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特開2022-134147スノープラウの道路段差回避システム、及びそれを備えた除雪車
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022134147
(43)【公開日】2022-09-15
(54)【発明の名称】スノープラウの道路段差回避システム、及びそれを備えた除雪車
(51)【国際特許分類】
   E01H 5/04 20060101AFI20220908BHJP
   E01H 5/06 20060101ALI20220908BHJP
【FI】
E01H5/04 D
E01H5/06 Z
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021033076
(22)【出願日】2021-03-03
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-08-19
(71)【出願人】
【識別番号】501028390
【氏名又は名称】国土交通省北陸地方整備局長
(71)【出願人】
【識別番号】391023518
【氏名又は名称】一般社団法人日本建設機械施工協会
(71)【出願人】
【識別番号】000158127
【氏名又は名称】岩崎工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】230124763
【弁護士】
【氏名又は名称】戸川 委久子
(72)【発明者】
【氏名】小泉 倫彦
(72)【発明者】
【氏名】小浦方 一彦
(72)【発明者】
【氏名】佐野 昌伴
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 政喜
(72)【発明者】
【氏名】清水 康史
(72)【発明者】
【氏名】坂井 大輔
【テーマコード(参考)】
2D026
【Fターム(参考)】
2D026CD00
(57)【要約】
【課題】操縦者の技量によらず、積雪した道路上の段差の位置において、スノープラウを適切な一定の高さに上昇させることができるスノープラウの道路段差回避システム、及びそれを備えた除雪車を提供すること。
【解決手段】懸架装置を有する除雪車1の前方に設けられたスノープラウ2と、昇降装置3と、制御部6とが設けられ、昇降装置3には、車両とスノープラウ2とを接続する接続部材(3b、3c、3d、3f)と、油圧シリンダ3aと、油圧シリンダ3a内の油圧情報を出力する圧力センサ3eとが備えられ、制御部6の演算部6bが、スノープラウ2が地面から浮上する際の油圧上昇特性の変化を検知することによって、スノープラウ2の地面からの浮上を認識し、スノープラウ2が地面から浮上した後所定の時間経過後に、制御部6の駆動部6bが油圧シリンダ3aの動作を停止するようにした。
【選択図】 図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
懸架装置を有する除雪車に用いられるスノープラウの道路段差回避システムであって、
前記除雪車には車両前方に設けられたスノープラウと、前記スノープラウを昇降する昇降装置と、前記昇降装置を制御する制御部とが設けられ、
前記昇降装置には、車両とスノープラウとを接続する接続部材と、前記接続部材を介してスノープラウを昇降させる油圧シリンダと、前記油圧シリンダ内の油圧を計測して油圧情報として出力する圧力センサとが備えられ、
前記制御部の演算部が、スノープラウ上昇過程において、前記油圧情報に基づいてスノープラウが地面から浮上する際の油圧上昇特性の変化を検知することによって、スノープラウの地面からの浮上を認識し、
スノープラウが地面から浮上した後所定の時間経過後に、制御部の駆動部が油圧シリンダの動作を停止することを特徴とする、スノープラウの道路段差回避システム。
【請求項2】
前記接続部材は、車両前方に一端が回動自在に連結され他端がスノープラウと接合されたアーム部材と、前記アーム部材又はスノープラウをチェーンを介して吊下するビーム部材とからなり、
前記スノープラウ上昇過程において、前記制御部の演算部が、昇降装置のチェーンが弛緩状態から緊張状態に至った後スノープラウが地面から浮上する間の油圧上昇特性から傾き値を演算し、前記傾き値が予め設定された閾値を下回ったときにスノープラウの地面からの浮上を認識することを特徴とする、請求項1に記載のスノープラウの道路段差回避システム。
【請求項3】
前記接続部材は、車両前方に一端が回動自在に連結され他端がスノープラウと回動自在に連結されたリンク部材からなり、
前記油圧シリンダのロッド部にはコイルスプリングが配設され、
前記スノープラウ上昇過程において、前記制御部の演算部が、昇降装置のコイルスプリングが密着状態に至った後スノープラウが地面から浮上する間の油圧上昇特性から傾き値を演算し、前記傾き値が予め設定された閾値を下回ったときにスノープラウの地面からの浮上を認識することを特徴とする、請求項1に記載のスノープラウの道路段差回避システム。
【請求項4】
前記傾き値は、一定時間間隔ごとに計測された油圧情報のうち、所定の時間分ごとに移動平均処理した値に基づいて演算されることを特徴とする、請求項2又は3に記載のスノープラウの道路段差回避システム。
【請求項5】
前記スノープラウの上昇過程は、操縦者が操作手段を操作することにより開始し、
スノープラウが地面から浮上した後前記制御部の駆動部が油圧シリンダの動作を停止するまでの時間を、操縦者が設定時間別の複数の操作手段から任意の操作手段を選択することにより、または別個の設定時間調整手段を操作することにより調整することができることを特徴とする、請求項1~4の何れかに記載のスノープラウの道路段差回避システム。
【請求項6】
衛星測位システムから前記除雪車の位置情報を取得し、予め設定された位置またはその近傍に到達したときに操縦者に段差回避を指示する指示手段を有することを特徴とする、請求項1~5の何れかに記載のスノープラウの道路段差回避システム。
【請求項7】
前記位置情報を取得し、予め設定された位置またはその近傍に到達したときにスノープラウの上昇過程を開始することを特徴とする、請求項6に記載のスノープラウの道路段差回避システム。
【請求項8】
前記請求項1~7の何れかに記載のスノープラウの道路段差回避システムを備えた除雪車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積雪した道路の段差部において、除雪車のスノープラウを一定量上昇させて段差を回避することができるスノープラウの道路段差回避システム、及びそれを備えた除雪車に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般車両が走行する道路上には、例えば橋梁のつなぎ目やマンホール等の段差が数多く存在している。これらの段差は乗用車のタイヤで乗り上げたとしてもさほど大きな衝撃を受けるものではなく、走行上さしたる問題となることはない。
【0003】
しかし、積雪時に道路を除雪する除雪車にとっては、これらの道路上の段差は、たった2cm程度の段差であったとしても操縦者の生命や車両損壊の危険源となる。
特に、前方にスノープラウを配置して道路の路面が現れるように新雪を除雪することを目的とする除雪トラックにおいては、重機による除雪と比べて速い速度で走行しながら除雪する。とりわけ、高速道路における除雪作業では40km/hを超える速度で除雪することもあるため、スノープラウのエッジが段差に引っ掛かると、操縦者や車両に大きな衝撃が加わり、操縦者の大怪我や除雪設備の破損につながる。
【0004】
この点、チェーン吊り下げ式や、スノープラウを自重降下させるリンク式又は平行リンク式の除雪トラックにおいては、手動でスノープラウを昇降する昇降装置を備えており、道路上の段差を発見した際には、スノープラウ全体を上昇させることで段差を回避することが可能である。
【0005】
しかし、上記除雪トラックの場合、上昇のために昇降装置を作動させても、スノープラウを吊下しているチェーンが緊張状態となるまでは、或いはスノープラウを地面の不陸に追従させるためのコイルスプリングが圧縮しきって密着するまでは、スノープラウが地面から浮上しない仕組みとなっている。そのため、上昇操作時点におけるチェーンの弛張状態やコイルスプリングの圧縮状態によって昇降装置の作動量の微妙な増減調整が必要となるが、昇降装置の作動は高速であるため、この微妙な調整の操作には経験に基づく技能を要する。
【0006】
昨今においては、新たな操縦者の成り手不足も相まってこのような熟練した技能を持つベテランの操縦者の減少が顕著であり、作業経験の浅い操縦者がこれらの技能を習熟する間もないまま現場での作業に携わらざるを得ない事情がある。
【0007】
このような状況にあって、前述のように昇降装置によりスノープラウを上昇させて道路上の段差を回避する場合、作業経験の浅い操縦者の場合には、必要以上にスノープラウを上昇させて残雪が多くなったり、上昇量が不足してカッティングエッジを段差に引っ掛けてしまったりすることが頻発し、作業安全上問題があるだけでなく作業効率上も支障があった。
【0008】
一方、積雪した道路は、降り積もった雪により道路の段差を視認することができない場合が多い。そのため、道路の段差の位置を予め把握しておかなければならず、昇降装置を操作するタイミングは操縦者が記憶に頼るか、段差の有無を記載した地図を見ながらの運転を強いられていた。
【0009】
ところで、除雪に関連する分野におけるスノープラウ等の上昇量を制限する従来技術としては、上昇するスノープラウによってリミットスイッチを押下して上昇を停止する技術や(特許文献1参照)、除雪機のオーガを昇降する油圧シリンダのモータ駆動時間をタイマーによって制限することにより、オーガの上昇量を一定にする技術が開発されている(特許文献2参照)。
【0010】
また、積雪時の道路上の障害物を検知する従来技術としては、道路上の障害物を電波、超音波や赤外線等を用いて検知し、ブレードを自動で上昇させる技術や(特許文献3参照)、道路上に予め配置した発信機からの信号を受信し、ブレードを自動で上昇させる技術が開発されている(特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】実開昭51-101627号公報
【特許文献2】特開2003-105729号公報
【特許文献3】実開平1-160014号公報
【特許文献4】特開2000-17626号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかし、特許文献1の技術ではスノープラウを一定の上昇量にしかできないため、あらゆる段差を確実に回避するためには上昇量は予め高めに設定せざるを得ず、回避すべき段差が小さな段差であったとしても過度に高く上昇させてしまい、残雪を多く発生させてしまうという問題がある。
【0013】
また、特許文献2の技術では、モータの駆動時間で制限するため、スノープラウを上昇させる際にチェーンが大きく弛緩している状態ではスノープラウの上昇量は低くなり、チェーンがすでに緊張している状態ではスノープラウが高く上昇することになる。そのため、スノープラウの上昇量がチェーンの弛張状態の影響を受けてしまうという問題がある。
それに加えて、カッティングエッジは除雪作業により徐々に摩耗し長さが減少していくため、タイマーで上昇量を制限するとカッティングエッジの減少量の影響も受けてしまう。
【0014】
一方、特許文献3の技術では、路面の積雪や路面状態の影響により、照射した電波等が表面で反射あるいは積雪内部で減衰してしまうため、検知漏れや誤検知が発生しやすく、回避すべき段差を適切に検知することができないという問題がある。
【0015】
また、特許文献4の技術では、予め路面の段差の箇所に発信機を設置しておかなければならず、設置作業や電源の確保、維持管理に手間とコストが掛かるという問題がある。
【0016】
本発明は、上記の如き問題に鑑みて為されたものであり、その目的とするところは、操縦者の技量によらず、積雪した道路上の段差の位置において、スノープラウを適切な一定の高さに上昇させることができるスノープラウの道路段差回避システム、及びそれを備えた除雪車を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
(全体構成)
本発明者が上記課題を解決するために採用した手段は以下のとおりであり、本発明は、懸架装置を有する除雪車両に用いられるスノープラウの道路段差回避システム(以下、「段差回避システム」)、及びそれを用いた除雪車である。すなわち、本発明のシステムは、リーフサスペンション等の懸架装置を少なくとも前輪に備えた除雪車に用いるものである。
【0018】
前記除雪車には、車両前方に設けられたスノープラウと、前記スノープラウを昇降する昇降装置と、前記昇降装置を制御する制御部とを設けている。
このスノープラウは、車両が前進することでカッティングエッジによって掻き取られた雪、特に比較的軽い新雪をスノープラウの斜面に沿って横方向に押し流し、道路の路肩に寄せ集めることで道路を除雪するものである。
【0019】
(昇降装置の構成)
前記昇降装置には、車両とスノープラウとを接続した接続部材と、前記接続部材を介してスノープラウを昇降させる油圧シリンダと、前記油圧シリンダ内の油圧を計測して油圧情報として出力する圧力センサとを備えている。
【0020】
前記接続部材は、車両前方に一端が回動自在に連結され他端がスノープラウと接合されたアーム部材と、前記アーム部材又はスノープラウをチェーンを介して吊下するビーム部材とから構成することが好ましい。
また、車両前方に一端が回動自在に連結され他端がスノープラウと回動自在に連結されたリンク部材から構成することもできる。前記リンク部材は非平行な上下のリンク部材から構成することができるが、上下のリンク部材を平行なものとしてもよい。なお、リンクを用いた構成の場合には、前記油圧シリンダのロッド部の先端に、地面の不陸にスノープラウを追従させるためのコイルスプリングが配設される。
【0021】
チェーンを用いた構成では、油圧シリンダを伸長させ、ビーム部材の地面に対する角度が大きくなると、ビーム部材から吊下したチェーンが弛緩状態から緊張状態となり、チェーンと接続されたアーム部材の先端部が持ち上がる。その結果、アーム部材の先端に固定されたスノープラウが地面から浮上することとなる。なお、チェーンはスノープラウに直接固定することもできる。
【0022】
リンクを用いた構成では、油圧シリンダを伸長させ、リンク部材の地面に対する角度が大きくなると、油圧シリンダのロッド部に配設されたコイルスプリングが圧縮されてやがて密着状態となり、油圧シリンダのロッド部と接続されたリンク部材の先端部が持ち上がる。その結果、リンク部材の先端に固定されたスノープラウが地面から浮上することとなる。
【0023】
ここで、バケットやスノープラウが自重降下となっていないホイールローダー等においては、スノープラウ等を接地するために昇降装置を降下させると、昇降装置の降下力がスノープラウ等を地面に押し付けて、その反発力により車両の前輪が浮上してしまうこととなる。それ故、このような形式の除雪車においては、除雪の際にはスノープラウ等を路面から若干浮上させて走行するのが一般的であり、残雪が常に少なからず発生してしまう。
【0024】
しかし、本発明が用いられる除雪車は、油圧シリンダの伸長開始からスノープラウ浮上開始までにいわゆる遊びを有する構成の昇降装置を備えたものであるため、油圧シリンダの伸縮による力がスノープラウに直ちに加わることがない。そのため、スノープラウを路面に接地した状態で除雪を行っても、スノープラウをその自重以上の力で路面に押し付けることはない。
したがって、本発明が用いられる除雪車は、スノープラウを地面に接地すると除雪車の前輪が浮いてしまうホイールローダー等とは異なり、安全に路面を露出させるように除雪することができるものである。
【0025】
(スノープラウの地面からの浮上の認識過程)
前記制御部の演算部は、スノープラウ上昇過程において、前記油圧情報に基づいてスノープラウが地面から浮上する際の油圧上昇特性の変化を検知することによって、スノープラウの地面からの浮上を認識する。
【0026】
浮上の認識の過程を詳述すると、まず、油圧シリンダが伸長を開始した状態においては、油圧シリンダに掛かる負荷は、主にロッド部の伸長の抵抗や接続部材の自重に対するものであり、これらはロッド部の伸長に伴って変化するものではないため、油圧シリンダの伸長に要する油圧は略一定である。
チェーンを用いた構成においては、ビーム部材が弛緩したチェーンを緊張状態とするまでの間であり、リンクを用いた構成においては、コイルスプリングが密着するまでの間である。なお、コイルスプリングのバネ定数は比較的小さいものであり、コイルスプリングによる油圧の比例分は無視できる程度である。
【0027】
しかし、油圧シリンダが伸長して、接続装置及びスノープラウを上昇させようとすると、スノープラウ及びそれに積載された雪の重量と平衡を保とうとして、車両の主に前輪の懸架装置が沈下を始めることとなる。そのため、油圧シリンダには所定のバネ定数を有する懸架装置の沈下に伴う反力が作用し、沈下量に比例して油圧が上昇することとなる。
チェーンを用いた構成においては、チェーンが緊張状態となった状態であり、リンクを用いた構成においては、コイルスプリングが密着した状態である。
【0028】
そして、懸架装置が完全に沈下すると懸架装置はそれ以上沈下できないため、スノープラウが地面から浮上を開始する。浮上後の油圧シリンダに作用する力は、主に懸架装置の反力、スノープラウ及びそれに積載された雪の重量を支える力等の合力であり、油圧シリンダのロッド部の伸長に関わらず一定であるため、油圧シリンダのそれ以降の伸長に要する油圧は一定となる。
【0029】
このように、スノープラウの地面からの浮上の過程において、油圧シリンダの油圧上昇特性が、懸架装置の沈下時には時間とともに油圧が比例する特性を示し、スノープラウが地面から浮上すると油圧が一定になるという変化を利用して、スノープラウの地面からの浮上を認識するものである。
【0030】
上記油圧上昇特性の変化の認識手段の好適なものとしては、前記制御部の演算部が、懸架装置の沈下時の油圧上昇特性から傾き値を演算し、前記傾き値が予め設定された閾値を下回ったときにスノープラウの地面からの浮上を認識する構成とするのが好ましい。
【0031】
チェーンを用いた構成においては、昇降装置のチェーンが弛緩状態から緊張状態に至った後、スノープラウが地面から浮上する間の油圧上昇特性から傾き値を演算し、前記傾き値が予め設定された閾値を下回ったときにスノープラウの地面からの浮上を認識する構成とするのが好ましい。
また、リンクを用いた構成においては、昇降装置のコイルスプリングが密着状態に至った後、スノープラウが地面から浮上する間の油圧上昇特性から傾き値を演算し、前記傾き値が予め設定された閾値を下回ったときにスノープラウの地面からの浮上を認識する構成とすることも可能である。
【0032】
スノープラウが地面から浮上した後の油圧シリンダの負荷は、スノープラウに積載している雪の量によって絶対値が異なるため、浮上後の具体的な油圧の値でスノープラウの地面からの浮上を判断すると、積載量を加味して閾値の範囲を広くせざるを得ず、誤認識が起こりやすくなる。
しかし、懸架装置の沈下中の油圧上昇特性における傾き値を利用する場合には、雪の積載量等によって傾き値が変動したとしても、閾値との比較で誤認識することはない。
【0033】
また、前記傾き値は、一定時間間隔ごとに計測された油圧情報のうち、所定の時間分ごとに移動平均処理した値に基づいて演算されるのがより好ましい。
油圧センサから出力される油圧情報には脈動によるノイズが含まれるため、サンプリングごとの油圧の値を用いて浮上の判断を行うと、誤認識の恐れがある。しかし、移動平均値を用いることで、複数のデータに含まれる異常値の影響を小さくすることができるためである。
【0034】
そして、スノープラウが地面から浮上した後所定の時間経過後に、制御部の駆動部が油圧シリンダの動作を停止する構成としている。油圧シリンダの動作を停止するまでの時間は、移動平均処理のデータ数の選択によって設定することができる。
移動平均処理は、過去に取得したN個分の値によって平均値を求めるため、N数が多くなると平均値の変動の遅れが大きくなり、スノープラウの地面からの浮上を認識したタイミングは、実際に浮上したタイミングよりも幾分遅くなる。これを利用して、移動平均処理のN数によってスノープラウの上昇量を変化させることができる。
【0035】
また、油圧シリンダの動作を停止するまでの時間は、タイマーによって設定することもできる。
【0036】
(スノープラウの上昇過程の開始手段)
道路の段差を回避する際には、常に一定速度で段差を通過する場合以外にも、段差の直前で速度を落として走行する場合もあるため、操縦者が任意のタイミングでスノープラウを上昇させることが必要になる場合がある。
そのため、前記スノープラウの上昇過程は、操縦者が操作手段を操作することにより開始するように構成することもできる。
【0037】
また、段差の高さは箇所によって異なるため、段差ごとにスノープラウの上昇量を選択したい場合もある。
この場合、スノープラウが地面から浮上した後、前記制御部の駆動部が油圧シリンダの動作を停止するまでの時間を、操縦者が設定時間別の複数の操作手段から任意の操作手段を選択してスノープラウの上昇過程を開始することもできる。
また、スノープラウの上昇過程を開始する操作手段とは別個の設定時間調整手段を操作することにより、スノープラウの上昇量を所定量ごとに、あるいは無段階で調整することも可能である。
【0038】
(道路段差位置の指示手段)
一方、道路上の段差の位置を操縦者が予め把握しておくことは、段差の箇所が多いほど困難である。そのため、衛星測位システムから前記除雪車の位置情報を取得し、予め設定された位置またはその近傍に到達したときに操縦者に段差回避を指示する指示手段を有する構成とすることもできる。
【0039】
このような構成により、操縦者は、除雪作業中は走行及び積雪状況に集中しているが、段差のある個所で自動的に指示を受けることで任意のタイミングでスノープラウを上昇する操作を行うこととなる。
【0040】
(スノープラウの上昇の自動化手段)
また、段差位置でのスノープラウの上昇操作そのものを自動化するため、前記位置情報を取得し、予め設定された位置またはその近傍に到達したときにスノープラウの上昇過程を開始するように構成することもでき、自動と手動とを切り替えることも可能である。
この場合、走行速度に応じて、除雪車の位置と段差の位置とから、スノープラウの上昇を開始する最適なタイミングを演算して調整できるようにするのがより好ましい。
【発明の効果】
【0041】
(油圧上昇特性の変化により判断する構成とした効果)
本発明では、油圧上昇特性の変化を検知することによって、スノープラウの地面からの浮上を認識し、所定の時間経過後に油圧シリンダの動作が停止するという手段を採用したことにより、タイマーによる時間経過による判断とは異なり、実際にスノープラウが地面から浮上したことを油圧情報から認識することができる。そのため、チェーンの弛張状態やコイルスプリングの圧縮状態等の遊びの程度や、カッティングエッジの摩耗量に関わらず、安定して一定量スノープラウを上昇させることができるという効果がある。
【0042】
(傾き値により判断する構成とした効果)
また、移動平均処理した油圧情報を用いることで脈動ノイズを除去することができるうえ、懸架装置の沈下中の油圧上昇特性の傾き値によってスノープラウの地面からの浮上を判断することにより、スノープラウの雪の積載量や上昇速度の影響により油圧上昇のピーク値が増減した場合であっても、傾き値への影響は少ないため、誤認識することなく安定した浮上の判断が可能である。
【0043】
(操作手段により上昇を開始する構成とした効果)
スノープラウの上昇開始においては、操縦者が操作手段を操作することで上昇を開始する構成とすることにより、除雪車の走行速度に応じて、操縦者の任意のタイミングでスノープラウを上昇させることができ、段差周辺の残雪の発生を最小限に抑えることができる。
【0044】
また、設定時間別の操作手段を設けることにより、回避すべき段差の高さに合わせて、操縦者が任意の上昇量の操作手段を選択して操作することができる。これにより、段差ごとに最適な上昇量でスノープラウを上昇させることができ、残雪を最小限に抑えることができる。
【0045】
上昇量の選択においては、スノープラウの上昇を開始する操作手段とは別個に、スノープラウの上昇時間の設定を所定量ごとに、あるいは無段階で調整することができる設定時間調整手段を設けることにより、よりきめ細かい上昇量の調整が可能となり、残雪の発生をより効果的に抑制することができる。
【0046】
(道路段差位置の指示手段を設ける構成とした効果)
一方、衛生測位システムからの位置情報に基づいて段差の位置や、近傍に段差があることを操縦者に指示する指示手段を設けたことにより、操縦者は段差の位置を予め記憶し、あるいは段差位置を表示した地図を確認しながら走行する必要がない。そのため、走行や積雪状況に集中することができ、操縦者や一般公衆の安全を確保することができる。
【0047】
(スノープラウの上昇を自動化する構成とした効果)
また、衛生測位システムからの位置情報に基づいて、除雪車が段差位置に到達したときに自動的にスノープラウの上昇過程を実行することで、操縦者は段差の回避の操作を何ら行う必要が無くなるため、段差の存在をほとんど意識することなく走行や積雪状況に集中することができ、作業の安全をより確実なものとすることができる。
【0048】
このように、本発明は懸架装置を有するチェーン式の除雪車において、スノープラウを適量上昇させて段差を回避するという操作を熟練の技能に依存することなく、誰でも容易、かつ、確実に行うことができるようにするものであり、除雪作業に携わる者の負担を大きく軽減し、交通インフラの維持に多大な貢献をするものである。
【図面の簡単な説明】
【0049】
図1】本発明の実施例1における除雪車及び昇降装置を表わす側面図及び部分拡大図である。
図2】本発明の実施例1における段差回避システムのブロック図である。
図3】本発明の実施例1における段差回避システムのフローチャートである。
図4】本発明の実施例1におけるスノープラウ上昇の過程を表す説明図である。
図5】本発明の実施例1における油圧上昇特性を表すグラフである。
図6】本発明の実施例2における除雪車及び昇降装置を表わす側面図及び部分拡大図である。
図7】本発明の実施例2におけるスノープラウ上昇の過程を表す説明図である。
図8】本発明の実施例3及び4における段差回避システムを表す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0050】
(実施例1)
本発明の実施例1について、図1図5に基づいて以下に説明する。
【0051】
(除雪車の全体構成)
本実施例の除雪車1は、図1に示すように、車両前方にスノープラウ2を設けた除雪トラックであり、除雪車1の前輪にはリーフサスペンションからなる懸架装置4が設けられている。この懸架装置4は走行中に道路から伝わる振動を軽減し、乗り心地の向上や衝撃から操縦者を守る役割がある。本実施例では懸架装置4にリーフサスペンションを採用した除雪トラックを用いているが、この他にもエアサスペンションを採用した除雪トラックであってもよい。
【0052】
本実施例のスノープラウ2は、進行方向に対して右側の一端が、左側の一端よりも前方に傾いた形状をしており、車両が前進することでカッティングエッジ2aによって掻き取られた新雪をスノープラウ2の斜面に沿って左方向(歩道側)に押し流し、道路の路肩に寄せ集めることができるようになっている。
【0053】
本実施例では、カッティングエッジ2aにウレタン製のものを用いており、段差による衝撃が比較的軽減される反面、雪を掻き取るたびに先端が摩耗するため、残雪を発生させないようにするためには、スノープラウ2の位置を徐々に下げていかなければならない。なお、カッティングエッジ2aにスチール製のものを用いることもでき、この場合はウレタン製と比べて段差による衝撃が大きい反面、摩耗はしにくい。しかし、いずれも摩耗によってスノープラウ2の位置を微調整しなければならない点は共通している。
【0054】
このような構成のスノープラウ2は、昇降装置3によって上下に昇降させることが可能になっている。これにより、道路上に橋梁のつなぎ目やマンホール等の段差を発見した場合には、操縦者が車内で操作することによりスノープラウ2を若干上昇させて段差を回避し、回避後は再度スノープラウ2を降下させて接地させることで道路の除雪を継続する。
そのため段差の前後では若干の雪を残すこととなるが、スノープラウ2の上昇量が多すぎると残雪が多く発生してしまい、一般車両の走行時に支障がでる。
【0055】
(昇降装置の構成)
本実施例の昇降装置3は、図1の拡大図に示すように、車両前方に一端が枢支され他端がスノープラウ2と接合されたアーム部材3cが設けられており、スノープラウ2が受けた雪による荷重をアーム部材3cが支えている。
また、アーム部材3cは、金属製のチェーン3dを介してビーム部材3bから吊下されており、このビーム部材3bは油圧シリンダ3aのロッド部が伸縮することによって昇降する。すなわち、油圧シリンダ3aのロッド部を伸長すると、ビーム部材3bの先端が上昇し、それに伴ってチェーン3dを介してアーム部材3c及びそれに接合されたスノープラウ2が上昇することとなる。
【0056】
このように、弛緩していたチェーン3dが緊張するまでに要するストローク分が遊びとなるため、油圧シリンダ3aの伸縮の力が直ちにスノープラウ2に加わることがなく、油圧シリンダ3aのロッド部が伸長を開始したとしても、チェーン3dが緊張するまではスノープラウ2は地面から浮上することがない。
【0057】
また、油圧シリンダ3aの油圧ラインには、シリンダ内の油圧を電圧としてアナログ出力するための圧力センサ3eが取着されている。この圧力センサ3eには、ダイヤフラムが変形して発生するピエゾ抵抗効果(導体に機械的な力が加わることで、電気抵抗値が変わること)による電気抵抗の変化を用いるピエゾ型のセンサや、ガラスの固定極と対向配置したシリコンの可動極が変形して発生する静電容量(電極板間に貯えられる電荷の量)の変化を用いる静電容量形等のセンサを用いることができる。
【0058】
(段差回避システムの構成)
本実施例の段差回避システムSは、図2に示すように、運転席の操縦者が操作手段5を操作することにより、制御部6の駆動部6aが油圧シリンダ3aを動作させる構成となっている。また、油圧シリンダ3aの油圧ラインに設けられた圧力センサ3eから出力される油圧情報はアナログの電圧値として制御部6の演算部6bに受け渡す構成となっている。そして、演算部6bにおける演算結果に基づき、駆動部6aの動作を制御する構成となっている。
【0059】
本実施例の操作手段5は、スノープラウ2の上昇量ごとに予め3種類の操作手段が準備されており、スノープラウ2を例えば約2cm上昇させる低上昇量操作手段5aと、約10cm上昇させる中上昇量操作手段5bと、約20cm上昇させる高上昇量操作手段5cとを備えている。
操縦者は、回避すべき段差の高さに応じて、いずれかの操作手段5を選択して操作することができる。なお、本実施例では3種類の操作手段5を設けているが、数や上昇量は適宜選択することができる。
【0060】
制御部6は、油圧シリンダ3aを駆動するための駆動部6aと、駆動部6aの駆動制御のための演算を行う演算部6bとからなる。駆動部6aは油圧シリンダ3aの油圧バルブを開閉するためのドライバであり、操作手段5が操作されたことを検知してバルブを開き、スノープラウ2を上昇させる。
【0061】
また、演算部6bは、操作手段5のいずれの上昇量が選択されたかを取得するとともに、除雪車1の起動中は、常時油圧シリンダ3aの圧力センサ3eから出力される油圧情報である電圧値を一定のサンプリング周期で取得する構成となっている。この油圧情報に基づいて、後述する認識過程によりスノープラウ2が地面から浮上したことを演算して認識し、操作手段5によって選択された上昇量の分だけスノープラウ2を上昇させて停止するように駆動部6aに指示を出す。
【0062】
(スノープラウの地面からの浮上の認識過程)
ここで、本実施例の段差回避システムSによる、スノープラウ2の地面からの浮上の認識過程について、図3に基づいて説明する。
図3(a)は、油圧シリンダ3aの圧力センサ3eから出力される油圧情報に基づいて、油圧上昇特性における油圧上昇の傾き値を演算するフローチャートであり、除雪車1が起動中は常時このフローが繰り返されている。
また、図3(b)は、操作手段5が操作されたことにより開始するフローであり、常時演算されている前記傾き値を用いて、スノープラウ2が地面から浮上したか否かを判定するフローチャートである。
【0063】
まず、図3(a)のフローにおいて、演算部6bは、一定のサンプリング周期が経過すると、圧力センサ3eから送られてくる油圧情報としてのアナログの電圧値をA/D変換して内部に取り込む。本実施例では脈動ノイズを除去するローパスフィルタの役割も兼ねて20msとしているが、この値は適宜選択することができる。
【0064】
次に、取得した油圧情報を移動平均処理する。移動平均処理のN数は操作手段5のいずれの上昇量が選択されたかにより場合分けされ、上昇量に比例してN数が多くなるように予め設定されている。
すなわち、移動平均処理は、過去に取得したN個分の値によって平均値を求めるため、N数が多くなると平均値の変動の遅れが大きくなり、スノープラウ2の地面からの浮上を認識したタイミングは、実際に浮上したタイミングよりも幾分遅くなる。これを利用して、移動平均処理のN数によってスノープラウ2の上昇量を変化させることができる。
【0065】
そして、移動平均処理した値を現在値、1サンプリング前に移動平均処理した値を過去値として「(現在値-過去値)/サンプリング周期」の式により傾き値を演算する。
除雪車1の起動中は、この動作を繰り返し、サンプリング周期ごとに傾き値を演算する動作を繰り返している。
【0066】
上記図3(a)のフローを繰り返している状態において、操作手段5が操作された場合、図3(b)のフローが実行される。以下では、図4の段差回避の過程を表す説明図及び図5の油圧上昇特性の図を適時参照しながら説明する。
まず、図3(b)のフローにおいて、演算部6bは、操作手段5からの操作を検知すると、強制タイマーのカウントを開始するとともに、駆動部6aに油圧シリンダ3aのロッド部を伸長させる指示を出し、ロッド部を伸長させる。強制タイマーは、油圧シリンダ3aのロッド部が伸長を開始した直後の不安定な油圧情報で誤認識することを防ぐために設けられている。
【0067】
そして、強制タイマーが一定時間経過すると、その時点の図3(a)のフローで移動平均処理した現在値が、規定の上限値を超えていないかどうかを判断する。上限値はスノープラウ2が過積載となったり、固定物に引っ掛かる等の異常があったりした場合に、スノープラウ2の上昇を強制的に停止するための安全措置である。本実施例では4000mVに設定されている。
【0068】
次に、現在値が、規定の下限値を下回っていないかどうかを判断する。油圧シリンダ3aが伸長を開始した段階では、図4(a)に示すように、チェーン3dは弛緩した状態である。したがって、油圧シリンダ3aのロッド部が伸長するのに必要な力は、ロッド部の伸長の摩擦やビーム部材3b等の重量等の固定値のみである。そのため、シリンダ内の圧力は、図3のaの範囲に示すようにほぼ一定となる。
下限値はこの一定値よりもやや低い値に設定しておき、例えば何らかの原因でシリンダに引っ張りの力が作用していた場合に、強制タイマーの規定時間を経過しても油圧が一定値に達していない場合等に、強制的にシリンダの伸長を継続するように配慮しているものである。本実施例では1600mVに設定されている。
【0069】
現在値が上限値以下であり、かつ、下限値以上であった場合には、傾き値が閾値以下であるかどうかを判断する。ここで、油圧シリンダ3aのロッド部が伸長し、図4(b)のようにチェーン3dが緊張状態になったとき、油圧上昇特性は図5のbの点であり、これ以降は油圧が一定の角度で上昇を開始する。これは、図4(c)のように、チェーン3dが緊張状態となって遊びがなくなりスノープラウ2を上昇させようとすると、上昇の前に、除雪車1の懸架装置4が沈下を始めることによる。
【0070】
すなわち、懸架装置4を有しない車両の場合には、スノープラウ2はチェーン3dの緊張と同時に地面から浮上するため、油圧上昇特性は段階的なステップ応答となるのに対し、懸架装置4を有する本実施例の除雪車1では、懸架装置4がスノープラウ2の重量よりも低い荷重で沈下するバネ定数であるため、スノープラウ2の上昇の前にまず懸架装置4が沈下を開始する。
これにより、図5のcの範囲のように、油圧は一定の角度で上昇することとなる。
【0071】
懸架装置4が沈下しきると、図4(d)のようにスノープラウ2が地面から浮上する。このとき、懸架装置4のバネ定数、摩擦抵抗等及びシリンダ内の油や懸架装置4内の板バネ等の作用により過渡現象が生じ、図5のdの点におけるオーバーシュートが発生する。このオーバーシュートにより、油圧上昇特性の傾きは一時的にマイナスの傾きとなる。
【0072】
これを利用し、閾値を0または若干のマイナスの値としておくことで、オーバーシュートによる電圧値の降下を検出し、スノープラウ2が地面から浮上したことを認識することができる。
そして、浮上を認識したのち、演算部3bが油圧シリンダ3aのロッド部の伸長を停止するように駆動部6aに指令を出す。なお、この段階までの間に外的な振動等によって傾き値がマイナスを指す場合が生じるため、このようなノイズを除去するために、一定期間マイナスの傾きが継続した場合に浮上を認識するようにする等の方法を適用することもできる。
【0073】
このように、懸架装置4による油圧上昇特性の傾きを利用してスノープラウ2の地面からの浮上を認識することで、チェーン3dがどのような弛緩状態のときに上昇させるかに関わらず、或いはカッティングエッジ2aが摩耗して初期よりもスノープラウ2が降下した位置から上昇させる場合であっても、スノープラウ2の地面からの浮上のタイミングを安定して認識することができるため、スノープラウ2を容易な操作で一定量上昇させることが可能となる。
【0074】
なお、前述のとおり、移動平均処理のN数の選択により、電圧値の降下の検出のタイミングは実際のスノープラウ2の地面からの浮上のタイミングよりは遅れることになるため、その遅れ量に応じてスノープラウ2の地面からの上昇量を調整することができる。
また、移動平均処理のN数は固定とし、図3(b)において傾き値や閾値を下回った後に、タイマーを設けて所定の時間経過後に油圧シリンダ3aの伸長を停止することもできる。
【0075】
本実施例では上昇量ごとに低上昇量操作手段5a、中上昇量操作手段5b、高上昇量操作手段5cと個別の操作手段5を設けることにより操縦者が選択できるようにしているが、操作手段5とは別に、ロータリーボリュームやロータリーエンコーダ等の設定時間調整手段を設けることもできる。これにより、スノープラウ2の上昇量を所定量ごとに、あるいは無段階で調整することも可能である。
【0076】
以上のように、本実施例における段差回避システムS及びそれを用いた除雪車1においては、操縦者の熟練度に関わらず、操作手段5を操作するという簡単な操作により、確実に一定量スノープラウ2を上昇させることが可能となる。
【0077】
(実施例2)
本発明の段差回避システムSはチェーン式の除雪トラック以外の除雪車にも用いることができる。別の態様としての実施例2について、図6図7に基づいて以下に説明する。
【0078】
(除雪車の全体構成)
本実施例の除雪車1は、図6に示すように、除雪車1の前方に設けられた昇降装置3がリンク機構を採用したものである点が実施例1と異なっており、それ以外は実施例1同様である。そのため、重複する構成については説明を省略する。
【0079】
(昇降装置の構成)
本実施例の昇降装置3は、図6の拡大図に示すように、車両前方に一端が回動自在に連結され他端がスノープラウと回動自在に連結されたリンク部材3f・3fから構成されている。
リンク部材3f・3fは、本実施例では上側のリンク部材3fと下側のリンク部材3fとが平行に配置された平行リンク式を採用している。なお、スノープラウ2の先端を高く上昇させたい場合には、上下のリンク部材3f・3fの長さが異なる非平行のリンク式を採用することもできる。
【0080】
油圧シリンダ3aは、車両前方からスノープラウ2側に傾斜して配設され、油圧シリンダ3aの伸縮するロッド部が上側のリンク部材3fと連結されている。また、油圧シリンダ3aのロッド部の先端にはコイルスプリング3gが配設されている。
【0081】
コイルスプリング3gは先端側と根元側の2つのバネからなり、地面が不陸でスノープラウ2が上下に振動する場合において、スノープラウ2が上昇すると先端側のバネが圧縮されるとともに根元側のバネが引っ張られ、スノープラウ2が降下すると先端側のバネが引っ張られるとともに根元側のバネが圧縮される。
【0082】
このように、コイルスプリング3gの圧縮に要するストローク分が遊びとなるため、油圧シリンダ3aの伸縮の力が直ちにスノープラウ2に加わることがなく、油圧シリンダ3aのロッド部が伸長を開始したとしても、コイルスプリング3gの先端側のバネが密着するまではスノープラウ2は地面から浮上することがない。
【0083】
(スノープラウの地面からの浮上の認識過程)
本実施例の段差回避システムSによる、スノープラウ2の地面からの浮上の認識過程については、実施例1と同様、図3のフローチャートに従って認識させることができ、油圧上昇特性も図5と同様の特性となる。図3のフローチャートの説明は実施例1と同一のため省略する。
【0084】
図3(a)のフローを繰り返している状態において、操作手段5が操作された場合、図3(b)のフローが実行される。以下では、図7の段差回避の過程を表す説明図及び図5の油圧上昇特性の図を適時参照しながら説明する。
まず、図3(b)のフローにおいて、実施例1同様、演算部6bは、操作手段5からの操作を検知すると、強制タイマーのカウントを開始するとともに、駆動部6aに油圧シリンダ3aのロッド部を伸長させる指示を出し、ロッド部を伸長させる。
【0085】
そして、強制タイマーが一定時間経過すると、その時点の図3(a)のフローで移動平均処理した現在値が、規定の上限値を超えていないかどうかを判断する。
【0086】
次に、現在値が、規定の下限値を下回っていないかどうかを判断する。油圧シリンダ3aのロッド部が伸長を開始した段階では、図7(a)に示すように、コイルスプリング3gの先端側のバネは圧縮可能な状態であるため、油圧シリンダ3aのロッド部が伸長するのに必要な力は、ロッド部の伸長の摩擦等の固定値のみである。そのため、シリンダ内の圧力は、図3のaの範囲に示すようにほぼ一定となる。なお、コイルスプリング3gは、地面の不陸の追従を目的としており、比較的小さいバネ定数のバネを用いているため、先端側のバネの圧縮による復元力については無視できる範囲である。
【0087】
現在値が上限値以下であり、かつ、下限値以上であった場合には、傾き値が閾値以下であるかどうかを判断する。ここで、油圧シリンダ3aのロッド部が伸長し、図7(b)のようにコイルスプリング3gの先端側のバネが圧縮しきって密着状態になったとき、油圧上昇特性は図5のbの点であり、これ以降は油圧が一定の角度で上昇を開始する。これは、図7(c)のように、コイルスプリング3gの先端側のバネが密着状態となって遊びがなくなりスノープラウ2を上昇させようとすると、上昇の前に、除雪車1の懸架装置4が沈下を始めることによる。
【0088】
懸架装置4が沈下しきると、図7(d)のようにスノープラウ2が地面から浮上する。このとき、懸架装置4のバネ定数、摩擦抵抗等及びシリンダ内の油や懸架装置4内の板バネ等の作用により過渡現象が生じ、図5のdの点におけるオーバーシュートが発生する。このオーバーシュートにより、油圧上昇特性の傾きは一時的にマイナスの傾きとなる。
【0089】
これを利用し、閾値を0または若干のマイナスの値としておくことで、オーバーシュートによる電圧値の降下を検出し、スノープラウ2が地面から浮上したことを認識することができる。
そして、浮上を認識したのち、演算部3bが油圧シリンダ3aのロッド部の伸長を停止するように駆動部6aに指令を出す。
【0090】
このように、懸架装置4による油圧上昇特性の傾きを利用してスノープラウ2の地面からの浮上を認識することで、コイルスプリング3gがどのような圧縮状態のときに上昇させるかに関わらず、或いはカッティングエッジ2aが摩耗して初期よりもスノープラウ2が降下した位置から上昇させる場合であっても、スノープラウ2の地面からの浮上のタイミングを安定して認識することができるため、スノープラウ2を容易な操作で一定量上昇させることが可能となる。
【0091】
(実施例3)
しかし、上記実施例1或いは実施例2においては、道路上の段差の有無を目視で確認するか、予め地図等で確認して記憶しておき、段差の箇所で操作手段5を操作する必要がある。そのため、段差の位置が雪で視認することができない場合や、段差の位置を失念する場合が想定される。
そこで、道路上の段差の位置を操縦者に指示することのできる本発明の実施例3について、図6に基づいて以下に説明する。
【0092】
本実施例の除雪車1は、図8に示すように、衛生測位システムからの位置情報に基づいて、道路上の段差の位置を操縦者に指示する指示手段7を設けた点が実施例1と異なっている。
【0093】
本実施例における段差回避システムSでは、準天頂衛星システムGを用いて除雪車1の座標位置を取得し、除雪車1がマンホール等の段差Mに近づいた場合に、運転席の操作パネル上のランプを発光させたり、スピーカーから音声によって段差の回避を指示したりする指示手段7が設けられている。
【0094】
この指示手段は、図8(a)に示すように、段差Mに対して予め設定された範囲内に近づいた場合に指示するものとすることができるが、走行速度に応じてこの範囲を自動的に調整するようにするのがよい。
すなわち、走行速度が高速の場合には、より遠い位置からスノープラウ2の上昇を指示することで、操作手段5を操作するまでの時間に余裕ができる。また、走行速度が低速の場合には、比較的近い位置でスノープラウ2の上昇を指示することで、残雪の発生を最小限に抑えることができる。
【0095】
また、図8(b)に示すように、ナビゲーションシステムと連動させ、画面に表示された地図上に段差Mの位置を表示させることによって回避の指示をすることも可能である。このように地図上に表示すれば、予め回避すべき場所を視覚的、空間的に認識することができ、より確実に段差を回避することができる。
【0096】
本実施によれば、道路上の段差の位置を予め把握しておく必要がなく、操縦者は除雪車1の運転や除雪作業に集中することができ、より安全であるとともに、段差の場所においては確実に回避することが可能となる。
【0097】
(実施例4)
前記準天頂衛星システムGを用いた別の実施例4として、除雪車1が段差Mに近づいた場合に、操縦者の操作手段5の操作によることなく、自動的に図3の各フローによるスノープラウ2の上昇を行う構成とすることもできる。
【0098】
この場合には、段差Mに除雪車1が近づいたことを、除雪車1の走行速度に応じた範囲で認識するようにするのが好ましい。すなわち、走行速度が高速の場合には、より遠い位置からスノープラウ2の上昇を開始し、走行速度が低速の場合には、比較的近い位置でスノープラウ2の上昇を開始するようにする。このようにすることで、高速走行中にスノープラウ2の上昇が間に合わず段差Mに衝突することを避けることができる一方で、低速走行中では、残雪の発生を最小限に抑えることができる。
【0099】
本発明は、概ね上記のように構成されるが、本発明は図示の実施形態に限定されるものでは決してなく、「特許請求の範囲」の記載内において種々の変更が可能であって、例えば、傾き値の演算は実施例1の式によらず、複数のサンプリング値に基づいて傾き値を演算してもよい。
また、平均化処理は移動平均を用いなくとも、所定数のデータの蓄積ごとに算術平均する処理を用いることもでき、何れのものも本発明の技術的範囲に属する。
【符号の説明】
【0100】
1 除雪車
2 スノープラウ
2a カッティングエッジ
3 昇降装置
3a 油圧シリンダ
3b ビーム部材
3c アーム部材
3d チェーン
3e 圧力センサ
3f リンク部材
3g コイルスプリング
4 懸架装置
5 操作手段
5a 低上昇量操作手段
5b 中上昇量操作手段
5c 高上昇量操作手段
6 制御部
6a 駆動部
6b 演算部
7 指示手段
G 準天頂衛星システム
M 段差
S スノープラウの道路段差回避システム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8