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特開2022-134635光透過性を向上させたポーラスガラス上での光制御型核酸フロー合成
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  • 特開-光透過性を向上させたポーラスガラス上での光制御型核酸フロー合成 図1
  • 特開-光透過性を向上させたポーラスガラス上での光制御型核酸フロー合成 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022134635
(43)【公開日】2022-09-15
(54)【発明の名称】光透過性を向上させたポーラスガラス上での光制御型核酸フロー合成
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20220908BHJP
   C12N 15/10 20060101ALI20220908BHJP
   C07H 1/00 20060101ALI20220908BHJP
【FI】
C12N15/09 200
C12N15/10 Z
C07H1/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021033892
(22)【出願日】2021-03-03
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業、チーム型研究(CREST)、「ゲノムスケールのDNA設計・合成による細胞制御技術の創出」、「ゲノム完全化学合成を指向した革新的フロー合成法の開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【弁理士】
【氏名又は名称】武居 良太郎
(72)【発明者】
【氏名】大窪 章寛
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 優
【テーマコード(参考)】
4C057
【Fターム(参考)】
4C057AA17
4C057BB02
4C057BB05
(57)【要約】
【課題】本発明は、オンチップ合成型のマイクロアレイにおいて、ポーラスガラスの光透過性を向上させ、多種類のオリゴヌクレオチドを同時合成する核酸の合成方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明によれば、固相担体上で光制御により多種核酸をフロー合成する方法であって、固相担体の屈折率に合わせた溶媒(好ましくは、混合溶媒)中で保護基(好ましくは、光分解性保護基)を脱保護しながら核酸鎖を伸長することを含む方法が提供される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固相担体上で光制御により多種核酸をフロー合成する方法であって、固相担体の屈折率に合わせた溶媒中で保護基を脱保護しながら核酸鎖を伸長することを含む前記方法。
【請求項2】
前記溶媒が、固相担体の屈折率に合わせた混合溶媒である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
(a)固体担体として板状ポーラスガラスを用意し、該板状ポーラスガラスの表面上に官能基を導入する工程;
(b)前記官能基に、光分解性保護基が糖の5’位及び/又は3’位に導入されたヌクレオシドを直接又はリンカーを介して導入する工程;
(c)固体担体の表面の選択された領域を紫外線に曝露して、光分解性保護基を除去する工程;
(d)脱保護された糖の5’位又は3’位に、光分解性保護基が糖の5’末端及び/又は3’末端に導入されたヌクレオシドを含むホスホロアミダイトをカップリングする工程;
(e)すでに選択された領域の全体若しくは部分、及び/又すでに選択された領域以外の領域の全体若しくは部分を選択し、紫外線に曝露して、光分解性保護基を除去する工程;並びに
(f)工程(d)及び(e)を繰り返す工程
を含み、ここで、少なくとも工程(c)が混合溶媒中で行われる、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記溶媒の屈折率が、前記固相担体の屈折率×(1±0.2)の範囲にある、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記混合溶媒が、ジクロロメタン/ジメチルスルホキシド、ジクロロメタン/トルエン、ジオキサン/トルエン、テトラヒドロフラン/トルエン、及びアセトニトリル/トルエンからなる群から選択される、請求項2~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記板状ポーラスガラスが、20~500nmの孔サイズ、及び0.1~10mmの厚さを有する、請求項3~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の多種核酸をフロー合成する方法に使用するためのフロー合成デバイスであって、固体担体、固体担体を固定する筺体、試薬貯蔵部、溶媒液溜め部、紫外線照射源、検出部、ガス送気部、及び脱水溶媒貯蔵部を備えたフロー合成デバイス。
【請求項8】
請求項1~6のいずれか1項に記載の多種核酸をフロー合成する方法に使用するためのキットであって、固体担体、試薬、溶媒、ガス送気部、及び脱水溶媒貯蔵部を含むキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核酸合成の分野に関し、より具体的には、光透過性を向上させたポーラスガラス上で光制御により核酸をフロー合成する方法、並びに該方法に使用するためのキット及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
種々の異なるタイプの核酸合成法は、固体基板(支持体)上のオリゴヌクレオチド配列の大きなマイクロアレイを製造するために開発されている。このようなオリゴヌクレオチド配列の大きなアマイクロレイは、広範囲の用途を有し、医薬品産業、バイオテクノロジー産業、及び医療産業に実質的に重要である。
【0003】
上記の例として、オンチップ合成型のマイクロアレイに代表されるように、多種類の配列をもつオリゴヌクレオチドを同時に合成する場合、スライドガラスなどの合成基盤表面で、紫外線(UV)光照射で鎖伸長を制御することができる。しかしながら、スライドガラス表面上での鎖伸長は反応効率が低いだけでなく、合成できるオリゴヌクレオチドの量も少ないことが知られている。
【0004】
一方、ポーラスガラスを用いたオリゴヌクレオチドの合成では、反応効率が高く、合成量も多いが、ポーラスガラスのUV光透過性が低く、多種類のオリゴヌクレオチドを同時合成できないとされてきた(特許文献1、非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-132604号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】LeProust, E., et al., Characterization of oligodeoxyribonucleotide synthesis on glass plates. Nucleic Acids Res., 29, 2171-2180 (2001)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、オンチップ合成型のマイクロアレイにおいて、ポーラスガラスの光透過性を向上させ、多種類のオリゴヌクレオチドを同時合成する核酸の合成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、ポーラスガラスの屈折率を合った又は合わせた溶媒(例えば、混合溶媒(例えば、トルエン-ジオキサンなど))中では、ポーラスガラスの光透過性が大幅に向上することを見出した。また、板状ポーラスガラスに導入した光分解性保護基が、この溶媒中で、迅速かつ高効率に紫外線(UV)照射により迅速かつ高効率に脱保護できることが判明し、光制御により、板状ポーラスガラス上で多種類のオリゴヌクレオチドを同時合成できるフロー合成システムを構築し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の通りである。
〈態様1〉
固相担体上で光制御により多種核酸をフロー合成する方法であって、固相担体の屈折率に合わせた溶媒中で保護基を脱保護しながら核酸鎖を伸長することを含む前記方法。
〈態様2〉
前記溶媒が、固相担体の屈折率に合わせた混合溶媒である、態様1に記載の方法。
〈態様3〉
(a)固体担体として板状ポーラスガラスを用意し、該板状ポーラスガラスの表面上に官能基を導入する工程;
(b)前記官能基に、光分解性保護基が糖の5’位及び/又は3’位に導入されたヌクレオシドを直接又はリンカーを介して導入する工程;
(c)固体担体の表面の選択された領域を紫外線に曝露して、光分解性保護基を除去する工程;
(d)脱保護された糖の5’位又は3’位に、光分解性保護基が糖の5’末端及び/又は3’末端に導入されたヌクレオシドを含むホスホロアミダイトをカップリングする工程;
(e)すでに選択された領域の全体若しくは部分、及び/又すでに選択された領域以外の領域の全体若しくは部分を選択し、紫外線に曝露して、光分解性保護基を除去する工程;並びに
(f)工程(d)及び(e)を繰り返す工程
を含み、ここで、少なくとも工程(c)が混合溶媒中で行われる、態様2に記載の方法。
〈態様4〉
前記溶媒の屈折率が、前記固相担体の屈折率×(1±0.2)の範囲にある、態様1~3のいずれか1つに記載の方法。
〈態様5〉
前記混合溶媒が、ジクロロメタン/ジメチルスルホキシド、ジクロロメタン/トルエン、ジオキサン/トルエン、テトラヒドロフラン/トルエン、及びアセトニトリル/トルエンからなる群から選択される、態様2~4のいずれか1つに記載の方法。
〈態様6〉
前記板状ポーラスガラスが、20~500nmの孔サイズ、及び0.1~10mmの厚さを有する、態様3~5のいずれか1つに記載の方法。
〈態様7〉
態様1~6のいずれか1つに記載の多種核酸をフロー合成する方法に使用するためのフロー合成デバイスであって、固体担体、固体担体を固定する筺体、試薬貯蔵部、溶媒液溜め部、紫外線照射源、検出部、ガス送気部、及び脱水溶媒貯蔵部を備えたフロー合成デバイス。
〈態様8〉
態様1~6のいずれか1つに記載の多種核酸をフロー合成する方法に使用するためのキットであって、固体担体、試薬、溶媒、ガス送気部、及び脱水溶媒貯蔵部を含むキット。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、板状ポーラスガラス上で多種類の核酸を同時合成することができる高効率フロー合成システムを構築することができるため、オンチップ合成型のマイクロアレイを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】分光光度計を用いたポーラスガラスの吸光度測定の結果を示す図である。
図2】光パワーメーターを用いたポーラスガラスの光透過測定の結果を示す図である。低屈折溶媒とは、DCM、ACN、THF、Dioxaneを指す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、固相担体上で光制御により多種核酸をフロー合成する方法であって、固相担体の屈折率に合わせた溶媒中で保護基を脱保護しながら核酸鎖を伸長することを含む方法に関する。
【0013】
(1)定義
本発明で使用される用語は、特段記載がない限り、当業者が一般的に理解する技術用語及び科学用語の意味を有する。本明細書において、本発明で使用される用語のうち、特に重要な用語については、少なくとも下記に定義される意味を有するものとする。
【0014】
本明細書で使用される場合、用語「核酸」とは、ヌクレオチドがホスホジエステル結合により連結された鎖状の化合物(オリゴヌクレオチド)を意味し、DNA及びRNA等が含まれる。核酸は、1本鎖、2本鎖のいずれであってもよいが、核酸合成機による効率的な合成が可能であることから、好ましくは1本鎖である。また、「核酸」には、アデニン(A)、グアニン(G)等のプリン塩基及びチミン(T)、シトシン(C)、ウラシル(U)等のピリミジン塩基を含有するオリゴヌクレオチドのみでなく、修飾されたその他の複素環型塩基を含有する修飾オリゴヌクレオチドも含まれる。
【0015】
本発明は、オンチップ型のマイクロアレイの作製に使用される固相担体として、ポーラスガラス(特に、板状ポーラスガラス)を用いることにより特徴付けられる。用語「ポーラスガラス」とは、均一なガラスを熱処理によって複数の相に分離し、その可溶性の相のみを薬品で溶出することにより形成した多数の細孔を有するガラスを指す。本明細書では、「ポーラスガラス」及び「多孔質ガラス」は、互換的に使用される。本発明に適するポーラスガラスとして、最も一般的なホウケイ酸ガラスの組成(SiO:83%、B:13%、NaO:4%)ではなく、例えば、SiO:70%、B:20%、NaO:10%の割合で含まれるホウケイ酸ガラスを原料として使用し、均一な孔の多孔質ガラスを得ることができる(例えば、特開2009-235467号公報を参照されたい)。
【0016】
本発明によれば、オンチップ型のマイクロアレイの作製に使用することを目的とし、その目的に適した形状であれば、特に限定されないが、例えば、各1~50mmの縦横の長さ、0.1~10mmの厚さ、及び20~500nmの孔サイズ有する板状ポーラスガラスを使用することができる。例えば、実施例で使用されるように、8mm×8mm×1mm(平均開口径200mm)の板状ポーラスガラスを用いてもよい。
【0017】
「光分解性保護基」とは、カップリング反応において、固相担体表面に導入された官能基、及びヌクレオシドを含むホスホロアミダイトの糖部分の5’末端及び/又は3’末端を保護するための保護基として使用され、さらに、光照射により脱離する、すなわち、末端官能基を露出させる任意の基を指す。
【0018】
光分解性保護基としては、限定されないが、ニトロベンジル基、ニトロフェニルエチルエステル基(NPE)、ジメトキシニトロベンジルエステル基(DMNB)、ブロモヒドロキシクマリン(Bhc)基、ジメトキシベンゾイン基、2-ニトロピペロニルオキシカルボニル(NPOC)基、2-ニトロベラトリルオキシカルボニル(NVOC)基、5’-(α-メチル-2-ニトロピペロニル)オキシカルボニル(MeNPOC)基、2-(2-ニトロ-4-エチル-5-チオフェニルフェニル)プロピルオキシカルボニル(PhSNPPOC)基、α-メチル-2-ニトロベラトリルオキシカルボニル(MeNVOC)基、2,6-ジニトロベンジルオキシカルボニル(DNBOC)基、α-メチル-2,6-ジニトロベンジルオキシカルボニル(MeDNBOC)基、1-(2-ニトロフェニル)エチルオキシカルボニル(NPEOC)基、1-メチル-1-(2-ニトロフェニル)エチルオキシカルボニル(MeNPEOC)基、9-アントラセニルメチルオキシカルボニル(ANMOC)基、1-ピレニルメチルオキシカルボニル(PYMOC)基、3’-メトキシベンゾイニルオキシカルボニル(MBOC)基、3’,5’-ジメトキシベンゾイルオキシカルボニル(DMBOC)基、7-ニトロインドリニルオキシカルボニル(NIOC)基、5,7-ジニトロインドリニルオキシカルボニル(DNIOC)基、2-アントラキノニルメチルオキシカルボニル(AQMOC)基、α,α-ジメチル-3,5-ジメトキシベンジルオキシカルボニル基、5-ブロモ-7-ニトロインドリニルオシキカルボニル(BNIOC)基等を挙げることができる。また、光分解性保護基として2-ニトロベンジル誘導体骨格を有する基は、通常の蛍光灯や白熱灯等の室内照明程度では光分解しないため、該光分解性保護基で保護された化合物自体の取り扱いや該化合物が固定化された基板の取り扱いが容易であるという利点がある。
【0019】
ヌクレオシドは、共有結合又はリンカーを介して、ポーラスガラスに連結される。本発明において、ポーラスガラスに連結されるヌクレオシドは、特に限定されず、アデノシン、デオキシアデノシン、グアノシン、デオキシグアノシン、ウリジン、チジミン、シチジン、デオキシシチジン又はこれらを任意の置換基で修飾したものから、目的とする核酸配列に合わせて適宜選択することができる。ヌクレオシドの、ポリマーキャリア又はリンカーに連結する部位は、例えば3’末端であることが好ましい。
【0020】
ポーラスガラスに連結されるヌクレオシドの5’水酸基は、保護されていてよい。このヌクレオシドの5’水酸基の保護基としては、特に限定されず、例えば酸で脱保護できるトリチル系保護基又はシリル系保護基であってもよく、好ましくは上記で定義される光分解性保護基であってもよい。
【0021】
トリチル系保護基としては、例えば、トリチル基(Tr基)、モノメトキシトリチル基(例えば、4-メトキシトリチル基(MMTr基))、ジメトキシトリチル基(例えば、4,4’-ジメトキシトリチル基(DMTr基))、9-フェニルキサンテン-9-イル基(ピクシル基)等が挙げられ、好ましくは、DMTr基である。
【0022】
シリル系保護基としては、例えば、任意の置換基(例えば、C1-6アルコキシ基、C1-6アルキル基、フェニル基等から選ばれる置換基)でトリ置換されたシリル基が挙げられ、具体的には、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、イソプロピルジメチルシリル基、tert-ブチルジメチルシリル基、ジメチルメトキシシリル基、メチルジメトキシシリル基、tert-ブチルジフェニルシリル基等が挙げられ、好ましくは、トリメチルシリル基である。
【0023】
保護基が、トリチル系保護基又はシリル系保護基である場合、トリクロロ酢酸又はジクロロ酢酸などのブロンステッド酸のジクロロメタン又はトルエン溶液を用いて脱離することができる。酸による脱保護が容易であることから、ヌクレオシドの5’水酸基の保護基としてDMTr基が最も好ましく用いられる。
【0024】
保護基が、光分解性保護基である場合は、UV(例えば、365nm、56mW)を5秒~3分程度、照射することにより脱保護を容易に行うことができる。
【0025】
本発明において、ポーラスガラスに連結されるヌクレオシドの塩基部位は、保護基で保護されていてもよく、保護されていなくてもよい。
【0026】
(2)光制御による多種核酸のフロー合成法
本発明は、固相担体上で光制御により多種核酸をフロー合成する方法であって、固相担体の屈折率に合わせた溶媒中で保護基を脱保護しながら核酸鎖を伸長することを含む方法に関する。本発明によれば、使用される溶媒は、固相担体の屈折率に合わせた溶媒であれば、単一溶媒であってもよく、又は混合溶媒(後述)であってもよい。
【0027】
一態様によれば、本発明は、上記の方法であって、下記の工程:
(a)固体担体として板状ポーラスガラスを用意し、該板状ポーラスガラスの表面上に官能基を導入する工程;
(b)前記官能基に、光分解性保護基が糖の5’位及び/又は3’位に導入されたヌクレオシドを直接又はリンカーを介して導入する工程;
(c)固体担体の表面の選択された領域を紫外線に曝露して、光分解性保護基を除去する工程;
(d)脱保護された糖の5’位又は3’位に、光分解性保護基が糖の5’末端及び/又は3’末端に導入されたヌクレオシドを含むホスホロアミダイトをカップリングする工程;
(e)すでに選択された領域の全体若しくは部分、及び/又すでに選択された領域以外の領域の全体若しくは部分を選択し、紫外線に曝露して、光分解性保護基を除去する工程;並びに
(f)工程(d)及び(e)を繰り返す工程
を含み、ここで、少なくとも工程(c)が混合溶媒中で行われる方法が提供される。なお、混合溶媒中で行う工程は、上記の(c)~(f)であってもよい。
【0028】
工程(a)に関して、固体担体としての板状ポーラスガラスへの官能基の導入は、当業者に公知の方法を用いて行うことができる。なお、官能基が予め導入されたポーラスガラスを使用する場合は、工程(a)を省略してもよく、又は別の官能基を導入してもよい。官能基の例としては、限定されないが、アミノ基、カルボキシル基、エポキシ基、ホルミル基、及び活性エステル基が挙げられる。例えば、ポーラスガラス表面にアミノ基を導入させる方法としては、公知の方法を用いることができ、限定されないが、一般的には、シランカップリング剤でポーラスガラスを処理する方法が採用される。用語「シランカップリング剤」とは、樹脂等の有機化合物と反応し得る有機官能基と、ガラス等の無機化合物とを、シロキサン結合を介して結合し得る部分を併せ持つ化合物を指す。
【0029】
使用されるシランカップリング剤としては、例えば、γ-アミノプロピルトキメトキシシラン、N-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルトリアルコキシシラン、N-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルメチルジアルコキシシラン、γ-アミノプロピルトリアルコキシシラン、γ-アミノプロピルメチルジアルコキシシラン、N,N-ジメチルアミノプロピルトリアルコキシシラン、N-メチルアミノプロピルトリアルコキシシラン、N-フェニル-γ-アミノプロピルトリアルコキシシラン等が挙げられる。
【0030】
ポーラスガラス表面をシランカップリング剤で処理する際には、担体を予め洗浄しておくことが好ましい。担体の洗浄方法としては、例えば、水による洗浄、薬液による洗浄、プラズマによる洗浄、UVオゾンによる洗浄等多くの方法が知られているが、簡易的にかつ均一に洗浄する方法としては、薬液(例えば、所定濃度の水酸化ナトリウム水溶液)による洗浄であってもよい。
【0031】
ポーラスガラスをシランカップリング剤で処理する方法としては、特に制限はないが、例えば、浸漬法(ディッピング法)、スピンコート法、スプレーコート法、水面キャスト法等の方法が挙げられるが、特に簡便かつ均一に処理することが可能な浸漬法が好ましい。この場合、濃度が0.05~2質量%程度のシランカップリング剤の溶液に、ポーラスガラスを浸漬し、反応終了後に余分なシランカップリング剤を含む溶液を洗い流すことにより処理することが好ましい。濃度やコーティング方法は、これらに限定されるものではない。
【0032】
カルボキシル基の導入は、例えば、上記のようにアミノ化したポーラスガラス表面に適切な化合物を反応させることにより行うことができる。カルボキシル基を導入するために用いられる化合物としては、ハロカルボン酸、例えば、クロロ酢酸、フルオロ酢酸、ブロモ酢酸、ヨード酢酸、2-クロロプロピオン酸、3-クロロプロピオン酸、3-クロロアクリル酸、4-クロロ安息香酸;ジカルボン酸、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、フタル酸;ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、トリメリット酸、ブタンテトラカルボン酸などの多価カルボン酸;ケト酸又はアルデヒド酸;ジカルボン酸のモノハライド、例えば、コハク酸モノクロリド、マロン酸モノクロリド;無水フタル酸、無水コハク酸、無水シュウ酸、無水マレイン酸、無水ブタンテトラカルボン酸などの酸無水物が挙げられる。
【0033】
エポキシ基の導入は、例えば、上記のようにアミノ化したポーラスガラス表面に適切な多価エポキシ化合物を反応させることによって行うことができる。
【0034】
ホルミル基の導入は、例えば、上記のようにアミノ化したポーラスガラス表面に、グルタルアルデヒドを反応させることにより行うことができる。
【0035】
活性エステル基は、エステル基のアルコール側に酸性度の高い電子求引性基を有して求核反応を活性化するエステル群、すなわち反応活性の高いエステル基を意味する。エステル基のアルコール側に、電子求引性の基を有し、アルキルエステルよりも活性化されたエステル基である。活性エステル基は、アミノ基、チオール基、水酸基等の基に対する反応性を有する。さらに具体的には、フェノールエステル類、チオフェノールエステル類、N-ヒドロキシアミンエステル類、シアノメチルエステル、複素環ヒドロキシ化合物のエステル類等がアルキルエステル等に比べてはるかに高い活性を有する活性エステル基として知られている。より具体的には、活性エステル基としては、たとえばp-ニトロフェニル基、N-ヒドロキシスクシンイミド基、コハク酸イミド基、フタル酸イミド基、5-ノルボルネン-2,3-ジカルボキシイミド基等が挙げられる。
【0036】
活性エステル基の導入は、例えば、前記のように導入したカルボキシル基を、シアナミドやカルボジイミドなどの脱水縮合剤とN-ヒドロキシスクシンイミドなどの化合物で活性エステル化することにより行うことができる。
【0037】
工程(b)に関して、ポーラスガラスに導入された官能基の保護(前述)、及び後述するようにカップリングされるヌクレオシドを含むホスホロアミダイトの反応基(例えば、水酸基及びアミノ基など)の保護に、光分解性保護基を導入することができる。光分解性保護基による官能基や反応基の保護は、フロー合成の一連の反応において必要とされ、UV照射により迅速かつ高効率で脱保護することが可能である。
【0038】
一実施形態では、ポーラスガラスの表面上に導入された官能基に、光分解性保護基が糖の5’位及び/又は3’位に導入されたヌクレオシドを直接又はリンカーを介して導入される。導入されるヌクレオチドは、限定されないが、アデノシン、デオキシアデノシン、グアノシン、デオキシグアノシン、ウリジン、チジミン、シチジン、デオキシシチジン、又はこれらを任意の置換基で修飾したものから、目的とする核酸配列に合わせて適宜選択することができる。
【0039】
ヌクレオシドをポーラスガラスの表面に直接又はリンカーを介して連結する部位は、ヌクレオシドの糖部分の3’末端であることが好ましい。
【0040】
用語「リンカー」とは、共有結合を介して、2つの物質を連結する分子である。この場合、リンカーは、開裂性であることが好ましく、特にアンモニア水やメチルアミン溶液等のアルカリ溶液によって加水分解できるものであることがより好ましい。
【0041】
このようなリンカーの例としては、下記:
【0042】
【化1】
[式中、Lは、不活性な二価の基である]
【0043】
で表わされる構造を有するものが挙げられる。
【0044】
本明細書において、「不活性な二価の基」の「不活性な」とは、ヒドロキシ基、アミノ基、カルボキシ基、スルファニル基、スルホ基等の固相合成反応を阻害する官能基を有さないことを示す。
【0045】
上記式において、Lは、好ましくは、主鎖が、炭素原子、酸素原子、硫黄原子及び窒素原子から選ばれる原子(例えば1~200個、好ましくは、1~150個、より好ましくは、1~100個、更に好ましくは1~50個、更により好ましくは、1~10個、特に好ましくは1~5個)からなる不活性な二価の基である。
【0046】
また、Lは、より好ましくは、式:-[(CR -A-]-(CR -(式中、Aは、結合手、-O-、-S-、-SO-、-CO-、-Ph-、-OPhO-、-CONH-、-NHCO-等を表し;Rは、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、炭素数1~6のアルキルチオ基等を表し;a及びcは、それぞれ独立して、1~10(好ましくは1~6)の整数を表し、bは、0~10(好ましくは0~3)の整数を表す。)で表される二価の基である。なお、Phは、1,4-フェニレン、1,3-フェニレン又は1,2-フェニレン等であってよい。
【0047】
より具体的には、Lは、-CH-、-CHCH-、-CHCHCH-、-CHCHCHCH-、-CHCHCHCHCH-、-CHCHCHCHCHCH-、-CHCHCHCHCHCHCH-、-CHCHCHCHCHCHCHCH-、-CHCHO-、-CHOCH-、-CHCHOCHCH-、-CHCHCHOCHCHCH-、-CHCHOCHCHOCHCH-、-CHSCH-、-CHCHSCHCH-、-CHCHCHSCHCHCH-、-CHCHSCHCHSCHCH-、-CHSOCH-、-CHCHSOCHCH-、-CHCHCHSOCHCHCH-、-CHCHSOCHCHSOCHCH-、-CHCOCH-、-CHCHCOCHCH-、-CHCHCHCOCHCHCH-、-CHCHCOCHCHCOCHCH-、-Ph-、-CHPhCH-、-CHCHPhCHCH-、-CHCHCHPhCHCHCH-、-CHCHPhCHCHPhCHCH-、-CHOPhOCH-、-CHCHOPhOCHCH-、-CHCHCHOPhOCHCHCH-、-CHCHOPhOCHCHOPhOCHCH-等であることが好ましい。これらのうち、Lは、より好ましくは、-CHCH-、-CHCHO-、又は-CHCHCH-であり、特に好ましくは、-CHCH-又は-CHCHO-である。
【0048】
なお、本発明において、リンカーの長さは、特に限定されず、目的とする核酸配列の鎖長に合わせて適宜設定することができる。
【0049】
別の実施形態では、上記で定義されるリンカーに加えて又はそれに代えて、ユニバーサルリンカーを使用することができる。「ユニバーサルリンカー」とは、ポーラスガラス表面に連結され、これを起点として、ポーラスガラス表面に目的の核酸配列を合成するためのリンカーである。このユニバーサルリンカーを用いることで、目的とする核酸の3’末端がどのような種類のヌクレオシド又であっても、3’末端になるヌクレオシドホスホロアミダイドを通常の核酸自動合成と同じ工程で反応させて合成を開始し、目的の核酸を合成した後、通常と同様の方法で固相合成用担体から切り出すことができる。
【0050】
本発明に用いられるユニバーサルリンカーとしては、特に限定されず、特開2011-088843号公報に開示若しくは引用されているユニバーサルリンカー、又は特開2016-204316号公報に開示されているユニバーサルリンカー等であってよい。又は市販品としての、ユニバーサルリンカーがポリマーキャリアに連結されたユニバーサルサポートであってもよい。より具体的には、例えばChemGenes社のオリゴヌクレオチド合成用のユニリンカー(商標名)ユニバーサルサポート、Bioserch Technologies社のユニバーサル SynBase(商標名)及びユニバーサル Q SynBase(商標名)、並びにGlen Research社のユニバーサルサポートI、II、及びIII等が用いられる。
【0051】
工程(c)に関して、本発明は、ポーラスガラス表面に対して位置選択的にUV照射領域を制御し得ることから、光分解性保護基が導入されたヌクレオシドの一定領域を選択的に脱保護することができる。このような基板(本発明では、ポーラスガラス)表面上の選択された領域に光(本発明では、紫外線)を照射する技術は、従来より光指向性技術として知られている(例えば、国際公開第1992/10092号参照)。簡単に説明すると、光は、基板の選択された領域に向けられ、該基板の選択された領域から保護基を除去する。その後、選択された分子が該基板にカップリングされ、続いてさらなる光照射及びカップリング工程がなされる。正確な順で、該基板の選択された領域を活性化し、続いて、選択されたモノマー(例えば、核酸分子)をカップリングすることにより、任意の数の異なる核酸配列を有する分子のアレイを合成することができる。
【0052】
工程(c)では、選択された領域にUV照射を行うことにより、工程(b)で得られたヌクレオシドの光分化性保護基が分解(脱保護)され、ヌクレオシドの官能基が露出される。このようなUV照射される領域を適切に選択することにより、設計される所望の核酸配列をオンチップ上でフロー合成を行うことができる。
【0053】
本発明によれば、工程(c)において使用される紫外線の波長、照射時間、及び強度は、使用される光分解性保護基の種類に応じて、適宜、変更することができる。例えば、照射に使用される紫外線は、波長:280~400nm、照射時間:1秒~10分、及び強度:1~1000mW/cmであってもよい。紫外線源としては、本発明の目的から位置選択的に照射可能なものであればよく、例えば、LEDレーザーを用いることができる。
【0054】
例として、後述する実施例に記載の通り、光分解性保護基として、下記:
【0055】
【化2】
5’-O-[(R、S)-1-(3,4-メチレンジオキシ-6-ニトロフェニル)]エトキシカルボニルチミジン
【0056】
を用いた場合、脱保護に、紫外線(365nm、56mW)で約100秒の照射時間を要することが判明している。また、下記:
【0057】
【化3】
5’-O-[(R、S)-2-(2-ニトロ-4-エチル-5-チオフェニル-フェニル)]プロポキシカルボニルチミジン
【0058】
を用いた場合、同条件で脱保護に約30秒の時間を要することが判明している。
【0059】
また、工程(c)における紫外線照射による脱保護の反応は、有機溶媒中で行うことが好ましい。このような有機溶媒としては、例えば、下記の表1に列挙された有機溶媒、該有機溶媒のうちの2種以上を混合した混合溶媒であることが好ましい。
【0060】
【表1】
【0061】
混合溶媒を構成する各有機溶媒の選択は、互いに混合することが不適切である組み合わせを除いて、特に限定されない。また、混合比も限定されず、使用される固相担体(ポーラスガラス)の屈折率に一致するように混合することができる。このような屈折率の一致は100%である必要はなく、本発明では、混合溶媒の屈折率は、固相担体の屈折率×(1±0.2)の範囲にあればよい。
【0062】
工程(d)は、上記で脱保護された糖の5’位又は3’位に、光分解性保護基が糖の5’末端及び/又は3’末端に導入されたヌクレオシドを含むホスホロアミダイトをカップリングさせる工程である。本明細書中の用語「ホスホロアミダイト」とは、式-P(OR)-N(Rで表される化合物であり、式中、Rは、場合により置換されたアルキル基(例えば、メチル、2-シアノエチル、又はベンジル)であり、各Rは場合により置換されたアルキル基(例えば、エチル若しくはイソプロピル)であり、又は基-N(Rはモルホリノ基(-N(CHCHO)を形成することができる。Rは、2-シアノエチルであることが好ましく、そして該2個のRは同じであり得、イソプロピルであることが好ましい。したがって、特に好ましいホスホロアミダイトは、N,N-ジイソプロピル-O-(2-シアノエチル)ホスホロアミダイトである。
【0063】
ヌクレオシドを構成する核酸塩基は、天然又は非天然の起源であり得る。核酸塩基の具体例としては、例えば、アデニン(A)、シトシン(C)、5-メチルシトシン(MeC)、イソシトシン、プソイドイソシトシン、グアニン(G)、チミン(T)、ウラシル(U)、5-ブロモウラシル、5-プロピニルウラシル、5-プロピニル-6-フルオロウラシル、5-メチルチアゾールウラシル、6-アミノプリン、2-アミノプリン、イノシン、2,6-ジアミノプリン、7-プロピン-7-デアザアデニン、7-プロピン-7-デアザグアニン、および2-クロロ-6-アミノプリンを含む。好ましい核酸塩基は、A、C、G、TおよびUを含む。
【0064】
工程(e)は、工程(c)と同様に、選択された領域にUV照射を行うことにより、工程(d)で導入されたヌクレオシドの光分化性保護基が分解(脱保護)され、ヌクレオシドの官能基が露出される工程である。UV照射される領域は、すでに選択された領域(の全体若しくは部分)及び/又はすでに選択された領域以外の領域(の全体若しくは部分)であり得、設計された核酸配列に応じて光分化性保護基が導入された核酸の脱保護を行うことができる。なお、紫外線の照射条件(波長など)は、工程(c)の場合の同様であってよい。
【0065】
(f)工程(d)及び(e)を繰り返す工程であるが、所望の核酸配列が得られるまで繰り返すことができる。なお、光分解性保護基の脱保護においては、脱保護の効率を促進するために、混合溶媒中で行われることが好ましい。混合溶媒として、ジクロロメタン/ジメチルスルホキシド、ジクロロメタン/トルエン、ジオキサン/トルエン、テトラヒドロフラン/トルエン、及びアセトニトリル/トルエンなどであり得る。
【0066】
(3)フロー合成デバイス
本発明によれば、多種核酸をフロー合成する方法に使用するためのデバイスが提供される。デバイスに備える構成要素としては、一般的な核酸合成装置に用いられているものを使用してもよいが、本発明では、特に、固体担体、固体担体を固定する筺体、試薬貯蔵部、溶媒液溜め部、紫外線照射源、検出部、ガス送気部、及び脱水溶媒貯蔵部を備えていることが好ましい。
【0067】
(4)フロー合成に使用するためのキット
本発明によれば、多種核酸をフロー合成する方法に使用するためのキットが提供される。本発明のキットには、固体担体、試薬、溶媒、ガス送気部、及び脱水溶媒貯蔵部が含まれ得る。
【実施例0068】
以下、本発明を実施例に基づいて、より具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。当業者は本明細書の記載に基づいて容易に本発明に修飾・変更を加えることができ、それらは本発明の技術的範囲に含まれる。
【0069】
本実施例で使用した合成試薬及び有機溶媒等は、特に言及がない限り、東京化成工業、和光純薬工業、関東化学、シグマアルドリッチで購入したものを使用した。
【0070】
実施例1:分光光度計を用いたポーラスガラスの吸光度測定
混合溶媒の比率を変化させて混合溶媒を調製し、各混合溶媒中でのポーラスガラスの透過性を吸光度測定により評価した。アミノプロピル基を表面にもつ8×8×1mmの板状ポーラスガラス(平均細口径200nm)を石英ガラスセルに入れた後、任意の溶媒を1mL加えた。1分間静置後に、この溶媒を取り除き、再度、同じ溶媒を1mL加える。作業を3回繰り返し、最後に15分間静置した。分光光度計(島津製作所製UV-1800)による測定においては、石英ガラスセル内部の光源に近い測定面側に沿うように板状ポーラスガラスを置いて365nmの吸光度測定を行なった。測定溶媒としてジクロロメタン(DCM)/トルエン(Tol)、アセトニトリル(ACN)/Tol、テトラヒドロフラン(THF)/Tol、ジオキサン(Dioxane)/Tol、及びDCM/ジメチルスルホキシド(DMSO)の混合溶媒を使用した。
【0071】
結果を図1に示す。吸光度(Abs 365nm)の値は、各混合溶媒(DCM/Tol、THF/Tol、Dioxane/Tol、及びDCM/DMSO)の低屈折率溶媒比率が約10~90vol%の範囲で減少した。また、ACN/Tol混合溶媒では、約10~50vol%の範囲で吸光度の減少が観察された。これにより、少なくとも使用した混合溶媒とその比率の調整により、板状ポーラスガラスの透過性を上昇させることができることが分かった。
【0072】
実施例2:光パワーメーターを用いたポーラスガラスの光透過測定
実施例1と同様に混合溶媒の比率を変化させて混合溶媒を調製し、各混合溶媒中でのポーラスガラスの透過性を光パワーメーターを用いて評価した。アミノプロピル基を表面にもつ8×8×1mmの板状ポーラスガラス(平均細口径200nm)を石英ガラスセルに入れた後、任意の溶媒を1mL加えた。2分間静置後に、この溶媒を取り除き、再度、同じ溶媒を1mL加える。作業を3回繰り返し、最後に20分間静置した。
【0073】
光パワーメーター(THORLBS Inc.社製PM100D)による測定においては、石英ガラスセル内部のLEDレーザー(THORLBS Inc.社製M365FP1, 365nm LED)に近い測定面側に沿うように板状ポーラスガラスを置いて365nmの光透過測定をフォトダイオードパワーセンサー(THORLBS Inc.社製S120VC)を用いて、暗幕中で行なった。測定溶媒としてDioxane/Tol、及びDCM/Tolの混合溶媒を使用した。
【0074】
この際の透過率は、以下の式より計算した。
【0075】
【数1】
【0076】
結果を図2に示す。いずれの混合溶媒においても広い溶媒比率において、ポーラスガラスの透過性が上昇していることが分かった。この結果は、実施例1と同様であった。
【0077】
実施例3:板状ポーラスガラス中での光分解性保護基の脱保護効率測定
板状ポーラスガラス上で一塩基鎖伸長をした核酸に導入された各種光分解性保護の脱保護効率を検討した。
【0078】
【化4】
【0079】
5’-O-[(R、S)-1-(3,4-メチレンジオキシ-6-ニトロフェニル)]エトキシカルボニルチミジン、又は5’-O-[(R、S)-2-(2-ニトロ-4-エチル-5-チオフェニル-フェニル)]プロポキシカルボニルチミジンを、サクシニルリンカーを介して導入した板状ポーラスガラス(平均細口径200nm、8×8×1mm)を石英ガラスセルに入れた後、ジオキサン-トルエン(62.5:37.5、v/v)混合溶媒を1mL加えた。2分間静置後に、この溶媒を取り除き、再度、同じ混合溶媒を1mL加えた。作業を3回繰り返し、最後に20分間静置した。石英ガラスセル内部のLEDレーザー(THORLBS Inc.社製M365FP1、365nm LED)に近い測定面側に沿うように板状ポーラスガラスを置いて、56mWの光を任意の時間照射した。光照射後、上記固相担体を核酸自動合成装置(日本テクノサービス株式会社製)にセットして、下記表に示すプロトコールに従い、5’-DMTr-チミジンホスホロアミダイトユニットを用いて一塩基鎖伸長を行なった。鎖伸長後、3%トリクロロ酢酸-ジクロロメタン溶媒を120秒反応させてDMTr基を脱保護し、得られたDMTrカチオンの498nmにおける吸光度を光照射時間を変えながら測定することで、5’-O-[(R、S)-1-(3,4-メチレンジオキシ-6-ニトロフェニル)]エトキシカルボニルチミジンでは100秒、5’-O-[(R、S)-2-(2-ニトロ-4-エチル-5-チオフェニル-フェニル)]プロポキシカルボニルチミジンでは30秒で5’位の保護基を除去できることが分かった(下記参照)。
【0080】
【化5】
【0081】
上記の一連の反応におけるプロトコールを下記にまとめて記載した。
【0082】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明の抗体療法の効果増強剤を使用することにより、がん細胞内に抗がん剤を高効率であり、急速に取り込めることができる。
【0084】
本明細書に引用する全ての刊行物及び特許文献は、参考により全体として本明細書中に援用される。なお、例示の目的として、本発明の特定の実施形態を本明細書において説明したが、本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、種々の改変が行われる場合があることは、当業者に容易に理解されるであろう。
図1
図2