(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022134522
(43)【公開日】2022-09-15
(54)【発明の名称】エレクトロスラグ溶接またはエレクトロガス溶接の制御方法、制御装置、溶接システム、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
B23K 25/00 20060101AFI20220908BHJP
B23K 9/173 20060101ALI20220908BHJP
B23K 9/095 20060101ALI20220908BHJP
【FI】
B23K25/00 N
B23K9/173 B
B23K9/095 505B
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021033678
(22)【出願日】2021-03-03
(71)【出願人】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】戸田 亮
(72)【発明者】
【氏名】福本 弘孝
(72)【発明者】
【氏名】山崎 圭
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 康之
【テーマコード(参考)】
4E001
【Fターム(参考)】
4E001AA03
4E001BB10
4E001CA01
4E001DA03
(57)【要約】
【課題】一つの装置でEGW、ESW両方の溶接方法に適用できること、および様々な溶接条件においても適用できる汎用性を有する制御方法を実現する。
【解決手段】エレクトロスラグ溶接またはエレクトロガス溶接の制御方法であって、溶接方法と溶接材料の項目を含む施工情報と、前記施工情報に関連付けられた少なくとも2つの係数を含む係数情報とが対応付けられたデータベースと、前記施工情報に含まれる項目に対して指定されたパラメータとに基づいて、前記係数情報を決定し、溶接における溶接条件の項目として溶接電流、ワイヤの送給速度、および突出し長さを少なくとも含み、当該溶接条件の項目の少なくとも2つに対して指定された設定値と、前記決定された係数情報とに基づいて、前記溶接条件の項目のうちの指定されていない項目に対する基準値を算出し、前記基準値に基づいて、前記溶接条件の項目のうちの指定されていない項目に対する制御量を算出する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エレクトロスラグ溶接またはエレクトロガス溶接の制御方法であって、
溶接方法と溶接材料の項目を含む施工情報と、前記施工情報に関連付けられた少なくとも2つの係数を含む係数情報とが対応付けられたデータベースと、前記施工情報に含まれる項目に対して指定されたパラメータとに基づいて、前記係数情報を決定する決定工程と、
溶接における溶接条件の項目として溶接電流、ワイヤの送給速度、および突出し長さを少なくとも含み、当該溶接条件の項目の少なくとも2つに対して指定された設定値と、前記決定工程にて決定された係数情報とに基づいて、前記溶接条件の項目のうちの指定されていない項目に対する基準値を算出する第1の算出工程と、
前記基準値に基づいて、前記溶接条件の項目のうちの指定されていない項目に対する制御量を算出する第2の算出工程と
を有することを特徴とする制御方法。
【請求項2】
前記第1の算出工程にて、溶接電流、ワイヤの送給速度、および突出し長さの値を変数として有する関数を用いて前記基準値を算出し、
前記関数は、前記決定工程にて決定された係数情報にて示される係数を含む項を有することを特徴とする請求項1に記載の制御方法。
【請求項3】
前記関数は、
【数1】
W
f:送給速度
I:溶接電流
Ext:突出し長さ
a,b,c,d:DBを用いて特定される係数
により定義されることを特徴とする請求項2に記載の制御方法。
【請求項4】
前記溶接方法がエレクトロガス溶接の場合において、
前記施工情報に含まれる溶接材料の項目は少なくとも、溶接ワイヤに関する情報を含み、
前記突出し長さは、前記溶接ワイヤとコンタクトチップの通電位置と、溶融金属表面間の距離とすることを特徴とする請求項3に記載の制御方法。
【請求項5】
前記溶接方法がエレクトロスラグ溶接の場合において、
前記施工情報に含まれる溶接材料の項目は、溶接ワイヤおよびフラックスの少なくとも一方の情報を含み、
前記突出し長さは、前記溶接ワイヤと、予め定めたコンタクトチップの通電位置と、スラグ浴の表面間の距離とすることを特徴とする請求項3に記載の制御方法。
【請求項6】
前記スラグ浴の表面を検出するためのセンサで検出したスラグ浴の表面位置と予め定めたコンタクトチップの通電位置に基づいて、前記突出し長さが前記指定された設定値または前記第1の算出工程にて算出された基準値となるように、前記スラグ浴の高さが制御されることを特徴とする請求項5に記載の制御方法。
【請求項7】
前記センサは、銅または銅合金のブロック形状からなる検出端子を有し、
前記検出端子は、母材に沿って摺動する銅当て金の予め定めた位置に、当該銅当て金と絶縁されて設置され、
前記センサは、前記検出端子に印加されている電位と、所定の電位との電位差に基づいて前記スラグ浴の検出を示す検出信号を出力し、
前記検出信号に基づいて、前記スラグ浴の高さが制御される
ことを特徴とする請求項6に記載の制御方法。
【請求項8】
溶接トーチをオシレートさせる場合、前記溶接トーチが前記銅当て金の近傍に位置する際の前記電位差に基づいて、前記検出信号を出力することを特徴とする請求項7に記載の制御方法。
【請求項9】
前記オシレートの長さに応じて、前記スラグ浴の高さを制御するためのフラックスの供給量を変更することを特徴とする請求項8に記載の制御方法。
【請求項10】
前記第2の算出工程にて、少なくとも、前記基準値と、前記基準値に対応する実測値との偏差に基づいて、制御量を算出することを特徴とする請求項1~9のいずれか一項に記載の制御方法。
【請求項11】
前記第1の算出工程にて算出される基準値および当該基準値に対応する実測値の溶接条件の項目は、溶接電流とし、
前記第2の算出工程にて、前記偏差と予め定めた定数とを項として含むPI制御の制御式を用いて、溶接速度、溶接電流、アーク電圧、送給速度、突出し長さ、のうち少なくとも1つを制御するための制御量が算出されることを特徴とする請求項10に記載の制御方法。
【請求項12】
前記第1の算出工程にて算出される基準値および当該基準値に対応する実測値の溶接条件の項目は、送給速度とし、
前記第2の算出工程にて、前記偏差と予め定めた定数とを項として含むPI制御の制御式を用いて、溶接速度、溶接電流、アーク電圧、送給速度、突出し長さ、のうち少なくとも1つを制御するための制御量が算出されることを特徴とする請求項10に記載の制御方法。
【請求項13】
エレクトロスラグ溶接またはエレクトロガス溶接の制御装置であって、
溶接方法と溶接材料の項目を含む施工情報と、前記施工情報に関連付けられた少なくとも2つの係数を含む係数情報とが対応付けられたデータベースと、
前記施工情報に含まれる項目に対して指定されたパラメータと、前記データベースとに基づいて、前記係数情報を決定する決定手段と、
溶接における溶接条件の項目として溶接電流、ワイヤの送給速度、および突出し長さを少なくとも含み、当該溶接条件の項目の少なくとも2つに対して指定された設定値と、前記決定手段にて決定された係数情報とに基づいて、前記溶接条件の項目のうちの指定されていない項目に対する基準値を算出する第1の算出手段と、
前記基準値に基づいて、前記溶接条件の項目のうちの指定されていない項目に対する制御量を算出する第2の算出手段と
を有することを特徴とする制御装置。
【請求項14】
請求項13に記載の制御装置と、
溶接装置と、
溶接電源と
を含む溶接システム。
【請求項15】
コンピュータに、
溶接方法と溶接材料の項目を含む施工情報と、前記施工情報に関連付けられた少なくとも2つの係数を含む係数情報とが対応付けられたデータベースと、前記施工情報に含まれる項目に対して指定されたパラメータとに基づいて、前記係数情報を決定する決定工程と、
溶接における溶接条件の項目として溶接電流、ワイヤの送給速度、および突出し長さを少なくとも含み、当該溶接条件の項目の少なくとも2つに対して指定された設定値と、前記決定工程にて決定された係数情報とに基づいて、前記溶接条件の項目のうちの指定されていない項目に対する基準値を算出する第1の算出工程と、
前記基準値に基づいて、前記溶接条件の項目のうちの指定されていない項目に対する制御量を算出する第2の算出工程と
を実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレクトロスラグ溶接またはエレクトロガス溶接の制御方法、制御装置、溶接システム、およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
造船や産業機械分野における構造物製造においては、立向溶接が多用される。この立向溶接には、一般的にエレクトロガスアーク溶接(以降、EGWと称する)またはエレクトロスラグ溶接(以降、ESWと称する)が適用され、従来から自動化が進められている。
【0003】
EGWの自動化に関し、特許文献1では、適用範囲を広くとりつつ、溶接ヘッドの走行制御を行う方法が開示されている。特許文献1では、溶接ワイヤの送給速度を検出すると共に、ワイヤエクステンションの変動に応じて変化する溶接電流を検出し、これら両検出値を用いて溶接ヘッドの走行速度を制御する。これにより、ワイヤエクステンションは、ほぼ一定に保つように制御されている。
【0004】
また、ESWの自動化に関し、特許文献2では、摺動式当て金を用いたエレクトロスラグ溶接において、スラグ浴深さを予め定めた深さに保ちながら溶接を行い、健全な溶込みを確保して溶接金属の機械的性質の劣化を防止する構成が示されている。特許文献2では、エレクトロスラグ溶接において、コンタクトチップ先端からスラグ浴までの溶接ワイヤの長さが予め定めた長さとなるようにフラックスを供給する。そして、基準電流値に対して溶接電流が予め定めた関係となるように溶接トーチと摺動式当て金とを搭載した走行台車の走行速度を調整する。これにより、スラグ浴深さを予め定めた深さに保ちつつ溶接を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭50-137351号公報
【特許文献2】特開2016-215214号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
EGW、およびESWの各溶接方法にはそれぞれ長所があり、状況に応じて、使い分けが望まれる。例えば、EGWは高い能率性を実現できる。一方、ESWはヒュームやスパッタ等の溶接作業性に優れている。しかしながら、EGWおよびESWはそれぞれ異なる制御であるため、例えば特許文献1の制御方法をESWへ適用することは難しく、EGWおよびESWを使い分けるためには別の装置を設ける必要がある。
【0007】
さらに、特許文献1では、突出し長さを一定にした場合において、溶接電流と突出し長さの関数が求められている。このとき、突出し長さを変えるたびに、定数を個別に調整する必要がある。また、特許文献2では、ワイヤ送給速度を一定にして関数が決められており、特許文献1と同じく、用途に応じて制御式を調整する必要がある。したがって、特許文献1、2では例えば、溶接途中で板厚が変わる等で種々の溶接条件を変更したい時に、最適な自動制御を行うことができず、様々な条件に対応した汎用的な利用ができない。このため、制御式の調整や溶接方法の切り替えに時間を要し、作業能率が低下する。また、溶接途中で適切な溶接条件変更を自動で行うことが困難なため、適切な溶接条件で溶接が行えず、溶接品質が低下したりする等の悪影響が生ずる。
【0008】
本願発明では、一つの装置でEGW、ESW両方の溶接方法に適用できること、および様々な溶接条件においても適用できる汎用性を有する制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために本願発明は以下の構成を有する。すなわち、エレクトロスラグ溶接またはエレクトロガス溶接の制御方法であって、
溶接方法と溶接材料の項目を含む施工情報と、前記施工情報に関連付けられた少なくとも2つの係数を含む係数情報とが対応付けられたデータベースと、前記施工情報に含まれる項目に対して指定されたパラメータとに基づいて、前記係数情報を決定する決定工程と、
溶接における溶接条件の項目として溶接電流、ワイヤの送給速度、および突出し長さを少なくとも含み、当該溶接条件の項目の少なくとも2つに対して指定された設定値と、前記決定工程にて決定された係数情報とに基づいて、前記溶接条件の項目のうちの指定されていない項目に対する基準値を算出する第1の算出工程と、
前記基準値に基づいて、前記溶接条件の項目のうちの指定されていない項目に対する制御量を算出する第2の算出工程と
を有する。
【0010】
また、本願発明の別の形態として以下の構成を有する。すなわち、エレクトロスラグ溶接またはエレクトロガス溶接の制御装置であって、
溶接方法と溶接材料の項目を含む施工情報と、前記施工情報に関連付けられた少なくとも2つの係数を含む係数情報とが対応付けられたデータベースと、
前記施工情報に含まれる項目に対して指定されたパラメータと、前記データベースとに基づいて、前記係数情報を決定する決定手段と、
溶接における溶接条件の項目として溶接電流、ワイヤの送給速度、および突出し長さを少なくとも含み、当該溶接条件の項目の少なくとも2つに対して指定された設定値と、前記決定手段にて決定された係数情報とに基づいて、前記溶接条件の項目のうちの指定されていない項目に対する基準値を算出する第1の算出手段と、
前記基準値に基づいて、前記溶接条件の項目のうちの指定されていない項目に対する制御量を算出する第2の算出手段と
を有する。
【0011】
また、本願発明の別の形態として以下の構成を有する。すなわち、溶接システムであって、
制御装置と、
溶接装置と、
溶接電源と
を含み、
前記制御装置は、
溶接方法と溶接材料の項目を含む施工情報と、前記施工情報に関連付けられた少なくとも2つの係数を含む係数情報とが対応付けられたデータベースと、
前記施工情報に含まれる項目に対して指定されたパラメータと、前記データベースとに基づいて、前記係数情報を決定する決定手段と、
溶接における溶接条件の項目として溶接電流、ワイヤの送給速度、および突出し長さを少なくとも含み、当該溶接条件の項目の少なくとも2つに対して指定された設定値と、前記決定手段にて決定された係数情報とに基づいて、前記溶接条件の項目のうちの指定されていない項目に対する基準値を算出する第1の算出手段と、
前記基準値に基づいて、前記溶接条件の項目のうちの指定されていない項目に対する制御量を算出する第2の算出手段と
を有する。
【0012】
また、本願発明の別の形態として以下の構成を有する。すなわち、プログラムであって、
コンピュータに、
溶接方法と溶接材料の項目を含む施工情報と、前記施工情報に関連付けられた少なくとも2つの係数を含む係数情報とが対応付けられたデータベースと、前記施工情報に含まれる項目に対して指定されたパラメータとに基づいて、前記係数情報を決定する決定工程と、
溶接における溶接条件の項目として溶接電流、ワイヤの送給速度、および突出し長さを少なくとも含み、当該溶接条件の項目の少なくとも2つに対して指定された設定値と、前記決定工程にて決定された係数情報とに基づいて、前記溶接条件の項目のうちの指定されていない項目に対する基準値を算出する第1の算出工程と、
前記基準値に基づいて、前記溶接条件の項目のうちの指定されていない項目に対する制御量を算出する第2の算出工程と
を実行させる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、一つの装置でEGW、ESW両方の溶接方法に適用できること、および様々な溶接条件においても適用できる汎用性を有する制御が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本願発明の一実施形態に係る溶接システムの構成例を示す概略図。
【
図2】本願発明の一実施形態に係るエレクトロスラグ溶接を用いた溶接装置の構成例を示す概略図。
【
図3】本願発明の一実施形態に係る溶接用摺動銅当て金の構成例を示す外観斜視図。
【
図4】本願発明の一実施形態に係る走行台車制御部の機能構成を示すブロック図。
【
図5】本願発明の一実施形態に係るデータベースの構成例を示す表図。
【
図6】本願発明の一実施形態に係る走行台車制御部のデータの流れの例を示すブロック図。
【
図7】本願発明の一実施形態に係る走行台車制御部の制御処理のフローチャート。
【
図8】本願発明の一実施形態に係る走行台車制御部のデータの流れの別の例を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本願発明を実施するための形態について図面などを参照して説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本願発明を説明するための一実施形態であり、本願発明を限定して解釈されることを意図するものではなく、また、各実施形態で説明されている全ての構成が本願発明の課題を解決するために必須の構成であるとは限らない。また、各図面において、同じ構成要素については、同じ参照番号を付すことにより対応関係を示す。
【0016】
<第1の実施形態>
以下、本願発明に係る一実施形態について図面を参照しつつ説明する。なお、本実施形態は立向溶接にて用いられるESWまたはEGWどちらにも適用可能な溶接装置を用いた場合の一例であり、本願発明に係る制御方法は以下に説明する本実施形態の構成に限定されるものではない。また、本実施形態では、ESWを主として説明することとし、ESWとEGWとの制御的な差異については後述する。
【0017】
[溶接システムの概要]
本実施形態の制御方法で用いられる溶接システム500の全体概要について説明する。
図1は、本実施形態に係る溶接システム500の構成例を示す概略図である。溶接システム500は、溶接装置100、溶接電源200、ワイヤ送給装置300、および操作箱400を含んで構成される。溶接装置100と、そのほかの各装置は、電源ケーブルや信号ケーブルなどの各種ケーブルを介して接続される。
【0018】
(溶接装置)
図2は、本実施形態に係る溶接装置100周りの構成例を示す概略図である。本実施形態では、溶接装置100として、ESWを用いるエレクトロスラグ溶接装置を例に挙げて説明する。
【0019】
図2にX軸、Y軸、Z軸の3軸からなる座標系を示す。なお、以降の説明において、各図に示す軸方向は対応しているものとして説明する。矢印Zは、母材3の溶接線に沿った方向、即ち、上下方向とし、矢印Xは、母材3の板厚方向とし、矢印Yは、一対の母材が並ぶ方向、即ち、母材3の表面に沿った水平方向とする。したがって、上方とは、
図2の紙面に対して上側とし、下方とは、
図2の紙面に対して下側とする。また、前方とは、
図2の紙面に対して左側とし、後方とは、
図2の紙面に対して右側とする。また、溶接用摺動銅当て金30(以下、銅当て金30とも称する)が母材3の表面に配置された状態を仮定して、矢印Zは、溶接用摺動銅当て金30の長手方向、即ち、当て金本体部の長手方向とする。矢印Xは、溶接用摺動銅当て金30の厚さ方向、即ち、当て金本体部の厚さ方向とする。矢印Yは、溶接用摺動銅当て金30の幅方向、即ち、当て金本体部の幅方向とする。
【0020】
図2に示すように、本実施形態に係る溶接装置100は、固定の銅当て金1、溶接用摺動銅当て金30、溶接トーチ4、溶融スラグ浴検出器13、フラックス供給装置14、フラックス供給制御装置15、走行台車16、および走行台車制御装置17を備える。更に、
図2では不図示であるが、溶接装置100は、走行台車16に搭載されている前後、左右のスライダ、溶接用摺動銅当て金30用のスライダ、および走行レールを備える。なお、ここで言う前後とはX軸方向、左右とはY軸方向を指す。これらのスライダは、不図示のモータ等を用いて、電気的に可動させることが好ましいが、特に電気的な可動に限るものではなく、手動で動作をさせるような構成であってもよい。
【0021】
溶接装置100において、鋼板である一対の母材3の開先の裏側には固定の銅当て金1が配置されており、開先の表側には銅当て金30が配置される。ここで、裏側の銅当て金1の代わりに、耐熱性のセラミックから構成される裏当て材を用いてもよい。また、表側の銅当て金30は、上下方向に摺動する銅当て金であり、例えば、水冷により冷却されている。なお、本実施形態では、溶接用摺動銅当て金30の材質として銅を挙げているが、銅に限定されるものではなく、一般的に熱伝導性能が良い材質であれば、当て金に用いられる材質は特に問わない。本実施形態では、便宜上、固定の銅当て金1が配置されている方を「開先の裏側」、溶接用摺動銅当て金30が配置されている側を「開先の表側」とするが、開先の両側に摺動銅当て金30を配置しても構わない。
【0022】
溶接トーチ4は、溶接電源200から供給される溶接電流8により溶接ワイヤ6に給電して母材3を溶接する。また、溶接トーチ4は、コンタクトチップ5を有しており、コンタクトチップ5は、溶接ワイヤ6を案内するとともに溶接ワイヤ6に溶接電流8を供給する。
【0023】
母材3、銅当て金1、および銅当て金30に囲まれた開先内に、溶接トーチ4のコンタクトチップ5の先端から溶接ワイヤ6が送給され、開先内に形成された溶融スラグ浴7内に送り込まれる。溶接電流8は、溶接ワイヤ6から溶融スラグ浴7を通して溶融金属9に流れる。このとき、溶融スラグ浴7を流れる溶接電流8及び溶融スラグ浴7の抵抗により、ジュール熱が発生し、溶接ワイヤ6及び母材3を溶融しながら溶接が進行する。
【0024】
溶融スラグ浴検出器13は、溶融スラグ浴7の位置を検出する。溶融スラグ浴検出器13の動作例については、
図3などを用いて後述する。フラックス供給装置14は、溶融スラグ浴7にフラックス12を供給する。フラックス12は溶融して溶融スラグになるため、フラックス12を供給することにより、溶融スラグ浴7の量が増えることとなる。
【0025】
フラックス供給制御装置15は、フラックス供給装置14の動作を制御し、溶融スラグ浴7に供給されるフラックス12の量を調整する。フラックス供給制御装置15は、溶融スラグ浴検出器13が溶融スラグ浴7を検出していない場合、すなわち、本実施形態において銅当て金30の上部に設置された溶融スラグ浴検出器13の検出端子18が溶融スラグ浴7の上面に接触していない場合には、フラックス12を供給するようにフラックス供給装置14を制御する。一方、フラックス供給制御装置15は、検出端子18が溶融スラグ浴7を検出している場合、すなわち、検出端子18が溶融スラグ浴7の上面に接触している場合には、フラックス12の供給を停止するようにフラックス供給装置14を制御する。このように、フラックス供給装置14は、溶融スラグ浴検出器13の検出結果に応じてフラックス12を供給し、溶融スラグ浴7の深さを調整する。
【0026】
溶接が進行するにつれて、溶融金属9は冷却されて溶接金属10となり、溶融スラグ浴7の一部は、銅当て金1と溶接金属10との間、及び銅当て金30と溶接金属10との間に形成された溶融スラグ層となり、この溶融スラグ層が冷却されて固化スラグ11となる。このようにして、溶融スラグ浴7は、その一部がビード表面を覆う固化スラグ11となるので、溶接の進行につれて消費され、溶融スラグ浴7の深さLsが減少していくことになる。この溶融スラグ浴7の減少を補うためには、溶融して溶融スラグ浴7となるフラックス12を追加供給する必要がある。
【0027】
ビード表面を覆う固化スラグ11の量は、ビード幅や溶接開先の幅によって変動する。また、固化スラグ11の量は、銅当て金1や銅当て金30と、ワーク(以下、被溶接材、母材とも称する)との密着度合や、銅当て金1や銅当て金30の冷却状態によっても変動する。そのため、固化スラグ11の量は一定ではなく、溶融スラグ浴7の深さLsを一定に保つためには供給するフラックス12の量も変化させる必要がある。しかしながら、溶融スラグ浴7の深さLsがわからないために、フラックス12の供給量が適切でない場合には、溶融スラグ浴7の深さLsが変動することになる。
【0028】
本実施形態では、溶融スラグ浴7の深さLsを一定にするための制御を行う。ここで、一定とは、溶融スラグ浴7の深さLsが常に1つの値になる場合に限られず、誤差を考慮して溶融スラグ浴7の深さLsが一定の範囲内の値を示す場合も含まれる。すなわち、溶融スラグ浴7の深さLsは、予め定めた深さの範囲内にて維持されるように制御される。
【0029】
溶融スラグ浴7の深さLsを一定にするための第1の要件は、コンタクトチップ5の先端から溶融スラグ浴7の上面までの溶接ワイヤ長Ld(以下、ドライエクステンションLdと称する)が予め定めた長さになるように制御することである。また、溶融スラグ浴7の深さLsを一定にするための第2の要件は、ワイヤ送給速度に応じて定められた基準電流値に対して溶接電流8が予め定めた関係、すなわち、基準電流値と溶接電流8とが等しくなるように、走行台車制御装置17が走行台車16の走行速度を制御することである。同一ワイヤ送給速度において、(Ld+Ls)と溶接電流8には相関がある。基準電流値と溶接電流8とが等しくなるように、走行台車制御装置17が走行台車16の走行速度を制御することで、(Ld+Ls)は一定に保たれる。
【0030】
なお、ドライエクステンションLdの制御は、溶融スラグ浴検出器13により溶融スラグ浴7を検出することで可能である。また、上記では、ドライエクステンションLdを、溶融スラグ浴7の上面からコンタクトチップ5の先端としたが、これはコンタクトチップ5の先端が一般的に溶接ワイヤ6とコンタクトチップ5間の通電位置になっていることを前提としている。例えば、コンタクトチップ5の先端が、セラミック等で保護され、コンタクトチップ5の先端より上方で溶接ワイヤ6とコンタクトチップ5の通電部分を設けている場合は、この通電部分の位置がドライエクステンションLdを決める基準となる。
【0031】
なお、EGWの場合は、溶融スラグ浴7が無いため、突出し長さ(エクステンション)は、溶接ワイヤとコンタクトチップの通電位置と、溶融金属表面間の距離となる。
【0032】
また、溶接トーチ4を揺動(以下、オシレートとも称する)させる場合、オシレート中の溶接トーチ4の位置によって、溶融スラグ浴7表面の溶接電圧の分布が異なる。例えば、溶接トーチ4をX軸方向に沿ってオシレートさせることが想定される。このような構成において、より検出精度を高めるためには、溶接トーチ4が溶融スラグ浴検出器13近傍にある場合のみ、溶接電圧を検出することが好ましい。ここでの近傍とは、例えば、溶接ワイヤ6と溶融スラグ浴7の接触位置と、溶融スラグ浴検出器13の検出端子18との距離が、x軸方向のオシレート長全体の1/4の長さよりも近い範囲内とするなど、予め規定しておく。より好ましくは、溶接ワイヤ6と溶融スラグ浴7の接触位置と溶融スラグ浴検出器13とが最も近い位置の電圧のみ検出する。また、溶接電圧に対する閾値を予め定めた値に設定する。また、フラックス12の供給量は、オシレート長ごとに設定することが好ましく、オシレート長が大きくなるほど、フラックス12の供給量を多くすることがより好ましい。このようにフラックス12の供給量を制御することにより、溶融スラグ浴7の深さLsをより精度よく制御することができる。
【0033】
(走行台車)
走行台車16は、溶接用摺動銅当て金30、溶接トーチ4、溶融スラグ浴検出器13、フラックス供給装置14、フラックス供給制御装置15、走行台車制御装置17、および昇降駆動部19を搭載して構成される。走行台車16は、溶接しながら、不図示のレール上を上方向、即ち、矢印Z方向に移動することで、溶接装置100を昇降させる。すなわち、走行台車16は、溶接用摺動銅当て金30、溶接トーチ4、溶融スラグ浴検出器13、フラックス供給装置14、フラックス供給制御装置15、走行台車制御装置17、および昇降駆動部19と一体となって移動するため、それぞれの相対的な位置関係は変わらない。走行台車16が上昇することにより、上方向に沿って立向溶接が行われる。
【0034】
走行台車制御装置17は、走行台車16に備えられる昇降駆動部19を制御して、走行台車16の走行速度(以下、昇降速度または上昇速度とも称する)を増減させて、走行台車16の動作を制御する。フラックス供給制御装置15は、溶融スラグ浴検出器13から検出される検出値に従って、制御量を導出してフラックス供給装置14に出力することで、フラックス供給量を制御する。昇降駆動部19は、走行台車制御装置17の制御信号に基づいて、走行台車16を駆動させる。
【0035】
(溶接用摺動銅当て金)
溶接用摺動銅当て金30は、ワークの溶接個所、すなわち開先表面の一方に設置され、溶接装置100の昇降動作に合わせて、開先表面上を摺動する。また、本実施形態に係る溶接用摺動銅当て金30は、水冷を行うための冷却機構を有する。
【0036】
図3は、本実施形態に係る溶接用摺動銅当て金30の外観斜視図である。銅当て金30は、当て金本体部40に加えて、
図3に示すような一対のスラグ漏れ防止部60を備えても良い。また、当て金本体部40は、
図3に示すような基部41、及び基部41に回転自在に保持された一対の回転部材31を有してもよい。一対のスラグ漏れ防止部60は、当て金本体部40の両側方に設けられ、溶接線方向で板厚の違いのある継手部分において、溶融スラグまたは溶融金属の漏れを防止する。
【0037】
凹部43の上部には、絶縁部材48、および溶融スラグ浴検出器13の検出端子18が配置されている。当て金本体部40の基部41の内部には、冷却用水を流すための不図示の水冷経路の一部が形成される。水冷経路により回転部材31、当て金本体部40、及びスラグ漏れ防止部60を冷却することで、溶融スラグまたは溶融金属を固めて、溶融スラグまたは溶融金属が、母材3と溶接用摺動銅当て金30の間から漏れ出すことを抑制する。
【0038】
スラグ漏れ防止部60は、開先に沿った上下方向に互いに摺接可能に並べて配置される略直方体状の複数のブロック64を備える。なお、
図3に示す構成例では、ブロック64を6個備える。複数のブロック64それぞれは、不図示の付勢部材の弾性力により母材3と当接又は近接する方向に押圧される。溶接用摺動銅当て金30が溶接線方向に沿って摺動することで、各ブロック64は、母材3の表面形状に追従して、それぞれ当て金本体部40の長手方向に垂直な厚さ方向、即ち、X方向に移動する。
【0039】
本実施形態のように、スラグ漏れ防止部60に、ブロック64を複数に分割して設けることで、上下方向の板厚の違いのある継手部分を通過する時に、母材3と可動部材61の隙間をより小さくでき、溶融スラグの漏れをより確実に防止することができる。また、スラグ漏れ防止部60を構成する部位は、伝熱性の良い金属材料で構成されてよい。なお、伝熱性の良い金属材料として、例えば、銅やステンレスが挙げられる。また、より冷却効果を高めるために、当て金本体部40の内部においては、スラグ漏れ防止部60に近い箇所に水冷経路が設置されるのが好ましい。
【0040】
(溶融スラグ浴検出器)
本実施形態において、溶接用摺動銅当て金30は、溶融スラグ浴検出器13の構成の一つである検出端子18と一体化されている。溶融スラグ浴検出器13は、溶融スラグ浴7の位置を検出するために用いられる。
【0041】
本実施形態に係る溶融スラグ浴検出器13は、検出端子18および不図示の検出回路を有する。検出端子18は、電気伝導性の高い金属である銅または銅合金から構成され、ブロック形状を有する。検出端子18は、溶接用摺動銅当て金30の基部41とは絶縁されている。ここでの絶縁方法は、単に検出端子18と溶接用摺動銅当て金30の基部41との間に空間を設けてもよいし、電気抵抗の高い素材、例えばセラミック等で検出端子18と溶接用摺動銅当て金30の基部41との間を隔ててもよい。
図3に示す構成例では、絶縁部材48を用いて、検出端子18と溶接用摺動銅当て金30との間の絶縁を行っている。
【0042】
また、検出端子18は、水冷等の冷却機構が含まれているとより好ましい。セラミック等の絶縁部材48によって、検出端子18と溶接用摺動銅当て金30の基部41との間を隔てる機構とした場合には、溶接用摺動銅当て金30の冷却機能が、絶縁部材48を介して検出端子18にも及ぶ。そのため、このような機構の場合は、検出端子18自身に水冷機構を付ける必要はない。このような構成の場合、冷却機構を省くことができるため、装置の軽量化、装置コストの低下を図ることができ、より好ましい。
【0043】
また、単に検出端子18と溶接用摺動銅当て金30の基部41との間に空間を設けた場合は、その空間にスラグ浴が入り込み、検出の誤認やスラグが固まったあとの清掃作業が発生する。そのため、絶縁方法としては、絶縁部材48により検出端子18と溶接用摺動銅当て金30の基部41との間を隔てることが好ましい。なお、検出端子18は、溶接用摺動銅当て金30と一体化していなくてもよい。また、検出端子18として、例えば、視覚センサやレーザセンサを用いて、溶融スラグ浴の位置を検出してもよい。
【0044】
溶融スラグ浴検出器13に含まれる不図示の検出回路は、例えば、差動増幅器、基準信号設定器、および比較器等を含んで構成される。検出端子18は、溶融スラグ浴7に接触すると、溶接電流8の一部により印加される電圧が変化する。差動増幅器は、検出端子18に印加されている電圧と、溶接装置100のフレームGNDとを入力として、その電位差の増幅を行う。なお、電位差を求める際の入力は、検出端子18と溶接用摺動銅当て金30との間でもよく、検出端子18とワーク間としてもよい。溶接用摺動銅当て金30は、溶融スラグ浴7に接触しており、対地電位を持つ場合があるため、電位差の検出信号の精度の観点から、検出端子18と装置のフレームGNDとの電位差を入力することがより好ましい。
【0045】
基準信号設定器は、検出端子18と装置のフレームGNDとの電位差に対する予め定めた割合の電圧を、基準信号として出力する。ここでの基準信号は、ノイズによって誤検出しない程度の電圧、例えば、検出端子18が溶融スラグ浴7に接触したときに検出する電圧の半分程度、すなわち、40~60%の範囲内で設定することが好ましい。例えば、検出端子18が溶融スラグ浴7に接触した際に印加される電圧が6Vである場合に、予め定めた割合を50%と設定した場合は、基準信号として3Vの電位差が設定される。なお、検出端子18が溶融スラグ浴7に接触していない場合は、当然のごとく、検出端子18と装置のフレームGNDとの電位差は0Vとなる。
【0046】
なお、上述したように、溶接トーチ4がオシレートする場合、溶接トーチ4の位置、すなわち、溶接ワイヤ6と溶融スラグ浴7の接触位置と、溶融スラグ浴検出器13の検出端子18との距離によって検出する電位差が異なる。そのため、基準信号設定器を適用しての基準信号の出力は、溶接トーチ4の位置に応じて変化させてよい。一方、溶接トーチ4がオシレートをしない場合、予め定めた固定の電位差の値を基準信号とすればよく、基準信号設定器は省略されてもよい。
【0047】
比較器は、差動増幅器の出力信号と基準信号設定器の基準信号とを入力として、差動増幅器の出力信号が基準信号設定器の基準信号より大きくなった場合に、検出端子18と溶融スラグ浴7とが接触したことを示す検知信号を生成する。生成された検知信号は、フラックス供給制御装置15に入力される。フラックス供給制御装置15は、入力された検知信号に基づいてフラックス供給装置14に対して制御信号を出力する。フラックス供給装置14は、フラックス供給制御装置15から入力された制御信号に基づいて、フラックスの供給及び停止を行う。これにより、溶融スラグ浴7の上面がコンタクトチップ5の先端から予め定めた長さに位置するように制御され、ドライエクステンションLdが予め定めた長さに制御される。
【0048】
また、比較器により生成された検知信号は、走行台車制御装置17にも入力される。走行台車制御装置17は、検知信号に応じて、走行台車16の走行制御を行うための制御信号を出力する。なお、走行台車制御装置17は、比較器により生成された検知信号に代えて、フラックス供給制御装置15による制御信号を受け付けてもよい。すなわち、走行台車制御装置17は、フラックス供給制御装置15が比較器により生成された検知信号に応じて導出した制御信号に基づいて、走行台車16を制御するための制御信号を導出してもよい。
【0049】
また、検出回路において、誤検知を防止し、検知信号の精度を高めるために、差動増幅器の後にフィルタ回路を設けてもよい。この場合、フィルタ回路により処理をした信号に基づいて溶融スラグ浴7を検出したか否かの判定を行う。フィルタ回路は、溶接トーチ4の揺動周期程度、すなわち周期の1/2から2倍程度の範囲から選択される値を時定数としたローパスフィルタ回路とすることが好ましい。
【0050】
(溶接電源、およびワイヤ送給装置)
溶接電源200は、不図示のパワーケーブルを介して、消耗式電極である溶接ワイヤ6に通電できるように溶接装置100に接続される。更に、溶接電源200は、不図示のパワーケーブルを介してワークと接続される。なお、溶接電源200と溶接装置100間にインターフェースとして、不図示の中継箱を設けてもよい。中継箱は、走行台車16への電源供給等の各種制御ケーブルや非常停止スイッチ等を設置してもよい。中継箱を設けることで、例えば、ケーブルの取り外しが容易になり、溶接作業の効率化に寄与することができる。また、中継箱には、SDカード等の取り外し可能なメモリを設置できる機構を設けてもよく、溶接電流やアーク電圧といったような溶接中の記録をメモリに書き込んでもよい。また、溶接電源200と溶接ワイヤ6を送給するためのワイヤ送給装置300は、直接または中継箱を介して信号線で接続され、溶接ワイヤ6の送給速度を制御することができる。
【0051】
(操作箱)
操作箱400は、溶接装置100に対し、作業者による操作に基づいて各種の指令を出力する。操作箱400にて操作可能な項目としては、例えば、溶接方法や溶接材料などの施工情報や、溶接電流、アーク電圧、ワイヤ送給速度や突出し長さ等の溶接条件などが挙げられる。操作箱400は、操作可能な項目を入力するためのUI(User Interface)を備える。そのほか、操作箱400を用いて、溶接電流、アーク電圧等のモニタリングが可能な構成であってもよい。
【0052】
本実施形態では、溶接装置100内に、本実施形態に係る各種処理を行う制御装置を含める構成を示した。しかしながら、上述した溶接装置100の一部または全部の処理を行うような構成の制御装置を、溶接装置100とは別個に設ける構成であってもよい。この場合、制御装置は、溶接システム500または溶接装置100とは、有線/無線のネットワーク(不図示)を介して接続される構成であってよい。
【0053】
溶接装置100とは別個に設けられる制御装置は、例えば、不図示の制御部、記憶部、および入出力部を含んで構成される情報処理装置にて実現されてよい。制御部は、CPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro Processing Unit)、DSP(Digital Single Processor)、または専用回路などから構成されてよい。記憶部は、HDD(Hard Disk Drive)、ROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)等の揮発性および不揮発性の記憶媒体により構成され、制御部からの指示により各種情報の入出力が可能である。入出力部は、外部からの各種情報の入力や、外部への各種情報の出力が可能である。入出力部は、例えば、液晶ディスプレイ等の表示デバイス等から構成され、制御部からの指示により、作業者へ各種情報を出力する。入出力部による出力方法は特に限定するものではないが、例えば、音声による聴覚的な出力であってもよいし、画面出力による視覚的な報知であってもよい。また、入出力部は、通信機能を備えたネットワークインターフェースであってもよく、ネットワーク(不図示)を介した外部装置(不図示)へのデータ送信により出力動作を行ってもよい。
【0054】
[従来技術の課題]
ここで、従来技術に係る課題について説明する。従来、ESWまたはEGWは、突出し長さの設定値、または送給速度の設定値を一定とし、検出した溶接電流と予め設定した溶接電流の目標値の差異に基づいて、上昇速度を制御することで溶接動作を安定化させる。しかしながら、例えば、ESWまたはEGWといった溶接方法の違い、または溶接ワイヤの組成、線径や板厚、開先形状等の溶接条件の違いによって、溶接電流や突出し長さ、送給速度等の適正な溶接条件が異なる。そのため、上記のような従来の制御方法では、条件に応じて種々溶融速度式を構築しなければならない。
【0055】
また、従来、溶接電流と予め設定した溶接電流の基準値の差異を取ることを必須とし、突出し長さまたは送給速度の値は固定としている。溶接電流は変動しているため、溶接位置によっては、熱エネルギーが変化し、位置によって溶け込みが変わる。そのため、突出し長さまたは送給速度の値を固定とした場合には、状況によっては、融合不良といった溶接欠陥が生じる可能性もある。すなわち、従来の手法では、溶接条件に合わせて、溶接電流を一定にして熱エネルギーを安定させる、または送給速度を一定にして溶着量を安定させるといったように、状況に応じて汎用的に制御することはできない。本実施形態では、上記のような課題を解決することを目的とする。
【0056】
[機能構成]
図4は、本実施形態に係る走行台車制御装置17における機能構成の例を説明するための図である。なお、
図4では、本実施形態に係る機能に対応する部分のみを示しており、説明を簡略化するために他の制御に関する部位については省略する。
【0057】
走行台車制御装置17は、パラメータ管理部441、基準値算出部442、および制御量算出部443を含んで構成される。なお、パラメータ管理部441、基準値算出部442、および制御量算出部443は必ずしも走行台車制御装置17に備えられる構成に限定するものではなく、例えば、操作箱400や不図示の外部の情報処理装置にてその一部または全部の機能が実現されてもよい。
【0058】
本実施形態において、パラメータ管理部441は少なくとも一つのデータベース(以下、DBとも称する)を有し、このDBは少なくとも施工情報と係数情報とを関連付けたデータを含んで構成される。施工情報は、例えば、溶接方法、溶接材料、摺動銅当て金の配置、裏当て材の材質、シールドガスの種類、ワーク材質、ワーク板厚、開先形状等の情報が挙げられる。本実施形態では、少なくとも溶接方法、および溶接材料の項目が含まれる。なお、溶接材料は、溶接ワイヤやフラックスの情報が挙げられ、EGWでは溶接ワイヤ、ESWでは溶接ワイヤとフラックスの組み合わせによる情報とする。EGWの場合における溶接ワイヤの情報としては、ワイヤの種類(FCW(Flux Cored Wire)やソリッドワイヤ)、組成、線径などが挙げられる。このように、複数の溶接方式を考慮した情報を含むDBを構成することが、汎用性を高める観点から好ましい。また、係数情報は、後述する関数に係る係数を示し、本実施形態では、少なくとも2以上の係数が含まれる。
【0059】
また、パラメータ管理部441は、入力された施工情報に基づいて、制御量算出部443にて用いられるパラメータを特定し、制御量算出部443に出力してもよい。ここでのパラメータは、例えば、ゲイン等の定数であってよい。この場合、パラメータ管理部441は、制御量算出部443にて用いるパラメータと、施工情報410とを対応付けたDBを備え、施工情報の設定値に応じて、制御量算出部443にて用いるパラメータを出力するか否かを決定してよい。ゲインを用いる場合の例については、式(2)を用いて後述する。
【0060】
本実施形態では、少なくとも、溶接方法および溶接材料の項目を含む施工情報と、少なくとも2以上の係数が含まれる係数情報とが関連付けられている。溶接方法と溶接材料の組み合わせごとに関連付けられた少なくとも2以上の係数は、少なくとも送給速度、溶接電流、突出し長さの値が変化した場合であっても一定の関係となるように設定する。これにより、溶接方法や溶接条件が異なった場合であっても、送給速度、溶接電流、突出し長さ等の溶接条件に対し、適切な値が導出される。そのため、従来のように、溶接方法や溶接条件に応じて関数を個別に手作業で調整したり、別個の関数を都度定義したりする必要がない。また、予め定義された関数のみを用いて、種々の溶接方法、溶接条件に活用でき、かつ、安定した溶接品質が維持できる。
【0061】
基準値算出部442は、予め規定された関数を用いて、少なくとも指定された溶接条件設定情報420、およびパラメータ管理部441からの情報を入力として、制御量算出部443で用いる基準値を算出する。なお、本実施形態に係る関数は、基準値算出部442にて予め規定されていてもよいし、施工情報410として指定された溶接方法に応じて対応する関数を記憶部から呼び出すような構成であってもよい。基準値算出部442にて用いる関数の具体例については、式(1)として後述する。
【0062】
溶接条件設定情報420は、例えば、溶接電流、送給速度、突出し長さ、アーク電圧、オシレートに係る条件等が挙げられる。なお、溶接電流を指定する際には、単にアンペア(A)として入力してもよいし、単位面積あたりの溶接電流値とした電流密度としてもよい。オシレートに係る条件は、例えば、オシレート長やオシレート周期などが挙げられる。本実施形態では、溶接条件として、少なくとも溶接電流、送給速度、突出し長さのうち少なくとも2つを設定項目とする。基準値算出部442により算出される基準値の項目は、予め規定される関数に基づいて、溶接条件のうちのいずれかが導出される。そのため、本実施形態では、従来のように、基準値が溶接電流に限られることがなく、例えば、送給速度や突出し長さなど他の項目の基準値を算出させることができ、自由度の高い制御が可能となる。
【0063】
制御量算出部443は、基準値算出部442から出力された基準値に対し、予め設定された制御式やテーブルに基づいて、制御量を出力する。制御式やテーブルは、制御量算出部443にて予め保持されていてもよいし、指定された条件に応じて対応する制御式やテーブルを記憶部から呼び出すような構成であってもよい。また、制御量算出部443は、測定部430から、昇降駆動部19などの実際の動作の実測値を取得し、この情報も制御量の算出に用いる。例えば、測定部430による実測値をフィードバックとして用いたPI制御(比例-積分制御)などが行われてよい。ここで算出する制御量により制御される対象は特に問わず、例えば、上昇速度を補正したい場合には、昇降駆動部19へ制御量を入力してよい。溶接電流やアーク電圧(ESWの場合は溶接電圧)等の溶接条件を制御したい場合には、溶接電源200へ制御量を入力してもよい。また、制御対象は一つに限る必要なく、例えば、制御量算出部443は、制御式を用いて、上昇速度と溶接電流等の複数の要素に対して制御量を出力してもよい。
【0064】
[制御方法]
本実施形態の制御方法について、ESWを例に挙げ、
図2に示す構成に基づいて説明する。
図2を用いて説明したように、溶接装置100において、母材3により構成される開先の一方には固定の銅当て金1が配置されており、開先のもう一方には溶接用摺動銅当て金30が配置される。
【0065】
本実施形態では、施工情報として、溶接方法、および溶接材料を用いる。また、溶接条件として、溶接電流、送給速度、および突出し長さを用いる。また、本実施形態では、走行台車16の上昇制御に着目して説明するが、溶接電源200やワイヤ送給装置300も同様に制御可能である。また、
図4では、走行台車制御装置17から制御量が出力される先として、昇降駆動部19、溶接電源200、およびワイヤ送給装置300が示されているがこれに限定するものではない。例えば、制御量算出部443は、制御量に関する情報をフラックス供給制御装置15に出力するような構成であってもよい。この場合、フラックス供給制御装置15は、制御量算出部443にて受け付けた制御量と、溶融スラグ浴検出器13の検出結果に基づいて、フラックス供給装置14によるフラックス12の供給量を導出してよい。より具体的には、突出し長さが溶接条件にて設定された値、もしくは、基準値算出部442にて算出した基準値となるように、フラックス12の供給量を導出してよい。更に、開先断面積に応じて基準となるフラックス供給量に対して演算部で算出された制御量を増減させる方法も可能としてもよい。
【0066】
図6は、本実施形態に係る情報の流れを示す図である。各処理部の概略構成は
図4に示した構成と同様である。
【0067】
パラメータ管理部441は、操作箱400を介して施工情報410における各入力項目の設定値を受け付ける。ここでは、溶接方法411と溶接材料412の値をそれぞれ受け付ける。パラメータ管理部441は、保持するDBを参照して、入力された設定値に対応する係数情報を特定する。
図6の例の場合、施工情報410として、溶接方法「ESW」、および溶接材料「ワイヤ+フラックス」が設定された例を示している。
【0068】
図5は、本実施形態に係るパラメータ管理部441にて管理されているDBの構成例を示す図である。DBにおいて、施工情報の各値と、基準値算出部442にて用いられる関数に含まれる係数の値とが対応付けて保持される。ここでは、基準値算出部442にて用いられる関数に3つの係数a,b,cが含まれるものとする。この場合において、各係数に対応する値が係数情報として施工情報に対応付けられている。例えば、操作箱400を介して施工情報が溶接方法「EGW」と溶接材料「ワイヤA」が指定されたとする。この場合、係数情報の各値は、a=a1,b=b1,c=c1が設定される。設定された各値は、基準値算出部442に出力される。なお、係数の数は3つに限定するものではなく、例えば、施工情報に応じて特定される関数に応じてその数は変動してよい。
【0069】
更にパラメータ管理部441は、制御量算出部443にて用いられる定数を施工情報に基づいて決定し、制御量算出部443に出力する。ここでの定数についても、制御量算出部443にて用いられる定数と施工情報とが対応付けられ、パラメータ管理部441にて保持、管理される。なお、
図4や
図6では示していないが、制御量算出部443にて用いられる定数は、溶接条件設定情報420にて設定される値を更に考慮して特定されるような構成であってもよい。この場合、溶接条件設定情報420の設定値が更に制御量算出部443にて用いられる定数に対応付けられ、パラメータ管理部441にて保持、管理される。
【0070】
基準値算出部442は、溶接条件の基準値を算出するための関数を保持、管理する。ここでの関数は、複数の溶接条件のパラメータのうち、指定されていない項目の基準値を決定するための関数である。例えば、溶接条件として、溶接電流、送給速度、および突出し長さを用いる場合において、送給速度と突出し長さが作業者により指定されている場合、これらに基づいて、溶接電流の基準値を算出する。つまり、溶接条件の各項目は相関関係があり、各項目の値に応じて調整される。なお、本実施形態では、3つの溶接条件の項目のうち、2つの項目を指定し、残りの指定されていない項目の基準値を算出する例を用いて説明するが、これに限定するものではない。例えば、N個の溶接条件の項目のうち、(N-2)個の項目の指定を受け付け、2個の指定されていない項目の基準値を算出するような構成であってもよい(N≧4)。これは、基準値算出部442にて用いられる関数の定義によって異なる。また、複数の指定されていない項目の基準値を算出する際には、複数の関数を連立方程式として用いてもよい。
【0071】
基準値算出部442は、操作箱400を介して溶接条件設定情報420における各入力項目の値を受け付ける。ここでは、溶接電流、送給速度、および突出し長さの3つの項目を対象とし、そのうちの2つの入力項目の入力を受け付ける。本実施形態では、3つの溶接条件のうち、送給速度と突出し長さの指定を受け付けるものとして説明する。基準値算出部442は、パラメータ管理部441から受け付けた係数情報を、基準値を算出するための関数に設定する。そして、基準値算出部442は、係数情報が設定された関数に対して、指定された送給速度および突出し長さの値を入力することで、溶接電流の基準値を算出する。算出された基準値は、制御量算出部443に出力される。
【0072】
制御量算出部443は、現在制御している溶接条件の実測値を取得する。ここでは、基準値算出部442にて算出した溶接条件の項目のほか、作業者により指定された溶接条件の項目の実測値を併せて取得してもよい。本実施形態では、少なくとも溶接電流の実測値が取得される。制御量算出部443は、基準値算出部442から受け付けた溶接電流の基準値、パラメータ管理部441にて指定された定数、および溶接電流の実測値に基づいて、昇降駆動部19に対する制御量を算出する。制御量は、予め規定された制御式やテーブルを用いて算出されてよい。昇降駆動部19の制御量としては、上昇速度の目標値が挙げられるが、他の制御値であってもよい。
【0073】
図7を用いて、本実施形態に係る処理フローを説明する。本処理フローは、本実施形態に走行台車制御装置17に備えられた不図示の制御部が、不図示の記憶部に保持されたプログラムを読み出して実行することで実現されてよい。ここでは説明を簡略化するために、処理の主体を走行台車制御装置17としてまとめて記載する。
【0074】
S701にて、走行台車制御装置17は、操作箱400を介して作業者から施工情報を取得する。ここでは施工情報として、溶接方法と溶接材料の指定を受け付ける。施工情報の指定は、例えば、複数の選択肢の中から任意の選択肢を選択することで行われてもよい。また、施工情報の各項目の設定値に対応したモードを予め複数定義しておき、この中から作業者が選択できるような構成であってもよい。
【0075】
S702にて、走行台車制御装置17は、操作箱400を介して作業者から溶接条件の各項目の設定値を受け付ける。ここでは溶接条件として、溶接電流、送給速度、および、突出し長さの項目を用いるものとし、そのうちの2つの項目の値に対する指定を受け付ける。ここでの突出し長さとしては、ESWの場合、ドライエクステンションの値が用いられることが望ましい。なお、溶接条件として用いる全体の項目数に応じて、入力が必須となる項目数が規定される。そのため、必須となる項目数の設定値が入力されていない場合には、作業者に対して入力を促すような通知を行うような構成であってもよい。
【0076】
S703にて、走行台車制御装置17は、S701にて取得した施工情報の値と、予め規定されたDBを用いて、基準値算出のためのパラメータである係数情報を決定する。DBは、
図5にて示したような構成にて定義される。
【0077】
S704にて、走行台車制御装置17は、S701にて取得した施工情報の値と、予め規定されたDBを用いて、制御量を算出するためのパラメータである定数を決定する。ここでの定数は、例えば、ゲイン数などが挙げられる。ゲイン数を決定する際には、予め規定された固定の値を用いてもよいし、DBにてある条件とゲイン数との関係式を設け、条件ごとにゲイン数を読み込んでもよい。例えば、送給速度とゲイン数との関係式を設けた場合は、設定した送給速度に応じて適切なゲイン数が決定される。なお、本工程は、S701にて設定された施工情報の内容によっては、省略されてもよい。その場合には、
図6に示すパラメータ管理部441から制御量算出部443へのパラメータの通知は省略される。また、ここでの定数の決定は、S702にて取得した溶接条件を更に考慮して行われてもよい。
【0078】
S705にて、走行台車制御装置17は、S703にて決定した係数情報を、予め規定された関数の各係数に設定する。このとき、走行台車制御装置17は、S701にて取得した施工情報に基づいて、予め規定された複数の関数の中から用いる関数を決定するような構成であってもよい。例えば、本実施形態においては、以下の式(1)を、基準値を算出するための関数として用いることができる。
【0079】
【0080】
Wf:送給速度
I:溶接電流
Ext:突出し長さ(エクステンション)
a,b,c,d:DBを用いて特定される係数
【0081】
式(1)に示すように、溶接条件の各項目は相関関係があり、例えば、溶接条件として送給速度と突出し長さが指定された場合、溶接条件の基準値を算出することができる。つまり、S702にて入力される項目に対応して式が規定されており、未入力の項目に対する基準値を算出することができる。また、式(1)の場合、定数a、b、c、dがS703にて決定される係数情報の項目に対応する。
【0082】
なお、式(1)は、溶接方式がESWとEGWのいずれの場合でも適用可能である。ESWの場合には、式(1)において突出し長さの値を示すExtをドライエクステンションの値に読み替えることで適用できる。
【0083】
S706にて、走行台車制御装置17は、S705にて係数情報を設定した関数にS702にて取得した溶接条件を入力することで、未確定の溶接条件の基準値を算出する。
【0084】
S707にて、走行台車制御装置17は、現在の動作状況における実測値を取得する。例えば、S702にて取得した溶接条件下で動作させた場合の実測値をフィードバック値として取得する。
【0085】
S708にて、走行台車制御装置17は、S706にて算出した基準値、S707にて取得した実測値、S704にて決定した定数を用いて、昇降駆動部19の制御量を算出する。ここでの制御量は、走行台車16の上昇速度の目標値であってよい。例えば、S704にて決定する定数をゲイン数とし、制御量をPI制御により制御量を求めてもよい。例えば、制御量は以下の式(2)を用いて算出してよい。式(2)を用いる場合、定数であるKpおよびKIがパラメータ管理部441により設定されてよい。なお、PI制御については、公知の手法を適用できるため、ここでの詳細な説明は省略する。
【0086】
【0087】
If:電流の実測値(フィードバック値)
Ic:電流の基準値(目標値)
Kp:比例ゲイン(定数)
KI:積分ゲイン(定数)
【0088】
S709にて、走行台車制御装置17は、S708にて算出した制御量に基づいて昇降駆動部19を制御する。そして、本処理フローを終了する。なお。本処理フローは、溶接装置100による溶接動作が行われている間、繰り返し実行される。
【0089】
(変形例)
上記の
図5、
図7では、溶接条件として、送給速度と突出し長さが設定される例については説明した。変形例として、溶接条件のうち、溶接電流と突出し長さが設定される例を、
図8に示す。この場合、基準値算出部442は、パラメータ管理部441から設定される係数情報に基づいて関数を設定し、この関数に溶接条件の設定値のうちの溶接電流と突出し長さの設定値を入力することで、送給速度の基準値を算出する。
【0090】
そして、制御量算出部443は、送給速度の実測値と、基準値算出部442にて算出した送給速度の基準値とに基づいて上昇速度の目標値を算出する。その後、昇降駆動部19は、算出した制御量に基づいて上昇動作が制御されることとなる。この場合でも、処理フローは、
図7にて示した流れと同様となる。なお、変形例の一つとして、溶接条件として、送給速度と突出し長さを設定し、上昇動作、即ち、溶接速度が制御される例を示した。同様に、溶接条件として、溶接速度と突出し長さを設定し、送給速度を制御するような場合でも、
図7にて示した流れにて実現できる。
【0091】
以上、本実施形態により、溶接方法や溶接条件が変化した場合においても適用可能な汎用性を有する制御が可能となる。また、より応用範囲の広い自動制御が可能となり、作業能率および溶接品質を向上させることが可能となる。
【0092】
<その他の実施形態>
また、本願発明において、上述した1以上の実施形態の機能を実現するためのプログラムやアプリケーションを、ネットワーク又は記憶媒体等を用いてシステム又は装置に供給し、そのシステム又は装置のコンピュータにおける1つ以上のプロセッサがプログラムを読出し実行する処理でも実現可能である。
【0093】
また、1以上の機能を実現する回路によって実現してもよい。なお、1以上の機能を実現する回路としては、例えば、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)やFPGA(Field Programmable Gate Array)が挙げられる。
【0094】
以上の通り、本明細書には次の事項が開示されている。
(1) エレクトロスラグ溶接またはエレクトロガス溶接の制御方法であって、
溶接方法と溶接材料の項目を含む施工情報と、前記施工情報に関連付けられた少なくとも2つの係数を含む係数情報とが対応付けられたデータベースと、前記施工情報に含まれる項目に対して指定されたパラメータとに基づいて、前記係数情報を決定する決定工程と、
溶接における溶接条件の項目として溶接電流、ワイヤの送給速度、および突出し長さを少なくとも含み、当該溶接条件の項目の少なくとも2つに対して指定された設定値と、前記決定工程にて決定された係数情報とに基づいて、前記溶接条件の項目のうちの指定されていない項目に対する基準値を算出する第1の算出工程と、
前記基準値に基づいて、前記溶接条件の項目のうちの指定されていない項目に対する制御量を算出する第2の算出工程と
を有することを特徴とする制御方法。
この構成によれば、一つの装置でEGW、ESW両方の溶接方法に適用できること、および様々な溶接条件においても適用できる汎用性を有する制御が可能となる。また、より応用範囲の広い自動制御が可能となり、作業能率および溶接品質を向上させることが可能となる。
【0095】
(2) 前記第1の算出工程にて、溶接電流、ワイヤの送給速度、および突出し長さの値を変数として有する関数を用いて前記基準値を算出し、
前記関数は、前記決定工程にて決定された係数情報にて示される係数を含む項を有することを特徴とする(1)に記載の制御方法。
この構成によれば、溶接電流、ワイヤの送給速度、および突出し長さの相関関係に基づいた関数を用いて、各項目の制御パラメータを算出することが可能となる。
【0096】
(3) 前記関数は、
【0097】
【0098】
Wf:送給速度
I:溶接電流
Ext:突出し長さ
a,b,c,d:DBを用いて特定される係数
により定義されることを特徴とする(2)に記載の制御方法。
この構成によれば、エレクトロスラグ溶接およびエレクトロガス溶接に対し、溶接電流、ワイヤの送給速度、および突出し長さの相関関係に基づいた関数を用いて、各項目の制御パラメータを算出することが可能となる。
【0099】
(4) 前記溶接方法がエレクトロガス溶接の場合において、
前記施工情報に含まれる溶接材料の項目は少なくとも、溶接ワイヤに関する情報を含み、
前記突出し長さは、前記溶接ワイヤとコンタクトチップの通電位置と、溶融金属表面間の距離とすることを特徴とする(3)に記載の制御方法。
この構成によれば、エレクトロガス溶接に対応した突出し長さの設定に応じて、適切な制御パラメータを算出することが可能となる。
【0100】
(5) 前記溶接方法がエレクトロスラグ溶接の場合において、
前記施工情報に含まれる溶接材料の項目は、溶接ワイヤおよびフラックスの少なくとも一方の情報を含み、
前記突出し長さは、前記溶接ワイヤと、予め定めたコンタクトチップの通電位置と、スラグ浴の表面間の距離とすることを特徴とする(3)に記載の制御方法。
この構成によれば、エレクトロスラグ溶接に対応した突出し長さの設定に応じて、適切な制御パラメータを算出することが可能となる。
【0101】
(6) 前記スラグ浴の表面を検出するためのセンサで検出したスラグ浴の表面位置と予め定めたコンタクトチップの通電位置に基づいて、前記突出し長さが前記指定された設定値または前記第1の算出工程にて算出された基準値となるように、前記スラグ浴の高さが制御されることを特徴とする(5)に記載の制御方法。
この構成によれば、エレクトロスラグ溶接に対応して、適切なスラグ浴の高さに制御することが可能となる。
【0102】
(7) 前記センサは、銅または銅合金のブロック形状からなる検出端子を有し、
前記検出端子は、母材に沿って摺動する銅当て金の予め定めた位置に、当該銅当て金と絶縁されて設置され、
前記センサは、前記検出端子に印加されている電位と、所定の電位との電位差に基づいて前記スラグ浴の検出を示す検出信号を出力し、
前記検出信号に基づいて、前記スラグ浴の高さが制御される
ことを特徴とする(6)に記載の制御方法。
この構成によれば、エレクトロスラグ溶接に対応して、適切なスラグ浴の高さに制御することが可能となる。
【0103】
(8) 溶接トーチをオシレートさせる場合、前記溶接トーチが前記銅当て金の近傍に位置する際の前記電位差に基づいて、前記検出信号を出力することを特徴とする(7)に記載の制御方法。
この構成によれば、オシレートが行われた場合でも、精度良くスラグ浴を検出し、適切なスラグ浴の高さに制御することが可能となる。
【0104】
(9) 前記オシレートの長さに応じて、前記スラグ浴の高さを制御するためのフラックス供給量を変更することを特徴とする(8)に記載の制御方法。
この構成によれば、オシレートが行われた場合でも、適切なスラグ浴の高さに制御することが可能となる。
【0105】
(10) 前記第2の算出工程にて、少なくとも、前記基準値と、前記基準値に対応する実測値との偏差に基づいて、制御量を算出することを特徴とする(1)~(9)のいずれかに記載の制御方法。
この構成によれば、様々な溶接条件のうちの設定されていない項目に対して基準値を算出でき、その基準値と実測値の偏差により、自動制御が可能となる。
【0106】
(11) 前記第1の算出工程にて算出される基準値および当該基準値に対応する実測値の溶接条件の項目は、溶接電流とし、
前記第2の算出工程にて、前記偏差と予め定めた定数とを項として含むPI制御の制御式を用いて、溶接速度、溶接電流、アーク電圧、送給速度、突出し長さ、のうち少なくとも1つを制御するための制御量が算出されることを特徴とする(10)に記載の制御方法。
この構成によれば、様々な溶接条件のうちの設定されていない項目に対して基準値を算出でき、その基準値と実測値の偏差を変数とするPI制御の制御式を用いて、溶接速度、溶接電流、アーク電圧、送給速度、突出し長さ、のうち少なくとも1つを制御することが可能となる。
【0107】
(12) 前記第1の算出工程にて算出される基準値および当該基準値に対応する実測値の溶接条件の項目は、送給速度とし、
前記第2の算出工程にて、前記偏差と予め定めた定数とを項として含むPI制御の制御式を用いて、溶接速度、溶接電流、アーク電圧、送給速度、突出し長さ、のうち少なくとも1つを制御するための制御量が算出されることを特徴とする(10)に記載の制御方法。
この構成によれば、様々な溶接条件のうちの設定されていない項目に対して基準値を算出でき、その基準値と実測値の偏差を変数とするPI制御の制御式を用いて、溶接速度、溶接電流、アーク電圧、送給速度、突出し長さ、のうち少なくとも1つを制御することが可能となる。
【0108】
(13) エレクトロスラグ溶接またはエレクトロガス溶接の制御装置であって、
溶接方法と溶接材料の項目を含む施工情報と、前記施工情報に関連付けられた少なくとも2つの係数を含む係数情報とが対応付けられたデータベースと、
前記施工情報に含まれる項目に対して指定されたパラメータと、前記データベースとに基づいて、前記係数情報を決定する決定手段と、
溶接における溶接条件の項目として溶接電流、ワイヤの送給速度、および突出し長さを少なくとも含み、当該溶接条件の項目の少なくとも2つに対して指定された設定値と、前記決定手段にて決定された係数情報とに基づいて、前記溶接条件の項目のうちの指定されていない項目に対する基準値を算出する第1の算出手段と、
前記基準値に基づいて、前記溶接条件の項目のうちの指定されていない項目に対する制御量を算出する第2の算出手段と
を有することを特徴とする制御装置。
この構成によれば、一つの装置でEGW、ESW両方の溶接方法に適用できること、および様々な溶接条件においても適用できる汎用性を有する制御が可能となる。また、より応用範囲の広い自動制御が可能となり、作業能率および溶接品質を向上させることが可能となる。
【0109】
(14) (13)に記載の制御装置と、
溶接装置と、
溶接電源と
を含む溶接システム。
この構成によれば、一つの装置でEGW、ESW両方の溶接方法に適用できること、および様々な溶接条件においても適用できる汎用性を有する制御が可能となる。また、より応用範囲の広い自動制御が可能となり、作業能率および溶接品質を向上させることが可能となる。
【0110】
(15) コンピュータに、
溶接方法と溶接材料の項目を含む施工情報と、前記施工情報に関連付けられた少なくとも2つの係数を含む係数情報とが対応付けられたデータベースと、前記施工情報に含まれる項目に対して指定されたパラメータとに基づいて、前記係数情報を決定する決定工程と、
溶接における溶接条件の項目として溶接電流、ワイヤの送給速度、および突出し長さを少なくとも含み、当該溶接条件の項目の少なくとも2つに対して指定された設定値と、前記決定工程にて決定された係数情報とに基づいて、前記溶接条件の項目のうちの指定されていない項目に対する基準値を算出する第1の算出工程と、
前記基準値に基づいて、前記溶接条件の項目のうちの指定されていない項目に対する制御量を算出する第2の算出工程と
を実行させるためのプログラム。
この構成によれば、一つの装置でEGW、ESW両方の溶接方法に適用できること、および様々な溶接条件においても適用できる汎用性を有する制御が可能となる。また、より応用範囲の広い自動制御が可能となり、作業能率および溶接品質を向上させることが可能となる。
【符号の説明】
【0111】
1…胴当て金
4…溶接トーチ
13…溶融スラグ浴検出器
14…フラックス供給装置
15…フラックス供給制御装置
16…走行台車
17…走行台車制御装置
19…昇降駆動部
30…溶接用摺動胴当て金
100…溶接装置
200…溶接電源
300…ワイヤ送給装置
400…操作箱
410…施工情報
411…溶接方法
412…溶接材料
420…溶接条件設定情報
421…溶接電流
422…送給速度
423…突出し長さ
430…測定部
441…パラメータ管理部
442…基準値算出部
443…制御量算出部
500…溶接システム