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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022013416
(43)【公開日】2022-01-18
(54)【発明の名称】油脂組成物及びそれを用いた油脂食品
(51)【国際特許分類】
   A23D 9/00 20060101AFI20220111BHJP
   A23D 9/013 20060101ALI20220111BHJP
   A23L 23/10 20160101ALI20220111BHJP
【FI】
A23D9/00
A23D9/013
A23L23/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020115953
(22)【出願日】2020-07-03
(71)【出願人】
【識別番号】390028897
【氏名又は名称】阪本薬品工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】市邊 愛佳
(72)【発明者】
【氏名】村尾 友紀
(72)【発明者】
【氏名】村井 卓也
【テーマコード(参考)】
4B026
4B036
【Fターム(参考)】
4B026DC06
4B026DG02
4B026DG04
4B026DG05
4B026DG12
4B026DG13
4B026DH03
4B026DK10
4B026DP01
4B026DP03
4B026DP04
4B026DX02
4B036LE03
4B036LG02
4B036LH04
4B036LH10
4B036LH13
4B036LH22
4B036LK01
4B036LP01
4B036LP02
4B036LP14
4B036LP17
(57)【要約】
【課題】
パーム油を含有する油脂組成物において、固化が促進され、液体油脂の染み出しが抑制された油脂組成物を提供すること。またこれらの油脂組成物を使用することで、固化時間が短く、液体油脂の染み出しが抑制された固形ルウ、あるいはショートニング等の油脂食品を提供すること。
【解決手段】HLBが5~9であり、かつ、融点が58~69℃である、ポリグリセリン脂肪酸エステルを用いることで上記課題を解決する。
本発明に係るポリグリセリン脂肪酸エステルは、ポリグリセリンの平均重合度が2~10、エステル化率が20~60%であってもよい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
油脂A、油脂B及びポリグリセリン脂肪酸エステルを含有することを特徴とする油脂組成物。
油脂A:パーム系油脂
油脂B:上昇融点が30℃以上であるパーム系油脂以外の食用油脂
ポリグリセリン脂肪酸エステル:HLBが5~9であり、かつ、融点が58~69℃
【請求項2】
前記ポリグリセリン脂肪酸エステルの構成ポリグリセリンの平均重合度が2~10である、請求項1に記載の油脂組成物。
【請求項3】
前記ポリグリセリン脂肪酸エステルのエステル化率が20~60%である、請求項1又は2に記載の油脂組成物。
【請求項4】
請求項1~3の何れかに記載の油脂組成物中に、ポリグリセリン脂肪酸エステルを0.01~5重量%含有することを特徴とする油脂組成物。
【請求項5】
請求項1~4の何れかに記載の油脂組成物を含有する固形ルウ、又は、ショートニング。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
油脂を含む食品において、油脂の結晶挙動や特性は、その商品の製造、保存、流通に至る多くの場面において重要な影響を及ぼす。とりわけ、その組成に占める油脂の割合が高い組成物においては、使用する油脂の結晶挙動の影響が大きく、様々な問題があった。そのため、油脂結晶の制御技術は、最も重要な課題の一つである。
【0003】
結晶の制御が困難な油脂のひとつにパーム系の油脂がある。近年、トランス脂肪酸が問題となっており、パーム油はトランス脂肪酸を多く含む各種動植物油脂の部分硬化油からの置き換えとして需要が高まっている。特に動物油脂を多く配合するカレー、ハヤシ、シチュー用の固形ルウや、植物油脂の硬化油を多く配合するマーガリン、ショートニング等の可塑性油脂組成物においてパーム油が使用される機会が増えている。しかし、パーム油は結晶化速度が遅く、保存中において結晶が粗大化するという問題があった。
【0004】
パーム油を配合した油脂組成物を用いて油脂食品を製造する場合、その結晶化の遅さや粗大結晶のために、様々な問題が生じる。固形ルウでは、製造時の冷却固化時間が長いこと、液体油脂成分が染み出すこと、保管中に固形ルウの表面がカビの様に白色化することが問題となる。ショートニングにおいては、結晶化が遅いため冷却に時間がかかること、液体油脂成分が染み出すことが問題となる。
【0005】
これらの問題を解決するには、例えば、製造後保存中における結晶の粗大化を抑える方法がある。特許文献1には、油脂結晶の粗大化による物性の悪化を防止するために、ジグリセライドを含有する油脂結晶調整剤を油脂組成物に添加する方法が開示されている。
【0006】
さらに、従来技術として、結晶の粗大化を抑制する方法の他、結晶化促進剤の利用も提案されている。例えば、非特許文献1には、親油性で、かつ、融点の高い乳化剤が油脂結晶の鋳型となり結晶化を促進することが記載されており、また、非特許文献2等により、ポリグリセリンのベヘン酸エステルは高い結晶化促進効果と結晶の微細化効果を有することが知られている。
【0007】
しかし、ベヘン酸エステルは高い結晶調整効果を有するが、融点が高いため口どけが悪くなるという問題があった。この問題を解決するため、特許文献2には、構成脂肪酸としてベヘン酸を必須とし、かつ、炭素数8~22の飽和脂肪酸及び/又は不飽和脂肪酸より選ばれた2種以上からなるポリグリセリン脂肪酸エステルを利用することで口どけが良くなり、さらに液体油脂の染み出しも抑制できる方法が開示されている。
【0008】
しかし、上記技術を用いても、ポリグリセリン脂肪酸エステルを溶解させるには油脂を十分に加熱する必要があり、作業性が悪いことや加熱により油脂の劣化を引き起こしやすいことが問題となる。そのため、さらなる改善が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2000-345185号公報
【特許文献2】特開2005-054092号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】佐藤清隆、上野聡「脂質の機能性と構造・物性 分子からマスカラ・チョコレートまで」p91
【非特許文献2】宮本敦之、松下和男「ポリグリセリンエステルの特性と食品への応用」New Food Industry,30(11)、p12-18(1988)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そこで本発明では、固化が促進され、液体油脂の染み出しが抑制されたパーム油含有油脂組成物、またこれらの油脂組成物を使用した固形ルウ、あるいはショートニング等の油脂食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
すなわち、本発明では、HLBが5~9であり、かつ、融点が58~69℃である、ポリグリセリン脂肪酸エステルを用いることで上記課題を解決する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、固化が促進され、液体油脂の染み出しが抑制されたパーム油含有油脂組成物、さらにこれらの油脂組成物を用いた固形ルウやショートニング等の油脂食品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための好適な形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0015】
ポリグリセリン脂肪酸エステルは、グリセリン同士を脱水縮合したポリグリセリンと脂肪酸のエステル化反応によって得られ、ポリグリセリンの種類(重合度)、脂肪酸の種類(炭素数、二重結合の数)、エステル組成等により、多種類存在する。そして、その種類毎に異なる性質を示すことが知られている。
【0016】
本発明に係るポリグリセリン脂肪酸エステルは、HLBが5~9であり、かつ、融点が58~69℃である、ポリグリセリン脂肪酸エステルを含むことを特徴とする。
【0017】
一般的に、ポリグリセリン脂肪酸エステルを油へ添加する際は、油脂となじみやすいHLBが低い(好ましくは、3以下)ものが選択される。また、ポリグリセリン脂肪酸エステルの融点が高いと、油脂よりも先に結晶化して核になりやすいため、結晶化促進剤としては好適であると考えられていた。しかしながら、本願発明者らが鋭意実験検討を行ったところ、意外にも、HLBの範囲を5~9とし、かつ、その融点を58~69℃の範囲に設定することで、結晶化のスピードが速く、微細な結晶を作ることができる、結晶化促進剤を提供できることが分かった。また、本発明に係るポリグリセリン脂肪酸エステルは、融点が高すぎないため、作業性も良い。
【0018】
本発明に係るポリグリセリン脂肪酸エステルのHLBは5~9である。HLBはアトラス法を用い、エステルのけん化価及び脂肪酸の中和価から算出したものであり、以下の式(1)により算出する。また、式(1)中のけん化価及び中和価は社団法人日本油化学会編纂「日本油化学会制定、基準油脂分析試験法、2003年度版」に準じて測定する。
【0019】
[数1]
HLB=20×(1-けん化価/中和価)・・・(1)
【0020】
本発明において、融点の測定は、従来公知の方法を用いて行うことができ、例えば、示差走査型熱量計(DSC)を用いて測定することができる。
【0021】
本技術に係るポリグリセリン脂肪酸エステルにおいて、融点は、58~69℃であり、58~66℃であることが好ましい。
【0022】
本発明に係るポリグリセリン脂肪酸エステルを構成するポリグリセリンは、その平均重合度が限定されるものではないが、2~10であることが好ましく、4~10であることが更に好ましい。ここで、平均重合度は、末端基分析法による水酸基価から算出されるポリグリセリンの平均重合度(n)である。詳しくは、下記式(2)及び下記式(3)から算出される。
【0023】
[数2]
分子量=74n+18 ・・・(2)
水酸基価=56110(n+2)/分子量・・・(3)
【0024】
上記式(3)中の水酸基価とは、ポリグリセリンに含まれる水酸基数の大小の指標となる数値であり、1gのポリグリセリンに含まれる遊離ヒドロキシル基をアセチル化するために必要な酢酸を中和するのに要する水酸化カリウムのミリグラム数をいう。水酸化カリウムのミリグラム数は、社団法人日本油化学会編纂「日本油化学会制定、基準油脂分析試験法、2003年度版」に準じて算出される。
【0025】
ポリグリセリン脂肪酸エステルは、従来公知のエステル化反応により製造することができる。例えば、脂肪酸とポリグリセリンとを水酸化ナトリウム等のアルカリ触媒の存在下でエステル化反応させることにより製造することができる。エステル化は、ポリグリセリン脂肪酸エステルのエステル化率が所望の値になるまで行われる。
【0026】
本発明に係るポリグリセリン脂肪酸エステルのエステル化率は20~60%であり、好ましくは30~45%である。ここで、エステル化率とは、水酸基価から算出されるポリグリセリンの平均重合度(n)、このポリグリセリンが有する水酸基数(n+2)、ポリグリセリンに付加する脂肪酸のモル数(M)としたとき、下記式(4)で算出される値である。水酸基価とは、上記式(3)により算出される値である。
【0027】
[数3]
エステル化率(%)=(M/(n+2))×100・・・(4)
【0028】
ポリグリセリン脂肪酸エステルを構成する脂肪酸としては、特に限定されないが、通常炭素数8~24の飽和又は不飽和の脂肪酸が用いられる。前記脂肪酸は混合物であってもよく、前記脂肪酸の具体例としては、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リシノール酸、リノール酸、リノレン酸、エルカ酸、ベヘン酸、及びその縮合物等が挙げられる。これらの中でも特に、油脂組成物の溶融性と固体脂含量のバランス、ハンドリング性において、炭素数16~18の飽和脂肪酸が好ましい。
【0029】
本発明に係るポリグリセリン脂肪酸エステルの使用方法は、所望の油脂中に融解させ、前記油脂と結晶化促進剤とが完全融解した状態から、結晶化工程を経ることで、結晶化促進の効果が発揮される。油脂組成物に対してポリグリセリン脂肪酸エステル含有は0.01~5重量%が好ましく、0.1~3重量%がより好ましい。
【0030】
本発明に係る油脂組成物は、油脂Aとしてパーム系油脂を好ましくは5~60重量%、より好ましくは15~50重量%含有するものである。上記のパーム系油脂としては、パーム油、パーム分別油を挙げることができる。上記のパーム分別油としては、例えば1段分別油であるパームオレイン及びパームステアリン;パームオレインの2段分別油であるパームオレイン(パームスーパーオレイン)及びパームミッドフラクション;パームステアリンの2段分別油であるパームオレイン(ソフトパーム)及びパームステアリン(ハードステアリン)等を用いることができる。
【0031】
パーム油を分別する方法には特に制限はなく、溶剤分別、乾式分別、乳化分別の何れの方法を用いてもよい。本発明では上記のパーム系油脂の中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。
【0032】
本発明に係る油脂組成物は、油脂Bとして上昇融点が30℃以上であるパーム系油脂以外の食用油脂を含有する。前記油脂Bとしては、シア脂、サル脂、カカオ脂、ヤシ油、乳脂、牛脂、豚脂などの油脂、エステル交換や水素添加などを行なった各種の硬化油脂等が挙げられ、これらは1種単独で使用してもよく2種以上を併用してもよい。
【0033】
本発明に係る油脂組成物は、さらに上昇融点が10℃以下であるパーム系油脂以外の食用油脂を含有してもよい。そのような油脂としては、大豆油、菜種油、コーン油、綿実油、米油、ヒマワリ油、サフラワー油、ゴマ油、オリーブ油等が挙げられ、これらは1種単独で使用してもよく2種以上を併用してもよい。
【0034】
本発明に係る油脂組成物は、用いる食品の用途に応じた上昇融点にするべく上記の油脂の配合を適宜調整することができる。例えば、固形ルウ用途の油脂組成物は上昇融点が40~50℃であることが好ましく、ショートニング用途の油脂組成物は上昇融点が30~40℃であることが好ましい。
【0035】
本発明に係る油脂としては、例えば、菜種油、大豆油、ヒマワリ種子油、綿実油、落花生油、米糠油、コーン油、サフラワー油、オリーブ油、カポック油、ゴマ油、月見草油、パーム油、シア脂、サル脂、カカオ脂、ヤシ油、パーム核油等の植物性油脂;乳脂、牛脂、豚脂、魚油、鯨油等の動物性油脂の単独又は混合油、或いはそれらの硬化、分別、エステル交換等を施した加工油脂等が挙げられる。
【0036】
本発明の油脂組成物には所望の効果を得るために上記の油脂及びポリグリセリン脂肪酸エステル以外に、水、乳化剤、乳製品、香料、着色料、調味料、甘味料、糖類、食塩、増粘安定剤、保存料、呈味物質などを適宜含有しても良い。
【0037】
上記乳化剤としては、グリセリン脂肪酸エステル、蔗糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、グリセリン有機酸脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノール酸エステル、ステアロイル乳酸ナトリウム、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、レシチン、サポニン等が挙げられ、この中より選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。
【0038】
上記糖類としては、ブドウ糖、蔗糖、麦芽糖、上白糖、異性糖、果糖、乳糖、還元澱粉糖化物、異性化液糖、蔗糖結合水飴、オリゴ糖、還元糖ポリデキストロース、ソルビトール、還元乳糖、トレハロース、キシロース、キシリトール、マルチトール、エリスリトール、マンニトール、ラフィノース、ラクチュロース、ステビア、アスパルテーム等が挙げられる。これらの糖類は、単独又は2 種以上を組み合わせて用いることができる。また、配合量は所望とする甘味に応じて適宜選択することができる。
【0039】
上記増粘安定剤としては、グアーガム、ローカストビーンガム、カラギーナン、アラビアガム、アルギン酸類、ペクチン、キサンタンガム、プルラン、タマリンドシードガム、サイリウムシードガム、結晶セルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、寒天、グルコマンナン、ゼラチン、澱粉、化工澱粉等が挙げられ、この中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。
【0040】
本発明の油脂組成物は、製造工程中の短時間での結晶化促進効果が必要とされるコーヒーホワイトナー、固形ルウ、マーガリン、ショートニング、チョコレート、乳飲料、機能性油脂等において、本発明の効果を発揮することができる。これらの中でも特に、固形ルウ、マーガリン、ショートニング等のパーム油含有食品に好適である。
【0041】
本発明に係る固形ルウは、小麦粉及び油脂を加熱混合し、必要に応じて、ここにカレー粉等のスパイス、食塩、糖類、調味料等の副原料を添加混合したものである。本発明の固形ルウは、カレー、ハヤシ、シチューなどを作るために用いられる常温で固形状のものであり、調理における簡便性から家庭用やレストラン、給食などの業務用として幅広く利用されているものである。
【0042】
本発明の固形ルウに含まれてもよいさらなる成分は、カレー等の香辛料、カカオマス、ココアパウダー、穀類、豆類、野菜類、肉類、魚介類、果実、果汁、コーヒー、ナッツペースト、小麦蛋白や大豆蛋白といった植物蛋白、卵及び各種卵加工品等の食品素材などであり、これらの食品素材や食品添加物を単独又は2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0043】
本発明に係る固形ルウの製造方法は、特に限定されない。公知の製造方法及び製造条件を適用できる。具体的には、小麦粉、糖類及び固形油脂組成物を混合加熱し、必要に応じ、副原料を混合して、容器に流し込み、その後100~160℃に加熱処理を行い固化させる。その後、0~15℃の冷蔵庫冷却やクーリングトンネルでの冷風冷却、30℃以下の室温放置冷却などを行うことにより、流通可能な耐熱性固形ルウを得ることができる。
【0044】
本発明に係るショートニング等の可塑性油脂組成物は、練り込み用油脂組成物、ロールイン用油脂組成物、クリーム用油脂組成物などである。また、それら油脂組成物はマーガリンタイプでもショートニングタイプでも良く、その乳化形態も、油中水型、水中油型、二重乳化型の何れの型でも構わない。また、場合によっては、本発明の油脂組成物をビスケットなどの表面にスプレーする用途で使用することもできる。
【0045】
本発明に係るショートニング等の可塑性油脂組成物の製造方法は、特に限定されない。公知の製造方法及び製造条件を適用できる。油脂組成物は、油溶成分を混合溶解することで製造できる。また、可塑性油脂組成物とする場合は、油溶成分を混合融解して油相を調製する。必要により水溶成分を混合溶解して水相を調製する。可塑性油脂組成物は、融解した油相を単独で、又は、油相に水相を混合乳化した後、冷却し、結晶化させることで製造できる。冷却及び結晶化は、好ましくは冷却可塑化を含む。冷却条件は、好ましくは-0.5℃/分以上、より好ましくは-5℃/分以上である。この際、徐冷却より急冷却の方が好ましい。また、油相の調製後又は混合乳化後は、殺菌処理することが望ましい。殺菌方法としては、タンクでのバッチ式や、プレート型熱交換機、掻き取り式熱交換機を用いた連続式が挙げられる。冷却する機器としては、密閉型連続式チューブ冷却機、例えば、ボテーター、コンビネーター、パーフェクターなどのマーガリン製造機やプレート型熱交換機などが挙げられる。また、冷却する機器としては、開放型のダイアクーラーとコンプレクターとの組み合わせも挙げられる。
【実施例0046】
以下、実施例に基づいて本発明を説明する。
なお、以下に説明する実施例は、本発明の代表的な実施例の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0047】
本発明に係るポリグリセリンは、平均重合度が2のポリグリセリンに阪本薬品工業株式会社製「ジグリセリンS」を、平均重合度が4のポリグリセリンに阪本薬品工業株式会社製「ポリグリセリン#310」を、平均重合度が6のポリグリセリンに阪本薬品工業株式会社製「ポリグリセリン#500」を、平均重合度が10のポリグリセリンに阪本薬品工業株式会社製「ポリグリセリン#750」を使用した。
【0048】
<合成例1>
平均重合度が4のポリグリセリン100gとステアリン酸133.7gを反応容器に入れ、水酸化ナトリウムによるアルカリ性及び窒素流気下、245℃で反応させ、融点60.3℃、エステル化率25%のポリグリセリン脂肪酸エステルを得た。融点は、示差走査熱量計(DSC8320、リガク)により測定した。ポリグリセリン脂肪酸エステルをアルミセルに5mg秤量し、サンプルシーラーで蓋をした。対照にはアルミナ5mgを用いた。セルを85℃から5℃/分で25℃まで冷却し5分間保持後、5℃/分で85℃まで加熱した際の加熱時の吸熱ピークのoff-set温度を融点とした。
【0049】
<合成例2>
平均重合度が2のポリグリセリン100gとステアリン酸239gを反応容器に入れ、水酸化ナトリウムによるアルカリ性及び窒素流気下、245℃で反応させ、融点64.0℃、エステル化率35%のポリグリセリン脂肪酸エステルを得た。融点は、合成例1のポリグリセリン脂肪酸エステルと同様にして測定した。
【0050】
<合成例3>
平均重合度が6のポリグリセリン100gとステアリン酸225gを反応容器に入れ、水酸化ナトリウムによるアルカリ性及び窒素流気下、245℃で反応させ、融点61.6℃、エステル化率55%のポリグリセリン脂肪酸エステルを得た。融点は、合成例1のポリグリセリン脂肪酸エステルと同様にして測定した。
【0051】
<合成例4>
平均重合度が10のポリグリセリン100gとステアリン酸184gを反応容器に入れ、水酸化ナトリウムによるアルカリ性及び窒素流気下、245℃で反応させ、融点58.8℃、エステル化率45%のポリグリセリン脂肪酸エステルを得た。融点は、合成例1のポリグリセリン脂肪酸エステルと同様にして測定した。
【0052】
<実施例1>
表1に示した配合で油脂と合成例1のポリグリセリン脂肪酸エステルを混合し、80℃で均一に溶解したものを油脂組成物Aとした。なお、以下の説明において特に記述がない限り、配合の単位は重量%とする。
【0053】
<実施例2>
ポリグリセリン脂肪酸エステルとして、合成例2のポリグリセリン脂肪酸エステルを用いたこと以外は、油脂組成物Aと同様にして油脂組成物Bを調製した。
【0054】
<実施例3>
ポリグリセリン脂肪酸エステルとして、合成例4のポリグリセリン脂肪酸エステルを用いたこと以外は、油脂組成物Aと同様にして油脂組成物Cを調製した。
【0055】
<比較例1>
ポリグリセリン脂肪酸エステルとして、ポリグリセリンベヘン酸エステル HB-750(阪本薬品工業株式会社)を用いたこと以外は、油脂組成物Aと同様にして油脂組成物Dを調製した。
【0056】
<比較例2>
ポリグリセリン脂肪酸エステルとして、ポリグリセリンステアリン酸エステル MS-3S(阪本薬品工業株式会社)を用いたこと以外は、油脂組成物Aと同様にして油脂組成物Eを調製した。
【0057】
<比較例3>
ポリグリセリン脂肪酸エステルを添加しなかったこと以外は、油脂組成物Aと同様にして油脂組成物Fを調製した。
【0058】
<実施例4>
表2に示した配合で油脂と合成例1のポリグリセリン脂肪酸エステルを混合し、80℃で均一に溶解したものを油脂組成物Gとした。
【0059】
<実施例5>
ポリグリセリン脂肪酸エステルとして、合成例2のポリグリセリン脂肪酸エステルを用いたこと以外は、油脂組成物Gと同様にして油脂組成物Hを調製した。
【0060】
<実施例6>
ポリグリセリン脂肪酸エステルとして、合成例3のポリグリセリン脂肪酸エステルを用いたこと以外は、油脂組成物Gと同様にして油脂組成物Iを調製した。
【0061】
<実施例7>
ポリグリセリン脂肪酸エステルとして、合成例4のポリグリセリン脂肪酸エステルを用いたこと以外は、油脂組成物Gと同様にして油脂組成物Jを調製した。
【0062】
<比較例4>
ポリグリセリン脂肪酸エステルとして、ポリグリセリンベヘン酸エステル HB-750(阪本薬品工業株式会社)を用いたこと以外は、油脂組成物Gと同様にして油脂組成物Kを調製した。
【0063】
<比較例5>
ポリグリセリン脂肪酸エステルを添加しなかったこと以外は、油脂組成物Gと同様にして油脂組成物Lを調製した。
【0064】
<固体脂含量(SFC)の測定>
AOCS Official Method Cd 16b-93(1999)に準じ、卓上NMR(minispec mq20、BRUKER)によりSFCを測定した。なお、SFCとは、Solid Fat Content(固体脂含量)の略称であり、一定温度下で油脂中に存在する固体脂の含量(%)を示す。したがって、結晶化を開始してから一定時間後における油脂のSFCが高いほど、油脂の結晶化が速く、結晶化促進効果が高い。
【0065】
測定用サンプル管に油脂組成物を高さ5cm程度入れ、80℃で10分間加熱し融解させた。その後、油脂組成物A~Fは35℃、油脂組成物G~Lは25℃に調温した循環恒温水槽(NCB-1200、東京理科機械)に移し、油脂組成物A~Fは45分後、油脂組成物G~Lは30分後のSFCを測定した。
[評価基準]
×:SFCが5未満
△:SFCが5以上8未満
○:SFCが8以上10未満
◎:SFCが10以上
【0066】
<結晶サイズの測定>
スライドガラスに80℃で融解させた油脂組成物を10μL滴下し、カバーガラスを被せ、プレパラートを作製した、これを冷却加熱ステージ(10030、リンカム)で80℃まで20℃/分で昇温させた後、5℃/分で、油脂組成物A~Fは35℃、油脂組成物G~Lは25℃にまで冷却し、油脂組成物A~Fは45分後、油脂組成物G~Lは20分後の結晶形態を偏光顕微鏡(BX50、オリンパス)にて観察し、付属のデジタルカメラ(DP20、オリンパス)で撮影した。画像から結晶サイズを計測した。
[評価基準]
×:結晶サイズが40μm以上
△:結晶サイズが20μm以上40μm未満
○:結晶サイズが20μm未満
【0067】
<染み出し抑制能の評価方法>
80℃で融解させた油脂組成物を直径3cmの円柱型容器に8g量り取り、油脂組成物A~Fは30℃、油脂組成物G~Lは25℃に設定したインキュベーター内に静置した。3日後に油脂表面に染み出た油脂をろ紙で吸い取り、染み出し量を測定した。ポリグリセリン脂肪酸エステルを添加していない油脂組成物F、L(無添加)を基準として以下の様に評価した。
[評価基準]
×:無添加の染み出し量と同等以上
△:無添加の染み出し量と同等未満かつ無添加の染み出し量の1/2以上
○:無添加の染み出し量の1/2未満かつ無添加の染み出し量の1/4以上
◎:無添加の染み出し量の1/4未満
【0068】
<外観の評価方法>
80℃で融解させた油脂組成物A~Fを直径5cmのプラスチックシャーレに5g量り取り、30℃に設定したインキュベーター内に静置し一晩冷却・固化させたものについて表面の凝集状態を観察した。
[評価基準]
×:油脂表面に凝集がある
△:油脂表面に多少凝集がある
○:油脂表面が滑らか
【0069】
油脂組成物の評価結果について表1、表2に示した。
【0070】
【表1】
【0071】
【表2】
【0072】
表1、表2から分かるように、本発明に係るポリグリセリン脂肪酸エステルを用いた油脂組成物は、結晶化促進効果のあるポリグリセリンベヘン酸エステル(比較例1)を用いた油脂組成物と同等以上に固化が早く、結晶が微細化され、かつ液体油脂の染み出しも抑制されたものが得られた。また、比較例2のポリグリセリン脂肪酸エステルを用いた油脂組成物と比較して、結晶は微細であり、染み出しも抑制することが確認された。したがって、HLBを5~9であり、かつ、融点を58~69℃とすることにより、ハンドリング性が良く、油脂の結晶化促進効果の高い油脂組成物を得ることができた。
【0073】
<実施例8>
(固形ルウの製造)
表3の配合で、あらかじめ小麦粉と油脂組成物Aを120℃で焙煎処理して得た小麦粉ルウに、カレー粉、食塩、砂糖、調味料を加え加熱混合した。型に流し込み25℃で冷却・固化し、固形ルウを得た。
【0074】
<比較例6>
油脂組成物として、油脂組成物Fを用いたこと以外は、実施例1と同様にして比較例3を製造した。
【0075】
[固形ルウの評価]
以下の基準に従い固化時間、表面状態を評価し、評価結果を表3に示した。
<固化時間>
製造後の固形ルウを直径5cmのプラスチックシャーレに3g量り取り、室温で固形ルウが固まるまでの時間を測定した。
[評価基準]
×:固化時間が10分以上
△:固化時間が7分以上10分未満
○:固化時間が7分未満
<表面状態>
製造後の固形ルウを直径5cmのプラスチックシャーレに3g量り取り、25℃のインキュベーター内に静置し、18日後に表面状態を観察した。
[評価基準]
×:凝集がある
○:なめらかである
【0076】
【表3】
【0077】
表3から分かるように、本発明に係るポリグリセリン脂肪酸エステルを含有する油脂組成物を用いた固形ルウは、固化時間が短く、また表面状態が良いものが得られた。
【0078】
<実施例9>
(ショートニングの製造)
表4の配合で、油脂組成物GをT.K.ホモミキサー(プライミクス社製)を用いて温度を70℃に保持しつつ、回転数8,000rpmで混合した。その後、マーガリンプロセッサー(パワーポイントインターナショナル社製)により急冷、混錬した。これを20℃で1日保存することによりショートニングを得た。
【0079】
<比較例7>
油脂組成物として、油脂組成物Lを用いたこと以外は、実施例2と同様にして比較例4を製造した。
【0080】
[ショートニングの評価]
以下の基準に従い染み出し抑制能、クリーミング速度、吸水性を評価し、評価結果を表4に示した。
【0081】
<染み出し抑制能>
製造した実施例2、比較例4を直径3cmの円柱型容器に8g量り取り、25℃に設定したインキュベーター内に静置した。3日後に油脂表面に染み出た油脂の染み出し状態を観察した。
[評価基準]
×:染み出しがある
△:若干染み出しがある
○:全く染み出さない
【0082】
<クリーミング速度>
ホイッパーを装着した卓上ミキサーを用いて、20℃で保管していたショートニング250gを15分撹拌して気泡させた。3分ごとに比重を式(5)により算出し、比重0.4に達するまでの時間を求めた。
[評価基準]
×:比重0.4に達するまでの時間が10分以上
△:比重0.4に達するまでの時間が8分以上10分未満
○:比重0.4に達するまでの時間が8分未満
【0083】
[数4]
比重=(ショートニングの重量/同体積の水の重量)×100・・・(5)
【0084】
<吸水性>
ホイッパーを装着した卓上ミキサーを用いて、20℃で保管していたショートニング250gを15分撹拌して気泡させた。撹拌を続けながら水を加えていき、水が染み出した点を終点とし、式(6)により吸水性指数を計算した。
[評価基準]
×:吸水性指数が100未満
△:吸水性指数が100以上150未満
○:吸水性指数が150以上
【0085】
[数5]
吸水性指数=(加えた水の重量/ショートニングの重量)×100・・・(6)
【0086】
【表4】
【0087】
表4から分かるように、本発明に係るポリグリセリン脂肪酸エステルを含有する油脂組成物を用いたショートニングは、液体油脂の染み出しが抑制され、クリーミング速度や吸水性の良いものが得られた。