(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022134503
(43)【公開日】2022-09-15
(54)【発明の名称】積層電極、電極付き歪抵抗膜および圧力センサ
(51)【国際特許分類】
G01L 9/04 20060101AFI20220908BHJP
【FI】
G01L9/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021033652
(22)【出願日】2021-03-03
(71)【出願人】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】小林 正典
(72)【発明者】
【氏名】海野 健
(72)【発明者】
【氏名】笹原 哲也
(72)【発明者】
【氏名】縄岡 孝平
【テーマコード(参考)】
2F055
【Fターム(参考)】
2F055AA40
2F055BB20
2F055CC02
2F055DD01
2F055EE12
2F055FF38
2F055GG12
(57)【要約】
【課題】耐熱性および耐湿性に優れた積層電極、電極付き歪抵抗膜および圧力センサを提供すること。
【解決手段】歪抵抗膜32の上に設けられる積層電極36であって、歪抵抗膜32は、CrとAlとを含み、積層電極36は、歪抵抗膜32の上に重なるコンタクト層36aと、コンタクト層36aの上に重なる拡散防止層36bと、拡散防止層36bの上に重なる実装層36cと、を有し、拡散防止層36bまたは実装層36cは、コンタクト層36aの端面36a1が露出しないように、コンタクト層36aを覆っている。
【選択図】
図4A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
歪抵抗膜の上に設けられる積層電極であって、
前記歪抵抗膜は、CrとAlとを含み、
前記積層電極は、前記歪抵抗膜の上に重なるコンタクト層と、前記コンタクト層の上に重なる拡散防止層と、前記拡散防止層の上に重なる実装層と、を有し、
前記拡散防止層または前記実装層は、前記コンタクト層が露出しないように、前記コンタクト層を覆っている積層電極。
【請求項2】
前記実装層または前記拡散防止層は、前記コンタクト層の端面よりも外側の位置で、前記歪抵抗膜の上面と接触している請求項1に記載の積層電極。
【請求項3】
前記拡散防止層および前記実装層のうち、前記実装層が、前記コンタクト層の端面が露出しないように、前記コンタクト層を覆っている請求項1または2に記載の積層電極。
【請求項4】
前記拡散防止層は、前記コンタクト層の端面が露出しないように、前記コンタクト層を覆っており、
前記実装層は、前記拡散防止層の端面が露出しないように、前記拡散防止層を覆っている請求項1または2に記載の積層電極。
【請求項5】
前記拡散防止層の上に重なる前記実装層または前記コンタクト層の上に重なる前記拡散防止層は、前記コンタクト層の端面よりも外側に位置する前記歪抵抗膜の上面に向けて傾斜しつつ延在している請求項1~4のいずれかに記載の積層電極。
【請求項6】
前記実装層または前記拡散防止層と前記歪抵抗膜との界面には凹凸が形成されている請求項1~5のいずれかに記載の積層電極。
【請求項7】
前記コンタクト層は、Tiを含み、
前記拡散防止層は、白金族元素を含み、
前記実装層は、Auを含む請求項1~6のいずれかに記載の積層電極。
【請求項8】
請求項1~7のいずれかに記載の積層電極と、
前記積層電極が設けられる前記歪抵抗膜と、を有する電極付き歪抵抗膜。
【請求項9】
請求項1~7のいずれかに記載の積層電極と、
前記積層電極が設けられる前記歪抵抗膜と、
前記歪抵抗膜が設けられるメンブレンと、を有する圧力センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歪抵抗膜の上に設けられる積層電極、電極付き歪抵抗膜およびこれらを有する圧力センサに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液体あるいは気体等の圧力を検出する圧力センサへの適用が可能なセンサ材として、歪抵抗膜が注目されている(特許文献1参照)。歪抵抗膜を用いた圧力センサでは、メンブレンとも呼ばれる基材の表面に歪抵抗膜が形成されており、基材に流体圧等が作用し変形が生じると、基材の表面に形成された歪抵抗膜に歪が生じ、その電気抵抗が変化する。この電気抵抗の変化を電気信号として検出することにより、その検出値に基づいて、基材に加わった圧力を算出することが可能となっている。
【0003】
ところで、歪抵抗膜の表面等には、上述した電気信号を外部回路へ取り出すために、電極が形成される。例えば、特許文献1には、歪抵抗膜の所定位置に、Au/Ni/Crからなる積層電極を形成する技術が記載されている。ここで、特許文献1に記載の積層電極において、Crからなる層はコンタクト層とも呼ばれ、歪抵抗膜との密着性に優れた材料で形成される。しかしながら、高温あるいは高湿環境下では、コンタクト層の劣化が進み、電極ひいては圧力センサの信頼性が低下するおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような課題に鑑みてなされ、その目的は、耐熱性および耐湿性に優れた積層電極、電極付き歪抵抗膜および圧力センサを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明に係る積層電極は、
歪抵抗膜の上に設けられる積層電極であって、
前記歪抵抗膜は、CrとAlとを含み、
前記積層電極は、前記歪抵抗膜の上に重なるコンタクト層と、前記コンタクト層の上に重なる拡散防止層と、前記拡散防止層の上に重なる実装層と、を有し、
前記拡散防止層または前記実装層は、前記コンタクト層が露出しないように、前記コンタクト層を覆っている。
【0007】
本発明に係る積層電極では、拡散防止層または実装層が、コンタクト層が露出しないように、コンタクト層を覆っている。そのため、拡散防止層または実装層によって、コンタクト層を空気等の外部環境から隔離することが可能となり、コンタクト層が外部環境に曝されることを回避することができる。したがって、高温あるいは高湿環境下でも、劣化しやすいコンタクト層を保護し、耐熱性および耐湿性に優れた積層電極を実現することができる。
【0008】
好ましくは、前記実装層または前記拡散防止層は、前記コンタクト層の端面よりも外側の位置で、前記歪抵抗膜の上面と接触している。この場合、実装層または拡散防止層は、コンタクト層の端面を跨ぎつつ、コンタクト層の端面よりも外側の位置まで延在することになる。その結果、実装層または拡散防止層によって、コンタクト層の端面の周辺一帯を覆うことが可能となり、コンタクト層の端面を外部環境から効果的に隔離し、上述した効果を良好に得ることができる。
【0009】
好ましくは、前記拡散防止層および前記実装層のうち、前記実装層が、前記コンタクト層の端面が露出しないように、前記コンタクト層を覆っている。実装層は、一般に、高温に対して安定した材質で構成される場合が多く、この場合、上記のような構成とすることにより、特に高温環境下においてコンタクト層の劣化を有効に防止することができる。
【0010】
好ましくは、前記拡散防止層は、前記コンタクト層の端面が露出しないように、前記コンタクト層を覆っており、前記実装層は、前記拡散防止層の端面が露出しないように、前記拡散防止層を覆っている。このような構成とすることにより、コンタクト層の端面を拡散防止層と実装層の二層で外部環境から隔離することが可能となり、上述した効果を良好に得ることができる。また、拡散防止層でコンタクト層の端面を覆うことにより、コンタクト層あるいは歪抵抗膜に含まれる元素がコンタクト層の端面から実装層へ相互拡散することを効果的に防止することができる。
【0011】
好ましくは、前記拡散防止層の上に重なる前記実装層または前記コンタクト層の上に重なる前記拡散防止層は、前記コンタクト層の端面よりも外側に位置する前記歪抵抗膜の上面に向けて傾斜しつつ延在している。このような構成とすることにより、実装層または拡散防止層をコンタクト層の端面から十分に離間した位置まで形成し、コンタクト層の端面と外部環境との間の距離を十分に確保することが可能となる。これにより、コンタクト層の端面を外部環境から効果的に隔離し、上述した効果を良好に得ることができる。
【0012】
好ましくは、前記実装層または前記拡散防止層と前記歪抵抗膜との界面には凹凸が形成されている。このような構成とすることにより、凹凸を形成した分だけ、実装層または拡散防止層と歪抵抗膜との界面に沿った沿面距離を延長することが可能となり、コンタクト層の端面を外部環境から効果的に隔離し、上述した効果を良好に得ることができる。また、実装層または拡散防止層と歪抵抗膜との間の接合面積が大きくなり、これらの間の密着力(接合強度)を高めることができる。
【0013】
好ましくは、コンタクト層は、Tiを含み、拡散防止層は、白金族元素を含み、実装層は、Auを含む。Tiは、他の金属元素と合金を形成しやすいため、コンタクト層にTiを含有させることにより、膜間および層間の密着強度を確保し、膜の剥離不良を効果的に防止することができる。また、Tiは、CrとAlとを含む歪抵抗膜に対して比較的拡散しにくい性質を有するため、コンタクト層にTiを含有させることにより、歪抵抗膜への相互拡散を効果的に防止することができる。また、Tiは、Auを含む実装層へも拡散しにくい性質を有するため、コンタクト層にTiを含有させることにより、実装層上面への析出が生じにくい。
【0014】
また、白金族元素は化学的に安定な元素であるため、拡散防止層に白金族元素を含有させることにより、コンタクト層あるいは歪抵抗膜に含まれる元素が実装層へ相互拡散することを効果的に防止することができる。また、相互拡散した元素の実装層界面での反応についても、効果的に抑制することができる。
【0015】
また、実装層は配線を介して外部回路に接続されるが、このような配線として耐熱性に優れたAu配線が好ましく用いられる。この場合、実装層にAuを含有させることにより、実装層に対する配線の密着性が良好になる。
【0016】
また、上記目的を達成するために、本発明に係る電極付き歪抵抗膜は、上述したいずれかの積層電極と、前記積層電極が設けられる歪抵抗膜とを有する。上述したように耐熱性および耐湿性に優れた積層電極を歪抵抗膜に設けることにより、耐熱性および耐湿性に優れた電極付き歪抵抗膜を実現することができる。
【0017】
また、上記目的を達成するために、本発明に係る圧力センサは、上述したいずれかの積層電極と、前記積層電極が設けられる歪抵抗膜と、歪抵抗膜が設けられるメンブレンとを有する。上述したように耐熱性および耐湿性に優れた積層電極を歪抵抗膜に設け、さらに当該歪抵抗膜をメンブレンに設けることにより、耐熱性および耐湿性に優れた圧力センサを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、本発明の第1実施形態に係る圧力センサの概略断面図である。
【
図3】
図3は、
図1に示す圧力センサに含まれる電極付き歪抵抗膜のパターン配列の一例を示す概略図である。
【
図5A】
図5Aは、本発明の第2実施形態に係る圧力センサに含まれる積層電極の拡大断面図である。
【
図6A】
図6Aは、本発明の第3実施形態に係る圧力センサに含まれる積層電極の拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を図面に示す実施形態に基づき説明する。
【0020】
第1実施形態
図1に示すように、圧力センサ10は、本発明の第1実施形態に係る積層電極36(
図2参照)と、積層電極36が設けられる電極付き歪抵抗膜30と、電極付き歪抵抗膜30が設けられるメンブレン22と、を有する。圧力センサ10は、高温・高圧環境下において使用される。以下において、電極付き歪抵抗膜30の表面に沿う方向を面内方向と呼び、電極付き歪抵抗膜30の厚み方向を面直方向と呼ぶ。
【0021】
圧力センサ10は、ステム20と、接続部材12と、抑え部材14と、回路基板16とをさらに有する。ステム20は、例えばステンレス等の金属で構成され、中空筒形状を有する。ステム20の一端は端壁で閉塞された閉塞端となっており、ステム20の他端は開放端となっている。メンブレン22は、ステム20の一端を形成する端壁で構成されており、圧力に応じて変形可能に構成されている。
【0022】
ステム20は、接続部材12の上面に配置されている。ステム20の内部に形成された中空部は、ステム20の他端において、接続部12の流路12bに連通している。圧力センサ10では、流路12bに導入される流体が、ステム20の中空部からメンブレン22の内面22aに導かれて、流体圧をメンブレン22に作用するようになっている。メンブレン22に流体圧が作用し変形が生じると、メンブレン22の表面に形成された歪抵抗膜30に歪が生じ、その電気抵抗が変化する。圧力センサ10では、この電気抵抗の変化を電気信号として検出することにより、その検出値に基づいて、メンブレン22に加わった圧力を測定することが可能となっている。
【0023】
ステム20は、フランジ部21を有する。フランジ部21は、ステム20の開放端の周囲に形成されており、ステム20の軸芯から外方に突出している。フランジ部21は、接続部材12と抑え部材14との間に挟まれており、メンブレン22の内面22aへと至る流路12bが密封されるようになっている。
【0024】
接続部材12は、ねじ溝12aを有する。圧力センサ10は、測定対象となる流体が封入されている圧力室等に対して、ねじ溝12aを介して固定される。これにより、接続部材12の内部に形成されている流路12bおよびステム20におけるメンブレン22の内面22aを、測定対象となる流体が内部に存在する圧力室に対して、気密に連通することが可能となっている。
【0025】
回路基板16は、抑え部材14の上面に取り付けられている。回路基板16は、ステム20の周囲を囲むリング状の形状を有しているが、回路基板16の形状としてはこれに限定されない。回路基板16には、例えば、電極付き歪抵抗膜30からの検出信号が伝えられる回路等が内蔵されている。
【0026】
電極付き歪抵抗膜30は、メンブレン22の外面22bに設けられている。電極付き歪抵抗膜30と回路基板16とは、ワイヤボンディング等による中間配線72により接続されている。
【0027】
図2に示すように、電極付き歪抵抗膜30は、歪抵抗膜32と、歪抵抗膜用積層電極(以下、積層電極)36と、を有する。歪抵抗膜32は、メンブレン22の外面22bに、下地絶縁層52を介して設けられている。下地絶縁層52は、メンブレン22の外面22bのほぼ全体を覆うように形成されており、例えばシリコン酸化物、シリコン窒化物、シリコン酸窒化物等で構成される。下地絶縁層52の厚みは、好ましくは10μm以下、さらに好ましくは1~5μmである。下地絶縁層52は、例えばCVD等の蒸着法によりメンブレン22の外面22bに形成することができる。
【0028】
なお、メンブレン22の外面22bが絶縁性を有する場合には、下地絶縁層52を形成することなく、メンブレン22の外面22bに直接に歪抵抗膜32を形成してもよい。例えば、メンブレン22がアルミナ等の絶縁材料からなる場合には、歪抵抗膜32をメンブレン22の外面22bに直接設けてもよい。
【0029】
図3に示すように、歪抵抗膜32には、第1抵抗体R1、第2抵抗体R2、第3抵抗体R3および第4抵抗体R4が、所定パターンで形成されている。第1抵抗体R1~第4抵抗体R4は、メンブレン22の変形に応じた歪を生じ、第1抵抗体R1~第4抵抗体R4の抵抗値はメンブレン22の変形に応じて変化する。第1抵抗体R1~第4抵抗体R4は、電気配線34によりホイートストーンブリッジ回路を構成するように接続されている。
【0030】
圧力センサ10では、第1抵抗体R1~第4抵抗体R4によるホイートストーンブリッジ回路の出力から、メンブレン22に作用する流体圧を検出する。第1抵抗体R1~第4抵抗体R4は、
図1および
図2に示すメンブレン22が流体圧により変形して歪む位置に設けられており、その歪み量に応じて抵抗値が変化するように構成されている。
【0031】
第1抵抗体R1~第4抵抗体R4を有する歪抵抗膜32は、例えば、所定の材料の導電性の薄膜を、パターニングすることにより作製することができる。歪抵抗膜32は、CrとAlとを含み、好ましくは、50~99at%のCrと、1~50at%のAlとを含み、さらに好ましくは70~90at%のCrと、5~30at%のAlとを含む。歪抵抗膜32がCrとAlとを含むことにより、高温環境下におけるTCR(Temperature coefficient of Resistance、抵抗値温度係数)やTCS(Temperature coefficient of sensitivity、抵抗温度係数)が安定し、精度の高い圧力検出が可能となる。また、CrとAlの含有量を所定の範囲とすることにより、高いゲージ率と良好な温度安定性を、より高いレベルで両立できる。
【0032】
歪抵抗膜32は、CrおよびAl以外の元素を含んでいてもよく、例えば、歪抵抗膜32は、ОやNを含んでいてもよい。歪抵抗膜32に含まれるOやNは、歪抵抗膜32を成膜する際に反応室から除去しきれずに残留したものが、歪抵抗膜32に取り込まれたものであってもよい。また、歪抵抗膜32に含まれるOやNは、成膜時またはアニール時に雰囲気ガスとして使用される等して、意図的に歪抵抗膜32に導入されたものであってもよい。
【0033】
また、歪抵抗膜32は、CrおよびAl以外の金属元素を含んでいてもよい。歪抵抗膜32は、CrおよびAl以外の金属や非金属元素を微量に含み、アニール等の熱処理が行われることにより、ゲージ率や温度特性が向上する場合がある。歪抵抗膜32に含まれるCrおよびAl以外の金属および非金属元素としては、例えば、Ti、Nb、Ta、Ni、Zr、Hf、Si、Ge、C、P、Se、Te、Zn、Cu、Bi、Fe、Mo、W、As、Sn、Sb、Pb、B、Ge、In、Tl、Ru、Rh、Re、Os、Ir、Pt、Pd、Ag、Au、Co、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Mnおよび希土類元素が挙げられる。
【0034】
歪抵抗膜32は、スパッタリングや蒸着等の薄膜法により形成することができる。第1抵抗体R1~第4抵抗体R4は、例えば薄膜をミアンダ形状にパターニングすることで形成することができる。歪抵抗膜32の厚みは、特に限定されないが、好ましくは10μm以下、さらに好ましくは0.1~1μmである。なお、電気配線34は、
図3に示すように、歪抵抗膜32をパターニングすることにより形成されたものであってもよく、歪抵抗膜32とは異なる導電性の膜または層によって形成されたものであってもよい。
【0035】
図2に示すように、積層電極36は、歪抵抗膜32の上に重ねて設けられる。より詳細には、積層電極36は、歪抵抗膜32の上表面の一部に形成されている。
【0036】
図3に示すように、積層電極36は、歪抵抗膜32上の4か所に、それぞれ独立して形成されている。図示の例では、4つの積層電極36の各々は、仮想的な長方形の4つの頂点の各々に対応する位置に配置されている。また、仮想的な長方形の4つの辺の各々に対応する位置に、第1抵抗体R1~第4抵抗体R4の各々が配置されている。各積層電極36は、電気配線34を介して、第1抵抗体R1~第4抵抗体R4のいずれか2つに、電気的に接続されている。
【0037】
より詳細には、第1抵抗体R1と第2抵抗体R2とは、第1の積層電極36を介して、電気的に接続されている。第2抵抗体R2と第3抵抗体R3とは、第2の積層電極36を介して、電気的に接続されている。第3抵抗体R3と第4抵抗体R4とは、第3の積層電極36を介して、電気的に接続されている。第4抵抗体R4と第1抵抗体R1とは、第4の積層電極36を介して、電気的に接続されている。
【0038】
詳細な図示は省略するが、
図1および
図2に示す中間配線72の一方の端部が、
図3に示すそれぞれの積層電極36に接続される。すなわち、第1抵抗体R1~第4抵抗体R4によるホイートストーンブリッジ回路の出力は、積層電極36および中間配線72(
図1および
図2参照)を介して、
図1に示す回路基板16へ伝えられる。
【0039】
図4Aに示すように、積層電極36は、歪抵抗膜32の上に重なるコンタクト層36aと、コンタクト層36aの上に重なる拡散防止層36bと、拡散防止層36bの上に重なる実装層36cとを有する。積層電極36は、異なる材料で形成される3層以上の多層膜構造を有する。ただし、積層電極36としては、
図4Aに示すような3層構造のもののみには限定されず、積層電極36は、4層以上の積層構造を有していてもよい。
【0040】
コンタクト層36aは、積層電極36のうち最も下層に位置し、歪抵抗膜32に直接接触する。コンタクト層36aは、歪抵抗膜32とのオーミック接続を確保して、電極付き歪抵抗膜30の電気的特性を向上させる。また、コンタクト層36aは、歪抵抗膜32と積層電極36との密着強度を確保して、膜および層の剥離不良を防止する。
【0041】
コンタクト層36aは、スパッタリングや蒸着等の薄膜法により形成することができる。コンタクト層36aの厚みは、特に限定されないが、例えば1~50nmであり、好ましくは5~20nmである。コンタクト層36aは、Cr、Ti、Ni、Moのうち少なくともいずれか1つを含むことが好ましい。これらの元素は、他金属と合金を作り易いため、このような元素を含むコンタクト層36aは、歪抵抗膜32および拡散防止層36bとの密着強度を確保して、膜および層間の剥離不良を防止できる。
【0042】
また、コンタクト層36aは、Tiを含むことが、特に好ましい。Tiは、Au等を含む実装層36cに拡散しづらく、実装層36cの上表面への析出を生じにくい傾向がある。そのため、Tiを含むコンタクト層36aを有する積層電極36は、積層電極36が高温環境に曝された後も、中間配線72に対して好適な密着性を奏する。
【0043】
さらに、TiはCr中へも拡散しづらいため、コンタクト層36aを構成するTiは、高温環境下においても、CrおよびAlを含む歪抵抗膜32中へ拡散しにくい特性を有する。したがって、Tiを含むコンタクト層36aを有する電極付き歪抵抗膜30は、高温環境下における使用においても、積層電極36中の元素の歪抵抗膜32中への拡散を防止することができ、組成変化による歪抵抗膜32の性能低下を防止することができる。
【0044】
また、コンタクト層36aは、Cr、Ti、Ni、Moのうち複数の元素を含むことも好ましい。また、コンタクト層36aは、Cr、Ti、Ni、Moのうち少なくともいずれか1つからなることも好ましい。さらに、コンタクト層36aは、Tiからなることも、特に好ましい。また、コンタクト層36aは、Cr、Ti、Ni、Moのうち複数の元素からなることも好ましい。
【0045】
なお、コンタクト層36a、拡散防止層36bおよび実装層36cが、1または複数の指定する元素からなるという場合、指定する元素以外の他元素が、不可避的または意図的にこれらの層に含まれることを排除しない。その場合、他元素の含有率は、例えば10at%未満、好ましくは3at%未満、さらに好ましくは1at%未満である。
【0046】
拡散防止層36bは、積層電極36において、コンタクト層36aと実装層36cの間に配置されており、上下方向を実装層36cとコンタクト層36aによって挟まれている。拡散防止層36bは、歪抵抗膜32やコンタクト層36a等、拡散防止層36bより下に配置されている膜および層に含まれる元素が、拡散防止層36bより上に配置されている実装層36cへ拡散することを防止し、また、実装層36cの上表面へ析出することを防止する。なお、拡散防止層36bは、歪抵抗膜32や積層電極36が4層以上の多層構造である場合にも、実装層36cの直下に配置されることが好ましい。
【0047】
拡散防止層36bは、スパッタリングや蒸着等の薄膜法により形成することができる。拡散防止層36bの厚みは、特に限定されないが、例えば1~500nmであり、好ましくは5~50nmである。拡散防止層36bの厚みが薄すぎると連続膜を形成することが難しくなり、拡散防止機能が弱められる場合があり、厚みが厚すぎると、膜剥がれの問題が生じたり、成膜時間の増加による生産性(スループット)低下の問題が生じたりする場合がある。
【0048】
拡散防止層36bは、第5または6周期に属する遷移元素を含むことが、歪抵抗膜32やコンタクト層36a等に含まれる元素の上層への拡散を防止する観点から好ましい。具体的には、拡散防止層36bは、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Auから選ばれる1または複数の元素を含むことが好ましい。
【0049】
また、拡散防止層36bは、白金族元素を含むことがさらに好ましい。具体的には、拡散防止層36bは、Ru、Rh、Pd、Os、Ir、Ptから選ばれる1または複数の元素を含むことが好ましい。白金族元素は、反応性が小さく化学的に安定であるため、白金族元素を含む拡散防止層36bは、高温環境においても、特に好適な拡散防止効果を奏する。なお、白金族元素の中でも特にPtは、他の電極分野でも使用されている実績があり、他の白金族元素より技術的蓄積がある。
【0050】
拡散防止層36bは、第5または6周期に属する遷移元素からなることも好ましい。また、拡散防止層36bは、白金族元素からなることも好ましい。
【0051】
実装層36cは、積層電極36のうち最も上層に位置し、電極付き歪抵抗膜30の上表面に露出する。実装層36cには、AuやAl等の細線で構成される中間配線72が、ワイヤボンディング等により接合される。なお、AuやAlの細線による中間配線72を用いる圧力センサ10は、はんだの融点以上となる高温環境でも使用可能であり、耐熱性が良好である。また、Auの細線による中間配線72を用いる圧力センサ10は、Alの細線による中間配線72を用いる圧力センサより耐熱性を向上させることができる。
【0052】
実装層36cは、スパッタリングや蒸着等の薄膜法により形成することができる。実装層36cの厚みは、特に限定されないが、例えば10~400nmであり、好ましくは100~300nmである。実装層36cの厚みが薄すぎると連続膜を形成することが
難しくなり、中間配線72との密着性が低下するおそれがある。実装層36cの厚みが厚すぎると、膜剥がれの問題が生じたり、成膜時間の増加による生産性(スループット)低下の問題が生じたりする場合がある。
【0053】
実装層36cは、Au、Al、Niのすくなくともいずれかを含むことが、耐熱性および中間配線72との接合性の観点から好ましい。また、耐熱性を高めてさらに高温環境への対応性を高める観点から、実装層36cは、高温環境においても低抵抗かつ融点の高いAuを含むことがさらに好ましい。また、中間配線72の材料としてAuの細線を用いる場合、実装層36cがAuを含むことにより、中間配線72と実装層36cの材料が、いずれもAuとなる。これにより、中間配線72と実装層36cとの接合部分の密着性が向上する。
【0054】
また、実装層36cは、Au、Al、Niの少なくともいずれかからなることも好ましく、Auからなることも、特に好ましい。
【0055】
以下において、拡散防止層36bおよび実装層36cの詳細構造について説明する。拡散防止層36bは、第1積層部360bと、第1周縁部361bとを有する。第1積層部360bは、コンタクト層36aの上面に積層されている部分であり、面内方向に関して、コンタクト層36aの端面36a1よりも内側に位置する。第1周縁部361bは、面内方向に関して、コンタクト層36aの端面36a1よりも外側(側方)に位置する部分であり、第1積層部360bに対してその側方に連続的に接続されている。第1周縁部361bの面内方向に沿う幅W1は、特に限定されないが、好ましくは0.1~10μmである。第1周縁部361bの面内方向に沿う幅W1と、拡散防止層36b(第1積層部360bおよび第1周縁部361b)の面内方向に沿う幅W2との比W1/W2は、好ましくは10-5~1であり、さらに好ましくは10-4~10-2である。
【0056】
第1周縁部361bの底面は、歪抵抗膜32の上面と当接している。すなわち、拡散防止層36bは、面内方向に関して、コンタクト層36aの端面36a1よりも外側の位置で、歪抵抗膜32の上面と接触している。第1周縁部361bの上面は、第1積層部360bの上面に対して略面一となっており、歪抵抗膜32の上面と略平行となっている。第1周縁部361bの厚みは、第1積層部360bの厚みよりも大きく、コンタクト層36aの厚みと第1積層部360bの厚みの和に略等しくなっている。
【0057】
第1周縁部361bは、面内方向に関して、コンタクト層36aの端面36a1と当接(密着)しており、コンタクト層36aの端面36a1は、第1周縁部361bの内側側面によって、空気等の外部環境に対して露出することなく全方位的に覆われている。すなわち、本実施形態では、拡散防止層36bは、コンタクト層36aの端面36a1が露出しないように、コンタクト層36aを覆っている。結果として、本実施形態では、拡散防止層36bによって、コンタクト層36aの上面および端面36a1を含む全体が露出しないように覆われる。
【0058】
実装層36cは、第2積層部360cと、第2周縁部361cとを有する。第2積層部360cは、拡散防止層36b(第1積層部360bおよび第1周縁部361b)の上面に積層されている部分であり、拡散防止層36bの端面36b1よりも内側に位置する。第2周縁部361cは、面内方向に関して、拡散防止層36bの端面36b1よりも外側(側方)に位置しており、第2積層部360cに対してその側方に連続的に接続されている。第2周縁部361cの面内方向に沿う幅W3は、特に限定されないが、好ましくは0.1~10μmである。図示の例では、第2周縁部361cの面内方向に沿う幅W3は、第1周縁部361bの面内方向に沿う幅W1よりも小さくなっている。
【0059】
第2周縁部361cの面内方向に沿う幅W3と、実装層36c(第2積層部360cおよび第2周縁部361c)の面内方向に沿う幅W4との比W3/W4は、好ましくは10-5~1であり、さらに好ましくは10-4~10-2である。また、第2周縁部361cの面内方向に沿う幅W3と、第1周縁部361bの面内方向に沿う幅W1との比W3/W1は、好ましくは1~80であり、さらに好ましくは5~17である。
【0060】
第2周縁部361cの底面は、拡散防止層36bの第1周縁部361bの底面よりも側方において、歪抵抗膜32の上面と当接している。すなわち、実装層36cは、面内方向に関して、拡散防止層36の端面36b1よりも外側の位置で、歪抵抗膜32の上面と接触している。第2周縁部361cの上面は、第2積層部360cの上面に対して略面一となっており、歪抵抗膜32の上面と略平行となっている。第2周縁部361cの厚みは、第2積層部360cの厚みより大きく、かつ、拡散防止層36bの第1周縁部361bの厚みよりも大きくなっており、第1周縁部361bの厚みと実装層36cの第2積層部360cの厚みの和に略等しくなっている。
【0061】
第2周縁部361cは、面内方向に関して、拡散防止層36bの端面36b1と当接(密着)しており、拡散防止層36bの端面36b1は、第2周縁部361cの内側側面によって、空気等の外部環境に対して露出することなく全方位的に覆われている。すなわち、本実施形態では、実装層36cは、拡散防止層36bの端面36b1が露出しないように、拡散防止層36bを覆っている。結果として、本実施形態では、実装層36cによって、拡散防止層36bの上面および端面36b1を含む全体が露出しないように覆われるとともに、拡散防止層36bおよび実装層36cの二層によって、コンタクト層36aの上面および端面36a1を含む全体が露出しないように覆われる。
【0062】
積層電極36の周縁部では、歪抵抗膜32の上面に沿って、面内方向に関して、コンタクト層36aと、拡散防止層36bの第1周縁部361bと、実装層36cの第2周縁部361cとが、この順番に配置されており、3つの層が配列されている。また、コンタクト層36aの端面36a1の側方では、面直方向に関して、拡散防止層36bの第2周縁部361cと、実装層36cの第2周縁部361cとが、この順番に配置されており、2つの層が配列されている。
【0063】
拡散防止層36bは、コンタクト層36aの端面36a1を跨ぎつつ、面内方向に関して、コンタクト層36の端面36a1よりも外側の位置まで延在している。また、実装層36cは、コンタクト層36aの端面36a1および拡散防止層36bの端面36b1を跨ぎつつ、面内方向に関して、拡散防止層36bの端面36b1よりも外側の位置まで延在している。そのため、実装層36cおよび拡散防止層36bによって、コンタクト層36aの端面36a1の周辺一帯を覆い、コンタクト層36aの端面36a1を空気等の外部環境から隔離することが可能となっている。
【0064】
次に、
図1に示す圧力センサ10の製造方法について説明する。圧力センサ10を製造するには、まず、ステム20を準備する。ステム20の材質は、例えばSUS316等である。次に、
図2に示すように、ステム20のメンブレン22の外面22bに、電極付き歪抵抗膜30を形成する。
【0065】
電極付き歪抵抗膜30を形成するために、まず、メンブレン22の外面22bに、メンブレン22を覆うように、下地絶縁層52を所定厚みでCVDまたはスパッタリング等の薄膜法により形成する。下地絶縁層52としては、シリコン酸化膜またはシリコン窒化膜等が例示される。
【0066】
次に、下地絶縁層52の表面に、歪抵抗膜32を形成する。歪抵抗膜32は、例えば蒸着またはスパッタリング等の薄膜法により成膜される。第1抵抗体R1~第4抵抗体R4および電気配線34等を有する歪抵抗膜32の形状は、フォトリソグラフィ等によりパターニングを行い形成する。
【0067】
次に、歪抵抗膜32の上に、積層電極36を形成する。積層電極36を形成する場合、歪抵抗膜32の上に、コンタクト層36a、拡散防止層36b、実装層36cの順に、導電性の薄膜を形成する。積層電極36のコンタクト層36a、拡散防止層36bおよび実装層36cは、スパッタリングや蒸着等の薄膜法により形成する。
【0068】
図4Aに示すように、拡散防止層36bの形成時には、コンタクト層36aの端面36a1が露出しないよう、コンタクト層36aの上面部分だけでなく、コンタクト層36aの端面36a1よりも側方の領域についても全方位的に覆う。また、実装層36cの形成時には、拡散防止層36bの端面36b1が露出しないよう、拡散防止層36bの上面部分だけでなく、拡散防止層36bの端面36b1よりも側方の領域についても全方位的に覆う。
【0069】
コンタクト層36a、拡散防止層36bおよび実装層36cは、
図3に示すように、歪抵抗膜32上の所定の位置にのみ形成される。積層電極36に含まれる各層のパターニングは、歪抵抗膜32と同様にフォトリソグラフィ(リフトオフ)等により行うことができるが、他の方法を用いてもよい。
【0070】
このように、メンブレン22の外面22bに形成された下地絶縁層52の上に、歪抵抗膜32および積層電極36を薄膜形成することにより、
図3に示す電極付き歪抵抗膜30を形成する。電極付き歪抵抗膜30の製造においては、歪抵抗膜32および積層電極36の形成後において、アニール等の熱処理(例えば350~800℃)を施してもよい。
【0071】
歪抵抗膜32および積層電極36の形成後において適切な温度で熱処理することにより、歪抵抗膜32のゲージ率等の特性を高めることができる。また、積層電極36の形成後に熱処理することにより、歪抵抗膜32と積層電極36および積層電極36内部の各層の接合性を高めることができる。
【0072】
なお、電気配線34については、積層電極36またはその一部と同じ材質を用いて、積層電極36または積層電極36に含まれる一部の層の形成と同時に、歪抵抗膜32の上に作製してもよい。この場合、電気配線34を下地絶縁層52上に形成してもよい。電気配線34を積層電極36またはその一部と同様の材質とすることにより、歪抵抗膜32の一部が電気配線34を構成しているものに比べて(
図3参照)、電気配線34の抵抗値が歪の影響を受ける問題を防止できる。また、積層電極36と同じ材質および構造の電気配線34は、歪抵抗膜32に対する結合性が良好であり、剥離不良等を防止することができる。
【0073】
最後に、
図1に示すように、回路基板16を、電極付き歪抵抗膜30が形成されたステム20に対して固定し、回路基板16と電極付き歪抵抗膜30とを接続する中間配線72を形成することにより、圧力センサ10を得る。中間配線72は、Auの細線を用いたワイヤボンディング等により形成する。
【0074】
以上、本実施形態では、
図4Aに示すように、拡散防止層36bおよび実装層36cが、コンタクト層36aが露出しないように、コンタクト層36aを覆っている。特に、本実施形態では、拡散防止層36bの第1周縁部361bおよび実装層36cの第2周縁部361cが、コンタクト層36aの端面36a1が露出しないように、コンタクト層36aを覆っている。そのため、第1周縁部361bおよび第2周縁部361cによって、コンタクト層36aの端面36a1を空気等の外部環境から隔離することが可能となり、コンタクト層36aの端面36a1が外部環境に曝されることを回避することができる。したがって、高温あるいは高湿環境下でも、劣化しやすいコンタクト層36aを保護し、耐熱性および耐湿性に優れた積層電極36、電極付き歪抵抗膜30および圧力センサ10を実現することができる。
【0075】
特に、本実施形態では、コンタクト層36aの端面36a1を拡散防止層36bの第1周縁部361bと実装層36cの第2周縁部361cの二層で外部環境から隔離することが可能となっているため、上述した効果を良好に得ることができる。
【0076】
また、本実施形態では、高温あるいは高湿環境下でも、コンタクト層36aと歪抵抗膜32との間の密着性や、コンタクト層36aと歪抵抗膜32との間のオーミック接続を十分に確保することが可能であり、積層電極36が歪抵抗膜32から剥離することを防止することができるとともに、良好な電気的特性を有する圧力センサ10を実現することができる。
【0077】
また、コンタクト層36aの端面36a1を覆う拡散防止層36bによって、コンタクト層36aあるいは歪抵抗膜32に含まれる元素がコンタクト層36aの端面36a1から実装層36cへ相互拡散することを効果的に防止することができる。
【0078】
第2実施形態
図5Aに示す本発明の第2実施形態に係る圧力センサは、以下に示す点を除いて、第1実施形態に係る圧力センサ10と同様な構成を有し、同様な作用効果を奏する。図面において、第1実施形態の圧力センサ10における各部材と共通する部材には、共通の符号を付し、その説明については省略する。
【0079】
本実施形態における圧力センサは、積層電極136を有する。積層電極136は、拡散防止層136bと、実装層136cとを有する。拡散防止層136bは、第1周縁部361bの表面(拡散防止層136bの端面36b1)にテーパ面を有する第1傾斜部136b2が形成されているという点において、第1実施形態における拡散防止層36bとは異なる。実装層136cは、第2周縁部361cの表面にテーパ面を有する第2傾斜部136c2が形成されているという点において、第1実施形態における実装層36cとは異なる。
【0080】
第1傾斜部136b2は、コンタクト層36aの端面36a1よりも側方(外側)の位置で、第1周縁部361bの上面から歪抵抗膜32の上面に向かって下方に傾斜するように形成されている。第2傾斜部136c2は、コンタクト層36aの端面36a1よりも側方(外側)の位置で、第1周縁部361cの上面から歪抵抗膜32の上面に向かって下方に傾斜するように形成されている。なお、第1傾斜部136b2は、コンタクト層36aの端面36a1よりも内側の位置で、第1積層部360bの上面から歪抵抗膜32の上面に向かって下方に傾斜していてもよい。第2傾斜部136c2についても同様である。
【0081】
歪抵抗膜32の上面に対する第2傾斜部136c2の傾斜角度は、歪抵抗膜32の上面に対する第1傾斜部136b2の傾斜角度よりも大きくなっているが、これらは等しくてもよく、あるいは第2傾斜部136c2の傾斜角度が、第1傾斜部136b2の傾斜角度よりも小さくなっていてもよい。また、第1傾斜部136b2および第2傾斜部136c2の表面には、外方に向けて膨出する形状が具備されていてもよい。
【0082】
拡散防止層136bの表面形状は、断面で見たときに、略台形となっている。すなわち、本実施形態では、拡散防止層136bは、その周縁部361bにおいて、裾野を有するように形成されている。そのため、拡散防止層136bの周縁部361bは、
図4Aに示す拡散防止層36bの周縁部361bとは異なり、歪抵抗膜32の上面に対して直角に接続されるのではなく、所定の角度で滑らかに接続されることとなる。
【0083】
同様に、実装層136cの表面形状は、断面で見たときに、略台形となっている。すなわち、本実施形態では、実装層136cは、その周縁部361cにおいて、裾野を有するように形成されている。そのため、実装層136cの周縁部361cは、
図4Aに示す拡実装層36cの周縁部361cとは異なり、歪抵抗膜32の上面に対して直角に接続されるのではなく、所定の角度で滑らかに接続されることとなる。
【0084】
このような第1傾斜部136b2を有する拡散防止層136bは、例えば傾斜状のアンダーカットを有するレジストパターンをマスクにして、リフトオフ法により形成することができる。また、第2傾斜部136c2を有する実装層136cについても同様の方法により形成することができる。
【0085】
本実施形態においても、第1実施形態と同様の効果が得られる。加えて、本実施形態では、拡散防止層136bの上に重なる実装層136cおよびコンタクト層36aの上に重なる拡散防止層136cが、コンタクト層36aの端面36a1よりも外側に位置する歪抵抗膜32の上面に向けて傾斜しつつ延在している。そのため、実装層136cおよび拡散防止層136bをコンタクト層36aの端面36a1から十分に離間した位置まで形成し、コンタクト層36の端面36a1と外部環境との間の距離を十分に確保することが可能となる。これにより、コンタクト層36aの端面36a1を外部環境から効果的に隔離し、上述した効果を良好に得ることができる。
【0086】
第3実施形態
図6Aに示す本発明の第2実施形態に係る圧力センサは、以下に示す点を除いて、第1実施形態に係る圧力センサ10と同様な構成を有し、同様な作用効果を奏する。図面において、第1実施形態の圧力センサ10における各部材と共通する部材には、共通の符号を付し、その説明については省略する。
【0087】
本実施形態における圧力センサは、積層電極236と、歪抵抗膜232とを有する。積層電極236は、拡散防止層236bと、実装層236cとを有する。本実施形態では、拡散防止層236bと歪抵抗膜232との界面(接合面)には凹凸80が形成されている。同様に、実装層236cと歪抵抗膜232との界面(接合面)には凹凸80が形成されている。すなわち、拡散防止層236bおよび実装層236cは、それぞれその底面に凹凸80が形成されているという点において、第1実施形態における拡散防止層36bおよび実装層36cとは異なる。また、歪抵抗膜232は、その上面に凹凸80が形成されているという点において、第1実施形態における歪抵抗膜32とは異なる。
【0088】
凹凸80は、面内方向に関して、コンタクト層36aの端面36a1よりも側方に形成されている。拡散防止層236bの第1周縁部361bに形成された凹凸80は、実装層236cの第2周縁部361cに形成された凹凸80と連続しており、これらの凹凸80の度合は同程度となっている。歪抵抗膜232に形成される凹凸80の算術平均粗さRaは、好ましくは1~30nmである。
【0089】
凹凸80は、例えば、歪抵抗膜232に積層電極236を形成する前に、歪抵抗膜232の電極形成予定部分に対して逆スパッタを行うことにより形成することができる。より詳細には、歪抵抗膜232の表面のうち、拡散防止層236bおよび実装層236cの各々の底面が配置される部分に対して逆スパッタを行う。その結果、歪抵抗膜232の表面のうち、拡散防止層236bおよび実装層236cの各々の底面が配置される部分は、コンタクト層36aの底面が配置される部分に比べて荒れた状態となる。このように表面が荒れた状態の歪抵抗膜232の電極形成予定部分に積層電極236を形成することにより、積層電極236の形成時において、歪抵抗膜232の上面に形成された凹凸80に、拡散防止層236bおよび実装層236cの各々の下面が食い込み、拡散防止層236bおよび実装層236cの各々の下面に凹凸80を形成することができる。
【0090】
本実施形態においても第1実施形態と同様の効果が得られる。加えて、本実施形態では、実装層236cおよび拡散防止層236bと歪抵抗膜232との界面に凹凸80を形成した分だけ、実装層232cおよび拡散防止層232bと歪抵抗膜232との界面に沿った沿面距離を延長することが可能となり、コンタクト層36aの端面36a1を外部環境から効果的に隔離し、第1実施形態における効果を良好に得ることができる。また、本実施形態では、実装層232cおよび拡散防止層232bと歪抵抗膜232との間の接合面積が大きくなり、これらの間の密着力(接合強度)を高めることができる。
【0091】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々に改変することができる。
【0092】
(1)上記第1実施形態では、
図4Aに示すように、コンタクト層36aの端面36a1は、拡散防止層36bおよび実装層36cの2層で覆われていたが、
図4Bに示すように、拡散防止層36bのみで覆われていてもよい。図示の例では、実装層36cは、第2積層部360cのみで構成され、第2周縁部361cについては具備してはいない。それ故、拡散防止層36bの端面36b1は、実装層36cによって覆われることはなく、外部環境に対して露出している。
【0093】
実装層36cの面内方向に沿う長さは、コンタクト層36aの面内方向に沿う長さと略等しくなっており、実装層36cの形状は、厚みが異なる点を除いて、コンタクト層36aの形状と略等しくなっている。ただし、実装層36cの面内方向に沿う長さは、コンタクト層36aの面内方向に沿う長さよりも大きくてもよく、あるいは小さくてもよい。実装層36cは、拡散防止層36bの第1周縁部361bの上面には配置されておらず、拡散防止層36bの第1積層部360bの上面にのみ配置されている。すなわち、実装層36cは、面直方向に関して、コンタクト層36aに対応する位置(上方)に配置されている。本変形例においても、上記第1実施形態と同様に、コンタクト層36aの端面36a1が空気等の外部環境に露出することを防止することができる。
【0094】
(2)上記変形例(1)において、
図4Cに示すように、実装層36cの面内方向に沿う長さを拡散防止層36b(第1積層部360bおよび第1周縁部361b)の面内方向に沿う長さと略等しくしてもよい。図示の例では、実装層36cは、拡散防止層36bの上面全体を覆うように形成されている。このような構成とした場合も、上記変形例(1)と同様の効果が得られる。また、本変形例における実装層36cは、上記変形例(1)における実装層36cに比べて、拡散防止層36bの上面を広範囲にわたって覆っているため、コンタクト層36aあるいは歪抵抗膜32に含まれる元素がコンタクト層36aの上面から実装層36cへ相互拡散することを効果的に防止することができる。
【0095】
(3)上記第1実施形態において、
図4Dに示すように、コンタクト層36aの端面36a1は、実装層36cのみで覆われていてもよい。図示の例では、実装層36cの第2周縁部361cは、面内方向に関して、
図4Aに示す拡散防止層36bの第1周縁部361bと同程度の長さを有している。実装層36cの第2周縁部361cの厚みは、コンタクト層36aの厚みと、拡散防止層36bの厚みと、実装層36cの第2積層部360cの厚みの和と略等しくなっている。
【0096】
第2周縁部361cは、面内方向に関して、コンタクト層36の端面36a1および拡散防止層36bの端面36b1に当接(密着)しており、コンタクト層36aの端面36a1および拡散防止層36bの端面36b1は、第2周縁部361cの内側側面によって、空気等の外部環境に対して露出することなく全方位的に覆われている。すなわち、本変形例では、拡散防止層36bおよび実装層36cのうち、実装層36cが、コンタクト層36aの端面36a1が露出しないように、コンタクト層36aを覆っている。実装層36cは、Au等の高温に対して安定した材質(不活性な材質)で構成されるため、図示のような構成とすることにより、特に高温環境下においてコンタクト層36aの劣化を有効に防止することができる。
【0097】
また、実装層36cは、比較的厚みが大きくなるように形成することが可能である。そのため、コンタクト層36aの端面36a1を実装層36c(第2周縁部361c)の厚い層壁で外部環境から隔離することが可能となり、上述した効果を良好に得ることができる。
【0098】
(4)上記第2実施形態では、
図5Aに示すように、コンタクト層36aの端面36a1は、拡散防止層136bおよび実装層136cの2層で覆われていたが、
図5Bに示すように、拡散防止層136bのみで覆われていてもよい。図示の例では、実装層36cは、第2積層部360cのみで構成され、第2周縁部361cについては具備してはいない。それ故、拡散防止層136bの端面136b1は、実装層36cによって覆われることはなく、外部環境に対して露出している。
【0099】
実装層36cの面内方向に沿う長さは、コンタクト層36aの面内方向に沿う長さよりも大きくなっているが、当該長さ以下でもよく、あるいは拡散防止層136bの面内方向に沿う長さと略等しくてもよい。実装部36cは、拡散防止層36bの第1積層部360bおよび第1周縁部361bの各々の上面に跨るように形成されている。本変形例においても、上記第2実施形態と同様に、コンタクト層36aの端面36a1が空気等の外部環境に露出することを防止することができる。
【0100】
(5)上記第2実施形態において、
図5Cに示すように、コンタクト層36aの端面36a1は、実装層136cのみで覆われていてもよい。図示の例では、拡散防止層36bには、
図5Aに示す第1傾斜部136b2は具備されておらず、実装層136cにのみ、第2傾斜部136c2が具備されている。コンタクト層36aの端面36a1よりも側方では、歪抵抗膜32の上面は、拡散防止層36bとは接触してはおらず、実装層136c(第2周縁部361c)のみと接触している。実装部136cの第2周縁部361cの最大厚みは、コンタクト層36aの厚みと、拡散防止層36bの厚みと、実装部136cの第2積層部360cの厚みの和と略等しくなっている。
【0101】
第2周縁部361cは、面内方向に関して、コンタクト層36の端面36a1および拡散防止層36bの端面36b1に当接(密着)しており、コンタクト層36aの端面36a1および拡散防止層36bの端面36b1は、第2周縁部361cの内側側面によって、空気等の外部環境に対して露出することなく全方位的に覆われている。すなわち、本変形例では、拡散防止層36bおよび実装層136cのうち、実装層136cが、コンタクト層36aの端面36a1が露出しないように、コンタクト層36aを覆っている。したがって、本変形例においても、変形例(3)と同様の効果が得られる。
【0102】
(6)上記第2実施形態において、
図5Dに示すように、拡散防止層136bの第1周縁部361bに段差部136b3を設けるとともに、実装層136cの第2周縁部361cに段差部136c3を設けてもよい。段差部136b3では、第1周縁部361bの表面(外面)には、階段状の段差が1個だけ設けられている。また、段差部136c3では、第2周縁部361cの表面(外面)には、階段状の段差が1個だけ設けられている。ただし、第1周縁部361bおよび第2周縁部361cの各々の表面には、複数個の段差が設けられていてもよい。
【0103】
図示の例では、第1段差部136b3の段差高さは、拡散防止層136bの第1積層部360bの厚みよりも小さくなっている。また、第1段差部136b3は、コンタクト層36aの端面36a1の位置に形成されている。なお、第1段差部136b3の位置は、コンタクト層36aの端面36a1よりも内側に位置ずれして形成されていてもよく、あるいはコンタクト層36aの端面36a1よりも外側に位置ずれして形成されていてもよい。
【0104】
第2段差部136c3の位置は、拡散防止層136の端面36b1よりも外側に位置ずれ形成されている。なお、第2段差部136c3は、拡散防止層136bの端面36b1と同位置、あるいは拡散防止層136bの端面136b1よりも内側に位置ずれして形成されていてもよい。
【0105】
段差部136b3を有する拡散防止層136bは、例えば段差状のアンダーカットを有するレジストパターンをマスクにして、リフトオフ法により形成することができる。段差部136c3を有する実装層136cについても同様の方法により形成することができる。本変形例においても、上記第2実施形態と同様の効果が得られる。なお、
図5Bに示す拡散防止層136bの第1周縁部361bに第1段差部136b3を具備させてもよく、あるいは
図5Cに示す実装層136cの第2周縁部361cに第2段差部136c3を具備させてもよい。
【0106】
(7)上記第3実施形態において、
図6Bに示すように、コンタクト層236aの底面に凹凸80を具備させてもよい。
図6Bに示すコンタクト層236aでは、その底面全体に、凹凸80が形成されている。凹凸80は、コンタクト層236aの底面から拡散防止層236bの底面にかけて連続して形成されている。図示の例では、コンタクト層236aの底面に形成された凹凸80は、拡散防止層236bの第1周縁部361bおよび実装層236cの第2周縁部361cの各々の底面に形成された凹凸80よりも小さくなっているが、これと同等以上の大きさであってもよい。本変形例では、積層電極236の底面に広範囲にわたって凹凸80を形成することが可能であり、第3実施形態と同様の効果を良好に得ることができる。
【0107】
なお、凹凸80は、コンタクト層236aの底面のみ、あるいは拡散防止層236bの第1周縁部361bの底面のみ、あるいは実装層236cの第2周縁部361cの底面のみに形成されていてもよい。また、凹凸80は、コンタクト層236aおよび拡散防止層236bの第1周縁部361bの各々の底面のみ、あるいはコンタクト層236aおよび実装層236cの第2周縁部361cの各々の底面のみに形成されていてもよい。
【0108】
(8)上記各実施形態において、例えば、圧力センサ10としては、
図1のようなステム20を有するもののみには限定されず、平板状の基板に電極付き歪抵抗膜30を形成したものであってもよい。基板の材質としては、例えばSiやアルミナ(Al2O3)等が挙げられる。
【0109】
(9)
図5Dに示す段差部136b3あるいは段差部136c3を、
図4B~4Dに示す拡散防止層36bあるいは実装層36cに具備させてもよい。また、
図6A,
図6Bに示す凹凸80を、
図4B~
図4Dに示す積層電極36と歪抵抗膜32との界面に具備させてもよい。また、
図6A,
図6Bに示す凹凸80を、
図5A~
図5Dに示す積層電極136と歪抵抗膜32との界面に具備させてもよい。
【符号の説明】
【0110】
10…圧力センサ
12…接続部材
12a…ねじ溝
12b…流路
14…抑え部材
16…回路基板
20…ステム
21…フランジ部
22…メンブレン
22a…内面
22b…外面
30…電極付き歪抵抗膜
32,232…歪抵抗膜
R1…第1抵抗体
R2…第2抵抗体
R3…第3抵抗体
R4…第4抵抗体
34…電気配線
36,136,236…歪抵抗膜用積層電極(積層電極)
36a,236a…コンタクト層
36b,136b,236b…拡散防止層
360b…第1積層部
361b…第1周縁部
36c,136c,236c…実装層
360c…第2積層部
361c…第2周縁部
136b2,136c2…傾斜部
136b3,136c3…段差部
52…下地絶縁層
72…中間配線
80…凹凸