(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022134223
(43)【公開日】2022-09-15
(54)【発明の名称】スチレン系樹脂組成物及びその成形体
(51)【国際特許分類】
C08L 25/04 20060101AFI20220908BHJP
C08L 25/08 20060101ALI20220908BHJP
C08L 67/00 20060101ALI20220908BHJP
C08L 67/02 20060101ALI20220908BHJP
C08K 5/29 20060101ALI20220908BHJP
C08K 5/353 20060101ALI20220908BHJP
【FI】
C08L25/04 ZAB
C08L25/08
C08L67/00
C08L67/02
C08K5/29
C08K5/353
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021033212
(22)【出願日】2021-03-03
(71)【出願人】
【識別番号】399051593
【氏名又は名称】東洋スチレン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】市瀬 和也
(72)【発明者】
【氏名】井上 修治
(72)【発明者】
【氏名】岡田 宝晃
(72)【発明者】
【氏名】塚田 雅史
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002BC04W
4J002BC12W
4J002CF03X
4J002CF06X
4J002ER006
4J002EU226
4J002FD146
4J002GG02
(57)【要約】
【課題】透明性、耐薬品性に優れたバイオマス由来の成分を含む低環境負荷なスチレン系樹脂組成物、およびバイオマス由来の成分を含む低環境負荷なスチレン系樹脂樹脂組成物から得られる成形体を提供する
【解決手段】カルボキシル基を有する構造単位を含むスチレン系樹脂(A)40~90質量部と、バイオマス由来のポリエステル系樹脂(B)10~60質量部を配合してなり、(A)と(B)の合計が100質量部であるスチレン系樹脂組成物である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシル基を有する構造単位を含むスチレン系樹脂(A)40~90質量部と、バイオマス由来のポリエステル系樹脂(B)10~60質量部を配合してなり、(A)と(B)の合計が100質量部であるスチレン系樹脂組成物
【請求項2】
前記カルボキシル基を有する構造単位を含むスチレン系樹脂(A)が、スチレン―(メタ)アクリル酸共重合体である請求項1に記載のスチレン系樹脂組成物
【請求項3】
前記カルボキシル基を有する構造単位を含むスチレン系樹脂(A)が、0.1~30質量部の(メタ)アクリル酸単量体単位を含む、請求項1から2までのいずれか1項に記載のスチレン系樹脂組成物
【請求項4】
前記バイオマス由来のポリエステル系樹脂(B)が、バイオマス由来のエチレングリコールをジオール単位として含む、請求項1から3までのいずれか1項に記載のスチレン系樹脂組成物。
【請求項5】
前期バイオマス由来のポリエステル系樹脂(B)が、ポリエチレンテレフタレートである請求項1から4までのいずれか1項に記載のスチレン系樹脂組成物。
【請求項6】
スチレン系樹脂(A)とバイオマス由来のポリエステル系樹脂(B)にさらに架橋剤として炭素―窒素多重結合を含む組成物(C)である請求項1から5までのいずれか1項に記載のスチレン系樹脂組成物。
【請求項7】
炭素―窒素多重結合を含む組成物(C)がオキサゾリン基またはカルボジイミド基を含む、請求項1から6までのいずれか1項に記載のスチレン系樹脂組成物。
【請求項8】
スチレン系樹脂(A)とバイオマス由来のポリエステル系樹脂(B)の合計が100質量部に対して炭素―窒素多重結合を含む組成物(C)を0.05~10.0質量部配合してなる、請求項1から7までのいずれか1項に記載のスチレン系樹脂組成物。
【請求項9】
前記スチレン系樹脂組成物が、少なくとも1以上のバイオマス度を有する、請求項1から8までのいずれか1項に記載のスチレン系樹脂組成物。
【請求項10】
請求項1から9までのいずれか1項に記載の樹脂組成物からなる成形体。
【請求項11】
請求項1から9までのいずれか1項に記載の樹脂組成物からなるフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明性、耐薬品性に優れた樹脂組成物、および樹脂組成物から得られる成形体を提供する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化の問題から二酸化炭素の低減が求められており、二酸化炭素排出量を排出しない「カーボンニュートラル」な材料として、バイオマス由来の材料が注目されている。その中でも、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル系樹脂は、ポリエチレングリコールを原料としており、サトウキビなどの植物由来の原料を使用することができる。その為、テレフタル酸などの石油由来の酸と組み合わせることで、バイオ由来のポリエステルを大量生産可能であり、供給安定性に優れている。
【0003】
しかしながら、ポリエステルは耐久消費財としての実用性に劣る為、石油系樹脂とのポリマーアロイが近年検討されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭62-280249
【特許文献2】特開2009―173876
【特許文献3】特開2020-084036
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、透明性、耐薬品性に優れたバイオマス由来の樹脂組成物、およびバイオマス由来の樹脂組成物から得られる成形体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1).カルボキシル基を有する構造単位を含むスチレン系樹脂(A)40~90質量部と、バイオマス由来のポリエステル系樹脂(B)10~60質量部を配合してなり、(A)と(B)の合計が100質量部であるスチレン系樹脂組成物。
(2).前記カルボキシル基を有する構造単位を含むスチレン系樹脂(A)が、スチレン―(メタ)アクリル酸共重合体である(1)に記載のスチレン系樹脂組成物。
(3).前記カルボキシル基を有する構造単位を含むスチレン系樹脂(A)が、0.1~30質量部の(メタ)アクリル酸単量体単位を含む、(1)から(2)までのいずれか1項に記載のスチレン系樹脂組成物。
(4).前記バイオマス由来のポリエステル系樹脂(B)が、バイオマス由来のエチレングリコールをジオール単位として含む、(1)から(3)までのいずれか1項に記載のスチレン系樹脂組成物。
(5).前期バイオマス由来のポリエステル系樹脂(B)が、ポリエチレンテレフタレートである(1)から(4)までのいずれか1項に記載のスチレン系樹脂組成物。
(6).スチレン系樹脂(A)とバイオマス由来のポリエステル系樹脂(B)にさらに架橋剤として炭素―窒素多重結合を含む組成物(C)である(1)から(5)までのいずれか1項に記載のスチレン系樹脂組成物。
(7).炭素―窒素多重結合を含む組成物(C)がオキサゾリン基またはカルボジイミド基を含む、(1)から(6)までのいずれか1項に記載のスチレン系樹脂組成物。
(8).スチレン系樹脂(A)とバイオマス由来のポリエステル系樹脂(B)の合計が100質量部に対して炭素―窒素多重結合を含む組成物(C)を0.05~10.0質量部配合してなる、(1)から(7)までのいずれか8項に記載のスチレン系樹脂組成物。
(9).前記スチレン系樹脂樹脂組成物が、少なくとも1以上のバイオマス度を有する、(1)から(8)までのいずれか1項に記載のスチレン系樹脂組成物。
(10).(1)から(9)までのいずれか1項に記載の樹脂組成物からなる成形体。
(11).(1)から(9)までのいずれか1項に記載の樹脂組成物からなるフィルム。
【発明の効果】
【0007】
本発明の樹脂組成物およびそれからなる成形体は、低環境負荷であり、透明性、耐薬品性に優れるため、食品容器・包装、OA機器、家電部品、雑貨等の用途で有利に利用できる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態について説明する。以下に示す実施形態中で示した各特徴事項は、互いに組み合わせ可能である。また、各特徴事項について独立して発明が成立する。
【0009】
1.スチレン系樹脂組成物
本発明の一実施形態に係るスチレン系樹脂組成物は、カルボキシル基を有する構造単位を含むスチレン系樹脂(A)と、バイオマス由来のポリエステル系樹脂樹脂(B)を含む。
【0010】
<カルボキシル基を有する構造単位を含むスチレン系樹脂(A)>
カルボキシル基を有する構造単位を含むスチレン系樹脂(A)は、スチレン系単量体単位(a1)及びカルボキシル基を有する単量体単位(a2)を含む共重合体である。すなわち、スチレン系単量体及びカルボキシル基を有する単量体単位(a2)を含む単量体を共重合して得られる共重合体である。
【0011】
スチレン系単量体単位(a1)は、カルボキシル基を有する構造単位を含むスチレン系樹脂(A)を構成する単位であり、これらスチレン系単量体に由来する単量体単位である。スチレン系単量体とは、単環又は多環の芳香族ビニル系モノマーであり、例えば、スチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、2,5-ジメチルスチレン、3,4-ジメチルスチレン、3,5-ジメチルスチレン、p-エチルスチレン、m-エチルスチレン、о-エチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、1-ビニルナフタレン、2-ビニルナフタレン、1,1-ジフェニルエチレン、イソプロペニルベンセン(α-メチルスチレン)、イソプロペニルトルエン、イソプロペニルエチルベンゼン、イソプロペニルプロピルベンゼン、イソプロペニルブチルベンゼン、イソプロペニルペンチルベンゼン、イソプロペニルヘキシルベンゼン、イソプロペニルオクチルベンゼン等の単独または2種以上の混合物であり、好ましくは、スチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、2,5-ジメチルスチレン、3,4-ジメチルスチレン、3,5-ジメチルスチレン、p-エチルスチレン、m-エチルスチレン、о-エチルスチレン、p-tert-ブチルスチレンの単独または2種以上の混合物であり、より好ましくは、スチレンである。
【0012】
カルボキシル基を有する単量体単位(a2)は、少なくとも1個以上のカルボキシル基を持つ単量体単位であり、具体的には不飽和カルボン酸単量体単位、または不飽和ジカルボン酸単量体単位である。不飽和カルボン酸単量体単位、または不飽和トリカルボン酸単量体単位とは、例えば(メタ)アクリル酸、イタコン酸モノメチル、フマル酸モノエチル、桂皮酸及びフマル酸等、マレイン酸、エチレントリカルボン酸、エチレンテトラカルボン酸の単独または2種以上の混合物であり、好ましくは(メタ)アクリル酸であり、より好ましくはメタクリル酸である。カルボキシル基を有する単量体単位(a2)は、カルボキシル基を有する構造単位を含むスチレン系樹脂(A)を構成する単位であり、これらは(メタ)アクリル酸系単量体に由来する単量体単位であり、好ましくはメタクリル酸に由来する単量体単位(メタクリル酸単量体単位)である。
【0013】
上記共重合体の共重合に用いる単量体混合物は、本発明の効果を損なわない範囲で、スチレン系単量体及び(メタ)アクリル酸系単量体(a2)と共重合可能なその他の単量体を含んでよい。すなわち、上記共重合体はその他の単量体に由来する単量体単位を含みうる。その他の単量体としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニルモノマー、アクリル酸ブチル、アクリル酸エチル、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル等のアクリル系モノマーや無水マレイン酸、フマル酸等のα,β-エチレン不飽和カルボン酸類、フェニルマレイミド、シクロヘキシルマレイミド等のイミド系モノマー類が挙げられる。上記共重合体は、好ましくは実質的にスチレン系単量体と(メタ)アクリル酸系単量体のみを含み、より好ましくはスチレン系単量体と(メタ)アクリル酸系単量体のみを含む。
【0014】
スチレン系単量体単位(a1)と(メタ)アクリル酸系単量体単位(a2)の含有量の合計を100質量%とした場合、カルボキシル基を有する構造単位を含むスチレン系樹脂(A)おける(メタ)アクリル酸系単量体単位(a2)の含有量は、好ましくは0.1~30質量%である、より好ましくは1~20質量%である。このような範囲とすることで、色相や透明性に加え、成形性も優れる。(メタ)アクリル酸系単量体単位(a2)の含有量は、具体的には例えば、0.1,0.5,1,2,4,5,6,8,10,15,20,25,30質量%であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0015】
カルボキシル基を有する構造単位を含むスチレン系樹脂(A)中の(メタ)アクリル酸系単量体単位の含有量の測定は室温で実施する。カルボキシル基を有する構造単位を含むスチレン系樹脂(A)0.5gを秤量し、トルエン/エタノール=8/2(体積比)の混合溶液に溶解後、水酸化カリウム0.1mol/Lエタノール溶液にて中和滴定を行い、終点を検出し、水酸化カリウムエタノール溶液の使用量より、(メタ)アクリル酸系単量体単位の質量基準の含有量を算出する。なお、電位差自動滴定装置を使用することができ、京都電子工業株式会社製AT-510により測定を行うことができる。
【0016】
スチレン系樹脂(A)の重量平均分子量は、好ましくは5万~40万であり、具体的には例えば、5、10、15、20、25、30、35、40万であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。このような範囲とすることで、成形品としての特性や成形性が良好となる。スチレン系樹脂(A)の重量平均分子量は、重合工程の反応温度、滞留時間、重合開始剤の種類及び添加量、連鎖移動剤の種類及び添加量、重合時に使用する溶媒の種類及び量等によって制御することができる。
重量平均分子量は、ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)を用いて、次の条件で測定した。
GPC機種:昭和電工株式会社製Shodex GPC-101
カラム:ポリマーラボラトリーズ社製 PLgel 10μm MIXED-B
移動相:テトラヒドロフラン
試料濃度:0.2質量%
温度:オーブン40℃、注入口35℃、検出器35℃
検出器:示差屈折計
本発明の分子量は単分散ポリスチレンの溶出曲線より各溶出時間における分子量を算出し、ポリスチレン換算の分子量として算出したものである。
【0017】
カルボキシル基を有する構造単位を含むスチレン系樹脂(A)の重合方法としては、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法等公知のスチレン重合方法が挙げられる。品質面や生産性の面では、塊状重合法、溶液重合法が好ましく、連続重合であることが好ましい。溶媒として例えばベンゼン、トルエン、エチルベンゼン及びキシレン等のアルキルベンゼン類やアセトンやメチルエチルケトン等のケトン類、ヘキサンやシクロヘキサン等の脂肪族炭化水素等が使用できる。
【0018】
カルボキシル基を有する構造単位を含むスチレン系樹脂(A)の重合時に、必要に応じて重合開始剤、連鎖移動剤を使用することができる。重合開始剤としては、ラジカル重合開始剤が好ましく、公知慣用の例えば、1,1-ジ(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、2,2-ジ(t-ブチルパーオキシ)ブタン、2,2-ジ(4,4-ジ-t-ブチルパーオキシシクロヘキシル)プロパン、1,1-ジ(t-アミルパーオキシ)シクロヘキサン等のパーオキシケタール類、クメンハイドロパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイド等のハイドロパーオキサイド類、t-ブチルパーオキシアセテート、t-アミルパーオキシイソノナノエート等のアルキルパーオキサイド類、t-ブチルクミルパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ジ-t-ヘキシルパーオキサイド等のジアルキルパーオキサイド類、t-ブチルパーオキシアセテート、t-ブチルパーオキシベンゾエート、t-ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート等のパーオキシエステル類、t-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、ポリエーテルテトラキス(t-ブチルパーオキシカーボネート)等のパーオキシカーボネート類、N,N'-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)、N,N'-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、N,N'-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、N,N'-アゾビス[2-(ヒドロキシメチル)プロピオニトリル]等が挙げられ、これらの1種あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。連鎖移動剤としては、脂肪族メルカプタン、芳香族メルカプタン、ペンタフェニルエタン、α-メチルスチレンダイマー及びテルピノーレン等が挙げられる。
【0019】
連続重合の場合、まず重合工程にて公知の完全混合槽型攪拌槽や塔型反応器等を用い、目標の分子量、分子量分布、反応転化率となるよう、重合温度調整等により重合反応が制御される。重合工程を出た重合体を含む重合溶液は、脱揮工程に移送され、未反応の単量体及び重合溶媒が除去される。脱揮工程は加熱器付きの真空脱揮槽やベント付き脱揮押出機などで構成される。脱揮工程を出た溶融状態の重合体は造粒工程へ移送される。造粒工程では、多孔ダイよりストランド状に溶融樹脂を押出し、コールドカット方式や空中ホットカット方式、水中ホットカット方式にてペレット形状に加工される。
【0020】
<バイオマス由来のポリエステル系樹脂>
本発明で使用するバイオマス由来のポリエステル系樹脂(B)は、カルボン酸とアルコールを含む単量体を重合することで得られる結合を有する重合体であり、カルボン酸またはアルコールのうち少なくとも一方が、非石油由来の材料であることを特徴とする重合体の総称である。
【0021】
バイオマス由来のポリエステル系樹脂(B)は、ジカルボン酸とジオールを主たる構成成分とする単量体から重合により得ることが出来る重合体のうち、ジカルボン酸またはジオールのうち少なくとも一方が、非石油由来であるバイオマス由来である重合体であり、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレンフラノエート、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンナフタレート、さらにはポリヘキサメチレンテレフタレート並びにポリヘキサメチレンナフタレート等が挙げられるが、本発明はこれらに限定されない。
【0022】
これらのバイオマス由来のポリエステル系樹脂(B)の単量体のうち、芳香族ジカルボン酸として、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、4,4′-ジフェニルジカルボン酸、4,4′-ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4′-ジフェニルスルホンジカルボン酸などを挙げることができる。脂肪族ジカルボン酸としては、例えば、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、ダイマー酸、ドデカンジオン酸、シクロヘキサンジカルボン酸とそれらのエステル誘導体などが挙げられる。これらの酸成分は1種のみ用いてもよく、2種以上併用してもよく、さらには、ヒドロキシ安息香酸等のオキシ酸などを一部共重合してもよい。
【0023】
またジオール成分としては例えば、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,2-シクロヘキサンジメタノール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリアルキレングリコール、2,2-ビス(4-ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン、イソソルベート、スピログリコールなどを挙げることができるが、本発明はこれらに限定されない。
【0024】
これらのバイオマス由来のポリエステル系樹脂(B)のうち、サトウキビなどの大量に存在する植物を原料とすることが出来、環境負荷低減の観点から好ましいのはバイオポリエチレンテレフタレートである。
【0025】
バイオマス由来のポリエステル系樹脂(B)のJIS K 7390に基づき測定される固有粘度は、0.1~2.0dL/gであることが好ましく特に好ましいのは0.5~1.0dL/gの範囲である。
【0026】
カルボキシル基を有する構造単位を含むスチレン系樹脂(A)とバイオマス由来のポリエステル系樹脂(B)の比率は特に限定されるものではないが、カルボキシル基を有する構造単位を含むスチレン系樹脂(A)とバイオマス由来のポリエステル系樹脂(B)の合計を100質量部とした時に、バイオマス由来のポリエステル系樹脂(B)が1~60質量部であることが好ましく、より好ましくは10~50質量部である。バイオマス由来のポリエステル系樹脂(B)の比率がこの範囲にあることで環境負荷低減効果と、押出加工性を両立できるため好ましい。バイオマス由来のポリエステル系樹脂(B)の比率は、具体的には例えば1,2,5,10,15,20,25,30,35,40,45,50,55,60質量部であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0027】
<炭素―窒素多重結合を含む組成物(C)>
次に、炭素―窒素多重結合を含む組成物(C)について説明する。本発明において、炭素―窒素多重結合を含む組成物(C)とは、主鎖または側鎖に少なくとも1つ以上の炭素―窒素多重結合を有するものである。炭素―窒素多重結合を含む組成物(C)はフェノール性水酸基やカルボキシル基との反応性に富むため、カルボキシル基を有する構造単位を含むスチレン系樹脂(A)とバイオマス由来のポリエステル系樹脂(B)からなるスチレン系樹脂組成物が炭素―窒素多重結合を含む組成物(C)を含むことで、架橋剤としての効果が得られ、押出安定性を改善することが出来る。
【0028】
炭素―窒素多重結合を含む組成物(C)の含有量は、押出加工性改善の観点から、カルボキシル基を有する構造単位を含むスチレン系樹脂(A)とバイオマス由来のポリエステル系樹脂(B)の合計を100質量部とした時に、好ましくは0.05~10質量部であり、より好ましくは0.5~8質量部である。10質量部以上の場合、押出製造時に高度にゲル化して流動性が低下する。また、0.05質量部未満の場合、十分に架橋せず、ストランドの安定化が得られない。炭素―窒素多重結合を含む組成物(C)の含有量は、具体的には例えば0.05,0.1,0.5,1,2,3,4,5,6,7,8,9,10質量部であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0029】
炭素―窒素多重結合を含む組成物(C)の種類は、本発明の効果を損なわない限り特に制限されず、オキサゾリン化合物、カルボジイミド化合物、イソシアネート化合物、ニトリル化合物等が挙げられるが、カルボキシル基を有する構造単位を含むスチレン系樹脂(A)とバイオマス由来のポリエステル系樹脂(B)との反応性の観点からオキサゾリン化合物および/またはカルボジイミド化合物が好ましい。
【0030】
オキサゾリン化合物は、分子中にオキサゾリン基を2つ以上有しているものであればよく、特に限定されない。例えば、2,2′-ビス(2-オキサゾリン)、2,2′-エチレン-ビス(4,4′-ジメチル-2-オキサゾリン)、2,2′-p-フェニレン-ビス(2-オキサゾリン)、ビス(2-オキサゾリニルシクロヘキサン)スルフィドなどのオキサゾリン基を有する化合物や、オキサゾリン基含有ポリマーなどが挙げられる。これらは、1種または2種以上を用いることができる。これらの中でも、取り扱いやすさから、オキサゾリン基含有ポリマーが好ましい。オキサゾリン基含有ポリマーは、2-ビニル-2-オキサゾリン、2-ビニル-4-メチル-2-オキサゾリン、2-イソプロペニル-2-オキサゾリン等の付加重合性オキサゾリン重合させることにより得られる。必要に応じて他の単量体が共重合されていてもよい。オキサゾリン基含有ポリマーの重合方法は、特に限定されず、公知の種々の重合方法を採用することができる。
【0031】
オキサゾリン基含有ポリマーの市販品としては、日本触媒社製のエポクロスシリーズが挙げられる。より具体的には、水溶性タイプの「WS-500」、「WS-700」や、エマルションタイプの「K-1010E」、「K-1020E」、「K-1030E」、「K-2010E」、「K-2020E」、「K-2030E」、非晶性タイプの「RPS-1005」などが挙げられる。
【0032】
カルボジイミド化合物は、分子中に少なくとも2つ以上のカルボジイミド基を有しているものであればよく、特に限定されない。例えば、p-フェニレン-ビス(2,6-キシリルカルボジイミド)、テトラメチレン-ビス(t-ブチルカルボジイミド)、シクロヘキサン-1,4-ビス(メチレン-t-ブチルカルボジイミド)などのカルボジイミド基を有する化合物や、カルボジイミド基を有する重合体であるポリカルボジイミドが挙げられる。これらの1種または2種以上を用いることができる。これらの中でも、取り扱いやすさから、ポリカルボジイミドが好ましい。ポリカルボジイミドの製法は、特に限定されない。ポリカルボジイミドは、例えば、イソシアネート化合物の脱二酸化炭素を伴う縮合反応により製造することができる。イソシアネート化合物も限定されず、脂肪族イソシアネート、脂環族イソシアネート、芳香族イソシアネートのいずれであってもよい。イソシアネート化合物は、必要に応じて多官能液状ゴムやポリアルキレンジオールなどが共重合されていてもよい。
【0033】
ポリカルボジイミドの市販品としては、日清紡社製のカルボジライトシリーズが挙げられる。より具体的には、水溶性タイプの「SV-02」、「V-02」、「V-02-L2」、「V-04」;エマルションタイプの「E-01」、「E-02」;有機溶液タイプの「V-01」、「V-03」、「V-07」、「V-09」;無溶剤タイプの「V-05」;粉末タイプの「HMV-15CA」「LA-1」「HMV-5CA-LC」が挙げられる。
【0034】
本発明の目的を損なわない範囲で他の添加剤、例えば可塑剤、展着剤、溶剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、老化防止剤、光安定剤、安定剤、帯電防止剤、着色剤、染顔料、充填剤、着色防止剤、補強剤、相溶化剤、結晶化促進剤、難燃剤、難燃助剤、等を添加することができる。
【0035】
これらの添加方法は、特に限定されず、公知の方法で添加すれば良い。例えば、カルボキシル基を有する構造単位を含むスチレン系樹脂(A)またはバイオマス由来のポリエステル系樹脂(B)の製造時の原料の仕込工程、重合工程、仕上工程で添加する方法や、押出機や成形機を用いて樹脂組成物を混合する工程で添加する方法を適用することができる。
【0036】
次に本発明の樹脂組成物の製造方法について説明する。
【0037】
本発明の樹脂組成物の混合方法は、特に限定されず、公知の混合技術を適用することが出来る。例えば、ミキサー型混合機、V型他ブレンダー、及びタンブラー型混合機等の混合装置を用いて、各種原料を予め混合しておき、その混合物を溶融混練することによって、均一な樹脂組成物を製造することが出来る。溶融混練装置も、特に限定されないが、例えばバンバリー型ミキサー、ニーダー、ロール、単軸押出機、特殊単軸押出機、及び二軸押出機等が挙げられる。更に、押出機等の溶融混練装置の途中から他の添加剤を別途添加する方法もある。
【0038】
本発明の樹脂組成物から成形品を得る成形法には特に制限は無くカレンダ成形、中空成形、押出発泡成形、異形押出成形、ラミネート成形、インフレーション成形、Tダイフィルム成形、シート成形、真空成形、圧空成形などの押出成形法や、射出成形、RIM成形、射出発泡成形などの射出成形法といった公知の成形法を好適に用いることが出来るが、好ましくは射出成形またはシート成形である。
【実施例0039】
以下に本発明を実施例及び比較例によって詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0040】
実施例及び比較例で使用した材料は以下の通りである。
【0041】
〔カルボキシル基を有する構造単位を含むスチレン系樹脂(A)〕
(A-1)東洋スチレン株式会社製 スチレン-(メタ)アクリル酸系共重合体(メルトマスフローレイト1.7g/10min、シャルピー衝撃強さ1.5kJ/m2、ビカット軟化温度110℃、メタクリル酸単量体単位の含有量4質量%)
(A-2)東洋スチレン株式会社製 スチレン-(メタ)アクリル酸系共重合体(メルトマスフローレイト1.7g/10min、シャルピー衝撃強さ1.1kJ/m2、ビカット軟化温度117℃、メタクリル酸単量体単位の含有量8質量%)
(A-3)東洋スチレン株式会社製 スチレン-(メタ)アクリル酸系共重合体(メルトマスフローレイト1.8g/10min、シャルピー衝撃強さ1.0kJ/m2、ビカット軟化温度122℃、メタクリル酸単量体単位の含有量10質量%)
【0042】
〔バイオマス由来のポリエステル(B)〕
(B-1)インドラマ社製 バイオPET N1B(バイオ度マス30%)
【0043】
〔炭素―窒素多重結合を含む組成物(C)〕
(C-1)日本触媒社製 オキサゾリン基含有ポリマー エポクロスRPS-1005
(C-2)日清紡ケミカル社製 カルボジライト LA-1
【0044】
〔石油由来のポリエステル系樹脂(D)〕
(D-1)イーストマン社製 PET PET-G GN001
【0045】
〔ポリエステル系樹脂以外のバイオマス樹脂(E)〕
(E-1)Braskem社製 バイオポリエチレンSHA7260(バイオマス度94%)
【0046】
〔炭素―窒素多重結合を含まない組成物(F)〕
(F-1)日油社製 エポキシ化大豆油 ニューサイザー510R
【0047】
(実施例1~9、比較例1~14)
各成分を表1および表2に示す配合量で、ヘンシェルミキサー(三井三池化工社製、FM20B)にて予備混合し、二軸押出機(東芝機械社製、TEM26SS)に供給して、シリンダー温度270℃、供給量25kg/hの条件にてストランドとし、水冷してからペレタイザーへ導きペレット化した。
【0048】
〔バイオマス度の算出〕
バイオマス度は公知の値を用い、以下の計算式を使用して算出した。
バイオマス度(%)=X×A/100
X:バイオマス由来の樹脂のバイオマス度(%)
A:バイオマス由来の樹脂の含有量(%)
【0049】
〔押出安定性の評価〕
押出安定性は、以下の評価基準に基づいて評価した。
×:ストランドをペレタイザーに供給できず、ペレット化できない
〇:断続的にストランドをペレタイザーに供給できる
◎:継続的にストランドをペレタイザーに供給できる
【0050】
〔全光線透過率の評価〕
全光線透過率は、下記の方法により測定した。
【0051】
1.試験片の作製
カルボキシル基を有する構造単位を含むスチレン系樹脂(A)のペレットを80℃で3時間加熱乾燥後、射出成形機(日本製鋼所株式会社製「J100E-P」)にて、3段プレート金型(成形品寸法:縦/横/深さ=90×45×3,2,1mm)をシリンダー温度:270℃、金型温度:30℃にて成形した。
【0052】
2.全光線透過率の測定
日本電色工業株式会社製濁度計NDH5000を用いて、上記の3段プレート成形品の厚さ2mm部分の全光線透過率を測定した。
【0053】
〔耐薬品性の評価〕
耐薬品性の評価は、以下の方法で行った。100ccのスクリュー管に、0.5gのカルボキシル基を有する構造単位を含むスチレン系樹脂(A)のペレットを計量し、50ccのメチルエチルケトンを加えた。6時間後、ペレットの外観を目視で確認し、以下の評価基準に基づいて評価した。
× 形状が崩れ粉々になる、または完全に溶解する
〇 一部、形状が崩れるが粉々にはならない。
◎ 変化無し。形状保持。
【0054】
【0055】
【0056】
表1の実施例より本発明の樹脂組成物は、バイオマス度、全光線透過率及び耐薬品性が高いことが分かる。一方、表2の比較例より本発明の規定を満足しない樹脂組成物はバイオマス度、全光線透過率及び耐薬品性が低いことが分かる。