(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022134527
(43)【公開日】2022-09-15
(54)【発明の名称】がん検出方法、がん検査方法、及びこれらに用いるキット
(51)【国際特許分類】
G01N 33/68 20060101AFI20220908BHJP
G01N 33/574 20060101ALI20220908BHJP
G01N 33/543 20060101ALI20220908BHJP
C07K 14/435 20060101ALI20220908BHJP
C07K 14/42 20060101ALI20220908BHJP
C07K 16/18 20060101ALI20220908BHJP
C07K 16/28 20060101ALI20220908BHJP
C07K 16/30 20060101ALI20220908BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20220908BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20220908BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20220908BHJP
C12N 15/29 20060101ALN20220908BHJP
C12P 21/02 20060101ALN20220908BHJP
C12P 21/08 20060101ALN20220908BHJP
【FI】
G01N33/68
G01N33/574 A
G01N33/574 B
G01N33/543 515A
C07K14/435
C07K14/42
C07K16/18
C07K16/28
C07K16/30
C12Q1/02
C12N15/12
C12N15/13
C12N15/29
C12P21/02 C
C12P21/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021033693
(22)【出願日】2021-03-03
(71)【出願人】
【識別番号】399115851
【氏名又は名称】株式会社先端生命科学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】弁理士法人セントクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡田 和訓
(72)【発明者】
【氏名】八木 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】青柳 克己
【テーマコード(参考)】
2G045
4B063
4B064
4H045
【Fターム(参考)】
2G045AA26
2G045DA44
2G045FB03
4B063QA01
4B063QA18
4B063QA19
4B063QQ02
4B063QQ08
4B063QR02
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4B064DA14
4H045AA10
4H045AA11
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA33
4H045CA50
4H045DA76
4H045DA80
4H045EA51
4H045FA74
(57)【要約】
【課題】 新たなバイオマーカーを指標とした、高精度で前立腺がん及び大腸がんを特異的に検出可能ながん検出方法を提供すること。
【解決手段】 前立腺がん及び大腸がんからなる群から選択される少なくとも1種のがんを検出する方法であり、試料中のGalNAc付加CA19-9量を測定する測定工程を含むことを特徴とする、方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
前立腺がん及び大腸がんからなる群から選択される少なくとも1種のがんを検出する方法であり、試料中のGalNAc付加CA19-9量を測定する測定工程を含むことを特徴とする、方法。
【請求項2】
前立腺がん及び大腸がんからなる群から選択される少なくとも1種のがんを検査する方法であり、被検者由来の試料中のGalNAc付加CA19-9量を測定する測定工程を含むことを特徴とする、方法。
【請求項3】
前立腺がん及び大腸がんからなる群から選択される少なくとも1種のがんであると予測される被検者をスクリ-ニングする方法であり、被検者由来の試料中のGalNAc付加CA19-9量を測定する測定工程と、測定されたGalNAc付加CA19-9量を指標として被検者を選別する選別工程と、を含むことを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
GalNAc付加CA19-9において、GalNAcがWFAに結合するWFA結合型糖鎖であることを特徴とする、請求項1~3のうちのいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記測定工程が、前記試料と、CA19-9に特異的に結合可能な第1のプローブ分子及びGalNAcに特異的に結合可能な第2のプローブ分子と、を接触させる工程であることを特徴とする、請求項1~4のうちのいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
第1のプローブ分子が、CA19-9に特異的に結合可能な抗体であることを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
第2のプローブ分子が、GalNAcに特異的に結合可能なレクチンであることを特徴とする、請求項5又は6に記載の方法。
【請求項8】
前記測定工程が、前記試料と、捕捉体及び標識体と、を接触させる工程であり、
前記捕捉体が、非水溶性担体と、前記非水溶性担体に固定された第1のプローブ分子及び第2のプローブ分子のうちのいずれか一方と、を備えるものであり、かつ、
前記標識体が、標識物質と、第1のプローブ分子及び第2のプローブ分子のうちの他方と、を備えるものである、
ことを特徴とする、請求項5~7のうちのいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記捕捉体が、非水溶性担体と、前記非水溶性担体に固定された第1のプローブ分子と、を備えるものであり、かつ、
前記標識体が、水溶性担体と、前記水溶性担体に固定された標識物質及び第2のプローブ分子と、を備え、第2のプローブ分子がGalNAcに特異的に結合可能なレクチンであるブロック化標識レクチンである、
ことを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
請求項5~9のうちのいずれか一項に記載の方法に用いるためのキットであり、CA19-9に特異的に結合可能な第1のプローブ分子と、GalNAcに特異的に結合可能な第2のプローブ分子と、を備えることを特徴とする、キット。
【請求項11】
第1のプローブ分子が、CA19-9に特異的に結合可能な抗体であることを特徴とする、請求項10に記載のキット。
【請求項12】
第2のプローブ分子が、GalNAcに特異的に結合可能なレクチンであることを特徴とする、請求項10又は11に記載のキット。
【請求項13】
非水溶性担体と、前記非水溶性担体に固定された第1のプローブ分子及び第2のプローブ分子のうちのいずれか一方と、を備える捕捉体、並びに、
標識物質と、第1のプローブ分子及び第2のプローブ分子のうちの他方と、を備える標識体、
を備えることを特徴とする、請求項10~12のうちのいずれか一項に記載のキット。
【請求項14】
前記捕捉体が、非水溶性担体と、前記非水溶性担体に固定された第1のプローブ分子と、を備えるものであり、かつ、
前記標識体が、水溶性担体と、前記水溶性担体に固定された標識物質及び第2のプローブ分子と、を備え、第2のプローブ分子がGalNAcに特異的に結合可能なレクチンであるブロック化標識レクチンである、
ことを特徴とする、請求項13に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、がん検出方法、がん検査方法、及びこれらに用いるキットに関し、より詳しくは、前立腺がん及び大腸がんからなる群から選択される少なくとも1種のがんを検出する方法、及び前記がんを検査する方法、並びに、これらの方法に用いるキットに関する。
【背景技術】
【0002】
腫瘍マーカー等のバイオマーカーは、悪性腫瘍等の疾患の検出や、治療方針決定の指針、治療効果判定のためのモニタリングマーカーとして有用であり、近年盛んに研究されている。このようなバイオマーカーとしては、例えば、CA19-9が挙げられる。CA19-9は、1979年にKoprowskiらによってヒト大腸がん培養細胞株SW-1116を免疫原として得られたモノクローナル抗体(NS19-9)に認識されるI型糖鎖抗原であり、その抗原決定部位は、ルイス式血液型抗原のうちのルイスA抗原(Lea)にシアル酸が付加したシアリルルイスAである。CA19-9は、血中ではムチン型糖タンパク質として存在しており(非特許文献1等)、健常者(がんに罹患していない者の意、以下同じ)においても血中に検出されるが、消化器がん、特に大腸がん、膵がん、胆管がん、胆嚢がん等のがん患者においてはその濃度が上昇することが知られている(非特許文献1)。
【0003】
そのため、CA19-9は、これらのがんの検出や、治療方針決定の指針、治療効果判定のためのモニタリングマーカーとして従来から用いられており、例えば、固相化した抗CA19-9抗体(捕捉体)で試料中に存在するCA19-9を捕捉し、そこに標識化した抗CA19-9抗体(標識体)を結合させるサンドイッチ法で試料中のCA19-9を測定するためのキットとして、「ルミパルスプレスト(登録商標)CA19-9」が富士レビオ株式会社によって製造販売されている。
【0004】
また、前立腺がんの検出や、治療方針決定の指針、治療効果判定には、例えば、従来から血中のPSA(前立腺特異抗原:Prostate Specific Antigen)量が指標として用いられている。さらに、前立腺がん患者のPSAにおいては、健常者に比べてGalNAc(N-アセチルガラクトサミン)が有意に増加することが報告されている(非特許文献2等)。また、例えば、特許文献1には、試料中の遊離型PSA量と糖鎖の末端シアル酸残基が糖鎖の末端から2番目のガラクトース残基にα2、3結合した糖鎖(α2、3結合型シアル酸)を有するPSA量との比率から前立腺がんを判定する方法が記載されている。しかしながら、PSA量は前立腺がん患者のみならず前立腺肥大患者においても上昇することから、低濃度帯にカットオフ値を設定した場合には、前立腺がんの的中率が低くなる傾向にあることが課題となっている。また、ホルモン治療等によってPSA量が上昇しなくなった前立腺がん患者においては、これをモニタリングマーカーとして採用することができないという課題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】John L.Magnaniら,Cancer Research 43,1983年,p.5489-5492
【非特許文献2】Fukushimaら,Glycobiology,2010年,vol.20,no.4,p.452-460
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
健常者の血中に検出されるCA19-9は、約20万~100万Daの低~中分子のムチンの一部として存在するのに対して、がん患者の血中に検出されるCA19-9は、約500万~1000万Daの高分子のムチンの一部として存在することが報告されており、CA19-9以外の型の糖鎖についても、がん検出のための新たなバイオマーカーとしての可能性が期待されている。
【0008】
また、上記のようにCA19-9は健常者の血中においても少量は検出されるため、従来のCA19-9を測定する方法では、通常カットオフ値を設定し、それを指標に上記のがん等の陰性及び陽性の予測又は判別を行う。しかしながら、かかる従来のCA19-9を測定する方法では、シアリルルイスAに特異的な抗CA19-9抗体の1種のみを用いるため、がん種ごとの特異性が未だ十分ではなく、前立腺がん患者と健常者又は前立腺肥大患者と、或いは、大腸がん患者と健常者と、をより高精度で判別するためには未だ不十分であることを本発明者らは見出した。
【0009】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、新たなバイオマーカーを指標とした、高精度で前立腺がん及び大腸がんを特異的に検出可能ながん検出方法及びがん検査方法、並びに、これらの方法に用いるキットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、既存抗体では測定できなかった新たな腫瘍マーカーとしての糖鎖の探索を目的として、抗CA19-9抗体に加えて、水溶性高分子からなる水溶性担体と前記水溶性担体に固定された標識物質及びレクチンとを備える複合体(ブロック化標識レクチン)も用いてスクリーニングを行った。その結果、レクチンとしてWFAを用いた場合に検出される分子の量、すなわち、レクチン結合性のGalNAc(N-アセチルガラクトサミン)が付加したCA19-9(GalNAc付加CA19-9)の量が、前立腺がん患者及び大腸がん患者で有意に増加することを見出した。そのため、GalNAc付加CA19-9量を測定することにより、前立腺がん及び大腸がんを特異的に検出し、かつ、前立腺がん患者と健常者又は前立腺肥大患者と、或いは、大腸がん患者と健常者とを、CA19-9のみを測定した場合よりもさらに高精度で判別することが可能となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
かかる知見により得られた本発明の態様は次のとおりである。
[1]
前立腺がん及び大腸がんからなる群から選択される少なくとも1種のがんを検出する方法であり、試料中のGalNAc付加CA19-9量を測定する測定工程を含むことを特徴とする、方法。
[2]
前立腺がん及び大腸がんからなる群から選択される少なくとも1種のがんを検査する方法であり、被検者由来の試料中のGalNAc付加CA19-9量を測定する測定工程を含むことを特徴とする、方法。
[3]
前立腺がん及び大腸がんからなる群から選択される少なくとも1種のがんであると予測される被検者をスクリ-ニングする方法であり、被検者由来の試料中のGalNAc付加CA19-9量を測定する測定工程と、測定されたGalNAc付加CA19-9量を指標として被検者を選別する選別工程と、を含むことを特徴とする、[2]に記載の方法。
[4]
GalNAc付加CA19-9において、GalNAcがWFAに結合するWFA結合型糖鎖であることを特徴とする、[1]~[3]のうちのいずれか一項に記載の方法。
[5]
前記測定工程が、前記試料と、CA19-9に特異的に結合可能な第1のプローブ分子及びGalNAcに特異的に結合可能な第2のプローブ分子と、を接触させる工程であることを特徴とする、[1]~[4]のうちのいずれか一項に記載の方法。
[6]
第1のプローブ分子が、CA19-9に特異的に結合可能な抗体であることを特徴とする、[5]に記載の方法。
[7]
第2のプローブ分子が、GalNAcに特異的に結合可能なレクチンであることを特徴とする、[5]又は[6]に記載の方法。
[8]
前記測定工程が、前記試料と、捕捉体及び標識体と、を接触させる工程であり、
前記捕捉体が、非水溶性担体と、前記非水溶性担体に固定された第1のプローブ分子及び第2のプローブ分子のうちのいずれか一方と、を備えるものであり、かつ、
前記標識体が、標識物質と、第1のプローブ分子及び第2のプローブ分子のうちの他方と、を備えるものである、
ことを特徴とする、[5]~[7]のうちのいずれか一項に記載の方法。
[9]
前記捕捉体が、非水溶性担体と、前記非水溶性担体に固定された第1のプローブ分子と、を備えるものであり、かつ、
前記標識体が、水溶性担体と、前記水溶性担体に固定された標識物質及び第2のプローブ分子と、を備え、第2のプローブ分子がGalNAcに特異的に結合可能なレクチンであるブロック化標識レクチンである、
ことを特徴とする、[8]に記載の方法。
[10]
[5]~[9]のうちのいずれか一項に記載の方法に用いるためのキットであり、CA19-9に特異的に結合可能な第1のプローブ分子と、GalNAcに特異的に結合可能な第2のプローブ分子と、を備えることを特徴とする、キット。
[11]
第1のプローブ分子が、CA19-9に特異的に結合可能な抗体であることを特徴とする、[10]に記載のキット。
[12]
第2のプローブ分子が、GalNAcに特異的に結合可能なレクチンであることを特徴とする、[10]又は[11]に記載のキット。
[13]
非水溶性担体と、前記非水溶性担体に固定された第1のプローブ分子及び第2のプローブ分子のうちのいずれか一方と、を備える捕捉体、並びに、
標識物質と、第1のプローブ分子及び第2のプローブ分子のうちの他方と、を備える標識体、
を備えることを特徴とする、[10]~[12]のうちのいずれか一項に記載のキット。
[14]
前記捕捉体が、非水溶性担体と、前記非水溶性担体に固定された第1のプローブ分子と、を備えるものであり、かつ、
前記標識体が、水溶性担体と、前記水溶性担体に固定された標識物質及び第2のプローブ分子と、を備え、第2のプローブ分子がGalNAcに特異的に結合可能なレクチンであるブロック化標識レクチンである、
ことを特徴とする、[13]に記載のキット。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、新たなバイオマーカーを指標とした、高精度で前立腺がん及び大腸がんを特異的に検出可能ながん検出方法及びがん検査方法、並びに、これらの方法に用いるキットを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】健常人群及び前立腺癌群のCA19-9の測定結果を示すグラフである。
【
図2】健常人群及び前立腺癌群のCA19-9/WFAの測定結果を示すグラフである。
【
図3】前立腺肥大群及び前立腺癌群のCA19-9の測定結果を示すグラフである。
【
図4】前立腺肥大群及び前立腺癌群のCA19-9/WFAの測定結果を示すグラフである。
【
図5】CA19-9の測定値とCA19-9/WFAの測定値との関係を示すグラフである。
【
図6】PSAの測定値とCA19-9/WFAの測定値との関係を示すグラフである。
【
図7】健常人群及び大腸がん群のCA19-9の測定結果を示すグラフである。
【
図8】健常人群及び大腸がん群のCA19-9/WFAの測定結果を示すグラフである。
【
図9】CA19-9の測定値とCA19-9/WFAの測定値との関係を示すグラフである。
【
図10】健常人群及び乳癌群のCA19-9/WFAの測定結果を示すグラフである。
【
図11】健常人群及び前立腺癌群のCA19-9/MAMの測定結果を示すグラフである。
【
図12】健常人群及び大腸がん群のCA19-9/MAMの測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0015】
<がん検出方法、がん検査方法>
本発明のがん検出方法は、前立腺がん及び大腸がんからなる群から選択される少なくとも1種のがんを検出する方法であり、試料中のGalNAc付加CA19-9量を測定する測定工程を含む方法である。また、本発明のがん検査方法は、前立腺がん及び大腸がんからなる群から選択される少なくとも1種のがんを検査する方法であり、被検者由来の試料中のGalNAc付加CA19-9量を測定する測定工程を含む方法である。
【0016】
[がん]
本発明において、「がん」には、上皮性の悪性腫瘍(癌)及び非上皮性の悪性腫瘍(肉腫)が含まれる。本発明の方法において検出又は検査の対象となるがんは、前立腺がん及び大腸がんからなる群から選択される少なくとも1種のがんである。本発明に係る前立腺がんとは、前立腺に発生するがんを示し、例えば、前立腺癌、前立腺小細胞癌、前立腺導管癌、前立腺肉腫、前立腺扁平上皮癌、前立腺腺扁平上皮癌、前立腺基底細胞癌、前立腺粘液癌、前立腺印環細胞癌が挙げられる。これらの中でも、本発明に係る前立腺がんとしては、前立腺癌が好ましい。また、本発明に係る大腸がんとは、大腸(特に結腸又は直腸)に発生するがんを示し、例えば、当該領域における、腺癌、内分泌細胞癌、腺扁平上皮癌、扁平上皮癌、カルチノイド腫瘍、非上皮性悪性腫瘍、リンパ腫が挙げられる。これらの中でも、本発明に係る大腸がんとしては、大腸腺癌が好ましい。
【0017】
[GalNAc付加CA19-9]
本発明において、「GalNAc付加CA19-9」とは、CA19-9と、CA19-9に結合して付加されたGalNAc(N-アセチルガラクトサミン)と、を含む分子のことをいう。
【0018】
本発明において、「CA19-9」とは、ヒト大腸癌培養細胞株SW-1116を免疫原として得られたモノクローナル抗体(NS19-9)により認識されるI型糖鎖抗原のことを示す。CA19-9は、下記の抗CA19-9抗体に対する抗原決定部位として、ルイス式血液型抗原のうちのルイスA抗原(Lea)にシアル酸が付加したシアリルルイスAを有する(Koprowskiら、Somat.Cell Genet.,5,957,1979)。
【0019】
「GalNAc(N-アセチルガラクトサミン)」は、IUPAC名「2-(アセチルアミノ)-2-デオキシ-D-ガラクトース」で示される単糖である。本発明に係るGalNAc付加CA19-9としては、GalNAcを、WFAに結合するWFA結合型糖鎖として含んでいることが好ましく、末端GalNAc残基として含んでいることが好ましい。
【0020】
1分子のGalNAc付加CA19-9において、CA19-9及びGalNAcはそれぞれ複数存在していてよく、CA19-9とGalNAcとは直接結合していても、コアタンパク質や他の糖鎖を介して結合していてもよい。前記コアタンパク質としては、例えば、ムチン、アポリポプロテイン、キニノーゲン、ARCVFが挙げられる。この場合のGalNAc付加CA19-9の平均質量(ゲル濾過クロマトグラフィー(GFC)によるマーカーでの検量による平均質量、以下同じ)としては、特に限定されないが、25,000~10,000,000Daであることが好ましく、1,000,000~10,000,000Daであることがより好ましい。
【0021】
また、CA19-9とGalNAcとは、エクソソームのような細胞外小胞やウイルスのように、前記コアタンパク質よりもさらに巨大な粒子上に存在する形態であってもよい。この場合のGalNAc付加CA19-9(前記粒子を含む)の粒子径としては、特に限定されないが、50~500nm程度である。
【0022】
[被検者]
本発明において、「被検者」とは、本発明のがん検査方法を行う対象を示し、好ましくは人である。本発明に係る被検者としては、スクリーニング等を目的とした、健常者であっても、前立腺がん又は大腸がんに罹患しているが自覚症状のない者であってもよい。また、予後の決定、治療方針の決定、治療効果の確認、再発の確認等を目的とした、既に前記がんに罹患していることが既知の患者や過去に前記がんに罹患した患者であってもよい。また、本発明において、「健常者」とは、検査の対象となるがん(すなわち、前立腺がん及び/又は大腸がん)に罹患していない者を示す。なお、被検者が真に前立腺がん及び/又は大腸がんに罹患していることは、被検者から採取された前立腺組織及び/又は大腸組織の生検によって決定(確定診断)される。
【0023】
[試料]
本発明のがん検出方法及びがん検査方法(本明細書中、場合により、これらを総称して単に「本発明の方法」という)に用いられる「試料」としては、GalNAc付加CA19-9が存在し得る試料である限り特に制限はない。一般的には、前記被検者等、がん検査の対象から採取された血清、血漿、及び全血等の血液検体;尿、痰、唾液、汗、髄液、消化液、精液、リンパ液、腹水等の血液以外の体液検体;口腔粘膜、咽頭粘膜、腸管粘膜等の粘膜検体;並びに各種生検検体等が挙げられる。また、前記試料としては、培養細胞や細胞培養液であってもよい。本発明に係る試料としては血液検体が好ましく、血清(「血清検体」ともいう)がより好ましい。
【0024】
これらの試料は、必要に応じて希釈液で希釈又は懸濁したものであっても、適宜前処理が施されたものであってもよい。前記希釈液としては、例えば、リン酸緩衝液、Tris緩衝液、グッド緩衝液、ホウ酸緩衝液、酢酸緩衝液、クエン酸緩衝液、グリシン緩衝液コハク酸緩衝液、フタル酸緩衝液等の緩衝液が挙げられる。前記前処理としては、粉砕、凍結、加熱、濃縮、分画、脱塩等の処理;pH調整剤、安定化剤、保存剤、防腐剤、界面活性剤等の添加処理;精製処理等が挙げられ、これらのうちの1種を単独であっても2種以上の組み合わせであってもよい。前記精製処理としては、特に制限されないが、例えば、カラムによる処理;非水溶性担体に固定された試料中の夾雑物に吸着する抗体等の物質により夾雑物を吸着してGalNAc付加CA19-9を含む試料中から除去する処理;非水溶性担体に固定された抗CA19-9抗体によってGalNAc付加CA19-9を含むCA19-9を捕捉して夾雑物を洗浄等により除去してから遊離させる処理等が挙げられる。
【0025】
[測定工程]
本発明の方法は、試料中のGalNAc付加CA19-9量を測定する測定工程を含む。GalNAc付加CA19-9量の測定方法としては、GalNAc付加CA19-9量を測定することができる方法である限り特に制限されず、従来公知の方法やそれに準じた方法、又はそれらの組み合わせを適宜採用することができる。例えば、GalNAc付加CA19-9に特異的に結合可能なプローブ分子を用いる方法;高速液体クロマトグラフィー同位体希釈質量分析法(LC-IDMS);誘導結合プラズマ発光分析法(ICP-OES);誘導結合プラズマ質量分析法(ICP-MS);原子吸光分光法(Atomic Absorption Spectrometry、AAS);HPLC;FPLC;NMR;IR;FTIR;UV-VIS吸光光度計測法;フローサイトメトリ;質量分析法;及びこれらを組み合わせた方法が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0026】
中でも、本発明に係る測定工程としては、GalNAc付加CA19-9に特異的に結合可能なプローブ分子を用いる方法であることが好ましい。このようなプローブ分子としては、例えば、抗体;プロテインA、プロテインG、プロテインL等の結合タンパク質;アビジンD、ストレプトアビジン等のアビジン類;レクチン;ガレクチン、糖鎖受容体、免疫受容体等が挙げられる。なお、本発明において、「抗体」には、完全な抗体の他、抗体断片(例えば、Fab、Fab’、F(ab’)2、Fv、単鎖抗体、ダイアボディー等)や抗体の可変領域を結合させた低分子化抗体も含まれる。
【0027】
GalNAc付加CA19-9に特異的に結合可能なプローブ分子としては、CA19-9に特異的に結合可能なプローブ分子(本発明において、「第1のプローブ分子」という)とGalNAcに特異的に結合可能なプローブ分子(本発明において、「第2のプローブ分子」という)との組み合わせであることが好ましい。
【0028】
〔第1のプローブ分子〕
CA19-9に特異的に結合可能な第1のプローブ分子としては、例えば、CA19-9に特異的に結合可能な抗体(本明細書中、場合により「抗CA19-9抗体」という)、CA19-9が結合するタンパク質(前記コアタンパク質等)に特異的に結合可能な抗体が挙げられ、中でも、抗CA19-9抗体が好ましい。
【0029】
本発明において、「抗CA19-9抗体」とは、CA19-9のシアリルルイスAを特異的に認識し、結合することができる抗体を示す。このような抗CA19-9抗体としては、CA19-9への結合能を有する限り特に制限はなく、ポリクローナル抗体であってもモノクローナル抗体であってもよいが、均質性や安定性の観点からはモノクローナル抗体であることが好ましい。抗CA19-9抗体は、従来公知の産生方法を適宜採用、改良することによって産生することができ、また、一般に流通されているものを適宜用いてもよい。
【0030】
本発明に係る抗CA19-9抗体としては、例えば、第2のプローブ分子として下記のレクチンを用いる場合に、当該レクチンが抗体糖鎖も認識して検出感度が低下することを抑制するために、酸化処理、グリコシダーゼ処理、プロテアーゼ処理等によって、レクチン結合性の糖鎖が除去若しくは破壊されたもの;抗体分子中の糖鎖付加アミノ酸を含む領域が除去されたもの;又は、抗体遺伝子を発現させた遺伝子組み換え大腸菌や細胞を用いたり抗体産生細胞の培養における栄養条件を制限したりすることよって糖鎖付加が起こらない条件で産生された抗体であることが好ましい。
【0031】
〔第2のプローブ分子〕
GalNAcに特異的に結合可能な第2のプローブ分子としては、例えば、GalNAcに特異的に結合可能な抗体(本明細書中、場合により「抗GalNAc抗体」という)、GalNAcに特異的に結合可能なレクチン(例えば、ノダフジレクチン(WFA)、ダイズレクチン(SBA)、ナヨクサフジレクチン(VVA)、ヒマラヤフジマメレクチン(DBA)、ムラサキソシンカレクチン(BPL)、リンゴマイマイレクチン(HPA))、GalNAcに特異的に結合可能なガレクチンが挙げられ、中でも、GalNAcに特異的に結合可能なレクチンが好ましく、ノダフジレクチン(WFA)が特に好ましい。なお、ノダフジレクチン(WFA:Wisteria floribunda agglutinin)は、GalNAcの糖鎖構造を認識して結合活性を示すタンパク質であり、植物であるノダフジに由来するマメ科レクチンである。前記レクチンとしては、糖鎖認識活性の特異性の増大等を目的として、変異が導入された改変レクチンとしたものや人工的に合成されたものであってもよい。また、一般に流通されているものを適宜用いてもよい。
【0032】
第1のプローブ分子及び第2のプローブ分子を用いる場合、前記測定工程では、前記試料と、第1のプローブ分子及び第2のプローブ分子と、を接触させる。これにより、CA19-9とGalNAcとがいずれも認識され、両者を含むGalNAc付加CA19-9を検出して測定することができる。前記試料と第1のプローブ分子との接触及び前記試料と第2のプローブ分子との接触は、互いに同時であってもよいし、別時であってもよいし、別時の場合にはいずれの接触が先であってもよい。
【0033】
〔標識物質〕
本発明において、GalNAc付加CA19-9量の測定は、GalNAc付加CA19-9に特異的に結合可能なプローブ分子(好ましくは、第1のプローブ分子及び/又は第2のプローブ分子)に付加した、又はこれらの分子を認識する分子(例えば、二次抗体やプロテインA)に付加した標識物質によって生じるシグナルを検出することによって行うことが好ましい。検出したシグナルの量を測定し、必要に応じてこれを半定量又は定量することによって、GalNAc付加CA19-9量を測定することができる。前記「シグナル」には、呈色(発色)、消光、反射光、発光、蛍光、放射性同位体による放射線等が含まれ、肉眼で確認できるものの他、シグナルの種類に応じた測定方法・装置によって確認できるものも含まれる。本発明において、測定されるGalNAc付加CA19-9量としては、標準試料等を用いて半定量又は定量してもよいが、より簡便かつ迅速な観点からは、前記シグナル量をそのまま本発明のGalNAc付加CA19-9量としてよい。
【0034】
本発明に係る標識物質としては、公知の免疫学的測定方法やそれに準じた方法において標識物質として用いられているものを特に制限なく用いることができる。例えば、酵素;アクリジニウム誘導体等の発光物質;ユーロピウム等の蛍光物質;アロフィコシアニン(APC)及びフィコエリスリン(R-PE)等の蛍光蛋白質;125I等の放射性物質;フルオレセインイソチオシアネート(FITC)及びローダミンイソチオシアネート(RITC)等の低分子量標識物質;金粒子;アビジン;ビオチン;ラテックス;ジニトロフェニル(DNP);ジゴキシゲニン(DIG)が挙げられ、これらのうちの1種を単独であっても2種以上の組み合わせであってもよい。例えば、前記標識物質として酵素を用いた場合には、発色基質、蛍光基質、化学発光基質等を基質として添加することにより、当該基質に応じて種々の測定を行うことができる。前記酵素としては、例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)、アルカリホスファターゼ(ALP)、β-ガラクトシダーゼ(β-gal)、グルコースオキシダーゼ、ルシフェラーゼを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0035】
〔サンドイッチ法〕
第1のプローブ分子及び第2のプローブ分子を用いる測定方法としては、サンドイッチ法、競合法、及び免疫比濁法等の免疫学的測定方法や、これらの原理に準じた測定方法が挙げられ、特に制限されない。かかる測定方法では、例えば、一般的に、ELISA、デジタルELISA、CLEIA(化学発光酵素免疫測定法)、CLIA(化学発光免疫測定法)、ECLIA(電気化学免疫測定法)、RIA(放射免疫測定法)等の、マイクロプレートや粒子等を担体とする方法;イムノクロマト;表面プラズモン共鳴分析法;蛍光共鳴エネルギー移動による検出方法等を採用することができる。
【0036】
本発明に係る測定方法としては、より感度及び特異度の高い測定システムを構築可能な傾向にある観点からは、サンドイッチ法が好ましい。以下、本発明に係る測定工程について、サンドイッチ法を例に挙げてより具体的な態様を説明する。
【0037】
前記サンドイッチ法を用いる場合の態様としては、
前記測定工程が、前記試料と、捕捉体及び標識体と、を接触させる工程であり、
前記捕捉体が、非水溶性担体と、前記非水溶性担体に固定された第1のプローブ分子及び第2のプローブ分子のうちのいずれか一方と、を備えるものであり、かつ、
前記標識体が、標識物質と、第1のプローブ分子及び第2のプローブ分子のうちの他方と、を備える、
態様(以下、場合により「第1の態様」という)が挙げられる。第1の態様において、第1のプローブ分子及び第2のプローブ分子は、それぞれ、前記捕捉体及び前記標識体のうちのいずれに備えられていてもよいが、一方が捕捉体に含まれ、もう一方が標識体に含まれる。これによりGalNAc及びCA19-9をいずれも捕捉することで、GalNAc付加CA19-9を高精度かつ簡便に捕捉して検出することができる。
【0038】
前記サンドイッチ法の他の態様としては、上記に限られず、例えば、前記標識体が、第1の標識物質と、第1のプローブ分子及び第2のプローブ分子のうちのいずれか一方と、を備える第1の標識体、並びに、第2の標識物質と、第1のプローブ分子及び第2のプローブ分子のうちの他方と、を備える第2の標識体であり、かつ、前記捕捉体が、非水溶性担体と、前記非水溶性担体に固定されたプローブ分子と、を備える捕捉体である態様(以下、場合により「第2の態様」という)としてもよい。第2の態様において、第1の標識物質と第2の標識物質とは互いに異なるシグナルを生じるものである。また、この場合の前記捕捉体に備えられるプローブ分子としては、GalNAc付加CA19-9に特異的に結合可能なプローブ分子(第1のプローブ分子及び第2のプローブ分子を含む);第1のプローブ分子及び/又は第2のプローブ分子に特異的に結合可能なプローブ分子が挙げられる。
【0039】
このようなサンドイッチ法としては、2ステップ法であるフォワードサンドイッチ法(捕捉体と試料中のGalNAc付加CA19-9との反応、捕捉体に結合したGalNAc付加CA19-9と標識体との反応を逐次的に行う方法)、リバースサンドイッチ法(予め標識体と試料中のGalNAc付加CA19-9とを反応させ、生成した複合体を捕捉体と反応させる方法)、及び1ステップ法(試料中のGalNAc付加CA19-9、捕捉体、標識体の反応を同時に1ステップで行う方法)を挙げることができるが、これらのいずれも採用可能である。
【0040】
例えば、フォワードサンドイッチ法では、先ず、前記試料と前記捕捉体とを接触させ、前記捕捉体のプローブ分子とGalNAc付加CA19-9との結合(例えば、第1のプローブ分子とCA19-9との結合)を介してGalNAc付加CA19-9を当該捕捉体に捕捉させる(1次反応:捕捉ステップ)。次いで、前記捕捉体に捕捉されたGalNAc付加CA19-9に前記標識体を接触させて、前記標識体のプローブ分子とGalNAc付加CA19-9との結合(例えば、第2のプローブ分子とGalNAcとの結合)を介して標識する(2次反応:標識ステップ)。この反応により、捕捉体-GalNAc付加CA19-9-標識体を含む複合体が形成される。結合しなかった試料及び標識体を必要に応じて洗浄して除去(洗浄ステップ)した後、前記標識物質に応じた所定の方法で、当該標識物質に由来するシグナルを測定する(測定ステップ)。
【0041】
(捕捉体)
本発明に係る「捕捉体」は、非水溶性担体と、前記非水溶性担体に固定されたGalNAc付加CA19-9に特異的に結合可能なプローブ分子と、を備える複合体であって、前記非水溶性担体と前記プローブ分子とが直接的又は間接的に結合した結合体である。第1の態様に係る捕捉体に備えられる前記プローブ分子としては、第1のプローブ分子及び第2のプローブ分子のうちのいずれか一方であることが好ましく、この場合、当該捕捉体に備えられるプローブ分子としては、第1のプローブ分子及び第2のプローブ分子のうちのいずれであってもよいが、第2のプローブ分子としてレクチンを用いる場合には、より捕捉性が高い観点からは、前記捕捉体に備えられるプローブ分子としてはCA19-9に特異的に結合可能な第1のプローブ分子であることが好ましく、抗CA19-9抗体であることがより好ましい。
【0042】
〈非水溶性担体〉
前記捕捉体に含まれる非水溶性担体は、主に前記プローブ分子を担持し、固相化する担体として機能するものであり、非水溶性の物質である。本発明において、「非水溶性の物質」とは、常温常圧下において水に不溶(水に対する溶解度が0.001g/mL以下、好ましくは0.0001g/mL以下、以下同様)である物質を示す。
【0043】
このような非水溶性担体の材質としては、一般的に免疫学的測定及びそれに準じた測定に用いられているものを用いることができ、特に制限はされず、例えば、高分子ポリマー(ポリスチレン、(メタ)アクリル酸エステル、ポリメチルメタクリレート、ポリイミド、ナイロン等)、ゼラチン、ガラス、ラテックス、シリカ、金属(金、白金等)、及び金属化合物(酸化鉄、酸化コバルト、ニッケルフェライト等)からなる群から選択される少なくとも1種が挙げられる。また、前記非水溶性担体の材質としては、これらの複合材や、これら物質と他の物質との複合材であってもよく、例えば、前記高分子ポリマー、ゼラチン、及びラテックスからなる群から少なくとも1種の有機高分子と、酸化鉄(スピネルフェライト等)、酸化コバルト、及びニッケルフェライトからなる群から少なくとも1種の金属化合物と、からなる有機無機複合材であってもよい。さらに、前記非水溶性担体としては、カルボキシ基、エポキシ基、トシル基、アミノ基、ヒドロキシ基、イソチオシアネート基、イソシアネート基、アジド基、アルデヒド基、カーボネート基、アリル基、アミノオキシ基、マレイミド基、チオール基等の活性基で表面修飾されたものであってもよい。
【0044】
また、本発明において、前記非水溶性担体の形状としても特に制限はされず、例えば、プレート、繊維、膜、粒子等のいずれであってもよいが、反応効率の観点からは、粒子であることが好ましく、自動化・短時間化の観点からは、磁性粒子であることがより好ましい。このような非水溶性担体としては、従来公知のものを適宜用いることができ、市販のものを適宜用いることもできる。
【0045】
〈捕捉体の構成及び製造方法〉
前記捕捉体において、前記プローブ分子の含有量としては特に制限されず、該プローブ分子とGalNAc付加CA19-9との結合のしやすさ等に応じて適宜調整することができるが、例えば、前記非水溶性担体(好ましくは粒子)の質量(非水溶性担体が2種以上の組み合わせである場合にはそれらの合計)100質量部に対するプローブ分子の質量(プローブ分子が2種以上の組み合わせである場合にはそれらの合計)が、0.1~10質量部であることが好ましく、1~5質量部であることがより好ましい。
【0046】
前記捕捉体は、前記非水溶性担体に前記プローブ分子を固定することによって製造することができる。かかる製造方法としては、適宜従来公知の方法又はそれに準じた方法を採用することができ、前記非水溶性担体に前記プローブ分子を直接固定してもよく、間接的に固定してもよい。
【0047】
直接固定する場合には、例えば、前記非水溶性担体及び/又は前記プローブ分子として、カルボキシ基、エポキシ基、トシル基、アミノ基、ヒドロキシ基、イソチオシアネート基、イソシアネート基、アジド基、アルデヒド基、カーボネート基、アリル基、アミノオキシ基、マレイミド基、チオール基等の活性基を有するものを用い、又は必要に応じて前記活性基を付与して、これらを結合させることにより、前記プローブ分子を前記非水溶性担体に直接固定することができる。
【0048】
間接的に固定する場合には、例えば、前記プローブ分子に結合するリンカーを前記非水溶性担体に固定し、該リンカーに前記プローブ分子を結合させることにより、前記プローブ分子を前記非水溶性担体に間接的に固定することができる。前記リンカーとしては、特に制限されず、例えば、プローブ分子に結合可能な二次抗体、プロテインG、プロテインA、光分解可能な光切断型リンカー、前記活性基を有するリンカー分子(例えば、ヒドラジン塩、ヒドラジド)等が挙げられる。また、前記プローブ分子に何らかの修飾を行い、その修飾部分を捕捉する物質を前記非水溶性担体に固定化して、前記非水溶性担体上にプローブ分子を固定してもよい。例えば、前記修飾部分の代表例としてはビオチンが、その修飾部分を捕捉する物質の代表例としてはストレプトアビジンが、それぞれ挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0049】
これらの反応に供する非水溶性担体及びプローブ分子の比率は、上記の捕捉体における比率の好ましい範囲を達成するように適宜選択することができる。また、必要に応じて、前記プローブ分子や非水溶性担体への非特異的な吸着を防ぐことを目的として、適当なブロッキング剤(例えば、牛血清アルブミンやゼラチン等)で前記非水溶性担体のブロッキングを行ってもよい。さらに、このような捕捉体としては、市販のものを適宜用いてもよい。
【0050】
(標識体)
本発明に係る「標識体」は、標識物質と、GalNAc付加CA19-9に特異的に結合可能なプローブ分子と、を備える複合体であって、前記標識物質と前記プローブ分子とが直接的又は間接的に結合した結合体である。第1の態様に係る標識体に備えられる前記プローブ分子としては、第1のプローブ分子及び第2のプローブ分子のうち、捕捉体に備えられる分子の他方の分子であることが好ましく、この場合、当該標識体に備えられるプローブ分子としては、第1のプローブ分子及び第2のプローブ分子のうちのいずれであってもよいが、抗原に対する親和性の高い抗CA19-9抗体のような分子を第1のプローブ分子として捕捉体に備えて使用するという観点からは、GalNAcに特異的に結合可能な第2のプローブ分子であることが好ましく、GalNAcに特異的に結合可能なレクチンであることがより好ましく、WFAであることが特に好ましい。
【0051】
(ブロック化標識レクチン)
本発明において、前記標識体としては、前記標識物質と前記抗体(抗CA19-9抗体、抗GalNAc抗体等)とを備える標識化抗体、前記標識物質とレクチンとを備える標識化レクチン、ブロック化標識レクチンが挙げられ、これらのうちの1種のみであっても2種以上の組み合わせであってもよい。これらの中でも、本発明、特に第1の態様における標識体としては、ブロック化標識レクチンであることが好ましい。本発明において、「ブロック化標識レクチン」とは、水溶性高分子からなる水溶性担体と、前記水溶性担体に固定された標識物質及びレクチンとを備える複合体であって、水溶性担体と標識物質とレクチンとが直接的又は間接的に結合した結合体である。本発明において、前記ブロック化標識レクチンでは、第2のプローブ分子としてGalNAcに特異的に結合可能なレクチンを備える。この場合、前記捕捉体に備えられるプローブ分子は第1のプローブ分子であることが好ましい。前記レクチンとしては上述したとおりであり、好ましくはWFAである。また、前記標識物質としては、その好ましい態様も含めて、上述したとおりである。
【0052】
前記ブロック化標識レクチンにおいては、前記水溶性担体に前記標識物質及びレクチンが担持されていればよく、水溶性担体に標識物質及びレクチンが互いに独立して結合していても、水溶性担体、標識物質、及びレクチンのいずれもが他の2者と結合していても、水溶性担体に標識物質を介してレクチンが結合していても、水溶性担体にレクチンを介して標識物質が結合していてもよい。一般に、レクチンとレクチン結合性糖鎖構造との各々の結合点における親和性は弱いが、このようなブロック化標識レクチンでは、複数のレクチンが高分子である水溶性担体によって一連となった複合体を形成する。そのため、これを用いることで一つの複合体に複数の結合点が生じるため、全体としての親和性が向上し、対象であるGalNAcを高感度で検出可能になる。
【0053】
〈水溶性担体〉
前記ブロック化標識レクチンに含まれる水溶性担体は、主に前記標識物質及びレクチンを担持する担体として機能するものであり、水溶性高分子からなる。本発明に係る水溶性担体を構成する水溶性高分子(以下、「第1の水溶性高分子」という)としては、前記標識物質及びレクチンを固定させて担持できる水溶性高分子である限り特に制限はない。本発明において、「水溶性高分子」とは、常温常圧下で水に対する溶解度が0.01g/mLを超える、好ましくは0.05g/mL以上である、より好ましくは0.1g/mL以上である高分子化合物を示す。
【0054】
本発明に係る第1の水溶性高分子としては、重量平均分子量(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によるポリスチレン換算での重量平均分子量、以下同じ)が、測定の感度の観点及び水溶性であるという観点から、6,000~4,000,000であることが好ましく、20,000~1,000,000であることがより好ましい。
【0055】
また、本発明に係る第1の水溶性高分子としては、平均質量が、より好ましい平均粒子径のブロック化標識抗体を得られる傾向にある観点から、70,000~1,000,000Daであることも好ましく、150,000~700,000Daであることもより好ましい。
【0056】
また、前記ブロック化標識レクチンとしては、一つのブロック化標識レクチンに、第1の水溶性高分子として、重量平均分子量が異なる複数種の水溶性高分子が含まれていてもよい。さらに、前記ブロック化標識レクチンとしては、第1の水溶性高分子の重量平均分子量が200,000以上である高分子量ブロック化標識レクチンと、第1の水溶性高分子の重量平均分子量が100,000未満(より好ましくは100,000以下)である低分子量ブロック化標識レクチンと、の組み合わせであることも好ましく、第1の水溶性高分子の重量平均分子量が200,000~700,000(さらに好ましくは250,000~500,000)である高分子量ブロック化標識レクチンと、第1の水溶性高分子の重量平均分子量が20,000~100,000(さらに好ましくは50,000~70,000)である低分子量ブロック化標識レクチンと、の組み合わせであることがより好ましい。前記ブロック化標識レクチンとして、かかる高分子量ブロック化標識レクチンと前記低分子量ブロック化標識レクチンとを組み合わせる場合、これらの質量比(高分子量ブロック化標識レクチンの質量:低分子量ブロック化標識レクチンの質量)としては、10:1~1:10であることが好ましく、5:1~1:5であることがより好ましく、3:1~1:3であることがさらに好ましい。
【0057】
本発明に係る第1の水溶性高分子としては、例えば、デキストラン、アミノデキストラン、フィコール(商品名)、デキストリン、アガロース、プルラン、各種セルロース(例えば、ヘミセルロースやリグリン等)、キチン、及びキトサン等の多糖類;β―ガラクトシダーゼ;サイログロブリン;ヘモシアニン;ポリリジン;ポリペプチド;DNA;並びに、これらの修飾体(例えば、ジエチルアミノエチルデキストランやデキストラン硫酸ナトリウム等)が挙げられ、これらのうちの1種を単独であっても2種以上の組み合わせであってもよい。これらの中でも、本発明に係る第1の水溶性高分子としては、安価で大量に入手可能であり、また、官能基の付加、カップリング反応などの化学的な加工が比較的容易である観点からは、多糖類及びその修飾体からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましく、デキストラン及びアミノデキストラン、並びに、これらの修飾体からなる群から選択される少なくとも1種であることがより好ましく、デキストランであることがさらに好ましい。
【0058】
〈ブロック化標識レクチンの構成及び製造方法〉
前記ブロック化標識レクチンにおいて、前記標識物質の含有量としては特に制限されず、測定機構等に応じて適宜調整することができるが、測定感度をより向上させるために、第1の水溶性高分子1分子に結合する標識物質の分子数ができるだけ多くなるように設定することが好ましく、例えば、前記標識物質が酵素である場合、第1の水溶性高分子の質量(第1の水溶性高分子が2種以上の組み合わせである場合にはそれらの合計、以下同じ)100質量部に対する標識物質の質量(標識物質が2種以上の組み合わせである場合にはそれらの合計)が、100~1,000質量部であることが好ましく、300~800質量部であることがより好ましい。
【0059】
前記ブロック化標識レクチンにおいて、レクチンの含有量としては特に制限されないが、測定感度をより向上させるために、第1の水溶性高分子1分子に結合するレクチンの分子数ができるだけ多くなるように設定することが好ましく、例えば、第1の水溶性高分子の質量100質量部に対するレクチンの質量(レクチンが2種以上の組み合わせである場合にはそれらの合計)が、100~2,000質量部であることが好ましく、300~1,500質量部であることがより好ましい。
【0060】
また、前記ブロック化標識レクチンとしては、ブロック化標識レクチン1分子あたりの重量平均分子量が、1,000,000~10,000,000であることが好ましく、1,500,000~5,000,000であることがより好ましい。前記重量平均分子量が1,000,000以上であると、測定感度がより高くなる傾向にあり、他方、10,000,000以下であると、水溶液中における凝集等をより十分に抑制できる傾向にある。
【0061】
前記ブロック化標識レクチンは、前記水溶性担体に前記標識物質及びレクチンを固定することによって製造することができる。かかる製造方法としては、適宜従来公知の方法又はそれに準じた方法を採用することができ、前記水溶性担体に前記標識物質及びレクチン(以下、場合により「被担持物質」と総称する)を直接固定してもよく、間接的に固定してもよい。
【0062】
前記被担持物質を前記水溶性担体に直接固定する方法としては、例えば、前記被担持物質及び/又は前記水溶性担体を構成する第1の水溶性高分子に、カルボキシ基、エポキシ基、トシル基、アミノ基、ヒドロキシ基、イソチオシアネート基、イソシアネート基、アジド基、アルデヒド基、カーボネート基、アリル基、アミノオキシ基、マレイミド基、チオール基、ピリジルジスルフィド基等の活性基を付与し、或いは、前記被担持物質及び/又は水溶性担体としてこれらの活性基を有する水溶性高分子を用い、これらを結合させることによって固定する方法が挙げられる。前記活性基を付与した被担持物質及び第1の水溶性高分子としては、市販のものをそのまま用いてもよいし、適切な反応条件で被担持物質及び水溶性高分子表面に前記活性基を導入して調製してもよい。一例として、チオール基の導入は、例えば、S-アセチルメルカプト無水コハク酸や2-イミノチオラン塩酸塩等の市販の試薬を用いて行うことができる。また、前記被担持物質及び/又は前記水溶性担体を構成する第1の水溶性高分子上のアミノ基へのマレイミド基の導入は、例えば、N-(6-マレイミドカプロイルオキシ)スクシンイミドやN-(4-マレイミドブチリロキシ)スクシンイミド等の市販の試薬を用いて行うことができる。ピリジルジスルフィド基の導入は、例えば、N-Succinimidyl 3-(2-pyridyldithio)propionate(SPDP)やN-{6-[3-(2-Pyridyldithio)propionamido]hexanoyloxy}sulfosuccinimide、sodium salt(Sulfo-AC5-SPDP)等の市販の試薬を用いて行うことができる。また、ピリジルジスルフィド基の導入後に還元してチオール基とすることで、これを導入することもできる。
【0063】
前記被担持物質を前記水溶性担体に間接的に固定する方法としては、例えば、ポリヒスチジン、ポリエチレングリコール、システイン及び/又はリジンを含むオリゴペプチド、前記活性基を有するリンカー分子(例えば、上記の捕捉体の製造方法で挙げたもの)等のリンカーを介して固定する方法が挙げられる。前記リンカーの選択及びその大きさは、前記被担持物質との結合の強さや前記被担持物質を前記水溶性担体に固定化したことによる立体障害等を考慮して適宜設定することができる。
【0064】
前記ブロック化標識レクチンの製造方法においては、前記水溶性担体に前記標識物質及びレクチンを一度に固定しても、これらを別々に順次固定してもよいが、製造のしやすさ、並びに、標識物質及びレクチン量の制御しやすさの観点からは、前記水溶性担体にいずれか一方を固定してから他方を固定することが好ましい。また、前記ブロック化標識レクチンは、前記標識物質とレクチンとをそれぞれ別の水溶性担体に固定し、一の水溶性担体に固定された標識物質(ブロック化標識物質)と、他の水溶性担体に固定されたレクチン(ブロック化レクチン)とを直接、又は前記リンカー等を介して、結合させることで製造することもできる。
【0065】
前記ブロック化標識レクチンの製造方法としては、特に制限されず、例えば、下記の実施例に記載のように、前記標識物質が酵素であり、前記第1の水溶性高分子が多糖類や糖タンパク質である場合、先ず、第1の水溶性高分子を過ヨウ素酸ナトリウムのような酸化剤で酸化してアルデヒド基を付与し、ヒドラジン塩酸塩と反応させた後、これをジメチルアミンボラン(DMAB)等の還元剤と反応させてヒドラジン化する。一方、前記酵素も過ヨウ素酸ナトリウムのような酸化剤で酸化してその糖鎖にアルデヒド基を付与させる。次いで、上記で付与したヒドラジン残基とアルデヒド基とを反応させてヒドラゾン結合させ、第1の水溶性高分子-酵素結合体を得る。得られた第1の水溶性高分子-酵素結合体を、N-ヒドロキシスクシンイミド及びマレイミド基を各末端に有するクロスリンカー(例えば、SM(PEG)4、SMCC等)で処理し、マレイミド基を導入する。一方、レクチンをチオール化試薬でチオール化してチオール基を付与し、又は分子内にジスルフィド結合を持つレクチンの場合は還元によってチオール基を得る。最後に、第1の水溶性高分子-酵素結合体に導入したマレイミド基と、レクチンに付与したチオール基とを結合させることにより、第1の水溶性高分子(水溶性担体)-酵素-レクチンの三者を共有結合させることができる。この方法によれば、2分子以上の第1の水溶性高分子が酵素を介して結合したものに、レクチンが結合したものが得られる。これらの反応に供する第1の水溶性高分子、標識物質、レクチンの比率は、上記のブロック化標識レクチンにおける各含有量の好ましい範囲を達成するように適宜選択することができる。
【0066】
(捕捉ステップ)
前記捕捉ステップにおいて、前記試料と前記捕捉体とを接触させる方法としては、特に制限されず、適宜従来公知の方法又はそれに準じた方法を採用することができ、例えば、前記非水溶性担体がプレートである場合にはこれ(プローブ分子固定化プレート)に前記試料を注入する方法や、前記非水溶性担体が粒子である場合には前記試料中に前記捕捉体(プローブ分子固定化粒子)を添加する方法が挙げられる。
【0067】
前記捕捉ステップにおける前記試料と前記捕捉体との反応において、前記捕捉体及び前記試料を含む反応液中の、捕捉体の含有量(終濃度)(捕捉体が2種以上の組み合わせである場合にはそれらの合計、以下同じ)としては、特に制限されず、試料の種類、濃度等に応じて適宜調整されるものであるため特に制限されないが、短時間に効率よく捕捉する観点から、例えば、0.01~1.5質量%であることが好ましく、0.05~1質量%であることがより好ましく、0.1~0.5質量%であることがさらに好ましい。
【0068】
また、前記捕捉ステップの条件としても特に制限されず、適宜調整することができ、例えば、室温~45℃、好ましくは20~37℃、pH6~9程度、好ましくはpH7~8で、5秒~10分程度、好ましくは30秒~5分程度行うことができるが、これらの条件に限定されるものではない。
【0069】
(標識ステップ)
前記標識ステップにおける前記標識体とGalNAc付加CA19-9との反応において、前記標識体及びGalNAc付加CA19-9を含む反応液中の、標識体の含有量(終濃度)(標識体が2種以上の組み合わせである場合にはそれらの合計、以下同じ)としては、特に制限されず、試料の種類、濃度等に応じて適宜調整されるものであるため特に制限されないが、過剰に用いると高いバックグラウンドシグナルを生じる可能性がある観点から、例えば、0.001~10μg/mLであることが好ましく、0.01~5μg/mLであることがより好ましく、0.1~1μg/mLであることがさらに好ましい。
【0070】
また、前記標識ステップの他の条件としても特に制限されず、適宜調整することができ、例えば、室温~37℃、好ましくは20~37℃、pH5.0~7.0、好ましくは5.5~6.5で、3分~120分程度、好ましくは、5分~10分程度行うことができるが、これらの条件に限定されるものではない。
【0071】
(洗浄ステップ)
前記サンドイッチ法には、前記捕捉ステップ及び/又は前記標識ステップの後に、前記捕捉体に結合したGalNAc付加CA19-9と、それ以外の前記捕捉体に結合していない(捕捉されていない)夾雑物とを分離し、前記夾雑物を除去する洗浄ステップをさらに含むことが好ましい。前記夾雑物を除去する方法としては、特に制限されず、適宜従来公知の方法又はそれに準じた方法を採用することができ、例えば、前記捕捉体が前記プローブ分子固定化プレートである場合にはプレート上から液相(上清)を除去する方法や、前記プローブ分子固定化粒子である場合には前記粒子を遠心や集磁によって回収して液相(上清)を除去する方法が挙げられる。また、前記洗浄ステップにおいては、必要に応じて、洗浄液の注入及び除去を繰り返してもよい。前記洗浄液としては、例えば、中性(好ましくは、pH6~9)の公知の緩衝液(ナトリウムリン酸バッファー、MES、Tris、CFB、MOPS、PIPES、HEPES、トリシンバッファー、ビシンバッファー、グリシンバッファー等)が挙げられ、また、BSA等の安定化蛋白や界面活性剤等が添加されたものであってもよい。
【0072】
本発明に係る測定工程として前記サンドイッチ法を用いる場合、前記試料としては、上記のように希釈液で希釈して用いてもよいが、前記捕捉体が前記プローブ分子固定化粒子等である場合には、その粒子懸濁媒(粒子液)に懸濁して用いてもよく、さらに、前記試料と前記捕捉体及び/又は前記標識体との反応系には、他の反応用バッファーを適宜添加してもよい。これらの粒子懸濁媒、反応用バッファーとしては、特に制限されないが、例えば、それぞれ独立に、公知の緩衝液(ナトリウムリン酸バッファー、MES、Tris、CFB、MOPS、PIPES、HEPES、トリシンバッファー、ビシンバッファー、グリシンバッファー等)が挙げられ、また、それぞれ独立に、BSA等の安定化蛋白や血清等が添加されたものであってもよい。
【0073】
また、前記標識体として前記ブロック化標識レクチンを用いる場合、前記試料と前記標識体との反応系には、測定感度をさらに向上させる観点から、他に、水溶性高分子(以下、「第2の水溶性高分子」という;前記標識物質及びレクチンを担持していない遊離の水溶性高分子である点で前記水溶性担体を構成する第1の水溶性高分子とは異なる)、遊離レクチン(前記水溶性担体にも前記標識物質にも固定されていない点で前記ブロック化標識レクチン等に含まれるレクチンとは異なる)等を共存させてもよい。
【0074】
第2の水溶性高分子としては、第1の水溶性高分子として挙げたものと同様のものが挙げられ、これらのうちの1種を単独であっても2種以上の組み合わせであってもよい。また、第1の水溶性高分子と同種の高分子であってよい。これらの中でも、第2の水溶性高分子としては、測定感度がより向上する傾向にある観点からは、多糖類及びその修飾体からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましく、デキストラン及びアミノデキストラン、並びに、これらの修飾体からなる群から選択される少なくとも1種であることがより好ましく、デキストランであることがさらに好ましい。
【0075】
また、第2の水溶性高分子の重量平均分子量としては、測定感度がより向上する傾向にある観点からは、500,000~5,000,000であることが好ましく、1,000,000~3,000,000であることがより好ましく、1,500,000~2,500,000であることがさらに好ましい。
【0076】
第2の水溶性高分子の量としては、特に限定されないが、前記試料、ブロック化標識レクチン、及び第2の水溶性高分子を含む反応液中における第2の水溶性高分子の含有量(第2の水溶性高分子が2種以上の組み合わせである場合にはそれらの合計)が、0.01~10w/v%であることが好ましく、0.5~3w/v%であることがより好ましい(w/v%:重量/容量(g/mL)パーセント、以下同じ)。
【0077】
前記遊離レクチンとしては、上記でレクチンとして挙げたものと同様のものが挙げられ、これらのうちの1種を単独であっても2種以上の組み合わせであってもよい。また、ブロック化標識レクチンに含まれるレクチンと同種のものであってよい。これらの中でも、前記遊離レクチンとしては、反応性の向上とバックグラウンドの抑制の観点からは、ブロック化標識レクチンに含まれるレクチンと同種のものであることが特に好ましい。
【0078】
前記遊離レクチンの量としては、特に限定されないが、前記試料、ブロック化標識レクチン、及び前記遊離レクチンを含む反応液中において、ブロック化標識レクチンの含有量100質量部に対する遊離レクチンの含有量(遊離レクチンが2種以上の組み合わせである場合にはそれらの合計)が、1~10,000質量部であることが好ましく、10~5,000質量部であることがより好ましい。
【0079】
(測定ステップ)
前記測定ステップにおいては、前記標識物質に応じてシグナルを測定する。例えば、前記標識物質が酵素である場合には、当該酵素に対応する発色基質や発光基質を添加して反応させることによって生じるシグナル(例えば、発色や発光)を測定する。これにより、試料中のGalNAc付加CA19-9量をシグナル量として検出することができ、また、必要に応じて標準試料における測定値との比較をすることによって試料中のGalNAc付加CA19-9量を定量することができる。
【0080】
[がん検出方法]
本発明のがん検出方法によれば、上記の測定工程によって測定されたGalNAc付加CA19-9量を指標とすることにより、前記試料又は試料が由来する被検者における前立腺がん及び/又は大腸がんの存在の有無を検出することができる。かかるがん検出方法は、創薬等の研究目的の他、本発明のがん検査方法に用いることができる。
【0081】
[がん検査方法]
本発明のがん検査方法では、被検者由来の試料中におけるGalNAc付加CA19-9量を測定し、それを指標として前立腺がん及び/又は大腸がんの有無を検出することで、当該被検者において、前立腺がん及び/又は大腸がんに罹患しているか否かの予測、前記がんの罹患の有無若しくはその可能性の判別、又は、前記がんの進行度若しくは重症度の評価をすることができる。
【0082】
すなわち、本発明のがん検査方法の態様としては具体的に、例えば、次の態様:
前立腺がん及び大腸がんからなる群から選択される少なくとも1種のがんであると予測される被検者をスクリ-ニングする方法であり、被検者由来の試料中のGalNAc付加CA19-9量を測定する測定工程と、測定されたGalNAc付加CA19-9量を指標として被検者を選別する選別工程と、を含むことを特徴とする、スクリーニング方法;
被検者における前立腺がん及び大腸がんからなる群から選択される少なくとも1種のがんの罹患の有無を鑑別する方法であり、被検者由来の試料中のGalNAc付加CA19-9量を測定する測定工程と、測定されたGalNAc付加CA19-9量を指標として被検者を判別する判別工程と、を含むことを特徴とする、鑑別方法;
被検者における前立腺がん及び大腸がんからなる群から選択される少なくとも1種のがんの進行度又は重症度を評価する方法であり、被検者由来の試料中のGalNAc付加CA19-9量を測定する測定工程と、測定されたGalNAc付加CA19-9量を指標として被検者を評価する評価工程と、を含むことを特徴とする、評価方法;
が挙げられる。
【0083】
〔スクリ-ニング方法〕
本発明において、「スクリ-ニング」とは、前記がん(前立腺がん及び/又は大腸がん)に罹患している可能性がある被検者を選別することを示す。前記スクリ-ニング方法には、本発明では具体的に、被検者を、前立腺がん及び/又は大腸がんに罹患(再発を含む)している可能性が高いと予測して、前記可能性が無い又は低い群から選別する方法が含まれる。前記スクリーニング方法においては、その目的に応じて、例えば、中程度の可能性が期待できるレベルで被検者を選別してもよい。
【0084】
より具体的には、例えば、前記がんに真に罹患している者からなる群(陽性群)と前記がんに罹患していない者からなる群(正常群:陰性群)との2群に切り分け、被検者を、陽性群に含まれると予測して、正常群(陰性群)から選別する。この場合の予測基準としては、例えば、陰性一致率(当該スクリ-ニングによって正常群と予測された被検者が真に正常群にある割合)が95%以上であることが好ましい。
【0085】
〔鑑別方法〕
本発明において、「鑑別」とは、前立腺がん及び/又は大腸がんを他の疾患又は状態と区別して、被検者が当該がんに罹患しているか否かを判別することを示す。また、前記罹患の有無の判別のみならず、罹患の可能性がある場合におけるその程度の評価(高い/中程度/低い等の評価)を含む。前記鑑別方法には、本発明では具体的に、症状の有無に関わらず、被検者において、前立腺がん若しくは大腸がんに罹患しているか否か又はその可能性が高いか否かを判別する方法を含み、例えば、被検者が罹患しているがんが、前立腺がん若しくは大腸がんであるか否かを判別する方法、又は前記がんである可能性が高いと判別する方法;被検者が過去に罹患していた前立腺がん若しくは大腸がんが再発したか否かを判別する方法、又は前記がんが再発した可能性が高いと判別する方法も含む。
【0086】
より具体的には、例えば、前記がんに真に罹患している者からなる群(陽性群)と前記がんに罹患していない者からなる群(正常群:陰性群)との2群に切り分け、被検者が、前記陽性群に含まれるのか陰性群に含まれるのかを判別する。かかる鑑別は、医師等による前立腺がん及び/又は大腸がんの診断の補助に適用することができる。この場合の判別基準としては、例えば、陰性一致率(当該鑑別によって正常群と判別された被検者が真に正常群にある割合)が95%以上であることが好ましい。
【0087】
〔評価方法〕
本発明において、前記評価方法には、例えば、被検者が罹患している前立腺がん及び/又は大腸がんの進行度又は重症度を評価する方法;被検者が罹患している前記がんの治療方針決定のための指標を提供する方法;前記がんの治療効果の判定方法を含む。
【0088】
より具体的には、例えば、前記がんに罹患していない者又は前記がんの進行度若しくは重症度の低い者からなる群におけるGalNAc付加CA19-9量と、被検者のGalNAc付加CA19-9量とを比較し、被検者における量の方が多ければ進行度若しくは重症度が高いと評価し、少なければ進行度若しくは重症度が低いと評価することができる。また、被検者の前記がんの発見当初若しくは治療前におけるGalNAc付加CA19-9量と現在のGalNAc付加CA19-9量とを比較し、量が増加していればその治療効果は低いと評価し、減少していればその治療効果は高いと評価することができる。
【0089】
(カットオフ値)
前記スクリーニング方法の選別工程及び前記鑑別方法の判別工程では、例えば、前記測定工程で測定されたGalNAc付加CA19-9量を、予め定められたカットオフ値と比較して、前記GalNAc付加CA19-9量が前記カットオフ値よりも高い被検者を、前立腺がん及び/又は大腸がんに罹患している(又は罹患している可能性が高い)と予測又は判別する。
【0090】
本発明において、「カットオフ値」とは、前記GalNAc付加CA19-9量によって判定するための基準となる予め定められた値であり、上記陽性群と陰性群とを判定するための境界値のことを示す。このようなカットオフ値は、本発明のがん検査方法の目的、GalNAc付加CA19-9量の測定方法、被検者や試料の性質、希釈条件等によって適宜設定されるものであるため、特に限定されるものではない。例えば、カットオフ値を比較的低値に設定することで、検出感度を高く、すなわち、前記がんの初期段階にある患者をある程度広く拾集でき、早期発見が可能となる。他方、GalNAc付加CA19-9は健常者由来の試料においても少量は検出されるため、前記カットオフ値を比較的高値に設定することで、前記スクリーニング及び前記鑑別をより高精度で行うことが可能となる。
【0091】
カットオフ値の一例としては、例えば、前記試料を血清検体とし、体積比で1/10に希釈し、前記捕捉体として抗CA19-9抗体固定化粒子を用い、かつ、前記標識体としてブロック化標識WFAを用いたサンドイッチイムノアッセイで測定したGalNAc付加CA19-9量を、前記標識物質をALP及び基質をAMPPDとして波長463nmに極大吸収を有する光の発光強度(カウント)で示す場合(実施例1の場合)には、50,000~80,000カウントが挙げられ、好ましくは60,000~70,000カウントが挙げられるが、これに限定されるものではない。なお、前記範囲で定められるカットオフ値は、本発明のがん検査方法の目的、GalNAc付加CA19-9量の測定方法、被検者や試料の性質に応じて、その範囲内からいずれか1点が選択されて適用される。
【0092】
このような本発明のがん検査方法によれば、他のがんと区別して、前立腺がん及び/又は大腸がんに特異的な治療方針の決定等のための情報を提供することが可能となる。また、前立腺がん及び/又は大腸がんに罹患(再発を含む)している、又はその可能性が高い被検者を特定し、さらなる検査や確定診断を行うことにより、前立腺がん及び/又は大腸がんの早期発見や早期治療介入等が可能となる。さらに、がんに由来する糖鎖構造の情報はがんの浸潤性の指標となることが報告されていることから、本発明のがん検査方法によってがんの悪性度や予後についての情報を得ることも可能となる。なお、本発明の方法は、医師等による前立腺がん及び/又は大腸がんの診断を補助する方法、又は医師等による前立腺がん及び/又は大腸がんの診断のための情報を提供する方法でもある。
【0093】
さらに、本発明の方法は、従来のCA19-9測定方法や他のモニタリングマーカーの測定方法と組み合わせるための方法としても好適であり、これにより、前立腺がん及び/又は大腸がんの検出感度や診断の精度をさらに向上させることが可能となる。
【0094】
<キット>
本発明のキットは、上記本発明のがん検出方法又はがん検査方法に用いるためのキットであり、CA19-9に特異的に結合可能な第1のプローブ分子と、GalNAcに特異的に結合可能な第2のプローブ分子と、を備えるキットである。第1のプローブ分子及び第2のプローブ分子としては、それぞれ、これらの好ましい態様も含めて、上述のとおりである。
【0095】
また、本発明のキットとしては、非水溶性担体と、前記非水溶性担体に固定された第1のプローブ分子及び第2のプローブ分子のうちのいずれか一方と、を備える捕捉体、並びに、標識物質と、第1のプローブ分子及び第2のプローブ分子のうちの他方と、を備える標識体、を備えることも好ましい。前記捕捉体及び前記標識体としては、それぞれ、これらの好ましい態様も含めて、上述のとおりである。
【0096】
本発明のキットにおいて、第1のプローブ分子、第2のプローブ分子、前記捕捉体、及び前記標識体としては、それぞれ独立に、固体(粉末)状であっても緩衝液に溶解された液体状であってもよい。液体状である場合、各溶液における第1のプローブ分子、第2のプローブ分子、前記捕捉体、及び前記標識体の濃度は、特に限定されないが、それぞれ独立に、例えば、0.01~10μg/mLであることが好ましく、0.1~5.0μg/mLであることがより好ましく、0.5~3.0μg/mLであることがさらに好ましい。
【0097】
本発明のキットとしては、他に、ELISA、CLEIA、イムノクロマト等の通常の免疫学的測定方法及びそれに準じた方法で備えるべき構成をさらに備えていてもよい。例えば、上記のサンドイッチ法を本発明に係る測定方法の原理とする場合には、前記プローブ分子を固相化するための磁性ビーズやプレート、センサーチップ、前記標準試料(各濃度)、対照試薬、前記粒子懸濁媒、前記反応用バッファー、前記洗浄液、第2の水溶性高分子、遊離レクチンからなる群から選択される少なくとも1種をさらに備えていてもよい。また、前記標識物質が酵素である場合には、当該標識物質の検出・定量に必要な基質や反応停止液等をさらに含んでいてもよい。
【0098】
さらに、本発明のキットは、必要に応じて、前記希釈液や、試料の前処理を行うための前処理液;希釈用カートリッジ;前処理の反応停止液又は中和液を備えていてもよい。また、前記サンドイッチ法としてイムノクロマトを採用する場合には、前記捕捉体及び/又は前記標識体を担持したゾーンを含むデバイスをさらに含んでいてもよい。前記デバイスとしては、展開液パッドや吸収パッド等、イムノクロマトに適したその他の構成要素を備えることができる。さらに、本発明のキットには、当該キットの使用説明書をさらに含んでいてもよい。
【実施例0099】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、各実施例及び比較例において、「%」の表示は、特に記載のない場合、重量/容量(w/v:g/mL)パーセントを示す。
【0100】
(実施例1) ブロック化標識レクチン(WFA)を用いた血清検体に含まれるWFA結合型糖鎖付加CA19-9(CA19-9/WFA)の測定
(1)ヒドラジン化デキストランの調製
4.8mLの0.1Mリン酸バッファー(pH7.0)に分子量250kのデキストラン(CarboMer社製)を240.0mg添加し、25℃の暗所で30分間攪拌して溶解させた。次いで、150mM NaIO4を2.664mL、及びイオン交換水を0.536mL添加して、25℃の暗所で30分間攪拌した。次いで、PD-10カラム(GE Healthcare社製、Sephadex G-25充填カラム:以下単に「Sephadex G-25」)を用いて、0.1Mナトリウムリン酸バッファー(pH6.0)でバッファー交換を行い、20.0mLの溶液を得た。得られた溶液に、5.04gのNH2NH2・HClを添加し、25℃の暗所で2時間攪拌した。800mgのDMAB(ジメチルアミンボラン)を加え、さらに25℃の暗所で2時間攪拌した。RC50K(分子量5万の再生セルロース)透析膜を用いてイオン交換水4Lによる透析を暗所で3時間行った後、4℃で一晩静置した。0.1Mナトリウムリン酸バッファー(pH6.0)を用いたゲル濾過(Sephadex G-25)でバッファー交換を行い、85.0mLの溶液を得た。得られた溶液においてデキストランの濃度が1.0mg/mLとなるように調整し、ヒドラジン化デキストランの溶液を得た。
【0101】
(2)デキストラン-酵素結合体の調製
10mg/mLのアルカリホスファターゼ(オリエンタル酵母社製、ALP-50)30.0mLについて、0.1Mナトリウムリン酸バッファー(pH6.0)を用いたゲル濾過(Sephadex G-25)でバッファー交換を行い、3.0mg/mLの溶液を90.6mL調製した。次いで、27mM NaIO4を45.3mL添加して、25℃の暗所で3分間攪拌した。次いで、0.1Mナトリウムリン酸バッファー(pH6.0)を用いたゲル濾過(Sephadex G-25)でバッファー交換を行い、0.5mg/mLの溶液を調製した。実施例1の(1)で調製した1.0mg/mLヒドラジン化デキストランをヒドラジド基(アミノ基)の濃度が25μMになるように添加し、25℃の暗所で16時間攪拌した。DMABを85mg添加し、25℃の暗所で2時間攪拌した。次いで、1.5M Trisバッファー(pH9.0)を10.1mL添加し、25℃の暗所で2時間攪拌した。Labscale TFF System(Merck Millipore社製)に限外濾過モジュール(ペリコンXL50、Merck Millipore社製)を取り付け15mLまで濃縮し、0.1Mナトリウムリン酸バッファー(pH7.0)を用いたゲル濾過(Superdex 200pg)を行い、3.0mg/mLのデキストラン-酵素結合体の溶液14mLを得た。
【0102】
(3)デキストラン-酵素結合体のマレイミド-PEG化
実施例1の(2)で調製したデキストラン-酵素結合体に0.1Mナトリウムリン酸バッファー(pH7.0)を加えて2mg/mLデキストラン-酵素結合体を750μL調製した。これにDMSO中に溶解した250mMのSM(PEG)4(Thermo Fisher Scientific社製、SM(PEG)4)を8.35μL添加、混合し、25℃の暗所で1時間転倒混和した。反応後、PD-10カラム(Sephadex G-25)を用いて20mM EDTA・2Na、0.5% CHAPSを含む0.1Mナトリウムリン酸バッファー(pH6.3)にバッファー交換を行った。バッファー交換後に遠心式フィルター(Merck社製、Amicon Ultra 50K)を用いてマレイミド-PEG化デキストラン-酵素結合体の濃縮を行い、最終濃度を2mg/mLに調整した。
【0103】
(4)レクチンのチオール化
5mgのノダフジレクチン(WFA;VECTOR社製)を2.5mLの0.1Mナトリウムリン酸バッファー(pH7.0)中に溶解し、2mg/mL WFA溶液を得た。2.5mLのWFA溶液に100μLの0.5M EDTA・2Na(pH8.0)を添加して混和し、次いで、75μLの10mg/mL 2-イミノチオラン塩酸塩溶液を添加し、25℃の暗所で1時間転倒混和した。反応後、PD-10カラム(Sephadex G-25)を用いて20mM EDTA・2Na、0.5% CHAPSを含む0.1Mナトリウムリン酸バッファー(pH6.3)にバッファー交換を行った。バッファー交換後のWFAは650μg/mLに調整した。
【0104】
(5)カップリング
実施例1の(4)で得たチオール化して650μg/mLに調整したWFA 2mLに対して、実施例1の(3)で得たマレイミド-PEG化デキストラン-酵素結合体の溶液(2mg/mL)を500μL添加し、25℃の暗所で1時間転倒混和し、WFAとデキストラン-酵素結合体とをカップリングさせた。反応後、25μLの200mM 3-Mercapto-1,2-propanediolを添加し、25℃の暗所で30分間転倒混和した。さらにその後、50μLの200mM 2-Iodoacetamideを添加し、25℃の暗所で30分間転倒混和した。反応後の溶液は遠心式フィルター(Merck社製、Amicon Ultra 50K)を用いて濃縮した後にφ0.22μmフィルターを通過させ、ゲル濾過クロマトグラフィー(カラム:Superose 6 Increase 10/300 GL、バッファー:0.1M MES、0.5M NaCl、1mM MgCl2、0.1mM ZnCl2、5mM Glucose、0.05% CHAPS、pH6.8)によって精製し、最終的に373.9μg/mLのブロック化標識レクチン(WFA)(デキストラン-酵素-WFA結合体)の溶液を2.0mL得た。
【0105】
(6)測定試薬の調製
24mgの抗CA19-9抗体結合磁性粒子(富士レビオ社製、以下単に「抗体結合粒子」)に対して6mLの20mM 過ヨウ素酸ナトリウム溶液(20mM NaIO4、100mM NaOAc、150mM NaCl、pH5.5)を添加して混合し、4℃遮光下で30分間転倒混和を行うことで粒子に結合した抗体の糖鎖を酸化した。酸化処理後の抗体結合粒子は6mLの0.1M リン酸ナトリウムバッファー(pH6.0)で3回洗浄した。洗浄した抗体結合粒子は10mM グリシンを含む0.1M リン酸ナトリウムバッファー(pH6.0)に置換し、25℃遮光下で1時間転倒混和を行うことで、抗体の糖鎖の酸化によって生じたアルデヒド基をグリシンでブロックした。さらに、反応後の抗体結合粒子液に100μLの10mg/mL DMABを添加して25℃遮光下で30分間転倒混和を行い、抗体の糖鎖由来のアルデヒド基とグリシンとの不安定な結合を安定化させた。安定化後の抗体結合粒子は0.6mLの2% BSAを含むバッファー(50mM MES、1mM EDTA、150mM NaCl、2% BSA、0.1% ProClin 300、pH6.0)で3回洗浄し、同バッファー、37℃の条件で16時間転倒混和することにより、BSAを物理吸着させた。BSAを物理吸着させた抗体結合粒子は保存バッファー(50mM Tris、2% BSA、150mM NaCl、1mM EDTA、0.1% ProClin 300、pH7.2)で3回洗浄し、同バッファー中に4℃で保存した。得られた酸化処理済みの抗CA19-9抗体結合磁性粒子を抗体結合粒子の濃度が0.005%となるように50mM Trisをベースとする溶液に希釈して、酸化処理済み抗CA19-9抗体結合粒子液を調製した。
【0106】
また、実施例1の(5)で得られたブロック化標識レクチン(WFA)を、濃度が0.5μg/mLとなるように50mM MESをベースとする溶液に希釈して標識体液を調製した。
【0107】
(7)血清検体に含まれるCA19-9及びWFA結合型糖鎖付加CA19-9(CA19-9/WFA)の測定
健常人から採取した血清検体10例(健常人群:健常人1~10)、前立腺肥大患者から採取した血清検体10例(前立腺肥大群:前立腺肥大1~10)、前立腺癌患者から採取した血清検体15例(前立腺癌群:前立腺癌1~15)、及び、大腸がん患者から採取した血清検体15例(大腸がん群:大腸がん1~15)について、それぞれ、検体希釈液(富士レビオ社製)を用いて体積比で1/10濃度に希釈した。
【0108】
希釈した各検体について、ルミパルス(登録商標)L-2400(富士レビオ社製)を用いて、同検体に含まれるWFA結合型糖鎖付加CA19-9(CA19-9/WFA)の測定を行った。すなわち、50μLの各希釈検体溶液を、実施例1の(6)で調製した酸化処理済み抗CA19-9抗体結合粒子液50μLと混和し、37℃で8分間反応させた。次いで、磁性粒子を集磁し、ルミパルス(登録商標)洗浄液(富士レビオ社製)で5回洗浄した。次いで、実施例1の(6)で調製した標識体液をそれぞれ50μL添加し、37℃で8分間反応させた。次いで、磁性粒子を集磁し、5回洗浄した後、AMPPD(3-(2’-スピロアダマンタン)-4-メトキシ-4-(3’-ホスホリルオキシ)フェニル-1,2-ジオキセタン・2ナトリウム塩)を含むルミパルス(登録商標)基質液(富士レビオ社製)を50μL添加し、37℃で4分間反応させた。磁性粒子に結合したブロック化標識レクチン(WFA)のアルカリホスファターゼの触媒作用によりAMPPDが分解されることで放出される、波長463nmに極大吸収を有する光の発光強度(カウント)を、ルミパルス(登録商標)L-2400(富士レビオ社製)を用いて計測し、測定結果とした。
【0109】
また、上記で希釈した各検体に含まれるCA19-9は、抗CA19-9抗体結合粒子及びアルカリホスファターゼ(ALP)標識抗CA19-9抗体を備えるルミパルスプレスト(登録商標)CA19-9(富士レビオ社製)を用いて、ルミパルス(登録商標)L-2400(富士レビオ社製)によって測定した。測定結果は、上記と同様に基質(AMPPD)の発光強度(カウント)で出力した。各検体における測定結果を下記の表1に示す。なお、表示の結果は、二重測定の平均値を示す。
【0110】
【0111】
(8)健常人、前立腺肥大、及び前立腺癌の各群間での測定値の比較
表1の結果について、健常人群と前立腺癌群との間で統計学的に有意な差が認められるか検討した。
図1に健常人群及び前立腺癌群のCA19-9の測定結果を、
図2に健常人群及び前立腺癌群のCA19-9/WFAの測定結果を、
図3に前立腺肥大群及び前立腺癌群のCA19-9の測定結果を、
図4に前立腺肥大群及び前立腺癌群のCA19-9/WFAの測定結果を、それぞれ示す。
【0112】
Wilcoxon検定によって検定を行ったところ、健常人群と前立腺癌群との間にはCA19-9の測定値については有意な差が認められなかった(
図1、p=0.7603)のに対して、CA19-9/WFAの測定値については有意な差が認められた(
図2、p=0.0010)。同様に、前立腺肥大群と前立腺癌群との間でも、CA19-9の測定値については有意な差が認められなかった(
図3、p=0.6774)のに対して、CA19-9/WFAの測定値については有意な差が認められた(
図4、p=0.0017)。
【0113】
また、
図5に、CA19-9の測定値とCA19-9/WFAの測定値との関係を示す。
図5に示されるように、今回の結果からは、CA19-9の測定値とCA19-9/WFAの値との間に明確な相関関係は示されなかった(回帰直線:CA19-9/WFA(カウント)=66238.78-1.6997236×CA19-9(カウント)、R
2=0.009369、分散分析のp値=0.5802)。このことから、CA19-9/WFAの測定値は単にCA19-9の存在量を示すものではなく、CA19-9とは異なるバイオマーカーであることが示された。
【0114】
以上より、CA19-9/WFAの測定は、健常人と前立腺癌患者との判別、又は、前立腺肥大患者と前立腺癌患者との判別の新規の指標となることが示された。
【0115】
(9)CA19-9/WFAの測定値とPSA測定値との比較
先ず、実施例1の(7)で用いたものと同様の前立腺肥大患者から採取した血清検体10例、前立腺癌患者から採取した血清検体15例について、検体中に含まれるPSA量を測定した。測定は、各検体について、希釈は行わず、抗PSA抗体結合粒子及びアルカリホスファターゼ(ALP)標識抗PSA抗体を備えるルミパルスプレスト(登録商標)PSA(富士レビオ社製)を用いて、ルミパルス(登録商標)L-2400(富士レビオ社製)によって測定した。測定結果は、PSA濃度(ng/mL)で出力した。各検体における測定結果を下記の表2に示す。
【0116】
【0117】
次いで、表2の結果に対して、PSA測定値の一般的なカットオフ値である4ng/mLを用い、カットオフ値を上回る検体を陽性とした場合の前立腺癌患者の検出能力を試験した。その結果、前記カットオフ値で陽性と判定されたのは前立腺癌群では15検体中4検体であり、26.7%であった。また、前立腺肥大群では10検体中1検体が前記カットオフ値で陽性と判定され、擬陽性となった。
【0118】
他方、CA19-9/WFAの測定値(表1)についても、健常人群の測定値からカットオフ値を算出し、カットオフ値を上回る検体を陽性とした場合の前立腺癌患者の検出能力を試験した。カットオフ値は、健常人郡の測定値の平均に健常人群の測定値の標準偏差の値に2を乗じた値を加算して、67,659カウント以下と算出された。その結果、このカットオフ値で陽性と判定されたのは前立腺癌群では15検体中10検体であり、66.7%であった。また、健常人群及び前立腺肥大群において擬陽性と判定されたのは、両群を合わせた20検体中1検体であり、特異度95.0%となった。
【0119】
さらに、
図6に、PSAの測定値とCA19-9/WFAの測定値との関係を示す。
図6に示されるように、今回の結果からは、PSAの測定値とCA19-9/WFAの測定値との間に明確な相関関係は示されなかった(回帰直線:CA19-9/WFA(カウント)=67163.799-1433.0774×PSA(ng/mL)、R
2=0.01667、分散分析のp値=0.5384)。
【0120】
以上より、CA19-9/WFAの測定による前立腺癌の検出能力(感度、特異度)はPSAと比較しても十分に高く、さらに、PSAとは独立した診断指標として利用できることが示された。
【0121】
(10)健常人群と大腸がん群との間での測定値の比較
表1の結果について、健常人群と大腸がん群との間で統計学的に有意な差が認められるか検討した。
図7に健常人群及び大腸がん群のCA19-9の測定結果を、
図8に健常人群及び大腸がん群のCA19-9/WFAの測定結果を、
図9にCA19-9の測定値とCA19-9/WFAの測定値との関係を、それぞれ示す。
【0122】
Wilcoxon検定によって検定を行ったところ、健常人群と大腸がん群との間にはCA19-9の測定値については有意な差が認められなかった(
図7、p=0.1714)のに対して、CA19-9/WFAの測定値については有意な差が認められた(
図8、p=0.0184)。また、CA19-9/WFAの測定値について、実施例1の(9)で算出されたカットオフ値を上回る検体を陽性とした場合の前立腺癌患者の検出能力を試験したところ、前記カットオフ値で陽性と判定されたのは大腸がん群で15検体中11検体であり、73.3%であった。他方、健常人群の中で偽陽性と判定されたものは無かった。このことから、CA19-9/WFAの測定による大腸がんの検出能力(感度、特異度)は十分に高いことが示された。
【0123】
さらに、
図9に示されるように、今回の結果からは、CA19-9の測定値とCA19-9/WFAの測定値との間に明確な相関関係は示されなかった(回帰直線:CA19-9/WFA(カウント)=70068.689+1.8730954×CA19-9(カウント)、R
2=0.041392、分散分析のp値=0.3293)。このことから、CA19-9/WFAの測定値は単にCA19-9の存在量を示すものではなく、CA19-9とは異なるバイオマーカーであることが示された。
【0124】
以上より、CA19-9/WFAの測定は、健常人と大腸がん患者との判別の新規の指標となることが示された。
【0125】
(比較例1) 前立腺癌及び大腸がん以外の癌に対するCA19-9/WFAの反応性の検証
CA19-9/WFAの測定値が高値であった前立腺癌及び大腸がん以外のがんの一例として、乳癌患者から採取された血清検体15例(乳癌群:乳癌1~15)について、実施例1の(7)と同様にしてCA19-9/WFAを測定した。各検体における測定結果を下記の表3に示す。
【0126】
【0127】
表3に示した乳癌群の測定結果及び表1に示した健常人群の測定結果について、健常人群と乳癌群との間で統計学的に有意な差が認められるか検討した。
図10に健常人群及び乳癌群のCA19-9/WFAの測定結果を示す。Wilcoxon検定によって検定を行ったところ、健常人群と乳癌群との間にはCA19-9/WFAの測定値について有意な差が認められなかった(
図10、p=0.0806)。この結果から、CA19-9/WFAの測定値は全ての癌に対して無差別に高値を示すものではなく、癌種に特異的に高値となることが示された。
【0128】
(比較例2) WFA以外のレクチンを用いたブロック化標識レクチンによる糖鎖付加CA19-9の測定
WFAに代えて、α2,3結合型シアル酸を認識するイヌエンジュレクチン(MAM、J-ケミカル社製)を結合させたブロック化標識レクチン(MAM)を調製した。すなわち、WFAに代えてMAMを用い、かつ、デキストランを分子量500kのもの(Fluka社製)に変更した以外は、実施例1の(1)~(5)と同様の方法で、最終的に382.1μg/mLのブロック化標識レクチン(MAM)(デキストラン-酵素-MAM結合体)の溶液を2.0mL得た。なお、デキストランのサイズは、レクチンの糖鎖型特異性に影響するものではない。
【0129】
ブロック化標識レクチン(WFA)に代えて、得られたブロック化酵素レクチン(MAM)を用いたこと以外は、実施例1の(6)~(7)と同様の方法で、実施例1の(7)で用いたものと同様の健常人から採取した血清検体10例(健常人群:健常人1~10)、前立腺癌患者から採取した血清検体15例(前立腺癌群:前立腺癌1~15)、及び、大腸がん患者から採取した血清検体15例(大腸がん群:大腸がん1~15)について、各検体に含まれるMAM結合型糖鎖付加CA19-9(CA19-9/MAM)の測定を行った。各検体における測定結果を下記の表4に示す。
【0130】
【0131】
表4の結果について、健常人群と前立腺癌群又は大腸がん群との間で統計学的に有意な差が認められるか検討した。
図11に健常人群及び前立腺癌群のCA19-9/MAMの測定結果を、
図12に健常人群及び大腸がん群のCA19-9/MAMの測定結果を、それぞれ示す。Wilcoxon検定によって検定を行ったところ、健常人群と前立腺癌群との間にはCA19-9/MAMの測定値について有意な差が認められなかった(
図11、p=0.1924)。また、同様に、健常人群と大腸がん群との間でもCA19-9/MAMの測定値について有意な差が認められなかった(
図12、p=0.3340)。以上より、CA19-9とWFA結合型糖鎖との組み合わせを測定するCA19-9/WFAの測定は、健常人と前立腺癌患者又は大腸がん患者との判別に特異的な新規の指標となることが示された。
本発明によれば、新たなバイオマーカーを指標とした、高感度で前立腺がん及び大腸がんを特異的に検出可能ながん検出方法及びがん検査方法、並びに、これらの方法に用いるキットを提供することが可能となる。