IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社奥村組の特許一覧 ▶ オイレス工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-粘性系の振動減衰装置 図1
  • 特開-粘性系の振動減衰装置 図2
  • 特開-粘性系の振動減衰装置 図3
  • 特開-粘性系の振動減衰装置 図4
  • 特開-粘性系の振動減衰装置 図5
  • 特開-粘性系の振動減衰装置 図6
  • 特開-粘性系の振動減衰装置 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022134431
(43)【公開日】2022-09-15
(54)【発明の名称】粘性系の振動減衰装置
(51)【国際特許分類】
   E04H 9/02 20060101AFI20220908BHJP
   E04H 9/14 20060101ALI20220908BHJP
   F16F 15/023 20060101ALI20220908BHJP
   F16F 7/12 20060101ALI20220908BHJP
   F16F 7/08 20060101ALI20220908BHJP
【FI】
E04H9/02 331Z
E04H9/02 351
E04H9/14 G
F16F15/023 A
F16F7/12
F16F7/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021033550
(22)【出願日】2021-03-03
(71)【出願人】
【識別番号】000140292
【氏名又は名称】株式会社奥村組
(71)【出願人】
【識別番号】000103644
【氏名又は名称】オイレス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094042
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 知
(72)【発明者】
【氏名】舟木 秀尊
(72)【発明者】
【氏名】山上 聡
(72)【発明者】
【氏名】小山 慶樹
(72)【発明者】
【氏名】山際 創
【テーマコード(参考)】
2E139
3J048
3J066
【Fターム(参考)】
2E139AA01
2E139AA05
2E139AA17
2E139AB14
2E139AB16
2E139AC03
2E139AC04
2E139AC06
2E139AD03
2E139BA03
2E139BA15
2E139BA19
2E139BD35
2E139BD46
2E139CA03
2E139CA21
2E139CB04
2E139CB05
2E139CB07
2E139CB08
2E139CB15
2E139CC02
3J048AA06
3J048AA10
3J048AC04
3J048AC05
3J048AC06
3J048BE03
3J048DA01
3J048EA38
3J066AA26
3J066BA03
3J066BF12
3J066BG02
(57)【要約】
【課題】連結解除ピンが切断されたか否かを、簡単な構成でありながら、容易かつ確実に確認することが可能な粘性系の振動減衰装置を提供する。
【解決手段】取付板と粘性ダンパーとを水平方向に関して連結していると共に底壁板に対して取付板に一定以上の水平力が生じると切断されて取付板と粘性ダンパーとの水平方向に関する該連結を解除する括れ部67を有した連結解除ピン68を具備した粘性系の振動減衰装置において、括れ部の切断を検知する電極110及び111と通電センサ114とを備えた。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水平方向に関して相対振動される上部構造物及び下部構造物の夫々に取り付けるための上部取付部及び下部取付部と、
該上部取付部及び該下部取付部に連結されて該下部取付部に対する該上部取付部の水平方向の振動を減衰させる粘性ダンパーと、
上記下部取付部に対して上記上部取付部に一定以上の水平力が生じると上記粘性ダンパーに対する該上部取付部及び該下部取付部のうちの少なくとも一方の該連結を解除する解除機構とを備えており、
該解除機構は、
上記上部取付部及び上記下部取付部のうちの一方と上記粘性ダンパーとを水平方向に関して連結していると共に該下部取付部に対して該上部取付部に一定以上の水平力が生じると切断されて該上部取付部及び該下部取付部のうちの一方と該粘性ダンパーとの水平方向に関する該連結を解除する脆弱部を有した連結解除ピンと、
該連結解除ピンの上記脆弱部での曲げ応力の発生を阻止する曲げ応力阻止手段とを具備しており、
該曲げ応力阻止手段は、
上記上部取付部及び上記下部取付部のうちの一方と上記粘性ダンパーとの間であって上記連結解除ピンの周りに配されていると共に膨大頭部を有している複数のボルトと、
上記上部取付部及び上記下部取付部のうちの一方と上記粘性ダンパーとのうちの一方に固着されていると共に上記各ボルトが螺着されている保持部材と、
上記上部取付部及び上記下部取付部のうちの一方と上記粘性ダンパーとのうちの他方に固着されていると共に上記各ボルトの上記膨大頭部に水平方向に移動自在に接触する受面を有した受台と、
上記各ボルトの上記保持部材からの突出量を調節するロックナットとを具備した粘性系の振動減衰装置において、
さらに、上記脆弱部の切断を検知する検知手段を備えたことを特徴とする粘性系の振動減衰装置。
【請求項2】
前記検知手段は、前記連結解除ピンの前記脆弱部よりも前記上部取付部側と前記下部取付部側とに設けられ、給電により通電される一対の電極と、該脆弱部の切断によって通電が途切れたことを検知する通電センサとから構成されることを特徴とする請求項1に記載の粘性系の振動減衰装置。
【請求項3】
前記検知手段は、前記上部取付部及び前記下部取付部のうちの一方と前記粘性ダンパーとの間の、前記連結解除ピンの前記脆弱部の切断による上下方向距離の変化を検知する距離センサであることを特徴とする請求項1に記載の粘性系の振動減衰装置。
【請求項4】
前記粘性ダンパーは、前記上部取付部及び前記下部取付部に夫々連結されると共に互いに上下方向に移動自在に嵌挿される円筒体及び円柱部を備え、
これら円筒体と円柱部との間には、前記連結解除ピンにより空間が形成され、
前記検知手段は、上記空間内に設けられ、前記脆弱部の切断による上記円筒体と上記円柱部の接触を検知する接触検知センサであることを特徴とする請求項1に記載の粘性系の振動減衰装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連結解除ピンが切断されたか否かを、簡単な構成でありながら、容易かつ確実に確認することが可能な粘性系の振動減衰装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、免震装置に組み合わせて用いられる粘性タイプの振動減衰装置として、特許文献1が知られている。
【0003】
特許文献1の「粘性系の振動減衰装置及びこれを具備した免震建物」は、水平方向に関して相対振動される上部構造物及び下部構造物の夫々に取り付けるための上部取付部及び下部取付部と、該上部取付部及び該下部取付部に連結されて該下部取付部に対する該上部取付部の水平方向の振動を減衰させる粘性ダンパーと、上記下部取付部に対して上記上部取付部に一定以上の水平力が生じると上記粘性ダンパーに対する該上部取付部及び該下部取付部のうちの少なくとも一方の該連結を解除する解除機構とを備えており、該解除機構は、上記上部取付部及び上記下部取付部のうちの一方と上記粘性ダンパーとを水平方向に関して連結していると共に該下部取付部に対して該上部取付部に一定以上の水平力が生じると切断されて該上部取付部及び該下部取付部のうちの一方と該粘性ダンパーとの水平方向に関する該連結を解除する脆弱部を有した連結解除ピンと、該連結解除ピンの上記脆弱部での曲げ応力の発生を阻止する曲げ応力阻止手段とを具備しており、該曲げ応力阻止手段は、上記上部取付部及び上記下部取付部のうちの一方と上記粘性ダンパーとの間であって上記連結解除ピンの周りに配されていると共に膨大頭部を有している複数のボルトと、上記上部取付部及び上記下部取付部のうちの一方と上記粘性ダンパーとのうちの一方に固着されていると共に上記各ボルトが螺着されている保持部材と、上記上部取付部及び上記下部取付部のうちの一方と上記粘性ダンパーとのうちの他方に固着されていると共に上記各ボルトの上記膨大頭部に水平方向に移動自在に接触する受面を有した受台と、上記各ボルトの上記保持部材からの突出量を調節するロックナットとを具備している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4893061号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記背景技術では、一定以上の水平力が生じると切断される連結解除ピンを用いることで、粘性ダンパーに、振動減衰させる場合とそれ以外の場合とを切り替えるようにしている。
【0006】
このような構成であると、相当規模の地震が発生するたびに、連結解除ピンが切断されたか否かを確認する必要があった。また、その確認は、作業者が粘性ダンパーの設置場所で、目視により確認する必要があった。このため、連結解除ピンが切断されたか否かを手間取ることなく容易に確認することができる方策の案出が望まれていた。
【0007】
本発明は上記従来の課題に鑑みて創案されたものであって、連結解除ピンが切断されたか否かを、簡単な構成でありながら、容易かつ確実に確認することが可能な粘性系の振動減衰装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明にかかる粘性系の振動減衰装置は、水平方向に関して相対振動される上部構造物及び下部構造物の夫々に取り付けるための上部取付部及び下部取付部と、該上部取付部及び該下部取付部に連結されて該下部取付部に対する該上部取付部の水平方向の振動を減衰させる粘性ダンパーと、上記下部取付部に対して上記上部取付部に一定以上の水平力が生じると上記粘性ダンパーに対する該上部取付部及び該下部取付部のうちの少なくとも一方の該連結を解除する解除機構とを備えており、該解除機構は、上記上部取付部及び上記下部取付部のうちの一方と上記粘性ダンパーとを水平方向に関して連結していると共に該下部取付部に対して該上部取付部に一定以上の水平力が生じると切断されて該上部取付部及び該下部取付部のうちの一方と該粘性ダンパーとの水平方向に関する該連結を解除する脆弱部を有した連結解除ピンと、該連結解除ピンの上記脆弱部での曲げ応力の発生を阻止する曲げ応力阻止手段とを具備しており、該曲げ応力阻止手段は、上記上部取付部及び上記下部取付部のうちの一方と上記粘性ダンパーとの間であって上記連結解除ピンの周りに配されていると共に膨大頭部を有している複数のボルトと、上記上部取付部及び上記下部取付部のうちの一方と上記粘性ダンパーとのうちの一方に固着されていると共に上記各ボルトが螺着されている保持部材と、上記上部取付部及び上記下部取付部のうちの一方と上記粘性ダンパーとのうちの他方に固着されていると共に上記各ボルトの上記膨大頭部に水平方向に移動自在に接触する受面を有した受台と、上記各ボルトの上記保持部材からの突出量を調節するロックナットとを具備した粘性系の振動減衰装置において、さらに、上記脆弱部の切断を検知する検知手段を備えたことを特徴とする。
【0009】
前記検知手段は、前記連結解除ピンの前記脆弱部よりも前記上部取付部側と前記下部取付部側とに設けられ、給電により通電される一対の電極と、該脆弱部の切断によって通電が途切れたことを検知する通電センサとから構成されることを特徴とする。
【0010】
前記検知手段は、前記上部取付部及び前記下部取付部のうちの一方と前記粘性ダンパーとの間の、前記連結解除ピンの前記脆弱部の切断による上下方向距離の変化を検知する距離センサであることを特徴とする。
【0011】
前記粘性ダンパーは、前記上部取付部及び前記下部取付部に夫々連結されると共に互いに上下方向に移動自在に嵌挿される円筒体及び円柱部を備え、これら円筒体と円柱部との間には、前記連結解除ピンにより空間が形成され、前記検知手段は、上記空間内に設けられ、前記脆弱部の切断による上記円筒体と上記円柱部の接触を検知する接触検知センサであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明にかかる粘性系の振動減衰装置にあっては、連結解除ピンが切断されたか否かを、簡単な構成でありながら、容易かつ確実に確認することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図2に示す例の振動減衰装置の断面であって、本発明の第3実施形態を示す説明図である。
図2】本発明の実施形態が適用される装置例の正面説明図である。
図3図1に示す振動減衰装置のIII-III線矢視断面図である。
図4図1に示す例の連結解除ピンの斜視図である。
図5図1に示す例の動作説明図である。
図6図1に示す例の動作と本発明の第2実施形態を示す説明図である。
図7】本発明の第1実施形態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明にかかる粘性系の振動減衰装置の好適な実施形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。まず、本発明の前提となる粘性系の振動減衰装置について説明する。
【0015】
図1から図4において、本例の免震建物1は、地盤に杭等により固定されて設置されたコンクリート製の基礎2と、鉛支柱3入りのアイソレータ4からなる免震装置5と、免震装置5を介して基礎2上に支承された上部構造物としての事務所ビル6と、基礎2と事務所ビル6との間に配された粘性系の振動減衰装置7とを具備している。
【0016】
上部構造物は、好ましくは、事務所ビル、集合住宅又は戸建住宅であるが、特に好ましくは高層の事務所ビル又は集合住宅であるが、本発明はこれらに限定されず、その他の上部構造物であってもよい。
【0017】
また、上部構造物と下部構造物はそれぞれ、免震装置5が設置される免震層によって分断される構造体の上層部分及び下層部分であってもよい。
【0018】
下部構造物としての基礎2と事務所ビル6との間に介在されていると共に事務所ビル6の上下方向(鉛直方向)Vの荷重を支持する免震装置5は、地震による水平方向Hの振動に対して免震作動するアイソレータ4と、水平方向Hの振動を減衰させると共にアイソレータ4に埋設されている弾塑性体としての鉛支柱3と、アイソレータ4の上面及び下面の夫々に固着されていると共に事務所ビル6と基礎2との夫々にアンカーボルト等を介して固着された上下取付鋼板8及び9とを具備しており、アイソレータ4は、鋼板等からなる複数の剛性層10及びゴム等からなる複数の弾性層11が上下方向Vに交互に積層されている積層ゴムからなり、地震による水平方向Hの振動に対して免震作動すると共に当該振動を減衰させる斯かる免震装置5は、事務所ビル6の荷重を受けるべく、基礎2上に適当に分散されて複数個配されている。
【0019】
免震装置5としては、鋼板等からなる剛性層と振動を効果的に減衰させる高減衰ゴムなどからなる弾性層とが交互に積層された積層ゴムからなるものでもよく、また上記例示した、剛性層及び弾性層が交互に積層された積層ゴムと、この積層ゴムに埋設されていると共に振動を効果的に減衰させる鉛支柱とを具備するものでもよく、更には、滑り摩擦を用いたものであっても、以上のものを適宜組み合わせたものであってよく、要は、地震による水平方向Hの振動に対して免震作動する(アイソレータ機能を発揮する)と共に当該振動を減衰させる(減衰機能を発揮する)ものであればよい。
【0020】
さらに、免震装置5は、減衰機能がないものであっても良く、その場合には、振動減衰装置7とは別に、油圧式ダンパー等の減衰作用のある装置を設ければよい。
【0021】
免震装置5を介して基礎2に対して水平方向Hの振動に関して免震支持された高層の事務所ビル6の当該水平方向Hの振動を減衰させる振動減衰装置7は、水平方向Hに関して相対振動される基礎2及び事務所ビル6の夫々に取り付けられた下部取付部としての容器25の底壁板26及び上部取付部としての取付板66と、底壁板26及び取付板66に連結されて底板壁26に対する取付板66の水平方向Hの振動を減衰させる粘性ダンパー21と、事務所ビル6及び基礎2の水平方向Hに関する相対振動に起因して底壁板26に対して取付板66に一定以上の水平力が生じると粘性ダンパー21に対する取付板66及び底壁板26のうちの少なくとも一方、本例では取付板66の該連結を解除する解除機構22とを有している。
【0022】
粘性ダンパー21は、上記の下部取付部としての底壁板26を介して基礎2にアンカーボルト等により固着されて連結された容器25と、容器25内に配されて容器25の底壁板26に取付機構27を介して夫々の外周縁部で固着されていると共に上下方向Vにおいて互いに隙間をもって配された複数枚の円環状の固定板28と、容器25内に配されて上下方向Vにおいて固定板28に対して隙間をもって当該固定板28間の隙間の夫々に配されていると共に固定板28に対して水平方向Hに可動に配されている複数枚の円環状の可動板29と、固定板28と可動板29との間の隙間に配されていると共に容器25内に収容された粘性体30と、各可動板29の内周縁部が取付機構31を介して鍔部32に固着されて可動板29を支持する鍔部32付の円筒体33と、円筒体33内に上下方向Vに移動自在に嵌挿された円柱部34を有すると共に円柱部34に一体に形成された取付鍔部35を有した連結部材36と、連結部材36の取付鍔部35が複数個のボルト37により下面38に固着された四角形の上基台39と、上基台39の上面40の四個の角部に複数個のボルト41により固着された四個の受台42とを具備している。
【0023】
容器25は、基礎2にアンカーボルト等により固着された四角形の底壁板26と、底壁板26に溶接、ボルト等を介して固着された円筒状の側壁板45と、側壁板45に溶接等を介して固着された環状の鍔板46と、鍔板46に溶接、ボルト等を介して固着されていると共に連結部材36を通過させる円形の開口47を中央に有した環状の蓋板48と、底壁板26、側壁板45及び鍔板46の夫々に溶接等を介して固着された複数の補強部材49とを具備している。
【0024】
底壁板26は、振動減衰装置7を下部構造物としての基礎2に取り付けるための下部取付部としても機能しているが、斯かる下部取付部としては、底壁板26に代えて、当該底壁板26に溶接、ボルト等を介して固着されると共に基礎2にもアンカーボルト等により固着される下部取付板であってもよい。
【0025】
取付機構27は、上下円環状板51と、各固定板28の外周縁部間に配された円環状スペーサ板52と、各固定板28の外周縁部と共に上下円環状板51及び円環状スペーサ板52を底壁板26に固着する複数個のボルト53とを具備しており、取付機構31は、円環状板54と、各可動板29の内周縁部間に配された円環状スペーサ板55と、各可動板29の内周縁部と共に円環状板54及び円環状スペーサ板55を鍔部32に固着する複数個のボルト56とを具備している。
【0026】
円筒体33の下面57は、底壁板26の上面58に水平方向Hに可動に接触しており、円柱部34の底面59と円筒体33の内側底面60との間には空間61が保持されており、可動板29の両面には、固定板28と可動板29との間の隙間を保持すると共に固定板28に摺動自在に接触したスペーサ(図示せず)が固着されている。斯かるスペーサは、固定板28に設けてもよい。
【0027】
四個の受台42の夫々は、その上面に水平方向Hに平行であって平坦な滑り面からなる受面62を有している。
【0028】
粘性ダンパー21は、固定板28に対する可動板29の水平方向Hの移動において、固定板28と可動板29との間の隙間に配された粘性体30に粘性剪断変形を生じさせることにより、可動板29の水平方向Hの移動に対して粘性剪断変形に起因する抵抗力を及ぼして可動板29の水平方向Hの振動、延いては取付板66を介して事務所ビル6の水平方向Hの振動を減衰させるようになっている。
【0029】
取付板66は、事務所ビル6の下面65にボルト等により固着されている。
【0030】
解除機構22は、上部取付部としての取付板66及び下部取付部としての底壁板26のうちの一方、本例では取付板66と粘性ダンパー21とを水平方向Hに関して連結していると共に事務所ビル6及び基礎2の水平方向Hに関する相対振動に起因して底壁板26に対して取付板66に一定以上の水平力が生じると切断、本例では水平方向Hに剪断されて取付板66と粘性ダンパー21との水平方向Hに関する該連結を解除する脆弱部としての括れ部67を有した連結解除ピン68と、連結解除ピン68の括れ部67への連結部材36付近を中心とするR方向の曲げモーメントの付加に起因する括れ部67での曲げ応力の発生を阻止する曲げ応力阻止手段70と、連結解除ピン68の一方の本体71を取付板66及び底壁板26のうちの一方、本例では取付板66に固定する固定手段72と、連結解除ピン68の他方の本体73を粘性ダンパー21の上基台39に固定する固定手段74とを具備している。
【0031】
連結解除ピン68は、固定手段72を介して取付板66に固定されていると共に一端面にねじ孔75を有した円柱状の本体71と、固定手段74を介して粘性ダンパー21の上基台39に固定されていると共に一端面にねじ孔76を有した円柱状の本体73と、両本体71及び73の間に介在された脆弱部としての括れ部67とを一体的に具備している。
【0032】
連結解除ピン68は、通常、両本体71及び73と脆弱部とが一体形成されたものからなるが、脆弱部を両本体71及び73よりも機械的強度の低い材料から形成してもよく、斯かる機械的強度の低い材料を括れ部67に用いてもよい。
【0033】
固定手段72は、複数個のボルト81により取付板66の下面82に固着されていると共に本体71がぴったりと嵌合されている凹所83を有した保持部材84と、保持部材84の中央部を貫通していると共に本体71のねじ孔75に螺合しているボルト85とを具備しており、固定手段74は、複数個のボルト86により上基台39の上面40に固着されていると共に本体73がぴったりと嵌合されている凹所88を有した保持部材89と、保持部材89の中央部を貫通していると共に本体73のねじ孔76に螺合しているボルト90とを具備しており、保持部材84の下面と保持部材89の上面とは隙間91をもって対面されており、隙間91の位置に括れ部67が配されている。
【0034】
従って、粘性ダンパー21の可動板29が配される円筒体33内に、振動伝達のために嵌挿された円柱部34を備える上基台39は、連結解除ピン68を介して、上部取付部である取付板66から吊り下げられている。そして、連結解除ピン68による吊り下げにより、円柱部34の底面59と円筒体33の内側底面60との間に、空間61が形成されることになる。
【0035】
曲げ応力阻止手段70は、取付板66及び底壁板26のうちの一方、本例では取付板66と粘性ダンパー21との間に介在されていると共に取付板66と粘性ダンパー21とのうちの少なくとも一方、本例では粘性ダンパー21に対して水平方向Hに移動自在である介在部材としての四個のボルト95(二個のみ図示)と、各ボルト95を保持するべく、受台42に対応して取付板66の下面82の四個の角部の夫々に複数のボルト96により固着されていると共に夫々ねじ孔97を有した四個の保持部材98とを具備している。
【0036】
連結解除ピン68の周りに配された複数個の支柱としてのボルト95の夫々は、対応の保持部材98のねじ孔97に螺着されていると共にその膨大頭部で水平方向Hに移動自在に対応の受台42の受面62に接触している。各ボルト95の対応の保持部材98のねじ孔97への螺入量は、当該各ボルト95に螺着されたロックナット99により固定されている。斯かる螺入量、換言すれば、各ボルト95の対応の保持部材98からの突出量は、ロックナット99を緩めることにより調節することができるようになっている。
【0037】
曲げ応力阻止手段70は、好ましい例では、上部取付部(取付板66)及び下部取付部(底壁板26)のうちの一方と粘性ダンパー21との間に介在されると共に上部取付部及び下部取付部のうちの一方と粘性ダンパーとのうちの少なくとも一方に対して水平方向Hに移動自在である介在部材(ボルト95)を具備しており、斯かる介在部材は、上部取付部及び下部取付部のうちの一方と粘性ダンパーとのうちの一方に一端で水平方向Hに移動自在に接触するか又は上部取付部及び下部取付部のうちの一方と粘性ダンパーとのうちの他方に他端で水平方向Hに移動自在に接触するか又は上部取付部及び下部取付部のうちの一方と粘性ダンパーとに一端及び他端で水平方向Hに移動自在に接触するようになっているとよく、また、連結解除ピン68の周りに配された複数個、好ましくは、少なくとも3個の支柱(ボルト95)からなっていてもよい。
【0038】
以上の制振機能付の免震建物1では、通常時には、図1及び図2に示すように、円柱部34が水平方向Hにおいて容器25のほぼ中央部に配され、ボルト95の夫々の膨大頭部が水平方向Hにおいて対応の受台42の受面62のほぼ中央部に接触している。この状態で、強風が生じて免震装置5の弾性層11の剪断変形により基礎2に対して事務所ビル6が水平方向Hに振動される場合であって、その振動が例えば強風等による所定振幅以下であると共にその振動を生起させる水平力の大きさが一定以下である場合には、括れ部67が剪断されることなしに、事務所ビル6の水平方向Hの振動が上基台39に伝達される結果、アイソレータ4に埋設されている鉛支柱3の水平方向Hの弾塑性変形に加えて、図5に示すように、可動板29も事務所ビル6の水平方向Hの移動と共に水平方向Hに移動されて、可動板29の水平方向Hの移動により可動板29と固定板28との間の隙間の粘性体30が粘性剪断変形され、そして、鉛支柱3の水平方向Hの弾塑性変形に起因する抵抗力に加えて、粘性ダンパー21におけるこの粘性剪断変形に起因する抵抗力は、可動板29の水平方向Hの振動を減衰させ、これにより事務所ビル6の水平方向Hの振動を減衰させる。強風が収まると、免震装置5の弾性層11による原点復帰機能により免震建物1は、図1及び図2に示す状態に戻される。
【0039】
地震が生じて免震装置5の弾性層11の剪断変形により基礎2に対して事務所ビル6が水平方向Hに振動される場合であって、その振動を生起させる水平力の大きさが一定以下である場合も上記と同様であって、鉛支柱3の水平方向Hの弾塑性変形に起因する抵抗力と粘性ダンパー21における粘性剪断変形に起因する抵抗力とで事務所ビル6の水平方向Hの振動は減衰される。
【0040】
一方、地震が生じて免震装置5の弾性層11の剪断変形により基礎2に対して事務所ビル6が水平方向Hに振動される場合であって、その振動を生起させる水平力の大きさが一定以上である場合には、換言すれば、地震の加速度が大きい場合には、図6に示すように、括れ部67が水平方向Hに剪断されて取付板66と粘性ダンパー21との水平方向Hに関する該連結、換言すれば、事務所ビル6と粘性ダンパー21との水平方向Hに関する連結が解除されて基礎2に対する事務所ビル6の水平方向Hの振動の上基台39への伝達がなされない結果、可動板29はその位置に停止されて減衰動作を行わないようになる一方、事務所ビル6の水平方向Hの移動で鉛支柱3が十分に変形され、大きな水平力に基づく事務所ビル6の水平方向Hの移動が鉛支柱3の弾塑性変形でもって好ましく早期に減衰されることになる。
【0041】
括れ部67の剪断後は、空間61の分だけ上基台39が落下する結果、受台42の夫々の受面62は、対応のボルト95の膨大頭部から離れることになる。
【0042】
ところで、免震建物1によれば、事務所ビル6に加わる強風又は地震に起因する水平力の大きさが一定以下である場合には、連結解除ピン68の周りに配されたボルト95の膨大頭部が水平方向Hに移動自在に対応の受台42の受面62に接触しているために、斯かる強風又は地震に起因して連結部材36付近を中心とするR方向の曲げモーメントが事務所ビル6を介して取付板66に生じても、R方向の曲げモーメントの括れ部67への付加が阻止されることとなり、而して、R方向の曲げモーメントによる括れ部67での曲げ応力の発生が阻止され、斯かる応力発生による機械的疲労を避けることができ、機械的疲労による括れ部67の意図しない破断(切断)をなくすることができることになる。
【0043】
即ち、地震による水平方向Hの振動に対して免震作動すると共に当該振動を減衰させる免震装置5を介して事務所ビル6を基礎2上で支承してなる免震建物1によれば、粘性ダンパー21が事務所ビル6及び基礎2に水平方向Hに関して連結されて事務所ビル6の水平方向Hの振動を減衰させるようになっており、基礎2に対して事務所ビル6に一定以上の水平力が生じると解除機構22がその括れ部67の剪断で事務所ビル6に対する粘性ダンパー21の該連結を解除するようになっているために、免震装置5に加えて粘性ダンパー21でもって風等による微小振動を効果的に早期に減衰できて強風時の制振効果を得ることができ、しかも、一定以上の水平力を生じさせる地震による大きな振動に対しては事務所ビル6に対する振動減衰に関して免震装置5のみを作動させるようにしているために、一定以上の水平力に起因する大きな振動に対しても作動させることができるように粘性ダンパー21のストロークを長大にする必要もない結果、小型の粘性ダンパー21を用いることができる上に、剪断解除機構22が、連結解除ピン68の括れ部67への水平力の付加を許容すると共に括れ部67での剪断を許容する一方、連結解除ピン68の括れ部67へのR方向の曲げモーメントの付加に起因する括れ部67での曲げ応力の発生を阻止する曲げ応力阻止手段70を具備しているために、R方向の曲げモーメントによる連結解除ピン68の括れ部67の機械的疲労を避けることができ、斯かる機械的疲労による連結解除ピン68の括れ部67の意図しない破断(切断)をなくすることができ、一定以上の水平力に起因する水平方向Hの剪断が連結解除ピン68の括れ部67に生じない限りにおいて、粘性ダンパー21でもって風等による微小振動をも効果的に早期に減衰できて強風時の制振効果を得ることができる。
【0044】
免震装置としては、鉛支柱3を用いる代わりに、摩擦を用いた摩擦系の免震装置を用いてもよく、また、基礎2に対して事務所ビル6に相対的に一定以上の水平力が生じる場合に、粘性ダンパー21と取付板66を介する事務所ビル6との水平方向Hの連結を解除する代わりに、粘性ダンパー21と底壁板26を介する基礎2との水平方向Hの連結を解除するようにしてもよい。また、空間61を設けないで、括れ部67の剪断後に上基台39が落下しないようにしてもよく、更には、空間61に弾性体を配して、連結解除ピン68の括れ部67に上基台39等の荷重に基づく上下方向の引っ張り力ができるだけ付加されないようにしてもよく、これら剪断後に上基台39が落下しないようにする場合には、剪断後も受面62とボルト95との接触が確保されるように受面62の広さを十分に大きくすると共に必要に応じて受面62とボルト95との接触面にグリース等の潤滑剤を介在させるか又は例えば受面62とボルト95との間に低摩擦部材を介在させるかのいずれか少なくとも一方の手段を適用してもよいが、剪断前に括れ部67に不要な水平方向Hの剪断力が加わらないようにするためには、受面62とボルト95との接触面を多少の摩擦抵抗が生じるように粗面にしてもよい。
【0045】
なお、括れ部67で剪断された連結解除ピン68を括れ部67で剪断されていない新たな連結解除ピン68と交換することにより、再度、解除機構22として免震建物1に用いることができる。
【0046】
次に、本発明に係る粘性系の振動減衰装置の好適な実施形態について説明する。本実施形態の粘性系の振動減衰装置には、連結解除ピンの脆弱部の切断を検知する検知手段が備えられる。
【0047】
図7には、第1実施形態が示されている。この第1実施形態では、連結解除ピン68は、導電性の金属製材料で形成される。
【0048】
連結解除ピン68の括れ部67よりも上方の取付板66側となる本体71には、電極110が設けられる。また、連結解除ピン68の括れ部67よりも下方の上基台39側となる本体73にも、電極111が設けられる。このように第1実施形態では、括れ部67の上方と下方に、一対の電極110及び111が設けられる。
【0049】
電極110及び111は、連結解除ピン68の本体71及び73の表面に設けても、これら本体71及び73の内部に設けてもよい。
【0050】
これら電極110及び111には、直流電源112から電気配線113を介して直流電流が給電され、導電性の連結解除ピン68を通じて通電がなされる。
【0051】
電気配線113には、通電状態か否かを検知する通電センサ、例えば電流計114が設けられる。通電状態の確認は、電流計114に限らず、従来周知の各種手段を用いてよい。
【0052】
括れ部67が破断すると、通電が途切れることとなり、これが電流計114で検知され、括れ部67が破断したことを知らせることができる。
【0053】
装置を復旧するときには、電極110及び111付きの新しい連結解除ピン68に交換すればよい。
【0054】
図6には、第2実施形態が示されている。この第2実施形態は、括れ部67が破断すると、円筒体33と円柱部34の間の空間61の分だけ、上基台39が落下することを利用するものである。
【0055】
括れ部67が破断していない状態で一定距離を保っている取付板66及び上基台39のうちのいずれか一方に、これら取付板66と上基台39との間の上下方向Vの距離を検知する距離センサ115が設けられる。
【0056】
括れ部67が破断すると、上基台39が落下するため、取付板66と上基台39との間の上下方向距離が広がる(図中、δ参照)ように変化し、これが距離センサ115で検知され、括れ部67が破断したことを知らせることができる。
【0057】
装置を復旧するときには、新しい連結解除ピン68に交換するだけでよく、距離センサ115自体はメンテナンスフリーでそのまま引き続き使用することができる。
【0058】
図1には、第3実施形態が示されている。第3実施形態も、第2実施形態と同様に、上基台39が落下することを利用するものである。
【0059】
円筒体33と円柱部34との間の空間61内には、接触検知センサ116が設けられる。接触検知センサ116は、円筒体33及び円柱部34のいずれかに取り付けて設置するようにしてもよい。接触検知センサ116は、円筒体33と円柱部34の上下方向Vにおける接触を検知するものである。
【0060】
接触検知センサ116としては、空間61の消失によって円筒体33と円柱部34とが接触したことそのものを検知する接触センサであってもよいし、円柱部34等の重量が負荷されたことを検知する荷重センサであってもよい。
【0061】
括れ部67が破断すると、上基台39が落下するため、空間61が消失して円筒体33と円柱部34とが接触し、これが接触検知センサ116で検知され、括れ部67が破断したことを知らせることができる。
【0062】
装置を復旧するときには、新しい連結解除ピン68に交換すると共に、接触検知センサ116の継続使用の可否に応じ、新しいものに交換するか、そのまま引き続き使用すればよい。
【0063】
第1~第3実施形態のいずれにあっても、電極及び通電センサ、距離センサ、接触検知センサを設けるだけという簡単な構成で、連結解除ピンが切断されたか否かをいつでも、容易かつ確実に確認することができ、粘性系の振動減衰装置を適切に使用することができる。
【符号の説明】
【0064】
2 基礎
6 事務所ビル
21 粘性ダンパー
22 解除機構
26 底壁板
33 円筒体
34 円柱部
42 受台
61 空間
62 受面
66 取付板
67 括れ部
68 連結解除ピン
70 曲げ応力阻止手段
71 本体
73 本体
95 ボルト
98 保持部材
99 ロックナット
110,111 電極
114 電流計
115 距離センサ
116 接触検知センサ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7