(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022134300
(43)【公開日】2022-09-15
(54)【発明の名称】免震建物
(51)【国際特許分類】
E04H 9/02 20060101AFI20220908BHJP
F16F 15/02 20060101ALI20220908BHJP
【FI】
E04H9/02 331Z
F16F15/02 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021033347
(22)【出願日】2021-03-03
(71)【出願人】
【識別番号】000166432
【氏名又は名称】戸田建設株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】306013120
【氏名又は名称】昭和電線ケーブルシステム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090387
【弁理士】
【氏名又は名称】布施 行夫
(74)【代理人】
【識別番号】100090398
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 美千栄
(72)【発明者】
【氏名】豊嶋 昭彦
(72)【発明者】
【氏名】谷地畝 和夫
(72)【発明者】
【氏名】稲井 慎介
(72)【発明者】
【氏名】太田 行孝
(72)【発明者】
【氏名】澁谷 亜紀子
(72)【発明者】
【氏名】石田 琢志
(72)【発明者】
【氏名】得能 将紀
(72)【発明者】
【氏名】柿沼 貴博
(72)【発明者】
【氏名】小阪 宏之
(72)【発明者】
【氏名】丸尾 純也
(72)【発明者】
【氏名】加藤 直樹
(72)【発明者】
【氏名】三須 基規
【テーマコード(参考)】
2E139
3J048
【Fターム(参考)】
2E139AA01
2E139AC19
2E139AC26
2E139AC27
2E139AC33
2E139AC43
2E139CA02
2E139CA03
2E139CA11
2E139CA21
2E139CB04
2E139CC02
3J048AA01
3J048AC06
3J048BA08
3J048BC09
3J048DA01
3J048EA38
(57)【要約】
【課題】本発明は、想定を超える大きな水平方向Xの揺れが生じる場合に、上部構造10が擁壁23に衝突することを防止し、または、衝撃力を緩和することができる免震建物1を提供する。
【解決手段】本発明に係る免震建物1は、基礎構造20側に配置された固定部材21と、上部構造10へ向かって延びる複数の緩衝柱30と、下面14から突出する衝突部32と、第1間隔I1を空けて設けられる擁壁23と、を備える。緩衝柱30は、下端302と、上端304と、外周面306と、を有する。衝突部32は、緩衝柱30の周囲に、外周面306に対して第2間隔I2を空けて設けられる。第2間隔I2は、第1間隔I1よりも狭い。衝突部32は、高さ方向Yで外周面306の一部と重複し、かつ、第2間隔I2を超える上部構造10の水平方向Xへの移動を制限する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基礎構造と上部構造との間に免震機構を備えた免震建物であって、
前記基礎構造側に配置された固定部材と、
前記固定部材から前記上部構造へ向かって延びる複数の緩衝柱と、
前記上部構造の下面から下方へ向かって突出する衝突部と、
前記上部構造の周囲に少なくとも第1間隔を空けて設けられる擁壁と、
を備え、
前記緩衝柱は、前記固定部材に固定される下端と、前記下端とは反対側にある上端と、前記上端と前記下端との間にある外周面と、を有し、
前記衝突部は、前記緩衝柱の周囲に、前記外周面に対して第2間隔を空けて設けられ、
前記第2間隔は、前記第1間隔よりも狭く、
前記衝突部は、高さ方向で前記外周面の一部と重複し、かつ、前記第2間隔を超える前記上部構造の水平方向への移動を制限することを特徴とする、免震建物。
【請求項2】
請求項1において、
前記緩衝柱は、円柱形状であり、
前記上端は、前記下面と非接触であり、
前記衝突部は、平面視で前記外周面を囲むように配置される円形の壁面を有することを特徴とする、免震建物。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、
前記緩衝柱は、前記免震建物の剛心の周りに1か所以上設けられることを特徴とする、免震建物。
【請求項4】
請求項1または請求項2において、
前記緩衝柱は、複数本で一組のユニットを構成し、
前記ユニットは、前記免震建物の剛心の周りに1か所以上設けられることを特徴とする、免震建物。
【請求項5】
請求項4において、
前記ユニットは、それぞれ前記緩衝柱を4本備え、
前記ユニットは、4組設けられており、かつ、前記剛心を中心とした仮想四角形の四隅にそれぞれ配置されることを特徴とする、免震建物。
【請求項6】
請求項1~請求項5のいずれか一項において、
前記緩衝柱は、円形鋼管であり、
前記衝突部は、前記上部構造の床スラブから下方に突出する鉄筋コンクリート製であることを特徴とする、免震建物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基礎構造と上部構造との間に免震機構を備えた免震建物に関する。
【背景技術】
【0002】
免震建物は、基礎構造と、基礎構造の上に配置された免震機構と、免震機構に支持された上部構造とを含み、免震機構によって地震等の水平方向の揺れが上部構造に伝わることを抑制する。
【0003】
一般に、免震建物は、上部構造の側面と擁壁との間に上部構造の水平移動を許容するクリアランスが設けられている。特許文献1では、当該免震建物における想定を超える大きな水平方向の揺れが生じる場合に、上部構造と擁壁とが衝突する際の衝撃を緩和するゴム製の衝撃吸収部材を擁壁に設けることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の発明によれば、ゴム製の衝撃吸収部材を擁壁に設けるため、衝撃吸収部材の厚さの分だけクリアランスが小さくなり、または、衝撃吸収部材の厚さの分だけクリアランスを大きく設定する必要があった。
【0006】
そこで、本発明は、免震建物における上部構造と擁壁とのクリアランスを阻害することなく、免震建物における想定を超える大きな水平方向の揺れが生じる場合に、上部構造が擁壁に衝突することを防止し、または、上部構造が擁壁に衝突した時の衝撃力を緩和することができる免震建物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の態様または適用例として実現することができる。
【0008】
[1]本発明に係る免震建物の一態様は、
基礎構造と上部構造との間に免震機構を備えた免震建物であって、
前記基礎構造側に配置された固定部材と、
前記固定部材から前記上部構造へ向かって延びる複数の緩衝柱と、
前記上部構造の下面から下方へ向かって突出する衝突部と、
前記上部構造の周囲に少なくとも第1間隔を空けて設けられる擁壁と、
を備え、
前記緩衝柱は、前記固定部材に固定される下端と、前記下端とは反対側にある上端と、前記上端と前記下端との間にある外周面と、を有し、
前記衝突部は、前記緩衝柱の周囲に、前記外周面に対して第2間隔を空けて設けられ、
前記第2間隔は、前記第1間隔よりも狭く、
前記衝突部は、高さ方向で前記外周面の一部と重複し、かつ、前記第2間隔を超える前記上部構造の水平方向への移動を制限することを特徴とする。
【0009】
[2]上記免震建物の一態様において、
前記緩衝柱は、円柱形状であり、
前記上端は、前記下面と非接触であり、
前記衝突部は、平面視で前記外周面を囲むように配置される円形の壁面を有することができる。
【0010】
[3]上記免震建物の一態様において、
前記緩衝柱は、前記免震建物の剛心の周りに1か所以上設けることができる。
【0011】
[4]上記免震建物の一態様において、
前記緩衝柱は、複数本で一組のユニットを構成し、
前記ユニットは、前記免震建物の剛心の周りに1か所以上設けることができる。
【0012】
[5]上記免震建物の一態様において、
前記ユニットは、それぞれ前記緩衝柱を4本備え、
前記ユニットは、4組設けられ、かつ、前記剛心を中心とした仮想四角形の四隅にそれぞれ配置することができる。
【0013】
[6]上記免震建物の一態様において、
前記緩衝柱は、円形鋼管であり、
前記衝突部は、前記上部構造の床スラブから下方に突出する鉄筋コンクリート製であることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る免震建物の一態様によれば、上部構造と擁壁とのクリアランスを阻害することなく、免震建物における想定を超える大きな水平方向の揺れが生じる場合に、上部構造が擁壁に衝突することを防止し、または、上部構造が擁壁に衝突した時の衝撃力を緩和することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図2】本実施形態に係る免震建物の基礎構造の平面図である。
【
図3】本実施形態に係る免震建物の部分拡大断面図である。
【
図4】本実施形態に係る免震建物における想定を超える大きな水平方向の揺れが生じた場合の状態を示す図である。
【
図6】実施例及び比較例に係る免震建物のシミュレーション結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また、以下で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0017】
本実施形態に係る免震建物の一態様は、基礎構造と上部構造との間に免震機構を備えた免震建物であって、前記基礎構造側に配置された固定部材と、前記固定部材から前記上部構造へ向かって延びる複数の緩衝柱と、前記上部構造の下面から下方へ向かって突出する衝突部と、前記上部構造の周囲に少なくとも第1間隔を空けて設けられる擁壁と、を備え、前記緩衝柱は、前記固定部材に固定される下端と、前記下端とは反対側にある上端と、前記上端と前記下端との間にある外周面と、を有し、前記衝突部は、前記緩衝柱の周囲に
、前記外周面に対して第2間隔を空けて設けられ、前記第2間隔は、前記第1間隔よりも狭く、前記衝突部は、高さ方向で前記外周面の一部と重複し、かつ、前記第2間隔を超える前記上部構造の水平方向への移動を制限することを特徴とする。
【0018】
1.免震建物の概要
図1及び
図2を用いて、本発明の一実施形態に係る免震建物1について説明する。
図1は、本実施形態に係る免震建物1の正面図であり、
図2は、本実施形態に係る免震建物1の基礎構造20の平面図である。なお、
図1は、基礎構造20を断面で示し、
図2は、上部構造10を省略して示す。
【0019】
図1及び
図2に示すように、免震建物1は、基礎構造20と上部構造10との間に免震機構22を備える。免震建物1は、基礎構造20側に配置された固定部材21と、固定部材21から上部構造10へ向かって延びる複数の緩衝柱30と、上部構造10の下面14から下方へ向かって突出する衝突部32と、上部構造10の周囲に少なくとも第1間隔I1を空けて設けられる擁壁23と、を備える。
【0020】
上部構造10は、下端が免震機構22に支持された例えば地上6階建ての鉄骨構造の構造躯体を有する。上部構造10は、鉄筋コンクリート造、鉄骨鉄筋コンクリート造等であってもよい。上部構造10は、2階建て以上であることができ、特に高層ビルに適用可能である。上部構造10の外周面が側面12である。上部構造10は、免震層の直上層である1Fの下面14がフーチングを介して免震機構22に支持され、免震機構22の配置されない下面14に衝突部32が設けられる。
【0021】
基礎構造20は、上部構造10の下方にあって、地盤上に構築された構造物である。基礎構造20は、免震機構22を介して上部構造10の荷重を地盤に伝える。基礎構造20の下方には、例えば図示しない複数の杭を設けてもよいし、安定した地盤であれば基礎構造20を地盤上に直接構築してもよい。
図2に示す基礎構造20は、例えば、平面視で格子状に構成された梁と、梁に四方を囲まれた領域で梁と一体に形成されたスラブと、を含むが、これに限らず、一般に基礎構造として用いられる梁形式やマットスラブなどで形成してもよい。基礎構造20を構成する梁及びスラブは、鉄筋コンクリート造である。スラブ上に免震機構22が固定される。
【0022】
免震機構22は、上部構造10を支え、上部構造10に伝わる地震等の水平方向の揺れを低減させ、かつ、上部構造10の相対位置の変化を元に戻す力を付与する機構である。免震機構22としては、積層ゴム、弾性すべり支承、転がり支承等の公知のアイソレータを採用することができ、減衰を付与するダンパーをさらに備えてもよい。
【0023】
擁壁23は、上部構造10の側面12に対して少なくとも所定の第1間隔I1を隔てて形成される。第1間隔I1は、基礎構造20に対して上部構造10の水平方向への移動が許容される距離であり、免震建物1において想定される地震に応じて設定される。したがって、免震建物1の想定を超える地震に対しては第1間隔I1では足りずに上部構造10の側面12が擁壁23に衝突する可能性がある。従来は、この衝突を防止するために第1間隔I1を想定より大きく確保する方法と、擁壁23に緩衝ゴム等の緩衝材を設ける方法(例えば特許文献1)が採用されている。しかし、第1間隔I1を大きくすると、免震建物1の敷地使用可能範囲を縮小化することになり、また、掘削土量が増加することになり、コストアップとなるため採用しにくい。また、緩衝ゴムを設ける場合には、擁壁23の裏側の裏込め土と併せて評価する必要があるため、設計検討が煩雑であり、また、緩衝ゴムを配置することにより第1間隔I1が狭くなるという問題がある。これに対し、以下詳細に説明するように、免震建物1は、第1間隔I1を地震の想定に合わせて設定することができ、しかも擁壁23に緩衝ゴムを取り付ける必要もない。
【0024】
免震建物1は、剛心C1と重心C2とを有する。剛心C1及び重心C2は、
図1では一点鎖線で示し、
図2では一点鎖線の交点で示す。剛心C1は、上部構造10の剛性の中心である。重心C2は、上部構造10の質量の中心である。水平面内における剛心C1と重心C2とが一致しない建物は多く存在する。地震時に上部構造10に対し水平力が作用したとき、剛心C1を中心に上部構造10は回転する。剛心C1と重心C2とが一致せず偏心している免震建物1は、地震時に剛心C1を中心に回転しやすく捩じれ振動を生ずる。そのため、捩じれ振動においては、側面12と擁壁23との衝突が面接触ではなく、側面12の角部が擁壁23に線接触で衝突することが予想される。線接触による衝突は、側面12及び擁壁23の一部に応力が集中するため、双方が大きく損傷することが懸念される。
【0025】
緩衝柱30は、上部構造10が擁壁23に衝突する前に、上部構造10の一部である衝突部32に接触する。これにより、上部構造10が擁壁23に衝突することを防止するか、または、上部構造10が擁壁23に衝突した衝撃を上部構造10へ伝わるのを抑制する。すなわち、緩衝柱30は、所定以上の上部構造10の水平移動を防止するストッパーとして機能するか、または、衝撃を和らげる緩衝材として機能する。
【0026】
緩衝柱30は、免震建物1の剛心C1の周りに1か所以上設けることができ、例えば、3か所以上設けてもよい。剛心C1の周りに緩衝柱30を3か所以上に設けることで、免震建物1に対していずれの方向から水平力が作用したとしても剛心C1を中心にした上部構造10の回転を効率的に防止または抑制することができる。緩衝柱30は、それぞれ剛心C1から等距離の位置に配置されることが好ましい。その場合、緩衝柱30は、それぞれ同等の反力が得られるように例えば同じ材質と形状を備える。
【0027】
緩衝柱30は、複数本で一組のユニットU1~U4を構成し、ユニットU1~U4は、免震建物1の剛心C1の周りに1か所以上設けることができ、例えば、3か所以上設けてもよい。各ユニットU1~U4における緩衝柱30の本数は、ユニット間の剛性及び剛心C1からの距離を考慮して適宜設定できる。
図2に示す例でユニットU1~U4は、それぞれ緩衝柱30を4本備え、ユニットU1~U4は、4組設けられており、かつ、剛心C1を中心とした仮想四角形VRの四隅にそれぞれ配置される。仮想四角形VRは正方形であり、
図2に破線で示す。各ユニットU1~U4は、剛心C1から等距離にあって、緩衝柱30の本数も4本で等しく、緩衝柱30と衝突部32との衝突時に同等の反力が得られる。そのため、剛心C1を中心とした上部構造10の捩じれ振動に対して各ユニットU1~U4が均質な抑制効果を発揮する。
【0028】
2.緩衝柱と衝突部
図1~
図5を用いて、緩衝柱30と衝突部32の詳細構造を説明する。
図3は、本実施形態に係る免震建物1の部分拡大断面図であり、
図4は、本実施形態に係る免震建物1における想定を超える大きな水平方向の揺れが生じた場合の状態を示す図であり、
図5は、
図3におけるV-V断面図である。
図3~
図5は、1組のユニットU1を示す。他のユニットU2~U4は、ユニットU1と同様の構成であるので説明を省略する。
【0029】
図1~
図5に示すように、ユニットU1は、上部構造10と基礎構造20との間にそれぞれ間隔を空けて配置された複数本例えば4本の緩衝柱30を備える。そして、免震建物1の下面14には、緩衝柱30に対応する位置に衝突部32が下面14と一体に形成される。
【0030】
緩衝柱30は、固定部材21に固定される下端302と、下端302とは反対側にある上端304と、上端304と下端302との間にある外周面306と、を有する。衝突部
32は、緩衝柱30の周囲に、外周面306に対して第2間隔I2を空けて設けられる。第2間隔I2は、第1間隔I1よりも狭い。衝突部32は、高さ方向Yで外周面306の一部と重複し、かつ、第2間隔I2を超える上部構造10の水平方向Xへの移動を制限する。ここで、「上部構造10の水平方向Xへの移動」は、基礎構造20に対する相対的な移動である。したがって、衝突部32は、第2間隔I2の距離だけ緩衝柱30に接触することなく水平方向Xへの相対的な移動が許容されると共に、衝突部32は、上部構造10の側面12が擁壁23に衝突する前に緩衝柱30に衝突する。
【0031】
平常時の
図3の状態から想定を超える地震が発生した
図4の状態へ、上部構造10が基礎構造20に対して相対的に
図4の左側へ第2間隔I2の距離だけ移動すると、衝突部32と緩衝柱30との衝突により上部構造10の水平移動が制限される。地震が想定よりわずかに大きい程度であれば、
図4の状態より上部構造10が左へ移動することを防止できる。しかし、緩衝柱30によって上部構造10の移動を防止できない場合には、緩衝柱30が変形または破壊されることにより、上部構造10の移動を制限し、擁壁23との衝突の衝撃力を抑制する。また、衝突部32が緩衝柱30の周囲に配置されることにより、いずれの方向からの水平力が免震建物1に加えられたとしても、衝突部32が緩衝柱30に衝突できるので、上部構造10の水平移動を確実に制限できる。
【0032】
免震建物1によれば、上部構造10と基礎構造20の間に緩衝柱30が配置されるので、上部構造10と擁壁23とのクリアランス(第1間隔I1)を阻害することがない。そして、免震建物1における想定を超える大きな水平方向Xの揺れが生じる場合に、第1間隔I1より第2間隔I2が狭いので、上部構造10が擁壁23に衝突することを防止し、または、上部構造10が擁壁23に衝突した時の衝撃力を緩和することができる。
【0033】
図3及び
図4に示すように、衝突部32と外周面306とが高さ方向Yで重複する範囲は、上端304付近に設定されることが好ましい。緩衝柱30における重複する範囲は、
図4で衝突部32に接触している部分であり、短いことが好ましい。これは、衝突による衝撃を緩衝柱30の変形や破壊により吸収するためである。地震後、変形や破壊により使用不能となった緩衝柱30を交換することで緩衝材としての機能を再び得ることができる。免震機構22が地震時の横揺れで高さ方向Yにおける基礎構造20と上部構造10との間隔が変化する場合、衝突部32と外周面306とが高さ方向Yで重複する範囲は、想定を超える大きな水平方向Xの揺れが発生して基礎構造20と上部構造10との間隔が変化しても衝突部32と外周面306とが高さ方向Yで重複した状態を維持できるように設定される。
【0034】
緩衝柱30は、例えば円柱形状であり、衝突部32は、
図5に示すように平面視で外周面306を囲むように配置される例えば円形の壁面である衝突面322を有することが好ましい。緩衝柱30と衝突面322が共に円形であることにより、いずれの方向から水平力が免震建物1に加えられても緩衝柱30から等しい反力が得られ、かつ、同じタイミングで衝突面322に衝突する。緩衝柱30は、円柱形状に限らず、他の形態であってもよく、例えば多角柱状であってもよい。衝突面322は、基礎構造20側から見ると衝突部32に形成された、下面14を底面とする凹部の壁面である。衝突面322は、円形に限らず、多角形状であってもよいし、連続の壁面に限らず、複数の突起の壁面による不連続な面であってもよい。
【0035】
緩衝柱30の上端304は、免震層の直上層である1Fの床スラブ140の下面14と非接触であることが好ましい。これは、地震等による水平方向Xの揺れを基礎構造20から上部構造10に伝えないようにするためである。免震機構22への影響が少ない範囲で上端304と下面14とが接触してもよい。
【0036】
衝突部32の壁面である衝突面322の内径D2は、緩衝柱30の外周面306の外径D1より大きい。水平方向Xにおける外周面306と衝突面322との間には、第2間隔I2が存在するからである。なお、免震建物1の施工時は、緩衝柱30の中心軸と衝突面322の中心軸は等しい位置にある。
【0037】
緩衝柱30は、緩衝材としての機能と衝突部32よりも先に塑性化する機能とを備える材質であることが好ましく、例えば、水平方向Xにおける曲げ剛性が均質な鋼材を採用できる。緩衝柱30は、円形鋼管であることが好ましい。円形鋼管は、建築資材として規格化されているため、比較的安価で安定した剛性を確保しやすく、衝突により塑性化しても挙動を予測しやすいからである。緩衝柱30は、衝突部32と接触する部分に衝突音を抑制するためにゴム等の緩衝材を巻き付けてもよい。衝突部32は、上部構造10の床スラブ140から下方に突出する鉄筋コンクリート製であることが好ましい。衝突部32は、床スラブ140と一体である。鉄筋コンクリート製であることにより、円形鋼管よりも剛性が高くなるからである。そのため、円形鋼管の変形により衝突時の衝撃を緩和することができる。
【0038】
緩衝柱30の下端302と固定部材21とは、公知の定着手段を用いることができる。緩衝柱30の下端302は、円形鋼管の端部に溶接された円板状のフランジであることが好ましい。当該フランジは、複数のアンカーボルトで鉄筋コンクリート製の固定部材21に固定される。地震後、破損した緩衝柱30は、アンカーボルトから取り外し、新しい緩衝柱30に取り換えることができる。
【実施例0039】
図6は、実施例及び比較例に係る免震建物1のシミュレーション結果を示すグラフである。実施例は、剛心C1を中心に4組のユニットU1~U4を配置した仮想上の免震建物1を想定し、入力レベルに対する免震層直上層における最大塑性率をシミュレーションした。
【0040】
実施例及び比較例において入力レベルは、入力地震波の倍率を擁壁23及び緩衝柱30がない状態における免震層の最大変位(cm)として表現したものである。各入力レベルに対する最大塑性率を、せん断型多質点系モデルを用いた非線形時刻歴応答解析に基づいて算出した。最大塑性率とは、免震層の直上層である1Fにおける最大層間変形量を降伏変形量で除算した値のことである。
図6において白丸は比較例によるシミュレーション結果であり、黒丸は実施例によるシミュレーション結果である。比較例は、緩衝柱30を設けず、第1間隔I1が50cmとした。実施例は、4本の円形鋼管の緩衝柱30を固定部材21に固定して第2間隔I2を50cmとした4組のユニットU1~U4を設けた。
【0041】
図6に示すように、比較例よりも実施例の入力レベル方が55cm~75cmにおける最大塑性率が低減しており、特に、入力レベルが65cmにおいて実施例の衝撃力が比較例の最大塑性率に比べて47%程度低減する結果が得られた。
【0042】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、さらに種々の変形が可能である。例えば、本発明は、実施形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法、及び結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
1…免震建物、10…上部構造、12…側面、14…下面、140…床スラブ、20…基礎構造、21…固定部材、22…免震機構、23…擁壁、30…緩衝柱、302…下端、304…上端、306…外周面、32…衝突部、322…衝突面、C1…剛心、C2…重心、D1…外径、D2…内径、I1…第1間隔、I2…第2間隔、U1~U4…ユニット、X…水平方向、Y…高さ方向、VR…仮想四角形