(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022134387
(43)【公開日】2022-09-15
(54)【発明の名称】カップリング
(51)【国際特許分類】
F16D 3/80 20060101AFI20220908BHJP
F16D 37/02 20060101ALI20220908BHJP
F16D 3/68 20060101ALI20220908BHJP
F16F 9/53 20060101ALI20220908BHJP
【FI】
F16D3/80
F16D37/02 Z
F16D3/68
F16F9/53
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021033481
(22)【出願日】2021-03-03
(71)【出願人】
【識別番号】000142595
【氏名又は名称】株式会社栗本鐵工所
(74)【代理人】
【識別番号】100149870
【弁理士】
【氏名又は名称】芦北 智晴
(72)【発明者】
【氏名】辻 仁志
(72)【発明者】
【氏名】赤岩 修一
(72)【発明者】
【氏名】上嶋 優矢
【テーマコード(参考)】
3J069
【Fターム(参考)】
3J069AA41
3J069DD25
3J069EE35
(57)【要約】
【課題】簡単に捩り剛性を変えることのできるカップリングを提供する。
【解決手段】軸2に取り付けられる第1継手部5と軸3に取り付けられる第2継手部6と捩り振動を吸収する中間部7と磁場発生部9とを備える。中間部7は、第1継手部5に連結され径方向外方に延びる複数枚の第1羽根部10と、第2継手部6に連結され径方向内方に延びる複数枚の第2羽根部20とを有する。隣り合う第2羽根部20同士の間には第1羽根部10が入り込む収容空間csが形成されている。収容空間csに磁気粘性流体8が充填される。収容空間csは、周方向の一方側に形成される一方側空間s1と他方側に形成される他方側空間s2とを有する。中間部7には一方側空間s1と他方側空間s2とを互いに連通する連通流路cpが形成され、磁場発生部9は連通流路cp内の磁気粘性流体8に磁場を印加することができるように設けられている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の軸に対して相対回転不能に取り付けられる第1継手部と、
他方の軸に対して相対回転不能に取り付けられる第2継手部と、
前記第1継手部と前記第2継手部との間に連結され、捩り振動を吸収する中間部と、
を備えるカップリングであって、
磁場を発生する磁場発生部を更に備え、
前記中間部は、
前記第1継手部に連結される、径方向外方に延び周方向に並び前記一方の軸とともに回転する複数枚の第1羽根部と、
前記第2継手部に連結される、径方向内方に延び周方向に並び前記他方の軸とともに回転する複数枚の第2羽根部と、
を有し、
隣り合う前記第2羽根部同士の間には、前記第1羽根部が入り込むために必要な容積を有する収容空間が形成され、
前記第1羽根部が前記収容空間に入り込むように配設されて、前記第1羽根部と前記第2羽根部とが交互に周方向に並び、
前記収容空間において前記第1羽根部と前記第2羽根部との間に、磁気粘性流体が充填され、
前記収容空間は、前記第1羽根部の周方向の一方側に形成される一方側空間と、前記第1羽根部の周方向の他方側に形成される他方側空間とを有し、
前記中間部には、前記一方側空間と前記他方側空間とを互いに連通する連通流路が形成され、
前記磁場発生部は、前記連通流路内の前記磁気粘性流体に磁場を印加することができるように設けられている、
ことを特徴とするカップリング。
【請求項2】
請求項1に記載のカップリングにおいて、
前記収容空間内において前記第1羽根部が前記第2羽根部に対して周方向に相対回転できる角度は、5度以下の所定の角度である、
ことを特徴とするカップリング。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のカップリングにおいて、
前記連通流路は、軸方向に見て環状に形成された環状流路を含む、
ことを特徴とするカップリング。
【請求項4】
請求項3に記載のカップリングにおいて、
前記連通流路は、前記一方側空間と前記環状流路とにそれぞれ開口する一方側オリフィスと、前記他方側空間と前記環状流路とにそれぞれ開口する他方側オリフィスとを更に含む、
ことを特徴とするカップリング。
【請求項5】
請求項3又は請求項4に記載のカップリングにおいて、
前記磁場発生部は、
前記環状流路を軸方向に挟む形状に形成されたヨークと、
前記ヨーク内に磁路を形成するように巻設されたコイルと、
を有し、
前記コイルに電流が印加されると、前記環状流路内の磁気粘性流体を貫通する磁路が形成される、
ことを特徴とするカップリング。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気粘性流体を用いたカップリングに関する。
【背景技術】
【0002】
軸と軸を連結し、回転動力を駆動側から従動側へ伝えるカップリングが知られている(例えば特許文献1~4を参照。)。同文献に開示されたカップリングは、駆動側の軸に固定される駆動側継手部と、従動側の軸に固定される従動側継手部と、これらの継手部の間に連結される中間部とを備えている。特許文献1~3に開示されたカップリングでは、上記中間部に板ばねが含まれ、特許文献4に開示されたカップリングでは、上記中間部にゴム材が含まれる。
【0003】
カップリングの一般的な役割として、(1)駆動側から従動側に動力伝達すること、(2)駆動側と従動側の軸の取付誤差を吸収すること、(3)駆動側の振動を吸収すること、(4)駆動側のモータなどの熱を従動側に伝えないことが挙げられる。特許文献1~4に開示されたカップリングでは、上記(3)の役割に関し、駆動側の振動は、中間部において吸収される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012-167743号公報
【特許文献2】特開2002-372068号公報
【特許文献3】特開昭62-155335号公報
【特許文献4】特開2014-092168号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、カップリングにおいて吸収される捩り振動は、カップリングの捩り剛性を変えることで抑制することができ、その捩り振動の共振点を変えることもできる。
【0006】
しかしながら、特許文献1~4に開示されたカップリングでは、捩り剛性を変えるために、カップリングの中間部に使用されている板ばねやゴム材を剛性の異なるものに取り換え、あるいは、カップリングを丸ごと捩り剛性の異なる別のカップリングに取り換えることが必要となる。
【0007】
本発明は、上記の実情に鑑みて創案されたものであり、簡単に捩り剛性を変えることのできるカップリングを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の態様に係るカップリングは、一方の軸に対して相対回転不能に取り付けられる第1継手部と、他方の軸に対して相対回転不能に取り付けられる第2継手部と、前記第1継手部と前記第2継手部との間に連結され、捩り振動を吸収する中間部と、を備え、磁場を発生する磁場発生部を更に備える。前記中間部は、前記第1継手部に連結される、径方向外方に延び周方向に並び前記一方の軸とともに回転する複数枚の第1羽根部と、前記第2継手部に連結される、径方向内方に延び周方向に並び前記他方の軸とともに回転する複数枚の第2羽根部と、を有する。隣り合う前記第2羽根部同士の間には、前記第1羽根部が入り込むために必要な容積を有する収容空間が形成され、前記第1羽根部が前記収容空間に入り込むように配設されて、前記第1羽根部と前記第2羽根部とが交互に周方向に並ぶ。前記収容空間において前記第1羽根部と前記第2羽根部との間に、磁気粘性流体が充填されている。前記収容空間は、前記第1羽根部の周方向の一方側に形成される一方側空間と、前記第1羽根部の周方向の他方側に形成される他方側空間とを有する。前記中間部には、前記一方側空間と前記他方側空間とを互いに連通する連通流路が形成され、前記磁場発生部は、前記連通流路内の前記磁気粘性流体に磁場を印加することができるように設けられている。
【0009】
かかる構成を備えるカップリングによれば、その捩り剛性を簡単に変えることができる。
【0010】
本発明の第2の態様に係るカップリングは、第1の態様に係るカップリングにおいて、前記収容空間内において前記第1羽根部が前記第2羽根部に対して周方向に相対回転できる角度は、5度以下の所定の角度である。
【0011】
本発明の第3の態様に係るカップリングは、第1の態様又は第2の態様に係るカップリングにおいて、前記連通流路は、軸方向に見て環状に形成された環状流路を含む。
【0012】
本発明の第4の態様に係るカップリングは、第3の態様に係るカップリングにおいて、前記連通流路は、前記一方側空間と前記環状流路とにそれぞれ開口する一方側オリフィスと、前記他方側空間と前記環状流路とにそれぞれ開口する他方側オリフィスとを更に含む。
【0013】
本発明の第5の態様に係るカップリングは、第3の態様又は第4の態様に係るカップリングにおいて、前記磁場発生部は、前記環状流路を軸方向に挟む形状に形成されたヨークと、前記ヨーク内に磁路を形成するように巻設されたコイルと、を有し、前記コイルに電流が印加されると、前記環状流路内の磁気粘性流体を貫通する磁路が形成される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、簡単に捩り剛性を変えることのできるカップリングを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施の形態に係るカップリングの特徴部分を示す径方向に切断した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態に係るカップリングについて、図面を参照しつつ説明する。
【0017】
本実施形態に係るカップリング1は、
図2に示すように、駆動側回転軸2と従動側回転軸3との間に連結されるものであって、第1継手部5、第2継手部6、中間部7、磁気粘性流体8および磁場発生部9を備えている。なお、本明細書において、駆動側回転軸を「駆動軸」と、従動側回転軸を「従動軸」と称する場合がある。また、本明細書において、駆動軸側を天とし、従動軸側を底として方向を称する場合がある。
【0018】
第1継手部5は、駆動側回転軸2に対して相対回転不能に取付けられ、駆動側回転軸2と一体に回転する。第1継手部5は、非磁性体を用いて構成されていることが望ましい。
【0019】
第2継手部6は、従動側回転軸3に対して相対回転不能に取付けられ、従動側回転軸3と一体に回転する。第2継手部6は、非磁性体を用いて構成されていることが望ましい。
【0020】
中間部7は、第1継手部5と第2継手部6との間に連結されている。本実施形態では、中間部7は、複数枚の第1羽根部10と第1羽根部回転軸11とベアリングハウジング部材12,14とベアリング13,15と複数枚の第2羽根部20と第1円筒部21と第2円筒部22と第3円筒部23とを有する。
【0021】
第1羽根部回転軸11は、軸線N上において第1継手部5に一体的に連結されて、第1継手部5から第2継手部6に向かって軸線N方向に延びている回転軸である。第1羽根部回転軸11は、駆動側回転軸2の回転に伴って回転する。第1羽根部回転軸11は、非磁性体を用いて構成されていることが望ましい。
【0022】
第1羽根部10は、
図2に示すように、第1羽根部回転軸11の軸方向略中間位置から、径方向外方に延びる羽根状の部位である。
図1に示すように、複数枚の第1羽根部10は、均等角度を開けて周方向に並び、軸線Nを中心とする放射状に第1羽根部回転軸11から延びている。複数枚の第1羽根部10は、第1継手部5及び第1羽根部回転軸11を介して、駆動側回転軸2の回転とともに回転する。第1羽根部10は、
図1に示すように、軸方向に見て、矩形状に形成されている。また、第1羽根部10は、
図2に示すように、径方向に見て、矩形状に形成されている。第1羽根部10は、非磁性体を用いて構成されていることが望ましい。
【0023】
第1円筒部21は、
図1ないし
図3に示すように、軸線N方向に延びる円筒状に形成されており、複数枚の第1羽根部10の径方向外方に配置されている。第1円筒部21の駆動軸2側端面は、
図2及び
図3に示すように、第1継手部5の従動軸3側端面に相対回転可能に接触している。第1円筒部21は、中間部7の構成要素であるとともに、後述するように、磁場発生部9の構成要素(第1インナーヨーク21)を兼ねている。したがって、第1円筒部21は、磁性体を用いて構成されている。
【0024】
第2円筒部22は、
図2及び
図3に示すように、内側円筒部22aと外側円筒部22bとで構成され、第1円筒部21の内径と内側円筒部22aの内径とが一致し、第1円筒部21の外径と外側円筒部22bの外径が一致している。第2円筒部22の駆動軸2側端面は、第1円筒部21の従動軸3側端面に相対回転不能に接続されている。第2円筒部22は、後述するように、その外側円筒部22bと内側円筒部22aとの間に環状流路kpを形成している。第2円筒部22は、非磁性体を用いて構成されている。
【0025】
第3円筒部23は、
図2及び
図3に示すように、第3円筒部23及び第2円筒部22と同径の円筒状に形成されている。第3円筒部23の駆動軸2側端面は、第2円筒部22の従動軸3側端面に相対回転不能に接続されている。さらに、第3円筒部23の従動軸3側端面は、第2継手部6の駆動軸2側端面に相対回転不能に接続されている。これにより、互いに相対回転不能に接続された第1円筒部21、第2円筒部22及び第3円筒部23は、第2継手部6を介して、従動軸3とともに回転する。第3円筒部23は、中間部7の構成要素であるとともに、後述するように、磁場発生部9の構成要素(第2インナーヨーク23)を兼ねている。したがって、第3円筒部23は、磁性体を用いて構成されている。
【0026】
第2羽根部20は、
図3に示すように、第1円筒部21の略従動軸3側の位置であって、第1羽根部10と軸方向における同じ高さ位置において、第1円筒部21から径方向内方に延びる羽根状の部位である。
図1に示すように、複数枚の第2羽根部20は、均等角度を開けて周方向に並び、軸線Nを中心とする放射状に第1円筒部21から延びている。複数枚の第2羽根部20は、第1円筒部21、第2円筒部22、第3円筒部23及び第2継手部6を介して、従動側回転軸3とともに回転する。第2羽根部20は、
図1に示すように、軸方向に見て、扇状に形成されている。第2羽根部20は、非磁性体を用いて構成されていることが望ましい。
【0027】
図1に示すように、周方向に隣り合う第2羽根部20同士の間には、第1羽根部10が入り込むために必要な容積を有する収容空間csが形成されている。すなわち、中間部7内において、複数の収容空間csが周方向に並んで形成されている。1つの収容空間csは、1枚の第1羽根部10に対応して形成されており、第1羽根部10が収容空間csに入り込むように配設されて、第1羽根部10と前記第2羽根部20とが交互に周方向に並ぶ。収容空間csの中で、第1羽根部10は、第2羽根部20に対して相対回転可能である。したがって、収容空間csは、周方向において、第1羽根部10と、隣接する第2羽根部20との間に所定の角度に相当する微小な遊び(角度間隔)を有する。具体的には、収容空間cs内において第1羽根部10が第2羽根部20に対して周方向に相対回転できる角度は、5度以下の所定の角度である。すなわち、収容空間csは、第1羽根部10の周方向の一方側に形成される微小な空間(一方側空間s1)と、第1羽根部10の周方向の他方側に形成される微小な空間(他方側空間s2)とを有する。
【0028】
収容空間csには、第1羽根部10と第2羽根部20との間において、磁気粘性流体8が充填されている。すなわち、収容空間csにおいて、一方側空間s1及び他方側空間s2には、それぞれ磁気粘性流体8が充填されている。本実施形態では、
図1ないし
図3において、灰色に塗りつぶした部分に磁気粘性流体8が充填されている。
【0029】
磁気粘性流体8は、磁性粒子を分散媒に分散させてなる液体である。磁性粒子として、例えばナノサイズの金属粒子(金属ナノ粒子)からなるものを使用することができる。磁性粒子は磁化可能な金属材料からなり、金属材料に特に制限はないが軟磁性材料が好ましい。軟磁性材料としては、例えば鉄、コバルト、ニッケル及びパーマロイ等の合金が挙げられる。分散媒は、特に限定されるものではないが、一例として疎水性のシリコーンオイルを挙げることができる。磁気粘性流体における磁性粒子の配合量は、例えば3~40vol%とすることができる。磁気粘性流体にはまた、所望の各種特性を得るために、各種の添加剤を添加することも可能である。
【0030】
収容空間csの形状は、
図1に示すように、周方向に拡がる略扇形であることが好ましい。言い換えれば、収容空間csは、径方向内側から径方向外側にかけて、周方向の距離が大きくなる形状に形成されていることが好ましい。これにより、収容空間csの中で第1羽根部10が第2羽根部20に対して相対回転したときに、一方側空間s1又は他方側空間s2に充填されている磁気粘性流体8を後述する第1オリフィスоr1又は第2オリフィスоr2に向かって押し出すことが容易となる。なお、収容空間csの径方向外側壁面は、第1円筒部21の内側面がなしており、収容空間csの径方向内側壁面は、第1羽根部回転軸11がなしている。
【0031】
図2及び
図3に示すように、第1円筒部21の径方向内側であって第2羽根部20の駆動軸2側には、ベアリングハウジング部材12が固定されている。ベアリングハウジング部材12と第1羽根部回転軸11との間にベアリング13が介装されている。ベアリング13は、第1羽根部回転軸11を中間部7において軸線N上に回転可能に支持している。ベアリングハウジング部材12の従動軸3側端面の一部は、収容空間csの駆動軸2側における壁面(収容空間csの天面)をなしている。ベアリングハウジング部材12は、非磁性体を用いて構成されていることが望ましい。
【0032】
同様に、第1円筒部21、第2円筒部22及び第3円筒部23の径方向内側であって第2羽根部20の従動軸3側には、
図2及び
図3に示すように、ベアリングハウジング部材14が固定されている。ベアリングハウジング部材14と第1羽根部回転軸11との間にベアリング15が介装されている。ベアリング15は、第1羽根部回転軸11を中間部7において軸線N上に回転可能に支持している。ベアリングハウジング部材14の駆動軸2側端面の一部は、収容空間csの従動軸3側における壁面(収容空間csの底面)をなしている。ベアリングハウジング部材14は、非磁性体を用いて構成されていることが望ましい。
【0033】
中間部7において、一方側空間s1と他方側空間s2とを互いに連通する連通流路cpが形成されている。連通流路cpは、第1オリフィスоr1と第2オリフィスоr2と環状流路kpとを含む。
【0034】
図2及び
図3に示すように、第2円筒部22の内部において磁気粘性流体8が周方向に流れるように、第2円筒部22には軸方向に見て環状の流路となる環状流路kpが形成されている。環状流路kpは、第2円筒部22の駆動軸2側端面及び従動軸3側端面に開口しているとともに、第2円筒部22の内部を周方向に一周するように形成された流路である。なお、第1円筒部21の従動軸3側端面が環状流路kpの天面をなしており、第3円筒部23の駆動軸2側端面が環状流路kpの底面をなしている。
【0035】
第1円筒部21には、
図1及び
図2に示すように、一方側空間s1に開口する第1オリフィスоr1が形成されるとともに、他方側空間s2に開口する第2オリフィスоr2が形成されている。すなわち、第1オリフィスоr1及び第2オリフィスоr2は、収容空間csの径方向外側壁面をなす第1円筒部21の内側面にそれぞれ開口している。
【0036】
さらに、第1オリフィスоr1及び第2オリフィスоr2は、それぞれ上記の収容空間cs側の開口から第1円筒部21の中を軸方向に延びて、環状流路kpの天面(第1円筒部21の従動軸3側端面)にもそれぞれ開口している。これにより、第1オリフィスоr1は、一方側空間s1と環状流路kpとを互いに連通し、第2オリフィスоr2は、他方側空間s2と環状流路kpとを互いに連通する。なお、本実施形態では、
図2に示すように、第1オリフィスоr1及び第2オリフィスоr2のそれぞれの流路断面積は、環状流路kpの流路断面積より小さいが、これに限定されない。
【0037】
すなわち、第1オリフィスоr1、第2オリフィスоr2及び環状流路kpを介することによって、一方側空間s1と他方側空間s2とは互いに連通されている。したがって、第1オリフィスоr1、第2オリフィスоr2及び環状流路kpは、一方側空間s1と他方側空間s2とを互いに連通する連通流路cpを構成する。
【0038】
磁気粘性流体8は、連通流路cpを流れることにより、一方側空間s1から他方側空間s2に向かって、または、他方側空間s2から一方側空間s1に向かって流れることができる。すなわち、第1羽根部10が第2羽根部20に対して周方向の一方側に相対回転した場合、一方側空間s1の容積が小さくなり、他方側空間s2の容積が大きくなる。これに伴い、一方側空間s1に充填されていた磁気粘性流体8は、連通流路cpを流れて、他方側空間s2に流れ込むことができる。第1羽根部10が第2羽根部20に対して周方向の他方側に相対回転した場合、他方側空間s2の容積が小さくなり、一方側空間s1の容積が大きくなる。これに伴い、他方側空間s2に充填されていた磁気粘性流体8は、連通流路cpを流れて、一方側空間s1に流れ込むことができる。
【0039】
すなわち、収容空間cs内における、第1羽根部10の第2羽根部20に対する相対回転(相対揺動を含む)のエネルギーは、磁気粘性流体8の流れのエネルギーに変換される。
【0040】
収容空間cs内において、一方側空間s1と他方側空間s2とを互いに対してシールするために、第1羽根部10と、第1羽根部10の軸方向又は径方向の周囲にある部材との間には、その隙間を埋めるシール部材se2が介装されている。
【0041】
具体的には、
図1に示すように、第1円筒部21の内側面と第1羽根部10の径方向外側面との間には、シール部材se2が介装されている。第1円筒部21の内側面には、軸方向に延び径方向外方に凹む溝が形成されており、当該溝にシール部材se2が嵌め入れられている。シール部材se2は、第1羽根部10の径方向外側面に摺動可能に接触している。シール部材se2は、非磁性体を用いて構成されていることが望ましい。
【0042】
さらに、図示されていないが、シール部材se2は、第1羽根部10の軸方向の駆動軸2側面とベアリングハウジング部材12の底面との間に介装されていることが好ましい。同様に、シール部材se2は、第1羽根部10の軸方向の従動軸3側面とベアリングハウジング部材14の天面との間に介装されていることが好ましい。
【0043】
また、
図1及び
図2に示すように、隣り合う収容空間csを互いに対してシールするために、第2羽根部20と、第2羽根部20の軸方向又は径方向の周囲にある部材との間には、その隙間を埋めるシール部材se1が介装されている。
【0044】
具体的には、
図1に示すように、第2羽根部20の径方向内側面には、軸方向に延び径方向外方に凹む溝が形成されており、当該溝にシール部材se1が嵌め入れられている。この部分におけるシール部材se1は、第1羽根部回転軸11に摺動可能に接触している。さらに、
図3に示すように、第2羽根部20の底面(従動軸3側面)には、径方向に延び駆動軸2側に凹む溝が形成されており、当該溝にシール部材se1が嵌め入れられている。この部分におけるシール部材se1は、ベアリングハウジング部材14の天面に接触している。同様に、第2羽根部20の天面(駆動軸2側面)には、径方向に延び従動軸3側に凹む溝が形成されており、当該溝にシール部材se1が嵌め入れられている。この部分におけるシール部材se1は、ベアリングハウジング部材12の底面に接触している。シール部材se1は、非磁性体を用いて構成されていることが望ましい。
【0045】
磁場発生部9は、磁気粘性流体8に印加する磁場を発生する。本実施形態では、磁場発生部9は、ヨークとコイル25とを含んで構成されている。
【0046】
ヨークは、
図2及び
図3に示すように、本実施形態では、第1インナーヨーク21、第2インナーヨーク23およびアウターヨーク24で構成されている。ヨークを構成する部材は何れも当然に磁性体を用いて構成されている。
【0047】
第1インナーヨーク21は、第1円筒部21である。第2インナーヨーク23は、第3円筒部23である。これらにより、中間部7の径方向外側の位置に軸方向に延びる磁路を形成することができる。
【0048】
第1インナーヨーク21と第2インナーヨーク23とは、環状流路kpを内部に有する第2円筒部22を軸方向に挟んでいる。
【0049】
アウターヨーク24は、一方の端面が第1インナーヨーク21の径方向外側面に微小隙間を介して対向し、他方の端面が第2インナーヨーク23の径方向外側面に微小隙間を介して対向している。本実施形態では、アウターヨーク24は、全体的に環状に形成され、断面が略C字状に形成されている。
【0050】
アウターヨーク24の軸方向の両側には、
図3に示すように、ベアリングハウジング部材16,18が固定されている。ベアリングハウジング部材16と第1継手部5との間にベアリング17が介装され、ベアリングハウジング部材18と第2継手部6との間にベアリング19が介装されている。したがって、第1継手部5、第2継手部6及び中間部7は、アウターヨーク24およびコイル25に対して回転可能となっている。なお、ベアリングハウジング部材16,18は、非磁性体を用いて構成されていることが望ましい。
【0051】
コイル25は、
図2及び
図3に示すように、アウターヨーク24の内側に巻設されている。コイル25には、給電部31から所望の電流値の電流が給電可能となっている。コイル25は、電流が給電されると、ヨーク内に磁路を形成することができる。ヨーク内に磁路が形成されると、第1インナーヨーク21と第2インナーヨーク23とに挟まれている環状流路kp内の磁気粘性流体8に磁場が印加される。
【0052】
上述の構成を備えるカップリング1において、給電部31によりコイル25に電流を印加すると、例えば
図2及び
図3の矢印Pの方向に沿って、ヨーク内に磁路が形成される。特に、環状流路kp内を流れる磁気粘性流体8を貫通する磁路が形成され、磁気粘性流体8は、印加される磁場の強さに応じた粘性を発現する。そして、コイル25に印加する電流値を変えることにより、磁気粘性流体8の粘度を変えることができるので、カップリング1の捩り剛性も変えることができる。
【0053】
詳細には、環状流路kpを充填する磁気粘性流体8に磁場が印加されると、環状流路kp内の磁気粘性流体8に粘性が生じる。このとき、駆動側回転軸2から捩り振動がカップリング1に入力されると、第1継手部5及び第1羽根部回転軸11を介して、第1羽根部10が収容空間cs内で周方向に回転振動(揺動)する。この第1羽根部10の回転に応じて、一方側空間s1と他方側空間s2とのそれぞれの容積が変化し、一方側空間s1と他方側空間s2との間で連通流路cpを介して磁気粘性流体8が移動しようとする。磁気粘性流体8は、連通流路cpが有する環状流路kpを流れるが、環状流路kpで磁場が印加されるために、一方側空間s1と他方側空間s2との間での流れにおいて粘性に応じた抵抗を生じる。したがって、第1羽根部10の回転振動(揺動)に伴うエネルギーは、磁気粘性流体8が連通流路cpを流れる際の抵抗により消失させられる。言い換えれば、カップリング1全体の捩り剛性を磁場発生部9が生じる磁場により変化させられるので、駆動側回転軸2から入力される捩り振動を抑制することができる。
【0054】
このように、本実施形態に係るカップリング1によれば、コイル25に印加する電流値を変えるだけで、カップリング1の捩り剛性を変えることができるので、簡単にカップリング1に入力される捩り振動を抑制でき、その捩り振動の共振点を変えることも簡単に行うことができる。
【0055】
また、上述の構成を備えるカップリング1において、収容空間cs内において第1羽根部10が第2羽根部20に対して周方向に相対回転できる角度は5度以下の所定の角度であるので、駆動側回転軸2から入力される大きな回転(当該所定の角度を超える回転)は従動側回転軸3に伝達される一方で、駆動側回転軸2から入力される当該所定の角度以下の微小な回転振動(揺動)は、磁気粘性流体8の流体抵抗として吸収されることができ、抑制される。
【0056】
また、上述の構成を備えるカップリング1において、連通流路cpは軸方向に見て環状に形成された環状流路kpを含むので、周方向に並んで形成されている一方側空間s1と他方側空間s2との間で磁気粘性流体8を流すことが容易となる。もちろん、この場合であっても、磁場発生部9が磁気粘性流体8に印加する磁場に応じて、磁気粘性流体8の流体抵抗を生じさせることができる。
【0057】
また、上述の構成を備えるカップリング1において、連通流路cpは一方側空間s1と環状流路kpとにそれぞれ開口する一方側オリフィスоr1と、他方側空間s2と環状流路kpとにそれぞれ開口する他方側オリフィスоr2とを更に含むので、一方側空間s1と環状流路kpとの間で磁気粘性流体8を流すことが容易となるとともに、他方側空間s2と環状流路kpとの間で磁気粘性流体8を流すことが容易となる。
【0058】
また、上述の構成を備えるカップリング1において、磁場発生部9は、環状流路kpを軸方向に挟む形状に形成されたヨークと、ヨーク内に磁路を形成するように巻設されたコイル25と、を有し、コイル25に電流が印加されると、環状流路kp内の磁気粘性流体8を貫通する磁路が形成されるので、環状流路kp内を流れる磁気粘性流体8に集中的に磁場を印加することができ、容易に磁気粘性流体8の粘度を変化させることができる。
【0059】
<変形例>
上述した本発明の実施の形態では、連通流路cpは、第1オリフィスоr1、第2オリフィスоr2及び環状流路kpにより構成されていたが、第1オリフィスоr1及び第2オリフィスоr2の収容空間から離れた側のそれぞれの開口を互いに直接的に接続して、一方側空間s1と他方側空間s2とにそれぞれ開口するオリフィス(不図示)により構成してもよい。この場合であっても、磁場発生部9は、当該オリフィスを流れる磁気粘性流体8を貫通する磁路を形成することができるので、コイル25に印加する電流値を変えるだけで、カップリング1の捩り剛性を変えることができるので、簡単にカップリング1に入力される捩り振動を抑制でき、その捩り振動の共振点を変えることも簡単に行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明は、例えば、軸と軸を連結するためのカップリングに適用することができる。
【符号の説明】
【0061】
1 カップリング
2 駆動側回転軸(駆動軸)
3 従動側回転軸(従動軸)
5 第1継手部
6 第2継手部
7 中間部
8 磁気粘性流体
9 磁場発生部
10 第1羽根部
11 第1羽根部回転軸
20 第2羽根部
21 第1円筒部(第1インナーヨーク)
22 第2円筒部
23 第3円筒部(第2インナーヨーク)
24 アウターヨーク
25 コイル
31 給電部
cs 収容空間
s1 一方側空間
s2 他方側空間
cp 連通流路
kp 環状流路
оr1 第1オリフィス
оr2 第2オリフィス
N 軸線