(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022134199
(43)【公開日】2022-09-15
(54)【発明の名称】コンバイン
(51)【国際特許分類】
A01D 41/12 20060101AFI20220908BHJP
【FI】
A01D41/12 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021033177
(22)【出願日】2021-03-03
(71)【出願人】
【識別番号】000001878
【氏名又は名称】三菱マヒンドラ農機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003133
【氏名又は名称】特許業務法人近島国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山下 裕司
(72)【発明者】
【氏名】稲本 雅之
【テーマコード(参考)】
2B074
【Fターム(参考)】
2B074AA02
2B074AB01
2B074AC02
2B074AD05
2B074AD07
2B074BA19
2B074CD05
2B074DE03
2B074DF03
2B074DF09
(57)【要約】
【課題】冷却ファンの冷却風によって排ガス浄化装置の冷却とエンジンの前方に配置された補器との冷却性能を確保することが可能なコンバインを提供する。
【解決手段】本コンバイン1は、エンジンよりも上方に配置され、エンジンからの排ガスを浄化する排ガス浄化装置Gと、エンジン及び排ガス浄化装置Gに向かって冷却風を送風する冷却ファン25と、エンジンの前方に配置されたオルタネータとを備える。また、本コンバイン1は、冷却ファン25の外径側を囲うファンシュラウド90と、冷却ファン25から送風された冷却風を冷却ファン25よりも前方に向けて導風する第1導風板91とを備える。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、
前記エンジンよりも上方に配置され、前記エンジンからの排ガスを浄化する排ガス浄化装置と、
前記エンジン及び前記排ガス浄化装置に向かって冷却風を送風する冷却ファンと、
前記エンジンの前方に配置された補器と、
前記冷却ファンの外径側を囲うファンシュラウドと、
前記ファンシュラウドと前記エンジンとの間に配置され、前記冷却ファンから送風された冷却風を前記冷却ファンよりも前方に向けて導風する第1導風部材と、を備える、
ことを特徴とするコンバイン。
【請求項2】
前記排ガス浄化装置は、前記エンジンの後方に配置され、
前記冷却ファンは、その回転軸が前記エンジンの駆動軸よりも後方となるように配置された、
ことを特徴とする請求項1に記載のコンバイン。
【請求項3】
前記第1導風部材は、前記ファンシュラウドに固定支持され、前記冷却ファンから前方に行くほど軸方向において前記エンジンの側に近づくように傾斜する傾斜板を有する、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のコンバイン。
【請求項4】
前記エンジンの前方に配置された操縦部と、
前記エンジンと前記操縦部との間を仕切る仕切り板と、
前記エンジンと前後方向に重なる位置において前記仕切り板から前記後方に向けて立設され、前記第1導風部材により前方に導かれた冷却風を前記エンジンに向けて導風する第2導風部材と、を備える、
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のコンバイン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自脱型や汎用型のコンバインに係り、詳しくは、エンジンを冷却する冷却ファンを備えたコンバインに関する。
【背景技術】
【0002】
農業用の作業車両であり、穀粒の刈取や脱穀等を行うコンバインには、駆動力を出力するエンジンが、その駆動軸が車両進行方向に対する左右方向に向くように、機体フレームに対して搭載されている。また、そのエンジンを冷却する冷却ファンが機体側方に設置されており、側方から冷却風をエンジンの駆動軸の軸方向に向けて送風することでエンジンを冷却するように構成されている。
【0003】
このようなコンバインにあって、エンジンの前方にオルタネータが配置されており、オルタネータの耐熱性が低いため、冷却ファンの冷却風がエンジンルーム内で拡散してしまわないように、オルタネータの前方側を覆うガイドを設けたものが提案されている(特許文献1参照)。また、近年、環境問題に起因して、例えばディーゼル微粒子補修フィルタ(DPF)や尿素選択触媒還元(SCR)等を搭載した排ガス浄化装置を設けることが求められている。このような排ガス浄化装置は、大きな設置スペースが必要であるため、エンジンの上方でかつ運転席(操縦部)の後方に配置されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-195849号公報
【特許文献2】特開2018-153111号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献2のもののように、エンジンの上方に排ガス浄化装置を設置したものでは、高温となる排ガス浄化装置を冷却する必要があるため、冷却ファンの位置を排ガス浄化装置に近づけて配置することが求められる。しかしながら、上述したように、エンジンの前方にはオルタネータ等の補器が配置されており、これらの冷却不足が懸念される。
【0006】
そこで本発明は、冷却ファンの冷却風によって排ガス浄化装置の冷却とエンジンの前方に配置された補器との冷却性能を確保することが可能なコンバインを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本コンバイン(1)は、
エンジン(23)と、
前記エンジン(23)よりも上方に配置され、前記エンジン(23)からの排ガスを浄化する排ガス浄化装置(G)と、
前記エンジン(23)及び前記排ガス浄化装置(G)に向かって冷却風を送風する冷却ファン(25)と、
前記エンジン(23)の前方に配置された補器(51,52)と、
前記冷却ファン(25)の外径側を囲うファンシュラウド(90)と、
前記ファンシュラウド(90)と前記エンジン(23)との間に配置され、前記冷却ファン(25)から送風された冷却風を前記冷却ファン(25)よりも前方に向けて導風する第1導風部材(91)と、を備える。
【0008】
また、本コンバイン(1)は、
前記排ガス浄化装置(G)は、前記エンジン(23)の後方に配置され、
前記冷却ファン(25)は、その回転軸が前記エンジン(23)の駆動軸よりも後方となるように配置された。
【0009】
さらに、本コンバイン(1)は、
前記第1導風部材(91)は、前記ファンシュラウド(90)に固定支持され、前記冷却ファン(25)から前方に行くほど軸方向において前記エンジン(23)の側に近づくように傾斜する傾斜板(91a)を有する。
【0010】
そして、本コンバイン(1)は、
前記エンジン(23)の前方に配置された操縦部(A)と、
前記エンジン(23)と前記操縦部(A)との間を仕切る仕切り板(61)と、
前記エンジン(23)と前後方向に重なる位置において前記仕切り板(61)から前記後方に向けて立設され、前記第1導風部材(91)により前方に導かれた冷却風を前記エンジン(23)に向けて導風する第2導風部材(92)と、を備える。
【0011】
なお、上記カッコ内の符号は、図面と対照するためのものであるが、これは、発明の理解を容易にするための便宜的なものであり、特許請求の範囲の構成に何等影響を及ぼすものではない。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、冷却ファンの位置を排ガス浄化装置に近づけて排ガス浄化装置の冷却性能を確保しつつ、第1導風部材によりエンジンの前方にも冷却風を導くことができるので、排ガス浄化装置の冷却とエンジンの前方に配置された補器との冷却性能を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本実施の形態に係るコンバインを示す右側面図である。
【
図2】本実施の形態に係るコンバインを示す平面図である。
【
図3】本コンバインの原動部を右方から視て示す右方視図である。
【
図5】サイドカバーが取付けられた状態の原動部を右側から視て示す断面図である。
【
図6】サイドカバーが取付けられた状態の原動部を上方から視て示す上方視図である。
【
図7】サイドカバーが取付けられた状態の原動部を前方から視て示す前方視図である。
【
図8】サイドカバーを左方から視て示す左方視図である。
【
図9】サイドカバーを左方前方から視て示す左方斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本実施の形態に係るコンバインについて
図1乃至
図9を用いて説明する。まず、コンバイン1の概略構成を
図1及び
図2を用いて説明する。
【0015】
図1及び
図2に示すように、稲や麦を刈り取りながら脱穀するコンバイン1は、矩形状をなす機体フレーム2の下部に走行装置3を備えており、この走行装置3は、左右の走行フレーム4にクローラ5を巻回し、トランスミッション6によってこれを駆動するクローラ式走行装置を構成している。また、機体の前進方向からみて機体フレーム2の右側前部には、キャビン7によって構成される操縦部Aを備える。さらに、機体フレーム2の左側前部から操縦部Aの前方にかけて刈取部Bを不図示の油圧シリンダによって昇降自在に備える。
【0016】
また、刈取部B後方の機体フレーム2の左側には脱穀部Cを備えると共に、脱穀部Cの右側にはグレンタンク9により構成される収穀部Dと、この収穀部Dに貯留した穀粒を機外に放出する排出オーガ10とを備える。そして、脱穀部Cと収穀部Dとの後方にはカッター11を有する排藁処理装置Eを備える。さらに、操縦部Aと収穀部Dとの間には、走行装置3、刈取部B、脱穀部C、収穀部D、及び排藁処理装置E等を駆動するディーゼルエンジン等を有する原動部Fを備える。
【0017】
そして、刈取部Bは、その前端下部に設ける分草板12とナローガイド13によって、圃場の立毛穀稈を刈取穀稈と未刈取穀稈とに区分けし、左右の分草板12の間に入った刈取穀稈を引起装置14の爪によって引起し、その後、掻込み装置15で掻込みながら穀稈の株元を刈刃16によって切断する。さらに、掻込み装置15によって後方に掻込んだ穀稈を、揚上搬送装置17を構成する左右及び中央の掻込み搬送チェン及び穂先搬送チェンによって合流させ、また、合流させた穀稈を扱深さ搬送チェン18によって扱深さを調節しながら脱穀部Cに搬送する。
【0018】
また、脱穀部Cは、前後壁と左右の側壁と底板と上方を覆うシリンダカバー19等からなる機枠の上部に扱室を形成し、この扱室には、刈取部Bから搬送されてきた穀稈を扱口に沿って挟持搬送する脱穀フィードチェン及びシリンダカバー19により構成される挟持レールと、周囲に多数植設された扱歯を備える第1扱胴と、受網とを備える。また、扱室内で脱粒処理しきれなかった穀粒の混ざった藁屑等を処理する処理室を、第1扱胴の後端穂先側より機体の後方にむけて並列して設け、この処理室には、第2扱胴と受網とを備える。さらに、第1及び第2扱胴の下方には、受網より漏下した穀粒等を選別処理する揺動選別体及び選別風路等よりなる選別室を備える。
【0019】
そして、脱穀部Cで脱穀・選別処理された穀粒は、収穀部Dを構成するグレンタンク9に移送し、このグレンタンク9は穀粒を一時的に貯留し、その後、排出オーガ10により機外のコンテナ等に放出する。なお、上記グレンタンク9は、排出オーガ10の基部側の縦ラセン筒10aを中心にして前部側を機体外側方に向けて回動自在に構成する。また、排出オーガ10は、その基部側の縦ラセン筒10aを油圧モータによって旋回可能になすと共に、先端側の縦ラセン筒10bを油圧シリンダ22によって上下揺動自在になして、機体収納姿勢から機体後方の排出姿勢に変更することができる。
【0020】
なお、脱穀部Cで発生する藁屑及び塵埃等の排塵は、選別室に設けた排塵ファンで吸引し、その排塵口より脱穀部Cの後方に排出する。また、脱穀処理を完了して扱室より排出される排稈は、排藁搬送装置によって排藁処理装置Eに向けて搬送し、さらに、排藁処理装置Eを構成するディスク型のカッター11は、排藁搬送装置で搬送されてきた排稈を細断して刈取跡地に切藁として放出する。
【0021】
次に、機体の各部を駆動する原動部Fについて
図3、
図4、
図5、
図6、及び
図7を用いて説明する。
図3乃至
図7に示すように原動部Fは、例えば立形水冷4ストロークディーゼルエンジンであるエンジン23を備える。そして、このエンジン23は、コンバイン1の各部を駆動する出力プーリ24(
図6参照)が機体フレーム2の中央側となるように、また、オルタネータベルト41及びファンベルト42が巻回されるベルトプーリ23aが機体フレーム2の右側となるように、そのクランクシャフトを機体の左右方向に向けて、防振ゴム26を介して機体フレーム2に搭載される。
【0022】
また、このエンジン23は、排気ガス規制に対応するために、サプライポンプで高圧にした燃料を不図示のレール(蓄圧室)内に蓄え、ECU制御のもとにタイミングよくインジェクタから各気筒に適切な量の燃料を噴射するコモンレールシステムを採用し、これにより高い燃料噴射圧力により燃料を微粒にして、燃料の燃え残りを少なくして粒子状物質の発生を抑える。
【0023】
さらに、強制的に密度の高い空気を送り込むターボチャージャと空冷式のインタークーラーを設け、エンジンの出力アップ、燃費の改善、及び二酸化炭素と粒子状物質の排出量を低減する。また、EGR(Exhaust Gas Recirculation)バルブ、絞りバルブ、高温になる排気ガスの温度を下げる水冷式のEGRクーラー等によって排気ガスの一部をエンジン23に再循環させるEGRシステムを採用し、これによりエンジンの燃焼温度を下げることで窒素酸化物の発生を抑える。
【0024】
そして、本コンバイン1は、排気ガス規制の更なる強化にともなって、排気に含まれる粒子状物質をフィルターで捕らえる共に、DPF再生して燃焼処分するDPFシステムと、尿素水を噴霧して加水分解反応によりアンモニアを得て、この還元剤のアンモニアと窒素酸化物を反応させて窒素と水に還元する尿素SCRシステムを併用する排ガス浄化装置Gを採用する。
【0025】
また、DPFシステムと尿素SCRシステムは、ディーゼル酸化触媒(DOC)とディーゼル微粒子捕集フィルター(DPF)を内蔵するDPFケース27と、ディーゼル酸化触媒(DOC)と尿素選択触媒還元(SCR)を内蔵するSCRケース28と、尿素水タンク等を備える。この内、DPFケース27とSCRケース28は、エンジン23の後部寄りに設ける門柱状の補器取付フレーム29にブラケットを介して取り付け、夫々をエンジン23の上方に設ける。また、尿素水タンクは、例えば、グレンタンク9の後方の機体フレーム2の空きスペースに設ける。
【0026】
エンジン23から排出される排気ガスは、接続パイプを介してDPFケース27とSCRケース28に導き、煤等の粒子状物質はDPFによって捕集し、窒素酸化物はSCRによって無害な窒素に変換し、最終的にSCRケース28に接続するテールパイプ75の排気口76(
図2及び
図3参照)からグレンタンク9上方の機体後方に向けて排出する。
【0027】
一方、エンジン23の冷却ファン25の前方には、エンジン23の冷却水を空冷するラジエータ30を備える。このラジエータ30は、機体フレーム2から立設するラジエータブラケット31に、その上下左右をグロメットを介して取付ける。また、ラジエータ30の背面にはファンシュラウド90を設け、冷却ファン25によって吸い込まれた空気は、ラジエータ30のフィンの間に導風され、ラジエータ30を通過する間にエンジン23の冷却水を冷し、更にエンジン23や後述する補器類等に導風されることによってそれらを冷却する。
【0028】
図4に示すように、冷却ファン25は、その回転軸を介してファンプーリ25aに固定されており、エンジン23のベルトプーリ23aと従動プーリ82aと正転プーリ71aと共に巻回されたファンベルト42を介してエンジン23により駆動されることで送風を行う。ファンプーリ25aの軸心はベルトプーリ23aよりも後方かつ上方に配置されており、つまりエンジン23の駆動軸であるクランクシャフトに対して冷却ファン25は後方かつ上方に配置されている。換言すると、冷却ファン25は、エンジン23の前後幅の略中央よりも後方となるように配置されている。これにより、冷却ファン25により送風される冷却風は、エンジン23本体とその上方かつ後方にある排ガス浄化装置Gとに導風され、これらを冷却する。
【0029】
なお、ファンベルト42はテンションプーリ85aを有するテンショナ85によって押圧されることでテンションが維持されている。また、ファンプーリ25aと正転プーリ71aと逆転プーリ72aとには逆転用ファンベルト43が巻回されており、テンショナ85によるテンション付与を緩め、逆転プーリ72aをモータ70で逆転回転することで冷却ファン25を逆転回転できるように構成されている。
【0030】
エンジン23の前方の側面には、補器としてのオルタネータ51とスタータ52とが配置されている。オルタネータ51は、オルタネータプーリ51aに固定されており、上記エンジン23のベルトプーリ23aと従動プーリ81aと共に巻回されたオルタネータベルト41を介してエンジン23により駆動されることで不図示のバッテリに対して充電を行う。また、スタータ52は不図示の駆動モータを内蔵していると共に不図示のタイミングベルト等を介してエンジン23のクランクシャフトを回転駆動可能に構成されている。なお、一般的に冷却ファンは、従動プーリ81aに取付けられ、エンジン23(補器類等が取付けられた状態の広義としてのエンジンでも、補器類が取付けられていない単体としてのエンジンでもよい)の前後幅の略中央に配置されるものであるが、本実施の形態においては、排ガス浄化装置Gを冷却するために冷却ファン25の配置がそれよりも後方となっている。
【0031】
また、
図3に示すように、ラジエータ30とエンジン23の略真上にはエアクリーナ36を、その長手方向が左右方向となるように補器取付フレーム29に取り付けて設けている。このエアクリーナ36は、その吸気上手側に設けるプレクリーナ37によって予備浄化された空気を取り込んで、その円筒ケースに収容するエレメントによって塵埃を濾過し、清浄な空気をエンジン23に供給する。
【0032】
一方、
図3に示すように、原動部Fの前方かつ上方には操縦部Aのキャビン7が配置されている。キャビン7は、その骨格を形成するキャビンフレーム38を有しており、そのキャビンフレーム38の前部寄り右側面に形成する乗降口に設けるドア46を備える。キャビンフレーム38の床枠には矩形状のプレート60を取り付け、この上にマットを敷いてフロアを構成する。また、フロア後方寄りのカバー取付枠には、矩形状のプレートで構成する下部カバー61を上下方向として、その周囲を溶接して固着する。さらに、下部カバー61の後方側上方には後部カバー62を着脱自在に設ける。また、この下部カバー61の後方には、第2導風部材としての第2導風板92が、前後方向から視てエンジン23と重なる位置で、上下方向及び前後方向に延びる平面に沿って後方に向けて立設されている。
【0033】
キャビン7においては、フロア60後端から略垂直に立ち上がる下部カバー61と、この下部カバー61の上端から後上がりに傾斜する後部カバー62によって操縦部Aと原動部Fの間を仕切り、これらのカバー61、62によって原動部Fから操縦部Aに侵入しようとする騒音や熱風、或いは塵埃を遮断している。また、これらのカバー61、62は、高温となるエンジン23等への作業者の接触を防止するガードの役割も担っている。また、原動部Fと排ガス浄化装置G(DPFケース27及びSCRケース28)とが収容される空間には、それ等の間に仕切りカバーを設けず、空間として連通する構成となっている。
【0034】
また、下部カバー61と後部カバー62は、原動部F及び排ガス浄化装置Gからみるとエンジン23、ラジエータ30、エアクリーナ36、DPFケース27及びSCRケース28の機体前方側を覆うエンジンカバーとしての役割を果たし、このエンジンカバーによって、エンジン23の音や振動を遮って車外騒音を低減する。また、詳しくは後述するサイドカバー35から冷却ファン25によって流入させた空気を、原動部Fに逃がさず導いて原動部Fを冷却し、エンジン23のオーバーヒートを防止する。
【0035】
そこで、原動部Fの周囲を囲むカバーについて再度検討すると、エンジン23の冷却水を冷却ファン25の吸引風によって冷却するラジエータ30やエアクリーナ36の前面には、外気を取り込むサイドカバー35を設け、原動部Fの右側方を覆っている。また、原動部Fの後方側はグレンタンク9の前壁や別途設けるエンジンカバーで覆う。そして、原動部Fの前方及び上方側はキャビン7の室内外を区切る下部カバー61と後部カバー62によって覆っている。
【0036】
そのため、冷却ファン25の冷却風は、エンジン23本体やDPFケース27或いはSCRケース28を避けながらその周囲を通り抜け、最終的に開放された機体内方側や機体の下方側から排出され、その間にエンジン23本体やDPFケース27或いはSCRケース28から熱を奪って冷却し、これらの過熱を防止する。しかし、この場合、冷却風が通り抜ける空間が少ないと、冷却ファン25に過負荷を与えると共に、奪った熱が原動部Fにこもって周辺温度を高くしたり、内圧を上昇させる虞がある。
【0037】
従って、前述のカバーで取り囲む原動部Fの収容空間は、適度な広さを備えるバランスのとれた空間にすることが好ましく、しかも、原動部Fの上方に排ガス浄化装置G(DPFケース27或いはSCRケース28)を設ける場合は、当然にして原動部F及び排ガス浄化装置Gの収容空間を広くすることが望ましい。そこで、エンジン23、ラジエータ30、エアクリーナ36、及び排ガス浄化装置Gの機体前方側を覆う後部カバー62を後上がりに傾斜させて、操縦部Aに特に必要としなかった空間を原動部Fに割り当て、これにより機体各部のレイアウトを変えることなく原動部Fの収容空間を広くして、エンジンのヒートバランスや内圧を適正にしている。
【0038】
ついで、原動部Fの右方側を覆うサイドカバー35の構成と、冷却ファン25による冷却風の流れについて説明する。まず、サイドカバー35の構成について
図8及び
図9を用いて説明する。上記ラジエータ30の前面には防塵網を設けると共に、その通風口を多孔板34で塞いだサイドカバー35を備える(
図1参照)。なお、このサイドカバー35の後部は機体フレーム2から立設する図示しないカバー取付フレームに回動自在に支持され、常時は原動部Fの右側面を覆い、また、防塵網の掃除等を行う場合は、機体外方に向けて開いてこれらのメンテナンスを行うことができる。
【0039】
図8及び
図9に示すように、サイドカバー35の内側(左側である原動部Fの側)には、上記ラジエータ30が配置され、さらにその内側には冷却ファン25の外径側を囲うファンシュラウド90がサイドカバー35に固定されて備えられている。ファンシュラウド90は、内側面90bと、その内側面90bに形成され、冷却ファン25が内側に入り込む円周形状の開口部90aとを有している。この開口部90aの中心は、冷却ファン25の軸心と略同軸であり、エンジン23のクランクシャフトよりも後方かつ上方に位置することになる。
【0040】
ファンシュラウド90の内側面90bには、第1導風部材としての第1導風板91が固定支持されている。第1導風板91は、内側面90bに固定される脚部91b,91bと、それら脚部91b,91bに掛け渡された傾斜板91aとを有して構成されている。傾斜板91aは、冷却ファン25の軸心の軸方向、つまり左右方向に対して傾斜していると共に前後方向にも傾斜しており、前方に行くほどエンジン23の側(内側)に近づくように傾斜している。また、傾斜板91aの後側の端部である後端91cは、円弧状に形成されており、冷却ファン25の軸心の軸方向から視て、上記開口部90aに沿って重ならない形状に形成されている。即ち、冷却ファン25がエンジン23の側に送風する領域を邪魔しないように形成されている。
【0041】
以上のように構成されたコンバイン1においては、
図3乃至
図9に示すように、冷却ファン25が正転回転方向に駆動されると、エンジン23に向かって空気を吸引して冷却風として送風する。冷却ファン25は、エンジン23のクランクシャフト(ベルトプーリ23a)に対して後方かつ上方に配置されており、エンジン23を冷却しつつ上記排ガス浄化装置Gにも直接的に冷却風を導風し、これらを十分に冷却するように構成されている。
【0042】
ところで、例えば上記排ガス浄化装置G(DPFケース27やSCRケース28)を設けないコンバインにおいては、エンジンの収容空間とエアクリーナの収容空間との間を仕切りカバーで仕切る構成が多い。このような構成では、その仕切りカバーでエンジン収容空間がコンパクトに仕切られるため、冷却ファン25により送風される冷却風がエンジンの前方側にも行き渡り易い。しかしながら、本実施の形態に係るコンバイン1においては、上記排ガス浄化装置Gに冷却風を導風するため、このような仕切りカバーが無く、エンジン23の前方側に冷却風が行き渡り難くなっている。このエンジン23の前方側には、上述したように、耐熱性が低い補器であるオルタネータ51とスタータ52とが配置されている(
図4参照)。
【0043】
しかしながら、本コンバイン1においては、
図6に示すように、冷却ファン25により送風された冷却風の一部が第1導風板91の傾斜板91aによってエンジン23の前方に導風される。このようにエンジン23の前方に導かれた冷却風は、上記操縦部Aとの間を仕切る仕切り板としての下部カバー61等によって左側に回り込むように導風され、さらに第2導風部材としての第2導風板92によって堰き止められ(
図3参照)、単に左側に逃げずに、後方に向けて折り返される形でオルタネータ51やスタータ52に向けて導風される。
【0044】
このように特に排ガス浄化装置Gに十分な冷却風を送風するようにエンジン23に対して後方側に冷却ファン25が配置され、つまり冷却ファン25が排ガス浄化装置Gに近づけられていたとしても、第1導風板91によってエンジン23の前方側にも冷却風が分散される形で導風され、冷却風による冷却性能の最適化が図られている。これにより、排ガス浄化装置Gの冷却性能を確保しつつ、エンジン23の前方に配置された補器であるオルタネータ51やスタータ52等の冷却性能を確保することができる。
【0045】
また、第1導風板91は、軸方向において前方に行くほどエンジン23の側に近づくように傾斜する傾斜板91aを有しているので、例えばファンシュラウド90の内側面90bと平行に配置した場合に比して、冷却ファン25から前方への導風の抵抗を小さくでき、より多くの冷却風を前方に導風することができる。
【0046】
そして、エンジン23と操縦部Aとの間を仕切る下部カバー61と、下部カバー61から後方に向けて立設された第2導風板92を備えているので、第1導風板91により冷却ファン25から前方に導かれた冷却風を、下部カバー61によってエンジンの前方側において左方向に導き、さらに第2導風板92によって後方に向けて導風することができる。これによりオルタネータ51やスタータ52等の補器の冷却効率を上げることができる。
【0047】
なお、以上説明した本実施の形態においては、エンジン23の後方かつ上方に排ガス浄化装置Gを配置したものを説明したが、これに限らず、例えば排ガス浄化装置Gをエンジン23の前方に配置したものでも構わない。つまり、エンジン23の一方に排ガス浄化装置Gを配置した場合、冷却ファン25もエンジン23のクランクシャフトより排ガス浄化装置Gの側にオフセットして配置して排ガス浄化装置Gに冷却風を直接的に送風でき、かつ第1導風板91によってエンジン23に対して異なる方向の側に向かって冷却風の一部を導風できれば、どのような配置関係でも構わない。
【0048】
また、特に特開2017-195849号公報のものは、冷却ファンの軸方向から視て、冷却ファンの外縁とオルタネータとが一部重なる配置関係であり、冷却風が前後方向に分散されてオルタネータに導かれる風量が減ることを抑制することを主旨としており、本実施の形態においては、軸方向から視て冷却ファン25の外縁の範囲内に補器(オルタネータやスタータ)が重ならない位置、つまり離れた位置関係にあり、冷却ファン25の冷却風を分散させ、補器の冷却効率を向上することを主旨としているものである。
【0049】
以上説明した本実施の形態に係るコンバインは、上記のような主旨を逸脱しない範囲で、種々変更されたものであっても構わない。
【符号の説明】
【0050】
1…コンバイン
23…エンジン
25…冷却ファン
51…補器(オルタネータ)
52…補器(スタータ)
61…仕切り板(下部カバー)
90…ファンシュラウド
91…第1導風部材(第1導風板)
91a…傾斜板
92…第2導風部材(第2導風板)
A…操縦部
G…排ガス浄化装置