(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022133837
(43)【公開日】2022-09-14
(54)【発明の名称】プライマリドライブギア及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
F16H 55/17 20060101AFI20220907BHJP
C23C 8/04 20060101ALI20220907BHJP
C23C 8/32 20060101ALI20220907BHJP
C21D 9/32 20060101ALI20220907BHJP
F02B 77/00 20060101ALI20220907BHJP
F02B 61/06 20060101ALI20220907BHJP
F16C 3/06 20060101ALI20220907BHJP
B21K 1/30 20060101ALI20220907BHJP
C21D 1/06 20060101ALI20220907BHJP
【FI】
F16H55/17 Z
C23C8/04
C23C8/32
C21D9/32 A
F02B77/00 B
F02B61/06 A
F16C3/06
B21K1/30
C21D1/06 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021032751
(22)【出願日】2021-03-02
(71)【出願人】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100107319
【氏名又は名称】松島 鉄男
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【識別番号】100096769
【氏名又は名称】有原 幸一
(72)【発明者】
【氏名】大村 悟
(72)【発明者】
【氏名】山田 茂則
(72)【発明者】
【氏名】堀井 長彦
【テーマコード(参考)】
3J030
3J033
4E087
4K028
4K042
【Fターム(参考)】
3J030BC02
3J030BC06
3J030BC10
3J030CA10
3J033AA02
3J033BA01
3J033CB10
4E087BA02
4E087HA02
4K028AA03
4K028AB01
4K028AB06
4K042AA18
4K042BA01
4K042BA03
4K042CA06
4K042CA07
4K042CA08
4K042CA10
4K042CA11
4K042CA16
4K042CA17
4K042DA01
4K042DA06
4K042DB01
(57)【要約】
【課題】プライマリドライブギアにおいて、クラック等の損傷の発生を効率的に抑制し、プライマリドライブギアにおける疲労強度等の機械的強度の低下を効率的に抑制する。
【解決手段】本発明のプライマリドライブギアの製造方法は、金属材料を鍛造し、これによって、鍛造品を得る鍛造工程と、複数の穴部分以外のプライマリドライブギアの形状を形作るように鍛造品を加工し、これによって、主形状加工品を得る主形状加工工程と、主形状加工品の表面に窒素化合物を被膜する窒化処理工程と、主形状加工品に高周波焼き入れを施す焼き入れ工程と、複数の穴部分を形成するように主形状加工品を加工する穴開け工程とを含む。そして、本発明のプライマリドライブギアは、このような製造方法によって得ることができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンのクランクシャフトに連結されるプレート部分と、前記プレート部分上で前記クランクシャフトの回転軸線を囲むように配置されるギア部分と、前記プレート部分上で前記クランクシャフトの回転軸線を基準としてプライマリドライブギアの径方向の片側に偏在するように配置され、かつ前記プレート部分から凹む複数の穴部分とを有するプライマリドライブギアの製造方法であって、
金属材料を鍛造し、これによって、鍛造品を得る鍛造工程と、
前記複数の穴部分以外の前記プライマリドライブギアの形状を形作るように前記鍛造品を加工し、これによって、主形状加工品を得る主形状加工工程と、
前記主形状加工品の表面に窒素化合物を被膜する窒化処理工程と、
前記主形状加工品に高周波焼き入れを施す焼き入れ工程と、
前記複数の穴部分を形成するように前記主形状加工品を加工し、これによって、前記プライマリドライブギアを得る穴開け工程と
を含むプライマリドライブギアの製造方法。
【請求項2】
前記鍛造工程の後かつ前記窒化処理工程の前に、前記複数の穴部分を形成しようとする前記主形状加工品の表面の穴開け予定部分及びその周囲の穴周縁部分から成る塗布範囲に防窒化剤を塗布する防窒化剤塗布工程と、
前記焼き入れ工程の後かつ前記穴開け工程の前に、前記塗布範囲に塗布された防窒化剤を除去する防窒化剤除去工程と
をさらに含むプライマリドライブギアの製造方法。
【請求項3】
エンジンのクランクシャフトに連結されるプレート部分と、
前記プレート部分上で前記クランクシャフトの回転軸線を囲むように配置されるギア部分と、
前記プレート部分上で前記クランクシャフトの回転軸線を基準としてプライマリドライブギアの径方向の片側に偏在するように配置され、かつ前記プレート部分から凹む複数の穴部分と
を備えるプライマリドライブギアであって、
前記プレート部分における母材の表面の一部又は全部に窒素化合物が被膜されており、
前記ギア部分における母材の表面に窒素化合物が被膜されており、
前記複数の穴部分の表面では、窒素化合物が被膜されずに前記複数の穴部分における母材が露出している、プライマリドライブギア。
【請求項4】
前記プレート部分上で前記複数の穴部分の周囲にそれぞれ位置する複数の穴周縁部分の表面では、窒素化合物が被膜されずに前記複数の穴周縁部分における母材が露出している、請求項3に記載のプライマリドライブギア。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンのクランクシャフトに連結されるプライマリドライブギアに関する。本発明は、このようなプライマリドライブギアの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動二輪車、自動車等の車両のエンジンには、クランクシャフトに連結されるプレート部分を有するプライマリドライブギアが設けられている。このプライマリドライブギアは、トランスミッションのカウンタシャフトに取り付けられるプライマリドリブンギアのギア部分と噛み合うギア部分をさらに有する。エンジンの駆動力は、プライマリドライブギアからトランスミッションのプライマリドリブンギア等を経て駆動輪に伝わる。
【0003】
このようなプライマリドライブギアの一例としては、クランクシャフトのクランク軸周りにおける慣性モーメントの中心をプライマリドライブギアのギア部分の中心と略一致させるようにプライマリドライブギアのバランスをとるべく、プレート部分から凹む複数のバランサ穴(穴部分)を設けたプライマリドライブギアが挙げられる。(例えば、特許文献1、特に、その段落[0037]を参照。)
【0004】
典型的に、このようなプライマリドライブギアの製造過程においては、母材の表面に窒化物層(窒素化合物層)を形成するように軟窒化処理等の窒化処理が施され、その後、窒化処理された母材に高周波焼き入れが施される。(例えば、特許文献2を参照。)特に、プライマリドライブギアの製造過程においては、窒化処理及び高周波焼き入れの前に、鉄鋼材料から構成される母材が、プライマリドライブギアのプレート部分と、ギア部分と、穴部分とを形成するように加工される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012-136997号公報
【特許文献2】特開昭58-96815号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述のようなプライマリドライブギアにおいては、高周波焼き入れを施した後の母材を冷却するときに、複数の穴部分及びその周辺部分に冷却ムラが生じ易く、さらには、冷却ムラに起因する熱処理歪みが生じ易い。この場合、複数の穴部分及びその周辺部分に材料強度を超える引張応力が発生するおそれがあり、その結果、複数の穴部分及びその周辺部分の窒素化合物層を起点としてクラック等の損傷が生じるおそれがある。
【0007】
さらに、エンジンの実稼働時においては、プライマリドライブギアの穴部分の底部及び内周部間に形成される底側角部に応力集中が発生し易く、その結果、底側角部の窒素化合物層を起点としてクラック等の損傷が生じるおそれがある。すなわち、プライマリドライブギアにおいては、クラック等の損傷、熱処理歪みに起因して疲労強度等の機械的強度が低下するおそれがある。
【0008】
このような実情を鑑みると、プライマリドライブギア及びその製造方法においては、プライマリドライブギアにおけるクラック等の損傷の発生を効率的に抑制し、プライマリドライブギアにおける疲労強度等の機械的強度の低下を効率的に抑制することが望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
課題を解決するために、一態様に係るプライマリドライブギアの製造方法は、エンジンのクランクシャフトに連結されるプレート部分と、前記プレート部分上で前記クランクシャフトの回転軸線を囲むように配置されるギア部分と、前記プレート部分上で前記クランクシャフトの回転軸線を基準としてプライマリドライブギアの径方向の片側に偏在するように配置され、かつ前記プレート部分から凹む複数の穴部分とを有するプライマリドライブギアの製造方法であって、金属材料を鍛造し、これによって、鍛造品を得る鍛造工程と、前記複数の穴部分以外の前記プライマリドライブギアの形状を形作るように前記鍛造品を加工し、これによって、主形状加工品を得る主形状加工工程と、前記主形状加工品の表面に窒素化合物を被膜する窒化処理工程と、前記主形状加工品に高周波焼き入れを施す焼き入れ工程と、前記複数の穴部分を形成するように前記主形状加工品を加工し、これによって、前記プライマリドライブギアを得る穴開け工程とを含む。
【0010】
課題を解決するために、一態様に係るプライマリドライブギアは、エンジンのクランクシャフトに連結されるプレート部分と、前記プレート部分上で前記クランクシャフトの回転軸線を囲むように配置されるギア部分と、前記プレート部分上で前記クランクシャフトの回転軸線を基準としてプライマリドライブギアの径方向の片側に偏在するように配置され、かつ前記プレート部分から凹む複数の穴部分とを備えるプライマリドライブギアであって、前記プレート部分における母材の表面の一部又は全部に窒素化合物が被膜されており、前記ギア部分における母材の表面に窒素化合物が被膜されており、前記複数の穴部分の表面では、窒素化合物が被膜されずに前記複数の穴部分における母材が露出している。
【発明の効果】
【0011】
一態様に係るプライマリドライブギア及びその製造方法においては、プライマリドライブギアにおけるクラック等の損傷の発生を効率的に抑制することができ、プライマリドライブギアにおける疲労強度等の機械的強度の低下を効率的に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、一実施形態に係るプライマリドライブギアをクランクシャフトに連結した状態で概略的に示す斜視図である。
【
図2】
図2は、一実施形態に係るプライマリドライブギアを概略的に示す正面図である。
【
図4】
図4は、一実施形態に係るプライマリドライブギアの製造方法を説明するためのフローチャートである。
【
図5】
図5は、一実施形態に係るプライマリドライブギアの製造方法の主形状加工工程にて、加工により得られた主形状加工品を概略的に示す正面図である。
【
図6】
図6は、一実施形態に係る製造方法の防窒化剤塗布工程にて、防窒化剤を塗布された主形状加工品を概略的に示す正面図である。
【
図7】
図7は、一実施形態に係る製造方法の窒化処理工程にて窒素化合物を被膜され、かつ同焼き入れ工程にて高周波焼き入れを施された主形状加工品を概略的に示す正面図である。
【
図8】
図8は、一実施形態に係る製造方法の防窒化剤除去工程にて、防窒化剤を除去された主形状加工品を概略的に示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
一実施形態に係るプライマリドライブギア及びその製造方法について説明する。なお、本実施形態に係るプライマリドライブギア(以下、必要に応じて、単に「ドライブギア」という)はクランクシャフトに連結される。そして、本実施形態において、このクランクシャフトは、自動二輪車のエンジンに設置されるものとする。しかしながら、プライマリドライブギアを連結したクランクシャフトを設置するエンジンは、輸送機器のエンジンであればよい。例えば、この輸送機器としては、自動車等の車両、船舶等が挙げられる。
【0014】
「プライマリドライブギアの概略」
図1~
図3を参照して、本実施形態に係るプライマリドライブギア1の概略について説明する。すなわち、本実施形態に係るプライマリドライブギア1は、概略的には以下のように構成される。
【0015】
図1~
図3に示すように、プライマリドライブギア1は、クランクシャフト10に連結されるプレート部分2を有する。ドライブギア1は、プレート部分2上でクランクシャフト10の回転軸線10aを囲むように配置されるギア部分3を有する。
【0016】
ドライブギア1は、プレート部分2から凹む複数の穴部分4を有する。複数の穴部分4は、プレート部分2上でクランクシャフト10の回転軸線10aを基準としてドライブギア1の径方向の片側に偏在するように配置される。
【0017】
図2及び
図3に示すように、プレート部分2における母材の表面の一部に窒素化合物が被膜されている。すなわち、プレート部分2は、その母材の表面の一部にて被膜された窒素化合物から構成されるプレート被膜部2a(複数の斜線から成るハッチングにより示す)を有する。
【0018】
しかしながら、プレート部分における母材の表面の全部に窒素化合物を被膜することもできる。すなわち、プレート被膜部が、プレート部分における母材の表面の全部にて被膜された窒素化合物から構成することもできる。
【0019】
ギア部分3における母材の表面に窒素化合物が被膜されている。すなわち、ギア部分3は、その母材の表面上にて被膜された窒素化合物から構成されるギア被膜部3a(複数の斜線から成るハッチングにより示す)を有する。複数の穴部分4の表面では、窒素化合物が被膜されずに複数の穴部分4の母材が露出している。すなわち、各穴部分4は、その表面にてその母材を露出させるように構成される穴内露出部4aを有する。
【0020】
さらに、本実施形態に係るプライマリドライブギア1は、概略的には以下のように構成することができる。
図2及び
図3に示すように、プレート部分2上で複数の穴部分4の周囲には、それぞれ複数の穴周縁部分5が位置している。これら複数の穴周縁部分5の表面では、窒素化合物が被膜されずに複数の穴周縁部分5の母材が露出している。すなわち、各穴周縁部分5は、その表面にてその母材を露出させるように構成される穴周縁露出部5aを有する。
【0021】
「エンジン及びトランスミッションの詳細」
図1を参照すると、クランクシャフト10を含むエンジン及びカウンタシャフトを含むトランスミッションは、詳細には以下のように構成することができる。
【0022】
エンジンのクランクシャフト10は、回転軸線10aに沿った方向(以下、必要に応じて「クランク軸線方向」という)にてドライブギア1とは反対側の端部に位置するジャーナル11を有する。ジャーナル11は、クランクシャフト10の回転軸線10aに沿って延びる。クランクシャフト10のジャーナル11と後述するドライブギア1のジャーナル6とが、クランクシャフト10及びドライブギア1をこれらの回転軸線10a,1a周りに回転可能とするように支持される。
【0023】
クランクシャフト10は、ドライブギア1に取り付けられるギア取付ピン12を有する。ギア取付ピン12は、クランク軸線方向にてドライブギア1側に位置するクランクシャフト10の端部に位置する。ギア取付ピン12は、クランクシャフト10の回転軸線10aに対してドライブギア1の径方向にシフトして配置されている。後述するドライブギア1の回転軸線1aは、クランクシャフト10の回転軸線10aと略一致するように配置される。
【0024】
特に明確に図示はしないが、エンジンの駆動力は、トランスミッションを経由して車両の駆動輪に伝えられる。このようなトランスミッションはカウンタシャフトを有し、このカウンタシャフトにプライマリドリブンギアが連結される。プライマリドリブンギアの回転軸線は、カウンタシャフトの回転軸線と略一致するように配置される。そして、プライマリドリブンギアのギア部分が、プライマリドライブギア1のギア部分3と噛み合うようになっている。
【0025】
エンジンの駆動によって、クランクシャフト10はその回転軸線10a周りに回転し、かつドライブギア1がその回転軸線1a周りに回転する。このドライブギア1の回転力によって、プライマリドリブンギアがその回転軸線周りに回転し、かつカウンタシャフトがその回転軸線周りに回転する。このカウンタシャフトの回転力が、車両の駆動輪まで伝えられて、これによって、車両が走行駆動する。
【0026】
「プライマリドライブギアの詳細」
本実施形態に係るプライマリドライブギア1は、詳細には以下のように構成することができる。プライマリドライブギア1の母材は金属製である。特に、母材に用いられる金属は、炭素鋼とすることができる。
【0027】
しかしながら、母材に用いられる金属は、炭素鋼以外の鋼とすることができ、例えば、このような金属は、クロム-モリブデン鋼、ニッケル-クロム鋼、窒化鋼、合金工具鋼、ステンレス鋼、低合金鋼、中合金鋼、高合金鋼等とすることができる。母材に用いられる金属は、鋼以外の鉄又は鉄合金とすることができ、例えば、このような金属は、鋳鉄等とすることができる。さらに、母材に用いられる金属は、鉄及び鉄合金以外の金属とすることもできる。
【0028】
プライマリドライブギア1の母材の表面を被膜する窒素化合物は、チタン、ジルコニウム、モリブデン、タングステン、クロム、マンガン、アルミニウム、ニッケル、炭素、ホウ素、シリコン等のうち少なくとも1つを含む窒化物である。しかしながら、窒素化合物は、これに限定されない。
【0029】
図1~
図3に示すように、ドライブギア1はその回転軸線1a周りに回転するように用いられる。ドライブギア1は、その回転軸線1aに沿って延びるジャーナル6を有する。ドライブギア1のプレート部分2は、ギア部分3と一体に形成される。
【0030】
プレート部分2は、その厚さ方向、すなわち、クランク軸線方向にてクランクシャフト10を向く内側表面2bを有する。プレート部分2の内側表面2bが、上述のようなクランクシャフト10のギア取付ピン12に連結される。
【0031】
プレート部分2の内側表面2bには、その母材を露出させるように構成されるプレート露出部2cを設けることもできるし、その母材を窒素化合物によって被膜することもできる。
【0032】
プレート部分2は、その厚さ方向、すなわち、クランク軸線方向にてクランクシャフト10とは反対側を向く外側表面2dを有する。複数の穴部分4は、この外側表面2dからクランク軸線方向にてクランクシャフト10に向かって凹むように形成される。しかしながら、複数の穴部分のうち少なくとも1つを、プレート部分の内側表面からクランク軸線方向にてクランクシャフト10とは反対側に向かって凹むように形成することもできる。
【0033】
複数の穴周縁部分5は、プレート部分2の外側表面2dに沿って配置される。ジャーナル6は、プレート部分2の外側表面2dからクランク軸線方向にてクランクシャフト10とは反対側に向かって延びる。プレート被膜部2aは、複数の穴部分4の及び複数の穴周縁部分5を避けるように、プレート部分2の外側表面2dにてプレート部分2の母材を被膜した窒素化合物から構成されている。
【0034】
プレート部分2の外周縁部2eは略円形形状に形成される。ギア部分3は、プレート部分2の周方向に互いに間隔を空けるようにプレート部分2の外周縁部2eに配置される複数の歯部3bを有する。
図3に示すように、複数の穴部分4は、止まり穴として形成されている。しかしながら、複数の穴部分のうち少なくとも1つを、貫通孔として形成することもできる。
【0035】
各穴部分4は、プレート部分2の外側表面2d上に形成される開口部4bを有する。各穴部分4は、その開口部4bとクランク軸線方向に対向するように位置する底部4cを有する。各穴部分4は、底部4cの外周縁からプレート部分2の外側表面2dまで延びる内周部4dを有する。
【0036】
内周部4dの横断面は、略円形形状に形成される。しかしながら、内周部の横断面は、略円形形状以外の形状に形成することもできる。例えば、内周部の横断面は、略円形形状、略多角形状、略楕円形状、略半円形状、略半楕円形状、略扇形状等を含む形状に形成することができる。
【0037】
さらに、各穴部分4は、その内周部4dと穴周縁部分5との間に形成される開口側角部4eを有する。各穴部分4は、その底部4c及び内周部4d間に形成される底側角部4fを有する。
【0038】
複数の穴部分4の数、位置、横断面積、及び深さは、クランクシャフト10の回転軸線10a周りにおける慣性モーメントの中心をドライブギア1の回転軸線1aと略一致させるためにドライブギア1のバランスをとるように決定される。
図1及び
図2に示すように、複数の穴部分4の横断面は実質的に互いに同様に形成することができる。複数の穴部分4の横断面積は、実質的に互いに同じに形成することができる。複数の穴部分4の深さは、実質的に互いに同じにすることができる。特に、
図1及び
図2においては、ドライブギア1の穴部分4の数は5個となっている。しかしながら、ドライブギアの穴部分の数は1個以上とすることができる。
【0039】
ジャーナル6における母材の表面に窒素化合物が被膜されている。すなわち、ジャーナル6は、その母材の表面上にて被膜された窒素化合物から構成されるジャーナル被膜部6a(複数の斜線から成るハッチングにより示す)を有する。ジャーナル6の横断面は、略円形形状となっている。
【0040】
「プライマリドライブギアの製造方法」
図2~
図8を参照して、本実施形態に係るプライマリドライブギア1の製造方法を説明する。本実施形態に係る製造方法によっては、上述したプライマリドライブギア1を製造することができる。
【0041】
図4に示すように、プライマリドライブギア1の製造方法は、概略的には、鍛造工程S1、主形状加工工程S2、窒化処理工程S4、焼き入れ工程S5、及び穴開け工程7を含む。ドライブギア1の製造方法は、詳細には、鍛造工程S1、主形状加工工程S2、防窒化剤塗布工程S3、窒化処理工程S4、焼き入れ工程S5、防窒化剤除去工程S6、及び穴開け工程S7を含む。
【0042】
鍛造工程S1においては、金属材料を鍛造し、これによって、鍛造品(図示せず)を得る。ここで用いられる金属材料は、上記ドライブギア1の母材に用いられる金属と同様である。
図5に示すように、鍛造工程S1の後の主形状加工工程S2においては、複数の穴部分4以外のドライブギア1の形状を形作るように上記鍛造品を加工し、これによって、主形状加工品Pを得る。
【0043】
図6に示すように、主形状加工工程S2の後の防窒化剤塗布工程S3においては、複数の穴部分4を形成しようとする主形状加工品Pの表面の穴開け予定部分Q(
図6~
図8にて仮想線により示す)及びその周囲の穴周縁部分5から成る塗布範囲Rに防窒化剤を塗布する。なお、防窒化剤塗布工程は、鍛造工程の後かつ主形状加工工程の前に行うこともできる。
【0044】
防窒化剤は、窒素化合物を母材に被膜するときに、この防窒化剤の塗布範囲Rにて母材の窒化を防ぐように母材をマスキング可能とする材料である。例えば、防窒化剤としては、ガス軟窒化防止剤、水系窒化防止剤等の窒化浸炭防止剤等が挙げられる。
【0045】
図7に示すように、防窒化剤塗布工程S3の後の窒化処理工程S4においては、主形状加工品Pの表面に窒素化合物を被膜する。このとき、塗布範囲Rに塗布された防窒化剤によって、塗布範囲Rには窒素化合物が被膜されていない。窒化処理工程S4の焼き入れ工程S5においては、窒素化合物を被膜した主形状加工品Pに高周波焼き入れを施す。
図8に示すように、焼き入れ工程S5の後の防窒化剤除去工程S6においては、塗布範囲Rに塗布された防窒化剤を除去する。
【0046】
図2及び
図3に示すように、防窒化剤除去工程S6の穴開け工程S7においては、複数の穴部分4を形成するように主形状加工品Pを加工し、これによって、上述のようにドライブギア1を得る。複数の穴部分4を形成するための加工においては、ドリルを用いることができる。しかしながら、当該加工においては、ドリル以外の加工工具、加工装置等を用いることもできる。例えば、複数の穴部分を形成するための加工においては、ウォータージェット加工装置、レーザ加工装置等を用いることもできる。
【0047】
このような製造方法によって、ドライブギア1が、プレート被膜部2aを有するプレート部分2と、ギア被膜部3aを有するギア部分3と、穴内露出部4aを有する穴部分4と、穴周縁露出部5aを有する穴周縁部5とを含むように形成することができる。
【0048】
以上、本実施形態に係るプライマリドライブギア1は、エンジンのクランクシャフト10に連結されるプレート部分2と、プレート部分2上でクランクシャフト10の回転軸線10aを囲むように配置されるギア部分3と、前記プレート部分2上で前記クランクシャフト10の回転軸線10aを基準としてドライブギア1の径方向の片側に偏在するように配置され、かつ前記プレート部分2から凹む複数の穴部分4とを備えるプライマリドライブギア1であって、前記プレート部分2における母材の表面の一部又は全部に窒素化合物が被膜されており、前記ギア部分3における母材の表面に窒素化合物が被膜されており、前記複数の穴部分4の表面では、窒素化合物が被膜されずに前記複数の穴部分4における母材が露出している。
【0049】
このようなプライマリドライブギア1においては、複数の穴部分4に窒素化合物層が形成されず、かつ各穴部分4の底側角部4fに窒素化合物層が形成されない。そのため、エンジンの実稼働時にて、穴部分4の底側角部4fに応力集中が発生したとしても、底側角部4fの窒素化合物層を起点としてクラック等の損傷が発生することを効率的に抑制できる。さらには、ドライブギア1において、クラック等の損傷、熱処理歪みに起因して疲労強度等の機械的強度の低下を効率的に抑制することができる。
【0050】
本実施形態に係るプライマリドライブギア1においては、前記プレート部分2上で前記複数の穴部分4の周囲にそれぞれ位置する複数の穴周縁部分5の表面では、窒素化合物が被膜されずに前記複数の穴周縁部分5における母材が露出している。
【0051】
このようなプライマリドライブギア1においては、穴部分4の開口側角部4eに窒素化合物層が形成されない。そのため、エンジンの実稼働時にて、穴部分4の開口側角部4eに応力集中が発生したとしても、開口側角部4eの窒素化合物層を起点としてクラック等の損傷が発生することを効率的に抑制できる。
【0052】
本実施形態に係るプライマリドライブギア1の製造方法は、金属材料を鍛造し、これによって、鍛造品(図示せず)を得る鍛造工程S1と、前記複数の穴部分4以外の前記ドライブギア1の形状を形作るように前記鍛造品を加工し、これによって、主形状加工品Pを得る主形状加工工程S2と、前記主形状加工品Pの表面に窒素化合物を被膜する窒化処理工程S4と、前記主形状加工品Pに高周波焼き入れを施す焼き入れ工程S5と、前記複数の穴部分4を形成するように前記主形状加工品Pを加工し、これによって、上述のようなドライブギア1を得る穴開け工程S7とを含む。
【0053】
このような製造方法においては、複数の穴部分4を形成する前の主形状加工品Pに窒化処理及び高周波焼き入れを施し、その後に、複数の穴部分4を形成する。そのため、従来と比較して、高周波焼き入れの後に複数の穴部分4及びその周辺部分に冷却ムラが発生することを効率的に抑制でき、さらには、冷却ムラに起因する熱処理歪みが発生することを効率的に抑制できる。従って、特に、複数の穴部分4及びその周辺部分に材料強度を超える引張応力が発生することを効率的に抑制でき、その結果、複数の穴部分4及びその周辺部分の窒素化合物層を起点としてクラック等の損傷が発生することを効率的に抑制できる。
【0054】
さらに、本実施形態に係る製造方法においては、複数の穴部分4に窒素化合物層が形成されない。そのため、エンジンの実稼働時において、穴部分4の底側角部4fに応力集中が発生したとしても、底側角部4fの窒素化合物層を起点としてクラック等の損傷が発生することを効率的に抑制できる。さらには、ドライブギア1において、クラック等の損傷、熱処理歪みに起因して疲労強度等の機械的強度の低下を効率的に抑制することができる。
【0055】
追加的な効果としては、主形状加工品Pに窒化処理及び高周波焼き入れを施した後に、高い形状精度を得ることができる削り出し加工によって複数の穴部分4を形成することができる。そのため、クランクシャフト10の回転軸線10a周りにおける慣性モーメントの中心をドライブギア1の回転軸線1aと略一致させるように、ドライブギア1のバランスを好適にとることができる。
【0056】
さらなる追加的な効果として、高周波焼き入れ時に、穴部分4が従来のように形成されていないので、穴部分4の底側角部4fに焼き境が生じることを効率的に防止できる。その結果、高周波焼き入れ深さを要求性能に応じて好適に調節することができる。
【0057】
本実施形態に係るプライマリドライブギア1の製造方法は、前記鍛造工程S1の後かつ窒化処理工程S4の前に、前記複数の穴部分4を形成しようとする前記主形状加工品Pの表面の穴開け予定部分Q及びその周囲の穴周縁部分5から成る塗布範囲Rに防窒化剤を塗布する防窒化剤塗布工程S3と、前記焼き入れ工程S5の後かつ前記穴開け工程S7の前に、前記塗布範囲Rに塗布された防窒化剤を除去する防窒化剤除去工程S6とをさらに含む。
【0058】
このような製造方法においては、穴開け予定部分Q及び穴周縁部分5に窒素化合物層が形成されない。そのため、穴開け加工時に窒素化合物層が損傷することを効率的に防止でき、その結果、この損傷に起因して穴部分4の周辺部分等にクラック等の損傷が発生することを効率的に防止できる。付随的には、穴開け予定部分Qに窒素化合物層が形成されないので、穴開け加工が容易になる。すなわち、ドライブギア1の製造効率を向上させることができる。
【0059】
ここまで本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明は、その技術的思想に基づいて変形及び変更可能である。
【符号の説明】
【0060】
1…プライマリドライブギア、ドライブギア、2…プレート部分、3…ギア部分、4…穴部分、5…穴周縁部分
10…クランクシャフト、10a…回転軸線
P…主形状加工品、Q…穴開け予定部分、R…塗布範囲
S1…鍛造工程、S2…主形状加工工程、S3…防窒化剤塗布工程、S4…窒化処理工程、S5…焼き入れ工程、S6…防窒化剤除去工程、S7…穴開け工程