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▶ 株式会社ノリタケカンパニーリミテドの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022134171
(43)【公開日】2022-09-15
(54)【発明の名称】銀ペーストとその利用
(51)【国際特許分類】
   H01B 1/22 20060101AFI20220908BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20220908BHJP
   B41J 2/335 20060101ALI20220908BHJP
【FI】
H01B1/22 A
H01B13/00 503Z
B41J2/335 101E
B41J2/335 101H
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021033132
(22)【出願日】2021-03-03
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-08-25
(71)【出願人】
【識別番号】000004293
【氏名又は名称】株式会社ノリタケカンパニーリミテド
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(72)【発明者】
【氏名】加藤 聖也
(72)【発明者】
【氏名】山下 剛広
【テーマコード(参考)】
2C065
5G301
5G323
【Fターム(参考)】
2C065JE07
2C065JE08
2C065JH07
2C065JH14
5G301DA03
5G301DA34
5G301DA42
5G301DD01
5G301DE01
5G323AA01
(57)【要約】
【課題】銀膜形成時に生じ得る銀膜内部の剥離を低減する銀ペーストを提供する。
【解決手段】ここで開示される銀ペーストは、金膜上に形成される銀膜に用いられる銀ペーストであって、少なくとも銀粒子と、ガラスとを含み、上記ガラスにおいて、該ガラスの軟化点は、550℃以上900℃以下であり、上記ガラスから成る直径15mm、高さ6mmの円盤状の試験片を大気圧下で830℃で焼成したとき、焼成後の上記試験片の直径が0.9倍以上2.6倍以下である。
【選択図】図3D
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金膜上に形成される銀膜に用いられる銀ペーストであって、
少なくとも銀粒子と、ガラスとを含み、
前記ガラスにおいて、
該ガラスの軟化点は、550℃以上900℃以下であり、
前記ガラスから成る直径15mm、高さ6mmの円盤状の試験片を大気圧下で830℃で焼成したとき、焼成後の前記試験片の直径が0.9倍以上2.6倍以下である、
銀ペースト。
【請求項2】
前記銀ペースト全体を100vol%としたとき、前記ガラスが0.5vol%以上含まれる、請求項1に記載の銀ペースト。
【請求項3】
前記銀ペーストの全体を100wt%としたとき、前記銀粒子が60wt%以上含まれる、請求項1または2に記載の銀ペースト。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の銀ペーストの焼成体を備える電極。
【請求項5】
電極の製造方法であって、
請求項1~3のいずれか一項に記載の銀ペーストを所定の基材に塗布する工程と、
前記銀ペーストに含まれるガラスの軟化点よりも高い温度で焼成する工程と
を含む、電極製造方法。
【請求項6】
前記電極はサーマルプリントヘッド用電極である、請求項5に記載の電極製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銀ペーストと、かかる銀ペーストの焼成体を備える電極および該電極の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気・電子部品用の電子素子においては、導線を用いることなく、絶縁性基板に導電性材料を用いて導体膜を形成し、この導体膜により配線する技術が広く採用されている。
【0003】
例えば、サーマルプリントヘッドにおいて抵抗体を発熱させるための導体膜(電極)として金(Au)が用いられている。しかし、コスト削減等の観点から、電極の一部を金から銀(Ag)に変更することが提案されている。特許文献1には、かかる構成の一例として、抵抗体に接する位置の電極には金を含む電極層(第1層)を配置し、抵抗体から離間し且つ上記第1層上に銀を含む電極層(第2層)が形成された構成が開示されている。金は銀よりも抵抗体(例えば、酸化ルテニウムからなる抵抗体)に拡散する度合いが小さいため、抵抗体と接する部分は金を含む電極層とする一方で、他の部分を銀を含む電極層とすることにより、コストの削減と、抵抗体および電極層の劣化を抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-103608号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、金を含む電極層(金膜)上に銀を含む電極層(銀膜)を形成する方法の一例として、金膜上に銀ペーストを塗布(印刷を含む)し、焼成することが挙げられる。しかしながら、本発明者らが検討したところ、かかる焼成により、銀膜の内部に剥離が生じてしまう課題があることが見出された。銀膜の内部に剥離が生じることで外観不良となるだけでなく、電気抵抗が高くなることや、電極の劣化が早くなる等の問題が生じるため好ましくない。
【0006】
そこで、本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、銀膜形成時に生じ得る銀膜内部の剥離を低減する銀ペーストを提供することである。また、かかる銀ペーストの焼成物である電極及びかかる電極の製造方法を提供することを他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を実現するべく、本発明者らが検討したところ、金膜上に塗布された銀ペーストを少なくとも550℃以上の温度で焼成することにより、銀膜内部に剥離が生じることが確認された。そこで、本発明者らは、かかる剥離を生じないようにするのではなく、生じた剥離を焼成中に接着(修復)させる工夫を施すことで、剥離が低減した銀膜を形成できないかと考え、鋭意検討を行った。その結果、所定範囲の軟化点および所定範囲の流動性を有するガラスを銀ペーストに添加することにより、剥離が低減した銀膜が形成されることを見出した。
【0008】
即ち、ここに開示される銀ペーストは、金膜上に形成される銀膜に用いられる銀ペーストであって、少なくとも銀粒子と、ガラスとを含み、上記ガラスにおいて、該ガラスの軟化点は、550℃以上900℃以下であり、上記ガラスから成る直径15mm、高さ6mmの円盤状の試験片を大気圧下で830℃で焼成したとき、焼成後の上記試験片の直径が0.9倍以上2.6倍以下である。
かかる構成によれば、銀ペーストに含まれるガラスの軟化点は、少なくとも銀膜内部に剥離が生じる温度(550℃)以上であるため、銀膜内部に剥離が生じた後にガラスが軟化する。これにより、軟化したガラス同士が互いに引き合う力が生じる。その結果、剥離部周辺の軟化したガラスが剥離部を接着させ、剥離を低減することができる。
【0009】
ここで開示される銀ペーストの好ましい一態様では、上記銀ペースト全体を100vol%としたとき、上記ガラスが0.5vol%以上含まれる。
かかる範囲のガラスを含むことにより、剥離部を接着する効果が高くなるため、銀膜内部の剥離をより低減することができる。
【0010】
また、ここで開示される銀ペーストの好ましい一態様では、上記銀ペーストの全体を100wt%としたとき、上記銀粒子が60wt%以上含まれる。
かかる構成によれば、剥離部の接着部分にガラスと共に銀粒子が配置されるため、剥離部が低減された導電性の高い銀膜を形成するための銀ペーストが提供される。
【0011】
また、上記目的を実現するため、電極および該電極の製造方法が提供される。ここで開示される電極は、ここで開示される銀ペーストの焼成体を備える。これにより、剥離が低減された電極が実現される。
また、ここで開示される電極の製造方法は、ここで開示される銀ペーストを所定の基材に塗布する工程と、上記銀ペーストに含まれるガラスの軟化点よりも高い温度で焼成する工程とを含む。また、好ましい一態様では、上記電極はサーマルプリントヘッド用の電極である。これにより、銀膜内部の剥離が低減された電極を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】一実施形態に係る銀ペーストの焼成体(銀膜)を備える電極の構成を模式的に示す断面図である。
図2A】例5の電極の830℃焼成後の銀膜の倍率1000倍におけるFE-SEM断面二次電子像である。
図2B】例7の電極の830℃焼成後の銀膜の倍率1000倍におけるFE-SEM断面二次電子像である。
図3A】例5の電極の550℃焼成後の銀膜の倍率5000倍におけるFE-SEM断面二次電子像である。
図3B】例5の電極の650℃焼成後の銀膜の倍率5000倍におけるFE-SEM断面二次電子像である。
図3C】例5の電極の750℃焼成後の銀膜の倍率5000倍におけるFE-SEM断面二次電子像である。
図3D】例5の電極の830℃焼成後の銀膜の倍率5000倍におけるFE-SEM断面二次電子像である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、ここで開示される技術の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項(例えば、銀ペーストの構成)以外の事柄であって実施に必要な事柄(例えば、銀ペーストの供給方法や、金膜の製造方法等)は、本明細書により教示されている技術内容と、当該分野における当業者の一般的な技術常識とに基づいて理解することができる。ここで開示される技術の内容は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。なお、本明細書において範囲を示す「A~B」との表記は、A以上B以下を意味する。したがって、Aを上回り且つBを下回る場合を包含する。
【0014】
ここで開示される銀ペーストは、金膜上に銀膜を形成するために好ましく用いられるため、以下、金膜と銀膜とを備える電極ついて図面を参照しながら説明する。なお、以下の図面においては、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付し、重複する説明は省略または簡略化することがある。また、各図における寸法関係(長さ、幅、厚み等)は必ずしも実際の寸法関係を反映するものではない。
【0015】
[電極]
図1は、ここで開示される銀ペーストの焼成体(銀膜)を備える電極の構成を模式的に示す断面図である。図1に示すように、基板10の表面に電極20が形成されている。電極20は、金膜22と銀膜24とを備えており、基板10上に金膜22が形成されている。また、電極20は、金膜22上に銀膜24が形成された積層構造(図1中では2層構造)となる部分を備えている。銀膜24を金膜22上に形成することにより、コストの削減と電気抵抗の低減とを実現することができる。なお、銀膜24は必ずしも金膜22上だけに形成されている必要はなく、銀膜24が基板10上に形成された部分を有していてもよい。
【0016】
基板10は、特に制限されるものではないが、典型的には絶縁材料から成り、例えば、セラミック材料(例、アルミナ等)で構成される。また、基板10の表面に、ガラス材料(例、非晶質のガラス)によるコーティングがされていてもよい(いわゆる、グレーズ基板)。金膜22は、電気伝導性(単に「導電性」ともいう)の高い導体膜であり、例えば、金(Au)を含むレジネートを基板10の表面に塗布し、焼成することにより形成される。銀膜24は、導電性の高い導体膜であり、一般的に、金膜22よりも低いコストで製造することができる。銀膜24は、ここで開示される銀ペーストを用いることで好適に形成される。以下、ここで開示される銀ペーストについて説明する。
【0017】
[銀ペースト]
ここに開示される銀ペーストは、銀粒子と、ガラスとを含んでいる。また、典型的には、これらの供給性およびハンドリングの向上のために、有機バインダ、溶剤等を含む。ペーストの形態で銀粒子を所望の基材に所望の形態で供給し、焼成することで、銀粒子同士が焼結してなる銀膜(銀電極)を形成することができる。
【0018】
[銀粒子]
ここに開示される銀ペーストに含まれる銀粒子は、電子素子等における導線たる電気伝導性の高い導体膜(電極)を形成するため材料である。銀(Ag)は、金(Au)ほど高価ではなく、酸化され難くかつ導電性に優れることから導電性材料として好ましい。銀粒子は、典型的には、複数の銀粒子の集合である銀粉末の形態で用いられる。銀粉末は、銀を主成分とする粉末(粒子の集合)であればその組成は特に制限されず、所望の導電性やその他の物性を備える銀粉末を用いることができる。ここで主成分とは、銀粉末を構成する成分のうちの最大成分であることを意味する。銀粉末としては、例えば、銀および銀合金ならびにそれらの混合物または複合体等から構成されたものが一例として挙げられる。銀合金としては、例えば、銀-パラジウム(Ag-Pd)合金、銀-白金(Ag-Pt)合金、銀-銅(Ag-Cu)合金等が好ましい例として挙げられる。例えば、コアが銀以外の銅や銀合金等の金属から構成され、コアを覆うシェルが銀からなるコアシェル粒子等を用いることもできる。また、コアが銀から構成され、コアを覆うシェルが銀以外の銅や銀合金等から構成されたコアシェル粒子等も用いることもできる。銀粉末は、その純度(含有量)が高いほど導電性が高くなる傾向があることから、純度の高いものを使用することが好ましい。銀粉末は、純度95%以上が好ましく、97%以上がより好ましく、98%以上がさらに好ましく、99%以上が特に好ましい。ここに開示される技術によると、例えば、純度が99.5%程度以上(例えば99.8%程度以上)の銀粉末を使用することでも、極めて低抵抗の導体膜を形成することが可能とされる。なお、かかる観点において、ここに開示される技術においては、例えば、純度99.99%以下(例えば、99.9%以下)の銀粉末を用いても、十分に低抵抗の導体膜を形成することが可能である。
【0019】
銀粒子の形状は、特に限定されるものではなく、球状、平板状、針状、不定形状等の各種の形状であってよく、典型的には球状のものが用いられる。また、銀粉末の平均粒子径は特に限定されるものではないが、銀粉末の平均粒子径が小さすぎると、より低温で焼結が進行するものの、凝集しやすくなり焼成時の銀粒子の充填性が低下するために好ましくない。したがって、銀粉末の平均粒子径は、例えば0.2μm以上を目安とすることが好適である。また、平均粒子径は0.3μm以上であってよく、0.5μm以上であることが好ましく、0.7μm以上であることがより好ましく、1μm以上がさらに好ましく、1.2μm以上が特に好ましい。また、銀粉末の平均粒子径が大きすぎると、焼結のために高温に長時間晒す必要がある。したがって、銀粉末の平均粒子径は、例えば5μm以下を目安とすることができる。平均粒子径は4.5μm以下であることが好ましく、4μm以下がより好ましく、3.5μm以下が特に好ましい。
なお、本明細書における「平均粒子径」とは、レーザ回折・散乱法に基づく体積基準の粒度分布における累積体積が50%時の粒径(D50)を採用している。
【0020】
また、銀粉末としては、粒度分布のシャープな(狭い)ものが好ましい。例えば、平均粒子径が10μm以上の粒子を実質的に含まないような銀粉末を好ましく用いることができる。さらに、粒度分布がシャープであることの指標として、レーザ回折・散乱法に基づく粒度分布における小粒径側からの累積10%体積時の粒径(D10)と累積90%体積時の粒径(D90)との比(D10/D90)が採用できる。粉末を構成する粒径が全て等しい場合はD10/D90の値は1となり、逆に粒度分布が広くなる程このD10/D90の値は0に近づくことになる。D10/D90の値が0.15以上、例えば0.15以上0.5以下であるような、比較的狭い粒度分布の粉末の使用が好ましい。
【0021】
また他の側面において、銀粉末は、平均粒子径の異なる2つの粒子群を混合して用いることもできる。この場合、例えば、第1の粒子群の平均粒子径(D50)を2μm~5μm(例えば2μm)の範囲とし、第2の粒子群の平均粒子径(D50)を0.5μm~2μm(例えば0.5μm)の範囲とすることが好適例として挙げられる。このとき各粒子群の粒度分布は、上記のとおりシャープなものであることが好ましい。そして、例えば、第1の粒子群が65~90wt%(例えば、70wt%)の割合で、第2の粒子群が35~10wt%(例えば、30wt%)の割合となるように混合する。これにより、充填性の良好な銀粉末を用意することができる。
このような平均粒子径および粒度分布特性を有する銀粉末は、充填性がよく緻密な導体膜を形成し得る。このことは、抵抗率のより低い導体膜を形成するにあたって有利である。
【0022】
銀ペースト全体(100wt%)に占める銀粉末の割合は、特に限定されるものではないが、典型的には60wt%以上であって、例えば、70wt%以上であってよく、80wt%以上であることが好ましい。これにより、銀膜内部の剥離部が接着した際に、かかる位置にガラスだけでなく銀粒子も配置され易くなる。そのため、剥離部が接着した部分であっても高い導電性を保つことができる。また、銀粉末の割合は高い方が緻密な電極を形成され、導電性が高くなるため、銀ペースト全体に占める銀粉末の割合は、85wt%以上であることがより好ましく、90wt%以上であることがさらに好ましい。
【0023】
[ガラス]
ここに開示される銀ペーストに含まれるガラスは、銀ペーストの焼成体である銀膜内部に生じ得る剥離を低減するための材料である。ガラスは、軟化点の温度に達すると、自重により変形し始める性質を持つ。そのため、銀ペースト中で軟化点に達したガラスは、銀粒子の表面を濡れ伝い始め、銀粒子同士、および、銀粒子と銀ペーストが塗布された基材との間に入り込み、これらを結着する効果を奏する。このとき、軟化したガラス同士には、分子間力により引き合う力(表面張力)が発生する。これにより、銀膜内部で剥離が生じている場合、かかる剥離部周辺に存在する軟化したガラス同士が互いに引き合うため、剥離部を接着(修復)することができる。
【0024】
かかる効果を適切に発揮するために、ガラスの軟化点は銀膜内部で剥離が生じる温度より高いことが好ましい。詳しくは後述するが、本発明者らの検討によれば、金膜上に塗布した銀ペーストを少なくとも550℃で焼成した場合に剥離が生じる。そのため、ガラスの軟化点は550℃以上であることが好ましく、例えば570℃以上や590℃以上であってよい。一方で、ガラスの軟化点が、銀膜を形成するための焼成温度よりも高い場合、ガラスの軟化が不十分である(もしくは軟化しない)ため、上述した効果を得ることができない。そのため、ガラスの軟化点は、焼成温度よりも低く設定される。銀ペーストの焼成温度は、銀粉末の焼結温度に基づき適切に決定することができる。したがって、焼成温度は、特に限定されるものではないが、従来の銀粉末の焼成温度と同様に、例えば、700℃~900℃程度とすることができ、典型的には、830℃程度に設定される。そのため、適切なガラスの軟化点は、例えば、900℃以下であり、830℃以下であることが好ましく、800℃以下であることがより好ましく、720℃以下(例えば716℃以下)であることがさらに好ましい。また、ガラスの軟化点と焼成温度T℃との差が大きいほどガラスがより軟化した状態となるため好ましい。ガラスがより軟化することにより表面張力が働きやすくなるため、剥離部の接着がより好適に行われる。そのため、ガラスの軟化点は、焼成温度より50℃以上低く設定することが好ましく、80℃以上低いことが好ましく、100℃以上低いことがさらに好ましい。
【0025】
また、軟化したガラスの流動性が低すぎる場合、ガラスが銀粒子表面に留まり易くなるため、剥離部周辺の軟化したガラス同士が十分に引き合うことができず、剥離部の低減が不十分となり得る。一方で、流動性が大きすぎる場合、軟化したガラス同士が引き合う力が不十分になるため、剥離部を十分に接着することができない。そのため、ガラスが軟化したときの流動性は適切な範囲であることが望ましい。ここで開示される銀ペーストに含まれるガラスの流動性はボタンフロー試験によって測定される。具体的には、直径15mm、高さ6mmの円盤状の試験片(ガラスボタン)をプレス成型(典型的には、20kg/cm以上のプレス圧力)により製造し、大気圧下で830℃で所定の時間(典型的には0.25時間~1時間)焼成したときの、試験片の直径を測定する。そして、焼成前の試験片の直径と焼成後の試験片の直径とを比較し、その変化率を算出する。好ましい流動性を有するガラスは、焼成前の試験片の直径に対して、焼成後の試験片の直径が0.9倍以上2.6倍以下であり、より好ましくは1倍以上2.6倍以下であり、さらに好ましくは1倍以上1.5倍以下である。かかる範囲の流動性であれば、好適に銀膜内部の剥離を低減することができる。なお、流動性の低いガラスでは高い表面張力が働くため、ガラスが軟化したときに、試験片が円外径方向に広がるのではなく、収縮することがある。かかる場合には、焼成後にガラスボタンの直径が焼成前よりも小さくなり得る。また、ボタンフロー試験は、同じガラスについて複数の試験片(例えば4個以上)で試験を行い、それらの平均値を用いる。また、焼成後のガラスは楕円状等になり得るため、かかる場合には、平面視において、最も長い径を長径とし、該長径と直角に交わる線のうち最も長い径を短径とする。そして、該長径と該短径とからなる楕円の面積を用いて、円相当径を換算することにより直径とする。
【0026】
ガラスの形状は特に限定されるものではないが、典型的には粉末状のものが使用される。また、ガラス粉末が銀ペーストに均一に混合されていることで、銀膜内部のいずれの位置に剥離が発生したとしてもかかる剥離を接着することができるようになる。そのため、特に限定されるものではないが、ガラス粉末の大きさは銀粒子の大きさと同程度かそれより小さいことが好ましい。そのため、レーザ・散乱回折法に基づくガラス粉末の平均粒子径は、4μm以下が適当であり、3μm以下が好ましく、2μm以下であってよく、例えば1.5μm以下であり得る。また、特に限定されるものではないが、ガラス粉末の平均粒子径は、0.2μm以上が適当であり、0.5μm以上が好ましく、0.8μm以上がより好ましく、例えば1μm以上であってよい。
【0027】
銀ペーストに含まれるガラスの含有割合は、銀ペースト全体を100vol%としたとき、0.5vol%以上であるとよい。かかる割合であれば、銀ペーストから形成される銀膜内部の剥離部を接着する効果が高くなるため、銀膜内部の剥離をより低減することができる。また、ガラスの含有割合が高いほど剥離の接着効果は高くなるため、例えば、ガラスの含有割合は1vol%以上や1.5vol%以上であってよい。一方で、ガラスの含有割合が高いほど銀膜の電気抵抗が高くなってしまう。そのため、ガラスの含有割合は、例えば、10vol%以下であることが適切であり、5vol%以下であることが好ましく、3vol%以下であることがより好ましい。
【0028】
上述のとおり、銀ペーストに含まれるガラスは、適切な範囲の軟化点および流動性を有することで銀膜内部の剥離を低減させる効果を発揮するため、ガラスの構成元素は特に制限されるものではなく、各種の組成のガラスを用いることができる。例えば、おおよそのガラス組成として、当業者が慣用的に表現している呼称である、いわゆる、鉛系ガラス、鉛リチウム系ガラス、亜鉛系ガラス、ビスマス系ガラス、ボレート系ガラス、ホウケイ酸系ガラス、アルカリ系ガラス、無鉛系ガラス、テルル系ガラス、および、酸化バリウムや酸化ビスマス等を含有するガラス等であってよい。これらのガラスは、改めて言うまでもなく、上記呼称に現れる主たるガラス構成元素の他に、Si、Pb,Zn,Ba,Bi,B,Al,Li,Na,K,Rb,Te,Ag,Zr,Sn,Ti,W,Cs,Ge,Ga,In,Ni,Ca,Cu,Mg,Sr,Se,Mo,Y,As,La,Nd,Pr,Gd,Sm,Dy,Eu,Ho,Yb,Lu,Ta,V,Fe,Hf,Cr,Cd,Sb,F,Mn,P,CeおよびNbからなる群から選択された1つまたは複数の元素を含んでいてもよい。このようなガラスは、例えば、一般的な非晶質ガラスの他、一部に結晶を含む結晶化ガラスであってもよい。また、ガラスは、1種の組成のガラスを単独で用いてもよく、2種以上の組成のガラスを混合して用いてもよい。
【0029】
ガラス組成を特に限定するものではないが、ここで開示される銀ペーストに含まれるガラス組成の例としては、Bi、SiO、Bからなる群から選ばれる少なくとも二種の酸化物を主要構成成分として含むことが好ましく、例えば、ガラス全体(100mol%)に対してそれぞれの酸化物が25mol%以上含まれていることが好ましい。即ち、ガラスの構成成分の50mol%以上がSiO、B、Biからなる群から選ばれる少なくとも二種によって構成されていることが好ましい。また、これらのガラスには、他の成分として、アルカリ金属成分(典型的には、LiO、NaO、KO)、広義のアルカリ土類金属成分(典型的には、MgO、CaO、BaO、SrO)、アルミニウム成分(典型的にはAl)、亜鉛成分(典型的には、ZnO)、遷移金属成分(例えば、TiO、ZrO、MnO等)等を含み得る。
【0030】
ケイ素成分(典型的には、SiO)は、ガラスの骨格を構成する成分であり、熱的安定性が高く、軟化点を高める成分である。特に限定されるものではないが、ケイ素成分は、ガラス全体(100mol%)に対して、酸化物換算のモル比で、例えば25mol%以上(好ましくは30mol%以上)含まれていてもよく、50mol%以下(好ましくは40mol%以下)であるとよい。これにより、ガラスの軟化点を銀膜の剥離温度(550℃)以上に調整することが容易にできるため、銀膜内部の剥離を好適に修復することができる。
【0031】
ホウ素成分(典型的には、B)は、ガラスの流動性を高めるとともに、軟化点を低下させる成分である。特に限定されるものではないが、ホウ素成分は、ガラス全体(100mol%)に対して、酸化物換算のモル比で、例えば25mol%以上(好ましくは30mol%以上)含まれていてもよく、50mol%以下(好ましくは40mol%以下)であるとよい。これにより、ガラスの軟化点と銀膜形成時の焼成温度との差を大きくなるよう容易に調整にすることができるため、銀膜内部の剥離を好適に修復することができる。
【0032】
ビスマス成分(典型的には、Bi)は、ガラスの流動性を高めるとともに、軟化点を低下させる成分である。特に限定されるものではないが、ビスマス成分は、ガラス全体(100mol%)に対して、酸化物換算のモル比で、例えば25mol%以上(好ましくは40mol%以上)含まれていてもよく、60mol%以下(好ましくは55mol%以下)であるとよい。これにより、ガラスの軟化点と銀膜形成時の焼成温度との差を大きくなるよう調整することができるため、銀膜内部の剥離を好適に修復することができる。
【0033】
アルカリ金属成分(典型的には、LiO、NaO、KO)は、ガラスに流動性を与えて軟化点を下げる効果のある成分である。特に限定されるものではないが、アルカリ金属成分は、ガラス全体(100mol%)に対して、酸化物換算のモル比で、例えば0.1mol%以上(好ましくは2mol%以上)含まれていてもよく、10mol%以下(好ましくは8mol%以下)であるとよい。これにより、ガラスの軟化点と銀膜形成時の焼成温度との差を大きくなるように調整することができるため、銀膜内部の剥離を好適に修復することができる。なお、アルカリ金属成分は、1種単独で含まれていてもよく、2種以上の複数が含まれていてもよい。
【0034】
バリウム以外の広義のアルカリ土類金属(典型的には、MgO、CaO、SrO)は、網目修飾酸化物(ネットワークモディファイア)として機能する。これにより、ガラスの物理的安定性や熱的安定性を向上させ、軟化点を高めることができる。特に限定されるものではないが、かかるアルカリ土類金属成分は、ガラス全体(100mol%)に対して、酸化物換算のモル比で、例えば0.1mol%以上(好ましくは5mol%以上)含まれていてもよく、15mol%以下(好ましくは10mol%以下)であるとよい。これにより、ガラスの軟化点および流動性を好適な範囲に調整することができる。なお、アルカリ土類金属成分は、1種単独で含まれていてもよく、2種以上の複数が含まれていてもよい。
【0035】
バリウム成分(典型的にはBaO)は、ガラスの熱的安定性を向上させ、軟化点を高めることができる成分である。特に限定されるものではないが、バリウム成分は、ガラス全体(100mol%)に対して、酸化物換算のモル比で、例えば0.1mol%以上(好ましくは5mol%以上)含まれていてもよく、20mol%以下(好ましくは15mol%以下)であるとよい。これにより、ガラスの軟化点および流動性を好適な範囲に調整することができる。
【0036】
アルミニウム成分(典型的にはAl)は、流動性を制御し、付着安定性に関与する成分である。特に限定されるものではないが、アルミニウム成分は、ガラス全体(100mol%)に対して、酸化物換算のモル比で、例えば0.1mol%以上(好ましくは2mol%以上)含まれていてもよく、10mol%以下(好ましくは8mol%以下)であるとよい。これにより、ガラスの軟化点および流動性を好適な範囲に調整することができる。
【0037】
亜鉛成分(典型的には、ZnO)は、ガラスの熱的安定性を向上させる効果の高い成分であり、軟化点を高めることができる成分である。特に限定されるものではないが、亜鉛成分は、ガラス全体(100mol%)に対して、酸化物換算のモル比で、例えば0.1mol%以上(好ましくは5mol%以上)含まれていてもよく、15mol%以下(好ましくは10mol%以下)であるとよい。これにより、ガラスの軟化点および流動性を好適な範囲に調整することができる。
【0038】
遷移金属成分(例えば、TiO、ZrO、MnO等)は、熱的安定性を調整するために用いることができる。特に限定されるものではないが、遷移金属成分は、ガラス全体(100mol%)に対して、酸化物換算のモル比で、例えば0.1mol%以上(好ましくは2mol%以上)含まれていてもよく、10mol%以下(好ましくは8mol%以下)であるとよい。なお、遷移金属成分は、1種単独で含まれていてもよく、2種以上の複数が含まれていてもよい。
【0039】
[有機バインダ]
有機バインダは、銀ペースト中の銀粒子同士、および、銀粒子と銀ペーストが塗布された基材(例、金膜等)とを結合させる役割を担う成分である。これにより、銀ペーストが基材に塗布(印刷でもあり得る)されてから、焼成されるまでの形状安定性を向上させることができる。一方で、有機バインダは、銀粒子が焼成により一体化された後は、不要な抵抗成分となり得る。そのため、銀ペーストを焼成する温度よりも低い温度で消失し、銀膜中に残存しない成分であることが好ましい。このような有機バインダとしては、バインダ機能を有する有機化合物を特に制限なく用いることができる。例えば、具体的には、例えば、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等のセルロース系高分子、ポリブチルメタクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリエチルメタクリレート等のアクリル系樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、アルキド樹脂、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール等のビニル系樹脂、ロジンやマレイン化ロジン等のロジン系樹脂等をベースとするバインダ樹脂が好適に用いられる。なお、有機バインダは、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0040】
有機バインダの含有量としては、銀ペーストの形状安定性を良好にする観点から、銀ペースト全体を100wt%としたとき、0.5wt%以上であることが好ましく、例えば、1wt%以上であってよい。一方で、有機バインダが過剰に含まれると、焼成により消失しない有機バインダの量が増大し得るため、銀ペースト全体に対して、10wt%以下、好ましくは7wt%以下、より好ましくは3wt%以下であるとよい。
【0041】
[溶剤]
溶剤は、有機バインダを溶解または分散させることができ、沸点がおよそ200℃以上(典型的には約200℃~260℃)の有機溶剤を好ましく用いることができる。また、沸点がおよそ230℃以上(典型的にはほぼ230℃~260℃)の有機溶剤がより好ましく用いられる。このような有機溶剤としては、ブチルセロソルブアセテート、ブチルカルビトールアセテート(BCA:ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセタート)等のエステル系溶剤、ブチルカルビトール(BC:ジエチレングリコールモノブチルエーテル)等のエーテル系溶剤、エチレングリコールおよびジエチレングリコール誘導体、トルエン、キシレン、ミネラルスピリット、ターピネオール、ジヒドロターピネオール、テキサノール等の有機溶剤を好適に用いることができる。なお、溶剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0042】
溶剤および有機バインダは、銀粒子およびガラスを分散させる分散系(ビヒクル)を構築する。溶剤および有機バインダの合計割合は、銀ペーストの性状に合わせて適宜変更すればよいが、銀ペースト全体を100wt%としたとき、例えば、2wt%~20wt%とするのが適当であり、5wt%~15wt%とするのが好ましく、5wt%~10wt%とすることがより好ましい。なお、有機バインダは、溶剤中に溶解している有機バインダ成分と、溶解していない有機バインダ成分とが含まれていてもよい。
【0043】
なお、ここに開示される銀ペーストは、本発明の目的から逸脱しない範囲において、上記以外の種々の添加剤を含ませることができる。かかる添加剤の好適例として、例えば、界面活性剤、消泡剤、酸化防止剤、分散剤、レオロジー調整剤等の添加剤が挙げられる。
【0044】
このような銀ペーストは、上述した材料を所定の配合(質量割合)となるよう秤量し、均質になるよう混合することで調製することができる。材料の撹拌混合は、例えば三本ロールミル、ロールミル、マグネチックスターラー、プラネタリーミキサー、ディスパー等の公知の種々の撹拌混合装置を用いて実施することができる。
なお、ペーストの好適な粘度は、目的とする電極の厚み等によっても異なるため特に限定されるものではない。
【0045】
ここで開示される銀ペーストは、金膜上に銀膜を形成するための銀ペーストとして好適に用いることができる。例えば、サーマルプリントヘッドの電極に好適に用いることができ、サーマルプリントヘッドの個別電極部および共通電極部のどちらにおいても好適に用いることができる。
【0046】
以下、ここで開示される銀ペーストの焼成体を備える電極の好適な製造方法の一例について説明する。なお、かかる電極の製造方法は以下の方法に限定されるものではない。
【0047】
ここで開示される電極の製造方法は、ここで開示される銀ペーストを所定の基材に塗布する工程と(以下、「塗布工程」ともいう)、該銀ペーストに含まれるガラスの軟化点よりも高い温度で焼成する工程と(以下、「焼成工程」ともいう)を含む。
【0048】
まず、塗布工程について説明する。塗布工程では、ここで開示される銀ペーストを準備し、所定の基材に塗布(典型的には印刷)する。かかる基材としては、後述する焼成工程での焼成温度に耐えられる耐熱性を有したものであれば特に制限されるものではない。ここで開示される銀ペーストは、金膜上に銀膜を形成するために好適に用いられるため、典型的には、かかる基材は金膜または金膜を表面に備える基材が用いられる。なお、塗布方法は、公知方法に従えばよく、例えば、スクリーン印刷、グラビア印刷、オフセット印刷、インクジェット印刷等を適用することができる。
【0049】
次に、焼成工程について説明する。焼成工程では、銀ペーストの焼成温度は、銀ペースト中に含まれるガラスの軟化点以上の温度となるように設定される。また、典型的には、銀粉末の焼結温度に基づき適切に決定される。焼成温度は、銀粉末の組成にもよるが、純銀(例えば純度99.9%以上)とみなせる銀粉末については融点である962℃よりも低い温度とすることができる。したがって、焼成温度は、特に限定されるものではないが、従来の銀粉末と同様に、典型的には、700℃~900℃程度とすることができ、850℃以下が好ましい(例えば、830℃程度)。また、かかる温度は銀粉末の性質に基づき決定することができるため、800℃未満の温度で焼成してもよい(例えば770℃程度)。
【0050】
また、焼成温度と、ガラスの軟化点との差は大きいことが好ましく、例えば、焼成温度T℃はガラスの軟化点よりも50℃以上高いことが好ましく、80℃以上高いことがより好ましく、100℃以上高いことがさらに好ましい。これにより、焼成中に銀ペーストに含まれるガラスを十分に軟化させることができるため、剥離がより低減した銀膜を備えた電極を製造することができる。
【0051】
以下、ここで開示される技術に関する実施例を説明するが、かかる実施例は本発明を限定することを意図したものではない。
【0052】
(試験1)
<銀ペーストの調製>
銀粉末(球状、平均粒子径:2.5μm)と、ガラス粉末(平均粒子径:1.2μm)と、有機バインダとしてエチルセルロース(EC)と、溶剤としてジエチレングリコールモノブチルエーテル(BC)とを準備した。まずBCにECを混合後、100℃程度に数時間程度加温することでビヒクルを作成した。このビヒクルと銀粉末とガラス粉末を3本ロールミルで均一に混合し、銀ペーストを調製した。
このとき、銀ペースト全体に対して、ガラスを3vol%となるように配合し、銀ペースト全体の重量(100wt%)に対して、銀粒子を90wt%以上、ECを1.5wt%になるように配合した。かかる配合は各例で使用したガラスの組成によってガラス重量が異なるため、溶剤量を調整することで100wt%とした。なお、ガラス粉末は各例で下記のものをそれぞれ用いた。なお、下記のBi系ガラスとは、Biがガラスを構成する成分のうち最も多く、2番目に多い構成成分が25mol%未満であるものをいう。また、X-Z系ガラス(XおよびZはそれぞれ異なる酸化物を示す)とは、酸化物Xおよび酸化物Zがガラスを構成する成分のうち1番目、2番目に多く、それぞれがガラスの構成成分の25mol%以上を占めるものをいう。
例1:Bi系ガラスA
例2:Bi系ガラスB
例3:Bi-SiO系ガラス
例4:Bi-B系ガラス
例5:B-SiO系ガラスA
例6:B-SiO系ガラスB
例7:ZnO-SiO系ガラス
【0053】
<ボタンフロー試験>
各例のガラス粉末をプレス成型により直径15mm、高さ6mmの円盤状の試験片を製造した。プレス成型時の圧力は20kg/cm以上となるようにした。試験片をアルミナ製の基板上に設置し、電気炉内で、大気雰囲気下(大気圧下)で70℃/分の昇温速度で室温から830℃まで加熱し、15分間保持したのちに冷却した。そして、試験片の直径を測定した。なお、各例でこの試験片を4つずつ準備し、これらの直径の平均値を求めた。かかる平均値から求めた直径の変化倍率(即ち、「焼成後の平均直径/15mm」の値)の結果を表1に示す。
【0054】
<軟化点の測定>
各例のガラス粉末の軟化点は、一般的な精密DTA(示差熱分析)を使って測定した。典型的には、DTA曲線には吸熱ピークが複数出現するため、第1ピークに相当する温度をガラス転移点、第2ピークに相当する温度を屈伏点、第3ピークに相当する温度を軟化点として、軟化点を測定した。その結果を表1に示す。
【0055】
<試験用電極の作製>
金膜(膜厚約0.4μm)を表面に備えるグレーズ基板を準備し、かかる金膜上にスクリーン印刷法により上記準備した銀ペーストを塗工した。塗工後、70℃/分の昇温速度で830℃まで加熱し15分間保持して焼成することにより、金膜上に銀膜を形成した。このようにして、各例の試験用電極を製造した。
【0056】
<銀膜内部の剥離評価>
製造した試験用電極を金膜と銀膜の積層方向から切断した。そして、かかる切断面を電界放出型走査顕微鏡(FE-SEM)を用いて1000倍の倍率で観察し、剥離の有無を評価した。このとき、長さ25μm以上の剥離が観察されない場合を「〇」、長さ25μm以上の剥離が観察されたものを「×」とした。この結果を表1に示す。また、代表図として、図2Aに例5の電極のFE-SEM断面二次電子像を示し、図2Bに例7の電極のFE-SEM断面二次電子像を示す。
【0057】
【表1】
【0058】
表1に示すように、例3~例6では銀膜内部の剥離が低減し、その一方で例1、例2および例7では剥離が十分に低減しなかった。代表図として示した図2A図2Bとの比較から明らかなように、剥離評価が「×」である例7では銀膜中に剥離が生じているのに対し、剥離評価が「〇」の例5では銀膜中に25μm以上の剥離がないことがわかる。特に例3、例5、例6で観察された剥離は10μm未満であり、剥離の低減効果が高かった。これらの結果から、ガラスの軟化点が529℃以下である場合や、ガラスの流動性が低すぎる場合、即ち、830℃焼成のボタンフロー試験による直径の変化倍率が0.90未満(詳細には0.85以下)の場合には、剥離の低減効果が不十分であることがわかる。したがって、ガラスの軟化点が529℃以下ではなく(例えば、550℃以上や、570℃以上)、かつ、830℃焼成のボタンフロー試験による直径の変化倍率が0.9以上(例えば1以上)であり、3以下(詳細には2.55以下)となるような流動性を備えるガラスを用いることで、剥離をより好適に低減できることがわかる。
【0059】
(試験2)
<銀膜内部の剥離の観察>
例5の銀ペーストを、金膜を備えるアルミナ製の基板にスクリーン印刷し、電気炉で550℃、650℃、750℃、830℃の順に段階的に焼成した。各温度の焼成後において、電極の一部を剥離評価用に切り出し、その断面をFE-SEMで5000倍の倍率で観察し、断面二次電子像を得た。かかる断面二次電子像を図3A図3Dに示す。図3Aは550℃の焼成後の銀膜のFE-SEM断面二次電子像である。図3Bは650℃の焼成後の銀膜のFE-SEM断面二次電子像である。図3Cは750℃の焼成後の銀膜のFE-SEM断面二次電子像である。図3Dは830℃の焼成後の銀膜のFE-SEM断面二次電子像である。
【0060】
図3Aに示すように、550℃の焼成により銀膜内部に剥離が生じていることがわかる。また、図3Bに示すように、650℃の焼成の後であっても銀膜内部の剥離が維持されていることがわかる。一方で、図3Cでは、剥離部が低減していることがわかる。これは、例5の銀ペースト中のガラスの軟化点が690℃であるため、750℃で焼成することによりガラスが軟化し、剥離部を接着したと考えられる。さらに、図3Dでは、剥離部がさらに低減していることがわかる。これは、830℃で焼成することにより、ガラスがさらに軟化し、より好適に接着したからだと考えられる。
【0061】
(試験3)
<ガラス添加量の評価>
銀ペースト全体に対する例5のガラス粉末の割合がそれぞれ0.2vol%、0.5vol%、1vol%、1.5vol%、2.5vol%、3.5vol%および10vol%となるように、上記試験1と同様にして銀ペーストを7種調製した。なお、ガラス粉末の量に合わせて銀粉末の量を適宜調整した。そして、上記試験1と同様にして電極を製造し、銀膜内部の剥離評価を行った。結果を表2に示す。
【0062】
【表2】
【0063】
表2に示すように、ガラス添加量が0.5vol%以上であるとき、銀膜内部の剥離を低減することができることがわかる。なかでも、ガラス添加量が1.5vol%以上であるとき、銀膜内部の剥離が10μm未満となった。そのため、ガラスを1.5vol%以上の割合で含む銀ペーストは、剥離の低減効果がより好適に発揮されることが確かめられた。
【0064】
(試験4)
<焼成温度と剥離の評価>
例6の電極を製造するときの焼成温度を770℃、800℃、830℃として、銀膜内部の剥離の評価を行った。
【0065】
【表3】
【0066】
表3に示すように、ガラスの軟化点よりも高い温度で焼成することにより、いずれの温度であっても銀膜内部の剥離を低減できることがわかる。また、焼成温度とガラスの軟化点との差が50℃以上で好適に剥離を低減できることが確かめられた。
【0067】
以上、試験1~試験4の結果を統合すると、銀ペーストに含まれるガラスの軟化点が、銀膜内部に剥離を生じる温度である550℃以上であり、銀膜を形成するための焼成温度(例えば900℃、ここでは、830℃)よりも低く、かつ、直径15mm、高さ6mmの円盤状の試験片を用いたボタンフロー試験の結果として、焼成後の試験片の直径が0.9倍以上3倍以下となるような流動性を有するガラスを用いることで、銀膜内部に生じ得る剥離を低減できることが確かめられた。
【0068】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。例えば、上記例では有機バインダの配合を一定のものとしたが、かかる銀ペーストにおける有機バインダは、焼成により焼失する成分であり、また印刷法および印刷条件にもよることなどから、ここに開示される技術に本質的な影響を与えるものでないことは当業者に理解される。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【符号の説明】
【0069】
10 基板
20 電極
22 金膜
24 銀膜
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図3C
図3D