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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022013380
(43)【公開日】2022-01-18
(54)【発明の名称】弾性ローラ
(51)【国際特許分類】
   G03G 15/00 20060101AFI20220111BHJP
   G03G 15/20 20060101ALI20220111BHJP
【FI】
G03G15/00 551
G03G15/20 515
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020115900
(22)【出願日】2020-07-03
(71)【出願人】
【識別番号】000226932
【氏名又は名称】日星電気株式会社
(72)【発明者】
【氏名】大庭 康嘉
(72)【発明者】
【氏名】寺尾 宏保
(72)【発明者】
【氏名】永田 理人
(72)【発明者】
【氏名】青木 和輝
【テーマコード(参考)】
2H033
2H171
【Fターム(参考)】
2H033AA23
2H033BB06
2H033BB08
2H033BB13
2H033BB14
2H033BB15
2H033BB29
2H033BB30
2H033BB31
2H171FA24
2H171FA26
2H171FA27
2H171FA30
2H171GA25
2H171PA02
2H171PA03
2H171PA05
2H171PA06
2H171PA08
2H171PA09
2H171PA14
2H171QC40
2H171TA02
2H171TA03
2H171TA15
2H171TA18
2H171UA03
2H171UA08
2H171UA10
2H171VA02
2H171VA04
2H171VA06
2H171XA02
(57)【要約】
【課題】定着装置の定着ローラや加圧ローラとして使用される、芯金上にスポンジ状の弾性層が設けられた弾性ローラにおいて、弾性層の耐久性を向上させると共に、スポンジの破壊に伴う硬度低下の影響を抑制することにある。特に、耐久性が高い部分と低い部分の混在に起因する、局所的な硬度変化の発生を抑制する。
【解決手段】半径方向断面における弾性層の山の頂点密度Spdを10000~20000の範囲内に設定することで、スポンジ状構造中に一定値以上の厚さを有するセル壁を分布させる。

【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯金の外周にスポンジ状の弾性層を設けた弾性ローラであって、該弾性層の平均セル径が50~200μmの範囲にあるとともに、半径方向断面における該弾性層の山の頂点密度Spdが10000~20000の範囲内にあることを特徴とする弾性ローラ。
【請求項2】
半径方向断面における、該弾性層の算術平均高さSaが40以上であることを特徴とする、請求項1に記載の弾性ローラ。
【請求項3】
半径方向断面における、該弾性層のクルトシスSkuが10以下であることを特徴とする、請求項1または2に記載の弾性ローラ。
【請求項4】
半径方向断面におけるスキューネスSskが0未満であることを特徴とする、請求項1~3の何れか一項に記載の弾性ローラ。
【請求項5】
該弾性層は、付加硬化型のミラブル型シリコーンゴムで形成されていることを特徴とする、請求項1~4の何れか一項に記載の弾性ローラ。
【請求項6】
該弾性層は、化学発泡剤に由来するセルを含有することを特徴とする、請求項1~5の何れか一項に記載の弾性ローラ。
【請求項7】
該弾性層の表面から任意に選択された第1箇所における該弾性層の硬度を第1硬度、該第1箇所とは異なる第2箇所における該弾性層の硬度を第2硬度とした時に、
該弾性層の厚さが30%圧縮される荷重を加えた状態で、A4用紙を横向きに50万枚印刷した時の、印刷前の第1硬度と印刷後の第1硬度との差である第1硬度変化量と、印刷前の第2硬度と印刷後の第2硬度との差である第2硬度変化量との差が、Asker-Cで1未満であることを特徴とする、
請求項1~6の何れか一項に記載の弾性ローラ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真複写機、ファクシミリ、あるいはプリンタ等の画像形成装置において、定着ローラ、加圧ローラ、搬送ローラ等として使用される弾性ローラに関する。
【背景技術】
【0002】
トナー像を定着する定着装置として、ヒータを内蔵した加熱ローラ(ヒートローラ)と定着ローラ、これらのローラに張架されるエンドレスの定着ベルト、及び加圧ローラからなるベルト定着方式の装置が、ウォーミングアップ時間の短縮、並びに省エネの観点から使用されるようになっている。
【0003】
ベルト定着方式の定着装置の動作速度を高速化するために、定着ベルトと加圧ローラとにより形成されるニップ部の幅を大きくすることが必要とされている。
【0004】
通常、ニップ幅を大きくする方法として、加圧ローラとして弾性層を有した弾性ローラを使用し、弾性層の硬度を低くする方法が取られている。弾性層の硬度を低くするための方法としては、弾性層を低硬度の材料で形成する、弾性層をスポンジ状に形成するといった方法が知られている。
【0005】
弾性層をスポンジ状に形成する際の課題として、弾性層の耐久性が挙げられる。スポンジ状の弾性層は、弾性材料が網目状に形成された構造であるため、強い力が作用した際に網目状構造が破壊されやすく、破壊の進行に伴い弾性ローラの硬度低下などが発生する。
【0006】
スポンジ状の弾性層を有する弾性ローラの耐久性を上げるための方法として、添加剤によって弾性層を構成する材料の強度を高める方法や、弾性層に存在するセルの状態を制御する方法が知られている。
【0007】
特許文献1では、弾性層を構成する多孔質体にシリコーンゴム粒子を分散させることによって、定着ローラの耐久性を高める方法が開示されている。
【0008】
特許文献2では、平均セル径が50~200μmのセルを有する弾性層で構成されたスポンジローラにおいて、補強性シリカを配合することで機械的強度、動的疲労耐久性を得る方法が開示されている。
【0009】
特許文献3では、気泡径が0.1~50μmの気泡を有する弾性層で構成された定着装置用ローラにおいて、ローラの軸に対する気泡の配列の周期性が最も強くなる角度を所定の範囲内に設定することで、耐久性を得る方法が記載されている。
【0010】
特許文献4では、平均セル径が200~400μmのセルを有する弾性層で構成された弾性ローラにおいて、セル径の標準偏差を所定の範囲内に設定すること耐久性を得る方法が開示されている。
【0011】
特許文献5では、樹脂マイクロバルーンを使用して弾性層の平均セル径を150μm以下とすることで耐久性を高めたスポンジローラが記載されている。
【0012】
しかしながら、添加剤によって弾性層を構成する材料の強度を高める方法は、添加剤によって弾性層の他の物性も変化するため、種類や添加量の調整に手間が掛かると共に、添加剤の使用によって高価格になりやすいのが課題である。価格の課題については、樹脂マイクロバルーンを使用する場合にも存在する。
【0013】
加えて、平均セル径が小さい場合は、スポンジ構造が全体的に緻密な網目状構造となるため、耐久性を高めても構造上の限界が存在するとともに、網目状構造が破壊されると急激に硬度が低下するという課題も存在する。
【0014】
一方、平均セル径が大きい場合は、スポンジ構造が粗い網目状構造となるため、全体的な耐久性は比較的高いが、耐久性が高い部分と低い部分が混在するため、部分的な破壊による局所的な硬度低下が生じやすく、安定した定着を行う観点では好ましくないという課題が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2019-12125号公報
【特許文献2】特開2017-116891号公報
【特許文献3】特開2015-227973号公報
【特許文献4】特開2010-224333号公報
【特許文献5】特開2017-90895号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の課題は、定着装置の定着ローラや加圧ローラとして使用される、芯金上にスポンジ状の弾性層が設けられた弾性ローラにおいて、弾性層の耐久性を向上させると共に、スポンジの破壊に伴う硬度低下の影響を抑制するものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、スポンジ状の弾性層の構造を鋭意検討した結果、弾性層を断面視した際のセル壁の出現頻度を特定の範囲に設定することで、耐久性に優れると共に、硬度低下に伴う影響が少なくなることを見出し、上記の課題を解決するに至った。
【0018】
本発明は、定着装置に使用される弾性ローラであって、芯金の外周に設けたスポンジ状の弾性層を有し、弾性層の平均セル径が50~200μmの範囲にあるとともに、半径方向断面における、弾性層の山頂密度Spdが10000~20000の範囲内にあることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
上記の構成を採る本発明によれば、以下のような作用・効果が奏される。

(a)スポンジ状弾性層のSpdを10000~20000の範囲内に設定することで、スポンジ状構造中に一定値以上の厚さを有するセル壁が分布し、スポンジ状構造の強度が向上するため、弾性ローラの耐久性の向上に寄与する。
(b)セル/セル壁の偏在が少ないため、スポンジ状構造の部分的な破壊が抑制され、局所的な硬度低下による定着への悪影響が低減される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の弾性ローラの基本的構成の長さ方向断面図である。
図2】本発明の弾性ローラの基本的構成の半径方向断面図である。
図3】耐久試験における弾性ローラの平均硬度変化量を示した図である。
図4】耐久試験における弾性ローラの硬度変化量差分を示した図である。
図5】耐久試験における弾性ローラの外径変化を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明について図1、2を参照しながら説明する。
図1及び図2では、本発明の弾性ローラ1の一例を示し、弾性ローラ1は芯金10、芯金10の周囲に設けられた弾性層11で構成される。
本発明で特徴的なことは、弾性層11が平均セル径50~200μmのスポンジ状構造で、半径方向断面における、弾性層11の山の頂点密度Spdが10000~20000の範囲内にあることである。
【0022】
山の頂点密度SpdはISO 25178に規定される値で、単位面積あたりに存在する山頂点の数を表し、単位は1/mmである。
【0023】
本発明が有するようなセルとセル壁を有するスポンジ状弾性層の断面においては、山頂点が存在する場所はセル壁が存在する場所に相当するため、Spdの大小は、単位面積あたりに存在するセル壁の数の指標として用いることができる。
【0024】
単位面積内に小径のセルが分散した緻密なスポンジ状弾性層の場合、単位面積内に多数のセル壁が存在することになるため、Spdは大きくなる傾向にある。
【0025】
反対に、単位面積内に大径のセルが分散した粗いスポンジ状弾性層の場合、単位面積内のセル壁は少なくなるため、Spdは小さくなる傾向にある。
【0026】
また、スポンジ状弾性層の平均セル壁厚さが薄い場合、単位面積内に存在するセル壁の数が大きくなる傾向にあるため、Spdは大きくなる傾向にある。
【0027】
一方、スポンジ状弾性層の平均セル壁厚さが厚い場合、単位面積内に存在するセル壁の数が少なくなる傾向にあるため、Spdは小さくなる傾向にある。
【0028】
スポンジ状構造の破壊はセル壁が破壊されることで進行する。弾性層11の断面の単位面積内に多くのセル壁が存在する場合、一部のセル壁が破壊されても、他のセル壁でスポンジ状構造を維持することができる
【0029】
また、平均セル壁厚さが厚い場合、セル壁が破壊されにくいため、スポンジ状構造の強度が高まる。
【0030】
弾性層11の平均セル径が小さい場合は、単位面積内に多数のセルが存在することになるため、通常は、単位面積内に多数のセル壁が存在するとともに、平均セル壁厚さが薄くなり、Spdは大きくなる。
【0031】
この時、セル壁が多数存在するが、個々のセル壁の強度は小さいため、弾性層11の耐久性は低くなる傾向にある。
【0032】
ここで、Spdが大きくなり過ぎないよう弾性層11を形成することで、弾性層11の平均セル壁厚さが極端に薄くなる事態が回避でき、弾性層11の耐久性の向上に寄与する。
【0033】
一方、弾性層11の平均セル径が大きい場合は、単位面積内に存在するセルの数が少なくなるため、単位面積内に存在するセル壁の数も少なくなり、Spdは小さくなる。
【0034】
Spdが小さくなると、弾性層11はソリッド状構造(充実構造)に近づくため、スポンジ状構造としての機能を得るには、Spdを一定値以上の値にする必要がある。
【0035】
弾性層11の平均セル径が50~200μmの弾性ローラ1においては、半径方向断面における弾性層11のSpdが10000~20000の範囲にあることで、弾性層11の断面の単位面積内にセルとセル壁が一定量存在し、スポンジ状構造としての機能を得ることができると共に、平均セル壁厚さが極端に薄くなる事態も回避できる。
【0036】
このため、弾性層11のスポンジ状構造が有するセル壁は比較的高い強度を有するため、弾性ローラ1の耐久性の向上に寄与する。
【0037】
加えて、単位面積内に存在するセル壁も多いため、一部のセル壁が破壊されてもスポンジ状構造自体は維持され、スポンジ状構造の破壊に伴う弾性層11の硬度低下も抑制される。
【0038】
また、セル壁の破壊が均一に進行しやすいため、局所的な硬度変化も抑制される。
【0039】
弾性層11の断面のSpdを10000~20000の範囲内に設定することで、高い耐久性を有し、硬度低下が抑制された弾性ローラ1を得ることができるが、より好ましいSpdの範囲は13000~17000である。Spdが13000~17000の範囲にあることで、セル/セル壁の偏在がより一層抑制され、安定した耐久性が得られる。
【0040】
本発明においては弾性層11の断面の状態をより詳細に設定することで、より好ましい弾性ローラ1を得ることができる。
【0041】
具体的には、半径方向断面における弾性層11の算術平均高さSaが40以上であることが好ましい。
【0042】
算術平均高さSaはISO 25178に規定される値で、凹凸面における平均面に対して、各凹凸部の深さ及び高さの差の絶対値の平均を表すものである。測定面に存在する凸部が多いほど、また、凸部の幅が広いほど、Saが大きくなる傾向にある。
【0043】
弾性層11の断面において、セル壁は凸部に相当し、セル壁の存在量が多いほど、平均セル壁厚さが厚いほど、Saが大きくなる傾向にある。
【0044】
弾性層11の断面のSaを40以上に設定することで、スポンジ状構造におけるセル壁の存在量、平均セル壁厚さを高めることができ、弾性ローラ1の耐久性向上に寄与する。
【0045】
また、本発明においては、半径方向断面における弾性層11のクルトシスSkuが10以下であることが好ましい。
【0046】
クルトシスSkuはISO 25178に規定される値で、凹凸面の粗さ曲線において、高さ分布の平坦度、尖り度を表すものである。Sku>3の時、尖った山部が支配的な粗さ曲線となり、Sku<3の時、潰れた山部が支配的な粗さ曲線となる。
【0047】
弾性層11の断面において、平均セル壁厚さが厚いほど、断面の粗さ曲線において潰れた山部が多くなり、Skuが小さくなる傾向にある。
【0048】
弾性層11のSkuを10以下に設定することで、スポンジ状構造の強度を保つのに必要十分な平均セル壁厚さを有するセル壁が多くなり、弾性ローラ1の耐久性向上に寄与する。
【0049】
さらに、本発明においては、半径方向断面における弾性層11のスキューネスSskが0未満であることが好ましい。
【0050】
スキューネスSskはISO 25178に規定される値で、凹凸面の粗さ曲線において、平均線を中心としたときの山部と谷部の対称性(凹凸の歪み度)を表す値である。Ssk>0の時は平均線に対して下側に偏った粗さ曲線となっていることを指し、Ssk<0の時は平均線に対して上側に偏った粗さ曲線となっていることを指す。
【0051】
弾性層11の断面において、セル壁の存在量が多いほど、また、平均セル壁厚さが厚いほど、断面の粗さ曲線が上側に偏り、Sskが小さくなる傾向にある。
【0052】
弾性層11のSskを0未満に設定することで、スポンジ状構造の強度を保つのに必要十分な平均セル壁厚さを有するセル壁が多くなり、弾性ローラ1の耐久性向上に寄与する。
【0053】
一定の厚さのセル壁が一定数存在する断面は、粗さ曲線を得た際に、一定数の山部が現れることになる。
【0054】
Ssk>0の時、基準線に対して下側に偏った粗さ曲線となっていることを指し、Ssk<0の時、基準線に対して上側に偏った粗さ曲線となっていることを指す。
【0055】
Ssk<0のとき、山部が頻繁に現れる断面となり、必要十分なセル壁が存在するようになり、スポンジ状構造の強度が得られる。
【0056】
以上述べたように、Spdに加え、Sa、Sku、Sskといった値を適切に設定することで、耐久性がより高く、硬度低下も抑制された弾性ローラ1を得ることができる。
【0057】
Spdをはじめとする本発明を特徴づける値は、以下の方法で測定することができる。
【0058】
[Spd等の測定方法]
弾性ローラ1から所定の手順で観察用試験片を採取し、弾性層11の半径方向断面に相当する面を、市販のレーザーコンフォーカル顕微鏡にて所定の倍率で観察し、画像を取得する。観察箇所は、弾性層11の肉厚の中心付近とする。
【0059】
観察用試験片を採取する際に発生した、観察面の傾斜に伴う誤差を、顕微鏡に付属する画像処理ソフトの補正機能(基準面設定機能等)によって画像補正を行う。さらに、顕微鏡に付属する画像処理ソフトの2次曲面補正機能によって画像補正を行う。
【0060】
補正した画像を、画像処理ソフトの表面粗さ測定機能(ISO 25178に準拠)を使用して測定し、Spd等の必要なパラメータを得る。測定の際にはガウシアンフィルタと終端効果の補正機能を使用し、S-フィルター、L-フィルター、F-オペレーションは未使用とする。
【0061】
本発明の弾性ローラ1が有するスポンジ状の弾性層11を得るための材料、方法は特に限定されないが、付加硬化型のミラブル型シリコーンゴムに、化学発泡剤を混合し、ゴムを架橋させる段階で発泡剤を分解ガス化させ、気泡を発生させてセルを形成し、スポンジ化する方法が好ましく利用できる。
【0062】
ミラブル型のシリコーンゴムとしては、付加硬化型のものと過酸化物硬化型のものが存在するが、過酸化物硬化型の場合、硬化剤として使用される有機過酸化物の分解物がゴムを劣化させる現象が知られている。このため、本発明では付加硬化型のシリコーンゴムが好ましく利用できる。
【0063】
化学発泡剤によるスポンジ化は、微少なセルが大量に形成されにくいため、弾性層11の断面の単位面積におけるセル壁が過度に増え、Spdが上昇することを抑制できる。
【0064】
本発明に使用される化学発泡剤は、ADCA、AIBN等の有機発泡剤が好ましく利用できる。
【0065】
また、本発明においてシリコーンゴムを硬化させる条件は、セルの成長速度(発泡速度)に対して、ゴム架橋の進行速度が相対的に高くなる条件を設定するのが好ましい。具体的な条件は使用するシリコーンゴムの種類や配合、所望する弾性層11の肉厚によって変化するため、一義には設定できないが、上記の条件を意図することで、セルが過度に成長する前にゴム架橋が進行し、セルの成長が抑制される。
【0066】
この結果、必要以上にセルが発生、成長し、セル壁が薄くなってしまうことが抑制されるため、セル壁の肉厚、数を一定量確保することを主眼に置いた本発明に好ましく利用できる。
【0067】
条件の一例としては、シリコーンゴムに応じた温度勾配を設定し、第1温度(低温)から第2温度(高温)まで昇温させて、セルの成長とゴム架橋を進行させる方法が挙げられる。
【0068】
第2温度で所定の時間維持した後、シリコーンゴムに混合された高温硬化剤が反応する第3温度で所定の時間加熱し、シリコーンゴムの硬化を促進させる。
【0069】
以上の条件で行った一次硬化工程の後、さらに所定の第4温度で所定の時間加熱し、シリコーンゴム内に残った硬化剤の残差等の除去、及びシリコーンゴムの硬化完了を行い、弾性層11が完成する。
【0070】
本発明は弾性層11の平均セル径を50~200μmに設定する際に好ましく利用できるが、弾性層11の耐久性を高める観点においては、平均セル径を80~150μmに設定するのが特に好ましい。平均セル径が小さくなると、平均セル径の減少に伴ってセル壁の肉厚が薄くなる傾向にあるため、本発明による耐久性を高める効果が相殺されやすくなる。
【0071】
一方、平均セル径が大きい場合は、耐久性が高い部分と低い部分とが混在しやすくなるため、部分的な破壊による局所的な硬度低下が発生しやすくなる。
【0072】
平均セル径が80~150μmの範囲にある弾性ローラに本発明を適用することで、緻密なスポンジ構造による低硬度化と、セル壁の存在による高い耐久性が両立された弾性ローラ1を得ることができる。
【0073】
なお、本発明の平均セル径は、Spd等と同様、観察用試験片のスライス面を市販のレーザーコンフォーカル顕微鏡で観察し、付属する画像処理ソフトの機能の中からセルの検出、寸法測定に利用できるものを用いて行えば良い。
具体的には自動、もしくは手動で、観察画像におけるセル輪郭に相当する近似円を描き、各近似円の直径の平均値を平均セル径として用いる。
【0074】
芯金10の材料としては、アルミニウム、鉄など、本発明のような弾性ローラ1に広く使用されている芯金材料を適宜選択して使用すれば良い。
【0075】
本発明では必要に応じ、弾性層11の外周に離型層12を設けても良い。離型層12の材料は、フッ素樹脂、シリコーン樹脂など、離型層の材料として知られているものを適宜選択して使用すれば良い。離型層12の形成方法も、チューブ状に成形したものを弾性層11上に被覆する、あるいは液状にしたものを弾性層11上にコーティングするなど、離型層の形成方法として知られているものを適宜選択して使用すれば良い。
なお、図1、2は離型層12を設けた場合の図である。
【0076】
本発明においては、芯金10を含めた各層間の固定強度を上げるために、プライマー、RTVゴム接着剤等を適宜併用しても良い。
【0077】
本発明の弾性ローラ1の大きさは特に限定されないが、本発明の弾性ローラ1は主にA3~A4サイズ程度の印刷用紙に対応した画像形成装置に使用されることを想定したものであるため、通常は弾性層11の長さを200~300mm程度、外径をφ15~35mm程度、特にφ25~30mm程度に設定すれば良い。
【実施例0078】
以下に、本発明を利用した弾性ローラ1の実施例について述べる。
【0079】
[実施例1]
芯金10として、長さ350mm、外径φ20mmの鉄棒を使用する。
【0080】
弾性層11として、未加硫のミラブル型シリコーンゴム100部に対し、付加硬化剤(触媒2部と、遅延剤と架橋剤の混合物0.5部とで構成)、高温硬化剤1.5部、化学発泡剤3.5部を添加し、十分に混合したシリコーンゴム材料をソリッド状の管状体に押出成形し、その後、所定の条件にて加熱・加硫して、長さ310mmにカットしたものを準備する。管状体の内径はφ20mm、外径はφ30mmとする。
【0081】
押出成形された管状体は、予め設定した温度勾配にて、第1温度(低温)から第2温度(高温)まで昇温させた後、第2温度より高温の第3温度にて所定の時間加熱することで、スポンジ化と硬化が完了し、弾性層11となる。
【0082】
芯金10上にRTVゴム接着剤を塗布した後、作成した弾性層11を、長さ方向の中心が芯金10の長さ方向の中心と一致するように被覆し、所定の条件にて接着剤を加熱硬化させ、弾性層11の固定を完了させる。
【0083】
さらに、弾性層11上にRTVゴム接着剤を塗布し、離型層12として肉厚30μmの熱収縮性PFAチューブを被覆し、所定の条件にて加熱・収縮を行って離型層12の固定を完了し、本発明の弾性ローラ1を完成させる。
【0084】
[比較例]
比較例として、実施例1と同等の寸法、構造を有するが、弾性層を別の方法によって形成し、弾性層の状態を変更した弾性ローラを準備する。
【0085】
[比較例1]
特許文献4に基づき、弾性層21を平均セル径が200~400μmのシリコーン発泡弾性層とした弾性ローラ101を比較例1とする。
【0086】
[比較例2]
特許文献5に基づき、弾性層21をマイクロバルーンが含まれたものとし、平均セル径が150μm以下のシリコーン発泡弾性層とした弾性ローラ102を比較例2とする。
【0087】
[弾性層の分析]
以上に述べた実施例、比較例の弾性ローラにおける、弾性層を分析し、Spd等を測定する。
【0088】
[試験片の準備]
弾性ローラの任意の場所から、幅が10mm、厚さが弾性層11の肉厚となるよう、弾性層の試験片を採取する。ここでいう幅は、弾性ローラの軸方向に平行な寸法を指す。すなわち試験片は、弾性層を幅10mmで輪切りにした状態となる。
【0089】
幅10mmの試験片を、幅2mmにスライスし、試験片を5分割する。5分割した試験片のうち、中心の試験片を観察用試験片とする。
【0090】
[Spd等の測定]
レーザーコンフォーカル顕微鏡として株式会社キーエンス製「VK-X1000」を用い、付属する「観察アプリケーション」を使用して弾性層を400倍で観察し、断面画像を得る。
【0091】
試験片をスライスする際に発生した、スライス面の傾斜に伴う誤差を、付属する「マルチファイル解析アプリケーション」の基準面設定機能によって画像補正した後、2次曲面補正機能による画像補正も行い、同アプリケーションの表面粗さ測定機能を用いて弾性層のSpd、Sa、Sku、Sskを測定する。
【0092】
[平均セル径の測定]
平均セル径についても、「マルチファイル解析アプリケーション」を用いて測定する。
同アプリケーションの「高さ表示設定」→「基準面を中心として色付け」を選択し、表示レンジの上限、下限を中心値に設定して、補正画像の白黒2値化を行う。
【0093】
高さ閾値を0μm、微少領域無視に設定し、2値化画像の凹部の体積面積測定を行う。弾性層のセルに相当する部分の直径が自動計算され、全計算値の平均値を弾性層の平均セル径として扱う。
【0094】
弾性層の分析結果を表1に示す。
【表1】
【0095】
[耐久試験]
以上に述べた実施例、各比較例の弾性ローラに対し、耐久試験を行う。
耐久試験の方法は、弾性ローラと対になるヒートロール表面を200℃に加熱し、弾性層の厚さが30%圧縮させる荷重を加えた状態で、周速250mm/秒で10秒間回転、2秒間回転停止を繰り返し、時間経過に伴う弾性ローラの変化を観察する。
【0096】
観察項目としては、弾性層の硬度変化と、弾性ローラの外径変化を選択する。
【0097】
弾性層の硬度変化は、耐久試験開始前の硬度と、耐久試験を開始して一定時間経過ごとの硬度を測定し、その差を硬度変化量とする。
【0098】
弾性層の硬度は、弾性層の左端部から長さ方向に50mm(左端部付近)、175mm(中心部)、300m(右端部付近)の各位置において、円周方向の4箇所(90°毎)で測定し、各位置における4箇所の測定結果の平均値をそれぞれ、左端部硬度、中心部硬度、右端部硬度とし、左端部硬度変化量、中心部硬度変化量、右端部硬度変化量をそれぞれ求める。
【0099】
硬度はアスカーC型硬度計(高分子計器株式会社製)とゴム硬さ計用定圧荷重器CL-150(高分子計器株式会社製)を使用し、ローラ表面に対して垂直に1kgf(9.8N)の荷重をかけてSRIS 0101に準じて測定する。
【0100】
弾性層の外径変化は、耐久試験開始前の外径と、耐久試験を開始して一定時間経過ごとの外径を測定し、その差を外径変化量とする。外径の測定位置は弾性ローラの中心部とする。
【0101】
なお、硬度、外径を測定する際は、弾性ローラを試験装置から取り外し、室温に冷却した状態で行う。
【0102】
耐久試験における硬度変化の様子を図3、4に示す。図3、4の横軸は、耐久試験の経過時間を、耐久試験の条件においてA4用紙を横向きに印刷した際に、その経過時間で印刷可能な枚数に換算して表示している。
【0103】
図3の縦軸(平均硬度変化量)は、左端部硬度変化量、中心部硬度変化量、右端部硬度変化量の平均値であり、図3は耐久試験の経過に伴う弾性ローラの全体的な硬度変化の様子を示すものである。
【0104】
図4の縦軸(硬度変化量差分)は、左端部硬度変化量、中心部硬度変化量、右端部硬度変化量のうち、最大の変化量と最小の変化量の差であり、硬度変化量差分の増加は、局所的な硬度変化が進行していることを示す。
【0105】
比較例1は耐久試験の開始後、早い段階で平均硬度の低下が発生したが、最終的な低下量は比較的小さかった。Spdが比較的小さいため、平均セル壁厚さが厚くなり、耐久性に優れた態様ではあるが、大きい平均セル径が災いして部分的に薄いセル壁も存在すると推測され、耐久試験の初期段階で薄いセル壁の破壊に伴う硬度低下が発生したと考えられる。
【0106】
また、比較例1の硬度変化量差分は、耐久試験開始後の早い段階で上昇し、最終的に最も大きくなった。大きい平均セル径に起因する粗い網目状のスポンジ構造のため、耐久性が高い部分と低い部分が混在し、部分的な破壊による局所的な硬度低下が進行したと考えられる。
【0107】
比較例2は耐久試験の開始後、早い段階で急激な平均硬度の低下が発生した。
平均セル径が小さく、Spdが大きいため、平均セル壁厚さが薄い態様となり、耐久試験の初期段階でセル壁の破壊が急激に進行し、急激な硬度低下が発生したと考えられる。
【0108】
また、比較例1の硬度変化量差分は、耐久試験開始直後に上昇するものも、最終的には1.1程度で安定した。耐久試験の初期段階でセル壁の破壊が急激に進行した結果、セル壁の破壊が全体的に進行し、局所的な硬度低下には至らなかったと考えられる。
【0109】
一方、実施例は耐久試験の開始後、印刷枚数が約37万枚に到達するまで平均硬度の変化が殆どなく、37万枚に到達以降、硬度低下が発生したものの、比較例と比べて低下量は緩やかであった。Spdの設定により、弾性層11のスポンジ状構造が有するセル壁の厚さと数が両立されるため、セル壁の破壊に伴う硬度低下は発生するものの、低下は抑制されていると考えられる。
【0110】
加えて、実施例の硬度変化量差分は大きな増加は見られず、セル壁の偏在が少ないため、スポンジ状構造の部分的な破壊が進行しにくく、局所的な硬度低下が抑制されたと考えられる。
【0111】
耐久試験における外径変化の様子を図5に示す。図3、4と同様、横軸は経過時間を印刷枚数に換算して表示している。
【0112】
比較例1は耐久試験の開始後、早い段階で急激な外径変化が発生し、最も変化量が大きくなった。平均セル径が大きいため、耐久試験の初期段階で薄いセル壁が破壊された際に巨大なセルが形成され、耐久試験時の荷重に耐える能力が減少し、弾性層の圧縮が著しく進行したと考えられる。
【0113】
比較例2は耐久試験の開始直後、外径変化は緩やかであったが、時間経過に伴い外径変化量が増大した。平均セル径が小さいため、耐久試験の初期段階では巨大なセルが形成されにくいものの、時間経過に伴いセル壁の破壊が進行し、ある程度破壊が進行した段階で耐久試験時の荷重に耐える能力が減少し、弾性層の圧縮が進行したと考えられる。
【0114】
一方、実施例は、耐久試験の開始直後は比較例2よりも外径変化が大きかったものの、印刷枚数が約60万毎を越えると比較例2よりも外径変化が小さくなり、最終的な変化量は最も小さかった。比較例2よりも平均セル径が大きいため、耐久試験の開始直後は比較例1に似た挙動を示した考えられるが、Spdの設定により弾性層11のスポンジ状構造が有するセル壁の厚さと数が両立されるため、耐久試験の初期段階で薄いセル壁が破壊された以降はセル壁が破壊されにくい状態となり、耐久試験時の荷重に耐える能力が維持され、弾性層の圧縮が抑制されたと考えられる。
【0115】
以上の結果から、本発明の弾性ローラは従来の弾性ローラと比較して、特に長期間使用した際の物性変化量が少なく、Spdの設定によって耐久性の高い弾性ローラが得られることが確認できた。
【0116】
以上の実施例は芯金の外周にスポンジ状の弾性層を設けた態様について説明したが、本発明はこの態様に限定されるものではなく、所望する弾性ローラの特性によって、複数のスポンジ状弾性層を設けた態様や、ソリッド状の弾性層とスポンジ状の弾性層を組み合わせた態様で使用されるスポンジ状弾性層としても利用できる。
【産業上の利用可能性】
【0117】
本発明の弾性ローラは、定着装置の加圧ローラとしてだけでなく、定着ローラ、プリンタの搬送ローラなど、各種印刷機器のローラとして好適に適用できる。
【符号の説明】
【0118】
1 弾性ローラ
10 芯金
11 弾性層
12 離形層
図1
図2
図3
図4
図5