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特開2022-134622セルロース繊維のオリゴマー分散液の製造方法、並びにセルロース繊維のオリゴマー分散液を含有する塗料組成物及び複層塗膜形成方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022134622
(43)【公開日】2022-09-15
(54)【発明の名称】セルロース繊維のオリゴマー分散液の製造方法、並びにセルロース繊維のオリゴマー分散液を含有する塗料組成物及び複層塗膜形成方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 1/08 20060101AFI20220908BHJP
   C08B 15/08 20060101ALI20220908BHJP
   C09D 7/65 20180101ALI20220908BHJP
   C09D 201/02 20060101ALI20220908BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20220908BHJP
   B05D 1/36 20060101ALI20220908BHJP
【FI】
C08L1/08
C08B15/08
C09D7/65
C09D201/02
B05D7/24 303E
B05D7/24 303G
B05D7/24 302C
B05D7/24 301E
B05D1/36 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021033876
(22)【出願日】2021-03-03
(71)【出願人】
【識別番号】000001409
【氏名又は名称】関西ペイント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100173107
【弁理士】
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【弁理士】
【氏名又は名称】出野 知
(74)【代理人】
【識別番号】100146466
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 正俊
(72)【発明者】
【氏名】坪内 剛士
【テーマコード(参考)】
4C090
4D075
4J002
4J038
【Fターム(参考)】
4C090AA05
4C090AA08
4C090BA24
4C090BB52
4C090BD18
4C090CA06
4C090CA47
4C090DA10
4C090DA31
4D075AA10
4D075AE03
4D075AE06
4D075BB16X
4D075BB25Z
4D075BB26Z
4D075BB60Z
4D075BB75X
4D075BB89X
4D075CA47
4D075CA48
4D075CB06
4D075DA06
4D075DB02
4D075EA06
4D075EA10
4D075EA31
4D075EA43
4D075EB07
4D075EB22
4D075EB32
4D075EB33
4D075EB38
4D075EB45
4D075EB47
4D075EC07
4D075EC22
4D075EC30
4D075EC33
4D075EC51
4J002AB011
4J002FA041
4J002GH01
4J002HA07
4J038BA022
4J038CC022
4J038CG042
4J038CG141
4J038GA11
4J038KA03
4J038KA09
4J038MA14
(57)【要約】
【課題】水酸基を多く残したセルロース繊維が均一かつ安定的に分散した、セルロース繊維のオリゴマー分散液の製造方法を提供する。
【解決手段】セルロース繊維(A)の水分散液と、2個以上の反応性基を有しかつ特定範囲の溶解度及び沸点を有する化合物(B)とを混合し、混合液(i)を得る工程;前記工程で得られる混合液(i)中の水を除去して、前記セルロース繊維(A)及び前記化合物(B)を含有する混合液(ii)を得る工程;並びに、前記工程で得られる混合液(ii)と、前記化合物(B)中の反応性基との反応性を有する反応性基を1個以上有する化合物(C)とを混合し、前記化合物(B)中の反応性基と前記化合物(C)中の反応性基を反応させることにより、オリゴマーを形成する工程、を含む、セルロース繊維のオリゴマー分散液の製造方法が開示される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の工程(1)~(3):
工程(1):セルロース繊維(A)の水分散液と、2個以上の反応性基を有し、かつ20℃における100gの水への溶解度が100g以上であり、かつ沸点が115℃以上である化合物(B)とを混合し、混合液(i)を得る工程、
工程(2):前記工程(1)で得られる混合液(i)中の水を除去して、前記セルロース繊維(A)及び前記化合物(B)を含有する混合液(ii)を得る工程、並びに
工程(3):前記工程(2)で得られる混合液(ii)と、前記化合物(B)中の反応性基との反応性を有する反応性基を1個以上有する化合物(C)とを混合し、前記化合物(B)中の反応性基と前記化合物(C)中の反応性基とを反応させることによりオリゴマーを形成する工程、
を含む、セルロース繊維のオリゴマー分散液の製造方法。
【請求項2】
前記化合物(B)の溶解性パラメータ値(SP値)が、12~23(cal/cm31/2の範囲内である、請求項1に記載のセルロース繊維のオリゴマー分散液の製造方法。
【請求項3】
前記化合物(B)の分子量が、60~2000の範囲内である、請求項1又は2に記載のセルロース繊維のオリゴマー分散液の製造方法。
【請求項4】
前記化合物(B)が、2個以上の活性水素基を有し、かつ100gの水への溶解度が100g以上であり、かつ沸点が115℃以上である化合物(B’)である、請求項1~3のいずれか1項に記載のセルロース繊維のオリゴマー分散液の製造方法。
【請求項5】
前記化合物(B’)が、2個以上の水酸基を有し、かつ100gの水への溶解度が100g以上であり、かつ沸点が115℃以上である化合物(B’’)である、請求項4に記載のセルロース繊維のオリゴマー分散液の製造方法。
【請求項6】
前記工程(3)において、前記セルロース繊維(A)中の水酸基と、前記化合物(B’’)中の水酸基と、前記化合物(C)中の反応性基とを反応させることを含む、請求項5に記載のセルロース繊維のオリゴマー分散液の製造方法。
【請求項7】
前記化合物(B’’)が、トリメチロールプロパン及び/又はグリセリンである、請求項5又は6に記載のセルロース繊維のオリゴマー分散液の製造方法。
【請求項8】
前記化合物(C)が、2個以上のカルボキシ基又は1個以上のカルボン酸無水物基を有する化合物(C’)である、請求項1~7のいずれか1項に記載のセルロース繊維のオリゴマー分散液の製造方法。
【請求項9】
前記工程(3)の後に、さらに、下記工程(4)、
工程(4):工程(3)で得られるセルロース繊維のオリゴマー分散液に、前記分散液中のオリゴマーとの反応性を有する反応性基を1個以上有する化合物(D)をさらに混合し、前記オリゴマーと前記化合物(D)とを反応させる工程、
を含む、請求項1~8のいずれか1項に記載のセルロース繊維のオリゴマー分散液の製造方法。
【請求項10】
前記化合物(D)が、エポキシ基を有する化合物(D’)である、請求項9に記載のセルロース繊維のオリゴマー分散液の製造方法。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載の製造方法によって得られたセルロース繊維のオリゴマー分散液を含有する、塗料組成物。
【請求項12】
さらにバインダー成分(E)を含有する、請求項11に記載の塗料組成物。
【請求項13】
前記バインダー成分(E)が、水酸基含有樹脂(E1)及び架橋剤(E2)を含有する、請求項12に記載の塗料組成物。
【請求項14】
被塗物に順次、少なくとも1層の着色ベースコート塗料及び少なくとも1層のクリヤコート塗料を塗装することにより、複層塗膜を形成する方法であって、クリヤコート塗料として請求項11~13のいずれか1項に記載の塗料組成物を塗装することを含む、複層塗膜形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロース繊維のオリゴマー分散液の製造方法、並びにセルロース繊維のオリゴマー分散液を含有する塗料組成物及び複層塗膜形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、塗膜や樹脂成型品などにおいて、熱線膨張係数の低減、曲げ強度等の機械的強度を上げるためにセルロース繊維を配合することが広く行われている。また、セルロース繊維が有する機械的強度を更に向上させる目的で、セルロース繊維を解繊して得られるセルロースナノファイバー(CNF)が開発されている。上記CNFと同様にセルロース繊維を解繊処理したものとして、セルロースナノクリスタル(CNC)が知られている。上記CNF及びCNCは、総称してナノセルロースと称される。
【0003】
しかしながら、セルロース繊維は表面に水酸基を多数有するため水素結合力が高く、通常の樹脂組成物や溶媒に配合しても均一に分散せず凝集してしまう。それゆえ分散性、貯蔵安定性、塗膜物性、透明性、及び仕上がり性が不十分であり、セルロース繊維が有する性能を十分に発現させることが困難であった。
【0004】
そこで、セルロース繊維を溶液中で安定化させるための技術が提案されている。例えば、特許文献1では、セルロース繊維を、アシル化反応等の変性反応を用いて低極性化させることが提案されている。
【0005】
しかしながら、このような変性反応を用いた場合には、洗浄などの工程が必要となることから、製造工程が煩雑となりがちであり、また製造コスト面でも課題があった。さらに、このような変性反応によってセルロース繊維の低極性化を行うと、セルロース繊維の水酸基が変性されるが、一方、セルロース繊維が持つ各種の性能、例えば、増粘性としての機能や、高強度の発現等は、セルロース繊維の水酸基に由来するものが多いため、セルロース繊維の低極性化とセルロース繊維が持つ機能の維持とが背反事項となるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9-221501号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、煩雑な洗浄工程等を伴う変性反応を用いず、かつ、セルロース繊維が有する水酸基を多く残したセルロースが均一かつ安定的にオリゴマー中に分散した、セルロース繊維のオリゴマー分散液の製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる状況の下、本発明者らは鋭意研究した結果、セルロース繊維(A)の水分散液に、オリゴマーを形成し得る2種以上の特定の化合物を脱水工程を介して混合し、次いでオリゴマーを形成させることにより、上記目的が達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明によれば、以下の態様を含む、セルロース繊維のオリゴマー分散液の製造方法並びにセルロース繊維のオリゴマー分散液を含有する塗料組成物及び複層塗膜形成方法が提供される。
【0010】
[態様1]
下記の工程(1)~(3):
工程(1):セルロース繊維(A)の水分散液と、2個以上の反応性基を有し、かつ20℃における100gの水への溶解度が100g以上であり、かつ沸点が115℃以上である化合物(B)とを混合し、混合液(i)を得る工程、
工程(2):前記工程(1)で得られる混合液(i)中の水を除去して、前記セルロース繊維(A)及び前記化合物(B)を含有する混合液(ii)を得る工程、並びに
工程(3):前記工程(2)で得られる混合液(ii)と、前記化合物(B)中の反応性基との反応性を有する反応性基を1個以上有する化合物(C)とを混合し、前記化合物(B)中の反応性基と前記化合物(C)中の反応性基とを反応させることによりオリゴマーを形成する工程、
を含む、セルロース繊維のオリゴマー分散液の製造方法。
[態様2]
前記化合物(B)の溶解性パラメータ値(SP値)が、12~23(cal/cm31/2の範囲内である、態様1に記載のセルロース繊維のオリゴマー分散液の製造方法。
[態様3]
前記化合物(B)の分子量が、60~2000の範囲内である、態様1又は2に記載のセルロース繊維のオリゴマー分散液の製造方法。
[態様4]
前記化合物(B)が、2個以上の活性水素基を有し、かつ100gの水への溶解度が100g以上であり、かつ沸点が115℃以上である化合物(B’)である、態様1~3のいずれか1項に記載のセルロース繊維のオリゴマー分散液の製造方法。
[態様5]
前記化合物(B’)が、2個以上の水酸基を有し、かつ100gの水への溶解度が100g以上であり、かつ沸点が115℃以上である化合物(B’’)である、態様4に記載のセルロース繊維のオリゴマー分散液の製造方法。
[態様6]
前記工程(3)において、前記セルロース繊維(A)中の水酸基と、前記化合物(B’’)中の水酸基と、前記化合物(C)中の反応性基とを反応させることを含む、態様5に記載のセルロース繊維のオリゴマー分散液の製造方法。
[態様7]
前記化合物(B’’)が、トリメチロールプロパン及び/又はグリセリンである、態様5又は6に記載のセルロース繊維のオリゴマー分散液の製造方法。
[態様8]
前記化合物(C)が、2個以上のカルボキシ基又は1個以上のカルボン酸無水物基を有する化合物(C’)である、態様1~7のいずれか1項に記載のセルロース繊維のオリゴマー分散液の製造方法。
[態様9]
前記工程(3)の後に、さらに、下記工程(4)、
工程(4):工程(3)で得られるセルロース繊維のオリゴマー分散液に、前記分散液中のオリゴマーとの反応性を有する反応性基を1個以上有する化合物(D)をさらに混合し、前記オリゴマーと前記化合物(D)とを反応させる工程、
を含む、態様1~8のいずれか1項に記載のセルロース繊維のオリゴマー分散液の製造方法。
[態様10]
前記化合物(D)が、エポキシ基を有する化合物(D’)である、態様9に記載のセルロース繊維のオリゴマー分散液の製造方法。
[態様11]
態様1~10のいずれか1項に記載の製造方法によって得られたセルロース繊維のオリゴマー分散液を含有する、塗料組成物。
[態様12]
さらにバインダー成分(E)を含有する、態様11に記載の塗料組成物。
[態様13]
前記バインダー成分(E)が、水酸基含有樹脂(E1)及び架橋剤(E2)を含有する、態様12に記載の塗料組成物。
[態様14]
被塗物に順次、少なくとも1層の着色ベースコート塗料及び少なくとも1層のクリヤコート塗料を塗装することにより、複層塗膜を形成する方法であって、クリヤコート塗料として態様11~13のいずれか1項に記載の塗料組成物を塗装することを含む、複層塗膜形成方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、煩雑な洗浄工程等を伴う変性反応を用いず、かつ、セルロース繊維が有する水酸基を多く残したセルロースが均一かつ安定的に分散した、セルロース繊維のオリゴマー分散液の製造方法が提供される。本発明により得られたセルロース繊維のオリゴマー分散液は、セルロース繊維が凝集を起こすことなく良好な分散性を示すとともに、セルロース繊維が有する水酸基由来の諸特性を損なうことなく維持することができる。このため、本発明により得られたセルロース繊維のオリゴマー分散液は、例えば各種樹脂や塗料の補強材や添加剤として好適に使用することができる。特に、本発明により得られたセルロース繊維のオリゴマー分散液を塗料の配合成分として用いた場合には、該塗料は擬塑性を示し、仕上がり性及び膜物性に優れた塗膜を形成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において実施される各種の変形例も含むものとして理解されるべきである。
【0013】
<工程(1)>
本発明の工程(1)においては、セルロース繊維(A)の水分散液と、2個以上の反応性基を有し、かつ20℃における100gの水への溶解度が100g以上であり、かつ沸点が115℃以上である化合物(B)とを混合し、混合液(i)を得る。
【0014】
セルロース繊維(A)の水分散液
セルロース繊維(A)の水分散液は、セルロース繊維が水中で分散状態にあるものである。本発明において、セルロース繊維は、天然セルロースであっても再生セルロースであってもよい。また、水酸基を有するものであれば半合成セルロース繊維や変性セルロース繊維であってもよい。
【0015】
天然セルロース繊維は、天然に存在するセルロース繊維含有物から精製工程を経て不純物を除去したものである。天然のセルロース繊維含有物としては、例えば、針葉樹及び広葉樹等の木質、コットンリンター及びコットンリント等のコットン、さとうきび及び砂糖大根等の絞りかす、亜麻、ラミー、ジュート及びケナフ等の靭皮繊維、サイザル及びパイナップル等の葉脈繊維、アバカ及びバナナ等の葉柄繊維、ココナツヤシ等の果実繊維、竹等の茎幹繊維、バクテリアが産生するバクテリアセルロース、バロニア及びシオグサ等の海草ないしホヤの被嚢等が挙げられる。
【0016】
再生セルロース繊維としては、例えば、レーヨン、キュプラ等が挙げられる。また、半合成セルロース繊維としては、例えば、アセテート等が挙げられる。
【0017】
変性セルロース繊維としては、セルロースに対して各種の化学変性を行うことで得られるものを使用することができる。化学変性の種類としては、例えば、カルボキシメチル化、アシル化、リン酸化等のエステル化、カルボキシル化等の酸化、スルホン化、フッ素化、カチオン化、シランカップリング剤による処理等が挙げられる。
【0018】
本発明において、セルロース繊維は、セルロースナノファイバー及びセルロースナノクリスタルから選択される少なくとも一種のナノセルロース材料を含むことができる。
【0019】
セルロースナノファイバーは公知の方法により得ることができる。例えば、セルロース原料を解繊処理し、繊維径がナノサイズになるまで微細化することによって、ナノセルロースファイバーとすることができる。セルロース原料の解繊処理方法としては、例えば、機械的解繊処理や、N-オキシル化合物を含む酸化触媒液による処理等の薬品処理等が挙げられる。
【0020】
セルロース原料としては、セルロースを含むものであれば特に限定されないが、例えば、各種木材パルプ、非木材パルプ、バクテリアセルロース、再生セルロース、古紙パルプ、コットン、バロニアセルロース、ホヤセルロース等が挙げられる。また、市販されている各種セルロース粉末や微結晶セルロース粉末を使用してもよい。
【0021】
セルロースナノファイバーの平均繊維径は、好ましくは1nm~200nmであり、より好ましくは1nm~100nmであり、さらに好ましくは1nm~50nmである。セルロースナノファイバーの平均繊維長は、好ましくは10~10000nmであり、より好ましくは20~2000nm、特に好ましくは30~600nmである。セルロースナノファイバーの平均アスペクト比は好ましくは3~10000であり、より好ましくは5~1000である。ここで、平均アスペクト比とは平均繊維長/平均繊維径である。なお、ナノセルロース材料の平均繊維径、平均繊維長は、例えば、原子間力顕微鏡等の顕微鏡によってナノセルロース材料を撮影し、その画像から測定することができる。また、ナノセルロース材料の平均繊維径、平均繊維長は、例えば、セルロース繊維10点の繊維径及び繊維長を測定し、その平均値を採用することができる。
【0022】
セルロースナノクリスタルは公知の方法により得ることができる。例えば、セルロース原料を硫酸等の酸によって処理することによって非結晶部分を加水分解して取り除き、次いで、機械的解繊処理することによりセルロースナノクリスタルを得ることができる。
【0023】
セルロース原料としては、セルロースを含むものであれば特に限定されず、セルロースナノファイバーの原料と同様のセルロース原料を用いることができる。また、機械解繊処理についても特に限定されず、従来公知の方法、例えば、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザー、ボールミル、ロールミル、カッターミル、遊星ミル、ジェットミル、アトライター、グラインダー、ジューサーミキサー、ホモミキサー、超音波ホモジナイザー、ナノジナイザー、水中対向衝突、1軸又は2軸押出機等の装置を用いた方法を用いることができる。
【0024】
セルロースナノクリスタルの平均アスペクト比は50未満が好ましい。セルロースナノクリスタルの平均繊維径は、好ましくは1nm~100nmであり、より好ましくは1nm~85nmであり、さらに好ましくは1nm~70nmである。また、平均繊維長は、好ましくは30~500nmであり、より好ましくは40~300nmである。セルロースナノクリスタルの平均アスペクト比は、好ましくは15~50であり、より好ましくは20~45である。
【0025】
化合物(B
本発明では、セルロース繊維水分散液と、2個以上の反応性基を有し、かつ20℃における100gの水への溶解度が100g以上であり、かつ沸点が115℃以上である化合物(B)とを混合して、混合液(i)を得る。
【0026】
化合物(B)が有する反応性基としては、後述する化合物(C)が有する反応性基と反応してオリゴマーを形成し得るものであれば特段制限されない。このような反応性基としては、例えば、水酸基、アミノ基、重合性不飽和基、脂環式でもよいエポキシ基、(メタ)アクリロイル基、メルカプト基、カルボキシ基、アルコキシ基、イソシアネート基、シラノール基などが挙げられる。なかでも、セルロース繊維(A)の分散性の観点から水酸基、アミノ基等の活性水素基及び重合性不飽和基が好ましく、活性水素基がより好ましく、水酸基が特に好ましい。なお本明細書において、重合性不飽和基とは、ラジカル重合しうる不飽和基を意味し、ビニル基、(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリルアミド基、ビニルエーテル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、マレイミド基等が例示される。また、化合物(B)が有する2個以上の反応性基は、同一であっても異なっていてもよい。なお、本明細書において、(メタ)アクリロイルとはアクリロイル又はメタクロイルを、(メタ)アクリルアミドとはアクリルアミド又はメタクリルアミドを、(メタ)アクリレートとはアクリレート又はメタクリレートを、(メタ)アクリル酸とはアクリル酸又はメタクリル酸を、それぞれ意味する。
【0027】
化合物(B)は、20℃における100gの水への溶解度が100g以上であり、かつ沸点が115℃以上のものである。かかる溶解度及び沸点を有する化合物(B)を用いることにより、後述する工程(2)の脱水工程、工程(3)のオリゴマー形成工程を経て、オリゴマー中にセルロース繊維が均一に分散した分散液を得ることができる。20℃における100gの水への化合物(B)の溶解度は、好ましくは200g以上であり、より好ましくは300g以上である(混和性の場合を含む。)。また、沸点は、好ましくは115~350℃であり、より好ましくは130~300℃であり、さらに好ましくは150~250℃である。
【0028】
かかる化合物(B)として用いられる化合物としては、2個以上の反応性基を有する種々の有機化合物を使用することができるが、例えば、1,2-エタンジアミン、1,6-ヘキサンジアミン等のアミノ基を有する化合物;1,2-エタンジオール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール等のジオール類、トリメチロールプロパン、グリセリン等のトリオール類及びそのポリオキシアルキレン付加物、ペンタエリスリトール等の水酸基を4つ以上有する多価アルコール類及びそのポリオキシアルキレン付加物等の、水酸基を有する化合物;ジエタノールアミン等のアミノ基及び水酸基を有する化合物;2-ヒドロキシエチルアクリレート等の水酸基及びアクリロイル基を有する化合物等が挙げられる。これらの化合物は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0029】
また、化合物(B)の溶解性パラメータ値(SP値)は、セルロース繊維(A)の分散性の観点から、12~23(cal/cm31/2の範囲内であることが好ましく、12~22(cal/cm31/2の範囲内であることがより好ましく、13~22(cal/cm31/2の範囲内であることが特に好ましい。
【0030】
ここで、溶解性パラメータ値とは、一般にSP値(ソルビリティ・パラメータ値)とも呼ばれるものであって、溶媒や樹脂の親水性又は疎水性の度合い(極性)を示す尺度である。また、溶媒と樹脂、樹脂間の溶解性や相溶性を判断する上で重要な尺度となるものであり、溶解性パラメータ値が近い(溶解性パラメータ値の差の絶対値が小さい)と、一般的に溶解性や相溶性が良好となる。
【0031】
本発明における溶解性パラメーター(SP値)は、Polymer Engineering and Science,14,No.2,p.147(1974)に記載された、下記のFedors式により算出される値である。
SP=√{Σ(ΔE1)/Σ(ΔV1)}
(式中、ΔE1は各単位官能基当たりの凝集エネルギ-(cal/mol)、ΔV1は各単位官能基当たりの分子容(cm3/mol)を示す。)
【0032】
また、化合物(B)の分子量は、セルロース繊維(A)の分散性及びオリゴマー分散液のハンドリングの観点から60~2000の範囲内であることが好ましく、90~1800の範囲内であることが特に好ましい。なかでも、上記セルロース繊維のオリゴマー分散液を含有する塗料組成物によって形成される塗膜の耐水性等の観点から、化合物(B)の分子量が90~1000の範囲内であることが好ましく、90~200の範囲内であることが特に好ましい。
【0033】
化合物(B)として好ましく使用される化合物は、2個以上の活性水素基を有し、かつ100gの水への溶解度が100g以上であり、かつ沸点が115℃以上である化合物(B’)であり、なかでも特に好ましく使用される化合物は、2個以上の水酸基を有し、かつ100gの水への溶解度が100g以上であり、かつ沸点が115℃以上である化合物(B’’)である。なお、本明細書において、100gの水への溶解度は、20℃の温度で測定した数値である。
【0034】
このような化合物(B’’)としては、例えば、トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパンのポリオキシアルキレン付加物、グリセリンのポリオキシアルキレン付加物及びペンタエリスリトールのポリオキシアルキレン付加物等が挙げられ、これらは単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。なかでも、上記セルロース繊維のオリゴマー分散液を含有する塗料組成物によって形成される塗膜の耐水性等の観点から、トリメチロールプロパン及び/又はグリセリンを使用することが好ましい。
【0035】
混合液(i)
かかる化合物(B)をセルロース繊維(A)の水分散液と混合して、混合液(i)を得る。セルロース繊維(A)の水分散液と化合物(B)とを混合する手段としては、特に制限なく、例えば、攪拌混合、超音波処理等の従来公知の混合手段を用いることができる。また、混合時の温度は、一般的に5~95℃の範囲内であることが好ましい。
【0036】
<工程(2)>
本発明の工程(2)では、工程(1)で得られた混合液(i)中の水を除去して、セルロース繊維(A)及び化合物(B)を含有する混合液(ii)を得る。
【0037】
混合液(i)中の水を除去する手段としては、従来公知の脱水手段から適宜選択して用いることができる。このような脱水手段としては、例えば、加熱及び減圧による脱水等が挙げられる。
【0038】
<工程(3)>
本発明の工程(3)では、工程(2)で得られる混合液(ii)と、化合物(B)中の反応性基との反応性を有する反応性基を1個以上有する化合物(C)とを混合し、化合物(B)中の反応性基と、該化合物(C)中の反応性基とを反応させることにより、オリゴマーを形成する。
【0039】
化合物(C)
混合液(ii)と混合される化合物(C)は、化合物(B)中の反応性基との反応性を有する反応性基を1個以上有するものである。化合物(C)が有する反応性基は、化合物(B)中の反応性基と反応してオリゴマーを形成し得るものであれば特段の制限なく使用することができる。このような反応性基としては、例えば、カルボキシ基、カルボン酸無水物基、重合性不飽和基、エポキシ基、イソシアネート基が挙げられるが、中でも水酸基、アミノ基等の活性水素基と反応性を有する反応性基、例えば、カルボキシ基、カルボン酸無水物基が好ましく、カルボン酸無水物基が特に好ましい。また、化合物(C)は、化合物(B)中の反応性基との反応性を有する反応性基を2個以上有する化合物、又は化合物(B)中の反応性基との反応性を有する反応性基を有し、かつ該化合物(B)中の反応性基との反応によって、該化合物(B)中の反応性基との反応性を有する反応性基が生成する化合物であることが好ましい。化合物(C)が2個以上の反応性基を有する場合、これらの反応性基は同一であっても異なっていてもよい。
【0040】
このような化合物(C)としては、化合物(B)中の反応性基との反応性を有する反応性基を1個以上有する有機化合物であれば特段の制限なく使用できるが、例えば、コハク酸、イソフタル酸、テレフタル酸、アジピン酸、ドデカン二酸等のカルボキシ基を有する化合物;フタル酸無水物、ヘキサヒドロフタル酸無水物、コハク酸無水物、テトラヒドロフタル酸無水物、トリメリット酸無水物、ピロメリット酸無水物等のカルボン酸無水物基を有する化合物等が挙げられる。
【0041】
これらの中でも、2個以上のカルボキシ基を有する化合物又は1個以上のカルボン酸無水物基を有する化合物が好適に使用され、1個以上のカルボン酸無水物基を有する化合物が特に好適に使用される。
【0042】
化合物(C)の分子量は、反応生成物のハンドリングの観点から50~500の範囲内であることが好ましく、60~300の範囲内であることが特に好ましい。
【0043】
オリゴマーの形成
混合液(ii)と化合物(C)とを混合し、化合物(B)中の反応性基と化合物(C)中の反応性基とを反応させることにより、化合物(B)と化合物(C)をモノマー単位として含むオリゴマーが形成される。また、化合物(C)の反応性基がセルロース中の水酸基との反応性を有する場合には、オリゴマーの形成に際して、化合物(B)中の反応性基と化合物(C)中の反応性基とを反応させるとともに、セルロース繊維(A)中の水酸基と化合物(C)中の反応性基とを反応させてもよい。
形成されるオリゴマーとしては、セルロース繊維(A)の分散性の観点から、好ましくは化合物(B)中の水酸基と化合物(C)中のカルボン酸無水物基が反応して形成されるエステル結合を有するオリゴマーが挙げられる。
【0044】
<工程(4)>
本発明の製造方法においては、工程(3)の後に、工程(3)で得られるセルロース繊維のオリゴマー分散液中のオリゴマーとの反応性を有する反応性基を有する化合物(D)をさらに混合し、前記オリゴマーと前記化合物(D)とを反応させる工程(工程(4))を、さらに設けてもよい。これにより、化合物(B)、化合物(C)及び化合物(D)をモノマー単位として含むオリゴマーを形成することができる。
【0045】
化合物D
工程(4)で用いることができる化合物(D)は、工程(3)で得られるセルロース繊維のオリゴマー分散液中のオリゴマーとの反応性を有する反応性基を有するものである。このような化合物(D)としては、工程(3)で得られるセルロース繊維のオリゴマー分散液中のオリゴマーと反応してオリゴマーを形成できる種々の有機化合物を使用できるが、例えば、エポキシ基を有する化合物(D’)、水酸基を有する化合物、1級アミノ基を有する化合物、2級アミノ基を有する化合物等が挙げられる。これらの中でも、セルロース繊維(A)の分散性の観点から、エポキシ基を有する化合物(D’)であることが好ましい。
【0046】
エポキシ基を有する化合物(D’)としては、例えば、ブチルグリシジルエーテル、オクチルグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールブチルグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ブタンジオールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、グリセリンジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ジグリセリンテトラグリシジルエーテル、ラウリン酸グリシジル、ネオデカン酸グリシジルエステル等の脂肪族エポキシ化合物;ジシクロペンタジエンジオキサイド、エポキシシクロヘキセンカルボン酸エチレングリコールジエステル、3,4-エポキシシクロヘキシルメチルカルボキシレート、3,4-エポキシシクロヘキセニルメチル-3’,4’-エポキシシクロヘキセンカルボキシレート、ヘキサヒドロフタル酸グリシジルエステル等の脂環族エポキシ化合物;ポリフェノール化合物とエピクロルヒドリンとの反応によって得られるエポキシ化合物及びその水添化合物、フタル酸ジグリシジルエステル、トリグリシジルイソシアヌレート、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン等の芳香族又は複素環式エポキシ化合物等が挙げられる。これらの中でも、生成されるオリゴマー分散液の粘度低減、塗料組成物に配合する際の他の塗料成分との相溶性向上等の観点から、脂肪族エポキシ化合物が好ましく、ネオデカン酸グリシジルエステルが特に好ましい。
【0047】
化合物(D)の分子量は、反応生成物のハンドリングの観点から100~500の範囲内であることが好ましく、200~400の範囲内であることが特に好ましい。
【0048】
<セルロース繊維のオリゴマー分散液>
以上の工程(1)~(3)、又は工程(1)~(4)を含む製造方法により、セルロース繊維のオリゴマー分散液が得られる。得られたセルロース繊維のオリゴマー分散液においては、セルロース繊維が凝集を起こすことなく良好な分散性を示すとともに、セルロース繊維が有する水酸基由来の諸特性を損なうことなく維持することができる。このため、本発明により得られたセルロース繊維のオリゴマー分散液は、各種樹脂や塗料の補強材や添加剤として好適に使用することができる。特に、本発明により得られたセルロース繊維のオリゴマー分散液を、塗料のレオロジーコントロール剤として用いた場合には、該塗料は擬塑性を示し、仕上がり性及び膜物性に優れた塗膜を形成することができる。また、本発明により得られたセルロース繊維のオリゴマー分散液は、有機溶剤を含有しない分散液として得ることができるため、無溶剤型塗料の原料として好適に使用できるという利点を有する。
【0049】
<塗料組成物>
塗料組成物の配合成分として、本発明の製造方法により得られたセルロース繊維のオリゴマー分散液を用いることができる。この場合、本発明の製造方法により得られたセルロース繊維のオリゴマー分散液においては、セルロース繊維が有する水酸基を多く残したセルロースが均一かつ安定的に分散していることから、該塗料は擬塑性を示すことができ、仕上がり性及び膜物性に優れた塗膜を形成することができる。
【0050】
塗料組成物のバインダー成分(E)としては、通常塗料に用いられる塗膜形成性樹脂を含有する樹脂組成物を用いることができる。このような樹脂組成物としては熱硬化性樹脂組成物を好適に用いることができ、具体的には、例えば、水酸基等の架橋性官能基を有する、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ウレタン樹脂等の基体樹脂と、メラミン樹脂、尿素樹脂、ポリイソシアネート化合物(ブロック体も含む)等の架橋剤とを併用したものを用いることができる。これらの樹脂組成物は有機溶剤及び/又は水等の溶媒に溶解又は分散させて使用することができる。樹脂組成物中における基体樹脂と架橋剤の割合には特に制限はないが、一般に、架橋剤は、基体樹脂固形分総量に対して、10~100質量%、好ましくは20~80質量%、より好ましくは30~60質量%の範囲内で使用することができる
【0051】
特に好ましいバインダー成分(E)としては、水酸基含有樹脂(E1)及び架橋剤(E2)を含有するものが挙げられる。
【0052】
水酸基含有樹脂(E1)としては、例えば、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アクリルエポキシ樹脂、シリコン変性ポリエステル樹脂、シリコン変性アクリル樹脂、アクリルウレタン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリグリセリン樹脂などが挙げられる。これらの樹脂の中でも特に、耐候性及び耐水性等の面から水酸基含有アクリル樹脂が好ましい。また、平滑性等の面から水酸基含有ポリエステル樹脂も好適に使用できる。
【0053】
水酸基含有アクリル樹脂は、水酸基を有するアクリル樹脂であり、水酸基を有する重合性不飽和モノマーとその他の重合性不飽和モノマーを構成モノマー成分として共重合することにより合成することができる。
【0054】
上記水酸基を有する重合性不飽和モノマーとしては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸と炭素数2~8の2価アルコールとのモノエステル化物、該(メタ)アクリル酸と炭素数2~8の2価アルコールとのモノエステル化物のε-カプロラクトン変性体、N-ヒドロキシメチル(メタ)アクリルアミド、アリルアルコール、分子末端が水酸基であるポリオキシアルキレン鎖を有する(メタ)アクリレート等が挙げられ、これらは1種を単独で又は2種以上を併用して用いることができる。
【0055】
上記その他の重合性不飽和モノマーとしては、例えば、スチレン、ビニルトルエン、α-メチルスチレン等の芳香族ビニルモノマー;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸等が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0056】
なお、水酸基含有アクリル樹脂の水酸基価は、通常0.1~300mgKOH/gの範囲内、好ましくは10~200mgKOH/gの範囲内が適当であり、重量平均分子量は、通常1,000~100,000の範囲内、好ましくは、2,000~30,000の範囲内が適当である。
【0057】
なお、本明細書において、数平均分子量及び重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)を用いて測定した保持時間(保持容量)を、同一条件で測定した分子量既知の標準ポリスチレンの保持時間(保持容量)によりポリスチレンの分子量に換算して求めた値である。具体的には、ゲルパーミュエーションクロマトグラフとして、「HLC8120GPC」(商品名、東ソー社製)を使用し、カラムとして、「TSKgel G-4000HXL」、「TSKgel G-3000HXL」、「TSKgel G-2500HXL」及び「TSKgel G-2000HXL」(商品名、いずれも東ソー社製)の4本を使用し、移動相テトラヒドロフラン、測定温度40℃、流速1mL/min及び検出器RIの条件下で測定することができる。
【0058】
水酸基含有ポリエステル樹脂は、酸成分とアルコール成分のエステル化反応及び/又はエステル交換反応によって製造することができる。
【0059】
上記酸成分としては、ポリエステル樹脂の製造に際して、酸成分として通常使用される化合物を特に制限なく使用することができる。上記酸成分としては、例えば、脂環族多塩基酸、脂肪族多塩基酸、芳香族多塩基酸、芳香族モノカルボン酸、脂肪族モノカルボン酸、脂環族モノカルボン酸、これらの酸の低級アルキルエステル化物等を使用することができる。
【0060】
脂環族多塩基酸は、一般に、1分子中に1個以上の脂環式構造(主として4~6員環)と2個以上のカルボキシ基を有する化合物、該化合物の酸無水物及び該化合物のエステル化物である。
【0061】
脂肪族多塩基酸は、一般に、1分子中に2個以上のカルボキシ基を有する脂肪族化合物、該化合物の酸無水物及び該化合物のエステル化物である。
【0062】
芳香族多塩基酸は、一般に、1分子中に2個以上のカルボキシ基を有する芳香族化合物、該芳香族化合物の酸無水物及び該芳香族化合物のエステル化物である。また、必要に応じて、芳香族モノカルボン酸、脂肪族モノカルボン酸、脂環族モノカルボン酸などを使用することもできる。
【0063】
上記アルコール成分としては、ポリエステル樹脂の製造に際して、アルコール成分として通常使用される化合物を特に制限なく使用することができるが、脂環族ジオール、脂肪族ジオール、芳香族ジオールなどの2価アルコール及び3価以上の多価アルコールを含むものが好ましい。
【0064】
上記水酸基含有ポリエステル樹脂の製造方法としては、上記酸成分とアルコール成分を、公知の方法で反応することにより製造することができる。
【0065】
また、上記水酸基含有ポリエステル樹脂は、該樹脂の調製中、もしくはエステル化反応後及び/又はエステル交換反応後に、脂肪酸、油脂、ポリイソシアネート化合物、エポキシ化合物等で変性することもできる。
【0066】
水酸基含有ポリエステル樹脂の数平均分子量としては、仕上り性の観点から、通常1,000~20,000であり、好ましくは1,050~10,000、さらに好ましくは1,100~5,000の範囲内である。
また、水酸基含有ポリエステル樹脂の水酸基価としては、得られる塗膜の硬化性の観点から、通常20~300mgKOH/gであり、好ましくは30~250mgKOH/g、さらに好ましくは40~180mgKOH/gの範囲内である。
【0067】
また、前記架橋剤(E2)は、加熱により水酸基含有樹脂(E1)の水酸基と反応して、硬化させることができるものであれば特に制限なく使用することができ、例えば、ポリイソシアネート化合物、ブロック化ポリイソシアネート化合物、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、尿素樹脂等のアミノ樹脂を挙げることができる。
【0068】
前記水酸基含有樹脂(E1)と架橋剤(E2)との混合割合としては、両者の固形分合計100質量部に基づき、固形分量で、水酸基含有樹脂(E1)が60~95質量部の範囲内、特には70~90質量部の範囲内であり、架橋剤(E2)が5~40質量部の範囲内、特には10~30質量部の範囲内であることが、塗膜硬度、加工性の点から好適である。
【0069】
また、塗料組成物には、必要に応じて、着色顔料、体質顔料、増粘剤、硬化触媒、紫外線吸収剤、光安定剤、消泡剤、可塑剤、有機溶剤、表面調整剤、沈降防止剤等の通常の塗料用添加剤を、それぞれ単独で又は2種以上組み合わせて含有することができる。
【0070】
本発明の塗料組成物は、以上に述べた各種成分を、通常の塗料化手段により、溶媒中に混合することにより調製することができる。上記溶媒としては、例えば、有機溶剤、水等を使用することができる。上記溶媒としては、有機溶剤を使用することが好ましい。
【0071】
有機溶剤としては、例えば、ヘプタン、トルエン、キシレン、オクタン、ミネラルスピリット等の炭化水素系溶剤;酢酸エチル、酢酸n-ブチル、酢酸イソブチル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート等のエステル系溶剤;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤;メタノール、エタノール、イソプロパノール、n-ブタノール、sec-ブタノール、イソブタノール等のアルコール系溶剤;n-ブチルエーテル、ジオキサン、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル等のエーテル系溶剤;コスモ石油社製のスワゾール310、スワゾール1000、スワゾール1500等の芳香族石油系溶剤等を挙げることができる。
【0072】
なお、本発明の塗料組成物は、不揮発分が塗料組成物の総質量の90~100質量%、好ましくは95~100質量%、より好ましくは98~100質量%を占める、いわゆる無溶媒型の塗料であってもよい。本明細書において不揮発分とは、揮発成分を除いた残存物を意味するものであり、残存物としては常温で固形状であっても液状であっても差し支えない。例えば試料を105℃、3時間処理して揮発成分を除去した時の残存成分をいう。
【0073】
本発明の塗料組成物を被塗物に塗装することによりウェット塗膜(未硬化の塗膜)を形成した後、該ウェット塗膜を硬化させることにより硬化塗膜を得ることができる。
【0074】
被塗物としては、特に限定されるものではなく、例えば、乗用車、トラック、オートバイ、バスなどの自動車車体の外板部;自動車部品;携帯電話、オーディオ機器などの家庭電気製品の外板部などを挙げることができる。これらのうち、自動車車体の外板部及び自動車部品が好ましい。
【0075】
これらの被塗物の材質としては、特に限定されるものではなく、例えば、鉄、アルミニウム、真鍮、銅、ブリキ、ステンレス鋼、亜鉛メッキ鋼、合金化亜鉛(Zn-Al、Zn-Ni、Zn-Fe等)メッキ鋼などの金属材料;ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)樹脂、ポリアミド樹脂、アクリル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂などの樹脂類や各種のFRPなどのプラスチック材料;ガラス、セメント、コンクリートなどの無機材料;木材;紙、布等の繊維材料等を挙げることができる。これらのうち、金属材料及びプラスチック材料が好ましい。
【0076】
上記被塗物は、上記金属材料やそれから成形された車体等の金属表面に、リン酸塩処理、クロメート処理、複合酸化物処理などの表面処理が施されたものであってもよい。さらに、該被塗物は、該金属表面に、各種電着塗料等の下塗り塗膜及び/又は中塗り塗膜が形成されたものであってもよい。
【0077】
本発明の塗料組成物の塗装方法としては、特に限定されず、例えば、エアスプレー塗装、エアレススプレー塗装、回転霧化塗装、カーテンコート塗装などが挙げられ、これらの塗装方法でウェット塗膜を形成することができる。これらのうち、エアスプレー塗装、回転霧化塗装等の方法が好ましい。塗装に際して、必要に応じて、静電印加してもよい。
【0078】
ウェット塗膜の硬化は、被塗物に本発明の塗料組成物を塗装後、加熱することにより行うことができる。加熱は、公知の加熱手段により行うことができる。例えば、熱風炉、電気炉、赤外線誘導加熱炉等の乾燥炉を使用することができる。加熱温度は、60~180℃程度が好ましく、90~170℃程度がより好ましく、110~160℃程度が更に好ましい。加熱時間は、特に制限されるものではないが、通常、10~60分間程度が好ましく、20~40分間程度がより好ましい。
【0079】
本発明の塗料組成物の塗布量は、塗装目的に応じて適宜設定できるが、一般的には、硬化膜厚として、0.5~50μm程度、好ましくは2~40μm程度、さらに好ましくは5~30μm程度、さらに特に好ましくは8~18μm程度となる量を採用することができる。
【0080】
<複層塗膜形成方法>
本発明の製造方法により得られたセルロース繊維のオリゴマー分散液を含有する塗料組成物は、複層塗膜を形成するための塗料組成物として用いてもよい。例えば、被塗物に順次、少なくとも1層の着色ベースコート塗料及び少なくとも1層のクリヤコート塗料を塗装することにより、複層塗膜を形成する方法において、本発明の塗料組成物をクリヤコート塗料として塗装することにより、複層塗膜を形成することができる。
【0081】
上記複層塗膜形成方法に用いられる着色ベースコート塗料としては、例えば被塗物が自動車車体である場合には、自動車車体の塗装において通常使用されるそれ自体既知のものを使用することができる。
【0082】
具体的には、着色ベースコート塗料組成物は、カルボキシ基、水酸基などの架橋性官能基を有する、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂などの基体樹脂と、メラミン樹脂、尿素樹脂などのアミノ樹脂、ブロックされていてもよいポリイソシアネート化合物などの架橋剤とを、着色顔料、体質顔料、光輝性顔料等の顔料、増粘剤及び任意選択のその他の成分と共に有機溶剤又は水に溶解又は分散させて塗料化したものを使用することができる。なかでも、基体樹脂として水酸基含有ポリエステル樹脂及び水酸基含有アクリル樹脂からなる群から選択される少なくとも1つを使用し、硬化剤としてメラミン樹脂を使用する熱硬化型塗料を好適に用いることができる。
【0083】
本発明の塗料組成物をクリヤコート塗料として用いる場合、当該クリヤコート塗料のバインダー成分としては、例えば、自動車車体の塗装において通常使用されるそれ自体既知のものを使用することができる。具体的には、例えば、水酸基、カルボキシ基、エポキシ基、シラノール基等の架橋性官能基を有する、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、フッ素樹脂等の基体樹脂と、メラミン樹脂、尿素樹脂、ブロックされていてもよいポリイソシアネート化合物、カルボキシ基含有化合物もしくは樹脂、エポキシ基含有化合物もしくは樹脂等の架橋剤を、バインダー成分として含有することができる。中でも、カルボキシ基含有樹脂とエポキシ基含有樹脂を含む有機溶剤系熱硬化型塗料、又は水酸基含有アクリル樹脂とブロックされていてもよいポリイソシアネート化合物を含む熱硬化型塗料が好適である。水酸基含有アクリル樹脂としては、上記水酸基含有樹脂(E1)に関連して説明した各種の水酸基含有アクリル樹脂を好適に使用することができる。
【0084】
また、上記クリヤコート塗料には、必要に応じて、透明性を阻害しない程度に着色顔料、光輝性顔料、染料、つや消し剤等を含有させることができ、さらに体質顔料、紫外線吸収剤、光安定剤、消泡剤、増粘剤、防錆剤、表面調整剤等を適宜含有せしめることができる。
【0085】
クリヤコート塗料は、それ自体既知の方法、例えば、エアレススプレー、エアスプレー、回転霧化塗装機等により塗装することができ、塗装の際、静電印加を行ってもよい。
【0086】
クリヤコート塗料は、硬化膜厚で、通常10~80μm、好ましくは15~60μm、より好ましくは20~50μmの範囲内になるように塗装することができる。また、塗膜欠陥の発生を防止する等の観点から、クリヤコート塗料の塗装後は、必要に応じて、室温で1~60分間程度のインターバルをおいたり、約40~約80℃の温度で1~60分間程度プレヒートしたりすることができる。
【0087】
被塗物に着色ベースコート塗料及びクリヤコート塗料を塗装することにより形成された着色ベースコート塗膜及びクリヤコート塗膜を含む複層塗膜を加熱することによって、硬化した複層塗膜を形成することができる。加熱手段は、例えば、熱風加熱、赤外線加熱、高周波加熱等により行うことができる。加熱温度は、80~160℃が好ましく、100~140℃がより好ましい。また加熱時間は、10~60分間が好ましく、15~40分間がより好ましい。必要に応じて、前記加熱硬化を行う前に、プレヒート、エアブロー等により、約50~約110℃、好ましくは約60~約90℃の温度で1~60分間程度、直接的又は間接的に加熱を行ってもよい。
【0088】
また、着色ベースコート塗膜及びクリヤコート塗膜の加熱硬化は、着色ベースコート塗膜の加熱硬化後にクリヤコート塗料を塗布して未硬化のクリヤコート塗膜を形成し、その後に未硬化の着色ベースコート塗膜及びクリヤコート塗膜を加熱硬化してもよいし、未硬化の着色ベースコート塗膜及び未硬化のクリヤコート塗膜を形成後に、加熱硬化によって、これら2つの塗膜を含む複層塗膜を一度に硬化させてもよい。
【実施例0089】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明は、これらにより限定されない。各例において、「部」及び「%」は、特記しない限り、質量基準による。また、塗膜の膜厚は硬化塗膜に基づく。
【0090】
製造例1
マグネチックスターラーを入れた反応容器に、脱イオン水96部を仕込み、脱イオン水をマグネチックスターラーで攪拌しながら、「Celluforce NCC」(商品名、Celluforce社製、セルロースナノクリスタル粉末)4部を徐々に添加した後、2時間攪拌を継続することで、固形分濃度4%のセルロースナノクリスタル水分散液(A-1)を得た。
【0091】
実施例1
温度計、サーモスタット、攪拌装置、還流冷却器及び水分離器を備えた反応容器に、製造例1で得たセルロースナノクリスタル水分散液(A-1)122部(固形分4.88部)及びトリメチロールプロパン(20℃における100gの水への溶解度:390g、沸点:160℃、SP値:15.9、分子量:134)134部(1.0mol)を仕込み、攪拌しながら110℃に昇温後、110℃で60分間攪拌して混合液(i-1)を得た(工程(1))。
次いで、得られた混合液(i-1)を110℃に昇温後、110℃に維持しながらエバポレーターで減圧して、セルロースナノクリスタル水分散液(A-1)から持ち込まれた水を除去し、「Celluforce NCC」及びトリメチロールプロパンを含有する混合液(ii-1)を得た(工程(2))。
次いで、得られた混合液(ii-1)を110℃に維持しながら、該混合液(ii-1)中にヘキサヒドロフタル酸無水物(分子量:154)77部(0.5mol)及びコハク酸無水物(分子量:100)50部(0.5mol)の混合物127部を加えて110℃で全酸価が、酸無水物基の反応率が95%以上となる全酸価となるまで反応させて、セルロース繊維のオリゴマー分散液を得た(工程(3))。
【0092】
ここで、上記酸無水物基の反応率が95%以上となる時の全酸価は以下のように算出される。まず、上記全酸価はカルボキシ基を酸基1molとし、酸無水物基を酸基2molとして算出される値であり、後記の酸価はカルボキシ基を酸基1molとし、酸無水物基を酸基1molとして算出される値である。したがって、上記トリメチロールプロパン134部(1.0mol)、ヘキサヒドロフタル酸無水物77部(0.5mol)及びコハク酸無水物50部(0.5mol)の混合物の反応前の全酸価は(0.5+0.5)×2×1000×56.1/(134+77+50)≒430mgKOH/gである。そして、上記混合物において、酸無水物基の反応率が95%となった時の全酸価は、反応によって生成したカルボキシ基を酸基1molとして計算するため、(0.5+0.5)×(1×0.95+2×0.05)×1000×56.1/(134+77+50)≒226mgKOH/gとなる。したがって、本実施例1においては、上記酸無水物基の反応率が95%以上となる時の全酸価は226mgKOH/g以下である。このため、上記反応は、全酸価が226mgKOH/g以下となるまで行った。
【0093】
次いで、得られたセルロース繊維のオリゴマー分散液に「Cardura E10P」(HEXION社製、ネオデカン酸モノグリシジルエステル、分子量228)228部(1mol)を加えて酸価が、カルボキシ基の反応率が90%以上となる酸価となるまで反応させて、セルロース繊維のオリゴマー分散液No.1を得た。ここで、上記カルボキシ基の反応率が90%以上となる時の酸価は以下のように算出される。上記トリメチロールプロパン134部(1.0mol)、ヘキサヒドロフタル酸無水物77部(0.5mol)、コハク酸無水物50部(0.5mol)及び「Cardura E10P」228部(1.0mol)の混合物の反応前の酸価は、反応終了までに上記ヘキサヒドロフタル酸無水物及びコハク酸無水物中の全ての酸無水物基が開環しカルボキシ基が生成すると考えられるので(0.5+0.5)×1×1000×56.1/(134+77+50+228)≒115mgKOH/gである。そして、上記混合物において、カルボキシ基の反応率が90%となった時の酸価は、(0.5+0.5)×(100-90)/100×1000×56.1/(134+77+50+228)≒11.5mgKOH/gとなる。したがって、本実施例1においては、上記カルボキシ基の反応率が90%以上となる時の酸価は11.5mgKOH/g以下である。このため、上記反応は、酸価が11.5mgKOH/g以下となるまで行った。
【0094】
実施例2~15
実施例1において、配合組成を後記の表1~表3に示すものとする以外は、実施例1と同様にしてセルロース繊維のオリゴマー分散液No.2~No.15を得た。
【0095】
【表1】
【0096】
【表2】
【0097】
【表3】
【0098】
(注1)「レオクリスタ I-2SX」:第一工業製薬社製、セルロースナノファイバーの水分散液、固形分2%。
【0099】
比較例1
温度計、サーモスタット、攪拌装置、還流冷却器及び水分離器を備えた反応容器に、製造例1で得たセルロースナノクリスタル水分散液(A-1)139部(固形分5.56部)及び1,12-ドデカンジオール(20℃における100gの水への溶解度:1g、沸点:189℃、分子量:202)202部(1.0mol)を仕込み、攪拌しながら110℃に昇温後、110℃で60分間攪拌して混合液(i-16)を得た。得られた混合液(i-16)を肉眼で観察したところ、凝集物が見られた(工程(1))。このため、工程(2)以降は実施しなかった。
【0100】
上で得られた実施例1~15のセルロース繊維のオリゴマー分散液、及び比較例1のセルロース繊維の分散液(混合液(i-16))について、下記の試験方法により評価を行った。評価結果を表1~3に示す。
(試験方法)
分散性:各セルロース繊維のオリゴマー分散液を肉眼で観察し、凝集物の有無を下記基準で評価した。A及びBが合格レベルである。
A:凝集物が見られない
B:凝集物がわずかに見られる
C:凝集物が多量に見られる
【0101】
製造例2 - 水酸基含有樹脂(E1)の製造
温度計、サーモスタット、撹拌装置、還流冷却器、窒素導入管及び滴下装置を備えた反応容器に、「スワゾール1000」(商品名、コスモ石油社製、芳香族系有機溶剤)27部及びプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート5部を仕込み、窒素ガスを吹き込みながら150℃で攪拌し、この中にスチレン20部、2-ヒドロキシプロピルアクリレート32.5部、イソブチルメタクリレート46.5部、アクリル酸1.0部及びジターシャリアミルパーオキサイド(重合開始剤)1.5部からなるモノマー混合物を4時間かけて均一速度で滴下した。その後、150℃で1時間熟成させた後冷却し、さらに酢酸ブチルを34部加えて希釈し、固形分濃度60質量%の水酸基含有アクリル樹脂(E1-1)溶液を得た。得られた水酸基含有アクリル樹脂(E1-1)の水酸基価は140mgKOH/g、酸価は8.0mgKOH/g、重量平均分子量は10000、ガラス転移温度39℃であった。
【0102】
実施例16 - 塗料組成物の製造
製造例1で得た水酸基含有アクリル樹脂(E1-1)溶液88.5部(固形分53.1部)、実施例1で得られたセルロース繊維のオリゴマー分散液No.1を10.1部(固形分が10.1部であり、このうちセルロース繊維(A)成分が0.1部、オリゴマー成分が10部である)及び「BYK-300」(商品名、ビックケミー社製、表面調整剤、有効成分52%)0.4部(固形分0.2部)を均一に混合した主剤と、硬化剤(架橋剤(E2))である「スミジュールN3300」(商品名、住化コベストロウレタン社製、ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート体、固形分含有率100%)36.9部とを塗装直前に均一に混合し、さらに、酢酸ブチルを加えて、20℃におけるフォードカップNo.4による粘度が30秒となるように調整して塗料組成物(P-1)を得た。
【0103】
比較例2
配合組成を後記の表2に示すものとする以外は、実施例1と同様にして、塗料組成物(P-2)の製造を行ったが、塗料組成物中に凝集物が多量に発生していたため、下記試験板の作製は行わなかった。
【0104】
実施例16の試験板の作製
10cm×15cmのサイズであり、かつリン酸亜鉛化成処理を施した冷延鋼板に、「エレクロンGT-10」(商品名、関西ペイント社製、カチオン電着塗料)を乾燥膜厚20μmとなるように電着塗装し、170℃で30分間加熱して硬化させた。その後、電着塗膜上に、「WP-306T」(商品名、関西ペイント社製、ポリエステルメラミン樹脂系水性中塗り塗料)を、回転霧化型の静電塗装機を用いて、硬化膜厚30μmとなるように静電塗装し、5分間放置後、80℃で3分間プレヒートを行なった。その後、140℃で30分間加熱して試験用被塗物を得た。次いで、該試験用被塗物に、「WBC-713T No.202」(商品名、関西ペイント社製、アクリルメラミン樹脂系水性ベースコート塗料、黒塗色)を、回転霧化型の静電塗装機を用いて、硬化膜厚15μmとなるように静電塗装し、5分間放置後、80℃で3分間プレヒートを行なった。次いで、該未硬化のベースコート塗膜上に、塗料組成物(P-1)を、回転霧化型の静電塗装機を用いて、乾燥膜厚で40μmとなるように静電塗装してクリヤコート塗膜を形成させて、7分間放置した。次いで、140℃で30分間加熱して、ベースコート塗膜及びクリヤコート塗膜を加熱硬化させることにより実施例16の試験板を作製した。
【0105】
上記で得られた試験板について、下記の試験方法により評価を行なった。評価結果を塗料組成と併せて表4に示す。
(試験方法)
透明性:試験板を肉眼で観察し、透明性を下記基準で評価した。
合格:凝集物の発生がなく、透明である。
不合格:多量の凝集物が発生している。
【0106】
【表4】
【0107】
以上、本発明の実施形態及び実施例について具体的に説明したが、本発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。