引張強度を発現させ、目付8g/mの不織布とした。更に、この不織布を、誘電発熱ジャケットロール(金属製熱ロール)及び弾性ロールからなる1ニップ式熱カレンダーを使用して、熱ロール温度200℃、線圧100kN/m、処理速度30m/分の条件で熱カレンダー処理し、目付8g/m、厚み12μmの、熱カレンダー処理済み不織布基材ロールを作製した。
【0029】
[塗液]
平均粒子径1.0μmの水酸化マグネシウム100質量部とポリカルボン酸型高分子界面活性剤0.4質量部、水100質量部とを混合して十分攪拌した。次いで、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩(1質量%水溶液の25℃における粘度が7000mPa・s)の1.5質量%水溶液67質量部(固形分1.0質量部)及び、カルボキシ変性スチレン-ブタジエン共重合体エマルション(固形分濃度50質量%、ガラス転移点-18℃、平均粒子径0.2μm)10質量部(固形分5質量部)を攪拌しながら順次添加し、最後に水を加えて、固形分濃度を30質量%に調整し、塗液を調製した。
【0030】
本発明において、平均粒子径とは、レーザー回折法による粒度分布測定から求められる体積基準50%粒子径(D50)である。
【0031】
[工程(1)]
前記の熱カレンダー処理済み不織布基材ロールを、塗液付与装置としてダイコーターを備える塗工装置に、塗工面を変えて2回通し、不織布基材の両面に前記塗液を塗工後乾燥して塗層を設け、セパレータ前駆体のロールを得た。乾燥後の塗工量が片面あたり5g/mとなるように、ダイへ塗液を送液した。
【0032】
[工程(2)]
実施例1
セパレータ前駆体の塗層に、テトラヒドロフランをワイヤーバーで接触させ、室温で乾燥させてセパレータを作製した。
【0033】
実施例2
セパレータ前駆体に、イソプロピルアルコールをワイヤーバーで接触させ、室温で乾燥させてセパレータを作製した。
【0034】
実施例3
セパレータ前駆体に、テトラヒドロフラン及びイソプロピルアルコールをワイヤーバーで接触させ、室温で乾燥させてセパレータを作製した。
【0035】
比較例1
セパレータ前駆体に、メチルエチルケトンをワイヤーバーで接触させ、室温で乾燥させてセパレータを作製した。
【0036】
比較例2
セパレータ前駆体に、トルエンをワイヤーバーで接触させ、室温で乾燥させてセパレータを作製した。
【0037】
比較例3
液体を接触させず、セパレータ前駆体をそのままセパレータとした。
【0038】
[評価]
[評価用電池の作製]
正極活物質にLiNi1/3Mn1/3Co1/3、負極活物質にグラファイトを使用し、電解液に1.0MのLiPFをエチレンカーボネート:ジエチルカーボネート=1:1(体積溶媒比)の混合溶媒に溶解した溶液を用い、各セパレータを用いて設計容量30mAhのパウチ型リチウムイオン二次電池を作製した。このとき使用した電極の面積当たりの容量は、正極2.0mA/cm、負極2.2mA/cm(負極容量/正極容量=1.1)とした。
【0039】
[初回充電容量]
1C(30mAh)、4.3Vで定電流定電圧充電(1mAカット)を行った時の充電容量を計測し、初回充電容量を測定した。初回充電容量が設計容量に近いセパレータが、漏れ電流又は微小短絡の発生が抑制されたセパレータである。
【0040】
○:初回充電容量が40mAh未満
△:初回充電容量が40mAh以上45mAh未満
×:初回充電容量が45mAh以上
【0041】
【表1】
【0042】
表1に示した通り、不織布基材に無機粒子とバインダーとを含む塗層を設ける工程(1)、塗層にテトラヒドロフラン又はイソプロピルアルコールを接触させる工程(2)とをこの順に含む製造方法によって製造された実施例1~3のセパレータを用いたリチウムイオン二次電池は、工程(2)において、塗層にメチルエチルケトンを接触させた比較例1のセパレータを用いたリチウムイオン二次電池、及び、工程(2)において、塗層にトルエンを接触させた比較例2のセパレータを用いたリチウムイオン二次電池と比較して、初回充電容量が設計容量に近く、漏れ電流耐性又は微小短絡が抑制されていた。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、リチウムイオン二次電池用セパレータの製造に用いることができる。