(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022134637
(43)【公開日】2022-09-15
(54)【発明の名称】コラゲナーゼ阻害剤
(51)【国際特許分類】
A61K 8/9789 20170101AFI20220908BHJP
A61Q 19/08 20060101ALI20220908BHJP
A61K 36/736 20060101ALI20220908BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20220908BHJP
A61P 17/16 20060101ALI20220908BHJP
【FI】
A61K8/9789
A61Q19/08
A61K36/736
A61P17/00
A61P17/16
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021033896
(22)【出願日】2021-03-03
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (1)頒布日 令和3年1月20日 (2)刊行物等 令和2年度 和歌山工業高等専門学校 特別研究最終発表会講演概要集
(71)【出願人】
【識別番号】505028831
【氏名又は名称】みなべ町
(71)【出願人】
【識別番号】308038613
【氏名又は名称】公立大学法人和歌山県立医科大学
(71)【出願人】
【識別番号】521092188
【氏名又は名称】学校法人河▲崎▼学園
(74)【代理人】
【識別番号】100104307
【弁理士】
【氏名又は名称】志村 尚司
(72)【発明者】
【氏名】宇都宮 洋才
(72)【発明者】
【氏名】河野 良平
(72)【発明者】
【氏名】奥野 祥治
(72)【発明者】
【氏名】上田 有里子
(72)【発明者】
【氏名】中村 美砂
【テーマコード(参考)】
4C083
4C088
【Fターム(参考)】
4C083AA111
4C083AA112
4C083BB51
4C083CC02
4C083DD22
4C083DD23
4C083EE12
4C083EE13
4C083FF01
4C088AB52
4C088AC04
4C088CA04
4C088MA52
4C088MA63
4C088NA14
4C088ZA89
(57)【要約】
【課題】 新規なコラゲナーゼ阻害剤を提供する。
【解決手段】 梅(Prunus mume)の実を塩漬けして得られる梅干しの果肉をそのまま、又は果肉を水やメタノール、エタノール、それらの混液などの各種親水性溶媒で抽出した抽出物を用いる。当該抽出物は各種の賦形剤や添加物などによって化粧料や医薬組成物、食品などの形態として提供される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
梅干しを有効成分とするコラゲナーゼ阻害剤。
【請求項2】
梅干しの抽出物、梅干しの果肉、梅干し果肉の抽出物の何れか1種又はそれらの2種以上の混合物を有効成分とするコラゲナーゼ阻害剤。
【請求項3】
前記抽出物は親水性溶媒による抽出物である請求項2に記載のコラゲナーゼ阻害剤。
【請求項4】
請求項1~3の何れか1項に記載のコラゲナーゼ阻害剤を外用組成物又は内服用組成物の製造に用いる方法。
【請求項5】
前記外用組成物は化粧用組成物、治療用組成物の何れかである請求項4に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はコラゲナーゼ阻害剤に関する。
【背景技術】
【0002】
コラーゲンは真皮の大部分を占めている繊維状のタンパク質であり、皮膚の弾力性やハリを保つ上で重要な成分といわれ、健康や美容面において注目されている。加齢に伴うコラーゲンの減少は、シワやタルミなど皮膚老化を引き起こす原因であり、これはコラーゲンを分解する酵素であるコラゲナーゼの増加が要因の一つと考えられている。コラゲナーゼはMMP (Matrix Metallopoteinase) の一種であり、通常MMP活性は転写レベルおよび内因性タンパク質阻害剤によって正確に調節されているが、酸化的ストレスや加齢などによる過剰なMMP活性がコラーゲンの分解を促進させてしまう。そのため、コラゲナーゼの活性を阻害することはシワやタルミなど皮膚の老化予防に有用な手段である。近年、植物に含まれるコラゲナーゼ阻害活性物質の探索が種々行われている。
【0003】
一方、梅(梅の実)が有する生体に対する作用効果についても種々調べられており、例えば特許文献1には、梅の根、枝、樹皮の水抽出物にエラスターゼ活性阻害作用やコラゲナーゼ活性阻害作用などがあることや、特許文献2には梅の種子の抽出物にラジカル消去作用やコラゲナーゼ活性阻害作用などがあることが記載されている。また特許文献3には梅の梅肉エキス、つまりウメ種子の果肉の果汁を加熱して得られた調製物にラジカル消去作用があることが記載されている。さらに、特許文献4には梅の果肉から得られる果汁にはコラーゲン産生促進作用があることも記載されている。
【0004】
しかしながら、梅干しの果肉、つまり梅の実を塩干しして得られる梅干しの果肉がコラゲナーゼ活性を阻害するとの報告は見いだされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013-163643号公報
【特許文献2】特開2002-284633号公報
【特許文献3】特開2012-201637号公報
【特許文献4】特開2006-176425号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、新規なコラゲナーゼ阻害剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るコラゲナーゼ阻害剤は、有効成分として梅干し、好ましくは梅干しの果肉及び/又はそれらの抽出物を含む。
【発明の効果】
【0008】
本発明によると新規なコラゲナーゼ阻害剤が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明に係るコラゲナーゼ阻害剤は、有効成分として梅干し、好ましくは梅干しの果肉及び/又はそれらの抽出物を含む。
【0010】
本発明で用いられる梅干しは、梅(Prunus mume)の実を塩漬けして得られたものである。梅の実であれば、食用に適した梅の実でもよく、食用に適さない梅の実の何れでも差し支えない。梅の種類も問わず、例えば、加賀、南高、鶯宿、古城などの大梅品種だけでなく、甲州小梅、竜峡小梅などの小実品種も用いられ得る。梅の実は、青梅だけでなく、黄色、紅色に熟したものも使用できる。梅干しは食用として製造される従来の方法に従って製造すればよく、塩漬けは梅の実に塩をまぶし、好ましくは重石を載せて放置するだけでよい。塩漬けに用いられる塩の量(質量)は、概ね梅の質量に対して5~40%、好ましくは10~25%である。塩漬けする期間はいわゆる梅酢が上がればよく、概ね1週間~1ヶ月程度である。もっとも、塩漬けする期間はこれよりも長くなっても差し支えない。本発明で用いられる梅干しはこのような方法で得られる塩漬けされた梅干し、いわゆる白干し梅であればよいが、この後天日干しなどの方法で乾燥に付された梅干し、塩抜きした脱塩梅干し、紫蘇やかつおぶしを加えた梅干し、味付け用の調味液に漬けた梅干しであってもよい。
【0011】
得られた梅干しは好ましくは種子が取り除られた果肉部分が使用される。梅干しの果肉はコラゲナーゼ阻害剤としてそのまま用いることもできるが、好ましくは果肉から親水性溶媒を用いて抽出物に調製される。梅干しを種子ともに粉砕してそのまま使用したり、梅干しを種子とともに粉砕して抽出して使用したりすることもできるが、不純物も多く抽出され所望する効果が得られないおそれがある。親水性溶媒は抽出物を製造する当業者に用いられる用語であり、水、水と混和する有機溶媒、水とそれらの有機溶媒との混液、1種又は2種以上の有機溶媒の混液である。有機溶媒としては、例えば、メタノールやエタノール、プロパノール、イソプロパノールなどの炭素数1~5の低級アルコール、プロピレングリコールやグリセリンのような炭素数1~5の多価アルコール、アセトンなどのケトンやアセトアルデヒドのようなアルデヒド、酢酸エチルのような炭素数1~5の低級アルコールと炭素数1~5の低級脂肪酸エステル、酢酸のような有機酸があげられる。これらの溶媒の中ではメタノールやエタノールなどの低級アルコール、又は水と低級アルコールの混液が好ましい。抽出は、梅干しの果肉と親水性溶媒を用いて常法に従って行えばよく、適宜、濃縮を加えて抽出物を得ることもできる。
【0012】
得られた抽出物や果肉、あるいは果肉と抽出物の混合物はそのままコラゲナーゼ阻害剤として提供される他、いわゆる賦形剤との混合物として提供され得る。用いられる賦形剤としては、例えば乳糖、デンプン、デキストリン、白糖、シリカ、水などが例示される。また、得られた抽出物は効果が失われない範囲において、活性炭処理、吸着剤処理、イオン交換樹脂処理などにより精製を加えてもよい。
【0013】
本発明に係るコラゲナーゼ阻害剤は、賦形剤やその他の成分と共に各種の組成物としても提供されうる。この組成物はしわ及び/又はタルミなど皮膚老化の軽減や防止、改善に用いられる。組成物は医療用組成物であるか否かを問われず、化粧料や皮膚外用剤などの外用組成物であり、内服剤や食品などの内服組成物であり得る。組成物の形態も特に限られず、例えば化粧料として乳液、クリーム、化粧水、美容液、パック、洗浄料、メーキャップ化粧料、育毛料、シャンプー、コンディショナーなど、皮膚外用剤として軟膏、液剤、エアゾール、貼付剤、パップ剤、リニメント剤などであり、内服剤として錠剤、散剤、液剤、チュアブル剤、カプセル剤などであり、食品としてドリンク、飴、ゼリー、チューイングガム、チョコレート、クッキーなどである。これらの組成物には、必要に応じて本発明の効果を損なわない範囲で、通常、化粧料や皮膚外用剤、内服剤、食品などに使用される成分、水、アルコール、油剤、界面活性剤、ゲル化剤、水溶性高分子、皮膜形成剤、紫外線防御剤、抗菌剤、香料、塩類、pH調整剤、清涼剤、梅干し果肉抽出物以外の各種抽出物、血行促進剤、収斂剤、抗脂漏剤、美白剤、抗炎症剤、細胞賦活剤、保湿剤、角質溶解剤、ビタミン類等を加えることもできる。
【実施例0014】
南高梅の実(青ウメ)から塩付け、天日干しをしていわゆる白干し梅(梅干し)を作った。得られた梅干しを凍結乾燥し、その果肉(梅干し果肉:4.8kg)をメタノール6Lで24時間抽出後、ろ過した。この操作を3回繰り返して得られたメタノール抽出液全量を減圧濃縮によりメタノールを除去してメタノール抽出物(MeOH:366.2g)を得た。この抽出物をDMSO(ジメチルスルホキシド)に溶解した濃度200μg/mLのサンプルを調製し、コラゲナーゼ阻害試験を行った。
【0015】
(コラゲナーゼ阻害試験)
サンプルの1μL、50mMトリス-塩酸緩衝液の49μL、活性型I型コラゲナーゼ(ヒト皮膚線維芽細胞由来、Sigma-Aldrich社製)の水溶液(1×10-2unit/mL)の100μLを96ウェルマイクロプレートに添加し、37℃で10分間インキュベートした。次に蛍光基質であるMOCAc-Pro-Leu-Gly-Leu-A2pr(DNP) -Ala-Arg-NH2(ペプチド研究所製)の水溶液(10μM)を50μL加え、37℃で30分間インキュベートした。蛍光基質を加えた直後と、加えてから30分後の蛍光強度を測定し、下記の計算式(数式1)よりコラゲナーゼ阻害率(%)を算出した。コントロールにはサンプルの代わりに水50μLを加えたものを用いた。
【0016】
【数1】
但し数式1中、
Fs0は蛍光基質を加えた直後のsample蛍光強度、Fs30は30分後のsample蛍光強度、Fc0は蛍光基質を加えた直後のcontrol蛍光強度、Fc30は30分後のcontrol蛍光強度である。
【0017】
その結果、梅干しのメタノール抽出物に約60%の阻害率でコラゲナーゼ阻害作用が見いだされ、コラゲナーゼ阻害物質の存在が梅干し中に確認された。