(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022134433
(43)【公開日】2022-09-15
(54)【発明の名称】粘性系の振動減衰装置の復旧方法
(51)【国際特許分類】
E04H 9/02 20060101AFI20220908BHJP
E04H 9/14 20060101ALI20220908BHJP
E04G 23/02 20060101ALI20220908BHJP
F16F 15/02 20060101ALI20220908BHJP
F16F 15/04 20060101ALI20220908BHJP
【FI】
E04H9/02 331Z
E04H9/14 G
E04G23/02 C
F16F15/02 Z
F16F15/04 A
F16F15/04 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021033552
(22)【出願日】2021-03-03
(71)【出願人】
【識別番号】000140292
【氏名又は名称】株式会社奥村組
(71)【出願人】
【識別番号】000103644
【氏名又は名称】オイレス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094042
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 知
(72)【発明者】
【氏名】舟木 秀尊
(72)【発明者】
【氏名】山上 聡
(72)【発明者】
【氏名】小山 慶樹
(72)【発明者】
【氏名】山際 創
【テーマコード(参考)】
2E139
2E176
3J048
【Fターム(参考)】
2E139AA01
2E139AA05
2E139AA17
2E139AB14
2E139AB16
2E139AC03
2E139AC04
2E139AC06
2E139AD03
2E139BA03
2E139BA15
2E139BA19
2E139BD35
2E139BD46
2E139CA03
2E139CA21
2E139CB04
2E139CB05
2E139CB07
2E139CB08
2E139CB15
2E139CC02
2E176AA01
2E176AA07
2E176BB27
3J048AA02
3J048AC05
3J048BA08
3J048BC09
3J048BD08
3J048BE10
3J048DA01
3J048EA38
(57)【要約】
【課題】連結解除ピンが切断されたときに、容易に復旧することが可能な粘性系の振動減衰装置の復旧方法を提供する。
【解決手段】連結解除ピン68が括れ部67で切断された後、交換用連結解除ピン68に交換して解除機構を復旧するに際して、まず、交換用連結解除ピンの一方の本体73に、下側固定手段74の保持部材89を被せる作業と、回り止め治具110で保持部材を回り止めする作業を行い、次いで、保持部材と交換用連結解除ピンとをボルト90で締結して連結固定し、次いで、下側固定手段74を反転し、次いで、上側固定手段72の保持部材84を、交換用連結解除ピンの他方の本体71に被せる作業と、回り止め治具で保持部材を回り止めする作業を行い、次いで、保持部材と交換用連結解除ピンとをボルト85で締結して連結固定する。
【選択図】
図11
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水平方向に関して相対振動される上部構造物及び下部構造物の夫々に取り付けるための上部取付部及び下部取付部と、
該上部取付部及び該下部取付部のうちの一方に連結されて該下部取付部に対する該上部取付部の水平方向の振動を減衰させる粘性ダンパーと、
該粘性ダンパーに設けられ、該粘性ダンパーを、上記上部取付部及び上記下部取付部のうちの他方に連結させるための連結要素と、
上記上部取付部及び上記下部取付部のうちの他方と上記連結要素との間に設けられ、該下部取付部に対して該上部取付部に一定以上の水平力が生じると上記粘性ダンパーに対する該上部取付部及び該下部取付部のうちの少なくともいずれか一方との該連結を解除する解除機構とを備えており、
該解除機構は、
上記上部取付部及び上記下部取付部のうちの他方と上記連結要素との夫々に対し上側固定手段及び下側固定手段を介して設けられ、該上部取付部及び該下部取付部のうちの他方と上記粘性ダンパーとを水平方向に関して連結していると共に該下部取付部に対して該上部取付部に一定以上の水平力が生じると切断されて該上部取付部及び該下部取付部のうちの他方と該粘性ダンパーとの水平方向に関する該連結を解除する脆弱部を有した連結解除ピンと、
該連結解除ピンの上記脆弱部での曲げ応力の発生を阻止する曲げ応力阻止手段とを具備しており、
該曲げ応力阻止手段は、
上記上部取付部及び上記下部取付部のうちの他方と上記連結要素との間であって上記連結解除ピンの周りに配されていると共に膨大頭部を有している複数のボルトと、
上記上部取付部及び上記下部取付部のうちの他方と上記連結要素とのうちの一方に固着されていると共に上記各ボルトが螺着されている保持部材と、
上記上部取付部及び上記下部取付部のうちの他方と上記連結要素とのうちの他方に固着されていると共に上記各ボルトの上記膨大頭部に水平方向に移動自在に接触する受面を有した受台と、
上記各ボルトの上記保持部材からの突出量を調節するロックナットとを具備した粘性系の振動減衰装置において、
上記連結解除ピンが上記脆弱部で切断された後、交換用連結解除ピンに交換して上記解除機構を復旧するに際して、
まず、上記交換用連結解除ピンの一端に、切断された上記連結解除ピンを撤去した上記下側固定手段を被せる作業と、ボルト締結作業に対する回り止め治具で該下側固定手段を回り止めする作業を行い、
次いで、上記下側固定手段と上記交換用連結解除ピンとをボルト締結して連結固定し、
次いで、上記下側固定手段を反転し、
次いで、切断された上記連結解除ピンを撤去した上記上側固定手段を、上記交換用連結解除ピンの他端に被せる作業と、上記回り止め治具で該上側固定手段を回り止めする作業を行い、
次いで、上記上側固定手段と上記交換用連結解除ピンとをボルト締結して連結固定することを特徴とする粘性系の振動減衰装置の復旧方法。
【請求項2】
前記回り止め治具は、基盤と、該基盤に立てて設けられた2本以上の軸材とを含み、
2本以上の該軸材は、前記下部取付部に前記下側固定手段を取り付けるボルトを挿通するために当該下側固定手段に形成された複数のボルト穴のいずれか及び前記上部取付部に前記上側固定手段を取り付けるボルトを挿通するために当該上側固定手段に形成された複数のボルト穴のいずれかに対し、挿抜自在に挿通されることを特徴とする請求項1に記載の粘性系の振動減衰装置の復旧方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連結解除ピンが切断されたときに、容易に復旧することが可能な粘性系の振動減衰装置の復旧方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、免震装置に組み合わせて用いられる粘性タイプの振動減衰装置として、特許文献1が知られている。
【0003】
特許文献1の「粘性系の振動減衰装置及びこれを具備した免震建物」は、水平方向に関して相対振動される上部構造物及び下部構造物の夫々に取り付けるための上部取付部及び下部取付部と、該上部取付部及び該下部取付部に連結されて該下部取付部に対する該上部取付部の水平方向の振動を減衰させる粘性ダンパーと、上記下部取付部に対して上記上部取付部に一定以上の水平力が生じると上記粘性ダンパーに対する該上部取付部及び該下部取付部のうちの少なくとも一方の該連結を解除する解除機構とを備えており、該解除機構は、上記上部取付部及び上記下部取付部のうちの一方と上記粘性ダンパーとを水平方向に関して連結していると共に該下部取付部に対して該上部取付部に一定以上の水平力が生じると切断されて該上部取付部及び該下部取付部のうちの一方と該粘性ダンパーとの水平方向に関する該連結を解除する脆弱部を有した連結解除ピンと、該連結解除ピンの上記脆弱部での曲げ応力の発生を阻止する曲げ応力阻止手段とを具備しており、該曲げ応力阻止手段は、上記上部取付部及び上記下部取付部のうちの一方と上記粘性ダンパーとの間であって上記連結解除ピンの周りに配されていると共に膨大頭部を有している複数のボルトと、上記上部取付部及び上記下部取付部のうちの一方と上記粘性ダンパーとのうちの一方に固着されていると共に上記各ボルトが螺着されている保持部材と、上記上部取付部及び上記下部取付部のうちの一方と上記粘性ダンパーとのうちの他方に固着されていると共に上記各ボルトの上記膨大頭部に水平方向に移動自在に接触する受面を有した受台と、上記各ボルトの上記保持部材からの突出量を調節するロックナットとを具備している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記背景技術では、一定以上の水平力が生じると切断される連結解除ピンを用いることで、粘性ダンパーに、振動減衰させる場合とそれ以外の場合とを切り替えるようにしている。
【0006】
このような構成であると、連結解除ピンが切断されたときには、当該連結解除ピンを新しい連結解除ピンに交換して粘性系の振動減衰装置を復旧する必要がある。このため、当該復旧を容易に実施するための方策の案出が望まれていた。
【0007】
本発明は上記従来の課題に鑑みて創案されたものであって、連結解除ピンが切断されたときに、容易に復旧することが可能な粘性系の振動減衰装置の復旧方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明にかかる粘性系の振動減衰装置の復旧方法は、水平方向に関して相対振動される上部構造物及び下部構造物の夫々に取り付けるための上部取付部及び下部取付部と、該上部取付部及び該下部取付部のうちの一方に連結されて該下部取付部に対する該上部取付部の水平方向の振動を減衰させる粘性ダンパーと、該粘性ダンパーに設けられ、該粘性ダンパーを、上記上部取付部及び上記下部取付部のうちの他方に連結させるための連結要素と、上記上部取付部及び上記下部取付部のうちの他方と上記連結要素との間に設けられ、該下部取付部に対して該上部取付部に一定以上の水平力が生じると上記粘性ダンパーに対する該上部取付部及び該下部取付部のうちの少なくともいずれか一方との該連結を解除する解除機構とを備えており、該解除機構は、上記上部取付部及び上記下部取付部のうちの他方と上記連結要素との夫々に対し上側固定手段及び下側固定手段を介して設けられ、該上部取付部及び該下部取付部のうちの他方と上記粘性ダンパーとを水平方向に関して連結していると共に該下部取付部に対して該上部取付部に一定以上の水平力が生じると切断されて該上部取付部及び該下部取付部のうちの他方と該粘性ダンパーとの水平方向に関する該連結を解除する脆弱部を有した連結解除ピンと、該連結解除ピンの上記脆弱部での曲げ応力の発生を阻止する曲げ応力阻止手段とを具備しており、該曲げ応力阻止手段は、上記上部取付部及び上記下部取付部のうちの他方と上記連結要素との間であって上記連結解除ピンの周りに配されていると共に膨大頭部を有している複数のボルトと、上記上部取付部及び上記下部取付部のうちの他方と上記連結要素とのうちの一方に固着されていると共に上記各ボルトが螺着されている保持部材と、上記上部取付部及び上記下部取付部のうちの他方と上記連結要素とのうちの他方に固着されていると共に上記各ボルトの上記膨大頭部に水平方向に移動自在に接触する受面を有した受台と、上記各ボルトの上記保持部材からの突出量を調節するロックナットとを具備した粘性系の振動減衰装置において、上記連結解除ピンが上記脆弱部で切断された後、交換用連結解除ピンに交換して上記解除機構を復旧するに際して;まず、上記交換用連結解除ピンの一端に、切断された上記連結解除ピンを撤去した上記下側固定手段を被せる作業と、ボルト締結作業に対する回り止め治具で該下側固定手段を回り止めする作業を行い;次いで、上記下側固定手段と上記交換用連結解除ピンとをボルト締結して連結固定し;次いで、上記下側固定手段を反転し;次いで、切断された上記連結解除ピンを撤去した上記上側固定手段を、上記交換用連結解除ピンの他端に被せる作業と、上記回り止め治具で該上側固定手段を回り止めする作業を行い;次いで、上記上側固定手段と上記交換用連結解除ピンとをボルト締結して連結固定することを特徴とする。
【0009】
前記回り止め治具は、基盤と、該基盤に立てて設けられた2本以上の軸材とを含み、2本以上の該軸材は、前記下部取付部に前記下側固定手段を取り付けるボルトを挿通するために当該下側固定手段に形成された複数のボルト穴のいずれか及び前記上部取付部に前記上側固定手段を取り付けるボルトを挿通するために当該上側固定手段に形成された複数のボルト穴のいずれかに対し、挿抜自在に挿通されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明にかかる粘性系の振動減衰装置の復旧方法にあっては、連結解除ピンが切断されたときに、容易に復旧することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図2に示す例の振動減衰装置の断面説明図である。
【
図2】本発明にかかる粘性系の振動減衰装置の復旧方法が適用される装置例の正面説明図である。
【
図3】
図1に示す振動減衰装置のIII-III線矢視断面図である。
【
図4】
図1に示す例の連結解除ピンの斜視図である。
【
図7】本発明にかかる粘性系の振動減衰装置の復旧方法の好適な一実施形態の第1ステップに用いられる回り止め治具の斜視図である。
【
図8】本発明にかかる粘性系の振動減衰装置の復旧方法の好適な一実施形態の第1ステップにおける下側固定手段への連結解除ピンの連結固定作業の説明図である。
【
図9】
図8に続く、下側固定手段の反転作業の説明図である。
【
図10】
図9に続く、上側固定手段の回り止め作業の説明図である。
【
図11】
図10に続く、上側固定手段への連結解除ピンの連結固定作業の説明図である。
【
図12】本発明にかかる粘性系の振動減衰装置の復旧方法の好適な一実施形態の第2ステップにおける第1工程の説明図である。
【
図13】
図12の第1工程中、上側固定手段及び下側固定手段を滑りシートで移動した様子の説明図である。
【
図14】
図12の第1工程中、上側固定手段及び下側固定手段をリフトアップした様子の説明図である。
【
図15】
図12の第1工程中、下側固定手段を上基台に載置した様子の説明図である。
【
図16】
図12に続く、第2ステップにおける第2工程の説明図である。
【
図17】
図16の第2工程中、上基台を回り止めした様子の説明図である。
【
図18】
図16に続く、第2ステップにおける第3工程であって、曲げ応力阻止手段の受面と受台を非接触状態とした様子の説明図である。
【
図19】第2ステップにおける第3工程であって、
図18に続く、上基台をリフトアップした様子の説明図である。
【
図20】第2ステップにおける第3工程であって、
図19に続く、上側固定手段を取付板に固定した様子の説明図である。
【
図21】第2ステップにおける第3工程であって、
図20に続く、解除機構を取付板側から吊り下げ状態にした様子の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明にかかる粘性系の振動減衰装置の復旧方法を、添付図面を参照して詳細に説明する。まず、本発明の前提となる粘性系の振動減衰装置について説明する。
【0013】
図1から
図4において、本例の免震建物1は、地盤に杭等により固定されて設置されたコンクリート製の基礎2と、鉛支柱3入りのアイソレータ4からなる免震装置5と、免震装置5を介して基礎2上に支承された上部構造物としての事務所ビル6と、基礎2と事務所ビル6との間に配された粘性系の振動減衰装置7とを具備している。
【0014】
上部構造物は、好ましくは、事務所ビル、集合住宅又は戸建住宅であるが、特に好ましくは高層の事務所ビル又は集合住宅であるが、本発明はこれらに限定されず、その他の上部構造物であってもよい。
【0015】
また、上部構造物と下部構造物はそれぞれ、免震装置5が設置される免震層によって分断される構造体の上層部分及び下層部分であってもよい。
【0016】
下部構造物としての基礎2と事務所ビル6との間に介在されていると共に事務所ビル6の上下方向(鉛直方向)Vの荷重を支持する免震装置5は、地震による水平方向Hの振動に対して免震作動するアイソレータ4と、水平方向Hの振動を減衰させると共にアイソレータ4に埋設されている弾塑性体としての鉛支柱3と、アイソレータ4の上面及び下面の夫々に固着されていると共に事務所ビル6と基礎2との夫々にアンカーボルト等を介して固着された上下取付鋼板8及び9とを具備しており、アイソレータ4は、鋼板等からなる複数の剛性層10及びゴム等からなる複数の弾性層11が上下方向Vに交互に積層されている積層ゴムからなり、地震による水平方向Hの振動に対して免震作動すると共に当該振動を減衰させる斯かる免震装置5は、事務所ビル6の荷重を受けるべく、基礎2上に適当に分散されて複数個配されている。
【0017】
免震装置5としては、鋼板等からなる剛性層と振動を効果的に減衰させる高減衰ゴムなどからなる弾性層とが交互に積層された積層ゴムからなるものでもよく、また上記例示した、剛性層及び弾性層が交互に積層された積層ゴムと、この積層ゴムに埋設されていると共に振動を効果的に減衰させる鉛支柱とを具備するものでもよく、更には、滑り摩擦を用いたものであっても、以上のものを適宜組み合わせたものであってよく、要は、地震による水平方向Hの振動に対して免震作動する(アイソレータ機能を発揮する)と共に当該振動を減衰させる(減衰機能を発揮する)ものであればよい。
【0018】
さらに、免震装置5は、減衰機能がないものであっても良く、その場合には、振動減衰装置7とは別に、油圧式ダンパー等の減衰作用のある装置を設ければよい。
【0019】
免震装置5を介して基礎2に対して水平方向Hの振動に関して免震支持された高層の事務所ビル6の当該水平方向Hの振動を減衰させる振動減衰装置7は、水平方向Hに関して相対振動される基礎2及び事務所ビル6の夫々に取り付けられた下部取付部としての容器25の底壁板26及び上部取付部としての取付板66と、底壁板26及び取付板66に連結されて底板壁26に対する取付板66の水平方向Hの振動を減衰させる粘性ダンパー21と、事務所ビル6及び基礎2の水平方向Hに関する相対振動に起因して底壁板26に対して取付板66に一定以上の水平力が生じると粘性ダンパー21に対する取付板66及び底壁板26のうちの少なくとも一方、本例では取付板66の該連結を解除する解除機構22とを有している。
【0020】
粘性ダンパー21は、上記の下部取付部としての底壁板26を介して基礎2にアンカーボルト等により固着されて連結された容器25と、容器25内に配されて容器25の底壁板26に取付機構27を介して夫々の外周縁部で固着されていると共に上下方向Vにおいて互いに隙間をもって配された複数枚の円環状の固定板28と、容器25内に配されて上下方向Vにおいて固定板28に対して隙間をもって当該固定板28間の隙間の夫々に配されていると共に固定板28に対して水平方向Hに可動に配されている複数枚の円環状の可動板29と、固定板28と可動板29との間の隙間に配されていると共に容器25内に収容された粘性体30と、各可動板29の内周縁部が取付機構31を介して鍔部32に固着されて可動板29を支持する鍔部32付の円筒体33と、円筒体33内に上下方向Vに移動自在に嵌挿された円柱部34を有すると共に円柱部34に一体に形成された取付鍔部35を有した連結部材36と、連結部材36の取付鍔部35が複数個のボルト37により下面38に固着された、粘性ダンパー21を取付板66に連結させるための連結要素である四角形の上基台39と、上基台39の上面40の四個の角部に複数個のボルト41により固着された四個の受台42とを具備している。
【0021】
容器25は、基礎2にアンカーボルト等により固着された四角形の底壁板26と、底壁板26に溶接、ボルト等を介して固着された円筒状の側壁板45と、側壁板45に溶接等を介して固着された環状の鍔板46と、鍔板46に溶接、ボルト等を介して固着されていると共に連結部材36を通過させる円形の開口47を中央に有した環状の蓋板48と、底壁板26、側壁板45及び鍔板46の夫々に溶接等を介して固着された複数の補強部材49とを具備している。
【0022】
底壁板26は、振動減衰装置7を下部構造物としての基礎2に取り付けるための下部取付部としても機能しているが、斯かる下部取付部としては、底壁板26に代えて、当該底壁板26に溶接、ボルト等を介して固着されると共に基礎2にもアンカーボルト等により固着される下部取付板であってもよい。
【0023】
取付機構27は、上下円環状板51と、各固定板28の外周縁部間に配された円環状スペーサ板52と、各固定板28の外周縁部と共に上下円環状板51及び円環状スペーサ板52を底壁板26に固着する複数個のボルト53とを具備しており、取付機構31は、円環状板54と、各可動板29の内周縁部間に配された円環状スペーサ板55と、各可動板29の内周縁部と共に円環状板54及び円環状スペーサ板55を鍔部32に固着する複数個のボルト56とを具備している。
【0024】
円筒体33の下面57は、底壁板26の上面58に水平方向Hに可動に接触しており、円柱部34の底面59と円筒体33の内側底面60との間には空間61が保持されており、可動板29の両面には、固定板28と可動板29との間の隙間を保持すると共に固定板28に摺動自在に接触したスペーサ(図示せず)が固着されている。斯かるスペーサは、固定板28に設けてもよい。
【0025】
四個の受台42の夫々は、その上面に水平方向Hに平行であって平坦な滑り面からなる受面62を有している。
【0026】
粘性ダンパー21は、固定板28に対する可動板29の水平方向Hの移動において、固定板28と可動板29との間の隙間に配された粘性体30に粘性剪断変形を生じさせることにより、可動板29の水平方向Hの移動に対して粘性剪断変形に起因する抵抗力を及ぼして可動板29の水平方向Hの振動、延いては取付板66を介して事務所ビル6の水平方向Hの振動を減衰させるようになっている。
【0027】
取付板66は、事務所ビル6の下面65にボルト等により固着されている。
【0028】
解除機構22は、上部取付部としての取付板66及び下部取付部としての底壁板26のうちの一方、本例では取付板66と粘性ダンパー21とを水平方向Hに関して連結していると共に事務所ビル6及び基礎2の水平方向Hに関する相対振動に起因して底壁板26に対して取付板66に一定以上の水平力が生じると切断、本例では水平方向Hに剪断されて取付板66と粘性ダンパー21との水平方向Hに関する該連結を解除する脆弱部としての括れ部67を有した連結解除ピン68と、連結解除ピン68の括れ部67への連結部材36付近を中心とするR方向の曲げモーメントの付加に起因する括れ部67での曲げ応力の発生を阻止する曲げ応力阻止手段70と、連結解除ピン68の一方の本体71を取付板66及び底壁板26のうちの一方、本例では取付板66に固定する固定手段72と、連結解除ピン68の他方の本体73を粘性ダンパー21の上基台39に固定する固定手段74とを具備している。
【0029】
連結解除ピン68は、固定手段72を介して取付板66に固定されていると共に一端面にねじ孔75を有した円柱状の本体71と、固定手段74を介して粘性ダンパー21の上基台39に固定されていると共に一端面にねじ孔76を有した円柱状の本体73と、両本体71及び73の間に介在された脆弱部としての括れ部67とを一体的に具備している。
【0030】
連結解除ピン68は、通常、両本体71及び73と脆弱部とが一体形成されたものからなるが、脆弱部を両本体71及び73よりも機械的強度の低い材料から形成してもよく、斯かる機械的強度の低い材料を括れ部67に用いてもよい。
【0031】
固定手段72は、複数個のボルト81により取付板66の下面82に固着されていると共に本体71がぴったりと嵌合されている凹所83を有した保持部材84と、保持部材84の中央部を貫通していると共に本体71のねじ孔75に螺合しているボルト85とを具備しており、固定手段74は、複数個のボルト86により上基台39の上面40に固着されていると共に本体73がぴったりと嵌合されている凹所88を有した保持部材89と、保持部材89の中央部を貫通していると共に本体73のねじ孔76に螺合しているボルト90とを具備しており、保持部材84の下面と保持部材89の上面とは隙間91をもって対面されており、隙間91の位置に括れ部67が配されている。
【0032】
従って、粘性ダンパー21の可動板29が配される円筒体33内に、振動伝達のために嵌挿された円柱部34を備える上基台39は、連結解除ピン68を介して、上部取付部である取付板66から吊り下げられている。そして、連結解除ピン68による吊り下げにより、円柱部34の底面59と円筒体33の内側底面60との間に、空間61が形成されることになる。
【0033】
曲げ応力阻止手段70は、取付板66及び底壁板26のうちの一方、本例では取付板66と粘性ダンパー21との間に介在されていると共に取付板66と粘性ダンパー21とのうちの少なくとも一方、本例では粘性ダンパー21に対して水平方向Hに移動自在である介在部材としての四個のボルト95(二個のみ図示)と、各ボルト95を保持するべく、受台42に対応して取付板66の下面82の四個の角部の夫々に複数のボルト96により固着されていると共に夫々ねじ孔97を有した四個の保持部材98とを具備している。
【0034】
連結解除ピン68の周りに配された複数個の支柱としてのボルト95の夫々は、対応の保持部材98のねじ孔97に螺着されていると共にその膨大頭部で水平方向Hに移動自在に対応の受台42の受面62に接触している。各ボルト95の対応の保持部材98のねじ孔97への螺入量は、当該各ボルト95に螺着されたロックナット99により固定されている。斯かる螺入量、換言すれば、各ボルト95の対応の保持部材98からの突出量は、ロックナット99を緩めることにより調節することができるようになっている。
【0035】
曲げ応力阻止手段70は、好ましい例では、上部取付部(取付板66)及び下部取付部(底壁板26)のうちの一方と粘性ダンパー21との間に介在されると共に上部取付部及び下部取付部のうちの一方と粘性ダンパーとのうちの少なくとも一方に対して水平方向Hに移動自在である介在部材(ボルト95)を具備しており、斯かる介在部材は、上部取付部及び下部取付部のうちの一方と粘性ダンパーとのうちの一方に一端で水平方向Hに移動自在に接触するか又は上部取付部及び下部取付部のうちの一方と粘性ダンパーとのうちの他方に他端で水平方向Hに移動自在に接触するか又は上部取付部及び下部取付部のうちの一方と粘性ダンパーとに一端及び他端で水平方向Hに移動自在に接触するようになっているとよく、また、連結解除ピン68の周りに配された複数個、好ましくは、少なくとも3個の支柱(ボルト95)からなっていてもよい。
【0036】
以上の制振機能付の免震建物1では、通常時には、
図1及び
図2に示すように、円柱部34が水平方向Hにおいて容器25のほぼ中央部に配され、ボルト95の夫々の膨大頭部が水平方向Hにおいて対応の受台42の受面62のほぼ中央部に接触している。この状態で、強風が生じて免震装置5の弾性層11の剪断変形により基礎2に対して事務所ビル6が水平方向Hに振動される場合であって、その振動が例えば強風等による所定振幅以下であると共にその振動を生起させる水平力の大きさが一定以下である場合には、括れ部67が剪断されることなしに、事務所ビル6の水平方向Hの振動が上基台39に伝達される結果、アイソレータ4に埋設されている鉛支柱3の水平方向Hの弾塑性変形に加えて、
図5に示すように、可動板29も事務所ビル6の水平方向Hの移動と共に水平方向Hに移動されて、可動板29の水平方向Hの移動により可動板29と固定板28との間の隙間の粘性体30が粘性剪断変形され、そして、鉛支柱3の水平方向Hの弾塑性変形に起因する抵抗力に加えて、粘性ダンパー21におけるこの粘性剪断変形に起因する抵抗力は、可動板29の水平方向Hの振動を減衰させ、これにより事務所ビル6の水平方向Hの振動を減衰させる。強風が収まると、免震装置5の弾性層11による原点復帰機能により免震建物1は、
図1及び
図2に示す状態に戻される。
【0037】
地震が生じて免震装置5の弾性層11の剪断変形により基礎2に対して事務所ビル6が水平方向Hに振動される場合であって、その振動を生起させる水平力の大きさが一定以下である場合も上記と同様であって、鉛支柱3の水平方向Hの弾塑性変形に起因する抵抗力と粘性ダンパー21における粘性剪断変形に起因する抵抗力とで事務所ビル6の水平方向Hの振動は減衰される。
【0038】
一方、地震が生じて免震装置5の弾性層11の剪断変形により基礎2に対して事務所ビル6が水平方向Hに振動される場合であって、その振動を生起させる水平力の大きさが一定以上である場合には、換言すれば、地震の加速度が大きい場合には、
図6に示すように、括れ部67が水平方向Hに剪断されて取付板66と粘性ダンパー21との水平方向Hに関する該連結、換言すれば、事務所ビル6と粘性ダンパー21との水平方向Hに関する連結が解除されて基礎2に対する事務所ビル6の水平方向Hの振動の上基台39への伝達がなされない結果、可動板29はその位置に停止されて減衰動作を行わないようになる一方、事務所ビル6の水平方向Hの移動で鉛支柱3が十分に変形され、大きな水平力に基づく事務所ビル6の水平方向Hの移動が鉛支柱3の弾塑性変形でもって好ましく早期に減衰されることになる。
【0039】
括れ部67の剪断後は、空間61の分だけ上基台39が落下する結果、受台42の夫々の受面62は、対応のボルト95の膨大頭部から離れることになる。
【0040】
ところで、免震建物1によれば、事務所ビル6に加わる強風又は地震に起因する水平力の大きさが一定以下である場合には、連結解除ピン68の周りに配されたボルト95の膨大頭部が水平方向Hに移動自在に対応の受台42の受面62に接触しているために、斯かる強風又は地震に起因して連結部材36付近を中心とするR方向の曲げモーメントが事務所ビル6を介して取付板66に生じても、R方向の曲げモーメントの括れ部67への付加が阻止されることとなり、而して、R方向の曲げモーメントによる括れ部67での曲げ応力の発生が阻止され、斯かる応力発生による機械的疲労を避けることができ、機械的疲労による括れ部67の意図しない破断をなくすることができることになる。
【0041】
即ち、地震による水平方向Hの振動に対して免震作動すると共に当該振動を減衰させる免震装置5を介して事務所ビル6を基礎2上で支承してなる免震建物1によれば、粘性ダンパー21が事務所ビル6及び基礎2に水平方向Hに関して連結されて事務所ビル6の水平方向Hの振動を減衰させるようになっており、基礎2に対して事務所ビル6に一定以上の水平力が生じると解除機構22がその括れ部67の剪断で事務所ビル6に対する粘性ダンパー21の該連結を解除するようになっているために、免震装置5に加えて粘性ダンパー21でもって風等による微小振動を効果的に早期に減衰できて強風時の制振効果を得ることができ、しかも、一定以上の水平力を生じさせる地震による大きな振動に対しては事務所ビル6に対する振動減衰に関して免震装置5のみを作動させるようにしているために、一定以上の水平力に起因する大きな振動に対しても作動させることができるように粘性ダンパー21のストロークを長大にする必要もない結果、小型の粘性ダンパー21を用いることができる上に、剪断解除機構22が、連結解除ピン68の括れ部67への水平力の付加を許容すると共に括れ部67での剪断を許容する一方、連結解除ピン68の括れ部67へのR方向の曲げモーメントの付加に起因する括れ部67での曲げ応力の発生を阻止する曲げ応力阻止手段70を具備しているために、R方向の曲げモーメントによる連結解除ピン68の括れ部67の機械的疲労を避けることができ、斯かる機械的疲労による連結解除ピン68の括れ部67の意図しない破断(切断)をなくすることができ、一定以上の水平力に起因する水平方向Hの剪断が連結解除ピン68の括れ部67に生じない限りにおいて、粘性ダンパー21でもって風等による微小振動をも効果的に早期に減衰できて強風時の制振効果を得ることができる。
【0042】
免震装置としては、鉛支柱3を用いる代わりに、摩擦を用いた摩擦系の免震装置を用いてもよく、また、基礎2に対して事務所ビル6に相対的に一定以上の水平力が生じる場合に、粘性ダンパー21と取付板66を介する事務所ビル6との水平方向Hの連結を解除する代わりに、粘性ダンパー21と底壁板26を介する基礎2との水平方向Hの連結を解除するようにしてもよい。また、空間61を設けないで、括れ部67の剪断後に上基台39が落下しないようにしてもよく、更には、空間61に弾性体を配して、連結解除ピン68の括れ部67に上基台39等の荷重に基づく上下方向の引っ張り力ができるだけ付加されないようにしてもよく、これら剪断後に上基台39が落下しないようにする場合には、剪断後も受面62とボルト95との接触が確保されるように受面62の広さを十分に大きくすると共に必要に応じて受面62とボルト95との接触面にグリース等の潤滑剤を介在させるか又は例えば受面62とボルト95との間に低摩擦部材を介在させるかのいずれか少なくとも一方の手段を適用してもよいが、剪断前に括れ部67に不要な水平方向Hの剪断力が加わらないようにするためには、受面62とボルト95との接触面を多少の摩擦抵抗が生じるように粗面にしてもよい。
【0043】
なお、括れ部67で剪断された連結解除ピン68を括れ部67で剪断されていない新たな連結解除ピン68と交換することにより、再度、解除機構22として免震建物1に用いることができる。
【0044】
次に、本発明に係る粘性系の振動減衰装置の復旧方法の好適な一実施形態について説明する。復旧方法は、第1ステップと第2ステップから構成される。
【0045】
第1ステップは、連結解除ピン68が括れ部(脆弱部)67で切断された後、交換用連結解除ピン68に交換して解除機構22を復旧する段階である。
【0046】
第2ステップは、交換用連結解除ピン68と交換した解除機構22を粘性系の振動減衰装置7に組み込んで復旧する段階である。
【0047】
復旧作業を開始する準備として、上部取付部である取付板66及び下側取付部である容器25の底壁板26側に設けられる上基台39から、固定手段72及び74を、ボルト81及び86を緩めて取り外した上で、当該固定手段72及び74を、切断された連結解除ピン68ごと、取付板66と上基台39との間の空間から外方へ取り出し、そして、切断された連結解除ピン68を固定手段72及び74から撤去する。
【0048】
従って、復旧作業の開始段階では、粘性系の振動減衰装置7から取付板66側及び上基台39側の上下の固定手段72及び74が取り外されている。以下、取付板66に固着される固定手段を上側固定手段72と言い、上基台39に固着される固定手段を下側固定手段74という。
【0049】
復旧作業の第1ステップに際しては、
図7に示したような回り止め治具110を準備する。回り止め治具110は、高剛性の板状材である1枚の基盤111と、基盤111に立てて設けられる2本以上の高剛性で真直な軸材112とから構成される。本実施形態では、軸材112は全ネジボルトであって、回り止めに必要な最小限で、2本が備えられ、また、基盤111には、全ネジボルトの軸材112を設置するために、ネジ山を設けた軸材ボルト穴111aが形成されている。
【0050】
基盤111は、交換により新たに上側固定手段72及び下側固定手段74に装着される交換用連結解除ピン68を含め、下側固定手段74の保持部材89を一時的に、そしてまた、上側固定手段72及び下側固定手段74双方の保持部材84及び89を一時的に載置するのに用いられる。
【0051】
軸材112は、軸材ボルト穴111aに設置された状態で、基盤111上に突出する部分が
図1で示されているように、連結解除ピン68を介して上下に配置される上側固定手段72及び下側固定手段74の上下の保持部材84及び89の重ね合わせ高さよりも長い寸法で形成される。
【0052】
上側固定手段72及び下側固定手段74の各保持部材84及び89は上述したように、取付板66及び上基台39夫々に複数のボルト81及び86で取り付けて固着されるようになっていて、これら上側固定手段72及び下側固定手段74夫々の各保持部材84及び89には、これらを取付板66及び上基台39に取り付ける当該ボルト81及び86を挿通するための複数のボルト穴113及び114が同じ数、同じ位置に形成されている。
【0053】
2本の軸材112は、例えば下側固定手段74を基盤111の上に載せた後、保持部材89の2つのボルト穴114に挿抜自在に挿通され、軸材ボルト穴111aに螺合される。
【0054】
2本の軸材112がボルト穴114に挿通された下側固定手段74の保持部材89は、基盤111の上での水平回転が阻止される。
【0055】
また後述するように、2本の軸材112は、下側固定手段74の保持部材89上に重ねて、基盤111の上に載せられる上側固定手段72の保持部材84の2つのボルト穴113に挿抜自在に挿通される。
【0056】
これにより、上側固定手段72の保持部材84の基盤111の上での水平回転が阻止される。
【0057】
2本の軸材112は好ましくは、下側固定手段74及び上側固定手段72の保持部材84及び89夫々で、もっとも距離が空いている2つのボルト穴113及び114に対して挿通されるように、それらボルト穴113及び114の位置に合わせて基盤111に配置される。
【0058】
これにより、上側固定手段72及び下側固定手段74の保持部材84及び89を効果的に回り止めすることができる。
【0059】
まず、準備した回り止め治具110の基盤111の上に、
図8に示すように、本体71及び73が上下に位置するようにして、交換用連結解除ピン68を載せる。
【0060】
次いで、当該交換用連結解除ピン68の一端となる一方の本体73に、切断された連結解除ピンを撤去した下側固定手段74の保持部材89を、2本の軸材112をその2つのボルト穴114に挿通しながら被せるようにし、それに伴って、当該一方の本体73を保持部材89の凹所88に嵌合させる。
【0061】
このとき、下側固定手段74の保持部材89の上下の向きは、復旧後の姿勢とは異なり、上下逆さまの姿勢とされる。
【0062】
保持部材89は、2本の軸材112に挿通されることにより、ボルト締結作業に対する回り止め治具110に装着され、これにより保持部材89を回り止めすることができる。
【0063】
次いで、各軸材112夫々にナット115を螺着する。これにより、保持部材89を回り止め治具110に強固に固定することができる。ナット115は使用しなくてもよい。
【0064】
次いで、保持部材89の中央部を貫通するボルト90を、本体73のねじ孔76に向けて螺合する。
【0065】
これにより、下側固定手段74の保持部材89に、交換用連結解除ピン68の一方の本体73を連結固定する。
【0066】
ボルト90のねじ孔76への螺合に際して、回り止め治具110により保持部材89の回転を確実に阻止することができ、交換用連結解除ピン68を下側固定手段74に対して、円滑かつ適切に固定することができる。
【0067】
次に、各軸材112からナット115を取り外して軸材112を基盤111から取り外し(軸材112にナット115を螺着させたまま軸材112を取り外してもよい)、連結解除ピン68が凹所88で連結された保持部材89を回り止め治具110から取り外す。
【0068】
さらに保持部材89を上下に反転した後、
図9に示すように、反転した下側固定手段74の保持部材89(復旧後の姿勢)を再び、ボルト穴114と軸材ボルト穴111aの位置が合うようにして、基盤111の上に載置する。
【0069】
下側固定手段74の保持部材89を基盤111の上に載置すると、交換用連結解除ピン68の他方の本体71が当該保持部材89の凹所88から上方に向けて突出された状態となる。
【0070】
次いで、当該交換用連結解除ピン68の他端となる他方の本体71に、切断された連結解除ピンを撤去した上側固定手段72の保持部材84を組み付けるに際しては、
図10に示すように、保持部材84の2つのボルト穴113に2本の軸材112を挿通しながら当該保持部材84を本体71に被せることができるよう、軸材ボルト穴111aにボルト穴113が合うように調整し、これにより、当該他方の本体71を保持部材84の凹所83に嵌合させる。
【0071】
このとき、
図11に示すように、上側固定手段72の保持部材84は、下側固定手段74の保持部材89の上に重ねられ、また、保持部材84の上下の向きは復旧後の姿勢で、回り止め治具110に装着される。
【0072】
上下2つの保持部材84及び89はともに、2本の軸材112に挿通されることにより、ボルト締結作業に対する回り止め治具110に装着され、これにより保持部材84及び89を回り止めすることができる。
【0073】
2本の軸材112は、上側固定手段72及び下側固定手段74のボルト穴113及び114に挿通され、軸材ボルト穴111aに螺合されるため、これら上側固定手段72と下側固定手段74の周方向における位置が合っていることを確認する定規としても機能させることができる。
【0074】
次いで、各軸材112夫々にナット115を螺着する。これにより、保持部材72及び74を回り止め治具110に強固に固定することができる。ナット115は使用しなくてもよい。
【0075】
次いで、保持部材84の中央部を貫通するボルト85を、本体71のねじ孔75(
図10参照)に向けて螺合する。
【0076】
これにより、上側固定手段72の保持部材84に、交換用連結解除ピン68の他方の本体71を連結固定する。
【0077】
ボルト85のねじ孔75への螺合に際して、回り止め治具110により保持部材84の回転を確実に阻止することができ、交換用連結解除ピン68を上側固定手段72に対して、円滑かつ適切に固定することができる。
【0078】
その後は、軸材112を回転させて軸材ボルト穴111aから外し、ボルト穴113及び114から軸材112を抜き出して、上側固定手段72及び下側固定手段74の保持部材84及び89から回り止め治具110を撤去することにより、交換用連結解除ピン68を介して上側固定手段72と下側固定手段74を連結状態に復旧して、第1ステップを完了することができる。
【0079】
第1ステップの完了段階では、粘性系の振動減衰装置7から取付板66側及び上基台39側の上側固定手段72及び下側固定手段74が取り外されている状態である。
【0080】
以上説明した本実施形態にかかる粘性系の振動減衰装置の復旧方法の第1ステップ、すなわち連結解除ピン68が括れ部67で切断された後、交換用連結解除ピン68に交換して解除機構22を復旧する段階は、連結解除ピン68の一方の本体73に下側固定手段74を被せてかつ回り止めし、本体73に下側固定手段74を連結固定する作業を行い、次いで、下側固定手段74を反転した後、下側固定手段74の上で、連結解除ピン68の他方の本体71に上側固定手段72を被せてかつ回り止めし、本体71に上側固定手段72を連結固定する作業を実施するだけで、容易にかつ適切に解除機構22を復旧することができる。
【0081】
また、回り止め治具110は、基盤111と、基盤111に立てて設けられ、上側固定手段72及び下側固定手段74のボルト穴113及び114に挿抜自在に挿通され、基盤111の軸材ボルト穴111aに螺合される2本以上の軸材112という簡単な構成である。
【0082】
上側固定手段72及び下側固定手段74に元々設けられているボルト穴113及び114に挿通する軸材112を基盤111に設けるだけであり、容易に製作し取り扱うことができて、これら上側及び下側固定手段72及び74への交換用連結解除ピン68の取り付け作業を円滑に実施することができる。
【0083】
軸材112と保持部材84及び89の設置の手順は、上記の方法に限定されない。例えば、回り止め治具110に保持部材89を設置する際に、軸材ボルト穴111aと保持部材89のボルト穴114とが上下に重なるように位置合わせして保持部材89を基盤111上に設置し、その後、軸材112を、ボルト穴114に通して、軸材ボルト穴111aに螺合するようにすればよい。
【0084】
他方、回り止め治具110の2本の軸材112は、予め基盤111に固定して設けられていても良い。この場合、回り止め治具110に保持部材84及び89を設置する際には、保持部材84及び89は、それらのボルト穴113及び114に軸材112を通しながら基盤111上に設置される。
【0085】
回り止め治具110から保持部材84及び89を撤去する手順は、設置手順の反対に行えばよい。
【0086】
次に、復旧作業の第2ステップについて説明する。第2ステップは、交換用連結解除ピン68に交換した解除機構22を粘性系の振動減衰装置7に組み込んで復旧する段階である。
【0087】
取付板66及び上基台39から取り外し、第1ステップで交換用連結解除ピン68に交換して連結状態とした上側固定手段72及び下側固定手段74(
図11参照)に対し、まず、
図12に示すように、取付板66と上基台39との上下空間Sの所定位置Pへ移動する第1工程を実施する。
【0088】
移動するときには、下側固定手段74を上基台39の上面40で滑らせて移動する。所定位置Pとは、円柱部34(
図1及び
図19参照)の直上を言う。
【0089】
滑らせて移動する際には、上基台39の上面40に滑りシート116を敷いて行うことが好ましい。
【0090】
滑りシート116の上に、上側固定手段72及び下側固定手段74を載せ、滑りシート116を引っ張るなどして、当該滑りシート116を介して、これら上側固定手段72及び下側固定手段74を上基台39の上面40で移動する。
【0091】
上基台39と取付板66の上下空間S内で、下側固定手段74を所定位置Pに位置づけしたら、滑りシート116を撤去することにより、移動を行う第1工程が完了する。
【0092】
具体的には、
図13に示すように、所定位置Pまで移動させ、次いで、
図14に示すように、上側固定手段72を取付板66に固着する上ボルト81で両者を締結する。
【0093】
取付板66と上基台39との間には、上側固定手段72及び下側固定手段74を移動させる余裕の隙間dがあるため、上ボルト81で上側固定手段72を取付板66に締結して固着すると、下側固定手段74が上基台39の上面40から浮き上がるようにリフトアップすることができる。
【0094】
リフトアップした下側固定手段74と上基台39の間から、滑りシート116を引き出して撤去することができる。
【0095】
次いで、
図15に示すように上ボルト81を緩めて、上側固定手段72を取付板66側からリフトダウンする。
【0096】
リフトダウンにより、下側固定手段74を上基台39の上面40に載置して位置づけすることができる。
【0097】
次いで、
図16に示すように、下側固定手段74を上基台39に固着する下ボルト86で両者を本締めして固定する第2工程を実施する。
【0098】
この第2工程の完了時点では、上側固定手段72と取付板66との間には、隙間dがある。
【0099】
第2工程で、下側固定手段74を上基台39に本締めする下ボルト86の締結作業では、
図17に示すように、回り止め治具117を用いて上基台39を回り止めすることが好ましい。
【0100】
回り止め治具117は、粘性ダンパー21の容器25の蓋板48に上向きに突設され、かつ上基台39のいずれかの端面39aから間隙を空けて、当該端面39aに沿って配列される複数本のアイボルト118と、これらアイボルト118と上基台39の端面39aとの間の間隙に差し込んで設けられ、アイボルト118に支持されることにより、ボルト締結作業に伴う上基台39の回転を制止する角材などの棒状の回転制止部材119とから構成される。
【0101】
下ボルト86を本締めする際、締結に伴う摩擦で上基台39が回転しようとするが、この回転を回り止め治具117で制止することができ、下側固定手段74を下ボルト86で上基台39に適切に締結し固着することができる。
【0102】
次いで、上側固定手段72を取付板66に上ボルト81で本締めして固定し、これにより解除機構22を取付板66側から吊り下げ状態とする第3工程を実施する。
【0103】
第3工程に入る段階では、上述したように上側固定手段72と取付板66との間には隙間dがある。
【0104】
上側固定手段72と取付板66とを本締めするためには、隙間dがなくなるように、上側固定手段72を取付板66側に持ち上げるようにリフトアップする必要があり、このリフトアップは、下側固定手段74と上基台39とが既に連結固定されているので、上基台39とその下方の容器25の蓋板48との間で行うようにする。
【0105】
また、解除機構22は、連結解除ピン68が切断すると、上基台39が容器25の蓋板48上に着地し、曲げ応力阻止手段70の受面62と受台42とが非接触状態となるが、復旧にあたり当該応力阻止手段70に何ら処置を行わないと、上側固定手段72を上ボルト81で取付板66に取り付けて固着するためにリフトアップするときに、受面62と受台42とが当たって干渉してしまい、リフトアップの障害となってしまう。
【0106】
このため、リフトアップに際しては、
図18に示すように、上基台39と取付板66との間に設けられている解除機構22の曲げ応力阻止手段70に対し、ロックナット99を緩めて、ボルト95の螺入量を多くし、保持部材98からの突出量(取付板66の下面82から受面62までの距離)hを少なくして、受面62と受台42との間に、リフトアップの妨げとならない十分な間隔cを空けて非接触状態とする。
【0107】
次いで、
図19に示すように、容器25の蓋板48と上基台39との間にくさび120を挿入し、これにより、上側固定手段72をリフトアップし、取付板66の下面82に下方から密接させる。このとき、上基台39の円柱部34も、粘性ダンパー21の円筒体33に対して迫り上がる。
【0108】
次いで、
図20に示すように、上側固定手段72を取付板66に上ボルト81で本締めして固定し、固着する。
【0109】
その後、
図21に示すように、くさび21を撤去すると、上基台39から上方の解除機構22を取付板66側から吊り下げ状態とすることができる。
【0110】
解除機構22が吊り下げ状態に移行した後、曲げ応力阻止手段70のロックボルト99を緩めて保持部材98からのボルト95の突出量を調節し、受面62と受台42とを接触状態に復旧する作業を行う。
【0111】
以上により、交換用連結解除ピン66と交換した解除機構22を粘性系の振動減衰装置7に組み込んで、
図1に示した状態に復旧する第2ステップを完了することができる。
【0112】
以上説明した本実施形態にかかる粘性系の振動減衰装置の復旧方法の第2ステップ、すなわち交換用連結解除ピン68と交換した解除機構22を粘性系の振動減衰装置7に組み込んで復旧する段階は、連結解除ピン68を組み込んだ上側固定手段72及び下側固定手段74を取付板66と上基台39との間の上下空間Sの所定位置Pへ移動し、上基台39上の下側固定手段74を先行して当該上基台39に固着し、次いで、下側固定手段74側を上基台39ごとリフトアップして上側固定手段72を取付板66に密接させ、最後に、取付板66下の上側固定手段72を当該取付板66に固着する作業を実施するだけであり、その手順は合理的であって、容易にかつ適切に、粘性系の振動減衰装置7に対して解除機構22を組み込んで復旧することができる。
【0113】
上基台39をリフトアップして上側固定手段72を取付板66に密接させるようにしたので、上側固定手段72を取付板66に固着した後でリフトアップを解除すれば、そのまま解除機構22を吊り下げ状態に移行することができ、優れた作業手順で解除機構22を粘性系の振動減衰装置7に対して復旧することができる。
【0114】
連結解除ピン68を介して連結状態にある上側固定手段72及び下側固定手段74を滑りシート116に載せることにより、当該滑りシート116によって円滑に移動作業を行うことができる。
【0115】
上側固定手段72を取付板66に締結することで、下側固定手段74を上基台39から浮かせるようにリフトアップすることができ、別途の揚重装置等を用いて揚重作業を行うことなく、容易かつ合理的に滑りシート116を撤去することができる。
【0116】
また、リフトアップのための締結を緩めるだけで、所定位置に位置づけて、下側固定手段74を上基台39上に載置することができる。
【0117】
下側固定手段74を上基台39に下ボルト86で本締めする際、回り止め治具117で上基台39を回り止めできるので、的確にかつ容易に下側固定手段74を上基台39に固着することができる。
【0118】
上側固定手段72を取付板66側へリフトアップして本締めする際、曲げ応力阻止手段70の受面62を受台42に対して非接触状態とする作業を含むので、支障なく上側固定手段72を取付板66に的確に固着することができる。
【0119】
解除機構22を吊り下げ状態に移行した後で、曲げ応力阻止手段70の受面62と受台41とを接触状態に復旧する作業を行うので、解除機構22の復旧作業が曲げ応力阻止手段70に悪影響を及ぼすことがなく、解除機構22、そしてまた粘性系の振動減衰装置7を、連結解除ピン68の切断前と遜色のない性能に適切に復旧することができる。
【0120】
本発明の技術的範囲は、上記実施形態の説明のみに基づいて制限的に解釈されるものではなく、あくまでも特許請求の範囲の記述に従って解釈されるべきであり、その要旨を逸脱しない限りにおいて、すべての変更が含まれる。
【0121】
例えば、軸材112は全ネジボルトに限定されるものではなく、長ボルトであっても良い。その場合、
図8に示した回り止め治具110に保持部材89を設置するときには、長ボルトとして、その頭部の下面が保持部材89の上面に接する長さのものを用いることが望ましい。また、
図11に示した交換用連結解除ピン68を取り付けた保持部材89の上に保持部材84を載置するときには、長ボルトとして、その頭部の下面が保持部材84の上面に接する長さのものを用いることが望ましい。
【符号の説明】
【0122】
2 基礎
6 事務所ビル
7 粘性系の振動減衰装置
21 粘性ダンパー
22 解除機構
26 底壁板
33 円筒体
34 円柱部
42 受台
61 空間
62 受面
66 取付板
67 括れ部
68 連結解除ピン、交換用連結解除ピン
70 曲げ応力阻止手段
71 本体
72 上側固定手段
73 本体
74 下側固定手段
84,89 保持部材
85,90 ボルト
95 ボルト
98 保持部材
99 ロックナット
110 回り止め治具
111 基盤
112 軸材
113,114 ボルト穴