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特開2022-133801積層体、その製造方法及び空気清浄機
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022133801
(43)【公開日】2022-09-14
(54)【発明の名称】積層体、その製造方法及び空気清浄機
(51)【国際特許分類】
   B32B 9/00 20060101AFI20220907BHJP
   B01J 35/02 20060101ALI20220907BHJP
   B01J 21/06 20060101ALI20220907BHJP
   B01J 37/02 20060101ALI20220907BHJP
【FI】
B32B9/00 A
B01J35/02 J
B01J21/06 A
B01J37/02 301Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021032695
(22)【出願日】2021-03-02
(71)【出願人】
【識別番号】306017014
【氏名又は名称】地方独立行政法人 岩手県工業技術センター
(71)【出願人】
【識別番号】504075027
【氏名又は名称】株式会社 釜石電機製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100209624
【弁理士】
【氏名又は名称】制野 友樹
(72)【発明者】
【氏名】桑嶋 孝幸
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 一彦
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 太郎
(72)【発明者】
【氏名】太田 利夫
【テーマコード(参考)】
4F100
4G169
【Fターム(参考)】
4F100AA21C
4F100AB01A
4F100AB10A
4F100AB31A
4F100AK01B
4F100AK25B
4F100AK53D
4F100AT00A
4F100BA03
4F100BA04
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10C
4F100DE00C
4F100GB41
4F100JL08C
4G169AA03
4G169AA08
4G169BA04A
4G169BA04B
4G169BA48A
4G169CA02
4G169CA10
4G169CA15
4G169CA17
4G169FA01
4G169FA03
4G169FB24
4G169HA04
4G169HB02
4G169HC15
4G169HD10
4G169HE03
(57)【要約】
【課題】洗浄等によって光触媒能の低下が少ない光触媒系の積層体及びそれを用いた空気清浄機を提供すること。
【解決手段】本発明の一態様によれば、積層体が提供される。この積層体では、基材と、中間層と、光触媒層とが、この順に積層される。中間層は、樹脂を含む。光触媒層は、少なくとも光触媒粒子が堆積され、かつ光触媒粒子の少なくとも一部が中間層に埋没して構成される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層体であって、
基材と、中間層と、光触媒層とが、この順に積層され、
前記中間層は、樹脂を含み、
前記光触媒層は、少なくとも光触媒粒子が堆積され、かつ前記光触媒粒子の少なくとも一部が前記中間層に埋没して構成される、
積層体。
【請求項2】
請求項1に記載の積層体において、
前記光触媒層は、アナターゼ型酸化チタン粒子を含む、
積層体。
【請求項3】
請求項1に記載の積層体において、
前記光触媒層は、アナターゼ型酸化チタン粒子を95質量%以上含む、
積層体。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の積層体において、
前記基材は、金属及び/又は合金を含む、
積層体。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の積層体において、
前記中間層は、アクリル樹脂を含む、
積層体。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか1項に記載の積層体において、
前記中間層は、第1中間層と、第2中間層とを有し、
前記第1中間層は、前記光触媒層に接して配置され、かつアクリル樹脂を含み、
前記第2中間層は、前記基材に接して配置され、かつエポキシ樹脂を含む、
積層体。
【請求項7】
積層体の製造方法であって、
基材の上に、樹脂を含む中間層を形成する中間層形成工程と、
前記中間層の上に、コールドスプレー法により、光触媒粒子を堆積させる粒子堆積工程とを含む、
製造方法。
【請求項8】
空気清浄機であって、
請求項1~5のいずれか1項に記載の積層体を備える、
空気清浄機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体、その製造方法及び空気清浄機に関する。
【背景技術】
【0002】
光触媒材料は、光の照射下で有機物等を分解することができるため、空気清浄機や壁面等に利用されている。現在、このような有機物等の分解性能等を高めるため、様々な検討がなされている。
【0003】
例えば、特許文献1には、光触媒材料としてのアナターゼ型酸化チタン粒子をコールドスプレー法により金属基材上に堆積させて得られる被膜は、一酸化窒素の分解性能が高いことが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008-297184号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、空気清浄機等に設けられた被膜は、分解した有機物がその表面に付着して光触媒能を低下させることがあるため、用途によっては水洗いを行うことがある。しかしながら、特許文献1に示されるような被膜では、酸化チタンの粒子が融着等しておらず、各粒子が堆積されるため水洗いによって洗い流されて分解性能が低下することがある。
【0006】
本発明では上記事情に鑑み、洗浄等によって光触媒能の低下が少ない光触媒系の積層体及びそれを用いた空気清浄機を提供することとした。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様によれば、積層体が提供される。この積層体では、基材と、中間層と、光触媒層とが、この順に積層される。中間層は、樹脂を含む。光触媒層は、少なくとも光触媒粒子が堆積され、かつ光触媒粒子の少なくとも一部が中間層に埋没して構成される。
【0008】
次に記載の各態様で提供されてもよい。
前記積層体において、前記光触媒層は、アナターゼ型酸化チタン粒子を含む、積層体。
前記積層体において、前記光触媒層は、アナターゼ型酸化チタン粒子を95質量%以上含む、積層体。
前記積層体において、前記基材は、金属及び/又は合金を含む、積層体。
前記積層体において、前記中間層は、アクリル樹脂を含む、積層体。
前記積層体において、前記中間層は、第1中間層と、第2中間層とを有し、前記第1中間層は、前記光触媒層に接して配置され、かつアクリル樹脂を含み、前記第2中間層は、前記基材に接して配置され、かつエポキシ樹脂を含む、積層体。
積層体の製造方法であって、基材の上に、樹脂を含む中間層を形成する中間層形成工程と、前記中間層の上に、コールドスプレー法により、光触媒粒子を堆積させる粒子堆積工程とを含む、製造方法。
空気清浄機であって、前記積層体を備える、空気清浄機。
もちろん、この限りではない。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、洗浄等によって光触媒能の低下が少ない光触媒系の積層体及びそれを用いた空気清浄機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】コールドスプレー装置の概略模式図である。
図2】ビーズミル装置及びスプレードライ装置の概略模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
〔積層体〕
本実施形態に係る積層体は、基材と、中間層と、光触媒層とが、この順に積層されて構成されるものである。このうち、中間層は、樹脂を含む。また、光触媒層は、少なくとも光触媒粒子が堆積され、かつ光触媒粒子の少なくとも一部が中間層に埋没して構成される。
【0012】
このような積層体によれば、光触媒層を構成する光触媒粒子が洗浄によって洗い流されにくく、光触媒能の低下が少ない。また、光触媒層においては、光触媒が堆積されているため、高い光触媒能を示す。
【0013】
このような積層体において、光触媒層を構成する光触媒粒子は、中間層に含まれる樹脂に接しているため、この光触媒粒子の光触媒能によって樹脂が分解し、洗浄の際に光触媒粒子が洗い流されて、光触媒能が低下する可能性が高いと考えられた。しかしながら、本発明者らは驚くべきことに、このような積層体においては、光触媒粒子の光触媒能によって樹脂の分解による劣化は確認されないばかりか、基材に直接光触媒層を形成した場合に比べて非常に高い光触媒能を示すことを見出した。
【0014】
[基材]
基材は、後述する中間層及び光触媒層を支持するものである。
【0015】
基材としては、特に限定されず、例えば金属、合金、セラミックス、樹脂、紙、木材、ガラス、プラスチックのうち1種又は2種以上を用いることができる。基材としては、金属及び/又は合金を含むことが好ましい。金属としては、鉄、金、銀、銅、ニッケル、コバルト、チタン、アルミニウム、クロム、白金、ハラジウム、亜鉛等を用いることができる。また、合金としては、それらの金属の合金を用いることができ、例えば鋳鉄、パーマロイ、黄銅、リン青銅、ステンレス等を用いることができる。金属及び/又は合金として、アルミニウム及び/又はアルミニウム合金を含むことがより好ましい。なお、これらの金属や合金は、金属や合金は、光触媒材料が使用される環境において化学的、機械的に好ましい耐久性を有していることが多い。
【0016】
基材としては、特に限定されず、1種の材料のみから構成されてもよいし、2種以上の材料から構成されてもよい。基材が2種以上の材料から構成される場合、各材料の存在状態としては特に限定されず、2種以上の材料が積層したものであってもよいし、単に混在したものであってもよい。
【0017】
基材の形状としては、特に限定されず、例えば塊状、板状、棒状等のものを、使用用途(より具体的には、分解対象の物質、濃度、積層体に求められる強度、使用する空間等)等に応じて用いることができる。
【0018】
基材の大きさとしては、特に限定されず、使用用途(より具体的には、分解対象の物質、濃度、積層体に求められる強度、使用する空間等)等に応じて適宜設計することができる。
【0019】
基材が板状である場合、基材の厚さとしては、特に限定されず、例えば0.5mm以上であることが好ましく、1mm以上であることがより好ましく、1.5mm以上であることがさらに好ましい。基材22の厚さが所要量以上であることにより材料強度を高めることができる。一方、基材22の厚さとしては、1000mm以下、500mm以下、200mm以下、100mm以下、50mm以下、20mm以下、10mm以下、5mm以下、4mm以下、3mm以下、2mm以下であってよい。基材22の厚さが所要量以下であることにより熱伝導性を高めることができる。
【0020】
なお、基材は、各種添加剤を0質量%超20質量%以下含んでいてもよい。
【0021】
[中間層]
中間層は、樹脂を含むものである。この中間層は、上述した基材上と、後述する光触媒層の間に配置されるものである。
【0022】
中間層に含まれる樹脂としては、特に限定されず、例えばアクリル樹脂、天然ゴム、ブチルゴム、イソプレンゴム、クロロプレンゴム、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-アクリル酸エステル共重合体、ポリブタジエン樹脂、ポリカーボネート樹脂、6-ナイロンや6,6-ナイロン等のポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリブチレンテレフタレート(PBT)等の飽和ポリエステル樹脂、フッ素樹脂等を用いることができる。中間層に含まれる樹脂としては、耐水性、光触媒粒子の保持能及び光触媒粒子による劣化の少なさ等の観点から、アクリル樹脂を用いることが好ましい。
【0023】
また、一実施形態において、中間層は、光触媒層に接して配置され、かつアクリル樹脂を含む第1中間層と、基材に接して配置され、かつエポキシ樹脂を含む第2中間層とを有していることが好ましい。アクリル樹脂は、上述したとおり光触媒粒子の保持能が高い。一方、エポキシ樹脂は基材、特に金属や合金材料との密着強度が高い。また、アクリル樹脂とエポキシ樹脂との密着強度も高く、このように第1中間層と第2中間層とを構成することにより、光触媒層の保持能に加えて、さらに各層間の密着強度に優れた積層体を得ることができる。
【0024】
中間層中の樹脂の含有量としては、特に限定されないが、例えば10質量%以上、20質量%以上、30質量%以上、40質量%以上、50質量%以上、60質量%以上、70質量%以上であってよく、80質量%以上であることが好ましく、85質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましく、95質量%以上であることが特に好ましい。樹脂の含有量が所要量以上であることにより、基材との密着強度をさらに高めることができるとともに、光触媒粒子の保持能をさらに高めることができる。一方、樹脂の含有量としては、例えば100質量%以下、99.99質量%以下、99質量%以下、98質量%以下であってよい。
【0025】
中間層の大きさとしては、特に限定されず、使用用途(より具体的には、分解対象の物質、濃度、積層体に求められる強度、使用する空間等)等に応じて適宜設計することができる。また、中間層の大きさとしては、上述した基材及び後述する光触媒層の大きさに対する関係においても特に限定されない。例えば基材が板状である場合、中間層は、面積基準で基材の一方の面の85%以上を被覆していることが好ましく、90%以上を被覆していることがより好ましく、95%以上を被覆していることがさらに好ましく、97%以上を被覆していることが特に好ましい。中間層が、所要量以上基材を被覆していることにより、基材と中間層との密着強度をより高めることができる。一方、中間層は面積基準で、基材の一方の面の100%以下、99.9%以下、99%以下を被覆していてもよい。
【0026】
中間層の厚さとしては、特に限定されず、例えば500nm以上、1μm以上、2μm以上、5μm以上、10μm以上、20μm以上、50μm以上、100μm以上であってよい。中間層の厚さとしては、1mm以下、900μm以下、800μm以下、700μm以下であってよい。
【0027】
なお、中間層は、樹脂以外に、安定剤、酸化防止剤、充填剤等の各種添加剤をそれぞれ0質量%超90質量%以下含んでいてもよく、80質量%以下、70質量%以下、60質量%以下、50質量%以下、40質量%以下、30質量%以下、20質量%以下、10質量%以下含んでいてもよい。
【0028】
[光触媒層]
光触媒層は、少なくとも光触媒粒子が堆積され、かつ光触媒粒子の少なくとも一部が中間層に埋没して構成されるものである。
【0029】
ここで、「光触媒粒子の少なくとも一部が中間層に埋没して」とは、積層体を積層方向に平行な断面で見て、基材の最外部との平行線であって中間層の最外部(光触媒層側)を通る線よりも内側(基材側)に光触媒粒子が存在する場合をいう。
【0030】
このように、光触媒粒子の少なくとも一部が中間層に埋没して構成されることにより、光触媒層を洗浄する際に、光触媒粒子が洗い流されることを防止することができる。
【0031】
光触媒粒子としては、光触媒能を示すものであれば特に限定されず、酸化チタン(TiO、アナターゼ型、ルチル型及びブルッカイト型の3種の結晶構造が存在するが、いずれを用いてもよい。)、酸化タングステン(WO)、酸化亜鉛(ZnO)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO)、酸化スズ(SnO)、酸化第二鉄(Fe)、硫化カドミウム(CdS)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化アルミニウム(Al)、酸化ケイ素(SiO)、二酸化クロム(CrO)、酸化第二クロム(Cr)、酸化マンガン(MnO)、酸化鉄(Fe)、酸化コバルト(CoO)、酸化ニッケル(NiO)、酸化銅(CuO)、酸化ジルコニウム(ZrO)、酸化モリブデン(MoO)やこれらから選択される固溶体、これらに他の元素をドープした化合物等のうち1種又は2種以上を用いることができる。光触媒層は、光触媒粒子として、アナターゼ型酸化チタンを含むことが好ましい。光触媒粒子として、アナターゼ型酸化チタンを用いることにより、積層体の光触媒能をより高くすることができるとともに、樹脂の分解をより抑制することもできる。
【0032】
一実施形態において、光触媒物質として、アナターゼ型酸化チタンと、酸化タングステン(III)(以下、タングステンの価数について省略する。)を組み合わせてもよい。アナターゼ型酸化チタン:酸化タングステンの質量比としては、特に限定されないが、アナターゼ型酸化チタンを主たる光触媒としてこの触媒能を高める観点から、60:40~99:1であることが好ましく、70:30~98:2であることがより好ましく、80:20~97:3であることがさらに好ましい。なお、「X:Y」の比についての「A:B~C:D」は、XがA以上B以下の範囲を取るとき、X+Yが合計100(質量%)となる関係を維持したままYがC以下D以上の範囲を取ることを意味する。
【0033】
光触媒層中の光触媒粒子の含有量としては、特に限定されないが、例えば95質量%以上であることが好ましく、97質量%以上であることがより好ましく、99質量%以上であることがさらに好ましい。光触媒粒子の含有量が所要量以上であることにより、光触媒能をさらに高めることができる。一方、光触媒粒子の含有量としては、例えば100質量%以下、99.99質量%以下、99質量%以下、98質量%以下であってよい。
【0034】
光触媒粒子の平均粒子径としては、特に限定されないが、例えば500nm以下であることが好ましく、400nm以下であることがより好ましく、300nm以下であることがさらに好ましく、200nm以下であることが特に好ましく、100nm以下であることが最も好ましい。光触媒粒子の平均粒子径が所要量以下であることにより、積層体の光触媒能をより高くすることができる。一方、光触媒粒子の平均粒子径としては、例えば1nm以上、2nm以上、5nm以上、10nm以上であってよい。なお、ここでいう「平均粒子径」とは、光触媒層についてX線回折測定を行い得られたX線回折パターンにおいて、光触媒粒子に起因する最も強度の高いピークの半値幅を、Scherrer式に代入して求められる結晶子径をいう。
【0035】
光触媒層がアナターゼ型酸化チタン粒子を含有する場合、光触媒層中のアナターゼ型酸化チタン粒子の含有量としては、特に限定されないが、例えば95質量%以上であることが好ましく、97質量%以上であることがより好ましく、99質量%以上であることがさらに好ましい。アナターゼ型酸化チタン粒子の含有量が所要量以上であることにより、光触媒能をさらに高めることができる。一方、アナターゼ型酸化チタン粒子の含有量としては、例えば100質量%以下、99.99質量%以下、99質量%以下、98質量%以下であってよい。
【0036】
光触媒層が少なくともアナターゼ型酸化チタン粒子を含有する場合、光触媒層中のアナターゼ型酸化チタンの含有量としては、特に限定されるものではないが、例えば以下の式(1)で表されるアナターゼ型酸化チタン含有率(R)が、0.1以上、0.2以上、0.3以上、0.4以上、0.5以上、0.6以上、0.7以上、0.8以上、0.85超、0.855以上、0.86以上、0.87以上、0.88以上、0.89以上、0.9以上、0.91以上、0.92以上、0.93以上、0.94以上、0.95以上、0.96以上、0.97以上、0.98以上、0.99以上、0.999以上、0.9999以上であってよい。光触媒層が少なくともアナターゼ型酸化チタン粒子を含有する場合、光触媒層中のアナターゼ型酸化チタンも含有量としては、1以下(ルチル型酸化チタンを含まない場合を包含する。)であってよい。なお、式(1)において、Iは、光触媒層についてX線回折測定を行い得られたX線回折パターンのうち、アナターゼ型酸化チタンに由来するピークのうち強度の最も強いピークのピーク強度であり、Iは、光触媒層についてX線回折測定を行い得られたX線回折パターンのうち、ルチル型酸化チタンに由来するピークのうち強度の最も強いピークのピーク強度である。なお、光触媒層が少なくともアナターゼ型酸化チタン粒子を含有しない場合には、当然ながら以上のようなアナターゼ型酸化チタン含有率(R)には特に限定されず、光触媒活性を示す物質であればどのようなX線回折パターンを示すものを用いることもできる。
【数1】
【0037】
必須の構成ではないが、光触媒層は上述した光触媒粒子以外に、光触媒粒子を独立して存在させるための分散剤を含んでいてもよい。このようにして光触媒層が分散剤を含むことにより、光触媒粒子の凝集がより抑制され、光触媒能を高めることができる。
【0038】
光触媒層が分散剤を含む場合、分散剤の含有量としては、特に限定されないが、光触媒層の総量に対して例えば0.05質量%以上であることが好ましく、0.1質量%以上であることがより好ましく、0.5質量%以上であることがさらに好ましく、1質量%以上であることが特に好ましい。分散剤の含有量が所要量以上であることにより、光触媒粒子の凝集がさらに抑制され、光触媒能を高めることができる。一方、分散剤の含有量としては、25質量%以下、20質量%以下、15質量%以下、10質量%以下、5質量%以下、3質量%以下、2質量%以下、1質量%以下、0.5質量%以下であってよい。
【0039】
光触媒層の大きさとしては、特に限定されず、使用用途(より具体的には、分解対象の物質、濃度、積層体に求められる強度、使用する空間等)等に応じて適宜設計することができる。また、光触媒層の大きさとしては、上述した基材及び中間層の大きさに対する関係においても特に限定されない。例えば基材が板状である場合、光触媒層は、面積基準で基材の一方の面の85%以上を被覆していることが好ましく、90%以上を被覆していることがより好ましく、95%以上を被覆していることがさらに好ましく、97%以上を被覆していることが特に好ましい。光触媒層が、所要量以上基材を被覆していることにより、光触媒能をより高めることができる。また、一方、光触媒層は面積基準で、基材の一方の面の100%以下、99.9%以下、99%以下を被覆していてもよい。
【0040】
また、光触媒層は、面積基準で中間層の面の85%以上を被覆していることが好ましく、90%以上を被覆していることがより好ましく、95%以上を被覆していることがさらに好ましく、97%以上を被覆していることが特に好ましい。光触媒層が、所要量以上中間層を被覆していることにより、光触媒能をより高めることができる。また、一方、光触媒層は面積基準で、中間層の一方の面の100%以下、99.9%以下、99%以下を被覆していてもよい。
【0041】
光触媒層の厚さとしては、特に限定されず、例えば100nm以上であることが好ましく、200nm以上であることがより好ましく、500nm以上であることがさらに好ましく、1μm以上であることが特に好ましい。光触媒層の厚さが所要量以上であることにより、光触媒活性をより高めることができる。一方、光触媒層の厚さとしては、500μm以下、400μm以下、300μm以下、200μm以下、100μm以下、70μm以下、50μm以下、40μm以下、30μm以下、20μm以下であってよい。なお、光触媒層が、曲面を有する場合において、層の形成後に曲げて製造するものである場合等には、光触媒材料の剥がれを防止する観点から、さらに10μm以下、5μm以下、2μm以下、1μm以下であってもよい。
【0042】
なお、光触媒層は、光触媒粒子及び分散剤以外に、助触媒、安定剤等の各種添加剤をそれぞれ0質量%超20質量以下含んでいてもよい。
【0043】
〔積層体の製造方法〕
本実施形態に係る積層体の製造方法は、基材の上に、樹脂を含む中間層を形成する中間層形成工程と、中間層の上に、コールドスプレー法により、光触媒粒子を堆積させる粒子堆積工程とを含むものである。この積層体の製造方法によれば、上述した積層体を製造することができる。以下、各工程について説明する。
【0044】
[中間層形成工程]
中間層形成工程は、基材の上に、樹脂を含む中間層を形成する工程である。基材及び樹脂の詳細は、上述したとおりである。
【0045】
具体的な中間層の形成方法としては、中間層を形成できる方法であれば特に限定されるものではない。例えば、フレーム溶射法を用いることができる。このフレーム溶射法は、プロピレン-酸素等の燃焼炎を熱源として樹脂の粉末等を加熱溶融して、基材の表面に溶射する方法である。なお、このフレーム溶射法において、燃焼炎の温度は2800℃程度である。
【0046】
また、中間層の形成方法としては、各種成形技術により中間層を形成してもよい。さらに、中間層の形成方法としては、樹脂の溶液、分散液、溶融物を印刷、塗布等してもよく、その後必要に応じて乾燥や冷却等の処理を施してもよい。
【0047】
[粒子堆積工程]
粒子堆積工程は、中間層の上に、コールドスプレー法により、光触媒粒子を堆積させる工程である。光触媒粒子の詳細は、上述したとおりである。
【0048】
ここで、コールドスプレー法は、コールドスプレー装置により、光触媒粒子をその融点より低い温度に加温したガスに投入し、このガスを亜音速ないし超音速流にして基材に対して噴射し、その基材の表面に光触媒粒子を堆積させ、基材の表面に光触媒層を形成する。
【0049】
以下、図1を用いてコールドスプレー法の詳細を説明する。図1は、コールドスプレー装置の概略模式図である。より具体的に、コールドスプレー装置1は、空気、窒素、ヘリウム等の高圧の作動ガスが供給される主配管2と、主配管2の途中に設けられかつ作動ガスを光触媒粒子の融点又は軟化温度よりも低い温度に加温するガス加熱器3と、光触媒粒子を、粒子投入管4を介して搬送してガス加熱器3からの加温されたガスに投入する粒子供給装置5と、粒子投入管4に接続され基材に光触媒粒子をガスとともに吹き付けるスプレーノズル6とから構成されている。スプレーノズル6では、作動ガス及び光触媒粒子が超音速流まで加速されて噴出される。また、コールドスプレー装置1には、上述した各部を制御するために、制御装置7が設けられている。
【0050】
[二次粒子形成工程]
必須の構成ではないが、本実施形態に係る積層体の製造方法は、中間層形成工程と粒子堆積工程との間に、二次粒子形成工程を設けてもよい。
【0051】
この二次粒子形成工程は、一次粒子の状態の光触媒粒子から二次粒子を形成する工程である。
【0052】
二次粒子を形成する方法としては、特に限定されないが、例えば光触媒粒子原料を湿式ビーズミル法に付し、その光触媒粒子(一次粒子)が液体中で均一に分散したスラリーにし、このスラリーをスプレードライ法に付して二次粒子化する方法が挙げられる。
【0053】
以下、図2を用いてビーズミル法及びスプレードライ法の詳細について説明する。図2は、ビーズミル装置及びスプレードライ装置の概略模式図である。
【0054】
湿式ビーズミル法は、液体中で光触媒粒子原料を微粉砕するビーズミル装置10を用いて、光触媒粒子原料をマイクロサイズ又はナノサイズまで細かくする方法である。ビーズミル装置10は、粉砕室11内にビーズを収納して回転軸12で運動を与え、ビーズ間の衝突やせん断等により、光触媒原料を微細化する。粉砕室11の出口には、ビーズと対象物を分離するスクリーン機構13が設けられている。ビーズは粉砕室11に留まり、光触媒原料は循環されて連続的に処理される。ビーズとしては、光触媒粒子原料を粉砕し得るものであれば特に限定されないが、例えばセラミックス、ガラスや金属等で構成されていてよい。また、ビーズの粒径としては、特に限定されないが、例えば30μm~300μmのものを用いることができる。
【0055】
このような湿式ビーズミル法によって、光触媒原料の一次粒子が凝集された凝集体が粉砕され微細化されて一次粒子が液体中に均一に分散され、一次粒子の状態の光触媒粒子が分散されたスラリーが得られる。
【0056】
次いで、このスラリーをスプレードライ法に付して、スラリー中の一次粒子の状態の光触媒粒子を二次粒子化する。スプレードライ法は、スプレードライ装置(噴霧乾燥装置)20を用い、この内部に送られたスラリーを高速回転するディスクにより遠心力で飛散させて、微粒化する方法である。この方法により得られるスラリーは、一次粒子が液体中に均一に分散されているため、二次粒子を形成する際に凝集しにくくなり、一次粒子が独立した状態で集合した二次粒子が得られる。
【0057】
分級後の二次粒子の粒径としては、特に限定されないが、例えば1μm以上であることが好ましく、5μm以上であることがより好ましく、10μm以上であることがさらに好ましい。分級後の二次粒子の粒径としては、100μm以下であることが好ましく、70μm以下であることがより好ましく、50μm以下であることがさらに好ましく、45μm以下であることが特に好ましい。なお、二次粒子は、中空状のものや、部分的に穴が空いているものや、ドーナツ状のものが存在してもよい。もっとも、二次粒子は、中空を有しないものでもよいし、中空状のものと中空を有しないものが混じっていてもよい。
【0058】
〔空気清浄機〕
本実施形態に係る空気清浄機は、上述した積層体を備える。なお、空気清浄機の具体的な構成については特に限定されるものではない。積層体は、積層体中の光触媒層が有する光触媒能を活かして空気清浄のために用いられることが好ましい。
【0059】
なお、空気清浄装置における他の構成については、上述した各部を備えているものであれば特に限定されず、光触媒材料を空気に含まれる有機成分の分解に用いるあらゆる空気清浄装置の構成を採用することができる。
【0060】
本発明は、以上の実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の効果を阻害しない範囲において、適宜変更を加えて実施することができる。
【実施例0061】
以下、実施例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0062】
〔積層体試料の製造〕
(実施例1)
スルーザーメテコ株式会社(現エリコンメテコ株式会社)製ダイヤモンドジェット溶射装置を用いて、板状(100mm×50mm×3mm)の純アルミニウムの片面にアクリル樹脂を溶射し、厚さ100~200μmの中間層を形成した。なお、この際、ダイヤモンドジェット溶射装置と基材との間の距離を250mmに設定した。
【0063】
一方、石原産業株式会社製のアナターゼ型酸化チタン粒子ST-21(一次粒子の平均粒子径:20nm)と分散剤をアシザワファインテック製のビーズミル装置を用いて2時間以上混合した。なお、ビーズとしては、直径50μmのものを用いた。
【0064】
次いで、酸化チタン粉末の濃度を1~40質量%に調整するとともに、固形分に対し、0.001~0.01質量%のポリビニルアルコールを添加して酸化チタン粒子のスラリーを得た。このスラリーについて、スプレードライ装置(株式会社坂本技研製 ディスク式装置)を用いて噴霧し、スプレードライ粉末を得た。その後、このスプレードライ粉末を、篩を用いて10~45μmの粒度範囲に分級した。
【0065】
分級した粉末を、ロシアOCPS社製のコールドスプレー装置 DYMET412kを用い、コールドスプレー法によって、板状(100mm×50mm×3mm)の板状のアルミニウムのアクリル樹脂を溶射した面に溶射し、積層体試料を得た。具体的に、スプレーガンを株式会社安川電機製の6軸多関節ロボットに取り付け、プログラムによる自動方式でコーティングを行った。プロセスガスとしては、空気を用い、設定圧力0.5MPa、ヒーター設定はHighモード(吐出空気温度約550℃)、スプレー距離15mm、ピッチ3mm、トラバース速度200mm/secに設定した。なお、ブラスト処理は行わなかった。
【0066】
(実施例2)
コールドスプレー法による溶射において、トラバース速度を150mm/secに変更したこと以外、実施例1と同様にして積層体試料を得た。
【0067】
(比較例1)
アクリル樹脂による中間層を形成しなかった以外、実施例1と同様にして積層体試料を得た。
【0068】
〔積層体試料の光触媒活性評価〕
実施例1、実施例2又は比較例1の各試料と、濃度100ppmアセトアルデヒドを含む空気とを容量3リットルのテドラーバッグに入れ密閉した。実施例1、実施例2又は比較例1の各試料の酸化チタン粒子の被覆された側の表面から100mm離れた箇所に、その表面に対向するようにブラックライト(パナソニック株式会社製FL20S-BL-B)を2本配置し、紫外線強度を0.4mW/cmにして紫外線を照射した。照射開始から10分ごとにテドラーバッグ内の気体中のアセトアルデヒド濃度を測定した。アセトアルデヒド濃度が初めてガス検知管の測定下限値以下となった時間で測定を停止した。測定下限値以下となった時間の直前の測定時間(測定下限値以下となった時間の10分前の時間)でアセトアルデヒドの分解に要した時間として、アセトアルデヒドの分解速度を測定した(以下において「水洗前試料」という。)。
【0069】
同様の試料について、試験片をビーカー中で1分間攪拌しながら水洗した後、水洗前試料と同様に、分解速度を測定した(以下において「水洗後試料」という。)。
【0070】
なお、水洗前試料、水洗後試料の各々について、2つの試料について分解速度を測定し、その算術平均を下記表1に示した。
【0071】
【表1】
【符号の説明】
【0072】
1 コールドスプレー装置
2 主配管
3 ガス加熱器
4 粒子投入管
5 粒子供給装置
6 スプレーノズル
7 制御装置
10 ビーズミル装置
11 粉砕室
12 回転軸
13 スクリーン機構
20 スプレードライ装置(噴霧乾燥装置)
図1
図2