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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022133950
(43)【公開日】2022-09-14
(54)【発明の名称】電磁式燃料噴射弁
(51)【国際特許分類】
   F02M 51/06 20060101AFI20220907BHJP
   F02M 51/02 20060101ALI20220907BHJP
   F16K 31/06 20060101ALI20220907BHJP
【FI】
F02M51/06 A
F02M51/02 F
F16K31/06 385A
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021032918
(22)【出願日】2021-03-02
(71)【出願人】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002192
【氏名又は名称】特許業務法人落合特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川原 光智
【テーマコード(参考)】
3G066
3H106
【Fターム(参考)】
3G066AA02
3G066AA07
3G066AB02
3G066BA49
3G066CC14
3G066CC15
3G066CE24
3H106DA07
3H106DA13
3H106DA23
3H106DC04
3H106DC17
3H106DD03
3H106EE30
3H106GB06
3H106KK18
(57)【要約】
【課題】コイルの通電の都度,固定コアの吸引面上の環状突起に対して,可動コアの被吸引面のテーパ面の係合位置を変化させるようにして,それらの係合部の偏摩耗を防ぐ。
【解決手段】可動コア41の被吸引面41aに,テーパ面61を可動コア41の周方向に沿って複数に分割する複数の凹部62が設けられ,この凹部62の底面が可動コア41の周方向に沿って一定方向に傾斜した螺旋面62aに形成される。コイル32の通電に伴う固定コア14の可動コア41に対する吸引時に両コア14,41間で圧縮される燃料の圧力が螺旋面62aに作用することで,可動コア41に回転を生じさせる。
【選択図】 図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端部に弁座(27)を有する弁ハウジング(9)と,該弁ハウジング(9)の他端に連設される中空の固定コア(14)と,該固定コア(14)の外周に配設されるコイル(32)と,前記弁座(27)と協働する弁部(42)にロッド(43)が連設されて成る弁体(40)と,前記弁ハウジング(9)内で前記固定コア(14)の吸引面(14a)に被吸引面(41a)を対向させながら前記ロッド(43)の外周に嵌装される可動コア(41)と,前記ロッド(43)に固定され,前記コイル(32)の通電による前記固定コア(14)の前記可動コアに対する吸引時に該可動コア(41)に押動されて前記弁体40を開弁作動させる開弁側ストッパ(48)と,該開弁側ストッパ(48)よりも前記弁座(27)側で前記ロッド(43)に固定される閉弁側ストッパ(49)と,前記弁体(40)を閉弁方向に付勢する弁ばね(54)と,前記コイル(32)の非通電時に前記可動コア(41)を前記開弁側ストッパ(48)から離反させて前記閉弁側ストッパ(49)に当接させるようにばね力を発揮する補助ばね(55)とを備え,前記固定コア(14)の吸引面(14a)には該固定コア(14)と同心の環状突起(60)が形成される一方,前記可動コア(41)の被吸引面(41a)には,該可動コア(41)の半径方向外方に向かって下るように傾斜し且つ該可動コア(41)と同心であって,前記固定コア(14)の前記可動コア(41)に対する吸引時に前記環状突起(60)に当接するテーパ面(61)が形成される電磁式燃料噴射弁において,
前記被吸引面(41a)には,前記テーパ面(61)を前記可動コア(41)の周方向に沿って複数に分割する複数の凹部(62)が設けられると共に,該凹部(62)の底面が前記可動コア(41)の周方向に沿って一定方向に傾斜した螺旋面(62a)に形成されることを特徴とする電磁式燃料噴射弁。
【請求項2】
請求項1に記載の電磁式燃料噴射弁において,
前記複数の凹部(62)は,前記可動コア(41)の周方向に沿って等間隔に配列される3つの凹部(62)であることを特徴とする電磁式燃料噴射弁。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の電磁式燃料噴射弁において,
前記可動コア(41)の被吸引面(41a)には,前記テーパ面(61)に囲繞されて前記開弁側ストッパ(48)に当接可能な平坦面(63)が設けられ,該平坦面(63)及び前記テーパ面(61)が前記可動コア(41)よりも硬質のメッキ層(64)で被覆されること特徴とする電磁式燃料噴射弁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,主として内燃機関の燃料供給系に使用される電磁式燃料噴射弁に関し,特に,一端部に弁座を有する弁ハウジングと,該弁ハウジングの他端に連設される中空の固定コアと,該固定コアの外周に配設されるコイルと,前記弁座と協働する弁部にロッドが連設されて成る弁体と,前記弁ハウジング内で前記固定コアの吸引面に被吸引面を対向させながら前記ロッドの外周に嵌装される可動コアと,前記ロッドに固定され,前記コイルの通電による前記固定コアの前記可動コアに対する吸引時に該可動コアに押動されて前記弁体を開弁作動させる開弁側ストッパと,該開弁側ストッパよりも前記弁座側で前記ロッドに固定される閉弁側ストッパと,前記弁体を閉弁方向に付勢する弁ばねと,前記コイルの非通電時に前記可動コアを前記開弁側ストッパから離反させて前記閉弁側ストッパに当接させるようにばね力を発揮する補助ばねとを備え,前記固定コアの吸引面には該固定コアと同心の環状突起が形成される一方,前記可動コアの被吸引面には,該可動コアの半径方向外方に向かって下るように傾斜し且つ該可動コアと同心であって,前記固定コアの前記可動コアに対する吸引時に前記環状突起に係合するテーパ面が形成される電磁式燃料噴射弁の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
かゝる電磁式燃料噴射弁は,下記特許文献1に開示されるように既に知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6788085号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
かゝる電磁式燃料噴射弁においては,コイルの通電時,固定コアの吸引面における環状突起と可動コアの被吸引面におけるテーパ面との係合により,可動コアに調心作用が働き,これにより可動コアの暴れ(揺動や横振れ等)を直ちに抑えると共に,可動コアを固定コアとの同軸位置に保持し,弁体の開弁応答性を良好にする。また,前記環状突起およびテーパ面の係合は,両コアの当接面積を小さくさせるので,コイルの通電遮断時には,両コア間の残留磁気を低減すると共に,コア同士の燃料による張りつきを防ぎ,これにより可動コアを直ちに固定コアから離反させて閉弁応答性をも良好にする等の利点がある。
【0005】
ところで,かゝる電磁式燃料噴射弁において,コイルの通電に伴う前記環状突起および前記テーパ面の係合時,両者の係合位置が常に一定であると,両者の係合部に局部的な摩耗,すなわち偏摩耗を生じる可能性がある。
【0006】
本発明は,かゝる事情に鑑みてなされたもので,コイルの通電の都度,前記環状突起に対する前記テーパ面の係合位置が変化するようにして,両者の係合部の偏摩耗を防ぎ,よって耐久性の高い前記電磁式燃料噴射弁を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために,本発明は,一端部に弁座を有する弁ハウジングと,該弁ハウジングの他端に連設される中空の固定コアと,該固定コアの外周に配設されるコイルと,前記弁座と協働する弁部にロッドが連設されて成る弁体と,前記弁ハウジング内で前記固定コアの吸引面に被吸引面を対向させながら前記ロッドの外周に嵌装される可動コアと,前記ロッドに固定され,前記コイルの通電による前記固定コアの前記可動コアに対する吸引時に該可動コアに押動されて前記弁体を開弁作動させる開弁側ストッパと,該開弁側ストッパよりも前記弁座側で前記ロッドに固定される閉弁側ストッパと,前記弁体を閉弁方向に付勢する弁ばねと,前記コイルの非通電時に前記可動コアを前記開弁側ストッパから離反させて前記閉弁側ストッパに当接させるようにばね力を発揮する補助ばねとを備え,前記固定コアの吸引面には該固定コアと同心の環状突起が形成される一方,前記可動コアの被吸引面には,該可動コアの半径方向外方に向かって下るように傾斜し且つ該可動コアと同心であって,前記固定コアの前記可動コアに対する吸引時に前記環状突起に係合するテーパ面が形成される電磁式燃料噴射弁において,前記被吸引面には,前記テーパ面を前記可動コアの周方向に沿って複数に分割する複数の凹部が設けられると共に,該凹部の底面が前記可動コアの周方向に沿って一定方向に傾斜した螺旋面に形成されることを第1の特徴とする。尚,前記環状突起は,後述する本発明の実施形態における環状リブ60に対応する。
【0008】
また本発明は,第1の特徴に加えて,前記複数の凹部は,前記可動コアの周方向に沿って等間隔に配列される3つの凹部であることを第2の特徴とする。
【0009】
さらに,本発明は,第1又は第2の特徴に加えて,前記可動コアの被吸引面には,前記テーパ面に囲繞されて前記開弁側ストッパに当接可能な平坦面が設けられ,該平坦面及び前記テーパ面が前記可動コアよりも硬質のメッキ層で被覆されることを第3の特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の第1の特徴によれば,コイルの通電時,固定コアの可動コアに対する吸引により,吸引面および被吸引面間に介在する燃料が急激に圧縮されると,被吸引面の凹部内の燃料圧力が瞬間的に上昇して,該凹部の底面である螺旋面を押圧することで,可動コアは回転モーメントを受けて回転を生じる。そして被吸引面のテーパ面が吸引面の環状突起に係合すると,吸引面および被吸引面間での燃料の圧縮は終了するので,上記回転モーメントはなくなり,可動コアの回転は直ちに停止する。その結果,前記環状突起上では前記テーパ面の係合位置がコイルの通電の都度,すなわち弁体の開弁の都度,変化して,前記環状突起およびテーパ面の係合部の偏摩耗を防ぐことができる。しかも,環状突起およびテーパ面の係合中は,可動コアに対する前記回転モーメントは発生しないので,環状突起およびテーパ面間での回転摩擦を回避して,それらの耐摩耗性を高めることができ,電磁式燃料噴射弁の耐久性向上に寄与し得る。また前記テーパ面が前記凹部により複数に分割されることで,両コアの当接面積は,より小さくなり,その結果,コイルの通電遮断時には,固定コアおよび可動コア間の残留磁気を,より低減すると共に,コア同士の燃料による張りつきを防ぐことができ,これにより可動コアを固定コアから直ちに離反させることができ,閉弁応答性を一層良好にする。
【0011】
また,本発明の第2の特徴によれば,前記複数の凹部は,可動コアの周方向に沿って等間隔に配列される3つの凹部であるので,コイルの通電時,3つの前記凹部の螺旋面に働く前記回転モーメントも等間隔を置いて可動コアに作用することになり,可動コアを傾けることなくスムーズに回転させることができる。しかも,テーパ面は,コイルの通電時には環状突起に安定した3点支持状態で係合することになり,環状突起から安定した調心作用を受けることができる。
【0012】
さらに,本発明の第3の特徴によれば,可動コアの被吸引面には,前記テーパ面に囲繞されて開弁側ストッパに当接可能な平坦面が設けられ,該平坦面及び前記テーパ面が可動コアよりも硬質のメッキ層で被覆されるので,可動コアの,開弁ストッパ及び環状突起との各当接による摩耗を極力防ぎ,燃料噴射弁の耐久性のさらなる向上に寄与し得る。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明に係る内燃機関用電磁式燃料噴射弁の実施形態を示す縦断面図
図2】上記燃料噴射弁の閉弁状態を示す,図1の2矢視部拡大断面図
図3】上記燃料噴射弁の開弁状態を示す,図2との対応図
図4】上記燃料噴射弁の可動コアの斜視図
図5図4の5矢視部拡大断面図
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施形態について添付の図1図5を参照しながら説明する。
【0015】
先ず図1および図2において,内燃機関Eのシリンダヘッド5には,燃焼室6に開口する装着孔7が設けられており,燃焼室6に向かって燃料を噴射し得る電磁式燃料噴射弁8が上記装着孔7に装着される。
【0016】
電磁式燃料噴射弁8の弁ハウジング9は,中空円筒状のハウジングボディ10と,このハウジングボディ10の一端部内周に嵌合して溶接される弁座部材11と,ハウジングボディ10の他端部外周に一端部を嵌合させてハウジングボディ10に溶接される磁性円筒体12と,磁性円筒体12の他端部に一端部が同軸に結合される非磁性円筒体13とで構成される。非磁性円筒体13の他端部には,中空部15を有する固定コア14の一端部が同軸に結合され,この固定コア14の他端部に,前記中空部15に通じる燃料供給筒16が一体にかつ同軸に連設される。
【0017】
磁性円筒体12は,その軸方向中間部にフランジ状のヨーク部12aを一体に有しており,装着孔7の外端を囲繞するようにしてシリンダヘッド5に設けられる環状凹部17に収容されるクッション材18が,シリンダヘッド5およびヨーク部12a間に介装されている。
【0018】
燃料供給筒16の他端部に設けられる燃料入口には燃料フィルタ19が装着され,燃料分配管20に設けられる燃料供給キャップ21に燃料供給筒16が環状のシール部材22を介して嵌合される。燃料供給キャップ21の頂部にはブラケット23が係止され,このブラケット23は,シリンダヘッド5に立設した不図示の支柱に適当な固定手段(例えばボルト)を以てシリンダヘッド5に着脱可能に締結される。
【0019】
燃料供給キャップ21と,燃料供給筒16の中間部に設けられて燃料供給キャップ21側に臨む環状段部25との間には,板ばねから成る弾性部材26が介装される。そして,この弾性部材26が発揮する弾発力で燃料供給筒16すなわち電磁式燃料噴射弁8が,シリンダヘッド5および弾性部材26間に挟持される。
【0020】
弁座部材11は,端壁部11aを一端部に有して有底円筒状に形成されており,前記端壁部11aには,円錐状の弁座27が形成されると共に,その弁座27の中心近傍に開口する複数の燃料噴孔28が設けられる。この弁座部材11は,燃料噴孔28を燃焼室6に向けて開口するようにしてハウジングボディ10の一端部に嵌合,溶接される。すなわち弁ハウジング9が,その一端部に弁座27を有するように構成される。
【0021】
磁性円筒体12の他端部から固定コア14に至る外周面にはコイル組立体30が嵌装される。このコイル組立体30は,上記外周面に嵌合するボビン31と,このボビン31に巻装されるコイル32とから成り,このコイル組立体30を囲繞する磁性体のコイルハウジング33の一端部が磁性円筒体12と結合される。
【0022】
固定コア14の他端部外周は,コイルハウジング33の他端部に連なってモールド成形される合成樹脂製の被覆層34で被覆されており,この被覆層34には,コイル32に連なる端子35を保持するカプラ34aが電磁式燃料噴射弁8の一側方に突出するようにして一体に形成される。
【0023】
図3を併せて参照して,固定コア14の一端部外周には環状凹部36が形成されており,この環状凹部36に,固定コア14に外周面を連ならせるようにして非磁性円筒体13の他端部が嵌合され,液密に溶接される。
【0024】
固定コア14の一端部内周面には,その一端の吸引面14aに開口する嵌合凹部38が形成され,この嵌合凹部38に,円筒状のガイドブッシュ39が,その一端部を固定コア14の吸引面14aと面一もしくは略面一として圧入により固着され,このガイドブッシュ39の内周面は固定コア14の内周面に連続する。
【0025】
弁座部材11から非磁性円筒体13に至る弁ハウジング9内には,弁体40の一部と,可動コア41とが収容される。弁体40は,弁座27と協働して燃料噴孔28を開閉する弁部42に,ガイドブッシュ39内まで延びるロッド43が連設されて成る。そして,弁部42は,弁座部材11内で摺動するように,球状に形成され,ロッド43は弁部42よりも小径に形成される。弁座部材11およびロッド43間には環状の燃料流路44が画成され,弁部42の外周面には,弁座部材11との間に燃料流路を画成する複数の平面部45が形成される。したがって弁座部材11は,弁体40の開閉動作を案内しながら燃料の通過を許容する。
【0026】
ロッド43には,固定コア14の吸引面14aに対置される可動コア41が摺動および回転可能に嵌装される。この可動コア41のロッド43上での摺動ストロークを一定に規制するために,可動コア41を挟むように並ぶ開弁側ストッパ48および閉弁側ストッパ49がロッド43に固定される。その際,開弁側ストッパ48は,可動コア41の,固定コア14に対向する被吸引面41aに当接可能に対向し,閉弁側ストッパ49は,可動コア41の,被吸引面41aと反対側の端面に当接可能に対向するように配置される。
【0027】
而して,弁体40の閉弁状態では(図2参照),可動コア41は,閉弁側ストッパ49に当接していて,開弁側ストッパ48との間に前記摺動ストロークに対応する間隔を置いて対向し,この間隔は,閉弁側ストッパ49に当接状態の可動コア41と固定コア14との間に設けられる間隔よりも小さく設定される。したがって,コイル32の通電に伴い固定コア14が可動コア41を吸引したときは,可動コア41は,先ず開弁側ストッパ48に当接し,次いで固定コア14に吸着されるタイミングとなる。
【0028】
開弁側ストッパ48は,ガイドブッシュ39の内周面に摺動自在に嵌合するフランジ部48aと,このフランジ部48aから可動コア41側に突出する円筒状の軸部48bとで構成される。そして,フランジ部48aの内周部が溶接によりロッド43に固着され,弁体40の閉弁位置では軸部48bの一部が吸引面14a及びガイドブッシュ39の一端面よりも可動コア41側に突出するように配置される。
【0029】
一方,閉弁側ストッパ49の外周には環状溝51が形成されており,その環状溝51の溝底壁がロッド43に溶接により固着されることで,閉弁側ストッパ49はロッド43と一体化される。
【0030】
ガイドブッシュ39および開弁側ストッパ48は,固定コア14より硬度が高い非磁性又は弱磁性材料,たとえばマルテンサイト系のステンレス鋼で構成され,ほぼ同等の硬度を有する。
【0031】
再び図2において,固定コア14の中空部15にはパイプ状のリテーナ53が嵌挿されてかしめ固定される。このリテーナ53と,開弁側ストッパ48のフランジ部48aとの間には弁体40を弁座27への着座方向,すなわち閉弁方向へ付勢する弁ばね54が縮設される。
【0032】
また開弁側ストッパ48のフランジ部48aと可動コア41との間には,開弁側ストッパ48の軸部48bを囲繞する補助ばね55が縮設される。この補助ばね55は,弁ばね54のセット荷重よりも小さいセット荷重を有しており,可動コア41を開弁側ストッパ48から離反させて閉弁側ストッパ49に当接させる側に付勢するばね力を発揮する。
【0033】
ロッド43の他端部は,開弁側ストッパ48のフランジ部48aよりも突出し,弁ばね54の可動端部の内周面に嵌合して,その位置決めの役割を果たしている。また開弁側ストッパ48の軸部48bは,補助ばね55の内周面に嵌合して,その位置決めの役割を果たしている。
【0034】
可動コア41の外周面と,磁性円筒体12および非磁性円筒体13の内周面との間には,環状の間隙56が確保される。開弁側ストッパ48のフランジ部48aの外周の複数箇所には,ガイドブッシュ39の内周面との間に燃料流路を画成する平面部57が設けられ,また可動コア41には,環状配列の複数の燃料通孔58が設けられる。
【0035】
次に,図2図4において,固定コア14の吸引面14aには,横断面円弧状で固定コア14と同心の環状リブ60が形成される。この環状リブ60は,図示例では横断面が半円状となっている。
【0036】
一方,固定コア14の吸引面14aに対向する可動コア41の被吸引面41aの一部は,この可動コア41の半径方向外方に向かって下るように傾斜し且つ可動コア41と同心のテーパ面61に形成され,このテーパ面61は前記環状リブ60に係合可能になっている。また可動コア41の被吸引面41aには,上記テーパ面61を可動コア41の周方向に沿って複数に分割する複数の凹部62が形成される。図示例では,3つの凹部62が,可動コア41の周方向に沿って等間隔に配列される。
【0037】
上記各凹部62は,周囲を閉じられる(すなわち被吸引面41a側の上面のみを開放している。)と共に,可動コア41の周方向に延びる横断面扇形を呈している。そして,各凹部62の底面は,可動コア41の周方向に沿って一定方向に傾斜した螺旋面62aに形成される。
【0038】
また図4および図5に示すように,可動コア41の被吸引面41aには,前記テーパ面61に囲繞される平坦面63が設けられ,この平坦面63において,前記開弁側ストッパ48との環状の当接領域63aの外側で,前記複数の環状配列の燃料通孔58が可動コア41に穿設される。そして,前記当接領域63aおよびテーパ面61に可動コア41よりも硬質のメッキ層(例えばニッケル・クロームメッキ層)64が形成される。
【0039】
次に,この実施形態の作用について説明する。
【0040】
電磁式燃料噴射弁8において,コイル32の非通電状態では,弁体40は,弁ばね54のセット荷重によって押されることで,弁座27に着座して燃料噴孔28を閉鎖する。すなわち閉弁状態にあり,図2に示すように,可動コア41は,補助ばね55のセット荷重によって閉弁側ストッパ49との当接状態に保持され,固定コア14との間に所定の間隔を保っている。
【0041】
このような閉弁状態でコイル32に通電すると,固定コア14および可動コア41間に生じる磁力により,可動コア41は,固定コア14に吸引されるので,先ず,補助ばね55を圧縮しながら,ロッド43上を上方へ摺動して開弁側ストッパ48に当接する。すなわち可動コア41は,その初動時,弁ばね54よりセット荷重が小さい補助ばね55を圧縮しながら摺動するので,固定コア14から吸引力を受けると速やかに上方へ移動し,加速しながら開弁側ストッパ48に当接する。
【0042】
次に,可動コア41は,開弁側ストッパ48を伴いながら,弁ばね54のセット荷重に抗して速やかに更に上方へ移動して可動コア41の吸引面14aに吸着される。
【0043】
こうして可動コア41と共に上方へ移動する開弁側ストッパ48は,弁体40のロッド43に固定されているので,弁部42を弁座27から離座させ,開弁状態とすることができる。弁体40が開弁すると,図示しない燃料ポンプから燃料供給筒16に圧送された燃料が,パイプ状のリテーナ53の内部,固定コア14の中空部15,開弁側ストッパ48周りの燃料流路,可動コア41の複数の燃料通孔58,弁ハウジング9の内部,弁部42周りの燃料流路を順次経て燃料噴孔28から内燃機関Eの燃焼室6に直接噴射される。
【0044】
ところで,図4に明示するように,固定コア14の可動コア41に対する吸着時には,その吸引力により,吸引面14a上の環状リブ60に被吸引面41a上のテーパ面61が強く押しつけられて係合する。その際,環状リブ60は固定コア14と,テーパ面61は可動コア41と,それぞれ同心であることから,環状リブ60およびテーパ面61間に生じる調心作用により,固定コア14から可動コア41に調心力が働き,可動コア41を固定コア14との同軸位置に即座に保持する。したがって,可動コア41が,それとロッド43間の摺動間隙に起因して暴れることがあっても,その暴れを直ちに抑えることができ,これにより弁体40の開弁応答性を高めると共に,弁体40を傾きのない適正な開弁姿勢に保持することができる。
【0045】
また,テーパ面61が,可動コア41の周方向に並ぶ3つの凹部62によって3つに分割される場合には,テーパ面61は,安定した3点支持状態で環状リブ60と係合するので,環状リブ60およびテーパ面61間の調心作用を,より安定させることができる。
【0046】
さらに,複数の凹部62の各底面は,可動コア41の周方向に沿って一定方向に傾斜した螺旋面62aに形成されるので,コイル32の通電に伴う固定コア14の可動コア41に対する吸引時には,吸引面14aおよび被吸引面41a間に介在する燃料が急激に圧縮されることで,各凹部62内の燃料圧力が瞬間的に上昇して螺旋面62aを押圧し,その押圧力における可動コア41の回転方向分力が可動コア41に回転モーメントを与えるため,可動コア41に少なくとも小角度の回転が生じる。そしてテーパ面61が環状リブ60に係合するや否や,吸引面14aおよび被吸引面41a間での燃料の圧縮は終了するので,可動コア41の回転は直ちに停止する。その結果,前記環状リブ60上ではテーパ面61の係合位置がコイル32の通電の都度,すなわち弁体40の開弁の都度,変化して,前記環状リブ60およびテーパ面61の係合部の偏摩耗を防ぐことができる。しかも,環状リブ60およびテーパ面61の係合中は,両者60,61間で回転摩擦を生じることもないので,それらの耐摩耗性を高めることができ,電磁式燃料噴射弁の耐久性向上に寄与し得る。
【0047】
ところで,可動コア41は,ロッド43に対して回転自在であることで,その慣性質量が比較的小さいので,前記回転モーメントにより可動コア41の回転を容易に生じさせることができる。しかも,複数の凹部62は固定コア41の周方向に沿って等間隔に並ぶので,これら凹部62の螺旋面62aを介して働く前記回転モーメントも等間隔を置いて可動コア41に作用することになり,可動コア41を傾けることなくスムーズに回転させることができる。
【0048】
また,可動コア41の被吸引面41aには,前記テーパ面61に囲繞されて開弁側ストッパ48に当接可能な平坦面63が設けられ,この平坦面63及びテーパ面61に可動コア41よりも硬質のメッキ層64が形成され,平坦面63及びテーパ面61が高硬度を有することになり,可動コア41の,開弁側ストッパ48及び環状リブ60との当接による摩耗を極力防ぐことができ,電磁式燃料噴射弁8のさらなる耐久性向上に寄与し得る。
【0049】
可動コア41が可動コア41を吸引して環状突起60にテーパ面61が衝撃的に係合したときには,弁部42およびロッド43から成る弁体40は,その慣性によりオーバーシュートすることがあるが,その場合,弁体40と一体化された閉弁側ストッパ49が可動コア41に衝突することで,オーバーシュートは停止する。その間に,弁体40のオーバーシュート分だけ開弁側ストッパ48が可動コア41から離れながら,弁ばね54の圧縮変形を増加させることになるので,この弁ばね54の反発力によっても弁体40のオーバーシュートは抑えられる。
【0050】
オーバーシュートが停止すると,弁ばね54の反発力により,開弁側ストッパ48が,固定コア14に吸着された可動コア41に当接する位置まで戻ることで,弁体40は所定の開弁位置に保持される。その際,補助ばね55のセット荷重は,弁体40を閉弁方向に付勢する弁ばね54のセット荷重より小さく設定されているので,補助ばね55は,コイル32の通電時,固定コア14の可動コア41に対する吸引と,弁ばね54による開弁側ストッパ48の可動コア41に対する当接には干渉せず,弁体40の所定位置への開弁を阻害しない。
【0051】
このように,弁体40の開弁過程において,可動コア41が固定コア14に与える衝撃力は,可動コア41のみが固定コア14に最初に当接したときの衝撃力と,その後で閉弁側ストッパ49が可動コア41に当接したときの衝撃力とに分けられるので,それぞれの衝突エネルギは比較的小さくなり,可動コア41および可動コア41相互の当接部,すなわちテーパ面61および環状リブ60の摩耗を防ぐと共に,衝突騒音を小さく抑えることができる。しかも閉弁側ストッパ49の可動コア41に対する当接時には,弁ばね54を,通常の開弁時の圧縮変形量より多く変形させるので,弁ばね54が閉弁側ストッパ49の可動コア41に対する衝突エネルギを吸収し,その衝撃力を緩和することになる。
【0052】
次にコイル32への通電を遮断すると,弁ばね54の反発力により開弁側ストッパ48が押動されるので,開弁側ストッパ48は可動コア41および弁体40を伴なって弁座27側に移動し,弁部42を弁座27に着座させ,燃料噴孔28からの燃料噴射を停止する。
【0053】
ところで,コイル32の前記通電時には,環状リブ60と,複数の分割されたテーパ面61との係合により,固定コア14および可動コア41間の当接面積は,テーパ面61が分割されていない場合,すなわち連続した環状を呈する場合に比して小さくなっているので,コイル32の通電遮断時には,両コア14,41間の残留磁気を大幅に低減し,また固定コア14および可動コア41の燃料による張りつきを防ぐことができる。これにより,可動コア41は,直ちに固定コア14から離反することができ,閉弁応答性の向上,延いては内燃機関の燃焼効率アップに寄与することができる。
【0054】
また,弁体40は,弁座27に最初に着座したとき,その着座衝撃によって跳ね返ることがあるが,その跳ね返りは,遅れて下降する可動コア41が弁体40に固定された閉弁側ストッパ49に当接することで,最小限に抑えることができる。
【0055】
弁体40の跳ね返りが抑えられると,弁体40は弁ばね54の反発力により閉弁状態に保持されて燃料噴射を停止し,可動コア41は補助ばね55の反発力により閉弁側ストッパ49への当接状態に保持される。
【0056】
上記のように,弁体40の閉弁過程において,弁体40が弁座27に与える衝撃力は,弁体40のみが弁座27に最初に着座したときの衝撃力と,次いで可動コア41が閉弁側ストッパ49に衝突したときの衝撃力とに分けられるので,それぞれの衝突エネルギは比較的小さい。また弁体40は,弁座27に最初に着座したときは,その着座衝撃により跳ね返り,その後で再び弁座27に着座して衝撃を与えるが,弁体40の跳ね返り後の閉弁ストロークは,弁体40の通常の開弁位置からの閉弁ストロークより極めて小さいから,弁座27に及ぼす衝撃力は極めて小さい。これにより弁部42および弁座27相互の着座部の摩耗を防ぐと共に,着座騒音を小さく抑えることができる。
【0057】
以上,本発明の実施の形態について説明したが,本発明は上記実施形態に限定されるものではなく,特許請求の範囲に記載された本発明を逸脱することなく種々の設計変更を行うことが可能である。
【0058】
例えば,環状突起としての環状リブ60は,互いに分離した複数の突起を環状に配列したものと置き代えることもできる。また環状リブ60の横断面形状は,角部に面取りを施した多角形状とすることもできるが,調心作用をより良好にするために円弧状が望ましい。また前記硬質メッキ層64は,テーパ面61および平坦面63に連続的に形成することもできる。また凹部62において,可動コア41外周側の側壁を開放することもできる。
【符号の説明】
【0059】
8・・・・電磁式燃料噴射弁
9・・・・弁ハウジング
14・・・固定コア
14a・・吸引面
27・・・弁座
32・・・コイル
40・・・弁体
41・・・可動コア
41a・・被吸引面
42・・・弁部
43・・・ロッド
48・・・開弁側ストッパ
49・・・閉弁側ストッパ
54・・・弁ばね
55・・・補助ばね
60・・・環状突起(環状リブ)
61・・・テーパ面
62・・・凹部
63・・・平坦面
64・・・メッキ層
図1
図2
図3
図4
図5