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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022134356
(43)【公開日】2022-09-15
(54)【発明の名称】荷電粒子線照射システム
(51)【国際特許分類】
   A61N 5/10 20060101AFI20220908BHJP
【FI】
A61N5/10 N
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021033429
(22)【出願日】2021-03-03
(71)【出願人】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100162640
【弁理士】
【氏名又は名称】柳 康樹
(72)【発明者】
【氏名】山口 喬
(72)【発明者】
【氏名】水谷 昌平
(72)【発明者】
【氏名】荒屋 正幸
(72)【発明者】
【氏名】須釜 裕也
【テーマコード(参考)】
4C082
【Fターム(参考)】
4C082AA01
4C082AC05
4C082AE01
4C082AG31
4C082AG42
(57)【要約】
【課題】被照射体に対して適切に荷電粒子線を照射することができる、荷電粒子線照射システムを提供する。
【解決手段】スノートディグレーダ30が、荷電粒子線Bのペナンブラの調整を行うことで、照射部2が腫瘍14の境界部付近に照射を行う際に、腫瘍14の外部に荷電粒子線Bの照射が行われることを抑制することができる。ここで、スノートディグレーダ30を保持する保持部60が、照射部2に設けられている。そのため、腫瘍14に照射される荷電粒子線Bとスノートディグレーダ30との間の位置合わせを容易に行うことができる。そのため、スノートディグレーダ30で適切な位置でペナンブラを調整した状態にて、照射部2が腫瘍14に荷電粒子線Bを照射することができる。本実施形態では、スノートディグレーダ30を保持部60に保持させればよいだけなので、位置合わせが容易である。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物内の被照射体に対して荷電粒子線を照射する荷電粒子線照射システムであって、
走査電磁石で前記荷電粒子線を走査することで、前記被照射体に対して前記荷電粒子線を照射する照射部と、
前記走査された前記荷電粒子線のペナンブラの調整を行う調整部材と、
前記照射部に設けられ、前記調整部材を保持する保持部と、を備える、荷電粒子線照射システム。
【請求項2】
前記保持部は、前記照射部の先端部に設けられる、請求項1に記載の荷電粒子線照射システム。
【請求項3】
前記調整部材は、前記対象物内における前記被照射体の深さに応じたペナンブラの調整レベルを有する、請求項1又は2に記載の荷電粒子線照射システム。
【請求項4】
前記対象物内における前記被照射体の深さに基づいて、前記調整部材のペナンブラの調整レベルを選択可能に構成される、請求項1~3の何れか一項に記載の荷電粒子線照射システム。
【請求項5】
前記対象物と前記照射部との距離に基づいて、前記調整部材のペナンブラの調整レベルを選択可能に構成される、請求項1~4の何れか一項に記載の荷電粒子線照射システム。
【請求項6】
前記保持部に対して誤った前記調整部材が配置されることを検出する検出部を更に備える、請求項1~5の何れか一項に記載の荷電粒子線照射システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子線照射システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、患者の患部に荷電粒子線を照射することによって治療を行う荷電粒子線照射システムとして、例えば、特許文献1に記載された装置が知られている。特許文献1に記載の荷電粒子線照射システムでは、照射部が、荷電粒子線をスキャニング方式によって照射している。すなわち、照射部は、走査電磁石で走査することで患部に対する荷電粒子線の照射位置を移動させながら、照射を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-209372号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、照射部がスキャニング方式によって荷電粒子線を照射する場合、荷電粒子線のビームサイズが大きいことなどにより、被照射体の外部まで治療線量が付与されてしまうという問題がある。従って、被照射体に対して適切に荷電粒子線を照射することが求められていた。
【0005】
そこで本発明は、被照射体に対して適切に荷電粒子線を照射することができる、荷電粒子線照射システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明に係る荷電粒子線照射システムは、対象物内の被照射体に対して荷電粒子線を照射する荷電粒子線照射システムであって、走査電磁石で荷電粒子線を走査することで、被照射体に対して荷電粒子線を照射する照射部と、走査された荷電粒子線のペナンブラの調整を行う調整部材と、照射部に設けられ、調整部材を保持する保持部と、を備える。
【0007】
本発明に係る荷電粒子線照射システムは、走査電磁石で荷電粒子線を走査することで、被照射体に対して荷電粒子線を照射する照射部と、荷電粒子線のペナンブラの調整を行う調整部材と、を備える。従って、調整部材が、荷電粒子線のペナンブラの調整を行うことで、照射部が被照射体の境界部付近に照射を行う際に、被照射体の外部に荷電粒子線の照射が行われることを抑制することができる。ここで、調整部材を保持する保持部が、照射部に設けられている。そのため、調整部材で適切な位置でペナンブラを調整した状態にて、照射部が被照射体に荷電粒子線を照射することができる。以上より、照射部は、被照射体に対して適切に荷電粒子線を照射することができる。
【0008】
保持部は、照射部の先端部に設けられてよい。この場合、調整部材は、対象物に近接した位置にて、ペナンブラの調整を行うことができる。従って、調整部材がペナンブラの調整を行った後は、荷電粒子線は、ビームの広がりが大きくなる前に、速やかに被照射体に照射される。
【0009】
調整部材は、対象物内における被照射体の深さに応じたペナンブラの調整レベルを有してよい。この場合、調整部材は、対象物内における被照射体の深さに応じたペナンブラの調整レベルにて、ペナンブラの調整を行うことができる。
【0010】
荷電粒子線照射システムは、対象物内における被照射体の深さに基づいて、調整部材のペナンブラの調整レベルを選択可能に構成されてよい。この場合、調整部材は、対象物内における被照射体の深さに応じて、適切なペナンブラの調整レベルにて、ペナンブラの調整を行うことができる。
【0011】
荷電粒子線照射システムは、対象物と照射部との距離に基づいて、調整部材のペナンブラの調整レベルを選択可能に構成されてよい。この場合、調整部材は、対象物と照射部との距離に応じて、適切なペナンブラの調整レベルにて、ペナンブラの調整を行うことができる。
【0012】
荷電粒子線照射システムは、保持部に対して誤った調整部材が配置されることを検出する検出部を更に備えてよい。この場合、不適切な調整レベルに係る調整部材にて、ペナンブラの調整が行われることを抑制できる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、被照射体に対して適切に荷電粒子線を照射することができる、荷電粒子線照射システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態に係る荷電粒子線照射システムを示す概略構成図である。
図2図1の荷電粒子線照射システムの照射部付近の概略構成図である。
図3】腫瘍に対して設定された層を示す図である。
図4】スノートディグレーダが保持部で保持された様子を示す概略図である。
図5】基軸に直角な所定の平面内へスキャニング法により荷電粒子線を照射したときの線量分を示すグラフである。
図6】荷電粒子線の広がりと対象物の深さとの関係に係るシミュレーション結果を示すグラフである。
図7図6から空気層の厚さを変更したときのシミュレーション結果を示すグラフである。
図8図6から空気層の厚さを変更したときのシミュレーション結果を示すグラフである。
図9】スノートディグレーダのペナンブラの調整レベルを選択可能とするための構成を示すブロック図である。
図10】本発明の一実施形態に係る荷電粒子線照射方法の内容を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を参照しながら本発明の一実施形態に係る荷電粒子線照射システムについて説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0016】
図1は、本発明の一実施形態に係る荷電粒子線照射システム1を示す概略構成図である。荷電粒子線照射システム1は、放射線療法によるがん治療等に利用されるシステムである。荷電粒子線照射システム1は、イオン源装置で生成した荷電粒子を加速して荷電粒子線として出射する加速器3と、荷電粒子線を被照射体へ照射する照射部2と、加速器3から出射された荷電粒子線を照射部2へ輸送するビーム輸送ライン21と、を備えている。照射部2は、治療台4を取り囲むように設けられた回転ガントリ5に取り付けられている。照射部2は、回転ガントリ5によって治療台4の周りに回転可能とされている。なお、加速器3、照射部2、及びビーム輸送ライン21の更に詳細な構成については、後述する。
【0017】
図2は、図1の荷電粒子線照射システム1の照射部2付近の概略構成図である。なお、以下の説明においては、「X軸方向」、「Y軸方向」、「Z軸方向」という語を用いて説明する。「Z軸方向」とは、荷電粒子線Bの基軸AXが延びる方向であり、荷電粒子線Bの照射の深さ方向である。なお、「基軸AX」とは、後述の走査電磁石50で偏向しなかった場合の荷電粒子線Bの照射軸とする。図2では、基軸AXに沿って荷電粒子線Bが照射されている様子を示している。「X軸方向」とは、Z軸方向と直交する平面内における一の方向である。「Y軸方向」とは、Z軸方向と直交する平面内においてX軸方向と直交する方向である。
【0018】
まず、図2を参照して、本実施形態に係る荷電粒子線照射システム1の概略構成について説明する。荷電粒子線照射システム1はスキャニング法に係る照射装置である。なお、スキャニング方式は特に限定されず、ラインスキャニング、ラスタースキャニング、スポットスキャニング等を採用してよい。図2に示されるように、荷電粒子線照射システム1は、加速器3と、照射部2と、ビーム輸送ライン21と、制御部7と、治療計画装置90と、記憶部95と、を備えている。
【0019】
加速器3は、荷電粒子を加速して予め設定されたエネルギーの荷電粒子線Bを出射する装置である。加速器3として、例えば、サイクロトロン、シンクロサイクロトロン、ライナック等が挙げられる。なお、加速器3として予め定めたエネルギーの荷電粒子線Bを出射するサイクロトロンを採用する場合、エネルギー調整部を採用することで、照射部2へ送られる荷電粒子線のエネルギーを調整(低下)させることが可能となる。この加速器3は、制御部7に接続されており、供給される電流が制御される。加速器3で発生した荷電粒子線Bは、ビーム輸送ライン21によって照射部2へ輸送される。ビーム輸送ライン21は、加速器3と、照射部2と、を接続し、加速器3から出射された荷電粒子線を照射部2へ輸送する。
【0020】
ビーム輸送ライン21は、輸送しながら荷電粒子線Bのエネルギーを調整するエネルギー調整装置(ESS:Energy Selection System)を有している。このうち、ビーム輸送ライン21は、加速器3の出口付近にエネルギーディグレーダ20を有している。エネルギーディグレーダ20は、荷電粒子線Bの飛程を調整し、患者15(対象物)の体内における荷電粒子線Bの到達深度を調整する部材である。エネルギーディグレーダ20は、荷電粒子線Bのエネルギーを損失させることで、飛程を調整する。エネルギーディグレーダ20は、荷電粒子線Bが通過する部分の厚さを調整することによって、荷電粒子線Bの飛程を調整できる。なお、ESSは、エネルギーディグレーダ20でのエネルギー損失以外に、ESSの下流におけるビーム輸送ラインにおいて生じるエネルギー揺らぎやビームサイズ拡大を抑制する(コリメータを使用)ことも行う。エネルギーディグレーダ20は、例えばベリリウム、炭素などの材料によって構成される。エネルギーディグレーダ20は、ビーム輸送ライン21のうち、荷電粒子線Bの進行方向における上流側(すなわち加速器3側)の位置に配置されている。図1に示す例では、エネルギーディグレーダ20は、回転ガントリ5よりも上流側の経路のうち、加速器3の直後、すなわち、ビーム輸送ライン21の電磁石などの機器のうち、最も上流側に配置されている。ただし、エネルギーディグレーダ20のビーム輸送ライン21内における位置は特に限定されない。
【0021】
照射部2は、患者15(対象物)の体内の腫瘍(被照射体)14に対し、荷電粒子線Bを照射するものである。荷電粒子線Bとは、電荷をもった粒子を高速に加速したものであり、例えば陽子線、重粒子(重イオン)線、電子線等が挙げられる。具体的に、照射部2は、イオン源(不図示)で生成した荷電粒子を加速する加速器3から出射されてビーム輸送ライン21で輸送された荷電粒子線Bを腫瘍14へ照射する装置である。照射部2は、走査電磁石50、四極電磁石8、プロファイルモニタ11、ドーズモニタ12、ポジションモニタ13a,13b、コリメータ40、及びスノートディグレーダ30(調整部材)を備えている。走査電磁石50、各モニタ11,12,13a,13b、四極電磁石8、及びスノートディグレーダ30は、収容体としての照射ノズル9に収容されている。このように、照射ノズル9に各主構成要素を収容することによって照射部2が構成されている。なお、四極電磁石8、プロファイルモニタ11、ドーズモニタ12、及びポジションモニタ13a,13bは省略してもよい。
【0022】
走査電磁石50として、X軸方向走査電磁石50A及びY軸方向走査電磁石50Bが用いられる。X軸方向走査電磁石50A及びY軸方向走査電磁石50Bは、それぞれ一対の電磁石から構成され、制御部7から供給される電流に応じて一対の電磁石間の磁場を変化させ、当該電磁石間を通過する荷電粒子線Bを走査する。X軸方向走査電磁石50Aは、X軸方向に荷電粒子線Bを走査し、Y軸方向走査電磁石50Bは、Y軸方向に荷電粒子線Bを走査する。これらの走査電磁石50は、基軸AX上であって、加速器3よりも荷電粒子線Bの下流側にこの順で配置されている。なお、走査電磁石50は、治療計画装置90で予め計画されたスキャンパターンで荷電粒子線Bが照射されるように、荷電粒子線Bを走査する。走査電磁石50をどのように制御するかについては、後述する。
【0023】
四極電磁石8は、X軸方向四極電磁石8a及びY軸方向四極電磁石8bを含む。X軸方向四極電磁石8a及びY軸方向四極電磁石8bは、制御部7から供給される電流に応じて荷電粒子線Bを絞って収束させる。X軸方向四極電磁石8aは、X軸方向において荷電粒子線Bを収束させ、Y軸方向四極電磁石8bは、Y軸方向において荷電粒子線Bを収束させる。四極電磁石8に供給する電流を変化させて絞り量(収束量)を変化させることにより、荷電粒子線Bのビームサイズを変化させることができる。四極電磁石8は、基軸AX上であって加速器3と走査電磁石50との間にこの順で配置されている。なお、ビームサイズとは、XY平面における荷電粒子線Bの大きさである。また、ビーム形状とは、XY平面における荷電粒子線Bの形状である。
【0024】
プロファイルモニタ11は、初期設定の際の位置合わせのために、荷電粒子線Bのビーム形状及び位置を検出する。プロファイルモニタ11は、基軸AX上であって四極電磁石8と走査電磁石50との間に配置されている。ドーズモニタ12は、荷電粒子線Bの線量を検出する。ドーズモニタ12は、基軸AX上であって走査電磁石50に対して下流側に配置されている。ポジションモニタ13a,13bは、荷電粒子線Bのビーム形状及び位置を検出監視する。ポジションモニタ13a,13bは、基軸AX上であって、ドーズモニタ12よりも荷電粒子線Bの下流側に配置されている。各モニタ11,12,13a,13bは、検出した検出結果を制御部7に出力する。
【0025】
コリメータ40は、少なくとも走査電磁石50よりも荷電粒子線Bの下流側に設けられ、荷電粒子線Bの一部を遮蔽し、一部を通過させる部材である。ここでは、コリメータ40は、ポジションモニタ13a,13bの下流側に設けられている。コリメータ40は、当該コリメータ40を移動させるコリメータ駆動部51と接続されている。
【0026】
スノートディグレーダ30は、通過する荷電粒子線Bのエネルギーを低下させて当該荷電粒子線Bのエネルギーの調整を行う。スノートディグレーダ30は、荷電粒子線Bのペナンブラの調整を行う調整部材として構成される。本実施形態では、スノートディグレーダ30は、照射ノズル9の先端部9aに設けられた保持部60に保持されている。なお、照射ノズル9の先端部9aとは、荷電粒子線Bの下流側の端部である。スノートディグレーダ30及び保持部60の詳細な説明については、後述する。
【0027】
制御部7は、例えばCPU、ROM、及びRAM等により構成されている。この制御部7は、各モニタ11,12,13a,13bから出力された検出結果に基づいて、加速器3、エネルギーディグレーダ20の厚さ調整機構、走査電磁石50、四極電磁石8、及びコリメータ駆動部51を制御する。
【0028】
また、荷電粒子線照射システム1の制御部7は、荷電粒子線治療の治療計画を行う治療計画装置90、及び各種データを記憶する記憶部95と接続されている。治療計画装置90は、治療前に患者15の腫瘍14をCT等で測定し、腫瘍14の各位置における線量分布(照射すべき荷電粒子線の線量分布)を計画する。具体的には、治療計画装置90は、腫瘍14に対してスキャンパターンを作成する。治療計画装置90は、作成したスキャンパターンを制御部7へ送信する。治療計画装置90が作成したスキャンパターンでは、荷電粒子線Bがどのような走査経路をどのような走査速度で描くかが計画されている。
【0029】
スキャニング法による荷電粒子線の照射を行う場合、腫瘍14をZ軸方向に複数の層に仮想的に分割し、一の層において荷電粒子線を治療計画において定めた走査経路に従うように走査して照射する。そして、当該一の層における荷電粒子線の照射が完了した後に、隣接する次の層における荷電粒子線Bの照射を行う。
【0030】
図2に示す荷電粒子線照射システム1により、スキャニング法によって荷電粒子線Bの照射を行う場合、通過する荷電粒子線Bが収束するように四極電磁石8を作動状態(ON)とする。
【0031】
続いて、加速器3から荷電粒子線Bを出射する。出射された荷電粒子線Bは、走査電磁石50の制御によって治療計画において定めたスキャンパターンに従うように走査される。これにより、荷電粒子線Bは、腫瘍14に対してZ軸方向に設定された一の層における照射範囲内を走査されつつ照射されることとなる。一の層に対する照射が完了したら、次の層へ荷電粒子線Bを照射する。
【0032】
制御部7の制御に応じた走査電磁石50の荷電粒子線照射イメージについて、図3(a)及び(b)を参照して説明する。図3(a)は、深さ方向において複数の層に仮想的にスライスされた被照射体を、図3(b)は、深さ方向から見た一の層における荷電粒子線の走査イメージを、それぞれ示している。
【0033】
図3(a)に示すように、被照射体は照射の深さ方向において複数の層に仮想的にスライスされており、本例では、深い(荷電粒子線Bの飛程が長い)層から順に、層L、層L、…層Ln-1、層L、層Ln+1、…層LN-1、層LとN層に仮想的にスライスされている。また、図3(b)に示すように、荷電粒子線Bは、走査経路TLに沿ったビーム軌道を描きながら、連続照射(ラインスキャニング又はラスタースキャニング)の場合は層Lの走査経路TLに沿って連続的に照射され、スポットスキャニングの場合は層Lの複数の照射スポットに対して照射される。荷電粒子線Bは、X軸方向に延びる走査経路TL1に沿って照射され、走査経路TL2に沿ってY軸方向に僅かにシフトし、隣の走査経路TL1に沿って照射される。このように、制御部7に制御された照射部2から出射した荷電粒子線Bは、走査経路TL上を移動する。
【0034】
次に、図4図7を参照して、スノートディグレーダ30について詳細に説明する。図4は、スノートディグレーダ30が保持部60で保持された様子を示す概略図である。図4に示すように、スノートディグレーダ30は、一例として、矩形板状の形状を有する部材である。スノートディグレーダ30は、基軸AXと直交する方向へ広がる平面状の入射面30a及び出射面30bを有する。スノートディグレーダ30は、荷電粒子線Bが走査する範囲で均一な厚さを有しているため、一定のエネルギーを減衰させる。スノートディグレーダ30は、厚さ、すなわち入射面30aと出射面30bとの間の寸法を変更することによって、荷電粒子線Bのエネルギー調整量を変更することができる。これにより、スノートディグレーダ30は、荷電粒子線Bのビームサイズの拡大を調整することで、荷電粒子線Bのペナンブラの調整を行うことができる。スノートディグレーダ30は、例えば、ポリエチレン、アクリルなどの水の密度に近い材料によって構成される。なお、スノートディグレーダ30は、荷電粒子線Bの広がりを調整する事を目的とするものである。
【0035】
保持部60は、照射部2に設けられ、照射部2側にてスノートディグレーダ30を保持する。保持部60は、照射ノズル9の先端部9aに設けられているため、スノートディグレーダ30は、照射ノズル9の内部に配置される全ての構成要素よりも下流側、すなわち患者15に近い位置に配置される。保持部60で保持されることで、スノートディグレーダ30は、照射部2側に設けられた状態となる。照射部2側に設けられた状態とは、例えば、患者15の周囲にスノートディグレーダを配置したり、患者15のベッドにスノートディグレーダを取り付けるような状態ではなく、照射部2の移動に伴ってスノートディグレーダ30も移動できるような状態である。保持部60は、スノートディグレーダ30を照射部2側で保持しつつも、患者15の直近の位置にてスノートディグレーダ30を保持することも可能である。なお、患者15の直近の位置とは、患者15とスノートディグレーダ30の位置が、例えば、30cmより近い位置であることを意味する。ただし、スノートディグレーダ30と患者15の距離は、周辺環境との関係などにより適宜変更してよい。
【0036】
保持部60は、スノートディグレーダ30の外周縁部30cを支持する一対の側壁部61を有する。保持部60は、他の外周縁部30cと対向する一対の側壁部62を有する(図4(b)参照)。これらの側壁部61,62は、支持部86から下方へ向けて延びている。側壁部61,62の先端部には幅広部材87が設けられている。また、保持部60は、複数種類の厚さのスノートディグレーダ30を保持可能である。例えば、保持部60は、薄いスノートディグレーダ30Aを保持することができ、厚いスノートディグレーダ30Bも保持することができる。厚さを変更する場合、ユーザーは、保持部60から薄いスノートディグレーダ30Aを取り出し、厚いスノートディグレーダ30Bを保持部60に保持させる。このように、保持部60は、複数の厚さのスノートディグレーダを保持可能に構成されているため、ペナンブラの調整レベル、すなわち厚さを選択可能な構成を有していると言える。なお、保持部60は、例えばワブラー照射法において用いられるボーラスホルダを兼ねてよい。従って、保持部60は、ボーラスホルダ66にてスノートディグレーダ30を保持してよい。また、保持部60は、ボーラスホルダ66の下側にコリメータを保持するコリメータホルダ67を有してよい。
【0037】
ここで、図5を参照してペナンブラについて説明する。図5は、基軸AXに直角な所定の平面内へスキャニング法により荷電粒子線Bを照射したときの線量分布を示すグラフである。横軸は、所定平面の所定方向における位置を示し、縦軸は、各位置における線量を示す。ただし、図5に示すグラフは、理解を容易とするためにデフォルメして示している。図5のうち、グラフG1は、1パス当たりの荷電粒子線Bの線量分布を示している。所定の平面内で荷電粒子線Bがスキャニングされることで、グラフG1が各位置において少しずつずれた状態で複数形成される。これらのグラフG1を重ね合わせた合計の線量分布が、グラフG2で示される。図5においてWと示された領域は、基準条件標的幅を示す。基準条件標的幅Wは、照射対象となる被照射体の平面内における幅を示す。照射平面内における腫瘍14の幅が基準条件標的幅Wとなる。基準条件標的幅Wの範囲内では、グラフG2は、平坦領域FEを形成する。平坦領域FEは、線量が略均一となる領域であり、線量の差が所定の範囲内に収まる領域である。これに対し、基準条件標的幅Wより外側の領域がペナンブラPとなる。
【0038】
ここで、スノートディグレーダ30は、荷電粒子線Bのビームサイズの拡大を抑制することができる。従って、ペナンブラを抑制する場合には、スノートディグレーダ30が荷電粒子線Bの広がりを小さくする(グラフG1a参照)。これにより、線量分布が全体的に変化して、荷電粒子線Bの広がりも小さくなることで、ペナンブラPを抑制することができる(グラフG2a参照)。
【0039】
図6は、荷電粒子線Bの広がりと対象物の深さとの関係に係るシミュレーション結果を示すグラフである。図6に示すグラフは、スノートディグレーダ30を任意の厚さに設定し、各厚さにて、水中へ荷電粒子線Bを照射した場合の水中での荷電粒子線Bの広がりをモンテカルロシミュレーションを利用して演算したグラフである。横軸は、水槽の表面からの距離を示す。これは、患者15の体の表面からの腫瘍14の深さに相当する。縦軸は、荷電粒子線Bの広がりを示す。当該広がりは、ガウシアンフィッティングという方法によって算出された値である。なお、図6は、スノートディグレーダ30と水槽との間の距離、すなわちスノートディグレーダ30から出射した荷電粒子線Bが通過する空気層の厚さが50mmに設定されている。これは、スノートディグレーダ30と患者15の体の表面との間の距離に相当する。
【0040】
図6に示すように、浅い部位ではスノートディグレーダ30の厚さが大きいほど、荷電粒子線Bの広がりを抑制できる。一方、深い部位ではスノートディグレーダ30の厚さが薄いほど、荷電粒子線Bの広がりを抑制できる。このようなシミュレーション結果から、荷電粒子線照射システム1は、患者15内における腫瘍14の深さに基づいて、スノートディグレーダ30のペナンブラの調整レベル(ここでは厚さ)を選択可能に構成されてよい。
【0041】
例えば、腫瘍14が体内の浅い部位E1a(10cm未満)に存在する場合は、厚さ13cmのスノートディグレーダ30を選択してよい。また、腫瘍14が体内の深い部位E2a(10cm以上)に存在する場合は、厚さ0cmか厚さ4cmのスノートディグレーダ30を選択してよい。または、腫瘍14が体内の浅い部位E1b(7cm未満)に存在する場合は、厚さ12cmのスノートディグレーダ30を選択してよい。また、腫瘍14が体内の中間部位E2b(7cm以上、12cm未満)に存在する場合は、厚さ8cmのスノートディグレーダ30を選択してよい。また、腫瘍14が体内の深い部位E3b(12cm以上)の場合は、厚さ0cmか厚さ4cmのスノートディグレーダ30を選択してよい。
【0042】
図7及び図8は、図6から空気層の厚さを変更したときのシミュレーション結果を示すグラフである。図7は、空気層の厚さが100mmのときのシミュレーション結果を示し、図8は、空気層の厚さが200mmのときのシミュレーション結果を示す。図6図8に示すように、空気層の厚さによって、各厚さのスノートディグレーダ30の深さと荷電粒子線Bの広がりの関係が変化している。従って、荷電粒子線照射システム1は、患者15と照射部2(図2参照)との距離に基づいて、スノートディグレーダ30のペナンブラの調整レベル(すなわち厚さ)を選択可能に構成されてよい。
【0043】
次に、図4及び図9を参照して、スノートディグレーダ30のペナンブラの調整レベル(すなわち厚さ)を選択可能とする構成について説明する。図9は、スノートディグレーダ30のペナンブラの調整レベルを選択可能とするための構成を示すブロック図である。図9に示すように、荷電粒子線照射システム1は、前述の制御部7と、出力部76と、読取部77と、識別情報検出部78と、を備える。また、制御部7は、情報取得部70と、演算部71と、判定部72と、を備える。
【0044】
情報取得部70は、治療計画装置90及び記憶部95から荷電粒子線Bの照射に関わる各種情報を取得する。情報取得部70は、治療計画装置90の作成した治療計画から、患者15内における腫瘍14の深さの情報、及び患者15と照射部2(図2参照)との距離の情報を取得することができる。演算部71は、スノートディグレーダ30のペナンブラの調整レベルの選択に関する各種演算を行う。演算部71は、患者15内における腫瘍14の深さの情報、及び患者15と照射部2(図2参照)との距離の情報の少なくとも一方に基づいて、スノートディグレーダ30のペナンブラの調整レベル、すなわち厚さを選択する。演算部71は、例えば、図6図8に示すような予め準備したデータと、取得された情報を照らし合わせることによって、スノートディグレーダ30の厚さを選択してよい。あるいは、演算部71は、取得された情報に基づいて演算を行うことによって、適切なスノートディグレーダ30の厚さを選択してよい。ただし、治療計画装置90が適切なスノートディグレーダ30の厚さを選択してよく、この場合は、情報取得部70がスノートディグレーダ30の厚さの情報を取得する。判定部72は、保持部60に正しいスノートディグレーダ30が配置されるか否かを判定する。
【0045】
出力部76は、各種情報を出力する。出力部76は、モニタやスピーカ等によって構成されている。出力部76は、例えば、選択されたスノートディグレーダ30の厚みの情報をユーザーに対して出力してよい。これにより、ユーザーは、制御部7によって選択された厚さのスノートディグレーダ30を保持部60に配置することができる。
【0046】
ここで、読取部77、識別情報検出部78、及び判定部72は、保持部60に対して誤ったスノートディグレーダ30が配置されることを検出する検出部80として構成される。
【0047】
具体的に、読取部77は、各スノートディグレーダ30に対して付与された厚さ情報保持部81(図4(a)参照)から、厚さに関する情報を読み取る。厚さ情報保持部81は、厚さに関する情報を保持できるものであれば特に限定されず、例えばバーコードによって構成されてよい。この場合、読取部77は、バーコードリーダーによって構成される。その他、厚さ情報保持部81がQRコード(登録商標)で構成され、読取部77がQRコードリーダーで構成されてよく、厚さ情報保持部81が時期的な情報保持手段で構成され、読取部77が当該磁気情報を読み取る装置で構成されてよい。
【0048】
識別情報検出部78は、保持部60に保持されたスノートディグレーダ30を識別することができる情報を検出する。例えば、識別情報検出部78は、保持部60に設けられた所定の検出手段からの信号を識別情報として検出してよい。このような検出手段は、保持部60によってスノートディグレーダ30が保持されたときに、当該保持されたスノートディグレーダ30がどのような厚さのものであるかを示す信号を識別情報検出部78に送信してよい。
【0049】
判定部72は、演算部71で選択された厚さと、読取部77で読み取られた厚さとが一致するか否かを判定する。一致しない場合、判定部72は、出力部76で誤ったスノートディグレーダ30が配置された旨の情報を出力する。一致する場合、判定部72は、出力部76で正しいスノートディグレーダ30が配置された旨の情報を出力する。
【0050】
判定部72は、読取部77で読み取られた厚さ情報と、演算部71で選択された厚さと、を比較する。この場合、ユーザーは、スノートディグレーダ30が保持部60に配置する前に読取部77で厚さ情報を読み取ることで、事前に誤りの判定することができる。また、判定部72は、識別情報検出部78で検出された識別情報から、保持部60に保持されたスノートディグレーダ30の厚みを特定し、当該厚さと、演算部71で選択された厚さとを比較する。この場合、ユーザーは、読取部77で読み取り操作を行うことなく、誤りの判定を行うことができる。
【0051】
次に、本実施形態に係る荷電粒子線照射方法について、図10を参照して説明する。図10は、本実施形態に係る荷電粒子線照射方法の内容を示す工程図である。図10に示すように、患者15の体内における腫瘍14の深さ、及び患者15と照射部2との距離の少なくとも一方に基づいて、スノートディグレーダ30のペナンブラの調整レベル(すなわち厚さ)を選択する工程S10を実行する。次に、工程S10で選択されたスノートディグレーダ30を保持部60に配置する工程S20を実行する。次に、検出部80(図9参照)を用いて、保持部60に誤ったスノートディグレーダ30が配置されていないかどうかを判定する工程S30を実行する。なお、読取部77を用いる場合、工程S20の前段階で判定の工程S30を実行する。次に、正しいスノートディグレーダ30が配置されたら、照射部2が腫瘍14へ向けて荷電粒子線Bを照射する工程S40を実行する。
【0052】
次に、本実施形態に係る荷電粒子線照射システム1、及び荷電粒子線照射方法の作用・効果について説明する。
【0053】
本実施形態に係る荷電粒子線照射システム1は、走査電磁石50で荷電粒子線Bを走査することで、腫瘍14に対して荷電粒子線Bを照射する照射部2と、荷電粒子線Bのペナンブラの調整を行うスノートディグレーダ30と、を備える。従って、スノートディグレーダ30が、荷電粒子線Bのペナンブラの調整を行うことで、照射部2が腫瘍14の境界部付近に照射を行う際に、腫瘍14の外部に荷電粒子線Bの照射が行われることを抑制することができる。ここで、スノートディグレーダ30を保持する保持部60が、照射部2に設けられている。そのため、腫瘍14に照射される荷電粒子線Bとスノートディグレーダ30との間の位置合わせを容易に行うことができる。そのため、スノートディグレーダ30で適切な位置でペナンブラを調整した状態にて、照射部2が腫瘍14に荷電粒子線Bを照射することができる。例えば、患者15のベッド側にスノートディグレーダを設ける場合、作業者は、患者15と照射部2との位置関係を考慮しながらスノートディグレーダを位置合わせしなくてはならないが、患者15が見え難くなるため、位置合わせを行い難いという問題がある。それに対し、本実施形態では、スノートディグレーダ30を保持部60に保持させればよいだけなので、位置合わせが容易である。以上より、照射部2は、腫瘍14に対して適切に荷電粒子線Bを照射することができる。
【0054】
保持部60は、照射部2の先端部9aに設けられてよい。この場合、スノートディグレーダ30は、患者15に近接した位置にて、ペナンブラの調整を行うことができる。従って、スノートディグレーダ30がペナンブラの調整を行った後は、荷電粒子線Bは、広がりが大きくなる前に、速やかに腫瘍14に照射される。
【0055】
荷電粒子線照射システム1は、患者15の体内における腫瘍14の深さに基づいて、スノートディグレーダ30のペナンブラの調整レベルを選択可能に構成されてよい。この場合、スノートディグレーダ30は、患者15の体内における腫瘍14の深さに応じて、適切なペナンブラの調整レベルにて、ペナンブラの調整を行うことができる。
【0056】
荷電粒子線照射システム1は、患者15と照射部2との距離に基づいて、スノートディグレーダ30のペナンブラの調整レベルを選択可能に構成されてよい。この場合、スノートディグレーダ30は、患者15と照射部2との距離に応じて、適切なペナンブラの調整レベルにて、ペナンブラの調整を行うことができる。
【0057】
荷電粒子線照射システム1は、保持部60に対して誤ったスノートディグレーダ30が配置されることを検出する検出部80を更に備えてよい。この場合、不適切な調整レベルに係るスノートディグレーダ30にて、ペナンブラの調整が行われることを抑制できる。
【0058】
本実施形態に係る荷電粒子線照射方法は、患者15の体内の腫瘍14に対して荷電粒子線Bを照射する荷電粒子線照射方法であって、患者15の体内における腫瘍14の深さに基づいて、荷電粒子線Bのペナンブラの調整を行うスノートディグレーダ30のペナンブラの調整レベルを選択する工程S10と、荷電粒子線Bに対して、選択されたスノートディグレーダ30を配置する工程S20と、走査電磁石50で荷電粒子線Bを走査することで、腫瘍14に対して荷電粒子線Bを照射する工程S40と、と備える。
【0059】
この荷電粒子線照射方法によれば、スノートディグレーダ30は、患者15の体内における腫瘍14の深さに応じて、適切なペナンブラの調整レベルにて、ペナンブラの調整を行うことができる。以上より、腫瘍14に対して適切に荷電粒子線Bを照射することができる。
【0060】
患者数の多い大規模病院で、一般的に低エネルギー陽子線を利用する症例(例えば頭頚部症例)を治療する場合、本実施形態のように調整部材(スノートデグレーダ)を用いた治療はビーム使用効率が良くなる。施設ごとに陽子線ビームの使用量制限があるため、効率が高いと、従来のESSでの制御と比べて、治療患者数を増やすことができる。
【0061】
スノートディグレーダ30は、患者15と照射部2との距離に応じた調整レベルを有してよい。この場合、スノートディグレーダ30は、患者15と照射部2との距離に応じたペナンブラの調整レベルにて、ペナンブラの調整を行うことができる。
【0062】
荷電粒子線照射方法は、患者15の体内における腫瘍14の深さに基づいて、調整レベルを選択する工程S10を更に備え、スノートディグレーダ30を配置する工程S30において、選択されたスノートディグレーダ30を配置してよい。この場合、スノートディグレーダ30は、患者15の体内における腫瘍14の深さに応じて、適切なペナンブラの調整レベルにて、ペナンブラの調整を行うことができる。
【0063】
荷電粒子線照射方法は、患者15と照射部2との距離に基づいて、調整レベルを選択する工程S10を更に備え、スノートディグレーダ30を配置する工程S30において、選択されたスノートディグレーダ30を配置してよい。この場合、スノートディグレーダ30は、患者15と照射部2との距離に応じて、適切なペナンブラの調整レベルにて、ペナンブラの調整を行うことができる。
【0064】
例えば、比較例として照射部2の先端部9aにスノートディグレーダ30を有しない荷電粒子線照射システムについて説明する。この場合、荷電粒子線照射システムは、荷電粒子線Bのエネルギーをビーム輸送ライン21の上流でエネルギー調整装置(ESS:Energy Selection System)にて制御する。エネルギー調整装置は、荷電粒子線Bの患者体内での到達深度を変えるために、エネルギーディグレーダ20にて大きくエネルギー損失を起こす必要がある。そのため荷電粒子線Bが、運動方向に広がりを持ってしまう。エネルギー調整装置にて運動方向に広がりを持ったビームが輸送されることにより、荷電粒子線Bがビーム輸送ライン21の下流に進むにつれてドリフトによりビームサイズが拡大してし、ペナンブラも拡大してしまう。
【0065】
これに対し、本実施形態に係る荷電粒子線照射システム1では、スノートディグレーダ30が、患者15の直前で荷電粒子線Bのペナンブラを調整する。従って、上流側のエネルギーディグレーダ20でのエネルギー損失を小さく抑えておき、スノートディグレーダ30でのペナンブラ調整のためのエネルギー損失を大きくすることで、患者15に対してビームサイズの拡大を抑えた状態で照射することができ、ペナンブラを抑制できる。また、スノートディグレーダ30の厚さを選択可能であるため、腫瘍14の深さや患者15と照射部2との距離に応じて、スノートディグレーダ30のペナンブラの調整レベルを適切に調整することができる。
【0066】
本発明は、上述の実施形態に限定されるものではない。
【0067】
例えば、ペナンブラを調整する調整部材としてスノートディグレーダを例示したが、ペナンブラを調整できる部材であれば、他の部材を採用してもよい。例えば、保持部60の位置、すなわち患者15の直前の位置にコリメータ、または、マルチリーフコリメータを設け、当該マルチリーフコリメータでペナンブラの調整を行ってよい。マルチリーフコリメータは、腫瘍14の境界部に対応する位置にて、荷電粒子線Bのビームを遮断することで、ペナンブラを調整できる。調整レベルは、開口径によって調整できる。開口径を大きく開ければ(すなわち腫瘍外径にマージンを設ける)、ペナンブラ部分を遮断しなくなり、開口径を小さく開ければ(腫瘍外径にフィットさせる)、ペナンブラを遮断できるようになる。この場合、患者15の直近(例えば30cm以下)にてマルチリーフコリメータでペナンブラを調整することで、荷電粒子線Bのビームサイズが拡大される前に、腫瘍14に荷電粒子線Bを照射できる。
【0068】
マルチリーフコリメータを保持する保持部が設けられる位置は、必ずしも照射部の先端部でなくともよく、照射部の内部であってもよい。
【符号の説明】
【0069】
1…荷電粒子線照射システム、2…照射部、14…腫瘍(被照射体)、15…患者(対象物)、30…スノートディグレーダ(調整部材)、50…走査電磁石、60…保持部、80…検出部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10