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特開2022-133683磁気ディスク基板用研磨剤組成物、及び磁気ディスク基板の研磨方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022133683
(43)【公開日】2022-09-14
(54)【発明の名称】磁気ディスク基板用研磨剤組成物、及び磁気ディスク基板の研磨方法
(51)【国際特許分類】
   G11B 5/84 20060101AFI20220907BHJP
   B24B 37/00 20120101ALI20220907BHJP
   C09K 3/14 20060101ALI20220907BHJP
   C09G 1/02 20060101ALI20220907BHJP
【FI】
G11B5/84 A
B24B37/00 H
C09K3/14 550D
C09K3/14 550Z
C09G1/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021032509
(22)【出願日】2021-03-02
(71)【出願人】
【識別番号】000178310
【氏名又は名称】山口精研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088616
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 一平
(74)【代理人】
【識別番号】100154829
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 成
(74)【代理人】
【識別番号】100132403
【弁理士】
【氏名又は名称】永岡 儀雄
(74)【代理人】
【識別番号】100198856
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 聡
(72)【発明者】
【氏名】村田 徹
【テーマコード(参考)】
3C158
5D112
【Fターム(参考)】
3C158AA07
3C158CB02
3C158CB10
3C158DA02
3C158DA17
3C158EA01
3C158EB01
3C158EB29
3C158ED03
3C158ED06
3C158ED10
3C158ED23
3C158ED26
3C158ED28
5D112AA02
5D112AA24
5D112BA06
5D112GA09
5D112GA14
(57)【要約】
【課題】アルミナ粒子を使用することなく、高い研磨速度を実現可能であって、かつ、良好な表面平滑性、特に「シャローピット」と称される微細な凹欠陥を無くし、シリカ粒子の付着のない表面状態を実現可能な研磨剤組成物の提供を課題とする。
【解決手段】磁気ディスク基板用研磨剤組成物は、平均粒子径が10~120nmの範囲であるコロイダルシリカと、平均粒子径が200~600nmの範囲である湿式法シリカと、酸化剤と、酸と、水とを含有し、コロイダルシリカに占める粒子径30~70nmの粒子の割合が10~90体積%であり、コロイダルシリカの平均粒子径に対する湿式法シリカの平均粒子径の比の値が2.0~30.0の範囲であり、酸がリン含有無機酸、及び/または、リン含有有機酸である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒子径が10~120nmの範囲であるコロイダルシリカと、
平均粒子径が200~600nmの範囲である湿式法シリカと、
酸化剤と、
酸と、
水と
を含有し、
前記コロイダルシリカに占める粒子径30~70nmの粒子の割合が10~90体積%であり、
前記コロイダルシリカの平均粒子径に対する前記湿式法シリカの平均粒子径の比の値が2.0~30.0の範囲であり、
前記酸がリン含有無機酸、及び/または、リン含有有機酸である磁気ディスク基板用研磨剤組成物。
【請求項2】
前記コロイダルシリカに占める粒子径30~70nmの前記粒子の割合が12~80体積%の範囲である請求項1に記載の磁気ディスク基板用研磨剤組成物。
【請求項3】
前記湿式法シリカの平均粒子径が200~500nmの範囲である請求項1または2に記載の磁気ディスク基板用研磨剤組成物。
【請求項4】
前記リン含有無機酸は、
リン酸、ホスホン酸、ホスフィン酸、ピロリン酸、及びトリポリリン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1~3のいずれか一項に記載の磁気ディスク基板用研磨剤組成物。
【請求項5】
前記リン含有有機酸は、
2-アミノエチルホスホン酸、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸、アミノトリ(メチレンホスホン酸)、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)、エタン-1,1-ジホスホン酸、及びメタンヒドロキシホスホン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1~3のいずれか一項に記載の磁気ディスク基板用研磨剤組成物。
【請求項6】
水溶性高分子化合物を更に含有する請求項1~5のいずれか一項に記載の磁気ディスク基板用研磨剤組成物。
【請求項7】
前記水溶性高分子化合物は、
少なくともカルボン酸基を有する単量体と、アミド基を有する単量体とを必須単量体とする共重合体、及び/または、少なくともカルボン酸基を有する単量体と、スルホン酸基を有する単量体とを必須単量体とする共重合体である請求項6に記載の磁気ディスク基板用研磨剤組成物。
【請求項8】
pH値(25℃)が0.1~4.0の範囲である請求項1~7のいずれか一項に記載の磁気ディスク基板用研磨剤組成物。
【請求項9】
無電解ニッケル―リンめっきされたアルミニウム磁気ディスク基板を研磨対象とする研磨に用いられる請求項1~8のいずれか一項に記載の磁気ディスク基板用研磨剤組成物。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の磁気ディスク基板用研磨剤組成物を用いた磁気ディスク基板の研磨方法であって、
研磨工程、及び前記研磨工程の後に実施される最終研磨工程を具備し、
前記磁気ディスク基板用研磨剤組成物は、
前記最終研磨工程より前の前記研磨工程で使用される磁気ディスク基板の研磨方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気ディスク基板用研磨剤組成物、及び磁気ディスク基板の研磨方法に関するものであり、半導体、ハードディスクといった磁気記録媒体等の電子部品を構成する磁気ディスク基板の研磨に使用可能な磁気ディスク基板用研磨剤組成物(以下、単に「研磨剤組成物」と称す。)、及び磁気ディスク基板の研磨方法に関するものである。
【0002】
特に、本発明は、ガラス磁気ディスク基板やアルミニウム磁気ディスク基板等の磁気記録媒体用の磁気ディスク基板の基板表面の研磨に使用可能な研磨剤組成物、及び磁気ディスク基板の研磨方法であり、更にアルミニウム合金製の基板表面に無電解ニッケル―リンめっき皮膜を施したアルミニウム磁気ディスク基板等の研磨に好適に使用可能な研磨剤組成物、及び当該研磨剤組成物を用いた磁気ディスク基板の研磨方法に関するものである。
【背景技術】
【0003】
従来、アルミニウム磁気ディスク基板の無電解ニッケル―リンめっき皮膜表面を研磨するための研磨剤組成物として、高い研磨速度を実現可能な、比較的粒径の大きなアルミナ粒子を水に分散させた研磨剤組成物が生産効率等の生産性の観点から多く使用されている。
【0004】
しかしながら、アルミナ粒子は基板表面に形成された無電解ニッケル―リンめっき皮膜と比べて硬度が高い物性を有し、研磨時に当該アルミナ粒子が基板表面に突き刺さった状態で保持され、かかる状態のアルミナ粒子が研磨工程の次工程として行われる最終研磨工程(仕上げ研磨工程)に影響を及ぼす可能性があることが問題となっている。
【0005】
上記問題を解決するために、例えば、アルミナ粒子の成分とシリカ粒子の成分とを所定の比率で混合し、組み合わせた研磨剤組成物の使用が提案されている(特許文献1~4参照)。更に、アルミナ粒子を研磨剤組成物中に含有せず、シリカ粒子の成分のみを含有した研磨剤組成物を使用した研磨方法も提案されている(特許文献5~10参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001-260005号公報
【特許文献2】特開2009-176397号公報
【特許文献3】特開2011-204327号公報
【特許文献4】特開2012-43493号公報
【特許文献5】特開2010-167553号公報
【特許文献6】特表2011-527643号公報
【特許文献7】特開2014-29754号公報
【特許文献8】特開2014-29755号公報
【特許文献9】特表2003-514950号公報
【特許文献10】特開2012-155785号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の特許文献1~10に示した研磨剤組成物、或いは研磨剤組成物を使用した研磨方法は、下記に示す問題点を有することがあった。
【0008】
例えば、特許文献1~4に示されるアルミナ粒子の成分とシリカ粒子の成分とを組み合わせた研磨剤組成物の使用により、磁気ディスク基板の基板表面へのアルミナ粒子の突き刺さりをある程度は改善することが可能であった。しかしながら、アルミナ粒子を少なくとも含有しているため、当該アルミナ粒子が基板表面に突き刺さる可能性は依然として残っていた。加えて、アルミナ粒子及びシリカ粒子の双方の成分を含有して研磨剤組成物が構成されているため、個々の粒子の成分の有する特性を互いに相殺し、研磨速度及び表面平滑性等の研磨剤組成物の特性が反って低下する問題があった。
【0009】
そこで、アルミナ粒子を使用することなく、シリカ粒子のみを含んで構成される研磨剤組成物、及びかかる研磨剤組成物を使用する研磨方法が提案されている。例えば、コロイダルシリカと研磨促進剤とを組み合わせたものが知られている(特許文献5及び特許文献6参照)。更に、コロイダルシリカやフュームドシリカ、表面修飾されたシリカ、及び水ガラス法で製造されたシリカ等による研磨方法、特に特殊な形状を有するコロイダルシリカを使用する研磨方法が既に提案されている(特許文献7及び特許文献8参照)。しかしながら、上記提案された研磨方法の場合、研磨速度が不十分であるなどの研磨性能が従来の研磨剤組成物と比較して劣る可能性があり、更なる改良が求められていた。
【0010】
更に、コロイダルシリカとフュームドシリカとを組み合わせた研磨剤組成物を使用する研磨方法が提案されている(特許文献9参照)。しかしながら、かかる研磨剤組成物を使用する研磨方法の場合、研磨速度の向上は認められるものの、フュームドシリカの嵩比重が低いことに起因して、研磨剤組成物をスラリー化することが難しく、作業性に影響を及ぼす可能性があった。更に、破砕シリカ粒子を使用することで、アルミナ粒子の使用に近い研磨速度を実現することが可能な研磨方法が提案されている(特許文献10参照)。しかしながら、かかる研磨方法の場合、従来の研磨剤組成物と比較して表面平滑性が悪化する問題があり、更なる改良が求められていた。
【0011】
更に、シリカ粒子のみを使用した研磨剤組成物による研磨方法では、研磨工程後の基板表面にシリカ粒子が付着し、残存することがあった。そのため、研磨工程後に基板表面に対する洗浄を行っても残存したシリカ粒子が除去できない場合、研磨工程後の最終研磨工程における作業負荷が多くかかる可能性があった。そのため、研磨工程後の基板表面にシリカ粒子が付着することがない、若しくは比較的簡易な洗浄作業によって容易に除去可能な研磨剤組成物を使用することが求められていた。
【0012】
そこで、本発明は、上記の従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、アルミナ粒子を使用することなく、高い研磨速度を実現可能であって、かつ、良好な表面平滑性、特に「シャローピット」と称される微細な凹欠陥を無くし、シリカ粒子の付着のない表面状態を実現可能な研磨剤組成物、及び当該研磨剤組成物を用いた磁気ディスク基板の研磨方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本願発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、コロイダルシリカと、湿式法シリカとを組み合わせ、更に酸化剤と、酸としてリン含有無機酸、及び/または、リン含有有機酸と、好ましくは水溶性高分子化合物とを更に含有する研磨剤組成物を用いることにより、高い研磨速度と、良好な表面平滑性と、特に、シャローピットと呼ばれる微細な凹欠陥を無くし、シリカ粒子の付着のない表面状態を実現可能であることを見出し、下記に示す研磨剤組成物及び磁気ディスクの研磨方法を完成するに至った。
【0014】
[1] 平均粒子径が10~120nmの範囲であるコロイダルシリカと、平均粒子径が200~600nmの範囲である湿式法シリカと、酸化剤と、酸と、水とを含有し、前記コロイダルシリカに占める粒子径30~70nmの粒子の割合が10~90体積%であり、前記コロイダルシリカの平均粒子径に対する前記湿式法シリカの平均粒子径の比の値が2.0~30.0の範囲であり、前記酸がリン含有無機酸、及び/または、リン含有有機酸である磁気ディスク基板用研磨剤組成物。
【0015】
[2] 前記コロイダルシリカに占める粒子径30~70nmの前記粒子の割合が12~80体積%の範囲である前記[1]に記載の磁気ディスク基板用研磨剤組成物。
【0016】
[3] 前記湿式法シリカの平均粒子径が200~500nmの範囲である前記[1]または[2]に記載の磁気ディスク基板用研磨剤組成物。
【0017】
[4] 前記リン含有無機酸は、リン酸、ホスホン酸、ホスフィン酸、ピロリン酸、及びトリポリリン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種である前記[1]~[3]のいずれかに記載の磁気ディスク基板用研磨剤組成物。
【0018】
[5] 前記リン含有有機酸は、2-アミノエチルホスホン酸、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸、アミノトリ(メチレンホスホン酸)、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)、エタン-1,1-ジホスホン酸、及びメタンヒドロキシホスホン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種である前記[1]~[3]のいずれかに記載の磁気ディスク基板用研磨剤組成物。
【0019】
[6] 水溶性高分子化合物を更に含有する前記[1]~[5]のいずれかに記載の磁気ディスク基板用研磨剤組成物。
【0020】
[7] 前記水溶性高分子化合物は、少なくともカルボン酸基を有する単量体と、アミド基を有する単量体とを必須単量体とする共重合体、及び/または、少なくともカルボン酸基を有する単量体と、スルホン酸基を有する単量体とを必須単量体とする共重合体である前記[6]に記載の磁気ディスク基板用研磨剤組成物。
【0021】
[8] pH値(25℃)が0.1~4.0の範囲である前記[1]~[7]のいずれかに記載の磁気ディスク基板用研磨剤組成物。
【0022】
[9] 無電解ニッケル―リンめっきされたアルミニウム磁気ディスク基板を研磨対象とする研磨に用いられる前記[1]~[8]のいずれかに記載の磁気ディスク基板用研磨剤組成物。
【0023】
[10] 前記[1]~[9]のいずれかに記載の磁気ディスク基板用研磨剤組成物を用いた磁気ディスク基板の研磨方法であって、研磨工程、及び前記研磨工程の後に実施される最終研磨工程を具備し、前記磁気ディスク基板用研磨剤組成物は、前記最終研磨工程より前の前記研磨工程で使用される磁気ディスク基板の研磨方法。
【発明の効果】
【0024】
本発明は、磁気ディスク基板の表面を研磨する際に、2種類のシリカ粒子と酸化剤と、酸としてリン含有無機酸、及び/または、リン含有有機酸を含有する研磨剤組成物を用いることにより、高い研磨速度と研磨後の基板表面にシャローピットと呼ばれる微細な凹欠陥が無いと共に、シリカ粒子の付着が無い平滑な基板を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態について説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、変更、修正、改良を加え得るものである。
【0026】
1. 研磨剤組成物(磁気ディスク基板用研磨剤組成物)
本発明の研磨剤組成物は、必須成分としてコロイダルシリカと、湿式法シリカと、酸化剤と、酸としてリン含有無機酸、及び/または、リン含有有機酸、及び水と含有する研磨剤組成物である。更に、好ましくは水溶性高分子化合物を含有する研磨剤組成物であっても構わない。
【0027】
1.1 コロイダルシリカ
本発明の研磨剤組成物に含有されるコロイダルシリカは、平均粒子径が10~120nmの範囲であり、好ましくは10~110nmの範囲であり、更に好ましくは15~100nmの範囲のものを使用することができる。コロイダルシリカの平均粒子径が10nm以上であることにより、研磨速度の低下を抑制することができる。換言すれば、コロイダルシリカの平均粒子径が10nm未満の場合、研磨剤組成物の研磨速度が低下し、研磨工程における作業効率に影響を及ぼす可能性がある。一方、コロイダルシリカの平均粒子径が120nm以下であることにより、「シャローピット」と呼ばれる微細な凹欠陥の発生を抑制し、表面平滑性を良好に保つことができる。換言すれば、コロイダルシリカの平均粒子径が120nmを超える場合、シャローピットが発生しやすく、研磨対象の表面平滑性が劣る可能性がある。
【0028】
加えて、コロイダルシリカに占める粒子径30~70nmの粒子の割合は、10~90体積%の範囲であり、好ましくは12~80体積%の範囲である。30~70nmの粒子の割合が10~90体積%の範囲とすることにより、シャローピットの発生を抑制できる効果を有する。すなわち、使用するコロイダルシリカにおいて、粒径が所定の範囲にない場合、シャローピットの発生を抑えることができず、十分な表面平滑性を確保することができない。
【0029】
コロイダルシリカは、球状、鎖状、金平糖型(表面に凸部を有する粒子状)、及び異形型等の形状が知られており、水中に一次粒子が単分散してコロイド状をなしている。本発明で使用されるコロイダルシリカとしては、球状、または球状に近い形状のコロイダルシリカが特に好ましい。このような球状、または球状に近いコロイダルシリカを用いることで、表面平滑性をより向上させることができる。なお、コロイダルシリカは、ケイ酸ナトリウムまたはケイ酸カリウムを原料とする水ガラス法、テトラエトキシシラン等のアルコキシシランを酸またはアルカリで加水分解するアルコキシシラン法、または金属ケイ素と水をアルカリ触媒の存在下に反応させて水素を発生させながらシリカ粒子を形成させる方法等の従来から周知の方法を採用することで形成することができる。
【0030】
1.2 湿式法シリカ
本発明の研磨剤組成物に含有される湿式法シリカは、ケイ酸アルカリ水溶液と無機酸または無機酸水溶液とを反応容器に添加することにより、沈殿ケイ酸として得られるシリカ粒子から調製されるものである。なお、本明細書における湿式法シリカの中には、上述したコロイダルシリカが含まれていない。
【0031】
湿式法シリカの原料となるケイ酸アルカリ水溶液は、例えば、ケイ酸ナトリウム水溶液、ケイ酸カリウム水溶液、及びケイ酸リチウム水溶液等を挙げることができ、一般的にはケイ酸ナトリウム水溶液の使用が好ましい。一方、ケイ酸ナトリウム水溶液とともに反応容器内に添加される無機酸としては、例えば、硫酸、塩酸、及び硝酸等を挙げることができ、一般的には硫酸の使用が好ましい。
【0032】
反応容器内に湿式法シリカの原料となるケイ酸アルカリ水溶液及び無機酸等の各成分を添加し、反応終了後の反応液を濾過し、水洗し、その後乾燥機で水分が6%以下となるように乾燥処理を行う。ここで、使用する乾燥機は、特に限定されるものではなく、例えば、静置乾燥機、噴霧乾燥機、及び流動乾燥機等のいずれかを用いるものであっても構わない。その後、ジェットミル等の粉砕機で粉砕し、更に分級を行うことで粉砕された上記湿式法シリカを得ることができる。
【0033】
得られた湿式法シリカに更に焼成処理を行うものであっても構わない。例えば、電気炉或いはロータリーキルン等の一般的な焼成装置を用いて焼成処理を行うことができる。この場合、湿式法シリカの焼成処理に係る焼成温度は、600℃~1100℃の範囲に設定することができる。なお、焼成処理を行った後に、上述の粉砕処理を行うものであってもよい。このような粉砕処理によって粉砕された湿式法シリカは、その粒子形状が複数の角部を有して構成されており、粉砕処理を行っていない一般的な球状を呈する湿式法シリカの粒子と比較すると高い研磨性能を有することが期待される。
【0034】
得られた湿式法シリカの平均粒子径は、200~600nmの範囲内であり、好ましくは200~500nmの範囲内である。湿式法シリカの平均粒子径が200nm以上であることにより、研磨速度の低下を抑制することができる。換言すれば、湿式法シリカの平均粒子径が200nm未満の場合、十分な研磨性能を有することができず、研磨速度が低下するおそれがある。一方、平均粒子径が600nm以下であることにより、研磨後の基板のシャローピットと呼ばれる微細な凹欠陥と表面粗さの悪化を抑制することができる。換言すれば、平均粒子径が600nm超の場合、シャローピットが発生し、良好な表面状態の維持が困難となる。
【0035】
ここで、コロイダルシリカの平均粒子径を“A”と規定し、湿式法シリカの平均粒子径を“B”と規定した場合、コロイダルシリカの平均粒子径に対する湿式法シリカの平均粒子径の比の値(=B/A)は、2.0~30.0の範囲であり、好ましくは2.5~25.0の範囲であり、更に好ましくは3.0~20.0の範囲に設定されている。上記B/Aの値が2.0以上であることにより、研磨速度の向上が期待される。一方、B/Aの値が30.0以下であることにより、表面粗さの悪化を抑制することができる。
【0036】
加えて、コロイダルシリカと湿式法シリカとの濃度の合計、換言すれば「シリカ粒子の合計濃度」は、その他成分を含有する研磨組成物全体の重量に対し、1~50質量%の範囲であることが好ましく、より好ましくは2~40質量%の範囲である。研磨剤組成物中のシリカ粒子の合計濃度が1質量%以上であることにより、研磨速度の低下を抑制することができる。換言すれば、上記シリカ粒子の合計濃度が1質量%未満の場合、十分な研磨速度で研磨することが困難となる。一方、シリカ粒子の合計濃度が50質量%以下であることにより、必要以上のシリカ粒子を使用することなく十分な研磨速度を維持することができる。換言すれば、シリカ粒子の合計濃度が50質量%超の場合、それ以上の研磨速度の向上を期待することができない。
【0037】
ここで、コロイダルシリカ及び湿式法シリカの合計質量に占めるコロイダルシリカの割合は、10~90質量%の範囲であることが好ましく、より好ましくは20~80質量%の範囲である。コロイダルシリカの割合が10質量%以上であることにより、シャローピットと呼ばれる微細な凹欠陥を抑制し、表面状態を良好に保つことができる。換言すれば、コロイダルシリカの割合が10質量%未満の場合、シャローピットが発生し、良好な表面状態の維持が困難となる。一方、コロイダルシリカの割合が90質量%以下であることにより、研磨速度の低下を抑制することができる。換言すれば、コロイダルシリカの割合が90質量%超の場合、研磨速度が低下するおそれがある。
【0038】
コロイダルシリカと湿式法シリカとの合計質量に占める湿式法シリカの割合は、10~90質量%の範囲であることが好ましく、より好ましくは20~80質量%の範囲である。湿式法シリカの割合が90質量%以下であることにより、研磨後の基板の表面粗さの悪化を抑制することができる。換言すれば、湿式法シリカの割合が90質量%超の場合、研磨後の基板の表面粗さが悪化するおそれがある。一方、湿式法シリカの割合が10質量%以上であることにより、研磨速度の低下を抑制することができる。換言すれば、湿式法シリカの割合が10質量%未満の場合、十分な研磨速度での研磨が困難となる。
【0039】
1.3 その他のシリカ粒子
本発明の研磨剤組成物に含有されるシリカ粒子としては、コロイダルシリカ及び湿式法シリカに加え、フュームドシリカ等の使用を例示することができる。
【0040】
フュームドシリカは、揮発性シラン化合物(一般には四塩化ケイ素が用いられる。)を酸素と水素の混合ガスの炎の中(1000℃内外)で加水分解させたもので、極めて微細で高純度なシリカ粒子である。コロイダルシリカと比べると、コロイダルシリカが個々に分散した一次粒子として存在するのに対して、フュームドシリカは一次粒子が多数凝集し、鎖状につながり二次粒子を形成している。この二次粒子の形成により研磨パッドへの保持力が高くなり、研磨速度を向上させることができる。
【0041】
1.4 酸化剤
本発明の研磨剤組成物に含有される酸化剤としては、過酸化物、過マンガン酸またはその塩、クロム酸またはその塩、過ヨウ素酸またはその塩等が挙げられる。具体例としては、過酸化水素、過酸化ナトリウム、過酸化バリウム、過マンガン酸カリウム、オルト過ヨウ素酸、メタ過ヨウ素酸ナトリウム等が挙げられる。これらの中でも過酸化水素が好ましい。
【0042】
研磨剤組成物中の酸化剤の含有量は、通常0.1~10.0質量%の範囲で使用される。酸化剤が0.1質量%以上含有されることにより、研磨速度が向上する。酸化剤が10.0質量%以上含有されても、研磨速度の向上は認められず、経済的に不利である。
【0043】
1.5 酸
本発明の研磨剤組成物は、酸としてリン含有無機酸、及び/または、リン含有有機酸を含有する。
【0044】
研磨剤組成物中にリン含有無機酸、及び/または、リン含有有機酸を含有することにより、研磨後の基板表面上のシリカ付着を低減させることができる。リン含有無機酸としては、リン酸、ホスホン酸、ホスフィン酸、ピロリン酸、及びトリポリリン酸等を挙げることができる。
【0045】
リン含有有機酸としては、2-アミノエチルホスホン酸、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸、アミノトリ(メチレンホスホン酸)、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)、エタン-1,1-ジホスホン酸、及びメタンヒドロキシホスホン酸等が挙げられる。
【0046】
リン含有無機酸、及び/または、リン含有有機酸は、リン含有無機酸とリン含有有機酸との併用が、本発明の効果を高める上で好ましい。また、リン含有無機酸、及び/または、リン含有有機酸は、硝酸、硫酸、及び塩酸等と併用することができる。また、クエン酸、酒石酸、シュウ酸、マレイン酸等の多価カルボン酸、或いは脂肪族スルホン酸、及び芳香族スルホン酸等と併用することもできる。
【0047】
脂肪族スルホン酸としては、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、プロパンスルホン酸、1-ブタンスルホン酸、及びトリフルオロメタンスルホン酸等が挙げられる。
【0048】
芳香族スルホン酸としては、ベンゼンスルホン酸、P-トルエンスルホン酸、m-キシレンスルホン酸、クメンスルホン酸、及びドデシルベンゼンスルホン酸等を挙げることができる。
【0049】
酸の使用量は、研磨剤組成物のpH値(25℃)の設定により適宜決定することができる。
【0050】
1.6 水溶性高分子化合物
本発明の研磨剤組成物に好ましく用いられる水溶性高分子化合物としては、ポリアクリル酸系水溶性高分子化合物、ポリアミド系水溶性高分子化合物、ポリビニルアルコール系水溶性高分子化合物、及びポリオール系水溶性高分子化合物等が挙げられる。特に、下記に示す共重合体の使用が好ましい。
【0051】
本発明の研磨剤組成物は、水溶性高分子化合物を更に含有することにより、研磨後の基板表面上のシリカ付着を低減させることができる。本発明で好ましく使用される水溶性高分子化合物のうち、以下の2種類の共重合体について説明する。
【0052】
水溶性高分子として、少なくともカルボン酸基を有する単量体とアミド基を有する単量体を必須単量体とする共重合体と、少なくともカルボン酸基を有する単量体とスルホン酸基を有する単量体を必須単量体とする共重合体とが、本発明において好ましく使用することができる。更に、上記二つの共重合体を併用することがより好ましい。
【0053】
更に具体的に説明すると、カルボン酸基を有する単量体として、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、及びこれらの塩等を例示することができる。
【0054】
また、アミド基を有する単量体としては、アクリルアミド、メタクリルアミド、N-アルキルアクリルアミド、及びN-アルキルメタクリルアミド等を例示することができる。
【0055】
アミド基を有する単量体であるN-アルキルアクリルアミド、及びN-アルキルメタクリルアミドの好ましい例として、N-メチルアクリルアミド、N-エチルアクリルアミド、N-n-プロピルアクリルアミド、N-iso―プロピルアクリルアミド、N-n-ブチルアクリルアミド、N-iso―ブチルアクリルアミド、N-sec-ブチルアクリルアミド、N-tert-ブチルアクリルアミド、N-メチルメタクリルアミド、N-エチルメタクリルアミド、N-n-プロピルメタクリルアミド、N-iso―プロピルメタクリルアミド、N-n-ブチルメタクリルアミド、N-iso―ブチルメタクリルアミド、N-sec-ブチルメタクリルアミド、及びN-tert-ブチルメタクリルアミド等が例示される。
【0056】
上記において、N-n-ブチルアクリルアミド、N-iso-ブチルアクリルアミド、N-sec-ブチルアクリルアミド、N-tert-ブチルアクリルアミド、N-n-ブチルメタクリルアミド、N-iso-ブチルメタクリルアミド、N-sec-ブチルメタクリルアミド、及びN-tert-ブチルメタクリルアミドを用いるものが特に好ましい。
【0057】
一方、スルホン酸基を有する単量体として、イソプレンスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、2-メタクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、ビニルナフタレンスルホン酸及びそれらの塩等が例示される。
【0058】
これらの単量体の成分を組み合わせて重合することにより、共重合体とすることが好ましい。共重合の組み合わせとしては、少なくともカルボン酸基を有する単量体とアミド基を有する単量体を必須単量体とする共重合体の場合は、アクリル酸、及び/または、その塩とN-アルキルアクリルアミドの組み合わせ、アクリル酸、及び/または、その塩とN-アルキルメタクリルアミドの組み合わせ、メタクリル酸、及び/または、その塩とN-アルキルアクリルアミドの組み合わせ、メタクリル酸、及び/または、その塩とN-アルキルメタクリルアミドの組み合わせを好ましく用いることができる。N-アルキルアクリルアミドまたはN-アルキルメタクリルアミドのアルキル基が、n-ブチル基、iso―ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基からなる群より選択される少なくとも1つであるものを特に好ましく用いることができる。
【0059】
少なくともカルボン酸基を有する単量体とスルホン酸基を有する単量体を必須単量体とする共重合体の場合は、例えば、アクリル酸と2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸の組み合わせ、アクリル酸と2-メタクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸の組み合わせ、メタクリル酸と2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸の組み合わせ、及びメタクリル酸と2-メタクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸の組み合わせ等が例示される。
【0060】
本発明で好ましく使用される水溶性高分子化合物は、少なくともカルボン酸基を有する単量体とアミド基を有する単量体を必須単量体とする共重合体や、少なくともカルボン酸基を有する単量体とスルホン酸基を有する単量体を必須単量体とする共重合体が例示されるが、それぞれ挙げられた二種類以外の単量体も使用するものであっても構わない。
【0061】
例えば、カルボン酸基を有する単量体とアミド基を有する単量体とスルホン酸基を有する単量体の三種類の単量体を共重合した共重合体を使用することができる。
【0062】
少なくともカルボン酸基を有する単量体とアミド基を有する単量体を必須単量体とする共重合体におけるカルボン酸基に由来する構成単位とアミド基に由来する構成単位の割合は、カルボン酸基に由来する構成単位とアミド基に由来する構成単位の量比として、mol比で95:5~5:95の範囲であることが好ましく、更に好ましくは、mol比で90:10~10:90の範囲である。
【0063】
少なくともカルボン酸基を有する単量体とスルホン酸基を有する単量体を必須単量体とする共重合体におけるカルボン酸基に由来する構成単位とスルホン酸基に由来する構成単位の割合は、カルボン酸基に由来する構成単位とスルホン酸基に由来する構成単位の量比として、mol比で95:5~5:95の範囲であることが好ましく、更に好ましくは、mol比で90:10~10:90の範囲である。
【0064】
水溶性高分子化合物の重量平均分子量は、2000以上、1000000以下の範囲であることが好ましく、より好ましくは4000以上、800000以下の範囲である。なお、水溶性高分子化合物の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によりポリアクリル酸換算で測定したものである。
【0065】
水溶性高分子化合物の研磨剤組成物中の濃度は、固形分換算で0.0001質量%以上、1.0質量%以下の範囲であることが好ましく、より好ましくは0.001質量%以上、0.5質量%以下の範囲であり、更に好ましくは0.005質量%以上、0.2質量%以下の範囲である。
【0066】
1.7 水
本発明の研磨剤組成物に用いられる水は、研磨剤組成物の他の成分を分散させるための媒体であり、純水、超純水、及び蒸留水等を好ましく用いることができる。更に、研磨剤組成物の他の成分を円滑に分散させるために、アルコール等の有機媒体が水に対して少量含有されていても構わない。
【0067】
1.8 その他の成分
研磨剤組成物に含有される粒子としては、コロイダルシリカ及び湿式法シリカ以外にも、その他の粒子を含有することができる。ただし、アルミナ粒子の研磨対象基板への突き刺さりを低減させるという観点から、アルミナ粒子を含まないことが好ましい。加えて、研磨剤組成物は、上述の成分以外に、防カビ剤、抗菌剤等を含有していても良い。
【0068】
1.9 物性
研磨剤組成物のpH値(25℃)は、0.1~4.0であることが好ましく、より好ましくは0.5~3.0である。研磨剤組成物のpH値(25℃)を0.1以上とすることにより、表面平滑性の悪化を抑制することができる。一方、研磨剤組成物のpH値を4.0以下とすることにより、研磨速度の低下を抑制することができる。
【0069】
本発明の研磨剤組成物が好適に用いられる無電解ニッケル―リンめっきされたアルミニウム磁気ディスク基板の研磨においては、無電解ニッケル―リンめっき皮膜がpH値(25℃)4.0以下の条件下で溶解傾向に向かうことから、研磨速度向上の観点からpH値(25℃)が4.0以下の研磨剤組成物が好ましく用いられる。
【0070】
2. 磁気ディスク基板の研磨方法
本発明の研磨剤組成物を適用することが可能な研磨方法としては、例えば、研磨機の定盤に研磨パッドを貼りつけ、研磨対象物(例えば、アルミニウム磁気ディスク基板)の研磨する表面または研磨パッドに研磨剤組成物を供給し、研磨する表面を研磨パッドで擦りつけることが行われる。
【0071】
更に、アルミニウム磁気ディスク基板のおもて面と裏面とを同時に研磨する場合には、上定盤及び下定盤それぞれに研磨パッドを貼りつけた両面研磨機を用いることが行われる。
【0072】
かかる方法の場合、上定盤及び下定盤にそれぞれ貼りつけた研磨パッドでアルミニウム磁気ディスク基板を挟み込み、研磨面と研磨パッドとの間に研磨剤組成物を供給し、二つの研磨パッドを同時に回転させることによって、アルミニウム磁気ディスク基板のおもて面と裏面との研磨を行う。
【0073】
本発明の磁気ディスク基板の研磨方法は、研磨工程と、当該研磨工程の後に実施される最終研磨工程とを具備するものであり、本発明の研磨剤組成物は、最終研磨工程(=仕上げ研磨工程)の前に実施される研磨工程(=粗研磨工程)で使用されるものである。更に好ましくは、無電解ニッケル―リンめっきされたアルミニウム磁気ディスク基板の研磨に用いられ、より好ましくは、無電解ニッケル―リンめっきされたアルミニウム基板の最終研磨工程よりも前に行われる研磨工程に用いられるものである。かかる研磨工程で本発明の研磨剤組成物を用いることにより、本発明の効果を十分に享受することができる。
【0074】
なお、研磨工程において使用する研磨パッドは、特に限定されるものではなく、不織布タイプ、及びスウェードタイプ等の研磨パッドを用いることが可能であり、特に、スウェードタイプの研磨パッドが一般的に使用される。更に、研磨剤組成物と接する表面発泡層の材質として、ポリウレタンエラストマー、ポリスチレン、ポリエステル、及びポリ塩化ビニル等のものを使用することが可能であり、特に、ポリウレタンエラストマー製のものが一般的に使用される。
【実施例0075】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものでなく、本発明の技術的範囲に属する限り、種々の態様で実施できることはいうまでもない。
【0076】
3. 研磨剤組成物の調製方法
実施例1~13、及び比較例1~5の研磨剤組成物は、下記に示す表1に記載の成分を使用し、当該表1に記載された添加量を含んで構成されたものである。全ての実施例1~13、及び比較例1~5において、研磨剤組成物中の全シリカ濃度は、4.0質量%となるように調製されている。
【0077】
ここで、表1において、「HEDP」は1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸、「AA」はアクリル酸を示し、「TBAA」はN-tert-ブチルアクリルアミド、及び「ATBS」は2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸をそれぞれ示す。以下、本明細書においても、上記HEDP等の略号を適宜使用して説明を行う。
【0078】
【表1】
【0079】
以下に実施例1~13、及び比較例1~5の研磨剤組成物の具体的な調製方法について示す。
・実施例1
市販のコロイダルシリカI(平均粒子径(D50)=50nm、粒子径30~70nmの粒子の割合=60体積%)、市販の湿式法シリカI(平均粒子径(D50)=300nm)、リン酸、及び過酸化水素を表1に記載された含有量となるように純水で希釈しながら攪拌混合し、実施例1の研磨剤組成物を得た。ここで、リン酸が本発明における酸に相当し、過酸化水素水が本発明における酸化剤に相当する。
【0080】
・実施例2
実施例1の研磨剤組成物の調製において、本発明における酸に相当するHEDPを表1に記載された含有量となるように追加添加し、実施例2の研磨剤組成物を得た。それ以外は実施例1の研磨剤組成物の調製と同一である。
【0081】
・実施例3
実施例2の研磨剤組成物の調製において、本発明における水溶性高分子に相当するポリマー1(共重合タイプ A)を表1に記載された含有量となるように追加添加し、実施例3の研磨剤組成物を得た。それ以外は実施例2の研磨剤組成物の調製と同一である。
【0082】
・実施例4
実施例2の研磨剤組成物の調製において、本発明における水溶性高分子に相当するポリマー2(共重合タイプ B)を表1に記載された含有量となるように追加添加し、実施例4の研磨剤組成物を得た。それ以外は実施例2の研磨剤組成物の調製と同一である。
【0083】
・実施例5
実施例1の研磨剤組成物の調製において、コロイダルシリカと湿式法シリカの含有量を表1に記載された含有量となるように変更し、実施例5の研磨剤組成物を得た。それ以外は実施例1の研磨剤組成物の調製と同一である。
【0084】
・実施例6
実施例1の研磨剤組成物の調製において、コロイダルシリカと湿式法シリカの含有量を表1に記載された含有量となるように変更し、実施例6の研磨剤組成物を得た。それ以外は実施例1の研磨剤組成物の調製と同一である。
【0085】
・実施例7
実施例1の研磨剤組成物の調製において、コロイダルシリカIに代えてコロイダルシリカV(平均粒子径(D50)=15nm、粒子径30~70nmの粒子の割合=25体積%)を用い、実施例7の研磨剤組成物を得た。それ以外は実施例1の研磨剤組成物の調製と同一である。
【0086】
・実施例8
実施例1の研磨剤組成物の調製において、コロイダルシリカIに代えてコロイダルシリカII(平均粒子径(D50)=100nm、粒子径30~70nmの粒子の割合=14体積%)を用い、実施例8の研磨剤組成物を得た。それ以外は実施例1の研磨剤組成物の調製と同一である。
【0087】
・実施例9
実施例1の研磨剤組成物の調製において、コロイダルシリカIに代えてコロイダルシリカIII(平均粒子径(D50)=100nm、粒子径30~70nmの粒子の割合=11体積%)を用い、実施例9の研磨剤組成物を得た。それ以外は実施例1の研磨剤組成物の調製と同一である。
【0088】
・実施例10
実施例1の研磨剤組成物の調製において、湿式法シリカIに代えて湿式法シリカII(平均粒子径(D50)=400nm)を用い、実施例10の研磨剤組成物を得た。それ以外は実施例1の研磨剤組成物の調製と同一である。
【0089】
・実施例11
実施例1の研磨剤組成物の調製において、湿式法シリカIに代えて湿式法シリカIII(平均粒子径(D50)=550nm)を用い、実施例11の研磨剤組成物を得た。それ以外は実施例1の研磨剤組成物の調製と同一である。
【0090】
・実施例12
実施例1の研磨剤組成物の調製において、ポリマー1を表1に記載された含有量となるように追加添加し、実施例12の研磨剤組成物を得た。それ以外は実施例1の研磨剤組成物の調製と同一である。
【0091】
・実施例13
実施例2の研磨剤組成物の調製において、ポリマー1とポリマー2を表1に記載された含有量となるように追加添加し、実施例13の研磨剤組成物を得た。それ以外は実施例2の研磨剤組成物の調製と同一である。
【0092】
・比較例1
実施例1の研磨剤組成物の調製において、リン酸に代えて硫酸を表1に記載された含有量となるように用い、比較例1の研磨剤組成物を得た。それ以外は実施例1の研磨剤組成物の調製と同一である。
【0093】
・比較例2
実施例1の研磨剤組成物の調製において、湿式法シリカを添加しないことで比較例2の研磨剤組成物を得た。それ以外は実施例1の研磨剤組成物の調製と同一である。
【0094】
・比較例3
実施例1の研磨剤組成物の調製において、コロイダルシリカを添加しないことで比較例3の研磨剤組成物を得た。それ以外は実施例1の研磨剤組成物の調製と同一である。
【0095】
・比較例4
実施例1の研磨剤組成物の調製において、湿式法シリカIに代えて湿式法シリカIV(平均粒子径(D50)=800nm)を用い、比較例4の研磨剤組成物を得た。それ以外は実施例1の研磨剤組成物の調製と同一である。
【0096】
・比較例5
実施例9の研磨剤組成物の調製において、コロイダルシリカIIIに代えてコロイダルシリカIV(平均粒子径(D50)=100nm、粒子径30~70nmの粒子の割合=8体積%)を用い、比較例5の研磨剤組成物を得た。それ以外は実施例9の研磨剤組成物の調製と同一である。
【0097】
4. 各物性等の測定、条件、及び評価
4.1 水溶性高分子化合物の重量平均分子量
水溶性高分子化合物の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、ポリアクリル酸換算で測定したものであり、以下にGPC測定条件を示す。
【0098】
(GPC測定条件)
カラム:TSKgel G4000PWXL(東ソー製)+G2500PWXL(東ソー製)+SHODEX OHpak SB-806M-HQ(昭和電工製)
溶離液:0.2Mリン酸バッファー/アセトニトリル=9/1(容積比)
流速:1.0ml/min
温度:40℃
検出:示差屈折率(RI)
サンプル:濃度0.1wt%(注入量100μL)
検量線用ポリマー:ポリアクリル酸 分子量(Mp)11.5万、2.8万、4100、1250(創和科学(株)、American Polymer Standards Corp.)
【0099】
4.2 コロイダルシリカの粒子径及び平均粒子径測定方法
コロイダルシリカの粒子径(Heywood径)は、透過型電子顕微鏡(TEM)(日本電子(株)製、透過型電子顕微鏡 JEM2000FX(200kV))を用いて倍率10万倍の視野の写真を撮影し、この写真を解析ソフト(マウンテック(株)製、Mac-View Ver. 4.0)を用いて解析することによりHeywood径(投射面積円相当径)として測定した。
【0100】
コロイダルシリカの平均粒子径は、前述の方法で2000個程度のコロイダルシリカの粒子径を解析し、小粒径側からの積算粒径分布(累積体積基準)が50%となる粒子径を上記解析ソフト((マウンテック(株)製、Mac-View Ver.4.0)を用いて算出した平均粒子径(D50))である。
【0101】
コロイダルシリカに占める粒子径30~70nmの粒子の割合は、前述の方法で2000個程度のコロイダルシリカの粒子径を解析し、粒子径30nmにおける小粒径側からの積算粒径分布(累積体積基準)の割合(%)及び粒子径70nmにおける小粒径側からの積算粒径分布(累積体積基準)の割合(%)を上記解析ソフト(マウンテック(株)製、Mac-View Ver.4.0)を用いて算出し、下記式(1)から算出することができる。
粒子径30~70nmの粒子の割合(%)=粒子径70nmにおける積算粒径分布の割(%)-粒子径30nmにおける積算粒径分布の割合(%) ・・・式(1)
【0102】
4.3 湿式法シリカの平均粒子径測定方法
湿式法シリカの平均粒子径は、400nm以下の粒子では動的光散乱式粒度分布測定装置(日機装(株)製、マイクロトラックUPA)を用いて、また400nmより大きい粒子ではレーザー回折式粒度分布測定機((株)島津製作所製、SALD2200)を用いて測定した。湿式法シリカの平均粒子径は、体積を基準とした小粒径側からの積算粒径分布が50%となる平均粒子径(D50)である。
【0103】
4.4 研磨条件
無電解ニッケル―リンめっきした外径95mmのアルミディスク基板を研磨対象として、下記研磨条件で研磨を行った。
研磨機:SPEEDFAM(社)製、9B両面研磨機
研磨パッド:(株)FILWEL社製、P1パッド
定盤回転数:上定盤 -7.7rpm
下定盤 23.5rpm
研磨剤組成物供給量: 90ml/min
研磨時間:研磨量が1.2~1.5μm/片面となる時間まで研磨する。(240~720秒)
加工圧力:120kPa
【0104】
4.5 研磨速度比
研磨速度は、研磨後に減少したアルミディスク基板の質量を測定し、下記式(2)に基づいて算出した。
研磨速度(μm/min)=アルミディスク基板の質量減少量(g)/研磨時間(min)/アルミディスク基板片面の面積(cm)/無電解ニッケル―リンめっき皮膜の密度(g/cm)/2×10 ・・・式(2)
(但し、上記式(2)において、アルミディスク基板片面の面積は65.9cm、無電解ニッケル―リンめっき皮膜の密度は8.0g/cmとして算出)
上記式(2)を用いて求めた比較例2の研磨剤組成物の研磨速度を1(基準)とした場合の相対値として研磨速度比を算出した。
【0105】
4.6 シャローピットの測定及び評価
シャローピットは、アメテック社製の走査型白色干渉法を利用した三次元表面構造解析顕微鏡(New View 8300)を用いて測定した。
<測定条件>
レンズ 1.4倍
ZOOM 0.5倍
1視野の測定エリア 12mm×12mm
Measurement Type Surface
Measurement Mode CSI
Scan Length 5μm
【0106】
アルミディスク基板全体をカバーする1辺が95mmの正方形を設定し、それを100区画に分け、95mm径のアルミディスク基板表面を全てスキャンする。その際、各スキャンデータは20%オーバーラップする設定とする。得られた各スキャンデータをつなぎあわせ、アルミディスク基板全面を観察した。各区画を観察する際には、マウスで拡大しながらシャローピットの有無を確認した。
【0107】
アルミディスク基板全面を目視により観察し、
・シャローピットがほとんど認められない場合 「○(良)」
・シャローピットが若干認められた場合 「△(可)」
・シャローピットが多数認められた場合 「×(不可)」
とそれぞれ評価した。
【0108】
4.7 表面粗さ比
アルミディスク基板の表面粗さは、アメテック社製の走査型白色干渉法を利用した三次元表面構造解析顕微鏡を用いて測定した。測定条件は、アメテック社製の測定装置(New View 8300(レンズ:10.0倍、ズーム:1.0倍))、波長20~100μmとし、測定エリアは0.8mm×0.8mmとし、アメテック社製の解析ソフト(Mx)を用いて解析を行った。下記表3において、表面粗さが「測定不可」とは、シャローピットが多数認められ、上記測定方法で表面粗さが測定できない状態であることを示している。表面粗さ比は、上記方法を用いて測定した比較例4の表面粗さを1(基準)とした場合の相対値である。
【0109】
4.8 シリカ付着の評価
研磨後のアルミディスク基板表面上の砥粒残渣であるシリカ付着の有無を評価する目的で、走査型電子顕微鏡観察を用い、下記条件によりシリカ付着のカウントとして評価した。
<測定条件>
測定装置:日本電子株式会社製、電界放出型走査型電子顕微鏡「JSM-7100」
測定条件:加速電圧 15kV、観測倍率 2万倍
測定方法:裏面12視野を観察し、基板表面の付着物の数をカウントする。1視野あたりの平均で評価する。
【0110】
・シリカ付着のカウント数が0~30の場合 「〇(良)」
・シリカ付着のカウント数が31~60の場合 「△(可)」
・シリカ付着のカウント数が61以上の場合 「×(不可)」
とそれぞれ評価した。
【0111】
実施例1~13、及び比較例1~5の研磨剤組成物を用いた研磨試験の結果を下記表2及び表3に示す。なお、表2において、ポリマー1(A)は、カルボン酸基を有する単量体及びアミド基を有する単量体を必須単量体とする共重合体を示し、ポリマー2(B)は、カルボン酸基を有する単量体及びスルホン酸基を有する単量体を必須単量体とする共重合体を示す。
【0112】
【表2】
【0113】
【表3】
【0114】
5.考察
上記に示す表2及び表3から明らかなように、研磨剤組成物中の酸として硫酸を用いた比較例1に対して、研磨剤組成物中の酸としてリン酸を用いた実施例1は、シリカ付着が顕著に改善されていることが確認される。更に、湿式法シリカを含有しない研磨剤組成物を用いた比較例2に対して、湿式法シリカを含有する研磨剤組成物を用いた実施例1は研磨速度の向上が認められる。
【0115】
コロイダルシリカを含有しない研磨剤組成物を用いた比較例3は、シャローピットが多数確認されたのに対し、コロイダルシリカを含有する研磨剤組成物を用いた実施例1はシャローピットがほとんど認められず、アルミディスク基板の基板表面の平滑性の向上が確認された。
【0116】
平均粒子径が600nmを超える湿式法シリカを含有する研磨剤組成物を用いた比較例4はシャローピットが若干認められ、かつ、表面粗さの値が大きいのに対し、平均粒子径が600nm以下の湿式法シリカを含有する研磨剤組成物を用いた実施例1はシャローピットがほとんど認められなくなり、加えて表面粗さの値が顕著に小さくなっており、基板表面の平滑性の向上が確認された。
【0117】
研磨剤組成物中のコロイダルシリカに占める粒子径30~70nmの粒子の割合が10体積%未満の研磨剤組成物を用いた比較例5はシャローピットが多数認められるのに対し、比較例5と同じ平均粒子径でコロイダルシリカに占める粒子径30~70nmの粒子の割合が10体積%を超える研磨剤組成物を用いた実施例9はシャローピットが若干認められるだけであり、比較例5と同じ平均粒子径でコロイダルシリカに占める粒子径30~70nmの粒子の割合が12体積%を超える実施例8はシャローピットがほとんど認められないことから、研磨剤組成物中のコロイダルシリカに占める粒子径30~70nmの粒子の割合がシャローピット低減の重要な因子であることがわかる。
【0118】
実施例2は、実施例1において、研磨剤組成物中の酸としてリン酸とHEDPを併用した場合の結果を示すものであり、実施例1よりもシリカ付着の特性が更に改善していることが確認された。
【0119】
実施例3は、実施例2において、研磨剤組成物に水溶性高分子化合物(ポリマー1)を添加した場合の結果を示すものであり、実施例2よりも研磨速度が向上し、シリカ付着が顕著に改善していることが確認された。
【0120】
実施例4は、実施例2において、研磨剤組成物に水溶性高分子化合物(ポリマー2)を添加した場合の結果を示すものであるが、実施例2よりもシリカ付着が顕著に改善していることが確認された。
【0121】
実施例5及び実施例6は、実施例1において、研磨剤組成物中のコロイダルシリカと湿式法シリカの割合を変更した場合の結果を示すものである。実施例7及び実施例8は、実施例1において、研磨剤組成物中のコロイダルシリカの平均粒子径を変更した場合の結果を示すものである実施例9は、実施例8において、コロイダルシリカの平均粒子径が同じで30~70nmの粒子の割合が異なる場合の結果を示すものである。
【0122】
実施例10及び実施例11は、実施例1において、研磨剤組成物中の湿式法シリカの平均粒子径を変更した場合の結果を示すものである。実施例12は、実施例1において、研磨剤組成物に水溶性高分子化合物(ポリマー1)を添加した場合の結果を示すものであり、実施例1よりも研磨速度が向上し、シリカ付着が顕著に改善していることが確認された。
【0123】
実施例13は、実施例2において、研磨剤組成物に水溶性高分子化合物(ポリマー1とポリマー2の併用)を添加した場合の結果を示すものであり、実施例2よりも研磨速度が向上し、シリカ付着が顕著に改善していることが確認された。
【0124】
以上のことから、本発明の研磨剤組成物を用いることにより、研磨速度が高くなり、しかもシャローピット、表面粗さ、及びシリカ付着のバランスに優れた磁気ディスク基板が得られることが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0125】
本発明の研磨剤組成物は、半導体、ハードディスクといった磁気記録媒体等の電子部品の研磨に使用することができる。特に、ガラス磁気ディスクやアルミニウム磁気ディスク等の磁気記録媒体用基板の表面研磨に使用することができる。更には、無電解ニッケル―リンめっき皮膜を形成した磁気記録媒体用アルミニウム基板の表面研磨に使用することができる。特には、無電解ニッケル―リンめっき皮膜を形成した磁気記録媒体用アルミニウム基板の最終研磨工程よりも前の研磨工程に使用することができる。