(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022134192
(43)【公開日】2022-09-15
(54)【発明の名称】転がり軸受および回転機器
(51)【国際特許分類】
F16C 33/38 20060101AFI20220908BHJP
F16C 19/06 20060101ALI20220908BHJP
F16J 15/28 20060101ALI20220908BHJP
F16C 33/66 20060101ALI20220908BHJP
F16C 33/78 20060101ALI20220908BHJP
H02K 5/173 20060101ALI20220908BHJP
【FI】
F16C33/38
F16C19/06
F16J15/28
F16C33/66 Z
F16C33/78 Z
H02K5/173
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021033167
(22)【出願日】2021-03-03
(71)【出願人】
【識別番号】000002325
【氏名又は名称】セイコーインスツル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】飯野 朗弘
(72)【発明者】
【氏名】小坂 貴之
【テーマコード(参考)】
3J043
3J216
3J701
5H605
【Fターム(参考)】
3J043AA16
3J043CB20
3J043DA01
3J043HA04
3J216AA02
3J216AA12
3J216AB05
3J216AB09
3J216BA01
3J216BA16
3J216CA01
3J216CB03
3J216CB11
3J216CC45
3J216EA07
3J701AA03
3J701AA32
3J701AA42
3J701AA52
3J701AA62
3J701BA25
3J701BA44
3J701CA08
3J701CA12
3J701CA14
3J701EA63
3J701FA32
3J701FA38
3J701GA60
5H605BB05
5H605EB10
5H605EB34
(57)【要約】
【課題】低トルク化および長寿命化を両立できる転がり軸受を提供する。
【解決手段】転がり軸受1は、互いに同軸に配置された内輪10および外輪20と、内輪10と外輪20との間に配置された転動体30と、内輪10と外輪20との間に配置され、転動体30を転動可能に保持する環状の保持器40と、内輪10と外輪20との間に配置されたグリース60と、を備える。保持器40には、径方向に貫通するとともに上方に開口し、転動体30を各別に転動可能に保持するボールポケットが形成されている。グリース60は、保持器40の下端面40lに配置されている。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに同軸に配置された内輪および外輪と、
前記内輪と前記外輪との間に配置された転動体と、
前記内輪と前記外輪との間に配置され、前記転動体を転動可能に保持する環状の保持器と、
前記内輪と前記外輪との間に配置されたグリースと、
を備え、
前記保持器には、径方向に貫通するとともに軸方向の第1方向に開口し、前記転動体を各別に転動可能に保持するボールポケットが形成され、
前記グリースは、前記保持器における前記軸方向の第2方向を向く端面に配置されている、
転がり軸受。
【請求項2】
前記保持器の前記端面には、前記第1方向に窪む凹部が形成され、
前記グリースは、前記凹部に配置されている、
請求項1に記載の転がり軸受。
【請求項3】
前記保持器は、前記端面と前記ボールポケットのそれぞれとの距離が極小となる幅狭部を備え、
前記凹部は、周方向で隣り合う幅狭部同士の間に形成されている、
請求項2に記載の転がり軸受。
【請求項4】
前記内輪と前記外輪との間を前記第1方向から覆うシール部材をさらに備え、
前記グリースは、前記転動体と前記シール部材との間に配置され、前記内輪および前記外輪のうち一方に接触した軌道輪塗布部を有する、
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の転がり軸受。
【請求項5】
前記内輪および前記外輪のうち前記一方は、固定輪として設けられ、
前記軌道輪塗布部は、前記内輪および前記外輪のうち他方、および前記転動体から離間している、
請求項4に記載の転がり軸受。
【請求項6】
回転可能に配置された回転体と、
前記回転体を回転可能に支持する支持体と、
前記回転体と前記支持体との間に介在する、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の転がり軸受と、
を備える回転機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転がり軸受および回転機器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、転がり軸受として一対の軌道輪(内輪および外輪)の間にグリースを保持するものがある。この種の転がり軸受においては、グリースの抵抗がトルクを増大させる要因となる場合がある。ところで、転がり軸受においては、搭載される回転機器の省電力化を目的として低トルク化が望まれる。特にファンモータ等の各種モータで使用される小型の転がり軸受においては、低トルク化の要望が強い。
【0003】
転がり軸受のトルクを低減するために、相対回転し合う部材の両方に接触しないようにグリースを配置することが有効である。そこで転がり軸受の固定輪(多くの場合で外輪)における軸方向の端部や、この端部側に配置されるシール部材にグリースを塗布し、転動体(玉)および転動体を保持する保持器に接触するグリースの量の低減が図られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載の転がり軸受では、グリースは、外輪の転動体に接触する軌道面を避けた内周面に付着し、かつ、内輪の外周面に接触しないように、外輪の内周面側に偏って円環状に充填されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、グリースの配置位置が限定されることで、従来のようにグリースを内輪と外輪との間に封入する構成と比較してグリースの配置量が減る場合があり、グリース切れによって軸受寿命が低下する可能性がある。
【0006】
そこで本発明は、低トルク化および長寿命化を両立できる転がり軸受および回転機器を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の転がり軸受は、互いに同軸に配置された内輪および外輪と、前記内輪と前記外輪との間に配置された転動体と、前記内輪と前記外輪との間に配置され、前記転動体を転動可能に保持する環状の保持器と、前記内輪と前記外輪との間に配置されたグリースと、を備え、前記保持器には、径方向に貫通するとともに軸方向の第1方向に開口し、前記転動体を各別に転動可能に保持するボールポケットが形成され、前記グリースは、前記保持器における前記軸方向の第2方向を向く端面に配置されている。
【0008】
本発明によれば、保持器の第2方向の端面全周の任意の箇所にグリースを塗布できるので、保持器の第1方向の端面にボールポケットの開口および転動体を避けつつグリースを配置する場合と比較して、転動体、内輪および外輪へのグリースの直接的な接触を抑制しつつ、グリースの配置量を増やすことができる。したがって、転がり軸受の低トルク化および長寿命化を両立できる。
また、保持器の第2方向の端面にグリースを配置することで、保持器の第1方向の端面に窪むグリースポケットにグリースを配置する場合と比較して、グリースから保持器の外表面を伝って転動体に至る経路を短くすることができる。これにより、保持器の外表面上を濡らすグリースの量を少なくすることが可能となり、グリースの配置量に対する転動体への供給量の割合を増加させることができる。したがって、転がり軸受の長寿命化を図ることができるとともに、塗布するグリース自体を減らすことも可能となる。
【0009】
上記の転がり軸受において、前記保持器の前記端面には、前記第1方向に窪む凹部が形成され、前記グリースは、前記凹部に配置されていてもよい。
【0010】
本発明によれば、グリースが凹部の側面によって周方向の変位を規制されるので、保持器の回転時にグリースが保持器に対して周方向にずれることを抑制できる。したがって、グリースの無駄な流出を抑制して、転がり軸受のより一層の長寿命化を図ることができる。
さらに、凹部をグリースの塗布時におけるアライメントマークのように位置決めの基準とすることができるので、グリースを所望の位置に正確に配置できる。
【0011】
上記の転がり軸受において、前記保持器は、前記端面と前記ボールポケットのそれぞれとの距離が極小となる幅狭部を備え、前記凹部は、周方向で隣り合う幅狭部同士の間に形成されていてもよい。
【0012】
本発明によれば、凹部が幅狭部を避けた箇所に形成されるので、凹部が形成されたことによる保持器の薄肉化に伴う剛性低下を抑制できる。
【0013】
上記の転がり軸受において、前記内輪と前記外輪との間を前記第1方向から覆うシール部材をさらに備え、前記グリースは、前記転動体と前記シール部材との間に配置され、前記内輪および前記外輪のうち一方に接触した軌道輪塗布部を有していてもよい。
【0014】
本発明によれば、軌道輪塗布部が配置された分、グリースの配置量をさらに増やすことができる。したがって、転がり軸受のより一層の長寿命化を図ることができる。
【0015】
上記の転がり軸受において、前記内輪および前記外輪のうち前記一方は、固定輪として設けられ、前記軌道輪塗布部は、前記内輪および前記外輪のうち他方、および前記転動体から離間していてもよい。
【0016】
本発明によれば、軌道輪塗布部が固定輪に支持されるので、転がり軸受の回転時に軌道輪塗布部に遠心力が作用することを抑制でき、軌道輪塗布部が塗布直後の形状から崩れることを抑制できる。このため、固定輪に接触したグリースが回転輪および転動体から離間した状態を維持でき、グリースが固定輪に対する回転輪および転動体の変位(回転)への抵抗となることを抑制できる。したがって、転がり軸受の低トルク化を達成できる。
【0017】
本発明の回転機器は、回転可能に配置された回転体と、前記回転体を回転可能に支持する支持体と、前記回転体と前記支持体との間に介在する、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の転がり軸受と、を備える。
【0018】
本発明によれば、低トルク化および長寿命化された転がり軸受を備えるので、支持体に対する回転体の回転抵抗を低減でき、回転機器の省電力化および長寿命化を達成することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、低トルク化および長寿命化を両立できる転がり軸受および回転機器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】第1実施形態に係る転がり軸受の平面図である。
【
図2】第1実施形態に係る転がり軸受の平面図である。
【
図3】
図1のIII-III線における断面図である。
【
図4】第1実施形態に係る保持器およびグリースを示す断面図である。
【
図5】第2実施形態に係る保持器およびグリースを示す断面図である。
【
図6】第3実施形態に係る保持器およびグリースを示す断面図である。
【
図7】第4実施形態に係る転がり軸受の平面図である。
【
図8】
図7のVIII-VIII線に相当する部分における断面図である。
【
図9】第5実施形態に係る転がり軸受の平面図である。
【
図10】
図9のX-X線に相当する部分における断面図である。
【
図11】第6実施形態に係る転がり軸受の平面図である。
【
図12】
図11のXII-XII線に相当する部分における断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお以下の説明では、同一または類似の機能を有する構成に同一の符号を付す。そして、それら構成の重複する説明は省略する場合がある。
【0022】
[第1実施形態]
本発明に係る第1実施形態について
図1から
図4を参照して説明する。
図1および
図2は、第1実施形態に係る転がり軸受の平面図である。
図3は、
図1のIII-III線における断面図である。なお
図2では、後述するシール部材50の図示を省略している。また
図3では、転がり軸受1が装着される回転機器2を仮想線で示している。
【0023】
図1から
図3に示すように、転がり軸受1は、軌道輪である内輪10および外輪20と、複数の転動体30と、保持器40と、一対のシール部材50と、グリース60と、を備えた玉軸受である。転がり軸受1は、ファンモータ等の回転機器2に設けられている。回転機器2は、共通軸線Oを中心に回転可能に形成されたシャフト3(回転体)と、固定的に設置されてシャフト3を回転可能に支持する筐体4(支持体)と、を備える。転がり軸受1は、シャフト3と筐体4との間に介在している。なお、以下では転がり軸受を単に軸受という場合がある。
【0024】
内輪10および外輪20は、それぞれの中心軸線が共通軸線Oに一致するように、互いに同軸に配置されている。本実施形態では、共通軸線Oの延びる方向を軸方向といい、共通軸線Oに直交して共通軸線Oから放射状に延びる方向を径方向といい、共通軸線O回りに周回する方向を周方向という。また、軸方向に平行、かつ互いに反対方向を指向する方向のうち一方を上方(第1方向)と定義し、他方を下方(第2方向)と定義する。
【0025】
内輪10は、回転輪として設けられている。内輪10は、シャフト3に外挿されるとともに、シャフト3に固定される。外輪20は、固定輪として設けられている。外輪20は、筐体4の凹部(または貫通孔)に嵌入されるとともに、筐体4に固定される。外輪20は、内輪10との間に環状の空間を設けた状態で、内輪10を径方向の外側から囲んでいる。複数の転動体30は、内輪10と外輪20との間に配置されるとともに、保持器40によって転動可能に保持されている。保持器40は、複数の転動体30を周方向に均等配列させた状態で、各転動体30を回転可能に保持している。シール部材50は、内輪10と外輪20との間の環状の空間を軸方向の外側から覆っている。
【0026】
外輪20は、ステンレス鋼や軸受鋼等の金属材料により円環状に形成されている。ただし、外輪20は金属製に限定されるものではなく、その他の材料によって形成されていても構わない。外輪20は、軸方向に沿った幅が、内輪10の軸方向に沿った幅と同等とされた外輪本体21と、外輪本体21から径方向の内側に向かって突出した突出部22と、を有する。突出部22は、外輪本体21における軸方向の中央に位置する部分に形成されている。突出部22の軸方向に沿った幅は、外輪本体21の軸方向に沿った幅よりも短く、転動体30の外径よりも大きい。
【0027】
突出部22の内周面には、径方向の外側に向かって窪む外輪転動面23が形成されている。外輪転動面23は、転動体30の外表面に沿うように断面視半球状に形成されているとともに、突出部22の内周面の全周に亘って周方向に延びる環状に形成されている。外輪転動面23は、突出部22の内周面のうち、軸方向の中央に位置する部分に形成されている。突出部22の内周面のうち外輪転動面23を除く部分は、一定の内径で軸方向に延びている。突出部22は、軸方向を向いた一対の端面22aを備える。各端面22aは、径方向および周方向の双方向に平行に延びている。
【0028】
外輪本体21は、突出部22の各端面22aの外周縁から外輪20の開口縁まで延びる一対の内周面21aを有する。各内周面21aにおける軸方向の内側に位置する部分は、軸方向の外側に位置する部分よりも径方向の外側に位置している。
【0029】
内輪10は、ステンレス鋼や軸受鋼等の金属材料により円環状に形成されている。ただし、内輪10は金属製に限定されるものではなく、その他の材料によって形成されていても構わない。内輪10の外周面には、径方向の内側に向かって窪む内輪転動面11が形成されている。内輪転動面11は、転動体30の外表面に沿うように断面視半球状に形成されているとともに、外周面の全周に亘って周方向に延びる環状に形成されている。内輪転動面11は、内輪10の外周面のうち、軸方向の中央に位置する部分に形成され、外輪転動面23に対して径方向に向い合うように配置されている。内輪10の内周面のうち内輪転動面11を除く部分は、一定の外径で軸方向に延びている。
【0030】
複数の転動体30は、ステンレス鋼や軸受鋼等の金属材料により球状に形成されている。複数の転動体30は、外輪転動面23と内輪転動面11との間に配置され、外輪転動面23および内輪転動面11によって転動可能に支持される。複数の転動体30は、保持器40によって周方向の間隔を保たれている。
【0031】
図4は、第1実施形態に係る保持器およびグリースを示す断面図である。
図2から
図4に示すように、保持器40は、合成樹脂または金属材料により全体として円環状に形成されている。保持器40は、共通軸線Oを中心として配置されている。保持器40は、円環状に形成されて複数の転動体30に対して下方に配置された基部41と、基部41から上方に突設されているとともに周方向に間隔をあけて設けられた複数の柱部42と、を備える。柱部42は、周方向に均等に配列されている。周方向に隣り合う一対の柱部42は、互いの間にボールポケットBを形成している。ボールポケットBは、保持器40を径方向に貫通するとともに、保持器40の上端面40uにおいて上方に開口している。ボールポケットBは、転動体30の数に対応して設けられ、転動体30を各別に転動可能に保持する。これにより保持器40は、転動体30を周方向に間隔をあけて均等配列させる。ボールポケットBの内面は、径方向から見て円弧状に延びている。これにより、基部41のうちボールポケットBそれぞれの中心の下方に位置する部分は、保持器40の下端面40lとボールポケットBそれぞれとの距離が極小となる幅狭部43となる。
【0032】
図4に示すように、保持器40の上端面40uには、下方に窪む上凹部47が形成されている。上凹部47は、周方向で隣り合う一対のボールポケットBの間に形成されている。すなわち、上凹部47は、各柱部42に形成されている。柱部42のうち上凹部47とボールポケットBとの間に位置する部分は、爪部44とされている。各ボールポケットBを挟むように配置された一対の爪部44は、それぞれ上方に向かうに従って互いに接近するように円弧状に立ち上がっている。これにより爪部44は、ボールポケットBに配置された転動体30を上方から保持する。
【0033】
保持器40の下端面40lには、上方に窪む下凹部48(凹部)が形成されている。下凹部48は、周方向で隣り合う幅狭部43同士の間に形成されている。すなわち下凹部48は、基部41のうち上凹部47の下方に位置する部分に形成されている。下凹部48は、周方向に間隔をあけて均等に配列されている。下凹部48は、下方に開口しているとともに、径方向の外側および内側に開口している。下凹部48は、底面48aおよび一対の側面48bを備える。底面48aは、軸方向に垂直な平坦面である。一対の側面48bは、底面48aにおける周方向の端部から互いに離れるように、軸方向に対して傾斜した方向に沿って下方に延びている。保持器40の下端面40lのうち下凹部48以外の部分は、軸方向に垂直な平坦面である。
【0034】
図1および
図3に示すように、シール部材50は、円環の板状に形成されている。シール部材50は、共通軸線Oを中心として配置されている。シール部材50は、外輪20に装着されている。シール部材50は、複数の転動体30に対する軸方向の両側に1つずつ配置されている。シール部材50は、外輪20の突出部22の端面22aに軸方向の外側から重なる基部51と、基部51の内周縁から軸方向の外側に延びた段差部52と、段差部52における軸方向外側の端縁から径方向の内側に張り出したカバー部53と、基部51の外周縁から径方向の外側かつ軸方向の外側に延びた係止部54と、を備える。シール部材50は、平面視で少なくとも転動体30の中心を跨ぐように径方向に延びている。本実施形態では、カバー部53は、平面視で転動体30の中心に重なっている。ただし、段差部52が基部51の内周縁から軸方向の外側かつ径方向の内側に延びて、平面視で転動体30の中心に重なっていてもよい。カバー部53の内周縁は、内輪10の外周面に隙間をあけて配置されている。係止部54の外周縁は、外輪本体21の内周面21aに軸方向の内側から係止されている。これにより、シール部材50は、外輪20に固定されている。
【0035】
図3および
図4に示すように、グリース60は、内輪10と外輪20との間の環状の空間に配置されている。グリース60は、一対のシール部材50の間に配置されている。グリース60は、転動体30に対する保持器40の基部41側のみに配置されている。すなわち、グリース60は、転動体30に対する下方のみに配置されている。グリース60は、保持器40の下端面40lに配置されている。グリース60は、保持器40の下端面40lのうち下凹部48以外の箇所に塗布されている。つまりグリース60は、保持器40の下端面40lのうち周方向で隣り合う下凹部48同士の間に位置する箇所のそれぞれに塗布され、周方向に間隔をあけて配置されている。グリース60は、隣り合う下凹部48同士の間の箇所のそれぞれに1滴(1粒)ずつ塗布されている。グリース60は、周方向に均等配列されている。本実施形態では、グリース60は、保持器40の基部41の幅狭部43に塗布されている。ただしグリースは、下凹部48同士の間の箇所のそれぞれに複数滴ずつ塗布されていてもよいし、円弧状に延びるように塗布されていてもよい。グリース60は、内輪10、外輪20およびシール部材50から離間している。さらにグリース60は、転動体30から離間している。
【0036】
以上に説明したように、本実施形態の軸受1は、上端面40uに開口するボールポケットBが形成された保持器40と、保持器の下端面40lに配置されたグリース60と、を備える。この構成によれば、保持器40の下端面40l全周の任意の箇所にグリース60を塗布できるので、保持器40の上端面40uにボールポケットBの開口および転動体30を避けつつグリースを配置する場合と比較して、転動体30、内輪10および外輪20へのグリース60の直接的な接触を抑制しつつ、グリース60の配置量を増やすことができる。したがって、軸受1の低トルク化および長寿命化を両立できるとともに、塗布するグリース60自体を減らすことも可能となる。
【0037】
また、保持器40の下端面40lにグリース60を配置することで、保持器40の上端面40uに窪む上凹部47(グリースポケット)にグリースを配置する場合と比較して、グリース60から保持器40の外表面を伝って転動体30に至る経路を短くすることができる。これにより、保持器40の外表面上を濡らすグリースの量を少なくすることが可能となり、グリース60の配置量に対する転動体30への供給量の割合を増加させることができる。したがって、軸受1の長寿命化を図ることができる。
【0038】
また、グリース60が周方向に間隔をあけて配置されているので、保持器40の回転によって仮に1つのグリース60が遠心力によって変位しても、他のグリース60が引っ張られて変位することを抑制できる。したがって、グリース60の無駄な流出を抑制して、軸受1のより一層の長寿命化を図ることができる。
【0039】
そして、本実施形態の回転機器2は、上述した軸受1を備えるので、筐体4に対するシャフト3の回転抵抗を低減でき、回転機器2の省電力化および長寿命化を達成できる。
【0040】
[第2実施形態]
本発明に係る第2実施形態について
図5を参照して説明する。なお、以下で説明する以外の構成は、第1実施形態と同様である。
図5は、第2実施形態に係る保持器およびグリースを示す断面図である。
図1に示す第1実施形態では、グリース60は、保持器40の下端面40lのうち下凹部48以外の箇所に塗布されている。これに対して
図5に示す第2実施形態では、グリース60Aは保持器40の下端面40lの下凹部48に塗布されている。グリース60Aは、下凹部48の底面48aに配置されている。グリース60Aは、下凹部48の底面48aのそれぞれに1滴ずつ塗布されている。グリース60Aは、周方向に均等配列されている。ただしグリースは、下凹部48の底面48aのそれぞれに複数滴ずつ塗布されていてもよいし、円弧状に延びるように塗布されていてもよい。また、グリースは、下凹部48の側面48bに接触していてもよい。
【0041】
以上に説明したように、本実施形態のグリース60Aは、保持器40の下端面40lに配置されている。このため、本実施形態の軸受1Aは、第1実施形態と同様の作用効果を奏する。
【0042】
また、グリース60Aは、保持器40の下端面40lに形成された下凹部48に配置されている。この構成によれば、グリース60Aが下凹部48の側面48bによって周方向の変位を規制されるので、保持器40の回転時にグリース60Aが保持器40に対して周方向にずれることを抑制できる。したがって、グリース60Aの無駄な流出を抑制して、軸受1Aのより一層の長寿命化を図ることができる。
さらに、下凹部48をグリース60Aの塗布時におけるアライメントマークのように位置決めの基準とすることができるので、グリース60Aを所望の位置に正確に配置できる。
【0043】
また、下凹部48は、保持器40のうち周方向で隣り合う幅狭部43同士の間に形成されている。この構成によれば、下凹部48が幅狭部43を避けた箇所に形成されるので、下凹部48が形成されたことによる保持器40の薄肉化に伴う剛性低下を抑制できる。
【0044】
[第3実施形態]
本発明に係る第3実施形態について
図6を参照して説明する。なお、以下で説明する以外の構成は、第1実施形態と同様である。
図6は、第3実施形態に係る保持器およびグリースを示す断面図である。
図1に示す第1実施形態では、保持器40の下端面40lに下凹部48が形成されているとともに、グリース60が周方向に間隔をあけて配置されている。これに対して
図6に示す第3実施形態では、保持器40の下端面40lが全周にわたって平坦に形成されているとともに、グリース60Bが保持器40の下端面40l上で周方向に連続して延びている。例えば、グリース60Bは、保持器40の下端面40l上で全周にわたって円周状に延びている。ただし、グリース60Bは、円弧状に延びていてもよい。
【0045】
以上に説明したように、本実施形態のグリース60Bは、保持器40の下端面40lに配置されている。このため、本実施形態の軸受1Bは、第1実施形態と同様の作用効果を奏する。
【0046】
さらに、グリース60Bが周方向に連続して延びているので、グリースが周方向に間隔をあけて配置された構成と比較して、グリース60Bの配置量を増やすことができる。したがって、軸受1Bのより一層の長寿命化を図ることができる。
【0047】
[第4実施形態]
本発明に係る第4実施形態について
図7および
図8を参照して説明する。なお、以下で説明する以外の構成は、第1実施形態と同様である。
図7は、第4実施形態に係る転がり軸受の平面図である。
図8は、
図7のVIII-VIII線に相当する部分における断面図である。なお
図7では、軸受1Cの内部構成を見易くするためにシール部材50の図示を省略している。
図1に示す第1実施形態では、グリース60が保持器40のみに塗布されている。これに対して
図7および
図8に示す第4実施形態では、グリース160が軌道輪にも塗布されている。
【0048】
図7および
図8に示すように、グリース160は、保持器40に塗布された保持器塗布部161と、軌道輪に塗布された軌道輪塗布部162と、を備える。保持器塗布部161は、第1実施形態のグリース60と同様に塗布されたものである。なお、保持器塗布部161は、第2実施形態のグリース60A、または第3実施形態のグリース60Bと同様に塗布されたものであってもよい。
【0049】
軌道輪塗布部162は、転動体30とシール部材50との間に配置されている。軌道輪塗布部162は、内輪10と外輪20との間の環状の空間のうち、転動体30に対する軸方向の片側のみに配置されている。本実施形態では、軌道輪塗布部162は、軸方向で転動体30を挟んで保持器塗布部161とは反対側に配置され、保持器塗布部161とは別体として設けられている。軌道輪塗布部162は、共通軸線Oを中心にして周方向に延びている。軌道輪塗布部162は、固定輪として設けられた外輪20に接触しているとともに、回転輪として設けられた内輪10から離間している。さらに、軌道輪塗布部162は、シール部材50のカバー部53の内面に接触し、シール部材50に支持されている。軌道輪塗布部162は、転動体30および保持器40から離間している。ただし、軌道輪塗布部162は、転動体30および保持器40のうち少なくともいずれか一方に接触していてもよい。
【0050】
軌道輪塗布部162は、軸方向および径方向における所定の位置で、共通軸線Oを中心に円弧状に連続して延びた単一の弧状部163を備える。つまり、弧状部163は、軸方向および径方向の位置を変えずに途切れることなく延在している。弧状部163は、一方の周端部である第1端部163aから他方の周端部である第2端部163bに至るように180°以上360°未満延びている。これにより、弧状部163の第1端部163aは、第2端部163bに対して周方向に間隔をあけて配置されている。弧状部163の第1端部163aと第2端部163bとの周方向における間隔は、第1端部163aと第2端部163bとが接触しない範囲で十分に狭いことが望ましい。例えば、弧状部163の第1端部163aと第2端部163bとの周方向における間隔は、平面視で弧状部163の幅よりも小さく設定される。また、例えば、弧状部163の第1端部163aと第2端部163bとの周方向における間隔は、弧状部163の軸方向の厚さよりも小さく設定される。弧状部163は、外輪20およびシール部材50に接触している。具体的には、弧状部163は、外輪20の突出部22の内周面のうち外輪転動面23よりも軸方向の外側の箇所に接触している。なお弧状部163がシール部材50から離間し、軌道輪塗布部162がシール部材50に支持されていなくてもよい。
【0051】
以上に説明したように、本実施形態のグリース160は、保持器40の下端面40lに配置された保持器塗布部161を有する。このため、本実施形態の軸受1Cは、第1実施形態と同様の作用効果を奏する。
【0052】
さらに、グリース160は、転動体30とシール部材50との間に配置され、外輪20に接触した軌道輪塗布部162を有する。この構成によれば、軌道輪塗布部162が配置された分、グリース160の配置量をさらに増やすことができる。したがって、軸受1Cのより一層の長寿命化を図ることができる。
【0053】
また、弧状部163の第1端部163aは、弧状部163の第2端部163bに対して周方向に間隔をあけて配置されている。この構成によれば、弧状部163の第1端部163aと第2端部163bとの間に間隔が設けられるので、弧状部163に互いに重なり合う部分が形成されることを抑制できる。これにより、グリース160が自重により崩れにくくなる。よって、グリース160が転動体30および保持器40に必要以上に接触することを抑制できる。したがって、軸受1Cの低トルク化を達成できる。
【0054】
しかも、軸方向および径方向の所定の位置において弧状部163は単一とされているので、周方向で弧状部163が設けられていない箇所が第1端部163aと第2端部163bとの間隔の1箇所のみとなる。このため、軌道輪塗布部162が周方向に沿って間欠的に配置される構成と比較して、周方向で軌道輪塗布部162が配置されていない箇所が少なくなるので、所望の量の軌道輪塗布部162を充填するにあたって軌道輪塗布部162を細く配置できる。よって、軌道輪塗布部162が転動体30および保持器40に必要以上に接触することを抑制できる。したがって、軸受1Cの低トルク化を達成できる。
【0055】
また、軌道輪塗布部162は、軌道輪のうち回転輪である内輪10、および転動体30から離間している。この構成によれば、軌道輪塗布部162が固定輪である外輪20に支持されるので、軸受1Cの回転時に軌道輪塗布部162に遠心力が作用することを抑制でき、軌道輪塗布部162が塗布直後の形状から崩れることを抑制できる。このため、外輪20に接触したグリース160が内輪10および転動体30から離間した状態を維持でき、グリース160が外輪20に対する内輪10および転動体30の変位(回転)への抵抗となることを抑制できる。したがって、軸受1Cの低トルク化を達成できる。
【0056】
なお、軌道輪塗布部は、軸方向および径方向において互いに異なる位置に配置され、かつ互いに連なって一体化した複数の弧状部を備えていてもよい。
【0057】
[第5実施形態]
本発明に係る第5実施形態について
図9および
図10を参照して説明する。なお、以下で説明する以外の構成は、第4実施形態と同様である。
図9は、第5実施形態に係る転がり軸受の平面図である。
図10は、
図9のX-X線に相当する部分における断面図である。なお
図9では、軸受1Dの内部構成を見易くするためにシール部材50の図示を省略している。
図7および
図8に示す第4実施形態では、軌道輪塗布部162が円弧状に延びる弧状部163を備えている。これに対して
図9および
図10に示す第5実施形態では、軌道輪塗布部162が円周状に延びる第1環状部164および第2環状部165を備える。
【0058】
図7および
図8に示すように、軌道輪塗布部162は、外輪20に接触した第1環状部164と、第1環状部164に連なるとともにシール部材50に接触した第2環状部165と、を備える。第1環状部164は、共通軸線Oを中心に円周状に連続して延びている。第1環状部164は、外輪20の突出部22の内周面のうち外輪転動面23よりも軸方向の外側の箇所に接触している。第2環状部165は、共通軸線Oを中心に円周状に連続して延びている。第2環状部165は、軌道輪のうち第1環状部164が接触する外輪20から離間している。第2環状部165は、第1環状部164に対し、径方向で外輪20とは反対側(すなわち径方向の内側)に配置されている。具体的には、平面視で第2環状部165の外周縁が第1環状部164の外周縁よりも径方向の内側に位置し、かつ第2環状部165の内周縁が第1環状部164の内周縁よりも径方向の内側に位置している。第2環状部165は、第1環状部164に軸方向の外側で連なって一体化している。第2環状部165は、第1環状部164の全周に亘って連なっている。第2環状部165は、シール部材50のうち軸方向の内側を向く面に接触することで、シール部材50に支持されている。本実施形態では、第2環状部165は、シール部材50のカバー部53の内面に接触している。
【0059】
第1環状部164および第2環状部165のそれぞれは、ノズルから吐出したグリースを円周状に360°以上塗布することにより形成されている。第1環状部164および第2環状部165のそれぞれは、平面視で間欠部が形成されないように全周に亘って連続的に延びている。第1環状部164は、一方の周端部164aから共通軸線Oを中心として360°以上720°未満延びて他方の周端部164bに至っている。これにより、第1環状部164は、一方の周端部164aおよび他方の周端部164bを含み平面視で互いに重なる第1重畳部164cを有する。第1重畳部164cの周方向における長さは、十分に小さいことが望ましい。例えば、第1重畳部164cの周方向における長さは、平面視で第1環状部164の幅と同程度に設定される。第2環状部165は、一方の周端部165aから共通軸線Oを中心として360°以上720°未満延びて他方の周端部165bに至っている。これにより、第2環状部165は、一方の周端部165aおよび他方の周端部165bを含み平面視で互いに重なる第2重畳部165cを有する。第2重畳部165cの周方向における長さは、十分に小さいことが望ましい。例えば、第2重畳部165cの周方向における長さは、平面視で第2環状部165の幅と同程度に設定される。第2重畳部165cの少なくとも一部は、第1重畳部164cに対して周方向で同じ位置に配置され、第1重畳部164cに連なっている。
【0060】
以上に説明した本実施形態の軸受1Dによれば、第4実施形態の軸受1Cと同様の作用効果に加えて、以下の作用効果を奏する。
本実施形態の軸受1Dのグリース160は、共通軸線Oを中心に円周状に延び、外輪20に接触した第1環状部164と、共通軸線Oを中心に円周状に延び、第1環状部164に軸方向の外側で連なるとともにシール部材50に接触した第2環状部165と、を有する軌道輪塗布部162を備える。この構成によれば、所望の量の軌道輪塗布部162を充填するにあたり、単一の環状部が形成されるように軌道輪塗布部162を塗布した場合と比較して、第1環状部164および第2環状部165が形成される分、第1環状部164の体積を小さくできる。このため、軌道輪塗布部162を塗布する際に第1環状部164を第2環状部165よりも先に配置することで、第1環状部164の自重による崩れを生じ難くすることができる。また、第2環状部165を設けることで、第2環状部165がシール部材50に支持されるとともに、第1環状部164が外輪20だけでなく第2環状部165を介してシール部材50にも支持される。このため、軌道輪塗布部162が全体として自重により塗布直後の形状から崩れにくくなる。よって、軌道輪塗布部162が転動体30および保持器40に必要以上に接触することを抑制できる。したがって、軸受1Dの低トルク化を達成できる。
【0061】
また、シール部材50は、軌道輪塗布部162が接触する軌道輪である外輪20に装着されている。この構成によれば、外輪20およびシール部材50が相対回転しないように設けられるので、外輪20およびシール部材50の両方に接触する軌道輪塗布部162が攪拌されることを抑制できる。よって、軌道輪塗布部162を塗布直後の形状に保つことができる。したがって、軸受1Dの低トルク化を達成できる。
【0062】
第2環状部165は、第1環状部164に対し、径方向で外輪20とは反対側に配置されている。この構成によれば、第1環状部および第2環状部が軸方向に並ぶ構成と比較して、第2環状部165の径方向外側に第1環状部164を配置するスペースが設けられ、第1環状部164を軸方向のより外側に配置することができる。これにより、軌道輪塗布部162が転動体30および保持器40に必要以上に接触することを抑制できる。したがって、軸受1Dの低トルク化を達成できる。
【0063】
ここで、第1環状部164の横断面の断面積は第1重畳部164cにおいて他の部分よりも大きくなり、第2環状部165の横断面の断面積は第2重畳部165cにおいて他の部分よりも大きくなる。第1重畳部164cおよび第2重畳部165cが周方向で同じ位置に配置されていると、第1重畳部164cおよび第2重畳部165cが重なる位置でグリースが広がりやすくなる。このため、第1重畳部164cおよび第2重畳部165cを互いに周方向にずれた位置に配置し、軌道輪塗布部162が軸方向に広がって転動体30および保持器40に必要以上に接触することを抑制してもよい。
【0064】
[第6実施形態]
本発明に係る第6実施形態について
図11および
図12を参照して説明する。なお、以下で説明する以外の構成は、第5実施形態と同様である。
図11は、第6実施形態に係る転がり軸受の平面図である。
図12は、
図11のXII-XII線に相当する部分における断面図である。なお
図11では、軸受1Eの内部構成を見易くするためにシール部材50の図示を省略している。
図9および
図10に示す第5実施形態では、軌道輪塗布部162が略一定の幅で周方向に連続して延びている。これに対して
図11および
図12に示す第6実施形態では、軌道輪塗布部162が周方向に点状に配置されている。
【0065】
図11および
図12に示すように、軌道輪塗布部162は、外輪20に接触した軌道輪接触部166と、軌道輪接触部166に連なるとともにシール部材50に接触したシール部材接触部167と、を備え、一体的に形成されている。軌道輪接触部166は、径方向および軸方向の所定の位置で、周方向に沿って配置されている。軌道輪接触部166は、外輪20の突出部22の内周面のうち外輪転動面23よりも軸方向の外側の箇所に接触している。シール部材接触部167は、径方向および軸方向における軌道輪接触部166とは異なる所定の位置で、周方向に沿って配置されている。シール部材接触部167は、軌道輪のうち軌道輪接触部166が接触する外輪20から離間している。シール部材接触部167は、軌道輪接触部166に対し、径方向で外輪20とは反対側(すなわち径方向の内側)に配置されている。シール部材接触部167は、軌道輪接触部166に軸方向の外側で直接連なって一体化している。シール部材接触部167は、軌道輪接触部166の全周に亘って連なっている。シール部材接触部167は、シール部材50のうち軸方向の内側を向く面に接触することで、シール部材50に支持されている。シール部材接触部167は、シール部材50のカバー部53の内面に接触している。
【0066】
軌道輪接触部166は、全周にわたって点状に配置された第1粒体168を有する。第1粒体168は、互いに同一形状に形成されている。第1粒体168は、球状、楕円体状または涙滴状のグリースの一部が周囲の部材に接触して押し潰された形状を有する。これにより、第1粒体168の外面のうち露出した部分は、凸曲面状に形成されている。第1粒体168は、周方向に整列している。周方向で隣り合う一対の第1粒体168同士は、互いに接触して一体化している。なお図示の例では、隣り合う一対の第1粒体168同士は、互いに点接触しているが、互いに接触して押し潰されていてもよい。ただし、周方向で隣り合う一対の第1粒体168は、互いに離間していてもよい。各第1粒体168は、外輪20に接触している。第1粒体168と外輪20との接触部は、周方向に間隔をあけて並んでいる。
【0067】
シール部材接触部167は、全周にわたって点状に配置された第2粒体169を有する。第2粒体169は、第1粒体168と同数設けられている。第2粒体169は、互いに同一形状に形成されている。第2粒体169は、球状、楕円体状または涙滴状のグリースの一部が周囲の部材に接触して押し潰された形状を有する。これにより、第2粒体169の外面のうち露出した部分は、凸曲面状に形成されている。各第2粒体169は、周方向に整列している。各第2粒体169は、第1粒体168に対して周方向にずれて配置されている。具体的には、各第2粒体169は、軸方向から見て第2粒体169の中心と共通軸線Oとを通る直線が隣り合う一対の第1粒体168それぞれの中心の中間位置を通るように配置されている。各第2粒体169は、軌道輪接触部166に接触して一体化している。各第2粒体169は、一対の第1粒体168に接触している。各第2粒体169は、シール部材50に接触している。周方向で隣り合う一対の第2粒体169同士は、互いに接触して一体化している。ただし、周方向で隣り合う一対の第2粒体169は、互いに離間していてもよい。第2粒体169は、第1粒体168よりも径方向に大きく形成されている。これにより、第2粒体169の体積は、第1粒体168の体積よりも大きい。
【0068】
以上に説明した本実施形態の軸受1Eによれば、第5実施形態の軸受1Dと同様の作用効果に加えて、以下の作用効果を奏する。
【0069】
軌道輪塗布部162は、周方向に沿って配置され、外輪20に接触した軌道輪接触部166と、周方向に沿って配置され、軌道輪接触部166に軸方向の外側で連なるとともにシール部材50に接触したシール部材接触部167と、を有する。軌道輪接触部166は、全周にわたって点状に配置された第1粒体168を有する。この構成によれば、第1粒体168は、外輪20とシール部材接触部167とによって支持されるので、周方向に沿って一周のみ点状に配置されたグリースが内輪10、外輪20およびシール部材50の1つに支持される構成と比較して、軌道輪塗布部162が自重により塗布直後の形状から崩れにくくなる。シール部材接触部167についても同様である。さらに、本実施形態の軌道輪塗布部162と同じ量のグリースを円周状に配置した構成と比較して、軌道輪塗布部162のうち転動体30および保持器40に近接する部分が点在するので、転動体30および保持器40に接触し得るグリースの量を少なくすることができる。よって、軌道輪塗布部162が転動体30および保持器40に必要以上に接触することを抑制できる。したがって、軸受1Eの低トルク化を達成できる。
【0070】
また、シール部材接触部167の第2粒体169は、第1粒体168に対して周方向にずれて配置されている。この構成によれば、第2粒体169が一対の第1粒体168の間に入り込むようにシール部材接触部167を配置できる。これにより、第1粒体および第2粒体が互いに周方向にずれないように配置される構成と比較して、シール部材50に軸方向外側から押されたシール部材接触部167によって軌道輪接触部166が軸方向内側に押されにくくなる。したがって、軌道輪接触部166を塗布直後の形状から崩れにくくすることができる。
さらに、第1粒体および第2粒体が互いに周方向にずれないように配置される構成と比較して、軌道輪塗布部162の全体が軸方向に大きくなることを抑制しつつ、軌道輪塗布部162の全体の総量を増量できる。
【0071】
また、第2粒体169は第1粒体168と同数設けられている。この構成によれば、第1粒体168それぞれに一対の第2粒体169が接触する。これにより、第1粒体および第2粒体が互いに周方向にずれないように配置される構成と比較して、軌道輪接触部166とシール部材接触部167の接触面積を大きくでき、シール部材50に接触したシール部材接触部167によって軌道輪接触部166を安定的に保持できる。したがって、軌道輪接触部166を塗布直後の形状から崩れにくくすることができる。
【0072】
また、第2粒体169は、該第2粒体169に接する第1粒体168よりも径方向に小さく形成されている。この構成によれば、各第1粒体168の体積を各第2粒体169の体積よりも小さくできる。これにより、軌道輪接触部166において転動体30および保持器40に接触し得るグリースの量を少なくすることができる。よって、軌道輪塗布部162が転動体30および保持器40に必要以上に接触することを抑制できる。
さらに、各第2粒体169の体積の増加によってシール部材50によるシール部材接触部167の支持力が増加するので、軌道輪接触部166も含めた軌道輪塗布部162の全体の保持力を増加させることができる。よって、軌道輪塗布部162を自重により塗布直後の形状から崩れにくくすることができる。
【0073】
なお、上記実施形態では、軌道輪塗布部162の軌道輪接触部166およびシール部材接触部167が周方向に点状に配置されているが、軌道輪接触部およびシール部材接触部のうち一方が円周状または円弧状に連続して延び、他方が点状に配置された粒体を有していてもよい。
【0074】
また、上記実施形態では、第1粒体168および第2粒体169が互いに同数設けられているが、第1粒体および第2粒体の個数は特に限定されない。例えば、第2粒体を第1粒体の半数設けてもよい。
【0075】
また、上記実施形態では、第2粒体169が第1粒体168に対して周方向にずれて配置されているが、第1粒体および第2粒体の位置関係はこれに限定されない。例えば、第1粒体および第2粒体が径方向に並ぶように、第1粒体に対して第2粒体を配置してもよい。
【0076】
なお、本発明は、図面を参照して説明した上述の実施形態に限定されるものではなく、その技術的範囲において様々な変形例が考えられる。
例えば、上記実施形態では、内輪10が回転輪として設けられ、外輪20が固定輪として設けられている。そして、軌道輪塗布部162が固定輪である外輪20に接触している。しかし、軌道輪塗布部が接触する軌道輪は、固定輪でなくてもよい。すなわち、内輪が固定輪として設けられ、外輪が回転輪として設けられ、軌道輪塗布部が固定輪である内輪に接触していてもよい。また、内輪が固定輪として設けられ、外輪が回転輪として設けられ、軌道輪塗布部が回転輪である外輪に接触していてもよい。
【0077】
また、上記実施形態では、保持器40に配置されたグリースは、保持器40の下端面40lのみに塗布されているが、さらに上端面40u(例えば上凹部47)に塗布されていてもよい。
【0078】
また、上記実施形態では、保持器40の上端面40uに上凹部47が形成されているが、この構成に限定されない。すなわち、保持器の上端面は全周にわたって平坦に形成されていてもよい。
【0079】
また、上記実施形態では、回転機器としてファンモータを例示したが、回転機器はこれに限定されない。例えば、回転機器としてハードディスクドライブのスピンドルモータおよびスイングアームの少なくともいずれか一方に本発明を適用してもよい。
【0080】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上記した実施の形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、上述した各実施形態を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0081】
1,1A,1B,1C,1D,1E…軸受 2…回転機器 10…内輪 20…外輪 30…転動体 40…保持器 40l…下端面(端面) 48…下凹部(凹部) 43…幅狭部 50…シール部材 60…グリース 60A…グリース 60B…グリース 160…グリース 162…軌道輪塗布部 B…ボールポケット