(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022134322
(43)【公開日】2022-09-15
(54)【発明の名称】チップ製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/301 20060101AFI20220908BHJP
C03B 33/09 20060101ALI20220908BHJP
B28D 5/00 20060101ALI20220908BHJP
B26F 3/00 20060101ALI20220908BHJP
B23K 26/53 20140101ALI20220908BHJP
【FI】
H01L21/78 Q
C03B33/09
B28D5/00 Z
B26F3/00 Z
B23K26/53
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021033383
(22)【出願日】2021-03-03
(71)【出願人】
【識別番号】304000836
【氏名又は名称】学校法人 名古屋電気学園
(71)【出願人】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【弁理士】
【氏名又は名称】柴山 健一
(72)【発明者】
【氏名】高木 誠
(72)【発明者】
【氏名】坂 公恭
(72)【発明者】
【氏名】河口 大祐
(72)【発明者】
【氏名】関本 祐介
【テーマコード(参考)】
3C060
3C069
4E168
4G015
5F063
【Fターム(参考)】
3C060AA08
3C060AA10
3C060CC12
3C060CC20
3C069AA03
3C069BA08
3C069CA05
3C069CA11
3C069EA00
4E168AE01
4E168CB07
4E168JA12
4G015FA06
4G015FB02
4G015FC02
5F063AA06
5F063CB07
5F063CB29
5F063CC60
5F063DD27
5F063DD68
5F063DD89
(57)【要約】
【課題】抗折強度のバラつきを抑制しつつ抗折強度を向上可能なチップ製造方法を提供する。
【解決手段】チップ製造方法は、対象物11にラインAに沿ってレーザ光Lを照射することにより、ラインAに沿って対象物11に改質領域12を形成する第1工程と、第1工程の後に、改質領域12を利用してラインAに沿って対象物11を切断することにより、対象物11からチップ50を形成する第2工程と、第2工程の後に、Z方向に沿ってチップ50に応力Fを付加する第3工程と、を備える。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1面と前記第1面の反対側の第2面とを含む対象物に、前記第1面及び前記第2面に沿って設定されたラインに沿ってレーザ光を照射することにより、前記ラインに沿って前記対象物に改質領域を形成する第1工程と、
前記第1工程の後に、前記改質領域を利用して前記ラインに沿って前記対象物を切断することにより、前記対象物からチップを形成する第2工程と、
前記第2工程の後に、前記第1面及び前記第2面に交差する方向に沿って前記チップに応力を付加する第3工程と、
を備えるチップ製造方法。
【請求項2】
前記第3工程では、複数回にわたって前記チップに前記応力を付加する、
請求項1に記載のチップ製造方法。
【請求項3】
前記第3工程では、前記チップに前記応力を付加した状態を維持する、
請求項1又は2に記載のチップ製造方法。
【請求項4】
前記対象物には、複数の前記ラインが設定されており、
前記第1工程では、複数の前記ラインのそれぞれに沿って前記レーザ光を照射することにより、複数の前記ラインのそれぞれに沿って前記対象物に前記改質領域を形成し、
前記第2工程では、複数の前記ラインのそれぞれに沿って前記対象物を切断することにより、前記対象物から複数の前記チップを形成し、
前記第3工程では、複数の前記チップに一括して前記応力を付加する、
請求項1~3のいずれか一項に記載のチップ製造方法。
【請求項5】
前記応力は、前記チップの平均破壊強度の80%以上の値である、
請求項1~3のいずれか一項に記載のチップ製造方法。
【請求項6】
前記応力は、前記チップの平均破壊強度の90%以上の値である、
請求項1~5のいずれか一項に記載のチップ製造方法。
【請求項7】
前記応力は、前記チップの平均破壊強度よりも大きな値である、
請求項1~6のいずれか一項に記載のチップ製造方法。
【請求項8】
第1面と前記第1面の反対側の第2面とを含む対象物に、前記第1面及び前記第2面に沿って設定されたラインに沿ってレーザ光を照射することにより、前記ラインに沿って前記対象物に改質領域を形成する第1工程と、
前記第1工程の後に、前記改質領域を利用して前記ラインに沿って前記対象物を切断することにより、前記対象物からチップを形成すると共に、前記第1面及び前記第2面に交差する方向に沿って前記チップに応力を付加する第2工程と、
を備えるチップ製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チップ製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、板ガラスの端面加工方法が記載されている。この方法では、まず、複数の素材板ガラスを積み重ねると共に、固着材を介して一体化して素材ガラスブロックを形成する。続いて、素材ガラスブロックを受け台に一体的に固着すると共に、円板カッターにより分割線に沿って縦横に分割し、長方形状の分割ガラスブロックを多数形成する。続いて、円板体の上面に平坦な研磨面を有する回転研磨盤を回転させ、研磨面に研磨材を供給しながら分割ガラスブロックの各端面を順次に回転研磨盤の研磨面に摺接させて研磨する。これにより、一次研磨分割ガラスブロックを得る。そして、一次研磨分割ガラスブロックを複数段積み重ねると共に、これらの各端面を回転ブラシにより研磨する。その後、各分割板ガラスを温水の張られた容器に収容することにより、固着材を剥離して板ガラス製品が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の方法では、ガラス板の端面を研磨することによりガラス板の抗折強度の向上を図っている。しかし、本発明者の知見によれば、特許文献1のように、板ガラスといったチップの製造に際して円板カッターを用いた場合には、例えば、レーザ光の照射により形成される改質領域を起点とした切断によりチップを製造する場合と比較して、抗折強度が低く、且つ、抗折強度のバラつきが大きくなる。
【0005】
本発明は、抗折強度のバラつきを抑制しつつ抗折強度を向上可能なチップ製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るチップ製造方法は、第1面と第1面の反対側の第2面とを含む対象物に、第1面及び第2面に沿って設定されたラインに沿ってレーザ光を照射することにより、ラインに沿って対象物に改質領域を形成する第1工程と、第1工程の後に、改質領域を利用してラインに沿って対象物を切断することにより、対象物からチップを形成する第2工程と、第2工程の後に、第1面及び第2面に交差する方向に沿ってチップに応力を付加する第3工程と、を備える。
【0007】
また、本発明に係るチップ製造方法は、第1面と第1面の反対側の第2面とを含む対象物に、第1面及び第2面に沿って設定されたラインに沿ってレーザ光を照射することにより、ラインに沿って対象物に改質領域を形成する第1工程と、第1工程の後に、改質領域を利用してラインに沿って対象物を切断することにより、対象物からチップを形成すると共に、第1面及び第2面に交差する方向に沿ってチップに応力を付加する第2工程と、を備える。
【0008】
これらの製造方法では、対象物にレーザ光を照射することによって対象物に改質領域を形成し、それらを利用して対象物を切断してチップを形成する。これと共に、チップに対して応力を付加する。本発明者の知見によれば、このようにチップに応力を付加することにより、抗折強度のバラつきを抑制しつつ抗折強度を向上可能である。
【0009】
本発明に係るチップ製造方法では、第3工程では、複数回にわたってチップに応力を付加してもよい。この場合、抗折強度をより確実に向上可能である。
【0010】
本発明に係るチップ製造方法では、第3工程では、チップに応力を付加した状態を所定時間維持してもよい。この場合、抗折強度をより確実に向上可能である。
【0011】
本発明に係るチップ製造方法では、対象物には、複数のラインが設定されており、第1工程では、複数のラインのそれぞれに沿って前記レーザ光を照射することにより、複数のラインのそれぞれに沿って対象物に改質領域を形成し、第2工程では、複数のラインのそれぞれに沿って対象物を切断することにより、対象物から複数のチップを形成し、第3工程では、複数のチップに一括して応力を付加としてもよい。この場合、抗折強度の向上された複数のチップを一括して製造可能である。
【0012】
本発明に係るチップ製造方法では、応力は、チップの平均破壊強度の80%以上の値であってもよく、チップの平均破壊強度の90%以上の値であってもよく、チップの平均破壊強度よりも大きな値であってもよい。これらの場合、抗折強度をより確実に向上可能である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、抗折強度のバラつきを抑制しつつ抗折強度を向上可能なチップ製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、一実施形態に係るレーザ加工装置の構成を示す模式図である。
【
図2】
図2は、対象物を支持した状態のステージを示す平面図である。
【
図3】
図3は、
図1に示されたレーザ照射部の構成を示す模式図である。
【
図4】
図4は、チップ製造方法の一工程を説明するための図である。
【
図5】
図5は、チップ製造方法の一工程を説明するための図である。
【
図6】
図6は、チップ製造方法の一工程を説明するための図である。
【
図7】
図7は、チップ製造方法の一工程の別の例を説明するための図である。
【
図8】
図8は、各種のチップの切断面を示す写真である。
【
図9】
図9は、
図8に示された各チップの抗折強度を示すグラフである。
【
図10】
図10は、本発明者が得た第1の知見を説明するためのグラフである。
【
図11】
図11は、本発明者が得た第2の知見を説明するためのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、一実施形態について、図面を参照して説明する。なお、各図において、同一又は相当する部分には同一の符号を付し、重複する説明を省略する場合がある。また、各図には、X軸、Y軸、及びZ軸によって規定される直交座標系を示す場合がある。
【0016】
図1は、一実施形態に係るレーザ加工装置の構成を示す模式図である。
図1に示されるように、レーザ加工装置1は、ステージ2と、レーザ照射部3と、駆動部4,5と、制御部6と、を備えている。レーザ加工装置1は、対象物11にレーザ光Lを照射することにより、対象物11に改質領域12を形成するためのものである。また、ここでは、レーザ加工装置1は、改質領域12等を用いて対象物11を切断することにより、対象物11からチップを製造するためのチップ製造装置でもある。
【0017】
図2は、対象物を支持した状態のステージを示す平面図である。
図2には、レーザ加工の予定を示す仮想的なラインAが示されている。
図1,2に示されるように、ステージ2は、対象物11が貼り付けられるフィルム21と、フィルム21の外縁を保持するフレーム22と、を有している。すなわち、ステージ2は、対象物11が貼り付けられたフィルム21を保持することにより対象物11を支持するためのものである。
【0018】
なお、ステージ2は、フィルム21を対象物11と反対側から(後述するZ方向に)押し上げることによりフィルム21を拡張するための押圧部材23をさらに有している。ステージ2は、Z方向に平行な軸線を回転軸として回転可能である。ステージ2は、X方向及びY方向のそれぞれに沿って移動可能とされてもよい。なお、X方向及びY方向は、互いに交差(直交)する第1水平方向及び第2水平方向であり、Z方向は鉛直方向である。
【0019】
レーザ照射部3は、対象物11に対して透過性を有するレーザ光Lを集光して対象物11に照射する。ステージ2に支持された対象物11の内部にレーザ光Lが集光されると、レーザ光Lの集光点Cに対応する部分においてレーザ光Lが特に吸収され、対象物11の内部に改質領域12が形成される。
【0020】
改質領域12は、密度、屈折率、機械的強度、その他の物理的特性が周囲の非改質領域とは異なる領域である。改質領域12としては、例えば、溶融処理領域、クラック領域、絶縁破壊領域、屈折率変化領域等がある。改質領域12は、改質領域12からレーザ光Lの入射側及びその反対側に亀裂が延びるように形成され得る。そのような改質領域12及び亀裂は、例えば対象物11の切断に利用される。
【0021】
図3は、
図1に示されたレーザ照射部の構成を示す模式図である。
図3には、レーザ加工の予定を示す仮想的なラインAを示している。
図3に示されるように、レーザ照射部3は、光源31と、空間光変調器7と、集光レンズ33と、を有している。光源31は、例えばパルス発振方式によって、レーザ光Lを出力する。なお、レーザ照射部3は、光源31を有さず、レーザ照射部3の外部からレーザ光Lを導入するように構成されてもよい。空間光変調器7は、光源31から出力されたレーザ光Lを変調する。集光レンズ33は、空間光変調器7によって変調されて空間光変調器7から出力されたレーザ光Lを対象物11に向けて集光する。
【0022】
一例として、ステージ2をX方向に沿って移動させ、対象物11に対して集光点CをX方向に沿って相対的に移動させると、複数の改質スポット12sがX方向に沿って1列に並ぶように形成される。1つの改質スポット12sは、1パルスのレーザ光Lの照射によって形成される。1列の改質領域12は、1列に並んだ複数の改質スポット12sの集合である。隣り合う改質スポット12sは、対象物11に対する集光点Cの相対的な移動速度及びレーザ光Lの繰り返し周波数によって、互いに繋がる場合も、互いに離れる場合もある。
【0023】
図1に示されるように、駆動部4は、ステージ2をZ方向に交差(直交)する面内の一方向に移動させる第1移動部41と、ステージ2をZ方向に交差(直交)する面内の別方向に移動させる第2移動部42と、を含む。一例として、第1移動部41は、ステージ2をX方向に沿って移動させ、第2移動部42は、ステージ2をY方向に沿って移動させる。また、駆動部4は、ステージ2をZ方向に平行な軸線を回転軸として回転させる。駆動部5は、レーザ照射部3を支持している。駆動部5は、レーザ照射部3をX方向、Y方向、及びZ方向に沿って移動させる。レーザ光Lの集光点Cが形成されている状態においてステージ2及び/又はレーザ照射部3が移動させられることにより、集光点Cが対象物11に対して相対移動させられる。すなわち、駆動部4,5は、対象物11に対してレーザ光Lの集光点Cが相対移動するように、ステージ2及びレーザ照射部3の少なくとも一方を移動させる移動部である。
【0024】
制御部6は、ステージ2、レーザ照射部3、及び駆動部4,5の動作を制御する。制御部6は、処理部、記憶部、及び入力受付部を有している(不図示)。処理部は、プロセッサ、メモリ、ストレージ及び通信デバイス等を含むコンピュータ装置として構成されている。処理部では、プロセッサが、メモリ等に読み込まれたソフトウェア(プログラム)を実行し、メモリ及びストレージにおけるデータの読み出し及び書き込み、並びに、通信デバイスによる通信を制御する。記憶部は、例えばハードディスク等であり、各種データを記憶する。入力受付部は、各種情報を表示すると共に、ユーザから各種情報の入力を受け付けるインターフェース部である。入力受付部は、GUI(Graphical User Interface)を構成している。
【0025】
引き続いて、上記のレーザ加工装置1等を用いたチップ製造方法について説明する。この製造方法では、まず、
図2,3に示されるように、ステージ2に対象物11が支持される。対象物11は、第1面11aと、第1面11aの反対側の第2面11bと、を含む。対象物11は、第1面11aが集光レンズ33側に臨むように、第2面11bがフィルム21に保持(接触)されることにより、ステージ2に支持される。対象物11は、例えば、ガラスウェハや半導体ウェハである。ここでは、一例として、対象物11はシリコンウェハである。ここでのシリコンウェハは、半導体デバイスが形成されたものであってもよいし、ベアウェハであってもよい。対象物11には、一例として、第1面11a及び第2面11bに沿って2次元格子状にラインAが設定されている。
【0026】
引き続いて、第1工程が実施される。すなわち、ここでは、制御部6がレーザ照射部3及び駆動部4,5を制御することにより、レーザ光Lの集光点Cが対象物11の内部に位置されると共に、1つのラインAに沿って集光点Cが相対移動される。これにより、ラインAに沿ってレーザ光が照射されることとなり、ラインAに沿って対象物11に改質領域12及び改質領域12から延びる亀裂を形成する。第1工程では、複数のラインAのそれぞれに沿ってレーザ光Lを照射することにより、複数のラインAのそれぞれに沿って対象物11に改質領域12を形成する。
【0027】
引き続いて、第2工程が実施される。すなわち、
図4の(a)及び(b)に示されるように、制御部6が、押圧部材23を用いて、フィルム21を対象物11と反対側から、すなわち第2面11b側からZ方向に押し上げることによりフィルム21を拡張させる。これにより、改質領域12から延びる亀裂が開く方向に対象物11に応力が付加され、当該亀裂が進展される。この結果、対象物11がラインAに沿って切断され、対象物11から複数のチップ50が一括して形成される。すなわち、この第2工程では、改質領域12(及び改質領域12から延びる亀裂)を利用してラインAに沿って対象物11を切断することにより、対象物11からチップ50を形成する。
【0028】
引き続いて、第3工程が実施される。第3工程では、第2工程で形成されたチップ50のそれぞれに対して応力を付加する。そのために、
図5及び
図6に示されるように、応力付加用のジグ100を用意する。ジグ100は、Z方向からみて第1方向に沿って延びる棒状の複数の第1部材101と、Z方向からみて第1方向に交差する(直交する)第2方向に沿って延びる棒状の複数の第2部材102と、を含む。ジグ100では、第1部材101と第2部材102とが格子状に組み合わされている。1つのチップ50に着目すると、当該チップ50の中心を通りつつ、チップ50のY方向の外縁50eを横切ってY方向に延びるように第1部材101が配置され、且つ、当該チップの中心をとおりつつ、チップ50のX方向の外縁50fを横切ってX方向に延びるように第2部材102が配置される。ジグ100は、それぞれのチップ50の(第1面11aの一部である)第1面50aに例えば接触保持されている。
【0029】
その状態において、制御部6は、押圧部材23を用いて、フィルム21ごと、対象物11、すなわちチップ50を(第2面11bの一部である)第2面50b側からZ方向に押し上げる。これにより、複数のチップ50に対して、一括して、第1面11a(チップ50の第1面50a)及び第2面11b(チップ50の第2面50b)に交差するZ方向に沿って、ジグ100から応力Fが付加される。ここでは、制御部6は、これを繰り返し行うことにより、複数回にわたってチップ50に応力Fを付加することができる。或いは、制御部6は、チップ50に応力Fを付加した状態を所定時間維持することができる。
【0030】
応力Fは、チップ50の平均破壊強度の80%以上の値とすることができる。例えば、チップ50の単純曲げ試験での破壊強度の平均値(平均破壊強度)が363MPaであった場合には、例えば、応力Fは290MPa程度以上の値とすることができる。或いは、応力Fは、チップ50の平均破壊強度の90%以上の値である。この場合、チップ50の平均破壊強度が363MPaであった場合には、例えば、応力Fは326MPa程度以上の値とすることができる。さらには、応力Fは、平均破壊強度よりも大きな値であってもよい。なお、一例として、応力Fが平均破壊強度の80%以上の値であるとは、応力Fの値が、当該値に基づいてチップ50の抗折強度を算出したときに、算出された抗折強度がチップ50の平均破壊強度の80%以上となる値であることを意味する。同様に、一例として、応力Fが290MPa程度であるとは、応力Fの値が、当該値に基づいてチップ50の抗折強度を算出したときに、算出された抗折強度が概ね290MPaとなる値であることを意味する。
【0031】
なお、ここでは、ステージ2及びジグ100を用いてチップ50に応力Fを付加したが、
図7に示されるように、第2工程の後にチップ50を移送して、通常の応力付加装置(例えば4点曲げの試験装置)を利用してチップ50に応力Fを付加してもよい。ここでは、支持台110にチップ50を載置した後に、応力付加部材120により第1面50a側から応力Fをチップ50に付加する。ここでも、
図7の(a)のように、複数回にわたってチップ50に応力Fを付加してもよいし、
図7の(b)のように、チップ50に応力Fを付加した状態を所定時間維持するようにしてもよい。
【0032】
引き続いて、切断方法及び切断面の処理に応じたチップの抗折強度に関する発明者の知見について説明する。
図8の(a)は、ブレードでの切断(以下、「ブレードダイシング」という)により形成されたチップ(以下、「BDチップ」という)の切断面を示している。
図8の(b)は、上記のように改質領域を利用した切断(以下、「ステルスダイシング」という)により形成されたチップ(以下、「SDチップ」という)の切断面を示している。また、
図8の(c)は、SDチップの切断面にエッチングを施したチップ(以下、「SDエッチングチップ」という)の切断面を示している。また、
図8の(d)は、厚さ方向の片側のみに改質領域を形成しつつ劈開を利用して得られたチップ(以下、「SD片側集光チップ」という)の切断面を示している。さらに、
図8の(e)は、SD片側集光チップの切断面にさらにエッチングを施したチップ(以下、「SD片側集光エッチングチップ」という)の切断面を示している。
【0033】
図9は、
図8に示された各チップの抗折強度を示すグラフである。
図9の点群A1は、BDチップの抗折強度を示し、
図9の点群A2は、SDチップの抗折強度を示し、
図9の点群A3は、SDエッチングチップの抗折強度を示し、
図9の点群A4は、SD片側集光チップの抗折強度を示し、
図9の点群A5は、SD片側集光エッチングチップの抗折強度を示している。点群A1と点群A2とを比較すると、ブレードダイシングを利用したBDチップに比べて、ステルスダイシングを利用したSDチップの方が、抗折強度が向上し、且つ、抗折強度のバラつきが抑制されていることが理解される。さらに、ステルスダイシングを利用したチップについては、エッチングを行ったり(点群A3,A5)劈開を利用したしたり(点群A4,A5)することにより、抗折強度は向上するものの、抗折強度のバラつきも大きくなる。
【0034】
これに対して、本発明者は、SDチップに対して応力を付加することにより、抗折強度のバラつきを抑制しつつ、抗折強度を向上可能であるとの知見を得た。
図10は、本発明者が得た第1の知見を説明するためのグラフである。
図10の点群B0は、通常の(応力の負荷を行っていない)SDチップの抗折強度(静的破壊応力)を示している。点群B0に属するSDチップの平均破壊強度は363MPaであり、最大破壊強度は396MPaであり、最小破壊強度は318MPaであり、ワイブル係数は19.3であった。BDチップのワイブル係数が3~4程度であることを勘案すると、通常のSDチップであっても、抗折強度のバラつきが抑制されている。
【0035】
これに対して、点群B1は、通常のSDチップの平均破壊強度である363MPaの84%程度に相当する306MPaの応力Fを10000回繰り返し付加した場合の抗折強度を示している。点群B0と点群B1とを比較すると、最大破壊強度の変化は少ないものの、点群B1は平均的に高い値に分布しており、抗折強度のバラつきが抑制されて平均破壊強度が向上されていることが理解される。
【0036】
点群C1、点群C2、及び、点群C3は、通常のSDチップの平均破壊強度である363MPaの98%程度に相当する357MPaの応力Fを、それぞれ、1000回、10000回、及び、100000回付加した場合の抗折強度を示している。点群B0とこれらの点群C1,C2,C3とを比較すると、点群C1から点群C3にかけて、平均的に、抗折強度のバラつきが抑制されつつも分布の中心が高くなり、平均破壊強度が向上されていることが理解される。
【0037】
点群D1、点群D2、点群D3、点群D4、及び、点群D5は、通常のSDチップの平均破壊強度である363MPaの105%程度に相当する382MPaの応力F(すなわち、平均破壊強度よりも大きな値)を、それぞれ、1回、10回、1000回、10000回、及び、100000回付加した場合の抗折強度を示している。点群B0と点群D1とを比較すると、相対的に大きな応力Fを付加する場合には、1回の付加でも抗折強度のバラつきを抑制しつつ抗折強度を向上可能であることがわかる。
【0038】
さらに、点群D2から点群D5にかけて、平均的に、抗折強度のバラつきが抑制されつつも(点群B0と比較して)分布の中心が高くなり、平均破壊強度が向上されていることが理解される。特に、点群D4では、平均破壊強度が425Maであり、最大破壊強度が476MPaであり、最小破壊強度が384MPaであり、ワイブル係数が19.2であった。すなわち、点群B0と点群D4とを比較すると、ワイブル係数の変化が少ない状況で、すなわち、BDチップと比較してバラつきが抑制された状況で、通常のSDチップに対して117%程度も抗折強度が向上されている。
【0039】
図11は、本発明者が得た第2の知見を説明するためのグラフである。点群E1、点群E2、点群E3、点群E4、点群E5、点群E6は、通常のSDチップの平均破壊強度である363MPaの98%程度に相当する357MPaの応力Fを、それぞれ、1時間、5時間、1日、2日、3日、及び、19日だけ保持した場合の抗折強度を指名している。点群B0と点群E1とを比較すると、応力Fを保持する時間が1時間であっても、点群E1は平均的に高い値に分布しており、抗折強度のバラつきが抑制されて平均破壊強度が向上されていることが理解される。
【0040】
さらに、点群E1から点群E6にかけて、平均的に、抗折強度のバラつきが抑制されつつも(点群B0を比較して)分布の中心が高くなり、平均破壊強度が向上されていることが理解される。特に、点群E1から点群E6の全体では、平均破壊強度が418Maであり、最大破壊強度が499MPaであり、最小破壊強度が376MPaであり、ワイブル係数が15.7であった。すなわち、例えばBDチップと比較してワイブル係数の変化が少ない状況で、すなわち、BDチップと比較してバラつきが抑制された状況で、通常のSDチップに対して115%程度も抗折強度が向上されている。つまり、いずれかの方法でもSDチップに応力を付加すれば、ワイブル係数を大きく低下させることなく、20%近く抗折強度を向上可能であるとの知見が得られた。
【0041】
本実施形態に係るチップ製造方法では、以上の知見に基づいて、次のような作用効果が得られるのである。すなわち、本実施形態に係るチップ製造方法では、対象物11にレーザ光Lを照射することによって対象物11に改質領域12を形成し、それらを利用して対象物11を切断してチップ50を形成する。これと共に、チップ50に対して応力Fを付加する。上記知見によれば、このようにチップ50に応力Fを付加することにより、抗折強度のバラつきを抑制しつつ抗折強度を向上可能である。
【0042】
また、本実施形態に係るチップ製造方法では、第3工程では、複数回にわたってチップ50に応力Fを付加してもよい。この場合、抗折強度をより確実に向上可能である。或いは、本実施形態に係るチップ製造方法では、第3工程では、チップ50に応力Fを付加した状態を所定時間維持してもよい。この場合、抗折強度をより確実に向上可能である。
【0043】
また、本実施形態に係るチップ製造方法では、対象物11には、複数のラインAが設定されており、第1工程では、複数のラインAのそれぞれに沿ってレーザ光Lを照射することにより、複数のラインAのそれぞれに沿って対象物11に改質領域12を形成する。また、第2工程では、複数のラインAのそれぞれに沿って対象物11を切断することにより、対象物11から複数のチップ50を形成する。そして、第3工程では、複数のチップ50に一括して応力Fを付加する。このため、抗折強度の向上された複数のチップ50を一括して製造可能である。
【0044】
また、本実施形態に係るチップ製造方法では、応力Fは、チップ50の平均破壊強度の80%以上(例えば84%以上)の値であってもよく、チップ50の平均破壊強度の90%以上(例えば98%以上)の値であってもよく、さらに、チップ50の平均破壊強度よりも大きな値(例えば105%以上の値)であってもよい。これらの場合、抗折強度をより確実に向上可能である。
【0045】
以上の実施形態は、本発明の一側面を説明したものである。したがって、本発明は、上記実施形態に限定されず、任意に変形され得る。
【0046】
例えば、上記実施形態では、第2工程でチップ50を形成した後に、レーザ加工装置1において、又は、別の装置に移送して、第3工程でチップ50に応力Fを付加する場合について説明した。しかし、第2工程と第3工程とは同時に実施されてもよい。すなわち、チップ製造方法では、第1工程の後に、改質領域12を利用してラインAに沿って対象物11を切断することにより、対象物11からチップ50を形成すると共にZ方向に沿ってチップ50に応力Fを付加する第2工程を実施することができる。この場合、一例として、押圧部材23によりフィルム21を突き上げる際に、既に対象物11上にジグ100を配置しておけばよい。或いは、ジグ100を用いることなく、押圧部材23の突き上げによる応力をチップ50に付加するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0047】
1…レーザ加工装置、11…対象物、11a…第1面、11b…第2面、50…チップ、A…ライン、F…応力、L…レーザ光。