(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022133761
(43)【公開日】2022-09-14
(54)【発明の名称】ロックボルト及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
E21D 20/00 20060101AFI20220907BHJP
【FI】
E21D20/00 F
E21D20/00 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021032638
(22)【出願日】2021-03-02
(71)【出願人】
【識別番号】302060926
【氏名又は名称】株式会社フジタ
(71)【出願人】
【識別番号】592197968
【氏名又は名称】サンライズ工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000129758
【氏名又は名称】株式会社ケー・エフ・シー
(74)【代理人】
【識別番号】100109243
【弁理士】
【氏名又は名称】元井 成幸
(72)【発明者】
【氏名】福田 聡
(72)【発明者】
【氏名】三河内 永康
(72)【発明者】
【氏名】末松 幸人
(72)【発明者】
【氏名】菅原 崇秀
(72)【発明者】
【氏名】石原 淳
(72)【発明者】
【氏名】真壁 雄貴
(57)【要約】
【課題】引抜試験を行う際のナットの取り外しと再度の締め付けの作業を行う必要が無く、簡単に引抜試験を行うことができるロックボルトを提供する。
【解決手段】軸部11の打設方向における後側に軸部11より大径の頭部13が形成され、頭部13の前端面16が軸部11に外挿される支圧プレート2を押圧可能に設けられていると共に、頭部13の外周に引抜試験用カプラー6の凸条63と係合可能な凹溝17が周方向に設けられているロックボルト1。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸部の打設方向における後側に前記軸部より大径の頭部が形成され、
前記頭部の前端面が前記軸部に外挿される支圧プレートを押圧可能に設けられていると共に、
前記頭部の外周に引抜試験用カプラーに形成された凸部と係合可能な凹部が周方向に設けられていることを特徴とするロックボルト。
【請求項2】
前記凹部が前記頭部の外周に周設された凹溝であることを特徴とする請求項1記載のロックボルト。
【請求項3】
前記頭部の後端の周縁がアール形状で形成されていることを特徴とする請求項1又は2記載のロックボルト。
【請求項4】
請求項1~3の何れかに記載のロックボルトの前記軸部に支圧プレートが外挿され、
前記支圧プレートの角部がアール面取りされていることを特徴とするロックボルト構造体。
【請求項5】
請求項3記載のロックボルトの製造方法であって、
前記軸部の外形状と外周サイズを有する棒鋼材の一方の端部に、熱間鍛造で前記軸部より大径の頭部を形成する第1工程と、
前記頭部が形成された棒鋼材を回転させて、前記頭部の外周に凹溝を形成する第2工程とを備えることを特徴とするロックボルトの製造方法。
【請求項6】
請求項1~3の何れかに記載のロックボルトの施工方法であって、
前記ロックボルトの前記軸部に先端側から支圧プレートを外挿する第1工程と、
前記支圧プレートを前記頭部の前端面で地山に押し付けるようにして前記ロックボルトを前記地山に打設する第2工程を備えることを特徴とするロックボルトの施工方法。
【請求項7】
請求項3記載のロックボルトが打設される地山補強構造であって、
角部がアール面取りして形成され且つ前記軸部に外挿された支圧プレートが、前記頭部の前端面と、地山若しくは吹付コンクリートの被打設面との間に介在する状態で、前記ロックボルトが地山に打設され、
後端の周縁がアール形状で形成された前記頭部を直接若しくは間接的に覆うように防水シートが敷設されていることを特徴とする地山補強構造。
【請求項8】
請求項1~3の何れかに記載のロックボルトが地山に打設され、前記軸部に外挿された支圧プレートが、前記頭部の前端面と、地山若しくは吹付コンクリートの被打設面との間に介在する地山補強構造における前記ロックボルトに対する引抜試験方法であって、
打設された状態の前記ロックボルトの前記頭部の外周に形成された凹部に前記引抜試験用カプラーの凸部を係合し、前記引抜試験用カプラーを介して前記ロックボルトとテンションロッドを連結する第1工程と、
前記テンションロッドを介して前記頭部に引抜方向の力を加え、前記ロックボルトの引抜耐力を認識する第2工程を備えることを特徴とする引抜試験方法。
【請求項9】
前記引抜試験用カプラーが、前記ロックボルト側に配置される有底筒部と前記テンションロッド側に配置される雄ねじ部から構成され、
前記有底筒部の内周に前記凹部と係合される前記凸部が形成されており、
前記引抜試験用カプラーを軸方向に分割した一対の半体を合わせるようにして前記引抜試験用カプラーの前記凸部を前記頭部の前記凹部に係合し、
前記一対の半体を合わせて形成された前記雄ねじ部を前記テンションロッドの先端に形成された雌ねじ部に螺入することを特徴とする請求項8記載の引抜試験方法。
【請求項10】
前記引抜試験用カプラーが、軸方向に分割した一対の半体を合わせて形成される筒体と、合わされた前記一対の半体に外嵌されて前記一対の半体を前記筒体の形状に保持する外嵌ケーシングとから構成され、
前記筒体の内周に前記凹部と係合される前記凸部が形成されていると共に、前記筒体のテンションロッド側に縮径部が形成され、
前記一対の半体を合わせるようにして、前記凸部を前記頭部の前記凹部に係合し、且つ前記テンションロッドの先端に形成された大径部を前記縮径部で引抜方向に係止し、
前記一対の半体で形成された前記筒体の形状を保持するように前記テンションロッド側から前記外嵌ケーシングを外嵌合することを特徴とする請求項8記載の引抜試験方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばトンネル空間の支保に用いられるロックボルト及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的なトンネルでは、
図13及び
図14に示すように、トンネルの掘削面101に沿って吹付コンクリート102が打設され、吹付コンクリート102から周囲の地山103にロックボルト104が放射状に打設される。各ロックボルト104は、定着材105で地山103に定着されると共に、外挿された支圧プレート106が吹付コンクリート102に密着するように、後端部の雄ねじ107にナット108が嵌められる。そして、放射状に打設されたロックボルト104によってトンネル周囲の地山103に構築されたアーチ構造109により、トンネル空間110が支保される。
【0003】
地山103に打設、定着されたロックボルト104は、地山103が押し出してこようとする力Fに対して、ロックボルト104に生ずる引張方向の軸力Tによって抗することにより、アーチ構造109が壊れないように支保する。このようなロックボルト104の機能を発現するには、ロックボルト104が地山103に所要の引抜耐力を有する状態で強固に定着されていることが重要となる。更に、ロックボルト104が破断しないことや、支圧プレート106が吹付コンクリート102に密着するようにロックボルト104にナット締めがされていることも必要となる。
【0004】
また、特許文献1では、ロックボルトの後端部に円形の平鋼板からなるプレート固定部材を一体的に接合し、且つロックボルトの軸部に支圧プレートを外挿するロックボルトが提案されている。このロックボルトは、地山の挿入孔に押し込むように施工され、プレート固定部材で支圧プレートを押さえ付けるようにして地盤に設置される。従って、ロックボルトの施工において支圧プレートをナット締めで取り付ける作業を省略することが可能である。更に、特許文献1のロックボルトは、支圧プレートからトンネル内側に突出するプレート固定部材の厚みが僅かであるため、支圧プレートを覆うように敷設される防水シートの破損を防止できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述のような地山103に打設されたロックボルト104では、所要の引抜耐力を有する状態で打設されていることを確認するため、施工管理上の仕様に従って引抜試験が行われる。ナット締め方式のロックボルト104に対する引抜試験では、支圧プレート106を押圧するナット108を取り外し、ロックボルト104の後端部の雄ねじ107にカップリングを介してテンションバーを接続し、そのテンションバーをセンターホールラムに挿通して油圧ジャッキで載荷することにより、ロックボルトに引張力をかけ、所定の引抜強度まで抜けてこないかの計測を行う。所定の引抜試験まで抜けてこないことを確認した後には、カップリング、テンションバー、センターホールラム、油圧ジャッキで構成される試験装置をロックボルト104から取り外し、支圧プレート106を押圧するナット108をロックボルト104の雄ねじ107に再度締め付ける。
【0007】
このような引抜試験は、地山103に打設した全てのロックボルト104からサンプリングした一部のロックボルト104に対して行うのが通常であるが、サンプリングしたロックボルト104に対して行うにしても、ロックボルト104からナット108を取り外し、原状復帰のために再度締め付ける作業にはかなりの手間がかかる。また、ロックボルト104の後端部の雄ねじ107をトンネル内側に突出する構成では、支圧プレート106を覆うようにトンネル内側に防水シートを敷設する場合、防水シートが破損する危険性が生ずるか、破損を防止する処理を別途に施す必要が生ずるという別の問題もある。
【0008】
また、特許文献1のロックボルトは、後端部に支圧プレートを押さえつける単純な平鋼板形状のプレート固定部材が一体的に接合されているものであるため、引抜試験を行うこと自体が困難である。また、特許文献1の第2実施形態のように、支圧プレートの角部に地山側に折り曲げた折曲部を形成すると、仮にロックボルトがトンネル内側に飛び出してきた場合に、支圧プレートを覆うように敷設された防水シートに折曲部が引っかかって防水シートが破損する危険性もある。
【0009】
本発明は上記課題に鑑み提案するものであって、引抜試験を行う際のナットの取り外しと再度の締め付けの作業を行う必要が無く、簡単に引抜試験を行うことができるロックボルト及びその製造方法を提供することを目的とする。また、本発明の他の目的は、防水シートの破損を防止することができるロックボルト及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のロックボルトは、軸部の打設方向における後側に前記軸部より大径の頭部が形成され、前記頭部の前端面が前記軸部に外挿される支圧プレートを押圧可能に設けられていると共に、前記頭部の外周に引抜試験用カプラーに形成された凸部と係合可能な凹部が周方向に設けられていることを特徴とする。
これによれば、ロックボルトの引抜試験の際には頭部の外周の凹部に引抜試験用カプラーの凸部を係合して行うことが可能となり、ナットの取り外しと再度の締め付けの作業を行う必要が無く、簡単にロックボルトの引抜試験を行うことができる。また、ナット締めの必要なく、地山に押し込むだけで施工することが可能であるから、ロックボルトの打設作業に要する手間を低減することができる。また、ロックボルトの頭部から外向きに突出する部位を形成せずに構成できることから、ロックボルトの頭部を直接若しくは間接的に覆うように敷設される防水シートの破損を防止することができる。
【0011】
本発明のロックボルトは、前記凹部が前記頭部の外周に周設された凹溝であることを特徴とする。
これによれば、ロックボルトの頭部の凹部と引抜試験用カプラーの凸部の周方向における位置決めを行う作業が不要となり、より簡単にロックボルトの引抜試験を行うことができる。
【0012】
本発明のロックボルトは、前記頭部の後端の周縁がアール形状で形成されていることを特徴とする。
これによれば、ロックボルトの頭部の後端の周縁をアール形状することにより、ロックボルトの頭部を直接若しくは間接的に覆うように敷設される防水シートの破損をより確実に防止することができる。なお、頭部の後端の周縁がアール形状である様態には、頭部の後端の周縁がR面取り加工によって面取りされた形状や、半球形もしくは弾頭形のような半球形に近い形状が含まれる。
【0013】
本発明のロックボルト構造体は、本発明のロックボルトの前記軸部に支圧プレートが外挿され、前記支圧プレートの角部がアール面取りされていることを特徴とする。
これによれば、支圧プレートの角部がアール面取りして形成されることにより、ロックボルトの頭部と支圧プレートを直接若しくは間接的に覆うように敷設される防水シートの破損をより確実に防止することができる。
【0014】
本発明のロックボルトの製造方法は、本発明のロックボルトを製造する方法であって、前記軸部の外形状と外周サイズを有する棒鋼材の一方の端部に、熱間鍛造で前記軸部より大径の頭部を形成する第1工程と、前記頭部が形成された棒鋼材を回転させて、前記頭部の外周に凹溝を形成する第2工程とを備えることを特徴とする。
これによれば、ロックボルトの頭部を軸部と同一材料から形成することができることに加え、頭部に、軸部から連続した熱間鍛造による鍛流線が形成された、内部組織が均質の材料構造、粘りの増した靭性に富む材料構造とすることができる。従って、高強度、高耐力を全長に亘って発揮するロックボルトを得ることができる。また、熱間鍛造の製造により、迅速且つ安価に本発明のロックボルトを製造することができる。
【0015】
本発明のロックボルトの施工方法は、本発明のロックボルトを施工する方法であって、前記ロックボルトの前記軸部に先端側から支圧プレートを外挿する第1工程と、前記支圧プレートを前記頭部の前端面で地山に押し付けるようにして前記ロックボルトを前記地山に打設する第2工程を備えることを特徴とする。
これによれば、支圧プレートを地山或いは吹付コンクリートに密着させるまでナット締めをする必要が無く、ロックボルトを押し込むように移動するだけでロックボルトを打設することができることから、施工作業を容易化することができる。
【0016】
本発明の地山補強構造は、本発明のロックボルトが打設される地山補強構造であって、角部がアール面取りして形成され且つ前記軸部に外挿された支圧プレートが、前記頭部の前端面と、地山若しくは吹付コンクリートの被打設面との間に介在する状態で、前記ロックボルトが地山に打設され、後端の周縁がアール形状で形成された前記頭部を直接若しくは間接的に覆うように防水シートが敷設されていることを特徴とする。
これによれば、地山補強構造で打設されたロックボルトにおいて、ロックボルトの引抜試験の際には頭部の外周の凹部に引抜試験用カプラーの凸部を係合して行うことが可能となり、ナットの取り外しと再度の締め付けの作業を行う必要が無く、簡単にロックボルトの引抜試験を行うことができる。また、ナット締めの必要なく、地山に押し込むだけで施工することが可能であるから、ロックボルトの打設作業に要する手間を低減することができる。また、ロックボルトの頭部から外向きに突出する部位を形成せずに構成できることから、ロックボルトの頭部を直接若しくは間接的に覆うように敷設される防水シートの破損を防止することができる。更に、支圧プレートの角部のアール面取りと、ロックボルト頭部の周縁のアール形状により、防水シートの破損をより確実に防止することができる。
【0017】
本発明の引抜試験方法は、本発明のロックボルトが地山に打設され、前記軸部に外挿された支圧プレートが、前記頭部の前端面と、地山若しくは吹付コンクリートの被打設面との間に介在する地山補強構造における前記ロックボルトに対する引抜試験方法であって、打設された状態の前記ロックボルトの前記頭部の外周に形成された凹部に前記引抜試験用カプラーの凸部を係合し、前記引抜試験用カプラーを介して前記ロックボルトとテンションロッドを連結する第1工程と、前記テンションロッドを介して前記頭部に引抜方向の力を加え、前記ロックボルトの引抜耐力を認識する第2工程を備えることを特徴とする。
これによれば、地山補強構造で打設されたロックボルトにおいて、ロックボルトの引抜試験の際には頭部の外周の凹部に引抜試験用カプラーの凸部を係合して行うことが可能となり、ナットの取り外しと再度の締め付けの作業を行う必要が無く、簡単にロックボルトの引抜試験を行うことができる。また、引抜試験完了後には、引抜試験用カプラーをロックボルトの頭部から取り外すだけで簡単に原状復帰することができ、ナットの再度の締め付けの作業を不要にすることができる。
【0018】
本発明の引抜試験方法は、前記引抜試験用カプラーが、前記ロックボルト側に配置される有底筒部と前記テンションロッド側に配置される雄ねじ部から構成され、前記有底筒部の内周に前記凹部と係合される前記凸部が形成されており、前記引抜試験用カプラーを軸方向に分割した一対の半体を合わせるようにして前記引抜試験用カプラーの前記凸部を前記頭部の前記凹部に係合し、前記一対の半体を合わせて形成された前記雄ねじ部を前記テンションロッドの先端に形成された雌ねじ部に螺入することを特徴とする。
これによれば、引抜試験用カプラーの雄ねじ部のテンションロッドの雌ねじ部への螺着を利用して、引抜試験用カプラーの凸部とロックボルトの頭部の凹部との係止を行うことができ、安価且つ効率的に引抜試験用カプラーを介したロックボルトとテンションロッドとの連結を行うことができる。
【0019】
本発明の引抜試験方法は、前記引抜試験用カプラーが、軸方向に分割した一対の半体を合わせて形成される筒体と、合わされた前記一対の半体に外嵌されて前記一対の半体を前記筒体の形状に保持する外嵌ケーシングとから構成され、前記筒体の内周に前記凹部と係合される前記凸部が形成されていると共に、前記筒体のテンションロッド側に縮径部が形成され、前記一対の半体を合わせるようにして、前記凸部を前記頭部の前記凹部に係合し、且つ前記テンションロッドの先端に形成された大径部を前記縮径部で引抜方向に係止し、前記一対の半体で形成された前記筒体の形状を保持するように前記テンションロッド側から前記外嵌ケーシングを外嵌合することを特徴とする。
これによれば、外嵌ケーシングを一対の半体に外嵌合するだけで、引抜試験用カプラーの凸部とロックボルトの頭部の凹部との係止と、テンションロッドの大径部の引抜方向への係止を行うことができ、安価且つ効率的に引抜試験用カプラーを介したロックボルトとテンションロッドとの連結を行うことができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明のロックボルトによれば、引抜試験を行う際のナットの取り外しと再度の締め付けの作業を行う必要が無く、簡単に引抜試験を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】(a)は本発明による第1実施形態のロックボルトの左側面図、(b)はその正面図、(c)はその右側面図、(d)はその頭部周辺の拡大正面図。
【
図2】(a)、(b)は第1実施形態のロックボルトへの引抜試験治具の取り付けを説明する斜視説明図。
【
図3】(a)は第1実施形態のロックボルトに外挿される支圧プレートの平面図、(b)はその正面図。
【
図4】(a)~(e)は第1実施形態のロックボルトの製造工程を説明する工程説明図。
【
図5】(a)~(d)は第1実施形態のロックボルトの施工工程を説明する工程説明図。
【
図6】第1実施形態のロックボルトを打設した地山補強構造で構成されるトンネルの模式説明図。
【
図7】
図6のトンネルの例における第1実施形態のロックボルトの定着メカニズムを説明する説明図。
【
図8】第1実施形態のロックボルトを打設した地山補強構造におけるロックボルトに対する引抜試験を説明する一部断面説明図。
【
図9】(a)は本発明による第2実施形態のロックボルトの左側面図、(b)はその正面図、(c)はその右側面図、(d)はその頭部周辺の拡大正面図。
【
図10】(a)、(b)は第2実施形態のロックボルトへの別例の引抜試験治具の取り付けを説明する斜視説明図。
【
図11】(a)~(e)は第2実施形態のロックボルトの製造工程を説明する工程説明図。
【
図12】第2実施形態のロックボルトを打設した地山補強構造におけるロックボルトに対する引抜試験を説明する一部断面説明図。
【
図13】一般的な構築途中のトンネルの模式説明図。
【
図14】一般的なロックボルトの定着メカニズムを説明する説明図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
〔第1実施形態のロックボルト〕
本発明による第1実施形態のロックボルト1は、
図1及び
図2に示すように、金属材或いは棒鋼材である異形棒鋼から構成され、異形棒鋼の形状である軸部11の打設方向における先端には略円錐形の剣先部12が形成されている。軸部11の打設方向における後側には軸部11より大径の頭部13が形成されており、頭部13は軸部11の外周から外側に突出する略円柱形で形成され、略円柱形の頭部13の後端面14の周縁の角部15がアール面取りされている。
【0023】
頭部13は、その先端の前端面16が軸部11に外挿される後述の支圧プレート2を押圧可能に設けられており、頭部13の外径が支圧プレート2に形成された軸部11の挿通穴21よりも大径をなすように設けられている。本実施形態における頭部13の前端面16は平坦面になっている。また、頭部13の外周には、後述する引抜試験用カプラー6の凸部と係合可能な凹部が周方向に設けられており、本実施形態では、凹部として頭部13の外周に凹溝17が周設されている。
【0024】
更に、本実施形態のロックボルト1では、頭部13と軸部11とが一体的に形成されており、例えばJIS G3112に規定された高張力異形棒鋼を用い、軸部11の後側に熱間鍛造によって頭部13が一体的に形成されている。即ち、本実施形態のロックボルト1では、同一の高張力金属材で頭部13と軸部11とが一体的に形成されている。
【0025】
また、ロックボルト1の軸部11に外挿され、ロックボルト1と共にロックボルト構造体を構成する支圧プレート2は、
図3の例では、略矩形板状であり、それぞれの角部22がアール面取りして形成されている。支圧プレート2の平面視略中央には、ロックボルト2の軸部11が内挿される挿通穴21が形成されており、挿通穴21の径は、軸部11の外径よりも大きく、且つ頭部13の外径よりも小さくなっている。
【0026】
本実施形態のロックボルト1において、軸部11の後側に熱間鍛造によって頭部13が一体的に形成されたロックボルト1を製造する場合、素材として軸部11の外形状と外周サイズを有す棒状の金属材或いは棒鋼材が用いられ、例えば
図4(a)に示す異形棒鋼1mが用いられる。異形棒鋼1mは高張力の異形棒鋼とすると好適であり、JIS G3112に規定された高張力異形棒鋼とするとより好適である。
【0027】
この異形棒鋼1mを熱間鍛造で加工する際には、例えば
図4(a)、(b)に示すダイ31とパンチ32を用いる。ダイ31は、上下一対など一対の鍛造型を合わせるようにして構成され、一対の鍛造型を合わせたダイ31の形状において、異形棒鋼1mの外径と略同一の径で形成された挿通穴311と、挿通穴311と連通して挿通穴311と逆側に開口するように形成された型内空間312が設けられる。型内空間312は略円柱形の頭部13の外形状とほぼ対応する形状とサイズになっている。パンチ32は、型内空間312の形状とサイズにほぼ対応して形成され、型内空間312に開口側から挿入可能になっている。
【0028】
そして、高熱に加熱した異形棒鋼1mを挿通穴311に挿通された状態でダイ31の型内空間312に配置し、挿通穴311と逆側に異形棒鋼1mの一方の端部が所定長だけ型内空間312から突出した状態で配置する(
図4(a)参照)。その後、異形棒鋼1mを突出側から型内空間312にパンチ32を若干入り込ませ、異形棒鋼1mを型内空間312で押し潰すようにして熱間鍛造を行い、異形棒鋼1mの軸部11mの一方の端部である後側に、軸部11mより大径の略円柱形の頭部13の原形となる頭部13m1を一体的に形成する(
図4(b)参照)。頭部13m1の形成後には、パンチ32を撤退させると共にダイ31を構成する一対の鍛造型を開いて脱型し、頭部13m1が形成された異形棒鋼1mから必要に応じて不要なバリBUを取り除く(
図4(c)参照)。
【0029】
その後、旋盤等を用いて頭部13m1が形成された異形棒鋼1mを回転させ、溝入れバイト33を回転する頭部13m1の所定位置に押し当てて、頭部13m1の外周に凹溝17を形成すると共に、本実施形態においては、R面取りバイト34を回転する頭部13m1の後端隅部に押し当てて、頭部13m1の後端面の周縁の角部をアール面取りする(
図4(d)参照)。そして、異形棒鋼1mの先端には略円錐形の剣先部12を熱間鍛造等で別途形成し、本実施形態のロックボルト1を得る(
図4(e)参照)。尚、本実施形態のロックボルト1を熱間鍛造で形成する場合の熱間鍛造は、本発明の趣旨の範囲内で適宜であり、例えば鍛造型を用いない自由鍛造の熱間鍛造とすることも可能である。
【0030】
このように軸部11の後側に熱間鍛造によって略円柱形の頭部13が一体的に形成されたロックボルト1の例として、JIS G3112に規定された高張力異形棒鋼SD345で呼び径22mmのD22の異形棒鋼1mで構成されるロックボルト1では、引張荷重133.5kNの強度となった。これは、JIS G3112に規定された高張力異形棒鋼SD345で呼び径24mmのD25の異形棒鋼で構成される既存のねじ部を有するナット締めロックボルトの規格強度(引張荷重122kN)を上回るものであり、サイズダウンが可能となる。尚、ねじ部を有するロックボルトはねじ部で強度が決まってしまうが、本実施形態のロックボルト1はねじ部が無く、加えて軸部11と頭部13を熱間鍛造で一体形成することで、高い引張強度を発揮することが可能となる。
【0031】
次に、本実施形態のロックボルト1の施工工程について説明する。ロックボルト1を施工する際には、
図5(a)、(b)に示すように、ロックボルト1の軸部11に打設方向の先端側から挿通穴21を有する支圧プレート2を外挿する。ロックボルト1の軸部11を支圧プレート2の挿通穴21に内挿する工程は適宜の仕方で行うことが可能であり、例えばロックボルト打設装置のガイドセル41の先端付近に設けられた保持機構で支圧プレート2を保持した状態にすると共に、後述するように、ガイドセル41に沿ってスライド移動する押し込み式の打設機42でロックボルト1の後端部を保持し、打設機42を前進させて、ロックボルト1の軸部11を保持機構で所定位置に保持された支圧プレート2の挿通穴21に内挿するようにすると好適である(
図5(a)~(c)参照)。尚、支圧プレート2はロックボルト1の頭部13に近づけるように移動せずとも良く、支圧プレート2は軸部11の先端付近に配置して外挿した状態とする。また、地山50、或いは地山50と吹付コンクリート51には予め穿孔52を形成し、穿孔52内にモルタル等の定着材53を予め注入しておく(
図7参照)。
【0032】
そして、
図5(c)の太線矢印に示すように、ガイドセル41に沿ってスライド移動する押し込み式の打設機42でロックボルト1の後端部を保持し、打設機42を地山50に向かって前進させ、定着材53が注入されている穿孔52に剣先部12が形成された先端側からロックボルト1を押し込んでいく。ロックボルト1の押し込みは、頭部13の前端面16で支圧プレート2を地山50に押し付けるまで行い、支圧プレート3が頭部13の前端面16と地山50或いは吹付コンクリート51の被打設面(地山50の表面或いは吹付コンクリート51の表面)との間に介在するようにして、ロックボルト1を地山50に打設する(
図5(d)参照)。この施工工程で構築された地山補強構造では、角部22がアール面取りして形成され且つ軸部11に外挿された支圧プレート2が、略円柱形の頭部13の前端面16と地山50或いは吹付コンクリート51の被打設面との間に介在し、地山50が押し出してきたときに支圧プレート2が押し出し力を受けることが出来る状態で、ロックボルト1が地山10に打設される。
【0033】
上記施工工程で構築された地山補強構造を有するトンネルの例を
図6及び
図7に示す。本例では、トンネルの掘削面54に沿って吹付コンクリート51が打設され、吹付コンクリート51から周囲の地山50にロックボルト1が放射状に打設されている。各ロックボルト1は、定着材53で地山50に定着されると共に、外挿された支圧プレート2が吹付コンクリート51に密着するように、略円柱形の頭部13の前端面16が支圧プレート2に押し付けられている。そして、放射状に打設されたロックボルト1によってトンネル周囲の地山50に構築されたアーチ構造55により、トンネル空間56が支保されている。
【0034】
更に、本例では、ロックボルト1のトンネル内側に突出する、後端面14の周縁の角部15がアール面取りされた略円柱形の頭部13と、角部22がアール面取りして形成された支圧プレート2とを覆うようにして、不織布等のシート状の緩衝材57が敷設され、緩衝材57の内側に積層するように防水シート58が敷設されている。即ち、後端面14の周縁の角部15がアール面取りされた略円柱形の頭部13と、角部22がアール面取りして形成された支圧プレート2とを間接的に覆うように防水シート58が敷設されている。緩衝材57と防水シート58の敷設は、例えば緩衝材57をアンカーや釘等の留め具571で吹付コンクリート51に固定して吹付コンクリート51の内表面に沿って敷設し、この緩衝材57の固定により、点在する固定部で緩衝材57に固定されて緩衝材57に重ねて設けられている防水シート58を吹付コンクリート51の内表面に沿って敷設する。図示の59は覆工コンクリートである。
【0035】
この防水シート58が敷設された地山補強構造では、地山50に設置された支圧プレート2は例えば吹付コンクリート51の表面から9~12mmの厚みで突出し、更に、支圧プレート2のトンネル内側の表面から略円柱形の頭部13が例えば約30mmの高さで突出し、これらを覆うように緩衝材57、防水シート58が敷設されるが、ロックボルト1のトンネル周方向の打設ピッチは1m以上離れているため、
図6の模式例よりも実際の緩衝材57と防水シート58は凹凸の少ない敷設状態となる。尚、緩衝材57を敷設せずに、略半球状の頭部13や支圧プレート2を直接覆うように防水シート58を敷設する構成とすることも可能である。
【0036】
このように地山50に打設、定着されたロックボルト1と、支圧プレート2を備えるトンネルの地山補強構造では、地山50が押し出してこようとする力Fを支圧プレート2で支え、ロックボルト1に生ずる引張方向の軸力Tによって抗することにより、アーチ構造55が壊れないように支保する(
図7参照)。
【0037】
次に、本実施形態のロックボルト1に対する引抜試験の例について説明する。地山補強構造で打設された状態のロックボルト1に対して引抜試験を行う際には、例えば地山50の表面に沿って吹付コンクリート51が打設され、吹付コンクリート51と地山50に削孔された穿孔52にロックボルト1が打設され、穿孔52内の定着材53でロックボルト1が定着されていると共に、軸部11に外挿された支圧プレート2が頭部13の前端面16と吹付コンクリート51の被打設面との間に介在する地盤補強構造において、打設された状態のロックボルト1の頭部13の外周に形成された凹部に相当する凹溝17に引抜試験用カプラー6の凸部に相当する凸条63を係合し、引抜試験用カプラー6を介してロックボルト1とテンションロッド71を連結する(
図8、
図2参照)。
【0038】
本例で用いられる引抜試験用カプラー6は、ロックボルト1側に配置される有底筒部61とテンションロッド71側に配置される雄ねじ部62から構成され、有底筒部61の内周に、ロックボルト頭部13の凹部に相当する凹溝17と係合される凸部に相当する凸条63が形成されている。更に、引抜試験用カプラー6は、軸方向に分割された一対の半体60・60を合わせるようにして構成され、一対の半体60・60の半割部601、602、603を合わせた状態で、有底筒部61、雄ねじ部62、凸条63がそれぞれ構成される。
【0039】
そして、地山50に打設されたロックボルト1の頭部13の位置で一対の半体60・60を合わせるようにして引抜試験用カプラー6を形成すると共に、凸条63を頭部13の凹溝17に係合する。更に、一対の半体60・60を合わせて形成された引抜試験用カプラー6の雄ねじ部62をテンションロッド71の先端に形成された雌ねじ部711に相対的に螺入し、一対の半体60・60を合わせた引抜試験用カプラー6の形状を雄ねじ部62と雌ねじ部711の螺合で安定して保持すると共に、引抜試験用カプラー6を介してロックボルト1とテンションロッド71を連結する。
【0040】
図8の例では、ロックボルト1の頭部13の前端面16による押し付けで吹付コンクリート51に当接している支圧プレート2に載置するようにして、略キャップ状の引抜試験用反力台座72のベースプレート721が設けられ、引抜試験用反力台座72の内部に、ロックボルト1の頭部13と引抜試験用カプラー6が配置されている。引抜試験用反力台座72の内部にはテンションロッド71が貫通穴から挿入され、テンションロッド71の先端部の雌ねじ部711と引抜試験用カプラー6の雄ねじ部62が螺着されている。
【0041】
地山50と逆側に引抜試験用反力台座72から突出するテンションロッド71の部分には、センターホールジャッキ73、引抜試験用測定板74を外挿するように設け、テンションロッド71に引抜試験用押さえナット75を螺合して、引抜試験用測定板74の地山50と逆側への移動を規制する。
【0042】
そして、センターホールジャッキ73の伸長方向の加圧により、引抜試験用測定板74、引抜試験用押さえナット75を介してテンションロッド71に引抜力を載荷する。これにより、引抜試験用反力台座72から反力を得て、テンションロッド71、引抜試験用カプラー6を介して頭部13からロックボルト1に引抜方向の力が加えられる。このようにロックボルト1に引抜力を載荷して、載荷荷重からロックボルト1に加えられた軸力を算出すると共に、引抜試験用測定板74の変位を測定することにより、ロックボルト1の伸びを認識し、ロックボルト1の引抜耐力を認識する。ロックボルト1の伸びの認識による引抜耐力の認識は、例えば相互の対応関係データを記憶部に格納するパーソナルコンピュータ、スマートフォン或いは専用端末等のコンピュータ装置で算出させることにより行い、出力部で出力すると好適である。
【0043】
第1実施形態によれば、ロックボルト1の引抜試験の際には頭部13の外周の凹部に相当する凹溝17に引抜試験用カプラー6の凸部に相当する凸条63を係合して行うことが可能となり、ナットの取り外しと再度の締め付けの作業を行う必要が無く、簡単にロックボルト1の引抜試験を行うことができる。また、ナット締めの必要なく、地山50に押し込むだけで施工することが可能であるから、ロックボルト1の打設作業に要する手間を低減することができる。また、ロックボルト1の頭部13から外向きに突出する部位を形成せずに構成できることから、ロックボルト1の頭部13を直接若しくは間接的に覆うように敷設される防水シート58の破損を防止することができる。
【0044】
また、ロックボルト1の頭部13の凹部を凹溝17とすることにより、ロックボルト1の頭部13の凹部と引抜試験用カプラー6の凸部の周方向における位置決めを行う作業が不要となり、より簡単にロックボルト1の引抜試験を行うことができる。また、ロックボルト1の略円柱形の頭部13の角部15をアール面取りすることにより、ロックボルト1の頭部13を直接若しくは間接的に覆うように敷設される防水シート58の破損をより確実に防止することができる。また、支圧プレート2の角部22をアール面取りして形成することにより、ロックボルト1の頭部13と支圧プレート2を直接若しくは間接的に覆うように敷設される防水シート58の破損をより確実に防止することができる。
【0045】
また、ロックボルト1の軸部11の外形状と外周サイズを有する棒鋼材の一方の端部に、熱間鍛造で軸部11より大径の頭部13を形成してロックボルト1を製造する場合には、ロックボルト1の頭部13を軸部11と同一材料から形成することができることに加え、頭部13に、軸部11から連続した熱間鍛造による鍛流線が形成された、内部組織が均質の材料構造、粘りの増した靭性に富む材料構造とすることができる。従って、高強度、高耐力を全長に亘って発揮するロックボルト1を得ることができる。また、熱間鍛造の製造により、迅速且つ安価にロックボルト1を製造することができる。また、頭部13m1が形成された異形棒鋼1mを回転させ、頭部13m1の外周に凹溝17を形成すると共に、頭部13m1の後端面の周縁の角部をアール面取りする製造工程を用いる場合には、頭部13m1が形成された異形棒鋼1mを回転させる工程において、頭部外周の凹溝17の形成と、頭部の後端面のアール面取りの双方を行うことができ、製造工程の効率化を図ることができる。
【0046】
また、本実施形態のロックボルト1の施工方法では、支圧プレート2を地山50或いは吹付コンクリート51に密着させるまでナット締めをする必要が無く、ロックボルト1を押し込むように移動するだけでロックボルト1を打設することができることから、施工作業を容易化することができる。
【0047】
また、ロックボルト1が地山50に打設され、軸部11に外挿された支圧プレート2が、頭部13の前端面16と、地山50若しくは吹付コンクリート51の被打設面との間に介在する地山補強構造におけるロックボルト1に対する引抜試験では、支圧プレート2に当接する頭部13の外周の凹溝17に引抜試験用カプラー6の凸条63を係合し、テンションロッド71に引抜試験用カプラー6を螺着するだけで、ナットの取り外しと再度の締め付けの作業を行う必要が無く、簡単にロックボルト1の引抜試験を行うことができる。また、引抜試験完了後には、引抜試験用カプラー6をロックボルト1の頭部13から取り外すだけで簡単に原状復帰することができ、ナットの再度の締め付けの作業を不要にすることができる。
【0048】
また、一対の半体60・60を合わせるようにして引抜試験用カプラー6の凸部63を頭部13の凹溝17に係合し、一対の半体60・60を合わせて形成された雄ねじ部62をテンションロッド71の先端に形成された雌ねじ部711に螺入する構成を引抜試験で用いる場合には、引抜試験用カプラー6の雄ねじ部62のテンションロッド71の雌ねじ部711への螺着を利用して、引抜試験用カプラー6の凸条63とロックボルト1の頭部13の凹溝17との係止を行うことができ、安価且つ効率的に引抜試験用カプラー6を介したロックボルト1とテンションロッド71との連結を行うことができる。
【0049】
〔第2実施形態のロックボルト〕
本発明による第2実施形態のロックボルト1aは、
図9及び
図10に示すように、第1実施形態と同様、金属材或いは棒鋼材である異形棒鋼から構成され、異形棒鋼の形状である軸部11aの打設方向における先端には略円錐形の剣先部12aが形成されている。軸部11aの打設方向における後側には軸部11aより大径の頭部13aが形成されており、頭部13aは軸部11aの外周から外側に突出する短尺の略弾頭形で形成され、頭部13aの後端14aの周縁のアール形状になっている。
【0050】
頭部13aは、その先端の前端面16aが軸部11aに外挿される第1実施形態と同様の支圧プレート2を押圧可能に設けられており、頭部13aの外径が支圧プレート2に形成された軸部11aの挿通穴21よりも大径をなすように設けられている。第2実施形態における頭部13aの前端面16aも平坦面になっている。また、頭部13aの外周には、後述する引抜試験用カプラー6aの凸部と係合可能な凹部が周方向に設けられており、第2実施形態でも、凹部として頭部13aの外周に凹溝17aが周設されている。
【0051】
更に、第2実施形態のロックボルト1aでも、頭部13aと軸部11aとが一体的に形成されており、例えばJIS G3112に規定された高張力異形棒鋼を用い、軸部11aの後側に熱間鍛造によって頭部13aが一体的に形成されている。即ち、第2実施形態のロックボルト1aでも、同一の高張力金属材で頭部13aと軸部11aとが一体的に形成されている。このような第2実施形態のロックボルト1aは、基本的に、支圧プレート2と共に第1実施形態と同様のロックボルト構造体を構成すること、第1実施形態と同様の施工工程で施工すること、第1実施形態と同様の地山補強構造を形成することが可能である。
【0052】
また、第2実施形態のロックボルト1aにおいて、軸部11aの後側に熱間鍛造によって頭部13aが一体的に形成されたロックボルト1aを製造する場合にも、素材として軸部11aの外形状と外周サイズを有す棒状の金属材或いは棒鋼材が用いられ、例えば
図11(a)に示す異形棒鋼1nが用いられる。異形棒鋼1nは高張力の異形棒鋼とすると好適であり、JIS G3112に規定された高張力異形棒鋼とするとより好適である。
【0053】
この異形棒鋼1nを熱間鍛造で加工する際には、高熱に加熱した異形棒鋼1nを径方向に開いたり閉じたりすることができるチャック31a、32aの間を通してストッパー35aに当たる位置まで挿入し、チャック31a、32aに対して挿入側と逆側に異形棒鋼1nの一方の端部を所定長L1だけ突出させた状態に配置し、チャック31a、32aで強固に挟み込む(
図11(a)参照)。この異形棒鋼1nの突出長L1は、熱間鍛造によって異形棒鋼1nから頭部13aの形状を成型するために毎加工ごとに同じ突出長となるように設計されている。
【0054】
こうして異形棒鋼1nのチャック31a、32aからの突出長L1を規定したところで、ストッパー35aを異形棒鋼1nの軸線上から横に退避させ、その後、第1の型34aを異形棒鋼1nを強固に挟持した状態のチャック31a、32aに当接させるように異形棒鋼1nの突出部に押し当てて熱間鍛造を行い、第1段階の頭部13n1を形成する。第1の型34aの内部には異形棒鋼1nの端部を頭部13a形状にする為の中間形状の型内空間33aが閉塞空間として形成されており、所定長さL1分の異形棒鋼1nが型内空間33aに押し込められるようにして中間形状の頭部13n1が形成される(
図11(b)参照)。頭部13n1の形成後には、第1の型34aを撤退させる。
【0055】
次に、チャック31a、32aで異形棒鋼1nを強固に挟み込んだ状態のまま、異形棒鋼1nの軸線上に、内部に略短尺弾頭形の頭部13aに相当する形状の型内空間37aが設けられた第2の型38aを配置し、第2の型38aがチャック31a、32aに当接する状態となるまで高熱に加熱した異形棒鋼1nの頭部13n1に押し込んで熱間鍛造を行い、異形棒鋼1nの軸部11nの後側に略短尺弾頭形の頭部13aと同一の外形とサイズを有する頭部13n2を一体的に形成する(
図11(c)、(d)参照)。
【0056】
頭部13n2の形成後には、第2の型38aを撤退させると共にチャック31a、32aを開いて脱型し、頭部13n2が形成された異形棒鋼1nから必要に応じて不要なバリを取り除く。その後、旋盤等を用いて頭部13n2が形成された異形棒鋼1nを回転させ、溝入れバイトを回転する頭部13n2の所定位置に押し当てて、頭部13n2の外周に凹溝17aを形成する(
図11(d)、(e)参照)。そして、異形棒鋼1nの先端には略円錐形の剣先部12aを熱間鍛造等で別途形成し、本実施形態のロックボルト1aを得る。尚、第2実施形態のロックボルト1aを熱間鍛造で形成する場合の熱間鍛造も、本発明の趣旨の範囲内で適宜であり、例えば鍛造型を用いない自由鍛造の熱間鍛造とすることも可能である。
【0057】
このように軸部11aの後側に熱間鍛造によって略短尺弾頭形の頭部13aが一体的に形成されたロックボルト1aの例として、JIS G3112に規定された高張力異形棒鋼SD345で呼び径22mmのD22の異形棒鋼1nで構成されるロックボルト1aでは、引張荷重133.5kNの強度となった。これは、JIS G3112に規定された高張力異形棒鋼SD345で呼び径24mmのD25の異形棒鋼で構成される既存のねじ部を有するナット締めロックボルトの規格強度(引張荷重122kN)を上回るものであり、サイズダウンが可能となる。尚、第2実施形態のロックボルト1aもねじ部が無く、加えて軸部11aと頭部13aを熱間鍛造で一体形成することで、高い引張強度を発揮することが可能となる。
【0058】
次に、第2実施形態のロックボルト1aに対する引抜試験の例について説明する。地山補強構造で打設された状態のロックボルト1aに対して引抜試験を行う際には、例えば地山50の表面に沿って吹付コンクリート51が打設され、吹付コンクリート51と地山50に削孔された穿孔52にロックボルト1aが打設され、穿孔52内の定着材53でロックボルト1aが定着されていると共に、軸部11aに外挿された支圧プレート2が頭部13aの前端面16aと吹付コンクリート51の被打設面との間に介在する地盤補強構造において、打設された状態のロックボルト1aの頭部13aの外周に形成された凹部に相当する凹溝17aに引抜試験用カプラー6aの凸部に相当する凸条64aを係合し、引抜試験用カプラー6aを介してロックボルト1aとテンションロッド71aを連結する(
図12、
図10参照)。
【0059】
本例で用いられる引抜試験用カプラー6aは、軸方向に分割した一対の半体62a・62aを合わせて形成される筒体61aと、合わされた一対の半体62a・62aに外嵌されて一対の半体62a・62aを筒体61aの形状に保持する外嵌ケーシング63aとから構成されている。筒体61aの内周には、ロックボルト頭部13aの凹部に相当する凹溝17aと係合される凸部に相当する凸条64aが形成され、図示例では筒体61aの先端部に凸条64aが形成されている。筒体61aのテンションロッド71a側には縮径部65aが形成され、縮径部65aにテンションロッド71aの軸部711aを挿通可能になっている。また、外嵌ケーシング63aは略有底円筒状で形成され、後端にはテンションロッド71aの軸部711aを挿通可能な挿通穴631aが設けられている。
【0060】
そして、地山50に打設されたロックボルト1aの頭部13aの位置で一対の半体62a・62aを合わせるようにして引抜試験用カプラー6aを形成すると共に、凸条64aを頭部13aの凹溝17aに係合する。同時に、テンションロッド71aの軸部711aを縮径部65aに挿通すると共に、テンションロッド71aの先端に形成された軸部711aよりも大径の大径部712aを筒体61aに内装し、テンションロッド71aの大径部712aを縮径部65aで引抜方向に係止する。更に、地山50側に開放するようにテンションロッド71aの軸部711aに外挿された外嵌ケーシング63aを、テンションロッド71a側からスライドして筒体61aに外嵌合し、一対の半体62a・62aで形成された筒体61aの形状を保持する。これにより、一対の半体62a・62a或いは筒体61aと外嵌ケーシング63aで構成される引抜試験用カプラー6aを介してロックボルト1aとテンションロッド71aが連結される。
【0061】
図12の例では、ロックボルト1aの頭部13aの前端面16aによる押し付けで吹付コンクリート51に当接している支圧プレート2に載置するようにして、略キャップ状の引抜試験用反力台座72のベースプレート721が設けられ、引抜試験用反力台座72の内部に、ロックボルト1aの頭部13aと引抜試験用カプラー6aが配置されている。引抜試験用反力台座72の内部にはテンションロッド71aの軸部711aが貫通穴から挿入されている。
【0062】
そして、第1実施形態の例と同様に、センターホールジャッキ73の伸長方向の加圧により、引抜試験用測定板74、引抜試験用押さえナット75を介してテンションロッド71aに引抜力を載荷し、ロックボルト1aの引抜耐力を認識する。
【0063】
第2実施形態によれば、第1実施形態と対応する構成から対応する効果を得ることができる。また、ロックボルト1aの頭部13aの後端14aの周縁をアール形状することにより、ロックボルト1aの頭部13aを直接若しくは間接的に覆うように敷設される防水シートの破損をより確実に防止することができる。また、引抜試験用カプラー6aにより、外嵌ケーシング63aを一対の半体62a・62aに外嵌合するだけで、引抜試験用カプラー6aの凸条64aとロックボルト1aの頭部13aの凹溝17aとの係止と、テンションロッド71aの大径部712aの引抜方向への係止を行うことができ、安価且つ効率的にロックボルト1aとテンションロッド71aとの連結を行うことができる。
【0064】
〔本明細書開示発明の包含範囲〕
本明細書開示の発明は、発明として列記した各発明、実施形態の他に、適用可能な範囲で、これらの部分的な内容を本明細書開示の他の内容に変更して特定したもの、或いはこれらの内容に本明細書開示の他の内容を付加して特定したもの、或いはこれらの部分的な内容を部分的な作用効果が得られる限度で削除して上位概念化して特定したものを包含する。そして、本明細書開示の発明には下記内容や変形例も含まれる。
【0065】
例えば本発明のロックボルトにおいて、頭部の外周に周方向に設けられた引抜試験用カプラーの凸部と係合可能な凹部は上記実施形態のロックボルト1、1aの凹溝17、17a以外にも適宜であり、例えばロックボルト頭部の外周に周方向に点設した複数の凹部とすることも可能であり、この場合には、引抜試験用カプラーの凸部も周方向に点在するように形成し、それぞれの点在する凹部と点在する凸部が係合する構成とするとよい。また、凹溝17、17aに、引抜試験用カプラーの点在する凸部が係合する構成とすることも可能である。
【0066】
また、本発明のロックボルトは、上記実施形態のように頭部13、13aを軸部11、11aに熱間鍛造で一体的に形成した構成とすると好適であるが、軸部11、11aの後側に別材料の頭部13、13aを摩擦圧接して形成したロックボルト1、1aとしても良好である。また、これら以外の製造方法で形成したものも本発明の趣旨の範囲内で本発明のロックボルトに含まれ、例えば軸部11、11aと同一形状で同一サイズの棒鋼材の一方の端面に略円柱形の頭部13若しくは略短尺弾頭形の頭部13aが溶接された構成のロックボルト、又は、略円柱形の頭部13若しくは略短尺弾頭形の頭部13aを軸部11、11aに冷間鍛造など熱間鍛造以外で一体的に形成された構成のロックボルトとすることも可能である。
【0067】
また、上記実施形態のロックボルト1、1aの施工において、略円柱形の頭部13若しくは略短尺弾頭形の頭部13aの前端面16、16aで支圧プレート2を押圧するロックボルト1、1aの打設は、打設機42等でロックボルト1、1aを自動的に押し込んで打設するようにすると良好であるが、ロックボルト1、1aを人力で押し込んで打設、施工することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明は、例えばトンネルで打設するロックボルト、斜面に打設するロックボルト等に利用することができる。
【符号の説明】
【0069】
1…ロックボルト 11…軸部 12…剣先部 13…頭部 14…後端面 15…角部 16…前端面 17…凹溝 1a…ロックボルト 11a…軸部 12a…剣先部 13a…頭部 14a…後端 16a…前端面 17a…凹溝 1m…異形棒鋼 11m…軸部 13m1…頭部 1n…異形棒鋼 11n…軸部 13n1、13n2…頭部 2…支圧プレート 21…挿通穴 22…角部 31…ダイ 311…挿通穴 312…型内空間 32…パンチ 33…溝入れバイト 34…R面取りバイト 31a、32a…チャック 33a…型内空間 34a…第1の型 35a…ストッパー 37a…型内空間 38a…第2の型 41…ガイドセル 42…打設機 50…地山 51…吹付コンクリート 52…穿孔 53…定着材 54…掘削面 55…アーチ構造 56…トンネル空間 57…緩衝材 571…留め具 58…防水シート 59…覆工コンクリート 6…引抜試験用カプラー 60…半体 61…有底筒部 62…雄ねじ部 63…凸条 601、602、603…半割部 6a…引抜試験用カプラー 61a…筒体 62a…半体 63a…外嵌ケーシング 631a…挿通穴 64a…凸条 65a…縮径部 71…テンションロッド 711…雌ねじ部 71a…テンションロッド 711a…軸部 712a…大径部 72…引抜試験用反力台座 721…ベースプレート 73…センターホールジャッキ 74…引抜試験用測定板 75…引抜試験用押さえナット BU…バリ L1…突出長 T…軸力 F…地山が押し出してこようとする力 101…掘削面 102…吹付コンクリート 103…地山 104…ロックボルト 105…定着材 106…支圧プレート 107…雄ねじ 108…ナット 109…アーチ構造 110…トンネル空間