(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022133932
(43)【公開日】2022-09-14
(54)【発明の名称】温度検出装置、温度センサ、温度検出方法、および温度検出プログラム
(51)【国際特許分類】
G01K 11/20 20060101AFI20220907BHJP
【FI】
G01K11/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021032894
(22)【出願日】2021-03-02
(71)【出願人】
【識別番号】301032942
【氏名又は名称】国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構
(71)【出願人】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(71)【出願人】
【識別番号】502340996
【氏名又は名称】学校法人法政大学
(74)【代理人】
【識別番号】100135781
【弁理士】
【氏名又は名称】西原 広徳
(74)【代理人】
【識別番号】100217227
【弁理士】
【氏名又は名称】野呂 亮仁
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 真一郎
(72)【発明者】
【氏名】出来 真斗
(72)【発明者】
【氏名】西村 智朗
(57)【要約】
【課題】装置の小型化および製造コストの低減を図ることができる。
【解決手段】温度検出装置1は、発光物質添加半導体23、発光物質添加半導体23の表面に設けられる一対の電極25,26、および発光物質添加半導体23内の所定位置に配置され、発光物質添加半導体23に電流が流れることによって発光し、温度によって発光スペクトルが変化する発光物質24を有するセンサ部22と、一対の電極25,26に所定の電圧を印加する電圧印加部21と、発光物質24からの光を検出する光検出部31と、発光物質24からの光に応じて発光物質24の設置位置の温度を検出する温度検出部として機能する制御部32とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
励起エネルギーを受けて発光し、かつ、当該発光が温度によって変化する発光物質を有するセンサ部と、
前記発光物質からの光を検出する光検出部と、
検出した前記光に基づいて温度を検出する温度検出部とを備え、
前記センサ部は、前記発光物質が半導体に導入された構成であり、
前記発光物質は、前記半導体に電流が注入されることによって励起されて発光する
温度検出装置。
【請求項2】
前記発光物質は、前記半導体に配置される一対の電極の間の少なくとも一部に配置されている
請求項1記載の温度検出装置。
【請求項3】
前記発光物質は、希土類元素である
請求項1または2記載の温度検出装置。
【請求項4】
励起エネルギーを受けて発光し、かつ、当該発光が温度によって変化する発光物質を有するセンサ部を備え、
前記センサ部は、前記発光物質が半導体に導入された構成であり、
前記発光物質は、前記半導体に電流が注入されることによって励起されて発光する
温度センサ。
【請求項5】
励起エネルギーを受けて発光し、かつ、当該発光が温度によって変化する発光物質を有するセンサ部を備え、前記センサ部は、前記発光物質が半導体に導入された構成であり、前記発光物質は、前記半導体に電流が注入されることによって励起されて発光する温度センサを用い、
前記発光物質からの光を検出し、
検出した前記光に基づいて温度を検出する
温度検出方法。
【請求項6】
励起エネルギーを受けて発光し、かつ、当該発光が温度によって変化する発光物質を有するセンサ部を備え、前記センサ部は、前記発光物質が半導体に導入された構成であり、前記発光物質は、前記半導体に電流が注入されることによって励起されて発光する温度センサを備える温度検出装置のコンピュータを、
前記発光物質からの光を検出する光検出部と、
検出した前記光に基づいて温度を検出する温度検出部として機能させる
温度検出プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、励起エネルギーを受けて発光する元素の光を利用して温度を測定するような温度検出装置、温度センサ、温度検出方法、および温度検出プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、マトリックスとして塩化物を含み、付活剤としてエルビウムイオンまたはツリウムイオンを含む塩化物蛍光体からなる温度センサを用いて、励起光によって温度センサを励起させ、温度センサの励起によって生じた蛍光スペクトルを検出し、検出したスペクトルから温度を演算する温度測定装置が提案されている(特許文献1参照)。
【0003】
しかしながら、上述の温度測定装置では、温度センサに励起光を照射するための光源等を備える必要があり、装置の小型化が難しく、製造コストの増大を招くという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この発明は、上述した問題に鑑み、装置の小型化および製造コストの低減を図ることができる、温度検出装置、温度センサ、温度検出方法、および温度検出プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明は、励起エネルギーを受けて発光し、かつ、当該発光が温度によって変化する発光物質を有するセンサ部と、前記発光物質からの光を検出する光検出部と、検出した前記光に基づいて温度を検出する温度検出部とを備え、前記センサ部は、前記発光物質が半導体に導入された構成であり、前記発光物質は、前記半導体に電流が注入されることによって励起されて発光する温度検出装置、温度センサ、温度検出方法、および温度検出プログラムであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
この発明により、装置の小型化および製造コストの低減を図ることができる、温度検出装置、温度センサ、温度検出方法、および温度検出プログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図3】或る発光物質の発光スペクトルを示すグラフ。
【
図4】或る発光物質における発光強度比と温度の関係を示すグラフ。
【
図10】実施例6の温度検出装置の構成を示すブロック図。
【
図11】或る発光物質の発光スペクトルを示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の一実施形態を図面と共に説明する。
【実施例0010】
図1は、温度検出装置(温度測定装置)1の構成を示すブロック図である。
図2は、実施例1の温度センサ2の構成を示す図である。
【0011】
温度検出装置1は、発光する温度センサ2と、温度センサ2からの光を受光する受光部3と、導光路4を有している。導光路4は、光ファイバ等によって構成され、温度センサ2および受光部3を接続して温度センサ2からの光を受光部3に導く。
【0012】
温度センサ2は、電圧印加部21およびセンサ部22を有する。電圧印加部21は、商用電源または電池などの電源に接続されており、センサ部22に所定の電圧(温度検出用の電圧)を印加する。この所定の電圧は、発光物質24が発光するために必要な電流(電圧)が発光物質添加半導体23に流れる(印加される)程度の電圧である。
【0013】
図2に示すように、センサ部22は、発光物質添加半導体23、発光物質添加半導体23内の所定位置に表面からドープ(導入)される発光物質24、および発光物質添加半導体23の表面の両端付近に設けられる一対の電極25,26を有する。
【0014】
発光物質添加半導体23は、電流が流れても発光しないか、または発光したとしても発光物質24の発光スペクトルにおける発光ピークを含む所定の波長帯域では発光しない材料(半導体材料)が母材となる。発光物質添加半導体23の母材としては、窒化ガリウム、ヒ化ガリウム、ヒ化アルミニウムガリウム、ヒ化インジウムガリウム、リン化インジウム、シリコンゲルマニウム、ケイ素、炭化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化アルミニウムガリウム、酸化亜鉛、窒化インジウム、窒化インジウムガリウム、窒化ホウ素、ダイヤモンドなどを用いることができる。特に、母材に導入された発光物質24の発光のしやすさの観点から、窒化ガリウム、窒化アルミニウム、または窒化アルミニウムガリウムを発光物質添加半導体23の母材として用いることが好ましい。発光物質添加半導体23の母材は、熱伝導率が0.25W/(cm·K) (300K)以上であることが好ましく、0.5W/(cm·K) (300K)以上であることがより好ましく、1.8W/(cm·K) (300K)以上であることが好適である。
【0015】
発光物質添加半導体23の厚み(発光物質24が設けられる表面から裏面までの厚み)は、電流を流すことができる範囲でできるだけ薄いことが好ましい。具体的には、発光物質添加半導体23の厚みは、500nm以下であり、50nm以下であることが好ましく、1nm~10nmであることがより好ましい。これにより、裏面側の熱を表面側の発光物質24へ速やかにかつ十分に伝達でき、裏面側の温度を適切に測定することができる。ここで発光物質添加半導体23について説明したことは、後述する発光物質添加半導体41,51,61,71も同じである。
【0016】
発光物質24は、電流を励起エネルギーとして発光し、かつ、当該発光が温度によって変化する元素により構成されている。すなわち、発光物質24の発光スペクトルは、温度によって変化する。
【0017】
本実施例では、発光物質24は、発光物質添加半導体23に電流が流れ電子・正孔対の再結合エネルギーやホットキャリアの衝突によって励起(間接励起)され、発光する。すなわち、発光物質24は、発光物質添加半導体23に電流が注入されることによって励起されて発光する。
【0018】
たとえば、発光物質24は、希土類元素であり、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウムから選択される1種以上である。ここで発光物質24について説明したことは、後述する発光物質42,52,62,72も同じである。
【0019】
実施例1では、センサ部22は、縦pn接合ダイオードとして構成される。発光物質添加半導体23は、p型領域(p型半導体)23aと、n型領域(n型半導体)23bと、p型領域23aとn型領域23bとに挟まれ、発光物質24を含有する発光物質含有領域23cとを有し、p型領域23a、発光物質含有領域23cおよびn型領域23bが、この順で積層される3層構造となっている。なお、発光物質含有領域23cは、空乏層とすることができるが、これに限らず、p型領域23aの空乏層側の所定領域からn型領域23bの空乏層側の所定領域までを発光物質含有領域23cとしてもよい。
【0020】
発光物質含有領域23cには、p型領域23aと発光物質含有領域23cとn型領域23bを層状に確認できる1つの表面から発光物質24が導入されている。すなわち、発光物質24は、発光物質添加半導体23中においてp型領域23aおよびn型領域23bの間に導入されているともいえる。また、発光物質含有領域23cは、発光物質24が導入された(発光物質24を含有する)発光物質含有半導体ということができる。
【0021】
発光物質含有半導体の作成方法(発光物質添加半導体23の発光物質含有領域23cへの発光物質24の導入方法)としては、イオン注入法または気相成長法を用いることができる。イオン注入法の場合、発光物質添加半導体23(例えば窒化ガリウム)の1つの表面近傍内部に均一に、発光元素のイオン注入を加速器を用いて行う。これにより、発光物質添加半導体23の表面近傍内側に発光物質24を所定間隔で点在させることができる。ただし、イオン注入法を用いた場合には、母材となる半導体に発光物質24をイオン注入しただけでは活性化されておらず発光しない状態であるので、発光物質24を含む母材全体を500℃~1650℃で熱処理して、発光物質24を活性化(イオン化)させておくとともに、発光物質のクエンチング(消光)を引き起こす照射欠陥を消滅させる必要がある。なお、このような熱処理による照射欠陥の消滅に関する技術の一例として、窒化ガリウムを窒素ガス雰囲気中で高温(1550℃付近)、高圧にする技術が、参考文献1(S. Porowski et al., J. Phys: Condens. Matter 14 (2002) 11097-11110)に開示されているので参照されたい。すなわち、発光物質24は、イオン化した状態で発光物質添加半導体23に導入されている。ここで発光物質含有領域23cについて説明したことは、後述する発光物質含有領域41b,51c,61も同じである。
【0022】
一対の電極25,26のそれぞれは、電圧印加部21に電気的に接続されており、一方の電極25は、p型領域23aの表面(発光物質添加半導体23の積層方向の一方端面)に設けられ、他方の電極26は、n型領域23bの表面(発光物質添加半導体23の積層方向の他方端面)に設けられる。すなわち、発光物質24は、発光物質添加半導体23に配置される一対の電極25,26の間の少なくとも一部に配置されているともいえる。
【0023】
電圧印加部21によって一対の電極25,26に電圧(順方向バイアス)が印加されると、発光物質添加半導体23内に電流が流れる(発光物質添加半導体23に電流が注入される)。このとき、発光物質添加半導体23における電子・正孔対の再結合エネルギーやホットキャリアの衝突によって発光物質24が励起され、発光する。
【0024】
図3は3価のプラセオジムの発光スペクトルであって、22.5℃での発光スペクトルと、50.7℃での発光スペクトルとを示すグラフである。
図4は3価のプラセオジムにおける発光強度比と温度の関係を示すグラフである。
【0025】
発光物質24には、発光スペクトルにおいて発光強度が高くなる波長帯域(発光ピーク)が2つ存在するものがある。たとえば、発光ピークが2つ存在するものとしては、3価のプラセオジムなどがある。
図3は窒化ガリウム半導体にプラセオジムをイオン注入し、熱処理を行ったときの室温での発光スペクトルである。共鳴励起波長のレーザー光を照射したときの発光スペクトルをイメージングスペクトロメータで取得した。に示すように、3価のプラセオジムの発光スペクトルでは、650nm付近に第1の発光ピーク(第1のピーク)が存在し、652nm付近に第2の発光ピーク(第2のピーク)が存在する。本実施例では、649nm以上651nm未満の波長帯域(第1の波長帯域)を第1のピークとし、651nm以上653nm未満の波長帯域(第2の波長帯域)を第2のピークとした。
【0026】
第1のピークおよび第2のピークのいずれも、温度が低い(22.5℃)場合の方が、温度が高い(50.7℃)場合よりも発光強度が高くなる。ただし、第1のピークと第2のピークとでは、温度変化による発光強度の変化量(変化率)に差がある。すなわち、
図4に示すように、第1のピークにおける発光強度(第1の発光強度)と、第2のピークにおける発光強度(第2の発光強度)との比(発光強度比)は、温度に応じて変化する。
【0027】
プラセオジムを例に挙げると、
図4に示すように、低温になるにつれて発光強度比が小さくなり、高温になるにつれて発光強度比が大きくなる。本実施例では、発光物質24がプラセオジムである場合を例に挙げて説明したが、発光物質の発光スペクトルが温度によって変化すること、より具体的には、温度に応じて2つのピークの発光強度比が変化すること、および、低温になるにつれて発光強度比が小さくなり、高温になるにつれて発光強度比が大きくなることは、他の希土類元素においても同じである。
【0028】
たとえば、図示は省略するが、ネオジムの発光スペクトルでは、865nm付近に第1のピークが存在し、885nm付近に第2のピークが存在する。また、エルビウムの発光スペクトルでは、525nm付近に第1のピークが存在し、550nm付近に第2のピークが存在する。さらに、ネオジムとイッテルビウムを共添加した場合には、950nm付近に第1のピークが存在し、1050nm付近に第2のピークが存在する。なお、ここで例示しない他の希土類元素についても、実験等により予め発光スペクトルを取得しておき、第1のピークと第2のピークを設定することによって、2つのピークの発光強度比と温度との関係を明らかにすることができると考えられる。
【0029】
図1に戻って、受光部3は、光検出部31および制御部32を有する。光検出部31は、センサ部22からの光(発光物質24から発せられた光)を検出するためのものであり、分光部33、第1光検出器34、および第2光検出器35を有する。分光部33は、センサ部22(発光物質24)からの光を、第1のピークに相当する第1の波長帯域の光と、第2のピークに相当する第2の波長帯域の光とに分光するためのものである。分光部33の構成は特に限定されず、ビームスプリッタまたはダイクロイックミラー等を用いてもよいし、ミラー等の光学素子とエタロンフィルタ、バンドパスフィルタとの組み合わせによって構成してもよい。分光部33によって分光された光のうち、第1の波長帯域の光は第1光検出器34に入射され、第2の波長帯域の光は第2光検出器35に入射される。
【0030】
第1光検出器34および第2光検出器35は、入射された光の強度に応じた信号を制御部32に出力する。第1光検出器34および第2光検出器35の構成は特に限定されず、フォトダイオード等を用いることができる。また、第1光検出器34および第2光検出器35を単一光子の検出が可能な単一光子検出器で構成してもよい。
【0031】
制御部32は、CPU(中央演算処理装置)と各種データを記憶する記憶部(メモリ)とを有している。この制御部32は、少なくとも温度検出処理を実行する。すなわち、制御部32は、光検出部31から出力される信号に基づいてセンサ部22の発光物質24からの光を検出し、検出した光に基づいて温度を検出(測定)する温度検出部として機能する。なお、制御部32は、温度検出装置1の主制御部として機能してもよく、この場合、制御部32は、電圧印加部21等の温度検出装置1の各部位に制御信号を送信し、温度検出装置1に種々の動作を実行させる。
【0032】
以上のように構成された温度検出装置1は、発光物質24の2つのピークの発光強度比と温度との関係を利用して、発光物質24の設置位置の温度を検出する温度検出処理を実行する。温度検出処理の実行にあたり、使用する発光物質24の2つのピークの発光強度比と温度との関係に基づいた温度の検出条件が予め作成されており、この温度の検出条件のデータが制御部32の記憶部に記憶されている。たとえば、さまざまな温度における2つのピークの発光強度比を実験等によって取得しておき、実験結果に基づいた発光強度比と温度の関係を示す近似式または発光強度比を温度に変換するためのテーブルデータなどを温度の検出条件として作成して制御部32の記憶部に記憶しておく。
【0033】
図5は、制御部32で実行される温度検出処理を示すフローチャートである。まず、電圧印加部21を制御して、センサ部22(電極25,26)に温度検出用の電圧を印加する(ステップS1)。センサ部22に温度検出用の電圧が印加されることによって、発光物質24が発光し、発光物質24の光が導光路4を通って光検出部31に入射される。このときの発光物質24からの光の発光スペクトルは、発光物質24の現在温度での発光スペクトルとなる。本実施例では、光検出部31に入射された光は、分光部33によって、第1光検出器34に入射される第1の波長帯域の光と、第2光検出器35に入射される第2の波長帯域の光とに分光される。
【0034】
そして、第1光検出器34からは、第1の波長帯域の光の強度である第1の発光強度に応じた信号が出力され、制御部32は、この信号に応じて第1の発光強度を検出(取得)する(ステップS2)。また、第2光検出器35からは、第2の波長帯域の光の強度である第2の発光強度に応じた信号が出力され、制御部32は、この信号に応じて第2の発光強度を取得する(ステップS3)。
【0035】
続いて、第1の発光強度と第2の発光強度との発光強度比を算出し(ステップS4)、温度の検出条件に従って、発光強度比から発光物質24の設置位置の温度を検出する(ステップS5)。
【0036】
このようにして、本実施例では、少なくとも、発光物質24に励起光を照射するための光照射部を設けなくても、発光物質24を発光させて発光物質24の設置位置の温度を検出することができる。したがって、装置の小型化を図ることができるし、さらに、製造コストの低減を図ることもできる。
【0037】
また、従来技術として、炭化ケイ素中のシリコン空孔を磁気センサ等の量子センサとして用いる技術がある。このような従来技術では、適用できる材料が炭化ケイ素のみであり、他の材料には適用できなかった。これに対し、本実施例では、上記の従来技術に比べ、センサ部22を構成する材料的な制限が少ないという利点がある。
【0038】
また、本実施例では、使用する発光物質の発光スペクトルにおける2つのピークの発光強度比に応じて温度を検出するので、簡便かつ正確に発光物質の設置位置の温度を検出することができる。
【0039】
さらに、本実施例では、使用する発光物質の2つのピークの発光強度比と温度との関係を示す温度の検出条件を予め作成しておき、この温度の検出条件に従って温度を検出するので、温度の検出方法を単純化して制御部32の負荷を低減し、ひいては制御部32の単純化および小型化を図ることができる。
【0040】
また、発光物質24の現在温度での発光スペクトルによる温度測定を行うため、発光物質24を含むセンサ部22が配置されている部位の周辺温度を測定する、あるいは、センサ部22の発光物質添加半導体23の裏面が当接している対象物の温度を測定するといったことができる。たとえば、センサ部22の発光物質添加半導体23の裏面が設置された対象物の温度は、当接して設置されている発光物質添加半導体23から発光物質24へと熱伝達する。このため、発光物質添加半導体23が当接している対象物の温度を発光物質24の発光から測定することができる。
【0041】
また、発光物質24の発光から温度を測定する構成であるため、電子ビーム描画を使ってイオン注入マスクを形成し、所定領域(例えば100nm×100nm)に所定個数(例えば1×104個のプラセオジム)の発光元素のイオン注入を行い、発光物質含有領域23cのうち、発光物質24が存在し、かつ、電流が流れる領域が、発光する領域(発光領域)となる。このため、発光物質24の存在する局所部位の温度測定を行うことができる。したがって、発光物質添加半導体23の1か所に発光物質24を設けた場合は、その1か所における温度を測定することができ、発光物質添加半導体23の複数個所に発光物質24を設けた場合は、そのそれぞれの発光物質24(発光元素群)の光を検知することでそれぞれの位置における温度を個別に測定することができる。
【0042】
さらに、発光物質24の発光スペクトルに基づいて温度測定を行うため、温度測定対象にセンサ部22を当接させておけば、温度測定するタイミングで他のものを接触させる必要がないため、温度測定時においてセンサ部22以外の物体の接触による温度変化を防止して温度測定することができる。
【0043】
なお、発光物質添加半導体23の種類と発光物質24の種類との組み合わせについて、好ましくは、発光物質添加半導体23の母材を窒化ガリウムとし、発光物質24をプラセオジム、特に3価のプラセオジムとすることができる。この組み合わせであれば、プラセオジムが発光しやすいので、受光部3で光を検出しやすいという利点がある。すなわち、温度を検出しやすいという利点がある。また、発光物質添加半導体23の母材を窒化ガリウムとすることによって、電子デバイス、特に半導体デバイスへの組み込み性が高くなるし、さらに、窒化ガリウムを含む電子デバイス上に発光物質24を導入してセンサ部22または温度センサ2を構成することもできるようになる。このようにすれば、電子デバイス上の任意の位置の温度を局所的に検出したり、電子デバイス上の複数の位置の温度を検出し、当該電子デバイスにおける温度分布を検出したりすることもできる。
ショットキー電極43は、発光物質含有領域41bの表面であって、基板領域41aとの接合面の反対側の面(発光物質添加半導体23の積層方向の一方端面)に設けられ、電極44は、基板領域41aの表面であって、発光物質含有領域41bとの接合面の反対側の面(発光物質添加半導体23の積層方向の他方端面)に設けられる。
温度検出処理の内容、その他の構成および動作については、実施例1と同一であるため、同一要素に同一符号を付してその詳細な説明を省略する。この実施例2においても、実施例1と同一の作用効果を奏することができる。