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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022133718
(43)【公開日】2022-09-14
(54)【発明の名称】電池用極板の製造装置
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/04 20060101AFI20220907BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20220907BHJP
   B05C 5/02 20060101ALI20220907BHJP
   B05C 11/10 20060101ALI20220907BHJP
【FI】
H01M4/04 Z
H01M4/139
B05C5/02
B05C11/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021032567
(22)【出願日】2021-03-02
(71)【出願人】
【識別番号】000219314
【氏名又は名称】東レエンジニアリング株式会社
(72)【発明者】
【氏名】木田 威
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 敦
【テーマコード(参考)】
4F041
4F042
5H050
【Fターム(参考)】
4F041AA12
4F041AB01
4F041BA05
4F041BA22
4F041BA32
4F041BA35
4F041BA38
4F041CA03
4F041CA13
4F041CA17
4F041CA18
4F042AA22
4F042AB00
4F042BA04
4F042BA07
4F042BA08
4F042BA12
4F042BA25
4F042CA01
4F042CA09
4F042CB02
4F042CB08
4F042CB10
4F042CB20
5H050AA08
5H050AA19
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA08
5H050CB02
5H050CB11
5H050GA10
5H050GA22
5H050GA29
5H050HA04
5H050HA12
(57)【要約】
【課題】体積効率が高い電池を形成する電池用電極板の製造装置を提供する。
【解決手段】塗工時のダイ10からのスラリー3の塗工圧力は一定に設定され、ダイ10の位置を調節することによりダイ10と基材2との間隔を調節する位置調節部19を有し、各々の塗膜の形成において塗膜の始端部31を形成する時のダイ10と基材2との間隔である第1の間隔および塗膜の終端部33を形成する時におけるダイ10と基材2との間隔である第3の間隔が、塗膜の始端部31と終端部33の間の部分を形成する時のダイ10と基材2との間隔である第2の間隔よりも大きくなるよう、位置調節部19がダイ10の位置を調節することにより、塗膜の四隅に丸みを持たせる。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
帯状の基材との相対移動方向と交わる方向に長い吐出口を有するダイを備え、搬送される基材に前記吐出口から間欠的にスラリーを塗工し、略四角形の塗膜を間欠的に形成させる電池用極板の製造装置であり、
塗工時の前記ダイからのスラリーの塗工圧力は一定に設定され、
前記ダイの位置を調節することにより前記ダイと基材との間隔を調節する位置調節部を有し、
各々の塗膜の形成において塗膜の始端部を形成する時の前記ダイと基材との間隔である第1の間隔および塗膜の終端部を形成する時における前記ダイと基材との間隔である第3の間隔が、塗膜の前記始端部と前記終端部の間の部分を形成する時の前記ダイと基材との間隔である第2の間隔よりも大きくなるよう、前記位置調節部が前記ダイの位置を調節することにより、塗膜の四隅に丸みを持たせることを特徴とする、電池用極板の製造装置。
【請求項2】
前記位置調節部は、前記ダイと基材との間隔を前記第1の間隔から前記第2の間隔へ所定の加減速で変化させ、また、前記第2の間隔から前記第3の間隔へ所定の加減速で変化させることを特徴とする、請求項1に記載の電池用極板の製造装置。
【請求項3】
前記ダイ内のスラリーの流路は、前記吐出口の近傍において、前記吐出口から奥に行くにしたがって前記ダイの幅方向に狭くなる形状を有することを特徴とする、請求項1もしくは2に記載の電池用極板の製造装置。
【請求項4】
前記ダイは、前記ダイの幅方向におけるスラリーの流路の幅を規定するシム板を有し、当該シム板の先端部が面取りを有することにより、前記吐出口から奥に行くにしたがって前記ダイの幅方向に狭くなるスラリーの流路形状を形成することを特徴とする、請求項3に記載の電池用極板の製造装置。
【請求項5】
前記ダイへのスラリーの供給経路を開閉させる開閉弁を有する開閉バルブを備え、スラリーの吐出の開始時および停止時における塗膜の形状に応じて前記開閉弁の開閉時間および開度を調節することを特徴とする、請求項1から4のいずれかに記載の電池用極板の製造装置。
【請求項6】
前記位置調節部による前記ダイの移動および前記開閉弁の移動は、同じタイミングで開始し、同じタイミングで完了することを特徴とする、請求項5に記載の電池用極板の製造装置。
【請求項7】
前記ダイから吐出するスラリーは、全固体電池の活物質層を構成することを特徴とする、請求項1から6のいずれかに記載の電池用極板の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活物質層を構成するスラリーを集電体に塗工する電池用極板の製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、電気自動車の駆動電源や、家庭用蓄電池などの用途に広く用いられている。特に、全固体リチウムイオン二次電池は、電解液を用いた従来のリチウムイオン二次電池と比べ、エネルギー密度が高い、などの利点を有する。そのため、電解液を用いたリチウムイオン二次電池と比較して製品の小型化が可能であり、特に電気自動車の分野において全固体リチウムイオン二次電池の適用が望まれている。
【0003】
特許文献1には、一般的な全固体電池の構造が記載されている。正極集電体表面に形成された正極活物質層と負極集電体表面に形成された負極活物質層が固体電解質層を挟む形態を有しており、固体電解質層を介して正極と負極との間でたとえばリチウムイオンのやりとりが行われることにより、全固体電池における充電および放電が実施される。正極集電体および負極集電体上の正極活物質層および負極活物質層は、たとえば各活物質層を形成するスラリーをスリットコータにより塗工することによって形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
特許文献1:国際公開2017-111133号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、図7(a)の上面図、図7(b)の正面図に示すように、一般的に二次電池200は正方形または長方形状の電極である正極201および負極202が交互に積層され、枠部203によって外装化されることにより製品化される。このとき、枠部203のコーナー部は成形プロセスに起因する曲率を少なからず有しているいる為、電極を外装化する際に電極形状も曲率を有している方が外装する際に体積効率が良い。すなわち、各電極の活物質層が枠部203のコーナー形状にあわせて曲率を有することが好ましい。
【0006】
しかしながら、スリットダイを用いてウェブ状の基材(集電体)を連続的に搬送しながら塗工液を間欠に吐出させて塗工を行うことによって集電体上に活物質層を形成する場合、基本的に活物質層の四隅は略直角の形状を有する。そのため、枠部203と干渉が無きよう電極を外装化するためには枠部203の開口形状よりも一回り小さい電極形状にしなければならないという問題があった。
【0007】
本発明は、上記問題を鑑みてなされたものであり、体積効率が高い電池を形成する電池用電極板の製造装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために本発明の電池用極板の製造装置は、帯状の基材との相対移動方向と交わる方向に長い吐出口を有するダイを備え、搬送される基材に前記吐出口から間欠的にスラリーを塗工し、略四角形の塗膜を間欠的に形成させる電池用極板の製造装置であり、塗工時の前記ダイからのスラリーの塗工圧力は一定に設定され、前記ダイの位置を調節することにより前記ダイと基材との間隔を調節する位置調節部を有し、各々の塗膜の形成において塗膜の始端部を形成する時の前記ダイと基材との間隔である第1の間隔および塗膜の終端部を形成する時における前記ダイと基材との間隔である第3の間隔が、塗膜の前記始端部と前記終端部の間の部分を形成する時の前記ダイと基材との間隔である第2の間隔よりも大きくなるよう、前記位置調節部が前記ダイの位置を調節することにより、塗膜の四隅に丸みを持たせることを特徴としている。
【0009】
上記電池用極板の製造装置によれば、塗膜の四隅に丸みを持たせることにより、電池の体積効率を高くすることができる。
【0010】
また、前記位置調節部は、前記ダイと基材との間隔を前記第1の間隔から前記第2の間隔へ所定の加減速で変化させ、また、前記第2の間隔から前記第3の間隔へ所定の加減速で変化させると良い。
【0011】
こうすることにより、比較的容易に四隅に丸みを有する塗膜を形成することができる。
【0012】
また、前記ダイ内のスラリーの流路は、前記吐出口の近傍において、前記吐出口から奥に行くにしたがって前記ダイの幅方向に狭くなる形状を有すると良い。
【0013】
こうすることにより、基材搬送方向において塗膜の両端部の幅をこれらの間の部分の幅よりも小さくすることが容易となり、四隅に丸みを有する塗膜を容易に形成することができる。
【0014】
また、前記ダイは、前記ダイの幅方向におけるスラリーの流路の幅を規定するシム板を有し、当該シム板の先端部が面取りを有することにより、前記吐出口から奥に行くにしたがって前記ダイの幅方向に狭くなるスラリーの流路形状を形成すると良い。
【0015】
こうすることにより、吐出口から奥に行くにしたがってスラリーの流路がダイの幅方向に狭くなる形状を容易に形成することができる。
【0016】
また、前記ダイへのスラリーの供給経路を開閉させる開閉弁を有する開閉バルブを備え、スラリーの吐出の開始時および停止時における塗膜の形状に応じて前記開閉弁の開閉時間および開度を調節すると良い。
【0017】
こうすることにより、基材搬送方向において塗膜の両端部の幅をこれらの間の部分の幅よりも小さくすることが容易となり、四隅に丸みを有する塗膜を容易に形成することができる。
【0018】
前記位置調節部による前記ダイの移動および前記開閉弁の移動は、同じタイミングで開始し、同じタイミングで完了するようにすると良い。
【0019】
こうすることにより、塗工動作の制御を容易にすることができる。
【0020】
また、前記ダイから吐出するスラリーによって特に全固体電池の活物質層を構成する場合、複数の電極を積層化する為、四隅に丸みを持たせることで外装化における体積効率を高くすることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の電池用極板の製造装置によれば、体積効率が高い電池を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の一実施形態における電池用極板の製造装置(塗工装置)の概略構成を説明する図であり、スラリーを塗工している状態を示す図である。
図2】本実施形態の塗工装置においてスラリーの塗工を中断している状態を表す図である。
図3】本実施形態の塗工装置のダイの内部を示す図である。
図4】本実施形態の塗工装置によって基材にスラリーを塗工する様子を示す図である。
図5】本実施形態の塗工装置の塗工動作を示すダイアグラムおよびこの塗工によって得られる塗膜を示す図である。
図6】本発明の塗工装置を用いた二次電池の構造を示す概略図である。
図7】一般的な二次電池の構造を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の電池用極板の製造装置である塗工装置について、図面を用いて説明する。
【0024】
図1は、本発明の一実施例における塗工装置の概略構成を説明する図である。塗工装置1は、ロールツーロールで送られる基材2に、スラリー3を塗工するための装置である。スラリー3は、基材2の送り方向MDに沿って均一な厚さ(均一な塗工量)で塗工される。なお、基材2の幅方向TDは、基材2の送り方向MDに直交する方向であり、図1におけるY軸方向がこれに相当する。
【0025】
本実施形態における基材2は、全固体電池における集電体であり、正極側を形成する場合の集電体はたとえばアルミニウム箔であり、負極側を形成する場合の集電体はたとえば銅箔である。
【0026】
また、本実施形態におけるスラリー3は、集電体上に形成する活物質層であり、活物質、導電助剤、バインダーなどを含む比較的粘度の高い流体である。正極側の活物質層を形成する場合の活物質は、たとえば、リチウムとニッケルとを含有する複合酸化物を含む。また、負極側の活物質層を形成する場合の活物質は、たとえば、SiやSnなどの金属、あるいはTiO、Ti2O3、TiO2、もしくはSiO2、SiO、SnO2などの金属酸化物を含む。
【0027】
塗工装置1は、基材2の幅方向に沿って長く構成されたダイ10と、このダイ10にスラリー3を供給する供給手段20とを備えている。ダイ10において、その長手方向(図1におけるY軸方向)を幅方向TDといい、基材2の幅方向TDと同じである。この塗工装置1では、ダイ10に対向するローラ5が設置されており、ダイ10の幅方向TDとローラ5の回転中心線の方向とは平行である。基材2は、このローラ5に案内され、基材2とダイ10の吐出口18(後述のスリット12の先端)との間隔(隙間)が所定の値に調節された状態でスラリー3の塗工が行われる。また、吐出口18と基材2の間隔(図1における寸法d)は、ダイ10が取り付けられる位置調節部19により調節可能である。
【0028】
ダイ10は、先細り形状である第一リップ13aを有する第一分割体13と、先細り形状である第二リップ14aを有する第二分割体14とを、これらの間にシム板15を挟んで、組み合わせた構成からなる。ダイ10は、その内部に、幅方向TD(すなわち、基材2とダイ10との相対移動方向と交わる方向)に長い空間からなるマニホールド11と、このマニホールド11と繋がるスリット12とが形成され、また、第一リップ13aと第二リップ14aとの間には、スリット12の解放端である吐出口18が形成されている。すなわち、マニホールド11と吐出口18とは、スリット12を経由して繋がっている。
【0029】
スリット12は、マニホールド11と同様に幅方向TD(すなわち、基材2とダイ10との相対移動方向と交わる方向)に長く形成されており、スリット12の幅方向寸法は、シム板15の内寸によって決定され、スリット12の幅方向寸法と略同一の幅方向寸法のスラリー3を、基材2上に塗工することができる。スリット12の隙間寸法(高さ寸法)は、例えば0.4~1.5mmである。なお、本実施形態では、スリット12の隙間方向が上下方向であり、幅方向が水平方向となる姿勢でダイ10は設置されている。つまり、マニホールド11とスリット12とが水平方向に並んで配置される姿勢でダイ10は設置されている。したがって、マニホールド11に溜められているスラリー3をスリット12および吐出口18を通じて基材2へと流す方向は水平方向となる。
【0030】
なお、シム板15の厚さを変更することにより、マニホールド11内部の圧力(塗工圧力)を調整することができ、この調整によって、様々な特性を有するスラリー3に対して均一な膜厚の塗工を行うことが可能となる。
【0031】
また、本実施形態においては、スラリー3が吐出口18を通じて基材2へと流れる方向を水平方向としたが、必ずしもこれに限定されず適宜変更が可能である。例えば、上方向としてもよいし、下方向としてもよく、任意の方向に設定することができる。
【0032】
図3にダイ10の内部のシム板15の形態について示す。シム板15は略U字状の形状を有し、ベース部15aと、ベース部15aの両端部のそれぞれに接続される2つの突出部15bを有し、突出部15bが吐出口18側(第二リップ側)を向くよう、配置される。このシム板15を第一分割体13と第二分割体14とが挟み込むことにより、マニホールド11から吐出口18へ向かうスラリー3の流路であるスリット12が形成され、そのスリット12の幅方向寸法は、2つの突出部15bの内側同士の間隔で規定される。
【0033】
また、シム板15の先端部である突出部15bの先端部の内側には、面取り部15cが形成されている。この面取り部15cを有することにより、吐出口18の近傍におけるスリット12は吐出口18から奥に行くにしたがってダイ10の幅方向TDに狭くなる形状となる。なお、本実施形態では面取り部15cの寸法は約5mmである。
【0034】
図1に戻り、ダイ10の幅方向TDの中央部には、流入部16が設けられており、この流入部16は、ダイ10の外部からマニホールド11へ繋がる貫通孔(流入口)からなる。供給手段20は、この流入部16へ向けてスラリー3を供給する供給配管21と、スラリー3を貯留しているタンク22と、このタンク22内のスラリー3を、パイプ21を通じてダイ10へ供給するためのポンプ23とを有している。以上より、供給手段20は、マニホールド11に流入部16からスラリー3を供給することができる。なお、本実施形態では、図1に示すように、流入部16は、マニホールド11の底部17と繋がっており、この底部17からスラリー3を流入させる構成としている。
【0035】
そして、マニホールド11は、供給手段20から供給されたスラリー3を溜めることができ、マニホールド11に溜められているスラリー3を、スリット12を通って吐出口18からロールツーロールで送られる基材2に対して吐出し、この基材2に対してスラリー3を連続的に塗工することができる。スリット12の隙間寸法はその幅方向に一定であり、基材2上に塗工されるスラリー3の厚さは幅方向に一定となるよう設計されている。また、図示しないが、供給配管21の途中にはスラリー3用のフィルタが設けられている。
【0036】
位置調節部19は、塗工装置1の本体部とダイ10とを連結する直動機構であり、図示しない制御装置により動作し、ダイ10をローラ5に接離する方向に移動させる。この位置調節部19がダイ10の位置を調節することにより、図1に寸法dで示す吐出口18と基材2の間隔が調節される。
【0037】
また、塗工装置1には、供給手段20からダイ10へのスラリー3の供給経路の途中であって供給配管21と流入部16の途中には、供給制御部40が設けられている。
【0038】
供給制御部40は供給バルブ41を有しており、図示しない制御装置によって供給バルブ41の動作が制御される。また、供給バルブ41の入口部は、後述のリターンバルブ51の入口部を介して供給配管21と接続されており、スラリー3が供給バルブ41の入口部へ供給される。また、供給バルブ41の出口部は供給配管21を介してダイ10と接続されている。
【0039】
供給手段20からダイ10へのスラリー3の供給経路を開閉させる開閉弁となる弁体42は電動シリンダ43と連結されており、電動シリンダ43へ電気信号が入力されることにより弁体42が移動する。弁体42が移動することにより、供給バルブ41ではスラリー3の流路を形成する開状態とスラリー3の流路を遮断する閉状態との2つの状態が切り替え制御される。また、弁体42の移動速度v1は調節可能である。
【0040】
また、本実施形態では、供給制御部40と供給手段20の間にはリターン制御部50が設けられている。リターン制御部50は、基材2へのスラリー3の塗工が中断されてダイ10へスラリー3を供給する必要が無いときにスラリー3をタンク22へ戻す手段であり、リターンバルブ51を有しており、図示しない制御装置によってこのリターンバルブ51の動作が制御される。リターンバルブ51の入口部は供給配管21と接続され、出口部がタンク22につながるリターン配管24と接続されている。
【0041】
リターンバルブ51は、内部に弁体52を有し、弁体52が移動することによって供給バルブ51の内部の流路が開閉される。弁体52はエアシリンダ53と連結されており、エアシリンダ53へのエアの出し入れにより弁体52が移動する。この弁体52の移動により、リターン配管24の開閉が切り替え制御される。
【0042】
図1には、基材2へスラリー3が塗工されている状態が示されている。
この状態においては、供給バルブ41は開状態であり、リターンバルブ51は閉状態となっている。これにより、供給バルブ41を経由してダイ10へスラリー3が供給され、ダイ10の吐出口18から基材2へスラリー3が塗工される。
【0043】
一方、リターンバルブ51は閉状態となっており、リターンバルブ51の出口部からリターン配管24を経由してタンク22へ戻るスラリー3の流路は遮断されている。そのため、ポンプ23によって供給されるスラリー3は、全てダイ10へ供給される。
【0044】
図1に対し、図2には、スラリー3の塗工を中断している状態が示されている。
【0045】
この状態においては、供給バルブ41は閉状態であり、リターンバルブ51は開状態となっている。これにより、ダイ10へ向かう流路は遮断され、スラリー3は全てリターンバルブ51の出口部、リターン配管24を経由してタンク22へ戻される。
【0046】
なお、リターン配管24の途中には調節弁55が設けられており、この調節弁55において流路抵抗が調節されることによってリターン配管24内のスラリー3の内圧が調節される。この内圧はリターン配管24に設けられた図示しない圧力計により測定される。本実施形態では、塗工実施時のマニホールド11内の内圧と塗工中断時のリターン配管24内のスラリー3の内圧が略等しくなるように、調節弁55によって調節されている。
【0047】
このように一度スラリー3の塗工が中断された後、再び図1に示すようにスラリー3を塗工する形態になることにより、基材2には間欠的にスラリー3による塗膜が形成される。
【0048】
次に、本実施形態の塗工装置1によって基材2にスラリー3を塗工する様子の側面図を図4に示す。ここで、基材2は一定の搬送速度v2で搬送されており、図4では便宜的に基材2は直線的に搬送されるように図示している。また、供給手段20から供給され、ダイ10から塗工されるスラリー3の圧力は一定に設定されている。
【0049】
図4(a)は、基材2に間欠的に形成される各塗膜の形成開始時である。リターンバルブ51(図1参照)が開状態から閉状態になると同時に、供給バルブ41が閉状態から開状態になることにより、ダイ10からのスラリー3の吐出が開始する。このダイ10から吐出されたスラリー3が基材2に接した場所が、塗膜の始端部31となる。ここで、ダイ10からのスラリー3の吐出開始時におけるダイ10と基材2の間隔は寸法d1となっている。なお、本説明ではこのときのダイ10と基材2の間隔を第1の間隔と呼ぶ。
【0050】
図4(b)は、塗膜の形成開始から所定時間が経過した状態である。基材2が一定の搬送速度v2で搬送され、ダイ10からのスラリー3の塗工圧力が一定であることによって基材2には均一の膜厚の塗膜が形成される。
【0051】
一方、位置調節部19(図1参照)の動作により、ダイ10と基材2の間隔は塗膜形成開始時の寸法d1から寸法d2に短縮されている。なお、本説明ではこのときのダイ10と基材2の間隔を第2の間隔と呼ぶ。
【0052】
図4(c)は、図4(b)の時点からさらに所定時間が経過した状態である。塗膜の始端部31および終端部33の間の部分を形成する際は、ダイ10と基材2の間隔は寸法d2で維持され、塗膜の形成が進行する。なお、塗膜においてこのようにダイ10と基材2の間隔が寸法d2で維持されて塗工される部分を安定塗工部32と呼ぶ。
【0053】
図4(d)は、各塗膜の形成完了時である。リターンバルブ51(図1参照)が閉状態から開状態になると同時に、供給バルブ41が開状態から閉状態になることにより、ダイ10からのスラリー3の吐出が停止される。これにより、基材2上の塗膜とダイ10とは分断され、塗膜の終端部33が形成される。
【0054】
一方、このようにスラリー3の供給が停止した状態となるまでに、位置調節部19(図1参照)の動作により、ダイ10と基材2の間隔は寸法d2から寸法d3に拡張されている。なお、本説明ではこのときのダイ10と基材2の間隔を第3の間隔と呼ぶ。
【0055】
図5に本実施形態の塗工装置1の塗工動作を示すダイアグラムおよびこの塗工によって得られる塗膜を示す。図5(a)では塗工動作のうち特に位置調節部19による基材2上の塗膜とダイ10の間隔の変化、および電動シリンダ43による供給バルブ41の弁体42の状態の変化をダイアグラムで示し、図5(b)では図5(a)のダイアグラムでスラリー3の塗工が行われた場合の塗膜の形状を上面図で示している。ここで、基材2の搬送速度v2は約1m/minであり、スラリー3の塗工圧力は、15~20kPaの範囲内の所定の圧力(たとえば16kPa)で一定に設定されている。
【0056】
本実施形態では、ダイ10と基材2の間隔について第1の間隔である寸法d1と第3の間隔である寸法d3は同じ寸法としている。そして、供給バルブ41が閉状態であってダイ10からスラリー3が吐出されていない間は、ダイ10と基材2の間隔はこの寸法d1(=d3)で維持されている。
【0057】
そして、塗膜の形成を開始するにあたり、供給バルブ41の弁体42の移動とダイ10の移動が同じタイミングで開始する。ここで、本実施形態では、ダイ10および弁体42はそれぞれ所定の加減速、さらには立ち上がり、立ち下がりを除き略等速で移動しており、ダイ10と基材2の間隔が寸法d1から寸法d2になるのに要する時間と弁体42が閉状態から開状態になるのに要する時間とが等しくなっており、供給バルブ41の弁体42の移動とダイ10の移動は同じタイミングで完了する。なお、本実施形態ではこの時間を0.3秒としている。なお、本説明における所定の加減速とは、各間欠塗工において共通の加減速動作を行うことを指している。
【0058】
また、本実施形態では、寸法d1(=d3)は200um、寸法d2は100umであり、寸法d1およびd3は寸法d2の2倍程度となっている。また、弁体42の移動速度v1を1mm/s(60mm/min)としており基材2の搬送速度v2よりも遅い。
【0059】
ダイ10と基材2の間隔が寸法d2となり、弁体42が開状態となった後、この状態が所定時間維持され、安定塗工部32が形成される。
【0060】
次に、ダイ10と弁体42が同時に移動を開始し、ダイ10と基材2の間隔が寸法d2から寸法d3に変化し、弁体42が開状態から閉状態へ変化する。この動作が完了することにより、塗膜の終端部33が形成され、次に弁体42が移動するまで塗膜と塗膜の間の部分である非塗工部が形成される。このとき、塗工開始時と同様に、ダイ10と基材2の間隔が寸法d2から寸法d3になるのに要する時間と弁体42が開状態から閉状態になるのに要する時間とは等しくなっており、供給バルブ41の弁体42の移動とダイ10の移動は同時に完了する。なお、本実施形態ではこの時間を0.3秒としている。一方、供給バルブ41の開閉に要する時間が0.3秒であるのに対し、リターンバルブ51の開閉に要する時間は0.008秒であり、供給バルブ41の開閉に要する時間の方が格段に長い。
【0061】
このような塗工動作により得られた塗膜の形状を図5(b)に示す。
【0062】
塗膜の始端部31近傍の形成にあたり、最初にダイ10と基材2の間隔が安定塗工部32形成時の寸法d2よりも大きな寸法d1から塗工が開始され、徐々に寸法d2へと狭まることにより、塗工開始時の塗膜の幅w1は安定塗工部32の塗膜の幅w2よりも狭く、時間の経過とともに幅w2へと拡がってゆく。
【0063】
また、本実施形態ではダイ10と基材2の間隔が狭まるのと同じタイミングで、供給バルブ41の弁体42が徐々に閉状態から開状態へと移行している。これにより、塗工開始時のスラリー3の供給量は徐々に増加するため、弁体42が瞬時に閉状態から開状態へと移行する場合と比較して始端部31の幅w1はさらに狭まる。
【0064】
また、本実施形態では、図3に示した通りシム板15の先端部の内側が面取り部15cを有することによって、ダイ10内のスラリー3の流路が吐出口18の近傍において吐出口18から奥に行くにしたがってダイ10の幅方向に狭くなる形状を有している。これにより、上記形状を有していない場合と比較して始端部31の幅w1はさらに狭まる。
【0065】
上記の通り、塗膜の始端部31近傍を形成する際にダイ10と基材2の間隔を徐々に変化させること、弁体42を徐々に閉状態から開状態に移行すること、また、ダイ10内のスラリー3の流路が吐出口18の近傍において吐出口18から奥に行くにしたがってダイ10の幅方向に狭くなる形状を有することを組合わせることによって、塗膜の始端部31近傍において塗膜の塗工開始時の幅w1から幅w2まで塗膜の幅が徐々に大きくなり、図5(b)に示す通り塗膜の隅部の形状が丸みを帯びた形状になるようにすることができる。
【0066】
また、塗膜の終端部33近傍の形成にあたり、基材2の間隔が安定塗工部32形成時の寸法d2から徐々に寸法d3へと拡がることにより、塗膜の幅は安定塗工部32の塗膜の幅w2から幅w3へと狭まってゆく。
【0067】
また、本実施形態ではダイ10と基材2の間隔が拡がるのと同じタイミングで、供給バルブ41の弁体42が徐々に開状態から閉状態へと移行している。これにより、塗工開始時のスラリー3の供給量は徐々に減少するため、弁体42が瞬時に開状態から閉状態へと移行する場合と比較して終端部33の幅w3はさらに狭まる。
【0068】
また、本実施形態では、図3に示した通りシム板15の先端部の内側が面取り部15cを有することによって、ダイ10内のスラリー3の流路が吐出口18の近傍において吐出口18から奥に行くにしたがってダイ10の幅方向に狭くなる形状を有している。これにより、上記形状を有していない場合と比較して終端部33の幅w3はさらに狭まる。
【0069】
上記の通り、塗膜の終端部33近傍を形成する際にダイ10と基材2の間隔を徐々に変化させること、弁体42を徐々に開状態から閉状態に移行すること、また、ダイ10内のスラリー3の流路が吐出口18の近傍において吐出口18から奥に行くにしたがってダイ10の幅方向に狭くなる形状を有することを組合わせることによって、塗膜の終端部33近傍において安定塗工部の幅w2から幅w3まで塗膜の幅が徐々に小さくなり、図5(b)に示す通り塗膜の隅部の形状が丸みを帯びた形状になるようにすることができる。
【0070】
以上の通り塗膜の始端部31近傍および終端部33近傍を形成する際にダイ10と基材2の間隔を徐々に変化させること、弁体42を徐々に閉状態から開状態(開状態から閉状態)に移行することおよびダイ10内のスラリー3の流路が吐出口18の近傍において吐出口18から奥に行くにしたがってダイ10の幅方向に狭くなる形状を有することにより、略四角形状の塗膜の四隅の部分に丸みを持たせることができる。
【0071】
一方、図5(b)のように塗膜の四隅の部分に丸みを持たせることは、塗膜の始端部31近傍および終端部33近傍を形成する際にダイ10と基材2の間隔を徐々に変化させることのみでも実現可能ではある。これに対し、本実施形態の通り弁体42を徐々に閉状態から開状態(開状態から閉状態)に移行することおよびダイ10内のスラリー3の流路が吐出口18の近傍において吐出口18から奥に行くにしたがってダイ10の幅方向に狭くなる形状を有することをさらに有することによって、塗膜の四隅の部分の丸み形状がコントロールされ、より良い形状とすることができる。
【0072】
図6は、本発明の塗工装置を用いた二次電池構造を示す概略図であり、図6(a)は上面図、図6(b)は正面図である。
【0073】
二次電池100は、本実施形態では全固体電池である。二次電池100では、正極101と負極102とが交互に積層されている。
【0074】
正極101は、本発明の塗工装置1によって正極集電体の表面に正極活物質層が塗工されることにより形成され、負極102は、負極集電体の表面に負極活物質層が塗工されることにより形成される。正極101と負極102の間には、固体電解質層104が設けられ、この固体電解質層104を介して正極と負極との間でたとえばリチウムイオンのやりとりが行われることにより、全固体電池における充電および放電が実施される。
【0075】
このような二次電池100では、複数のセル(正極101、負極102、固体電解質層104)が積層された後、空気や水分と遮断させる目的や、短絡防止を目的として枠部103により外装される。
【0076】
この枠部103は上記複数のセルを収納する開口を有するよう樹脂成形されているが、この成形プロセスに起因して一般的に開口の隅部は丸みを持ったR形状となる。これに対してスリットダイによる塗工プロセスにより製造される電極の四隅は、一般的にはRが小さく丸みがほとんど無い形状である。この電極を枠部103で外装しようとする際、枠部103の開口と電極とが略同一の大きさであった場合、双方の隅部の形状が干渉する。そのため、従来は電極サイズを小さくするする必要があった。
【0077】
これに対し、本発明では、電極の隅部に丸みを持たせる事が可能となり、枠部103の隅部との干渉が改善された状態で収納させる事が可能となる。これにより、枠部103の開口との隙間を極小化して体積効率の良い電池を提供することができる。また従来の電池は、枠部と電極との間の空隙が大きいため、移動等により電極が枠部内で損傷をきたすことがあったが、本発明により安全性の高い電池を提供する事が可能となる。
【0078】
以上の電池用極板の製造装置により、体積効率が高い電池を形成することが可能である。
【0079】
ここで、本発明の電池用極板の製造装置は、図示する形態に限らず本発明の範囲内において他の形態のものであってもよい。たとえば、上記の説明では位置調節部19によるダイ10の移動開始のタイミングと供給バルブ41の弁体42の移動開始のタイミングが同時であり、また、位置調節部19によるダイ10の移動完了のタイミングと供給バルブ41の弁体42の移動完了のタイミングが同時であるが、これに限らず、塗膜の隅部がより良い形状となるよう適宜時間差を設けても構わず、スラリーの吐出の開始時および停止時における塗膜の形状に応じて弁体の開閉時間および開度を調節することによって塗膜の隅部の形状を調節しても良い。
【0080】
また、上記の説明では、ダイ10と基材2の間隔を変化させる際のダイ10の移動速度を等速としているが、必ずしも等速でなくても良く、塗膜の隅部がより良い形状となるような速度プロファイルでダイ10が移動しても良い。
【0081】
また、スラリー3の吐出開始時におけるダイ10と基材2の間隔d1とスラリー3の吐出完了時におけるダイ10と基材2の間隔d3とは異なっていても構わない。
【0082】
また、シム板15に面取り部15cが無く、吐出口18の近傍においてスラリー3の流路の幅が不変であっても構わない。
【0083】
また、上記の説明では供給バルブ41においてシャフトを動作させる手段としてボイスコイルモータが使用されているが、これに限らず、たとえばエアシリンダなど他の直動機構が使用されても良い。
【0084】
また、基材が帯状であってロールツーロールで搬送される形態でなく枚葉の形態の基材であっても良い。その場合、固定された基材に対してダイが移動することによって基材とダイとが相対移動する形態であっても良い。
【0085】
また、本発明の電池用極板の製造装置は、全固体電池の製造に限らず、固体電解質層の代わりに電解液を有するリチウムイオン電池などに適用されても構わない。
【符号の説明】
【0086】
1 塗工装置(電池用極板の製造装置)
2 基材
3 スラリー
5 ローラ
10 ダイ
11 マニホールド
12 スリット
13 第一分割体
13a 第一リップ
14 第二分割体
14a 第二リップ
15 シム
15a ベース部
15b 突出部
15c 面取り部
16 流入部
17 底部
18 吐出口
19 位置調節部
20 供給手段
21 供給配管
22 タンク
23 ポンプ
24 リターン配管
31 始端部
32 安定塗工部
33 終端部
40 供給制御部
41 供給バルブ
42 弁体
43 電動シリンダ
50 リターン制御部
51 リターンバルブ
52 弁体
53 エアシリンダ
55 調節弁
100 二次電池
101 正極
102 負極
103 枠部
104 固体電解質層
200 二次電池
201 正極
202 負極
203 枠部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7