(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022133824
(43)【公開日】2022-09-14
(54)【発明の名称】容器、及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C12M 1/00 20060101AFI20220907BHJP
B01L 3/00 20060101ALI20220907BHJP
B65D 23/00 20060101ALN20220907BHJP
【FI】
C12M1/00 C
B01L3/00
B65D23/00 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021032731
(22)【出願日】2021-03-02
(71)【出願人】
【識別番号】392034746
【氏名又は名称】吉川化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141586
【弁理士】
【氏名又は名称】沖中 仁
(74)【代理人】
【識別番号】100102211
【弁理士】
【氏名又は名称】森 治
(72)【発明者】
【氏名】三原 一記
(72)【発明者】
【氏名】獅山 尚史
(72)【発明者】
【氏名】黒川 優也
(72)【発明者】
【氏名】篠原 俊樹
【テーマコード(参考)】
3E062
4B029
4G057
【Fターム(参考)】
3E062AA03
3E062AB01
3E062AC02
3E062DA02
4B029AA08
4B029GA03
4G057AB06
(57)【要約】
【課題】試料を収容する収容部に関連する情報表示物の視認性を長期に亘って良好な状態に保つことができるとともに、コンタミネーションの問題が生じないようにすることができる容器、及びその製造方法を提供する。
【解決手段】基材10に試料を収容する複数のウェル50が設けられたシングルユースのマイクロプレートであって、基材10は、透明ないし半透明の樹脂で構成され、複数のウェル50に関連する情報表示物60が、基材10の内部に設けられている。当該マイクロプレートにおいて、情報表示物60は、基材10にピコ秒パルスレーザー又はフェムト秒パルスレーザーを照射することにより形成される。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材に試料を収容する収容部が設けられたシングルユースの容器であって、
前記基材は、透明ないし半透明の樹脂で構成され、
前記収容部に関連する情報表示物が、前記基材の内部に設けられている容器。
【請求項2】
前記情報表示物は、前記基材が変化した部位として構成される請求項1に記載の容器。
【請求項3】
前記情報表示物は、前記基材の表面から100μmを超える深さ位置に設けられている請求項1又は2に記載の容器。
【請求項4】
前記基材における前記情報表示物が設けられる部分の表面粗さをRaとし、前記情報表示物が設けられない部分の表面粗さをRbとしたとき、以下の式(1):
Ra/Rb ≦ 1.1 ・・・ (1)
を満たす請求項1~3の何れか一項に記載の容器。
【請求項5】
基材に試料を収容する収容部が設けられたシングルユースの容器の製造方法であって、
前記基材は、透明ないし半透明の樹脂で構成され、
前記基材にピコ秒パルスレーザー又はフェムト秒パルスレーザーを照射し、前記収容部に関連する情報表示物を、前記基材の内部に形成する容器の製造方法。
【請求項6】
前記ピコ秒パルスレーザー又は前記フェムト秒パルスレーザーの照射時に、前記基材の表面から300μm以上の深さ位置に焦点をあわせる請求項5に記載の容器の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材に試料を収容する収容部が設けられたシングルユースの容器、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
この種のシングルユース(いわゆる、ディスポーサブル)の容器として、例えば、マイクロプレートがある。マイクロプレートは、試料を収容する収容部としてのウェルを縦横に多数配設してなるものである。マイクロプレートにおいて、どの試料がどのウェルに入っているかを明らかにするには、各ウェルを互いに識別できるようにする必要がある。各ウェルを識別可能とする手法として、各ウェルに関連する情報、例えば、各ウェルを特定するための文字や数字等の情報を識別情報として、マイクロプレートを構成する樹脂成形体の表面にマーキングするというマーキング法がある。
【0003】
一般的なマーキング法としては、例えば、専用の金型を用いて樹脂成形体の表面に識別情報を示す形像に沿った凸部を付けるという方法や、樹脂成形体の表面にインキを用いて識別情報を示す形像表示物を直接印刷するという方法がある。
【0004】
その他のマーキング法としては、マイクロプレートを構成する樹脂成形体の表面にレーザーを照射することにより、識別情報を示す所望の形像を発現させるというレーザーマーキング法がある(例えば、特許文献1を参照)。
【0005】
レーザーマーキング法においては、樹脂成形体の表面に対して、収束されたレーザーを、識別情報を示す形像に沿って走査するように照射し、照射部分を急速に加熱して照射部分の表層を蒸発させる。このとき、樹脂成形体の表面には、識別情報を示す形像に沿った凹部が形成されるとともに、凹部内表面の透明な樹脂の一部が炭化して変色する。これにより、識別情報を変色部で示した形像表示物が樹脂成形体の表面に出現する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の一般的なマーキング法のうち、金型を使用するものでは、識別情報を示す形像に沿った凸部を設けたとしても、特に樹脂成形体が透明ないし半透明の樹脂の場合、凸部が際立たないため、識別情報の視認性が悪いという問題がある。また、印刷によるものでは、時間の経過に伴い、インキが剥離したりインキの褪色が進行したりするため、識別情報の視認性を長期に亘って保つことができないという問題がある。
【0008】
一方、特許文献1に開示されたレーザーマーキング法では、レーザー照射によって凹部を形成する際に発生する飛散物がダスト化し、ダスト化した飛散物の一部が凹部内に堆積するため、コンタミネーションとなる虞がある。
【0009】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、試料を収容する収容部に関連する情報表示物の視認性を長期に亘って良好な状態に保つことができるとともに、コンタミネーションの問題が生じないようにすることができる容器、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するための本発明に係る容器の特徴構成は、
基材に試料を収容する収容部が設けられたシングルユースの容器であって、
前記基材は、透明ないし半透明の樹脂で構成され、
前記収容部に関連する情報表示物が、前記基材の内部に設けられていることにある。
【0011】
本構成の容器によれば、試料を収容する収容部に関連する情報表示物が、透明ないし半透明の樹脂で構成される基材の内部に設けられている。これにより、透明ないし半透明の樹脂の内部に情報表示物が包含され、情報表示物を包含する樹脂によって情報表示物が保護される。このため、透明ないし半透明の樹脂の内部において情報表示物が際立つとともに、時間が経過しても情報表示物が剥離等せず、また、情報表示物の形成段階において生じる生成物が飛散等しない。従って、試料を収容する収容部に関連する情報表示物の視認性を長期に亘って良好な状態に保つことができるとともに、コンタミネーション(以下、「コンタミ」と略称する。)の問題が生じないようにすることができる。
【0012】
本発明に係る容器において、
前記情報表示物は、前記基材が変化した部位として構成されることが好ましい。
【0013】
本構成の容器によれば、情報表示物は、基材が変化した部位として構成されるので、情報表示物とその回りの基材との一体性が保たれる。これにより、情報表示物が基材に安定的に保持されることになり、情報表示物の表示機能を長期に亘って確実に発揮することができる。
【0014】
本発明に係る容器において、
前記情報表示物は、前記基材の表面から100μmを超える深さ位置に設けられていることが好ましい。
【0015】
本構成の容器によれば、情報表示物は、基材の表面から100μmを超える深さ位置に設けられている。これにより、情報表示物を覆う基材の表面層が情報表示物を保護する保護層として十分に機能する。このため、情報表示物の形成段階において生じる生成物の飛散等を確実に防ぐことができるとともに、製品(例えば、マイクロプレート等の容器)の通常の使用において、情報表示物に対する外部からの振動や衝撃等から情報表示物を確実に保護することができる。従って、コンタミの問題を生じさせることなく情報表示物の加工容易性や保護性能に優れた容器を得ることができる。
【0016】
本発明に係る容器において、
前記基材における前記情報表示物が設けられる部分の表面粗さをRaとし、前記情報表示物が設けられない部分の表面粗さをRbとしたとき、以下の式(1):
Ra/Rb ≦ 1.1 ・・・ (1)
を満たすことが好ましい。
【0017】
本構成の容器によれば、基材における情報表示物が設けられる部分の表面粗さをRaと、情報表示物が設けられない部分の表面粗さをRbとが、以下の式(1):
Ra/Rb ≦ 1.1 ・・・ (1)
を満たすようにされている。このような条件を満足すれば、基材の表面に変化をもたらすようなダメージが十分に抑制されており、例えば、生化学や医学等における実験や検査、分析試験等での使用に適した容器となる。
【0018】
次に、上記課題を解決するための本発明に係る容器の製造方法の特徴構成は、
基材に試料を収容する収容部が設けられたシングルユースの容器の製造方法であって、
前記基材は、透明ないし半透明の樹脂で構成され、
前記基材にピコ秒パルスレーザー又はフェムト秒パルスレーザーを照射し、前記収容部に関連する情報表示物を、前記基材の内部に形成することにある。
【0019】
本構成の容器の製造方法によれば、透明ないし半透明の樹脂で構成される基材にピコ秒パルスレーザー又はフェムト秒パルスレーザーを照射し、収容部に関連する情報表示物を、基材の内部に形成する。パルスレーザーは、レーザー出力をパルス状に発振するものである。照射レーザーのエネルギー量は、単位時間あたりのパルスの総数(周波数)の各パルスエネルギーの総和となる。パルスには幅(パルス幅:秒)があるので、各パルスの面積がパルスエネルギーに相当する。パルス幅が狭いほど、エネルギー強度(ピーク強度)は大きくなる。ピコ秒パルスレーザー又はフェムト秒パルスレーザーは、レーザー光源がピコ秒又はフェムト秒オーダーの極短パルスを発生させたものであるので、熱影響を低く抑えつつ、大きなエネルギー強度でもって透明ないし半透明の樹脂で構成される基材の集光点に限定して比較的大きな屈折率等の光学的特性の変化を生じさせることができる。このような特性変化は、基材の密度変化や結合状態の変化等に起因する不可逆的な変化であり、恒久的に基材中に残存して変質部分を形成する。このような変質部分が識別情報を示す形像に従って走査されるレーザーの軌跡に沿って形成され、これが基材の内部に設けられる情報表示物となる。こうして、透明ないし半透明の樹脂の内部に情報表示物が包含され、情報表示物を包含する樹脂によって情報表示物が保護される。これにより、透明ないし半透明の樹脂の内部において情報表示物が際立つとともに、時間が経過しても情報表示物が剥離等せず、また、情報表示物の形成段階において生じる生成物が飛散等しない。このため、試料を収容する収容部に関連する情報表示物の視認性を長期に亘って良好な状態に保つことができるとともに、コンタミの問題が生じないようにすることができる。
【0020】
本発明に係る容器の製造方法において、
前記ピコ秒パルスレーザー又は前記フェムト秒パルスレーザーの照射時に、前記基材の表面から300μm以上の深さ位置に焦点をあわせることが好ましい。
【0021】
本構成の容器の製造方法によれば、ピコ秒パルスレーザー又はフェムト秒パルスレーザーの照射時に、基材の表面から300μm以上の深さ位置に焦点をあわせる。これにより、情報表示物を基材の表面から100μmを超える深さ位置に確実に設けることができる。これにより、情報表示物を覆う基材の表面層が情報表示物を保護する保護層として十分に機能する。このため、情報表示物の形成段階において生じる生成物の飛散等を確実に防ぐことができるとともに、製品(例えば、マイクロプレート等の容器)の通常の使用において、情報表示物に対する外部からの振動や衝撃等から情報表示物を確実に保護することができる。従って、コンタミの問題を生じさせることなく情報表示物の加工容易性や保護性能に優れた容器を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係るマイクロプレートの全体斜視図である。
【
図2】
図2は、本発明の一実施形態に係るマイクロプレートの要部を示し、(a)は部分拡大斜視図、(b)は(a)のA-A線断面図、(c)は(a)のB-B線断面図である。
【
図3】
図3は、本発明の一実施形態に係るマイクロプレートに情報表示物を形成するレーザーマーキング装置の概略システム構成図である。
【
図4】
図4は、本発明の一実施形態に係るマイクロプレートに情報表示物を形成する手順を示すフローチャートである。
【
図5】
図5は、製造実施例に係るマイクロプレートを示し、(a)は製造実施例1のマイクロプレートの外観画像、(b)は製造実施例2のマイクロプレートの外観画像である。
【
図6】
図6は、レーザー焦点距離検証試験No.1の試験片における情報表示物が設けられた部分の表面状態を示し、(a)は外観画像、(b)は(a)のC部拡大画像である。
【
図7】
図7は、レーザー焦点距離検証試験No.2の試験片における情報表示物が設けられた部分の表面状態を示し、(a)は外観画像、(b)は(a)のD部拡大画像である。
【
図8】
図8は、レーザー焦点距離検証試験No.3の試験片における情報表示物が設けられた部分の表面状態を示し、(a)は外観画像、(b)は(a)のE部拡大画像である。
【
図9】
図9は、レーザー焦点距離検証試験No.4の試験片における情報表示物が設けられた部分の表面状態を示し、(a)は外観画像、(b)は(a)のF部拡大画像である。
【
図10】
図10は、レーザー焦点距離検証試験No.5の試験片における情報表示物が設けられた部分の表面状態を示し、(a)は外観画像、(b)は(a)のG部拡大画像である。
【
図11】
図11は、レーザー焦点距離検証試験No.1~No.5の試験片における情報表示物を構成するドットの形成状態を示す模式図である。
【
図12】
図12は、試験片の表面粗さの測定箇所を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明について、図面を参照しながら説明する。なお、以下の実施形態では、シングルユースの容器として、マイクロプレートを例に挙げて説明する。ただし、本発明は、以下に説明する実施形態や図面に記載される構成に限定されることは意図しない。例えば、マイクロプレート以外に、コニカルチューブやデッシュ、フラスコ等のようなシングルユースの容器に対しても、本発明を適用することができる。
【0024】
<概略構成>
図1は、本発明の一実施形態に係るマイクロプレートの全体斜視図である。
図1に示すように、マイクロプレート1は、平面視長方形板状の基材10に、試料を収容する収容部として機能する複数のウェル50が設けられたものである。
【0025】
<基材>
基材10は、透明ないし半透明の樹脂で構成され、射出成形法等の樹脂成形法により成形されている。基材10を構成する樹脂としては、例えば、ポリスチレン(PS)、ポリプロピレン(PP)、シクロオレフィンポリマー(COP)、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリアクリル酸(PAA)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリエチレン(PE)、シクロオレフィンコポリマー(COC)、ポリメチルペンテン(PMP)、グリコール変性ポリエチレンテレフタレート(PETG)等が挙げられる。基材10は、長方形枠状のベース部11と、ベース部11に環状の嵩上げ部13を介して一体的に設けられる額縁状部15と、額縁状部15の内方側に当該額縁状部15と一体的に設けられるウェル形成部17とを有している。
【0026】
嵩上げ部13は、水平方向に所定間隔を存して平行状に対向配置される一対の長辺側板部21と、一対の長辺側板部21と直角を成すように所定間隔を存して平行状に配される一対の短辺側板部23とを有している。一対の短辺側板部23うちの一方側(
図1において右側)の短辺側板部23と一対の長辺側板部21との交わり角部には、それら側板部21,23に対し斜めに延在する斜辺側板部25が形成されている。
【0027】
額縁状部15は、水平方向に所定間隔を存して平行状に配されて一対の長辺側板部21に一体的に連設される一対の長辺側縁部31と、一対の長辺側縁部31と直角を成すように所定間隔を存して平行状に配されて一対の短辺側板部23に一体的に連設される一対の短辺側縁部33とを有している。一対の短辺側縁部33うちの一方側(
図1において右側)の短辺側縁部33と一対の長辺側縁部31との交わり角部には、それら側縁部31,33に対し斜めに延在し、且つ斜辺側板部25に一体的に連設される斜辺側縁部35が形成されている。
【0028】
<ウェル(収容部)>
複数のウェル50は、ウェル形成部17において、一対の長辺側縁部31に平行な方向と、一対の短辺側縁部33に平行な方向とに沿ってm行n列(m,nは共に2以上の整数)の行列状に、複数個配置されている。
【0029】
図2は、本発明の一実施形態に係るマイクロプレートの要部を示し、(a)は部分拡大斜視図、(b)は(a)のA-A線断面図、(c)は(a)のB-B線断面図である。なお、
図2(b)及び(c)において、基材10の形状や、基材10の厚みに対する後述の情報表示物60の厚み関係、基材10の内部に設けられる情報表示物60の深さ位置等は、説明容易化のため適宜誇張又は簡略化しており、実際の基材10の形状や、実際の基材10における情報表示物60の厚みや深さ位置等を厳密に反映したものではない。
【0030】
図2(a)~(c)に示すように、複数のウェル50は、基材10におけるウェル形成部17の複数箇所を下方に凹ませるようにして成形される複数の凹部の周壁部51と底部53とによって区画形成されている。ウェル50において、周壁部51は、鉛直方向に延在するように円筒状に形成されており、円筒状の周壁部51の下側を塞ぐように円板状の底部53が周壁部51の下部側に一体的に配設されている。
【0031】
ウェル50を構成する凹部の周壁部51や底部53の形状については、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。周壁部51の形状としては、円筒状の他に、三角筒状や四角筒状等の多角筒状や、逆三角錐台状、逆四角錐台状等を含む逆多角錐台状、その他、逆円錐台状等が挙げられる。また、底部53の形状としては、平底状、丸底状、U底状、V底状等が挙げられる。
【0032】
ウェル50の数は、例えば、6個、12個、24個、48個、96個、384個、1536個等とすることができる。特に、多数のウェル50の誤認を防ぐ必要性の観点によれば、ウェル50の数は、12個、24個、48個、96個、又は384個であることが好ましい。さらに、多数のウェル50の誤認を防ぐ必要性の観点と、後述する情報表示物60を視認可能な大きさにできるという観点とによれば、ウェル50の数は、12個、24個、48個、又は96個であることがより好ましい。
【0033】
<情報表示物>
図1に示すように、各行については、m個の行を互いに識別可能とするように関連づけられた少なくとも1つの情報表示物60が付与されており、各列についても、n個の列を互いに識別可能とするように関連づけられた少なくとも1つの情報表示物60が付与されている。情報表示物60としては、ウェル50を識別することができるものであればよく、特に限定されるものではないが、例えば、文字や数字、記号、マーク等が挙げられる。また、ウェル50を識別する目的以外でも情報表示物60を付与してもよく、この場合、情報表示物60として、例えば、目盛や製造者情報、QRコード(登録商標)等を形像化したものが挙げられる。
【0034】
一例として、
図1においては、96個のウェル50が8個の行及び12個の列の行列状態で配置されている。情報表示物60に関し、8個の行は、それぞれ「A」~「H」のアルファベット文字により識別するように定義し、一対の短辺側縁部33うちの他方側(
図1において左側)の短辺側縁部33に、「A」~「H」のアルファベット文字からなる識別文字61を各行に対応するように表記している。また、情報表示物60に関し、12個の列は、それぞれ「1」~「12」のアラビア数字により識別するように定義し、一対の長辺側縁部31うちの一方側(
図1において後側)の長辺側縁部31に、「1」~「12」のアラビア数字からなる識別数字63を各列に対応するように表記している。
【0035】
さらに、
図2(b)に示すように、情報表示物60に関し、行を識別するための「A」~「H」のアルファベット文字と、列を識別するための「1」~「12」のアラビア数字とを組み合わせた識別記号65(例えば、「A2」)を、ウェル50における周壁部51に表記するようにしている。識別記号65は、基材10における一対の長辺側縁部31のうちの他方側の長辺側縁部31(
図1において前側)を、マイクロプレート1の使用者の正面側近傍に位置させるような、マイクロプレート1とその使用者との位置関係において、使用者が斜め上方から所定角度(例えば、水平方向に対し45°~70°程度)でウェル50を見たときに視認できるように、ウェル50における周壁部51の上部に表記するようにしている。
【0036】
本実施形態のマイクロプレート1において、情報表示物60は、基材10の表面から100μmを超える深さ位置に設けられることが好ましい。基材10の表面から100μmを超える深さ位置に情報表示物60が設けられる場合、情報表示物60を覆う基材10の表面層が情報表示物60を保護する保護層として十分に機能する。このため、情報表示物60の形成段階において生じる生成物の飛散等を確実に防ぐことができるとともに、製品(マイクロプレート1)の通常の使用において、情報表示物60に対する外部からの振動や衝撃等から情報表示物60を確実に保護することができる。従って、コンタミの問題を生じさせることなく情報表示物60の加工容易性や保護性能に優れたマイクロプレート1を得ることができる。
【0037】
<表面粗さ>
本実施形態のマイクロプレート1における基材10において、情報表示物60が設けられる部分の算術平均の表面粗さをRaとし、情報表示物60が設けられない部分の算術平均の表面粗さをRbとしたとき、以下の式(1):
Ra/Rb ≦ 1.1 ・・・ (1)
を満たすことが好ましい。前記式(1)の条件を満たす場合、後述するレーザーマーキング装置を用いたマーキングによって、樹脂内部に熱によるクラックや、表面焼け又は溶融によるデブリが生じていない状態であり、コンタミの原因となる樹脂破片等が無く、コンタミの問題が生じていない。このため、基材10の表面に変化をもたらすようなダメージが十分に抑制されており、例えば、生化学や医学等における実験や検査、分析試験等での使用に適したマイクロプレート1となる。
【0038】
図3は、本発明の一実施形態に係るマイクロプレートに情報表示物を形成するレーザーマーキング装置の概略システム構成図である。なお、
図3において、記号Tで示すパルス幅や、基材10の形状、基材10の厚みに対する情報表示物60の厚み関係、基材10の内部に設けられる情報表示物60の深さ位置等は、説明容易化のため適宜誇張又は簡略化しており、実際のパルス幅や、基材10における情報表示物60の厚み、深さ位置等を厳密に反映したものではない。
【0039】
識別文字61、識別数字63及び識別記号65を含む情報表示物60は、
図3に示すようなレーザーマーキング装置70を用いて、
図3中記号PLで示すパルスレーザーを基材10に照射することにより、基材10の内部に形成されている。
図3に示すレーザーマーキング装置70は、主に、レーザー発振器71、レーザー照射部73、及び制御部75を備えている。
【0040】
レーザー発振器71は、パルスレーザーを発振して照射するレーザー光源として機能するものであり、例えば、YAGレーザーや、CO2レーザー、YVO4レーザー、UVレーザー、グリーンレーザー等のピコ秒パルスレーザー又はフェムト秒パルスレーザーを用いることができる。レーザー発振器71には、元々パルスレーザーを発振するものと、連続波形を有する連続レーザーを発振するものとがあるが、連続レーザーは、パルス波形に変換してパルスレーザーとして取り出して使用することができる。パルスレーザーは、数Hz~数十MHzの繰り返し周波数を有するが、この繰り返し周期の間蓄えられたエネルギーを数百fs~数十psという極めて短い時間幅で放出する。そのため、少ない入力エネルギーから高いピークパワーを効率的に得ることができる。
【0041】
レーザー発振器71としては、例えば、ピコ秒パルスレーザーで波長が532nmのグリーンレーザーや、フェムト秒パルスレーザーで波長が780nmの可視光レーザー等が好ましい。ピコ秒パルスレーザーのグリーンレーザーである場合、パルス幅は、好ましくは10~20psであり、より好ましくは12~18psであり、さらに好ましくは14~16psである。パルス幅が10ps未満の場合、エネルギー強度が小さ過ぎて、樹脂における集光点での光学的特性変化が不十分となり、情報表示物60の視認性が悪くなる虞がある。一方、パルス幅が20psを超えると、パルス幅が大き過ぎて、熱影響が大きくなり、樹脂表面にダメージを与える虞がある。フェムト秒パルスレーザーの可視光レーザーである場合、パルス幅は、好ましくは170~270fsであり、より好ましくは200~240fsであり、さらに好ましくは210~230fsである。パルス幅が170fs未満の場合、エネルギー強度が小さくなり過ぎて、マーキングに要する時間が過大となり、生産効率の悪化を招くことになる。一方、パルス幅が270fsを超えると、基材10に設ける情報表示物60の深度によっては基材10の表面にダメージを与える虞がある。
【0042】
レーザー照射部73は、図示による詳細説明は省略するが、レーザー発振器71から出射されたパルスレーザーの収束位置を所定のパターンに沿って移動させるガルバノスキャナと、ガルバノスキャナによる走査中においてワーク(基材10)の所望の深さ位置にパルスレーザーを集光させるfθレンズとを備え、X-Y-Z移動機構との組み合わせにより、三次元的にレーザーマーキングが可能に構成されている。
【0043】
制御部75は、レーザー発振器71及びレーザー照射部73を含む装置全体を制御可能なコンピュータを主体に構成されるものであり、CPU、システムバス、入出力インタフェース等からなり、パルスレーザーの照射位置や発振周波数、レーザー出力(ピークパワー)等を調整してレーザー発振器71やレーザー照射部73等を制御することにより、レーザーマーキングを行うように機能する。
【0044】
次に、上記のような構成のレーザーマーキング装置70を用いて、基材10にレーザーマーキングする方法について説明する。
図4は、本発明の一実施形態に係るマイクロプレートに情報表示物を形成する手順を示すフローチャートである。なお、
図4中記号「S」は、ステップを表す。
【0045】
制御部75は、識別文字61、識別数字63及び識別記号65に関するデータや、基材10に対しどの位置にマーキングをするかというマーキング位置情報、レーザーの焦点の位置を基材10の表面からの厚さ方向内側への距離として規定した
図3中記号Dで示すマーキング深度等に基づいて、情報表示物60を基材10にレーザーマーキングするためのマーキングデータを作成する(S1:マーキングデータ作成工程)。次いで、制御部75は、マーキングデータに基づいて、基材10に対するレーザー照射部73の位置合わせを行う(S2:ワーク位置合わせ工程)。そして、レーザー照射部73は、位置合わせをした基材10に対し、マーキングデータに従ってピコ秒パルスレーザー又はフェムト秒パルスレーザーを照射し、識別情報を示す形像に従ってレーザーを走査することにより、複数のウェル50に対応する複数の情報表示物60を基材10の内部に形成する(S5:レーザー照射工程)。
【0046】
レーザーマーキング装置70は、基材10に対しマーキングを施す部分の深度(
図3中記号D)、すなわちレーザーの焦点位置を調整することができる。本実施形態においては、焦点を基材10の内部にあわせてレーザーを照射し、基材10の内部におけるレーザー焦点照射部分を変化(変質)させてマーキングを行う。このようなマーキング法によれば、基材10の表面を破壊することなくマーキングを施すことができる。これにより、透明ないし半透明の樹脂で構成される基材10の内部において、視認可能な情報表示物60が形成される。
【0047】
本実施形態では、ピコ秒パルスレーザー又はフェムト秒パルスレーザーの照射時に、基材10の表面から300μm以上の深さ位置に焦点をあわせる。これにより、情報表示物60が、基材10の表面から100μmを超える深さ位置に確実に設けられることになる。これにより、情報表示物60を覆う基材10の表面層が情報表示物60を保護する保護層として十分に機能する。このため、情報表示物60の形成段階において生じる生成物の飛散等を確実に防ぐことができるとともに、製品(マイクロプレート1)の通常の使用において、情報表示物60に対する外部からの振動や衝撃等から情報表示物60を確実に保護することができる。従って、コンタミの問題を生じさせることなく情報表示物60の加工容易性や保護性能に優れたマイクロプレート1を得ることができる。
【0048】
レーザー照射部73から照射されるレーザーのエネルギー量は、単位時間あたりのパルスの総数(周波数)の各パルスエネルギーの総和となる。パルスには幅(パルス幅:秒)があるので、各パルスの面積がパルスエネルギーに相当する。パルス幅が狭いほど、エネルギー強度(ピーク強度)は大きくなる。ピコ秒パルスレーザー又はフェムト秒パルスレーザーは、レーザー光源がピコ秒又はフェムト秒オーダーの極短パルスを発生させたものであるので、熱影響を低く抑えつつ、大きなエネルギー強度でもって透明ないし半透明の樹脂で構成される基材10の集光点に限定して比較的大きな屈折率等の光学的特性の変化を生じさせることができる。このような特性変化は、基材10の密度変化や結合状態の変化等に起因する不可逆的な変化であり、恒久的に基材10中に残存して変質部分を形成する。このような変質部分が識別情報を示す形像に従って走査されるレーザーの軌跡に沿って形成され、これが基材10の内部に設けられる情報表示物60となる。なお、基材10の変質については、基材10の密度変化や結合状態の変化等に起因するものの他に、樹脂の溶融によるものや、樹脂に発生した気泡によるもの、樹脂の結晶性変化によるもの、樹脂の炭化等が挙げられる。
【0049】
本実施形態においては、透明ないし半透明の樹脂の内部に情報表示物60が包含され、情報表示物60を包含する樹脂によって情報表示物60が保護される。これにより、透明ないし半透明の樹脂の内部において情報表示物60が際立つとともに、時間が経過しても情報表示物60が剥離等せず、また、情報表示物60の形成段階において生じる生成物が飛散等しない。このため、情報表示物60の視認性を長期に亘って良好な状態に保つことができるとともに、コンタミの問題が生じないようにすることができる。
【0050】
本実施形態においては、情報表示物60が、基材10が変化した部位として構成されるので、情報表示物60とその回りの基材10との一体性が保たれる。これにより、情報表示物60が基材10に安定的に保持されることになり、情報表示物60の表示機能を長期に亘って確実に発揮することができる。
【実施例0051】
以下、本発明の容器、及びその製造方法の実施例について図面を参照しながら説明する。ただし、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0052】
(製造実施例1)
製造実施例1においては、透明なシクロオレフィンポリマー(COP)で構成される基材に対し、ピコ秒パルスレーザーで波長が532nmのグリーンレーザー(スペクトロニクス社製)を用い、マーキング条件として、パルス幅を15ps、ビーム径を20μm、照射時間(印字時間)を2mm角あたり2秒に設定し、
図3中記号Dで示すマーキング深度を含むマーキングデータに従って、マーキング深度Dを300μmとしてパルスレーザーを照射し、基材の内部に情報表示物を形成した。
【0053】
図5(a)、は製造実施例1のマイクロプレートの外観画像である。
図5(a)の外観画像に示すように、製造実施例1で得られたマイクロプレートにおいては、基材の内部に情報表示物が十分に視認できるように形成されている。
【0054】
(製造実施例2)
製造実施例2においては、透明なシクロオレフィンポリマー(COP)で構成される基材に対し、フェムト秒パルスレーザーで波長が780nmの可視光レーザー(サイバーレーザー社製)を用い、マーキング条件として、パルス幅を220fs、ビーム径を6nm、照射時間(印字時間)を2mm角あたり5分に設定し、
図3中記号Dで示すマーキング深度を含むマーキングデータに従って、マーキング深度Dを300μmとしてパルスレーザーを照射し、基材の内部に情報表示物を形成した。
【0055】
図5(b)は、製造実施例2のマイクロプレートの外観画像である。
図5(b)の外観画像に示すように、製造実施例2で得られたマイクロプレートにおいても、基材の内部に情報表示物が十分に視認できるように形成されている。
【0056】
(製造比較例)
製造比較例においては、透明なシクロオレフィンポリマー(COP)で構成される基材に対し、ナノ秒パルスレーザーで波長が355nmのUVレーザー(キーエンス社製)を用い、マーキング条件として、パルス幅を10ns、ビーム径を10μm、照射時間(印字時間)を2mm角あたり1秒に設定し、
図3中記号Dで示すマーキング深度を含むマーキングデータに従って、マーキング深度Dを300μmとしてパルスレーザーを照射し、基材の内部に情報表示物を形成した。
【0057】
製造比較例で得られたマイクロプレートにおいても、基材の内部に情報表示物が十分に視認できるように形成されていた。しかしながら、マーキングで使用したナノ秒パルスレーザーのパルス幅が大き過ぎて、熱影響が大きくなり、樹脂内部に熱によるクラックや、表面焼け又は溶融によるデブリが生じた。
【0058】
〔レーザー焦点距離検証試験〕
本発明において、基材に対しレーザーマーキングを行う際には、基材の表面から厚さ方向内側にレーザーの焦点をあわせることにより、基材の内部に情報表示物を形成ようにしている。情報表示物を良好な状態で基材の内部に形成するには、レーザーの焦点距離を適切に設定する必要がある。そこで、適切なレーザー焦点距離を検証する試験を行った。ここで、レーザー焦点距離とは、レーザーの焦点の位置を基材の表面からの厚さ方向内側への距離として規定した
図3中記号Dで示すマーキング深度のことである。
【0059】
[試験方法]
試験は、レーザーマーキング装置を用いて、透明な樹脂製の試験片(基材)における5mm角のマーキング領域に対し、レーザー焦点距離を200~800μmの範囲でレーザーを照射し、アルファベット文字「A」を示す形像に従ってレーザーを走査することにより、多数のドット配列からなる「A」のアルファベット文字を示す情報表示物を試験片の内部に形成することによって行った。試験片の材質等の条件を表1に、レーザーマーキング装置の仕様等の条件を表2に、試験結果を表3~表6にそれぞれ示す。
【0060】
【0061】
【0062】
【0063】
図6は、レーザー焦点距離検証試験No.1の試験片における情報表示物が設けられた部分の表面状態を示し、(a)は外観画像、(b)は(a)のC部拡大画像である。レーザー焦点距離が200μmの場合、
図6(a)に示すように、情報表示物の視認性は良いものの、
図6(b)に示すように、一部クラックが発生していた。
【0064】
図7は、レーザー焦点距離検証試験No.2の試験片における情報表示物が設けられた部分の表面状態を示し、(a)は外観画像、(b)は(a)のD部拡大画像である。レーザー焦点距離が300μmの場合、
図7(a)に示すように、情報表示物の視認性は良く、しかも
図7(b)に示すように、クラックや樹脂破片等が生じておらず、コンタミの問題が生じていない。
【0065】
図8は、レーザー焦点距離検証試験No.3の試験片における情報表示物が設けられた部分の表面状態を示し、(a)は外観画像、(b)は(a)のE部拡大画像である。レーザー焦点距離が400μmの場合、
図8(a)に示すように、情報表示物の視認性は良く、しかも
図8(b)に示すように、クラックや樹脂破片等が生じておらず、コンタミの問題が生じていない。
【0066】
図9は、レーザー焦点距離検証試験No.4の試験片における情報表示物が設けられた部分の表面状態を示し、(a)は外観画像、(b)は(a)のF部拡大画像である。レーザー焦点距離が600μmの場合、
図9(a)に示すように、情報表示物の視認性は良く、しかも
図9(b)に示すように、クラックや樹脂破片等が生じておらず、コンタミの問題が生じていない。
【0067】
図10は、レーザー焦点距離検証試験No.5の試験片における情報表示物が設けられた部分の表面状態を示し、(a)は外観画像、(b)は(a)のG部拡大画像である。レーザー焦点距離が800μmの場合、
図10(b)に示すように、クラックや樹脂破片等が生じておらず、コンタミの問題が生じていないが、
図10(a)に示すように、情報表示物の発色が薄く、視認性が悪い。
【0068】
図11は、レーザー焦点距離検証試験No.1~No.5の試験片における情報表示物を構成するドットの形成状態を示す模式図である。
図11に示すように、レーザー焦点距離が200~400μmでは、情報表示物を構成するドットが、試験片の内部において、レーザー焦点位置を基準にレーザー照射ラインに沿って進む方向と退く方向との両方に延在するように形成されている。レーザー焦点距離が600μmでは、情報表示物を構成するドットが、試験片の内部において、レーザー焦点位置を基準にレーザー照射ラインに沿って退く方向にのみ延在するように形成されている。レーザー焦点距離が800μmでは、情報表示物を構成するドットが、試験片の内部において、レーザー焦点位置よりも深度が小さい位置からレーザー照射ラインに沿って退く方向にのみ延在するように形成されている。すなわち、試験片におけるレーザー焦点距離が比較的浅い領域(例えば、200~400μm程度)では、パルスレーザーのパルスエネルギーがレーザー焦点位置を基準にレーザー照射ラインに沿って進む方向と退く方向との両方に影響を与えるため、情報表示物を構成するドットが、試験片におけるレーザー焦点位置に形成されるのみならず、レーザー焦点位置の
図11において上側及び下側の両方に形成される。試験片におけるレーザー焦点距離が比較的深い領域(例えば、600~800μm程度)では、深くなるに連れてパルスレーザーのパルスエネルギーがレーザー焦点位置よりも先に与える影響が小さくなるため、情報表示物を構成するドットが、試験片におけるレーザー焦点位置よりも
図11において上側だけに形成される。
【0069】
レーザー焦点距離が300μm以上である場合、試験片の表面に
図6(b)に示すようなクラックを発生させることなく、
図11に示すように、レーザー照射ラインに沿って延在する、情報表示物を構成するドットを試験片の表面から100μmを超える深さ位置に確実に設けることができる。これにより、情報表示物を覆う試験片の表面層が情報表示物を保護する保護層として十分に機能する。このため、情報表示物の形成段階において生じる生成物の飛散等を確実に防ぐことができるとともに、情報表示物に対する外部からの振動や衝撃等から情報表示物を確実に保護することができる。
【0070】
図12は、試験片の表面粗さの測定箇所を示す図である。レーザーマーキングによって「A」のアルファベット文字を示す情報表示物が内部に形成された試験片における、
図12において、P0、P1、P2及びP3の記号で示すそれぞれの測定領域の算術平均の表面粗さを測定した。測定領域〔P0〕は、試験片における情報表示物の周辺の領域であって、レーザーが照射されていない領域であり、試験片において情報表示物が存在しない部位(情報表示物が設けられない部位)である。測定領域〔P1〕~〔P3〕は、試験片において情報表示物が存在する部位(情報表示物が設けられる部位)の複数箇所を示し、測定領域〔P1〕はアルファベット文字「A」の頂部、測定領域〔P2〕はアルファベット文字「A」の中間部、測定領域〔P3〕はアルファベット文字「A」の底部でレーザー焦点距離が200μmの場合にクラックが発生した部分である。情報表示物が存在する部位(測定領域〔P1〕~〔P3〕)の表面粗さをRaとし、情報表示物が存在しない部位(測定領域〔P0〕)の表面粗さをRbとしたときの試験片No.1~No.5のそれぞれの表面粗さの測定結果を表4~6に示す。
【0071】
【0072】
【0073】
【0074】
表5及び表6において、Ra/Rbが1.1を超える試験No.1のものでは、試験片における測定領域〔P3〕の表面にクラックが発生しており、表4及び表5に示すように、Ra/Rbが1.1以下である試験片No.2~No.5のものでは、測定領域〔P1〕~〔P3〕の何れにおいても、クラックが発生しておらず、Ra/Rbが1.1以下であれば、試験片の表面に大きな変化をもたらすようなダメージが生じていないことが分かる。
【0075】
表3~表6に示す結果から、表1及び表2の条件にてレーザーマーキングを実施する場合、試験片の表面から厚さ方向内側に300~600μmの位置にレーザーの焦点をあわせることにより、
図7~
図9に示すように、試験片の表面にダメージを与えることなく、視認性の良い情報表示物を形成することができる。
本発明の容器は、例えば、マイクロプレートや、コニカルチューブ、デッシュ、フラスコ等のような、生化学や医学等での実験や検査、分析試験等で使用するシングルユースの試料容器として利用可能であるが、衛生上の問題等がない場面(例えば、練習用の試料容器としての使用)であれば、繰り返し使用する用途においても利用可能である。