(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022134125
(43)【公開日】2022-09-14
(54)【発明の名称】免疫適合性組織骨格及びその形成方法
(51)【国際特許分類】
C12N 5/071 20100101AFI20220907BHJP
C12N 5/0775 20100101ALI20220907BHJP
A61L 27/36 20060101ALI20220907BHJP
A61L 27/38 20060101ALI20220907BHJP
【FI】
C12N5/071
C12N5/0775
A61L27/36 100
A61L27/36 400
A61L27/36 410
A61L27/38
A61L27/36 300
A61L27/38 100
【審査請求】未請求
【請求項の数】49
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022031939
(22)【出願日】2022-03-02
(31)【優先権主張番号】3110969
(32)【優先日】2021-03-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CA
(31)【優先権主張番号】17/455,275
(32)【優先日】2021-11-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】522082757
【氏名又は名称】ナゲンドラン ジーヴァン
(71)【出願人】
【識別番号】522082768
【氏名又は名称】ナゲンドラン ジャヤン
(71)【出願人】
【識別番号】522082779
【氏名又は名称】ボッソ サビン ジェイ.
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100135079
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 修
(72)【発明者】
【氏名】ナゲンドラン ジーヴァン
(72)【発明者】
【氏名】ナゲンドラン ジャヤン
(72)【発明者】
【氏名】ボッソ サビン ジェイ.
【テーマコード(参考)】
4B065
4C081
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AC20
4B065BA30
4B065BD26
4B065BD44
4B065CA44
4C081AB17
4C081BA12
4C081CD34
4C081DC01
(57)【要約】
【課題】
レシピエントに免疫適合性である骨格を形成する方法に関する。
【解決手段】
脱細胞化された組織マトリクスを、レシピエントに免疫適合性である真核細胞とインビトロで接触させ、当該脱細胞化された組織マトリクスの外表面を覆い、免疫適合性である骨格を形成する。当該脱細胞化された組織はレシピエントに対して異種の組織から形成される。当該脱細胞化された組織マトリクスは、再細胞化する前に、α-ガラクトシダーゼと接触させることができる。このプロセスは、数週間でなく、数日で完了することができる。免疫適合性である骨格は、グルタルアルデヒド等の固定剤で固定して、常温保存可能な生成物を形成することができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レシピエントに免疫適合性である骨格を形成する方法であって、脱細胞化された組織マトリクスを、インビトロで、レシピエントに免疫適合性である真核細胞と接触させ、前記脱細胞化された組織マトリクスの外表面を覆い、免疫適合性である骨格を形成することを含み、ここで、前記脱細胞化された組織はレシピエントに対して異種である組織から形成される、方法。
【請求項2】
真核細胞は、さらに、多能性細胞を含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
多能性細胞は、さらに、間葉系幹細胞を含む、請求項2記載の方法。
【請求項4】
脱細胞化された組織マトリクスは、さらに、脱細胞化された細胞外マトリクスを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
レシピエントに免疫適合性である真核細胞は、さらに、レシピエントに対して同種又は自己の細胞を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
脱細胞化された組織マトリクスを再細胞化する前に、さらに、前記脱細胞化された組織マトリクスをα-ガラクトシダーゼと接触させることを含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
さらに、異種の細胞培養骨格を固定剤で固定することを含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
固定剤は、グルタルアルデヒドである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
脱細胞化された組織マトリクスは、さらに、心臓弁組織を含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
レシピエントはヒトであり、かつ、組織は哺乳類組織である、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
組織は、ブタ又はウシの組織である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
脱細胞化された組織マトリクスを再細胞化する前に、さらに、以下の:
レシピエントに対して異種である組織を、脱細胞化剤を含む1つ以上の溶液で脱細胞化し、前記脱細胞化された組織マトリクスを生成すること、及び
前記脱細胞化された組織マトリクスを洗浄し、前記脱細胞化剤を除去すること、
により、前記脱細胞化された組織マトリクスを得ることを含む、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
脱細胞化された組織マトリクスを再細胞化する前に、さらに、以下の:
レシピエントに対して異種である組織をアニオン性界面活性剤溶液に浸すこと、
前記組織からアニオン性界面活性剤溶液を除去すること、
前記組織を非イオン性界面活性剤溶液に浸すこと、
前記組織から非イオン性界面活性剤溶液を除去すること、
前記組織を1つ以上の洗浄液ですすぎ、脱細胞化された組織マトリクスを形成すること、かつ
前記脱細胞化された組織マトリクスをα-ガラクトシダーゼと接触させること、
により、脱細胞化された組織マトリクスを得ることを含む、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
レシピエントに対して異種である組織を脱細胞化する方法であって、以下の:
組織をアニオン性界面活性剤溶液に浸すこと、
前記組織からアニオン性界面活性剤溶液を除去すること、
前記組織を非イオン性界面活性剤溶液に浸すこと、
前記組織から非イオン性界面活性剤溶液を除去すること、
前記組織を1つ以上の洗浄液ですすぎ、脱細胞化された組織マトリクスを形成すること、かつ
前記脱細胞化された組織マトリクスをα-ガラクトシダーゼと接触させること、
を含む、方法。
【請求項15】
1つ以上のすすぎ液は、緩衝液、二重蒸留水、塩化ナトリウム、ヌクレアーゼ及び抗生物質を集合的に含む、請求項14記載の方法。
【請求項16】
さらに、脱細胞化された組織をレシピエントに免疫適合性である真核細胞と接触させることによって前記脱細胞化された組織マトリクスを再細胞化して、前記脱細胞化された組織マトリクスを覆う免疫適合性である細胞の層を形成し、免疫適合性の骨格を形成することを含む、請求項14又は15に記載の方法。
【請求項17】
真核細胞は、さらに、多能性細胞を含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
多能性細胞は、さらに、間葉系幹細胞を含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
真核細胞は、さらに、レシピエントと同種又は自己の細胞を含む、請求項16~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
さらに、免疫適合性である骨格を固定剤で固定することを含む、請求項16~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
固定剤はグルタルアルデヒドである、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
組織は、さらに、心臓弁組織を含む、請求項14~21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
レシピエントはヒトであり、組織は哺乳動物の組織である、請求項14~22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
組織はブタ又はウシの組織である、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
アニオン性界面活性剤溶液に浸す工程は、組織をアニオン性界面活性剤溶液に4回浸漬し、かつ、各浸漬後に前記組織から前記アニオン性界面活性剤溶液を除去することを含む、請求項14~24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
4回の浸漬のうちの1回は、振動により行われる、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
4回の浸漬のうちの最終回の時間は、16~24時間である、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
非イオン性界面活性剤溶液に浸す工程において、組織を非イオン性界面活性剤溶液に5回浸漬し、かつ、各浸漬後に、前記組織から前記非イオン性界面活性剤を除去することを含む、請求項14~27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
5回の浸漬のうちの4回は、振動により行われる、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
5回の浸漬のうちの最終回の時間は、16~24時間である、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
方法は4日未満で完了する、請求項14~30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
アニオン性界面活性剤はドデシル硫酸ナトリウムである、請求項14~31のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
非イオン性界面活性剤はTriton(商標)X-100である、請求項14~32のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
ヌクレアーゼはデオキシリボヌクレアーゼである、請求項15に記載の方法。
【請求項35】
組織は、新鮮な組織、死体の組織、固定された組織又は固定されていない組織を含む、請求項14~34のいずれか一項に記載の方法。
【請求項36】
すすぐ工程の後に、脱細胞化された組織マトリクスは、前記脱細胞化された組織マトリクスが容易に再細胞化されうるように、アニオン性界面活性剤及び非イオン性界面活性剤を実質的に含まない、請求項14~35のいずれか一項に記載の方法。
【請求項37】
組織を1つ以上の溶液ですすぐ工程は、以下の:
組織をリン酸緩衝生理食塩水と二重蒸留水を交互に用いてすすぐこと、
前記組織を塩化ナトリウム溶液で洗浄すること、
前記組織をリン酸緩衝生理食塩水と二重蒸留水を交互に用いてすすぐこと、
前記組織をヌクレアーゼと塩化マグネシウムの溶液と接触させること、
前記組織を二重蒸留水ですすぐこと、
前記組織をリン酸緩衝生理食塩水と抗生物質の溶液に接触させること、かつ
前記組織を緩衝液及び抗生物質溶液に保存すること、
を含む、請求項14~27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項38】
レシピエントに免疫適合性である、固定された真核細胞で覆われ、かつ、常温保存可能な生成物を形成する脱細胞化された異種細胞組織
を含む、免疫適合性である骨格。
【請求項39】
真核細胞は、脱細胞化された組織マトリクスの外表面の少なくとも50%を覆う、請求項38に記載の免疫適合性である骨格。
【請求項40】
真核細胞は、脱細胞化された組織マトリクスの外表面の少なくとも80%を覆う、請求項38に記載の免疫適合性である骨格。
【請求項41】
真核細胞はさらに多能性細胞を含む、請求項38~40のいずれか一項に記載の免疫適合性である骨格。
【請求項42】
多能性細胞は、さらに間葉系幹細胞を含む、請求項41に記載の免疫適合性である骨格。
【請求項43】
真核細胞は、さらに、レシピエントと同種又は自己の細胞を含む、請求項38~42のいずれか一項に記載の免疫適合性である骨格。
【請求項44】
脱細胞化された異種組織は、さらに、脱細胞化された組織マトリクスを含む、請求項38~43のいずれか一項に記載の免疫適合性である骨格。
【請求項45】
脱細胞化された組織マトリクスは、未変性の細胞外マトリクスである、請求項44に記載の免疫適合性である骨格。
【請求項46】
脱細胞化された異種組織は、さらに、異種心臓弁組織を含む、請求項38~45のいずれか一項に記載の免疫適合性である骨格。
【請求項47】
レシピエントはヒトであり、かつ、脱細胞化された異種組織は脱細胞化された哺乳動物組織である、請求項38~46のいずれか一項に記載の免疫適合性である骨格。
【請求項48】
脱細胞化された異種組織は、脱細胞化されたブタ又はウシの組織である、請求項47に記載の免疫適合性である骨格。
【請求項49】
真核細胞は、脱細胞化された異種組織上に単層を形成する、請求項38~48のいずれか一項に記載の免疫適合性である骨格。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異種組織を脱細胞化する方法、及び免疫適合性である骨格を形成する方法に関し、特に、組織工学的生体人工心臓弁の置換に関する。
【背景技術】
【0002】
弁膜性心疾患(VHD)は比較的一般的な疾患で、世界人口の2.5%、75歳以上では最大13.3%がVHDであると推定される。毎年、世界中で約250,000件の心臓弁置換術が実施されており、VHDの罹患率は増加している。2050年には、バルブ交換回数は年間85万回に達すると予測されている。大動脈弁狭窄症と僧帽弁閉鎖不全症は、現在の弁膜症患者の最大75%を占める。歴史的には、過去に化膿連鎖球菌に感染したことによるリウマチ性心疾患が、弁膜症の大部分を占めていた。しかし、抗生物質の使用により、先進国ではこの原因が大幅に減少し、退行性疾患に置き換わった。VHD発症の危険因子としては、年齢、男性、高血圧、喫煙、脂質異常症、冠動脈疾患などが挙げられる。COVID-19が心臓障害を起こし、その結果、VHDの発生が増加する可能性があることを示唆する証拠が増えている。
【0003】
現在、VHDの治療に有効な治療方法は存在しない。重度の症候性VHDに対する唯一の決定的な管理は、患部の弁の外科的修復又は置換である。外科的手技及び技術が向上するにつれて、弁修復手術はますます一般的になっているが、修復不能な弁には交換が必要である。現在用いられている心臓弁置換術には、生体弁又は組織弁、機械弁、ホモグラフト(同種)弁の3種類がある。生体弁は、ウシ心膜組織やブタ心臓弁が最も一般的である。生体弁の利点としては、本来の心臓弁に近い特性があり、機械弁と比較して出血率が低く、低侵襲な経カテーテル大動脈弁置換術(TAVR)で移植することができることがあげられる。生体弁の限界は、主に耐久性である。生体弁は、弁のレシピエントからの異種免疫応答のため、経時的に劣化する。故障の比率は様々で、高齢患者では平均10~20年後に発生するが、若年患者では有意に短くなる場合がある。対照的に、機械弁は生体弁よりも耐久性が高いが、血栓形成性が高く、血栓塞栓症予防のために生涯にわたる抗凝固療法が必要であり、有害な出血イベントのリスクも高まる。現在の選択肢はどれも理想的とはいえず、それぞれの欠点は重大である。抗凝固療法による再手術及び合併症は、VHD患者のQOLに重大な影響を及ぼすだけでなく、世界中の医療制度の大きな経済的負担となっている。生体弁は、ウシ又はブタの組織から作られ、弁のレシピエントからの炎症性免疫応答のために、経時的に構造的な劣化が起こりやすい。故障率は様々であるが、ある集団では5年時点で50%に達することもあり、特に若年患者ではこの傾向が顕著である。ホモグラフトは死体ドナーから採取した弁である。これらの弁は一般に、異種弁(動物組織から作製された弁)よりも耐久性が向上しているが、これらの弁は極めてまれであり、心臓移植ほど一般的ではない。ホモグラフトは入手可能性が限られているため、現在および将来の心臓弁置換の需要に対応する現実的な選択肢ではない。
【発明の概要】
【0004】
一実施形態では、レシピエントに免疫適合性である骨格を形成する方法が開示される。脱細胞化された組織マトリクスを、インビトロで、レシピエントに免疫適合性である真核細胞に接触させて、当該脱細胞化された組織マトリクスの外面を覆い、免疫適合性である骨格を形成する。当該脱細胞化された組織は、レシピエントに対して異種である組織から形成される。
【0005】
様々な実施形態では、以下の特徴のうちの1以上を含んでよい:真核細胞は、さらに、多能性細胞を含む;多能性細胞は、間葉系幹細胞をさらに含む;脱細胞化された組織マトリクスは、さらに、脱細胞化細胞外マトリクスを含む;レシピエントに免疫適合性のある真核細胞は、さらに、レシピエントに対して同種又は自己の細胞を含む;前記脱細胞化された組織マトリクスを再細胞化する前に、さらに、前記脱細胞化された組織マトリクスをα-ガラクトシダーゼと接触させる;さらに、異種の細胞培養骨格を固定剤で固定する;固定剤は、グルタルアルデヒドである;前記脱細胞化された組織マトリクスは、さらに、心臓弁組織を含む;レシピエントはヒトであり、かつ、組織は哺乳類組織である;組織は、ブタ又はウシの組織である;前記脱細胞化された組織マトリクスを再細胞化する前に、レシピエントに対して異種である組織を、脱細胞化剤を含む1つ以上の溶液で脱細胞化し、脱細胞化された組織マトリクスを生成すること、及び前記脱細胞化された組織マトリクスを洗浄し、前記脱細胞化剤を除去すること、により、前記脱細胞化された組織マトリクスを得ること;かつ、前記脱細胞化された組織マトリクスを再細胞化する前に、レシピエントに対して異種である組織をアニオン性界面活性剤溶液に浸すこと、前記組織からアニオン性界面活性剤溶液を除去すること、前記組織を非イオン性界面活性剤溶液に浸すこと、前記組織から非イオン性界面活性剤溶液を除去すること、前記組織を1つ以上の洗浄液ですすぎ、脱細胞化された組織マトリクスを形成すること、かつ、前記脱細胞化された組織マトリクスをα-ガラクトシダーゼと接触させること、により、脱細胞化された組織マトリクスを得ることである。
【0006】
他の実施形態ではレシピエントに対して異種である組織を脱細胞化する方法が開示される。当該組織をアニオン性界面活性剤溶液に浸す。前記組織からアニオン性界面活性剤溶液を除去する。前記組織を非イオン性界面活性剤溶液に浸す。前記組織から非イオン性界面活性剤溶液を除去する。前記組織を1つ以上の洗浄液ですすぎ、脱細胞化された組織マトリクスを形成する。前記脱細胞化された組織マトリクスをα-ガラクトシダーゼと接触させる。
【0007】
様々な実施形態では、以下のうちの1つ以上を含むことができる:1つ以上のすすぎ液は、緩衝液、二重蒸留水、塩化ナトリウム、ヌクレアーゼ及び抗生物質を集合的に含む;さらに、脱細胞化された組織をレシピエントに免疫適合性である真核細胞と接触させることによって、脱細胞化された組織マトリクスを再細胞化して、前記脱細胞化された組織マトリクスを覆う免疫適合性である細胞の層を形成し、免疫適合性の骨格を形成する;真核細胞はさらに多能性細胞を含む;多能性細胞は、さらに間葉系幹細胞を含む;レシピエントに免疫適合性の真核細胞は、前記レシピエントと同種又は自己の細胞を含む;免疫適合性である骨格は、固定剤で固定される;固定剤はグルタルアルデヒドである;組織は、心臓弁組織を含む;レシピエントは、ヒトであり、かつ、組織は哺乳動物組織である;組織は、ブタ又はウシの組織である;アニオン性界面活性剤溶液に浸す工程は、組織をアニオン性界面活性剤溶液に4回浸漬し、かつ、各浸漬後に前記組織から前記アニオン性界面活性剤溶液を除去することを含み;4回の浸漬のうちの1回は、振動により行われる;4回の浸漬のうちの最終回の時間は、16~24時間である;、非イオン性界面活性剤溶液に浸す工程では、組織を非イオン性界面活性剤溶液に5回浸漬し、かつ、各浸漬後に、前記組織から前記非イオン性界面活性剤を除去することを含む;5回の浸漬のうちの4回は、振動により行われる;5回の浸漬のうちの最終回の時間は、16~24時間である;、この方法は4日未満で完了する;アニオン性界面活性剤はドデシル硫酸ナトリウムである;非イオン性界面活性剤はTriton(商標)X-100である;ヌクレアーゼはデオキシリボヌクレアーゼである;組織は、新鮮な組織、死体の組織、固定された組織又は固定されていない組織を含む;すすぐ工程の後に、脱細胞化された組織マトリクスは、前記脱細胞化された組織マトリクスが容易に再細胞化されうるように、アニオン性界面活性剤及び非イオン性界面活性剤を実質的に含まない;かつ、組織を1つ以上の溶液ですすぐ工程は、組織をリン酸緩衝生理食塩水と二重蒸留水を交互に用いてすすぐこと、前記組織を塩化ナトリウム溶液で洗浄すること、前記組織をリン酸緩衝生理食塩水と二重蒸留水を交互に用いてすすぐこと、前記組織をヌクレアーゼと塩化マグネシウムの溶液と接触させること、前記組織を二重蒸留水ですすぐこと、前記組織をリン酸緩衝生理食塩水と抗生物質の溶液に接触させること、かつ、前記組織を緩衝液及び抗生物質溶液に保存すること、を含む。
【0008】
他の実施形態では、レシピエントに免疫適合性である、固定された真核細胞で覆われ、かつ、常温保存可能な生成物を形成する脱細胞化された異種細胞組織を含む、免疫適合性である骨格が開示される。
【0009】
様々な実施形態では、真核細胞は、脱細胞化された組織マトリクスの外表面の少なくとも50%を覆い、真核細胞は、前記脱細胞化された組織マトリクスの外表面の少なくとも80%を覆い、真核細胞は、さらに、多能性細胞を含み、多能性細胞は、さらに、間葉系幹細胞を含み、真核細胞は、さらに、レシピエントと同種又は自己の細胞を含み、脱細胞化された異種組織は、さらに、脱細胞化された組織マトリクスを含み、前記脱細胞化された組織マトリクスは、未変性の細胞外マトリクスであり、脱細胞化された異種組織は、さらに、異種心臓弁組織を含み、レシピエントはヒトであり、かつ、脱細胞化された異種組織は脱細胞化された哺乳動物組織であり、脱細胞化された異種組織は、脱細胞化されたブタ又はウシの組織であり、真核細胞は、脱細胞化された異種組織上に単層を形成する。
【0010】
上記要約は、本開示の主題の各潜在的実施形態又はあらゆる態様の要約を意図するものではない。
【0011】
方法のこれら及び他の態様は、請求項に記載される。
【0012】
以下に、実施形態を、図を参照して説明するが、図中、同様の参照文字は、例として、同様の要素を示す。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】レシピエントに免疫適合性である骨格の形成方法を示すフローチャートである。
【0014】
【
図2】レシピエントに対して異種である細胞由来の組織を脱細胞化する方法を示すフローチャートである。
【0015】
【
図3】ヒト全血への未変性、脱細胞化及び再細胞化ウシ心膜曝露の1日目における腫瘍壊死因子α(TNF-α)前炎症性(炎症誘発性)サイトカイン発現の酵素免疫測定法(ELISA)分析を示すグラフである。
【0016】
【
図4】ヒト全血への未変性、脱細胞化及び再細胞化ウシ心膜曝露の3日目におけるTNF-α前炎症性サイトカイン発現のELISA分析を示すグラフである。
【0017】
【
図5】ヒト全血への未変性、脱細胞化及び再細胞化ウシ心膜曝露の3日目におけるインターフェロンγ(IFN-γ)前炎症性サイトカイン発現を示すグラフである。
【0018】
【
図6】未変性のウシ心膜のフローサイトメトリー分析を示すグラフである。
【0019】
【
図7】未変性のウシ心膜のフローサイトメトリーによる増殖アッセイを示すグラフである。
【0020】
【
図8】脱細胞化されたウシ心膜のフローサイトメトリーによる増殖アッセイを示すグラフである。
【0021】
【
図9】ヒト心膜のフローサイトメトリーによる増殖アッセイを示すグラフである。
【0022】
【
図10】再細胞化したウシ心膜のフローサイトメトリー分析を示すグラフである。
【0023】
【
図11】再細胞化したウシ心膜のフローサイトメトリーによる増殖アッセイを示すグラフである。
【0024】
【
図12】ヒト全血への未変性、脱細胞化及び再細胞化ブタ細胞外マトリクス曝露の1日目におけるインターロイキン1β(IL1β)サイトカイン濃度を示すグラフである。
【0025】
【
図13】ヒト全血への未変性、脱細胞化及び再細胞化ブタ細胞外マトリクス曝露の3日目におけるIL1βサイトカイン濃度を示すグラフである。
【0026】
【
図14】ヒト全血への未変性、脱細胞化及び再細胞化ブタ細胞外マトリクス曝露の5日目におけるIL1βサイトカイン濃度を示すグラフである。
【0027】
【
図15】ヒト全血への未変性、脱細胞化及び再細胞化ブタ細胞外マトリクス曝露の1日目におけるTNF-αサイトカイン濃度を示すグラフである。
【0028】
【
図16】ヒト全血への未変性、脱細胞化及び再細胞化ブタ細胞外マトリクス曝露の3日目におけるTNF-αサイトカイン濃度を示すグラフである。
【0029】
【
図17】ヒト全血への未変性、脱細胞化及び再細胞化ブタ細胞外マトリクス曝露の5日目におけるTNF-αサイトカイン濃度を示すグラフである。
【0030】
【
図18】脱細胞化されたモルモットの弁のヘマトキシリンエオジン(H&E)及びビメンチン染色である。
【0031】
【
図19】再細胞化された異種移植片のH&E及びビメンチン染色である。
【0032】
【0033】
【
図21】非脱細胞化(新鮮)モルモット異種移植片のH&E染色である。
【0034】
【
図22】脱細胞化されたモルモット異種移植片のH&E染色である。
【0035】
【
図23】再細胞化されたモルモット異種移植片のH&E染色である。
【0036】
【
図24】ラットモデルにおける移植後7日目の総血清免疫グロブリンGを示すチャートである。
【0037】
【
図25】ラットモデルにおける移植後7日目の移植片の生存及び血栓症を示すグラフである。
【0038】
【
図26】未変性、脱細胞化、及び自己原細胞が再細胞化したヒト心膜をPBMCで1日間曝露した場合の、曝露後1日目のTNF-αサイトカイン濃度を示すグラフである。
【0039】
【
図27】未変性、脱細胞化、及び自己原細胞が再細胞化したヒト心膜をPBMCで3日間曝露した場合の曝露後1日目のTNF-αサイトカイン濃度を示すチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0040】
一実施形態では、最初の多段階の、溶液系で、異種組織に存在する表面マーカーを除去しうる、脱細胞化がある。免疫適合性ヒト間葉系幹細胞等のレシピエントと免疫適合性のある細胞を、脱細胞化されたマトリクスの再細胞化に用いる。これにより、免疫系が異物として認識しない、心臓弁等の組織で処理された免疫適合性である骨格が生成され、炎症性免疫応答が軽減する結果、脱細胞化した組織マトリクスから、生体弁等の免疫適合性である骨格の劣化が軽減され、耐久性が高まる。
【0041】
組織工学的心臓弁の実施形態は、現在の心臓弁置換の選択肢の特定の制限に対処することができる。組織工学には様々なアプローチがあるが、一般的な考え方は、レシピエントから炎症性免疫応答を誘導すると考えられている異種抗原を除去又は密封することである。これにより、経年劣化の速度が低下し、組織弁の耐久性が高まる。抗凝固療法が必要なく、費用対効果が高く、貯蔵安定性があり、比較的入手しやすい耐久性が高められた組織弁は、弁置換の選択肢の現在の限界に対処するであろう。
【0042】
図1に示す実施形態では、レシピエントに免疫適合性である骨格を形成する方法100がある。102では、このプロセスは、脱細胞化された組織マトリクスから始まる。当該マトリクスを104にて、インビトロでレシピエントに免疫適合性の真核細胞と接触させて、脱細胞化された組織マトリクスの外表面に付着させて覆い、106にて免疫適合性である骨格を形成する。
【0043】
一実施形態では、用語「免疫適合性である骨格細胞」又は「免疫適合性である細胞」は、レシピエントの血液に曝露された場合の炎症性サイトカイン放出が、同じ条件下でレシピエントに対する自己組織又は細胞において予測される炎症性サイトカイン放出に対して10%以内であり、同量のインビトロでのレシピエントの血液に対する最大サイトカイン放出の比率として表されることを意味する。相同細胞及び自己(原)細胞は、免疫適合性である細胞であると考えられる。
【0044】
好ましい実施形態では、組織は心臓弁組織であってよい。レシピエントはヒトであってよく、脱細胞化された組織マトリクスを形成する組織は、ブタ又はウシ組織等の哺乳動物組織であってよい。組織は、新鮮な組織、死体組織、固定された組織又は固定されていない組織のいずれであってよい。真核細胞は、脱細胞化された組織マトリクスを再形成することができるいかなる細胞であってよく、例えば、多能性、全能性又は多能性細胞であってよい。真核細胞は、内皮細胞であってよい。真核細胞は間葉系幹細胞であってよい。真核細胞は、レシピエントに対して同種異系細胞又は自己細胞であってよい。真核細胞は異種細胞であってよい。真核細胞は、同系(同種)細胞であってよい。例えば、真核細胞は、その細胞がレシピエントと免疫適合性である限り、霊長類細胞又はヒト受容体に近接した他の進化上の隣接細胞であってよい。真核細胞は、脱細胞化された組織マトリクスに密に接着する細胞であってよい。脱細胞化された組織マトリクスは、脱細胞化された細胞外マトリクスであってよい。脱細胞化された組織は、ブタ心臓弁及びウシ心臓弁を含むいかなる異種組織から最初に形成されてよい。間葉系幹細胞等の真核細胞は、当該分野で公知の技術又は本明細書に記載の技術を用いて、患者又は他の供給源から採取することができる。
【0045】
図1に記載した再細胞化プロセスはまた、未変性若しくは合成組織から形成される組織、又は合成マトリクス又は骨格上で用いられてよい。組織は、レシピエントに対して異種、同種、又は自己由来であってよい。組織は、最初は、合成組織、組換え組織又は人工組織から形成することができる。組織マトリクスは、未変性又は合成又は人工のマトリクス又は骨格であってよい。脱細胞化された組織マトリクスを再細胞化する前に、脱細胞化された組織マトリクスをα-ガラクトシダーゼと接触させることができる。異種骨格は固定剤で固定することができる。
【0046】
脱細胞化された組織マトリクスを再細胞化する前に、脱細胞化された組織マトリクスを様々な方法によって得ることができる。例えば、レシピエントに対して異種である組織を、脱細胞化剤を含む1つ以上の溶液で脱細胞化して、脱細胞化された組織マトリクスを生成することができる。脱細胞化された組織マトリクスは、1つ以上の溶液の各々と接触した後に洗浄されて、脱細胞化剤及び細胞残屑を除去することができる。レシピエントに対して異種である組織とは、その通常の意味である。
【0047】
実施形態では、脱細胞化された組織マトリクスは、レシピエントに対して異種の組織をアニオン性界面活性剤溶液に浸すこと、前記組織からアニオン性界面活性剤溶液を除去すること、前記組織を非イオン性界面活性剤溶液に浸すことと、前記組織から非イオン性界面活性剤溶液を除去すること、前記組織を1つ以上の洗浄液ですすぎ、脱細胞化された組織マトリクスを形成すること、かつ、前記脱細胞化された組織マトリクスをα-ガラクトシダーゼと接触させること、によって得ることができる。
【0048】
図2に示す実施形態では、レシピエントに対して異種である組織を脱細胞化する方法200が開示されている。例えば、
図1に開示された脱細胞化された組織マトリクスは、
図2に開示された方法を用いて形成されることができる。202において、組織は、アニオン性界面活性剤溶液に浸漬される。アニオン性界面活性剤は、例えば、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)であってよい。SDSは0.75%~1.5%のSDS、又は0.75%~3%のSDSであってよい。当該組織をアニオン性界面活性剤溶液に4回浸漬し、かつ、各浸漬後に前記組織から前記アニオン性界面活性剤溶液を除去することができる。4回の浸漬のうちの1回は、振動により行うことができる。4回の浸漬のうちの最終回の時間は、16~24時間であってよく、約20時間であってよい。204では、アニオン性界面活性剤溶液は、当該組織から除去される。
【0049】
206では、組織を非イオン性界面活性剤溶液に浸漬する。非イオン性界面活性剤はTriton(商標)X-100であってよい。当該溶液は0.75%~1.5% Triton(商標)X-100であってよい。当該溶液は0.75%~3% Triton(商標)X-100であってよい。組織を非イオン性界面活性剤溶液に5回浸漬し、各浸漬ごとに前記組織から非イオン性界面活性剤を除去することができる。5回の浸漬のうち4回は、振動により行うことができる。4回の浸漬のうちの最終回の時間は、16~24時間であってよく、約20時間であってよい。208では、非イオン性界面活性剤溶液は当該組織から除去される。
【0050】
いくつかの界面活性剤及び他の溶液は、当該技術分野で公知であり、これまでに脱細胞化プロセスで報告されている。これらには、限定されるものではないが、Triton-X 100(非イオン性)、ドデシル硫酸ナトリウム(イオン性)、トリプシン、低張食塩溶液、ヌクレアーゼ溶液、高張塩溶液、エタノール、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、BRIJ(商標)-35、ラウレス硫酸ナトリウム、TWEEN(商標) 20、LUBROL-PX、及びポリエチレンラウリルエーテルがあげられる。本発明者らは、これらの部分又は全部が、上記洗剤工程への添加剤として、又は単独で、以前に作用したように、脱細胞化プロトコルにおける洗剤として有効でありうることを予測する。
【0051】
210では、組織を1つ以上のすすぎ液ですすぎ、脱細胞化された組織マトリクスを形成する。1つ以上の洗浄液としては、集合的に、緩衝液、二重蒸留水、塩化ナトリウム、ヌクレアーゼ及び抗生物質があげられうる。ヌクレアーゼはデオキシリボヌクレアーゼであってよい。組織をすすぐこととしては、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)と二重蒸留水(ddH20)を交互に用いて組織をすすぐこと、塩化ナトリウム溶液で組織を洗浄すること、リン酸緩衝生理食塩水と二重蒸留水で組織をすすぐこと、組織をヌクレアーゼと塩化マグネシウム溶液と接触させること、組織を二重蒸留水ですすぐこと、組織をリン酸緩衝生理食塩水と抗生物質の溶液と接触させること、及び組織を緩衝液と抗生物質溶液中に保存することがあげられる。塩化ナトリウム溶液は、0.5M~2M塩化ナトリウム、又は0.5M~3M塩化ナトリウムであってよい。ヌクレアーゼ及び塩化マグネシウム溶液は、2.5mM~5.5mM塩化マグネシウムであってよく、又は1.5mM~6.5mM塩化マグネシウムであってよい。
【0052】
すすぎ後、脱細胞化された組織マトリクスが容易に再細胞化されるように、実質的に界面活性剤、例えば、陰イオン性及び非イオン性界面活性剤を含まなくてよい。212では、脱細胞化された組織マトリクスをα-ガラクトシダーゼと接触させる。α-ガラクトシダーゼとの接触により、脱細胞化された組織マトリクスをα-ガラクトシダーゼを含むPBS中に浸漬することによって達成されることができる。再細胞化プロセスが完了して免疫適合性である骨格が形成された後、免疫適合性である骨格を固定して、免疫適合性である骨格を保存し、保存安定性が得られうる。免疫適合性である骨格は、光酸化、熱固定、アルデヒドを含む架橋固定剤、及びアルコールを含む沈殿固定剤を含む、公知の技術及び固定剤を用いて固定することができる。例えば、固定剤はグルタルアルデヒドであってよい。
【0053】
方法200は、4日未満で完了することができる。工程202、204、206及び208は、3日未満で完了することができる。
【0054】
本明細書で開示された方法は、血管組織、腸下粘膜、血管壁、及び間葉由来組織を含むが、これらに限定されない、細胞外マトリクスを有するいかなる組織と共に用いることができる。高密度の組織の接触時間は、より長い場合がある。
【0055】
アニオン性界面活性剤及び非イオン性界面活性剤は、脱細胞化特性があることが当技術分野で公知であるいかなるアニオン性界面活性剤又は非イオン性界面活性剤であってよい。すすぎ液は、細胞の破片及び洗剤を骨格から除去することが公知である、いかなるすすぎ液又はすすぎ液の組み合わせであってよい。
【0056】
脱細胞化プロセスの後、脱細胞化された組織マトリクスは、例えば
図1の実施形態に示されたプロセスを用いて、脱細胞化された組織マトリクスをレシピエントに免疫適合性である真核細胞と接触させることにより、真核細胞が脱細胞化された組織マトリクスに接着し、増殖し、及び/又は、脱細胞化された組織マトリクス内及び/又は上で分化する条件下で再細胞化されて、脱細胞化された組織マトリクスを免疫適合性である細胞で覆って、免疫適合性である骨格を形成することができる。脱細胞化された組織マトリクスは、好ましくは、真核細胞が脱細胞化された組織マトリクスに接着し、これを覆い、外表面に残存する異種抗原又は界面活性剤を十分に覆い、免疫適合性である骨格を生成するのに十分な時間、真核細胞と接触される。覆うこと(カバー)は、脱細胞化された組織マトリクスに接着した免疫適合性である細胞が、脱細胞化された組織マトリクスの外表面を十分に覆い、免疫適合性である骨格を形成することを意味する。マスキングは、脱細胞化された組織マトリクス上の抗原が免疫系によって検出されないように、免疫系の成分による脱細胞化された組織マトリクスへのアクセスを阻害することができる。被覆は、脱細胞化された組織マトリクスの外表面の部分的又は完全に被覆することができる。真核細胞は、脱細胞化された組織マトリクスの外表面の50%以上を覆うことができる。真核細胞は、好ましくは、脱細胞化された組織マトリクスの外表面の80%以上を覆う。免疫適合性である骨格はレシピエントの血液に曝露された場合に、レシピエントに自己組織に対して予測される炎症性サイトカイン放出の10%以内であるのと同じ条件下で、同じ量のレシピエントの血液に対して生体外で最大炎症誘発性サイトカインを放出する比率として表される。
【0057】
脱細胞化された組織マトリクスを覆う真核細胞は、細胞の単層又は薄層を形成することができる。薄層は、最初の再細胞化用に厚さ1~5の細胞層の範囲内であってよい。接触は、インビトロで行うことができる。接触は、真核細胞と適合性の培養培地及び脱細胞化された組織マトリクスの存在下で行うことで、再細胞化プロセスを助けることができる。培地は、真核細胞の脱細胞化された組織マトリクスへの接着を支持又は増強する因子を含んでよく、真核細胞の成長及び分裂を支持又は促進する因子を含んでよい。因子の例としては、再細胞化前の脱細胞化された組織マトリクスへのトリプシンの添加、培養培地へのVEGF又は線維芽細胞誘導因子14の添加、再細胞化前の脱細胞化された組織マトリクスへの前駆細胞特異的抗体(例えば、CD34)の連結、及び酢酸及びアルギニルグリシルアスパラギン酸ポリペプチドによる脱細胞化された組織マトリクスの処理があげられるが、これらに限定されない。
【0058】
脱細胞化プロセスの後、再細胞化プロセスの前に、脱細胞化された組織マトリクスを、例えば24時間培養培地に浸漬することができる。
【0059】
免疫適合性である骨格は、常温保存できる、滅菌された骨格を形成するように固定することができる、レシピエントに移植又は移植する前に保存又は出荷することができる。常温保存可能な骨格は、分解せず、最長5年又はそれ以上の期間、室温で長期間維持することができる。免疫適合性である骨格を固定することはまた、レシピエントへの移植後に大動脈圧に曝された場合に、真核細胞が、脱細胞化された組織マトリクスから脱落する可能性を低下させうる。
【0060】
免疫適合性である骨格は、さらに、自己又は同種の血液に曝露されてよい。免疫適合性である骨格は、インビボでの移植又は移植に用いられうる。
【0061】
ある実施実施形態では、多段階の脱細胞化プロセスは、組織骨格から異種マーカーを除去するのに効果がある。実験により、ヒトモデルにおけるウシ心膜を有する組織骨格、ヒトモデルにおけるブタ細胞外マトリクス、ラットモデルにおけるモルモット大動脈弁から異種マーカーが除去されたことが確認された。これらの結果に基づいて、本発明者らは、ヒトモデルにおけるブタ大動脈弁尖、ヒトモデルにおけるヒト心膜を用いて同様の結果を確認することができると予測している。
【0062】
ある実施実施形態では、脱細胞化された組織マトリクスは、炎症性免疫応答の低減に有効である。実験により、ヒトモデルではウシ心膜、ヒトモデルにおけるウシ心膜、ヒトモデルにおけるブタ細胞外マトリクス、及びラットモデルにおけるモルモット大動脈弁で炎症性免疫応答の低下が確認された。これらの結果に基づいて、本発明者らは、ヒトモデルにおけるブタ大動脈弁尖、ヒトモデルにおけるヒト心膜を用いて同様の結果を確認することができると予測している。
【0063】
ある実施実施形態では、α-ガラクトースを切断する工程は、α-ガラクトース抗原を除去するのに有効であり、脱細胞化された組織に対する免疫応答をさらに低下させることが予測される。
【0064】
ある実施実施形態では、胸骨骨髄から間葉系幹細胞を採取して培養することは、脱細胞化された組織マトリクスを再細胞化するのに十分な幹細胞を産生する効果が証明されている。
【0065】
ある実施実施形態では、再細胞化は、脱細胞化された組織マトリクスの再細胞化において有効であることが証明されている。実験により、ウシ心膜、ブタ大動脈弁尖、モルモット大動脈弁、未変性のブタ大動脈弁尖及び肺動脈弁において、脱細胞化された組織マトリクスの再細胞化における効果が確認された。
【0066】
ある実施実施形態では、ある実施実施形態では、異種組織から形成された脱細胞化された組織マトリクスの再細胞化の方法は、さらに、異種組織から形成された脱細胞化された組織マトリクスに対する炎症性免疫応答を、自己の対照組織と同様のレベルまで低下させる効果がある。この効果は、ヒトモデルにおけるウシ心膜、ヒトモデルにおけるブタ細胞外マトリクス、ラットモデルにおけるモルモット大動脈弁で確認されている。これらの結果に基づいて、本発明者らは、ヒトモデルにおけるブタ大動脈弁尖、ヒトモデルにおけるヒト心膜を用いて同様の結果を確認することができると予測している。
【0067】
いくつかの実施形態では、脱細胞化及び再細胞化の方法は、心臓弁材料に用いられる免疫適合性である骨格に対する炎症性免疫応答を低減させて、これにより、免疫適合性である骨格から作られた生体弁の生体人工心臓弁の耐久性が高まり、構造弁の劣化速度が低減する。
【0068】
ある実施形態では、本方法は、ブタ心臓弁置換、ウシ心臓弁置換、及びトランスカテーテル心臓弁置換用に効果があり、適用可能であることが実証されている。
【0069】
本方法のいくつかの実施形態は、他の組織工学的心臓弁と比較した場合、比較的費用対効果が高く、世界中の医療提供者による実現可能な大量生産及び利用が可能となる。
【0070】
本発明者らは、開示された組織工学的心臓弁の費用対効果及び利点が、弁の変性による再手術及び抗凝固剤使用による合併症の低減を考慮すると、患者の生活の質及び生存を改善し、医療システムの長期的な費用を削減すると予測する。
【0071】
ある実施実施形態では、免疫適合性である骨格は、固定が起こるであろう脱細胞化及び再細胞化プロセスの後に、保存安定性がある。
【0072】
本明細書中に開示されるような免疫適合性である骨格を形成する方法の例示的な実施形態を、以下に記載する。例示的な実施形態における、1時間に設定されたインキュベーション時間は、30分~2時間の範囲であってよい。インキュベーション時間は、溶液の濃度を変えることにより、30分~2時間以外であってよい。
【0073】
実施例
【実施例0074】
脱細胞化
【0075】
第1日目- 組織をペトリ皿に入れ、組織を覆うのに十分なPBSで洗浄し、吸引した。組織を完全に覆うのに十分なSDSを添加し、皿を室温で1時間、少なくとも30回/分で振動させた。組織を吸引してSDSを除去した。新鮮なSDSを添加し、SDS洗浄を2回繰り返し、最後のSDS洗浄を一晩放置した。
【0076】
第2日目- SDS溶液を吸引し、組織を覆うのに十分な1% Triton(商標)X-100に交換し、前回と同じ設定で最低1時間振動させた。これを3回繰り返した。Triton(商標)X-100を吸引し、再度添加し、一晩放置した。
【0077】
第3日目- 組織を25mLのPBSで2回リンスし、洗剤を洗い流すために各洗浄後に吸引した。組織を25mLのオートクレーブ済二重蒸留水(ddH2O)で8回すすぎ、残った界面活性剤を洗い流した。8回目の洗浄後に、泡があり、界面活性剤が残留する場合、気泡が消失するまで組織をすすぎ、さらに2回洗浄した。その後、液体を吸引した。組織を覆うのに十分な量のPBS中の1M NaCl溶液を添加し、組織を、少なくとも1時間、最低30RPMで、室温で振動子上に置いた。その後、組織を覆うのに十分な量のPBSで組織をすすぎ、吸引してPBSを除去した。その後、組織を覆うのに十分なddH2Oで組織を2回リンスし、吸引してddH2Oを除去した。組織を覆うのに十分な量のデオキシリボヌクレアーゼ(DNase)+MgCl2溶液を加え、組織を少なくとも1時間、少なくとも25RPMで36~39℃の加熱震盪器に入れた。その後、DNase溶液を吸引した。その後、組織を覆うのに十分なDDH2Oで組織を2回リンスし、各洗浄後に吸引した。次に、組織を覆うのに十分な量のPBS及び抗生物質溶液で組織をすすぎ、細菌を除去した。組織を室温、30RPMで30~60分間振動子上に置き、PBS及び抗生物質溶液を吸引した。ハンクス平衡塩溶液(HBSS)及び抗生物質溶液を調製した。組織をプラスチックチューブに入れ、十分な量のHBSS及び抗生物質溶液を添加した。その後、再細胞化工程まで組織を4℃で保存した。
【0078】
この段階以降のいかなる時点で、αガラクトースは、脱細胞化した組織をPBSで2回洗浄し、PBSに100ユニット/L(75~200ユニット/L)で溶解したインゲン豆αガラクトシダーゼに、回転子上で2~6℃で24時間浸漬することにより、場合によっては、切断することができる。24時間後、組織をPBSで2回洗浄し、PBSと抗生物質に移して保存する。
幹細胞培養:患者から幹細胞を採取する際に、2つの方法を用いた。1つ目は、心臓手術のために胸骨切開を行った患者から胸骨血を採取する手法である。胸骨切開を行った後、0.1~0.5mLの胸骨血を吸引し、直ちに採取して処理に供する。75mL T25プラスチック製細胞培養平板に15mLの細胞培養用培地を入れ、37℃で培養する。その後、血液を培地に直接注入する。その後、フラスコを5.0% CO2で37℃のインキュベーターに入れる。翌日、培地を吸引し、平板を15mLのPBS で洗浄する。その後、PBSを吸引し、15mLの培地をフラスコに添加する。その後、3日ごとに培地を交換し、最適な増殖条件を得る。フラスコが100%コンフルエンスに達したら、細胞をフラスコから取り出し、複数のフラスコに分割して、より多くの細胞を増殖させることができる。
2つ目の方法は腸骨稜から血液を採取する方法である。腸骨穿刺を行い(外科的処置は必要ない)、骨髄を吸引する。その後、Ficoll(登録商標)溶液を用いて血液をその成分に分離する。血液を等量のダルベッコ改変イーグル培地:栄養混合物F-12(DMEM)培地で希釈する。その後、血液及び培養培地混合物20mLをFicoll(登録商標)15mLの上に混合しないように重ねる。その後、試料を遠心分離機に入れ、40分間遠心する。完了後、バフィーコートを除去し、上記の胸骨全血と同様に直接平板培養する。培地交換の間隔とプロトコルは、上記と同様である。
十分な数の細胞が培養されると、培養平板から取り出す。再細胞化する前に、脱細胞化された弁又は弁材料を24時間培養液に移す。コンフルエントになった平板をインキュベーターから取り出し、平板を覆うのに十分な量のPBSで洗浄する。その後、PBSを除去する。各平板にTrypLE(登録商標)10xを1~3mmずつ平板全体を覆うように加え、付着した間葉系幹細胞を平板から浮き上がらせる。本発明者らは、TrypLE(登録商標)1x~10xを用いうると予測する。その後、平板をインキュベーターに戻し、光学顕微鏡で細胞が平板から浮き上がったことが確認されるまで維持する。細胞が浮き上がったら、同量のDMEM培養液を平板に加える。細胞を含む溶液を回収し、50mLコニカルチューブに入れる。その後、試験管を300~500gで10~20分間、2~8℃で遠心分離する。遠心分離が完了すると、チューブの底に細胞が目に見えるペレット状になっているはずである。その後、細胞を乱すことなく、できるだけペレットの近くまで溶液を吸引する。その後、細胞を10~25mLのPBSで洗浄して、残存するTrpyLE(登録商標)及びDMEMをすべて除去し、反転して混合し、ペレットをほぐした後、上記と同じ設定で再度遠心分離する。遠心分離終了後、溶液を再度ペレットまで吸引する。その後、(細胞の数及び再細胞化される組織のサイズに応じて異なる公知の方法により)細胞をDMEM培地に再懸濁する。その後、組織を培地及び細胞と共に回転子上で、37℃8~16時間インキュベートする。再細胞化後の組織は、直ちに用いるか、グルタルアルデヒド溶液を用いて固定することができる。
再細胞化の間、本発明者らは、DMEM F12の40mL(約500,000細胞/mL)中で約2000万個の細胞中で脱細胞化組織骨格を12時間インキュベートした。本発明者らは、8~16時間、すなわち10~14時間の間のインキュベーション時間は、免疫適合性を提供するのに十分な脱細胞化された組織骨格の被覆が提供されることを予測する。インキュベーション時間は、脱細胞化組織骨格の被覆率を最適化するように選択される。培地を変化させず、12時間後に、本発明者らは、細胞の死滅が始まることを見出した。本発明者らは、より長いインキュベーション、かつより短いインキュベーションには、細胞濃度を高める必要があると予測する。本発明者らは、8時間のインキュベーションのために、40mLのDMEM F12に、2,500万~3,000万個の細胞、又は625,000~750,000個/mLの細胞濃度が必要とされうることを予測する。本発明者らは、16時間のインキュベーションでは、細胞の死滅が始まる可能性があり、従って、細胞死を考慮すると、2,0~2,500万個の細胞、又は50,000~625,000個/mL細胞濃度が必要とされうることを予測する。本発明者らは、適用範囲を最大限に提供するため、12時間が好ましいインキュベーションの長さであることを見出した。
本発明者らによって、いくつかの概念実証実験が発明者によって実施されており、さらに多くの実証実験が現在実施されている。未変性の脱細胞化、再細胞化された組織を、ヒトの生体外モデル及びラットの生体モデルで血液に曝露させた。これらの実験の結果、脱細胞化された組織マトリクスによる炎症誘発性サイトカイン(免疫系エフェクター)が有意に減少し、かつ、再細胞化された骨格ではさらに有意に減少することが示された。本発明者らは、先行研究及び文献で利用可能な研究に基づいて、ヒト心膜及びブタ大動脈弁尖が同様の結果を示すことを予測する。