(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022134568
(43)【公開日】2022-09-15
(54)【発明の名称】車輪用軸受装置
(51)【国際特許分類】
F16C 33/78 20060101AFI20220908BHJP
F16C 33/80 20060101ALI20220908BHJP
F16C 19/18 20060101ALI20220908BHJP
F16J 15/3204 20160101ALI20220908BHJP
F16J 15/447 20060101ALI20220908BHJP
B60B 35/02 20060101ALI20220908BHJP
【FI】
F16C33/78 Z
F16C33/80
F16C19/18
F16J15/3204 201
F16J15/447
B60B35/02 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021033768
(22)【出願日】2021-03-03
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002217
【氏名又は名称】弁理士法人矢野内外国特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】信川 愛純
【テーマコード(参考)】
3J006
3J042
3J216
3J701
【Fターム(参考)】
3J006AE24
3J006AE28
3J006AE30
3J006AE40
3J042AA03
3J042AA12
3J042BA01
3J042CA10
3J042CA20
3J042DA03
3J216AA02
3J216AA14
3J216AB03
3J216AB38
3J216BA23
3J216CA01
3J216CA02
3J216CA04
3J216CB03
3J216CB04
3J216CB07
3J216CB13
3J216CB18
3J216CC03
3J216CC14
3J216CC15
3J216CC16
3J216CC35
3J216CC41
3J216CC68
3J216DA01
3J216DA12
3J701AA03
3J701AA32
3J701AA43
3J701AA54
3J701AA62
3J701AA72
3J701BA73
3J701DA09
3J701EA06
3J701EA49
3J701FA46
3J701GA03
(57)【要約】
【課題】外方部材に装着され、転動体の設置空間への異物侵入防止効果を向上させるラビリンスリップを有するアウター側シール部材を備える車輪用軸受装置であって、当該アウター側シール部材の外方部材への圧入作業を容易に行うことができる車輪用軸受装置を提供する。
【解決手段】アウター側シール部材7は、外輪2に嵌合された芯金71と、芯金71に接合された弾性体からなるシール体72とを有し、シール体72は、芯金71における外輪2との嵌合面(円筒部71aの外周)に対して径方向外側に位置し、且つハブ輪3の車輪取り付けフランジ3bに向かって軸方向に延びるラビリンスリップ72dと、ラビリンスリップ72dに対して径方向内側の根元側に位置し、且つ外輪2のアウター側の端面2fと平行な平面からなる円環状の押圧面72fと、ラビリンスリップ72dと押圧面72fとの間に介在する円環状の凹溝72gとを有する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周に複列の外側軌道面を有する外方部材と、
外周において軸方向に延びる小径段部、及び前記小径段部よりもアウター側に配置される車輪取り付けフランジを有するハブ輪、並びに当該ハブ輪の前記小径段部に圧入された少なくとも一つの内輪からなり、外周に前記複列の外側軌道面と対向する複列の内側軌道面を有する内方部材と、
前記外方部材及び前記内方部材の各々の軌道面間に転動自在に収容された複列の転動体と、
前記外方部材及び前記内方部材によって形成された環状空間のアウター側開口端を塞ぐアウター側シール部材とを備え、
前記アウター側シール部材は、前記外方部材に嵌合された芯金と、
前記芯金に接合された弾性体からなるシール体とを有する車輪用軸受装置において、
前記シール体は、
前記芯金における前記外方部材との嵌合面に対して径方向外側に位置し、且つ前記ハブ輪の前記車輪取り付けフランジに向かって軸方向に延びるラビリンスリップと、
前記ラビリンスリップに対して径方向内側の根元側に位置し、且つ前記外方部材のアウター側の端面と平行な平面からなる円環状の押圧面と、
前記ラビリンスリップと前記押圧面との間に介在する円環状の凹溝とを有する、
ことを特徴とする車輪用軸受装置。
【請求項2】
前記押圧面の外縁は、前記芯金の前記嵌合面に対して径方向外側に位置し、且つ
前記押圧面の内縁は、前記芯金の前記嵌合面に対して径方向内側に位置する、
ことを特徴とする、請求項1に記載の車輪用軸受装置。
【請求項3】
前記凹溝は、軸方向に窪むように形成される、
ことを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の車輪用軸受装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輪用軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、自動車等の懸架装置において、車輪を回転自在に支持する車輪用軸受装置が知られている。
前記車輪用軸受装置は、例えば、車輪に接続されるハブ輪(内方部材)が、転動体を介して外方部材に回転自在に支持された構成からなる。
また、車輪用軸受装置は、主に上記懸架装置、車輪のタイヤホール、及びブレーキロータ等によって囲まれた空間内にて、外部に露出した状態で配置されることが多い。
このため、車輪用軸受装置には、泥水等の異物が、外部から転動体の設置空間内に侵入するのを防止するために、外方部材と内方部材との間に形成される環状空間において、そのインナー側及びアウター側のそれぞれの開口端に、シール部材が設けられている。
【0003】
ところで、近年、自動車等の車両における燃費向上に加え、車輪用軸受装置においては、シール部材に対して、従来以上の異物の侵入防止効果が求められている。
このようなことを踏まえ、例えば特許文献1においては、車両における燃費向上に配慮しつつ、回転抵抗を増加させることなく異物の侵入防止効果の向上が図られたシールリング(シール部材)を備える、車輪支持用転がり軸受ユニット(車輪用軸受装置)が開示されている。
具体的には、上記シール部材は、外輪(外方部材)とハブ(内方部材)との間に形成される環状空間の、アウター側の開口端に設けられるシール部材(以下、適宜「アウター側シール部材」と記載する)であって、外方部材に嵌合される芯金と、当該芯金に接合されたシール材(シール体)とを備え、当該シール体は、複数のシールリップとともに、これらのシールリップの径方向外側に位置するラビリンスリップを有している。
そして、上記ラビリンスリップの先端部は、内方部材のアウター側に設けられる回転側フランジ(車輪取り付けフランジ)の、内側面に形成された段部に対して径方向外側に位置するとともに、当該段部と径方向に重畳している。
また、上記ラビリンスリップの先端部における内周は、上記段部の外周に対して全周に亘って近接対向しており、その結果、当該先端部の内周と、段部の外周との間には、軸方向のラビリンスシールが形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した特許文献1における車輪用軸受装置によれば、アウター側シール部材に設けられる複数のシールリップの径方向外側に、さらにラビリンスリップが追加して設けられており、当該ラビリンスリップは、外方部材に対して相対的に回転する内方部材(より具体的には、車輪取り付けフランジ)と非接触の状態であることから、回転抵抗を増加させることなく異物の侵入防止効果の向上を図ることができる。
しかしながら、上記アウター側シール部材は、圧入治具によって軸方向に圧入されることで芯金が外方部材に嵌合され、当該外方部材に装着されるところ、ラビリンスリップを設けたことにより、圧入治具によって押圧可能な押圧面は、当該ラビリンスリップと複数のシールリップとの間に位置する、径方向に幅狭な円環状の平面となる。
【0006】
そのため、アウター側シール部材を外方部材に圧入する圧入作業を行う際は、径方向に幅狭な上記押圧面に圧入治具の先端部を押付けなければならず、ラビリンスリップの根本部における外形寸法のバラツキを考慮すると、上記圧入治具の先端部の外形寸法を厳密に管理する必要があり、外方部材へのアウター側シール部材の取付け容易性を損なう一要因となっていた。
【0007】
また、圧入治具による押圧力を、径方向に幅狭な上記押圧面の全面に亘って均等に付加し難く、外方部材と同軸上の姿勢を保ちつつ、当該外方部材への圧入作業を行うことが困難であった。
【0008】
さらに、圧入治具によって上記押圧面に付加される押圧力に偏りが生じ易いことから、圧入作業を行うことでアウター側シール部材が変形し易く、また、上記押圧面が、弾性体からなるシール体に設けられているため、過大な押圧力が局部的に付加され、当該シール体の破損を誘発する懸念があった。
【0009】
本発明は、以上に示した現状の問題点に鑑みてなされたものであり、外方部材に装着され、転動体の設置空間への異物侵入防止効果を向上させるラビリンスリップを有するアウター側シール部材を備える車輪用軸受装置であって、当該アウター側シール部材の外方部材への圧入作業を容易に行うことができる車輪用軸受装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0011】
即ち、本発明に係る車輪用軸受装置は、内周に複列の外側軌道面を有する外方部材と、外周において軸方向に延びる小径段部、及び前記小径段部よりもアウター側に配置される車輪取り付けフランジを有するハブ輪、並びに当該ハブ輪の前記小径段部に圧入された少なくとも一つの内輪からなり、外周に前記複列の外側軌道面と対向する複列の内側軌道面を有する内方部材と、前記外方部材及び前記内方部材の各々の軌道面間に転動自在に収容された複列の転動体と、前記外方部材及び前記内方部材によって形成された環状空間のアウター側開口端を塞ぐアウター側シール部材とを備え、前記アウター側シール部材は、前記外方部材に嵌合された芯金と、前記芯金に接合された弾性体からなるシール体とを有する車輪用軸受装置において、前記シール体は、前記芯金における前記外方部材との嵌合面に対して径方向外側に位置し、且つ前記ハブ輪の前記車輪取り付けフランジに向かって軸方向に延びるラビリンスリップと、前記ラビリンスリップに対して径方向内側の根元側に位置し、且つ前記外方部材のアウター側の端面と平行な平面からなる円環状の押圧面と、前記ラビリンスリップと前記押圧面との間に介在する円環状の凹溝とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
即ち、本発明に係る車輪用軸受装置によれば、外方部材に装着され、転動体の設置空間への異物侵入防止効果を向上させるラビリンスリップを有するアウター側シール部材の、外方部材への圧入作業を容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態に係る車輪用軸受装置の全体的な構成を示した断面図である。
【
図2】アウター側シール部材の具体的な構成を示した拡大断面図である。
【
図3】外輪へのアウター側シール部材の圧入作業の状態を経時的に順に示した図であって、(a)は当該圧入作業を実施する直前の状態を示した拡大断面図であり、(b)は当該嵌合作業が完了した直後の状態を示した拡大断面図である。
【
図4】別実施形態の車輪用軸受装置が備えるアウター側シール部材の具体的な構成を示した拡大断面図である。
【
図5】従来の車輪用軸受装置が備えるアウター側シール部材の具体的な構成を示した拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、本発明を具現化する一実施形態について、
図1乃至
図5を用いて説明する。
なお、本明細書においては便宜上、
図1中の矢印の方向によって規定された、インナー側及びアウター側に基づき記述する。
ここで、「インナー側」とは、自動車等の車体に取り付けられた状態における車輪用軸受装置1に対して、当該車体の内側の方向を意味する。
また、「アウター側」とは、自動車等の車体に取り付けられた状態における車輪用軸受装置1に対して、上記インナー側との反対側、即ち、当該車輪用軸受装置1によって、回転自在に支持された車輪側の方向を意味する。
【0015】
また、本明細書においては、車輪用軸受装置1の回転軸G(
図1を参照)と平行な方向を「軸方向」、当該車輪用軸受装置1の回転軸Gと直交する方向を「径方向」、当該車輪用軸受装置1の回転軸Gを中心とする円弧に沿う方向を「周方向」と規定して記述する。
【0016】
[車輪用軸受装置1の全体構成]
先ず、本実施形態における車輪用軸受装置1の全体構成について、
図1を用いて説明する。
車輪用軸受装置1は、自動車等の車両の懸架装置において、車輪を回転自在に支持するものである。
車輪用軸受装置1は、主に外輪2、ハブ輪3、内輪4、複列(本実施形態においては二列)の転動体であるボール列5・5、インナー側シール部材6、及びアウター側シール部材7等を備える。
【0017】
外輪2は、外方部材の一例であって、ハブ輪3及び内輪4を支持するものである。
外輪2は、略中空円筒状の部材からなり、そのインナー側の端部には、インナー側シール部材6を嵌合可能なインナー側開口部2aが設けられ、且つそのアウター側の端部には、アウター側シール部材7を嵌合可能なアウター側開口部2bが設けられている。
【0018】
そして、外輪2の内周には、周方向に環状の複列(本実施形態においては二列)の外側軌道面2c・2cが、軸方向に離間して同軸上に設けられるとともに、外輪2の外周には、懸架装置のナックル(図示せず)に取付可能なフランジ2dが、一体に設けられている。
【0019】
ハブ輪3は、内輪4とともに内方部材を構成する部材であって、車両の車輪(図示せず)を回転自在に支持するものである。
ハブ輪3は、略中実円柱状の部材からなり、そのインナー側の外周には、軸方向に延びる縮径された小径段部3aが設けられている。
また、ハブ輪3のアウター側の端部には、上記車輪を取付可能な車輪取り付けフランジ3bが、径方向断面視にて円弧状に拡径するように一体的に設けられている。
【0020】
そして、車輪取り付けフランジ3bには、上記車輪をハブ輪3に締結するための、複数本のハブボルト3c・3c・・・が圧入されている。
また、ハブ輪3のアウター側の外周には、周方向に環状の内側軌道面3dが、上述したアウター側の外側軌道面2cと対向して設けられている。
【0021】
ハブ輪3の小径段部3aには、内輪4が圧入されている。
内輪4は、ハブ輪3とともに内方部材を構成する部材であって、略中空円筒状の部材からなり、その外周には、周方向に環状の内側軌道面4aが、上述したインナー側の外側軌道面2cと対向して設けられている。
【0022】
そして、内輪4は、ハブ輪3のインナー側の端部が、径方向外側に向かって塑性変形(加締め)されることにより、当該ハブ輪3に固定される。
なお、ハブ輪3との内輪4の固定方法については、本実施形態に限定されるものではなく、例えば、ハブ輪3のインナー側の端部において、ナット等の締結部材を螺合固定することとしてもよい。
【0023】
このように、ハブ輪3及び内輪4によって構成される内方部材において、そのインナー側の端部には、内輪4に設けられる内側軌道面4aが配置され、且つそのアウター側の端部には、ハブ輪3に設けられる内側軌道面3dが配置されるとともに、これら複列(本実施形態においては二列)の内側軌道面3d・4aは、上述した外輪2に設けられる二列の外側軌道面2c・2cと、互いに対向して配置されている。
【0024】
二列のボール列5・5は、外輪2に対して相対的に、ハブ輪3及び内輪4からなる内方部材を回転自在に支持するものである。
各列におけるボール列5は、環状に配置された複数のボール5a・5a・・・、及びこれらのボール5a・5a・・・を転動自在に保持する保持器5bによって構成されている。
【0025】
そして、これら二列のボール列5・5は、外輪2のインナー側及びアウター側の端部に各々設けられる二列の外側軌道面2c・2cと、内方部材(ハブ輪3及び内輪4)のインナー側及びアウター側の端部に各々設けられる二列の内側軌道面3d・4aとの間に形成された、二列の設置空間Q1・Q1内において、各々転動自在に収容されている。
【0026】
このように、本実施形態における車輪用軸受装置1は、外輪2、ハブ輪3、内輪4、及び二列のボール列5・5からなる複列アンギュラ玉軸受として構成されている。
なお、車輪用軸受装置1の構成については、本実施形態に限定されるものではなく、例えば、ボール列5に代替して円錐ころ列を用いた、複列円錐ころ軸受として構成されていてもよい。
【0027】
インナー側シール部材6は、外輪2及び内方部材(ハブ輪3及び内輪4)によって形成された環状空間Q2において、そのインナー側の開口端を塞ぐものである。
インナー側シール部材6は、略円筒状のシール板6a、及び略円筒状のスリンガ6b等を備える。
【0028】
シール板6aは、環状、且つ周方向視にてL字状に屈曲形成された鋼板等により構成され、例えば合成ゴムからなる複数のシールリップが加硫接着されている。
また、スリンガ6bも、シール板6aと同様に、環状、且つ周方向視にてL字状に屈曲形成された鋼板等により構成されている。
【0029】
そして、シール板6aは、外輪2と同軸上、且つ複数のシールリップをインナー側に向けた状態で、当該外輪2のインナー側開口部2aに嵌合される。
また、スリンガ6bは、内輪4と同軸上、且つシール板6aのインナー側において、当該シール板6aと対向させた状態で、内輪4の外周に嵌合される。
これにより、インナー側シール部材6は、シール板6a及びスリンガ6bからなるパックシールとして構成される。
【0030】
アウター側シール部材7は、外輪2及び内方部材(ハブ輪3及び内輪4)によって形成された環状空間Q2において、そのアウター側の開口端(より具体的には、外輪2のアウター側開口部2b)を塞ぐものである。
なお、アウター側シール部材7の構成の詳細については、後述する。
【0031】
以上のように、本実施形態における車輪用軸受装置1は、ハブ輪3の外周に、アウター側のボール列5が転動可能な内側軌道面3dが、直接形成されている第3世代構造の車輪用軸受装置として構成されているが、これに限定されるものではなく、例えば、一対の内輪が、ハブ輪の外周に互いに同軸上に圧入固定されるとともに、各々の内輪の外周に、ボール列が転動可能な内側軌道面が、直接形成されている第2世代構造の車輪用軸受装置として構成されていてもよい。
【0032】
[アウター側シール部材7の構成]
次に、アウター側シール部材7の構成について、
図2乃至
図5を用いて詳細に説明する。
図2に示すように、アウター側シール部材7は、外輪2に嵌合される芯金71、及び当該芯金71に接合された弾性体からなるシール体72等を有する。
【0033】
芯金71は、例えば、フェライト系ステンレス鋼板(JIS規格のSUS430系等)、オーステナイト系ステンレス鋼板(JIS規格のSUS304系等)、または防塵処理された冷間圧延鋼板(JIS規格のSPCC系等)等からなる円環状の鋼板を、プレス加工することによって形成される。
また、芯金71は、主に円筒部71a、屈曲部71b、円板部71c、及び鍔部71d等により構成される。
【0034】
円筒部71aは、外輪2のアウター側の端部からインナー側に向かって延出し、その外径は、外輪2のアウター側開口部2bの内径と略同等に設定されている。
【0035】
そして、芯金71は、円筒部71aを介して、外輪2のアウター側開口部2b(即ち、前述した環状空間Q2(
図1を参照)のアウター側の端部であって、外輪2の内周)に嵌合される。
換言すると、円筒部71aの外周は、芯金71における外輪2との嵌合面を構成するとともに、上記アウター側開口部2bの内周は、外輪2における芯金71との被嵌合面を構成する。
【0036】
屈曲部71bは、円筒部71aのインナー側の端部より、径方向内側に向かって一旦屈曲するとともに、アウター側に向かって上記円筒部71aの軸方向中途部にまで延出している。
また、円板部71cは、屈曲部71bのアウター側の端部より、径方向内側に向かってハブ輪3の外周(より具体的には、後述する軸周面部31b)近傍にまで延出している。
【0037】
さらに、鍔部71dは、円筒部71aのアウター側の端部より、径方向外側に向かって延出している。
なお、鍔部71dの径方向外側の端部は、外輪2のアウター側の端部における外周面2eに比べて径方向外側に位置し、当該鍔部71dの径方向外側の端部には、上記外周面2eに対して所定の隙間を有しつつ、インナー側に向かって延出する外縁部71eが設けられている。
【0038】
シール体72は、例えば、NBR(アクリロニトリル-ブタジエンゴム)、耐熱性に優れたHNBR(水素化アクリロニトリル・ブタジエンゴム)、EPDM(エチレンプロピレンゴム)、耐熱性及び耐薬品性に優れたACM(ポリアクリルゴム)、FKM(フッ素ゴム)、またはシリコンゴム等の合成ゴムからなる弾性体によって形成され、加硫接着により芯金71と一体的に接合されている。
また、シール体72は、芯金71の円板部71cに設けられるラジアルリップ72a、内側アキシアルリップ72b、及び外側アキシアルリップ72c、芯金71の鍔部71dに設けられるラビリンスリップ72d、並びに芯金71の外縁部71eに設けられる堰部72eなどにより構成される。
【0039】
ラジアルリップ72aは、円板部71cの径方向内側の端部に設けられ、インナー側且つ径方向内側に向かって延出するように形成されている。
また、内側アキシアルリップ72bは、ラジアルリップ72aに対して径方向外側に設けられ、アウター側に向かって延出するように形成されている。
さらに、外側アキシアルリップ72cは、ラジアルリップ72a及び内側アキシアルリップ72bに対して径方向外側に設けられ、アウター側且つ径方向外側に向かって延出するように形成されている。
【0040】
そして、これらのラジアルリップ72a、内側アキシアルリップ72b、及び外側アキシアルリップ72cは、互いに同軸上に配置され、ハブ輪3の段差部31に摺接されている。
【0041】
ここで、上記段差部31は、ハブ輪3における車輪取り付けフランジ3bの基端部において、インナー側へ突出して設けられた部位を指す。
具体的には、段差部31は、回転軸G(
図1を参照)に対して垂直な平面からなる平面部31a、当該平面部31aの径方向内側に位置し、回転軸Gと同軸上に延出する軸周面部31b、並びにこれらの平面部31a及び軸周面部31bを滑らかに繋げる円弧面部31cなどにより構成されている。
また、段差部31の外周面部31dは、所定の曲率にて傾斜しており、平面部31aの外縁からハブボルト3c(
図1を参照)の座面31eまで、滑らかに繋がっている。
【0042】
そして、ラジアルリップ72aの先端部は、潤滑材であるグリースの油膜を介して、段差部31の軸周面部31bと接触し、また、内側アキシアルリップ72bの先端部は、当該油膜を介して、段差部31の円弧面部31cと接触し、さらに、外側アキシアルリップ72cの先端部は、当該油膜を介して、段差部31の平面部31aと接触するようになっている。
このように、アウター側シール部材7は、これらのラジアルリップ72a、内側アキシアルリップ72b、及び外側アキシアルリップ72cが、グリースの油膜を介して段差部31に接触することで、ハブ輪3に対して摺動可能に構成されている。
【0043】
ラビリンスリップ72dは、外側アキシアルリップ72cの径方向外側であって、上記嵌合面を構成する、円筒部71aの外周に対して径方向外側に位置し、アウター側、即ちハブ輪3の車輪取り付けフランジ3bに向かって、軸方向に延出するように形成されている。
【0044】
具体的には、ラビリンスリップ72dは、回転軸Gに対して径方向外側にやや傾斜するようにして、アウター側に向かって延出するように形成されている。
一方、ハブ輪3における段差部31の平面部31aには、アウター側に窪んだ円環状の凹部31fが、回転軸Gと同軸上に形成されている。
【0045】
そして、ラビリンスリップ72dは、上記凹部31f内に先端部が非接触の状態で位置するように配置されている。
即ち、ラビリンスリップ72dは、上述したラジアルリップ72a、内側アキシアルリップ72b、及び外側アキシアルリップ72cを径方向内側に内包しつつ、外輪2のアウター側の端面と、ハブ輪3における段差部31の平面部31aとの隙間を塞ぐように配置されている。
これにより、例えば、外部から外側アキシアルリップ72cへと向かう異物(泥水や砂塵等)は、ラビリンスリップ72dによって受け止められ、当該ラビリンスリップ72dの外周に沿って周方向に導かれた後、そのまま落下することとなり、回転抵抗を増加させることなく、車輪用軸受装置1における環状空間Q2への異物の侵入防止効果の向上を図ることができる。
【0046】
堰部72eは、周方向断面視にて略矩形状に設けられ、外輪2のアウター側の端部において、外周面2eと接触しつつ、径方向外側に突出するように配置されている。
また、堰部72eは、芯金71において、鍔部71dの径方向外側の端部とともに、外縁部71eを覆うようにして設けられている。
これにより、例えば、外輪2の外周面2eを伝ってラビリンスリップ72dへと流れてくる、泥水等の異物は、堰部72eによって堰き止められることとなり、車輪用軸受装置1における環状空間Q2への異物の侵入防止効果の向上を、より効果的に図ることができる。
【0047】
ところで、外側アキシアルリップ72cとラビリンスリップ72dとの間には、回転軸Gに対して垂直な平面からなる押圧面72fが設けられている。
より具体的には、押圧面72fは、ラビリンスリップ72dに対して径方向内側の根元側に位置し、外輪2のアウター側の端面2fと平行な平面からなる円環状に形成されている。
【0048】
また、
図3(a)に示すように、押圧面72fの内径R1は、外側アキシアルリップ72cの先端部における外径Ra1に比べて大きく(R1>Ra1)、且つ押圧面72fの外径R2は、ラビリンスリップ72dの根元部における内径Ra2に比べて小さく(R2<Ra2)なるように設定されている。
つまり、軸方向視において、押圧面72fは、外側アキシアルリップ72c及びラビリンスリップ72dと、重複しないように配置されている。
【0049】
そして、
図3(b)に示すように、外輪2のアウター側の端部において、アウター側シール部材7を装着する際は、圧入治具Jの先端部Jaを押圧面72fに押付け、当該圧入治具Jによって、外輪2のアウター側開口部2bに、芯金71の円筒部71aを圧入させる圧入作業を実行することによって行われる。
【0050】
ここで、
図5に示すように、従来の車輪用軸受装置101においては、アウター側シール部材107のシール体172にラビリンスリップ172dを設ける場合、当該ラビリンスリップ172dの径方向内側における根元部は、押圧面172fと滑らかに繋がる、周方向断面視にて円弧状の隅部172gとして形成される。
そのため、押圧面172fは、外側アキシアルリップ172cとラビリンスリップ172dとの間であって、上記隅部172gを除いた領域に形成されることとなり、径方向に幅狭な円環状の平面となる。
【0051】
その結果、例えば、上記圧入作業を行う際には、径方向に幅狭な押圧面172fに圧入治具Jの先端部Jaを押付けなければならず、ラビリンスリップ172dの根本部(即ち、隅部172g)における外形寸法のバラツキを考慮すると、隅部172gとの干渉を避けるために、当該先端部Jaの外形寸法を厳密に管理する必要があり、外輪102のアウター側端部102bへの、アウター側シール部材107の取付け容易性を損なう一要因となっていた。
【0052】
そこで、
図2に示すように、本実施形態においては、ラビリンスリップ72dの径方向内側の根元側において、当該ラビリンスリップ72dと押圧面72fとの間に介在する、円環状の凹溝72gを有する構成となっている。
【0053】
このように、従来の車輪用軸受装置101のような、周方向断面視にて円弧状の隅部172gを設けることなく、円環状の凹溝72gからなるヌスミ加工を施すことにより、従来のアウター側シール部材107に比べて、当該隅部172gを考慮することなく、径方向に幅広な押圧面72fを確保することができる。
また、例えば、上記圧入作業を行う際、従来の車輪用軸受装置101のように、圧入治具Jの先端部Jaと、隅部172gと干渉を避ける必要も無い。
【0054】
従って、たとえラビリンスリップ72dの根本部における外形寸法のバラツキを考慮したとしても、従来のアウター側シール部材107に比べて、圧入治具Jの先端部Jaの外形寸法を厳密に管理する必要性は低く、外輪2のアウター側端部2bへの、アウター側シール部材7の取付け容易性を向上させることができる。
【0055】
また、従来のアウター側シール部材107(
図5を参照)に比べて、径方向に幅広な押圧面72fを確保することができることから、圧入治具J(
図3を参照)による押圧力を当該押圧面72fの全面に亘って均等に付加し易くなり、外輪2と同軸上の姿勢を保ちつつ、当該外輪2への圧入作業を容易に行うことができる。
【0056】
さらに、圧入治具Jによって上記押圧面72fに付加される押圧力に偏りが生じ難いことから、圧入作業を行うことでアウター側シール部材7が変形するのを防止し、また、弾性体からなるシール体72に過大な押圧力が局部的に付加されることにより、当該シール体72が破損するのを防止することができる。
【0057】
なお、本実施形態において、上記凹溝72gは、インナー側に向かって軸方向に窪む、周方向断面視にて略矩形状に形成されるが、これに限定されるものではない。
例えば、
図4に示すように、上記凹溝72gに代替して、インナー側に向かって窪む、周方向断面視にて円形状の凹溝272gを設けることとしてもよい。
【0058】
しかしながら、本実施形態のように、周方向断面視にて、軸方向に窪む略矩形状に凹溝72g(
図2を参照)が形成されることにより、周方向断面視にて円形状の凹溝272gと異なり、径方向(より具体的には、径方向外側)に向かって窪むのを回避することができる。
従って、
図2において、ラビリンスリップ72dの根本部における厚みが、凹溝72gによって減少することもなく、当該ラビリンスリップ72dの根本部における剛性を十分に保持することができる。
【0059】
また、
図3(a)に示すように、押圧面72fの外縁は、芯金71の嵌合面、即ち円筒部71aの外周に対して径方向外側に位置し、且つ押圧面72fの内縁は、芯金71の当該嵌合面(円筒部71aの外周)に対して径方向内側に位置するように構成されている。
【0060】
このような構成を有することにより、押圧面72fを介して付加される圧入治具Jによる押圧力を、曲げ加工によって形成された比較的剛性の高い芯金71の嵌合面(円筒部71aの外周)によって受け止めることができるため、圧入作業を行うことでアウター側シール部材7が変形するのを、より効果的に防止することができる。
また、圧入治具Jによる押圧力を、当該押圧面72fの全面に亘ってより確実且つ均等に付加し易くなり、外輪2と同軸上の姿勢を保ちつつ、当該外輪2への圧入作業をより安定して行うことができる。
【0061】
以上、本発明の実施の形態について説明を行ったが、本発明はこうした実施の形態に何等限定されるものではなく、あくまで例示であって、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、さらに種々なる形態で実施し得ることは勿論のことであり、本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内のすべての変更を含む。
【符号の説明】
【0062】
1 車輪用軸受装置
2 外輪(外方部材)
2b アウター側開口部
2c 外側軌道面
2d フランジ
2f 外輪のアウター側の端面
3 ハブ輪(内方部材)
3a 小径段部
3b 車輪取り付けフランジ
3d 内側軌道面
4 内輪(内方部材)
4a 内側軌道面
5 ボール列(転動体)
7 アウター側シール部材
71 芯金
71a 円筒部
72 シール体
72d ラビリンスリップ
72f 押圧面
72g 凹溝
272g 凹溝
Q2 環状空間