(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022134162
(43)【公開日】2022-09-15
(54)【発明の名称】画像符号化装置、方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
H04N 19/52 20140101AFI20220908BHJP
H04N 19/46 20140101ALI20220908BHJP
【FI】
H04N19/52
H04N19/46
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021033108
(22)【出願日】2021-03-03
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和元年度、総務省、「多様な用途、環境下での高精細映像の活用に資する次世代映像伝送・通信技術の研究開発」委託事業、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000208891
【氏名又は名称】KDDI株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092772
【弁理士】
【氏名又は名称】阪本 清孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119688
【弁理士】
【氏名又は名称】田邉 壽二
(72)【発明者】
【氏名】鶴崎 裕貴
(72)【発明者】
【氏名】海野 恭平
(72)【発明者】
【氏名】木谷 佳隆
(72)【発明者】
【氏名】河村 圭
【テーマコード(参考)】
5C159
【Fターム(参考)】
5C159MA04
5C159MA05
5C159MA21
5C159MC11
5C159ME01
5C159NN11
5C159PP04
5C159RC16
5C159RC38
5C159SS26
5C159TA62
5C159TB08
5C159TC12
5C159TC42
5C159UA02
5C159UA05
5C159UA16
(57)【要約】
【課題】動き探索から得られる動きベクトルを用いてMMVDの差分動きベクトルの方向と大きさの組み合わせパターンを削減する。
【解決手段】動き探索部111A1は、対象フレームと参照フレームとを比較することよって参照フレームにおいて対象ブロックに対応する参照ブロックを特定し、特定した参照フレームに対する動きベクトルを探索する。マージ部111A2は、参照フレームおよび隣接ブロックの動きベクトルに基づいて、対象ブロックに対するマージ候補を決定し、対象ブロックの動き情報として出力する。方向IDX決定部111A3aは、動き探索部111A1が導出した動きベクトルの方向に基づいて差分動きベクトルの探索方向を決定する。絶対値IDX決定部111A3bは、動き探索部111A1が出力する動きベクトルとマージ部11A2が出力する予測動きベクトルとの差分動きベクトルを用いてDistance IDXを決定する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インター予測を用いて動画像をブロック単位で符号化し、差分動きベクトルの復号用インデックスを伝送する画像符号化装置において、
インター予測部が、
対象ブロックの動きベクトルを導出する動き探索手段と、
対象ブロックの予測動きベクトルを隣接ブロックの動きベクトルに基づいて導出するマージ手段と、
前記動きベクトルおよび予測動きベクトルの差分に基づいて差分動きベクトルの復号用インデックスを導出する手段とを具備し、
前記復号用インデックスを導出する手段は、前記動きベクトルに基づいて差分動きベクトルのDirection IDXを導出することを特徴とする画像符号化装置。
【請求項2】
前記復号用インデックスを導出する手段は、前記動きベクトルおよび予測動きベクトルに基づいて差分動きベクトルのDistance IDXを導出することを特徴とする請求項1に記載の画像符号化装置。
【請求項3】
前記復号用インデックスを導出する手段は、CUのサイズに応じてDirection IDXまたはDistance IDXの導出を省略することを特徴とする請求項1または2に記載の画像符号化装置。
【請求項4】
前記復号用インデックスを導出する手段は、通常マージにおいて列挙された、参照フレームと動きベクトルとの2つの組み合わせを識別するインデックス0およびインデックス1の各動きベクトルが同じであると、一方のインデックスに対するDirection IDXまたはDistance IDXの導出を省略することを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の画像符号化装置。
【請求項5】
コンピュータが、インター予測を用いて動画像をブロック単位で符号化し、差分動きベクトルの復号用インデックスを伝送する画像符号化方法において、
インター予測では、
対象ブロックの動きベクトルを導出し、
対象ブロックの予測動きベクトルを隣接ブロックの動きベクトルに基づいて導出し、
前記動きベクトルおよび予測動きベクトルの差分に基づいて差分動きベクトルの復号用インデックスを導出し、
前記復号用インデックスの導出において、前記動きベクトルに基づいて差分動きベクトルのDirection IDXを導出することを特徴とする画像符号化方法。
【請求項6】
前記復号用インデックスの導出において、前記動きベクトルおよび予測動きベクトルに基づいて差分動きベクトルのDistance IDXを導出することを特徴とする請求項5に記載の画像符号化方法。
【請求項7】
インター予測を用いて動画像をブロック単位で符号化し、差分動きベクトルの復号用インデックスを伝送する画像符号化プログラムにおいて、
インター予測が、
対象ブロックの動きベクトルを導出する手順と、
対象ブロックの予測動きベクトルを隣接ブロックの動きベクトルに基づいて導出する手順と、
前記動きベクトルおよび予測動きベクトルの差分に基づいて差分動きベクトルの復号用インデックスを導出する手順と、をコンピュータに実行させ、
前記復号用インデックスの導出手順において、前記動きベクトルに基づいて差分動きベクトルのDirection IDXを導出することを特徴とする画像符号化プログラム。
【請求項8】
前記復号用インデックスの導出手順において、前記動きベクトルおよび予測動きベクトルに基づいて差分動きベクトルのDistance IDXを導出することを特徴とする請求項7に記載の画像符号化プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像符号化装置、方法及びプログラムに係り、特に、差分動きベクトルの符号化にマージ差分動きベクトル(MMVD:Merge mode with Motion Vector Difference)を採用する画像符号化装置、方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
MMVD予測モードでは、Regular Mergeのインデックス0および1の動きベクトルに対し、特定方向の差分動きベクトルを加算することで動きベクトルを求めるができる。この差分動きベクトルはマージ差分動きベクトルと呼ばれることもある。
【0003】
非特許文献1には、MMVDに関して符号化装置が予め値の定義されているDirection IDXおよびDistance IDXを用いてマージの動きベクトルに対する差分ベクトル(差分動きベクトル)を生成する技術が開示されている。特許文献1には、通常のMMVDが上下左右の4方向の差分動きベクトルを生成する技術であるのに対して、斜め方向を生成することで符号化効率の向上させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Algorithm description for Versatile Video Coding and Test Model 10 (VTM 10),JVET-S2002
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
MMVDでは、Direction IDXにより差分動きベクトルの方向が決定され、Distance IDXにより差分動きベクトルの絶対値が決定される。ここで、Direction IDXには4パターン、Distance IDXには8パターン、マージインテックスには2パターン(インデックス0と1)があることから、非特許文献1ではレート歪コストが最も小さくなるように各組み合わせを比較している。しかしながら、組み合わせパターンが64通りとなることから、全ての組み合わせでレート歪コストを計算すると実行時間が膨大になる。
【0007】
特許文献1では、符号化効率を劣化させずに通常のMMVDにはなかった斜め方向を選択できるようにしているが、依然として組み合わせパターンは64通りあり、実行時間が膨大である。
【0008】
本発明の目的は、上記の技術課題を解決し、動き探索から得られる動きベクトルを用いて、MMVDの差分動きベクトルの方向と大きさの組み合わせパターンを削減することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、本発明は、インター予測を用いて動画像をブロック単位で符号化し、差分動きベクトルの復号用インデックスを伝送する画像符号化装置において、以下の構成を具備した点に特徴がある。
【0010】
(1) インター予測部が、対象ブロックの動きベクトルを導出する動き探索部と、対象ブロックの予測動きベクトルを隣接ブロックの動きベクトルに基づいて導出するマージ部と、前記動きベクトルおよび予測動きベクトルの差分に基づいて差分動きベクトルの復号用インデックスを導出する手段とを具備し、前記復号用インデックスを導出する手段は、動きベクトルに基づいて差分動きベクトルのDirection IDXを導出するようにした。
【0011】
(2) 復号用インデックスを導出する手段は、動きベクトルおよび予測動きベクトルに基づいて差分動きベクトルのDistance IDXを導出するようにした。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、動き探索部で求められる動きベクトルとマージ部で求められる予測動きベクトルとを用いることで、復号装置側で差分動きベクトルの復号に用いるDirection IDX、Distance IDXを一意に決めることができるので、符号化性能低下を一定程度に抑制しつつ符号化装置におけるレート歪コストの計算にかかる処理時間を大幅に削減できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態に係る動画像処理システムの構成を示したブロック図である。
【
図2】画像符号化装置の構成例を示した機能ブロック図である。
【
図3】インター予測部の構成を示した機能ブロック図である。
【
図4】動き導出部が導出する動きベクトルを模式的に示した図である。
【
図5】動きベクトルの精度と動き補償補間フィルタとの関係を示した図である。
【
図6】動き探索部による動き探索の手順を示した図である。
【
図7】予測動きベクトル候補を導出するための時空間上の参照位置の例を示した図である。
【
図8】1次探索における動き探索を整数動き探索を例にして示した図である。
【
図9】2次探索における小数動き探索の例を示した図である。
【
図10】Direction IDXで規定される差分動きベクトルの4通りの方向を示した図である。
【
図11】Distance IDXで規定される差分動きベクトルの8通りの絶対値を示した図である。
【
図12】方向IDX決定部が差分動きベクトルのDirection IDXを決定する方法を模式的に示した図である。
【
図13】絶対値IDX決定部が差分動きベクトルのDistance IDXを決定する方法を模式的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について詳細に説明する。各実施形態における構成要素は既存の構成要素等と適宜に置き換え可能であり、また他の既存の構成要素との組み合わせを含む様々なバリエーションが可能である。したがって、以下の実施形態の記載は特許請求の範囲に記載した発明の内容を限定するものではない。
【0015】
図1は、本発明の一実施形態に係る動画像処理システム1の構成を示したブロック図であり、画像符号化装置10および画像復号装置20を主要な構成としている。
【0016】
画像符号化装置1は、入力映像を符号化することで符号化データを生成する。画像復号装置20は、符号化データを復号することで復号映像を生成する。符号化データは、画像符号化装置10から画像復号装置20へ伝送路を介して送信されてもよいし、あるいは適宜の記憶媒体に格納された上で画像符号化装置10から画像復号装置20に提供されてもよい。
【0017】
図2は、前記画像符号化装置10の構成例を示した機能ブロック図であり、ここでは本発明の説明に不要な構成は図示が省略されている。
【0018】
画像符号化装置10は、インター予測部111、イントラ予測部112、減算器121、加算器122、変換・量子化部131、逆変換・逆量子化部132、符号化部140、インループフィルタ処理部150およびフレームバッファ160を主要な構成としている。
【0019】
インター予測部111は、インター予測(フレーム間予測)によって動き補償予測信号を生成する。本実施形態では、符号化対象のフレーム(以下、対象フレーム)をフレームバッファ160に格納されている参照フレームと比較する動き導出によって、参照フレームに含まれる参照ブロックを特定し、特定された参照ブロックに対する動きベクトル(MV:Motion Vector)が決定される。
【0020】
インター予測部111は更に、参照ブロック及び動きベクトルに基づいて符号化対象のブロック(以下、対象ブロック)に含まれる動き補償予測信号を対象ブロック毎に生成して減算器121及び加算器122に出力する。参照フレームは対象フレームとは異なるフレームである。
【0021】
イントラ予測部112は、対象フレームに含まれる参照ブロックを特定し、特定された参照ブロックに対するイントラ予測(フレーム内予測)によってイントラ予測信号を対象ブロック毎に生成する。イントラ予測信号は減算器121及び加算器122に出力される。ここで、参照ブロックは対象ブロックについて参照されるブロックである。参照ブロックは、例えば対象ブロックに隣接するブロックである。
【0022】
減算器121は、イントラ予測又はインター予測によって生成される予測信号と入力画像信号との差分である予測残差信号を生成して変換・量子化部131に出力する。
【0023】
加算器122は、逆変換・逆量子化部132から出力される予測残差信号に予測信号を加算してフィルタ処理前復号信号を生成し、かかるフィルタ処理前復号信号をイントラ予測部112及びインループフィルタ処理部150に出力する。ここで、フィルタ処理前復号信号はイントラ予測部112で用いる参照ブロックを構成する。
【0024】
変換・量子化部131は、予測残差信号の変換処理を行うとともに、係数レベル値を取得する。さらに、変換・量子化部131は係数レベル値の量子化を行うように構成されていてもよい。
【0025】
ここで、変換処理は予測残差信号を周波数成分信号に変換する処理である。かかる変換処理では、離散コサイン変換(DCT:Discrete Cosine Transform)に対応する基底パタン(変換行列)が用いられてもよく、離散サイン変換(DST:Discrete Sine Transform)に対応する基底パタン(変換行列)が用いられてもよい。
【0026】
逆変換・逆量子化部132は、変換・量子化部131から出力される係数レベル値の逆変換処理を行う。ここで、逆変換・逆量子化部132は、逆変換処理に先立って係数レベル値の逆量子化を行うように構成されていてもよい。逆変換処理及び逆量子化は、変換・量子化部131で行われる変換処理及び量子化と逆の手順で行われる。
【0027】
符号化部140は、変換・量子化部131から出力された係数レベル値を符号化し、符号化データとして出力する。ここで、符号化方式としては、係数レベル値の発生確率に基づいて異なる長さの符号を割り当てるエントロピー符号化を採用できる。また、符号化部140は、係数レベル値に加えて、復号処理で用いる制御データを符号化するように構成されている。
【0028】
インループフィルタ処理部150は、加算器122から出力されるフィルタ処理前復号信号に対してフィルタ処理を行うとともに、フィルタ処理後復号信号(再構成画像信号又は参照フレーム)をフレームバッファ160に出力するように構成されている。
【0029】
ここで、例えば、フィルタ処理は、ブロック(符号化ブロック、予測ブロック又は変換ブロック)の境界部分で生じる歪みを減少するデブロッキングフィルタ処理や、画像符号化装置10から伝送されるフィルタ係数やフィルタ選択情報、画像の絵柄の局所的な性質等に基づいてフィルタを切り替える適応ループフィルタ処理である。
【0030】
フレームバッファ160は、インター予測部111で用いる参照フレームを蓄積するように構成されている。フィルタ処理後復号信号は、インター予測部111で用いる参照フレームを構成する。
【0031】
なお、
図2では図示を省略するが、画像符号化装置10は符号化部140の出力する符号化データの符号量と、入力画像信号及びフレームバッファ160に蓄積されるフィルタ処理後復号信号から算出される歪み量とに基づいてレート歪コストを算出するコスト判定機能を備える。そして、レート歪コストが最小となるブロックの分割モードおよび予測モードを決定し、決定した分割モードおよび予測モードに対応する符号化データが最終的に符号化部140から出力される。
【0032】
図3は、前記インター予測部111の構成を示した機能ブロック図であり、動き導出部111Aおよび動き補償部111Bを主要な構成とし、動き導出部111Aは動き探索部111A1およびマージ部111A2で構成される。
【0033】
動き探索部111A1は、入力画像信号(原画像)やフレームバッファ160に格納されている参照フレーム(再構成画像)を入力とし、対象フレームと参照フレームとを比較することよって参照フレームにおいて対象ブロックに対応する参照ブロックを特定する。動き探索部111A1は更に、特定した参照フレームに対する動きベクトルを、後述する動き探索方法を用いて探索する。
【0034】
マージ部111A2は、入力画像信号、フームバッファ160に格納されている参照フレームおよび時空間上の隣接位置(隣接ブロック)の動きベクトルに基づいて、対象ブロックに対するマージ候補(予測動きベクトル)を決定し、対象ブロックの動き情報として出力する。動き情報とは、予測動きベクトル、参照フレームのリスト番号、参照フレームを特定するリスト内のインデックスを指す。
【0035】
動き補償部111Bは、動き導出部111Aが出力する動きベクトルまたはマージ部111A2が出力する予測動きベクトルを用いて対象ブロックの動き補償予測信号を生成し、出力する。
【0036】
MMVD処理部111A3は、前記動きベクトルおよび予測動きベクトルに基づいて差分動きベクトルを生成する。MMVD処理部111A3の方向インデックス(IDX)決定部111A3aおよび絶対値インデックス(IDX)決定部111A3bについては後に詳述する。
【0037】
図4は、前記動き導出部111Aが導出する動きベクトルMVを模式的に示した図である。動きベクトルMVは、参照フレームにおける対象ブロックの参照位置(参照ブロック)を特定する。動きベクトルMVの参照位置は2次元座標(x、y)で示され、座標(x、y)の画素精度が動きベクトルの精度となる。
【0038】
図5は、動きベクトルの精度と動き補償補間フィルタとの関係を示した図であり、例えば非特許文献1に開示されている。動きベクトルの参照位置が小数画素精度であると、動き補償予測信号を生成するために補間フィルタが使用される。非特許文献1に開示される複数精度の動きベクトルを導出する技術であるAMVR(Adaptive Motion Vector Resolution)では、動きベクトルが1/4画素精度であれば8タップフィルタが使用され、1/2画素精度であれば6タップのガウシアンフィルタが使用される。
【0039】
図6は、前記動き探索部111A1による動き探索手順の一例として、例えば非特許文献1に開示される探索手順を示した図であり、ステップS1の1次探索およびステップS2の2次探索を経て動きベクトルが導出される。
【0040】
1次探索では、対象ブロックに対して時空間上で隣接するブロックの動きベクトルを探索開始点として、後述する整数画素精度で参照ブロックの位置、すなわち動きベクトル(MV)が探索される。ここで、探索開始点となる隣接ブロックの動きベクトルは予測動きベクトル(MVP:Motion Vector Prediction)と呼ばれ、符号化装置10のメモリ上に記録された、異なる2つの予測動きベクトル候補が使用される。
【0041】
図7は、予測動きベクトル候補を導出するための対象ブロックに対する時空間上の参照位置の一例を示した図であり、例えば非特許文献1に開示されるように、対象ブロックと同一フレームにあるA0、A1、B0、B2またはB2や、対象ブロックと異なるフレームにあるC0またはC1などから、異なる2つの予測動きベクトルが候補として選択される。なお、予測動きベクトル候補の選出には非特許文献1に開示された手法を適用できるので、ここではその説明を省略する。
【0042】
図8は、1次探索における動き探索を整数動き探索を例にして示した図であり、非特許文献1に開示されるように、探索開始点(図中●)から、同図(a)のダイヤモンドサーチおよび同図(b)のフルサーチ(ラスターサーチ)により最適な参照位置が導出される。
【0043】
次いで、導出された参照位置を探索開始点として再度ダイヤモンドサーチで最適な参照位置が導出される。ダイヤモンドサーチおよびフルサーチ(ラスターサーチ)には非特許文献1に開示された手法を適用できるので、ここではその説明を省略する。
【0044】
図9は、ステップS2の2次探索における小数動き探索の一例を示した図であり、例えば非特許文献1に開示されるように、最終的に導出したい動きベクトルの精度が1/4画素精度であれば、1次探索で導出した動きベクトル(●)を探索開始点として、隣接する1/2画素精度の8点(A~H)が探索される。
【0045】
次いで、探索開始点を含む9点から最適な点が一つ選択される。更に、選択した点(図では、点F)を探索開始点として、隣接する1/4画素精度の8点(丸数字の1~8)を探索し、探索開始点(F)を含む9点から最適な参照位置、すなわち動きベクトルが決定される。
【0046】
ここで、AMVRにおける動きベクトルが1/4画素以外の場合、すなわち整数画素精度、4画素精度、1/2画素精度であれば、2次探索における探索範囲の精度がそれぞれの動きベクトルの精度に合わせられる。なお、探索点の選択には非特許文献1に開示された手法を適用できるので、ここではその説明を省略する。
【0047】
非特許文献1には、前記マージ部111A2から出力される予測動きベクトルに差分動きベクトルを加算するマージ差分動きベクトル(MMVD)という技術が開示されている。MMVDはマージ部111A2の一部の機能であり、マージ符号化の一種である。MMVDによる差分動きベクトルはDirection IDXとDistance IDXによって表現される。
【0048】
図10は、Direction IDXによって規定される差分動きベクトルが示す4通りの方向を示している。
図11はDistance IDXによって規定される差分動きベクトルの8通りの絶対値を示している。差分動きベクトルの生成パターンは、
図10,11を参照すれば32通り(小数精度または整数精度)である。画像符号化装置10においては、すべての組み合わせに対するレート歪コストが比較されて最適な組み合わせが選択される。
【0049】
図12は、前記MMVD処理部111A3の方向IDX決定部111A3aが差分動きベクトルのDirection IDXを導出する方法を模式的に示した図である。方向IDX決定部111A3aは、動き探索部111A1が導出した動きベクトルMVの方向に基づいて差分動きベクトルの探索方向を前記4方向のいずれかに決定する。図示の例では、動き探索部111A1が出力する動きベクトルが座標(3,2)を示しているので、探索方向は前記4方向のうちで最も近い「上向(00)」に決定される。
【0050】
なお、動き探索部111A1が出力する動きベクトルのx成分とy成分との絶対値が同じであると、方向が水平方向および垂直方向のいずれにも類似するのでいずれの方向に決定しても良い。あるいは、水平方向または垂直方向に固定的に決定されるようにしても良い。本実施形態によれば、差分動きベクトルの探索方向が4方向のいずれかに決定されるので、レート歪コストを計算する回数を1/4に削減できる。
【0051】
図13は、前記MMVD処理部111A3の絶対値IDX決定部111A3bが差分動きベクトルのDistance IDXを導出する方法を示した図であり、Direction IDXは
図12と同様の方法で導出される。
【0052】
絶対値IDX決定部111A3bは、動き探索部111A1が出力する動きベクトルとマージ部111A2が出力する予測動きベクトルとの差分動きベクトルを用いてDistance IDXを導出する。図示の例では、MMVDの探索開始点(中心点)から上下左右の点で差分動きベクトルが最も近くを示す点(
図12の破線先の黒点)がDistance IDXとして導出される。
【0053】
Direction IDXは探索開始点(中心点)に対して、差分動きベクトルが指し示す方向とする。Distance IDXは探索開始点と差分動きベクトルの大きさを求め、最も値が近いものを選択する。このとき、差分動きベクトルの大きさより求められた位置が各Distance IDXの中間位置を指し示していた場合は、いずれのDistance IDXを選択して良い。
【0054】
また、最も近い点を選択するのではなく、近傍N個の点を選択してレート歪コストを計算することでDirection IDXとDirection IDXを導出しても良い。N=1の場合、Direction IDXおよびDirection IDXが一意に決まるため、差分動きベクトルを直接伝送することも可能となる。つまり、シンタックスを省略することが可能となる。また、探索する距離が決定されるため、レート歪コストを計算する回数が最大でN回となる。
【0055】
なお、本実施形態ではCU(Coding Unit)の面積が32~16384画素の範囲で可変となるが、いくつかのサンプル映像を用いてMMVDの適用率をCUの面積ごとに予め算出して適用率が低下するCU面積の上限値および下限値を設定しておき、CU面積が上限閾値以上または下限閾値以下ではMMVDを不適用とすることにより、レート歪コストの計算回数を削減できる。
【0056】
また、本実施形態では通常マージにおいて列挙された参照フレームと動きベクトルとの2つの組み合わせがインデックス0,1で識別され、各組の動きベクトルに対してレート歪コストを計算してDirection IDXとDistance IDXを決定する。このとき、各組み合わせに係る動きベクトルが同じであると、一方のインデックス(例えば、インデックス1)に対するDirection IDXまたはDistance IDXの導出を省略しても良い。これによりレート歪コストの計算回数を1/2に削減できる。
【0057】
そして、上記の実施形態によれば、符号化性能低下を抑制しながら符号化装置におけるレート歪コストの計算にかかる処理時間を大幅に削減することが可能となり、動画像を処理能力の低い符号化装置や通信インフラ経由でも提供することが可能となるので、地理的あるいは経済的な格差を超えて多くの人々に多様な動画層を提供できるようになる。その結果、国連が主導する持続可能な開発目標(SDGs)の目標9「レジリエントなインフラを整備し、包括的で持続可能な産業化を推進する」や目標11「都市を包摂的、安全、レジリエントかつ持続可能にする」に貢献することが可能となる。
【符号の説明】
【0058】
1…画像処理システム,10…画像符号化装置,20…画像符号化装置,111…インター予測部,111A…動き導出部,111B…動き補償部,111A1…動き探索部,111A2…マージ部,111A3…MMVD処理部,111A3a…方向IDX決定部,111A3b…絶対値IDX決定部,112…イントラ予測部,121…減算器,122…加算器,131…変換・量子化部,132…逆変換・逆量子化部,140…符号化部,150…インループフィルタ処理部,160…フレームバッファ