(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022134440
(43)【公開日】2022-09-15
(54)【発明の名称】圧力計算方法、液位計算方法、圧力計算装置及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G21C 17/02 20060101AFI20220908BHJP
G21C 17/035 20060101ALI20220908BHJP
【FI】
G21C17/02 200
G21C17/035
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021033562
(22)【出願日】2021-03-03
(71)【出願人】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【弁理士】
【氏名又は名称】古都 智
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(72)【発明者】
【氏名】大槻 昇平
(72)【発明者】
【氏名】住田 裕之
【テーマコード(参考)】
2G075
【Fターム(参考)】
2G075AA05
2G075BA03
2G075CA17
2G075DA04
2G075DA06
2G075FA03
2G075FB07
2G075GA18
(57)【要約】
【課題】解析コードの計算結果から任意の位置における圧力を計算する方法を提供する。
【解決手段】圧力計算方法は、液体が入った容器の所定の測定位置での前記液体の圧力を計算する方法であって、前記容器を複数の区画で分割したときの前記区画ごとの平均圧力の解析値を取得するステップと、複数の前記区画のうちの前記測定位置を含む前記区画である対象区画の前記解析値を選択するステップと、前記対象区画全体の高さに対する前記測定位置の高さに基づいて、前記対象区画の平均圧力を補正することで、前記測定位置における圧力を計算するステップと、を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体が入った容器の所定の測定位置での前記液体の圧力を計算する方法であって、
前記容器を複数の区画で分割したときの前記区画ごとの平均圧力の解析値を取得するステップと、
複数の前記区画のうちの前記測定位置を含む前記区画である対象区画の前記解析値を選択するステップと、
前記対象区画全体の高さに対する前記測定位置の高さに基づいて、前記対象区画の平均圧力を補正することで、前記測定位置における圧力を計算するステップと、
を有する圧力計算方法。
【請求項2】
前記測定位置における圧力を計算するステップでは、
前記対象区画の平均圧力をPvol、前記対象区画の上下端における圧力差をΔP、
前記測定位置の前記対象区画の上端からの高さ方向の距離をa、前記対象区画の高さをh、前記測定位置における圧力をPtとした場合、
Pt=Pvol+ΔP×((a÷h)-0.5)
によって、前記測定位置における圧力Ptを計算する、
請求項1に記載の圧力計算方法。
【請求項3】
前記容器は、原子力プラントの蒸気発生器であって、
前記平均圧力を取得するステップでは、前記原子力プラントの挙動を模擬する解析コードによって計算された、前記蒸気発生器を複数のボリュームに区画したときの前記ボリュームごとの冷却水圧力の解析値を取得し、
前記選択するステップでは、前記蒸気発生器における液位測定用の圧力タップの設置位置を含む前記ボリュームを前記対象区画として選択し、
前記測定位置における圧力を計算するステップでは、前記解析コードによって計算された前記対象区画の平均圧力を補正して、前記圧力タップの設置位置における圧力を計算する、
請求項1または請求項2に記載の圧力計算方法。
【請求項4】
原子力プラントの蒸気発生器において上位圧力タップと下位圧力タップについて、前記上位圧力タップの設置位置と前記下位圧力タップの設置位置の圧力を請求項1から請求項3の何れか1項に記載の圧力計算方法で計算し、
前記上位圧力タップの設置位置における圧力と前記下位圧力タップの設置位置における圧力の差圧から前記蒸気発生器の液位を計算する、
液位計算方法。
【請求項5】
原子力プラントの加圧器において上位圧力タップと下位圧力タップについて、前記上位圧力タップの設置位置と前記下位圧力タップの設置位置の圧力を請求項1から請求項3の何れか1項に記載の圧力計算方法で計算し、
前記上位圧力タップの設置位置における圧力と前記下位圧力タップの設置位置における圧力の差圧から前記加圧器の液位を計算する、
液位計算方法。
【請求項6】
液体が入った容器の所定の測定位置での前記液体の圧力を計算する圧力計算装置であって、
前記容器を複数の区画で分割したときの前記区画ごとの平均圧力の解析値を取得する取得部と、
複数の前記区画のうちの前記測定位置を含む前記区画である対象区画の前記解析値を選択する選択部と、
前記対象区画全体の高さに対する前記測定位置の高さに基づいて、前記対象区画の平均圧力を補正することで、前記測定位置における圧力を計算する計算部と、
を備える圧力計算装置。
【請求項7】
液体が入った容器の所定の測定位置での前記液体の圧力を計算するコンピュータに、
前記容器を複数の区画で分割したときの前記区画ごとの平均圧力の解析値を取得するステップと、
複数の前記区画のうちの前記測定位置を含む前記区画である対象区画の前記解析値を選択するステップと、
前記対象区画全体の高さに対する前記測定位置の高さに基づいて、前記対象区画の平均圧力を補正することで、前記測定位置における圧力を計算するステップと、
を実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、圧力計算方法、液位計算方法、圧力計算装置及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
原子力プラントの蒸気発生器では、ダウンカマー部において、冷却水の水位を含む範囲の上下に圧力タップを設置し、上下の圧力タップ位置で測定された圧力の差圧から水位を測定している(特許文献1)。一方、原子力プラントの解析コードでは、蒸気発生器内の水の体積に基づいて水位を計算している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
解析コードによる水位の計算は、実機での水位の測定方法と原理が異なるため、実機で測定された水位と誤差が生じることが多い。実機と同様の方法で水位を計算する方法が求められている。
【0005】
本開示は、上記課題を解決することができる圧力計算方法、液位計算方法、圧力計算装置及びプログラムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一実施形態によれば、圧力計算方法は、液体が入った容器の所定の測定位置での前記液体の圧力を計算する方法であって、前記容器を複数の区画で分割したときの前記区画ごとの平均圧力の解析値を取得するステップと、複数の前記区画のうちの前記測定位置を含む前記区画である対象区画の前記解析値を選択するステップと、前記対象区画全体の高さに対する前記測定位置の高さに基づいて、前記対象区画の平均圧力を補正することで、前記測定位置における圧力を計算するステップと、を有する。
【0007】
本開示の一実施形態によれば、液位計算方法は、原子力プラントの蒸気発生器において上位圧力タップと下位圧力タップについて、前記上位圧力タップの設置位置と前記下位圧力タップの設置位置の圧力を上記の圧力計算方法で計算し、前記上位圧力タップの設置位置における圧力と前記下位圧力タップの設置位置における圧力の差圧から前記蒸気発生器の液位を計算する。
【0008】
本開示の一実施形態によれば、液位計算方法は、原子力プラントの加圧器において上位圧力タップと下位圧力タップについて、前記上位圧力タップの設置位置と前記下位圧力タップの設置位置の圧力を上記の圧力計算方法で計算し、前記上位圧力タップの設置位置における圧力と前記下位圧力タップの設置位置における圧力の差圧から前記加圧器の液位を計算する。
【0009】
本開示の一実施形態によれば、圧力計算装置は、液体が入った容器の所定の測定位置での前記液体の圧力を計算する圧力計算装置であって、前記容器を複数の区画で分割したときの前記区画ごとの平均圧力の解析値を取得する取得部と、複数の前記区画のうちの前記測定位置を含む前記区画である対象区画の前記解析値を選択する選択部と、前記対象区画全体の高さに対する前記測定位置の高さに基づいて、前記対象区画の平均圧力を補正することで、前記測定位置における圧力を計算する計算部と、を備える。
【0010】
本開示の一実施形態によれば、プログラムは、液体が入った容器の所定の測定位置での前記液体の圧力を計算するコンピュータに、前記容器を複数の区画で分割したときの前記区画ごとの平均圧力の解析値を取得するステップと、複数の前記区画のうちの前記測定位置を含む前記区画である対象区画の前記解析値を選択するステップと、前記対象区画全体の高さに対する前記測定位置の高さに基づいて、前記対象区画の平均圧力を補正することで、前記測定位置における圧力を計算するステップと、を実行させる。
【発明の効果】
【0011】
上述の圧力計算方法、液位計算方法、圧力計算装置及びプログラムによれば、実機と同様の方法で圧力または液位を計算することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施形態に係る水位計算装置の一例を示す機能ブロック図である。
【
図3】実施形態に係る水位の計算方法を説明する図である。
【
図4】実施形態に係る水位計算方法の処理の流れの一例を示す図である。
【
図5】実施形態に係る水位計算方法の効果を説明する図である。
【
図6】実施形態の水位計算装置のハードウェア構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<実施形態>
(システム構成)
以下、本開示の水位計算装置について、
図1~
図6を参照しながら説明する。
図1に示す水位計算装置10は、解析コードと呼ばれる原子炉の解析用プログラムを利用して、
図2に示す蒸気発生器4の水位を計算する。
図2に加圧水型原子力プラント1の概略を示す。原子力プラント1は、原子炉2と、加圧器3と、蒸気発生器4と、一次冷却ループ5と、原子炉格納容器7とを備えている。原子炉2は、原子炉容器8と、燃料棒9aと、制御棒9bと、その他の炉内構造物(図示せず)と、を備えている。一次冷却ループ5は、原子炉容器8と蒸気発生器4との間で、一次冷却水を循環させる流路を形成している。一次冷却ループ5は、一次冷却水を循環させるための一次冷却ポンプ6を有している。加圧器3は、一次冷却ループ5の内部を加圧する。蒸気発生器4は、タービン等を含む二次側設備を流通する二次冷却水と、一次冷却ループ5を循環する一次冷却水とを熱交換させて、二次冷却水を加熱し、蒸気を発生させる。原子炉格納容器7は、原子炉2、一次冷却ループ5、加圧器3、蒸気発生器4を格納する。以下で説明するように、水位計算装置10は、解析コードによる蒸気発生器4内のボリュームごとの圧力計算値を用いて、実機における水位測定と同様の原理で蒸気発生器4の二次冷却水の水位を計算する。
【0014】
水位計算装置10は、入力受付部11と、制御部12と、記憶部13と、出力部14と、を備える。制御部12は、水位計算部121を備える。記憶部13は、解析コード131を記憶している。
入力受付部11は、水位計算に必要な各種情報の入力を受け付ける。
制御部12は、水位の計算処理を制御する。制御部12は、原子力プラント1の挙動を模擬するRELAP5などの解析コード131を用いて、蒸気発生器4のボリュームごとの圧力を計算する。解析コード131とは、原子力プラント1の挙動を模擬するプログラムであり、異常などの様々な事象が生じた際の原子力プラント1の動作を解析し、動作中の諸量を計算する。原子力プラント1の解析では、その目的に応じて様々な種類の解析コードが用いられている。例えば、RELAP5と呼ばれる解析コード131を用いると、原子力設備1の冷却系における冷却水の流動を解析することができる。この解析の中では、ボリュームごとの冷却水の圧力、温度、密度などが計算される。
図2を参照して蒸気発生器4のボリュームについて説明する。ボリュームとは、蒸気発生器4を所定の領域ごとに区切ってできた各区画のことであり、解析コード131が蒸気発生器4内の冷却水や水蒸気の流動を解析する際の計算単位である。
図2の区画4a,4bは、ボリュームの一例である。解析コード131はボリューム単位でそのボリュームの冷却水等の特性を解析する。解析コード131は、ボリュームごとに冷却水の圧力、温度、流量、密度、体積、水蒸気の密度、体積などを計算する。解析コード131によって計算されるボリュームの圧力は、当該ボリュームの平均圧力である。
【0015】
また、解析コード131は、二次側設備との間で流通する二次冷却水について、蒸気発生器4に存在する二次冷却水の体積を計算し、この体積に基づいて、蒸気発生器4の水位を計算する。例えば、蒸気発生器4の上位圧力タップT1と下位圧力タップT2間の体積を100、ある時点で蒸気発生器4の上位圧力タップT1と下位圧力タップT2間に存在する冷却水の体積が80であれば、解析コード131は、蒸気発生器4の水位を80%と計算する。
【0016】
水位計算部121は、解析コード131が有している体積に基づく水位計算とは異なる方法で蒸気発生器4の水位を計算する。ここで、実機における水位の測定方法について説明する。
図2のT1,T2は、実機における水位測定用の圧力タップの設置位置である。実機では、位置T1に上位タップ、位置T2に下位タップを設け、上位タップ位置T1における圧力と下位タップ位置T2における圧力の差圧から水位を測定する。差圧から水位を測定する方法は公知である。最も簡単な例では、図示しない容器に水が貯留されており、水面を上下に挟む位置(上位をt1、下位をt2とする。)に上位圧力タップと下位圧力タップを設ける。このとき、上位タップ位置t1の圧力がpH、下位タップ位置t2の圧力がpL、液体の密度がρ、下位タップ位置t2から水面までの距離(高さ)をh、重力をgとすると、差圧Δp=pH-pL=ρghが成立し、ρ、gを既知とすると、差圧Δpを測定することで位置t2から水面までの距離hを算出し、t2にhを加算することで水位を計算することができる。一方、一般に提供されている解析コード131は、上述のとおり、蒸気発生器4内の二次冷却水の体積から水位を計算する。解析コード131によって原子力プラント1の挙動を模擬するときに、実際の水位測定と同様の原理で水位を計算できた方が、模擬した事象が実際に実機に生じたときに測定される水位に近い値が得られると考えられる。例えば、ある事象が発生したときの蒸気発生器4の水位変動を模擬したいような場合、実機の測定値に近い計算結果が得られた方が好都合である。
【0017】
さらに差圧に基づく水位(実機)と体積に基づく水位(解析コード)との違いについて検討する。例えば、蒸気発生器4に二次冷却水が静かな状態で貯留されているのならば、体積に基づいて水位を計算しても、差圧に基づいて水位を計算しても正しい水位が計算できる。しかしながら、蒸気発生器4では、熱交換によって冷却水が加熱されることで水蒸気が発生しており、液相においても一定程度の水蒸気が混ざっている状態が生じる。従って、蒸気発生器4の水位を計算する場合、冷却水の体積に基づいて計算される水位と、差圧によって計算される水位とでは誤差が生じやすい。この点から、冷却水の体積を水位に変換するのではなく、液相に含まれる気体成分を考慮して差圧によって水位を計算することが好ましい。
【0018】
そこで、水位計算部121は、解析コード131によって体積に基づいて計算される水位とは別に、実機と同様の原理によって、蒸気発生器4の水位を計算する。具体的には、水位計算部121は、解析コード131によって計算された上位タップ位置T1を含むボリュームの平均圧力を補正して、上位タップ位置T1の圧力を計算する。同様に水位計算部121は、解析コード131によって計算された下位タップの位置T2を含むボリュームの平均圧力を補正して、下位タップ位置T2の圧力を計算する。そして、これらの差圧から、蒸気発生器4の水位を計算する。また、上位タップ位置T1、下位タップ位置T2の圧力を求める際には、液相に含まれる水蒸気を考慮して圧力の補正を行う。これらの計算については、次に
図3を用いて説明する。
【0019】
記憶部13は、蒸気発生器4の水位の計算に必要な各種情報を記憶する。例えば、記憶部13は、RELAP5等の解析コード131やタップの設置位置を記憶する。
出力部14は、水位計算部121が計算した蒸気発生器4の水位を表示装置や電子ファイル等に出力する。
【0020】
次に
図3を用いて、水位計算部121による蒸気発生器4の水位の計算方法について説明する。
図3に蒸気発生器4の二次側のダウンカマー部の模式図を示す。上述のように解析コード131は、蒸気発生器4をボリュームV1、V2、・・・、Vi、・・・、Vnに区画し、各ボリュームの圧力等を計算する。ここでW1を水面とすると、水位W2はボリュームV2に存在する。ボリュームV1は蒸気が主体の気相、図示しないボリュームV3以下は二次冷却水が主体の液相である。
【0021】
上位タップ位置T1は、水位測定スパンの上位のタップ位置である。下位タップ位置T2は、水位測定スパンの下位のタップ位置である。上位タップ位置T1は、ボリュームV1に設けられている。下位タップ位置T2は、ボリュームViに設けられている。ボリュームViの場合、タップ位置T2における圧力とボリュームViの上端部(又は下端部)の圧力の差は、上端部(又は下端部)から位置T2までの距離に比例すると仮定することができる。
【0022】
つまり、各タップ位置の圧力は、解析コードによって計算された当該ボリュームの平均圧力に対して、ボリューム内の二次冷却水による水頭分だけ圧力勾配があると仮定して計算することができる。ボリュームの水頭ΔPは、次式(1)で表すことができる。
ΔP=(ρω×Vf+ρs×Vg)×h ・・・(1)
ここで、ρωは冷却水の密度、Vfは冷却水の単位高さあたりの体積、ρsは液体に含まれる水蒸気の密度、Vfは蒸気の単位高さあたりの体積、hはボリュームの高さである。また、各ボリュームの入口を上端(ボリュームViの場合、図示するViu)、出口を下端(ボリュームViの場合、図示するVid)とし、ボリューム入口圧力(Pi)、出口圧力(Po)、ボリューム平均圧力(Pvol)とする。すると、以下の式(2)、式(3)の関係が成り立つ。
Po-Pi=ΔP・・・(2)
(Po+Pi)/2=Pvol・・・(3)
式(2)、式(3)から、タップ位置の圧力をPt、当該ボリュームの高さをh、タップ位置のボリューム入口からの距離をaとすると、タップ位置の圧力Ptは、以下の式(4)で算出することができる。
Pt=Pvol+ΔP×((a÷h)-0.5))・・・(4)
【0023】
(上位タップ位置T1の圧力)
ここで、ボリュームV1の平均圧力をPvol_v1、ボリュームV1の冷却水の密度をρω_v1、単位高さあたりの冷却水の体積をVf_v1、水蒸気の密度をρs_v1、単位高さあたりの水蒸気の体積をVg_v1、ボリュームV1の高さをh1、ボリュームV1入口から上位圧力タップ位置T1までの距離をa1とする。すると、式(4)より上部タップ位置T1の圧力Pt1は、以下の式(5)で算出することができる。
Pt1=Pvol_v1+(ρω_v1×Vf_v1+ρs_v1×Vg_v1)×h1×9.8×((a1÷h1)-0.5)・・・(5)
式(5)の“9.8”は、“kg/m2”から“Pa”への換算係数である。式(5)のPvol_v1、ρω_v1、Vf_v1、ρs_v1、Vg_v1は、解析コードによって計算される値である。式(5)のh1、a1は予め定められた値である。これらの値を代入することによって、式(5)から上位タップ位置T1の圧力を計算することができる。
【0024】
(下位タップ位置T2の圧力)
同様にして、下位タップ位置T2の圧力を計算することができる。例えば、ボリュームViの平均圧力をPvol_vi、ボリュームViの冷却水の密度をρω_vi、単位高さあたりの冷却水の体積をVf_vi、水蒸気の密度をρs_vi、単位高さあたりの水蒸気の体積をVg_vi、ボリュームViの高さをh2、ボリュームVi入口から上位圧力タップ位置T2までの距離をa2とすると下位タップ位置T2の圧力Pt2は、以下の式(6)で算出することができる。
Pt2=Pvol_vi+(ρω_vi×Vf_vi+ρs_vi×Vg_vi)×h2×9.8×((a2÷h2)-0.5)・・・(6)
式(6)にPvol_vi、ρω_vi、Vf_vi、ρs_vi、Vg_vi、h2、a2を代入することによって下位タップ位置T2の圧力を計算することができる。
【0025】
以上によって上位タップ位置の圧力Pt1と、下位タップ位置の圧力Pt2とを計算することができるので、これらの差圧から、水位測定スパンにおける水位を、実機と同様の原理で計算することができる。
なお、上位と下位のタップ位置は
図3のT1、T2に限定されず、任意の位置に上位圧力タップと下位圧力タップを設け、その間の水位を計算することが可能である。
【0026】
(動作)
図4は、実施形態に係る水位計算方法の処理の流れの一例を示す図である。
前提として、記憶部13にはタップ位置T1~T2の位置に関する情報(どのボリュームに属するか(V1、Vi)、および当該ボリューム上端からの距離(a1~a2)とタップが設けられるボリュームの高さ(h1~h2)が予め登録されているとする。
【0027】
まず、解析コード131が、外乱等が生じたときの原子力プラント1の挙動を模擬する(ステップS1)。ユーザは、外乱等の模擬に必要な各種の解析条件の設定を行い、外乱発生時の原子力プラント1の模擬および水位の計算を水位計算装置10へ指示する。入力受付部11は、ユーザの指示操作を受け付け、制御部12に解析コード131による模擬を指示する。制御部12は、記憶部13から解析コード131を読み出して、ユーザによって設定された解析条件を解析コード131に設定し模擬を実行する。解析コード131は、指定された外乱が生じたときに原子力プラント1に生じる事象の進展および事象の進展に伴う状態の変化を模擬し、各状態における圧力、温度、流量などの諸量を計算する。解析コードは、計算した諸量の時刻歴データを出力する。例えば、解析コードは、蒸気発生器4における液相、気相の流動状態を解析する。この解析の中で、時々刻々の各ボリュームの平均圧力(Pvol)、冷却水の密度(ρω)および体積(Vf)、水蒸気の密度(ρs)および体積(Vg)などが計算される。解析コード131による各ボリュームの平均圧力Pvolの計算では、冷却水の流速による動圧の影響、加熱によって発生する水蒸気の影響も考慮されている。制御部12は、ボリュームごとに計算されたPv、ρω、Vf、ρs、Vgの時系列データを、記憶部13に記録する。
【0028】
次に水位計算部121が、上位タップ位置の圧力を計算する(ステップS2)。例えば、水位計算部121は、ステップS1で計算された時系列データを記憶部13から読み出して取得し、その中から、上位タップ位置T1を含むボリュームのPvol_v1、ρω_v1、Vf_v1、ρs_v1、Vg_v1を選択し、選択したこれらの値と記憶部13が記憶するボリュームv1の高さh1と、入口からの距離a1と、式(5)により、上位タップ位置T1における圧力Pt1を計算する。
【0029】
次に水位計算部121が、下位タップ位置の圧力を計算する(ステップS3)。例えば、模擬した状態での水位が水位測定スパンに含まれる場合、水位計算部121は、ステップS1で計算された時系列データを記憶部13から読み出して取得し、その中から、下位タップ位置T2を含むボリュームViのPvol_vi、ρω_vi、Vf_vi、ρs_vi、Vg_viを選択し、選択したこれらの値と記憶部13が記憶するボリュームviの高さh2と、入口からの距離a2と、式(6)により、下位タップ位置T2における圧力Pt2を計算する。
【0030】
次に水位計算部121が、上位タップ位置の圧力と下位タップ位置の圧力の差圧から水位を計算する(ステップS4)。水位計算部121は、ステップS2で計算した圧力Pt1とステップS3で計算した圧力Pt2の差圧に基づいて水位を計算する。次に出力部14が、上位タップ位置の圧力、下位タップ位置の圧力、差圧に基づく水位などの情報を表示装置などへ出力する(ステップS5)。出力部14は、解析コード131が計算した体積に基づく水位を併せて出力してもよい。
【0031】
以上説明したように、本実施形態によれば、実機における水位測定と同様の原理で、水位を計算することができる。水位の計算にあたっては、解析コードによって計算されるボリュームごとの平均圧力に基づいて、上下のタップ位置における圧力を補正するが、解析コードによる冷却系の流動解析では、冷却水の沸騰によって生じる水蒸気の圧力や冷却水の循環の動圧の影響が考慮され、各ボリュームの平均圧力が計算されているので精度の良い圧力補正ならびに水位の計算が可能である。
【0032】
次に本実施形態の効果の一例について説明する。
図5は、実施形態に係る水位計算方法の効果を説明する図である。
図5に、蒸気発生器4内の蒸気圧力が上昇する状況における水位の実測値、同様の事象を解析コード131によって模擬させたときの体積に基づいて計算された水位、本実施形態の方法によって計算された水位を示す。図の縦軸は水位、横軸は時間を示す。グラフLaは水位の実測値を示す。グラフLvは解析コード131が計算した体積に基づく水位を示す。グラフLpは本実施形態に係る水位計算装置10が計算した差圧に基づく水位を示す。図示するように、体積に基づいて計算された水位を示すグラフLvは、最も水位が低下したときにグラフLa及びグラフLpの水位に対して最も高い水位を示し、実測値のグラフLaは、中間的な水位を示し、本実施形態の水位計算方法で計算された水位を示すグラフLpは、最も低い水位を示している。何らかの事象が発生した場合の蒸気発生器4の水位については、最も低下したときの水位が重要であり、水位が下がる方がリスクが高いと判断される。体積に基づいて計算される水位(グラフLv)は、実測値(グラフLa)より高く、このような解析結果が事前に得られていると、実際に当該事象が発生した場合でも、それほど水位が下がらないと判断される可能性がある。これに対し、本実施形態の水位計算方法による水位(グラフLp)は、実測値(グラフLa)より低く計算されている。つまり、差圧に基づく水位の計算では、保守的な解析結果が得られている。この結果は、次のように理解される。この例では、蒸気発生器4の気相の圧力が上昇している状況を模擬している。すると、液相の水面が下側へ押し下げられ、液相内の水蒸気も押しつぶされる。このような状況における水位は、単純に冷却水の体積を水位に換算して得られる水位よりも低下する。従来の体積に基づく水位の計算では、気相の圧力上昇による水位への影響を計算結果に反映させることができない為、実測値よりも楽観的な水位が得られてしまう。差圧に基づく水位の計算方法であれば、気相の圧力上昇による下方向の圧力を考慮して解析された各ボリュームの平均圧力、冷却水および水蒸気の密度や体積を用いて水位を計算するためより正確な水位を計算することができる。
【0033】
このように本実施形態によれば、実機での水位測定と同様の方法で水位を計算するため、従来よりも精度よく水位を計算することができる。なお、本実施形態の水位の計算方法は、蒸気発生器4だけでなく加圧器3の水位の計算にも適用することができる。具体的には、
図3を参照して説明した水位計算方法における蒸気発生器4を加圧器3と読み替えて、実機の加圧器3に設置されている上位タップ位置に対応するボリュームと下位タップ位置に対応するボリュームの平均圧力などを解析コード131によって計算する。そして、計算された平均圧力を上記の方法によって補正することによって、上位タップ位置と下位タップ位置における圧力を計算し、それらの差圧によって加圧器3の水位を計算する。
また、上記の実施形態では、水位を計測することとしたが、水に限らず任意の液体の液位を同様の方法で計算することができる。
【0034】
図6は、実施形態の水位計算装置のハードウェア構成の一例を示す図である。
コンピュータ900は、CPU901、主記憶装置902、補助記憶装置903、入出力インタフェース904、通信インタフェース905を備える。
上述の水位計算装置10は、コンピュータ900に実装される。そして、上述した各機能は、プログラムの形式で補助記憶装置903に記憶されている。CPU901は、プログラムを補助記憶装置903から読み出して主記憶装置902に展開し、当該プログラムに従って上記処理を実行する。また、CPU901は、プログラムに従って、記憶領域を主記憶装置902に確保する。また、CPU901は、プログラムに従って、処理中のデータを記憶する記憶領域を補助記憶装置903に確保する。
【0035】
なお、水位計算装置10の全部または一部の機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することにより各機能部による処理を行ってもよい。ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータシステム」は、WWWシステムを利用している場合であれば、ホームページ提供環境(あるいは表示環境)も含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、CD、DVD、USB等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。また、このプログラムが通信回線によってコンピュータ900に配信される場合、配信を受けたコンピュータ900が当該プログラムを主記憶装置902に展開し、上記処理を実行しても良い。また、上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであっても良く、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであってもよい。
【0036】
以上のとおり、本開示に係るいくつかの実施形態を説明したが、これら全ての実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することを意図していない。これらの実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態及びその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0037】
<付記>
各実施形態に記載の圧力計算方法、液位計算方法、圧力計算装置及びプログラムは、例えば以下のように把握される。
【0038】
(1)第1の態様に係る圧力計算方法は、液体が入った容器の所定の測定位置での前記液体の圧力を計算する方法であって、前記容器を複数の区画で分割したときの前記区画ごとの平均圧力の解析値(解析コード131によるボリュームごとの平均圧力)を取得するステップ(ステップS1)と、複数の前記区画のうちの前記測定位置を含む前記区画である対象区画(
図3のタップ位置T1、T2)の前記解析値を選択するステップ(ステップS2、S3)と、前記対象区画全体の高さ(h1~h2)に対する前記測定位置の高さ(a1~a2)に基づいて、前記対象区画の平均圧力を補正することで、前記測定位置における圧力を計算するステップ(ステップS2、S3)と、を備える。
これにより、液体が入った容器のボリューム単位の圧力が得られれば、測定位置(圧力タップの設置位置)における圧力を計算することができる。
【0039】
(2)第2の態様に係る圧力計算方法は、(1)の圧力計算方法であって、前記測定位置における圧力を計算するステップでは、前記対象区画の平均圧力をPvol、前記対象区画の上下端における圧力差をΔP、前記測定位置の前記対象区画の上端からの高さ方向の距離をa、前記対象区画の高さをh、前記測定位置における圧力をPtとした場合、
Pt=Pvol+ΔP×((a÷h)-0.5)
によって、前記測定位置における圧力Ptを計算する。
これにより、Pvol、ΔP、a、hの値が得られれば、測定位置における圧力を計算することができる。
【0040】
(3)第3の態様に係る圧力計算方法は、(1)~(2)の圧力計算方法であって、前記容器は、原子力プラントの蒸気発生器であり、前記平均圧力を取得するステップでは、前記原子力プラントの挙動を模擬する解析コードによって計算された、前記蒸気発生器を複数のボリュームに区画したときの前記ボリュームごとの冷却水圧力の解析値を取得し、前記選択するステップでは、前記蒸気発生器における液位測定用の圧力タップの設置位置を含む前記ノードを前記対象区画として選択し、前記測定位置における圧力を計算するステップでは、前記解析コードによって計算された前記対象区画の平均圧力を補正して、前記圧力タップの設置位置における圧力を計算する。
これにより、解析コードによる解析結果から、実機と同様の方法で圧力タップ設置位置における圧力を測定することができる。
【0041】
(4)第4の態様に係る液位計算方法は、原子力プラント1の蒸気発生器4において上位圧力タップ(圧力タップは、圧力測定器)と下位圧力タップについて、前記圧力上位タップの設置位置(例えば、T1又はT2)と前記下位圧力タップの設置位置(例えば、T2)の圧力を(1)~(3)の何れか1つに記載の圧力計算方法で計算し、前記上位圧力タップの設置位置における圧力と前記下位圧力タップの設置位置における圧力の差圧から前記蒸気発生器の液位(水位)を計算する。
これにより、解析コードに計算結果を利用して、実機と同様の方法で蒸気発生器4の水位を計算することができる。また、任意の位置に設置された上位圧力タップおよび下位圧力タップに基づいて、その間の水位を測定することができる。
【0042】
(5)第5の態様に係る液位計算方法は、原子力プラント1の加圧器3において上位圧力タップ(圧力タップは、圧力測定器)と下位圧力タップについて、前記圧力上位タップの設置位置と前記下位圧力タップの設置位置の圧力を(1)~(3)の何れか1つに記載の圧力計算方法で計算し、前記上位圧力タップの設置位置における圧力と前記下位圧力タップの設置位置における圧力の差圧から前記加圧器の液位(水位)を計算する。
これにより、解析コードに計算結果を利用して、実機と同様の方法で加圧器3の水位を計算することができる。
【0043】
(6)第6の態様に係る圧力計算装置は、液体が入った容器の所定の測定位置での前記液体の圧力を計算する圧力計算装置であって、前記容器を複数の区画で分割したときの前記区画ごとの平均圧力の解析値を取得する取得部と、複数の前記区画のうちの前記測定位置を含む前記区画である対象区画の前記解析値を選択する選択部と、前記対象区画全体の高さに対する前記測定位置の高さに基づいて、前記対象区画の平均圧力を補正することで、前記測定位置における圧力を計算する計算部と、を備える。
【0044】
(7)第7の態様に係るプログラムは、液体が入った容器の所定の測定位置での前記液体の圧力を計算するコンピュータに、前記容器を複数の区画で分割したときの前記区画ごとの平均圧力の解析値を取得するステップと、複数の前記区画のうちの前記測定位置を含む前記区画である対象区画の前記解析値を選択するステップと、前記対象区画全体の高さに対する前記測定位置の高さに基づいて、前記対象区画の平均圧力を補正することで、前記測定位置における圧力を計算するステップと、を実行させる。
【符号の説明】
【0045】
1・・・原子力プラント
2・・・原子炉
3・・・加圧器
4・・・蒸気発生器
5・・・一次冷却ループ
6・・・一次冷却ポンプ
7・・・原子炉格納容器
8・・・原子炉容器
9a・・・燃料棒
9b・・・制御棒
10・・・水位計算装置
11・・・入力受付部
12・・・制御部
121・・・水位計算部
13・・・記憶部
131・・・解析コード
14・・・出力部
900・・・コンピュータ
901・・・CPU
902・・・主記憶装置
903・・・補助記憶装置
904・・・入出力インタフェース
905・・・通信インタフェース