(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022133842
(43)【公開日】2022-09-14
(54)【発明の名称】樹脂成形体及び樹脂成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 5/00 20060101AFI20220907BHJP
C08L 23/10 20060101ALI20220907BHJP
C08L 27/08 20060101ALI20220907BHJP
H01B 3/44 20060101ALI20220907BHJP
【FI】
C08J5/00 CES
C08J5/00 CEV
C08L23/10
C08L27/08
H01B3/44 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021032757
(22)【出願日】2021-03-02
(71)【出願人】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100129746
【弁理士】
【氏名又は名称】虎山 滋郎
(72)【発明者】
【氏名】櫻田 裕次郎
(72)【発明者】
【氏名】中尾 亮介
【テーマコード(参考)】
4F071
4J002
5G305
【Fターム(参考)】
4F071AA20
4F071AA24
4F071AA71
4F071AA85
4F071AC18
4F071AE05
4F071AE11
4F071AF40
4F071AH12
4F071BB03
4F071BC01
4F071BC12
4J002BB122
4J002BB152
4J002BD041
4J002BD051
4J002BD181
4J002BP022
4J002GQ01
5G305AA02
5G305AB10
5G305AB36
5G305CA01
5G305CA03
5G305CA20
5G305CA53
5G305CB10
5G305CC02
5G305CC03
5G305CC13
5G305CC14
5G305CD01
5G305CD09
5G305CD13
5G305CD15
5G305CD17
5G305DA16
5G305DA23
(57)【要約】
【課題】誘電特性及び成形性が優れる樹脂成形体及び樹脂成形体の製造方法を提供する。
【解決手段】塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、ポリプロピレン系樹脂10~70質量部を有する成形体用樹脂組成物からなる樹脂成形体であって、前記樹脂成形体中の1cm2単位面積あたりにおける前記ポリプロピレン系樹脂の粒状塊の平均の大きさが1~25μmである樹脂成形体。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、ポリプロピレン系樹脂10~70質量部を有する成形体用樹脂組成物からなる樹脂成形体であって、
前記樹脂成形体中の1cm2単位面積あたりにおける前記ポリプロピレン系樹脂の粒状塊の平均の大きさが1~25μmである樹脂成形体。
【請求項2】
前記塩化ビニル系樹脂は、軟化点(Ta)が50~80℃である、請求項1に記載の樹脂成形体。
【請求項3】
前記塩化ビニル系樹脂は、塩化ビニル共重合体である、請求項1又は2に記載の樹脂成形体。
【請求項4】
前記ポリプロピレン系樹脂は、軟化点(Tb)が110~150℃である、請求項1~3のいずれか1項に記載の樹脂成形体。
【請求項5】
前記ポリプロピレン系樹脂の軟化点(Tb)と前記塩化ビニル系樹脂の軟化点(Ta)との差分(Tb-Ta)は、60~100℃である、請求項1~4のいずれか1項に記載の樹脂成形体。
【請求項6】
電線被覆材である、請求項1~5のいずれか1項に記載の樹脂成形体。
【請求項7】
塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、ポリプロピレン系樹脂10~70質量部を有する成形体用樹脂組成物を調整する調整工程と、
前記成形体用樹脂組成物を前記塩化ビニル系樹脂の軟化点(Ta)以上、かつ、前記ポリプロピレン系樹脂の軟化点(Tb)以下の成形温度で成形する成形工程とを含む、樹脂成形体の製造方法。
【請求項8】
前記成形温度は、70~150℃である、請求項7に記載の樹脂成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂成形体及び樹脂成形体の製造方法に関し、特に、自動車のワイヤーハーネスや電子機器等に使用される絶縁電線の電線被覆材に使用される樹脂成形体及び樹脂成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、情報通信機器の信号帯域、及びコンピュータのCPUクロックタイムは、高周波数化が進行し、ギガヘルツ(GHz)帯に達しており、使用される信号の周波数が高いほど誘電損失が大きくなることが知られている。誘電損失が大きくなることで、電気信号が減衰されて信号の信頼性を損なうことになるので、誘電損失を抑制するために絶縁体には誘電特性が優れる材料を選定する必要がある。
例えば、自動車においては、車載装置である情報通信機器の電子化が進行しており、情報通信機器の誘電損失を抑制するために、情報通信機器に使用されている電線を被覆する被覆材には誘電特性が優れる材料を選定する必要がある。
【0003】
また、情報通信機器の電子化の進行に伴い、情報通信機器内における電気、電子配線回路の数が著しく増加し、複雑な配線回路構造を構成している。複雑な配線回路構造に使用されている電線を被覆する被覆材には、複雑な配線回路構造に追従可能な軟質で成形性が優れる材料を選定する必要がある。そこで、誘電特性及び成形性が優れる材料として、軟質性塩化ビニルが用いられることがある。そして、軟質性塩化ビニルの誘電特性を下げる目的として、発泡させて使用することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。しかし、軟質性塩化ビニルに含有されている可塑剤は、長期の使用に伴いブリードアウトする傾向にある。そして、ブリードアウトした可塑剤の影響により誘電特性を悪化させる傾向にある。
そこで、軟質性塩化ビニルの誘電特性の悪化を抑制するために、塩化ビニル系樹脂にポリオレフィン系樹脂を添加したものを採用することがある(例えば、特許文献2参照)。しかし、このような混合樹脂の場合、混合した樹脂の成形温度の違いから成形が困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-9117号公報
【特許文献2】特開2020-198240号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のような事情に鑑み、本発明は、誘電特性及び成形性が優れる樹脂成形体及び樹脂成形体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、塩化ビニル系樹脂とポリプロピレン系樹脂の混合樹脂であって、ポリプロピレン系樹脂の粒状を保ったまま成形することで、誘電特性及び成形性が優れる樹脂成形体とすることが可能であることを見出した。本発明者らは、かかる知見に基づきさらに研究を重ね、本発明を完成するに至った。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、本発明の要旨は、以下のとおりである。
[1]塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、ポリプロピレン系樹脂10~70質量部を有する成形体用樹脂組成物からなる樹脂成形体であって、前記樹脂成形体中の1cm2単位面積あたりにおける前記ポリプロピレン系樹脂の粒状塊の平均の大きさが1~25μmである樹脂成形体。
[2]前記塩化ビニル系樹脂は、軟化点(Ta)が50~80℃である、[1]に記載の樹脂成形体。
[3]前記塩化ビニル系樹脂は、塩化ビニル共重合体である、[1]又は[2]に記載の樹脂成形体。
[4]前記ポリプロピレン系樹脂は、軟化点(Tb)が110~150℃である、[1]~[3]のいずれかに記載の樹脂成形体。
[5]前記ポリプロピレン系樹脂の軟化点(Tb)と前記塩化ビニル系樹脂の軟化点(Ta)との差分(Tb-Ta)は、60~100℃である、[1]~[4]のいずれかに記載の樹脂成形体。
[6]電線被覆材である、[1]~[5]のいずれかに記載の樹脂成形体。
[7]塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、ポリプロピレン系樹脂10~70質量部を有する成形体用樹脂組成物を調整する調整工程と、前記成形体用樹脂組成物を前記塩化ビニル系樹脂の軟化点(Ta)以上、かつ、前記ポリプロピレン系樹脂の軟化点(Tb)以下の成形温度で成形する成形工程とを含む、樹脂成形体の製造方法。
[8]前記成形温度は、70~150℃である、[7]に記載の樹脂成形体の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、誘電特性及び成形性が優れる樹脂成形体及び樹脂成形体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施例1に係る樹脂成形体のTEM画像である。
【
図2】比較例3に係る樹脂成形体のTEM画像である。
【
図3】実施例1に係る樹脂成形体のレーザー顕微鏡による画像である。
【
図4】比較例3に係る樹脂成形体のレーザー顕微鏡による画像である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[樹脂成形体]
本発明の実施形態に係る樹脂成形体は、塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、ポリプロピレン系樹脂10~70質量部を有する成形体用樹脂組成物からなる。樹脂成形体を形成する成形体用樹脂組成物は、ポリプロピレン系樹脂の配合割合が、塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、10質量部未満であると、成形後の誘電率を十分に低下させることができず、誘電特性が優れる成形体が得られない。また、樹脂成形体を形成する成形体用樹脂組成物は、ポリプロピレン系樹脂の配合割合が、塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、70質量部を超えると、ポリプロピレン系樹脂の軟化点以下での成形が困難となる。
上記観点から、成形体用樹脂組成物のポリプロピレン系樹脂の配合割合は、塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、20~60質量部であることが好ましく、25~55質量部であることがより好ましく、30~50質量部であることがさらに好ましい。
【0011】
本発明の実施形態に係る樹脂成形体は、1cm2単位面積あたりにおけるポリプロピレン系樹脂の粒状塊の平均の大きさが1~25μmである。樹脂成形体中の1cm2単位面積当たりのポリプロピレン系樹脂の粒状塊の平均大きさが1μm未満であるとポリプロピレン系樹脂の粒状塊の分散性が悪くなり、粒状塊が凝集してしまうことで成形性が低下する。また、樹脂成形体中の1cm2単位面積当たりのポリプロピレン系樹脂の粒状塊の平均大きさが25μmを超えると、成形体用樹脂組成物を用いて成形する際に良好に成形することが困難となる。
上記観点から、樹脂成形体中の1cm2単位面積当たりのポリプロピレン系樹脂の粒状塊の平均大きさは、1~25μmであることが好ましく、1~20μmであることがより好ましく、1~15μmであることがさらに好ましい。
〈粒状塊の平均大きさの測定方法〉
樹脂成形体の断面から任意の箇所で1cm2を3箇所選択し、その範囲内の各粒状塊の最大径を透過型電子顕微鏡(TEM)によりを測定する。各箇所に存在するポリプロピレン系樹脂の各粒状塊の最大径を測定し、測定した最大径の平均値を算出し、樹脂成形体中の1cm2単位面積あたりにおけるポリプロピレン系樹脂の粒状塊の平均の大きさとする。このとき、ポリプロピレン系樹脂の粒状塊の一部しか撮影されてないものについては最大径の測定を行わない。
【0012】
本発明の実施形態に係る樹脂成形体は、誘電特性及び成形性が優れることから、自動車のワイヤーハーネスや電子機器等に使用される絶縁電線の電線被覆材として好適に使用可能である。
【0013】
<塩化ビニル系樹脂>
塩化ビニル系樹脂は、特に限定されず、塩化ビニル単量体の単独重合体の他、例えば、(1)塩化ビニル単量体と塩化ビニル単量体以外の重合性単量体との共重合体、(2)塩化ビニル系樹脂以外の重合体に塩化ビニル単量体または塩化ビニル系樹脂をグラフトさせたグラフト共重合体等が挙げられる。さらに、これらの塩化ビニル系樹脂を塩素化した塩素化塩化ビニル系樹脂も挙げられる。これら塩化ビニル系樹脂は単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。
【0014】
(1)塩化ビニル単量体と塩化ビニル単量体以外の重合性単量体との共重合体における重合性単量体としては特に限定されないが、炭素数2以上16以下のα-オレフィン(例えば、エチレン、プロピレン及びブチレン);炭素数2以上16以下の脂肪族カルボン酸のビニルエステル(例えば、酢酸ビニル及びプロピオン酸ビニル);炭素数2以上16以下のアルキルビニルエーテル(例えば、ブチルビニルエーテル及びセチルビニルエーテル);炭素数1以上16以下のアルキル(メタ)アクリレート(例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート及びブチルアクリレート);アリール(メタ)アクリレート(例えば、フェニルメタクリレート);芳香族ビニル(例えば、スチレン及びα-置換スチレン(例えば、α-メチルスチレン));ハロゲン化ビニル(例えば、塩化ビニリデン及びフッ化ビニリデン);及びN-置換マレイミド(N-フェニルマレイミド及びN-シクロヘキシルマレイミド)が挙げられる。
【0015】
(2)塩化ビニル単量体または塩化ビニル系樹脂とともにグラフト共重合体を与える重合体としては、塩化ビニルモノマーにグラフト重合可能な重合体であれば単独重合体及び共重合体を問わず、いかなるものも含まれる。例えば、α-オレフィンとビニルエステルとの共重合体(例えば、エチレン-酢酸ビニル共重合体);α-オレフィンとビニルエステルと一酸化炭素との共重合体(例えば、エチレン-酢酸ビニル-一酸化炭素共重合体);α-オレフィンとアルキル(メタ)アクリレートとの共重合体(例えば、エチレン-メチルメタクリレート共重合体及びエチレン-エチルアクリレート共重合体);α-オレフィンとアルキル(メタ)アクリレートと一酸化炭素との共重合体(例えば、エチレン-ブチルアクリレート-一酸化炭素共重合体);異なる2種以上のα-オレフィンの共重合体(例えば、エチレン-プロピレン共重合体);不飽和ニトリルとジエンとの共重合体(例えば、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体);ポリウレタン;及び塩素化ポリオレフィン(例えば、塩素化ポリエチレン及び塩素化ポリプロピレン)が挙げられる。
【0016】
塩化ビニル系樹脂の平均重合度は、特に限定されるものではないが、小さくなると樹脂成形体の物性低下が起こり、大きくなると溶融粘度が高くなって成形が困難になるので、400~1,600が好ましく、500~1,500がより好ましく、600~1,400がさらに好ましい。
なお、上記平均重合度とは、塩化ビニル系樹脂をテトラヒドロフラン(THF)に溶解させ、濾過により不溶成分を除去した後、濾液中のTHFを乾燥除去して得た樹脂を試料とし、JIS K 6720-2:1999「プラスチック-塩化ビニルホモポリマー及びコポリマー(PVC)-第2部:試験片の作り方及び諸性質の求め方」に準拠して測定した平均重合度を意味する。
【0017】
上記塩化ビニル系樹脂の重合方法は、特に限定されず、従来公知の任意の重合方法を採用することができ、例えば、塊状重合方法、溶液重合方法、乳化重合方法、懸濁重合方法等が挙げられる。
【0018】
上記塩化ビニル系樹脂の塩素化方法は、特に限定されず、従来公知の塩素化方法を採用することができ、例えば、熱塩素化方法、光塩素化方法等が挙げられる。
【0019】
本発明に用いられる塩化ビニル系樹脂の軟化点(Ta)は、50~80℃であることが好ましく、53~75℃であることがより好ましく、55~70℃であることがさらに好ましい。塩化ビニル系樹脂の軟化点が当該範囲内にあることで、下記で示すポリプロピレン系樹脂の軟化点(Tb)以下で成形した場合でも、十分にゲル化することができ、成形性が良好となる。
なお、本発明において、「軟化点」とは、樹脂などの物質が温度の上昇によって軟化し、変形を始めるときの温度を意味する。通常、物質の温度を上げたとき、物質が完全に液体となる温度を融点と呼ぶが、樹脂などの物質は、明確な融点を示さないで漸次軟化して溶融状態に至り、はっきりした状態の変化を特定しにくいため、融点と区別して軟化点と呼ぶことがある。ここでいう軟化点は、JIS K7206:2016「プラスチック-熱可塑性プラスチック-ビカット軟化温度(VST)の求め方」のA法に準拠して測定されるビカット軟化温度により表すことができる。
【0020】
<ポリプロピレン系樹脂>
ポリプロピレン系樹脂は、特に限定されず、例えば、ホモポリプロピレン、プロピレンを主成分とするエチレン-プロピレンランダム共重合体、プロピレンを主成分とするエチレン-プロピレンブロック共重合体等が挙げられる。これらのポリプロピレン系樹脂は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、プロピレンを主成分とするエチレン-プロピレンランダム共重合体を含有することが好ましい。また、誘電率低下の観点から、プロピレンを主成分とするエチレン-プロピレンブロック共重合体を含有してもよい。なお、ここで主成分とするとは共重合体中のプロピレン含有量が50質量%以上であることを意味する。
【0021】
本発明に用いるポリプロピレン系樹脂の軟化点(Tb)は、110~150℃であることが好ましく、115~148℃であることがより好ましく、120~145℃であることがさらに好ましい。ポリプロピレン系樹脂の軟化点(Tb)が当該範囲内にあることで、上記塩化ビニル樹脂と混合して得られる成形体用樹脂組成物を用いて樹脂成形体を成形する際、成型温度をポリプロピレン系樹脂の軟化点(Tb)より低くすることで、成形性を良好にすることが可能となる。
なお、軟化点は、JIS K7206:2016「プラスチック-熱可塑性プラスチック-ビカット軟化温度(VST)の求め方」のA法に準拠して測定されるビカット軟化温度により表すことができる。
【0022】
本発明に用いるポリプロピレン系樹脂の軟化点(Tb)と上記塩化ビニル系樹脂の軟化点(Ta)との差分(Tb-Ta)は、60~100℃であることが好ましく、65~95℃であることがより好ましく、70~90℃であることがさらに好ましい。ポリプロピレン系樹脂の軟化点(Tb)と上記塩化ビニル系樹脂の軟化点(Ta)との差分(Tb-Ta)が当該範囲内にあることで、成形体用樹脂組成物を用いて樹脂成形体を成形する際、成形時の温度設定が容易になり、成形性が良好になる。
【0023】
(添加剤)
また、本発明の樹脂成形体は、本発明の目的を損なわない範囲で添加剤が添加されてもよい。樹脂成形体に加えられる各種添加剤としては、熱安定剤、滑剤、加工助剤、衝撃改質剤、耐熱向上剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、光安定剤、顔料、難燃剤、無機充填剤及び可塑剤等が挙げられる。添加剤は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0024】
熱安定剤としては特に限定されず、熱安定剤及び熱安定化助剤などが挙げられる。熱安定剤としては特に限定されず、有機錫系安定剤、鉛系安定剤、カルシウム-亜鉛系安定剤、バリウム-亜鉛系安定剤、及びバリウムーカドミウム系安定剤等が挙げられる。
有機錫系安定剤としては、ジブチル錫メルカプト、ジオクチル錫メルカプト、ジメチル錫メルカプト、ジブチル錫メルカプト、ジブチル錫マレート、ジブチル錫マレートポリマー、ジオクチル錫マレート、ジオクチル錫マレートポリマー、ジブチル錫ラウレート、及びジブチル錫ラウレートポリマー等が挙げられる。上記安定剤は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
熱安定化助剤としては特に限定されず、例えば、エポキシ化大豆油、リン酸エステル、ポリオール、ハイドロタルサイト、及びゼオライト等が挙げられる。上記熱安定化助剤は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0025】
滑剤としては、内部滑剤及び外部滑剤が挙げられる。内部滑剤は、成形加工時の溶融樹脂の流動粘度を下げ、摩擦発熱を防止する目的で使用される。
内部滑剤としては特に限定されず、ブチルステアレート、ラウリルアルコール、ステアリルアルコール、エポキシ大豆油、グリセリンモノステアレート、ステアリン酸、及びビスアミド等が挙げられる。上記滑剤は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
外部滑剤は、成形加工時の溶融樹脂と金属面との滑り効果を上げる目的で使用される。外部滑剤としては特に限定されず、パラフィンワックス、ポリオレフィンワックス、エステルワックス、及びモンタン酸ワックス等のワックス系滑剤が挙げられる。上記滑剤は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0026】
加工助剤は、公知のものを広く使用することが可能であり、特に限定はない。加工助剤としては、例えば、重量平均分子量10万~200万のアルキルアクリレート-アルキルメタクリレート共重合体等のアクリル系加工助剤などを挙げることができる。上記アクリル系加工助剤としては特に限定されず、例えば、n-ブチルアクリレート-メチルメタクリレート共重合体、2-エチルヘキシルアクリレート-メチルメタクリレート-ブチルメタクリレート共重合体等が挙げられる。これらは単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0027】
衝撃改質剤は、公知のものを広く使用することが可能であり、特に限定はない。衝撃改質剤としては、例えば、メタクリル酸メチル-ブタジエン-スチレン共重合体(MBS)、塩素化ポリエチレン、及びアクリルゴム等からなる群より選択される一種以上を使用することができる。
【0028】
耐熱向上剤は、公知のものを広く使用することが可能であり、特に限定はない。耐熱向上剤としては、例えば、α-メチルスチレン系、N-フェニルマレイミド系樹脂等を使用することができる。
【0029】
酸化防止剤は、特に限定されず、公知のものを広く使用することが可能である。酸化防止剤としては、例えば、フェノール系抗酸化剤等が挙げられる。
【0030】
紫外線吸収剤は、特に限定されず、公知のものを広く使用することが可能である。紫外線吸収剤としては、例えば、サリチル酸エステル系、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、シアノアクリレート系等の紫外線吸収剤等が挙げられる。これらは単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0031】
帯電防止剤は、特に限定されず、従来公知の帯電防止剤を使用することができ、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、両性界面活性剤等を使用することがきる。アニオン性界面活性剤としては、脂肪酸塩類、高級アルコール硫酸エステル塩類、液体脂肪油硫酸エステル塩類、脂肪族アミン、アミドの硫酸塩類、二塩基性脂肪酸エステルのスルホン塩類、脂肪酸アミドスルホン酸塩類、アルキルアリールスルホン酸塩類、ホルマリン縮合のナフタレンスルホン酸塩類及びこれらの混合物等を挙げることができる。カチオン性界面活性剤としては、脂肪族アミン塩類、第四級アンモニウム塩類、アルキルピリジウム塩及びこれらの混合物等を挙げることができる。非イオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルフェノールエステル類、ポリオキシエチレンアルキルエステル類、ソルビタンアルキルエステル類、ポリオキシエチレンソルビタンアルキルエステル類及びこれらの混合物等を挙げることができる。非イオン性界面活性剤と、アニオン性界面活性剤又はカチオン性界面活性剤との混合物でもよい。両性界面活性剤としては、イミダゾリン型、高級アルキルアミノ型(ベタイン型)、硫酸エステル、リン酸エステル型、スルホン酸型等を挙げることができる。帯電防止剤は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0032】
光安定剤は、特に限定されず、公知のものを広く使用することが可能である。光安定剤としては、例えば、ヒンダードアミン系等の光安定剤等が挙げられる。
【0033】
顔料は、特に限定されず、公知のものを広く使用することが可能である。顔料としては、例えば、アゾ系、フタロシアニン系、スレン系、染料レーキ系等の有機顔料;酸化物系、クロム酸モリブデン系、硫化物・セレン化物系、フェロシアニン化物系などの無機顔料等が挙げられる。これらは単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0034】
難燃剤は、特に限定されず、公知のものを広く使用することが可能である。難燃剤としては、例えば、赤リン、リン酸エステル、リン酸塩含有難燃剤、臭素含有難燃剤、ホウ酸含有難燃剤、アンチモン含有難燃剤及び金属水酸化物等が挙げられる。これらは単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0035】
無機充填剤は、特に限定されず、タルク、重質炭酸カルシウム、沈降性炭酸カルシウム、膠質炭酸カルシウム等の炭酸塩、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、酸化チタン、クレー、マイカ、ウォラストナイト、ゼオライト、シリカ、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、カーボンブラック、グラファイト、ガラスビーズ、ガラス繊維、炭素繊維、金属繊維等の無機質系のもののほか、ポリアミド等が挙げられる。上記充填剤は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0036】
可塑剤は、特に限定されず、公知のものを広く使用することが可能である。可塑剤としては、例えば、ジブチルフタレート、ジー2―エチルヘキシルフタレート、及びジー2―エチルヘキシルアジペートからなる群より選択される一種以上を使用することができる。
【0037】
[樹脂成形体の製造方法]
本発明における樹脂成形体の製造方法は、塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、ポリプロピレン系樹脂10~70質量部を有する成形体用樹脂組成物を調整する調整工程と、成形体用樹脂組成物を塩化ビニル系樹脂の軟化点(Ta)以上、かつ、ポリプロピレン系樹脂の軟化点(Tb)以下の温度で成形する成形工程とを含む。
【0038】
調整工程において、塩化ビニル系樹脂、ポリプロピレン系樹脂及び任意成分をビーズミル、バンバリーミキサー、ニーダーミキサー、混練ロール、ライカイ機、及び遊星式撹拌機等の公知の装置を用いて混合することにより成形体用樹脂組成物を得ることができる。また、本発明の樹脂成形体を形成する成形体用樹脂組成物は、溶媒により希釈する場合、成形体用樹脂組成物の希釈液は、これらにさらに溶媒を加えて上記混合装置を用いて混合して得ればよい。
【0039】
成形工程において、押出成形、射出成形及びプレス成形等の成形手段により成形体用樹脂組成物を、塩化ビニル系樹脂の軟化点(Ta)以上、かつ、ポリプロピレン系樹脂の軟化点(Tb)以下の温度に加温し、成形することで樹脂成形体が得られる。
成形手段としては、押出成形が好ましく、一軸押出機、二軸押出機、射出成型機等を用いて成形することができる。
本発明の樹脂成形体の製造方法で得られた樹脂成形体は、圧延機等で圧延することで所望の厚みの電線被覆材として用いることができる。
【0040】
成形工程における成形温度が塩化ビニル系樹脂の軟化点(Ta)未満であると、成形時における塩化ビニル系樹脂のゲル過不足となり、成形性が悪化する。また、成形工程における成形温度がポリプロピレン系樹脂の軟化点(Tb)を超えると、ポリプロピレン系樹脂の全てが溶融し、粒状塊として樹脂成形体中に残存することがなくなるので、ポリプロピレン系樹脂の誘電率を維持することが困難となる。上記観点から、成形工程における成形温度は、70~150℃であることが好ましく、75~145℃であることがより好ましく、80~140℃であることがさらに好ましい。
【0041】
本発明における樹脂成形体の製造方法によれば、塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、ポリプロピレン系樹脂10~70質量部を有する成形体用樹脂組成物により樹脂成形体を製造することで、誘電特性及び成形性が優れる樹脂成形体とすることができる。
さらに、本発明における樹脂成形体の製造方法によれば、成形体用樹脂組成物を、ポリプロピレン系樹脂の軟化点(Tb)以下の温度に加温して成形することで、ポリプロピレン樹脂の全てが溶融せずに粒状塊として樹脂成形体中に残存するため、ポリプロピレン系樹脂の誘電率を維持することが可能となる。また、本発明における樹脂成形体の製造方法によれば、成形体用樹脂組成物を、塩化ビニル系樹脂の軟化点(Ta)以上の温度に加温して成形することで、成形時における塩化ビニル系樹脂のゲル過不足などの弊害を解消することができる。
【0042】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこうした例に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【実施例0043】
以下、実施例に基づき、本発明の実施形態をより具体的に説明するが、本発明がこれらに限定されるものではない。
【0044】
<樹脂成形体の作製>
[実施例1、比較例1,3]
塩化ビニル系樹脂(徳山積水社製、品番SL-P40)100質量部に、有機錫系安定剤(日東化成社製、品番ONZ-7F)2質量部、ワックス系滑剤(クラリアントジャパン社製、品番Wax OP)0.5質量部、さらに、ポリプロピレン系樹脂(セイシン社製、品番PPW-5J)を表1に示した割合で配合した後、内容積200リットルのヘンシェルミキサー(株式会社カワタ社製)で攪拌混合して成形体用樹脂組成物を得た。そして、得られた成形体用樹脂組成物を表1に記載された温度に加熱したロールで混錬し、100℃に加熱したプレス機で成形品を作製することで、樹脂成形体を得た。
【0045】
[実施例2~3、比較例2,4]
塩化ビニル系樹脂(徳山積水社製、品番TG40)100質量部に、有機錫系安定剤(日東化成社製、品番ONZ-7F)2質量部、ワックス系滑剤(クラリアントジャパン社製、品番Wax OP)0.5質量部、さらに、ポリプロピレン系樹脂(セイシン社製、品番PPW-5J)表1に示した割合で配合した後、内容積200リットルのヘンシェルミキサー(株式会社カワタ社製)で攪拌混合して成形体用樹脂組成物を得た。そして、得られた成形体用樹脂組成物を表1に記載された温度に加熱したロールで混錬し、100℃に加熱したプレス機で成形品を作製することで、樹脂成形体を得た。
【0046】
<軟化点(ビカット軟化温度)測定>
使用した塩化ビニル系樹脂及びポリプロピレン系樹脂の軟化点は、JIS K7206:2016「プラスチック-熱可塑性プラスチック-ビカット軟化温度(VST)の求め方」のA法に準拠して測定した。具体的には、100℃で3時間乾燥した樹脂を融点(Tm)+30℃で熱プレスをして、10mm×10mm×厚み5mmの試験片を作製した。作製した試験片に対して、昇温速度50℃/時、試験荷重10Nの条件で3回測定を行い、これらの平均値をビカット軟化温度とした。塩化ビニル系樹脂の軟化点(Ta)、ポリプロピレン系樹脂の軟化点(Tb)及び差分(Tb-Ta)を表1に示す。
【0047】
<誘電特性評価>
得られた樹脂成形体の誘電率は、IEC62631-2-1「自動平衡ブリッジ法」に準拠して測定した。測定機器には、プレシジョンLCRメータ E4980A(アジレント・テクノロジー株式会社製)を用いて、導電性銀ペイントの平行になった直径36mmの電極の間にセットし、室温(23℃)及び周波数1MHzの条件下で測定し、誘電率を得た。得られた誘電率は、下記基準で判定した。
《判定基準》
A(合格):誘電率が3.1(F/m)以下
B(不合格):誘電率が3.1(F/m)超
【0048】
<成形性評価>
加熱したオープンロールミキサーで混練する際、5分以内にフロントロールに巻付き、その3分後の樹脂成形体シートの外観を観察し、下記基準で判定した。
《判定基準》
A(合格):外観が滑らかで、シートにたるみがない
B(不合格):樹脂の溶融によりシート成形が不可能であるが、混錬された破片を集めてプレスすることで成形体の作製が可能
C(不合格):樹脂の溶融によりシート成形が不可能
【0049】
<粒状塊の確認>
製造された樹脂成形体のうち、任意の3箇所から1cm2の切片をTEM用のサンプルとして切り取り、サンプル中のポリプロピレン系樹脂の粒状塊の最大径をTEMにて測定し、測定した最大径の平均値を算出し、樹脂成形体中の1cm2単位面積あたりにおけるポリプロピレン系樹脂の粒状塊の平均の大きさを得た。その結果を表1に示す。
【0050】
【表1】
※粒状塊の平均の大きさをTEMで測定することは困難であったため、レーザー顕微鏡にて測定した。(
図4参照)
【0051】
<実験結果>
実施例1~3に示すように、誘電特性及び成形性が優れる樹脂成形体とするためには、塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、ポリプロピレン系樹脂10~70質量部の割合で配合され、ポリプロピレン系樹脂の軟化点以下で成形されることが必要である。
比較例1に示すように、ポリプロピレン系樹脂を添加していないと、ポリプロピレン系樹脂の軟化点以下での成形は合格であるが、誘電率が高くなり不合格である。
比較例2に示すように、ポリプロピレン系樹脂の配合量が多いと、ポリプロピレン系樹脂の軟化点以下の成形温度であったとしてもフロントロールに巻付かず、シート成形が不可能であり、成形性が不合格である。
比較例3,4に示すように、ポリプロピレン系樹脂の配合量が10~70質量部の範囲内であったとしても、成形温度がポリプロピレン系樹脂の軟化点を超えていることから、フロントロールに巻付かず、シート成形が不可能であり、成形性が不合格である。
また、例として、実施例1における樹脂成形体のTEM画像を
図1に示し、比較例3における樹脂成形体のTEM画像を
図2に示す。さらに、ポリオレフィン系樹脂の全体分布図として、実施例1における樹脂成形体のレーザー顕微鏡の画像を
図3に示し、比較例における樹脂成形体3のレーザー顕微鏡の画像を
図4に示す。
図1~4に示すように、成形温度をポリプロピレン系樹脂の軟化点以下とすることで、粒状塊の平均大きさを1~25μmとすることができる。