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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022134542
(43)【公開日】2022-09-15
(54)【発明の名称】針状ころ軸受用保持器
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/46 20060101AFI20220908BHJP
   F16C 19/46 20060101ALI20220908BHJP
   F16C 33/56 20060101ALI20220908BHJP
【FI】
F16C33/46
F16C19/46
F16C33/56
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021033720
(22)【出願日】2021-03-03
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087538
【弁理士】
【氏名又は名称】鳥居 和久
(74)【代理人】
【識別番号】100085213
【弁理士】
【氏名又は名称】鳥居 洋
(72)【発明者】
【氏名】木村 友謹
【テーマコード(参考)】
3J701
【Fターム(参考)】
3J701AA14
3J701AA32
3J701AA42
3J701AA52
3J701AA62
3J701AA63
3J701BA34
3J701BA44
3J701BA49
3J701EA02
3J701EA31
3J701FA15
3J701FA31
3J701GA32
3J701XB24
(57)【要約】      (修正有)
【課題】保持器のポケット形状を工夫することにより、針状ころのスキューによる誘起スラスト荷重を軽減する。
【解決手段】円筒形の保持器部材2の周方向に柱部2を挟み、針状ころを収容する、対向する一対の長辺23a、23bと対向する一対の短辺23c、23dからなるポケット23を多数配列した針状ころ軸受用保持器において、前記ポケット23を、長辺23a、23bが軸心Oに対して傾斜している形状の第1ポケット23Aと、前記円筒形の保持器部材2の軸方向の左右幅を2分する位置にある、軸心に対して直交する中心線Cを反転中心にした形状の第2ポケット23Bとの組み合わせにし、第1ポケット23Aと第2ポケット23Bを周方向に互い違いに配列したことを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒形の保持器部材の周方向に柱部を挟み、針状ころを収容する、対向する一対の長辺と対向する一対の短辺からなるポケットを多数配列した針状ころ軸受用保持器において、前記ポケットを、長辺が軸心に対して傾斜している形状の第1ポケットと、前記円筒形の保持器部材の軸方向の左右幅を2分する位置にある、軸心に対して直交する中心線を反転中心にして形状の第2ポケットとの組み合わせにし、第1ポケットと第2ポケットを周方向に互い違いに配列したことを特徴とする針状ころ軸受用保持器。
【請求項2】
前記第1ポケットの一対の長辺が、軸心に対して同一方向に傾斜している請求項1記載の針状ころ軸受用保持器。
【請求項3】
前記第1ポケットが、一対の短辺が長辺に対して直交している請求項2記載の針状ころ軸受用保持器。
【請求項4】
前記第1ポケットが、前記円筒形の保持器部材の左右幅を2分する中心線に対して平行な一対の短辺を有する請求項2記載の針状ころ軸受用保持器。
【請求項5】
前記第1ポケットの一対の長辺が、軸心に対して互いに逆方向に傾斜している形状の請求項1記載の針状ころ軸受用保持器。
【請求項6】
前記第1ポケットの短辺が、軸方向外側に湾曲する円弧形状になっている請求項5記載の針状ころ軸受用保持器。
【請求項7】
前記第1ポケットの短辺が、軸方向内側に湾曲する円弧形状になっている請求項5記載の針状ころ軸受用保持器。
【請求項8】
前記第1ポケットの長辺の軸心に対する傾斜角が2度以下である請求項1~7のいずれかに記載の針状ころ軸受用保持器。
【請求項9】
前記保持器部材の材質が、樹脂製または鋼製である請求項1~8のいずれかに記載の針状ころ軸受用保持器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、針状ころ軸受用保持器に関する。
【背景技術】
【0002】
針状ころ軸受は、軸受断面積が小さく、一般軸受に比べ小さいスペースで大きな負荷容量があるため、軸受のみならず、軸受箱その他も小型化することができ、機械の軽量化、コンパクト化につながり、コストダウンにも役立つものであり、一般機械に広く使用することができる。
【0003】
例えば、産業用ロボットの減速機には、一軸に多列で針状ころ軸受が使用されている。
【0004】
針状ころ軸受1は、例えば、図6に示すように、円筒形の保持器部材21の周方向に柱部22を挟んで多数のポケット23を配列した保持器2と、ポケット23内に収容される針状ころ3とを備える。
【0005】
保持器2のポケット23は、一般的にプレス加工され、図7および図8に示すように、対向する一対の長辺23a、23bと、対向する一対の短辺23c、23dからなり、長辺23a、23bが軸心Oに対して平行で、短辺23c、23dが軸心Oに対して直交する線に対して平行である長方形に形成されている。なお、図8のCは、保持器部材21の軸方向における左右幅を2分する、軸心Oに対して直交する中心線を示している。
【0006】
針状ころ軸受1は、本来、ラジアル荷重のみ負荷されることが一般的であるが、保持器2のポケット23と針状ころ3との間にあるポケット隙間や内部ラジアル隙間の影響により、針状ころ3がポケット23内でスキューし、保持器2を軸方向に押すスラスト荷重を生じさせる。このスラスト荷重のことを一般的に誘起スラスト荷重と呼んでいる。
【0007】
ところで、例えば、産業用ロボットの減速機などでは、一軸に多列の針状ころ軸受1を使用することも多く、一列の針状ころ軸受1が他の複数列の針状ころ軸受1から誘起スラスト荷重を受け、保持器2の変形や破損が発生する懸念がある。
【0008】
従来、特許文献1や特許文献2に開示されているように、保持器の耐久性や強度向上を図るには、保持器のつば幅を広くしたり、保持器の厚みを厚くしたりすることが行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平11-101242号公報
【特許文献2】特開2012-57751号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、保持器2のつば幅を広くしたり、保持器2の厚みを厚くしたりすることは、スペースが大きくなるため、機械の軽量化、コンパクト化に反する。
【0011】
ところで、針状ころ軸受1は、ますます機械の適用範囲が拡大され、使用条件も過酷になってきている。
【0012】
使用条件が過酷になると、針状ころ軸受1にとってはラジアル荷重が増大し、このラジアル荷重の増大に伴い、針状ころ3のスキューによる誘起スラスト荷重も増大するため、特に、針状ころ軸受1を多列で使用する場合には、誘起スラスト荷重の軽減策が求められている。
【0013】
そこで、この発明は、保持器のポケット形状を工夫することにより、針状ころのスキューによる誘起スラスト荷重を軽減することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記の課題を解決するために、この発明は、円筒形の保持器部材の周方向に柱部を挟み、針状ころを収容する、対向する一対の長辺と対向する一対の短辺からなるポケットを多数配列した針状ころ軸受用保持器において、前記ポケットを、長辺が軸心に対して傾斜している形状の第1ポケットと、前記円筒形の保持器部材の軸方向の左右幅を2分する位置にある、軸心に対して直交する中心線を反転中心にして形状の第2ポケットとの組み合わせにし、第1ポケットと第2ポケットを周方向に互い違いに配列したことを特徴とする。
【0015】
前記第1ポケットの形状は、一対の長辺が軸心に対して同一方向に傾斜していてもよいし、一対の長辺が軸心に対して互いに逆方向に傾斜していてもよい。
【0016】
前記第1ポケットの短辺は、長辺に対して直交していてもよいし、保持器部材の左右幅を2分する中心線に対して平行でもよい。また、前記第1ポケットの短辺は、軸方向外側または内側に湾曲する円弧形状でもよい。
【0017】
前記第1ポケットの長辺の軸心に対する傾斜角は、2度以下であることが好ましい。
【0018】
また、前記保持器部材は、樹脂製または鋼製にすることができる。
【発明の効果】
【0019】
以上のように、この発明に係る針状ころ軸受用の保持器は、長辺が軸心Oに対して傾斜している形状の第1ポケットと、保持器部材の左右の中心線Cに対して第1ポケットを反転した形状の第2ポケットとの組み合わせにし、第1ポケットと第2ポケットを周方向に互い違いに配列しているので、第1ポケットと第2ポケットの長辺の傾斜方向が互いに逆向きになり、第1ポケットと第2ポケットに収容された針状ころで発生する誘起スラストが逆向きになって、保持器内で誘起スラストが相殺され、針状ころ軸受で発生する誘起スラスト荷重を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】この発明の第1実施例に係る保持器の概略構成を示す側面図である。
図2】この発明の第2実施例に係る保持器の概略構成を示す側面図である。
図3】この発明の第3実施例に係る保持器の概略構成を示す側面図である。
図4】この発明の第4実施例に係る保持器の概略構成を示す側面図である。
図5】この発明の第5実施例に係る保持器の概略構成を示す側面図である。
図6】従来の保持器を使用する針状ころ軸受の概略構成を示す側面図である。
図7】従来の保持器の概略構成を示す斜視図である。
図8】従来の保持器の概略構成を示す側面図である。
図9】この発明における参考例の保持器の概略構成を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、この発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0022】
針状ころ軸受用の保持器2は、円筒形の保持器部材21の周方向に柱部22を挟み、針状ころ23を収容する、対向する一対の長辺23a、23bと対向する一対の短辺23c、23dからなるポケット23を多数配列したものである。
【0023】
この発明に係る針状ころ軸受用の保持器2におけるポケット23は、長辺23a、23bが軸心Oに対して傾斜している形状の第1ポケット23Aと、円筒形の保持器部材21の軸方向の左右幅を2分する位置にある、軸心Oに対して直交する中心線Cを反転中心にして第1ポケット23Aを反転した形状の第2ポケット23Bとの組み合わせになっている。
【0024】
第1ポケット23Aと第2ポケット23Bは、円筒形の保持器部材21の周方向に互い違いに配列されている。
【0025】
図1に示すこの発明の第1実施例に係る針状ころ軸受用の保持器2は、前記第1ポケット23Aの形状が、一対の長辺23a、23bが軸心Oと平行な直線(一点鎖線で示す。以下同じ。)に対して同一方向に傾斜し、一対の短辺23c、23dが長辺23a、23bに対して直交する長方形であり、第1ポケット23Aの長辺23a、23bは、図1の紙面上において、反時計方向にθ°傾き、第2ポケット23Bの長辺23a、23bは、時計方向にθ°傾いている。
【0026】
図2に示すこの発明の第2実施例に係る保持器2は、前記第1ポケット23Aの形状が、一対の長辺23a、23bが軸心Oと平行な直線に対して同一方向に傾斜し、一対の短辺23c、23dが、保持器部材21の左右幅の中心線Cに対して平行であり、第1ポケット23Aと第2ポケット23Bの軸方向の左右両側に、同一幅のリング部24を有する。第1ポケット23Aと第2ポケット23Bの軸方向の左右両側に同一幅のリング部24が形成されることにより、第1ポケット23Aと第2ポケット23Bの左右両側の強度が向上している。
【0027】
図3に示すこの発明の第3実施例に係る保持器2は、前記第1ポケット23Aの形状が、一対の長辺23a、23bが、軸心Oに対して互いに逆方向に傾斜する形状をしており、図3の紙面上において、第1ポケット23Aの長辺23aは、時計方向にθ°傾き、対向する長辺23bは、反時計方向にθ°傾いている。反対に、第2ポケット23Bの長辺23aは、反時計方向にθ°傾き、対向する長辺23bは、時計方向にθ°傾いている。
【0028】
図4に示すこの発明の第4実施例に係る保持器2は、図3に示す第3実施例の変形例であり、第1ポケット23Aと第2ポケット23Bが、図3に示す第3実施例と同様の形状に形成され、短辺23c、23dが、軸方向外側に湾曲する円弧形状になっている。短辺23c、23dを円弧形状にすることにより、機械が正逆回転(揺動運転)する際に針状ころ3が長辺23a、23bに沿って反転し易くなる。第1、2実施例の様に針状ころ3を強制的に傾けないため、機械の正逆回転時に針状ころ3に有利である。
【0029】
図5に示すこの発明の第5実施例に係る保持器2は、図3に示す第3実施例の変形例であり、第1ポケット23Aと第2ポケット23Bが、図3に示す第3実施例と同様の形状に形成され、短辺23c、23dが、軸方向内側に湾曲する円弧形状になっている。短辺23c、23dを円弧形状にすることにより、機械が正逆回転(揺動運転)する際に針状ころ3が長辺23a、23bに沿って反転し易くなる。第1、2実施例の様に針状ころ3を強制的に傾けないため、機械の正逆回転時に針状ころ3に有利である。
【0030】
前記各実施例における第1ポケット23Aの長辺23a、23bの軸心Oに対する傾斜角θは、2度以下に設定している。2度以上の傾斜角θにすると、軸受の発熱が懸念される。
【0031】
なお、図1図5に示す各実施例では、説明のために第1ポケット23A、第2ポケット23Bの長辺23a、23bの傾斜角θを誇張して描いている。
【0032】
保持器部材21の材質は、樹脂製または鋼製であり、柱部22の厚みは針状ころ3の直径の35%程度である。
【0033】
この発明に係る針状ころ軸受用の保持器2は、長辺23a、23bが軸心Oに対して傾斜している形状の第1ポケット23Aと、保持器部材21の左右の中心線Cに対して第1ポケット23Aを反転した形状の第2ポケット23Bとの組み合わせにし、第1ポケット23Aと第2ポケット23Bを周方向に互い違いに配列しているので、第1ポケット23Aと第2ポケット23Bの長辺23a、23bの傾斜方向が互いに逆向きになり、第1ポケット23Aと第2ポケット23Bに収容された針状ころ3で発生する誘起スラストが逆向きになって、保持器2内で誘起スラストが相殺され、針状ころ軸受1で発生する誘起スラスト荷重が抑制される。
【0034】
実施例1~5に示す保持器2を使用して、誘起スラスト荷重の大きさを試験機で実際に測定したところ、ポケット23の長辺23a、23bが軸心Oに対して平行な図1の従来の保持器2を使用した場合に生じる誘起スラスト荷重を100%にして換算すると、実施例1および実施例2の保持器2を使用した場合の誘起スラスト荷重は3~7%、実施例3~5の保持器2を使用した場合の誘起スラスト荷重は50~80%程度に誘起スラスト荷重が抑制されることが確認できた。
【0035】
また、参考例として、図9示すように、長辺23a、23bが軸心Oに対して傾斜するポケット23(この発明の実施例では第1ポケット23A)を、周方向に同じ向きに配列した保持器2を作成して、誘起スラストの大きさを誘起スラスト測定試験機で実際に測定したところ、ポケット23の長辺23a、23bが軸心Oに対して平行な図8に示す従来の保持器2を使用した場合に生じる誘起スラスト荷重を100%にして換算すると、参考例の場合の誘起スラスト荷重は200~400%程度であり、誘起スラスト荷重が過大になることが確認できた。
【0036】
この発明に係る保持器2は、保持器付き針状ころ軸受、ソリッド形針状ころ軸受、シェル形針状ころ軸受など種々の針状ころ軸受に適用することができる。
【0037】
この発明は前述した実施形態に何ら限定されるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲において、さらに種々の形態で実施し得ることは勿論のことであり、本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内の全ての変更を含む。
【符号の説明】
【0038】
1 :針状ころ軸受
2 :保持器
3 :針状ころ
21 :保持器部材
22 :柱部
23A :第1ポケット
23B :第2ポケット
23a、23b :長辺
23a、23b :短辺
O :軸心
C :中心線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9