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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022134245
(43)【公開日】2022-09-15
(54)【発明の名称】液体吐出ヘッド
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/14 20060101AFI20220908BHJP
   B41J 2/18 20060101ALI20220908BHJP
【FI】
B41J2/14 603
B41J2/14 305
B41J2/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021033259
(22)【出願日】2021-03-03
(71)【出願人】
【識別番号】000005267
【氏名又は名称】ブラザー工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】弁理士法人ATEN
(72)【発明者】
【氏名】水野 泰介
【テーマコード(参考)】
2C056
2C057
【Fターム(参考)】
2C056FA10
2C056KB16
2C057AF04
2C057AF06
2C057AF10
2C057AG15
2C057AG29
2C057AG33
2C057AG68
(57)【要約】
【課題】高速で多くの液体をノズルから吐出させる場合においても、共通流路内に逆流が生じ難くする。
【解決手段】ヘッド3は、それぞれノズル31を含む複数の個別流路32と、複数の個別流路32に連通する共通流路29と、インクタンクから共通流路29にインクを供給する供給口27と、共通流路29からインクタンクにインクを帰還させる帰還口28とを有する。共通流路29における、複数の個別流路32と連通する連通領域29Rは、上流部29Raと、供給口27から帰還口28に向かう共通流路29内におけるインクの流れ方向において上流部29Raよりも下流に位置する下流部29Rbとを有する。下流部29Rbは、上流部29Raよりも、流路断面積が小さく、流路抵抗が大きい。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれノズルを含む複数の個別流路と、
前記複数の個別流路に連通する共通流路と、
前記共通流路と液体貯留部とに連通し、前記液体貯留部から前記共通流路に液体を供給する供給口と、
前記共通流路と前記液体貯留部とに連通し、前記共通流路から前記液体貯留部に液体を帰還させる帰還口と、を備え、
前記共通流路における、前記複数の個別流路と連通する連通領域は、上流部と、前記供給口から前記帰還口に向かう前記共通流路内における液体の流れ方向において前記上流部よりも下流に位置する下流部と、を有し、
前記下流部は、前記上流部よりも、流路断面積が小さく、流路抵抗が大きいことを特徴とする、液体吐出ヘッド。
【請求項2】
前記下流部は、前記上流部よりも、幅が小さいことを特徴とする、請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項3】
前記連通領域は、前記上流部から前記下流部に亘って、前記流れ方向において漸進的に幅が小さくなっていることを特徴とする、請求項2に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項4】
前記上流部は、前記流れ方向において一定の第1幅を有し、
前記下流部は、前記流れ方向において一定の、前記第1幅よりも小さい第2幅を有し、
前記連通領域は、さらに、前記流れ方向において前記上流部と前記下流部との間に設けられた中間部を有し、
前記中間部は、前記流れ方向において漸進的に幅が小さくなっていることを特徴とする、請求項2に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項5】
前記上流部、前記中間部及び前記下流部のそれぞれにおける幅の中心線が互いに一致していることを特徴とする、請求項4に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項6】
前記共通流路は、それぞれ前記流れ方向に沿った第1方向に延び、かつ、前記第1方向と直交する第2方向に並ぶ、第1共通流路及び第2共通流路を含み、
前記第1共通流路の前記流れ方向と、前記第2共通流路の前記流れ方向とが、互いに逆であることを特徴とする、請求項2~5のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項7】
前記供給口に対し、フィルタが設けられ、
前記帰還口に対し、フィルタが設けられていないことを特徴とする、請求項6に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項8】
前記供給口は、複数の前記第1共通流路に連通する第1供給口と、複数の前記第2共通流路に連通する第2供給口と、を含み、
前記帰還口は、複数の前記第1共通流路に連通する第1帰還口と、複数の前記第2共通流路に連通する第2帰還口と、を含み、
前記第1供給口及び前記第2帰還口は、前記第2方向に並び、
前記第2供給口及び前記第1帰還口は、前記第2方向に並び、
前記第1供給口の前記第2方向の長さは、前記第2帰還口の前記第2方向の長さよりも長く、
前記第2供給口の前記第2方向の長さは、前記第1帰還口の前記第2方向の長さよりも長いことを特徴とする、請求項7に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項9】
前記複数の第1共通流路のうち前記第2方向の一端に位置する第1共通流路の、前記流れ方向の下流端において、前記第2方向の一端を画定する壁と、前記第1帰還口の前記第2方向の一端を画定する壁とは、前記第2方向に互いに同じ位置において、前記第1方向に延びていることを特徴とする、請求項8に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項10】
前記複数の第2共通流路のうち前記第2方向の一端に位置する第2共通流路の、前記流れ方向の下流端において、前記第2方向の一端を画定する壁と、前記第2帰還口の前記第2方向の一端を画定する壁とは、前記第2方向に互いに同じ位置において、前記第1方向に延びていることを特徴とする、請求項8又は9に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項11】
前記複数の第1共通流路のうち前記第2方向の一端に位置する第1共通流路の、前記流れ方向の下流端は、前記流れ方向の下流に向かうほど前記第1帰還口の前記第2方向の中心に近づくように傾斜した傾斜部を有することを特徴とする、請求項8に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項12】
前記複数の第2共通流路のうち前記第2方向の一端に位置する第2共通流路の、前記流れ方向の下流端は、前記流れ方向の下流に向かうほど前記第2帰還口の前記第2方向の中心に近づくように傾斜した傾斜部を有することを特徴とする、請求項8又は11に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項13】
前記上流部は、前記流れ方向において一定の第1幅を有し、
前記下流部は、前記流れ方向において一定の、前記第1幅よりも小さい第2幅を有し、
前記上流部及び前記下流部は、前記流れ方向に沿った第1方向に延び、かつ、前記第1方向と直交する第2方向に並んでおり、
前記共通流路は、さらに、前記上流部の前記流れ方向の下流端と前記下流部の前記流れ方向の上流端とを連結する連結部を有し、
前記連結部は、前記流れ方向において漸進的に幅が小さくなっていることを特徴とする、請求項2に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項14】
前記共通流路は、前記流れ方向において前記上流部と前記下流部との間の中間点の圧力が0kPaよりも高くなるように構成されていることを特徴とする、請求項1~13のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項15】
前記供給口に取り付けられた供給チューブと、
前記帰還口に取り付けられた帰還チューブと、をさらに備え、
前記帰還チューブの内径は、前記供給チューブの内径よりも小さいことを特徴とする、請求項1~14のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項16】
前記下流部の流路断面積は、前記上流部の流路断面積の半分以下であることを特徴とする、請求項1~15のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の個別流路と共通流路とを備えた液体吐出ヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、複数の個別流路と、複数の個別流路に連通する共通流路と、それぞれ共通流路とインクタンク(液体貯留部)とに連通する供給口及び排出口(帰還口)とを備えたインクジェットヘッド(液体吐出ヘッド)が示されている。供給口を介してインクタンクから共通流路にインクが供給され、帰還口を介して共通流路からインクタンクにインクが帰還される。これにより、共通流路とインクタンクとの間で、インクが循環する。このとき、共通流路内には、供給口から帰還口に向かうインクの流れが形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-055153号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のように共通流路と液体貯留部との間で液体を循環させることで、共通流路内の気泡の除去や液体の増粘防止が実現される。また、液体が沈降成分(沈降が生じ得る成分。顔料等)を含む場合、当該成分が攪拌されて沈降が防止される。
【0005】
しかしながら、高速で多くの液体をノズルから吐出させる場合、共通流路内に負圧が発生し、循環時とは逆の流れが共通流路内に生じ得る。このとき共通流路内には、供給口からの液体の流れと帰還口からの液体の流れとが生じる。このようなときに吐出デューティが急激に低下する(例えば、吐出動作が終了する、或いは、ベタ印刷等の高デューティからテキスト印刷等の低デューティに切り替わる)と、共通流路内に慣性による水撃が生じ、当該水撃が個別流路に伝搬して、メニスカスブレイクが生じ得る。
【0006】
本発明の目的は、高速で多くの液体をノズルから吐出させる場合においても共通流路内に逆流が生じ難い液体吐出ヘッドを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る液体吐出ヘッドは、複数の個別流路と、前記複数の個別流路に連通する共通流路と、前記共通流路と液体貯留部とに連通し、前記液体貯留部から前記共通流路に液体を供給する供給口と、前記共通流路と前記液体貯留部とに連通し、前記共通流路から前記液体貯留部に液体を帰還させる帰還口と、を備え、前記共通流路における、前記複数の個別流路と連通する連通領域は、上流部と、前記供給口から前記帰還口に向かう前記共通流路内における液体の流れ方向において前記上流部よりも下流に位置する下流部と、を有し、前記下流部は、前記上流部よりも、流路断面積が小さく、流路抵抗が大きいことを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の第1実施形態に係るヘッド3を含むプリンタ1の概略平面図である。
図2】ヘッド3の平面図である。
図3図2のIII-III線に沿った断面図である。
図4】本発明の第2実施形態に係るヘッド203の平面図である。
図5】本発明の第3実施形態に係るヘッド303の平面図である。
図6】本発明の第4実施形態に係るヘッド403の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<第1実施形態>
本発明の第1実施形態に係るヘッド3は、図1に示すように、プリンタ1に適用される。プリンタ1は、ヘッド3を保持しつつ走査方向(鉛直方向と直交する方向)に移動可能なキャリッジ2と、ヘッド3及びキャリッジ2の下方において用紙Pを支持するプラテン6と、用紙Pを搬送方向(走査方向及び鉛直方向と直交する方向)に搬送する搬送機構4とを備えている。ヘッド3の下面には、複数のノズル31が形成されている。
【0010】
キャリッジ2は、それぞれ走査方向に延びる一対のガイドレール7,8に支持されており、キャリッジモータ(図示略)の駆動によりガイドレール7,8に沿って走査方向に移動する。
【0011】
搬送機構4は、搬送方向にプラテン6及びキャリッジ2を挟む位置に配置された2つのローラ対11,12を含む。ローラ対11,12は、搬送モータ(図示略)の駆動により、用紙Pを挟持した状態で回転し、用紙Pを搬送方向に搬送する。
【0012】
ヘッド3は、図2及び図3に示すように、複数のノズル31が形成された流路基板21と、流路基板21の上面に配置されたアクチュエータ基板22とを含む。
【0013】
流路基板21は、図3に示すように、鉛直方向に積層された8枚のプレート41~48で構成されている。
【0014】
プレート41には、複数の圧力室30が形成されている。プレート48には、複数のノズル31が形成されている。プレート41の上面が流路基板21の上面、プレート48の下面が流路基板21の下面に該当する。プレート41の上面に複数の圧力室30が開口し、プレート48の下面に複数のノズル31が開口している。
【0015】
プレート44~46には、4本の共通流路29(図2参照)が形成されている。プレート42,43には、圧力室30毎に、圧力室30と共通流路29とを連通させる連通路35が形成されている。プレート42~47には、圧力室30毎に、圧力室30とノズル31とを接続する接続路36が形成されている。さらに、プレート47の下面には、共通流路29と鉛直方向に重なる位置に、ダンパ室40を構成する凹部が形成されている。当該凹部は、プレート48で塞がれている。
【0016】
4本の共通流路29は、図2に示すように、それぞれ搬送方向に延び、走査方向に並んでいる。共通流路29は、搬送方向に配列された複数の圧力室30で構成される圧力室列毎に設けられている。4つの圧力室列は、走査方向に並んでいる。各共通流路29から、各圧力室列に属する複数の圧力室30に、連通路35(図3参照)を介してインクが供給される。そして後述のようにアクチュエータ基板22の各アクチュエータが変形することで、圧力室30内のインクに圧力が付与され、接続路36を通ってノズル31からインクが吐出される。
【0017】
このように、流路基板21には、4本の共通流路29と、各共通流路29に連通する複数の個別流路32(ノズル31及び圧力室30を含む流路であり、共通流路29の出口から連通路35、圧力室30及び接続路36を介してノズル31に至る流路)とが形成されている。
【0018】
アクチュエータ基板22は、図3に示すように、振動板62と、共通電極52と、圧電体61と、複数の個別電極51とを含む。振動板62、共通電極52及び圧電体61は、流路基板21に形成された全ての圧力室30を覆っている。一方、個別電極51は、圧力室30毎に設けられており、圧力室30のそれぞれと鉛直方向に重なっている。
【0019】
複数の個別電極51及び共通電極52は、ドライバIC(図示略)と電気的に接続されている。ドライバICは、共通電極52の電位をグランド電位に維持する一方、個別電極51の電位を所定の駆動電位とグランド電位との間で変化させる。このとき、振動板62及び圧電体61において個別電極51と圧力室30とで挟まれた部分(アクチュエータ)が、圧力室30に向かって凸となるように変形することにより、圧力室30の容積が変化し、圧力室30内のインクに圧力が付与される。当該インクは、接続路36を通ってノズル31から吐出される。これと同時に、共通流路29内のインクが連通路35を通って圧力室30に供給される。
【0020】
流路基板21には、さらに、共通流路29とインクタンク9(図1参照)とに連通し、インクタンク9から共通流路29にインクを供給する供給口27と、共通流路29とインクタンク9とに連通し、共通流路29からインクタンク9にインクを帰還させる帰還口28とが形成されている。供給口27及び帰還口28は、それぞれ、流路基板21の上面(プレート41の上面)においてアクチュエータ基板22が配置されない領域に開口し、インクタンク9とチューブ87,88で接続されている。
【0021】
インクタンク9が本発明の「液体貯留部」に該当し、チューブ87が本発明の「供給チューブ」に該当し、チューブ88が本発明の「帰還チューブ」に該当する。
【0022】
供給口27は、図2において左側の2本の共通流路29(第1共通流路29x)に連通する第1供給口27xと、図2において右側の2本の共通流路29(第2共通流路29y)に連通する第2供給口27yとを含む。
【0023】
帰還口28は、図2において左側の2本の共通流路29(第1共通流路29x)に連通する第1帰還口28xと、図2において右側の2本の共通流路29(第2共通流路29y)に連通する第2帰還口28yとを含む。
【0024】
第1供給口27x及び第2帰還口28yは、走査方向に並んでいる。第2供給口27y及び第1帰還口28xは、走査方向に並んでいる。また、第1供給口27x及び第1帰還口28xは、2つの第1共通流路29xを挟んで搬送方向に並んでいる。第2供給口27y及び第2帰還口28yは、2つの第2共通流路29yを挟んで搬送方向に並んでいる。
【0025】
換言すると、2つの第1共通流路29xに対し、搬送方向の下流端に第1供給口27xが連通し、搬送方向の上流端に第1帰還口28xが連通している。2つの第2共通流路29yに対し、搬送方向の上流端に第2供給口27yが連通し、搬送方向の下流端に第2帰還口28yが連通している。
【0026】
搬送方向が本発明の「第1方向」に該当し、走査方向が本発明の「第2方向」に該当する。
【0027】
第1供給口27xの走査方向の長さは、第2帰還口28yの走査方向の長さよりも長い。第2供給口27yの走査方向の長さは、第1帰還口28xの走査方向の長さよりも長い。また、第1供給口27x及び第2供給口27yの走査方向の長さは、互いに同じである。第1帰還口28x及び第2帰還口28yの走査方向の長さは、互いに同じである。供給口27x,27y及び帰還口28x,28yの搬送方向の長さは、互いに同じである。
【0028】
各帰還口28x,28yに取り付けられたチューブ88の内径は、各供給口27x,27yに取り付けられたチューブ87の内径よりも小さい。
【0029】
供給口27に対し、フィルタ70が設けられている。一方、帰還口28に対しては、フィルタが設けられていない。
【0030】
インクタンク9から第1供給口27xに供給されたインクは、2つの第1共通流路29xに供給される。当該インクは、各共通流路29x内を搬送方向の上流側に移動し、第1帰還口28xからチューブ88を介してインクタンク9に戻される。
【0031】
インクタンク9から第2供給口27yに供給されたインクは、2つの第2共通流路29yに供給される。当該インクは、各共通流路29y内を搬送方向の下流側に移動し、第2帰還口28yからチューブ88を介してインクタンク9に戻される。
【0032】
このように、共通流路29x,29y内におけるインクの流れ方向は、搬送方向に沿った方向であり、第1共通流路29xの流れ方向(搬送方向の上流に向かう方向)と、第2共通流路29yの流れ方向(搬送方向の下流に向かう方向)とは、互いに逆である。
【0033】
共通流路29x,29yは、それぞれ、供給口27に接続する一端と、帰還口28に接続する他端と、一端と他端との間において複数の個別流路32と連通する連通領域29Rとを含む。連通領域29Rは、共通流路29x,29yにおける複数の個別流路32との連通部(連通路35:図2参照)が設けられた領域をいう。
【0034】
連通領域29Rは、上流部29Raと、下流部29Rbとを有する。下流部29Rbは、流れ方向において上流部29Raよりも下流に位置する。各共通流路29x,29yにおいて、連通領域29Rは、上流部29Raから下流部29Rbに亘って、流れ方向において漸進的に幅が小さくなっている。本実施形態において、各共通流路29x,29yは、連通領域29Rを含む、一端から他端(全長)に亘って、流れ方向において漸進的に幅が小さくなっている。
【0035】
下流部29Rbの幅Wbは、上流部29Raの幅Waよりも小さい。例えば、上流部29Raの幅Waは1.5mm、下流部29Rbの幅Wbは0.75mm以下である。これにより、下流部29Rbは、上流部29Raよりも、流路断面積が小さく、流路抵抗が大きくなっている。具体的には、下流部29Rbの流路断面積は、上流部29Raの流路断面積の半分以下である。
【0036】
また、各共通流路29x,29yは、流れ方向において上流部29Raと下流部29Rbとの間の中間点(即ち、連通領域29Rにおける搬送方向の中央)の圧力が0kPaよりも高くなるように構成されている。そして、各共通流路29x,29yにおいて帰還口28x,28yに近い最も個別流路32との連通部の圧力(負圧)は、メニスカス耐圧(ノズル31に形成されたインクのメニスカスが破壊されずに耐え得る圧力)(負圧:例えば、-3.5kPa)よりも絶対値として小さくなっている。
【0037】
なお、各共通流路29x,29yにおいて、鉛直方向の長さは一定であり、天面及び底面に凹凸は形成されていない。
【0038】
以上に述べたように、本実施形態によれば、下流部29Rbは、上流部29Raよりも、流路断面積が小さく、流路抵抗が大きい(図2参照)。これにより、高速で多くのインクをノズル31から吐出させる場合に、共通流路29内に負圧が発生したとしても、共通流路29内に逆流(帰還口28から下流部29Rbに向かうインクの流れ)が生じ難い。
【0039】
下流部29Rbは、上流部29Raよりも、幅が小さい(図2参照)。流路の高さで流路断面積を調整する場合、部品点数の増加(ひいてはコストアップ)につながり得る。この点、本実施形態では、流路の幅で流路断面積を調整することで、当該問題を抑制できる。
【0040】
連通領域29Rは、上流部29Raから下流部29Rbに亘って、流れ方向において漸進的に幅が小さくなっている(図2参照)。流路抵抗が急激に変化すると、共通流路29に連通する複数の個別流路32間において、吐出性能に大きなバラツキが生じてしまう。この点、本実施形態では、上流部29Raから下流部29Rbに亘って、流れ方向において漸進的に幅が小さくなっており、上流部29Raから下流部29Rbへと流路抵抗を滑らかに変化させることで、当該問題を抑制できる。
【0041】
第1共通流路29xの流れ方向(搬送方向の上流に向かう方向)と、第2共通流路29yの流れ方向(搬送方向の下流に向かう方向)とが、互いに逆である(図2参照)。この場合、第1共通流路29xの上流部29Raと第2共通流路29yの上流部29Ra(幅Waが大きい部分)とが走査方向に並ばないことで、ヘッド3の走査方向の大型化を抑制できる。
【0042】
供給口27に対し、フィルタ70が設けられ、帰還口28に対し、フィルタが設けられていない(図2参照)。本実施形態では、上述のとおり下流部29Rbの幅Wbが小さいことで共通流路29内に逆流が生じ難いため、帰還口28に対してフィルタを設ける必要性が低い。そこで、帰還口28に対するフィルタを省略することで、部品点数の低減(コストダウン)を実現できる。また、帰還口28に対してフィルタを設けると、共通流路29内の気泡がフィルタに捕獲され、帰還口28を通過するインクの流れが気泡によって阻害されるため、当該気泡をノズルパージ(ポンプ等によりノズル31から強制的にインクを排出させる動作)によりノズル31から排出する必要が生じる。この点、本実施形態では、帰還口28に対してフィルタが設けられていないため、共通流路29内の気泡は帰還口28からインクタンク9(図1参照)へと回収される。ノズルパージが不要なため、ノズルパージに係る時間やインクの消費を抑制できる。
【0043】
第1供給口27xの走査方向の長さは、第2帰還口28yの走査方向の長さよりも長い。第2供給口27yの走査方向の長さは、第1帰還口28xの走査方向の長さよりも長い。このようにフィルタ70が設けられた供給口27のサイズを大きくしたことで、フィルタ70による流路抵抗の増加を、大きなサイズの供給口27による流路抵抗の抑制で相殺し、余計な圧力損失を生じさせることなく共通流路29にインクを供給することができる。また、第1供給口27x及び第2帰還口28yは走査方向に並び、第2供給口27y及び第1帰還口28xは走査方向に並んでいる。この場合、大きなサイズの供給口27x,27yが走査方向に並ばないことで、ヘッド3の走査方向の大型化を抑制できる。
【0044】
共通流路29は、流れ方向において上流部29Raと下流部29Rbとの間の中間点(即ち、連通領域29Rにおける搬送方向の中央)の圧力が0kPaよりも高く(即ち、正圧側に)なるように構成されている。本実施形態では、上述のとおり下流部29Rbの流路抵抗が小さいため、中間点の圧力が0kPa以下の場合、下流部29Rbの圧力がメニスカス耐圧(負圧:例えば、-3.5kPa)よりも低くなってしまい、メニスカスの破壊が生じ得る。そこで、中間点の圧力を0kPaよりも高くすることで、負圧のメニスカス耐圧に対するマージンを確保し、下流部29bの圧力(負圧)がメニスカス耐圧(負圧)よりも低く(絶対値として大きく)なってメニスカスが破壊されることを抑制できる。
【0045】
帰還口28に取り付けられたチューブ88の内径は、供給口27に取り付けられたチューブ87の内径よりも小さい。この場合、共通流路29の下流部29Rbの流路抵抗だけでなく、帰還口28に取り付けられたチューブ88の流路抵抗をも大きくしたことで、より一層、共通流路29内に逆流(帰還口28から下流部29Rbに向かうインクの流れ)が生じ難くなる。
【0046】
下流部29Rbの流路断面積は、上流部29Raの流路断面積の半分以下である。この場合、下流部29Rbの流路抵抗が確実に大きくなり、共通流路29内の逆流を確実に抑制できる。
【0047】
<第2実施形態>
続いて、図4を参照し、本発明の第2実施形態に係るヘッド203について説明する。
【0048】
第1実施形態(図2参照)において、共通流路29は、流れ方向において漸進的に幅が小さくなっている。これに対し、第2実施形態(図4参照)において、共通流路29は、流れ方向においてそれぞれ一定の幅Wa,Wb(Wa>Wb)の上流部29Ra及び下流部29Rbを有する。
【0049】
第2実施形態において、連通領域29Rは、流れ方向において上流部29Raと下流部29Rbとの間に設けられた、中間部29Rcをさらに有する。中間部29Rcは、流れ方向において漸進的に幅が小さくなっている。上流部29Ra、中間部29Rc及び下流部29Rbのそれぞれにおける幅の中心線Oは、互いに一致している。
【0050】
また、第2実施形態において、2つの第1共通流路29xのうち走査方向の一端(図4の左端)に位置する第1共通流路29xの、流れ方向の下流端(図4の上端)において、走査方向の一端(図4の左端)を画定する壁29w1と、第1帰還口28xの走査方向の一端(図4の左端)を画定する壁28w1とは、走査方向に互いに同じ位置において、搬送方向に延びている(即ち、壁29w1と壁28w1との間に段差がない)。同様に、2つの第1共通流路29xのうち走査方向の他端(図4の右端)に位置する第1共通流路29xの、流れ方向の下流端(図4の上端)において、走査方向の他端(図4の右端)を画定する壁と、第1帰還口28xの走査方向の他端(図4の右端)を画定する壁とは、走査方向に互いに同じ位置において、搬送方向に延びている。
【0051】
2つの第2共通流路29yのうち走査方向の一端(図4の左端)に位置する第2共通流路29yの、流れ方向の下流端(図4の下端)において、走査方向の一端(図4の左端)を画定する壁29w2と、第2帰還口28yの走査方向の一端(図4の左端)を画定する壁28w2とは、走査方向に互いに同じ位置において、搬送方向に延びている(即ち、壁29w2と壁28w2との間に段差がない)。同様に、2つの第2共通流路29yのうち走査方向の他端(図4の右端)に位置する第2共通流路29yの、流れ方向の下流端(図4の下端)において、走査方向の他端(図4の右端)を画定する壁と、第2帰還口28yの走査方向の他端(図4の右端)を画定する壁とは、走査方向に互いに同じ位置において、搬送方向に延びている。
【0052】
換言すると、帰還口28における走査方向の外縁と、当該帰還口28に連通する複数の共通流路29のうち走査方向の外側に位置する共通流路29の、流れ方向の下流端における、走査方向外側の外縁とは、搬送方向に沿って、連続的に延びている。
【0053】
なお、共通流路29の流れ方向の下流端は、連通領域29R外であって、連通領域29Rよりも流れ方向の下流側にある。
【0054】
以上に述べたように、本実施形態によれば、上流部29Ra及び下流部29Rbが、流れ方向においてそれぞれ一定の幅Wa,Wbを有する。これにより、上流部29Raに連通する複数の個別流路32間における吐出性能のバラツキ、及び、下流部29Rbに連通する複数の個別流路32間における吐出性能のバラツキを抑制できる。また、中間部29Rcは、流れ方向において漸進的に幅が小さくなっている。この場合、例えば上流部29Raと下流部29Rbとの間において、幅が急変し、流れ方向と直交する壁面が形成される場合に比べ、上流部29Raと下流部29Rbとの間での、インクの流れがスムーズになり、気泡の発生や滞留を抑制できる。
【0055】
上流部29Ra、中間部29Rc及び下流部29Rbのそれぞれにおける幅の中心線Oが、互いに一致している。上流部29Ra、中間部29Rc及び下流部29Rbを含む連通領域29Rにおけるインクの流れがスムーズになる。ひいては、連通領域29Rにおける気泡の発生や滞留を抑制できる。
【0056】
2つの第1共通流路29xのうち走査方向の一端(図4の左端)に位置する第1共通流路29xの、流れ方向の下流端(図4の上端)において走査方向の一端(図4の左端)を画定する壁29w1と、第1帰還口28xの走査方向の一端(図4の左端)を画定する壁28w1とは、走査方向に互いに同じ位置において、搬送方向に延びている(即ち、壁29w1と壁28w1との間に段差がない)。2つの第2共通流路29yのうち走査方向の一端(図4の左端)に位置する第2共通流路29yの、流れ方向の下流端(図4の下端)において走査方向の一端(図4の左端)を画定する壁29w2と、第2帰還口28yの走査方向の一端(図4の左端)を画定する壁28w2とは、走査方向に互いに同じ位置において、搬送方向に延びている(即ち、壁29w2と壁28w2との間に段差がない)。壁29w1と壁28w1との間や、壁29w2と壁28w2との間に段差があると、段差部分において気泡の発生や滞留が生じ得る。この点、本実施形態では、壁29w1と壁28w1との間や、壁29w2と壁28w2との間に段差がないため、当該問題を抑制できる。
【0057】
<第3実施形態>
続いて、図5を参照し、本発明の第3実施形態に係るヘッド303について説明する。
【0058】
第3実施形態に係るヘッド303は、第2実施形態に係るヘッド203と、以下の相違点を除き、同様の構成を有する。第2実施形態(図4参照)では、各共通流路29の流れ方向の下流端が、搬送方向に延びている。これに対し、第3実施形態(図5参照)では、各共通流路29の流れ方向の下流端が、搬送方向及び走査方向に対して傾斜している。
【0059】
第3実施形態において、2つの第1共通流路29xのうち走査方向の一端(図5の左端)に位置する第1共通流路29xの、流れ方向の下流端(図5の上端)は、流れ方向の下流に向かうほど第1帰還口28xの走査方向の中心に近づくように傾斜した傾斜部Sを有する。同様に、2つの第1共通流路29xのうち走査方向の他端(図5の右端)に位置する第1共通流路29xの、流れ方向の下流端(図5の上端)も、流れ方向の下流に向かうほど第1帰還口28xの走査方向の中心に近づくように傾斜した傾斜部Sを有する。
【0060】
2つの第2共通流路29yのうち走査方向の一端(図5の左端)に位置する第2共通流路29yの、流れ方向の下流端(図5の下端)は、流れ方向の下流に向かうほど第2帰還口28yの走査方向の中心に近づくように傾斜した傾斜部Sを有する。同様に、2つの第2共通流路29yのうち走査方向の他端(図5の右端)に位置する第2共通流路29yの、流れ方向の下流端(図5の下端)も、流れ方向の下流に向かうほど第2帰還口28yの走査方向の中心に近づくように傾斜した傾斜部Sを有する。
【0061】
以上に述べたように、本実施形態によれば、2つの第1共通流路29xのうち走査方向の一端(図5の左端)に位置する第1共通流路29xの、流れ方向の下流端(図5の上端)は、流れ方向の下流に向かうほど第1帰還口28xの走査方向の中心に近づくように傾斜した傾斜部Sを有する。この場合、傾斜部Sを設けたことで、第1帰還口28xの走査方向の長さを短くできる。ひいては、第1帰還口28xと走査方向に隣接する第2供給口27yの走査方向の長さを長くすることを容易に実現できる。
【0062】
同様に、2つの第2共通流路29yのうち走査方向の一端(図5の左端)に位置する第2共通流路29yの、流れ方向の下流端(図5の下端)は、流れ方向の下流に向かうほど第2帰還口28yの走査方向の中心に近づくように傾斜した傾斜部Sを有する。この場合、傾斜部Sを設けたことで、第2帰還口28yの走査方向の長さを短くできる。ひいては、第2帰還口28yと走査方向に隣接する第1供給口27xの走査方向の長さを長くすることを容易に実現できる。
【0063】
<第4実施形態>
続いて、図6を参照し、本発明の第4実施形態に係るヘッド403について説明する。
【0064】
第1~第3実施形態(図2図4及び図5参照)では、共通流路29が4本独立して設けられており、各共通流路29において上流部29Ra及び下流部29Rbが搬送方向に並んでいる。これに対し、第4実施形態(図6参照)では、2本の上流部29Ra及び2本の下流部29Rbが走査方向に並び、これらが連結部29dで連結されている。また、第1~第3実施形態(図2図4及び図5参照)では、供給口27及び帰還口28が2つずつ設けられているが、第4実施形態(図6参照)では、供給口27及び帰還口28が1つずつ設けられている。
【0065】
第4実施形態において、共通流路29は、それぞれ搬送方向に延びる2本の上流部29Ra及び2本の下流部29Rbと、2本の上流部29Raの流れ方向の下流端(図6の下端)と2本の下流部29Rbの流れ方向の上流端(図6の下端)とを連結する連結部29dとを有する。2本の上流部29Raの流れ方向の上流端(図6の上端)は供給口27に連通し、2本の下流部29Rbの流れ方向の下流端(図6の上端)は帰還口28に連通している。供給口27と帰還口28とは、走査方向に並んでいる。
【0066】
上流部29Ra及び下流部29Rbは、それぞれ、流れ方向においてそれぞれ一定の幅Wa,Wb(Wa>Wb)を有する。これに対し、連結部29dは、流れ方向において漸進的に幅Wdが小さくなっている。
【0067】
以上に述べたように、本実施形態によれば、上流部29Ra及び下流部29Rbが、流れ方向においてそれぞれ一定の幅Wa,Wbを有する。これにより、上流部29Raに連通する複数の個別流路32間における吐出性能のバラツキ、及び、下流部29Rbに連通する複数の個別流路32間における吐出性能のバラツキを抑制できる。また、連結部29dは、流れ方向において漸進的に幅が小さくなっているため、連結部29dでの気泡の発生や滞留を抑制できる。
【0068】
<変形例>
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々な設計変更が可能なものである。
【0069】
例えば、第1~第3実施形態(図2図4及び図5参照)において、ヘッドは4本の共通流路29を備えているが、これに限定されない。ヘッドは1つ以上の共通流路29を備えればよい。
【0070】
第1~第3実施形態(図2図4及び図5参照)では、供給口27及び帰還口28がそれぞれ2本の共通流路29に跨って設けられているが、これに限定されない。例えば、供給口27及び帰還口28がそれぞれ3本以上の共通流路29に跨って設けられてもよい。或いは、共通流路29毎に、供給口27及び帰還口28を設けてもよい。
【0071】
第3実施形態(図5参照)において、供給口27及び帰還口28を、それぞれ3本以上の共通流路29に跨るように設け、3本以上の共通流路29のうちの、走査方向の一端及び他端に位置する共通流路29に対し、傾斜部Sを設けてよい。
【0072】
上述の実施形態では、帰還口28に取り付けられたチューブ88の内径は、供給口27に取り付けられたチューブ87の内径よりも小さいが、これに限定されない。例えば、帰還口28に取り付けられたチューブ88の内径は、供給口27に取り付けられたチューブ87の内径と同じであってもよい。
【0073】
上述の実施形態では、流路の幅で流路断面積を調整しているが、これに限定されない。例えば、流路の高さで流路断面積を調整してもよい。
【0074】
ヘッドは、上述の実施形態ではシリアル式であるが、ライン式であってもよい。
【0075】
ノズルから吐出される液体は、インクに限定されず、インク以外の液体(例えば、インク中の成分を凝集又は析出させる処理液等)であってもよい。
【0076】
本発明は、プリンタに限定されず、ファクシミリ、コピー機、複合機等にも適用可能である。また、本発明は、画像の記録以外の用途で使用される液体吐出装置(例えば、基板に導電性の液体を吐出して導電パターンを形成する液体吐出装置)にも適用可能である。
【符号の説明】
【0077】
1 プリンタ
3;203;303;403 ヘッド(液体吐出ヘッド)
9 インクタンク(液体貯留部)
27 供給口
27x 第1供給口
27y 第2供給口
28 帰還口
28x 第1帰還口
28y 第2帰還口
29 共通流路
29R 連通領域
29Ra 上流部
29Rb 下流部
29Rc 中間部
29x 第1共通流路
29y 第2共通流路
29d 連結部
31 ノズル
32 個別流路
70 フィルタ
87 チューブ(供給チューブ)
88 チューブ(帰還チューブ)
S 傾斜部
図1
図2
図3
図4
図5
図6