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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022134443
(43)【公開日】2022-09-15
(54)【発明の名称】異常診断装置
(51)【国際特許分類】
   G05B 23/02 20060101AFI20220908BHJP
【FI】
G05B23/02 302R
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021033565
(22)【出願日】2021-03-03
(71)【出願人】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】石橋 達朗
(72)【発明者】
【氏名】木村 雄喜
【テーマコード(参考)】
3C223
【Fターム(参考)】
3C223AA01
3C223AA12
3C223BA01
3C223CC01
3C223DD01
3C223FF03
3C223FF08
3C223FF13
3C223FF24
3C223FF35
(57)【要約】
【課題】診断対象が、異常原因に相関する複数の診断パラメータの解析を要し、正常範囲又は正常モードが未知であっても、適切なクラス集合を生成することで異常診断を行うこと。
【解決手段】機械設備の時系列データの収集を行うデータ収集部と、時系列データに基づいて機械設備の正常状態と異常状態とをマッピングデータとする処理を行うデータ処理部と、を備え、データ処理部は、フレーム単位データ分割部と、診断パラメータ計算部と、前フレーム診断パラメータ計算部と、複数の特徴量抽出部を含むレンズ部と、抽出された特徴量のクラスタ構造から、正常と異常との度合いをノードにつながっているエッジの数として可視化するようにマッピングするマップ部と、を備え、複数の特徴量抽出部の各々は、診断パラメータ、診断パラメータを次元圧縮法により圧縮する際の第1主成分のスコア、又は異常スコアを抽出する、異常診断装置とする。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の診断パラメータと相関する機械設備の異常を診断する異常診断装置であって、
前記機械設備の時系列データの収集を行うデータ収集部と、
前記時系列データに基づいて前記機械設備の正常状態と異常状態とをマッピングデータとする処理を行うデータ処理部と、を備え、
前記データ処理部は、
前記時系列データを一定時間の複数のフレームに分割するフレーム単位データ分割部と、
前記分割された時系列データからフレーム単位の診断パラメータを計算する診断パラメータ計算部と、
前記フレーム単位の診断パラメータよりも前のフレームの診断パラメータを計算する前フレーム診断パラメータ計算部と、
前記診断パラメータから特徴量の抽出を行う複数の特徴量抽出部を含むレンズ部と、
前記抽出された特徴量のクラスタ構造から、正常と異常との度合いをノードにつながっているエッジの数として可視化するようにマッピングするマップ部と、を備え、
前記複数の特徴量抽出部の各々は、多次元の入力である診断パラメータ、多次元の入力である診断パラメータを次元圧縮法により圧縮する際の第1主成分のスコア、又は異常スコアを抽出する、異常診断装置。
【請求項2】
前記複数の特徴量抽出部は、第1の特徴量抽出部及び第2の特徴量抽出部を含み、
前記第1の特徴量抽出部が、多次元の入力である診断パラメータの総和、平均、中央値、最大値、最小値、偏差、L2ノルム及び最近傍n個の距離のうち一つ又は複数を抽出し、
前記第2の特徴量抽出部が、多次元の入力である診断パラメータを次元圧縮法により圧縮した際の第1主成分のスコアを抽出する請求項1に記載の異常診断装置。
【請求項3】
前記複数の特徴量抽出部は、第1の特徴量抽出部及び第2の特徴量抽出部を含み、
前記第1の特徴量抽出部が、多次元の入力である診断パラメータの総和、平均、中央値、最大値、最小値、偏差、L2ノルム及び最近傍n個の距離のうち一つ又は複数を抽出し、
前記第2の特徴量抽出部が、ガウス分布を仮定した外れ値検出、アイソレーションフォレスト又はOCSVMによる異常スコアを抽出する請求項1に記載の異常診断装置。
【請求項4】
前記複数の特徴量抽出部は、第1の特徴量抽出部及び第2の特徴量抽出部を含み、
前記第1の特徴量抽出部が、多次元の入力である診断パラメータを次元圧縮法により圧縮した際の第1主成分のスコアを抽出し、
前記第2の特徴量抽出部が、ガウス分布を仮定した外れ値検出、アイソレーションフォレスト又はOCSVMによる異常スコアを抽出する請求項1に記載の異常診断装置。
【請求項5】
前記マップ部によりマッピングされたデータ中のクラスタが1つであれば前記機械設備が正常状態と判定し、複数であれば異常状態と判定し、異常状態である場合には前記ノードにつながっているエッジの数により異常度合いを判定する判定部を更に備える請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の異常診断装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異常診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、機械設備のあらゆる異常データを収集することは困難である。
そこで、機械設備の安定した運用のためには、正常データのみに基づいて正常範囲又は正常モードの境界面を構築し、その境界面から正常範囲又は正常モードを外れたデータ自体又はそのデータの割合に基づいて機械設備の異常を検出することが考えられる。
このような1クラス識別問題には、例えば1クラスサポートベクターマシン(OCSVM:One-Class SVM)の適用が考えられる。
【0003】
従来技術の一例である特許文献1には、機械設備に設けられたセンサにより取得された時系列データに基づいて異常を診断する技術が開示されている。
従来技術の一例である特許文献2には、1つのOCSVMによる判定を行う技術が開示されている。
また、従来技術の一例である非特許文献1には、トポロジカルデータ解析のマッパー手法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-8337号公報
【特許文献2】特開2018-205994号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Gurjeet Singh ら、“Topological Methods for the Analysis of High Dimensional Data Sets and 3D Object Recognition”、[online]、2007年、[2021年2月22日検索]、インターネット<URL: https://research.math.osu.edu/tgda/mapperPBG.pdf>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記した特許文献1に示されるように、機械設備に設けられたセンサにより取得された時系列データで異常を診断する場合には、異常原因に相関する複数の診断パラメータの解析を要する。
例えば、回転機械のように診断対象の異常原因が複数の診断パラメータと相関している場合には入力が高次元であるので、異常のパターンが予め既知でないと、OCSVMによる判定は困難である。
また、上記した特許文献2に示されるように、1つのOCSVMによる判定では、対象の状態が時間とともに変化する場合には対応することが困難である。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、診断対象が、異常原因に相関する複数の診断パラメータの解析を要し、正常範囲又は正常モードが未知であっても、適切なクラス集合を生成することで異常診断を可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述の課題を解決して目的を達成する本発明の一態様は、複数の診断パラメータと相関する機械設備の異常を診断する異常診断装置であって、前記機械設備の時系列データの収集を行うデータ収集部と、前記時系列データに基づいて前記機械設備の正常状態と異常状態とをマッピングデータとする処理を行うデータ処理部と、を備え、前記データ処理部は、前記時系列データを一定時間の複数のフレームに分割するフレーム単位データ分割部と、前記分割された時系列データからフレーム単位の診断パラメータを計算する診断パラメータ計算部と、前記フレーム単位の診断パラメータよりも前のフレームの診断パラメータを計算する前フレーム診断パラメータ計算部と、前記診断パラメータから特徴量の抽出を行う複数の特徴量抽出部を含むレンズ部と、前記抽出された特徴量のクラスタ構造から、正常と異常との度合いをノードにつながっているエッジの数として可視化するようにマッピングするマップ部と、を備え、前記複数の特徴量抽出部の各々は、多次元の入力である診断パラメータ、多次元の入力である診断パラメータを次元圧縮法により圧縮する際の第1主成分のスコア、又は異常スコアを抽出する、異常診断装置である。
【0009】
上記構成の異常診断装置において、前記複数の特徴量抽出部は、第1の特徴量抽出部及び第2の特徴量抽出部を含み、前記第1の特徴量抽出部が、多次元の入力である診断パラメータの総和、平均、中央値、最大値、最小値、偏差、L2ノルム及び最近傍n個の距離のうち一つ又は複数を抽出し、前記第2の特徴量抽出部が、多次元の入力である診断パラメータを次元圧縮法により圧縮した際の第1主成分のスコアを抽出することが好ましい。
【0010】
上記構成の異常診断装置において、前記複数の特徴量抽出部は、第1の特徴量抽出部及び第2の特徴量抽出部を含み、前記第1の特徴量抽出部が、多次元の入力である診断パラメータの総和、平均、中央値、最大値、最小値、偏差、L2ノルム及び最近傍n個の距離のうち一つ又は複数を抽出し、前記第2の特徴量抽出部が、ガウス分布を仮定した外れ値検出、アイソレーションフォレスト又はOCSVMによる異常スコアを抽出することが好ましい。
【0011】
上記構成の異常診断装置において、前記複数の特徴量抽出部は、第1の特徴量抽出部及び第2の特徴量抽出部を含み、前記第1の特徴量抽出部が、多次元の入力である診断パラメータを次元圧縮法により圧縮した際の第1主成分のスコアを抽出し、前記第2の特徴量抽出部が、ガウス分布を仮定した外れ値検出、アイソレーションフォレスト又はOCSVMによる異常スコアを抽出することが好ましい。
【0012】
上記構成の異常診断装置は、前記マップ部によりマッピングされたデータ中のクラスタが1つであれば前記機械設備が正常状態と判定し、複数であれば異常状態と判定し、異常状態である場合には前記ノードにつながっているエッジの数により異常度合いを判定する判定部を更に備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、診断対象が、異常原因に相関する複数の診断パラメータの解析を要し、正常範囲及び正常モードが未知であっても、適切なクラス集合を生成することで異常診断を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、実施形態1に係る異常診断装置及び周辺構成を示す構成図である。
図2図2は、実施形態1におけるデータ処理部の構成を示す図である。
図3図3は、フレーム単位データ分割部によりフレームに分割された変位センサの信号を示す図である。
図4図4は、診断パラメータとレンズ部で抽出される特徴量とを示す図である。
図5図5は、異常を含む回転機の時系列データを示す図である。
図6図6は、すべての正常データにおいて、診断パラメータを抽出してマッピングしたマッピングデータを示す図である。
図7図7は、正常データ及び異常データの双方を含む場合において、診断パラメータを抽出してマッピングしたマッピングデータを示す図である。
図8図8は、正常状態から異常状態に遷移し、異常状態から正常状態に遷移する場合において、診断パラメータを抽出してマッピングしたマッピングデータを示す図である。
図9図9は、マップ部の概念の簡単な例を示す図である。
図10図10は、実施形態2におけるデータ処理部の構成を示す図である。
図11図11は、実施形態3におけるデータ処理部の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための形態について説明する。
ただし、本発明は、以下の実施形態の記載によって限定解釈されるものではない。
【0016】
<実施形態1>
図1は、本実施形態に係る異常診断装置1及び周辺構成を示す構成図である。
図1に示す異常診断装置1は、データ収集部11と、データ処理部12と、を備える。
データ収集部11は、機械設備2に搭載されたセンサ3の計測データを時系列データとして収集する。
計測データとしては、機械設備2内の構成の変位及び加速度を例示することができる。
データ処理部12は、データ収集部11からのデータを処理し、機械設備2の異常を診断する。
より具体的には、データ処理部12は、データ収集部11の時系列データから診断パラメータを計算し、高次元の入力データである診断パラメータから正常クラス及び異常クラスの階層的クラスタリングをトポロジカルデータ解析のマッパー手法で処理する。
トポロジカルデータ解析のマッパー手法は、非特許文献1に開示されている。
データ収集部11は、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)等のメモリを有し、収集したデータをROMに格納する。
データ処理部12は、CPU(Central Processing Unit)又はMPU(Micro Processing Unit)等のプロセッサと、ROM及びRAM等のメモリを有し、ROMに格納されたプログラムがプロセッサで実行される。
【0017】
機械設備2は、回転機械を有し、診断対象の異常が複数の診断パラメータと相関している装置である。
機械設備2としては、ガスタービン、蒸気タービン、圧縮機、油圧ポンプ、油圧モータ、電動モータ及び回転機に駆動される多関節アームを含むロボットを例示することができる。
【0018】
センサ3は、機械設備2の運転時に計測される、運転状態を示す計測データを取得し、異常診断装置1に送る。
センサ3から送られた計測データに基づいて、異常診断装置1により機械設備2の異常原因が特定される。
なお、センサ3は、複数設けられていることが好ましい。
センサ3としては、変位センサ、加速度センサ又は速度センサ等の機械的な変位を計測するセンサを例示することができる。
ただし、センサ3は、これらに限定されず、機械設備2の駆動電源の電圧又は電流を計測するセンサであってもよい。
このようなセンサ3によれば、時系列の振動データを取得することができる。
また、このような振動データに加えて、センサ3は、機械設備2の温度又は圧力等を計測するセンサも含むことが好ましく、機械設備2の温度又は圧力等のデータも収集することが好ましい。
【0019】
図2は、本実施形態におけるデータ処理部12の構成を示す図である。
図2に示すデータ処理部12は、フレーム単位データ分割部121と、診断パラメータ計算部122と、前フレーム診断パラメータ計算部123と、第1の特徴量抽出部1241及び第2の特徴量抽出部1242を含むレンズ部124と、マップ部125と、判定部126と、を備える。
【0020】
図3は、フレーム単位データ分割部121によりフレームに分割された変位センサの信号を示す図である。
データ収集部11で収集された時系列のデータは、図3に示すように、フレーム単位データ分割部121において、一定時間の複数のフレームに分割される。
【0021】
診断パラメータ計算部122及び前フレーム診断パラメータ計算部123は、変位センサの信号について、フレーム単位で高次元の時間領域又は周波数領域の診断パラメータを計算する。
ここで、診断パラメータとしては、一般的である以下のパラメータを用いる。
ここでは、フレームごとの時系列データx(i=1~N)により診断パラメータを計算する。
時系列データxの絶対値の振幅の平均値Xは下記の式(1)で表される。
【0022】
【数1】
【0023】
時系列データxの分散σは下記の式(2)で表される。
【0024】
【数2】
【0025】
時系列データxの振幅の平均値xは下記の式(3)で表される。
【0026】
【数3】
【0027】
波形のばらつきを表す特徴パラメータである変動率pは、下記の式(4)で表される。
【0028】
【数4】
【0029】
波形の非対称性を表す特徴パラメータである歪度pは、下記の式(5)で表される。
【0030】
【数5】
【0031】
波形確率密度関数の尖りの程度を表す特徴パラメータである尖度pは、下記の式(6)で表される。
【0032】
【数6】
【0033】
波形の衝撃性を表す特徴パラメータ波高率pは、下記の式(7)で表される。
下記の式(7)において、Xmax,aは|x|の上位10個の平均値である。
【0034】
【数7】
【0035】
波形の変動性を表すパラメータである波形率pは、下記の式(8)で表される。
【0036】
【数8】
【0037】
周波数領域のパラメータの計算は、以下のように行う。
まず、時系列データxはフーリエ変換により周波数スペクトルに変換される。
すなわち、周波数f(i=1~I)におけるスペクトル成分をF(f)としたときに、f及びσは、下記の式(9),(10)で定義される。
【0038】
【数9】
【0039】
【数10】
【0040】
波形の安定指数pf0は、下記の式(11)で表される。
【0041】
【数11】
【0042】
周波数領域の変動率pf1は、下記の式(12)で表される。
【0043】
【数12】
【0044】
周波数領域の歪度pf2は下記の式(13)で表される。
【0045】
【数13】
【0046】
周波数領域の歪度pf3は下記の式(14)で表される。
【0047】
【数14】
【0048】
なお、スペクトル成分はケプストラムであってもよい。
また、周波数スペクトルを特定の周波数領域に限って、F(f)をそのまま用いてもよい。
直交する2軸の変位又は加速度の時系列データであれば、スペクトル成分は回転方向と同一方向の前向き成分と、回転方向とは逆方向の後向き成分と、に分離したフルスペクトラムであってもよい。
【0049】
診断パラメータ計算部122は、フレームごとに上記の診断パラメータを計算し、一定時刻前までのフレームの診断パラメータを記憶したものに加える。
前フレーム診断パラメータ計算部123は、前フレームの上記の診断パラメータを計算する。
【0050】
レンズ部124は、第1の特徴量抽出部1241及び第2の特徴量抽出部1242を含む。
図4は、診断パラメータとレンズ部124で抽出される特徴量とを示す図である。
第1の特徴量抽出部1241は、上記の診断パラメータのデータに対して、多次元の入力である上記の診断パラメータの総和、平均、中央値、最大値、最小値、偏差、L2ノルム、最近傍n個の距離等をフレームごとに抽出する。
第2の特徴量抽出部1242は、上記の診断パラメータのデータに対して、多次元の入力である上記の診断パラメータを主成分分析、分布型確率的近傍埋め込み法(TSNE:T-distributed Stochastic Neighbor Embedding)、Isomap、UMAP(Uniform Manifold Approximation and Projection)等の次元圧縮法により圧縮した際の第1主成分のスコアを抽出する。
【0051】
マップ部125は、第1の特徴量抽出部1241の値と第2の特徴量抽出部1242の値との2次元のレンズ上に多次元の入力である診断パラメータをマッピングし、マッピングデータを出力する。
【0052】
ここで、診断対象である機械設備2が、回転数に比例して異常度合が大きくなる場合について説明する。
図5は、異常を含む回転機の時系列データを示す図である。
図5の回転機の時系列データに対して、診断パラメータとしては、絶対値の振幅の平均値Xとフルスペクトラムのスペクトル分布とをそのまま用いた。
1フレームに対して診断パラメータは491個である。
第1の特徴量抽出部1241は、フレームごとのL2ノルムを抽出する。
第2の特徴量抽出部1242は、フレームごとの主成分分析の第1主成分を抽出する。
マップ部125におけるマッピングでは、100個の正方形が形成され、オーバーラップ率は0.6とした。
【0053】
図6は、76sまでのすべての正常データにおいて、診断パラメータを抽出してマッピングしたマッピングデータを示す図である。
ここでは、2sごとのフレーム(合計73フレーム)に対して491個の診断パラメータを抽出してマッピングしている。
図6においては、すべてのデータが正常であるため、マッピングされたノードはすべてエッジで繋がっている。
各フレームはノードに所属する。
【0054】
図7は、140sまでの正常データ及び異常データの双方を含む場合において、診断パラメータを抽出してマッピングしたマッピングデータを示す図である。
ここでは、2sごとのフレーム(合計135フレーム)に対して491個の診断パラメータを抽出してマッピングしたマッピングしている。
図7においては、正常クラスタ、異常クラスタ、及び正常と異常が変化した変化点クラスタの3つが出現している。
なお、クラスタは、ノードとエッジが繋がったものである。
正常クラスタ及び異常クラスタにおいて、接続されたエッジの数が少ないものほど異常度が高いことが可視化されている。
【0055】
図8は、176sまでの正常状態から異常状態に遷移し、異常状態から正常状態に遷移する場合において、診断パラメータを抽出してマッピングしたマッピングデータを示す図である。
ここでは、2sごとのフレーム(合計170フレーム)に対して491個の診断パラメータを抽出してマッピングしている。
図8においては、1つの正常クラスタ、1つの異常クラスタ、及び正常と異常が変化した4つの変化点クラスタの6つが出現している。
また、図8においては、異常状態から正常状態になったものも正常クラスタのノードにマッピングされている。
図8においても、正常クラスタ及び異常クラスタにおいて、接続されたエッジの数が少ないものほど異常度が高いことが可視化されている。
なお、図6,7,8において、暗いノードは低回転数であり、明るいノードは高回転数である。
【0056】
図9は、マップ部125の概念の簡単な例を示す図である。
まず、2次元の円のデータの点集合を考え、y軸をレンズとして選択する。
そして、オーバーラップ率を50%とし、5つの区間であるカバーに分ける。
引き戻しカバーを生成するために、もとの高次元データ(ここでは2次元)にクラスタリングを適用する。
これは、1つのカバーの中の要素に対して行われる。
この場合、5つの点のグループのカバーに対して行われる。
この例では、最初のカバーは1つのノードで構成され、2番目のカバーは2つのノードで構成される。
もとのカバーにオーバーラップがあるので、各カバー内には共通する点がある。
そして、これらのカバーのナーブが計算される。
このナーブによりノード間を繋ぐエッジが決定される。
マップ部125は、このようにしてノードとエッジとの単体複体としてマップを形成する。
このマップ上のクラスタ構造により、正常又は異常の判定を教師なし学習することが可能である。
【0057】
判定部126は、マップ部125が出力するマッピングデータに基づいて、正常又は異常を判定し、判定結果を出力する。
ここで、判定結果は、マッピングデータ中のクラスタが1つであれば診断対象が正常状態であることを示し、マッピングデータ中のクラスタが複数であれば診断対象が異常状態であることを示す。
更には、診断対象が異常状態である場合には、判定結果には、対応するノードに接続されたエッジの数により異常度合いが示されていてもよい。
なお、ユーザーがマッピングデータに基づいて正常又は異常を判定してもよく、この場合には判定部126が設けられていなくてもよい。
【0058】
以上説明した本実施形態によれば、診断対象が、異常原因に相関する複数の診断パラメータの解析を要し、正常範囲又は正常モードが未知であっても、高次元の診断パラメータを単体複体として表すことで、正常状態と異常状態、すなわち正常及び異常の度合いをノード間のエッジの数で可視化することができる。
【0059】
<実施形態2>
本実施形態に係る異常診断装置は、実施形態1の異常診断装置1のデータ処理部12をデータ処理部12aに置き換えた点のみが異なり、その他の構成は異常診断装置1と同じであるため、実施形態1の説明を援用する。
【0060】
図10は、本実施形態におけるデータ処理部12aの構成を示す図である。
図10に示すデータ処理部12aは、図2に示すデータ処理部12のレンズ部124をレンズ部124aに置き換えた点のみが異なり、その他の構成は図2に示すデータ処理部12と同じであるため、実施形態1の説明を援用する。
【0061】
レンズ部124aは、第1の特徴量抽出部1241及び第2の特徴量抽出部1242aを含む。
第1の特徴量抽出部1241は、実施形態1で説明したように、診断パラメータのデータに対して、多次元の入力である診断パラメータの総和、平均、中央値、最大値、最小値、偏差、L2ノルム、最近傍n個の距離等をフレームごとに抽出する。
第2の特徴量抽出部1242aは、ガウス分布を仮定した外れ値検出、アイソレーションフォレスト、OCSVM等による異常スコアをフレームごとに抽出する。
マップ部125は、第1の特徴量抽出部1241の値と第2の特徴量抽出部1242aの値との2次元のレンズ上に多次元の入力である診断パラメータをマッピングし、マッピングデータを出力する。
【0062】
以上説明した本実施形態によれば、正常状態が特定の状態に集中し、又は特定の診断パラメータの変化のみで異常スコアを算出して異常度又は異常モードが事前に明らかである場合に、異常を明確に可視化することができる。
【0063】
<実施形態3>
本実施形態に係る異常診断装置は、実施形態1の異常診断装置1のデータ処理部12をデータ処理部12bに置き換えた点のみが異なり、その他の構成は異常診断装置1と同じであるため、実施形態1の説明を援用する。
【0064】
図11は、本実施形態におけるデータ処理部12bの構成を示す図である。
図11に示すデータ処理部12bは、図2に示すデータ処理部12のレンズ部124をレンズ部124bに置き換えた点のみが異なり、その他の構成は図2に示すデータ処理部12と同じであるため、実施形態1の説明を援用する。
【0065】
レンズ部124bは、第1の特徴量抽出部1241a及び第2の特徴量抽出部1242aを含む。
第1の特徴量抽出部1241aは、実施形態1で説明した第2の特徴量抽出部1242と同様に、診断パラメータのデータに対して、多次元の入力である診断パラメータを主成分分析、TSNE、ISOMAP、UMAP等の次元圧縮法により圧縮した際の第1主成分のスコアをフレームごとに抽出する。
第2の特徴量抽出部1242aは、実施形態2で説明したように、ガウス分布を仮定した外れ値検出、アイソレーションフォレスト、OCSVM等による異常スコアをフレームごとに抽出する。
マップ部125は、第1の特徴量抽出部1241aの値と第2の特徴量抽出部1242aの値との2次元のレンズ上に多次元の入力である診断パラメータをマッピングし、マッピングデータを出力する。
【0066】
以上説明した本実施形態によれば、正常状態が特定の状態に集中し、又は特定の診断パラメータの変化のみで異常スコアを算出して異常度又は異常モードが事前に明らかである場合であって、且つ未知の異常モードが存在する場合に、状態の変化をエッジの数として明確に可視化することができる。
【0067】
なお、本発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、上述の構成に対して、構成要素の付加、削除又は転換を行った様々な変形例も含むものとする。
【符号の説明】
【0068】
1 異常診断装置
11 データ収集部
12,12a,12b データ処理部
121 フレーム単位データ分割部
122 診断パラメータ計算部
123 前フレーム診断パラメータ計算部
124,124a,124b レンズ部
1241,1241a 第1の特徴量抽出部
1242,1242a 第2の特徴量抽出部
125 マップ部
126 判定部
2 機械設備
3 センサ

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11