(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022134390
(43)【公開日】2022-09-15
(54)【発明の名称】研削方法及び研削装置並びに鋼材の製造方法
(51)【国際特許分類】
B24B 29/00 20060101AFI20220908BHJP
B24B 27/033 20060101ALI20220908BHJP
B24B 27/00 20060101ALN20220908BHJP
【FI】
B24B29/00 J
B24B27/033 Z
B24B27/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021033484
(22)【出願日】2021-03-03
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100184859
【弁理士】
【氏名又は名称】磯村 哲朗
(74)【代理人】
【識別番号】100123386
【弁理士】
【氏名又は名称】熊坂 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100196667
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100130834
【弁理士】
【氏名又は名称】森 和弘
(72)【発明者】
【氏名】山下 浩二
(72)【発明者】
【氏名】榎枝 成治
【テーマコード(参考)】
3C158
【Fターム(参考)】
3C158AA05
3C158AA09
3C158AA12
3C158AA13
3C158AA16
3C158BC02
3C158CA01
3C158CA04
3C158CB03
3C158CB10
(57)【要約】
【課題】鋼材表面の酸化スケールの研削を行う際に研削部材の寿命を延ばす。
【解決手段】砥粒を有する研削部材12を鋼材の平面方向に主運動させながら、研削部材12を送り方向GD、FDに移動させて研削領域GRを広げていくことで、鋼材Sの表面に付着した酸化スケールOSを研削する研削方法であって、研削領域GRを広げる際、既に鋼材S上に形成された研削領域GRの一部を重複して研削するように研削部材12を送り方向FDに移動させるとともに、砥粒を重複領域DR側から鋼材Sへ切り込ませるように研削部材12を主運動させる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
砥粒を有する研削部材を鋼材の平面方向に主運動させながら、前記研削部材を送り方向に相対的に移動させて研削領域を広げていくことで、鋼材の表面に付着した酸化スケールを研削する研削方法であって、
前記研削領域を広げる際、既に前記鋼材上に形成された前記研削領域の一部が重複するように前記研削部材を送り方向に移動させるとともに、前記砥粒を重複した領域側から前記鋼材へ切り込ませるように前記研削部材を主運動させる研削方法。
【請求項2】
重複した領域は、前記研削部材が前記鋼材と摺動する研削幅の10~50%である請求項1に記載の研削方法。
【請求項3】
前記研削部材の主運動として、ディスク状の前記研削部材を重複した領域側から切り込みが行われるように回転させる請求項1または2に記載の研削方法。
【請求項4】
前記研削部材を第1送り方向に直線状に移動させて研削した後、前記研削部材を研削方向に直交する第2送り方向に移動させ、前記研削部材を前記第1送り方向に直線状に移動させることを繰り返して前記研削領域を広げていく請求項1~3のいずれか1項に記載の研削方法。
【請求項5】
前記送り方向を前記鋼材の外側から内側に向かうスパイラル状として、前記研削領域を広げていく請求項1~3のいずれか1項に記載の研削方法。
【請求項6】
熱間圧延後の鋼材の表面の表面に付着した酸化スケールに対して請求項1~5のいずれか1項に記載の研削を行う鋼材の製造方法。
【請求項7】
砥粒を有する研削部材を主運動させる研削工具と、前記研削工具を移動させる移動装置と、前記移動装置の動作を制御する制御装置とを備えた研削装置であって、
前記制御装置は、
砥粒を有する研削部材を鋼材の平面方向に主運動させながら、前記研削部材を送り方向に移動させて研削領域を広げていくことで、鋼材の表面に付着した酸化スケールを研削するように、前記移動装置を制御するものであって、
前記研削領域を広げる際、既に前記鋼材上に形成された前記研削領域の一部が重複するように前記研削部材を送り方向に移動させるとともに、前記砥粒を重複した領域側から前記鋼材へ切り込ませるように前記研削部材を主運動させる研削装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼材の酸化スケールを研削除去する研削方法及び研削装置並びに鋼材の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
熱間圧延後の鋼材の表面には、酸化スケール(酸化被膜)が付着するため、酸化スケールを研削により機械的に除去することが行われている。特許文献1、2には、熱間圧延後の鋼材に研削ベルトの研削面を摺動させることにより、鋼材の表面の酸化スケールを研削する研削装置が開示されている。研削ベルトは、布又は紙からなる帯状のベルト本体に、例えばアルミナ、SiC等の硬質材からなる複数の砥粒がベルト本体の表面に接着剤により付着した構造を有する。
【0003】
上述した研削ベルトを用いて酸化スケールを機械的に除去する方法の他に、ディスクグラインダーのような砥粒を有するディスク状の研削部材を回転させる研削工具を用いて研削する方法がある。この場合、研削砥石が鋼材の平面方向に回転して摺動することで酸化スケールを研削する。
【0004】
砥粒を用いて酸化スケールの研削を行ったとき、砥粒が磨滅して切り屑とともにベルト本体から脱落し、砥粒の脱落によって新しい砥粒が表面に出現することで研削作業が継続される。そして、砥粒の脱落が進行して砥粒が酸化スケールを研削できない状態になったとき、寿命であるとして研削ベルトもしくは研削砥石等の交換が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7-276213号公報
【特許文献2】特開2012-200791号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
酸化スケールは硬い材料であるため、砥粒が平滑に摩耗して切れ味が低下する場合がある(目つぶれ)。砥粒自体の研削力が生じなくなると、砥粒の脱落等が生じず、砥粒が破砕されなくなり、表面の酸化スケールが砥粒と基材の間に詰まり目詰まりの状態になる。このため、砥粒が摩耗していない状態においても、酸化スケールを研削できなくなり、研削ベルト及び研削砥石を交換せざるを得なくなる。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、鋼材表面の酸化スケールの研削を行う際に研削部材の寿命を延ばすことができる研削方法及び研削装置並びに鋼材の製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
[1] 砥粒を有する研削部材を鋼材の平面方向に主運動させながら、前記研削部材を送り方向に相対的に移動させて研削領域を広げていくことで、鋼材の表面に付着した酸化スケールを研削する研削方法であって、
前記研削領域を広げる際、既に前記鋼材上に形成された前記研削領域の一部が重複するように前記研削部材を送り方向に移動させるとともに、前記砥粒を重複した領域側から前記鋼材へ切り込ませるように前記研削部材を主運動させる研削方法。
[2] 重複した領域は、前記研削部材が前記鋼材と摺動する研削幅の10~50%である[1]に記載の研削方法。
[3] 前記研削部材の主運動として、前記ディスク状の前記研削部材を重複した領域側から切り込みが行われるように回転させる[1]または[2]に記載の研削方法。
[4] 前記研削部材を第1送り方向に直線状に移動させて研削した後、前記研削部材を研削方向に直交する第2送り方向に移動させ、前記研削部材を前記第1送り方向に直線状に移動させることを繰り返して前記研削領域を広げていく[1]~[3]のいずれかに記載の研削方法。
[5] 前記送り方向を前記鋼材の外側から内側に向かうスパイラル状として、前記研削領域を広げていく[1]~[3]のいずれかに記載の研削方法。
[6] 熱間圧延後の鋼材の表面の表面に付着した酸化スケールに対して[1]~[5]のいずれかに記載の研削を行う鋼材の製造方法。
[7] 砥粒を有する研削部材を主運動させる研削工具と、前記研削工具を移動させる移動装置と、前記移動装置の動作を制御する制御装置とを備えた研削装置であって、
前記制御装置は、
砥粒を有する研削部材を鋼材の平面方向に主運動させながら、前記研削部材を送り方向に移動させて研削領域を広げていくことで、鋼材の表面に付着した酸化スケールを研削するように、前記移動装置を制御するものであって、
前記研削領域を広げる際、既に前記鋼材上に形成された前記研削領域の一部が重複するように前記研削部材を送り方向に移動させるとともに、前記砥粒を重複した領域側から前記鋼材へ切り込ませるように前記研削部材を主運動させる研削装置。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、重複領域側から砥粒を鋼材へ切り込ませるように、研削部材が鋼材の平面方向に主運動する。すると、砥粒は酸化スケールよりも柔らかい地金側から切り込み、地金とともに酸化スケールを切り屑として脱落させる。その結果、酸化スケールを直接切削する面積を減少させることができ、鋼材の酸化スケールの研削を行う際の砥粒の寿命を延ばすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の研削装置の好ましい実施形態を示す斜視図である。
【
図2】研削工具が酸化スケールを研削する様子を示す模式図である。
【
図3】研削工具が酸化スケールを研削する様子を示す模式図である。
【
図4】研削工具が酸化スケールを研削する様子を示す模式図である。
【
図5】鋼材の酸化スケールの研削の様子を示す模式図である。
【
図8】それぞれ条件1、3、4による研削実験の結果を示す写真である。
【
図9】条件1~4で鋼材Sの酸化スケールの研削をし続け、研削不良が発生するまでの合計の研削面積を示すグラフである。
【
図10】本発明の研削方法の別の実施形態を示す平面図である。
【
図11】本発明の研削方法の別の実施形態を示す平面図である。
【
図12】本発明の研削装置における移動装置の別の実施形態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
図1は本発明の研削装置の好ましい実施形態を示す斜視図である。
図1の研削装置1は、鋼材Sの表面に形成された酸化スケール(酸化鉄もしくは黒皮)を研削により機械的に除去するものである。研削装置1は、酸化スケールの研削を行う研削工具10と、鋼材Sに対し研削工具10を第1送り方向GD及び第2送り方向FDに移動させる移動装置20と、研削工具10及び移動装置20の動作を制御する制御装置30とを備える。
【0012】
研削工具10は、例えばディスクグラインダー等からなり、工具本体11と、工具本体11に取り付けられ、砥粒を有する研削部材12と、工具本体11に設けられ、研削部材12を主運動させる研削駆動部13とを備える。工具本体11は、移動装置20に保持されており、移動装置20の作動により鋼材Sに対し第1送り方向GD及び第2送り方向FDに相対的に移動する。なお、
図1においては、研削工具10が鋼材Sに対し移動する場合について例示しているが、研削工具10と鋼材Sとが相対的に移動すればよく、鋼材S側を移動させてもよいし、研削工具10及び鋼材Sの双方を移動させてもよい。
【0013】
図2~
図4は研削部材が酸化スケールを研削する様子を示す模式図である。
図2~
図4に示すように、研削部材12は、研削面に砥粒を有するものであって、例えばディスク状のディスク12Aに研削布の矩形片12Bを半分以上重ねながら円周上に並べた一般の研削布ディスクからなっている。なお、研削部材12は、砥粒を有するものであればその構成を問わず、例えばディスクの表面に砥粒が付着している砥石、研削布、研削布もしくは研削紙等が取り付けられたものであってもよいし、研削砥石からなっていてもよい。また、砥粒は、例えばアルミナ、SiC、ダイヤモンド等の公知の硬質材を用いることができる。
【0014】
図1の研削駆動部13は、酸化スケールの研削時に研削部材12を主運動させるものである。研削駆動部13は、例えば電動モータもしくは空気圧モータからなり、研削の主運動として研削部材12を回転方向Rへ回転運動させる。なお、研削工具10の駆動方式は、電動式であってもよいし空圧式であってもよく、工具本体11は電源ケーブルもしくはエアホースを介して駆動源に接続されている。
【0015】
図2~
図4に示すように、研削部材12の回転軸が鋼材Sの表面に対して所定のチルト角だけ傾斜した状態で研削部材12が回転し、研削工具10の先端側の研削部材12の一部が鋼材Sの平面方向に沿って摺動するように押し付けられ摺動する(いわゆる立て軸形)。このように、研削部材12が鋼材Sと摺動しながら、研削工具10全体が移動装置20によって第1送り方向GDへ移動する。すると、研削部材12が摺動した研削領域GRの酸化スケールOSが第1送り方向GDに沿って除去され、地金BMが露出する。この際、研削領域GR及び研削深さは研削部材12の径、鋼材Sへの押し付け量等によって決まる。このように研削された鋼材Sの研削面は円弧になるため、表面に大きな段差をつけずに平滑な研削面を形成することができる。
【0016】
図1の移動装置20は、鋼材Sに対する研削工具10の位置を相対的に移動させるものであって、その動作は制御装置30により制御されている。移動装置20は、基台21と、基台21を水平方向に移動可能に保持するガイドレール22と、基台21上に設置され、研削工具10を移動可能に保持するロボットアーム23とを備える。
【0017】
ロボットアーム23は、いわゆる垂直多関節型のアームであって、内部に複数のアクチュエータが内蔵されている。
図1においては、ロボットアーム23が研削工具10を第1送り方向GDへ移動させる。ロボットアーム23は、鋼材の表面へ押し付ける直動シリンダを介して研削工具10を保持しており、研削時に研削工具10は直動シリンダの作動によって鋼材Sに押し付けられる。
【0018】
図1においては、研削工具10がロボットアーム23の作動によって第1送り方向(研削方向)GDへ移動し、基台21がガイドレール22上を移動することによって第2送り方向(研削パス方向)FDへ移動する。なお、送り方向はこれに限定されず、移動装置20は研削工具10を第1送り方向GD及び第2送り方向FDへ移動させるものであればよい。さらに、ロボットアーム23の先端がひねり方向PRへ回転可能になっており、鋼材Sの平面に沿って回転するようになっている。
【0019】
制御装置30は、例えばコンピュータ等からなり、鋼材Sの表面に付着した酸化スケールOSの除去が鋼材Sの全体にわたり行われるように、研削工具10及び移動装置20の動作を制御する。特に、制御装置30は、研削領域を広げる際、既に鋼材S上に形成された研削領域GRの一部を重複して研削するように研削部材12を第2送り方向FDに移動させるように移動装置20を制御する。さらに、制御装置30は、重複領域DR側から砥粒を鋼材Sへ切り込ませるように研削部材12の主運動を制御する。具体的には、以下のように、主運動(回転方向R)、第1送り方向GD及び第2送り方向FDを制御しながら鋼材S上の研削領域GRを広げていく。
【0020】
図5は鋼材Sの酸化スケールの研削の様子を示す模式図である。
図1~
図5を参照して本発明の研削方法の好ましい実施形態について説明する。なお、
図5では、第1送り方向GDへの研削が、第2送り方向FDに沿って複数回繰り返されることにより、鋼材S上の研削領域GRを広げていく場合について例示する。
【0021】
はじめに、研削部材12が矢印R方向に主運動(回転運動)して鋼材Sと摺動しながら第1送り方向GDの始点位置から終点位置まで直線移動する。すると、直線状の1パス分の研削領域GRが形成されて地金BMが露出する。研削工具10が第1送り方向GDの終点位置まで移動したとき、研削部材12が鋼材Sから離れ、第1送り方向GDの始点位置に戻るとともに第2送り方向FDへ移動する。この際、第2送り方向FDへの移動量は研削領域GRの研削幅よりも小さくする。すると、2パス目の研削領域GRは、既に研削済の1パス目の研削領域GRの一部と重複した重複領域DRを含むことになる。
【0022】
なお、重複領域DRが存在していればよく、重複領域DRの幅の大小は問わない。好ましくは、確実に地金BMから切り込みが行われるようにするため、重複領域DRは研削領域GRの10%以上であり、さらに20%以上であることがより好ましい。一方、鋼材Sの全体への研削作業の効率を考慮すると、重複領域DRは研削領域GRの50%以下であることが好ましく、さらに40%以下であることがより好ましい。
【0023】
そして、再び研削部材12が鋼材Sと摺動しながら第1送り方向GDに移動することにより、2パス目の酸化スケールOSの研削が行われる。このとき、研削部材12は、重複領域DR側から砥粒を鋼材Sへ切り込ませるように矢印R方向へ回転運動する。すると、研削部材12の砥粒は鋼材Sの地金BM側から切り込み、酸化スケールOS側へ抜けていく。この第1送り方向GDへの研削及び第2送り方向FDの移動を繰り返すことにより、
図4及び
図5に示すように鋼材Sの表面上に付着した酸化スケールOSの研削領域を広げていく。
【0024】
このように、既に研削されている研削領域GRとの間で重複領域DRを形成するように新たな研削が行われるとともに、新たな研削を行う際に研削部材12の砥粒が重複領域DR側から地金BMへ切り込み、酸化スケールOS側から抜けるように研削を行う。これにより、硬質な酸化スケールOSを研削することによる砥粒の摩耗を抑え、研削部材12の寿命を延ばし交換周期を延ばすことができる。
【0025】
図6及び
図7は従来の研削方法の一例を示す模式図である。
図6及び
図7においては、砥粒が酸化スケールOSから切り込み、地金BMから抜けるようなっている。つまり、砥粒は地金BMよりも硬い酸化スケールOSから入り込むことで、酸化スケールOSを削り取っていく。このため、砥粒が脱落もしくは破砕しやすくなり、研削部材の寿命が短くなってしまう。
【0026】
一方、
図4及び
図5においては、砥粒が直前の研削パスで露出した鋼材Sの地金BMから切り込み、酸化スケールOSに対して鋼材Sの内側から表面側へ抜けるようにしている。これにより、砥粒が酸化スケールOSに摺接する長さも短くなり、砥粒の摩耗が低減することができる。特に、重複領域DRが研削領域GRの10~50%である場合、確実に砥粒が地金BM側から切り込みが行われるとともに、鋼材Sの全面を効率的に研削することができる。
【実施例0027】
本発明の実施形態の効果を確認するため研削実験を行った。下記表1に実施例1における研削条件1~4を示す。
【0028】
【0029】
なお、各研削条件1~4において、表面が酸化スケールOSで覆われた鋼材Sとして一般構造用圧延鋼材のSS400を用い、研削部材12の砥粒、回転速度、押し付け量、研削領域GRは同一とした。条件1、4は、従来の
図6及び
図7のように酸化スケール側から切り込みを行ったときの比較例であって、条件1は重複領域DRを20%設けた場合であり、条件4は重複領域DRを設けなかった場合(重複領域DR=0)である。一方、条件2、3は、
図2~
図5のように地金BM側から切り込みを行った発明例であり、条件2は重複領域が20%に設定し、条件3は重複領域が40%に設定したものである。
【0030】
図8は、それぞれ条件1、3、4による研削実験の結果を示す写真である。なお、写真中研削方向は第1送り方向GDを示し、パス方向は第2送り方向FDを示す。
図9は、上記条件1~4で鋼材Sの酸化スケールの研削をし続け、目つぶれや目詰まり等によって研削不良が発生するまでの合計の研削面積を示すグラフである。
図8及び
図9に示すように。条件1の比較例の場合、2パス分研削しただけで研削部材が研削できない状態になり寿命となった。これは、酸化スケールを直接切削する面積が増加し、研削部材の砥粒の脱落、粉砕等が過剰に発生して目つぶれや目詰まり等が発生したためである。このため、条件1、4は5パス分の研削を行うことができたが、目つぶれや目詰まりによって所定の研削深さが得られたのは1パス分だけであった。一方、条件2、3の発明例では最終的に14パス分まで研削可能であった。つまり、条件2、3の発明例は、条件1、4の比較例に対し、107倍以上の研削工具寿命が得られることが分かった。
【0031】
図10及び
図11は、本発明の研削方法の別の実施形態を示す平面図である。なお、
図10及び
図11の研削方法において、
図1~
図6の研削方法と同一の構成を有する部位には同一の符号を付してその説明を省略する。
図10及び
図11の研削方法が、
図1~
図6の研削方法と異なる点は、研削パターンが鋼材Sの外側から内側へ向かって渦巻き状に形成されている点である。
【0032】
制御装置30は、送り方向FD10が鋼材Sの外側から内側に向かうスパイラル状になるように移動装置20を制御して研削領域GRを広げていく。なお、
図10及び
図11のような研削パターンは、研削工具10が移動装置20により3軸方向に移動するとともにひねり方向PRへ回転して研削方向の転換することにより実現することができる。なお、
図11のように、スパイラル状に研削したときに、中心部分の未研削の部分が残ってしまうときには、一度研削部材12を鋼材Sから離し、改めて中心部分の研削を行えばよい。
【0033】
この場合であっても、研削部材12は、既に鋼材S上に形成された研削領域GRの一部を重複して研削するように、送り方向FD10に移動していく。つまり、
図10のように、最外周側の研削が完了し、続けて内周側の研削が行われるときに、最外周の研削領域GRの内側の一部と重複した重複領域DRが形成されるように移動する。さらに、
図2~
図5と同様、研削部材20は、重複領域DR側(地金BM側)から切り込ませるように主運動する。
【0034】
図10及び
図11の場合であっても、
図1~
図5と同様、研削領域GR同士を重複させるとともに、地金BM側から酸化スケールOS側へ研削が行われることにより、砥粒の寿命を延ばすことができる。さらに、
図5のように、1つの研削パスの研削が完了するたびに、終点位置から始点位置まで研削工具10を移動させる必要がなく、効率よく酸化スケールOSの除去を行うことができる。
【0035】
本発明の実施の形態は、上記実施の形態に限定されず、種々の変更を行うことができる。例えば、
図1の研削装置1において、研削工具10側がロボットア23によって鋼材Sに対して移動する場合について例示しているが、研削工具と鋼材Sとが相対的に移動するものであればよい。
【0036】
図12は、本発明の研削装置における移動装置の別の実施形態を示す斜視図である。
図12の研削装置100の移動装置120は、3軸の直交するスライド軸を有するいわゆるガントリー型ロボットである。移動装置120は、基台121と、基台121をX方向(例えば第2送り方向FD)に移動可能に保持するガイドレール122と、基台121に対し鉛直方向に移動可能に取り付けられ、研削工具10を保持する工具保持部123とを有する。なお、ガイドレール122は図示しないY方向(例えば第1送り方向GD)に延びるレール上に移動可能に設置されている。この場合であっても、
図1~
図5、
図10及び
図11と同様、砥粒が重複領域DR側から切り込み酸化スケールOS側へ抜けるように研削が行われ、研削部材12の寿命を延ばすことができる。
【0037】
さらに、
図1及び
図12において研削工具10側が鋼材Sに対して相対的に移動する場合について例示しているが、研削工具10を固定し鋼材S側を移動させてもよいし、研削工具10及び鋼材Sの双方を移動させてもよい。また、
図3~
図5において、1方向の第1送り方向GDに向かって研削する場合について例示しているが、双方向の研削を行うようにしてもよい。例えば、1つの研削パスの終点まで位置したとき、主運動の回転方向を逆回転にして重複領域DRが形成されるように第2送り方向FDに移動させ、前のパスとは逆の研削方向に向かった研削を行うようにしてもよい。この場合でも、砥粒は地金BM側から切り込むことになり、各パスの研削開始位置まで戻るのに必要な作業時間をなくすことができる。
【0038】
また、上記実施形態において、研削部材12の主運動が回転運動である場合について例示しているが、地金BMから酸化スケールOS側へと研削するものであればよく、地金面から酸化スケール面へ向かって直線運動(往復運動)させることで、酸化スケールを研削する場合にも適用することができる。また、研削装置1は、図示しない研削面の手入れを行う洗浄部を有し、例えば所定面積の研削が行われた後、洗浄部により研削面が洗浄され、手入れした表面積が確保されるようにしてもよい。