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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022133914
(43)【公開日】2022-09-14
(54)【発明の名称】鋼帯の製造方法および製造設備
(51)【国際特許分類】
   C23G 1/08 20060101AFI20220907BHJP
【FI】
C23G1/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021032870
(22)【出願日】2021-03-02
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【弁理士】
【氏名又は名称】川原 敬祐
(74)【代理人】
【識別番号】100204401
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 睦美
(72)【発明者】
【氏名】川田 翔子
【テーマコード(参考)】
4K053
【Fターム(参考)】
4K053PA02
4K053QA01
4K053RA19
4K053RA22
4K053RA52
4K053RA63
4K053SA06
4K053TA02
4K053TA16
4K053TA17
4K053TA19
4K053YA03
(57)【要約】
【課題】鋼帯の表面の錆および変色を防止する。
【解決手段】酸洗工程と、第一の防錆工程と、リンス工程と、乾燥工程と、第二の防錆工程とを有し、前記リンス工程において酸洗溶液の除去を一回または複数回行うに際し、最終回で用いる洗浄溶液のpHが5.8以上7.5以下である、鋼帯の製造方法。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼素材が熱間圧延された熱延板の表面の酸化鉄を、酸洗溶液中の酸と反応させて除去する酸洗工程と、
前記酸洗工程後の熱延板の表面に防錆剤を付与して、該表面に保護皮膜を形成する第一の防錆工程と、
前記酸洗工程後の熱延板の表面に残留した前記酸洗溶液を、洗浄溶液を用いて除去するリンス工程と、
前記リンス工程後の熱延板の表面を乾燥させて、前記洗浄溶液を除去する乾燥工程と、
乾燥後の前記熱延板の表面に防錆油を付与して、鋼帯を得る第二の防錆工程と、を有し、
前記リンス工程において前記酸洗溶液の除去を一回または複数回行うに際し、最終回で用いる前記洗浄溶液のpHが5.8以上7.5以下である、鋼帯の製造方法。
【請求項2】
前記第一の防錆工程で用いる前記防錆剤が、前記熱延板の表面と化学吸着することにより前記保護皮膜を形成する、請求項1に記載の鋼帯の製造方法。
【請求項3】
前記リンス工程において前記酸洗溶液の除去を一回または複数回行うに際し、各回でそれぞれ用いる前記洗浄溶液のpHを予め測定する、請求項1または2に記載の鋼帯の製造方法。
【請求項4】
測定した前記洗浄溶液のpHが、所定のpHの範囲内であるかを確認し、該所定のpHの範囲外である場合に、
前記洗浄溶液を前記リンス工程で用いる前に、該洗浄溶液に酸性溶液を添加し、撹拌してpHを調整した後に再びpHを測定し、pH調整後の前記洗浄溶液のpHが前記所定のpHの範囲内であることを確認する、請求項3に記載の鋼帯の製造方法。
【請求項5】
前記リンス工程において前記酸洗溶液の除去を複数回行うに際し、全ての回で、用いる前記洗浄溶液のpHが5.8以上7.5以下である、請求項1~4のいずれか一項に記載の鋼帯の製造方法。
【請求項6】
通板方向上流側から順に、
酸洗溶液を収容し、熱延板の表面の酸化鉄を前記酸洗溶液によって除去するための、少なくとも一つの酸洗槽と;
前記熱延板の表面に防錆剤を付与して、該表面に保護皮膜を形成するための、第一の防錆剤塗布装置、および
洗浄溶液を収容し、前記熱延板の表面に残留した前記酸洗溶液を、前記洗浄溶液によって除去するための、少なくとも一つのリンス槽と;
前記熱延板の表面を乾燥させるための乾燥装置と;
前記熱延板の表面に防錆油を付与して、鋼帯として排出するための、第二の防錆剤塗布装置と;を有し、
前記リンス槽が、
前記洗浄溶液を前記熱延板の表面に供給する、少なくとも一つの供給口と、
前記供給口よりも流路上流側に設けられた、前記熱延板の表面に供給する前の前記洗浄溶液のpHを測定するpH計と、
前記pH計よりも流路上流側に設けられた、pHを測定する前の前記洗浄溶液に酸性溶液を添加可能なpH調整装置と、を更に有する、鋼帯の製造設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼帯を製造するための方法および設備に関する。本発明は、特に、熱延板の表面に形成された防錆用保護皮膜を製造中にわたって良好に維持し、得られる鋼帯の表面の錆および変色を防止可能な、鋼帯の製造方法及び製造設備に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼帯を製造する際には、鋼素材に熱間圧延を施して、所望の厚みを有する熱延板を調製する。ここで、熱間圧延後の熱延板は、空気中の酸素との反応によって表面が薄い酸化鉄(スケール)に覆われる。このスケールを表面保護層として利用し、熱延板をそのまま最終製品の鋼帯(黒皮材)として出荷する場合がある一方、このスケールを熱延板から除去させてから、最終製品の鋼帯(白皮材)として出荷する場合もある。白皮材は、加工性、塗装性および溶接性に優れるため、自動車用途および電気機器用途に広く使用されている。
【0003】
スケールを除去する脱スケールの手法としては、熱延板の表面の酸化鉄を酸と反応させて除去する酸洗が広く用いられている。一般に、この酸洗ラインには、酸洗溶液で酸化鉄を溶解除去する酸洗槽が設けられ、該酸洗槽に続いて、表面に残留する酸洗溶液を洗浄溶液で洗い流すリンス槽、表面に残留する洗浄溶液などの液体を除去するドライヤー、および、表面に防錆油を塗布するオイラーがさらに設けられており、鋼帯を巻き取って出荷可能な状態とする。
【0004】
上記の酸洗ラインにおいて、酸洗槽を出た後の熱延板の表面は、酸化鉄の表面保護層に覆われていないために活性が高い。したがって、酸洗槽後かつ防錆油塗布装置前までの間における熱延板の表面には、空気中の酸素・水分および偶発的な要因によって容易に錆が生じ、黄色または茶褐色の変色を生じてしまう。このような錆および変色は、外観を損なうため、鋼帯の商品価値を著しく下げる。そして、錆・変色が発生した部位をカットして取り除くことによる歩留りの低下、カット作業の追加による作業工数の増大などにより製造効率も低下する。
【0005】
酸洗後の錆および変色を防止する手法としては、特許文献1~3に記載の技術が提案されている。
特許文献1および2では、脂肪酸を含む成分を有する水溶性変色防止剤を、酸洗後の水洗水中に添加する、または、酸洗酸液が付着した状態の酸洗鋼材に直接接触させることにより、該防止剤中の脂肪酸を鋼材表面と化学吸着させて、鋼材表面に保護皮膜を形成している。特許文献1および2によれば、化学吸着により形成された保護被膜は、水での洗浄では洗い流されず、鋼材表面を長期間保護可能である。
【0006】
また、特許文献3では、鋼帯の通過速度が低下したときに、非常時の措置として、pH値が1.5~4.0であるリンス液に水を補給することにより、特に酸洗処理に近い上流のリンス処理における酸性水に起因した鋼帯表面の変色を防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003-155584号公報
【特許文献2】特開2003-129261号公報
【特許文献3】特開平3-20485号公報
【0008】
しかしながら、特許文献1~3に記載の酸洗では、得られる鋼帯の表面になお変色が生じる場合があることが判明した。本発明者がこの点について検討したところ、酸洗後に発生する錆の起点が、例えば図3に示すように、リンス槽11の下流に設けられた絞りロール13での絞り不良、更に下流に設けられた乾燥装置7での熱延板の表面の乾き不良、更に下流に設けられたループセクション15での熱延板の表面への結露の転写など、いずれもリンス工程直後の箇所であることを突き止めた。このことから、本発明者は、リンス工程中の何らかの原因によって、リンス工程直後の熱延板で保護皮膜が発錆抑止の効果を十分に発揮できていないことを知見した。
そして、更なる検討の結果、特許文献1および2の場合では、水溶性変色防止剤の化学吸着によって鋼材の表面に形成された保護皮膜が、酸洗後の水洗によって脱離して消失する場合がある問題が明らかとなった。また、特許文献3に対して上記保護皮膜を形成した場合も、鋼帯の通過速度が設定どおりである限りリンス液のpHを何ら制御しておらず、やはりリンス工程後に再び錆が生じやすくなる問題が明らかとなった。
【0009】
上記問題に対処するにあたり、本発明者は、酸性工程後のリンス工程で使用するリンス液(洗浄溶液)の液性、つまり、pHに着目した。そして、実操業上、リンス工程で使用する洗浄溶液の液性は、以下に示す種々の要因からアルカリ性となる場合が多いことを新たに知見した。すなわち、
(1)リンス工程で使用する洗浄溶液として、リンス工程内で循環させた循環水を用いることが常である。また、この洗浄溶液の循環は大気と接触する開放系で行うことも常である。したがって、洗浄溶液には、酸洗工程で使用された酸洗溶液から持ち込まれた鉄イオンと、溶存酸素とが含まれる。溶存酸素が含まれる洗浄溶液がpH>5の弱酸性~中性では、洗浄溶液である水溶液中に溶出した鉄イオンFe2+と、洗浄溶液中の溶存酸素および水とが反応して、水酸化鉄Fe(OH)を生じる。そして、この水酸化鉄Fe(OH)が、洗浄溶液のpHを上昇させてアルカリ性とする。
(2)酸洗工程では、脱スケールされた熱延板の表面から鉄イオンが溶出することを防止するため、酸洗溶液中にアルカリ性の化合物(これをインヒビターともいう)を投入することがある。上述のとおりリンス工程では洗浄溶液として循環水を使用するため、このインヒビター量が比較的多い場合は、酸洗溶液から持ち込まれたインヒビターが、洗浄溶液をアルカリ性とする。
(3)酸洗工程直後に、酸洗溶液が残存する熱延板の表面に、酸の中和を目的としてアルカリ剤を投入することがある。このアルカリ剤量が比較的多い場合は、酸洗溶液を中和させた後もなおアルカリ剤が残存し、熱延板の表面に存在する溶液がアルカリ性となる。特に通板速度が遅い場合、熱延板の表面に投入されるアルカリ剤が過多となり、循環水である洗浄溶液のpHを高める。
(4)一例として、東京都の工業用水の水質基準として、pH:5.8~8.6、横浜市の場合はpH:6.0~8.6、川崎市の場合はpH:5.8~8.6が定められている。このように工業用水は必ずしも中性とは限らず、弱アルカリ性まで許容されている。したがって、アルカリ性の工業用水に起因してリンス工程での洗浄溶液がアルカリ性をおびる。
【0010】
しかしながら、従来技術では、リンス工程における洗浄溶液がアルカリ性であることに起因した発錆に対する知見はなかった。
特許文献1および2の場合、脱スケール後の鋼材の表面に脂肪酸を化学吸着させて、つまり、化学結合による金属表面との結びつきによって保護皮膜を形成しているが、一般に知られるように、金属表面に対する脂肪酸の吸着反応は、液性の影響を受ける。具体的には、酸洗溶液中で析出していた脂肪酸は、アルカリ性溶液に曝されると脂肪酸イオンとなり溶液中に溶解する。すなわち、特許文献1および2の場合、鋼材に保護皮膜を形成したとしても、その後にアルカリ性溶液に曝されると、金属表面に吸着した脂肪酸が脱離して防錆効果を失う懸念がある。
【0011】
また、特許文献3の場合、保護皮膜を形成しないため、もともと酸洗後の鋼帯表面が発錆し易い状態である。これに加え、特許文献3に特許文献1,2の変色防止剤を適用した場合であっても、鋼帯の通過速度が設定範囲である限り、pH1.5~4.0の酸性のリンス液であろうが、アルカリ性のリンス液であろうが、そのまま使用を続ける。よって、保護皮膜の形成の有無に関わらず、このリンス液の液性に起因してリンス工程後の鋼帯表面がなお錆びやすい。また、鋼帯の通過速度が低下した非常時には、pH1.5~4.0のリンス液に水を補給してpHを4.0超に調整するところ、リンス液のpHの下限値のみを設定しており、pHの上限値については何ら検討していないため、例え保護皮膜を形成したとしても、特に比較的下流側のリンス槽における洗浄溶液の付着によって、発錆する懸念がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、酸洗工程後かつリンス工程前、または、リンス工程中に形成された保護皮膜の防錆効果を製造中にわたって消失させず、鋼帯の表面の錆および変色を防止可能な、鋼帯の製造方法および製造設備を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題の解決に向けて本発明者が鋭意検討を行ったところ、保護皮膜を形成した後のリンス工程の最終回における洗浄溶液のpHを特定範囲に制御することにより、該保護皮膜を熱延板の表面から脱離させることなく、製造中にわたって高い防錆効果を保ちながら鋼帯を製造可能であるとの新規な知見を得た。
【0014】
すなわち、本発明の要旨構成は以下のとおりである。
1.鋼素材が熱間圧延された熱延板の表面の酸化鉄を、酸洗溶液中の酸と反応させて除去する酸洗工程と、
前記酸洗工程後の熱延板の表面に防錆剤を付与して、該表面に保護皮膜を形成する第一の防錆工程と、
前記酸洗工程後の熱延板の表面に残留した前記酸洗溶液を、洗浄溶液を用いて除去するリンス工程と、
前記リンス工程後の熱延板の表面を乾燥させて、前記洗浄溶液を除去する乾燥工程と、
乾燥後の前記熱延板の表面に防錆油を付与して、鋼帯を得る第二の防錆工程と、を有し、
前記リンス工程において前記酸洗溶液の除去を一回または複数回行うに際し、最終回で用いる前記洗浄溶液のpHが5.8以上7.5以下である、鋼帯の製造方法。
【0015】
2.前記第一の防錆工程で用いる前記防錆剤が、前記熱延板の表面と化学吸着することにより前記保護皮膜を形成する、前記1に記載の鋼帯の製造方法。
【0016】
3.前記リンス工程において前記酸洗溶液の除去を一回または複数回行うに際し、各回でそれぞれ用いる前記洗浄溶液のpHを予め測定する、前記1または2に記載の鋼帯の製造方法。
【0017】
4.測定した前記洗浄溶液のpHが、所定のpHの範囲内であるかを確認し、該所定のpHの範囲外である場合に、
前記洗浄溶液を前記リンス工程で用いる前に、該洗浄溶液に酸性溶液を添加し、撹拌してpHを調整した後に再びpHを測定し、pH調整後の前記洗浄溶液のpHが前記所定のpHの範囲内であることを確認する、前記3に記載の鋼帯の製造方法。
【0018】
5.前記リンス工程において前記酸洗溶液の除去を複数回行うに際し、全ての回で、用いる前記洗浄溶液のpHが5.8以上7.5以下である、前記1~4のいずれかに記載の鋼帯の製造方法。
【0019】
6.通板方向上流側から順に、
酸洗溶液を収容し、熱延板の表面の酸化鉄を前記酸洗溶液によって除去するための、少なくとも一つの酸洗槽と;
前記熱延板の表面に防錆剤を付与して、該表面に保護皮膜を形成するための、第一の防錆剤塗布装置、および
洗浄溶液を収容し、前記熱延板の表面に残留した前記酸洗溶液を、前記洗浄溶液によって除去するための、少なくとも一つのリンス槽と;
前記熱延板の表面を乾燥させるための乾燥装置と;
前記熱延板の表面に防錆油を付与して、鋼帯として排出するための、第二の防錆剤塗布装置と;を有し、
前記リンス槽が、
前記洗浄溶液を前記熱延板の表面に供給する、少なくとも一つの供給口と、
前記供給口よりも流路上流側に設けられた、前記熱延板の表面に供給する前の前記洗浄溶液のpHを測定するpH計と、
前記pH計よりも流路上流側に設けられた、pHを測定する前の前記洗浄溶液に酸性溶液を添加可能なpH調整装置と、を更に有する、鋼帯の製造設備。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、リンス工程以前に形成された保護皮膜の防錆効果を製造中にわたって消失させず、得られる鋼帯の表面の錆および変色を確実に防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の一実施形態に従った、鋼帯の製造設備(酸洗ライン)の概要図である。
図2】本発明の一実施形態に従った鋼帯の製造設備のうち、酸洗槽、第一の防錆剤塗布装置およびリンス槽を抜粋した概要図である。
図3】本発明を完成させる一契機となった、錆の起点箇所を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
次に、本発明の実施形態について、図を参照して具体的に説明する。
以下の実施形態は、本発明の好適な一例を示すものであり、これらの例によって何ら限定されるものではない。
【0023】
(鋼帯の製造方法)
本発明の鋼帯の製造方法は、酸洗工程と、第一の防錆工程およびリンス工程と、乾燥工程と、第二の防錆工程とを順に有し、任意にその他の工程を更に有し得る。第一の防錆工程とリンス工程とは同時に行ってもよいが、酸洗工程、第一の防錆工程、リンス工程、乾燥工程、および第二の防錆工程の順に行うことが好ましい。そして、本発明の製造方法では、上記リンス工程の少なくとも最終回で用いる洗浄溶液のpHを所定の範囲に制御する必要がある。pHが高まり易い最終回での洗浄溶液のpHを所定範囲に制御しなければ、第一の防錆工程で熱延板の表面に形成された保護皮膜から、製造中にわたって効果的に防錆効果を得ることができず、得られる鋼帯の表面の錆および変色を確実に防止することができない。
本発明の鋼帯の製造方法には、例えば、後述する本発明の鋼帯の製造設備を好適に用いることができる。
【0024】
本発明の鋼帯の製造方法は、例えば、以下の具体的な要領に従って行うことができる。すなわち、所望の板厚に熱間圧延されたコイル状の熱延板は、通板方向の上流から下流の方向に、ペイオフリール1から払い出され、酸洗槽10へと導入されて、酸洗工程が施される。上記ペイオフリール1から酸洗槽10までの間には、任意に、コイル先尾端を切断して、熱延板Sを溶接に適した形状とするためのシャー2、先行コイルの尾端と後行コイルの先端とを溶接するためのウェルダー3、熱延板Sの進行方向を変更するためのデフロール4、熱延板Sの張力を保持するためのブライドルロール5、熱延板Sの形状を矯正するためのスキンパス14、十分な長さの熱延板Sをライン内に保持または払い出すことで通板速度に自由度を持たせるためのループセクション15を設けることができる。また、酸洗槽10の直前には、必要温度を確保するためのプレヒート槽9を設けることができる。酸洗槽10は、第一槽10a一つのみでもよいし、第一槽10a・・・第i槽10i・・・最下流槽10xの複数設けてもよいが、酸化鉄を確実に除去する観点からは、実機においては酸洗槽を複数設けることが好ましい。酸洗槽10の下部には、例えば、図2に示すように、酸洗溶液を収容する酸洗溶液タンク21を設け、酸洗溶液タンク21と酸洗槽10とを連結する酸洗溶液配管20(20a)を通じて、必要に応じて給液ポンプ16を介して、酸洗溶液が酸洗溶液タンク21から酸洗槽10へと供給される。
【0025】
酸洗槽10から排出された熱延板Sは、該熱延板Sの表面の残存溶液(主に酸洗溶液)を加圧によって絞り、残存する大部分の酸洗溶液を取り除くための絞りロール13を介して、第一の防錆剤塗布装置12に導入されて、第一の防錆工程が施される。第一の防錆剤塗布装置12は、熱延板Sの両表面に防錆処理を施す観点から、実機においては熱延板の両表面側に設けられることが好ましい。
【0026】
第一の防錆剤塗布装置12から排出された熱延板Sは、リンス槽11へと導入されて、リンス工程が施される。リンス槽11は、第一槽11a一つのみでもよいし、第一槽11a・・・第i槽11i・・・最下流槽11xの複数設けてもよいが、酸洗溶液を確実に除去する観点からは、実機においてはリンス槽を複数設けることが好ましい。また、各リンス槽11a・・・11i・・・11xは、例えば、図2に示すように、洗浄溶液を収容する槽(図2の紙面下部に設けられた11a等として例示され、便宜的に下方のリンス槽と呼ぶことがある)と、使用後の洗浄溶液を受ける槽(図2の紙面上部に設けられた11a等として例示され、便宜的に上方のリンス槽と呼ぶことがある)とに分けて設けることができる。このようにリンス槽を分けて設ければ、例えば、図2の下方のリンス槽において洗浄溶液のpHを予め調整し、リンス工程において該調整された所望のpHの洗浄溶液を用いることができる。
各リンス槽11では、洗浄溶液に加え、ろ過水などのその他の溶液を更に用いてリンス工程を施してもよい。ろ過水を更に使用する場合は、図2に例示するように、ろ過水タンク19と、該ろ過水タンク19に連結されてろ過水を供給可能なろ過水配管18と、該ろ過水配管18の下流先端にろ過水を例えば噴霧可能なノズル群である供給口23とを、必要に応じて給液ポンプ16を介して、後述する洗浄溶液配管22およびその供給口23よりも下流側に設けることができる。
【0027】
一方の各リンス槽11(下方のリンス槽11a等)から洗浄溶液を供給可能な洗浄溶液配管22が、該下方のリンス槽とそれぞれ連結され、洗浄溶液配管22の下流先端には洗浄溶液を例えば噴霧可能なノズル群である供給口23が設けられる。洗浄溶液は、必要に応じて給液ポンプ16を介して、上記下方のリンス槽11から供給口23によって熱延板Sの表面、好ましくは両表面に供給される。各供給口23の下流には、熱延板Sの表面の残存溶液(主に洗浄溶液)の大部分を取り除くための絞りロール13が設けられる。上記下方のリンス槽は、他方の各リンス槽11(上方のリンス槽11a等)とそれぞれ任意の配管を通じて更に連結され、供給口23および/または絞りロール13を経た使用後の洗浄溶液を該上方のリンス槽で受けた後に、上記下方のリンス槽に戻すことにより、洗浄溶液を循環して使用することができる。
好適には、洗浄溶液の各供給口23よりも流路上流側、より好適には該各供給口23の流路直前の各洗浄溶液配管22にpH計17が設けられ、熱延板Sの表面に供給する前の洗浄溶液のpHを測定・監視することができる。
更に好適には、各pH計17よりも更に流路上流側で、各下方のリンス槽11と上述の酸洗溶液タンク21とが酸洗溶液配管20(20b)で更に連結され、酸性溶液としての酸洗溶液を、必要に応じて給液ポンプ16を介して酸洗溶液タンク21から各下方のリンス槽11へと供給することにより、洗浄溶液のpHを酸性側に調整可能とする。このときの酸洗溶液タンク21、酸洗溶液配管20bおよび給液ポンプ16をまとめて「pH調整装置」と呼ぶことができる。
【0028】
リンス槽11(場合によっては絞りロール13)から排出された熱延板Sは、乾燥装置7へと導入されて、乾燥工程が施される。乾燥装置7は、実機においては熱延板Sの両面側に設けることが好ましい。
【0029】
乾燥装置7から排出された熱延板Sは、第二の防錆剤塗布装置8へと導入されて、第二の防錆工程が施され、鋼帯Sとして排出される。第二の防錆剤塗布装置8は、熱延板Sの両表面に防錆処理を施す観点から、熱延板Sの両表面側に設けられることが好ましい。乾燥装置7から第二の防錆剤塗布装置8までの間には、任意に、熱延板Sの張力を保持するためのブライドルロール5、通板速度に自由度を持たせるためのループセクション15、後にコイル状に巻き取るためにコイル先尾端を切断し、通板のために上流側で溶接されていた2つのコイル同士の溶接部を除去してそれぞれ1つの製品コイルとするためのシャー2を設けることができる。また、第二の防錆剤塗布装置8の下流には、テンションリール6を更に設け、鋼帯Sをコイル状で得ることができる。
【0030】
[酸洗工程]
酸洗工程では、鋼素材が熱間圧延された熱延板の表面の酸化鉄を、酸洗溶液中の酸と反応させて除去する。酸化鉄を酸洗溶液中の酸と反応させるには、例えば、酸洗溶液に熱延板を浸漬させることができる。または、酸洗溶液を熱延板の表面に噴射するなどして付与することもできる。中でも、熱延板両面上の酸化鉄を効率的に除去できる観点からは、酸洗溶液に熱延板を浸漬させる手法が好ましい。
酸洗工程での通板速度、酸洗溶液への浸漬時間などは、形成される酸化鉄の量、用いる酸洗溶液の種類などに応じて適宜決定すればよい。
酸洗工程には、上述の酸洗槽10、酸洗溶液タンク21、酸洗溶液配管20aおよび給液ポンプ16が好適に使用でき、プレヒート槽9および絞りロール13も好適に使用できる。
【0031】
酸洗溶液の種類は、特に限定されないが、酸化鉄を良好に溶解して除去する観点からは、強酸溶液であることが好ましく、例えば、pH0.4未満の塩酸溶液(体積比:1.5%~11%HCl)が好適に用いられる。また、酸洗溶液には、最終的に鋼帯となる熱延板が必要以上に溶出することを防止するために、インヒビターと呼ばれる公知の酸洗抑制剤を添加してもよい。公知のインヒビターとしては、例えば、アミン等のアンモニア化合物が挙げられる。通常、インヒビターの添加量は酸洗溶液の量に対して極少量であるため、インヒビターの添加による酸洗溶液のpHへの影響は無視することができる。
【0032】
[第一の防錆工程]
第一の防錆工程では、酸洗工程後の熱延板の表面に防錆剤を付与して、該表面に保護皮膜を形成する。上述のとおり、酸洗直後の熱延板の表面は、保護層となり得る酸化鉄が除去されているため活性が高い。したがって、酸洗工程直後の熱延板の錆および変色を防止するために、熱延板の表面に保護皮膜を形成する必要がある。
第一の防錆工程は、例えば、液体の防錆剤に熱延板を浸漬する、または、液体の防錆剤を熱延板の表面、好ましくは両面に噴射もしくは塗布などして付与することで行うことができる。第一の防錆工程には、上述の第一の防錆剤塗布装置12が好適に使用できる。
【0033】
第一の防錆工程で用いる防錆剤は、熱延板の表面と化学吸着することにより保護皮膜を形成可能な防錆剤であることが好ましい。従来の変色防止剤などの防錆剤の大半は、該防錆剤中の分子が金属表面と物理吸着する(つまり、防止剤中の分子が静電気力で金属表面に並ぶ)ことにより保護皮膜が形成されていたところ、物理吸着による保護皮膜は、該保護皮膜を形成する分子が水での洗浄で容易に脱離し、防錆効果が消失され易い。したがって、製造中にわたって熱延板の表面の防錆効果を持続させるためには、化学吸着により保護皮膜を形成可能な防錆剤を塗布することが好ましい。
ここで、防錆剤としてプレトンNS320(スギムラ化学工業製)を用い、金属と脂肪酸との化学吸着で保護皮膜を形成した熱延板(噴射圧:0.1MPa、噴射角度:10deg、噴射時間:1秒)と、防錆剤としてスーパーヒビロンAS-31F(スギムラ化学工業製)を用い、金属とアミンとの物理吸着で保護皮膜を形成した熱延板(形成条件:浸漬、対酸比率:0.4%)とを用いて、リンス工程後の保護皮膜の状態を比較した。具体的には、上記のとおり保護皮膜が形成された各熱延板に、pH7.5の洗浄溶液を用いてリンス工程(1回の洗浄溶液の噴射であり、噴射圧:0.1MPa、噴射時間:50秒)を施した場合の、各熱延板の表面のτ値を測定した結果を表1に示す。τ値とは、脱気した中性溶液中で、Fe酸化物が還元溶解する過程の浸漬電位の経時変化を測定し、酸化物の還元溶解が完了するまでの時間を測定したものであり、自動還元時間(単位:秒)ともいう。τ値が大きいほど反応性が低いことを意味し、つまり、錆の発生のしにくさの指標となる。表1から明らかなように、化学吸着で保護皮膜を形成した熱延板に比べ、物理吸着で保護皮膜を形成した熱延板ではτ値が著しく低い。物理吸着による保護皮膜は、水洗によって容易に消失し易いことが分かる。
【0034】
【表1】
【0035】
τ値は以下のとおり測定した。すなわち、0.05mol/Lのホウ酸ソーダ溶液525mLと、0.01mol/LのHCl溶液475mLとを混合し、pH7.6の一次溶液を調製した後に、更に、0.1mol/LのHCl溶液を少量加えてpH6.4に調整して、ホウ酸ソーダ・塩酸緩衝液を得た。得られた1Lのホウ酸ソーダ・塩酸緩衝液(pH6.4、Nガス脱気)に、保護皮膜が形成された各熱延板を浸漬し、浸漬電位を測定した。
【0036】
本発明者は、更に、この化学吸着によって形成された保護皮膜に接触する洗浄溶液のpHに着目し、後に詳述する所定の範囲内にpHを制御することにより、洗浄溶液に起因して保護皮膜を脱離させることなく、防錆効果を良好に発揮させる方途を見出した。
【0037】
化学吸着により保護皮膜を形成可能な防錆剤としては、親水基と疎水基とを有し、界面活性剤としての機能を有する防錆剤が好適に使用できる。例えば、防錆剤中の分子が、熱延板、鋼帯などの金属表面に吸着するための親水基としての極性基と、腐食要因の金属表面への接触を遮断可能な疎水基としての非極性炭化水素基(C-、ただし、n及びmは任意の整数)を含む構造がより好適であり、上記極性基と非極性炭化水素基とからなる構造が更に好適である。
1分子中の極性基は、1つでもよく、コハク酸のように2つ以上の極性基であってもよい。また、金属表面に吸着して形成される保護皮膜は、単層でもよく、吸着した分子への更なる吸着を繰り返してなる複数層でもよい。
非極性炭化水素基は、腐食因子を金属表面から遠ざけてより良好に遮断する観点からは、炭素数2以上が好ましく、多いほど好ましい。例えば、オレイン酸のように、炭化水素基の炭素原子間に二重結合を有していてもよい。
第一の防錆工程で好適に用いることのできる防錆剤の例としては、変色防止剤(プレトンNS320、スギムラ化学工業製)が挙げられる。実施例に後述する条件でこの変色防止剤を用いる場合、該防止剤の溶液濃度は0.5%以上が好ましく、1.0%未満が好ましく、0.7%以下がより好ましい。溶液濃度が1.0%以上であると泡立ちを生じ、正常な通板を妨げるおそれがある。
【0038】
保護皮膜を維持する手法としては、例えば、リンス工程での保護皮膜の脱離を見越して、使用する防錆剤の濃度を高めることも考えられる。これに対し、本発明では、保護皮膜の脱離自体を回避できるため、防錆剤の濃度を高める必要がなく、経済的である。
また、界面活性剤としての機能を有する防錆剤の濃度を高めると、熱延板上に吐出又は噴霧した際に、多量の泡立ちが発生してしまう。これは、泡の液膜内で界面活性剤が形成する構造が電気的反発により液膜の薄化を抑止するためであり、防錆剤の濃度が高いほど泡は強固になり、より長い時間消失しないこととなる。酸洗ラインでは、一般に、センサーによる板の位置検出を行っているが、泡がこの検出を遮り、正常な通板ができなくなるおそれもある。このため、実操業上で使用できる防錆剤の濃度には上記のとおり上限がある。この点、本発明では、保護皮膜の消失を防ぐにあたり防錆剤の濃度を過度に高める必要がないため、通板上の問題も生じない。
【0039】
[リンス工程]
リンス工程では、酸洗工程後の熱延板の表面に残留した酸洗溶液を、好適には、保護皮膜が形成された熱延板の表面に残留した酸洗溶液を、所定のpH条件を満たした洗浄溶液を用いて、一回または複数回にわたって除去する。具体的には、リンス工程における少なくとも最終回で用いる洗浄溶液のpHを5.8以上7.5以下の特定範囲に制御することが肝要である。第一の防錆工程後の熱延板の表面には酸洗溶液がなお残留しているため、最終的に得られる鋼帯の錆および変色を防止するためには、この酸洗溶液をリンス工程によって除去する必要がある。
リンス工程には、上述のリンス槽11、洗浄溶液配管22、該配管22の下流先端に設けられた供給口23、給液ポンプ16、pH計17およびpH調整装置が好適に使用できる。また、ろ過水タンク19、ろ過水配管18および該配管18の下流先端に設けられた供給口23も更に好適に使用できる。
【0040】
ここで、上述のとおり、洗浄溶液として循環水を用いることが常であるところ、洗浄溶液(循環水)が酸性である場合、溶出した鉄イオンと溶存酸素とが結びつき、熱延板の表面に黄色や褐色の変色が生じるおそれがある。鉄は、塩酸などの強酸を含む溶液によってpH1~4付近で激しく溶解する。また、酢酸および炭酸などの弱酸による鉄の溶解はpH5~6弱において高い。このように、鉄が、酸性溶液によって腐食されることは広く知られた事実であり、したがって、リンス工程の目的は、少なくとも最下流に位置するリンス槽においてpH7前後の所定の液性を有する洗浄溶液を用いて残存する酸洗溶液を洗い流すことにより、熱延板上の鉄イオンおよび酸分を完全に除去することにある。仮に、最下流のリンス槽において使用する洗浄溶液のpHが所定範囲よりも低ければ、リンス工程から排出された熱延板の表面が弱酸性溶液または酸性溶液に晒された状態となるので、この弱酸性等の洗浄溶液によって熱延板が溶出し、熱延板の表面に残存する洗浄溶液中に鉄イオンが生じ、更に溶存酸素と結びついて水酸化鉄となる。そして、水酸化鉄を含んだ洗浄溶液を残存させたままリンス工程から排出された熱延板の表面では、続く乾燥工程に供されたときに、残存する洗浄溶液中に溶けていた水酸化鉄が固体となって熱延板表面に析出し、ただちに酸化鉄、すなわち変色を生じる。
保護皮膜が熱延板の表面に完全に隙間なく形成された理想的な状態であれば、このような変色を防ぎ得るとも考えられるが、実操業上は保護皮膜を確実に理想的に形成することは難しい。さらに、得られた鋼帯は、全長どの位置であっても錆・変色の発生があればカットしなければならず、製造上大幅な歩留の低下につながる。
よって、酸洗溶液除去のとりわけ最終回(一回の場合はその回)では、熱延板上の腐食因子を完全に洗い流す必要があり、洗浄溶液が上記酸性領域となることを避ける必要がある。実操業上、少なくとも最下流のリンス槽における洗浄溶液のpHを5.8以上とすれば上述した変色は生じない。したがって、少なくとも最下流のリンス槽における洗浄溶液のpHを5.8以上とする必要があり、6.0以上とすることが好ましい。本発明者が実際に用いる工業用水の水質基準で定めるpH下限:pH5.8(東京都)、pH5.8(川崎市)およびpH6.0(横浜市)に照らせば、これらの工業用水のpHを調整することなく使用できるという製造効率の利点も挙げられる。
【0041】
一方、洗浄溶液(循環水)がアルカリ性である場合、形成した保護皮膜が脱離し、やはり防錆効果を低めるおそれがある。リンス工程において酸洗溶液の除去を複数回行う場合、上流側の工程では酸洗工程から持ち込まれた酸洗溶液に起因してpHが比較的低く、下流側になるに従いpHが高まる傾向がある。しかしながら、従来技術では、洗浄溶液のpHの下限値については検討があるものの、その上限値については知見がなかった。この点について、少なくとも最下流のリンス槽における洗浄溶液のpHを7.5以下とすれば、出荷可能な程度に変色を抑制できることが判明した。したがって、少なくとも最下流のリンス槽における洗浄溶液のpHを7.5以下とする必要があり、7.0以下とすることが好ましい。本発明者が実際に用いる工業用水の水質基準で定めるpH上限がpH8.6(東京都、川崎市および横浜市)であり、特段の制御をしなければ、下流のリンス槽ほど洗浄溶液のpHが7.5を超えがちであるところ、本発明では、pHが高まり易い少なくとも最終回で用いる洗浄溶液のpHを7.5以下まで制御し、好適には7.0以下まで制御する。
【0042】
このように、少なくとも最終回で用いる洗浄溶液のpHを、酸性側にもアルカリ性側にも制御した特定範囲内とすることが肝要である。最終回で用いる洗浄溶液のpHは、5.8~7.5に制御する必要があり、6.0~7.5に制御することが好ましく、5.8~7.0に制御することが好ましく、6.0~7.0に制御することがより好ましい。
【0043】
酸洗溶液を完全に洗浄しつつ、形成した保護皮膜を脱離させることなく高い防錆効果を持続させる観点からは、リンス工程において酸洗溶液の除去を複数回行う場合、全ての回で、pH5.8以上とすることが好ましく、6.0以上とすることがより好ましく、pH7.5以下とすることが好ましく、pH7.0以下とすることがより好ましい。全ての回で、用いる洗浄溶液のpHを5.8~7.5に制御することが好ましく、6.0~7.5に制御することがより好ましく、5.8~7.0に制御することがより好ましく、6.0~7.0に制御することが更に好ましい。
【0044】
洗浄溶液のpHを適宜かつ良好に制御するためには、リンス工程における酸洗溶液の除去回数が一回であるか複数回であるかにかかわらず、各回でそれぞれ用いる洗浄溶液のpHを予め測定することが好ましい。pHの測定は、上述のpH計17を用いて好適に行うことができる。
更に、測定した洗浄溶液のpHが上記所定のpHの範囲内であるかを確認し、該所定のpHの範囲外である場合、特には、アルカリ性側に範囲外である場合には、洗浄溶液をリンス工程で用いる前に、該洗浄溶液に酸性溶液を添加し、撹拌してpHを調整した後に再びpHを測定し、pH調整後の洗浄溶液のpHが上記所定のpHの範囲内であることを確認することがより好ましい。このようにpH調整された洗浄溶液を用いれば、リンス工程において保護皮膜を脱離させず、防錆効果を確実に維持することができる。酸性溶液としては、塩酸溶液が好適に使用でき、酸洗溶液として使用される塩酸溶液をより好適に使用できる。pHの調整に酸洗工程で用いる酸洗溶液を利用すれば、製造コストを高めることがない。pHの調整は、上述のpH計17及びpH調整装置を用いて好適に行うことができる。
【0045】
上記に替えて、または、上記に加えて、洗浄溶液のpHがアルカリ性側に範囲外である場合には、pH計17で該pHを確認後、熱延板の通板速度を上昇させることもできる。通板速度の上昇により、熱延板に供給される洗浄溶液の量、特には、上流側での洗浄溶液の量を低減し、pHが上昇している回における洗浄溶液への酸洗溶液の持込み量を相対的に増加させ、洗浄溶液のpHを下降させる方法も考えられる。
【0046】
一方、測定した洗浄溶液のpHが酸性側に範囲外である場合には、洗浄溶液をリンス工程で用いる前に、該洗浄溶液に投入する水の量を増加させ(図示せず)、撹拌してpHを調整した後に再びpHを測定し、pH調整後の洗浄溶液のpHが上記所定のpHの範囲内であることを確認することができる。このとき、投入する水は、循環水よりも、製鉄所内の中央水処理設備から供給されるろ過水(新水ともいい、通常は中性)であることが好ましい。
上記に替えて、または、上記に加えて、洗浄溶液のpHが酸性側に範囲外である場合には、pH計17で該pHを確認後、熱延板の通板速度を上昇させることもできる。
【0047】
洗浄溶液としては水を使用することができ、好適には、製鉄所内の中央水処理設備より供給される新水、酸洗溶液の除去用に熱延板に接触させた洗浄溶液を再度使用する循環水、またはこれらの組み合わせを使用することができる。循環水は、例えば、リンスのために噴射された洗浄溶液としての水を図2の上方のリンス槽(第一のリンス槽)11a等で受け、配管を通じて図2の下方のリンス槽(第二のリンス槽)11a等に集積した後、給液ポンプ16を介して再び洗浄溶液として噴射して使用することができる。このため、上流側のリンス槽11には酸洗溶液が比較的多量に洗い落とされるので、集積された循環水のpHが低くなる傾向があり、下流側のリンス槽11で集積された循環水ほどpHが高くなる傾向がある。洗浄溶液のpHが5.8を下回った場合および7.5を上回った場合のpHの調整方法は先に詳述したとおりである。
【0048】
リンス工程では、例えば、熱延板に洗浄溶液を任意の手法で供給することで、残存した酸洗溶液を取り除くことができる。中でも、高い流量で洗浄溶液を供給して酸洗溶液を良好に除去できる観点からは、洗浄溶液を噴霧して供給することが好ましい。
【0049】
洗浄溶液の温度は、所定のpHを安定して維持・供給しやすい観点から、30℃以上50℃以下の間で管理するのが好ましい。
【0050】
なお、リンス工程は、上述の第一の防錆工程と同時に行うこともできる。リンス工程を第一の防錆工程と同時に行うには、例えば、第一の防錆工程で用いる防錆剤を、一回または複数回の任意の回で使用する洗浄溶液中に添加することができる。酸洗直後の熱延板の表面の酸化を防止する観点からは、第一の防錆工程で用いる防錆剤を、少なくとも初回で使用する洗浄溶液中に添加することが好ましい。また、複数層からなる保護皮膜を形成する観点からは、少なくとも初回を含む複数回で使用する洗浄溶液中に添加することが好ましい。
【0051】
[乾燥工程]
乾燥工程では、リンス工程後の熱延板の表面を乾燥させて、洗浄溶液を除去する。リンス工程後の熱延板の表面には洗浄溶液が残存しているため、乾燥させることにより洗浄溶液を除去する。本発明では、所定のpHに制御された洗浄溶液を用いてリンス工程を行っているため、乾燥工程後の熱延板の表面には保護皮膜が脱離することなく良好に形成されている。
乾燥工程には、上述の乾燥装置7、例えば、公知のドライヤーが好適に使用できる。
【0052】
[第二の防錆工程]
第二の防錆工程では、乾燥後の熱延板の表面に防錆油を付与して、鋼帯を得る。防錆油の付与により形成される防錆油膜は、通常、第一の防錆工程において防錆剤の付与により形成される保護皮膜よりも厚みが大きく(例えば、保護皮膜厚:数十Å(1Å=10-10m)に対し、防錆油膜厚:数μm(1μm=10-6m))、空気中の水分や酸素などの腐食因子を熱延板の表面から物理的により大きな距離を持って遮断できる。よって、一般に、防錆油膜は、第一の防錆工程において形成される保護皮膜よりも強力に防錆効果を発揮する。また、防錆油膜には、得られる鋼帯の表面に潤滑性を付加して、例えば後述する巻取り工程における鋼帯同士の擦れによる疵を防止する効果もある。
本発明では、第一の防錆工程において形成される保護皮膜を製造中にわたって良好に維持するため、防錆の観点のみからは第二の防錆工程を省略することも考えられる。しかしながら、上述した疵による鋼帯としての商品価値を損なう可能性および鋼帯に対する日本鉄鋼連盟規格などを考慮すると、実際の製造ラインでは防錆油を付与する必要がある。
【0053】
第二の防錆工程は、例えば、防錆油に熱延板を浸漬する、または、防錆油を熱延板の表面、好ましくは両面に噴射もしくは塗布するなどして付与することで行うことができる。第二の防錆工程には、上述の第二の防錆剤塗布装置8、例えば、公知のオイラーが好適に使用できる。
第二の防錆工程で好適に用いることができる防錆油としては、例えば、プレトンR850(スギムラ化学工業製)が挙げられる。
【0054】
[その他の工程]
本発明の製造方法が任意に更に有し得るその他の工程としては、例えば、アルカリ剤付与工程、巻取り工程などが挙げられる。
アルカリ剤付与工程では、例えば、酸洗工程後かつ第一の防錆工程以前に、酸洗溶液が残存する熱延板の表面に、酸の中和を目的としてアルカリ剤を投入することができる。また、アルカリ剤に防錆剤を含有させて、中性の熱延板表面に保護皮膜の形成を同時に行うこともできる。このアルカリ剤の量が比較的多い場合は、余分なアルカリ剤がリンス工程での洗浄溶液をアルカリ性側にする場合があるが、本発明では、リンス工程で用いる洗浄溶液のpHを所定の範囲内に制御するため、リンス工程において保護皮膜を消失させることがない。
巻取り工程では、例えば、第二の防錆工程後の鋼帯を巻き取って、コイル状の製品として出荷可能な状態にすることができる。
【0055】
(鋼帯の製造設備)
本発明の鋼帯の製造設備は、通板方向上流側から順に、少なくとも一つの酸洗槽と、第一の防錆剤塗布装置および少なくとも一つのリンス槽と、乾燥装置と、第二の防錆剤塗布装置とを有し、任意にその他の装置を更に有し得る。第一の防錆剤塗布装置とリンス槽とは同じ装置であってもよいが、通板方向上流側から順に、酸洗槽、第一の防錆剤塗布装置、リンス槽、乾燥装置、および第二の防錆剤塗布装置が配置されていることが好ましい。そして、本発明の製造設備では、上記リンス槽が、少なくとも一つの供給口と、該供給口よりも流路上流側に設けられたpH計と、該pH計よりも流路上流側に設けられたpH調整装置とを更に有する必要がある。リンス槽が所定の供給口、pH計およびpH調整装置を有さなければ、酸洗溶液を除去するための洗浄溶液を所定の範囲内に制御することができない。ひいては、熱延板の表面に形成された保護皮膜を、製造設備内にわたって確実に維持することができず、得られる鋼帯の表面の錆および変色を確実に防止することができない。
本発明の製造設備を用いれば、本発明の製造方法を好適に実施することができる。
【0056】
[酸洗槽]
酸洗槽は、酸洗溶液を収容し、熱延板の表面の酸化鉄を該酸洗溶液によって除去するために、一つ又は複数設けられる。酸洗槽10および酸洗溶液の好適形態は、製造方法について上述したとおりである。
【0057】
[第一の防錆剤塗布装置]
第一の防錆剤塗布装置は、熱延板の表面に防錆剤を付与して、該表面に保護皮膜を形成するために、酸洗槽よりも下流に設けられる。第一の防錆塗布装置12および該装置で使用する防錆剤の好適形態は、製造方法について上述したとおりである。
なお、例えば、後述するリンス槽に収容される洗浄溶液に防錆剤を添加すれば、第一の防錆剤塗布装置をリンス槽と兼ねることができる。
【0058】
[リンス槽]
リンス槽は、洗浄溶液を収容し、熱延板の表面に残留した酸洗溶液を該洗浄溶液によって除去するために、第一の防錆剤塗布装置を兼ねて、または、第一の防錆剤塗布装置よりも下流に、一つ又は複数設けられる。ここで、リンス槽は、洗浄溶液を該リンス槽から熱延板の表面に供給する、少なくとも一つの供給口(例えば、図2の23)と、該供給口よりも流路上流側に設けられた、熱延板の表面に供給する前の洗浄溶液のpHを測定するpH計(例えば、図2の17)と、該pH計よりも更に流路上流側に設けられた、pHを測定する前の洗浄溶液に酸性溶液を添加可能なpH調整装置(例えば、図2の21、20bおよび16)と、を更に有することを特徴とする。本発明者の知見によれば、洗浄溶液がアルカリ性を呈する場合があり、これに起因して保護皮膜が消失してしまうところ、本発明の製造設備では、リンス槽が上記所定の構造を有することにより、熱延板に供給する前の洗浄溶液のpHを確実に上述した所定範囲内に調整可能であるため、洗浄溶液による保護皮膜の消失を回避することができる。しかも、pH計、および、pH調整装置を構成する酸洗溶液タンクは一般に酸洗ラインに既に設置されているため、特殊な測定・調整設備を増強する必要がなく実施できる。
リンス槽11および洗浄溶液の好適形態は、基本的に製造方法について上述したとおりである。また、図示しないが、リンス槽には、圧力計、流量計、温度計などの各種計測器を更に設けることができるのは言うまでもない。
【0059】
[乾燥装置]
乾燥装置は、熱延板の表面を乾燥させ、熱延板の表面に残存する洗浄溶液を除去するために、リンス槽よりも下流に設けられる。乾燥装置により、表面に保護皮膜が形成され、液体成分が除去された熱延板が得られる。公知のドライヤーに代表される乾燥装置7の好適形態は、製造方法について上述したとおりである。
【0060】
[第二の防錆剤塗布装置]
第二の防錆剤塗布装置は、熱延板の表面に防錆油を付与して、鋼帯として排出するために、乾燥装置よりも下流に設けられる。公知のオイラーに代表される第二の防錆塗布装置8および該装置で使用する防錆油の好適形態は、製造方法について上述したとおりである。
【0061】
[その他の装置]
本発明の製造設備が任意に更に有し得るその他の装置としては、例えば、ペイオフリール、シャー、ウェルダー、デフロール、ブライドルロール、テンションリール、プレヒート槽、絞りロール、スキンパス、ループセクションなどが挙げられる。これらの装置については、いずれも製造方法について上述したとおりである。
【実施例0062】
以下、本発明について実施例に基づき具体的に説明する。以下の実施例は、本発明の好適な一例を示すものであり、本発明を何ら限定するものではない。また、以下の実施例は、本発明の趣旨に適合し得る範囲で変更を加えて実施することも可能であり、そのような態様も本発明の技術的範囲に含まれる。
【0063】
なお、実施例では、1つの酸洗槽と、試験片の片面側に対する第一の防錆剤塗布装置と、最下流槽を想定した1つのリンス槽と、試験片の片面側に対する乾燥装置とを実験室規模で設けた模擬装置を用いた。実際の製造設備では、図1に示すとおり、上流から下流に向かって複数の酸洗槽と、熱延板の両面側に対する第一の防錆剤塗布装置、および、複数のリンス槽と、熱延板の両面側に対する乾燥装置と、更には第二の防錆剤塗布装置とを好適に設けることができる。
すなわち、公知の成分組成を有する鋼素材を熱間圧延して得られた熱延板の試験片(サイズ:70mm×70mm×2mm厚)を複数枚用意し、酸洗工程として酸洗槽にそれぞれ1回浸漬させた。酸洗溶液としては体積比で7.0%HCl溶液(温度:83±10℃、pH(濃度からの計算値):-0.27)を用い、各浸漬時間は60秒とした。
次いで、第一の防錆工程として、上記試験片の片面(オモテ面)に対し、市販の変色防止剤(プレトンNS320、スギムラ化学工業製)を水と混合して質量比0.5%とした防錆剤をスプレー塗布した。第一の防錆工程におけるスプレー塗布の条件は以下のとおりである。
・スプレーノズル:1/4MINVV6650F
・噴射圧:0.1MPa
・ノズル取り付け角度:10deg
・ノズル-試験片の間の距離:535mm
ここで、保護皮膜を形成する脂肪酸は、アルキル基C2n+1の炭素数nが13以下のアルキルコハク酸、または、アルケニル基C2n-1の炭素数nが13以下のアルケニルコハク酸である。
【0064】
次いで、リンス工程として、洗浄溶液を試験片の上記片面(オモテ面)に供給するための1つの供給口(ノズル)を備えた鉛直方向上部に設けられた第一のリンス槽と、使用後の洗浄溶液を受ける鉛直方向下部に設けられた第二のリンス槽とのセットである、1つのリンス槽と;pH計を有し、pH調整装置にて工業用水、NaOHおよびHClを用いて表2に示すpH4.0~8.0の間の種々の値に予め調整した洗浄溶液を入れたタンクと;該タンクから供給口へと洗浄溶液を供給する給液ポンプと;圧力計と;を用いて、試験片の上記片面(オモテ面)に対し、洗浄溶液を1回スプレー塗布した。
このように、本実施例では、実験室規模での模擬のリンス槽を実際の製造設備における最下流のリンス槽とみなして行ったため、上記予めpH調整した洗浄溶液を入れるタンクを別途用い、洗浄溶液を循環させることなく試験片上にスプレー塗布した。しかしながら、実際の製造設備では、上流から下流に向かってリンス槽を複数個設け、少なくとも最下流の、好ましくは全ての第二のリンス槽に集積された洗浄溶液のpHを測定・調整しながら、洗浄溶液を循環して使用することができる。
リンス工程におけるスプレー塗布時間は50秒とし、スプレー塗布の条件は以下のとおりである。
・リンスノズル:1/4SH0465
・噴射圧:0.1MPa
・ノズル取り付け角度:10deg
・ノズル-試験片の間の距離:515mm
【0065】
次いで、乾燥工程として、試験片の上記片面(オモテ面)をドライヤーで乾燥させ、洗浄溶液を除去し、鋼帯片とした。
【0066】
得られた鋼帯片のオモテ面について、以下の手法に従って、表面のCOO結合比率およびτ値の測定、並びに腐食試験を行い、防錆性能を評価した。
COO結合比率の測定は、X線光電子分光法(XPS)により行った。COO結合比率の測定は、保護皮膜の量を定量的に評価することを目的として行うものである。使用した防錆剤の成分から、
カルボン酸量(%):COO結合比率(%)=C半定量結果(%)×C1スペクトルCOO分離結果(%)×100
として、最終的に鋼帯片のオモテ面に維持された保護皮膜の量を定量的に評価した。XPSの測定条件は以下のとおりである。結果を表2に示す。
・装置:SSX-100
・X線源:Al kα
・測定領域:600μmφ
・帯電補正:なし
・検出深さ(t):58Åt=3λsinθ
λ:電子の非弾性平均自由行程(IMFP)TTP-2MによるFeのλ(22.17Å)を用いて計算
θ:光電子の取り込み角度
【0067】
τ値の測定は、保護皮膜の防錆効果を定量的に評価することを目的として行うものである。τ値は以下のとおり測定した。すなわち、0.05mol/Lのホウ酸ソーダ溶液525mLと、0.01mol/LのHCl溶液475mLとを混合し、pH7.6の一次溶液を調製した後に、更に、0.1mol/LのHCl溶液を少量加えてpH6.4に調整して、ホウ酸ソーダ・塩酸緩衝液を得た。得られた1Lのホウ酸ソーダ・塩酸緩衝液(pH6.4、Nガス脱気)に、鋼帯片を浸漬し、オモテ面の浸漬電位を測定した。上述のとおり、τ値が大きいほど反応性が低い、つまり、防錆性能に優れることを意味する。結果を表2に示す。
【0068】
腐食試験は、防錆効果を評価するために行うものである。得られた鋼帯片のオモテ面の任意の1箇所にHCl溶液(pH2.5)を滴下した後、恒温恒湿器に静置させた。恒温恒湿器では、温度40℃、湿度35%の乾燥環境下で9時間、その後、遷移時間3時間を経て、温度20℃、湿度95%の湿潤環境に変更した。湿潤環境に変更してから5日後に鋼帯片を取り出し、オモテ面での錆による変色の発生状況を目視で評価した。評価基準は以下のとおりであり、○および△を合格とした。結果を表2に示す。
○:変色が全く確認されなかった
△:薄い黄色および/または褐色への変色が確認された
×:濃い黄色および/または褐色への変色が確認された
【0069】
【表2】
【0070】
各発明例及び比較例について、異なる3枚の試験片を用いて計3回ずつ評価を行った。表2に開示する防錆性能は、防錆性能の優劣を対比し易くするため、3枚の試験片のうち、比較例については中でも結果が良好であったもの、発明例については中でも結果が劣るものを開示した。加えて、比較例1については、発明例との更なる優劣を対比し易くするため、腐食試験に不合格(×)があったことも併記した。
表2から明らかなとおり、リンス工程で使用する洗浄溶液のpHを所定範囲内に制御した発明例では、複数枚(3枚)の試験片についていずれも良好な防錆性能(表中の○または△)を示した。また、表2には併記していないが、発明例2については、更に異なる液性のHCl溶液(pH7.2)を滴下した腐食試験においても、良好な防錆性能(○)を発揮することを確認した。
これに対し、洗浄溶液のpHが所定の上限値を上回る比較例2では、COO結合比率もτ値も低下し、とりわけτ値は著しく低下した。そして、比較例2では、明らかな変色が確認され、防錆性能が発揮できなかった(表中の×)。これは、洗浄溶液の高いpHに起因して、形成された保護皮膜が脱離してしまったことによるものと考えられる。
また、洗浄溶液のpHが所定の下限値を下回る比較例1では、複数枚(3枚)の試験片のうち、表2に示すとおりCOO結合比率およびτ値が高く、変色が確認されなかった良好な防錆性能を示した場合もあったものの、明らかな変色が確認されて防錆性能が発揮できなかった場合もあった(表中の○/×)。このように、比較例1では、高い防錆性能を安定して実現することができなかった。これは、偶発的に保護皮膜が形成されていない部分が生じた場合に、該部分にpHの低い洗浄溶液が触れてリンス工程中に試験片が溶出したことに起因したものと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明によれば、リンス工程以前に形成された保護皮膜の防錆効果をリンス工程後にも消失させず、得られる鋼帯の表面の錆および変色を確実に防止できる。
【符号の説明】
【0072】
1 ペイオフリール
2 シャー
3 ウェルダー
4 デフロール
5 ブライドルロール
6 テンションリール
7 乾燥装置(ドライヤー)
8 第二の防錆剤塗布装置(オイラー)
9 プレヒート槽
10 酸洗槽
10a 酸洗槽の第一槽
10i 酸洗槽の第i槽
10x 酸洗槽の最下流槽
11 リンス槽
11a リンス槽の第一槽
11i リンス槽の第i槽
11x リンス槽の最下流槽
12 第一の防錆剤塗布装置
13 絞りロール
14 スキンパス
15 ループセクション
16 給液ポンプ
17 pH計
18 ろ過水配管
19 ろ過水タンク
20 酸洗溶液配管
20a 酸洗溶液配管
20b 酸洗溶液配管
21 酸洗溶液タンク
22 洗浄溶液配管
23 供給口
S 熱延板・鋼帯
図1
図2
図3