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特開2022-133796熱硬化性樹脂用硬化剤組成物、エポキシ樹脂組成物、および繊維強化複合材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022133796
(43)【公開日】2022-09-14
(54)【発明の名称】熱硬化性樹脂用硬化剤組成物、エポキシ樹脂組成物、および繊維強化複合材
(51)【国際特許分類】
   C08G 59/50 20060101AFI20220907BHJP
   C08J 5/04 20060101ALI20220907BHJP
【FI】
C08G59/50
C08J5/04 CFC
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021032689
(22)【出願日】2021-03-02
(71)【出願人】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169085
【弁理士】
【氏名又は名称】為山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】小澤 優
(72)【発明者】
【氏名】小田 顕通
【テーマコード(参考)】
4F072
4J036
【Fターム(参考)】
4F072AA07
4F072AB10
4F072AD02
4F072AD31
4F072AE01
4F072AF14
4F072AF25
4F072AF28
4F072AL01
4F072AL02
4F072AL04
4F072AL05
4J036AA01
4J036AA05
4J036AC01
4J036AC05
4J036AC15
4J036AD01
4J036AH01
4J036AH07
4J036AH10
4J036AH11
4J036DA06
4J036DA07
4J036DC03
4J036DC10
4J036DC14
4J036DD05
4J036FB05
4J036HA12
4J036JA11
(57)【要約】
【課題】可使時間が長く、速硬化性を有するエポキシ樹脂組成物を製造することができる熱硬化性樹脂用硬化剤組成物を提供する。
【解決手段】硬化剤A、硬化剤Bおよび硬化剤Cを含有してなる熱硬化性樹脂用硬化剤組成物であって、硬化剤Aは、アミノ基に対する2つのオルト位にそれぞれ置換基を有する芳香族ポリアミンであり、該置換基はアルキル基、芳香族基およびハロゲン基から選択され、硬化剤Bは、25℃で液体である芳香族ポリアミンであり、硬化剤Cは、芳香族ポリアミンであり、該芳香族ポリアミンは、アミノ基に対するオルト位に電子供与基をただ一つ有するかオルト位に置換基を有しない芳香族ポリアミンであることを特徴とする、熱硬化性樹脂用硬化剤組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬化剤A、硬化剤Bおよび硬化剤Cを含有してなる熱硬化性樹脂用硬化剤組成物であって、
硬化剤Aは、アミノ基に対する2つのオルト位にそれぞれ置換基を有する芳香族ポリアミンであり、該置換基はアルキル基、芳香族基およびハロゲン基から選択され、
硬化剤Bは、25℃で液体である芳香族ポリアミンであり、
硬化剤Cは、芳香族ポリアミンであり、該芳香族ポリアミンは、アミノ基に対するオルト位に電子供与基をただ一つ有するかオルト位に置換基を有しない芳香族ポリアミンであることを特徴とする、熱硬化性樹脂用硬化剤組成物。
【請求項2】
熱硬化性樹脂用硬化剤組成物の全質量を基準として
硬化剤A、硬化剤Bおよび硬化剤Cの合計が70~100質量%を占め、
硬化剤Aと硬化剤Bの質量比率が1:99~99:1であり、
硬化剤Aと硬化剤Bとの合計100質量部に対して硬化剤Cが1~43質量部である
請求項1に記載の熱硬化性樹脂用硬化剤組成物。
【請求項3】
硬化剤Cの芳香族ポリアミンの電子供与基が、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、メトキシ基またはエトキシ基である、請求項1または2に記載の熱硬化性樹脂用硬化剤組成物。
【請求項4】
硬化剤Cの芳香族ポリアミンの融点が150℃以下である、請求項1~3のいずれかに記載の熱硬化性樹脂用硬化剤組成物。
【請求項5】
硬化剤Aの芳香族ポリアミンが芳香族ジアミンである、請求項1~4のいずれかに記載の熱硬化性樹脂用硬化剤組成物。
【請求項6】
硬化剤Aの芳香族ジアミンが4,4’-ジアミノジフェニルメタン誘導体である、請求項5に記載の熱硬化性樹脂用硬化剤組成物。
【請求項7】
硬化剤Bの芳香族ポリアミンが、フェニレンジアミン誘導体または4,4’-ジアミノジフェニルメタン誘導体である、請求項1~6のいずれかに記載の熱硬化性樹脂用硬化剤組成物。
【請求項8】
80~200℃の温度で均一な液体となり、かつ液温を200℃に昇温後に25℃に降温させて25℃で1週間静置した後において均一な液体である、請求項1~7のいずれかに記載の熱硬化性樹脂用硬化剤組成物。
【請求項9】
熱硬化性樹脂用硬化剤組成物およびエポキシ樹脂主剤を含有するエポキシ樹脂組成物であって、熱硬化性樹脂用硬化剤組成物が請求項1~8のいずれかに記載の熱硬化性樹脂用硬化剤組成物であり、エポキシ樹脂組成物中の総エポキシ基の数と熱硬化性樹脂用硬化剤組成物に含まれる活性水素の数の比率が0.7~1.3である、エポキシ樹脂組成物。
【請求項10】
180℃で30分間硬化させて得られる硬化物の、下記式で表されるDSC硬化度αが98%以上である、請求項9に記載のエポキシ樹脂組成物。
α=(ΔH未硬化-ΔH硬化物)/ΔH未硬化×100
(ただし、ΔHは20℃/分間の昇温速度でDSC測定を行った際に確認される硬化反応に伴う発熱量であり、ΔH未硬化は未硬化のエポキシ樹脂組成物のΔHであり、ΔH硬化物は樹脂硬化物のΔHである。)
【請求項11】
請求項9または10に記載のエポキシ樹脂組成物を硬化させて得られるエポキシ樹脂硬化物。
【請求項12】
請求項11に記載のエポキシ樹脂硬化物および繊維強化基材を含む繊維強化複合材料。
【請求項13】
繊維強化基材が炭素繊維強化基材である、請求項12に記載の繊維強化複合材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱硬化性樹脂用硬化剤組成物に関し、詳しくは、可使時間が長く、速硬化性を有するエポキシ樹脂組成物を製造することができる熱硬化性樹脂用硬化剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維強化複合材料(以下、「FRP」ということもある。)は、軽量かつ高強度、高剛性であるため、釣り竿やゴルフシャフト等のスポーツ・レジャー用途、自動車や航空機等の産業用途等の幅広い分野で用いられている。熱硬化性樹脂をマトリックス樹脂とする複合材料の成形方法としては、型内に配置した繊維強化基材に液状の樹脂組成物を含浸、硬化して繊維強化複合材料を得るレジン・トランスファー・モールディング(RTM)法や、予め樹脂を繊維強化基材に含浸させてシート状に形成したプリプレグ(中間基材)を成形する方法、等が知られている。
【0003】
近年では、その中でも特に、繊維強化複合材料を製造するための工程が少なく、オートクレーブのような高価な設備を必要としない、低コストで生産性の優れた製造方法であるRTM成形法が注目されている。RTM成形法に用いるマトリックス樹脂の組成としては、主としてエポキシ樹脂と硬化剤とを含み、場合により他の添加剤を含む。高い力学物性を有する硬化物や繊維強化複合材料を得るために、硬化剤に芳香族ポリアミンを利用することが一般的である。
【0004】
RTM成形法に利用するエポキシ樹脂組成物においては、強化繊維基材へのエポキシ樹脂組成物含浸時に硬化剤が濾別されることを防ぐため、硬化剤や添加剤は主剤となるエポキシ樹脂へ溶解した状態で保管され、使用されることが多い。このような、主剤のエポキシ樹脂へ硬化剤や添加剤を溶解混合したエポキシ樹脂組成物を、1液型のエポキシ樹脂組成物という。
【0005】
この1液型のエポキシ樹脂組成物では、エポキシ樹脂に硬化剤が溶解した状態で存在するため、エポキシ樹脂と硬化剤との反応が比較的起こり易く、エポキシ樹脂組成物のシェルフライフが短くなる問題があった。このため、1液型のエポキシ樹脂組成物は冷凍保管する必要があった。
【0006】
この課題を解決するため、エポキシ樹脂と硬化剤を使用する直前に混合する、2液型エポキシ樹脂組成物が検討されている。2液型エポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂を主成分として含む主剤液と、硬化剤を主成分として含む硬化剤液(硬化剤組成物)とから構成され、使用直前にこれらの2液を混合して得られるエポキシ樹脂組成物である。
【0007】
2液型エポキシ樹脂組成物においては、主剤液と硬化剤液を使用直前に混合するため、その混合の容易さが重要となる。1液型エポキシ樹脂組成物に使用される硬化剤を2液型エポキシ樹脂組成物の硬化剤とすることも可能ではあるが、特許文献1に記載されるように、1液型エポキシ樹脂組成物に使用される芳香族ポリアミン硬化剤は通常固体であり、主剤液との混合不良が起きやすい。そのため、硬化剤組成物は液状であることが望ましい。
【0008】
液状の芳香族ポリアミンを硬化剤としたエポキシ樹脂組成物としては、特許文献2および3に記載のものが知られるている。しかし、特許文献2や3に記載されたエポキシ樹脂
組成物から得られる樹脂硬化物は十分な弾性率や破壊靭性などの力学的特性を備えていない。
【0009】
また、RTM法において、繊維強化複合材料を高効率で生産するために、樹脂硬化時間の短縮を実現する、速硬化性が要求される。特許文献4には、フェノール性水酸基を有する芳香族環を2個以上有する化合物を用いた、速硬化性の2液型エポキシ樹脂組成物が提案されている。しかし、フェノール性水酸基を有する化合物をエポキシ樹脂組成物へ添加した場合、その反応性の高さより樹脂組成物の粘度上昇が速く、RTM成形における可使時間が極端に短くなってしまい、強化繊維基材内部に、十分な量の樹脂を含浸させることが困難となる。そのため、この様なエポキシ樹脂組成物を用いて作製される繊維強化複合材料は、ボイド等の多くの欠陥を内在する。その結果、繊維強化複合材料構造体の圧縮性能及び損傷許容性などが低下する問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2014-148572号公報
【特許文献2】特開2015-193713号公報
【特許文献3】WO2009/119467号公報
【特許文献4】特許第6617559号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従来、高いレベルでの繊維強化複合材料の生産性を実現するために十分な速硬化性を有するとともに、自動車や航空機等の産業用途で要求される耐熱性や力学特性を有する樹脂硬化物を得ることのできる2液型エポキシ樹脂組成物、およびそれを実現する液状の硬化剤組成物は、これまで存在しなかった。
【0012】
本発明は、可使時間が長く、速硬化性を有するエポキシ樹脂組成物を製造することができる熱硬化性樹脂用硬化剤組成物を提供することを課題とする。さらに、加熱することで、200℃以下の温度で均一な液体となり、その後室温で1週間以上均一な液体状態を保持することが可能である熱硬化性樹脂用硬化剤組成物を提供することを課題とする。
本発明はさらに、高い力学特性を備えたエポキシ樹脂組成物の硬化物および繊維強化複合材料を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
すなわち本発明は、硬化剤A、硬化剤Bおよび硬化剤Cを含有してなる熱硬化性樹脂用硬化剤組成物であって、硬化剤Aは、アミノ基に対する2つのオルト位にそれぞれ置換基を有する芳香族ポリアミンであり、該置換基はアルキル基、芳香族基およびハロゲン基から選択され、硬化剤Bは、25℃で液体である芳香族ポリアミンであり、硬化剤Cは、芳香族ポリアミンであり、該芳香族ポリアミンは、アミノ基に対するオルト位に電子供与基をただ一つ有するかオルト位に置換基を有しない芳香族ポリアミンであることを特徴とする、熱硬化性樹脂用硬化剤組成物である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、可使時間が長く、速硬化性を有するエポキシ樹脂組成物を製造することができる熱硬化性樹脂用硬化剤組成物を提供することができる。さらに、加熱することで、200℃以下の温度で均一な液体となり、その後室温で1週間以上均一な液体状態を保持することが可能である熱硬化性樹脂用硬化剤組成物を提供することができる。
本発明はさらに、高い力学特性を備えたエポキシ樹脂組成物の硬化物および繊維強化複合材料を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、繊維強化複合材料を「FRP」、炭素繊維強化複合材料を「CFRP」と略記する場合がある。
【0016】
〔熱硬化性樹脂用硬化剤組成物〕
本発明の熱硬化性樹脂用硬化剤組成物は、硬化剤A、硬化剤Bおよび硬化剤Cを含有してなる熱硬化性樹脂用硬化剤組成物である。この熱硬化性樹脂用硬化剤組成物は、80~200℃の温度に加熱することで均一な液体となる。
【0017】
本発明の熱硬化性樹脂用硬化剤組成物は、80~200℃の温度で均一な液体となり、液温を200℃に昇温後に25℃に降温させて25℃で1週間静置した後において均一な液体であり、好ましくはさらに2週間静置(合計3週間静置)した後においても均一な液体であり、特に好ましくは合計1か月間静置した後においても均一な液体である。
【0018】
液温を200℃に昇温後に25℃に降温させて25℃で静置した後、均一な液体状態である期間が1週間未満であると、実質的に液状の熱硬化性樹脂用硬化剤組成物として扱うことが困難となり、主剤液との混合不良が起きやすいため好ましくない。
【0019】
本発明の熱硬化性樹脂用硬化剤組成物において、熱硬化性樹脂用硬化剤組成物の全質量を基準として硬化剤A、硬化剤Bおよび硬化剤Cの合計が70~100質量%を占める。
本発明の熱硬化性樹脂用硬化剤組成物は、上記の条件を満足する範囲であれば、さらに他の硬化剤やその他の成分を含有してもよい。
【0020】
〔硬化剤A〕
硬化剤Aは、アミノ基に対する2つのオルト位にそれぞれ置換基を有する芳香族ポリアミンであり、該置換基はアルキル基、芳香族基およびハロゲン基から選択される。また、硬化剤Aは25℃で固体である。この硬化剤Aを含有することで、エポキシ樹脂との組成物として硬化させたときに、優れた耐熱性や弾性率、破壊靭性などの力学特性を備えるエポキシ樹脂硬化物を得ることができる。
【0021】
硬化剤Aとして用いる、アミノ基に対する2つのオルト位にそれぞれ置換基を有する芳香族ポリアミンとして、下記化学式(1)で表される化合物を用いることができる。
【0022】
【化1】
【0023】
ただし、上記の化学式(1)中、R~Rはそれぞれ独立に、脂肪族置換基、芳香族置換基、アルコキシ基およびハロゲン原子のいずれかであり、かつ少なくとも1つの置換基は炭素数1~6の脂肪族置換基、芳香族置換基およびハロゲン原子のいずれかである。Xは-CH-、-CH(CH)-、-C(CH-、-S-、-O-、-SO-、-CO-、-CONH-、-NHCO-、-C(=O)-および-O-C(=O)-のいずれかである。
【0024】
化学式(1)において、炭素数は1~6の脂肪族置換基として、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、ネオペンチル基、n-ヘキシル基、シクロヘキシル基が例示される。芳
香族置換基として、フェニル基、ナフチル基が例示される。
【0025】
硬化剤Aの芳香族ポリアミンは、好ましくは芳香族ジアミンであり、なかで、4,4’-ジアミノジフェニルメタン誘導体が特に好ましい。
この芳香族ポリアミンとして、具体的には下記化学式(2)~(5)で示される化合物が例示される。これらは単独で用いてもよく、併用しても用いてもよい。
【0026】
【化2】
【0027】
〔硬化剤B〕
硬化剤Bは、25℃で液体である芳香族ポリアミンである。この芳香族ポリアミンを含有することで、室温で液体の状態を保持することができる熱硬化性樹脂用硬化剤組成物を得ることができる。
【0028】
硬化剤Bの芳香族ポリアミンとして、好ましくはフェニレンジアミン誘導体または4,4’-ジアミノジフェニルメタン誘導体を用いる。この芳香族ポリアミンとして、下記化学式(6)または(7)で表される化合物を例示することができる。
【0029】
【化3】
【0030】
ただし、化学式(6)中、R~Rはそれぞれ独立に、水素原子、脂肪族置換基、アルコキシ基およびチオアルコキシ基のいずれかであり、かつ少なくとも1つの置換基は炭素数1~6の脂肪族置換基およびチオアルコキシ基のいずれかである。
【0031】
【化4】
【0032】
ただし、化学式(7)中、R~R10はそれぞれ独立に、脂肪族置換基、メトキシ基、アルコキシ基およびチオアルコキシ基のいずれかである。
【0033】
硬化剤Bとして用いる芳香族ポリアミンとして。具体的には下記化学式(8)~(12)で表される化合物を例示すことができる。これらは単独で用いてもよく、併用してもよい。
【0034】
【化5】
【0035】
本発明の熱硬化性樹脂用硬化剤組成物において、硬化剤Aと硬化剤Bの質量比率は、好ましくは1:99~99:1、さらに好ましくは20:80~80:20、特に好ましくは40:60~70:30である。硬化剤Aの割合がこれより少ないと、得られる樹脂硬化物の耐熱性や弾性率、破壊靭性などの力学特性が不十分となりやすく好ましくない。他方、硬化剤Aの割合がこれより多いと、得られる熱硬化性樹脂用硬化剤組成物が、室温で液状を保持することが困難となり好ましくない。
【0036】
〔硬化剤C〕
硬化剤Cは、芳香族ポリアミンであり、該芳香族ポリアミンは、アミノ基に対するオルト位に電子供与基をただ一つ有するかオルト位に置換基を有しない芳香族ポリアミンである。硬化剤Cの芳香族ポリアミンの電子供与基は、好ましくはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、メトキシ基またはエトキシ基である。この硬化剤Cを含有することで、得られるエポキシ樹脂組成物の硬化反応が促進され、エポキシ樹脂組成物に、速
硬化性を付与することができる。
【0037】
硬化剤Cとして、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’-チオジアニリン、4,4’-ジアミノ-3,3’-ジメチルジフェニルメタン、1,1-ビス(4-アミノフェニル)シクロヘキサン、3,3’-ジアミノベンゾフェノン、m-フェニレンジアミン、2,4-ジアミノトルエン、2,6-ジアミノトルエン、2,4,6-トリメチル-1,3-フェニレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、3,4’-ジアミノジフェニルスルホン、o-ジアニシジン、3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジンを例示することができる。なかでも、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、2,6-ジアミノトルエン、m-フェニレンジアミンを用いることが好ましく、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、2,6-ジアミノトルエン、m-フェニレンジアミンが好ましい。
【0038】
硬化剤Cの融点は、好ましくは200℃以下、さらに好ましくは150℃以下、特に好ましくは120℃以下である。融点が200℃を超えると、硬化剤Cを硬化剤Aおよび硬化剤Bと混合したときに液体状の組成物を得ることが困難となり、得られる熱硬化性樹脂用硬化剤組成物を室温で液体状に保持することが困難となり易く好ましくない。また、硬化剤Aは25℃で固体である。
【0039】
本発明の熱硬化性樹脂用硬化剤組成物において、硬化剤Aと硬化剤Bとの合計100質量部に対して硬化剤Cは、好ましくは1~43質量部、さらに好ましくは3~30質量部、特に好ましくは5~20質量が含有される。含有量が1質量部未満であると、得られるエポキシ樹脂組成物に速硬化性を付与することが困難となり好ましくない。他方、43質量部を超えると、得られるエポキシ樹脂組成物の反応性が過剰に高くなり、RTM成形における可使時間が極端に短くなり好ましくない。この場合、強化繊維基材内部に十分な量の樹脂を含浸させることが困難となり、この様なエポキシ樹脂組成物を用いて作製される繊維強化複合材料は、ボイド等の多くの欠陥を内在することになり、繊維強化複合材料構造体の圧縮性能および損傷許容性が低下する。
【0040】
〔その他の成分〕
本発明の熱硬化性樹脂用硬化剤組成物は、さらにその他の成分を含有していてもよく、例えば、導電性粒子、難燃剤、無機系充填剤、内部離型剤を含有してもよい。
【0041】
導電性粒子として、ポリアセチレン粒子、ポリアニリン粒子、ポリピロール粒子、ポリチオフェン粒子、ポリイソチアナフテン粒子及びポリエチレンジオキシチオフェン粒子等の導電性ポリマー粒子;カーボン粒子;炭素繊維粒子;金属粒子;無機材料または有機材料から成るコア材を導電性物質で被覆した粒子を例示することができる。
【0042】
難燃剤として、リン系難燃剤を例示することができる。このリン系難燃剤は分子中にリン原子を含むものであればよく、リン酸エステル、縮合リン酸エステル、ホスファゼン化合物、ポリリン酸塩といった有機リン化合物や赤リンを例示することができる。
【0043】
無機系充填剤材として、ホウ酸アルミニウム、炭酸カルシウム、炭酸ケイ素、窒化ケイ素、チタン酸カリウム、塩基性硫酸マグネシウム、酸化亜鉛、グラファイト、硫酸カルシウム、ホウ酸マグネシウム、酸化マグネシウム、ケイ酸塩鉱物を例示することができる。
特に、ケイ酸塩鉱物を用いることが好ましい。ケイ酸塩鉱物の市販品として、THIXOTROPIC AGENT DT 5039(ハンツマン・ジャパン株式会社製)を挙げることができる。
【0044】
内部離型剤として、例えば、金属石鹸類、ポリエチレンワックスやカルバナワックスといった植物ワックス、脂肪酸エステル系離型剤、シリコンオイル、動物ワックス、フッ素系非イオン界面活性剤を例示することができる。内部離型剤の市販品として、MOLD WIZ(登録商標)、INT1846(AXEL PLASTICS RESEARCH
LABORATORIES INC.製)、Licowax S、Licowax P、Licowax OP、Licowax PE190、Licowax PED(クラリアントジャパン社製)、ステアリルステアレート(SL-900A;理研ビタミン(株)製を例示することができる。
【0045】
〔熱硬化性樹脂用硬化剤組成物の製造方法〕
本発明の熱硬化性樹脂用硬化剤組成物は、硬化剤Aと硬化剤Bと硬化剤Cと、必要に応じてその他の成分と、を混合することにより、製造することができる。混合の順序は問わない。
【0046】
混合のときの組成物の温度は、好ましくは50~200℃、さらに好ましくは50~150℃、特に好ましくは80~120℃である。200℃を超えると、添加する成分が熱分解してしまう場合があり好ましくない。他方、50℃未満であると、固体である硬化剤Aおよび硬化剤Cが融解せず、硬化剤Bへ融解しにくくなるため、液状の熱硬化性樹脂用硬化剤組成物を得ることが困難となり好ましくない。
【0047】
硬化剤の混合に用いる装置として、ロールミル、プラネタリーミキサー、ニーダー、エクストルーダー、バンバリーミキサー、攪拌翼を備えた混合容器、横型混合槽を例示することができる。混合は、大気中で行ってもよく、不活性ガス雰囲気下で行ってもよい。
【0048】
大気中で混合する場合は、温度および湿度が管理された雰囲気が行うことが好ましい。この場合、例えば30℃以下の一定温度に管理された温度で混合するか、相対湿度50%RH以下の低湿度雰囲気で混合することが好ましい。
【0049】
〔エポキシ樹脂主剤〕
エポキシ樹脂主剤は、エポキシ樹脂を含んで成る。エポキシ樹脂主剤は、これらの他に、その他の任意成分を含んでいても良い。エポキシ樹脂主剤におけるエポキシ樹脂の含有量は、全エポキシ樹脂主剤の質量を基準に30~100質量%、好ましくは50~100質量%である。
【0050】
〔エポキシ樹脂〕
エポキシ樹脂組成物に利用可能なエポキシ樹脂は特に制限されないが、テトラグリシジル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、テトラグリシジル-4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、テトラグリシジル-3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、テトラグリシジル-4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、テトラグリシジル-3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、などの4官能グリシジルアミン型エポキシ樹脂、トリグリシジル-m-アミノフェノール、トリグリシジル-p-アミノフェノール、イソシアヌル酸トリグリシジル、などの3官能エポキシ樹脂、ジグリシジルアニリンやその誘導体であるジグリシジル-o-トルイジン、ジグリシジル-m-トルイジン、ジグリシジル-p-トルイジン、ジグリシジル-キシリジン、ジグリシジル-メシジン、ジグリシジル-アニシジン、ジグリシジル-フェノキシアニリン、あるいはジグリシジル-ナフチルアミンおよびその誘導体、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールFジグリシジルエーテル、ビスフェノールSジグリシジルエーテル、レゾルシノールジグリシジルエーテル、1,6-ナフタレンジオールジグリシジルエーテル、などの2官能エポキシ樹脂、が例示される。これらのエポキシ樹脂を単独で用いても良いが、複数のエポキシ樹脂を混合して用いても良い。
【0051】
エポキシ樹脂は、必要に応じて合成しても良い。どのような方法で合成しても良いが、例えば、原料である芳香族ジアミンやアミノフェノール、ジフェノールとエピクロロヒドリンなどのエピハロヒドリンとを反応させてハロヒドリン体を得た後、次いでアルカリ性化合物を用いて環化反応することにより得られる。
【0052】
エピハロヒドリンとしては、例えば、エピクロロヒドリン、エピブロモヒドリン、エピフルオロヒドリンなどが挙げられる。これらの中でも、反応性や取扱性の観点から、エピクロロヒドリンおよびエピブロモヒドリンが特に好ましい。
【0053】
原料である芳香族ジアミンやアミノフェノール、ジフェノールとエピハロヒドリンとのモル比は1:1~1:30が好ましく、1:3~1:20がより好ましい。反応時に用いる溶媒としては、エタノールやn-ブタノールなどのアルコール系溶媒、メチルイソブチルケトンやメチルエチルケトンなどのケトン系溶媒、アセトニトリルやN,N-ジメチルホルムアミドなどの非プロトン性極性溶媒、トルエンやキシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒が例示される。溶媒の使用量は芳香族ジアミンに対して1~10質量倍であることが好ましい。
【0054】
反応時間は、0.1~180時間であることが好ましく、0.5~24時間がより好ましい。反応温度は、20~100℃であることが好ましく、40~80℃がより好ましい。
【0055】
環化反応時に用いるアルカリ性化合物としては水酸化ナトリウムや水酸化カリウムが例示される。アルカリ性化合物は固体として添加しても水溶液として添加してもよい。
【0056】
環化反応時には相間移動触媒を用いてもよい。相間移動触媒としては塩化テトラメチルアンモニウム、臭化テトラエチルアンモニウム、塩化ベンジルトリエチルアンモニウム、硫酸水素テトラブチルアンモニウムなどの第四級アンモニウム塩、臭化トリブチルヘキサデシルホスホニウム、臭化トリブチルドデシルホスホニウムなどのホスホニウム化合物、18-クラウン-6-エーテルなどのクラウンエーテル類が例示される。
【0057】
〔任意成分〕
エポキシ樹脂主剤は、上記のエポキシ樹脂以外に、熱可塑性樹脂を含んでいても良い。熱可塑性樹脂は、得られる繊維強化複合材料の破壊靭性や耐衝撃性を向上させる。かかる熱可塑性樹脂は、熱硬化性樹脂用硬化剤組成物の製造過程で熱硬化性樹脂用硬化剤組成物中に溶解させてもよい。
【0058】
熱可塑性樹脂の具体的例としては、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリエーテルイミド、ポリカーボネート等が挙げられる。これらは、単独で用いても、2種以上を併用しても良い。エポキシ樹脂組成物に含まれる熱可塑性樹脂は、ゲル浸透クロマトグラフィーにより測定される重量平均分子量(Mw)が8000~100000の範囲のポリエーテルスルホン、ポリスルホンが特に好ましい。重量平均分子量(Mw)が8000以上であれば、得られるFRPの耐衝撃性が十分となり、また100000以下であれば、粘度が著しく高くなることなく良好な取扱性を示すエポキシ樹脂組成物が得られる。エポキシ樹脂可溶性熱可塑性樹脂の分子量分布は均一であることが好ましい。特に、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比である多分散度(Mw/Mn)が1~10の範囲であることが好ましく、1.1~5の範囲であることがより好ましい。
【0059】
熱可塑性樹脂は、エポキシ樹脂と反応性を有する反応基又は水素結合を形成する官能基を有していることが好ましい。このような熱可塑性樹脂は、エポキシ樹脂の硬化過程中における溶解安定性を向上させることができる。また、硬化後に得られる繊維強化複合材料に破壊靭性、耐薬品性、耐熱性及び耐湿熱性を付与することができる。
【0060】
エポキシ樹脂との反応性を有する反応基としては、水酸基、カルボン酸基、イミノ基、アミノ基などが好ましい。水酸基末端のポリエーテルスルホンを用いると、得られる繊維強化複合材料の耐衝撃性、破壊靭性及び耐溶剤性が特に優れるためより好ましい。
【0061】
熱硬化性樹脂用硬化剤組成物に含まれる熱可塑性樹脂の含有量は、粘度に応じて適宜調整される。繊維強化基材への含浸の観点から、熱硬化性樹脂用硬化剤組成物100質量部に対して、0.1~10質量部が好ましく、0.5~5質量部がより好ましい。0.1質量部以上の場合は、得られる繊維強化複合材料は十分な破壊靭性や耐衝撃性を示す。熱可塑性樹脂の含有量が10質量部以下であれば、エポキシ樹脂組成物の粘度が著しく高くなることなく、繊維強化基材への含浸が容易となり、得られる繊維強化複合材料の特性が向上する。
【0062】
熱可塑性樹脂には、アミン末端基を有する反応性芳香族オリゴマー(以下、単に「芳香族オリゴマー」ともいう)を含むことが好ましい。
【0063】
エポキシ樹脂組成物は、加熱硬化時にエポキシ樹脂と硬化剤との硬化反応により高分子量化する。高分子量化により二相域が拡大することによって、エポキシ樹脂組成物に溶解していた芳香族オリゴマーは、反応誘起型の相分離を引き起こす。この相分離により、硬化後のエポキシ樹脂と、芳香族オリゴマーと、が共連続となる樹脂の二相構造をマトリックス樹脂内に形成する。また、芳香族オリゴマーはアミン末端基を有していることから、エポキシ樹脂との反応も生じる。この共連続の二相構造における各相は互いに強固に結合しているため、耐溶剤性も向上している。
【0064】
この共連続の構造は、繊維強化複合材料に対する外部からの衝撃を吸収してクラック伝播を抑制する。その結果、アミン末端基を有する反応性芳香族オリゴマーを含むエポキシ樹脂組成物を用いて作製される繊維強化複合材料は、高い耐衝撃性及び破壊靭性を有する。
【0065】
この芳香族オリゴマーとしては、公知のアミン末端基を有するポリスルホン、アミン末端基を有するポリエーテルスルホンを用いることができる。アミン末端基は第一級アミン(-NH)末端基であることが好ましい。
【0066】
エポキシ樹脂組成物に配合される芳香族オリゴマーは、ゲル浸透クロマトグラフィーにより測定される重量平均分子量が8000~40000であることが好ましい。重量平均分子量が8000以上である場合、マトリクス樹脂の靱性向上効果が高い。また、重量平均分子量が40000以下である場合、樹脂組成物の粘度が高くなり過ぎることなく、強化繊維基材へ樹脂組成物が含浸しやすくなる等の加工上の利点が得られる。
【0067】
芳香族オリゴマーとしては、「Virantage DAMS VW-30500 RP(登録商標)」(Solvay Specialty Polymers社製)のような市販品を好ましく用いることができる。
【0068】
熱硬化性樹脂用硬化剤組成物に配合する前の熱可塑性樹脂の形態は、特に限定されない
が、粒子状であることが好ましい。粒子状の熱可塑性樹脂は、樹脂組成物中に均一に配合、溶解することができる。
【0069】
エポキシ樹脂主剤には、粒子状ゴム成分が配合されてもよい。本発明において、粒子状とは、エポキシ樹脂主剤に溶解せずに分散していることを意味し、且つ当該エポキシ樹脂主剤を用いた樹脂硬化物においても、分散して島成分を構成する。
【0070】
粒子状ゴム成分は、樹脂硬化物や繊維複合材料の破壊靭性や耐衝撃性を向上させる。
粒子状ゴム成分としては、シリコーンゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、メタクリル酸メチル-ブタジエン-スチレンゴムが挙げられる。
【0071】
粒子状ゴム成分の平均粒子径は、1μm以下であることが好ましく、0.5μm以下であることがより好ましく、0.3μm以下であることが更に好ましい。平均粒子径の下限は特に限定されないが、0.03μm以上であることが好ましく、0.05μm以上であることがより好ましく、0.08μm以上であることが更に好ましい。平均粒子径が1μmを超える場合、強化繊維基材への含浸工程において、粒子状ゴム成分が強化繊維基材表面で濾されてしまい、強化繊維束内部へ含浸しにくくなる。これにより、樹脂の含浸不良が起こることがあり、また得られる繊維強化複合材料の物性が低下してしまう。
【0072】
本発明の熱硬化性樹脂用硬化剤組成物と、エポキシ樹脂主剤と、を利用して製造するエポキシ樹脂組成物における粒子状ゴム成分の含有量は、エポキシ樹脂組成物全量のうち0.1~50質量%であることが好ましく、0.5~20質量%であることがより好ましく、1~15質量%であることが更に好ましい。0.1質量%未満の場合、樹脂硬化物や繊維複合材料の破壊靭性や耐衝撃性が十分に向上しない。
【0073】
粒子状ゴム成分は、エポキシ樹脂へ高濃度で分散したマスターバッチとして用いることもできる。この場合、ゴム状成分をエポキシ樹脂組成物へ高度に分散させることが容易になる。
【0074】
粒子状ゴム成分の市販品としては、MX-153(ビスフェノールA型エポキシ樹脂に、33質量%のブタジエンゴムを単一分散させたもの、株式会社カネカ社製)、MX-257(ビスフェノールA型エポキシ樹脂に、37質量%のブタジエンゴムを単一分散させたもの、株式会社カネカ社製)、MX-154(ビスフェノールA型エポキシ樹脂に、40質量%のブタジエンゴムを単一分散させたもの、株式会社カネカ社製)、MX-960(ビスフェノールA型エポキシ樹脂に、25質量%のシリコーンゴムを単一分散させたもの、株式会社カネカ社製)、MX-136(ビスフェノールF型エポキシ樹脂に、25質量%のブタジエンゴムを単一分散させたもの、株式会社カネカ社製)、MX-965(ビスフェノールF型エポキシ樹脂に、25質量%のシリコーンゴムを単一分散させたもの、株式会社カネカ社製)、MX-217(フェノールノボラック型エポキシ樹脂に、25質量%のブタジエンゴムを単一分散させたもの、株式会社カネカ社製)、MX-227M75(ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂に、25質量%のスチレンブタジエンゴムを単一分散させたもの、株式会社カネカ社製)、MX-334M75(臭素化エポキシ樹脂に、25質量%のスチレンブタジエンゴムを単一分散させたもの、株式会社カネカ社製)、MX-416(4官能グリシジルアミン型エポキシ樹脂に、25質量%のブタジエンゴムを単一分散させたもの、株式会社カネカ社製)、MX-451(3官能グリシジルアミン型エポキシ樹脂に、25質量%のスチレンブタジエンゴムを単一分散させたもの、株式会社カネカ社製)、が挙げられる。
【0075】
エポキシ樹脂主剤には、その他の添加剤として、導電性粒子や難燃剤、無機系充填剤、内部離型剤が配合されてもよい。
【0076】
導電性粒子としては、ポリアセチレン粒子、ポリアニリン粒子、ポリピロール粒子、ポリチオフェン粒子、ポリイソチアナフテン粒子及びポリエチレンジオキシチオフェン粒子等の導電性ポリマー粒子;カーボン粒子;炭素繊維粒子;金属粒子;無機材料又は有機材料から成るコア材を導電性物質で被覆した粒子が例示される。
【0077】
難燃剤としては、リン系難燃剤が例示される。リン系難燃剤としては、分子中にリン原子を含むものであれば特に限定されず、例えば、リン酸エステル、縮合リン酸エステル、ホスファゼン化合物、ポリリン酸塩などの有機リン化合物や赤リンが挙げられる。
【0078】
無機系充填剤材としては、例えば、ホウ酸アルミニウム、炭酸カルシウム、炭酸ケイ素、窒化ケイ素、チタン酸カリウム、塩基性硫酸マグネシウム、酸化亜鉛、グラファイト、硫酸カルシウム、ホウ酸マグネシウム、酸化マグネシウム、ケイ酸塩鉱物が挙げられる。特に、ケイ酸塩鉱物を用いることが好ましい。ケイ酸塩鉱物の市販品としては、THIXOTROPIC AGENT DT 5039(ハンツマン・ジャパン株式会社製)が挙げられる。
【0079】
内部離型剤としては、例えば、金属石鹸類、ポリエチレンワックスやカルバナワックス等の植物ワックス、脂肪酸エステル系離型剤、シリコンオイル、動物ワックス、フッ素系非イオン界面活性剤を挙げることができる。これら内部離型剤の配合量は、前記エポキシ樹脂100質量部に対して、0.1~5質量部であることが好ましく、0.2~2質量部であることがさらに好ましい。この範囲内においては、金型からの離型効果が好適に発揮される。
【0080】
内部離型剤の市販品としては、“MOLD WIZ(登録商標)” INT1846(AXEL PLASTICS RESEARCH LABORATORIES INC.製)、Licowax S、Licowax P、Licowax OP、Licowax PE190、Licowax PED(クラリアントジャパン社製)、ステアリルステアレート(SL-900A;理研ビタミン(株)製が挙げられる。
【0081】
〔エポキシ樹脂主剤の製造方法〕
エポキシ樹脂主剤は、エポキシ樹脂と、必要に応じてその他の任意成分と、を混合することにより製造できる。これらの混合の順序は問わない。
また、エポキシ樹脂組成物の状態としては、各成分が均一に混和した一液の状態でもよく、一部の成分が固体として分散したスラリーの状態でもよい。
【0082】
エポキシ樹脂主剤の製造方法は、特に限定されるものではなく、従来公知のいずれの方法を用いてもよい。混合温度としては、40~200℃の範囲が例示できる。200℃を超える場合、部分的にエポキシ樹脂の自己重合反応が進行して強化繊維基材への含浸性が低下したり、得られるエポキシ樹脂主剤を用いて製造される樹脂硬化物の物性が低下したりする場合がある。40℃未満である場合、エポキシ樹脂主剤の粘度が高く、実質的に混合が困難となる場合がある。好ましくは50~100℃であり、さらに好ましくは50~90℃の範囲である。
【0083】
混合機械装置としては、従来公知のものを用いることができる。具体的な例としては、ロールミル、プラネタリーミキサー、ニーダー、エクストルーダー、バンバリーミキサー、攪拌翼を備えた混合容器、横型混合槽などが挙げられる。各成分の混合は、大気中又は不活性ガス雰囲気下で行うことができる。大気中で混合が行われる場合は、温度、湿度が管理された雰囲気が好ましい。特に限定されるものではないが、例えば、30℃以下の一定温度に管理された温度や、相対湿度50%RH以下の低湿度雰囲気で混合することが好ましい。
【0084】
〔エポキシ樹脂組成物〕
エポキシ樹脂組成物は、本発明の熱硬化性樹脂用硬化剤組成物とエポキシ樹脂主剤と、を含んで成る。
【0085】
エポキシ樹脂組成物は、100℃における粘度が、50mPa・s以下であることが好ましく、30mPa・sであることがより好ましく、20mPa・sであることが更に好ましい。100℃における粘度が、50mPa・sを超える場合、エポキシ樹脂組成物の強化繊維基材への含浸が困難になる。その結果、得られる繊維強化複合材料においてボイド等が形成され易くなり、物性の低下を引き起こす。なお、粘度と含浸性の関係は強化繊維基材構成にも左右されるものであり、上記の粘度範囲外でも、強化繊維基材への含浸が良好になる場合もある。
【0086】
また、エポキシ樹脂組成物の可使時間は、複合材料の成形条件によって異なるが、例えば、大型の複合材料を、レジントランスファー成形法(RTM法)を用いて、比較的低い含侵圧力で繊維基材に含侵させる場合、可使時間として、100℃で保持した際の粘度が50mPa・sを超えるまでの時間が60分以上であることが好ましく、180分以上であることがより好ましく、300分以上であることが更に好ましい。
【0087】
エポキシ樹脂組成物に含まれる硬化剤の総量は、エポキシ樹脂組成物中に配合されている全てのエポキシ樹脂を硬化させるのに適した量であり、用いるエポキシ樹脂や硬化剤の種類に応じて適宜調節される。具体的にはエポキシ樹脂組成物中のエポキシ樹脂の総エポキシ基の数と熱硬化性樹脂用硬化剤組成物に含まれる活性水素の数の比率は、好ましくは0.7~1.3、さらに好ましくは0.8~1.2、特に好ましくは0.9~1.1である。活性水素の数の比率が0.7未満であるか1.3を超えると、エポキシ基と活性水素のモルバランスが崩れ、得られる樹脂硬化物の架橋密度が不十分となり、耐熱性や、弾性率や破壊靭性などの力学特性が低くなり好ましくない。
【0088】
本発明によれば、180℃で30分間硬化させて得られる硬化物の、下記式で表されるDSC硬化度αが98%以上である、エポキシ樹脂組成物を得ることができる。
α=(ΔH未硬化-ΔH硬化物)/ΔH未硬化×100
(ただし、ΔHは20℃/分間の昇温速度でDSC測定を行った際に確認される硬化反応に伴う発熱量であり、ΔH未硬化は未硬化のエポキシ樹脂組成物のΔHであり、ΔH硬化物は樹脂硬化物のΔHである。)
【0089】
すなわち、本発明のエポキシ樹脂組成物は、180℃で30分間硬化させて得られる硬化物の、上記式で表されるDSC硬化度αが98%以上である、エポキシ樹脂組成物である。DSC硬化度αが98%以上であることで、優れた耐熱性、力学特性を得ることができるとともに、経時的な特性の変化を抑制することができる。
【0090】
〔エポキシ樹脂硬化物〕
本発明はまた、上記のエポキシ樹脂組成物を硬化させて得られるエポキシ樹脂硬化物である。
【0091】
この樹脂硬化物は、ガラス転移温度が、好ましくは150℃以上、さらに好ましくは180℃以上、特に好ましくは200℃以上である。150℃未満であると、産業用途として利用する場合に耐熱性が不十分となり好ましくない。
このエポキシ樹脂硬化物は、吸水時におけるガラス転移温度が、好ましくは120℃以上、さらに好ましくは140℃以上である。120℃未満であると、産業用途として利用
する場合、耐熱性が不十分となり好ましくない。
【0092】
この樹脂硬化物は、JIS K7171法で測定される曲げ弾性率が、好ましくは3.0GPa以上、さらに好ましくは3.3GPa以上、特に好ましくは3.5GPa以上である。3.0GPa未満であると、エポキシ樹脂組成物を使用して得られる繊維強化複合材料の特性が低下し易く好ましくない。
【0093】
〔繊維強化複合材料〕
本発明はまた、上記のエポキシ樹脂硬化物および繊維強化基材を含む繊維強化複合材料である。この繊維強化複合材料は、繊維強化基材と、本発明のエポキシ樹脂組成物とを複合化して硬化させることにより得ることができる。繊維強化基材として、好ましくは炭素繊維強化基材を用いる。硬化は加熱より行うことができる。
【0094】
繊維強化基材とエポキシ樹脂組成物とを複合化する方法として、繊維強化基材とエポキシ樹脂組成物とを予め複合化してもよく、例えば、レジントランスファー成形法(RTM法)、ハンドレイアップ法、フィラメントワインディング法、プルトルージョン法のように成形時に複合化してもよい。
【0095】
本発明のエポキシ樹脂組成物を用いて繊維強化複合材料を製造する方法として、例えばRTM法、オートクレーブ成形法、プレス成形法を用いることができる。本発明のエポキシ樹脂組成物は、特にRTM法に適している。ここで、RTM法は、型内に配置した繊維強化基材に液状のエポキシ樹脂組成物を含浸、硬化して繊維強化複合材料を得る方法である。複雑形状の繊維強化複合材料を効率よく得る観点からRTM法は好ましい成型方法である。
【0096】
本発明において、RTM法において用いられる型として、剛性材料からなるクローズドモールドを用いてもよく、剛性材料のオープンモールドと可撓性のフィルム(バッグ)を用いてもよい。後者の場合、繊維強化基材は、剛性材料のオープンモールドと可撓性フィルムの間に設置することができる。剛性材料としては、例えばスチールやアルミニウムなどの金属、繊維強化プラスチック(FRP)、木材、石膏などを用いることができる。可撓性のフィルムの材料としては、例えばポリアミド、ポリイミド、ポリエステル、フッ素樹脂、シリコーン樹脂を用いることができる。
【0097】
RTM法において剛性材料のクローズドモールドを用いる場合には、加圧して型締めし、エポキシ樹脂組成物を加圧して注入する。このとき、注入口とは別に吸引口を設け、真空ポンプに接続して吸引してもよい。吸引を行うと、特別な加圧手段を用いることなく大気圧のみでエポキシ樹脂組成物を注入することができる。この方法では、複数の吸引口を設けることにより大型の部材を製造することができ、好適に用いることができる。
【0098】
RTM法において、剛性材料のオープンモールドと可撓性フィルムを用いる場合には、吸引を行い、特別な加圧手段を用いることなく大気圧のみでエポキシ樹脂を注入してもよい。大気圧のみでの注入で良好な含浸を実現するために、樹脂拡散媒体を用いることが有効である。さらに、繊維強化基材の設置に先立ち、剛性材料の表面にゲルコートを塗布してもよい。
【0099】
RTM法において、繊維強化基材にエポキシ樹脂組成物を含浸した後、加熱硬化を行う。加熱硬化時の型温は、通常、エポキシ樹脂組成物の注入時における型温より高い温度が選ばれる。加熱硬化時の型温は例えば80~200℃である。加熱硬化の時間は例えば1分間~20時間である。加熱硬化が完了した後、脱型して繊維強化複合材料を取り出す。その後、得られた繊維強化複合材料をより高い温度で加熱して後硬化を行ってもよい。後硬化の温度は例えば150~200℃、時間は例えば1分間~4時間である。
【0100】
エポキシ樹脂組成物をRTM法で繊維強化基材に含浸させる際の含浸圧力は、その樹脂組成物の粘度や樹脂フローなどを勘案して適宜決定すればよい。具体的な含浸圧力は、好ましくは0.001~10MPa、さらに好ましくは0.01~1MPaである。RTM法を用いて繊維強化複合材料を得る場合、エポキシ樹脂組成物は、100℃における粘度が、50mPa・s以下であることが好ましく、30mPa・sであることがより好ましく、20mPa・sであることが更に好ましい。100℃における粘度が、50mPa・sを超える場合、エポキシ樹脂組成物の強化繊維基材への含浸が困難になる。
【0101】
RTM法においては、本発明の熱硬化性樹脂用硬化剤組成物とエポキシ樹脂は含浸する直前に混合されて、エポキシ樹脂組成物が製造されることが好ましい。本発明の熱硬化性樹脂用硬化剤組成物はエポキシ樹脂との反応性が高いが、含浸される直前に混合されてエポキシ樹脂組成物とされれることで、エポキシ樹脂組成物の粘度が上昇する前に強化繊維基材内部に十分な量のエポキシ樹脂組成物を含浸させることができる。このため、作製される繊維強化複合材料は、ボイド等の欠陥を含まず、圧縮性能および損傷許容性に優れる。
【0102】
このように本発明によれば、繊維強化複合材料の製造方法が提供される。すなわち、本発明のエポキシ樹脂組成物を繊維強化基材に含浸して含浸基材とする工程、および該工程で得られた含浸基材を硬化する工程を含む、繊維強化複合材料の製造方法である。
【0103】
この製造方法において、本発明のエポキシ樹脂組成物を繊維強化基材に含浸して含浸基材とする工程が、本発明のエポキシ樹脂組成物を、型内に配置した繊維強化基材に含浸して含浸基材とする工程であり、その工程で得られた含浸基材を硬化する工程が含浸基材を加熱硬化する工程であることが好ましい。
そして、本発明のエポキシ樹脂組成物を繊維強化基材に含浸して含浸基材とする工程の直前に、本発明のエポキシ樹脂組成物を調製する工程が含まれることが好ましい。
【実施例0104】
以下、実施例によって本発明をより具体的に説明する。実施例および比較例において使用した成分および評価方法を以下に記載する。
【0105】
1.エポキシ樹脂組成物の原料
(1)硬化剤
(1-1) 硬化剤A
・4,4’-ジアミノ-3,3’-ジイソプロピル-5,5’-ジメチルジフェニルメタン(ロンザ社製 Lonzacure M-MIPA(製品名)、以下「M-MIPA」と略記する、融点70℃、25℃で固体)
・4,4’-ジアミノ-3,3’-ジエチル-5,5’-ジメチルジフェニルメタン(クミアイ化学社製 MED-J(製品名)、以下「MED-J」と略記する、融点76℃、25℃で固体)
【0106】
(1-2) 硬化剤B
・ジエチルトルエンジアミン(クミアイ化学社製 ハートキュア10(製品名)、以下「DETDA」と略記する、25℃で液体)
・ジメチルチオトルエンジアミン(クミアイ化学社製 ハートキュア30(製品名)、以下「DMTDA」と略記する、25℃で液体)
【0107】
(1-3) 硬化剤C
・3,4’-ジアミノジフェニルエーテル(帝人社製、以下「3,4’-DAPE」と略記する、融点80℃、25℃で固体)
・2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(東京化成工業社製、以下「BAPP」と略記する、融点129℃、25℃で固体)
・1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン(東京化成工業社製、以下「TPE-R」と略記する、融点116℃、25℃で固体)
・1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン(東京化成工業社製、以下「APB」と略記する、融点108℃、25℃で固体)
・2,6-ジアミノトルエン(東京化成工業社製、以下「DAT」と略記する、融点106℃、25℃で固体)
・m-フェニレンジアミン(富士フイルム和光純薬社製、以下「MPD」と略記する、融点65℃、25℃で固体)
【0108】
(2)エポキシ樹脂
・N,N-ジグリシジル-o-トルイジン(日本化薬社製 GOT(製品名)、以下「GOT」と略記する)
・N,N-ジグリシジルアニリン(日本化薬社製 GAN(製品名)、以下「GAN」と略記する)
・テトラグリシジル-3,4’-ジアミノジフェニルエーテル
これは、下記の合成例1の方法で合成した。以下「3,4’-TGDDE」と略記する。
【0109】
〔合成例1〕 3,4’-TGDDEの合成
温度計、滴下漏斗、冷却管および攪拌機を取り付けた四つ口フラスコに、エピクロロヒドリン1110.2g(12.0mol)を仕込み、窒素パージを行いながら温度を70℃まで上げて、これにエタノール1000gに溶解させた3,4’-ジアミノジフェニルエーテル200.2g(1.0mol)を4時間かけて滴下した。さらに6時間撹拌し、付加反応を完結させ、N,N,N’,N’-テトラキス(2-ヒドロキシ-3-クロロプロピル)-3,4’-ジアミノジフェニルエーテルを得た。続いて、フラスコ内温度を25℃に下げてから、これに48%NaOH水溶液500.0g(6.0mol)を2時間で滴下してさらに1時間撹拌した。環化反応が終わってからエタノールを留去して、400gのトルエンで抽出を行い5%食塩水で2回洗浄を行った。有機層からトルエンとエピクロロヒドリンを減圧下で除くと、3,4’-TGDDEを主成分とする褐色の粘性液体が361.7g(収率85.2%)得られた。
【0110】
(3)粒子状ゴム成分
・MX-416(株式会社カネカ製 MX-416(製品名)、グリシジルアミン型4官能エポキシ樹脂へ粒子状ゴム成分を25質量%の濃度となる様に分散させたマスターバッチ)
【0111】
2.評価方法
(1)硬化剤組成物の特性
(1-1) 硬化剤組成物の調製
表に記載する割合で硬化剤を計量し、撹拌機を用いて90~110℃の適切な温度で60分間混合し、硬化剤組成物を調製した。
【0112】
(1-2) 硬化剤組成物の液状保持確認
(1-1)で調製した硬化剤組成物を、室温で1週間保管し、目視で固体成分の析出を確認した。析出がないものを「○」、析出の認められたものを「×」とした。
【0113】
(2)樹脂組成物の特性
(2-1) エポキシ樹脂組成物の調製
(1-1)で調製した硬化剤組成物と、エポキシ樹脂、粒子状ゴム成分を表に記載する割合で計量し、撹拌機を用いて80℃で60分間混合し、エポキシ樹脂組成物を調製した。なお、表に記載の組成においては、エポキシ樹脂のエポキシ基と硬化剤の活性水素は当量となる。
【0114】
(2-2) 初期粘度および可使時間
粘度測定は、東機産業株式会社製B型粘度計TVB-15Mを用い、100℃の条件にて行った。測定開始直後の最小測定値を初期粘度とし、粘度が50mPa・sに到達した時間を可使時間とした。
【0115】
(3)樹脂硬化物の特性
(3-1) 樹脂硬化物の作成
(2-1)で調製したエポキシ樹脂組成物を真空中で脱泡した後、4mm厚のシリコン樹脂製スペーサーにより厚み4mmになるように設定したステンレス製モールド中に注入した。180℃の温度で30分硬化させ、厚さ4mmの樹脂硬化物を得た。
【0116】
(3-2) 硬化度
硬化度αは、以下の式を用いて算出した。
α=(ΔH未硬化-ΔH硬化物)/ΔH未硬化×100
(ただし、ΔHは20℃/分間の昇温速度でDSC測定を行った際に確認される硬化反応に伴う発熱量であり、ΔH未硬化は(2-1)で調製したエポキシ樹脂組成物のΔHであり、ΔH硬化物は(3-1)で調製した樹脂硬化物のΔHである。)
【0117】
(3-3) wet-Tg
SACMA 18R-94法に準じて、ガラス転移温度を測定した。
樹脂試験片の寸法は50mm×6mm×2mmで準備した。プレッシャークッカー(エスペック社製、HASTEST PC-422R8)を用い、121℃、24時間、水蒸気飽和の条件にて準備した樹脂試験片の吸水処理を行った。UBM社製動的粘弾性測定装置Rheogel-E400を用い、測定周波数1Hz、昇温速度5℃/分、ひずみ0.0167%の条件で、チャック間の距離を30mmとし、50℃からゴム弾性領域まで、吸水処理した樹脂試験片の貯蔵弾性率E’を測定した。logE’を温度に対してプロットし、logE’の平坦領域の近似直線と、E’が転移する領域の近似直線との交点から求められる温度をガラス転移温度(Tg)として記録した。
【0118】
(3-4) 樹脂曲げ弾性率
JIS K7171法に準じて、試験を実施した。その際の、樹脂試験片の寸法は80mm×10mm×4mm(厚みh)で準備した。支点間距離Lは、16×h(厚み)、試験速度2m/minで曲げ試験を行い、曲げ強度と曲げ弾性率を測定した。
【0119】
(3-5) K1c
ASTM D5045法に準じて、試験を実施した。その際の、樹脂試験片の寸法は50mm×8mm(幅W)×4mmで準備した。クラック長aは、0.45≦a/W≦0.55となるように調整した。なお、クラック長aは破壊試験後の破断面を光学顕微鏡を用いて観察し、クラックの先端までの長さ、および試験片両表面におけるクラック長さの平均値を採用した。
【0120】
〔実施例1〕
(硬化剤組成物の調製)
表に記載する割合で硬化剤を計量し、撹拌機を用いて90℃の温度で60分間混合し、硬化剤組成物を調製した。
【0121】
(エポキシ樹脂組成物の調製)
上記で調製した硬化剤組成物と、エポキシ樹脂、粒子状ゴム成分を表に記載する割合で計量し、撹拌機を用いて80℃で60分間混合し、エポキシ樹脂組成物を調製した。なお、表に記載の組成においては、エポキシ樹脂のエポキシ基と硬化剤の活性水素は当量となる。
【0122】
(樹脂硬化物の作成)
上記で調製したエポキシ樹脂組成物を真空中で脱泡した後、4mm厚のシリコン樹脂製スペーサーにより厚み4mmになるように設定したステンレス製モールド中に注入した。180℃の温度で30分硬化させ、厚さ4mmの樹脂硬化物を得た。
【0123】
【表1】
【0124】
硬化剤組成物、樹脂組成物および樹脂硬化物の特性を表に示した。硬化剤組成物は、1週間以上液状を保持していた。樹脂組成物は、100℃において24mPa・sの低粘度を示し、可使時間は120minとなった。硬化度αは100%となり、速硬化性を示した。樹脂硬化物のwet-Tgは156℃、曲げ弾性率は3.4GPa、K1cは0.86MPa・m1/2と高い力学特性を示した。
【0125】
〔実施例2~22〕
表に記載のとおり組成を変更して実施例1と同様に実施した。エポキシ樹脂組成物の調製においては、実施例2~9および実施例15~22は90℃、実施例10~14は110℃で実施した。硬化剤組成物、樹脂組成物および樹脂硬化物の特性を表に示した。硬化剤組成物は、1週間以上液状を保持していた。樹脂組成物は、100℃において32mPa・s以下の低粘度を示し、可使時間は80min以上となった。硬化度αはいずれも100%となり、速硬化性を示した。樹脂硬化物のwet-Tgは150℃以上、曲げ弾性率は3.2GPa以上、K1cは0.81MPa・m1/2以上と高い力学特性を示した。
【0126】
【表2】
【0127】
〔実施例23~25〕
表に記載のとおり組成を変更して実施例1と同様に実施した。エポキシ樹脂組成物の調製においては、実施例23および実施例25は90℃、実施例24は110℃で実施した。硬化剤組成物、樹脂組成物、樹脂硬化物の特性を表に示した。硬化剤組成物は、1週間以上液状を保持していた。樹脂組成物の粘度は硬化度αはいずれも100%となり、速硬化性を示した。樹脂硬化物のwet-Tgは156℃以上、曲げ弾性率は3.2GPa以上と高い力学特性を示した。
【0128】
【表3】
【0129】
〔比較例1、3および6〕
表に記載のとおり組成を変更して実施例1と同様に実施した。硬化剤組成物の特性を表に示した。いずれも1週間以内に固体が析出してきた。
【0130】
〔比較例2、4および5〕
表に記載のとおり組成を変更して実施例1と同様に実施した。樹脂硬化物の特性を表に示した。いずれも硬化度αが98未満となり、速硬化性が不十分であった。