(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022133848
(43)【公開日】2022-09-14
(54)【発明の名称】車両用ドア構造
(51)【国際特許分類】
E05B 85/12 20140101AFI20220907BHJP
B60J 5/06 20060101ALI20220907BHJP
B60J 5/00 20060101ALI20220907BHJP
B60J 5/04 20060101ALI20220907BHJP
E05B 79/06 20140101ALI20220907BHJP
【FI】
E05B85/12 Z
B60J5/06 A
B60J5/00 M
B60J5/04 H
E05B79/06 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021032766
(22)【出願日】2021-03-02
(71)【出願人】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100107319
【氏名又は名称】松島 鉄男
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【識別番号】100096769
【氏名又は名称】有原 幸一
(72)【発明者】
【氏名】大井 貴典
(72)【発明者】
【氏名】梅澤 心
【テーマコード(参考)】
2E250
【Fターム(参考)】
2E250AA21
2E250HH01
2E250JJ45
2E250JJ49
2E250KK01
2E250LL04
2E250MM01
2E250PP13
2E250PP14
2E250QQ09
(57)【要約】
【課題】荷物をドアに隣接する位置まで効率的に配置することができ、かつ、荷物の損傷を防止できる車両用ドア構造を提供する。
【解決手段】車体のドア開口部を開閉するためのリアドア1は、ドア開口部を閉じた状態にする閉鎖方向D1とドア開口部を開いた状態にする開放方向D2とにスライド可能に構成されている。リアドア1の車室内側面には、乗員が把持可能な把持部2が配置されている。把持部2は、開放方向D2に延びており、少なくとも開放方向D2の側部2Aに、車室内側から車室外側へ向かって撓むことが可能な撓み部分を有している。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体のドア開口部を開閉するためのドアを有し、該ドアは、前記ドア開口部を閉じた状態にする閉鎖方向と前記ドア開口部を開いた状態にする開放方向とにスライド可能に構成されている車両用ドア構造において、
前記ドアの車室内側面に配置され、乗員が把持可能な把持部を備え、
前記把持部は、前記開放方向に延びており、少なくとも前記開放方向の側部に、車室内側から車室外側へ向かって撓むことが可能な撓み部分を有することを特徴とする車両用ドア構造。
【請求項2】
前記把持部は、可撓性を有する帯状部材で形成されていることを特徴とする請求項1に記載の車両用ドア構造。
【請求項3】
前記把持部には、前記乗員の指を挿入可能な空間が形成されており、該空間が前記撓み部分の変形に応じて拡縮することを特徴とする請求項1または2に記載の車両用ドア構造。
【請求項4】
前記ドアの車室内側面よりも車室外側に配置され、前記ドアのスライドを阻止するロック状態と前記ドアのスライドを可能にするアンロック状態とを切り替える切替部と、
前記ドアの車室内側面に形成され、前記帯状部材の前記閉鎖方向の側部が挿通される開口部と、を備え、
前記切替部は、前記帯状部材の前記閉鎖方向の側部と連結され、前記帯状部材の前記開放方向の側部に対して前記開放方向への力が作用することで前記ロック状態から前記アンロック状態に切り換わるように構成されていることを特徴とする請求項2に記載の車両用ドア構造。
【請求項5】
前記ドアの車室内側面には、車室外側に凹んだ凹部が形成されており、該凹部は、前記開放方向を臨む縦壁を有し、
前記開口部は、前記凹部に形成されていることを特徴とする請求項4に記載の車両用ドア構造。
【請求項6】
前記ドアの車室内側面には、車室外側に窪んだ窪み部が形成されており、
前記把持部は、前記窪み部の底面から車室内側に延出しており、
前記窪み部の底面には、車室内側に延出された前記把持部を前記開放方向へ導くガイド部が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の車両用ドア構造。
【請求項7】
前記ドアのスライドを阻止するロック状態と前記ドアのスライドを可能にするアンロック状態とを切り替える切替部と、
前記乗員の操作に応じて前記切替部の動作を規制する切替規制部と、を備え、
前記切替規制部は、前記窪み部の底面から車室内側に突出する操作部を有し、
前記ガイド部および前記操作部は、車両上下方向に並べて配置されていることを特徴とする請求項6に記載の車両用ドア構造。
【請求項8】
前記ドアのスライドを阻止するロック状態と前記ドアのスライドを可能にするアンロック状態とを切り替える切替部と、
前記把持部と前記切替部とを連結するリンク部と、を備え、
前記切替部は、前記把持部に作用する前記開放方向への力が前記リンク部を介して伝えられることで前記ロック状態から前記アンロック状態に切り換わるように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の車両用ドア構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用ドア構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両のドアには、車室内でドアの開閉を操作するためのインサイドドアハンドル(以下、「ドアハンドル」とする)が設けられている。例えば、特許文献1には、スライドドアのスライド方向である車両前後方向にドアハンドルを傾倒あるいは揺動させることで、スライドドアの開閉操作が行われるドアハンドル装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ドアに隣接する座席のシートバック部を傾動させてシートクッション部に重ねて配置した状態や、該座席自体をフロア下面に収納した状態で、車室内に大きな荷物を収納したり、複数の荷物をドアハンドルよりも高い位置に積んだりする場合がある。このような場合に、前述した従来のドアハンドルが設けられていると、車室内に荷物を効率的に配置することができないおそれがあった。
【0005】
具体的に、特許文献1に示されているような傾倒あるいは揺動の機構がドアハンドルに設けられている場合、ドアハンドルの構造が複雑化してドアハンドルもしくは当該機構の収容部が車室内に膨出していた。このドアハンドルの膨出箇所が車室内の荷物と干渉しやすくなるため、荷物をドアに隣接する位置まで配置することが難しかった。また、車両の走行中の振動などにより荷物がドアハンドルの膨出箇所に接触して損傷する可能性もあり、改善の余地があった。
【0006】
本発明はこのような実状に鑑みてなされたものであって、その目的は、荷物をドアに隣接する位置まで効率的に配置することができ、かつ、荷物の損傷を防止できる車両用ドア構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため本発明の一態様は、車体のドア開口部を開閉するためのドアを有し、該ドアは、前記ドア開口部を閉じた状態にする閉鎖方向と前記ドア開口部を開いた状態にする開放方向とにスライド可能に構成されている車両用ドア構造を提供する。この車両用ドア構造は、前記ドアの車室内側面に配置され、乗員が把持可能な把持部を備え、前記把持部は、前記開放方向に延びており、少なくとも前記開放方向の側部に、車室内側から車室外側へ向かって撓むことが可能な撓み部分を有している。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る車両用ドア構造では、把持部のうちの少なくとも開放方向の側部に、車室内側から車室外側へ向かって撓むことが可能な撓み部分が設けられているため、車室内に荷物を配置する際に、把持部の撓み部分に荷物が当接しても、該撓み部分が車室外側へ撓むことで荷物をドアに隣接して配置しやすくなる。これにより、ドアに隣接する位置まで荷物を効率的に配置することができる。また、荷物が把持部の撓み部分に接触したときに、該撓み部分を介して荷物がドアに面接触しやすくなるため、把持部との接触による荷物の損傷を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る車両用ドア構造の要部を示す斜視図である。
【
図2】
図1におけるドアインナパネルの要部を車室内側から見た側面図である。
【
図3】
図1におけるドアインナパネルの要部を車室外側から見た側面図である。
【
図6】本発明の第2実施形態に係る車両用ドア構造の要部を示す斜視図である。
【
図8】各実施形態に関連する車両用ドア構造の変形例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について添付図面を参照しながら詳細に説明する。
図1~
図5は、本発明の第1実施形態に係る車両用ドア構造の要部を示すものである。なお、図において、矢印Fr方向は車両前後方向で車両前方を示し、矢印O方向は車両幅方向で車両外方を示し、矢印U方向は車両上下方向で車両上方を示している。
【0011】
第1実施形態に係る車両用ドア構造は、例えば、車両のスライド式のリアドア1(スライドドア)に適用されている。このリアドア1は、図示を省略するが車体側面の後部座席側に位置するドア開口部を開閉するためのものである。リアドア1の車室内側面には、当該車両の乗員が把持可能な把持部2が設けられている。
図1は、上記リアドア1の把持部2の周辺を拡大して車室内側の斜め前方から見た斜視図である。
【0012】
リアドア1は、
図1の矢印線に示すように、ドア開口部を閉じた状態にする閉鎖方向D1と、ドア開口部を開いた状態にする開放方向D2とにスライド可能に構成されている。第1実施形態では、リアドア1が車両前方にスライドすることでドア開口部が閉鎖状態となり、リアドア1が車両後方にスライドすることでドア開口部が開放状態となる。つまり、リアドア1は、車両前後方向にスライド可能であり、車両前方が閉鎖方向D1に対応し、車両後方が開放方向D2に対応している。
【0013】
把持部2は、
図1に示すように、リアドア1の車室内側面に形成されている後述する凹部5の内部から開放方向D2に延びている。把持部2は、少なくとも開放方向D2の側部2Aに、車室内側から車室外側へ向かって撓むことが可能な撓み部分を有している。第1実施形態による把持部2は、可撓性を有する帯状部材で形成されている。具体的には、例えば、シートベルト等と同様な素材を用いた帯状部材により把持部2を形成することが可能である。ここでは、1本の帯状部材をループ状にしてその両端部を重ね合わせることにより把持部2が実現されている。
【0014】
把持部2の開放方向D2の側部2Aには、上記帯状部材のループ部分が配置されている。また、把持部2の閉鎖方向D1の側部2Bには、上記帯状部材の重ね合わせ部分が配置されている。このような把持部2では、帯状部材のループ部分が前述した撓み部分に対応している。なお、帯状部材の重ね合わせ部分は、繋ぎ合わされていてもよい。重ね合わせ部分を繋ぎ合わせておくことで、把持部2(帯状部材)が撓み過ぎずに張りが出るので、乗員が把持しやすくなる。また、把持部2の撓み部分については、上記のようなシートベルト等と同様な素材を用いた帯状部材だけでなく、弾性体(ゴム等)やクッション材、合成または自然の繊維(布等)を用いて形成することも可能である。
【0015】
把持部2のループ部分の内側には、乗員の指を挿入可能な空間2Cが形成されている。この空間2Cは、把持部2の撓み部分(ループ部分)の変形に応じて拡縮する。つまり、リアドア1を開放方向D2にスライドさせる際に、乗員は空間2Cに指を入れて把持部2の開放方向D2の側部2Aを持ち、把持部2を開放方向D2に引っ張ることができる。また、車室内に荷物を積む際には、荷物が把持部2に当接しても、把持部2のループ部分が車室外側に撓んで空間2Cが縮小することにより、リアドア1の車室内側面に隣接する位置まで荷物を配置できるようになる。なお、空間2Cの形状については、所定方向(ここでは車両上下方向)に貫通する孔だけでなく、有底の穴であってもよい。
【0016】
リアドア1の車室内側面は、ここでは例えば、ドアインナパネル3によって形成されている。
図2は、ドアインナパネル3の要部を車室内側から見た側面図である。また、
図3は、ドアインナパネル3の要部を車室外側から見た側面図である。さらに、
図4は、
図2のA-A線断面図であり、
図5は、
図2のB-B線断面図である。
【0017】
ドアインナパネル3には、
図2および
図3に2点鎖線で示した把持部2が配置される部分の周辺、具体的には、図示したドアインナパネル3の要部における車両上下方向の中間部分に、車室外側に窪んだ窪み部4が形成されている。窪み部4は、車両前後方向および車両上下方向に延びる底面4Aと、該底面4Aの前端、上端および下端から車室内側に延びてドアインナパネル3の車室内側端部3Aに接続する側壁4Bと、を有している。窪み部4の底面4Aの前側上部には、更に車室外側に凹んだ凹部5が形成されている。なお、ドアインナパネル3の車室内側端部3Aは、図示したドアインナパネル3の要部における上部、下部および車両前側の側部に位置しており、車室内側から見て略コ字状に形成されている。
【0018】
凹部5は、車両上下方向に延びる略矩形状の底面5Aと、該底面5Aの周縁から車室内側に延びる側壁5Bと、を有している。凹部5の底面5Aには、前述した帯状部材を用いた把持部2の閉鎖方向D1の側部2B(重ね合わせ部分)が挿通される第1開口部6Aが設けられている。第1開口部6Aは、凹部5の底面5Aを貫通し車両上下方向に延びている。第1開口部6Aの長手方向の全長は、把持部2の帯状部材の幅よりも長い。
【0019】
凹部5の側壁5Bのうちの車両前側部分および車両上側部分は、窪み部4の側壁4Bに接続している。凹部5の側壁5Bのうちの車両後側部分および車両下側部分は窪み部4の底面4Aに接続している。凹部5の側壁5Bの車両前側部分は、開放方向D2を臨んでおり、本発明における凹部の縦壁に対応している。この側壁5Bの車両前側部分は、リアドア1を閉鎖方向D1にスライドさせる際に、乗員が指等の体の一部を当接させて閉鎖方向D1に押圧することができるように構成されている。
【0020】
また、窪み部4の底面4Aには、凹部5の車両後側端部に隣接する位置にガイド部7が設けられている。ガイド部7は、第1開口部6Aを通って凹部5の内部から窪み部4の底面4A付近まで延出する把持部2を開放方向D2へ導くためのものである。具体的に、ガイド部7は、窪み部4の底面4Aに対して車室内側に間隔を空けて配置され開放方向D2と交差する方向(把持部2の帯状部材の幅方向)に延びる中間部分7Aと、該中間部分7Aの長手方向の両端から車室外側に延びて窪み部4の底面4Aに接続する両側部分7Bとから構成されている。
【0021】
さらに、窪み部4の底面4Aには、車室外側から見てガイド部7と重なる位置に第2開口部6Bが形成されている。第2開口部6Bは、窪み部4の底面4Aとガイド部7との間に把持部2を通しやすくするとともに、把持部2とガイド部7との間の摩擦を軽減している。加えて、窪み部4の底面4Aには、第2開口部6Bの車両下側の位置に第3開口部6Cが形成されている。第3開口部6Cは、後述する切替規制部9を配置するために設けられている。
【0022】
ドアインナパネル3の車室外側には、
図1(および
図3の2点鎖線)に示すように、リアドア1のスライドを規制するための切替部8が配置されている。切替部8は、リアドア1のスライドを阻止するロック状態と、リアドア1のスライドを可能にするアンロック状態とを切り替えることが可能である。切替部8には、前述した第1開口部6Aを通して車室外側に引き込まれた把持部2の閉鎖方向D1の側部2Bが連結されている(
図3を参照)。換言すると、第1実施形態では、把持部2の閉鎖方向D1の側部2Bが第1開口部15Aで車室外側に折り返されており、該側部2Bが切替部8に連結されている。
【0023】
切替部8は、ドアインナパネル3の車室内側に配置されている把持部2の開放方向D2の側部2Aに対して開放方向D2への力が作用し、該力が把持部2の閉鎖方向D1の側部2Bを介して伝達されることにより、ロック状態からアンロック状態に切り替わるように構成されている。つまり、閉鎖位置でロック状態にあるリアドア1を開放方向D2にスライドさせるとき、乗員が把持部2の開放方向D2の側部2Aを持ち開放方向D2に引っ張ることで、リアドア1のロック状態がアンロック状態に切り替えられ、リアドア1が開放方向D2へスライド可能になる。
【0024】
なお、上記のように第1開口部15Aで折り返された把持部2は、ドアインナパネル3に対して、第1開口部15Aの開口縁と凹部5の側壁5Bの車両後側端部との2か所で当接している。このため、把持部2が開放方向D2に引っ張られたとき、把持部2からドアインナパネル3に作用する荷重が上記2か所で分散されて、ドアインナパネル3の変形が抑制されている。しかも、凹部5の側壁5Bの車両後側端部は、
図1および
図5に示すようにテーパ状になっているので、把持部2との接触面積を増やしつつ、把持部2を滑らかに引っ張りやすくしている。
【0025】
また、切替部8には、切替規制部9が設けられている。切替規制部9は、乗員の操作に応じて、切替部8におけるロック状態およびアンロック状態の切替動作を規制することが可能である。具体的に、切替規制部9は、
図1に示すように、窪み部4の底面4Aに形成された第3開口部6Cを介して車室内側に突出する操作部9Aを有している。操作部9Aは、ここでは車両上下方向に移動可能に構成されている。
【0026】
切替規制部9は、操作部9Aが
図1の実線に示す下側の許可位置にあるとき、切替部8における切替動作が可能な状態(リアドア1の開閉が許可された状態)となる。一方、切替規制部9は、操作部9Aが
図1の破線に示す上側の禁止位置にあるとき、切替部8における切替動作が規制された状態(リアドア1の開閉が禁止された状態)となる。したがって、切替規制部9の操作部9Aが禁止位置にある場合、乗員が把持部2を開放方向D2に引っ張ったとしても、切替部8はロック状態のままとなり、リアドア1を開けることができないドアロック状態となる。
【0027】
第1実施形態における切替規制部9の操作部9Aは、ガイド部7の車両下方側に配置されている。ガイド部7と切替規制部9の操作部9Aとは、いずれも窪み部4の底面4Aから車室内側に突出しており、それらを車両上下方向に並べて配置することによって、ガイド部7の前方側や後方側のぎりぎりの位置まで荷物を配置することができるようになる。
【0028】
次に、第1実施形態に係る車両用ドア構造の作用について説明する。
上記のような構造を有するリアドア1を車室内側から開ける場合、乗員は、まず切替規制部9の操作部9Aを許可位置にして、切替部8における切替動作が可能なドアロック解除状態にする。そして、乗員は、把持部2の開放方向D2の側部2Aに形成されている空間2Cに指を入れて該側部2Aを持ち、把持部2を開放方向D2に引っ張る。この把持部2に作用する開放方向D2への力が切替部8に伝達されることで、リアドア1のロック状態がアンロック状態に切り替えられる。これにより、リアドア1が開放方向D2へスライド可能な状態となるので、乗員は把持部2を開放方向D2に引っ張りながらリアドア1を開放位置までスライドさせる。
【0029】
一方、リアドア1を車室内側から閉める場合には、乗員は、リアドア1の車室内側面(ドアインナパネル3)に形成された凹部5の側壁5Bの車両前側部分(縦壁)に指等を当接させて閉鎖方向D1に押圧し、リアドア1を閉鎖方向D1にスライドさせる。リアドア1が閉鎖位置までスライドすると、切替部8によりリアドア1がロック状態に切り替えられる。そして、乗員は、必要に応じて切替規制部9の操作部9Aを禁止位置にして、切替部8における切替動作が規制されたドアロック状態にする。
【0030】
上記のようにして開閉される第1実施形態のリアドア1では、把持部2のうちの少なくとも開放方向D2の側部2Aに、車室内側から車室外側へ向かって撓むことが可能な撓み部分が設けられている。このため、車室内に荷物を配置する際に、把持部2の撓み部分に荷物が当接しても、当該部分が車室外側へ撓むことで荷物をリアドア1に隣接して配置しやすくなる。これにより、リアドア1に隣接する位置まで荷物を効率的に配置することができ、リアドア1の周辺の荷物収容効率を高めることが可能になる。
【0031】
また、車両の走行中の振動などにより荷物が把持部2の撓み部分に接触したときに、該撓み部分を介して荷物がリアドア1に面接触しやすくなる。このため、上述したような従来のドアハンドルの構造と比べて、把持部2との接触による荷物の損傷を防止することができる。さらに、リアドア1の開放方向D2に把持部2を引くことでリアドア1をスライドさせることができるので、乗員がリアドア1を感覚的に開けやすいという利点もある。
【0032】
また、第1実施形態によるリアドア1では、把持部2が可撓性を有する帯状部材で形成されているので、薄くかつ撓みやすい把持部2を実現することができる。このため、荷物が把持部2に当接しても、該荷物をリアドア1に隣接して配置することがより容易になる。
【0033】
さらに、第1実施形態によるリアドア1では、乗員の指を挿入可能な空間2Cが把持部2に形成されており、該空間2Cが把持部2の撓み部分の変形に応じて拡縮するように構成されている。これにより、リアドア1を開ける際には、乗員が把持部2の空間2Cを広げて指を挿入しやすくなり、リアドア1を開放方向D2に容易にスライドさせることができる。特に、把持部2がドアインナパネル3の車室内側端部3Aよりも車室内側に飛び出るようにすれば、乗員が把持部2を持ちやすくなる。また、車室内に荷物を配置する際には、把持部2の撓み部分を撓ませて空間2Cの断面積を小さくして、荷物をリアドア1に隣接して配置しやすくすることができる。つまり、乗員がリアドア1を開けやすくしつつ、リアドア1の周辺の荷物収容効率を高めることが可能になる。
【0034】
また、第1実施形態によるリアドア1の車室内側面(ドアインナパネル3)には、帯状部材からなる把持部2の閉鎖方向D1の側部2Bが挿通される第1開口部6Aが形成されており、この第1開口部6Aを通して、車室外側に配置されている切替部8と把持部2の閉鎖方向D1の側部2Bとが連結されている。これにより、第1開口部6Aおよび切替部8の周辺の構造が車室外側に膨らむことを抑制できるので、薄型のリアドア1を実現することが可能である。加えて、把持部2の開放方向D2の側部2Aに対して開放方向D2への力が作用することで切替部8がロック状態からアンロック状態に切り換わるように構成されているので、乗員がリアドア1をスムーズに開けることができる。
【0035】
また、第1実施形態によるリアドア1の車室内側面には、車室外側に凹んだ凹部5が形成されており、該凹部5の側壁5Bの車両前側部分(開放方向D2を臨む縦壁)に乗員の指等を当接させて閉鎖方向D1に押圧することで、リアドア1を閉鎖方向D1にスライドさせることができる。リアドア1を閉じる際の押圧部位として凹部5の側壁5Bの車両前側部分を兼用することにより、該押圧部位を別途設けるためにリアドア1の凹部5とは異なる部分を車室内側に隆起させる必要がないので、荷物をリアドア1に隣接して配置することが更に容易である。加えて、第1開口部6Aが凹部5に形成されているので、把持部2の第1開口部6A周辺に位置する部分が荷物と当接し難くなり、荷物の損傷を効果的に防止することができる。
【0036】
また、第1実施形態によるリアドア1の車室内側面には、車室外側に窪んだ窪み部4が形成されており、該窪み部4の底面4Aには、車室内側に延出された把持部2を開放方向D2へ導くガイド部7が形成されている。これにより、ガイド部7の車室内側への隆起量が窪み部4の窪み量分だけオフセットされるため、リアドア1に隣接して配置される荷物とガイド部7とが干渉するのを抑制することができる。加えて、ガイド部7が設けられていることで、把持部2を開放方向D2に引っ張りやすくすることができる。特に、窪み部4の底面4Aにおけるガイド部7と重なる位置に第2開口部6Bが形成されていれば、把持部2とガイド部7との間の摩擦が軽減されるので、把持部2を開放方向D2に更に引っ張りやすくなる。
【0037】
また、第1実施形態によるリアドア1では、切替規制部9の操作部9Aが窪み部4の底面4Aから車室内側に突出しており、該操作部9Aの突出量が窪み部4の窪み量分だけオフセットされるため、リアドア1に隣接して配置される荷物と操作部9Aとが干渉するのを抑制することができる。加えて、ガイド部7および切替規制部9の操作部9Aが、車両上下方向に並べて配置されていることにより、ガイド部7の前方側や後方側のぎりぎりの位置まで荷物を配置することができ、リアドア1の周辺の荷物収容効率を一層高めることが可能になる。
【0038】
次に、本発明の第2実施形態に係る車両用ドア構造について説明する。
図6および
図7は、第2実施形態に係る車両用ドア構造の要部を示すものである。第2実施形態に係る車両用ドア構造も、上述した第1実施形態の場合と同様に、車両のスライド式のリアドア11に適用されている。リアドア11の車室内側面には、当該車両の乗員が把持可能な把持部12が配置されている。
図6は、リアドア11の把持部12の周辺を拡大して車室内側の斜め後方から見た斜視図である。また、
図7は、
図6のC-C線断面図である。
【0039】
第2実施形態によるリアドア11では、上述した第1実施形態における車室内側面(ドアインナパネル3)に形成されていた窪み部4、凹部5およびガイド部7に代えて、車室内側へ張り出した壁部14がリアドア11の車室内側面に形成されている。この壁部14は、リアドア11の車室内側面を構成しているドアインナパネル13のパネル面13Aから車室内側に突出し車両上下方向に延びている。壁部14は、リアドア11の開放方向D2を望む縦壁面14Aを有し、該縦壁面14Aの上部には把持部12が設けられている。
【0040】
把持部12は、上述した第1実施形態の把持部2と同様に、シートベルト等と同様な素材を用いた1本の帯状部材をループ状にして、長手方向の中間部における一端寄り部分を繋ぎ合わせて構成されている(
図7を参照)。把持部12の開放方向D2の側部12Aには帯状部材の大きい方のループ部分が配置され、把持部12の閉鎖方向D1の側部12Bには帯状部材の小さい方のループ部分および繋ぎ合わせ部分が配置されている。把持部12の開放方向D2の側部12A(大きい方のループ部分)は、車室内側から車室外側へ向かって撓むことが可能な撓み部分となっている。
【0041】
把持部12の閉鎖方向D1の側部12Bは、壁部14における縦壁面14Aの上部に形成された第1開口部15Aに挿通されている。第1開口部15Aは、縦壁面14Aを貫通しており、車両上下方向に延びる矩形状に形成されている。第1開口部15Aの長手方向の全長は、把持部12の帯状部材の幅よりも長くなっている。
【0042】
壁部14の縦壁面14Aの下部には、凹凸部16が形成されている。凹凸部16は、リアドア11を閉鎖方向D1にスライドさせる際に、乗員が指等の体の一部を当接させて閉鎖方向D1に押圧しやすいように複数の凹凸が設けられている。
【0043】
把持部12の閉鎖方向D1の側部12Bには、
図7に示すように、リンク部17を介して図示を省略した切替部が連結されている。切替部は、上述した第1実施形態の切替部8と同様に、ロック状態およびアンロック状態を切り替える。リンク部17は、回転軸17Cに枢支されたリンク17Aを有し、該リンク17Aの一端に把持部12が接続されている。リンク17Aの他端には、ケーブル17Bの一端が接続されており、該ケーブル17Bの他端は切替部に繋がれている。したがって、把持部12の開放方向D2の側部12Aに対して開放方向D2への力が作用し、該力が把持部12の閉鎖方向D1の側部12B、リンク17Aおよびケーブル17Bを介して切替部に伝達されることにより、切替部がロック状態からアンロック状態に切り替わる。
【0044】
上記切替部には、上述した第1実施形態の場合と同様に、乗員の操作に応じて切替部の動作を規制する切替規制部18が設けられている(
図6を参照)。切替規制部18は、ドアインナパネル13のパネル面13Aに形成された第2開口部15Bを介して車室内側に突出する操作部18Aを有している。操作部18Aは、車両上下方向に移動可能に構成されている。
【0045】
また、ドアインナパネル13のパネル面13Aには、ドアインナパネル13の上部に設けられている図示しない窓用開口部の窓ガラスを昇降操作するためのハンドル19が設けられている。ハンドル19は、車幅方向の軸を中心にして双方向に回転可能に構成されており、一方向側への回転により窓ガラスを下降させ、他方向側への回転により窓ガラスを上昇させることができる。車幅方向で、ハンドル19の回転範囲と把持部12とは隣接する位置に設けられている。すなわち、第2実施形態では、リアドア11を開閉するための操作部(把持部12)と、窓ガラスを昇降するための操作部(ハンドル19)とが近接配置されている。
【0046】
このような配置では、ハンドル19を回したときに、ハンドル19または該ハンドル19を持つ乗員の手と把持部12とが干渉する。しかし、把持部12は撓むことができるので、当該干渉が生じたとしても、ハンドル19を回す操作を継続することができる。つまり、把持部12が撓み部分を有することによって、ハンドル19を近接配置することが可能になっている。なお、ここでは窓ガラスの昇降がハンドル19によって操作される一例を示したが、電動ガラス昇降機構が採用されている場合、ハンドル19に代えて1つまたは複数のスイッチをパネル面13Aに設けるようにしてもよい。
【0047】
上記のような第2実施形態によるリアドア11を車室内側から開ける場合も、上述した第1実施形態の場合と同様にして、乗員は、切替規制部18を許可位置にしてドアロック解除状態にした後に、把持部12の開放方向D2の側部12Aを持ち開放方向D2に引っ張り、当該力がリンク部17を介して切替部に伝達されることで、リアドア11のロック状態がアンロック状態に切り替えられる。これにより、リアドア11が開放方向D2へスライド可能な状態となるので、乗員は把持部12を開放方向D2に引っ張りながらリアドア11を開放位置までスライドさせる。
【0048】
一方、リアドア11を車室内側から閉める場合には、乗員は、壁部14の縦壁面14Aに設けられている凹凸部16に指等を当接させて閉鎖方向D1に押圧し、リアドア11を閉鎖方向D1にスライドさせる。リアドア11が閉鎖位置までスライドすると、切替部によりリアドア11がロック状態に切り替えられ、必要に応じて切替規制部18の操作部18Aを禁止位置にしてドアロック状態にする。
【0049】
上記のようにして開閉される第2実施形態のリアドア11によれば、上述した第1実施形態の場合と同様に、把持部12に撓み部分が設けられているため、リアドア11に隣接する位置まで荷物を効率的に配置することができるとともに、把持部12との接触による荷物の損傷を防止できる。
【0050】
また、第2実施形態のリアドア11によれば、第1実施形態の構造と比較して、把持部12の帯状部材を第1開口部15Aの付近で折り返す必要がないので、帯状部材の摩耗等を抑制することができる。さらに、把持部12を開放方向D2に引っ張ったとき、リンク17Aが第1開口部15Aの縁部に当接して回転し過ぎないように規制することが可能である。また、リンク17Aが回転したときに、把持部12の閉鎖方向D1の側部12Bに繋ぎ合わせ部分が設けられていることで、把持部12が第1開口部15Aの開口縁に接触し難くなるため、当該接触による把持部12の摩耗を抑制することもできる。さらに、把持部12が繋ぎ合わされていることで、把持部12の撓み量が制限されるので、把持部12に張りが出て把持しやすくなる。加えて、壁部14の縦壁面14Aに凹凸部16が形成されていることで、乗員の指等と縦壁面14Aとの接触面積が増えるので、リアドア11を閉めやすくなる。
【0051】
以上、本発明の第1および第2実施形態について述べたが、本発明は既述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づいて各種の変形および変更が可能である。以下では、既述の実施形態に関連した車両用ドア構造の変形例について説明する。
【0052】
図8および
図9は、上記変形例による車両用ドア構造の要部を示すものである。この変形例では、リアドア21の車室内側面(ドアインナパネル23)に車室外側へ窪んだ窪み部24が形成されており、該窪み部24の内部に把持部22が収容されている。
【0053】
窪み部24は、略矩形の底面24Aと、底面24Aの周縁から車室内側に延びてドアインナパネル23の車室内側端部23Aに接続する周壁24Bと、を有している。把持部22は、窪み部24の底面24Aから車室内側に突出し車両上下方向に延びている。把持部22は、可撓性の低い(剛性を有する)樹脂等の材料で形成されており、乗員が把持可能な形状を有している。
【0054】
把持部22の車室内側への突出量は、窪み部24の窪み量(周壁23Bの高さ)よりも少ない。換言すると、把持部22の車室内側端部22Aは、ドアインナパネル23の車室内側端部23Aよりも車室外側に位置している(
図9を参照)。つまり、把持部22の全体が窪み部24の内部に収容されている。
【0055】
また、窪み部24の底面24Aにおける閉鎖方向D1(車両前方)の端部には、更に車室外側に凹んだ凹部25が形成されている。凹部25の開放方向D2を臨む縦壁は、リアドア21を閉鎖方向D1に移動させる際に、乗員が指等の体の一部を当接させて閉鎖方向D1に押圧することができるように構成されている。さらに、窪み部24の底面24Aにおける把持部22の下方側には切替規制部26が設けられている。
【0056】
上記のような変形例によるリアドア21では、把持部22の全体が窪み部24の内部に収容されていることにより、既述の実施形態の場合と同様に、リアドア21に隣接する位置まで荷物を効率的に配置することができる。このような変形例によるリアドア21は、スライド式に開閉されるドアだけでなく、回動式に開閉されるドアにも応用可能である。
【0057】
なお、本発明の構造が適用可能なスライド式のドアは、レールに沿ってドアをスライドさせるタイプだけでなく、平行リンク機構によってドアをスライドさせるタイプも含む。スライドの軌跡は直線状および曲線状のいずれであってもよい。また、上記変形例の構造を応用可能な回動式のドアは、水平方向に回動するタイプと上下方向に回動するタイプを含む。
【0058】
さらに、既述の実施形態および変形例では、本発明の構造が後部座席側のドア開口部を開閉するためのリアドアに適用される一例を示したが、後部座席側以外の乗員出入口となるドアや、荷物の積み降ろしに利用されるバックドアなどにも本発明の構造を応用することが可能である。
【0059】
加えて、既述の実施形態および変形例では、リアドアを開く際に車両後方にスライドさせる例について説明したが、リアドアの開放方向は車両後方に限定されない。例えば、車体側面のドア開口部を開閉するためのドアの場合、開放方向は車両前方や車両上方であってもよい。バックドアの場合の開放方向は、車幅方向または車両上下方向とすることが可能である。
【符号の説明】
【0060】
1,11,21…リアドア
2,12,22…把持部
2A,12A…開放方向の側部
2B,12B…閉鎖方向の側部
2C…空間
3,13,23…ドアインナパネル
3A,13A,23A…車室内側端部
4…窪み部
4A…底面
4B…側壁
5…凹部
5A…底面
5B…側壁
6A,15A…第1開口部
6B,15B…第2開口部
6C…第3開口部
7…ガイド部
8…切替部
9,18…切替規制部
9A,18A…操作部
14…壁部
14A…縦壁面
16…凹凸部
17…リンク部
17A…リンク
17B…ケーブル
17C…回転軸
19…ハンドル
D1…閉鎖方向
D2…開放方向