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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022133644
(43)【公開日】2022-09-14
(54)【発明の名称】補正光学系および光学装置
(51)【国際特許分類】
   G02B 13/00 20060101AFI20220907BHJP
   G01N 21/64 20060101ALI20220907BHJP
   G02B 21/02 20060101ALN20220907BHJP
   G02B 21/00 20060101ALN20220907BHJP
【FI】
G02B13/00
G01N21/64 E
G02B21/02
G02B21/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021032437
(22)【出願日】2021-03-02
(71)【出願人】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100105935
【弁理士】
【氏名又は名称】振角 正一
(74)【代理人】
【識別番号】100136836
【弁理士】
【氏名又は名称】大西 一正
(72)【発明者】
【氏名】加藤 佳祐
【テーマコード(参考)】
2G043
2H052
2H087
【Fターム(参考)】
2G043AA03
2G043BA16
2G043DA06
2G043EA01
2G043FA02
2G043HA09
2G043LA03
2G043MA16
2H052AA09
2H052AB00
2H052AC04
2H052AC27
2H052AC33
2H052AC34
2H052AF14
2H087KA01
2H087KA06
2H087KA07
2H087KA09
2H087LA01
2H087LA21
2H087NA01
2H087RA07
2H087RA08
2H087RA42
2H087RA43
2H087RA48
(57)【要約】      (修正有)
【課題】像面に光学像を形成するレンズと、レンズの光軸を含む第1仮想平面において光軸に対して傾いた姿勢で像面とレンズとの間に配置される平行平板とを有する光学系で発生するコマ収差および非点収差の両方を、少ない部品点数でかつ簡素な構成で補正する。
【解決手段】コマ収差補正素子61と非点収差補正素子62とが像面とレンズとの間に配置されている。コマ収差補正素子は、第1仮想平面において平行平板41の傾き方向と逆向きの方向でレンズの光軸に対して傾いた姿勢で配置されている。非点収差補正素子では、透明で、かつ第1仮想平面と、第1仮想平面と直交する第2仮想平面との少なくとも一方において像面を向いた第1面およびレンズを向いた第2面が同一の曲率半径を有する曲面となっている。
【選択図】図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
像面に光学像を形成するレンズと、前記レンズの光軸を含む第1仮想平面において前記光軸に対して傾いた姿勢で前記像面と前記レンズとの間に配置される平行平板とを有する光学系において発生する収差を補正する補正光学系であって、
透明で、かつ平行平板形状を有し、前記第1仮想平面において前記平行平板の傾き方向と逆向きの方向で前記レンズの光軸に対して傾いた姿勢で配置されるコマ収差補正素子と、
透明で、かつ前記第1仮想平面と、前記第1仮想平面と直交する第2仮想平面との少なくとも一方において、前記像面を向いた第1面および前記レンズを向いた第2面が同一の曲率半径を有する曲面である非点収差補正素子と、を備え、
前記コマ収差補正素子および前記非点収差補正素子は、前記コマ収差補正素子、前記非点収差補正素子および前記平行平板が任意の順序で前記光軸に沿って並ぶように、前記像面と前記レンズとの間に配置されることを特徴とする補正光学系。
【請求項2】
請求項1に記載の補正光学系であって、
前記平行平板は、ダイクロイックミラーまたはハーフミラーである補正光学系。
【請求項3】
請求項2に記載の補正光学系であって、
前記コマ収差補正素子は、前記平行平板の同じ厚みを有し、前記第1仮想平面内において平行平板に対して90゜回転させた状態で配置される補正光学系。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか一項に記載の補正光学系であって、
前記非点収差補正素子の前記第1面および前記第2面は、前記第1仮想平面および前記第2仮想平面のうちの一方において曲率を有し、他方において曲率を有さないシリンドリカル面である補正光学系。
【請求項5】
請求項1ないし3のいずれか一項に記載の補正光学系であって、
前記非点収差補正素子の前記第1面および前記第2面は、前記第1仮想平面および前記第2仮想平面のうちの一方において第1曲率を有し、他方において前記第1曲率と異なる第2曲率を有するトーリンク面である補正光学系。
【請求項6】
試料の観察対象面からの光を像面に結像するレンズと、前記レンズの光軸を含む第1仮想平面において前記光軸に対して傾いた姿勢で前記像面と前記レンズとの間に配置される平行平板とを有し、前記レンズから前記像面に向かって進む光の一部のみを前記像面に導光して前記像面上に前記観察対象面の像を形成する光学系と、
請求項1ないし5のいずれか一項に記載の補正光学系と、
を備えることを特徴とする光学装置。
【請求項7】
請求項6に記載の光学装置であって、
前記試料は蛍光波長の光を射出する蛍光性を有しており、
前記平行平板は、前記レンズから前記像面に向かって進む光のうち前記蛍光波長の光のみを前記像面に導光するダイクロイックミラーであり、
前記光学系は前記観察対象面の蛍光像を形成する光学装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、結像レンズや投影レンズの光軸に対して平行平板が斜めに配置されることで生じる収差を補正する補正光学系、および当該補正光学系を装備する顕微鏡、カメラ、プロジェクタ等の光学装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
上記光学装置の一例として蛍光顕微鏡が挙げられる。蛍光顕微鏡においては、例えば特許文献1に記載されているように、ダイクロイックミラーにより励起波長と蛍光波長の分離が行われる。このダイクロイックミラーは、一般的に、対物レンズと結像レンズとの間に形成される平行光束部に配置される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5932542号
【特許文献2】特許第4574239号
【特許文献3】特開2015-100512号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、対物レンズの瞳直径が大きいという理由や、観察視野(画角)が大きいという理由などにより、平行光束部の光束が太くなることがある。この場合に、結像光学系のスペース上の都合、さらにはダイクロイックミラーのサイズ制限により、結像レンズと像面との間、つまり収束光束部に配置せざるを得ない場合がある。このような場合、後で説明する図2に示すように、ダイクロイックミラーの入射-反射光と同一面内(以下「メリジオナル面」と称する)において、光線の位置(高さ)によってダイクロイックミラーへの入射角が異なる。これに起因して光線のシフト量に差が生じ、コマ収差が発生する。さらに、メリジオナル面と、これと垂直な面内(以下「サジタル面」と称する)との間で、光線のシフト量に差が生じ、非点収差が発生する。
【0005】
ここで、コマ収差を補正するために、例えばメリジオナル面内にてダイクロイックミラーと同等の厚みの透明な平板を反対方向に傾けて設置してもよい(特許文献2)。また、非点収差を補正するために、例えば別の平行平板を光軸に対してダイクロイックミラーとは異なる向き、つまり光軸に対して90゜回転した位置に配置してもよい(特許文献3)。ただし、特許文献2に記載の補正手段を採用した場合には、メリジオナル面内にて発生するコマ収差は補正できるものの、ダイクロイックミラーおよび上記補正手段に起因する非点収差が残存する。一方、特許文献3に記載の補正手段を採用した場合には、非点収差は補正されるものの、メリジオナル面内のコマ収差を補正することができない。
【0006】
そこで、上記補正手段を組み合わせることが考えられる。つまり、ダイクロイックミラーに起因するコマ収差を補正するための補正手段(コマ収差補正素子)を追加するとともに、ダイクロイックミラーおよびコマ収差補正板のそれぞれに対して非点収差を補正するための補正手段(非点収差補正素子)を追加してもよい。このように、一枚のダイクロイックミラーを備えた光学装置に対し、3枚の補正素子で構成される補正光学系を追加することによって、原理的にはコマ収差および非点収差の両方を補正することは可能ではある。しかしながら、スペースの都合上配置が難しく、構成も複雑なものとなってしまう。
【0007】
この発明は上記課題に鑑みなされたものであり、像面に光学像を形成するレンズと、レンズの光軸を含む第1仮想平面において光軸に対して傾いた姿勢で像面とレンズとの間に配置される平行平板とを有する光学系で発生するコマ収差および非点収差の両方を、少ない部品点数でかつ簡素な構成で補正することができる補正光学系、および当該補正光学系を備える光学装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明の第1態様は、像面に光学像を形成するレンズと、レンズの光軸を含む第1仮想平面において光軸に対して傾いた姿勢で像面とレンズとの間に配置される平行平板とを有する光学系において発生する収差を補正する補正光学系であって、透明で、かつ平行平板形状を有し、第1仮想平面において平行平板の傾き方向と逆向きの方向でレンズの光軸に対して傾いた姿勢で配置されるコマ収差補正素子と、透明で、かつ第1仮想平面と、第1仮想平面と直交する第2仮想平面との少なくとも一方において、像面を向いた第1面およびレンズを向いた第2面が同一の曲率半径を有する曲面である非点収差補正素子と、を備え、コマ収差補正素子および非点収差補正素子は、コマ収差補正素子、非点収差補正素子および平行平板が任意の順序で光軸に沿って並ぶように、像面とレンズとの間に配置されることを特徴としている。
【0009】
また、この発明の第2態様は、試料の観察対象面からの光を像面に結像するレンズと、レンズの光軸を含む第1仮想平面において光軸に対して傾いた姿勢で像面とレンズとの間に配置される平行平板とを有し、レンズから像面に向かって進む光の一部のみを像面に導光して像面上に観察対象面の像を形成する光学系と、上記補正光学系と、を備えることを特徴としている。
【0010】
このように構成された発明では、第1仮想平面において光軸に対して傾いた姿勢で平行平板が像面とレンズとの間に配置されることで発生するコマ収差および非点収差の両方が、コマ収差補正素子および非点収差補正素子の2つの光学部品で構成される補正光学系によって補正される。
【発明の効果】
【0011】
以上のように、本発明によれば、少ない部品点数でかつ簡素な構成で、像面に光学像を形成するレンズと、レンズの光軸を含む第1仮想平面において光軸に対して傾いた姿勢で像面とレンズとの間に配置される平行平板とを有する光学系で発生するコマ収差および非点収差の両方を補正することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1A】本発明に係る補正光学系の一実施形態を有する光学装置の一例である蛍光顕微鏡の構成を示す図である。
図1B図1Aに示す蛍光顕微鏡のサジタル面における装置構成を示す図である。
図2】コマ収差の発生原因を説明するための図である。
図3】コマ収差補正素子によるコマ収差の補正と、非点収差の発生原因を説明するための図である。
図4図1Aおよび図1Bに示す補正光学系によるコマ収差および非点収差の補正を示す図である。
図5】非点収差補正素子の曲率に伴う結像位置の変化を示す図である。
図6図1Aおよび図1Bに示す装置におけるサジタル面でのマージナル光線の軌跡を示す図である。
図7】平行平板を透過する光線のシフト量を示す図である。
図8図1Aおよび図1Bに示す装置におけるメリジオナル面でのマージナル光線の軌跡を示す図である。
図9】非点収差補正素子の第1面近傍におけるメリジオナル面でのマージナル光線の軌跡を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1Aは、本発明に係る補正光学系の一実施形態を有する光学装置の一例である蛍光顕微鏡の構成を示す図であり、メリジオナル面における装置構成を示している。図1B図1Aに示す蛍光顕微鏡のサジタル面における装置構成を示す図である。なお、以後の説明のために、図1Aおよび図1Bに示すようにXYZ座標軸を設定する。ここでは、XY平面が水平面であり、Z軸は鉛直軸と一致する。Z軸における正方向は鉛直下向き方向である。また、理解容易のため、必要に応じて各部の寸法や数が誇張または簡略化して図示されている場合がある。
【0014】
蛍光顕微鏡1は、試料Sに対して励起光を照射するとともに、当該試料Sから発せれる蛍光により試料Sを観察する装置である。試料Sは、例えばウェルプレートにおいて培養された蛍光性を持った生体試料などである。ただし、試料Sは生体試料に限定されるものではない。
【0015】
蛍光顕微鏡1は、ステージ2と、照明部3と、結像光学系4と、撮像部5と、本発明の特徴部分である補正光学系6とを有している。ここでは、蛍光顕微鏡1の基本構成について説明し、補正光学系6の構成および機能については後で詳述する。
【0016】
ステージ2は上方からの平面視で円形または多角形のプレート部材で構成されている。ステージ2の上面21では、試料Sの観察対象面Saを鉛直上方に向けて状態で試料Sが水平姿勢で載置される。ステージ2の上方に、その他の構成、つまり照明部3、結像光学系4、撮像部5および補正光学系6が配置されている。
【0017】
照明部3は、水平方向(-X)に特定の励起波長の励起光を射出する励起光源31と、コリメートレンズ32とを備えている。励起光源31としては、例えばLED(Light Emitting Diode)やレーザー光源などを用いることができる。コリメートレンズ32は励起光源31から射出された励起光を平行光にし、結像光学系4の一構成要素であるダイクロイックミラー41に入射させる。
【0018】
結像光学系4は、上記ダイクロイックミラー41、結像レンズ42および対物レンズ43を備えている。ダイクロイックミラー41は照明部3からの平行光(励起光)の光路上かつ結像光学系4の光軸OA上に配置されており、平行光を試料Sの観察対象面Saに向けて反射させる。また、本実施形態では、ダイクロイックミラー41が結像レンズ42および対物レンズ43よりも反試料側(-Z方向側)に配置されている。このため、ダイクロイックミラー41で反射された平行光は、光軸OAに沿って結像レンズ42および対物レンズ43を介して試料Sの観察対象面Saに照射される。このように、蛍光顕微鏡1は特定の励起波長を有する励起光を試料Sに対して落射照明する。
【0019】
また、結像光学系4では、観察対象面Saからの光(散乱光、反射光)が対物レンズ43および結像レンズ42を介してダイクロイックミラー41に入射される。ダイクロイックミラー41では、蛍光波長の蛍光のみが光軸OAに沿って撮像部5に向かって直進し、観察対象面Saの像が結像光学系4により結像される。つまり、ダイクロイックミラー41は、蛍光波長の蛍光を分離して撮像部5の受光面511に導光する機能を有している。
【0020】
撮像部5は、CCD(Charge-Coupled Device)などのイメージセンサで構成された二次元の撮像素子51を有している。撮像素子51は、その受光面511が観察対象面Saの像が形成される像面と一致するように、配置されている。そして、撮像部5は、受光面511に入射した蛍光を電気信号に変換し、上記像に対応する画像データを制御部(図示省略)に送信する。なお、制御部は受け取った画像データに対して適当な画像処理を施した上で観察対象面Saの像をディスプレイなどに表示する。
【0021】
次に、補正光学系6について図2ないし図9を参照しつつ詳述する。図2はコマ収差の発生原因を説明するための図である。図3は、コマ収差補正素子によるコマ収差の補正と、非点収差の発生原因を説明するための図である。
【0022】
上記のように構成された蛍光顕微鏡1では、結像光学系4の光軸OAと励起光の光路とを含む平面(図1Aの紙面)がメリジオナル面に相当している。また、メリジオナル面内においてダイクロイックミラー41は光軸OAに対して45゜傾いている。ここで、試料Sの観察対象面Saから射出される光は結像レンズ42を介して収束光となり、ダイクロイックミラー41に入射する。その入射光のうち蛍光波長の光がダイクロイックミラー41を透過して受光面511に集光される。ここで、ダイクロイックミラー41に入射する収束光は、図2に示すように、光線の位置(高さ)によってダイクロイックミラー41への入射角が異なる。これに起因して、光線のシフト量に差が生じ、コマ収差が発生する。
【0023】
そこで、本実施形態では、コマ収差を補正するために、特許文献1と同様に、平行平板形状の透明板がコマ収差補正素子61として光軸OA上に配置されている。より具体的には、コマ収差補正素子61は、ダイクロイックミラー41と厚みおよび硝材が同じ透明な平行平板で構成されている。そして、コマ収差補正素子61は、図1Aおよび図1Bに示すように、ダイクロイックミラー41と撮像部5との間で、メリジオナル面においてダイクロイックミラー41の傾き方向と逆向きの方向でかつ光軸OAに対して同一角度45゜だけ傾いた姿勢で配置されている。このコマ収差補正素子61の追加によって、図3に示すように、コマ収差は補正される。しかしながら、非点収差が残ってしまう。
【0024】
そこで、非点収差をさらに補正するために、本実施形態では、非点収差補正素子62が光軸OA上に配置されている。ここで、非点収差補正素子62を設けるに至った具体的な理由は以下のとおりである。本願発明者は、非点収差補正素子62として、例えば透明な平行平板を結像レンズ42とダイクロイックミラー41との間で、透明な平行平板を光軸OAに対して垂直な姿勢で配置することを検討した。この場合、メリジオナル面内における収束光の光線シフト量は、平行平板(非点収差補正素子62)と、斜め配置されたダイクロイックミラー41と、逆斜め配置されたコマ収差補正素子(平行平板)61とにより決まる。一方、メリジオナル面(XZ平面)と直交するサジタル面(YZ平面)では、ダイクロイックミラー41およびコマ収差補正素子61は光軸OAに対して垂直である。このため、メリジオナル面内では、平行平板(非点収差補正素子62)、ダイクロイックミラー41およびコマ収差補正素子(平行平板)61の合計3枚それぞれの垂直入射による光線シフトが発生する。その結果、メリジオナル面およびサジタル面での結像位置は異なる、つまり非点収差が発生する。つまり、平行平板を非点収差補正素子62として用いることはできない。
【0025】
しかしながら、このような考察から、本願発明者は、非点収差補正素子62において結像レンズ42を向いた第1面621およびダイクロイックミラー41を向いた第2面622を曲面に仕上げるとともに、第1面621および第2面622の曲率半径をメリジオナル面およびサジタル面のうちの少なくとも一方において調整することで非点収差を補正することができるという知見を得た。この知見に基づき、本願発明者は、図1Aおよび図1Bに示すように、透明で、メリジオナル面においてのみ曲率を持たせたシリンドリカル形状の非点収差補正素子62を用意し、結像レンズ42とダイクロイックミラー41との間で光軸OA上に配置することを着想した。
【0026】
図4は、図1Aおよび図1Bに示す補正光学系によるコマ収差および非点収差の補正を示す図である。シリンドリカル形状の非点収差補正素子62は、メリジオナル面において曲率を有する一方、サジタル面においては曲率を有さない、つまり平面に仕上げられている。また、メリジオナル面において結像レンズ42側、つまり(+Z)方向側の第1面621は凸形状に仕上げられるとともにダイクロイックミラー41側、つまり(-Z)方向側の第2面622は凹形状に仕上げられている。しかも、第1面621および第2面622の曲率半径は同一である。このように仕上げた理由は、図5に示すように、非点収差補正素子62の曲率に応じて結像位置を光軸方向Zに移動させることができるからである。
【0027】
図5は、非点収差補正素子の曲率に伴う結像位置の変化を示す図である。同図に示すように、メリジオナル面(XZ平面)において非点収差補正素子62の第1面621および第2面622の曲率を変えることで、それに応じた光軸方向Zにメリジオナル面における結像位置Pmをシフトさせることができる。しかも曲率の大きさを変えることで結像位置Pmのシフト量も調整することができる。つまり、図5(a)に示すように、非点収差補正素子62によって与えられるシフト量は、非点収差補正素子62の曲面から像面までの距離が非点収差補正素子62の曲率半径と等しくなる時にゼロとなる。一方、曲率半径がこれより小さい場合は結像位置Pmが(+Z)方向へ、大きい場合(平面に近づく)は図5(b)のように(-Z)方向へシフトする。
【0028】
例えば図3に示すように、コマ収差補正素子61は追加されているものの、非点収差補正素子62が追加されていない結像光学系4においてメリジオナル面における結像位置Pmがサジタル面における結像位置Psに対して(-Z)方向にずれることがある。この場合、図1A図1Bおよび図4に示す曲率形状の非点収差補正素子62を結像光学系4に追加することでメリジオナル面における結像位置Pmを(+Z)方向にシフトさせてサジタル面における結像位置Psに一致させることができる。つまり、コマ収差補正に影響を与えることなく、非点収差を補正することができる。
【0029】
さらに、非点収差の補正より高精度なものとするため、非点収差補正素子62の曲率半径を次のようにして決定している。非点収差補正素子62、ダイクロイックミラー41、コマ収差補正素子61のそれぞれの厚みおよび屈折率をta、td、tc、na、nd、ncとする。また、サジタル面(YZ平面)における、非点収差補正素子62の結像レンズ42側の面から像面までの距離をL、結像レンズ42の開口数NAをNAiとする(図6)。
【0030】
一般に平行平板によるシフト量Dは、式(1)、(2)で求められる。ただし、θ1は平行平板への入射角、n、tはそれぞれ屈折率および厚みである(図7
【数1】
【0031】
NAi=sin(θNA) とすると、図6中の太実線で示すように、サジタル面でのマージナル光線(開口数NAを決定する、最辺縁部を通る光線)の非点収差補正素子62、ダイクロイックミラー41およびコマ収差補正素子61への入射角は全てθNAである。したがって、サジタル面におけるマージナル光線のシフト量Dsは、式(3)~(9)で示すとおりである。なお、シフト量は結像レンズ42から像面ISまでの距離が長くなる方向を+と定義する
【数2】
【0032】
また同様に、図8中の太実線で示すように、メリジオナル面(XZ平面)におけるマージナル光線のシフト量Dmは式(10)~(16)で示すとおりである。ただし、θma1、θmd1、θmc1はそれぞれ非点収差補正素子62、ダイクロイックミラー41、コマ収差補正素子61への入射角である。
【数3】
【0033】
以上の式を用いて、Ds=Dm が成立するように入射角θma1を決定する。また、図8に示すように、θma1は曲率半径r、距離Lを用いて式(17)のように記述できる。
【数4】
【0034】
図8においては、マージナル光線の非点収差補正素子62への入射位置点Pから、前記入射光線が光軸OAと交わる点までの光軸方向の距離L’をLと近似している。また、非点収差補正素子62については、平行平板ではないが、結像レンズ42を向いた第1面621の曲率半径とダイクロイックミラー41を向いた第2面622の曲率半径とが同じであるため、それぞれの光線高を通過する光線から見れば、平行平板とみなすことができる。その結果、ダイクロイックミラー41およびコマ収差補正素子61と同様に式(11)が成立する。
【0035】
さらに、式(17)は下記のように変形できる。
【数5】
【0036】
したがって、決定したθma1を用いて、非点収差補正素子62の曲率半径 rを式(18)にて決定することで、最適な収差補正が可能である。
【0037】
以上のように、本実施形態によれば、コマ収差補正素子61によりコマ収差が補正されるとともに、非点収差補正素子62により非点収差が補正される。このように、補正光学系6は、コマ収差補正素子61および非点収差補正素子62の2つの光学部品からなる簡素な構成で構成されながらも、結像光学系4の収束光束部にダイクロイックミラー41を介挿したことに起因するコマ収差および非点収差の両方を補正することができる。そして、当該補正光学系6を蛍光顕微鏡1に装備することで、試料Sの観察対象面Saの蛍光像を良好に観察することができる。
【0038】
このように、本実施形態では、ダイクロイックミラー41、結像レンズ42および結像光学系4がそれぞれ本発明の「平行平板」、「レンズ系」および「光学系」の一例に相当している。また、メリジオナル面(XZ平面)およびサジタル面(YZ平面)がそれぞれ本発明の「第1仮想平面」および「第2仮想平面レンズ系」の一例に相当している。また、非点収差補正素子62の第1面621の曲率が本発明の「第1曲率」の一例に相当し、第2面622の曲率が本発明の「第2曲率」の一例に相当している。また、受光面511が本発明の「像面」の一例に相当している。
【0039】
なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したもの以外に種々の変更を行うことが可能である。例えば上記実施形態では、非点収差補正素子62の第1面621および第2面622は、メリジオナル面(XZ平面)においてのみ曲率を有する一方で、サジタル面(YZ平面)において曲率を有さない、いわゆるシリンドリカル面であるが、これに限定されるものではない。例えば、非点収差補正素子62の第1面621および第2面622が、サジタル面(YZ平面)においてのみ曲率を有するシリンドリカル面であってもよい。また、非点収差補正素子62の第1面621および第2面622が、メリジオナル面およびサジタル面のうちの一方において第1曲率を有し、他方において前記第1曲率と異なる第2曲率を有するトーリンク面であってもよい。さらに、非点収差補正素子62の第1面621および第2面622は、同一の曲率半径を有しているが、許容される収差によって多少異なっていてもよい。
【0040】
また、上記実施形態では、コマ収差補正素子61はメリジオナル面(XZ平面)においてダイクロイックミラー41に対してほぼ90゜回転させた状態で配置しているが、回転角度は90゜に限定されるものではなく、許容される収差によって多少異なっていてもよい。また、コマ収差補正素子61はダイクロイックミラー41と同じ厚みを有しているが、これも許容される収差によって多少異なっていてもよい。
【0041】
また、コマ収差補正素子61の硝材をダイクロイックミラー41と一致させているが、硝材を積極的にダイクロイックミラー41と異なるものに変更してもよい。つまり、硝材選択により、コマ収差補正素子61の厚みおよび光軸OAに対する傾き角を調整することが可能である。
【0042】
また、上記実施形態では、受光面511(像面)から結像レンズ42までの間に、光軸OA上において非点収差補正素子62、ダイクロイックミラー41およびコマ収差補正素子61がこの順序で配列されているが、この配列順序は任意である。また、受光面511(像面)と結像レンズ42との間に、収差の影響を与えない部材、例えばバンドパスフィルタなどを追加配置してもよい。
【0043】
また、上記実施形態では、本発明に係る補正光学系6を蛍光顕微鏡1に適用しているが、本発明の適用対象はこれに限定されるものではない。例えば本発明の「平行平板」の一例としてハーフミラーを用いた顕微鏡に対しても本発明を適用することができ、補正光学系を装備する顕微鏡は本発明の「光学装置」の一例に相当する。また、プロジェクタなどの投影装置、プリント基板や部品などを撮像して検査する検査装置やハーフミラーを内蔵するカメラなどにも、本発明を適用可能であり、上記投影装置も本発明の「光学装置」のに含まれる。要は、一般的な結像光学系や投影光学系の収束光束部において当該光学系の光軸に対して傾いて平行平板を配置した際に発生する収差を補正する技術全般に本発明を適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
この発明は、結像レンズや投影レンズの光軸に対して平行平板が斜めに配置されることで生じる収差を補正する補正技術全般に適用することができる。
【符号の説明】
【0045】
1…蛍光顕微鏡
4…結像光学系(光学系)
6…補正光学系
41…ダイクロイックミラー(平行平板)
42…結像レンズ
61…コマ収差補正素子
62…非点収差補正素子
511…受光面(像面)
621…(非点収差補正素子の)第1面
622…(非点収差補正素子の)第2面
IS…像面
OA…光軸
r…曲率半径
Z…光軸方向
図1A
図1B
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9